(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20241126BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20241126BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
C22C19/05 L
C22F1/10 H
C22F1/00 630G
C22F1/00 650A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536129
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-08-13
(86)【国際出願番号】 FR2022052356
(87)【国際公開番号】W WO2023111457
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】306047664
【氏名又は名称】サフラン
(71)【出願人】
【識別番号】524226689
【氏名又は名称】オーベール・エ・ドュバル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルフィエ,アンヌ-ロール
(72)【発明者】
【氏名】フランシェ,ジャン-ミシェル・パトリック・モーリス
(72)【発明者】
【氏名】メヌー,エデルン
(72)【発明者】
【氏名】クローゼ,コラリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】フィネ,ロラーヌ
(57)【要約】
本発明は、ニッケル基合金であって、重量パーセントで、
・4.0~15.7%のコバルト、
・15.3~19.5%のクロム、
・1.6~5.45%のモリブデン、
・1.65~2.5%のアルミニウム、
・2.8~4.3%のチタン、
・0.01~0.10%の炭素、
・0.003~0.02%のホウ素、及び
・0.01~0.10%のジルコニウム
を含む、ニッケル基合金に関する。
本発明は、ニッケル基合金から作成された部品を製造するための方法であって、
・ニッケル基合金の組成と同じ組成を有するビレットを調製するステップと、
・部品を成形するステップと、
・部品を熱処理するステップと、
を含む、方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル基合金であって、重量パーセントで、
4.0~15.7%のコバルト、
15.3~19.5%のクロム、
1.6~5.45%のモリブデン、
1.65~2.5%のアルミニウム、
2.8~4.3%のチタン、
0.01~0.10%の炭素、
0.003~0.02%のホウ素、
0.01~0.10%のジルコニウム、
0~6.0%の鉄、
0~6.3%のタングステン、及び
0~0.4%のニオブ、
100%までの残りに相当するニッケル
を含む、ニッケル基合金。
【請求項2】
重量パーセントで、
0.02~0.06%の炭素、
0.005~0.01%のホウ素、及び
0.02~0.06%のジルコニウム
を含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項3】
重量パーセントで、
1.65~2.10%のアルミニウム、及び
2.8~3.45%のチタン
を含む、請求項2に記載のニッケル基合金。
【請求項4】
重量パーセントで、
4.0~13.2%のコバルト、
1.80~2.30%のアルミニウム、及び
3.5~4.0%のチタン
を含む、請求項2に記載のニッケル基合金。
【請求項5】
重量パーセントで、
4.0~11.0%のコバルト、
2.0~2.50%のアルミニウム、及び
4.05~4.4%のチタン
を含む、請求項2に記載のニッケル基合金。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のニッケル基合金から作成された部品を製造する方法であって、
前記ニッケル基合金の組成と同じ組成を有するビレットを製造するステップと、
前記部品を成形するステップと、
前記部品を熱処理するステップと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記部品を熱処理するステップが、
好ましくはγ’ソルバスよりも10~40℃高い温度での、γ’スーパーソルバス溶体化熱処理、及び
好ましくはγ’ソルバスよりも10~40℃低い温度での、γ’サブソルバス溶体化熱処理
のうちの少なくとも1つの処理を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理が、
好ましくは825~870℃の温度に加熱することによって、M
23C
6型炭化物を析出させるための焼き戻し、及び
任意選択に、好ましくは760~825℃の温度での、γ’析出物の集団を安定化させるための焼き戻し
をさらに含み得る、請求項6~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の合金から作成された航空部品、特にタービンケーシング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル基合金に関する。より詳細には、本発明は、航空エンジン用のタービンケーシングに適用するために特に設計されているニッケル基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
ACAREの目的は、欧州連合の欧州グリーンディール及び航空機製造業者によって課される所有コストを削減するための要件に沿って、特に原単位を大幅に低減させながら、新世代ターボジェットエンジンの性能を著しく向上させることをエンジン製造業者に課すことである。これは、高温のエンジン部品の換気を低減することによってエンジン効率を改善する必要性につながる。その結果、材料は、ますます高温の使用温度に耐える必要がある。
【0003】
例えば、低圧タービンケーシングの場合、ある特定の領域は、新世代エンジンでは目標が800℃であり、850℃にピークを有する極めて高い温度で疲労とクリープの両方を受ける。しかしながら、より長い疲労寿命には、微細な粒径(以下ASTMと略されるASTM E112規格によると約10)が好ましく、一方、最良の耐クリープ性は、粒子の粗い微細構造(およそASTM 0)で得られる。したがって、これら2つの対立する特性の間で妥協が必要である。
【0004】
今日、航空タービンケーシング用途のための主な公知の合金は、Inconel 718、718 Plus及びWaspaloyである。それらの最高使用温度は、それぞれ約650℃、704℃及び750℃である。その上、それらの機械的特性は、それらの微細構造の軟化のために低下する。したがって、これらの合金は、長期間にわたって約800℃の温度に耐えるようには設計されていない。
【0005】
粉末冶金から生じる他の合金、例えば、EP1840232B1に記載されている合金は、これらの高い使用温度に到達することを可能にする。しかしながら、この合金は、43体積%を超えるγ’析出物を含有し、その延性は、航空エンジン用のタービンケーシングなどの部品の製造のために使用される技術であるリング圧延成形を検討するには不十分である。一般に受け入れられている現在の上限は、実際に約40%のγ’析出物である。
【0006】
これが、25体積%のγ’析出物を含有する合金(公称組成は、重量パーセントで、Cr 18.00~21.00、Co 12.00~15.00、Mo 3.50~5.00、Al 1.20~1.60、Ti 2.75~3.25、B 0.003~0.01、C 0.02~0.10、Zr 0.02~0.08、Fe 0~2.00、Mn 0~0.10、Si 0~0.15、P 0~0.015、S 0~0.015及びCu 0~0.10である。)であるWaspaloyが、現在、高温での疲労寿命と耐クリープ性との間での最良の妥協を可能にする合金である理由である。この妥協は、部品全体にわたって中間粒径(ASTM 2~6)を得ることによって達成される。しかし、同じく、この合金は、800℃の使用温度に極めて長期間耐えるように設計されなかった。
【0007】
AD730TM又はRene65などの36体積%のγ’析出物を有するいくつかの合金は、Waspaloyより優れた特性を有することができるが、現在のところ、大きな部品にわたって中間の及び均一な粒径に到達することができない。専ら主要γ’析出物の集団(populations)
によって調節されるそれらの粒径は、温度がγ’ソルバス(solvus)を超えると実際に極めて急速に成長する。この粒径の過度の成長を回避するには、部品全体にわたって熱処理温度の最も近い度への正確な制御が必要とされ、これは工業用炉では達成できない。
【0008】
このため、現在のところ、Waspaloyより優れた耐熱性、リング圧延によって成形される能力、及び意図される用途に必要な耐クリープ性と疲労寿命との間での妥協を保証するために熱処理を通じて部品全体にわたって均一な及び中間の粒径に達する能力を兼ね備える合金は存在しない。
【0009】
したがって、リング圧延による製造方法を維持しながら、Waspaloyと比較して疲労寿命を低下させることなく、部品の使用温度を増大させる必要性を満たすことができる新しい合金を有する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的の1つは、上述の欠点の少なくとも1つを克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のために、本発明は、ニッケル基合金であって、重量パーセントで、
・4.0~15.7%のコバルト、
・15.3~19.5%のクロム、
・1.6~5.45%のモリブデン、
・1.65~2.5%のアルミニウム、
・2.8~4.3%のチタン、
・0.01~0.10%の炭素、
・0.003~0.02%のホウ素、及び
・0.01~0.10%のジルコニウム
を含む、ニッケル基合金を提供する。
【0013】
他の任意選択及び非限定的な特徴は、以下の通りである。
【0014】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、
・0.02~0.06%の炭素、
・0.005~0.01%のホウ素、及び
・0.02~0.06%のジルコニウム
を含み得る。
【0015】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、
・1.65~2.10%のアルミニウム、及び
・2.8~3.45%のチタン
を含み得る。
【0016】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、
・4.0~13.2%のコバルト、
・1.80~2.30%のアルミニウム、及び
・3.5~4.0%のチタン
を含み得る。
【0017】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、
・4.0~11.0%のコバルト、
・2.0~2.50%のアルミニウム、及び
・4.05~4.4%のチタン
を含み得る。
【0018】
ニッケル基合金は、6.0重量%以下、好ましくは4.0重量%以下の鉄を含み得る。
【0019】
ニッケル基合金は、6.3重量%以下のタングステンを含み得る。
【0020】
ニッケル基合金は、0.4重量%以下のニオブを含み得る。
【0021】
さらに、本発明は、このような合金を加工するための方法であって、
・ニッケル基合金の組成と同じ組成を有するビレットを製造するステップと、
・部品を成形するステップと、
・部品を熱処理するステップと、
を含む、方法を提供する。
【0022】
他の任意選択及び非限定的な特徴は、以下の通りである。
【0023】
ビレットを製造することは、
・好ましくは材料の溶解によって、インゴットを作製するステップと、
・好ましくはインゴットを切断し、次いで鍛造することによって、インゴットをビレットに変換するステップと、
を含み得る。
【0024】
部品を成形することは、
・好ましくは据え込み鍛造によって、ビレットを鍛造するステップと、
・好ましくはリング圧延によって、鍛造されたビレットを圧延するステップと、
を含み得る。
【0025】
部品を熱処理することは、
・好ましくはγ’ソルバスより10~40℃高い温度でのγ’スーパーソルバス(supersolvus)溶体化熱処理、及び
・好ましくはγ’ソルバスより10~40℃低い温度でのγ’サブソルバス(subsolvus)溶体化熱処理
のうちの少なくとも1つの処理を含み得る。
【0026】
熱処理は、
・好ましくは825~870℃の温度に加熱することによって、M23C6型炭化物を析出させるための焼き戻し、及び
・任意に、好ましくは760~825℃の温度での、γ’析出物の集団を安定化させるための焼き戻し
をさらに含み得る。
【0027】
本発明はまた、上述の合金で作られた航空部品、特にタービンケーシングを提案する。
【0028】
本発明によるニッケル基合金は、部品全体にわたって良好な耐疲労性を維持しながら、その最も熱い部分で約800℃の温度、及び最大850℃の温度スパイクに耐えることが意図された部品の製造に適している。
【0029】
この妥協は、ASTM 2~6の中間粒径を得ることを可能にする、熱処理及び鍛造によって粒径を調節することにより可能になる。合金は、粉末冶金又は直接製造などの他の経路と比較して製造コストを低減することを可能にする技術である、真空鋳造及びリング圧延成形にも適している。
【0030】
他の目的、特徴及び利点は、以下に提示される図面を参照しながら説明を読むと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明によるニッケル基合金から作成された部品を製造するための方法の工程を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明による方法のビレット製造サブ工程の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、ビレット製造工程のインゴット作製サブ工程の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、ビレット製造工程におけるインゴットのビレットへの変換サブ工程の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明による方法の部品成形サブ工程の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明による方法の熱処理サブ工程の第1の例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明による方法の熱処理サブ工程の第2の例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明による方法の熱処理サブ工程の第3の例を示す図である。
【
図9】
図9は、
図1~8の1つの処理方法による処理後の本発明による合金における粒界及び炭化物析出物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明によるニッケル基合金について説明する。以下を通して、合金の組成は常に重量パーセントで与えられる。
【0033】
このような合金の組成が以下の表1に提示されている。ニッケルは明記されていない。一般的に言えば、ニッケルの量は、100%に達するための残りに相当する。さらに、あらゆる合金組成物と同様に、残留不純物を回避することは技術的に不可能である。したがって、本明細書に提示されている組成においては言及されていないが、ある種の微量元素が存在し得る。当業者は、元素が微量元素として存在するかどうか、又は元素が意図的に加えられたかどうかを認識することができるであろう。実際、微量形態の元素は、合金に特定の特性を付与せず、又は合金の特性のいずれをも変化させないことが認識されている。
【0034】
【0035】
したがって、本合金は、規則構造L12及び組成(Ni、Co)3(Al、Ti)の強化型γ’析出を形成することが意図される、元素コバルト、アルミニウム及びチタンを含む。
【0036】
さらに、コバルトは、γマトリックスの固溶体硬化によって熱に対する機械的抵抗を強化することに寄与し、関心対象の炭化物、MC(M=Ti,Mo)及びM23C6(M=Cr,Mo)の安定ドメインを制御することを可能にする。
【0037】
クロム含有量は、特に、脆弱性を誘発するTCP相(Topologically Close Pack(トポロジー最密充填)相、Frank-Kasper相としても知られる)の析出を低減しながら、合金の耐酸化性を促進することを可能にする。さらに、クロムはM23C6炭化物の形成に関与する。
【0038】
モリブデンは、熱に対して合金を機械的に強化することに寄与する。その含有量は、弱化していると考えられるσ又はμTCP相の析出を制限しながら、この強化を最大にするように最適化されている。σ型TCP相は、定まった化学量論組成を有さず、6.2~7の電子/原子比を有する金属間化合物である。σ型TCP相は、30原子の基本単位胞である。μ型TCP相は、理想的なA6B7化学量論を有する。さらに、この元素は、MC及びM23C6型炭化物の組成の一部である。MC型炭化物は、γ’スーパーソルバス処理中に粒界をしっかりと固定することによって粒径を調節することが意図されている。さらに、第1の類似として、TCP相はすべて同じ効果、特に潜在的な亀裂発生部位を作ることによる合金の延性の低下を有する。さらに、TCP相の形成は、合金元素の原子の一部を吸い上げるので、マトリックスの固溶体強化を低減することにも寄与する。
【0039】
チタンは、MC型炭化物の形成に関与する。
【0040】
炭素は、MC炭化物の析出を通じて粒成長を制御するために、及びM23C6炭化物を形成することによって粒界の耐熱性を強化するために存在する。
【0041】
ホウ素及びジルコニウム元素も、使用温度範囲全体にわたって、特に850℃まで粒界の強度を強化することを可能にする。
【0042】
合金は、6.0重量%以下の鉄も含み得、又は4.0重量%以下の鉄さえ含み得る。鉄は安価な元素であり、合金の密度及びそのコストを低減することを可能にする。さらに、意図される用途に適した組成を探し求めるときに鉄含有量を考慮に入れることによって、本発明のニッケル基合金の製造のために鉄含有合金をリサイクルすることが可能になり、その結果、使用可能なリサイクル資源の範囲を拡大することが可能になる。
【0043】
合金は、6.3重量%以下のタングステンも含み得る。モリブデンに加えた又はモリブデンの代替としてのタングステンは、特にγマトリックスの固溶体硬化によって、高温時における合金の機械的挙動を改善することを可能にする。合金中のモリブデン及びタングステンの添加量は、原子百分率で2%~5%の間でもあり得る。これにより、TCP相の析出を促進することが回避され、本事例では、M23C6型の炭化物の式において、M=Cr、Mo、Wである。
【0044】
合金は、0.4重量%以下のニオブも含み得る。合金がニオブを含む場合、L12規則構造は、(Ni,Co)3(Al,Ti)の代わりに(Ni,Co)3(Al,Ti,Nb)の組成を有する。意図される用途に適した組成物を探し求めるときにニオブ含有量を考慮に入れることによって、本発明のニッケル基合金の製造のためにニオブを含有する合金をリサイクルすることが可能になり、その結果、使用可能なリサイクル資源の範囲を拡大させる。範囲の最大限度、すなわち0.4%は、ニオブ炭化物よりもチタン炭化物の優先的安定化を可能にする。
【0045】
したがって、本発明による合金の組成は、好ましくは表2に従い、ニッケルは残りを構成する。
【0046】
【0047】
このような合金は、特にγ’析出物のモル分率がより高いために、Waspaloyよりも高い耐熱性を有する。このため、このような組成のために、このモル分率は28%より大きく、特に28~40%の間である。さらに、このような組成は、γ’析出物のモル分率を40%に制限する。さらに、γ’析出物のソルバス温度は1120℃に制限される。これは、リング圧延による合金の成形を容易にする。
【0048】
この組成は、元素Al、Ti及びNbの原子百分率の合計が7~10at%の間であることも保証し、これにより、28%~40%の間のγ’相のモル分率を得ることが可能になる。さらに、この組成は、一方の元素Alと他方の元素Ti及びNbとの間の原子比(Al/(Ti+Nb))が0.85~1.2の間であることを保証し、その結果、η-Ni3Ti相よりγ’相の析出を促進し、後者は機械的特性の観点から望ましくない。換言すれば、Ti含有量がγ’相において最適化されており、γ’相を損なうη相の形成のいかなる促進も回避しながら、熱に対する合金の機械的強化を最大化する。
【0049】
この組成は、粒界での炭化物、特にM23C6型炭化物の析出を誘発し、高温での合金の耐クリープ性を強化する。特に、炭化物は、粒界において離散的な分布を有する。炭化物は、一般に、5μmより小さい、有利には1μmより小さい節状形状を有する。粒界での離散的な分布は、組成物を以下に記載される適切な熱処理と組み合わせることによって可能になる。
【0050】
M23C6炭化物の量は、0.4~1mol%の間、有利には0.5~0.75mol%の間であり得る。これにより、所望の硬化を保証し、かつ粒界の飽和を回避するのに十分な炭化物の集団を得ることが可能になる。実際、粒界の飽和は、望ましくない粒内析出を促進する。
【0051】
さらに、M23C6型炭化物のソルバスは、以下の基準を満たす。
(γ’ソルバス-M23C6ソルバス)≧40℃
【0052】
この基準に準拠することにより、870℃を超える温度でM23C6型炭化物が析出するリスクなしにγ’サブソルバス熱処理を実施することが可能になる。実際、この温度を超えると、M23C6型炭化物の析出が、粒界上で薄膜又はプレートレットの形態で優先的に起こり得、これは耐亀裂伝播性に悪影響を及ぼす。
【0053】
さらに、この組成は、900℃を超えるM23C6型炭化物のソルバスを保証する。このため、操作中の850℃を超える温度スパイク中に炭化物の再溶解を回避することができ、最終的に機械的側面を劣化させることを回避することを可能にする。
【0054】
さらに、合金は、粗い粒径によって促進される高温での耐クリープ性と、微細な粒径によって促進される耐疲労性との優れた妥協であるASTM 2~6の間の中間粒径を有する。
【0055】
この中間粒径は、特にMC型炭化物の制御された集団の存在により得られ、これにより、鍛造中及びγ’ソルバスを超える温度での熱処理中に粒の拡大を制限することが可能になる。これらの炭化物は、一般に、微量の窒素の存在下で、球状の、時には角張った形状、及び5μm未満のサイズを有する。好ましくは、MC型炭化物のモル量は、γ’相のソルバスより高い温度で、例えば+40℃のγ’ソルバス温度で0.1~0.3%の間である。
【0056】
MC型炭化物の存在は、熱処理中に粒界2をMC型炭化物3上にしっかり固定することを可能にし(
図9)、これは粒成長をASTM 2~6の間の目標値に収める。
【0057】
0.3%に制限されたMC型炭化物のモル分率は、鋳造及び鍛造による製造に伴うより粗い炭化物及び炭窒化物(すなわち、5μmより大きいサイズ)の形成による疲労寿命の低下を回避することを可能にする。
【0058】
粗い炭化物の形成を制限するための別の方法は、合金のソリダスより低いMC型炭化物のソルバス温度を有することであり、これは、この組成によって可能とされる。
【0059】
好ましい組成は、以下の表3に、又はFe、W及びNbの量を考慮に入れる場合には表4に従う。
【0060】
【0061】
【0062】
これらの組成は、元素Al、Ti及びNbの原子百分率の合計が7~8.25at%の間であることを保証する。
【0063】
別の好ましい組成は、以下の表5に、又はFe、W及びNbの量を考慮に入れる場合には表6に従う。
【0064】
【0065】
【0066】
これらの組成は、元素Al、Ti及びNbの原子百分率の合計が8.5~9%atの間であることを保証する。
【0067】
さらに別の好ましい組成は、以下の表7に、又はFe、W及びNbの量を考慮に入れる場合には表8に従う。
【0068】
【0069】
【0070】
これらの組成は、元素Al、Ti及びNbの原子百分率の合計が9.25~10at%の間であることを保証する。さらに、これらの組成は、最大40%の、γ’析出物の最高モル含有量を与える組成に対応する。
【0071】
図1~
図8を参照しながら、上記のようなニッケル基合金から作成された部品を製造するための方法を以下に記載する。
【0072】
この方法は、ニッケル基合金の組成と同じ組成を有するビレットを製造する工程100と、部品を成形する工程200と、部品を熱処理する工程300とを含む(
図1)。
【0073】
ビレットを製造する工程100は、特に、インゴットを作製する工程110と、インゴットをビレットに変換する工程120とを含むことができる(
図2)。インゴットを作製する工程110は、上述のようなニッケル基合金の組成を得るように選択された材料を溶解する工程111によって達成され得る(
図3)。インゴットを作製する際のこの第1の工程は、特に真空誘導溶解(VIM)によって実施され得る。インゴットを作製する工程110は、1つ以上の再溶解過程112も含み得る。例えば、この工程は、エレクトロスラグ再溶解(ESR)及び/又は真空アーク再溶解(VAR)を含む(
図3)。これらの追加の工程は、インゴットの包括的な清浄さを改善し、マクロ偏析を最小限に抑えることを可能にする。
【0074】
インゴットをビレットに変換する工程120は、インゴットを切断する工程121の後の鍛造によって、特にニッケル基合金の凝固組織を微細化するためにニッケル基合金を据え込み鍛造する工程122及び絞る工程123の連続的実施によって実行され得る(
図4)。
【0075】
部品を成形する工程200は、特にビレットを形成するニッケル基合金を据え込み鍛造することによって、ビレットを鍛造する工程210を含み得る。部品を成形する工程は、鍛造後の圧延220、特にリング圧延も含み得る(
図5)。
【0076】
特に部品を熱処理する工程300は、γ’スーパーソルバス溶体化熱処理310及びγ’サブソルバス溶体化熱処理320のうちの少なくとも1つの処理を含む(
図6~8)。
【0077】
γ’スーパーソルバス溶体化熱処理310は、粒子を所望のサイズまで、特にASTM 2~6の間、例えばASTM 4まで成長させることを可能にする。例えば、γ’スーパーソルバス溶体化熱処理310は、γ’ソルバスより10~40℃高い温度で、特に1~8時間の間の期間加熱することによって行われる。
【0078】
γ’サブソルバス溶体化熱処理320は、γ’析出物のサイズを微細化し、合金の機械的強度を向上させることを可能にする。この溶体化熱処理の後に焼き入れを行う。例えば、γ’サブソルバス溶体化熱処理320は、γ’ソルバスより10~40℃低い温度で、特に1~8時間の期間加熱することによって行われる。γ’サブソルバス溶体化熱処理320は、鍛造中に所望の粒径に既に達しているときに、部品を成形する工程200の直後に実行され得る。
【0079】
部品を熱処理する工程300は、特にγ’スーパーソルバス溶体化熱処理310及び/又はγ’サブソルバス溶体化熱処理320の後に、M23C6型炭化物を析出させるための焼き戻し330をさらに含み得る。例えば、M23C6型炭化物を析出させるためのこの焼き戻し330は、825℃~870℃の間、好ましくは840℃~860℃の間、例えば約850℃の温度まで、特に4~8時間加熱することによって行われる。
【0080】
部品を熱処理する工程300は、特に目標とされる使用温度に近い温度、例えば760℃~825℃の間(
図6)、好ましくは790℃~810℃の間、例えば約800℃で、典型的には析出させるための焼き戻し330の後に、γ’析出物の集団を安定化させるための焼き戻し340をさらに含み得る。例えば、安定化させるためのこの焼き戻し340は、760~825℃の間で、特に4~16時間の加熱によって行われる。
【0081】
したがって、部品を熱処理する工程は、特に以下の組み合わせを含み得る(参照番号310、320、330及び340中の識別する数字を参照のこと):1+3、1+4、2+3、2+4、1+2+3、1+2+4、1+3+4、2+3+4、1+2+3+4。
【実施例】
【0082】
表9は、本発明による24の実施例(実施例1~実施例24)及び比較例(例C1)の質量組成を与える。表10は、これらの実施例について特性を与える。
【0083】
【0084】
【0085】
表中、P1は、原子比Al/(Ti+Nb)であり、P2は、元素Al、Ti及びNbの原子百分率の合計であり、P3は、850℃で決定されたM23C6型炭化物のモルパーセントであり、P4は、γ’ソルバス(℃)であり、P5は、M23C6型炭化物のソルバス(℃)であり、P6は、γ’ソルバスとM23C6型炭化物のソルバスとの差(℃)であり、P7は、γ’ソルバス温度より40℃高い、MC型炭化物のモルパーセントであり、P8は、MC型炭化物のソルバス(℃)であり、P9は、ソリダス(℃)である。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル基合金であって、重量パーセントで、
4.0~15.7%のコバルト、
15.3~19.5%のクロム、
1.6~5.45%のモリブデン、
1.65~2.5%のアルミニウム、
2.8~4.3%のチタン、
0.01~0.10%の炭素、
0.003~0.02%のホウ素、
0.01~0.10%のジルコニウム、
0~6.0%の鉄、
0~6.3%のタングステン、及び
0~0.4%のニオブ、
100%までの残りに相当するニッケル
を含む、ニッケル基合金。
【請求項2】
重量パーセントで、
0.02~0.06%の炭素、
0.005~0.01%のホウ素、及び
0.02~0.06%のジルコニウム
を含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項3】
重量パーセントで、
1.65~2.10%のアルミニウム、及び
2.8~3.45%のチタン
を含む、請求項2に記載のニッケル基合金。
【請求項4】
重量パーセントで、
4.0~13.2%のコバルト、
1.80~2.30%のアルミニウム、及び
3.5~4.0%のチタン
を含む、請求項2に記載のニッケル基合金。
【請求項5】
重量パーセントで、
4.0~11.0%のコバルト、
2.0~2.50%のアルミニウム、及び
4.05~4.4%のチタン
を含む、請求項2に記載のニッケル基合金。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のニッケル基合金から作成された部品を製造する方法であって、
前記ニッケル基合金の組成と同じ組成を有するビレットを製造するステップと、
前記部品を成形するステップと、
前記部品を熱処理するステップと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記部品を熱処理するステップが、
好ましくはγ’ソルバスよりも10~40℃高い温度での、γ’スーパーソルバス溶体化熱処理、及び
好ましくはγ’ソルバスよりも10~40℃低い温度での、γ’サブソルバス溶体化熱処理
のうちの少なくとも1つの処理を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理が、
好ましくは825~870℃の温度に加熱することによって、M
23C
6型炭化物を析出させるための焼き戻し、及び
任意選択に、好ましくは760~825℃の温度での、γ’析出物の集団を安定化させるための焼き戻し
をさらに含み得る、請求項
6に記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理が、
好ましくは825~870℃の温度に加熱することによって、M
23
C
6
型炭化物を析出させるための焼き戻し、及び
任意選択に、好ましくは760~825℃の温度での、γ’析出物の集団を安定化させるための焼き戻し
をさらに含み得る、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項
1に記載の合金から作成された航空部品、特にタービンケーシング。
【国際調査報告】