(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-04
(54)【発明の名称】酵母β-グルカンのエマルジョン、その方法および使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/716 20060101AFI20241127BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20241127BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20241127BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20241127BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20241127BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241127BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241127BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241127BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A61K31/716
A61P31/22
A61K9/107
A61K47/06
A61K47/44
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530662
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-07-06
(86)【国際出願番号】 IB2022062629
(87)【国際公開番号】W WO2023119195
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521261876
【氏名又は名称】ユニヴェルシダデ カトリカ ポルトゥゲサ-ユーシーピー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE CATOLICA PORTUGUESA - UCP
(71)【出願人】
【識別番号】521261887
【氏名又は名称】アミリス ビオ プロダクツ ポルトゥガル ウニペソアル エリデーアー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100217113
【氏名又は名称】高坂 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン クルス フェルナンデス
(72)【発明者】
【氏名】マリア マヌエラ ファリア アモリム
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ ミュゲル コンスタンテ デ ソウサ
(72)【発明者】
【氏名】ディアナ マリア タヴァレス ヴァレンテ
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン ペドロ アゼヴェド シウヴァ
(72)【発明者】
【氏名】マリア マヌエラ エステヴェズ ピンタード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA51
4C076BB31
4C076CC35
4C076DD34
4C076DD37Q
4C076DD41Q
4C076DD43Q
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4C076EE51
4C076EE53
4C076EE54
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA22
4C086MA34
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
本開示は、単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の酵母β-グルカンのエマルジョンに関し、特に、エマルジョンは皮膚軟化剤を含み、皮膚軟化剤は、スクワラン、バター、麻油、またはそれらの混合物から選択される。
本開示は、抗ヘルペス活性を有する酵母β-グルカンのエマルジョン、特に、顔面局所用組成物、より具体的には、抗ヘルペス特性を有するリップスティック/フェイススティック/リップバームまたはフェイスバーム/回転式塗布のロールオン、それらを得るための方法およびそれらの使用に関する。
また、本開示は、β-グルカンを含む顔面局所用の組成物、好ましくは抗ヘルペス活性リップスティック、またはフェイススティック、または抗ヘルペス性リップバームもしくはフェイスバーム、または抗ヘルペス性ロールオンに関し、ヒトヘルペスウイルスによって引き起こされる口唇および顔の他の領域の障害の予防および治療のための当該組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の酵母β-グルカンのエマルジョンであって、前記エマルジョンは30~80%(w/w)の皮膚軟化剤を含み、
前記酵母β-グルカンのエマルジョンは抗ウイルス剤であり、
前記酵母β-グルカンの量は4~25%(w/w)の範囲である、酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項2】
前記皮膚軟化剤は、スクワラン、バター、麻油、またはこれらの混合物から選択され、好ましくはスクワランである、請求項1に記載の酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項3】
口唇疾患またはヒトヘルペスウイルスに罹患した口唇もしくは顔の他の領域における前記予防および治療に使用される、請求項2に記載の酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項4】
前記エマルジョンは、顔面局所用組成物の形態で、好ましくは抗ヘルペス性リップスティック、フェイススティック、リップバームもしくはフェイスバーム、またはロールオンの形態で投与される、請求項3に記載の使用のための酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項5】
前記酵母β-グルカンは水に不溶性であり、好ましくは、前記酵母β-グルカンは天然β-グルカンである、請求項4に記載の使用のための酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項6】
前記酵母β-グルカンの量が4~10%(w/w)の範囲であり、好ましくは5~10%(w/w)の範囲である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の使用のための酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項7】
前記酵母β-グルカンの量が4~7%(w/w)の範囲であり、好ましくは5~6%(w/w)の範囲である、請求項1から請求項6のいずれかに記載の使用のための酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項8】
前記酵母β-グルカンの量が4~6%(w/w)、好ましくは5~6%(w/w)の範囲である、請求項1から請求項7のいずれかに記載の使用のための酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項9】
前記酵母β-グルカンの分子量が200~800KDaの範囲である、請求項1から請求項8のいずれかに記載の使用のための酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項10】
前記酵母β-グルカンの分子量が300~600KDaの範囲である、請求項1から請求項9のいずれかに記載の使用のための酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項11】
前記皮膚軟化剤の量が60~80%(w/w)の範囲である、請求項1から請求項10のいずれかに記載の使用のための酵母β-グルカンのエマルジョン。
【請求項12】
酵母β-グルカンのエマルジョンを含む顔面局所用の組成物であって、前記エマルジョンは単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の皮膚軟化剤を含み、前記組成物は顔面に局所投与され、特に、抗ヘルペス性のリップスティック、またはフェイススティック、またはリップバームもしくはフェイスバーム、またはロールオンの形態で投与される、顔面局所用の組成物。
【請求項13】
前記皮膚軟化剤は、スクワラン、バター、麻油、またはこれらの混合物から選択される、請求項12に記載の顔面局所用の組成物。
【請求項14】
少なくとも充填剤、少なくとも油(好ましくは精油)、少なくとも保存剤、少なくとも染料、少なくとも芳香剤、少なくとも香味料、少なくとも水和剤、少なくともpH調整剤、少なくとも安定剤、増粘剤、またはこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1から請求項13のいずれかに記載の顔面局所用の組成物。
【請求項15】
前記充填剤は、ワックス、パラフィン、蜜蝋、またはそれらの混合物から選択され、および/または前記保存剤は、クエン酸、フェネチルアルコール、安息香酸、ソルビン酸、サリチル酸アルコール、トコフェロール、またはそれらの混合物から選択される、請求項1から請求項14のいずれかに記載の顔面局所用の組成物。
【請求項16】
前記充填剤の量が10~30%(w/v)の範囲であり、好ましくは10~20%(w/v)の範囲であり、および/または前記保存剤の量が0.1~2%(w/w)、好ましくは0.5~1%(w/w)の範囲である、請求項15に記載の顔面局所用の組成物。
【請求項17】
前記酵母β-グルカン/前記皮膚軟化剤の重量比が0.5:1~1:2の範囲であり、好ましくは1:1~1:2の範囲である、請求項1から請求項16のいずれかに記載の局所用リップスティック組成物。
【請求項18】
自己消化酵母細胞を得るステップと、
前記酵母細胞にアルカリ溶液を加え、固液抽出で、第一のペレットを回収することによって、前記酵母の乾燥アルカリグルカンを抽出するステップと、
得られた第1のペレットに、第2の固液抽出でアルコール溶液および酸溶液を加えて、酵母β-グルカンを含む第2のペレットを得るステップと
を含む、請求項1から請求項17のいずれかに記載の酵母β-グルカンを得る方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗ヘルペス活性を有する酵母β-グルカンのエマルジョン、特に、顔面局所用組成物、より具体的には、抗ヘルペス特性を有するリップスティック/フェイススティック/リップバームまたはフェイスバーム/回転式塗布のロールオン(roll on)、それらを得るための方法およびそれらの使用に関する。
【0002】
また、本開示は、β-グルカンを含む顔面局所用の組成物、好ましくは抗ヘルペス活性リップスティック、またはフェイススティック、または抗ヘルペス性リップバームもしくはフェイスバーム、または抗ヘルペス性ロールオンに関し、ヒト単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる口唇および顔の他の領域の障害の予防および治療のための当該組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
グルカンは、植物からキノコひいては酵母などの真菌まで、様々な有機体に存在する多糖類である。サッカロミセス種において、グルカンは細胞壁の主要な構成成分である。β-グルカンは、グリコシド結合β-(1-3);(1-6)によって連結されたd-グルコース単位から構成される特定の種類のグルカンである。この特定の種類のグルカンは、興味深い生物学的活性を有する。β-グルカン活性として、抗シワ活性、抗酸化活性および水和、スキンケア用途、組織再生、ウイルス感染に対する活性、ならびに炎症誘発作用などの免疫刺激活性などが多くの研究により実証されている。β-グルカンは、免疫細胞によって発現されるパターン認識受容体と相互作用することによって免疫応答を誘発することができる。β-グルカンによる免疫応答誘発の一例として、デクチン-1受容体と相互作用することによって先天性免疫応答を誘発するβ-グルカンの能力が挙げられる。
【0004】
これらの事項は、本開示によって解決される技術的問題を例示するために開示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、β-グルカンを含む抗ヘルペスエマルジョンに関し、ヒト単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる口唇および顔の他の領域の障害の予防および治療のための当該エマルジョンの使用に関する。
【0006】
本開示の一態様は、単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の酵母β-グルカンのエマルジョンに関し、エマルジョンは皮膚軟化剤を含み、皮膚軟化剤は、好ましくは、スクワラン、バター、麻油、またはそれらの混合物から選択される。
【0007】
本開示の別の態様は、単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の酵母β-グルカンのエマルジョンに関し、エマルジョンは30~80%(w/w)の皮膚軟化剤を含み、
酵母β-グルカンのエマルジョンは抗ウイルス剤であり、
β-グルカンの量は、4~25%(w/w)、好ましくは5~25%(w/w)の範囲である。
【0008】
一実施形態において、本開示の酵母β-グルカンのエマルジョンは、口唇疾患またはヒトヘルペスウイルスに罹患した口唇もしくは顔の他の領域における単純ヘルペスウイルス感染の予防および治療に使用することができる。
【0009】
一実施形態において、本開示の酵母β-グルカンのエマルジョンは、顔面局所用組成物の形態で、好ましくは抗ヘルペス性リップスティック、フェイススティック、リップバーム、フェイスバーム、またはロールオンの形態で、投与することができる。
【0010】
一実施形態において、本開示の酵母β-グルカンのエマルジョンは、水に不溶性である。
【0011】
一実施形態において、本開示の酵母β-グルカンのエマルジョンは、天然β-グルカンであってもよい。
【0012】
一実施形態において、酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)、トルラ酵母(Cyberlindnera jadinii)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、またはそれらの混合物であってよい。好ましい実施形態において、酵母グルカンは、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)から抽出することができる。好ましくはサッカロマイセス(Saccharomyces)株CEN.PK2遺伝子型:MATa/α-ura3-52/ura3-52-trp1-289/trp1-289 leu2-3,112/leu2-3,112 his3 Δ1/his3 Δ1 MAL2-8C/MAL2-8C SUC2/SUC2であり、CEN.PKがアデニル酸シクラーゼにおける触媒ドメインの端部付近のK1876M置換に対応するCYR1(A5627T)における変異を有することにより、グルコースおよび酸性化誘導cAMPシグナル伝達を排除し、グルコース誘導性ストレス耐性の損失を遅延させる。
【0013】
一実施形態において、β-グルカンの量は、1~40%(w/w)の範囲であり、好ましくは4~25%(w/w)の範囲であり、より好ましくは5~10%(w/w)の範囲とすることができる。
【0014】
一実施形態において、β-グルカンの分子量は、200~800KDaの範囲であり、好ましくは300~600KDaの範囲である。
【0015】
一実施形態において、皮膚軟化剤の量は、30~80%(w/w)の範囲であり、好ましくは60~80%(w/w)の範囲であってもよい。
【0016】
一実施形態において、皮膚軟化剤はスクワランである。
【0017】
一実施形態において、β-グルカンの量は、4~10%(w/w)の範囲であり、好ましくはβ-グルカンの量は5~7%(w/w)の範囲であり、より好ましくはβ-グルカンの量は5~6%(w/w)の範囲である。
【0018】
本開示の別の態様は、酵母β-グルカンのエマルジョンを含む顔面局所用組成物であって、エマルジョンは皮膚軟化剤を含み、好ましくは、皮膚軟化剤がスクワラン、バター、麻油、またはそれらの混合物から選択される、単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の顔面局所用の組成物に関し、当該組成物は顔面に局所投与され、特に、抗ヘルペス性リップスティック、フェイススティック、リップバーム、フェイスバーム、またはロールオンの形態で投与される。
【0019】
一実施形態において、本開示の顔面局所用組成物は、少なくとも充填剤、少なくとも油(好ましくは精油)、少なくとも保存剤、少なくとも染料、少なくとも芳香剤、少なくとも香味料、少なくとも水和剤、少なくともpH調整剤、少なくとも安定剤、増粘剤、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0020】
一実施形態において、充填剤の量は、10~30%(w/w)、好ましくは10~20%(w/w)の範囲である。
【0021】
一実施形態において、充填剤は、ワックス、パラフィン、蜜蝋、またはそれらの混合物から選択される。
【0022】
一実施形態において、保存剤は、クエン酸、フェネチルアルコール、安息香酸、ソルビン酸、サリチル酸アルコール、トコフェロール、またはそれらの混合物から選択される。
【0023】
一実施形態において、保存剤の量は、0.1~2%(w/w)、好ましくは0.5~1%(w/w)の範囲である。
【0024】
一実施形態において、グルカン/皮膚軟化剤の重量比は、0.5:1~1:2、好ましくは1:1~1:2の範囲である。
【0025】
一実施形態において、本開示の顔面局所用組成物は、染料、芳香剤、香味剤、水和剤、pH調整剤、安定剤、増粘剤、またはそれらの組合せを含むことができる。
【0026】
本開示の別の態様は、本開示のβ-グルカンを得る方法に関し、当該方法は、
自己消化酵母細胞を入手するステップと、
固液抽出で酵母細胞にアルカリ溶液を加え、第一のペレットを集めることによって酵母の乾燥アルカリグルカンを抽出するステップと、
得られた第1のペレットに、第2の固液抽出でアルコール溶液および酸溶液を加えて、酵母β-グルカンを含む第2のペレットを得るステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以下の図は本開示を説明するための好ましい実施形態を提供するものであり、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【
図1】HSVIに感染し、グルカンに48時間曝露したHaCaT細胞の実施形態の模式図である。細胞死亡率は、HSVIに感染した細胞との比較により表される。アシクロビルを陽性対照として使用した。
【
図2】HSVIに感染したTHP-1細胞に由来するマクロファージにおけるIL-1β、IL-8およびTNF-αサイトカインの産生の実施形態の概略図である。
【
図3】
図3(A)は、一実施形態に係るグルカン粉末の外観を示す概略図であり、
図3(B)は、一実施形態に係るスクワランで乳化したグルカン溶液(水溶液)を示す概略図である。
【
図4】HS-IVに感染させ、β-グルカンおよびスクワランを配合したβ-グルカンで処理したHaCaT細胞のクリスタルバイオレット染色の一実施形態の模式図である。
【
図5】
図5(A)は、カルコフルで染色した皮膚切片組織をGlu-RbMまたはGlu-RbM/SQで2時間処理した後の当該皮膚切片組織におけるβ-グルカン蛍光体の周波数対強度の代表的なグラフであり、
図5(B)は、Glu-RbM/SQで2時間および6時間処理した後のβ-グルカンの蛍光体の周波数対強度の代表的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の酵母β-グルカンのエマルジョンに関し、特に、エマルジョンが皮膚軟化剤を含み、皮膚軟化剤は、スクワラン、バター、麻油、またはそれらの混合物から選択される、酵母β-グルカンのエマルジョンに関する。
【0029】
本開示は、抗ヘルペス活性を有する酵母β-グルカンのエマルジョンに関し、特に、顔面局所用組成物、より具体的には、抗ヘルペス特性を有するリップスティック/フェイススティック/リップバームまたはフェイスバーム/ロールオン、それらを得るための方法およびそれらの使用に関する。
【0030】
また、本開示は、β-グルカンを含む顔面局所用の組成物、好ましくは抗ヘルペス活性リップスティックもしくはフェイススティック、抗ヘルペス性リップバームもしくはフェイスバーム、または抗ヘルペス性ロールオンに関し、ヒト単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる口唇および顔の他の領域の障害の予防および治療のための当該組成物の使用に関する。
【0031】
本開示は、抗ヘルペス活性を有するβ-グルカンを含有するリップスティック/リップバーム/ロールオンに関し、したがって、抗ヘルペス特性を有するリップスティック/リップバーム/ロールオンの調製に関する。
【0032】
略語一覧
Glu-RbM:グルカンアルカリ+有機/使用済みRebM産生酵母からの酸処理
Glu-WT:野生型酵母CEN.PK2からのグルカンアルカリ+有機/酸処理
野生型酵母CEN.PK2-サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株。CEN.PK2遺伝子型:MATa/α-ura3-52/ura3-52-trp1-289/trp1-289 leu2-3,112/leu2-3,112 his3 Δ1/his3 Δ1 MAL2-8C/MAL2-8C SUC2/SUC2、CEN.PKがアデニル酸シクラーゼにおける触媒ドメインの端部付近のK1876M置換に対応するCYR1(A5627T)における変異を有することにより、グルコースおよび酸性化誘導cAMPシグナル伝達を排除し、グルコース誘導性ストレス耐性の損失を遅延させる。
RbM:RebM甘味料分子
HaCaT:ヒト表皮角化細胞
【0033】
グルカンの抽出および精製
一実施形態において、本発明者らは、甘味料分子であるRebM(RbM)を生成するように設計された使用済み酵母から、グルカンを抽出した。これらの株は遺伝子組換え生物(GMO)であるので、本発明者らは、野生型サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株CEN.PK2由来のグルカンについても試験を行っている。一実施形態において、甘味料分子の製造由来の使用済み酵母から酵母グルカンが抽出された。これらの株は、遺伝子組換え生物(GMO)であってもよく、野生型サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株CEN.PK2由来のグルカンも抽出した。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株CEN.PK2遺伝子型:MATa/α-ura3-52/ura3-52-trp1-289/trp1-289 leu2-3,112/leu2-3,112 his3 Δ1/his3 Δ1 MAL2-8C/MAL2-8C SUC2/SUC2、CEN.PKは、アデニル酸シクラーゼにおける触媒ドメインの端部付近のK1876M置換に対応するCYR1(A5627T)における変異を有しており、グルコースおよび酸性化誘導cAMPシグナル伝達を排除し、グルコース誘導性ストレス耐性の損失を遅延させる。
【0034】
一実施形態において、細胞成分を放出させる、すなわち自己融解(autolysis)させるため、酵母に熱処理を行い、それによって、酵母細胞壁多糖の不溶性画分(ペレット)中に存在するグルカンの単離および精製を可能にした。自己融解の後、抽出における第1のステップをアルカリ処理により開始した。このアルカリ処理では、自己融解した酵母ペレットおよび溶媒として水酸化ナトリウム(NaOH 1M)を用いて、20%(w/v)の初期溶液を調製した。次いで、この溶液を90℃の水浴中に2~4時間置いた。その後、4℃で10分間、8000rpmで遠心分離し、上清を廃棄した。得られたペレットを、脱イオン水で遠心分離することによって3回洗浄した。洗浄したペレットを50mlの脱イオン水に再懸濁し、pH7まで塩酸(HCl 3M)で中和した。遠心分離によって上清を除去し、同容量の脱イオン水を用いて最後の洗浄を行った。得られたペレットであって、不溶分アルカリグルカンを含有するペレットを脱イオン水で完全に均質化し、噴霧乾燥により、注入口温度110℃および出口温度50℃で乾燥させた。
【0035】
残っているタンパク質、脂質および他の不要な化合物を除去するために、酸/エタノール抽出を使用した。この抽出のために、1gの乾燥アルカリグルカンを、80mlのエタノール(99%)および1.6mlのHCl 32%(w/v)に溶解し、オービタルシェーカー中に50℃で4時間置いた。次いで、ペレットを、無水エタノールで2回、アセトンで1回の計3回洗浄し、各溶媒20mlを懸濁し、4℃で10分間、8000rpmで遠心分離した。精製したグルカンを真空オーブン中において50℃で一晩乾燥させた。
【0036】
β-グルカンはHSVI感染を防ぐ
炎症性調節因子としてのβ-グルカンの有益な効果は、鋭意研究されている。それらは、特定のマクロファージ受容体と相互作用することにより免疫応答を誘発する能力を有する。一部の研究では、β-グルカンが抗ウイルス能力を示すことが指摘されている。
【0037】
本発明者らは、HSVIに感染させたヒト表皮ケラチノサイト(HaCaT)において、Glu-RbMおよびGlu-WT抽出物の抗ウイルス能力を試験した。96ウェルプレートにHaCaT細胞を1×10
5細胞/mlで播種した。その後、細胞を199V培地において0.2の感染多重度(MOI)で、HSVIに37℃で1時間曝露した。ウイルスを含む培地を除去し、新鮮培地を単独で添加するか、または異なるグルカン濃度で補った。48時間の曝露後、Prestoブルーアッセイを実施し、その結果を、HSVIに感染した細胞と比較した細胞死率として表した。我々の結果から、Glu-RbおよびGlu-WTにより、HSVI感染からケラチノサイトが用量依存的に保護されることがわかる(
図1)。これらの結果を、Vero細胞およびTHP-1細胞に由来するマクロファージなどの他の細胞株において複製した(データは図示せず)。同じ試験条件を適用して、実施例1および実施例2のエマルジョンの抗ヘルペス活性を評価した。
【0038】
β-グルカンはHSVI感染における免疫系を刺激する
一実施形態において、HSVIに感染した細胞におけるβ-グルカンの免疫調節作用を検討するため、24ウェルプレートにTHP-1細胞を3.5×10
5細胞/mlで播種し、ホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート(PMA、50nM)に72時間曝露して、マクロファージ分化を誘導した。次いで、細胞をHSVIに感染させ、異なるグルカンで48時間処理した。免疫調節活性は、LEGENDplex(商標、BioLegend)ビーズベースのイムノアッセイを使用するフローサイトメトリーによって評価した。その結果から、β-グルカンによりHSVI細胞においてIL‐1β、IL‐8、TNF‐αの発現が誘発され、β-グルカンが免疫系を刺激してHSVI感染に対抗することがわかる(
図2)。
【0039】
皮膚軟化剤と共に調製されたβ-グルカンは、抗ヘルペス活性を保持する
一実施形態において、β-グルカンは不溶性であり、したがって、調製中に使用するためにはそれらを可溶化しなければならない。これを達成するため、グルカンとスクワランなどの皮膚軟化剤とを1:1(w/w)の割合で混合した(
図3)。他の剤は、スクワラン、バター、麻油、またはそれらの混合物などであり、好ましくはスクワランである。
【0040】
調製されたβ-グルカンがその抗ヘルペス能力を保持するかどうかを検証するために、HaCaT細胞を、24ウェルプレートに3×10
5細胞/ウェルで播種した。次いで、細胞をHSVIに感染させ、β-グルカンで48時間処理した。次いで、細胞を洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で20分間固定し、0.05%のクリスタルバイオレットで染色した。広範囲洗浄および風乾後、種々の条件の顕微鏡画像を倒立顕微鏡で撮影した(
図4)。その結果、調製されたグルカンがβ-グルカン単独と同様に、HSVI誘導性細胞死を防止することができることがわかる。
【0041】
皮膚軟化剤は、皮膚におけるグルカンの浸透性を増加させる
一実施形態において、スクワランなどの皮膚軟化剤を含んでβ-グルカンを調製することにより、浸透性が向上する。β-グルカンは不溶性であるため、皮膚に接触しても容易に浸透せず、したがって皮膚細胞と相互作用しない。その結果、β-グルカン活性が低下する。しかしながら、スクワランと共に調製すると、β-グルカンは、皮膚に浸透しやすくなる。β-グルカンの浸透性を試験するため、皮膚移植片をβ-グルカンに曝露し、スクワランを用いて調製したβ-グルカンを使用し、フランツ型透過セル法により皮膚移植片を処理した。皮膚移植片を加工して組織学的分析を行った。つまり、皮膚移植片を、4つの主要なステップ、すなわち、PFA4%による固着、脱水、清浄、および最終的にパラフィン中への包埋に供した。組織切片(4μm)をヘマトキシリン&エオシンで染色して組織構造評価を行い、β-グルカン、カルコフルオル(1:1の水酸化カリウム)に特異的な蛍光色素で染色した。カルコフルで染色した試料の顕微鏡蛍光画像を強度/周波数分析により評価した。その結果から、曝露2時間後には、Glu-RbM/SQは、Glu-RbM単独よりも皮膚中に広く分布する(周波数が改善される)ことがわかる(
図5A)。6時間後、スクワランは2時間後に比べて皮膚組織中のグルカンの周波数(分布)を改善した(
図5B)。
【0042】
実施例1:β-グルカンのエマルジョン
実施例1において、
550KDaで5%(w/w)のβ-グルカン、
80%(w/w)のスクワラン、
1%(w/w)の保存剤、
100%(w/w)以下の水でエマルジョンを調製した。
【0043】
実施例2:β-グルカンのエマルジョン
実施例2において、
400KDaで5%(w/w)のβグルカン、
80%(w/w)のスクワラン、
1%(w/w)の保存剤、
100%(w/w)以下の水でエマルジョンを調製した。
【0044】
【0045】
実施例3:リップスティックバームへのβ-グルカンの取り込み
一実施形態において、リップスティック、リップバーム、または回転塗布式のロールオンで使用される製剤にβ-グルカンを組み込むために、以下に示す質量割合の組成物を開発した。
構造剤(または充填剤):10~20%(w/w)
皮膚軟化剤:60~80%(w/w)
グルカン:1~40%(w/w)
保存剤:0.11%(w/w)
【0046】
一実施形態において、構造剤または充填剤として、ワックスを使用し、特に、大豆ワックス、米ワックス、およびカンデリラワックスを使用した。皮膚軟化剤は、皮膚を滑らかにし、水和させる保湿剤として作用し、シアバター、およびカカオバターなどのバター、ならびにココナッツオイル、スイートアーモンドオイル、およびスクワランなどのオイルの形態で含有された。本開示の酵母β-グルカン(5~25% w/w)をスクワランを含むエマルジョンに添加して、皮膚浸透性を改善した。安定性を確保し、脂質分解を防止するため、トコフェロールを保存剤として添加した。この調製は、ビーガンと考えることができる。
【0047】
本明細書において、用語「含む(comprising)」の使用は、記載されている特徴、整数、ステップ、構成要素の存在を指定することを意図している。しかしながら、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、構成要素、またはそれらの群の存在または追加を除外しないことを理解されたい。
【0048】
特許請求の範囲の記載において、各要素または各特徴の単数形が使用される場合であっても、それらの複数形も含まれ、明確に除外しない限り、その逆も同様である。例えば、単数形の「(1つの)β-グルカン」または「そのβ-グルカン」はまた、複数形の「β-グルカン」または「それらのβ-グルカン」も含み、その逆も同様である。特許請求の範囲において、冠詞「a」、「an」、および「the」などは、それとは反対のことが示されているか、または文脈から特に明白でない限り、1つまたは2つ以上を意味し得る。各請求項又は明細書において、あるグループの1つ以上の部材の間に「または」と記載している場合には、文脈が反対のことを示さないか、または文脈から特に明白でない限り、グループにおける1つの部材、2つ以上の部材、または全ての部材が、所与の生成物もしくはプロセスにおいて、存在するか、用いられるか、あるいは関連していれば、満たされていると考えられる。本発明は、グループのうちの1つの部材のみが、所与の生成物もしくはプロセスにおいて、存在するか、用いられるか、あるいは関連する実施形態を含む。本発明はまた、グループのうちの2つ以上の部材または全ての部材が、所与の生成物またはプロセスにおいて、存在するか、用いられるか、あるいは関連する実施形態を含む。
【0049】
さらに、本発明は、1以上の請求項または明細書における関連部分に基づいて、1以上の制限、要素、節、記述用語などを別の請求項に導入したすべての変形例、組み合わせ、および順列を包含することを理解されたい。例えば、別の請求項を引用する請求項はいずれも、同一の基本請求項に従属する任意の他の請求項における1以上の制限を含むように変更することができる。
【0050】
さらに、請求項において組成物が記載されている場合、特に示されない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、本明細書に開示される目的のいずれかのために組成物を使用する方法が含まれ、かつ本明細書に開示される製造方法または当技術分野で公知の他の方法のいずれかに従って組成物を作製する方法が含まれることを理解されたい。
【0051】
範囲が指定されている場合、端点が含まれる。さらに、文脈および/もしくは当業者の理解から特に指示されないか、または特に明白でない限り、範囲として表される値は、文脈が特に明確に指示しない限り、本発明の異なる実施形態で既定の範囲内の任意の特定の値を、範囲の下限の単位の10分の1まで仮定することができる。また、文脈および/もしくは当業者の理解から特に指示されないか、または特に明白でない限り、範囲として表される値は、所与の範囲内の任意の部分範囲を仮定することができ、部分範囲の端点は、範囲の下限の単位の10分の1と同じ程度の精度まで表されることも理解されたい。
【0052】
本開示は、記載の実施形態に何ら限定されるものではなく、当業者であれば、その変更に対する多くの可能性を予見するであろう。
【0053】
上述の実施形態は、組み合わせ可能である。
【0054】
以下の特許請求の範囲は、本開示の特定の実施形態をさらに提示する。
【国際調査報告】