(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-04
(54)【発明の名称】鼻腔内薬物送達システムのためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241127BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241127BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241127BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241127BHJP
A61K 35/76 20150101ALN20241127BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/00
A61P25/28
A61K48/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577112
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-12-08
(86)【国際出願番号】 US2022050947
(87)【国際公開番号】W WO2023097034
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】324011869
【氏名又は名称】コグニジェニクス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ファロン,ジム
(72)【発明者】
【氏名】ミー,ジョン ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】ラディン,ディーン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA20
4C084MA59
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA151
4C087BC83
4C087CA12
(57)【要約】
メンタルヘルス状態を有する患者を治療する方法は、ある用量のニューロン編集生物製剤を患者に鼻腔内投与することを含む。本方法はまた、標的脳領域を活性化または非活性化するために脳領域活性因子を投与することを含む。本方法は、血行動態を利用して、標的脳領域内の活性ニューロンに、ニューロン編集生物製剤を輸送することをさらに含み、これにより、ニューロン編集生物製剤は、標的脳領域内での脳活動を正常化することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンタルヘルス状態を有する患者を治療する方法であって、
ある用量のニューロン編集生物製剤を前記患者に鼻腔内投与することと;
前記患者の標的脳領域を活性化するために脳領域活性因子を投与することと、
血行動態を利用して、前記活性化された標的脳領域内の活性ニューロンに、前記ニューロン編集生物製剤を輸送することであって、前記ニューロン編集生物製剤は、前記標的脳領域内での脳活動を正常化する、前記輸送することと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記ニューロン編集生物製剤を使用して、前記活性ニューロンを編集することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脳領域活性因子を使用して、前記標的脳領域内で神経活動を集中させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
脳活動を休止させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
脳活動を休止させることは、デフォルトモードネットワークを除く脳領域を非活性化するよう脳活動を最小にするために、前記患者を、気が散ることのない安静状態に置くことを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ニューロン編集生物製剤の種類を選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記標的脳領域を活性化または非活性化するために、適切な脳領域コネクトームを選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記メンタルヘルス状態を改善するために、治療の対象である前記標的脳領域を選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記標的脳領域として治療の対象である前記メンタルヘルス状態によって影響を受ける脳領域を特定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記脳領域活性因子を較正することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
患者の認知能力を改善する方法であって、
ある用量のニューロン編集生物製剤を前記患者に鼻腔内投与することと;
前記患者の標的脳領域を活性化するために脳領域活性因子を投与することと、
血行動態を利用して、前記活性化された標的脳領域内の活性ニューロンに、前記ニューロン編集生物製剤を輸送することであって、前記ニューロン編集生物製剤は、前記標的脳領域内での脳活動を正常化する、前記輸送することと、を含む、前記方法。
【請求項12】
前記ニューロン編集生物製剤を使用して、前記活性ニューロンを編集することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記脳領域活性因子を使用して、前記標的脳領域内で神経活動を集中させることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
脳活動を休止させることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
脳活動を休止させることは、デフォルトモードネットワークを除くすべての脳領域を非活性化するよう脳活動を最小にするために、前記患者を、気が散ることのない安静状態に置くことを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ニューロン編集生物製剤の種類を選択することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記標的脳領域を活性化するために、適切な脳領域活性因子を選択することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記患者の認知目標を達成するために、治療の対象である前記標的脳領域を選択することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記選択された脳領域に関する前記ニューロン編集生物製剤の前記用量を計算することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記脳領域コネクトームを較正することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
これは、2021年11月24日に出願の米国仮特許出願第63/283,150号の優先権及び利益を主張する国際特許出願であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、鼻腔内投与されたニューロン編集薬物を使用して、メンタルヘルス及び/または性能を改善するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
鼻通路は、局所的、全身的及び中枢神経系(CNS)の作用のための活性生物医薬品有効成分の非侵襲的投与経路となり得る。鼻上皮は密封バリアとして機能するように見えるが、鼻粘膜の細胞間接合部複合体の密封は、多くの場合上皮組織の漏れにより低くなり得る。さらに、粘膜及び粘膜固有層の広範囲の血管新生により、分子治療法を送達するための最適な吸収表面が生じる。鼻腔から三叉神経及び嗅覚経路を通って分子が直接吸収されることは、脳への直接的な入口となり、結果として、CNS作用生物製剤のための有益な薬物動態及び薬力学プロファイルをもたらし得る。この投与経路は、血液脳関門を迂回して脳実質に到達するための極めて強力かつ有効なCNS標的生物製剤を投与するための有望な新規経路である。しかしながら、RNAまたはDNAを介したCNS作用生物製剤の非標的型操作は、脳全体に影響を与え、望ましくない副作用を引き起こす可能性があり、及び/または望ましい効果を取り消す可能性がある。例えば、従来の形態のCRISPRでは、ニューロンを身体内の他の種類の細胞と区別することができるが、脳内の様々な領域間を区別することはできない。
【0004】
結果として、脳の特定の領域を標的とするCNS作用生物製剤を送達する改善された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本開示の1つの態様は、メンタルヘルス状態を有する患者を治療する方法を含む。本方法は、ある用量のニューロン編集生物製剤を患者に鼻腔内投与することを含む。このような方法は、治療を目的として、標的脳領域を活性化するために脳領域活性因子を投与することを含んでもよい。これらの方法は、さらに、血行動態を使用して、ニューロン編集生物製剤を、標的脳領域内の活性ニューロンに輸送することを含む。次いで、ニューロン編集生物製剤は、標的脳領域内の脳活動を正常化することができる。
【0006】
本開示の別の態様は、患者の認知能力を改善する方法に関する。こうした方法は、ある用量のニューロン編集生物製剤を患者に鼻腔内投与することを含む。これらの方法はまた、脳領域活性因子を投与して、標的脳領域を活性化させることを含む。本方法は、さらに、血行動態を使用して、ニューロン編集生物製剤を、標的脳領域内の活性ニューロンに輸送することを含む。次いで、ニューロン編集生物製剤は、標的脳領域内の脳活動を改善する及び/または向上させることができる。
【0007】
以上は、以下の詳細な説明をより良好に理解できるよう、本開示の実施例のいくつかの特徴及び技術的利点をより広く概述したものである。さらなる特徴及び利点については、後述する。本明細書に開示された概念及び特定の実施例は、本開示と同じまたは類似の目的を実施するための他の方法、構造体及び/またはシステムを修正または設計するための基礎として容易に利用され得る。そのような同等の構造は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することはない。本明細書に開示される概念の特徴であると考えられる機能は、それらの構成及び動作方法の両方に関して、関連する利点と共に、添付の図面と併せて考慮すると、以下の説明からよりよく理解されるであろう。図はそれぞれ、図示及び説明のためにのみ示されており、特許請求の範囲の限定を定義するものではない。
【0008】
実施形態の性質及び利点のさらなる理解は、以下の図面を参照することによって実現され得る。添付の図面において、同様の構成要素または機能は、同じ参照符号を有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の原理による様々なニューロン編集生物製剤を列記している図である。
【
図2】本開示の原理による様々な脳領域活性因子を列記している図である。
【
図3A】本開示に従って、ニューロン編集生物製剤を鼻腔内送達する例示的な方法を示す。
【
図3B】本開示に従って、ニューロン編集生物製剤を鼻腔内送達する例示的な方法を示す。
【
図4A】本開示に従って、ニューロン編集生物製剤を鼻腔内送達する例示的な方法を示す。
【
図4B】本開示に従って、ニューロン編集生物製剤を鼻腔内送達する例示的な方法を示す。
【
図5】本開示による鼻腔内投与を容易にするための、ニューロン編集生物製剤の構造及び送達形態へのその製造(AAVまたは他のベクターへの挿入を介する)を示す。
【
図6】以下の本開示の実施例1の実験設定の一部として使用される例示的な透明ポリカーボネートケージを示す。
【
図7】本開示による実施例1の結果の棒グラフを示す。
【
図8】本開示に従って実施例1として記録された実験で使用されたマウスの脳の一部の染色を示す図である。
【
図9】A、B、C、及びDは、本開示による実施例1のマウスの脳の一部の染色を示す図である。
【
図10】A、B、及びCは、本開示による実施例1で使用したマウスの脳の一部の染色を示す図である。
【
図11】A、B、及びCは、本開示による実施例1で使用したマウスの脳の一部の染色を示す図である。
【
図12】本開示に従って鼻腔内送達を容易にするためにニューロン編集生物製剤の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に説明する実施形態は、多様な修正及び代替の形態が可能であるが、特定の実施形態が図面中に例として示され、本明細書で詳細に説明される。しかしながら、本明細書に説明する例示的な実施形態は、開示される特定の形態に限定されることを意図するものではない。むしろ、本開示は、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての修正、均等物、及び代替物を包含する。
【0011】
詳細な説明
この説明は、例を提供するものであり、本発明の範囲、適用可能性または構成を限定することを意図するものではない。むしろ、以下の説明は、本発明の実施形態を実現可能にする説明を当業者に提供するであろう。構成要素の機能及び配置には、様々な変更を加えることができる。
【0012】
したがって種々の実施形態によれば、必要に応じて種々の手順または構成要素を省略、代用または追加することができる。例えば、これらの方法は、記載されている順序とは異なる順序で実施されてもよく、様々なステップが追加、省略または組み合わされてもよいことが理解されるべきである。また、特定の実施形態に関して説明されている態様及び構成要素を、種々の他の実施形態において組み合わせることもできる。以下のシステム、方法、及びデバイスは、個別にまたは集合的により大きいシステムの構成部品となり得、他の手順がそれらの適用よりも優先されるか、さもなければそれらの適用を変更し得ることも理解されたい。
【0013】
本明細書における例示的な実施形態の詳細な説明は、例示として例示的な実施形態を示す添付の図面を参照する。これらの例示的な実施形態は、当業者が本開示を実施できるように十分に詳細に説明されているが、他の実施形態が実現されてもよく、本開示及び本明細書の教示に従って、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、設計及び構築における論理的な変更及び適応が行われてもよいことが理解されるべきである。したがって、本明細書における詳細な説明の提示は、説明することのみを目的とするものであって、限定することを目的にするものではない。
【0014】
本明細書で使用される場合、ニューロン編集生物製剤は、ニューロンのDNAまたはRNAを修飾し得る、生物医薬品であり、場合によってはタンパク質ベースまたはペプチドベースの生物医薬品である。
図1には、後述するニューロン編集生物製剤の8つの例を示す。列挙されているように、これらとしては、遺伝子ノックアウト生物製剤、遺伝子サイレンシング生物製剤、及び/または遺伝子ノックイン生物製剤が挙げられ得る。
【0015】
遺伝子ノックアウト生物製剤は、合成ガイドRNAと複合体化された触媒活性遺伝子編集エンドヌクレアーゼ(複数可)を含んでもよい。遺伝子サイレンシング生物製剤は、合成ガイドRNAと複合体化された触媒不活性遺伝子編集エンドヌクレアーゼ(複数可)を含んでもよい。遺伝子ノックイン生物製剤は、遺伝子発現阻害ヌクレオチドと合成ガイドRNAと複合体化された遺伝子編集エンドヌクレアーゼ(複数可)を含んでもよい。
【0016】
本明細書で使用される場合、転写操作生物製剤は、RNAノックアウト、RNAサイレンシング、RNAノックイン、RNA翻訳干渉、及びマイクロRNA生合成抑制化合物/システムを含むことができる。RNAノックアウト化合物は、RNAヌクレオチドを改変して遺伝子翻訳を抑制するために、シングルガイドRNAと複合体化された触媒活性RNA編集リボヌクレアーゼを含んでいてもよい。RNAサイレンシング化合物は、遺伝子翻訳を抑制するまたは向上させるために、RNAヌクレオチドと結合するシングルガイドRNAと複合体化された触媒不活性RNA編集リボヌクレアーゼを含んでもよい。RNAノックイン生物製剤には、シングルガイドRNA及びデアミナーゼ酵素と複合体化されて、翻訳干渉をもたらすRNA核酸塩基置換を引き起こす触媒不活性RNA編集リボヌクレアーゼが含まれ得る。RNA翻訳干渉化合物は、RNA発現阻害ヌクレオチドと複合体化されたRNA編集リボヌクレアーゼ、及び翻訳干渉を引き起こすようにRNAヌクレオチドを改変するためのシングルガイドRNAを含み得る。マイクロRNA生合成抑制化合物は、遺伝子の翻訳において使用されるマイクロRNAの生合成プロセシング部位においてヌクレオチドを改変して、その発現を減少させるために、シングルガイドRNAと複合体化された触媒活性リボヌクレアーゼを含み得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、脳領域活性因子は、患者の脳内のニューロン活動を、脳の特定の標的領域に焦点を合わせ、集中させるための方法及び技術を含む。
図2には、以下で説明する脳領域活性因子の6つの例を列記している。当業者に既知である他のものであってもよい。
【0018】
本明細書で使用される経頭蓋パルス超音波は、脳内の高ニューロン活動を刺激するために低出力の低周波超音波を使用する技術である。任意の脳領域に向けることができ、数立方ミリメートル程度の小領域に正確に焦束させ得る。
【0019】
本明細書で使用される経頭蓋磁気刺激は、脳表面付近の小さい標的領域に電流の流れを誘導するために浅い磁場を利用する神経刺激の形態である。
【0020】
本明細書で使用される場合、知覚的隔離とは、対象/患者の感覚から刺激を意図的に除去することである。知覚的隔離法の例としては、睡眠マスク、ホワイトノイズ、防音、及び/またはフローティングタンクが挙げられる。
【0021】
本明細書で使用される場合、ニューロフィードバックは、脳波を測定して信号を生成するバイオフィードバックの一種であり、脳機能の自己調節を教示するためのフィードバックとして使用することができる。患者は、脳活動を変化させて特定のタスクについての性能を高め、次いで、信号を変化させて、脳の特定の領域への脳血流を増加させるように、訓練することができる。
【0022】
本明細書で使用される場合、仮想現実は、聴覚及び視覚フィードバックなどのシミュレートされた環境において生じる、没入型の、対話型の、コンピュータ生成による体験であってよい。
【0023】
本明細書で使用される場合、精神療法は、認知療法及び他の治療形態など、個体の健康、行動及びメンタルヘルスを改善するための、数百の異なる方法及び技術のうちのいずれか1つ以上の使用を包含する幅広い分野である。
【0024】
次に
図3A、
図3B、
図4A及び
図4Bを参照すると、薬物を鼻腔内送達させる方法100のフローチャートが示されている。具体的には、この図は、ストレス、不安、うつ病、PTSD及びADDなどの一般的なメンタルヘルス問題、ならびにパーソナリティ障害を治療するために、脳の縁部領域におけるニューロンの電気力学的興奮性を変える遺伝子療法を鼻腔内送達するための方法100について記載する。より具体的には、本明細書に記載のとおり、方法100では、患者の脳の領域の活性化が可能になり、その結果、鼻腔内送達される薬物は、特定のメンタルヘルス状態を治療するために、脳の特定の活性化領域を標的とすることができる。
【0025】
ストレス、不安、うつ病、及び注意欠陥などの一般的なメンタルヘルスの問題はすべて、辺縁系の特定の領域内の過活動ニューロンと実験的に相関している。これらの領域のニューロン活性レベルは、ニューロンの構造を変化させてその電気的興奮性を低下させる遺伝子療法によって正常化することができる。従来の形態のCRISPRでは、ニューロンを身体内の他の種類の細胞と区別することができるが、脳内の様々な領域間を区別することはできない。図示した方法100では、特定の神経学的治療または認知向上の目標を達成するために、脳の標的領域及びコネクトームにニューロン編集生物製剤を送達することが可能になる。
【0026】
CRISPR分子を特定の種類の細胞に誘導することは、ベクタリングとして知られている。現在のCRISPRベクタリング技術は、ニューロンを標的とすることができるが、脳内の個々の領域にナビゲーションの特異性を提供することはできない。しかしながら、本明細書では、CRISPR生物製剤などの生物製剤が、血行動態の原理により、グルコース及び酸素と共に患者の血流中で、脳内の特定の活動領域に誘導され得ることが実証される。
【0027】
グルコース及び酸素は、ニューロン活動を高める燃料である。ニューロンがより活性になるほど、ニューロンは、グルコース及び酸素を早く燃焼させる。他の種類の細胞とは異なり、ニューロンは、グルコースを貯蔵できないため、消費されるとすぐに供給の補充が行われる必要がある。血行動態として知られている循環器系の原理により、確実に、グルコース及び酸素の生体栄養素が活性ニューロンに迅速に送達される。
【0028】
血行動態原理を使用して、CRISPRを、発火している活性ニューロンに誘導できる。患者の神経活動を標的脳領域に集中させるために、選択的脳領域活性化プロセスを用いることによって、受動的血行動態技術を使用して、CRISPRニューロン編集生物製剤を含む脳血流をこの領域に引き込むことができる。患者の神経活動を標的脳領域に集中させるために、選択的脳領域活性化プロセスを用いることによって、本方法100では、受動的血行動態を使用して、CRISPRニューロン編集生物製剤を含む脳血流をこの領域に引き込むことができる。さらに、異なる細胞型に固有の受容体に結合し、それにより遺伝子または転写編集カーゴをそれらに送達することができる標的ペプチドナノ粒子を含むリガンドベクターを使用することができる。
【0029】
認知神経科学専門家は、異なる用途及び目的に供するために、複数の脳領域活性化プロセスを使用することができる。方法100には、認知神経科学専門家が、特定のメンタルヘルス状態を治療するために、脳の特定の領域を標的とした様々な用途を展開できるようにするためのフレームワーク及びプラットフォームの概要を記載している。
【0030】
一般的に、方法100は、一般的に、(1)問題を決定し、目標を確立するために患者/対象の評価を行うステップ、(2)治療の対象である脳領域を識別するステップ、(3)患者の前治療/認知療法を行うステップ、(4)患者への選択された生物製剤を処方及び投与するステップ、及び(5)治療後のセラピー/認知療法を行うステップを含む。
【0031】
特定の実施形態では、方法100では、スワブまたは鼻用吸入器を介して嗅上皮にニューロン編集生物製剤を鼻腔内送達することが可能になる。嗅球経路は、生物製剤を直接辺縁葉に輸送し、かつニューロン編集生物製剤は、以下に限定されるものではないが、注意欠陥、ストレス、不安、及びうつ病などのメンタルヘルス状態を治療するために辺縁系を標的とする。いくつかの例では、方法100は、注意欠陥(腹側後帯状皮質(PCC)、ストレス(扁桃体、海馬)、不安(扁桃体)、及びうつ病(扁桃体、海馬)の原因となる辺縁系の過活動または低活動ニューロンを減衰するために使用することができる。
【0032】
方法100の利点は次のとおりである:(1)生物製剤の送達を目的の領域に制限して、投与要件を最小限にし、脳の他の領域に影響を与えないこと、(2)鼻腔内送達により、消化酵素または免疫系の応答に曝露するであろう移行を回避することにより、生物製剤の損傷を回避すること、(3)海馬及び扁桃体の過活動または低活動を軽減することであって、これによって、記憶力も向上し、認知症の進行を止めて寿命を延長し得る、軽減することと、(4)DNA編集が1回であることに加え、一部の用途では、DNA編集を複数回繰り返す必要がある場合があること。例えば、DNA編集を複数回繰り返すことには、編集が複数のより少ない用量に分割される層状のDNA編集、または時間の経過と共に繰り返される一時的なRNA編集が含まれ得る。アデノ随伴ウイルスベクターは、ニューロンの編集に使用されてきたが、1回使用した後は、身体は、アデノ随伴ウイルスベクターに対する免疫応答を発症し、さらなる使用を妨げる。しかしながら、ウイルスベクターを複数回繰り返し使用することは、鼻腔内送達により実現可能である。これは、免疫系の応答を活性化することなく、遺伝子編集ペイロードを脳内に直接輸送するためである。
【0033】
いったん辺縁葉内に入ると、方法100は、ニューロン編集生物製剤を患者の脳の標的領域に誘導する3つのさらなる方法を含む。第1に、能動的に誘導される血行動態ベクタリングにより、患者の脳の特定の領域に生物製剤を輸送することができ、これらの領域は、脳領域活性因子によってエネルギーが付与される。第2に、受動的な血行動態ベクタリングにより、生物製剤が患者の脳の最も活性の高いニューロンに自然に輸送されることになる。最後に、編集生物製剤をニューロン細胞型に誘導するように設計された標的化ペプチドナノ粒子を含むリガンドベクターを使用して、患者の脳の特定の脳領域にそれらを誘導してもよい。血行動態及びリガンドのベクタリングは、相補的な治療法である。リガンドベクターは、神経画像評価によって同定された脳波活動が不均衡である特定の局所解剖学的領域を静的に処理するように予めプログラムしてもよい。例えば、精神療法、仮想現実、及び/または知覚イベントによって刺激し、ならびに脳の特定の領域を静的に標的化することにより、血行動態ベクターは、リアルタイムの全身性電気生理活性の不均衡な状態で動的に治療することができる。しかしながら、リガンドベクターは、それぞれの受容体タイプに固有のタンパク質を感知することにより、目的の受容体タイプを有するニューロンにのみ生物製剤を輸送することができ、リガンドベクターで処理できるニューロンのタイプが制限されている。方法100では、生物製剤の鼻腔内送達前に、生物製剤によりニューロンを活性化することによって、任意の種類のニューロンを編集することが可能になり、これにより、生物製剤が、リガンドのベクタリングによって編集できない種類のニューロンを編集できるようになる。
【0034】
したがって、方法100には、ニューロンの電気力学を変更するためにニューロンの構造を遺伝的に改変することによって、個々の状態(例えば、注意欠陥、ストレス、不安、うつ病)に作用する特定の目的の神経学的状態緩和装置を含むことができる。方法100では、(1)能動的に誘導させる血行動態ベクタリング、(2)受動的な血行動態ベクタリング、及び/または(3)リガンドベクターと組み合わせて、辺縁系へのニューロン編集生物製剤の鼻腔内送達により状態を緩和する。
【0035】
方法100は、参照により本明細書に組み込まれる同時係属中の米国特許出願第16/272,138号に記載のとおり、治療300ステップ及び向上400ステップのいずれか一方または両方を含み得る。治療300は一般に、特定のメンタルヘルス状態を治療することを含み、向上400は一般に、汎用認知を向上させることを含む。治療300及び向上400は、医療専門家によって決定されるように一緒にまたは別々に使用されてもよい。方法100、治療300、及び向上400は、様々な神経学的病態を治療するために使用されてもよい。具体的には、治療ステップ300及び向上ステップ400を含む方法100を、多種多様なメンタルヘルス状態を治療するために使用することができる。いくつかの具体的な例では、方法100、治療300及び/または向上400のステップは、注意欠陥障害(ADD)及び注意欠陥多動性障害(ADHD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫性障害(OCD)、ストレス障害、不安症、うつ病、睡眠状態、記憶状態、パーソナリティ障害、統合失調症、脳震症及び/または頭部損傷、トゥーレット症候群、精神身体症、耳鳴、意識的認識問題、注意欠陥、マインドワンダリング、渇望、精神的集中問題、集中力問題、マインドフルネス問題、瞑想問題、及び直感問題を治療するために使用され得る。
【0036】
治療ステップ300は、医療専門家がADD/ADHD、PTSD、OCD、ストレス障害、不安、うつ病、睡眠状態、記憶状態、脳震症及び/または頭部損傷、トゥーレット症候群、精神身体症及び/または耳鳴などの精神疾患を治療することが可能になる治療ステップ301~317を含むことができる。しかしながら、治療300を開始し得る前に、医療専門家は、治療前のセラピーを患者に準備する。治療前のセラピーの間、医療専門家は、認知行動療法、マインドフルネスに基づくストレス軽減、神経言語プログラミング、瞑想、及び/または可視化などの心理的カウンセリング技術を利用することにより、変化に対する肯定的な信頼を促進する期待を設定することができる。
【0037】
治療段階300は、ステップ301:治療の対象である状態を判断するための専門的な評価を含むことができる。ステップ301の間、医療専門家は、治療の対象である特定の神経学的問題、状態及び/または障害を特定するために患者の評価を行ってもよい。医療専門家は、ヒトであってもよいし、場合によっては、AIコンピュータプログラムであってもよい。
【0038】
治療段階300は、ステップ302:治療の対象である特定された神経学的問題、状態及び/または障害によって影響を受けた脳領域を特定することを含むこともできる。神経学的状態及び障害により、脳内の複数の領域において低活性化または過活性化が引き起こされる場合がある。医療専門家は、限定されないが、fMRI、PETまたはSPECTの脳スキャンなどの神経画像検査を命令して、患者の脳内の、過活性化または低活性化され得る領域(複数可)を正確に示すことができる。脳スキャンは、治療の対象である状態に応じて、1つ以上の領域において異常な活性を示す場合がある。12の一般的な神経学的状態によって典型的には影響を受ける脳領域を、以下の表1に示す。
【0039】
治療段階300は、ステップ303:状態を改善するために、治療の対象である脳領域を選択することをさらに含んでもよい。医療専門家は、神経画像検査で明らかなように、各領域の過活性化または低活性化の程度に応じて、治療の優先順位を定めることができ、場合によっては、最も過活性化されているか低活性化されている領域から開始する。
【0040】
治療段階300は、さらに、ステップ304:標的脳領域を活性化するための適切な脳領域活性因子を選択することを含んでもよい。脳領域活性因子は、選択された脳領域を遺伝子療法で標的にすることができるように、選択された治療の対象である脳領域を活性化する。具体的には、脳領域活性因子は、遺伝子療法が選択された脳領域に吸収されるように、脳の特定の領域を活性化するように選択される。表1には、少なくとも12の神経治療用途のうちのいずれか1つ以上に好適であり得る脳領域活性因子の6つの例を示す。当業者であれば、他の脳領域活性化方法を考案し、採用することができる。示されている活性因子の例は、経頭蓋パルス超音波(TPU)、経頭蓋磁気刺激(TMS)、ニューロフィードバック、知覚的隔離、仮想現実(VR)、及び精神療法である。
【0041】
簡潔に上述したように、TPUは、患者の脳を刺激するための低強度低周波超音波(LILFU)の使用を含むことができ、TPUは、数平方ミリメートルまでの精度で脳のほぼすべての領域に焦束させることができるため、様々な用途において有効であり得る。さらに、TPUは、場合によっては、脳の血液脳関門の透過性を上昇させることもあり、これにより、血流中のニューロン編集生物製剤をより有効に、標的脳領域に輸送することが可能になる。TPUはまた、非常に正確な送達標的を提供するために、限定するものではないが脂質ナノ粒子などの熱感受性CRISPRベクターなどの他のツール及び技術と組み合わせて使用することもできる。
【0042】
また、上で簡潔に論じたように、TMSは、非侵襲的形態の脳刺激を含むことができ、これは、電磁誘導によって脳の特定の領域に電流を生じさせるために変化する磁場が使用され、うつ病の治療での使用が奏効している。しかしながら、TMSの有効範囲は、脳表面近くの皮質中のニューロンまでが最大で、皮質の深部になるほど、効果は徐々に小さくなる。ニューロフィードバックは、オペラント条件付けを介して健康な脳機能を強化するために、脳活動からのリアルタイムフィードバックを患者/対象に提示する一種のバイオフィードバックの使用を伴う技術であり、幅広い用途に有効であることが示されている。適切な技術を使用すれば、ニューロフィードバックを使用して、対象の脳内のほぼすべての領域を選択的に活性化することができる。
【0043】
上記で定義したように、知覚的隔離は、対象者の1つ以上の感覚からの刺激を意図的に低減または除去することを含み、デフォルトモードネットワーク(DMN)(後帯状皮質、内側前頭皮質、角回)を扱う用途で使用されて、脳の他の領域内の神経活動を休止し、神経活動をDMNに集中させることができる。
【0044】
VRは、現実世界と類似しているかまたは完全に異なる可能性のある経験を、全体的または部分的にシミュレートすることを含むことができる。いくつかの例では、VRは、嫌悪記憶を処理する用途に使用されている。VRシミュレーションは、記憶を強力に再活性化するために使用することができ、また本発明の方法を使用して、遺伝子療法または転写療法を用いて、再活性化された望ましくない記憶に関連するニューロン活動を減衰させることができる。
【0045】
精神療法には、心理学的方法、特に定期的な個人的な対話をベースにした場合の心理学的方法の使用を含み得、それによって人が行動を変える、幸福を増大させる、及び/または問題を克服することを助け、嫌悪記憶、ストレス、不安、及び/またはうつ病を治療する用途において有効性を有することができる。上記で論じたように、望ましくない記憶または状態を再活性化することによって、精神療法を本開示の方法と共に使用して、関連するニューロン活動を減衰させるために、遺伝子療法または転写療法を誘導することができる。
【0046】
治療段階300は、ステップ305:編集の種類を選択することを含むこともできる。本明細書で提供される方法によれば、医療専門家は、特定された状態を治療するために編集の種類を選択することができる。例えば、医療専門家は、少なくとも転写編集及び遺伝子編集のうちの1つを選択することができる。転写編集は、試験目的のために、可逆的な一時的な結果を生じさせるために使用され得る。遺伝子編集は、患者が永続的な治療を受ける準備ができている場合に選択される。
【0047】
治療段階300は、ステップ306:ニューロン編集生物製剤を選択することをさらに含んでもよい。いくつかの例では、治療のために選択された脳領域は、過活動的または低活動的であり得る。その領域が低活動的である場合、医療専門家は、その領域での活動を増大させるために、ニューロンの興奮性を高めるニューロン編集生物製剤を選択することができる。その領域が過活動的である場合、医療専門家は、本領域内のニューロン回路を低下させるために、ニューロンの興奮性を低下させるニューロン編集生物製剤を選択することができる。いくつかの方法では、ニューロンの興奮性は、その受容体集団を減少させることによって低下させることができる。受容体集団を減少させるための1つの方法は、遺伝子HTR2Aまたはその転写もしくは翻訳経路を編集して、HTR2Aの発現を低下させ、したがって、セロトニン2A受容体の集団を減少させることであり、これは、参照により本明細書に組み込まれる同時係属の米国特許出願第15/970,037号に記載されているとおりである。リガンドベクタリングを用いる場合には、医療専門家は、編集される脳領域を標的とするリガンドベクターを有するニューロン編集生物製剤を選択する。
【0048】
治療段階300は、ステップ307:選択された脳領域に関するニューロン編集生物製剤の投与量を計算することを含むこともできる。このステップにおいて、医療専門家は、複数の要因、例えば、限定されないが、患者の年齢、体重、性別及び/または身体的状態、治療の対象である状態、及び/または標的となる患者の脳の領域などに基づいて、適切な用量を計算してもよい。投与量式の一例は、同時係属中の米国特許出願第15/970,037号に含まれており、参照により本明細書に組み込まれる。方法においてリガンドベクタリングを使用する場合には、治療段階ステップ308及び309を省略してもよく、医療提供者は、代わりに、以下に記載するステップ310に進んでもよい。
【0049】
治療段階300は、さらに、ステップ308:脳領域活性因子を較正することを含むことができる。医療専門家は、治療を標的とした個々の患者の脳領域に対処するために、上記で論じたステップ304で選択された脳領域活性因子方法を較正する。例えば、経頭蓋パルス超音波または経頭蓋磁気刺激のために、医療専門家は、装置の焦点を患者の脳内の標的領域上に合わせる。ニューロフィードバックのために、医療専門家は、患者の標的脳領域に具体的に対処するように設計されたニューロフィードバックプログラムを選択する。知覚的隔離のために、医療専門家は、使用する刺激低減方法を選択することができる。仮想現実のために、医療専門家は、患者の問題に関連する特定の記憶または感情を喚起するように設計されたVRシミュレーションを選択することができる。精神療法の場合、医療専門家は、患者の望ましくない記憶または状態を喚起するように設計されたセッションプロトコルを選択することができる。
【0050】
治療段階300は、ステップ309:脳活動を休止させることも含んでもよい。このステップにおいて、脳活動を最小にして、デフォルトモードネットワークを除くすべての脳領域での活動を最小にし、及び/または非活動化するために、患者を気が散ることのない安静状態に置くことができる。
【0051】
治療段階300は、さらに、ステップ310:計算された用量のニューロン編集生物製剤を対象に投与することを含むことができる。このステップにおいて、ニューロン編集生物製剤は、スワブまたは鼻用吸入器を介して患者に鼻腔内投与され得る。
【0052】
リガンドベクターが使用されている場合、ステップ311~313を省略することができ、代わりに医療提供者は、以下に記載するステップ314に進むことができる。
【0053】
治療段階300は、ステップ311:選択された脳領域活性因子を投与して、標的脳領域(複数可)を活性化することも含んでもよい。このステップでは、医療専門家は、上で詳細に論じたステップ304において、患者に対して選択された脳領域活性因子法を施す。
【0054】
治療段階300は、さらに、ステップ312:脳領域活性因子を使用して、標的脳領域に神経活動を集中させるステップを含んでもよい。脳領域活性因子は、治療を受ける患者/対象の標的脳領域(複数可)中にニューロン活動を集中させるために医療提供者によって使用される。
【0055】
治療段階300は、ステップ313:血行動態を使用してニューロン編集生物製剤を標的脳領域内の活性ニューロンに輸送することを含んでもよい。上述のように、血行動態の原理によって、グルコース、酸素、及びニューロン編集生物製剤を含む脳血流が、患者の脳の標的領域にある活性ニューロンに輸送される。
【0056】
治療段階300は、ステップ314:ニューロン編集生物製剤を使用して、活性ニューロンを編集することをさらに含んでもよい。ここでは、ニューロン編集生物製剤を使用して、患者の脳の標的領域にあるニューロンをトランスフェクトし、ニューロンのDNAまたはRNAを編集して、前のステップで医療専門家によって決定されたように、その領域での活動を正常化することができる。
【0057】
治療段階300は、ステップ315:状態の症状を軽減することも含み得る。正規化された脳領域の活動は、患者の神経状態の症状を緩和する。
【0058】
治療段階300は、ステップ316:必要に応じてステップ302~315を繰り返すことをさらに含んでもよい。治療のために複数の脳領域が示されている場合、医療専門家は、次の優先領域に対処するために、上記で論じたステップ302に戻ることができる。この時点で実施される脳スキャンは、治療されたばかりの領域における正常化された可能性のある脳活動を検証/評価するために使用することができる。
【0059】
治療段階300は、ステップ317:治療後のセラピーを実施することも含んでもよい。治療後のセラピーは、支えとなる行動因子及びエピジェネティック因子を助長することにより遺伝子療法の効果を強化するよう、適切な精神的習慣及び生活習慣を対象に染み込ませるために使用することができる。治療後のセラピーでは、心理的カウンセリングプロトコル、例えば認知行動療法、マインドフルネスに基づくストレス軽減、神経言語プログラミング、瞑想、可視化及び/または他の技法を用いることができる。
【0060】
表1には、一般的な神経学的状態の12例を治療する際の治療300の実際の用途を示す:
【表1】
【0061】
本開示の方法を適用する際に、医療従事者は、治療される神経状態及び/または精神状態の特徴に留意し、以下の表1に提供された12例に関して論じられるように、特定の治療段階300の方法論を考案するべきである:
【0062】
第1に、注意欠陥障害(ADD)及び注意欠陥多動性障害(ADHD)は、ADDまたはADHDのサブタイプに応じて、扁桃体、腹内側前頭前皮質及び/または海馬の活性化の変化を伴う場合がある。これらの領域での活動は、ニューロンの興奮性を変化させるように設計されたニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波またはニューロフィードバック脳領域活性化技術と組み合わせて投与することにより補正することができ、この技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して扁桃体、腹内側前頭前皮質及び/または海馬に誘導される。
【0063】
ADD及びADHDはまた、背側注意ネットワーク及びデフォルトモードネットワークの過活性化を含み得る。これらの領域での活動は、ニューロンの興奮性を変化させるように設計されたニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波、ニューロフィードバック及び/または知覚的隔離脳領域活性化技術と組み合わせて投与することにより低下させることができ、これらの技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して背側注意及び/またはデフォルトモードネットワークに誘導される。
【0064】
いくつかの対象では、外傷後ストレス障害(PTSD)は、扁桃体及び/または海馬の過活性化を含み得る。これらの領域は、受動的血行動態ベクタリングを介して生物製剤を扁桃体及び/または海馬に誘導するために選択された経頭蓋パルス超音波、ニューロフィードバック、仮想現実、または精神療法の脳領域活性化技術と組み合わせて、ニューロンの興奮性を変化させるためのニューロン編集生物製剤を投与することにより補正することができる。
【0065】
PTSDはまた、腹内側前頭前皮質の活性化の変化を特徴とし得る。この領域での活動は、経頭蓋パルス超音波、ニューロフィードバック、仮想現実及び/または精神療法の脳領域活性化技術と組み合わせて、ニューロンの興奮性を変化させるためのニューロン編集生物製剤によって補正することができ、これらの技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して腹内側前頭前皮質に誘導される。
【0066】
強迫性障害(OCD)患者の神経画像検査により、背側前帯状皮質、眼窩回及び尾状核における過活動が明らかになった。これらの領域での活動は、ニューロンの興奮性を低下させるためのニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波またはニューロフィードバック脳領域活性化技術と共に投与することにより正常化することができ、これらの技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して背側前帯状皮質、眼窩回及び/または尾状核に誘導される。
【0067】
ストレス障害を有する個体は、扁桃体及び視床下部で過活動を呈する。これらの領域は、経頭蓋パルス超音波、ニューロフィードバックまたは精神療法の脳領域活性化技術と合わせて、ニューロンの興奮性を変化させるためのニューロン編集生物製剤を投与することによりバランスを取ることができ、これらの技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して扁桃体及び/または視床下部に誘導される。
【0068】
不安を経験している個体は、扁桃体において過活動を呈し、これは、ニューロンの興奮性を変化させるためのニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波、ニューロフィードバックまたは精神療法の脳領域活性化技術と合わせて、投与することにより正常化され得、これらの技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して扁桃体に誘導される。
【0069】
うつ病は、後帯状皮質及び前頭前皮質の活性化が破壊されていることを伴う。これらの領域での活動は、経頭蓋パルス超音波、経頭蓋磁気刺激、ニューロフィードバック、及び/または知覚的隔離脳領域活性化技術と組み合わせて、ニューロンの興奮性を正常化するように設計されたニューロン編集生物製剤を投与することにより補正することができ、これらの技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して、後帯状皮質及び/または前頭前皮質に誘導される。
【0070】
うつ病は、扁桃体、海馬及び前帯状皮質の活性化の変化にも関連する。これらの領域での活動は、ニューロンの興奮性を変更させるように設計されたニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波またはニューロフィードバック脳領域活性化技術と組み合わせて投与することにより正常化することができ、この技術により、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して扁桃体、海馬、及び/または前帯状皮質に誘導される。
【0071】
不眠症及び他の睡眠問題は、前頭前皮質及び頭頂皮質、楔前部、前帯状回、内側側頭、視床及び視床下部覚醒中心の活性化の変化、ならびにデフォルトモードネットワークを含み得る。これらの領域での活動は、経頭蓋パルス超音波、ニューロフィードバック及び/または知覚的隔離脳領域活性化技術と組み合わせて、ニューロンの興奮性を補正するためのニューロン編集生物製剤を投与することによって正常化することができ、これらの技術では、生物製剤が、血行動態ベクタリングを介して、前頭前皮質及び頭頂皮質、楔前部、前帯状回、内側側頭、視床及び視床下部覚醒中心、及び/またはデフォルトモードネットワークに誘導される。
【0072】
記憶の問題を有する個人の神経画像検査により、海馬及び扁桃体における正常以下の活動が明らかになる。これらの領域は、ニューロンの興奮性を変化させるためのニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波またはニューロフィードバック脳領域活性化技術と組み合わせて投与することにより正常化することができ、この技術により、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して、海馬及び/または扁桃体に誘導される。
【0073】
頭部損傷は、前頭葉及び側頭葉のニューロン活動を病理学的に変化させる場合がある。この領域での活性の補正は、経頭蓋パルス超音波またはニューロフィードバック脳領域活性化技術と共に、ニューロンの興奮性を高めるためのニューロン編集生物製剤を投与することにより促進することができ、これらの技術では、生物製剤が、血行動態ベクタリングを介して、前頭葉及び/または側頭葉に誘導される。
【0074】
トゥーレット症候群の個体の研究では、基底核に異常な活動が示されている。その活性は、血行動態ベクタリングを介して生物製剤を基底核に誘導する経頭蓋パルス超音波脳領域活性化技術と共に、ニューロンの興奮性を高めるためのニューロン編集生物製剤を投与することによって正常化することができる。
【0075】
精神身体症は、扁桃体及び海馬の過活性化を伴う場合がある。これらの領域は、ニューロンの興奮性を変更させるためのニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波、ニューロフィードバック、または精神療法脳領域活性化技術と組み合わせて投与することにより正常化することができ、この技術により、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して、扁桃体及び/または海馬に誘導される。
【0076】
精神身体症も、腹内側前頭前皮質の活性化の変化を引き起こす可能性がある。この領域での活動は、経頭蓋パルス超音波、ニューロフィードバック、または精神療法の脳領域活性化技術と組み合わせて、ニューロンの興奮性を正常化するためのニューロン編集生物製剤によって補正することができ、これらの技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介して腹内側前頭前皮質に誘導される。
【0077】
耳鳴/耳鳴りの持続は、過活性化された聴覚接続によって引き起こされる。その活動は、血行動態ベクタリングを介して生物製剤を聴覚皮質に誘導する経頭蓋パルス超音波脳領域活性化技術と共に、ニューロンの興奮性を減少させるためのニューロン編集生物製剤を投与することによって減少させることができる。
【0078】
本明細書に開示される方法100の向上段階400は、向上ステップ401~417を含んでもよく、これらのステップでは、医療専門家は、限定されないが、意識的認識問題、注意欠陥、マインドワンダリング、渇望、精神的集中問題、集中力問題、マインドフルネス問題、瞑想問題、及び/または直感問題などの領域を含む、対象者の認知を向上させることが可能になる。向上段階400が開始される前の典型的な初期ステップとして、医療専門家は治療前治療を患者に準備する。この治療前のセラピーの間、医療専門家は、認知行動療法、マインドフルネスに基づくストレス軽減、神経言語プログラミング、瞑想、及び/または可視化などの心理的カウンセリング技術を利用することにより、変化に対する肯定的な信頼を促進する期待を設定することができる。
【0079】
向上段階400は、ステップ401:認知向上に対する患者の適合性を検証するための専門的な心理学的評価を含んでもよい。汎用的な遺伝的認知向上は、一般的に健全な精神的及び感情的な健康状態の成人に適している。その結果として、ステップ401の間、医療専門家は、例えば、アルコールまたは物質乱用、双極性障害、うつ病、統合失調症または他の心理状態もしくは障害を有する個人など、この基準を満たさない候補を選別するために、患者の心理学的評価を行うことができる。この評価によって、候補者が、脳の通常の自然の機能を妨げる可能性のある薬物、医薬品または物質、例えば、特定の処方薬、アルコール、カフェイン、ニコチン、大麻、非栄養薬、ヤクヨウニンジンまたは他の類似の物質もしくはハーブ調製物をいずれも現在服用していないことも確認される。場合によっては、このステップを実施する医療専門家は、人間またはAIコンピュータプログラムであり得る。
【0080】
向上段階400は、ステップ402:患者の認知目標を決定するための心理学的評価を実施することも含み得る。医療専門家は、患者の認知向上の目標を確認するために心理学的評価を行うことができる。この評価は、患者が望む認知向上の種類及び認知改善が恒久的であるか一時的であるかなど、いくつかの問題を網羅することができる。
【0081】
向上段階400は、ステップ403:以前に識別された認知目標を達成するために、治療の対象である脳領域を選択することをさらに含むことができる。13の特定の認知向上用途に使用するための標的脳領域を表2に示す。患者の目標を達成するために、これらの領域のニューロン性能を最適化するために、遺伝子工学または転写工学を使用することができる。用途に応じて、最適化は、ニューロン活動の増大または低下を伴い得る。リガンドベクターを使用している場合は、ステップ404を省略することができ、代わりに医療専門家は、以下に記載のステップ405に進むことができる。
【0082】
向上段階400は、さらに、ステップ404:標的脳領域を活性化するための適切な脳領域活性因子を選択することを含んでもよい。脳領域活性因子は、選択された脳領域を遺伝子療法が標的にすることができるように、選択された治療の対象である脳領域を活性化する。具体的には、脳領域活性因子は、遺伝子療法が選択された脳領域に誘導し、吸収されるように、脳の特定の領域を活性化するように特に選択される。表2は、13の例示的な認知機能向上用途に適した脳領域活性因子の6つの例を示す。当業者であれば、本明細書で提供される教示に基づいて、他の脳領域活性化方法を考案することができる。示されている活性因子の例は、上記のステップ304に記載されたものと同じである。
【0083】
向上段階400は、ステップ405:編集の種類を選択することを含むこともできる。医療専門家は、特定された状態を治療するために編集の種類を選択してよい。例えば、医療専門家は、少なくとも転写編集及び遺伝子編集のうちの1つを選択することができる。転写編集は、試験目的などで患者において一時的な可逆的結果を生じさせるために使用されてよく、これにより、患者及び/または医療提供者は、一時的に向上の効果を評価することができる。遺伝子編集は、患者が永続的な治療を受ける準備ができている場合に選択され得る。
【0084】
向上段階400は、ステップ406:ニューロン編集生物製剤を選択することをさらに含んでもよい。向上するために選択される脳領域は、過活動的または低活動的であってもよい。その領域が低活動的である場合、医療専門家は、その領域での活動を正常化させるために、ニューロンの興奮性を高めるまたは低下させるニューロン編集生物製剤を選択することができる。その領域が過活動的である場合、医療専門家は、本領域を正常化するために、ニューロンの興奮性を低下させるニューロン編集生物製剤を選択することができる。例えば、ニューロンの興奮性は、その受容体集団を減少させることによって低下させることができ、これにより、その電気抵抗が上昇する。受容体集団を減少させる1つの方法は、遺伝子HTR2Aまたはその転写もしくは翻訳経路を編集して、HTR2Aの発現を低下させ、したがって、セロトニン2A受容体の集団を減少させることであり、これは、参照により本明細書に組み込まれる同時係属の米国特許出願第15/970,037号に記載されているとおりである。リガンドベクタリングを用いる場合には、医療専門家は、編集される脳領域を標的とするリガンドベクターを有するニューロン編集生物製剤を選択してもよい。
【0085】
向上段階400は、ステップ407:選択された脳領域に関するニューロン編集生物製剤の用量を計算することを含むこともできる。医療専門家は、複数の要因、例えば、限定されないが、患者の年齢、体重、性別及び/または身体的状態、治療の対象である状態、及び/または標的となる患者の脳の領域などに基づいて、ニューロン編集生物製剤の適切な用量を計算する。投与量式の一例は、同時係属中の米国特許出願第15/970,037号に含まれており、参照により本明細書に組み込まれる。リガンドベクタリングを使用する場合は、ステップ408及び409をスキップして、以下で説明するステップ410に進む。
【0086】
向上段階400は、ステップ408:脳領域システム特有のコネクトームを較正することをさらに含み得る。医療専門家は、患者の標的脳領域に対処するために、ステップ404で選択された脳領域方法を較正する。経頭蓋パルス超音波または経頭蓋磁気刺激のために、医療専門家は、装置の焦点を患者の脳内の標的領域上に合わせ得る。ニューロフィードバックでは、医療専門家は、患者の標的脳領域に対処するように設計されたニューロフィードバックプログラムを選択する。知覚的隔離では、医療専門家は、使用する刺激低減方法を選択する。仮想現実では、医療専門家は、患者の問題に関連する特定の記憶または感情を喚起するように設計されたVRシミュレーションを選択する。精神療法の場合、医療専門家は、患者の望ましくない記憶または状態を喚起するセッションプロトコルを選択する。
【0087】
向上段階400は、ステップ409:脳活動を休止させることも含んでもよい。患者のデフォルトモードネットワークを除くすべての脳領域を非活性化するよう脳活動を最小に抑えるために、患者を気が散ることのない安静状態に置くことができる。
【0088】
向上段階400は、ステップ410:計算された用量のニューロン編集生物製剤を投与することをさらに含んでもよい。ここでは、ニューロン編集生物製剤は、スワブまたは鼻用吸入器を介して患者に鼻腔内投与される。このステップでリガンドベクターを使用する場合は、医療従事者は、ステップ411~413をスキップして、代わりに以下で説明するステップ414に進んでもよい。
【0089】
向上段階400は、ステップ411:脳領域活性因子を投与して、標的脳領域を活性化することも含んでもよい。医療専門家は、ステップ404において、患者に対して選択された脳領域脳領域活性因子法を施す。
【0090】
向上段階400は、さらに、ステップ412:脳領域コネクトーム法を使用して、標的脳領域に神経活動を集中させるステップを含んでもよい。脳領域コネクトーム解析では、上述のとおり、標的脳領域(複数可)にニューロン活動を集中させる。
【0091】
向上段階400は、ステップ413:血行動態を使用してニューロン編集生物製剤を標的脳領域内の活性ニューロンに輸送することを含んでもよい。グルコース、酸素、及びニューロン編集生物製剤を含む脳血流は、患者の脳の標的領域内の活性ニューロンに輸送され、これにより、選択された生物製剤を対象の脳の適切な領域に投与することが容易になる。
【0092】
向上段階400は、ステップ414:ニューロン編集生物製剤を使用して、活性ニューロンを編集することをさらに含んでもよい。ニューロン編集生物製剤は、患者の脳の標的領域内にあるニューロンを形質転換し、そのニューロンのDNAまたはRNAを編集して、その領域における活性を向上させる。
【0093】
向上段階400は、ステップ415:患者の認知能力を向上させることを含むこともできる。最適化された脳領域活動は、所望により患者の認知能力を拡大するように動作し得る。
【0094】
向上段階400は、ステップ416:必要に応じてステップ402~415を繰り返すことをさらに含んでもよい。治療のために複数の脳領域が示されている場合、医療専門家は、次の優先領域に対処するために、ステップ402に戻る。この時点で実施される脳スキャンでは、治療したばかりの領域において最適化された脳活動を検証する。
【0095】
向上段階400は、ステップ417:治療後のセラピーを実施することも含んでもよい。治療後のセラピーは、支えとなる行動因子及びエピジェネティック因子を助長することにより対象への遺伝子療法の効果を強化するよう、適切な精神的習慣及び生活習慣を教示する/染み込ませるために使用することができる。このセラピーでは、心理的カウンセリングプロトコル、例えば認知行動療法、マインドフルネスに基づくストレス軽減、神経言語プログラミング、瞑想、可視化及び他の技法を用いることができる。
【0096】
表2は、一般的な認知機能向上の13例を治療する際の向上400の実際の適用を示す:
【表2】
【0097】
表2には、認知向上を得るためのいくつかの例示的な実際の用途を列記する。このような目的1~9のいくつかとしては、汎用の認知向上:意識的認識の向上、注意欠陥の減少、渇望の低下、精神的集中の強化、集中力の向上、及び瞑想の改善が挙げられる。これらの認知の向上1~9は、ニューロンの興奮性を低下させるためのニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波及び/または知覚的隔離脳領域活性化技術と共に投与することによって達成され得、これらの技術では、生物製剤を、血行動態ベクタリングを介して、腹側後帯状皮質(PCC)に誘導させる。PCC活性の低下は、注意、意識的認識、思考の鋭さ、明瞭さ、集中、集中力、及びマインドフルネスの上昇、ならびにマインドワンダリング、注意欠陥、及び渇望の低下と、実験的には相関している。
【0098】
表2に列記した認知向上10に関して、研究では、超感覚的知覚(ESP)を実証することができる個人が示された。ESP能力の上昇を望む患者は、血行動態ベクタリングを介して生物製剤を特定の脳領域に誘導する経頭蓋パルス超音波脳領域活性化技術と共にニューロンの興奮性の向上のためにニューロン編集生物製剤を投与することから恩恵を得ることができる。未公開のパイロット実験で見られるNBの「尾状部」領域は、実際には、内部のカプセル/線条ブリッジ領域である
【0099】
表2に列記した認知向上11に関して、精神療法セッションプロトコルは、姿勢、感情、信念、期待及び記憶など、患者の望ましくない行動の根底にある原因を刺激するように設計することができる。この精神活動により、患者の脳内の対応する領域で脳波及び神経活動が生じるであろう。ニューロンの興奮性を低減するために投与されたニューロン編集生物製剤は、次いで血行動態ベクタリングを介して、これらの活動領域に輸送され得る。
【0100】
表2に列記した認知向上12に関して、精神療法セッションプロトコル及び没入型多感覚VRプログラムは、患者が望ましい行動(姿勢、感情、信念、期待、及び仮定など)を可視化し、経験するのを助けるように設計することができる。この精神活動により、患者の脳内の対応する領域で、神経活動が生じる。ニューロンの興奮性を変化させるために投与されたニューロン編集生物製剤は、次いで血行動態ベクタリングを介して、これらの活動領域に輸送され得る。
【0101】
表2に列記した認知の向上13に関して、軽度認知障害(MCI)は、脳の多くの異なる領域に影響を及ぼし得る。これは、認知向上プロトコルを施して、その効果を相殺することによって間接的に治療することができる。このプロトコルは、後帯状皮質(PCC)におけるニューロンの興奮性を低下させるためのニューロン編集生物製剤を、経頭蓋パルス超音波法または知覚的隔離技術と組み合わせて、投与することを含み、この技術では、生物製剤は、血行動態ベクタリングを介してPCCに誘導される。
【0102】
実施例1:マウスにおけるAAV1及びAAV2での5週間の処置後のCrispr/Cas9及び5HT-2A受容体の局在性を調べる免疫標識実験
本開示の方法を、以下の実験及び以下で詳細に説明する添付のプロトコルに開示のとおりに試験した。
【0103】
具体的には、ビー玉埋め試験は、新規環境に置かれたマウスによって埋められたビー玉の数を記録するために用いられる。マウスは、ケージ内に個々に入れられ、ケージ内に存在するガラスビー玉を埋める。この試験は、抗うつ薬及び/または抗不安薬についてのある程度の予測値を有する。ベンゾジアゼピン類に感受性があることが示され、それは、これらの化合物が、ビヒクルにより治療した対照マウスと比較した場合、自発運動の変化を誘導することなく、埋める行動を減少させるからである。
【0104】
以下の表3に示すとおり、不安を軽減するためのCRISPR試薬を保持するAAV(血清型AAV9)を、試験の5週間前に、2つの別個の治療を行いながら、20μLの単回投与(10μl/鼻孔)として投与した。ビヒクル(対照)動物は、各治療において、20μLの生理食塩水を受けた。試験動物は、15のCD-1マウスの2つの群(約20~30g)であった。したがって、各試験マウスは、合計1.9×10
11個のウイルス粒子を受けた。加えて、ビヒクル動物は、各治療において、20μLの生理食塩水を受けた。
【表3】
【0105】
(
図12に示す)AAVベクターは、後援者によって提供され、鼻腔内投与された。試験物質用ビヒクルは、生理食塩水であった。試験製剤は、次のように提供した:1.2.5×10
13GC/MLで100μL AAV9-GFPを5回、及び2.1.9×10
13GC/MLで100μL AAV9-Mecp2-spCas9を5回。試験製剤を次のように調製した:1.AAV9-GFPを1.9×10
13GC/MLで希釈して、両方のAAVを同じ濃度にする、及び2.1.9×10
13GC/MLのAAV9-GFP 100μLと1.9×10
13GC/MLのAAV9-Mecp2-spCas9 100μLを混合し、200μLの生理食塩水を加える。この溶液では、各AAVは、4.75×10
-12GC/mLである。
図5に示すとおり、ニューロン編集生物製剤は、AAVウイルス(AVV1またはAVV2)に挿入されるプラスミドであり、2種類のベクター、すなわちCas9 mRNA及びsgRNA GFP RNAを含み得る。
【0106】
この試験では、新規環境に入れられたマウスが埋めたビー玉の数を記録する。
図6に示すとおり、装置は、透明なポリカーボネートケージ600(30cm×18cm×19cm)を含み、このポリカーボネートケージは、5cmの微細な鋸屑床敷層と、ケージの壁に沿って等間隔で置かれた20個のガラスビー玉602(直径:1.5cm)とを含む。
【0107】
処置後4週目にビー玉埋め試験を1回実施した。試験の実施時に、各動物を、餌または水を与えずにケージに個々に入れ、20分間の試験セッションの間そのままにした。試験セッション終了時、動物をケージから取り出し、鋸屑中に埋められたビー玉の数を実験実施者が記録した。
【0108】
試験直後、各群の3匹のマウスを5%のイソフルラン酸素混合物で麻酔し、断頭によって殺滅した。次いで、脳を抽出し、直ちに4%ホルマリン溶液に48時間保存し、続いてPBS緩衝中に1%ホルマリンの入ったバイアルに移した。
【0109】
結果を、
図7:埋められたビー玉の数を示す棒グラフに示す。
図7に示すとおり、対照群は、平均して約17個のビー玉を埋め、CRISPR/Cas9群は、平均して約15~16個のビー玉を埋め、処置したマウスは、不安が少なかったことを示した。統計分析のために、片側スチューデントt検定を使用して、実験群間のペアワイズ差分を評価した。
【0110】
さらに、
図8~
図11Cに示すとおり、AAV CRISPR試薬は、マウスの脳の特定の領域を標的にするように見えた。
図8~
図11Cでは、以下のマーカー:(1)レポーター遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)及び(2)CY3-赤色蛍光が使用された。GFPに関して、DNA配列は、ガイドRNA鎖と一緒に、AAV2ベクターの一部であった。緑色の標識はいずれも、ガイドRNA配列の細胞内での伝達を示す。5HT2A受容体に対する証明された特異的抗体を使用して、CY3赤色蛍光を得た。
【0111】
図8~
図11Cに示すとおり、一般的なパターンのGFP染色は、嗅球、皮質及び皮質下領域内の染色を含み、海馬では染色が大幅に少なかった。嗅球ニューロン細胞体において強いGFP染色が存在し、5HT-2A標識は、頂部樹状突起でより明白であった。対照的に、ビヒクル処置動物では、GFP標識が最小であった。以下の表4に示すとおり、処置したマウスは、ビヒクル処置したマウスよりもGFPの染色が著しく多かった。
【表4】
【0112】
その結果は、Crispr/Cas9が、嗅球、皮質、視床下部のほか他の皮質下領域などの脳にニューロン編集生物製剤を送達できることを示しており、海馬への送達は減少している。さらに、グリア染色が検出されなかったために、GFP標識は、ニューロンに特異的であると思われる。GFP発現は、細胞体に委ね、先端樹状突起ではほとんど染色が検出されないように見えるが、これは予想されたとおりである。強い5HT-2A受容体染色が頂端樹状突起で発生し、より弱い標識が細胞体内で発生し、これは、5HT-2A受容体の潜在的なノックアウト及び対応する代謝回転と一致する。
【0113】
説明のための上記記述は、具体的な実施形態を参照して説明されている。しかしながら、上記の例示的な説明は、網羅的であることを意図するものではなく、また、本発明を、開示されている正確な形態に限定することを意図するものでもない。上述の教示に照らして多くの変更形態及び変形形態が考えられる。実施形態は、本システム及び方法の原理及びそれらの実際の応用を最もよく説明するために選択され、及び説明され、これにより、他の当業者は、本発明のシステム及び方法、ならびに企図される特定の用途に適し得る様々な修正を加えた様々な実施形態を最大限に活用できるようになる。
【0114】
特に記載のない限り、明細書及び特許請求の範囲で使用される「a」または「an」という用語は、「のうちの少なくとも1つ」を意味すると解釈されるべきである。さらに、使いやすさのため、本明細書及び特許請求の範囲で使用される「含む(including)」及び「有する(having)」という語は、「含む(comprising)」という語と交換可能であり、同じ意味を有する。さらに、本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合の「に基づく」との用語は、「に少なくとも基づく」と解釈されるべきである。
【図】
【国際調査報告】