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特表2024-544761後期段に有機リンを有する多段衝撃改質剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-04
(54)【発明の名称】後期段に有機リンを有する多段衝撃改質剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/02 20060101AFI20241127BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241127BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C08F279/02
C08L101/00
C08L51/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531093
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 US2022052070
(87)【国際公開番号】W WO2023107524
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】63/287,157
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ルオ、プ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルス、モリス
(72)【発明者】
【氏名】ロアバッハ、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ケッセルマイヤー、マーク エイ.
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002AA002
4J002BN141
4J002BN161
4J002CF002
4J002CF062
4J002CF072
4J026AA18
4J026AA45
4J026AA46
4J026AA68
4J026AA69
4J026AC10
4J026AC31
4J026AC32
4J026BA00
4J026BA05
4J026BA07
4J026BA27
4J026BA30
4J026BA38
4J026BA41
4J026BB04
4J026DA04
4J026DA07
4J026DA15
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB15
4J026EA04
4J026FA07
4J026GA01
4J026GA02
(57)【要約】
(a)初期段ポリマーと、(b)後期段ポリマーと、を含む、多段ポリマー組成物が提供され、後期段ポリマーは、少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー、スチレンモノマー、及び少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含む。少なくとも1つの有機リンモノマーは、リン酸基の塩として酸の形態にある。後期段ポリマー中の少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー対スチレンモノマーの重量比は、50:50~90:10の範囲である。そのようなポリマー組成物と、マトリックス樹脂と、を含む、マトリックス樹脂組成物、及び多段ポリマー組成物を作製するための方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段ポリマー組成物であって、
(a)初期段ポリマーと、
(b)後期段ポリマーであって、前記後期段ポリマーが、少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー、スチレンモノマー、及び少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含み、前記少なくとも1つの有機リンモノマーが、酸の形態にあるか、又はリン酸基の塩としてあり、前記後期段ポリマー中の前記少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー対スチレンモノマーの重量比が、5:95~95:5の範囲である、後期段ポリマーと、を含む、多段ポリマー組成物。
【請求項2】
前記後期段ポリマー中の前記少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー対スチレンモノマーの重量比が、10:90~90:10の範囲である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記有機リンモノマーが、式CH=C(R)-C(O)-O-(R’O)-P(O)(OH)の化合物であり、式中、R=H又は-CHであり、R’=アルキルであり、n=1~5である、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
Rが、-CHであり、R’が、1~6個の炭素原子を含むアルキル基である、請求項3に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記有機リンモノマーが、前記後期段ポリマーの総重量に対して、0.5~20重量%の範囲の量で、前記後期段ポリマー中に存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記有機リンモノマーが、前記後期段ポリマーの総重量に対して、2~10重量%の範囲の量で、前記後期段ポリマー中に存在する、請求項5に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマーが、メチルメタクリレートを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記初期段ポリマーが、ブタジエンから誘導された重合単位を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記初期段ポリマーが、少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含み、前記初期段ポリマー中の前記少なくとも1つの有機リンモノマーが、前記後期段ポリマー中の前記少なくとも1つの有機リンモノマーと同じ又は異なる、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記初期段ポリマーが、前記多段ポリマーの総重量に基づいて、10~98重量%の量で存在し、前記後期段ポリマーが、前記多段ポリマーの総重量に基づいて、2~50重量%の量で存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
1つ以上のマトリックス樹脂と、請求項1~10のいずれか一項に記載の多段ポリマー組成物と、を混合することを含む、マトリックス樹脂組成物。
【請求項12】
初期段ポリマーの存在下で後期段ポリマーを乳化重合することを含む、多段ポリマー組成物を調製するためのプロセスであって、前記後期段ポリマーを乳化重合することが、少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー、スチレンモノマー、及び少なくとも1つの有機リンモノマーを含む反応混合物を少なくとも4のpHで重合することを含み、前記少なくとも1つの有機リンモノマーが、酸の形態にあるか、又はリン酸基の塩としてある、プロセス。
【請求項13】
前記有機リンモノマーが、式CH=C(R)-C(O)-O-(R’O)-P(O)(OH)の化合物であり、式中、R=H又は-CHであり、R’=アルキルであり、n=1~5である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
Rが、-CHであり、R’が、1~6個の炭素原子を含むアルキル基である、請求項13に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、衝撃改質剤として有用な多段ポリマー組成物に関する。この組成物は、後期段ポリマー中に重合有機リンモノマーを含有する。
【背景技術】
【0002】
製品の製造では、製造の容易さ並びに軽量化、すなわち、製品の重量の低減を達成することが概して所望される。これらの目的の両方は、金属又はセラミックの使用と相対的に、プラスチックの使用を通して達成される。一方、製造された物品は、低燃焼性から無燃焼性を有することが、概して所望され、これは、金属又はセラミックの使用によって提供され、概して、プラスチックの使用によっては提供されない。
【0003】
最近、改善された(すなわち、より低い)レベルの燃焼性を有するプラスチック配合物が開発されている。概して、これらの配合物は、防滴性添加剤に加えて、高レベルの難燃性添加剤を含有する。これらの配合物は、UL(Underwriter Laboratories)によって指定された特定の基準を達成することができ、電気物品並びに自動車のボンネット下で使用するための物品の製造におけるそれらの使用を可能にする。
【0004】
これらのプラスチック配合物は、概して、実質的な衝撃強度の使用における要件を有する。しかしながら、より低い燃焼性を達成するために使用される添加剤は、典型的には、成形製品の衝撃強度を低下させる。これらの配合物にコアシェルポリマー衝撃改質剤を添加して、必要なレベルの衝撃強度を達成することが非常に一般的である。しかしながら、これらのコアシェル衝撃改質剤を作製するために使用されるポリマーは、非常に燃焼性であり、配合物中で利用される量に直接相関して配合物の燃焼性を増加させる。それゆえ、衝撃強度と燃焼性との適切なバランスを達成するプラスチック配合の分野における問題が存在する。
【0005】
米国特許第5,219,907号は、シェルの一部としてホスフェートモノマーを含有するコアシェルエマルジョンポリマーの使用を開示しており、コアシェルポリマーは、ポリカーボネート配合物中で使用することができる。ホスフェートモノマーは、ホスフェート基上にハロゲンを含まないC-Cアルキル又はハロゲンを含まない非置換若しくは置換C-C20アリール置換基を必要とする。衝撃改質剤は、ポリカーボネート配合物中5~40%で用いられなければならない。
【0006】
欧州特許第0663410号は、改善された燃焼性を提供するためにシェル中に位置する高濃度のリンモノマーの使用を開示する。リンモノマーは、ホスフェート基上にアルキル又はアリール置換基を必要とする。リンモノマーは、最終ポリマーの総重量に基づいて、15~25重量%の範囲の量で存在する。
【0007】
米国特許第6,710,161号は、ホスホエチルメタクリレート(phosphoethyl methacrylate、PEM)を用いて調製されたアクリルポリマーを開示している。しかしながら、PEMをアクリルポリマーと共重合させるためには2未満のpHが必要である。より高いpHでは、PEMは中和された形態であり、これは水溶性が高すぎて、血清相中でホモポリPEMとして終わり、これがラテックスの凝固又は凝集をもたらし得ることが示唆される。
【0008】
米国特許第9,346,970号は、従来の乳化重合においてPEMを用いて調製される酢酸ビニルポリマー及びブチルアクリレートとのコポリマーを開示している。酢酸ビニルは、低pHで急速に加水分解し、米国特許第6,710,161号で必要とされる条件に従って重合され得ない。酢酸ビニルは、血清中にホモポリPEMを産生することなく、5~7の範囲のpHで骨格ポリマーに首尾よく組み込まれた。酢酸ビニルの独特な挙動は、その高い水溶性、並びにブチルアクリレート及びPEMとの非常に異なるビニルコポリマー反応性比に起因すると考えられる。
【0009】
したがって、先行技術の欠点、すなわち、アルキル若しくはアリール置換ホスフェートモノマーの使用、又は高度に酸性の条件の使用に悩まされない新しいプロセス及び衝撃改質剤ポリマー組成物を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一態様は、(a)初期段ポリマーと、(b)後期段ポリマーと、を含む、多段ポリマー組成物を提供する。後期段ポリマーは、少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー、スチレンモノマー、及び少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含む。少なくとも1つの有機リンモノマーは、酸の形態にあるか、又はリン酸基の塩としてある。
【0011】
別の態様では、本発明は、(A)(i)初期段ポリマーと、(ii)後期段ポリマーと、を含む、多段ポリマー組成物と、(B)1つ以上のマトリックス樹脂と、を含む、マトリックス樹脂組成物を提供する。後期段ポリマーは、少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー、スチレンモノマー、及び少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含む。少なくとも1つの有機リンモノマーは、酸の形態にあるか、又はリン酸基の塩としてある。
【0012】
更に別の態様では、本発明は、初期段ポリマーの存在下で後期段ポリマーを乳化重合することを含む多段ポリマー組成物を調製するためのプロセスを提供し、後期段ポリマーを乳化重合することは、少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー、スチレンモノマー、及び少なくとも1つの有機リンモノマーを含む反応混合物を少なくとも4のpHで重合することを含み、少なくとも1つの有機リンモノマーは、酸の形態にあるか、又はリン酸基の塩としてある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、酸の形態の又はリン酸基の塩としての有機リンモノマーが、以前に可能であると考えられていたよりも高いpHで多段ポリマーの後期段に組み込まれ得ることを見出した。そのようなモノマーを組み込むためには高酸性条件が必要であると従来から理解されているため、この結果は驚くべきことである。本発明者によって、本発明の多段ポリマー組成物が、より高いpH条件で改善された安定性を有することが観察された。有機リンモノマーの組み込みは、著しく改善された燃焼性を提供することが予想される。
【0014】
本明細書で使用される場合、「ポリマー」という用語は、同じ種類又は異なる種類にかかわらず、モノマーを重合することによって調製されたポリマー化合物を指す。「ポリマー」という一般的な用語は、「ホモポリマー」、「コポリマー」、「ターポリマー」、及び「樹脂」という用語を含む。本明細書で使用される場合、「から誘導された重合単位」という用語は、生成物ポリマーが、重合反応の出発物質である構成モノマー「から誘導された重合単位」を含有する、重合技術に従って合成されるポリマー分子を指す。本明細書で使用される場合、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート又はメタクリレート又はこれらの組み合わせのいずれかを指し、「(メタ)アクリル」という用語は、アクリル又はメタクリル又はそれらの組み合わせのいずれかを指す。本明細書で使用される場合、「置換された」という用語は、少なくとも1つの付着した化学基、例えば、アルキル基、アルケニル基、ビニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、他の官能基、及びそれらの組み合わせを有することを指す。
【0015】
本明細書で使用される場合、「有機リン」という用語は、リンを含有する有機化合物を指す。本明細書で使用される場合、「ホスフェート」という用語は、リン原子及び酸素原子から構成されるアニオンを指す。オルトホスフェート(PO -3)、ポリホスフェート(P3n+1 -(n+2)、式中、nは、2以上である)、及びメタホスフェート(式P3m -mを有し、式中、mは、2以上である、環状アニオン)が含まれる。本明細書で使用される場合、「アルカリホスフェート」は、アルカリ金属カチオンとホスフェートアニオンとの塩を指す。アルカリホスフェートは、アルカリ金属オルトホスフェート、アルカリ金属ポリホスフェート、及びアルカリ金属メタホスフェートを含む。また、アルカリホスフェートは、例えば、リン酸二水素一ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウムなどの、例えば、オルトホスフェート酸の部分中和塩を含むホスフェート酸の部分中和塩を含む。
【0016】
本明細書で使用される場合、「多段ポリマー」という用語は、複数のポリマーを工程的又は段階的に形成(すなわち、重合)することによって作製されるポリマーを指す。多段ポリマーは、2つ以上の段を含み得る。例えば、多段ポリマーは、第1の段と、第1の段上に形成された第2の段と、を含む、2つの段を含み得る。代替的に、多段ポリマーは、第1の段、1つ以上の中間段、次いで最終段を含み得、最終段は、多段ポリマーの最外層を形成する。「第1の段ポリマー」又は「初期段ポリマー」と呼ばれる第1のポリマーは、多段ポリマーのコアを形成し得る。次いで、初期段ポリマーの存在下で、多段ポリマーの中間段又は最終段であり得る「後期段」と呼ばれる追加のポリマーが、初期段ポリマー上に形成される。多段ポリマーは、後期段ポリマーの前又は後に形成され得る追加の段を含み得る。各中間段は、その中間段の直前の段の重合から生じるポリマーの存在下で形成される。各後続段が前段から残存する粒子の各々の周りに部分的又は完全なシェルを形成する、そのような実施形態では、結果として生じる多段ポリマーは、「コア/シェル」ポリマーとして既知であり、初期段ポリマーは、コアを含み、各後続段は、最終段が最外シェルを形成する状態で先行段上にシェルを含む。それゆえ、後期段ポリマーは、コア/シェル多段ポリマー中のシェルの少なくとも一部を構成する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「重量平均分子量」又は「M」という用語は、ASTM D5296-11(2011)に従い、かつ移動相及び希釈液としてテトラヒドロフラン(「tetrahydrofuran、THF」)を使用して、較正標準ポリスチレンに対するアクリル酸ポリマーについて、ゲル浸透クロマトグラフィ(「gel permeation chromatography、GPC」)で測定したポリマーの重量平均分子量を指す。本明細書で使用される場合、「ポリマーの重量」という用語は、ポリマーの乾燥重量を意味する。
【0018】
本明細書で使用される場合、「ガラス転移温度」又は「T」という用語は、ガラス質ポリマーが、ポリマー鎖のセグメント運動を受ける温度又はそれを上回る温度を指す。コポリマーのガラス転移温度は、Fox方程式(Bulletin of the American Physical Society、1(3)123ページ(1956))によって次のように推定することができる:
1/T=w/Tg(1)+w/Tg(2)
コポリマーについては、w及びwは、2つのコモノマーの重量分率を指し、Tg(1)及びTg(2)は、モノマーから作製された2つの対応するホモポリマーのガラス転移温度を指す。3つ以上のモノマーを含有するポリマーについて、追加の用語が加えられる(w/Tg(n))。ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、J.Brandrup及びE.H.によって編集された「Polymer Handbook」Immergutによって編集された「Polymer Handbook」(Interscience Publishers)において見出され得る。ポリマーのTはまた、例えば、示差走査熱量測定(「differential scanning calorimetry、DSC」)を含む様々な技術によっても測定することができる。本明細書で使用される場合、「計算されたT」という句は、Fox方程式によって計算されるようなガラス転移温度を意味するものとする。多段ポリマーのTが測定されるとき、2つ以上のTが観察され得る。多段ポリマーのある段で観察されるTは、その段を形成するポリマーの特徴であるT(すなわち、その段を形成するポリマーが他の段とは別に形成及び測定される場合に観測されるT)と同じであり得る。モノマーがあるTを有すると言われるとき、そのモノマーから作製されたホモポリマーが、そのTを有することを意味する。
【0019】
20℃で水に溶解することができる化合物の量が水100ml当たり5g以上の化合物である場合、その化合物は、本明細書において「水溶性」とみなされる。20℃で水に溶解することができる化合物の量が水100ml当たり0.5g以下の化合物である場合、その化合物は、本明細書において「水不溶性」とみなされる。20℃で水に溶解することができる化合物の量が水100ml当たり0.5g~5gである場合、その化合物は、本明細書において「部分的に水溶性」とみなされる。
【0020】
本明細書で使用される場合、「ポリマー組成物が特定の物質をほとんど又は全く含まない」と記述されるとき、ポリマー組成物は、その物質を全く含まないこと、又はその物質のいずれかが本組成物中に存在する場合、その物質の量は、ポリマー組成物の重量を基準にして、1重量%以下である。本明細書に特定の物質を「ほとんど又は全く」有しないと説明されている実施形態の中で、その特定の物質のいずれも存在しない実施形態が想定される。
【0021】
本発明の多段ポリマーは、少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含有する後期段ポリマーを含有する。本明細書で使用される場合、「有機リンモノマー」という用語は、リン含有モノマーを指す。有機リンモノマーは、酸の形態にあるか、又はリン酸基の塩としてあり得る。有機リンモノマーの例は、以下のものを含み、
【0022】
【化1】

式中、Rは、アクリルオキシ、メタクリルオキシ、又はビニル基を含有する有機基であり、R’及びR’’は、独立して、H及び第2の有機基から選択される。第2の有機基は、飽和又は不飽和であり得る。好適な有機リンモノマーは、二水素ホスフェート官能性モノマー、例えば、アルコールの二水素ホスフェートエステルを含み、そのアルコールはまた、重合性ビニル又はオレフィン基、例えば、アリルホスフェート、ビス(ヒドロキシ-メチル)フマレート又はイタコネートのモノホスフェート又はジホスフェート、(メタ)アクリル酸エステルの誘導体、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどを含むヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのホスフェートも含有する。
【0023】
他の好適な有機リンモノマーは、CH=C(R)-C(O)-O-(R’O)-P(O)(OH)(式中、R=H又は-CH、R’=アルキル、及びn=1~5)、例えば、Solvayから入手可能なメタクリレートSIPOMER(商標)PAM-100、SIPOMER(商標)PAM-200、SIPOMER(商標)PAM-400、SIPOMER(商標)PAM-600及びアクリレート、SIPOMER(商標)PAM-300などを含む。
【0024】
他の好適な有機リンモノマーは、国際公開第99/25780(A1)号に開示されるホスホネート官能性モノマーであり、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンホスホン酸、α-ホスホノスチレン、2-メチルアクリルアミド-2-メチルプロパンホスホン酸を含む。更なる好適な有機リンモノマーは、米国特許第4,733,005号に開示される、1,2-エチレン性不飽和(ヒドロキシ)ホスフィニルアルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、(ヒドロキシ)ホスフィニルメチルメタクリレートを含む。
【0025】
好ましくは、有機リンモノマーは、式CH=C(R)-C(O)-O-(R’O)-P(O)(OH)の少なくとも1つの化合物を含む。より好ましくは、Rは、-CHであり、R’は、1~6個の炭素原子を含むアルキル基であり、n=1である。
【0026】
後期段ポリマーは、後期段ポリマーの総重量に基づいて、0.25重量%以上、又は0.5重量%以上の量で、少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含有し得る。後期段ポリマーは、後期段ポリマーの総重量に基づいて、20重量%以下、15重量%以下、又は10重量%以下の量で、少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含有し得る。好ましくは、後期段ポリマーは、後期段ポリマーの総重量に基づいて、0.5~20重量%の範囲の量で、少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含有する。より好ましくは、後期段は、後期段ポリマーの総重量に基づいて、2~10重量%の範囲の量で、少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含有する。
【0027】
後期段ポリマーは、1つ以上の置換又は非置換スチレン及び1つ以上の置換又は非置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーから誘導された重合単位を更に含む。
【0028】
少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー中の好適なアルキル基としては、直鎖又は分枝鎖C~C12アルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、及びオクチル基が挙げられる。好ましくは、アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、メチルメタクリレートを含む。
【0029】
好適な置換スチレンは、例えば、アルファ-アルキルスチレン(例えば、アルファ-メチルスチレン)を含む。
【0030】
好ましくは、後期段ポリマー中の少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレート対スチレンの重量比は、5:95~95:5の範囲である。例えば、後期段ポリマー中の少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレート対スチレンの重量比は、少なくとも10:90、少なくとも20:80、少なくとも30:70、少なくとも40:60、又は少なくとも50:50であり得、後期段ポリマー中の少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレート対スチレンの重量比は、最大90:10、最大80:20、又は最大70:30であり得る。
【0031】
後期段ポリマーは、50℃以上、又は90℃以上のTを有し得る。後期段ポリマーは、200℃以下、又は150℃以下のTを有し得る。
【0032】
多段ポリマーは、多段ポリマーの総重量に基づいて、例えば、2重量%以上、又は10重量%以上、又は20重量%以上の量で後期段ポリマーを含有し得る。多段ポリマーは、多段ポリマーの総重量に基づいて、例えば、50重量%以下、又は25重量%以下、又は10重量%以下の量で後期段ポリマーを含有し得る。
【0033】
好ましくは、後期段ポリマーは、後期段ポリマーの総重量に基づいて、50重量%以上、又は75重量%以上、又は90重量%以上の量で、50℃以上のTを有するモノマーから誘導された重合単位を含有する。
【0034】
好ましくは、後期段ポリマーは、多段ポリマーの最終段ポリマーである。
【0035】
多段ポリマーは、多段ポリマーの総重量に基づいて、例えば、10重量%以上、又は20重量%以上、又は50重量%以上の量で初期段ポリマーを含有し得る。多段ポリマーは、多段ポリマーの総重量に基づいて、98重量%以下、又は95重量%以下、又は90重量%以下の量で初期段ポリマーを含有し得る。
【0036】
多段ポリマーの初期段は、1つ以上の多官能性モノマーから誘導された重合単位を含有し得る。多官能性モノマーは、重合反応に関与することができる2つ以上の官能基を含有する。好適な多官能モノマーは、例えば、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、エチレングリコールメタクリレート、及び1,3-ブチレンジメタクリレートを含む。存在する場合、初期段は、初期段ポリマーの総重量の重量に基づいて、0.01重量%以上、又は0.03重量%以上、又は0.1重量%以上の量で多官能性モノマーから誘導された重合単位を含有し得る。存在する場合、初期段は、初期段ポリマーの総重量の重量に基づいて、5重量%以下、又は2重量%以下の量で多官能性モノマーから誘導された重合単位を含有し得る。
【0037】
多段ポリマーの初期段は、1つ以上のジエンモノマーから誘導された重合単位を含有し得る。好適なジエンモノマーは、例えば、ブタジエン及びイソプレンを含む。初期段は、初期段ポリマーの総重量に基づいて、2重量%以上、又は5重量%以上、又は10重量%以上、又は20重量%以上、又は50重量%以上、又は75重量%以上の量でジエンモノマーから誘導された重合単位を含有し得る。初期段は、初期段ポリマーの総重量に基づいて、100重量%以下、又は98重量%以下、又は90重量%以下の量でジエンモノマーから誘導された重合単位を含有する。
【0038】
多段ポリマーの初期段ポリマーは、スチレン、置換スチレン、又はそれらの混合物のうちの1つ以上から誘導された重合単位を含有し得る。初期段ポリマーは、初期段ポリマーの総重量に基づいて、1重量%以上、又は2重量%以上、又は5重量%以上、又は10重量%以上の量でスチレン及び置換スチレンのうちの1つ以上から誘導された重合単位を含有し得る。初期段ポリマーは、初期段ポリマーの総重量に基づいて、80重量%以下、又は50重量%以下、又は25重量%以下、又は10重量%以下、又は5重量%以下の量でスチレン及び置換スチレンのうちの1つ以上から誘導された重合単位を含有し得る。
【0039】
多段ポリマーの初期段ポリマーは、酸官能性モノマーから誘導された重合単位を含有し得る。酸官能性モノマーは、酸性基、例えば、スルホン酸基、又はカルボン酸基を有するモノマーである。好適な酸官能性モノマーは、例えば、アクリル酸及びメタクリル酸を含む。初期段ポリマーは、初期段ポリマーの総重量に基づいて、3重量%以下、又は2重量%以下、又は1重量%以下、又は0.5重量%以下の量で1つ以上の酸官能性モノマーから誘導された重合単位を含有し得る。
【0040】
多段ポリマーの初期段ポリマーは、後期段ポリマーについて上で説明されるようなリン-有機物から誘導された重合単位を更に含み得る。理論に拘束されることを望まないが、初期段ポリマー及び後期段ポリマーの両方に有機リンモノマーを組み込むことによって、燃焼性を更に改善し得ると考えられる。
【0041】
存在する場合、初期段ポリマーは、初期段ポリマーの総重量に基づいて、0.25重量%以上、又は0.5重量%以上の量で、少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含有し得る。初期段ポリマーは、初期段ポリマーの総重量に基づいて、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、又は1重量%以下の量で、少なくとも1つの有機リンモノマーから誘導された重合単位を含有し得る。
【0042】
好ましくは、初期段ポリマーは、ブタジエン、より好ましくは架橋ブタジエンを含む。
【0043】
初期段ポリマー対後期段ポリマーの重量比は、例えば、0.1:1以上、又は0.2:1以上、又は0.4:1以上、又は1:1以上、又は1.5:1以上、又は3:1以上、又は4:1以上の範囲であり得る。初期段ポリマー対後期段ポリマーの重量比は、例えば、50:1以下、又は25:1以下、又は20:1以下の範囲であり得る。
【0044】
多段ポリマーは、1つ以上の中間段ポリマーを含有し得る。中間段ポリマーの総合計は、多段ポリマーの総重量に基づいて、1重量%以上、又は2重量%以上、又は5重量%以上、又は10重量%以上の量で存在し得る。中間段ポリマーの総合計は、多段ポリマーの総重量に基づいて、60重量%以下、又は2重量%以下、又は5重量%以下、又は10重量%以下の量で存在し得る。多段ポリマー中の後期段ポリマーと同様に、1つ以上の中間段ポリマーもまた、1つ以上の有機リンモノマーから誘導された重合単位を含み得る。
【0045】
多段ポリマーは、水性乳化重合によって作製される。水性乳化重合では、水は、重合が起こる連続媒体を形成する。水は、水と混和性であるか又は水中に溶解している1つ以上の追加の化合物と混合される場合又はされない場合がある。連続媒体は、連続媒体の重量に基づいて、30重量%以上の水、又は50重量%以上の水、又は75重量%以上の水、又は90重量%以上の水を含有し得る。
【0046】
乳化重合は、1つ以上の開始剤の存在を含む。開始剤は、重合プロセスを開始することができる1つ以上のフリーラジカルを形成する化合物である。開始剤は、通常水溶性である。いくつかの好適な開始剤は、加熱されると1つ以上のフリーラジカルを形成する。いくつかの好適な開始剤は、酸化剤であり、1つ以上の還元剤と混合したときに、又は加熱したときに、又はそれらの組み合わせのときに、1つ以上のフリーラジカルを形成する。いくつかの好適な開始剤は、例えば、紫外線又は電子線のような放射線に曝露されると、1つ以上のフリーラジカルを形成する。好適な開始剤の組み合わせもまた、好適である。
【0047】
好ましくは、多段ポリマーは、ラテックスを形成するための乳化重合によって作製される。本明細書で使用される場合、「ラテックス」という用語は、ポリマーが水中に分散している小さいポリマー粒子の形態で存在するポリマーの物理的形態を指す。ラテックスは、例えば、50nm以上又は100nm以上の平均粒径を有し得る。ラテックスは、1,000nm以下、又は800nm以下、又は600nm以下の平均粒径を有し得る。
【0048】
乳化重合は、アニオン性ホスフェート界面活性剤を含む少なくとも1つの有機リン石鹸の使用を伴い得る。各アニオン性ホスフェート界面活性剤は、それと会合したカチオンを有し、例えば、アルキルホスフェート塩及びアルキルアリールホスフェート塩を含むホスフェート界面活性剤のアルカリ金属塩を形成する。好適なカチオンは、例えば、アンモニウム、アルカリ金属のカチオン、及びそれらの混合物を含む。ホスフェート界面活性剤の好適なアルカリ金属塩は、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルホスフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホスフェート塩、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩を含む。ホスフェート界面活性剤のアルカリ金属塩は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩を含み得る。多段ポリマーの乳化重合中に存在するホスフェート界面活性剤の重量は、重合に添加される総モノマー重量に基づくホスフェート界面活性剤の重量を特徴として、0.5重量%以上、好ましくは、1.0重量%以上、より好ましくは、1.5重量%以上の範囲であり得る。多段ポリマーの乳化重合中に存在するホスフェート界面活性剤の重量は、重合に添加される総モノマー重量を基準にするホスフェート界面活性剤の重量を特徴として、5重量%以下、好ましくは、4重量%以下、より好ましくは、3重量%以下の範囲であり得る。上で説明されたアニオン性ホスフェート界面活性剤に加えて1つ以上のアニオン性界面活性剤が乳化重合において利用され得る。好適な追加のアニオン性界面活性剤は、例えば、カルボキシレート、スルホスクシネート、スルホネート、及びサルフェートを含む。
【0049】
本発明のプロセスでは、多段ポリマーラテックスは、凝固又は噴霧乾燥によって単離されて、多段ポリマーの表面上に有機リン石鹸を保持することができる。好適な凝固方法は、例えば、二価カチオンによる凝固を含む。
【0050】
好適な二価カチオンは、例えば、二価金属カチオン及びアルカリ土類カチオンを含む。好適な二価カチオンは、例えば、カルシウム(+2)、コバルト(+2)、銅(+2)、鉄(+2)、マグネシウム(+2)、亜鉛(+2)、及びそれらの混合物を含む。好ましくは、多価カチオンは、カルシウム(+2)及びマグネシウム(+2)から選択される。より好ましくは、存在するあらゆる二価カチオンは、カルシウム(+2)、若しくはマグネシウム(+2)、又はそれらの混合物である。更により好ましくは、二価カチオンは、カルシウム(+2)を含む。二価カチオンは、多段ポリマーの乾燥重量に基づいて、10ppm以上、又は30ppm以上、又は100ppm以上の量で存在し得る。二価カチオンは、多段ポリマーの乾燥重量に基づいて、3重量%以下、又は1重量%以下、又は0.3重量%以下の量で存在し得る。
【0051】
好ましくは、組成物中に存在する二価カチオンの大部分又は全ては、水不溶性ホスフェート塩の形態にある。水不溶性ホスフェート塩の形態で存在する多価カチオンのモル量は、組成物中に存在する二価カチオンの総モル数に基づいて、80%以上、又は90%以上、又は95%以上、又は98%以上、又は100%であり得る。
【0052】
好ましくは、単離ポリマーを伴って残存する水の大部分又は全部は、以下の操作のうちの1つ以上によって単離ポリマーから除去される:濾過(例えば、真空濾過を含む)及び/又は遠心分離。単離ポリマーは、任意選択的に、水で1回以上洗浄され得る。凝固ポリマーは、複雑な構造であり、水が凝固ポリマーのあらゆる部分に容易に接触することはできないことが既知である。理論に拘束されることを望まないが、顕著な量の二価カチオン及び残留有機リン石鹸が取り残されることが企図される。したがって、本発明の組成物は、多段ポリマーの乾燥重量に基づいて、50ppm以上、又は100ppm以上、又は500ppm以上の量で有機リン石鹸を含有し得る。本発明の組成物は、多段ポリマーの乾燥重量に基づいて、10,000ppm以下、又は7,500ppm以下、又は5,000ppm以下の量で有機リン石鹸を含有し得る。
【0053】
好ましくは、乾燥した多段ポリマーは、乾燥した多段ポリマーの重量に基づいて、1.0重量%未満の含水量を有する。
【0054】
本発明のポリマー組成物はまた、流動助剤を含み得る。流動助剤は、粉末(平均粒径1マイクロメートル~1mm)の形態の硬質材料である。好適な流動助剤は、例えば、硬質ポリマー(すなわち、80℃以上のTを有するポリマー)又はミネラル(例えば、シリカ)を含む。
【0055】
本発明のポリマー組成物はまた、安定剤も含み得る。好適な安定剤は、例えば、ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤、及び金属不活性化剤を含む。好適なラジカル捕捉剤は、例えば、ヒンダードフェノール(例えば、ヒドロキシル基が結合している炭素原子に隣接する芳香環の各炭素原子に三級ブチル基が結合しているもの)、二級芳香族アミン、ヒンダードアミン、ヒドロキシルアミン、及びベンゾフラノンを含む。好適な過酸化物分解剤は、例えば、有機硫化物(例えば、二価硫黄化合物、例えば、チオプロピオン酸のエステル)、亜リン酸のエステル(HPO)、及びヒドロキシルアミンを含む。好適な金属不活性化剤としては、例えば、キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸)が挙げられる。
【0056】
上で述べられるように、本発明の一態様は、多段ポリマー組成物及びマトリックス樹脂を含有するマトリックス樹脂組成物中の衝撃改質剤として本明細書において説明されるポリマー組成物を利用する。多段ポリマーとマトリックス樹脂との混合物を混合して溶融し、かつ固体物品に成形した後、その物品の耐衝撃性は、多段ポリマーと混合していないマトリックス樹脂を用いて製造した同じ固体物品よりも良好であろう。多段ポリマーは、固体形態、例えば、ペレット、又は粉末、又はそれらの混合物で提供され得る。マトリックス樹脂もまた、固体形態、例えば、ペレット、又は粉末、又はそれらの混合物で提供され得る。固体多段ポリマーは、室温(20℃)又は高温(例えば、30℃~90℃)で固体マトリックス樹脂と混合され得る。代替的に、固体多段ポリマーは、例えば、押出機又は他の溶融ミキサ中で溶融マトリックス樹脂と混合され得る。固体多段ポリマーはまた、固体マトリックス樹脂と混合され得、固体の混合物は、次いで十分に加熱されて、マトリックス樹脂を溶融させ得、混合物は、例えば、押出機又は他の溶融加工デバイス内で更に混合され得る。
【0057】
マトリックス樹脂対本発明の多段ポリマーの重量比は、例えば、1:1以上、又は1.1:1以上、又は2.3:1以上、又は4:1以上、又は9:1以上、又は19:1以上、又は49:1以上、又は99:1以上の範囲であり得る。
【0058】
好適なマトリックス樹脂は、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレン、スチレンコポリマー、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(酢酸ビニル)、アクリルポリマー、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、及びポリアミドを含む。好ましくは、マトリックス樹脂は、少なくとも1つのポリカーボネートを含有する。好適なポリカーボネートは、例えば、ビスフェノールAから誘導された重合単位のホモポリマー(「Bisphenol A、BPA」)、及び1つ以上の他の重合単位とともにBPAの重合単位を含むコポリマーも含む。
【0059】
マトリックス樹脂は、少なくとも1つのポリエステルを含有し得る。好適なポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートを含む。
【0060】
マトリックス樹脂は、ポリマーのブレンドを含有し得る。ポリマーの好適なブレンドは、例えば、ポリカーボネートとスチレン樹脂とのブレンド、及びポリカーボネートとポリエステルとのブレンドを含む。好適なスチレン樹脂は、例えば、ポリスチレン及びスチレンと他のモノマーとのコポリマー、例えば、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(「acrylonitrile/butadiene/styrene、ABS」)樹脂を含む。
【0061】
多段ポリマー及びマトリックス樹脂を含有するマトリックス樹脂組成物は、混合物に添加される1つ以上の追加の材料を含有し得る。全ての材料の最終混合物を形成する前に、そのような追加の材料のいずれか1つ以上を多段ポリマー又はマトリックス樹脂に添加することができる。マトリックス樹脂が固体形態又は溶融形態であるとき、追加の材料の各々(使用される場合)は、マトリックス樹脂に(単独で、又は互いに組み合わせて、及び/又は多段ポリマーと組み合わせて)添加され得る。好適な追加の材料は、例えば、染料、着色剤、顔料、カーボンブラック、充填剤、繊維、滑剤(例えば、モンタンワックス)、難燃剤(例えば、ボレート、三酸化アンチモン、又はモリブデート)、及び本発明の多段ポリマーではない他の衝撃改質剤を含む。
【0062】
マトリックス樹脂組成物は、例えば、フィルムブロー成形、異形押出し成形、成形、他の方法、又はそれらの組み合わせによって有用な物品を形成するために使用することができる。成形方法は、例えば、ブロー成形、射出成形、圧縮成形、他の成形方法、及びそれらの組み合わせを含む。
【0063】
本発明の多段ポリマーは、マトリックス樹脂組成物の燃焼性において顕著な改善を提供し得る。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態は、以下の実施例において詳細に説明される。
【実施例
【0065】
粒径測定
オリゴマーの粒径は、Malvern Zetasizer Nano S90粒径分析器で測定した。
【0066】
コアシェルポリマーの合成
ポリブタジエン初期段エマルジョンの調製
撹拌機及びいくつかの入口ポートを備えたステンレス鋼オートクレーブに、6300部の脱イオン水、170部の60nmポリマープリフォーム、及び4部のオレイン酸カリウムを充填した。反応器を排気した後、3200部のブタジエン、4部のジビニルベンゼン、37部のジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、11部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、及び30部の追加のオレイン酸カリウムを添加し、圧力が低下しなくなるまで混合物を65℃で反応させた。次いで、反応容器を排気して、任意の残存する揮発性材料を除去した。最終エマルジョンは、32%の固体含有量を有した。
【0067】
コアシェルポリマーエマルジョンEX1の調製
上記で調製した固体分32%を有するポリブタジエンエマルジョン1000部に、144部の脱イオン水を添加し、混合物を60℃に加熱した。60℃で、1時間かけて、2.1部のRhodafac(登録商標)RS-610、2.41部のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(5%水溶液)、及び1.69部のtert-ブチルヒドロペルオキシド(5%水溶液)、続いて84部のメチルメタクリレート、31.2部のスチレン、4.3部のPAM600のモノマー混合物。モノマー混合物の供給開始と同時に、反応温度を60℃に維持しながら、12部のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(5%水溶液)及び8.45部のtert-ブチルヒドロペルオキシド(5%水溶液)を240分かけて供給した。全ての供給が完了した後、11.29部のRhodafac(登録商標)RS-610を添加した。次いで、反応混合物を室温に冷却し、33.6%の固体含有量を有すると測定した。
【0068】
ポリマーエマルジョンの凝固手順
抗酸化エマルジョン調製物
100mlのプラスチック容器に、6.3gのオレイン酸カリウム、3.4gのBNX(登録商標)DLTDP、3.4gのブチル化ヒドロキシトルエン、0.8gのIrganox 245、及び23.3gの脱イオン水を添加した。混合物を、60℃に加熱し、10,000rpmで10分間、均質化した。
【0069】
エマルジョン凝固調製物
1リットルのボトルに804gのエマルジョンを添加し、96gの脱イオン水で希釈した。この混合物を水浴中で58℃に加熱した。エマルジョンが>50℃になったら、上に列挙した抗酸化剤エマルジョン31.7gを添加し、十分に混合した。凝固の準備ができるまで、エマルジョンを58℃で保存した。
【0070】
凝固
4リットルのビーカーに、3.6gの塩化カルシウム粉末及び1796.4gの脱イオン水を添加した。ビーカーの内容物を350rpmで撹拌しながら、58℃に加熱した。内容物が58℃に達したとき、上記の予熱したエマルジョンを45~60秒かけてゆっくりビーカーに添加した。これにより、混合物が水相と固体ポリマー相とに相分離した。72gの10%塩化カルシウム水溶液を添加して、凝固を完了させた。次いで、混合物を90℃に加熱し、30分間90℃で保持した。保持後、混合物を冷却し、脱水し、ブフナー漏斗内で洗浄した。濾液の導電率が30μS/mを下回るまで、試料を脱イオン水で洗浄し、次いで脱水した。試料を真空オーブン内、65℃で一晩乾燥させた。粉末の粒径をMalvern Mastersizer 2000で測定した。
【0071】
配合物
表1によるポリカーボネート配合物を、押出機で複合して、射出成形用のペレットを作製した。
【0072】
【表1】

PC Lexan 141:SABIC製のポリカーボネート
MBS:本発明の実施例のFR MBS粉末又は比較例のM732粉末
FR-2025a:3M製の100%ペルフルオロブタンスルホン酸カリウム
INP449:SABIC製の50%ポリテトラフルオロエチレン及び50%SANのブレンド
IRGANOX(登録商標)1076及びIRGANOX(登録商標)168:BASF製の抗酸化剤
【0073】
ポリカーボネート配合物を射出成形して、UL 94燃焼性試験法を使用する燃焼性試験のためのダブルエンドゲート1.0mm ASTM燃焼バーを形成した。
【0074】
比較例
メチルブタジエンスチレン(Methyl butadiene styrene、MBS)コアシェルゴム衝撃改質剤を、MBS衝撃改質剤の組成が表2に示す配合を有することを除いて、上で説明されるプロセスに従って調製した。比較例の結果を以下の表2に示す。表2に見られるように、比較例CE1及びCE2は両方とも、後期段(シェル)の重合中に凝固した。ホスホエチルメタクリレートは、米国特許第6,710,161号の教示に従って血清中で単独重合したと考えられた。この結果は、ホスホエチルメタクリレートの重合が中性から高pHで行われる場合に、当該技術分野で観察される深刻なコロイド安定性の問題と一致した。
【0075】
【表2】
【0076】
本発明の実施例
メチルブタジエンスチレン(MBS)コアシェルゴム衝撃改質剤を、上で説明されるプロセスに従って調製し、本発明の実施例の組成を以下の表3に示す。表3に示されるように、本発明の実施例は、高pH条件で優れた安定性を示し、後期段(シェル)ポリマーにホスホエチルメタクリレートを首尾よく組み込むことができた。本発明の実施例はまた、UL-94燃焼性試験下で試験した場合に優れた耐燃焼性を示した。
【0077】
【表3】
【国際調査報告】