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特表2024-544764AlMg合金へのカルシウム及びバナジウムの添加
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-04
(54)【発明の名称】AlMg合金へのカルシウム及びバナジウムの添加
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/02 20060101AFI20241127BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20241127BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C22C1/02 503J
C22C21/06
C22C21/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532191
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2022084184
(87)【国際公開番号】W WO2023104652
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】21213909.1
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524201664
【氏名又は名称】アルミニウム ラインフェルデン アロイズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワイズナー,ステュアート
(57)【要約】
少なくとも1%のMg、好ましくは1~7%のMgを含有するアルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法であって、溶融状態で0.01~2%のCa及び0.01~0.3%のVを合金に添加する、方法を提案する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1%、好ましくは1~7%のMgを含有するアルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法において、前記合金に0.01~2%のCa及び0.01~0.3%のVを溶融状態で添加することを特徴とする、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項2】
前記合金に0.05~1%のCaを溶融状態で添加することを特徴とする、請求項1記載の、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項3】
前記合金に0.07~0.5%のCaを溶融状態で添加することを特徴とする、請求項1記載の、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項4】
前記合金に0.02~0.15%のVを溶融状態で添加することを特徴とする、請求項1又は2又は3記載の、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項5】
前記合金に0.02~0.08%のVを溶融状態で添加することを特徴とする、請求項1又は2又は3記載の、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項6】
少なくとも2%、好ましくは2~7%のMgを含有する、請求項1~5のいずれか1項記載の、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項7】
Ca及びVを2つのAl母合金として添加し、好ましくは、第1の前記母合金が10%のCa及び90%のAlを含有し、第2の前記母合金が10%のV及び90%のAlを含有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項記載の、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項8】
Ca及びVの添加を680~750℃の溶融温度で行うことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項記載の、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項9】
前記合金に以下の元素:Fe、Mn、Sr、P、Ni、Zn、Cu、Si、Ti、Cr、Mo、Zr、Hf、Ga、Bのうちの少なくとも1つを溶融状態で添加する、請求項1~8のいずれか1項記載の、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法。
【請求項10】
前記合金に、Al、Mg、Ca及びVに加えて、以下の元素:
0.8~3.0%、好ましくは0.8~2.0%のFe、
0~2.5%のMn、
0~0.5%のTi、
0~0.4%のSi、
0~0.8%のSr、
0~500ppmのP、
0~4.0%のCu、
0~10.0%のZn、
最大0.5%の、クロム、ニッケル、モリブデン、ジルコニウム、ハフニウム、カルシウム、ガリウム及びホウ素からなる群から選択される元素又は元素群
を個別に又は母合金として溶融状態で添加する、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記アルミニウム-マグネシウム合金がダイカスト合金であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項記載の方法によって製造される合金であって、前記合金が以下の組成:
0.8~3.0%のFe、好ましくは1.0~2.4%のFe、より好ましくは1.4%~2.2%のFe、
2.0~7.0%のMg、好ましくは3.0%~5.0%のMg、
0.01~2%のCa、
0.01~0.3%のV、好ましくは0.02~0.15%のV、特に好ましくは0.02~0.08%のV、
最大2.5%のMn、好ましくは0~0.6%のMn、
最大0.5%のTi、
最大0.4%のSi、
最大0.8%のSr、好ましくは0~0.03%のSr、
最大500ppmのP、好ましくは0~50ppmのP、
最大4.0%のCu、好ましくは0~0.2%のCu、
最大10.0%のZn、好ましくは0~0.5%のZn、
最大0.5%の、クロム、ニッケル、モリブデン、ジルコニウム、ハフニウム、ガリウム及びホウ素からなる群から選択される元素又は元素群
からなり、残りがアルミニウム及び不可避の不純物である、合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金を製造する方法及びその方法によって製造される合金に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、アルミニウム溶融物は緻密な酸化物層を形成する。薄い酸化被膜が比較的急速に形成され、これは、通常、より長時間にわたって大幅に増加することはない。アルミニウム合金がマグネシウムを含有する場合(AlMg合金)、この緻密な酸化物層(不動態化層)の形成が妨げられ、より強い酸化が起こり、これが長時間にわたって進行する。得られるカリフラワー状のドロスは、主にスピネル(MgO-Al)からなり、非常に厚くなることがある。ドロスが適時に除去されないと、しばらくしてから溶融物中の粒子が沈下し、炉が汚染されることになる。炉の温度が高いと、このプロセスが促進される。
【0003】
ベリリウム(Be)の添加がAlMg溶融物の酸化傾向に好影響を与えることができることが知られている。本出願人の以前の特許では、AlMg溶融物の酸化傾向を低下させるために、ベリリウムが言及されている。一例は特許文献1である。この特許文献1では、10~50ppmのBeをAlMgSiMn合金に添加している。
【0004】
金属溶融物へのベリリウムの添加量を増加させることは、ベリリウムの発癌性の理由から望ましくなく、したがって、添加量の低減を目指すべきであることも長期にわたって知られている。特許文献2では、バナジウム(V)及びベリリウムをAlMg合金に添加する方法を提案している。バナジウムの添加によってベリリウムの量を低減することができることが見出され、対応するドロス量の減少を観察することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3159422号明細書
【特許文献2】欧州特許第1090156号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、従来技術から知られている方法をさらに改良する方法を提供することである。この改良は、特に、溶融物表面に形成される酸化物層の形成を目的とする。
【0007】
目的の1つは、触媒反応を引き起こすことで、アルミニウム溶融物への不動態化層の形成を促進する元素又は元素の組合せを添加する方法を提供することである。不動態化層を形成することにより、溶融金属の更なる酸化、ひいてはドロスの望ましくない形成が防止される。
【0008】
本発明による方法は、少なくとも1%のMg、好ましくは1~7%のMg、より好ましくは少なくとも2%のMg、好ましくは2~7%のMgを含有するアルミニウム-マグネシウム合金の製造に関する。この合金に0.01~2%のカルシウム(Ca)及び0.01~0.3%のVを溶融状態で添加する。
【0009】
第1の実施形態では、合金に0.05%~1%のCaを溶融状態で添加する。
【0010】
第2の実施形態では、合金に0.07%~0.5%のCaを溶融状態で添加する。
【0011】
第3の実施形態では、合金に0.02~0.15%のVを溶融状態で添加する。
【0012】
第4の実施形態では、合金に0.02~0.08%のVを溶融状態で添加する。
【0013】
第1の実施形態の好ましいバージョンでは、合金に0.02~0.15%のVを溶融状態で添加する。
【0014】
第1の実施形態のさらに好ましいバージョンでは、合金に0.02~0.08%のVを溶融状態で添加する。
【0015】
第2の実施形態の好ましいバージョンでは、合金に0.02~0.15%のVを溶融状態で添加する。
【0016】
第2の実施形態のさらに好ましいバージョンでは、合金に0.02~0.08%のVを溶融状態で添加する。
【0017】
本発明による方法では、アルミニウム-マグネシウム合金の製造中にCa及びVをアルミニウム母合金として添加し、好ましくは、第1の母合金が10%のCa及び90%のAlを含有し、第2の母合金が10%のV及び90%のAlを含有する。
【0018】
本発明による方法では、Ca及びVを680~750℃の溶融温度で添加する。
【0019】
本発明による方法では、合金に以下の元素:鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ストロンチウム(Sr)、リン(P)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)のうちの少なくとも1つを溶融状態で添加する。
【0020】
本発明による方法では、合金に、Al、Mg、Ca及びVに加えて、以下の元素:
0.8~3.0%のFe、好ましくは0.8~2.0%のFe、
0~2.5%のMn、
0~0.5%のTi、
0~0.4%のSi、
0~0.8%のSr、
0~500ppmのP、
0~4.0%のCu、
0~10.0%のZn、
最大0.5%の、Cr、Ni、Mo、Zr、Hf、Ga及びBからなる群から選択される元素又は元素群
を個別に又は母合金として溶融状態で添加する。
【0021】
本願でパーセンテージに言及する場合、これは重量パーセント(wt%;w%)と理解すべきである。
【0022】
本願で溶融状態に言及する場合、Ca及びVを完全に溶解することができ、他の全ての合金元素が完全に溶解される、好ましくは680~750℃の温度の溶融金属が定義される。
【0023】
本発明による方法によって製造される合金はダイカスト合金である。
【0024】
本発明による方法によって製造されるAl-Mg合金は、以下の元素:
0.8~3.0%のFe、好ましくは1.0~2.4%のFe、より好ましくは1.4%~2.2%のFe、
2.0~7.0%のMg、好ましくは3.0%~5.0%のMg、
0.01~2%のCa、
0.01~0.3%、好ましくは0.02~0.15%、特に好ましくは0.02~0.08%のV、
最大2.5%のMn、好ましくは0~0.6%のMn、
最大0.5%のTi、
最大0.4%のSi、
最大0.8%のSr、好ましくは0~0.03%のSr、
最大500ppmのP、好ましくは0~50ppmのP、
最大4.0%のCu、好ましくは0~0.2%のCu、
最大10.0%のZn、好ましくは0~0.5%のZn、
最大0.5%の、Cr、Ni、Mo、Zr、Hf、Ga及びBからなる群から選択される元素又は元素群
からなり、残りはAl及び不可避の不純物である。
【0025】
実施例
酸化から保護すべきAlMg合金を、規定温度で一定時間にわたり開放るつぼ内で環境空気中に放置する。次いで、酸化物層の形成を確認する。Mg含有量が4~6%のAl合金では、目に見える酸化物層が数日後に現れ、その強さは、Mgを含有しないAl合金よりも顕著に高い。
【0026】
以下の15回の試験運用は、Tech Center Rheinfeldenで行った。合金を開放電気加熱式るつぼ炉内で製造した。700℃の溶融温度で高圧ダイカスト試験を行い、溶融物を環境空気中に放置した。ダイカスト試験は400トンダイカストセルで行い、製造された試験プレートの寸法は、260×60×3mmであった。これらの試験プレートから引張試験片を取り、6つの試験片の平均値を求めた。環境空気中に放置した試験については、1回の試験運用当たり8kgの溶融物を小型の開放るつぼに移した。これらの小型のるつぼのうち3つを、より大型の電気加熱式るつぼ炉に入れ、700℃で3日間又は10日間静置した。
【0027】
以下の表に示す調査した組成V1~V15は、ベリリウムを含まない組成である。ベリリウムは、AlMg合金の酸化傾向を改善する元素として知られており、Ca及びVの効果の評価を偽ることになる。
【0028】
Ca及びVの添加によって改善することができる酸化物層の形成を3つの所定のクラスに基づいて評価した。目標はタイプAによる酸化物層である。酸化物層の形成について、タイプBは悪い結果、タイプCは非常に悪い結果として分類される。以下の実施例で使用するこの分類を以下により詳細に説明する。
【0029】
タイプA:溶融金属とともに動く非常に薄い酸化物層。機械的作用に抵抗しない。
【0030】
タイプB:溶融物が動くと粉々になる薄い半固体酸化物層。機械的作用にほとんど抵抗しない。
【0031】
タイプC:溶融物とともに動かない固体酸化物層。機械的作用にかなり抵抗する。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
環境空気中に放置した0%のCa及び0%のBeの溶融物は、わずか3日後にタイプCの固体酸化物層をもたらした。Ca及びVの添加は、酸化物層の形成を顕著に減少させた。両元素の組合せは、一方の元素単独よりも良好な効果を示した。
【国際調査報告】