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特表2024-544826変位可能な円筒形パルススピンドルを有するパルスユニットを備えるドリル装置
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  • 特表-変位可能な円筒形パルススピンドルを有するパルスユニットを備えるドリル装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】変位可能な円筒形パルススピンドルを有するパルスユニットを備えるドリル装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 45/16 20060101AFI20241128BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B23B45/16 A
B23Q11/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519571
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 SE2022050945
(87)【国際公開番号】W WO2023085991
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】21207507.1
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524118362
【氏名又は名称】ビビコアー エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】リドフォルム,スヴァンテ
(72)【発明者】
【氏名】アンダースン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】リンドウォール,マッツ
【テーマコード(参考)】
3C011
3C036
【Fターム(参考)】
3C011AA04
3C036EE27
(57)【要約】
本明細書に開示されるのは、構成要素に穴をあけるためのドリル装置であり、このドリル装置は、第1のモーションリンクを有するハウジング(2)と、ハウジング(2)内に少なくとも部分的に配置されたドリルスピンドルユニット(12)とを備え、ドリルスピンドルユニット(12)はドリルアセンブリ(32)を備え、ドリルアクスル(44)が、その長手方向軸(a)を中心に回転するように構成される。ドリル装置はさらに、その長手方向軸(b)を中心に回転可能な円筒形パルススピンドル(34)を備えるパルススピンドルユニット(14)を備え、円筒形パルススピンドル(34)は、ドリルアクスル(44)の長手方向軸(a)に対して垂直に配置される。円筒形パルススピンドル(34)はパルスの振幅を調整するためにその長手方向軸(b)に沿って変位させることができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル装置であって、
- 第1のモーションリンク(28)を有するハウジング(2)と、
- 前記ハウジング(2)内に少なくとも部分的に配置されたドリルスピンドルユニット(12)であって、前記第1のモーションリンク(28)内を案内されるドリルアセンブリ(32)を備え、前記ドリルアセンブリ(32)は、ベアリング(40)と、第1の結合部分(30)と、ドリルを受容するように構成されたドリルアクスル(44)とを備え、前記ドリルアクスル(44)は、前記ベアリング(40)に埋め込まれ、長手方向軸(a)を中心に回転するように構成され、前記ドリルスピンドルユニット(12)は、一端で前記ハウジング(2)に、他端で前記ドリルアセンブリ(32)に当接する少なくとも第1の弾性要素(26)であって、それによって、前記ドリル装置に取り付けられたとき、少なくとも部分的に圧縮される、少なくとも第1の弾性要素(26)をさらに備えるドリルスピンドルユニット(12)と、
- その長手方向軸(b)を中心に回転可能な円筒形パルススピンドル(34)を備えるパルススピンドルユニット(14)であって、前記円筒形パルススピンドル(34)は、少なくとも部分的に前記ハウジング(2)内に配置され、前記円筒形パルススピンドル(34)は、横方向表面(50)上に処理された表面エリア(52)を備え、それによって前記横方向表面(50)は前記処理された表面エリア(52)によって中断される、パルススピンドルユニット(14)とを備え、
前記円筒形パルススピンドル(34)の長手方向軸(b)は前記ドリルアクスル(44)の長手方向軸(a)に対して垂直に配置され、前記ドリルスピンドルユニット(12)は以下のように配置される、すなわち、前記第1の結合部分(30)が前記円筒形パルススピンドル(34)に向かって押され、それにより、前記円筒形パルススピンドル(34)が回転しているときに、前記円筒形パルススピンドル(34)の前記処理された表面エリア(52)によって、及び前記少なくとも部分的に圧縮された第1の弾性要素(26)の弾性力の予備圧縮によって、前記ドリルアクスル(44)の長手方向軸(a)に沿ってパルスが発生され得るように、前記ドリルスピンドルユニット(12)は配置される、ドリル装置において、
前記円筒形パルススピンドル(34)は、例えばサーボモータを介して、その長手方向軸(b)に沿って変位させることができ、前記処理された表面エリア(52)は、前記円筒形パルススピンドル(34)の長手方向軸(b)に沿って見たときに円錐形であり、それにより前記円筒形パルススピンドル(34)と前記第1の結合部分(30)との間の接触点は、前記円筒形パルススピンドル(34)の変位に応じて選択することができ、それによって前記パルスの振幅を変化させて調整することができることを特徴とするドリル装置。
【請求項2】
前記ハウジング(2)内に少なくとも部分的に配置された減衰ユニット(10)をさらに備え、前記ハウジング(2)は第2のモーションリンク(20)を備え、前記減衰ユニット(10)は、第2の結合部分(22)と、前記第2のモーションリンク(20)に係合するカウンタウェイト(24)と、前記ハウジング(2)及び前記カウンタウェイト(24)に係合する少なくとも第2の弾性要素(18)とを備え、これにより前記第2の弾性要素(18)は少なくとも部分的に圧縮され、前記円筒形パルススピンドル(34)は、前記円筒形パルススピンドル(34)上に互いに正反対に配置され、かつ前記円筒形パルススピンドル(34)の反対側に配置された少なくとも一対の処理された表面エリア(52)を備え、前記減衰ユニット(10)及び前記ドリルスピンドルユニット(12)は、前記パルススピンドルユニット(14)の両側に互いに正反対に配置され、それにより前記第1の結合部分(26)と前記第2の結合部分(22)は、前記第1及び前記第2の弾性要素(26、18)によって、互いに反対側で前記円筒形パルススピンドル(34)に向かって押され、それにより前記円筒形パルススピンドル(34)が回転しているときに、前記減衰ユニット(10)と前記ドリルアセンブリ(32)において、前記ドリルアクスル(44)の長手方向軸(a)に沿った同期パルスを発生させることができる、請求項1に記載のドリル装置。
【請求項3】
前記処理された表面エリア(52)が平面状である、請求項1又は2に記載のドリル装置。
【請求項4】
前記円筒形パルススピンドル(34)は、例えばサーボモータを介して、その長手方向軸(b)に沿って変位させることができ、前記円筒形パルススピンドル(34)は前記処理された表面(52)のない部分を備え、この部分は、前記円筒形パルススピンドル(34)と前記第1及び/又は第2の結合部分(30、22)との間の接触点がパルスのない穴あけ作業を可能にするための前記処理された表面(52)のない部分であるように、前記円筒形パルススピンドル(34)を変位することによって変位させることができる、請求項1~3のいずれか一項に記載のドリル装置。
【請求項5】
前記円筒形パルススピンドル(34)は、例えばサーボモータを介して、その長手方向軸(b)に沿って変位させることができ、前記一対の処理された表面エリア(52)は、前記円筒形パルススピンドル(34)の長手方向軸(b)に沿って見た場合に円錐形であり、それにより、前記円筒形パルススピンドル(34)と前記第1及び第2の結合部分(30、22)との間の接触点は、前記円筒形パルススピンドル(34)の変位に応じて選択することができ、それによってパルスの振幅を変化させ調整することができる、請求項2に記載のドリル装置。
【請求項6】
前記第1及び第2のモーションリンクのそれぞれが少なくとも1つの膜(20、28)を備え、前記ドリルスピンドルユニット(12)及び/又は前記減衰ユニット(10)はそのような膜(20、28)を使用して前記ハウジング(2)内に埋め込まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載のドリル装置。
【請求項7】
前記第1及び第2のモーションリンクのそれぞれが2つの膜(20、28)を備える、請求項5に記載のドリル装置。
【請求項8】
前記膜(20、28)が板金製である、請求項5又は6に記載のドリル装置。
【請求項9】
前記カウンタウェイト(24)はその重量が前記ドリルアセンブリ(32)の重量と一致できるように少なくとも部分的に交換可能である、請求項1~7のいずれか一項に記載のドリル装置。
【請求項10】
前記カウンタウェイト(24)の重量が、少なくとも前記ドリルアセンブリ(32)の重量に多かれ少なかれ一致する、請求項8に記載のドリル装置。
【請求項11】
前記第1の結合部分(30)及び/又は前記第2の結合部分(22)が、ボールベアリングを備えたプーリとして設計される、請求項1~10のいずれか一項に記載のドリル装置。
【請求項12】
前記第1及び/又は第2の弾性要素(26、18)が、ばね、エラストマー、空気圧又は油圧シリンダ、あるいは位置エネルギーを蓄え、それを運動エネルギーに変換することができる任意の他の適切な要素である、請求項1~10のいずれか一項に記載のドリル装置。
【請求項13】
前記第1の弾性要素(26)及び/又は第2の弾性要素(18)がそれぞれ、ばね、エラストマー、空気圧もしくは油圧シリンダ、又は任意の他の適切な要素、又はそれらの組み合わせ、あるいは位置エネルギーを蓄え、それを運動エネルギーに変換することができる任意の他の弾性要素の対を備える、請求項1~12のいずれか一項に記載のドリル装置。
【請求項14】
前記円筒形パルススピンドル(34)が、前記円筒形パルススピンドル(34)の直径よりも大きな直径を有する円筒形部分(62)を備え、前記円筒形部分(62)は、前記処理された表面エリア(52)と前記横方向円筒表面とを備える、請求項1~13のいずれか一項に記載のドリル装置。
【請求項15】
前記円筒形パルススピンドル(34)が、互いに正反対に配置された処理された表面エリア(52)の1つよりも多い対を備え、前記処理された表面エリア(52)は前記円筒形パルススピンドル(34)の円周上に規則的な間隔で離間される、請求項2に記載のドリル装置。
【請求項16】
前記処理された表面エリア(52)がフライス加工、エッチング、鋳造、レーザ加工、又は3D印刷される、請求項1~15のいずれか一項に記載のドリル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル装置の分野に関し、特に、効率的な切屑分断を実現できるドリル装置に関し、このドリル装置は、金属、複合材料、プラスチック、炭素などのあらゆる種類の材料に使用可能であり、金属及び炭素又は他の繊維材料層などの異なる材料層が組み合わされた多層材料又は複合材料にも使用可能である。
【背景技術】
【0002】
車両、航空機、又は他の機器を組み立てるために後に使用される構成要素及び部品に穴を開けることは、材料が通常均一で、均質であり、多くの場合、例えば、航空機製造産業又は宇宙産業において、アルミニウム、スチール、又はチタンなどの金属で作られていたため、歴史的に容易な作業であった。つまり、従来の穴あけ工具とそこそこの機械を使えば、かなり高品質の穴をあけることができた。しかしながら、このような従来のドリルでは、通常、ドリル工具の螺旋状の溝を介して穴から除去される、かなり長い螺旋状の切屑が生じた。このような長いらせん状の切屑は、ドリル穴の品質に問題をもたらすため、通常は望まれない。例えばアルミニウム-炭素-チタンなどの複合材料に穴を開けなければならない場合、このような螺旋状の切屑はさらに大きな問題となり、特にアルミニウム-炭素-チタンの層を含む複合材料の例では、金属の切屑が炭素材料のドリル穴の表面を破壊する可能性がある。そのため、小さな切屑は、穴から除去する際に穴内の炭素や他の材料を破壊せず、また、穴あけ中に材料層間に入り込まないため、ドリル穴から効率的に除去できるので望ましい。穴の破壊を回避するために、ドリル装置の既知の解決策は、典型的には正弦波状である振動運動をドリルスピンドルの長手方向に提供する。ドリルスピンドルが正弦波状のパルスに従って振動するとき、切屑、特に一定の距離で薄くなる螺旋状の切屑を提供することは可能であるが、螺旋状の切屑上に鋭い所定の破断点を提供することは不可能である。パルスの正弦波状の曲線は、たとえ正弦波状の曲線に沿っていても、滑らかな表面と調和的な厚みをもたらす。先行技術の切屑は通常、厚さが均一ではない。本明細書で記載するドリル装置によって生成される切屑は小さく、鋭い所定の破断点を含む。さらに、本明細書に記載されるようなドリル装置では、時間当たりより多くの材料を除去することが可能である。これは、非常に短く明瞭なパルスと、そのパルスの間のドリルスピンドルの非常に速い加速が、材料におけるドリル先端のより長い係合をもたらし、既知のドリル装置と比較して、時間当たりのより多くの材料除去をもたらすからである。正弦曲線からピーク曲線に変更するのは簡単であると思われるかもしれないが、これは思うほど簡単ではない。正弦波状のパルスを提供することの限界は、通常、振動を発生させるために使用される電子的、機械的、及び/又は油圧的システムに起因しており、それらは、ドリル先端上にピークの後にプラトーを有する正弦波状のパルス/曲線ピークを形成させ得るような高い軸方向加速度を提供することができない。正弦波パルスを使用して切削されたスパイラル切削の厚さを分析すると、厚さは波型に従う。パルスの加速度は、電気エネルギー又は油圧流体が提供できるよりも速くすることはできず、したがって、正弦波状のパルスは、典型的には、既知のドリル装置で達成できるものであり、それによって、高い生産性と組み合わせた小さな切削くず又は小さな切削切屑を生成するドリル装置を提供することは困難である。
【0003】
上記に加えて、製造業ではロボットへの依存度が高まっており、これらのロボットにも限界がある。ドリル装置の軸方向パルスの力は、通常、一般的に剛性の固定具又は硬質のコンピュータ数値制御(CNC)機械によって吸収される。ロボットやロボットアームは一般的に、剛性が低いため、高い加速度によって生じる振動を吸収するのに苦労する。ロボットは通常、そのために作られていない。産業製造プロセスにおけるロボットやロボット装置の使用が増加しているため、パルスを提供することができ、ロボットやロボットアームによって保持することができるドリル装置を提供する必要性がある。
【0004】
複合材料に穴を開ける必要がある場合のもう1つの課題は、通常、穴内のドリル先端の現在位置又は現在深さに応じて、ドリルを異なる方法で制御する必要があることである。例えば、外層が3mmのアルミニウム、中間層が5mmの炭素繊維、内層が3mmのチタンからなる複合材料に穴を開ける必要がある場合、ドリル装置は理論上、アルミニウムとチタンではパルスと適切な切削データで動作し、炭素繊維ではパルスなしで動作する。つまり、ドリル装置は0から3mm()までパルス動作又は振動し、カーボン層では3mmから8mmまでパルス動作せず、チタン層では8mmから11mmまで再びパルス動作する。ドリル装置のこのような調整又は制御能力は、今日、機械的な工具ホルダ解決策では不可能であるが、油圧又は電磁的解決策では可能である。しかしながら、(高)周波数又は(高)振幅には常に限界があり、切屑に鋭い所定の破断点を与えることができる鋭いピーク曲線及びプラトー曲線を提供することは困難である。
【0005】
先行技術又は既知の装置の上述の欠点は、航空機、車両、構成要素及び機械の製造を考慮すると、さらに重要である。さらに、先行技術の解決策では十分な生産性が得られない。様々な産業で使用される構成要素の多くは今日では複合材料であり、それに伴い微妙で改良された取り扱いが要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述の欠点の少なくとも一部を改善し、効率的で汎用性のあるドリル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した問題点に鑑み、本発明者らは、ドリルスピンドルユニットが、位置エネルギーを蓄えることができる弾性要素、例えばばね、エラストマー、ガスばね又は流体ばねを介して予備チャージされ、新規なタイプのパルススピンドルユニットであって、処理された表面エリアが中心軸上に設けられ、この処理された表面エリアは回転しているときにパルス振動を与えることができるパルススピンドルユニットと組み合わされるドリル装置を提供することによって、既知のドリル装置の上述した欠点を全て改善することが可能であることを発見した。本発明者らは、弾性要素とパルススピンドル上の処理された表面とのこのような組み合わせが、本明細書で後に説明するように、ドリル装置の適用中に、上部にプラトーを有するピークが形成される非常に明瞭で鋭いパルスと、高い柔軟性とを提供できることを発見した。さらに、本発明者らは、カウンタウェイトを有する減衰ユニットを使用することによって、ドリル装置から生じる振動を最小限に抑えることが可能であることも実現したが、この減衰ユニットもまた、弾性要素を介して位置エネルギーを蓄えることが可能であり、前記カウンタウェイトは、ドリルスピンドルユニットと一緒に位相及び振幅で振動して、ドリルスピンドルの長手方向パルスから生じる振動を打ち消す。また、本発明者らは、振動を打ち消すためにカウンタウェイトがドリルスピンドルユニットに対して逆位相で動くように、カウンタウェイトをドリルスピンドルユニットに対して180度に配置してもよいことを発見した。
【0008】
本明細書で開示されるのは、以下を備える構成要素に穴を開けるためのドリル装置である:
- 第1のモーションリンクを有するハウジング、及び
- ハウジング内に少なくとも部分的に配置されたドリルスピンドルユニットであって、第1のモーションリンクによって案内されるドリルアセンブリを備え、ドリルアセンブリは、ベアリングと、第1の結合部分と、ドリルを受容するように構成されたドリルアクスルとを備え、ドリルアクスルは、ベアリングに埋め込まれ、長手方向軸を中心に回転するように構成され、ドリルスピンドルユニットは、一端でハウジングに、他端でドリルアセンブリに当接する少なくとも第1の弾性要素であって、それによってドリル装置に取り付けられたとき、少なくとも部分的に圧縮される少なくとも第1の弾性要素をさらに備えるドリルスピンドルユニット。
【0009】
ドリル装置は、その長手方向軸を中心に回転可能な円筒形パルススピンドルを備えるパルススピンドルユニットをさらに備え、円筒形パルススピンドルは、少なくとも部分的にハウジング内に配置され、横方向円筒表面上に処理された表面エリアを備え、それによって横方向表面は処理された表面エリアによって中断される。円筒形パルススピンドルの長手方向軸は、ドリルアクスルの長手方向軸に対して垂直に配置され、ドリルスピンドルユニットは以下のように配置される、すなわち、第1の結合部分が円筒形パルススピンドルに向かって押され、それにより、円筒形パルススピンドルが回転しているときに、円筒形パルススピンドルの回転時に第1の結合要素と係合する処理された表面エリア及び規則的な横方向表面によって、及びドリルアセンブリを円筒形パルススピンドルの方に常に押す少なくとも部分的に圧縮された第1の弾性要素によって、ドリルアクスルの長手方向軸に沿ってパルスが発生され得るように、ドリルスピンドルユニットは配置される。円筒形パルススピンドルは、例えばサーボモータを介してその長手方向軸に沿って変位するように設計され、処理された表面エリアは、円筒形パルススピンドルの長手方向軸に沿って見たときに円錐形であり、それにより円筒形パルススピンドルと第1の結合部分との間の接触点は、円筒形パルススピンドルの変位に応じて選択することができ、それによってパルスの振幅を変化させて調整することができる。
【0010】
上述の実施形態は、ドリルにおいて非常に鋭く明瞭なパルスを発生させることができるドリル装置を提供する。パルススピンドルの回転速度、第1の弾性要素に蓄えられた位置エネルギー、及び処理された表面エリアの形状により、生成されるパルスは正弦波ではなく、むしろ明瞭で鋭く、それによって穴が開けられたときに、切削屑に意図された破断点を生じさせる。
【0011】
第1の弾性要素により、ドリルアセンブリは、第1の結合部分を介して円筒形の横方向円筒表面にぴったりと追従する。横方向円筒表面は、処理された表面エリアによってのみ中断される。処理された表面エリアが第1の結合部分を通過するたびに、ドリルアセンブリにパルスが発生する。第1の弾性要素の予荷重により、位置エネルギーから運動エネルギーへのエネルギー変換が時間的な遅れなしに即座に利用可能となり、これがドリルアセンブリの非常に速い加速を発生させ、それによってドリルの先端が明瞭で鋭いパルスを発生させる。
【0012】
上記の説明によれば、円筒形パルススピンドルは発振器として機能し、発振器又は発振スピンドルと呼ばれることもある。
【0013】
さらに、上部にプラトーを有するピーク形成曲線により、本明細書で後に説明するように、作業時間(ドリル先端の係合)がプラトーに対応するため作業時間が長くなるので、本明細書に記載されるドリル装置は、非常に効率的で高速な穴あけを提供することができる。この結果、切屑が厚くなり、ドリル及びドリル先端の1回転当たりの材料除去量がそれぞれ高くなる。
【0014】
処理された表面エリアは、円筒形パルススピンドルの長手方向軸に沿って見たときに円錐形である、又は傾斜しており、例えばそれはパルススピンドルの断面積が小さくなることを伴うものであり、円筒形パルススピンドルがハウジングから外側(又は傾斜方向によっては内側)に移動した場合、パルスの振幅が大きくなり、その逆も同様である。振幅は、処理された表面エリアと円筒形パルススピンドルの横方向円筒表面との距離によって決定される。もちろん、振幅をゼロ(0)にすることもでき、これは、処理された表面エリアがパルススピンドルの横方向円筒表面に対応する部分を備えることを意味する。
【0015】
上記は様々な理由で有用であり得る。ドリルの構成は、材料の特性、及びその材料に必要なパルス/振動の振幅と周波数に適合させることができる。適切な切削速度と送りを選択することができる。
【0016】
好ましい実施形態において、ドリル装置は、ハウジング内に少なくとも部分的に配置された減衰ユニットをさらに備え、ハウジングは第2のモーションリンクを備え、減衰ユニットは、第2の結合部分と、第2のモーションリンクに係合するカウンタウェイトと、ハウジング及びカウンタウェイトに係合する少なくとも第2の弾性要素とを備え、これにより第2の弾性要素は、少なくとも部分的に圧縮され、円筒形パルススピンドルは、円筒形パルススピンドル上に他方から180度に配置され、かつ円筒形パルススピンドルの反対側に配置された一対の処理された表面エリアを備え、減衰ユニット及びドリルスピンドルユニットは、パルススピンドルユニットの両側に互いに反対側に配置され、それにより第1の結合部分と第2の結合部分は、第1の弾性要素と第2の弾性要素によって互いに反対側で円筒形パルススピンドルに向かって押され、それにより円筒形パルススピンドルが回転しているときに、減衰ユニットとドリルアセンブリにおいて、ドリルアクスルの長手方向軸に沿った同期パルスを発生させることができる。
【0017】
複数対の処理された表面を円筒形パルススピンドル上に設計することができる。これらの処理された表面の対が円筒形パルススピンドルの円周上に対称に配置されている限り、システムは機能し、例えば、円筒形パルススピンドル上に、互いに90°の間隔をおいて2対の処理された表面を設けることも可能である。円筒形パルススピンドルの円周上に、一定の角度間隔で2対より多くの対を設けることも可能である。
【0018】
別の実施形態では、ドリル装置は、同期回転する2つの円筒形パルススピンドルを備えてもよく、一方の円筒形パルススピンドルはカウンタウェイト用、他方の円筒形パルススピンドルはドリルアクスル用である。
【0019】
減衰ユニットは、本質的にドリル装置内のドリルアセンブリのパルスを打ち消すが、明らかにドリルヘッドでは打ち消さないので、ドリル装置を保持するときにCNC機械、固定具又はロボットが振動を受けることはない。
【0020】
ドリルスピンドルユニットと減衰ユニットは他方から180度に、したがって互いに反対側に配置され、それにより減衰ユニットはドリルアセンブリのパルスを打ち消すことができる。カウンタウェイトをドリルアセンブリと同様の方法で、すなわち位置エネルギーを介して運動エネルギーを蓄えるための第2の弾性要素と結合して配置することにより、固定具、CNC機械又はロボットがドリル装置を保持できるように、ドリル装置の外側でドリルアセンブリのパルスを打ち消すための非常にスマートでエレガントな解決策を提供することが可能になる。
【0021】
一実施形態では、円筒形パルススピンドルは、互いに反対側に配置された一対より多くの処理された表面エリアを備えてもよく、それによって、処理された表面エリアは、円筒形パルススピンドルの円周上に一定の間隔で配置されてもよい。
【0022】
一実施形態では、処理された表面エリアは平面である。しかしながら、提供又は達成される必要がある曲線形状に応じて、凸状又は凹状など、他の任意の適切な形状が考慮されてもよい。
【0023】
処理された表面エリアの形状又は設計は、パルス形状がどのように形成されるかを定める。平面状の表面エリアは、ドリルアセンブリに非常に速い加速度を発生させ、それによって鋭く明確なパルスを発生させる。
【0024】
本明細書において論じられる関連パルスはドリルアセンブリで発生するパルスであるにもかかわらず、設計及び形状及び加速度は、減衰ユニットのカウンタウェイトについても同じである。記載された設計と構成により、ドリルアセンブリ内のパルスのいかなる形状、振幅又は曲線形態も、カウンタウェイトパルスがドリル装置全体の振動を打ち消すことができるように、カウンタウェイトパルスにおいて全く同じでないとしても、少なくとも非常に類似したものとなる。
【0025】
一実施形態では、円筒形パルススピンドルは、例えばサーボモータを介して、その長手方向軸に沿って変位させることができ、円筒形パルススピンドルは、処理された表面のない部分を備え、この部分は、円筒形パルススピンドルと第1及び/又は第2の結合部分との間の接触点を、パルスなしで穴あけ作業を可能にするように調整できるように、調整することができる。
【0026】
これにより、異なる特性を持つ材料の穴あけにも使用でき、ドリル先端の位置に応じてドリル装置の構成をリアルタイムで変更できるため、ドリル装置の汎用性が向上する。ドリルアセンブリにパルスがない場合、記載された設計により減衰ユニットにもパルスはない。
【0027】
一実施形態では、円筒形パルススピンドルは、例えばサーボモータを介して、その長手方向軸に沿って上下に動かすことができ、一対の処理された表面エリアは、円筒形パルススピンドルの長手方向軸に沿って見た場合に円錐形であるので、円筒形パルススピンドルと第1及び/又は第2の結合部分との間の接触点を調整することができ、それによってパルスの振幅を変化させ調整することができる。カウンタウェイトの振幅は、それによって常にドリルスピンドルユニットの振幅と一致し、振動は生じない。
【0028】
一実施形態では、第1のモーションリンクは、膜、好ましくは1つ又は2つの膜を備えてもよく、それにより、ドリルスピンドルユニット及び/又は減衰ユニットは、そのような膜を介してハウジングに埋め込まれ、固定される。
【0029】
第1及び第2のモーションリンクのそれぞれは、2つの膜を備えてもよい。
【0030】
膜は、板金製であってもよい。
【0031】
膜は弾性膜であってもよい。
【0032】
膜は、ハウジング内のドリルスピンドルユニットの支持を容易にし、最適化し、ドリルアクスルの長手方向軸に沿ってドリルアセンブリの運動を案内する効果を有する。
【0033】
一実施形態では、カウンタウェイトは、その重量をドリルアセンブリに合わせることができるように、少なくとも部分的に交換可能である。
【0034】
使用されるドリルによっては、カウンタウェイトは部分的又は全体的に交換可能であり得、又はドリルアセンブリの重量に応じて重量を追加又は取り除くためのモジュール式であり得る。
【0035】
最適には、カウンタウェイトの重量は、少なくともドリルアセンブリの重量に多かれ少なかれ一致する。
【0036】
これは、ドリルアセンブリの最適な減衰を達成するのに役立ち、その結果、ドリル装置を保持するCNC機械、固定具又はロボットの振動を低減することができる。
【0037】
別の実施形態では、第1の結合部分及び/又は第2の結合部分は、ボールベアリングを備えたプーリとして設計される。
【0038】
これにより、円筒形パルススピンドルと第1の結合部分及び/又は第2の結合部分との接触点における摩擦が低減され得る。
【0039】
一実施形態では、第1及び/又は第2の弾性要素は、ばね、エラストマー、空気圧又は油圧シリンダ、あるいは位置エネルギーを蓄え、この位置エネルギーを運動エネルギーに変換することができる任意の他の適切な要素である。
【0040】
別の実施形態によれば、第1の弾性要素及び/又は第2の弾性要素はそれぞれ、ばね、エラストマー、空気圧もしくは油圧シリンダ、又は位置エネルギーを運動エネルギーに変換することができる任意の他の適切な要素、あるいはそれらの組み合わせの対を備える。
【0041】
上記のいずれかに従って弾性要素を使用することは、ドリル装置の最適な機能を達成するのに役立つ。
【0042】
代替的に、膜に対して、ハウジングの少なくとも1つのモーションリンクは、ドリルアセンブリの動きをドリルアクスルの長手方向軸に沿って案内するためにハウジング内の案内部分に係合する突起を備え得る。同様に、減衰ユニットは、ドリルアクスルの長手方向軸に沿って減衰ユニットの動きを案内するためにハウジングの案内部分に案内される突起を備える。
【0043】
少なくともモーションリンクと減衰ユニット及びドリルアセンブリとの間の突起又は他の形態の係合要素は、それぞれ、減衰ユニット及びドリルアセンブリの動きを改善し、精度及びそれに伴う動作信頼性を高め得る。
【0044】
モーションリンクは、それぞれ、減衰ユニット及びドリルアセンブリの両側にある2つの案内モーションリンクを備え得る。
【0045】
さらなる実施形態において、円筒形パルススピンドルは、円筒形パルススピンドルの直径よりも大きい直径を有する円筒形部分を備えていてもよく、円筒形部分は、処理された表面エリア及び横方向表面を備える。
【0046】
円筒形部分は、パルススピンドルユニットの動作信頼性及び製造に役立ち得る。さらに、それは処理された表面のより大きな効果を発生させる機会を提供し得、より大きな直径により、パルスのより高い振幅を発生させることができ、これは円錐形状の処理された表面の性質に起因するが、その理由は、材料の限界により最小値と最大値を直径がより小さい場合よりも様々に選択できるからである。
【0047】
次に本発明を、例示を目的として、実施形態によって及び含められた図面を参照してより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明によるドリル装置の斜視図を概略的に示す。
図2】ハウジングを備えた図1の断面図を概略的に示し、この断面図は図1の線II-IIに沿って切断されている。
図3】本発明によるドリル装置の斜視図を概略的に示し、ハウジングは説明のために示されていない。
図4】本発明によるドリル装置における振動の原理を概略的に示す。
図5】円筒形パルススピンドルと、減衰ユニット及びドリルアセンブリのそれぞれの部分の斜視詳細図を概略的に示す。
図6】第1の位置にある円筒形パルススピンドルを概略的に示す。
図7】第2の位置にある円筒形パルススピンドルを概略的に示す。
図8】本発明によるパルス曲線を、従来技術による正弦曲線と比較して概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、本発明によるドリル装置1の斜視図を示す。ドリル装置1は、ハウジング2と、ドリルスピンドルユニット12を駆動するように設計された第1のモータ4と、パルススピンドルユニット14を駆動するように設計された第2のモータ6とを備える。第1のモータ4及び第2のモータ6は、電気を動力源とするサーボモータであり得る。図1の例示的な実施形態では、第1のモータ4はベルト(図1では見えない)を介してドリルスピンドルユニット12を駆動し、第2のモータ6はパルススピンドルユニット14を直接駆動する。第1のモータ4は、ドリルスピンドルユニット12を直接駆動してもよいし、ベルト又はチェーンを介してドリルスピンドルを駆動してもよい。本発明では、両方の解決策を用いることができる。モータ4がドリルスピンドルユニット12を直接駆動する場合、モータはドリルアセンブリと一体化され、パルスが発生したときにドリルアセンブリと共に移動する可能性がある(図2に関連する以下の記載を参照)。図1は、図2の断面図が取得された場所を示す平面II-IIをさらに示している。
【0050】
図2は、第1のモータ4及び第2のモータ6を除いた図1の断面図を示す。図2において、ドリル装置1は、ハウジング2と、減衰ユニット10と、ドリルスピンドルユニット12と、パルススピンドルユニット14とを備えて示され、それにより、減衰ユニット10、ドリルスピンドルユニット12、及びパルススピンドルユニット14は、少なくとも部分的にハウジング2内に埋め込まれている。
【0051】
ドリルスピンドルユニット12は、ドリルアクスル44と、ドリルを受けるように構成されたドリルヘッドと、ベアリング40とを有するドリルアセンブリ32と、ばねの形態で示された2つの第1の弾性要素26と、第1の結合部30と、支持リング要素46とを備える。一対の第1の弾性要素46は、一端がハウジング2、例えばハウジング2の肩部56に支持され、他端が支持リング要素46に支持され、これはドリルアクスル44が回転しているときに回転しないようにベアリング40にもたれかかる。ドリルアセンブリ32の他端には、第1の結合部30が配置されている。第1の結合部30は、ベアリング、例えばボールベアリングを備えたローラとして設計され、パルススピンドルユニット14に向かって押圧されるように構成されており、これは、ドリルアセンブリ32の移動が、一端では第1の結合部30を介して、他端ではハウジング2の肩部53を介して、ドリルアクスルによって規定される長手方向軸aに沿った方向に制限されるため、ドリルアセンブリ32がハウジング2から出ることができないので、一対の第1の弾性要素26がどのような状況においても圧縮される又は予張力をかけられることを意味する。ドリルヘッド42はドリルなしで示されているが、ドリルがドリルヘッド42に配置されている場合、ドリルはドリルアセンブリ32の一部を形成する。ドリルスピンドルユニット12とドリルアセンブリ32のそれぞれについて記載した構造と配置により、ドリルアセンブリ32は、ドリルアクスル44によって規定された長手方向軸aに沿って、特に一対の第1の弾性要素26を介してパルススピンドルユニット14に向かって移動可能である。図2の位置では、ドリルアセンブリ32は、一対の第1の弾性要素26に対して最後まで移動され、肩部53に向かってぴったりと固定されている。パルスを発生させるために、パルススピンドルユニット14が使用される。
【0052】
パルススピンドルユニット14は、長手方向軸bを規定する円筒形パルススピンドル34と、好ましくはモータ6(図2には図示せず)とを備える。円筒形パルススピンドル34は、開口部60を介してハウジング2内に埋め込まれ、ドリルアセンブリ32の第1の結合要素30と接触するようにハウジング2内に延びている。図2では見ることができないが、円筒形パルススピンドル34は、実際には、処理された表面エリア(図4図7参照)を備え、この処理された表面エリアは、円筒形パルススピンドル34の規則的な横方向表面52には対応しないが、この滑らかで規則的な横方向表面52を遮るので、円筒形パルススピンドル34がその長手方向軸bの周りで回転すると、第1の結合要素30が処理された表面エリアに到達し、一対の第1の弾性要素26がドリルアセンブリ32を処理された表面に押し込むとき、ドリルアセンブリ32は、円筒形パルススピンドル34に向かって移動する。円筒形パルススピンドル34のさらなる回転に伴い、第1の結合要素30とドリルアセンブリ32はそれぞれ、第1の結合要素30が処理された表面から後方に離れ、円筒形パルススピンドル34の規則的な横方向表面52に接触し始めるとすぐに、ドリルアクスル44によって規定される長手方向aに沿って戻される。このことは、ドリルヘッド42に接続されている場合、ドリルアクスル44及びそれに伴うドリルに、被処理された表面エリアが第1の結合要素30を通過するたびにパルスが発生することを意味する。このこと自体が、既に、キャンピングユニット10を用いない発明的解決策である。図2の実施形態において、減衰ユニット10が使用されない場合、ドリル装置1は動作するが、発生したパルスからの振動は全て、固定具、CNC機械又はロボットによって吸収されなければならない。したがって、減衰ユニット10は、図2において同様に示されている。
【0053】
減衰ユニット10は、カウンタウェイト24、一対の第2の弾性要素18、及びローラベアリングを備える第2の結合部22を備える。図2の図から、カウンタウェイト24はドリルアセンブリ32と同期して移動し、カウンタウェイト24はドリルアセンブリ32と重量が同様又は同じであるため、ドリル装置1内のパルスによって発生する振動は、ロボットが振動の影響を受けないように実質的に減衰されることが分かる。カウンタウェイト24は、一対の第2の弾性要素18によってパルススピンドルユニット14に向かって押圧され、それにより第2の結合要素22は円筒形パルススピンドル34に当接し接触する。一対の弾性要素18は、一端がハウジング2のエンドキャップ58に、他端がカウンタウェイト24に当接する。図2に示された位置では、一対の弾性要素18は、カウンタウェイト24が円筒形パルススピンドル34に向かって常に押圧されるように、予張力がかけられ、押圧される。パルスの発生については、図4~7を参照してより詳細に説明する。
【0054】
図3は、減衰ユニット10、ドリルスピンドルユニット12及びパルススピンドルユニット14を備えるドリル装置1の斜視図を示し、図3では説明のためにハウジングが省略されている。図2に加えて、膜20、28が示されており、この膜20、28は、ドリルアセンブリ32及び減衰ユニット10をハウジングに最適に取り付けるために設けられている。膜20、28は、それぞれパルス発生と減衰に付加的な効果をもたらすように設計されている。好ましくは、それらは板金製であり、図2を参照して説明したように、第1及び第2の弾性要素26、18の対の効果を支持する。膜20、28はさらに、ドリルアセンブリ32及びカウンタウェイト24が、ハウジング内のドリルアクスル44によって規定される長手方向軸aに沿って移動可能に埋め込まれるという効果を有する。図2に戻ると、ドリルアセンブリ32を保持する膜28とカウンタウェイト24を保持する膜20が示されている。膜20、28は、例えばスクリュ/ねじ山機構(図2には示されていない)を介してハウジング2内にクランプされる。同様の方法で、それらはそれぞれドリルアセンブリ32及びカウンタウェイト24に、すなわち2つの要素を一緒にクランプすることによって留められる。接着、あるいはフォームフィット(圧入)接続などの膜20、28の他の留めるための解決策も、本明細書に開示されるドリル装置1において具現化することができる。
【0055】
代替的に、膜20、28の減衰ユニット10及びドリルアセンブリ32は、ハウジング2内のモーションリンクに沿って移動可能に具現化され得る。このように、膜20、28は、本発明の機能を向上させるが、本発明の発明思想を達成するためには必要ではない。
【0056】
膜20、28は、あらゆる直線モーションリンク構成に取って代わるように構成され、かつ/又は、カウンタウェイト及び/又はドリルアクスルの半径方向移動を防止するように構成される。
【0057】
図3は、円筒形パルススピンドル34をさらによく示す。円筒形パルススピンドル34は、ベアリング(図示せず)を備え、このベアリングは、円筒形パルススピンドル34を正確に回転できるように所定の位置に保持するためにハウジング2内に埋め込まれている。円筒形パルススピンドル34は、円筒形パルススピンドル34の他の部分よりも大きな直径を有する横方向表面50を画定する円筒形部分62をさらに備える。円筒形部分62は、ドリルアセンブリ32の第1の結合部30及び減衰ユニット10の第2の結合部22と係合し、接触している。円筒形部分62の直径は、円筒形パルススピンドル34の直径よりも約2~15%大きい。しかしながら、円筒形部分は、円筒形パルススピンドル(図示せず)と同じ直径を有するように選択されてもよい。円筒形部分62には、パルスを発生させるために使用される処理された表面52が、横方向表面50に隣接して、又は横方向表面50上にさらに配置される。次に、円筒形パルススピンドル34を介したパルス発生の機能について考察し説明する。なおも図3を参照すると、しかしながら、注目すべき重要な1つの事実が存在する。ドリル装置1は、減衰ユニット10がなくても機能するが、その場合、振動のキャンセルは達成されない。しかし、実用的な観点からは、減衰ユニット10がなくても、ドリルアクスルとそれに伴うドリルのパルスを発生させることができる。減衰ユニット10を使用することで、ドリル装置1はより正確になり、ロボットに適するようになる。
【0058】
加えて、なおも図3を参照すると、円筒形パルススピンドル34はその長手方向軸bに沿って移動することができ、処理された表面52は円筒形パルススピンドル34の長手方向軸bに対して円錐形又は傾斜しているので、パルスの振幅を変化させることができることに注目すべきである。この運動は、ハウジング内に設計されたモータ、例えばサーボモータ及び対応するモーションリンク等を介して行うことができる。軸bに沿った位置の変更は、ドリル装置1の操作中に行うことができ、円筒形部分62は、実際には、処理された表面52から自由な部分を備えるので、ドリル装置1は、パルスなしで操作することができる。
【0059】
円筒形部分62は円筒の規則的な横方向表面を画定するが、これは減衰ユニット10/カウンタウェイト24にパルスを発生させ、同時にドリルアセンブリ32にパルスを発生させる分断を発生させるために、一対の処理された表面エリア52によって中断される。
【0060】
次に図4を参照して、パルス発生機構64の基本原理を説明する。図4は、円筒形パルススピンドル34’の円筒形部分62’と、ドリルアセンブリ32の第1の結合要素30’と、減衰ユニット10の第2の結合要素22’とを示す断面図を示す。参照番号は、これまでの参照番号及び構成要素に対応するが、簡略化されて示されているためにアポストロフィとともに示されている。図4~7では、説明のために第1及び第2の弾性要素26、18の対を示していないことに留意されたい。第1及び第2の弾性要素26、18のこれら2つの対はパルス発生機構64の一部であることに留意されたい。図4は、第1及び第2の弾性要素26、18の対と、発振器34’と、円筒形パルススピンドルと、2つの振動要素10’、32’、つまり減衰ユニット及びドリルアセンブリとを備えるパルス発生機構64の原理を示している。図4の一対の矢印Fは、第1及び第2の弾性要素26、18の対によって生成される弾性力を示し、二重矢印は、処理された表面エリア52’によって生成され得る振幅ATを示す。処理された表面エリア52’は平面として設計されてもよいが、平面である必要はない。一対の処理された表面エリア52’は、発振器34’上で、その反対側に角度αで配置される。角度αは、ドリル装置1の外側の振動を最適に減衰させるために、ドリルアセンブリ32内のパルスが減衰ユニット10内のパルスと同時に発生するように、180°に選択される。この角度は、処理された表面が配置されるレイアウトや角度によって異なり得る。
【0061】
前述したように、ドリル装置1は、減衰ユニット10なしで動作し、減衰ユニットが具現化されない場合、一対の処理された表面52’は、単一の処理された表面52’であってもよい。
【0062】
次に、図5を参照して、一対の処理された表面52の設計と振幅の変化とをより詳細に説明する。図5では、処理された表面エリア52とその円錐形の設計が示されている。図5では、一対の処理された表面エリア52の一方のみが示されており、他方は、図5のスナップショットにおいて、円筒形パルススピンドル34の反対側に位置決めされている。処理された表面エリア52は、先に説明したように、円筒形パルススピンドル34の長手方向軸bに対して傾斜している。第1の結合要素30と第2の結合要素22が示され、円筒形パルススピンドルは、最高の振幅が発生する位置、すなわち、処理された表面エリア52及び円筒形パルススピンドル34の円筒形部分62の上端に移動され示されている。処理された表面エリア52の傾斜方向は、円筒形パルススピンドル34及び円筒形部分62が長手方向軸bに沿って移動可能であるため、実際には問題ではない。図5の図では、最高又は最大の振幅が円筒形部分62の上端で発生し、円筒形パルススピンドル34は、振幅が最大となる位置に同じく示されており、これは図6にも示されている。円筒形パルススピンドル34が、図5の矢印の方向に、長手方向軸bに沿って下方に移動されると、振幅は、図7に示すように、0(ゼロ)に消滅するまで連続的に小さくなる。図6図7の間の任意の位置が可能である。図7に示すように、円筒形パルススピンドル34がゼロ振幅位置にあるとき、振幅が発生し、ドリルはパルスなしで動作する。
【0063】
図6では、円筒形パルススピンドル34は最大振幅位置MAに示されているが、図7では、円筒形パルススピンドル34はゼロ振幅位置OMに示されている。最大振幅位置MAでは、振幅は周波数とは無関係に最大であり、一方、ゼロ振幅位置OMでは、振幅はなく、それによって周波数もゼロ/なしである。
【0064】
ここで当業者は本発明の巧妙な考えを理解できるであろう。周波数を変更する必要があるときは、円筒形パルススピンドル34の回転速度を増加することができ、振幅を変更する必要があるときは、円筒形パルススピンドル34を長手方向軸bに沿って移動させる。穴あけプロセス中に、周波数又は振幅のいずれかを、穴あけプロセスを中断することなく変更することができ、周波数がゼロ/なしの振幅0(ゼロ)であっても変更することができる。
【0065】
円筒形パルススピンドル34に係合する第1の結合要素30及び第2の結合要素22の材質は、金属又は鋼で作られたベアリングであり得る。
【0066】
なお、円筒形パルススピンドル34よりも大きな直径を有し、一対の処理された表面エリア52を備える円筒形部分62が本実施形態において示されているが、本発明は、処理された表面エリア52を円筒形パルススピンドル34に直接フライス加工、エッチング、3D印刷、成形又は鋳造することによって、円筒形部分62がなくても機能する。
【0067】
最後に図8に目を向けると、先行技術によるドリル装置で生成された正弦曲線Sのパルス曲線と、本発明によるドリル装置1で生成された鋭いパルス曲線Iが示されている。前述したように、鋭いパルス曲線Iは、穴あけプロセスの切削屑に明確で鋭い所定の破断点を発生させる。図8から、本発明によるドリル装置1で生成されるパルスの加速度が実際にどの程度速いかも分かる。パルスプラトーPに至る鋭いパルス曲線Iの勾配Gは非常に急であり、1(y/x)よりも無限大に近く、これは加速度が非常に速く、鋭く、明瞭であり、正弦曲線Sのように調和的で均質でないことを意味する。これによって切削切屑は破断されるか、少なくとも切削屑に非常に明瞭な所定の破断点を与え、それにより切削屑はドリルの螺旋形状によってドリル穴から搬送される際に破断される。勾配Gは曲線をピーク形状にし、プラトーPはドリル先端が材料に係合することを示す。図8は、非常に短く明瞭なパルスと、それに関連するそのようなパルスの間のドリルスピンドルの非常に素早い加速の技術的効果を非常によく示している。この素早い加速は、弾性要素の蓄積エネルギーによって提供され、図8が明確に示すように、非常に短いパルスのためにドリル先端が材料により長く係合することにつながる(本発明のパルスと鋭いパルス曲線Iは、正弦波パルスよりもはるかに短い)。このため、既知のドリル装置と比較して、時間当たりの材料の除去量が多くなる。さらに、図8の鋭いパルス曲線Iから、パルスの最も深い(最も高い)溝や谷の間でさえも、ドリル先端が材料から全て又は完全に外れることがないこともわかる。
【0068】
以上、図1~8を参照して本発明を説明し、さらに本発明の詳細についていくつかの代替案や具体的な解決策を挙げて説明した。本明細書で言及したこのような代替案又は具体的解決策の任意の組み合わせは、本発明の考えによるドリル装置において具現化することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】