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特表2024-544843効率的かつ特異的なゲノム編集のための部位特異的リコンビナーゼ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】効率的かつ特異的なゲノム編集のための部位特異的リコンビナーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/10 20060101AFI20241128BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
C12N15/54
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/45
A61P7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524372
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2022081868
(87)【国際公開番号】W WO2023084099
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】21208214.3
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516355139
【氏名又は名称】テクニスチェ ユニベルシタト ドレスデン
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジェンナ ホルステン
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス ランシング
(72)【発明者】
【氏名】フランク ブッフホルツ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA29
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA06
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084DC25
4C084NA14
4C084ZA531
4C084ZA532
4C084ZC541
4C084ZC542
(57)【要約】
本発明は、概してゲノム編集の分野に関し、ゲノム標的配列を偏性DNAリコンビナーゼ酵素と効率的かつ特異的に組換えるDNAリコンビナーゼを生成する方法を提供し、かつDNAリコンビナーゼを提供する。より具体的には、本発明は、効率的かつ特異的なゲノム編集のための遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼであって、リコンビナーゼの偏性複合体を含み、前記複合体が少なくとも第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも第2のリコンビナーゼ酵素を含み、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、触媒部位に少なくとも1つの変異を含み、触媒部位に前記少なくとも1つの変異を保有する前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さず、前記リコンビナーゼの偏性複合体ではDNAリコンビナーゼとしての触媒活性が補完される、前記DNAリコンビナーゼを提供する。本発明はさらに、前記遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼ及び偏性複合体をコードする核酸分子、並びに前記遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼ及び偏性複合体及び核酸分子の医薬組成物における使用に関する。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム編集のための偏性DNAリコンビナーゼを生成する方法であって、
i. 第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程であって、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素が、非対称リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位に結合し、前記第2のリコンビナーゼ酵素が、非対称リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位に結合し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、DNA配列中の前記非対称リコンビナーゼ標的部位において関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができるヘテロ二量体を形成し、前記非対称リコンビナーゼ標的部位が、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を含み、前記第1の半部位及び第2の半部位が同一ではなく、パリンドロームでもない、前記工程;
ii.第1の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーを作製するために変異誘発を行う工程であって、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素に変異が導入される、前記工程;
iii. 第1の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする前記核酸分子の前記ライブラリーと第2の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子の前記ライブラリーとを発現ベクターにクローニングすることにより発現ベクターを作製する工程であって、ここで、前記発現ベクターが、組換えられる関心のあるDNA配列を保有している、前記工程;
iv. 工程iii)の前記発現ベクターで細胞をトランスフェクトし、前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素のライブラリーを同じ細胞内で発現させることにより、第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素を含むリコンビナーゼヘテロ二量体を形成する工程;
v. DNA中の非対称リコンビナーゼ標的部位で関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができる、工程ivで得られたヘテロ二量体についての陽性選択スクリーニングを行う工程;
vi. オフターゲット部位、好ましくは、DNA中の対称リコンビナーゼ標的部位において、関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができない、工程iv又はvで得られたヘテロ二量体についての陰性選択スクリーニングを行う工程;
vii. DNAリコンビナーゼの上流の標的部位及び/又は下流の標的部位の第1の半部位と第2の半部位とを含むDNA中のリコンビナーゼ標的部位で関心のあるDNA配列を組換えることができる偏性DNAリコンビナーゼであって、ここで、前記第1の半部位と前記第2の半部位とは同一ではなく、パリンドロームでもなく;かつ、オフターゲット部位、好ましくは、DNA中の対称リコンビナーゼ標的部位で関心のあるDNA配列を組換えることができない、前記偏性DNAリコンビナーゼを選択する工程
を含み、ここで、工程viiで得られた前記偏性DNAリコンビナーゼにおいて、前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素がそれぞれ、単独で発現させた場合に、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素を触媒的に不活性にさせる少なくとも1つの変異を触媒部位に含む、前記方法。
【請求項2】
工程ii~vi記載の前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、基質結合指向性進化(SLiDE)又は指向性進化によって進化している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程v及びvi記載の前記選択が、非対称標的部位で触媒活性のある偏性ヘテロ二量体の選択(陽性選択)の間と、オフターゲット部位、好ましくは対称標的部位で触媒活性のないヘテロ二量体の間で繰り返される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ゲノム編集のための遺伝子操作されたDNA組換え酵素であって、リコンビナーゼの偏性複合体を含み、前記複合体が少なくとも第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも第2のリコンビナーゼ酵素を含み、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素がそれぞれ、触媒部位に少なくとも1つの変異を含み、触媒部位に前記少なくとも1つの変異を保有する前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さず、前記リコンビナーゼの偏性複合体ではDNAリコンビナーゼとしての触媒活性が補完される、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ及び前記少なくとも1つの第2のリコンビナーゼが同じ種類のものである、請求項4記載のDNA組換え酵素。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ及び前記少なくとも1つの第2のリコンビナーゼが両方とも、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-又はPanto-リコンビナーゼである、請求項5記載のDNA組換え酵素。
【請求項7】
前記DNA組換え酵素が、ヘテロ四量体の形態のリコンビナーゼの複合体である、請求項4~6のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
【請求項8】
前記少なくとも1つの変異が、前記リコンビナーゼの触媒領域における単一アミノ酸置換であり、好ましくは、前記単一アミノ酸置換が、前記触媒領域内の保存アミノ酸の位置にある、請求項4~7のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
【請求項9】
(i)前記第1のリコンビナーゼ酵素がCreリコンビナーゼを含み、前記第2のリコンビナーゼ酵素がCreリコンビナーゼを含み、各Creリコンビナーゼが、配列番号109~配列番号114からなる群から選択されるアミノ酸領域内に単一アミノ酸置換を含む;
(ii)前記第1のリコンビナーゼ酵素がVikaリコンビナーゼを含み、前記第2のリコンビナーゼ酵素がVikaリコンビナーゼを含み、各Vikaリコンビナーゼが、配列番号115~配列番号120からなる群から選択されるアミノ酸領域内に単一アミノ酸置換を含む;
(iii)前記第1のリコンビナーゼ酵素がDreリコンビナーゼを含み、前記第2のリコンビナーゼ酵素がDreリコンビナーゼを含み、各Dreリコンビナーゼが、配列番号121~配列番号126からなる群から選択されるアミノ酸領域内に単一アミノ酸置換を含む;又は
(iv)前記第1のリコンビナーゼ酵素がPantoリコンビナーゼを含み、前記第2のリコンビナーゼ酵素がPantoリコンビナーゼを含み、各Pantoリコンビナーゼが、配列番号127~配列番号132からなる群から選択されるアミノ酸領域内に単一アミノ酸置換を含む、
請求項4~8のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ酵素及び前記少なくとも1つの第2のリコンビナーゼ酵素における少なくとも1つの変異又は単一アミノ酸置換が、配列番号1のE129R、Q133H、R173A、R173C、R173D、R173E、R173F、R173G、R173I、R173K、R173L、R173M、R173N、R173P、R173Q、R173S、R173T、R173V、R173W、R173Y、E176H、E176I、E176L、E176M、E176V、E176W、E176Y、K201A、K201C、K201C、K201D、K201F、K201G、K201H、K201I、K201L、K201M、K201N、K201P、K201Q、K201R、K201S、K201T、K201V、K201W、K201Y、H289D、H289E、H289I、H289K、H289R、H289W、R292A、R292C、R292E、R292F、R292G、R292H、R292I、R292L、R292M、R292N、R292P、R292Q、R292S、R292T、R292V、R292W、R292Y、Q311R、W315C、W315E、W315G、W315I、W315K、W315L、W315M、W315N、W315Q、W315R、W315S、W315T、W315V、Y324A、Y324C、Y324E、Y324F、Y324H、Y324I、Y324K、Y324L、Y324M、Y324N、Y324Q、Y324R、Y324S、Y324T、Y324V、及びY324Wからなる群から選択されるか、又は別のリコンビナーゼの対応するアミノ酸位置、好ましくは配列番号14、配列番号17又は配列番号20の対応する位置にある、請求項4~9のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
【請求項11】
前記少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ酵素及び前記少なくとも1つの第2のリコンビナーゼ酵素における少なくとも1つの変異又は単一アミノ酸置換が、
(i)配列番号1のE129、Q133、R173、E176、K201、H289、R292、Q311、W315、及びY324;
(ii)配列番号14のE146、Q151、R191、N194、K219、H308、R311、Q330、W334、及びY343;
(iii)配列番号17のE130、Q134、R174、E177、K202、H290、R293、Q312、W316、及びY325;
(iv)配列番号20のE131、Q135、R175、E178、K202、H290、R293、Q312、W316、及びY325;
からなる群から選択される位置、又は
(v)別のリコンビナーゼ中のアミノ酸位置
にあり、ここで、前記他のリコンビナーゼ中の前記アミノ酸位置が、配列番号1の位置E129、Q133、R173、E176、K201、H289、R292、Q311、W315、又はY324に対応する、請求項4~10のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
【請求項12】
前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、単量体間の界面変異を含まない、請求項1~11のいずれか記載の方法又は遺伝子操作されたDNA組換え酵素。
【請求項13】
前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素が、天然に存在する部位特異的リコンビナーゼの変異体又はデザイナーDNAリコンビナーゼの変異体である、請求項1~12のいずれか記載の方法又は遺伝子操作されたDNA組換え酵素。
【請求項14】
・前記第1のリコンビナーゼ酵素が、配列番号1、2又は7の変異K201R、配列番号18又は21のK202R、配列番号15の変異K219R、及び配列番号24の変異K221Rからなる群から選択される変異を含み;かつ
・前記第2のリコンビナーゼ酵素が、配列番号4又は11の変異Q311K、配列番号5又は12の変異Q311R、配列番号19又は22の変異Q312R、配列番号16の変異Q330R、及び配列番号25の変異Q336Rからなる群から選択される変異を含む、
請求項1~13のいずれか一項記載の方法又は遺伝子操作されたDNA組換え酵素。
【請求項15】
前記リコンビナーゼ標的部位が、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-及びPanto-リコンビナーゼなどのチロシン部位特異的リコンビナーゼの標的部位であり、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素が、
・第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素であって、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素が、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、前記触媒部位に単一変異K201Rを含むポリペプチドであり、前記第2のリコンビナーゼ酵素が、配列番号11に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、前記触媒部位の位置Q311Rに単一変異を含むポリペプチドである、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素;
・第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素であって、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素が、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒部位に単一変異K201Rを含むポリペプチドであり、前記第2のリコンビナーゼ酵素が、配列番号12に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒部位に単一変異Q311Kを含むポリペプチドである、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素;
・Creリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K201Rを有し、配列番号2に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素を含み、かつその触媒部位に単一変異Q311Rを有し、配列番号5に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Creリコンビナーゼ;
・Creリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K201Rを有し、配列番号2に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素を含み、かつその触媒部位に単一変異Q311Kを有し、配列番号4に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Creリコンビナーゼ;
・Vikaリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K219Rを有し、配列番号15に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素、及びその触媒部位に単一変異Q330Rを有し、配列番号16に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Vikaリコンビナーゼ;
・Pantoリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K202Rを有し、配列番号18に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素、及びその触媒部位に単一変異Q312Rを有し、配列番号19に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Pantoリコンビナーゼ;
・Dreリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K202Rを有し、配列番号21に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素、及びその触媒部位に単一変異Q312Rを有し、配列番号22に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Dreリコンビナーゼ;
・Vcreリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K221Rを有し、配列番号24に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素、及びその触媒部位に単一変異Q336Rを有し、配列番号25に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Vcreリコンビナーゼ
からなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項記載の方法又は遺伝子操作されたDNA組換え酵素。
【請求項16】
前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素が、核酸配列:
【化1】
又はその逆相補配列を有するloxF8標的部位の上流のリコンビナーゼ標的配列を特異的に認識し、核酸配列:
【化2】
又はその逆相補配列を有するloxF8標的部位の下流のリコンビナーゼ標的配列を特異的に認識し、loxF8リコンビナーゼ標的部位の配列番号65の上流リコンビナーゼ標的部位配列と配列番号66の下流リコンビナーゼ標的部位配列との間の遺伝子配列の組換えを触媒し、
前記loxF8リコンビナーゼ標的部位の配列番号65の上流リコンビナーゼ標的部位配列と配列番号66の下流リコンビナーゼ標的部位配列との間の遺伝子配列の組換えを触媒する能力は、
a)細胞内の第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素を発現させる工程;及び
b)工程a)で発現させた遺伝子操作されたDNA組換え酵素が、前記細胞内のヒト染色体上のDNA配列を組換えることができるかどうかを分析する工程
を含む方法によって試験される、請求項15記載の方法又は遺伝子操作されたDNA組換え酵素。
【請求項17】
請求項4~16のいずれか一項記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素又はそのサブユニットをコードする核酸配列を、各々が含むか又はそれからなる、核酸分子又は複数の核酸分子。
【請求項18】
請求項17記載の核酸分子又は複数の核酸分子、及びその発現を促進するための、前記核酸と作用可能に結合された発現制御エレメントを含む、発現ベクター。
【請求項19】
請求項17記載の核酸分子若しくは複数の核酸分子又は請求項18記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項20】
請求項4~16のいずれか一項記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素又は請求項17記載の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は請求項18記載の発現ベクター、又は請求項19記載の細胞を含む、医薬組成物。
【請求項21】
1以上の治療上許容される希釈剤又は担体をさらに含む、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
医薬に使用するための、請求項4~16のいずれか一項記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は請求項17記載の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は請求項18記載の発現ベクター、又は請求項19若しくは20記載の医薬組成物。
【請求項23】
血友病Aの治療に使用するための、好ましくは、重症血友病Aの治療に使用するための、請求項4~16のいずれか一項記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は請求項17記載の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は請求項18記載の発現ベクター、又は請求項19若しくは20記載の医薬組成物。
【請求項24】
本発明に記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素を含む細胞内で、ゲノムレベルでDNA配列をインビトロで反転させる方法であって、
i. 請求項4~16のいずれか一項記載の第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程であって、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素が、前記第1のリコンビナーゼ酵素のDNAリコンビナーゼとして触媒活性を不活性化する少なくとも1つの変異を含み、前記第1のリコンビナーゼ単量体が、リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位を特異的に認識する、前記工程;
ii. 請求項4~16のいずれか一項記載の第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程であって、ここで、前記第2のリコンビナーゼ酵素が、前記第2のリコンビナーゼ酵素のDNAリコンビナーゼとして触媒活性を不活性化する少なくとも1つの変異を含み、前記第2のリコンビナーゼ単量体が、リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位を特異的に認識する、前記工程;
iii. 前記第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び前記第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングすることによって発現ベクターを作製する工程;
iv. 反転させる予定のDNA配列、工程iii)の発現ベクター、又は請求項4~16のいずれか一項記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素をコードするRNA分子を含む細胞に前記発現ベクターを送達する工程;
v. 請求項4~16のいずれか一項記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素を発現させる工程;
vi. 前記細胞内で発現させた請求項4~16のいずれか一項記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素を用いて、前記細胞内のヒト染色体上で反転させる予定のDNA配列を反転させる工程
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概してゲノム編集の分野に関し、ゲノム標的配列を偏性DNAリコンビナーゼ酵素で効率的かつ特異的に組換えるDNAリコンビナーゼを提供する。より具体的には、本発明は、効率的かつ特異的なゲノム編集のための遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼであって、リコンビナーゼの偏性複合体を含み、前記複合体が少なくとも第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも第2のリコンビナーゼ酵素を含み、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、DNAリコンビナーゼのDNA認識部位の上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、触媒部位に少なくとも1つの変異を含み、触媒部位に前記少なくとも1つの変異を保有する前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの同じ触媒活性を示さず、前記リコンビナーゼの偏性複合体ではDNAリコンビナーゼとしての触媒活性が補完される、前記DNAリコンビナーゼを提供する。本発明はまた、ヒトX染色体上のint1h領域に存在するDNA配列の組換えを触媒するリコンビナーゼの偏性複合体を開示する。本発明はさらに、前記遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼ及び偏性複合体をコードする核酸分子、並びに前記遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼ及び偏性複合体及び核酸分子のゲノム編集における使用に関する。さらに、本発明は、前記偏性DNAリコンビナーゼを生成する方法を提供する。
【0002】
本出願に至るプロジェクトは、欧州連合のHorizon 2020研究とイノベーションプログラム(grant agreement No 742133)の下でEuropean Research Council (ERC)から資金を受けた。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ゲノム操作は、生物医学研究においてますます重要な技術になりつつある。今日の遺伝子編集の分野における主な手法は、後に細胞修復経路によって補正される、関心のある遺伝子座でのヌクレアーゼ媒介性二本鎖切断(DSB)の導入である。プログラム可能なヌクレアーゼには4種類あり、標的DNA配列認識の様式に基づいて2つのグループに分けることができる。メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)及び転写活性化因子様ヌクレアーゼ(TALEN)は、タンパク質-DNA相互作用を用いてヌクレアーゼを特異的遺伝子座に導くが、クラスターを形成し、規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート結合(clustered, regularly interspaced, short-palindromic repeat-associated (CRISPR))エンドヌクレアーゼは、RNA-DNA相互作用を用いてそれを指示する(34、35)。プログラム可能なヌクレアーゼは、治療適用の候補であり、それらのうちのいくつかは既に臨床試験中である(36、37、38)。
【0004】
しかし、プログラム可能なヌクレアーゼの主な課題の1つは、予測不可能な配列の再配列のリスクである。導入されたDSBは、主に非相同末端結合(NHEJ)又は相同性指向性修復(HDR)を用いて細胞によって修復される。配列は標的と一致する第2の対立遺伝子又はドナー配列からコピーされるので、HDRによる修復は正確であり、ゲノム安定性を維持する。しかし、HDRは主にDNA複製中に活発であり、ほとんどの細胞においてNHEJ事象はHDRを上回る。NHEJはエラーが発生しやすい修復機構であり、修復されたDNA断片における挿入及び欠失(インデル(indel))につながる。これは、遺伝子配列の変更による有害事象をもたらし得る(34; 39、40)。
【0005】
ゲノム操作に広く使用されている代替ツールには、チロシンリコンビナーゼファミリーの部位特異的リコンビナーゼ(SSR)が含まれる。チロシンSSRは、補助因子なしで完全な組換え反応を行うため、細胞DNA修復経路に依存しないので、プログラム可能なヌクレアーゼを上回るかなりの利点を有する(2)。これにより、非常に特異的で、予測可能で正確なゲノム編集事象につながり、それらを治療適用にとって魅力的なものにさせる。
【0006】
最も一般的に使用されるSSRの1つは、loxP標的部位間のDNAの組換えを厳密に触媒するホモ四量体を形成するチロシン部位特異的リコンビナーゼ(SSR)のCreである(1)。loxP配列は、組換えが生じる8bpスペーサーに隣接する2つの13bpのパリンドローム半部位で構成される(図1A)。Cre/loxPシステムは、オルソロガス宿主におけるその精度及び頑強性のために、ゲノム改変に一般的に使用される(2)。しかし、生物にわたるCre/loxPの適用は、loxP標的配列を宿主ゲノムに事前に導入する必要があり、これは、時間がかかり、面倒であり得る(3、4)。この制限を克服し、SSRの使用を広げるために、指向性分子進化を利用して、宿主ゲノム内に天然に存在する所定の(擬似)対称DNA標的部位に対するDNA特異性が変更されたCre変異型を生成する(5~10)。この手法の実用性は、進化したCre型酵素のTreが生成され、ヒトゲノムからHIV-1プロウイルスDNAを特異的に認識して切り出したことで最初に実証された(7)。Tre及び他の進化したSSRは、部位特異的リコンビナーゼが広範囲の治療用途に適合される可能性を表す(8、11、12)。
【0007】
非対称部位(5、9、10)を含む、ある範囲のDNA基質で組換えることができる新規SSRの操作は大幅に進歩した(13~15)。非対称標的部位の組換えは、最初に、人工非対称loxP-loxM7部位間の組換えを一緒に触媒する野生型Cre分子と変異体Cre分子の共発現によって実証され、操作されたヘテロ特異的SSRが生成され得る概念実証が証明された(5)。この一般的な原理は、近年、ヒトゲノムにおいて天然に存在する非対称標的配列間の組換えを2つの進化させたCre変異型を組み合わせることによって達成するために拡張されてきた(9)。それぞれ固有の半部位特異性を有するCre型分子は、最初に、それらのそれぞれの対称部位における指向性進化を経て生成された。次いで、別々の変異型を一緒に発現させて、所望の非対称ヒト標的部位に隣接するDNA断片を特異的に切り出すことができる機能性ヘテロ四量体が形成された(9)。より最近では、この手法は、遺伝的ヒト障害を引き起こす染色体反転を補正するために適用可能であることが実証されている(10)。ヒトX染色体上に位置する非対称loxF8配列を標的とする2つのデザイナーリコンビナーゼを組み合わせることによって、Lansingらの文献は、ヘテロ四量体(D7)が、患者由来の細胞において第VIII因子発現を再確立するためにゲノムint1h反転を効率的に補正することができることを示した(10)。D7 SSRは、2つの固有のCre型サブユニットのD7L及びD7Rで構成され、それぞれがそれらの対応する半部位loxF8L及びloxF8Rに結合するように進化している。
【0008】
しかし、異なる標的特異性を有する2以上のリコンビナーゼを使用することは、本質的にリスクを伴う。異なる特異性を有するいくつかのCre由来リコンビナーゼを使用することによって、非標的部位で組換え事象を引き起こす可能性があるホモ四量体を含む、望ましくない機能的複合体へのサブユニットアセンブリの可能性が増加する。これらの潜在的なオフターゲット効果を軽減するために、ヘテロ四量体の形成のみを保証する手法は、治療用途におけるそれらの安全性を高めるために重要である(10)。以前に、ホモ四量体形成の防止は、異なるリコンビナーゼ単量体間のタンパク質間相互作用界面に関与するいくつかの残基の構造誘導再設計によって達成された(16)。したがって、偏性SSRシステムを生成するこの手法は、利用可能な結晶構造を有する酵素に限定され、したがって、操作された又は遠縁のリコンビナーゼに容易に適応可能ではない。
【0009】
WO 2021/110846は、少なくとも第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含むリコンビナーゼの複合体を含む効率的かつ特異的なゲノム編集のための融合タンパク質であって、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、オリゴペプチドリンカーを介して相互接続されている融合タンパク質を開示している。これらの融合タンパク質の効率は、リンカーの特性に依存する。
【0010】
米国特許第10,017,832 B2号は、DNAリコンビナーゼ単量体間のタンパク質間の界面にいくつかの変異を導入して、いわゆる偏性ヘテロ四量体複合体を形成することによって生成されたDNAリコンビナーゼを開示している。しかし、この手法は、リコンビナーゼ酵素の各々にいくつかの変異を導入するための広範な取り組みを必要とし、また、偏性ヘテロ四量体複合体の形成を可能にするための変異を含まない野生型酵素と比較して、それらのリコンビナーゼ活性の減少につながるという欠点を有する。加えて、標的残基は、関連するリコンビナーゼにおいて十分に保存されていないので、他の天然に存在する酵素の偏性バージョンを作製するのは簡単ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
(発明の概要)
したがって、本発明の課題は、先行技術の欠点を克服し、改良された特性、特に、効率的な組換え事象を可能にする触媒活性、特異性の増加及び/又は非標的部位すなわちオフターゲット部位での活性の低下を可能にする触媒活性を有するリコンビナーゼの複合体を提供することである。
【0012】
この問題は、効率的かつ特異的なゲノム編集のための遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼであって、リコンビナーゼの偏性複合体を含み、前記複合体が少なくとも第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも第2のリコンビナーゼ酵素を含み、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、それらの触媒領域に少なくとも1つの変異を含み、前記少なくとも1つの変異を保有する前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さず、前記リコンビナーゼの偏性複合体ではDNAリコンビナーゼとしての触媒活性が補完される、前記DNAリコンビナーゼを提供することによって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、例えば、米国特許第10,017,832 B2号に開示されているように、DNAリコンビナーゼ単量体間のタンパク質間の界面の再設計に基づくものではない。先行技術とは対照的に、第1のリコンビナーゼ酵素の触媒領域及び第2のリコンビナーゼ酵素の触媒領域における少なくとも1つの変異は、リコンビナーゼ酵素間又はDNA結合領域内のタンパク質間相互作用に関与する領域には存在せず、それによって、タンパク質間複合体形成及び標的認識との望ましくない干渉を回避する。有利には、本発明のリコンビナーゼ複合体は、正しいサブユニットが一緒になり、それらの触媒活性を相互補完し、それによって活性複合体を形成したときにのみ、所望の標的部位で活性になる。
【0014】
好ましくは、前記少なくとも1つの変異は、第1のリコンビナーゼ酵素のタンパク質配列中のアミノ酸の置換及び第2のリコンビナーゼ酵素のアミノ酸配列中のアミノ酸の置換につながるアミノ酸置換の形態の点変異である。最も好ましくは、少なくとも1つの点変異は、それぞれのリコンビナーゼの触媒領域における単一アミノ酸置換である。好ましい実施態様によれば、第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素は、同じ位置又は同種の点変異を有していない。同じ種類の点変異を有していないということは、変異が第1及び第2のリコンビナーゼにおいて同じ位置にある場合、第1のリコンビナーゼ中のこの位置のアミノ酸と置換された第1のアミノ酸は、第2のリコンビナーゼ中のこの位置のアミノ酸と置換された第2のアミノ酸と異なるという意味である。
【0015】
チロシン部位特異的リコンビナーゼは、治療可能性がかなり高い多用途ゲノム編集ツールを表す。標的部位の柔軟性を改善するために、SSRを操作して、ヘテロ四量体に進化させる最近の開発によって、ゲノム編集におけるそれらの幅広い用途に向けた重要な工程が示された。しかし、チロシン部位特異的リコンビナーゼの単量体は、細胞内の異なるホモ及びヘテロ四量体の組み合わせを形成し、それらのオフターゲットの可能性を高める傾向がある。したがって、本発明は、触媒作用に関与する残基をターゲティングし、チロシン部位特異的リコンビナーゼの単純な偏性システムにつながる2ペアの変異を提供する。ペアの変異が各リコンビナーゼサブユニット(例えば、第1及び第2のリコンビナーゼ酵素)上で単一変異として適用される場合にのみ、操作されたチロシン部位特異的リコンビナーゼは、意図された標的配列を効率的に組換えることができるが、点変異を保有する単量体は、単独で発現させた場合に不活性である。ヒト細胞における治療標的に対するデザイナーリコンビナーゼの組換え特異性を改善するためのチロシン部位特異的リコンビナーゼの偏性システムの有用性が、本明細書で実証される。さらに、該変異は、それらの適用される特性を改善するための簡単な手法を提供するCre、Vika、Panto、Dreなどの特定の天然に存在するチロシン部位特異的リコンビナーゼを偏性にさせることが示されている。本発明は、安全で効果的な治療用デザイナーリコンビナーゼの開発、及びチロシン部位特異的リコンビナーゼによる触媒作用の機構的理解の推進に寄与する。したがって、望ましくない副反応、すなわち、オフターゲット組換え事象を効果的に回避することができる。遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼの標的特異性は、先行技術で知られている手法と比較してさらに高まっている。
【0016】
単量体間の界面の変異の欠点(例えば、米国特許第10,017,832 B2号に開示されている)は、野生型酵素と比較して、操作されたリコンビナーゼの組換え活性が低下していることである。それとは対照的に、触媒部位に少なくとも単一変異を含む本発明の操作されたリコンビナーゼは、そのような組換え活性の喪失を示さない。上述の大幅に改善された標的特異性を伴う本発明の操作されたリコンビナーゼの組換え活性は、野生型酵素の組換え活性と同程度であることが本明細書で実証される。
【発明の効果】
【0017】
一態様によれば、本発明は、ゲノム編集のための偏性DNAリコンビナーゼを生成する方法であって、
i. 第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素が、非対称リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位に結合し、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、非対称リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位に結合し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、DNA配列中の前記非対称リコンビナーゼ標的部位において関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができるヘテロ二量体を形成し、前記非対称リコンビナーゼ標的部位は、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を含み、前記第1の半部位及び第2の半部位は同一ではなく、パリンドロームでもない;
ii.第1の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーを作製するために変異誘発を行う工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素に変異が導入される;
iii. 第1の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーと第2の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーを発現ベクターにクローニングすることにより発現ベクターを作製する工程、ここで、前記発現ベクターは、組換えられる関心のあるDNA配列を保有している;
iv. 工程iii)の発現ベクターで細胞をトランスフェクトし、前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素のライブラリーを同じ細胞内で発現させることにより、第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素を含むリコンビナーゼヘテロ二量体を形成する工程;
v. DNA中の非対称リコンビナーゼ標的部位で関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができる、工程ivで得られたヘテロ二量体についての陽性選択スクリーニングを行う工程;
vi. オフターゲット部位、好ましくは、DNA中の対称リコンビナーゼ標的部位で関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができない、工程iv又はvで得られたヘテロ二量体についての陰性選択スクリーニングを行う工程;及び
vii. DNAリコンビナーゼの上流の標的部位及び/又は下流の標的部位の第1の半部位と第2の半部位とを含むDNA中のリコンビナーゼ標的部位で関心のあるDNA配列を組換えることができる偏性DNAリコンビナーゼであって、ここで、前記第1の半部位と前記第2の半部位とは同一ではなく、パリンドロームでもなく;かつ、オフターゲット部位、好ましくは、DNA中の対称リコンビナーゼ標的部位で関心のあるDNA配列を組換えることができない偏性DNAリコンビナーゼを選択する工程
を含み、ここで、工程viiで得られた前記偏性DNAリコンビナーゼにおいて、前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素は、それぞれ単独で発現させた場合に、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素を触媒的に不活性にさせる少なくとも1つの変異を触媒部位に含む、前記方法を提供する。
【0018】
好ましい実施態様によれば、偏性DNAリコンビナーゼは、DNA配列の組換えのためのものである。
【0019】
一実施態様によれば、工程ii~viによる第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素は、基質結合指向性進化(SLiDE)又は指向性進化によって進化している。
【0020】
さらなる実施態様によれば、工程v及びviによる選択は、非対称標的部位で触媒活性のある偏性ヘテロ二量体の選択(陽性選択)の間と、オフターゲット部位、好ましくは対称標的部位で触媒活性のないヘテロ二量体の間で繰り返される。
【0021】
さらなる態様によれば、本発明は、ゲノム編集のための遺伝子操作されたDNA組換え酵素であって、リコンビナーゼの偏性複合体を含み、前記複合体が少なくとも第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも第2のリコンビナーゼ酵素を含み、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、触媒部位に少なくとも1つの変異を含み、触媒部位に前記少なくとも1つの変異を保有する前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さず、前記リコンビナーゼの偏性複合体ではDNAリコンビナーゼとしての触媒活性が補完される、前記DNA組換え酵素を提供する。
【0022】
好ましい実施態様によれば、前記第1の半部位と前記第2の半部位は、同一ではなく、パリンドロームでもない。
【0023】
さらなる好ましい実施態様によれば、遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、本発明によるゲノム編集のための偏性DNAリコンビナーゼを生成する方法によって得られる。
【0024】
一実施態様によれば、少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼは、同じ種類のものである。好ましくは、少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼは両方とも、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-又はPanto-リコンビナーゼである。
【0025】
さらなる実施態様によれば、該DNA組換え酵素は、ヘテロ四量体の形態のリコンビナーゼの複合体である。
【0026】
別の実施態様によれば、少なくとも1つの変異は、リコンビナーゼの触媒領域における単一アミノ酸置換である。好ましくは、少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼ酵素中の前記単一アミノ酸置換は、触媒領域内の保存されたアミノ酸の位置にある。
【0027】
好ましい実施態様によれば、本発明は、少なくとも第1のDNAリコンビナーゼ酵素と少なくとも第2のDNAリコンビナーゼ酵素の複合体を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素であって、前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素が、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、それらの触媒部位に単一アミノ酸置換を含み、前記単一アミノ酸置換を保有する前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さず、前記単一アミノ酸置換を保有する前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素は、共発現して複合体を形成すると、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示す、前記DNA組換え酵素を提供する。
【0028】
一実施態様によれば、第1のDNAリコンビナーゼの触媒領域における少なくとも1つの変異すなわち単一変異は、第2のDNAリコンビナーゼの触媒領域における少なくとも1つの変異すなわち単一変異とは異なる。
【0029】
別の実施態様によれば、本発明は、本発明のDNA組換え酵素であって、
(i)第1のリコンビナーゼ酵素はCreリコンビナーゼを含み、第2のリコンビナーゼ酵素はCreリコンビナーゼを含み、各Creリコンビナーゼは、配列番号109~配列番号114からなる群から選択されるアミノ酸領域内に単一アミノ酸置換を含み;
(ii)第1のリコンビナーゼ酵素はVikaリコンビナーゼを含み、第2のリコンビナーゼ酵素はVikaリコンビナーゼを含み、各Vikaリコンビナーゼは、配列番号115~配列番号120からなる群から選択されるアミノ酸領域内に単一アミノ酸置換を含み;
(iii)第1のリコンビナーゼ酵素はDreリコンビナーゼを含み、第2のリコンビナーゼ酵素はDreリコンビナーゼを含み、各Dreリコンビナーゼは、配列番号121~配列番号126からなる群から選択されるアミノ酸領域内に単一アミノ酸置換を含み;又は
(iv)第1のリコンビナーゼ酵素はPantoリコンビナーゼを含み、第2のリコンビナーゼ酵素はPantoリコンビナーゼを含み、各Pantoリコンビナーゼは、配列番号127~配列番号132からなる群から選択されるアミノ酸領域内に単一アミノ酸置換を含む、
本発明のDNA組換え酵素を提供する。
【0030】
一実施態様によれば、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、単量体間の界面変異を含まない。
【0031】
別の実施態様によれば、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、天然に存在する部位特異的リコンビナーゼの変異体又はデザイナーDNAリコンビナーゼの変異体である。
【0032】
好ましい実施態様によれば、少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼ酵素における少なくとも1つの変異又は単一アミノ酸置換は、配列番号1のE129R、Q133H、R173A、R173C、R173D、R173E、R173F、R173G、R173I、R173K、R173L、R173M、R173N、R173P、R173Q、R173S、R173T、R173V、R173W、R173Y、E176H、E176I、E176L、E176M、E176V、E176W、E176Y、K201A、K201C、K201C、K201D、K201F、K201G、K201H、K201I、K201L、K201M、K201N、K201P、K201Q、K201R、K201S、K201T、K201V、K201W、K201Y、H289D、H289E、H289I、H289K、H289R、H289W、R292A、R292C、R292E、R292F、R292G、R292H、R292I、R292L、R292M、R292N、R292P、R292Q、R292S、R292T、R292V、R292W、R292Y、Q311R、W315C、W315E、W315G、W315I、W315K、W315L、W315M、W315N、W315Q、W315R、W315S、W315T、W315V、Y324A、Y324C、Y324E、Y324F、Y324H、Y324I、Y324K、Y324L、Y324M、Y324N、Y324Q、Y324R、Y324S、Y324T、Y324V、及びY324Wからなる群から選択されるか、又は別のリコンビナーゼの対応するアミノ酸位置、好ましくは配列番号14、配列番号17又は配列番号20の対応する位置にある。
【0033】
さらなる好ましい実施態様によれば、少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼ酵素における少なくとも1つの変異又は単一アミノ酸置換は、
(i)配列番号1のE129、Q133、R173、E176、K201、H289、R292、Q311、W315、及びY324;
(ii)配列番号14のE146、Q151、R191、N194、K219、H308、R311、Q330、W334、及びY343;
(iii)配列番号17のE130、Q134、R174、E177、K202、H290、R293、Q312、W316、及びY325;
(iv)配列番号20のE131、Q135、R175、E178、K202、H290、R293、Q312、W316、及びY325;
からなる群から選択される位置、又は
(v)別のリコンビナーゼ中のアミノ酸位置
にあり、ここで、他のリコンビナーゼ中の前記アミノ酸位置は、配列番号1の位置E129、Q133、R173、E176、K201、H289、R292、Q311、W315、又はY324に対応する。
【0034】
一実施態様によれば、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、単量体間の界面変異を含まない。
【0035】
別の実施態様によれば、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、天然に存在する部位特異的リコンビナーゼの変異体又はデザイナーDNAリコンビナーゼの変異体である。
【0036】
好ましい実施態様によれば、前記第1のリコンビナーゼ酵素は、配列番号1、2又は7の変異K201R、配列番号18又は21のK202R、配列番号15の変異K219R、及び配列番号24の変異K221Rからなる群から選択される変異を含み、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号4又は11の変異Q311K、配列番号5又は12の変異Q311R、配列番号19又は22の変異Q312R、配列番号16の変異Q330R、及び配列番号25の変異Q336Rからなる群から選択される変異を含む。
【0037】
一実施態様によれば、前記リコンビナーゼ標的部位は、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-及びPanto-リコンビナーゼなどのチロシン部位特異的リコンビナーゼの標的部位であり、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、
・第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素、ここで、第1のリコンビナーゼ酵素は、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒部位に単一変異K201Rを含むポリペプチドであり;第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号11に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒部位の位置Q311Rに単一変異を含むポリペプチドであり;
・第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素、ここで、第1のリコンビナーゼ酵素は、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒部位に単一変異K201Rを含むポリペプチドであり;第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号12に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒部位に単一変異Q311Kを含むポリペプチドであり;
・Creリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K201Rを有し、配列番号2に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素を含み、かつその触媒部位に単一変異Q311Rを有し、配列番号5に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Creリコンビナーゼ;
・Creリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K201Rを有し、配列番号2に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素を含み、かつその触媒部位に単一変異Q311Kを有し、配列番号4に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Creリコンビナーゼ;
・Vikaリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K219Rを有し、配列番号15に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素を含み、かつその触媒部位に単一変異Q330Rを有し、配列番号16に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Vikaリコンビナーゼ;
・Pantoリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K202Rを有し、配列番号18に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素を含み、かつその触媒部位に単一変異Q312Rを有し、配列番号19に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Pantoリコンビナーゼ;
・Dreリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K202Rを有し、配列番号21に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素を含み、かつその触媒部位に単一変異Q312Rを有し、配列番号22に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Dreリコンビナーゼ;
・Vcreリコンビナーゼであって、その触媒部位に単一変異K221Rを有し、配列番号24に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素を含み、かつその触媒部位に単一変異Q336Rを有し、配列番号25に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む、前記Vcreリコンビナーゼ
からなる群から選択される。
【0038】
別の実施態様によれば、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、核酸配列:
【化1】
又はその逆相補配列を有するloxF8標的部位の上流のリコンビナーゼ標的配列を特異的に認識し、核酸配列:
【化2】
又はその逆相補配列を有するloxF8標的部位の下流のリコンビナーゼ標的配列を特異的に認識し、これは、loxF8リコンビナーゼ標的部位の配列番号65の上流リコンビナーゼ標的部位配列と配列番号66の下流リコンビナーゼ標的部位配列との間の遺伝子配列の組換えを触媒し、loxF8リコンビナーゼ標的部位の配列番号65の上流リコンビナーゼ標的配列と配列番号66の下流リコンビナーゼ標的配列との間の遺伝子配列の組換えを触媒する能力は、
a)細胞内の第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素を発現させる工程;及び
b)工程a)で発現させた遺伝子操作されたDNA組換え酵素が、前記細胞内のヒト染色体上のDNA配列を組換えることができるかどうかを分析する工程
を含む方法によって試験される。
【0039】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素又はそのサブユニットをコードする核酸配列を各々が含むか又はそれからなる核酸分子又は複数の核酸分子を提供する。
【0040】
さらに別の態様によれば、本発明は、本発明による核酸分子又は複数の核酸分子、及びその発現を促進するための、前記核酸と作用可能に結合された発現制御エレメントを含む発現ベクターを提供する。
【0041】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明による核酸分子若しくは複数の核酸分子又は本発明による核酸分子を含む発現ベクターを含む哺乳動物、昆虫、植物若しくは細菌の宿主細胞を提供する。
【0042】
さらに別の態様によれば、本発明は、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素又は本発明の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は本発明の発現ベクター、又は本発明の細胞を含む医薬組成物を提供する。任意に、該医薬組成物は、1以上の治療上許容される希釈剤又は担体をさらに含む。
【0043】
さらなる態様によれば、本発明は、医薬に使用するための、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は本発明による核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は本発明による発現ベクター、又は本発明による医薬組成物を提供する。
【0044】
さらに別の態様によれば、本発明は、血友病Aの治療に使用するための、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は本発明による核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は本発明による発現ベクター、又は本発明による医薬組成物を提供する。好ましい実施態様によれば、治療は、重症血友病Aの治療である。
【0045】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素を含む細胞内で、ゲノムレベルでDNA配列をインビトロで反転させる方法であって、
i. 本発明の第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素は、前記第1のリコンビナーゼ酵素のDNAリコンビナーゼとして触媒活性を不活性化する少なくとも1つの変異を含み、前記第1のリコンビナーゼ単量体は、リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位を特異的に認識する;
ii. 本発明の第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、前記第2のリコンビナーゼ酵素のDNAリコンビナーゼとして触媒活性を不活性化する少なくとも1つの変異を含み、前記第2のリコンビナーゼ単量体は、リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位を特異的に認識する;
iii. 第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子と第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングすることによって発現ベクターを作製する工程;
iv. 反転させるDNA配列、工程iii)の発現ベクター、又は本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素をコードするRNA分子を含む細胞に前記発現ベクターを送達する工程;
v. 本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素を発現させる工程;
vi. 前記細胞内で発現した本発明の前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素を用いて、前記細胞内のヒト染色体上で反転させる予定のDNA配列を反転させる工程
を含む、前記方法を提供する。
【0046】
好ましい実施態様によれば、前記細胞はヒト生殖細胞ではない。
【0047】
さらなる態様によれば、本発明は、疾患を治療又は予防する方法であって、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は本発明による核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は本発明による発現ベクター、又は本発明による宿主細胞、又は本発明による医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記方法を提供する。
【0048】
さらなる態様によれば、本発明は、血友病Aを治療又は予防する方法であって、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は本発明による核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は本発明による発現ベクター、又は本発明による宿主細胞、又は本発明による医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含み、任意に、血友病Aは重症血友病Aである、前記方法を提供する。
【0049】
さらなる態様によれば、本発明は、細胞における標的DNA配列の組換えのための方法であって、
(a)本発明による第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子;並びに/又は
(b)本発明による第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素
を、該細胞内に導入することによって、該細胞内の標的DNA配列を組換えることを含む、前記方法を提供する。
【0050】
好ましい実施態様によれば、第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び/又は第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子は、mRNAである。
【0051】
実施態様によれば、第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び/又は第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子は、発現ベクターである。
【0052】
本発明のさらなる態様及び実施態様は、添付の特許請求の範囲及び以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
(図面の簡単な説明)
図1図1は、ヘテロ特異的D7リコンビナーゼのタンパク質間の界面の変更を示す。(A)関連するSSR標的部位のヌクレオチド配列。loxF8、loxF8L及びloxF8Rは、それぞれD7L及びD7Rリコンビナーゼの標的配列を表す。強調表示は、いくつかの特徴(太字-loxP部位に対する違い、下線-loxF8部位の非対称残基)を表す。(B)標的部位loxF8、loxF8L及びloxF8R(基質)上のD7L及びD7R(リコンビナーゼ酵素)の共発現の活性を示す細菌アッセイ。組換えは、1つの三角形と並べたバンドによって示され、非組換え事象は、2つの三角形と並べたバンドによって示されている。リコンビナーゼ発現の誘導に使用されるL-アラビノース(μg/mL)の濃度を下部に示す。(C)所望の偏性D7リコンビナーゼ活性の概略図。D7LA3及びD7RB2は、loxF8標的部位でのみヘテロ二量体形成を可能にする必要がある変異を有する。変異は、対称loxF8R及びloxF8L部位におけるD7LA3とD7RB2のホモ二量体形成を防止する必要がある。(D)示された標的部位に対するD7LA3とD7RB2の共発現の組換え活性についての細菌アッセイ。リコンビナーゼ発現の誘導に使用されるL-アラビノース(μg/mL)の濃度を下部に示す。
図2図2は、最初のライブラリーの活性と最終ライブラリーの活性とを比較し、その後に獲得変異の分析を行う選択方法を示す。(A)ライブラリーに陽性選択圧をかけ、loxF8部位で活性なリコンビナーゼを選択し、陰性選択圧をかけて、対称loxF8L又はloxF8R部位で活性のない変異型(Xで示されている)を選択する選択スキーム。(B)標的部位(基質)loxF8、loxF8L及びloxF8Rにおける最初のライブラリー(ISOR法をD7リコンビナーゼ配列に適用することによって作製した標的ライブラリー)及び最終ライブラリー(26ラウンドの進化及び選択圧の後のライブラリー)の活性を示す細菌アッセイ。リコンビナーゼ発現の誘導に使用されるL-アラビノース(μg/mL)の濃度を下部に示す。(C)D7配列と比較してアミノ酸位置が変異した回数の量を配列の総量で割って計算した変異頻度。D7L及びD7Rのアミノ酸位置をx軸に沿ってプロットし、全ての配列のパーセントとしての変異頻度をy軸に沿ってプロットしている。20%を超える変異頻度を有する位置を表示している。配列決定読み取り情報のバックグラウンドが高いため、D7Rのプロット位置は6番目のアミノ酸位置から始まる。(D)非対称部位loxF8並びに対称部位loxF8L及びloxF8R上での単離したD7単量体の活性。(E)非対称部位loxF8及び対称部位loxF8L及びloxF8R上でのヘテロ二量体D7LK201R+D7RQ311Rと比較したD7の活性。L-アラビノース(μg/ml)の誘導レベルを下部に沿って列挙した。
図3図3は、哺乳動物細胞における偏性D7活性を示す。(A)mRNA発現コンストラクト及びレポーターHEK293T細胞株の模式図である。リコンビナーゼ又はBFPと共にNLSを発現するmRNAでのHEK293T細胞の同時トランスフェクション。HEK293T細胞内でのloxF8組込みレポーターコンストラクトの模式図である。loxF8部位は、ピューロマイシン選択遺伝子に隣接している。組換え(切り出し)が成功した後、mCherryはSFFVプロモーターから発現する。(B)示されたリコンビナーゼでトランスフェクトしたレポーターHEK293T細胞の代表的な明視野とmCherry蛍光画像。100μmスケールバーが示されている。(C) FACSによって分析し、BFPを含む全細胞に対するmCherry発現細胞の割合によって示される組換え効率。*BFPに対して正規化した。(D)ゲノム反転検出PCRのスキーム。リコンビナーゼmRNAのトランスフェクションの48時間後に、HEK293T細胞から抽出したゲノムDNAで、2つのPCRプログラムを並行して実行した。WTの向きは、プライマーによって生成される増幅産物によって示されている。反転される向きも、プライマーによって示されている。(E)PCRの結果は、上部が未処理の細胞で、下部の列がmRNAでトランスフェクトした細胞を示す。対照は、リコンビナーゼmRNAではなくBFPでトランスフェクトしたHEK293T細胞(未処理)、エクソン1の反転(反転-Ctrl)を保有する患者のiPSC、反転していない増幅産物(WT-Ctrl)及び水からなる。(F) loxF8Lに対して高い配列類似性を有するヒトゲノム中の予測されるオフターゲット部位の配列(HG1L及びHG2L)とloxF8Rに対して高い配列類似性を有するヒトゲノム中の予測されるオフターゲット部位の配列(HG1R及びHG2R)。(G)予測されるヒトオフターゲット部位におけるD7K201R+D7RQ311Rの活性と比較したD7の組換え活性。
図4図4は、追加のリコンビナーゼシステムへの偏性変異の広範な適用を示す。(A)変異サブユニットCreK201RとCreQ311Rの両方で構成されるヘテロ二量体としてloxP上で発現するか、又はCreK201R若しくはCreQ311Rの単一変異サブユニットとして単独でloxP上で発現した偏性変異を有するCreと比較した細菌におけるCreの組換え活性。(B) 1つのサブユニット中のK291R及び第2の変異サブユニット中のQ330Rの偏性関連変異を有するVikaと比較した細菌におけるVikaの組換え活性。最初に、両方のVika変異体を、vox上で一緒に発現させるか、又はvox上でVikaK219R若しくはVikaQ330Rの変異サブユニットとして単独で発現させる。(C)mRNA発現コンストラクトとHEK293T loxPレポーター細胞株。(D) HEK293Tの明視野と蛍光mCherry細胞画像。(E) HEK293T細胞におけるCre/loxPと偏性Creサブユニットの組み合わせの組換え効率。一緒に発現させたCreK201RとCreQ311R、次いで、他の変異体の単独で発現させたサブユニットCreK201R及びサブユニットQ311R。BFPに対して正規化した組換えの割合。
図5図5は、Cre及び調べた変異体の構造の詳細を示す。(A)Cre複合体(PDBID 3C29)のMD洗練した構造。1つのDNA loxP分子が、2つのCre単量体(それぞれ活性(A)及び不活性(I))と共に複合体中に示されている。残基K201及びQ311は球として描かれている。(B)上の鎖(TS、配列番号51)及び下の鎖(BS、配列番号139)を有するloxP配列が表示されている。矢印は、それぞれのDNA鎖中の触媒チロシン(Y324)による攻撃点を示し、最初の切断は上矢印で示されている。スペーサー領域内の塩基がラベルされている。(C)~(F)Creと変異体CreK201R(A)-K201R(I)/loxP(C)、CreQ311R(A)-Q311R(I)/loxP(D)、CreK201R(A)-Q311R(I)/loxP(E)及びCreQ311R(A)-K201R(I)/loxP(F)の(シミュレーションの最後の50ナノ秒から取得した)MD洗練した構造の重ね合わせ。変異体構造では、活性(A)及び不活性(I)の単量体がそれぞれ図の左側及び右側に示されており、DNAが示されている。関連残基の側鎖は、丸と棒で示され、番号が付けられている。分子間のH結合は破線で示されている。CreQ311R(A)-Q311R(I)の活性単量体中のH289とloxP中のA4’TSのリン酸基との間のH結合の欠如は、それらの原子を指す2つの矢印で強調されている(パネルD)。明確にするために、透明にして漫画的に表現されている。チェック記号及びバツ記号は、活性対不活性変異体を示す。(G)変異K201及びQ311を有する単量体を含む二量体の組換え試験の結果。
図6図6は、組換え活性を可視化するためのプラスミド系アッセイを示す。関心のあるリコンビナーゼ又はリコンビナーゼライブラリー及び標的部位を運ぶベクター。組換え時に、lox部位に隣接する750 bpの断片が切り出される。タンパク質をコードする遺伝子は矢印で、複製起点(oriP15A)とpBADプロモーターは長方形で、標的部位は三角形で示されている。タンパク質をコードする遺伝子は、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cmR)、アラビノース調節タンパク質(araC)、及びリコンビナーゼ(複数可)又は関心のあるライブラリーをコードする遺伝子を含む。制限酵素部位は点線で示されている。NdeI及びAvrIIは、組換えられたベクターを選択するために使用される。SacI及びSbfIは、プラスミドが組換えられていないか又は組換えられているかどうかを可視化するために使用される。これらの酵素は、リコンビナーゼを含有する2.2KB断片と、プラスミドが組換えられていない場合には5KB又は組換えられた場合には4.2KBの断片をそれぞれ切り出す。
図7図7は選択戦略を示す。(A)基質結合指向性進化のために改変された陽性選択スキーム。loxF8標的部位で活性のない変異型は、精製プラスミドをNdeI/AvrIIで消化することによってライブラリーから除去され、組換えを受けていないプラスミドを直鎖にする。次いで、活性変異型を、プライマーF及びR1並びにエラーを起こしやすいTaqポリメラーゼを用いて増幅して、変異を加え、該変異型を次の進化サイクルにまわす。(B) loxF8L又はloxF8Rの対称部位を組換えることができる変異型を除去するために改変された陰性選択スキーム。ここでは、両方の部位について同じ状態である選択方法のため、loxF8L部位のみが示されている。変異型を対称部位間に結合するプライマーF及びR2で増幅し、組換えられないもののみを増幅する。Taqポリメラーゼを用いて、変異を加え、該変異型を次の進化サイクルにまわす。
図8図8は、ライブラリーの青色-白色スクリーニング及び選択したコロニー試料の活性試験を示す。(A)選択プラスミドは、LacZaの上流の対称部位に隣接する転写ターミネーターを含む。対称部位での組換え時に、転写ターミネーターが切り出されると、構成的catプロモーターによってLacZaの転写が促進される。不活性変異型は、NdeI及びAvrII消化によって除去される。(B)青色コロニーは対称部位で活性のある変異体を含み、したがって、対称部位を組換えず、loxF8部位を組換える変異体を含む白色コロニーを選択する。(C)75個の白色コロニーの試料であり、コロニーPCRによって、1.7KBバンドで、所望の活性プロファイルを有するコロニーが示された。
図9図9は、HEK293Tレポーター細胞株についてのSSRの組換え効率を評価するためのゲーティング戦略を示す。(A) FACSゲーティング戦略。単一細胞は、生細胞からゲーティングされた細胞であった。死細胞をゲートアウトした。単一細胞からBFP+細胞をゲーティングし、最後にmCherry+細胞をゲーティングした。(B)mRNA発現コンストラクト及びレポーターHEK293T細胞株の模式図。リコンビナーゼに融合された核局在化シグナル(NLS)を発現し、示された特徴(5'キャップ及びポリAテール)を有する採用したmRNAとタグBFP mRNAが示されている。安定レポーター細胞株は、ピューロマイシン選択遺伝子(puro)に隣接する2つのloxP部位(三角形)を保有する。組換えによって正常に切り出されると、mCherryがSFFVプロモーター(矢印)から発現する。(C)明視野、BFP、mCherry及び組換えの分布を示すオーバーレイとしての代表的な顕微鏡画像。(D)BFP蛍光がトランスフェクト細胞を示し、mCherry蛍光が、組換えが起きたゲーティングBFP+細胞を示す代表的なmRNAトランスフェクトHEK293Tレポーター細胞株のFACSプロット。
図10図10は、Cre並びに調べたCreK201R及びCreQ311R変異体における水素結合及びファンデルワールス接触のMDベースの分析を示す。(A)MDシミュレーションの最後の100ナノ秒における水素結合及びファンデルワールス占有率。上部パネルは、標識された上の鎖(TS)(配列番号51)及び下の鎖(BS)(配列番号139)を有するloxP配列を示す。(B~F) (B)Cre、(C) CreK201R(A)-K201R(I)、(D) CreQ311R(A)-Q311R(I)、(E) CreK201R(A)-Q311R(I)及び(F) CreQ311R(A)-K201R(I)についてのMDシミュレーションの最後の100ナノ秒の水素結合及びファンデルワールス接触プロファイル。黒色のloxP塩基はスペーサーに対応する。淡灰色及び濃い灰色のloxP塩基は、それぞれ、活性なタンパク質単量体(A)及び不活性なタンパク質単量体(I)と相互作用するものに対応する。活性(A)及び不活性(I)な単量体の相互作用タンパク質残基は、それぞれ、淡灰色及び濃い灰色で列挙されている。H結合形成に関与する残基は太字で強調表示され、ファンデルワールス接触に関与する残基は太字で強調表示されて下線が引かれており、H結合とファンデルワールス接触に関与する残基は、アスタリスクと太字で同時に強調表示されている。Y324認識に関与するリン酸基は、丸で強調表示されている。活性変異体対不活性変異体は、それぞれチェック記号及びバツ記号で強調表示されている。
図11図11は、その標的loxP部位と結合するCre分子のスキームを示す。loxP部位は、非パリンドロームスペーサー(8bp)に隣接する2つの逆方向反復(13 bp)からなる。2つのCre分子は、loxP部位に結合し、それぞれが半部位の一方と結合する。
図12図12は、典型的なチロシンSSR組換え反応のスキームを表す。(A)段階的組換え機構の模式図。4つのリコンビナーゼ分子は、2つのDNA基質に結合し、四量体複合体を形成する(1)。「切断能のある」立体構造のリコンビナーゼは淡灰色で示されており、「非切断」立体構造のリコンビナーゼは濃い灰色で示されている。求核性チロシンは、淡灰色の丸でYとして示され、活性単量体についてのみ示されている。活性化された求核性チロシンは、解離しやすいリン酸(Pとして示されている)を攻撃し、3'-ホスホチロシン結合を形成し、遊離5'OHの放出をもたらす(2)。放出された5'OHは、隣接するホスホチロシンを攻撃し、ホリデイジャンクション中間体を形成し、鎖交換をもたらす(3)。複合体が異性化すると、活性単量体は立体構造を不活性に変化させ、逆もまた同様である(4)。切断及び鎖交換工程を繰り返す(5、6)。(B)組換え反応の可能性のある結果。組換え反応は、標的部位の向き(スペーサー配列)に応じて、DNA断片の切り出し/組込み又は反転をもたらすことができる。標的部位は黒色三角形として示され、それらの指向性は標的部位の向きを示す。(Meinkeらの文献、2016)。
図13図13は、基質loxF8、loxF8L及びloxF8Rでの細菌組換えアッセイによる、偏性触媒活性のあるD7ヘテロ四量体をもたらす変異の組み合わせを示す。リコンビナーゼD7L+-D7R、D7LK201R+D7RQ311R、及びD7LK201R+D7RQ311Kの組換え活性が示されている。
図14図14は、PCRベースの検出方法で可視化された細菌における偏性Dre活性を示す(左のプラスミド)。rox部位でのリコンビナーゼDre、DreK202R+DreQ312R、DreK202R及びDreQ312Rの組換え活性が示されている。
図15図15は、進化及び選択スキームを示す。D7Lリコンビナーゼ中のアミノ酸位置25、29、32及び33並びにD7Rリコンビナーゼ中の位置69、72及び76の多様化を標的とすることによってライブラリーを作製する。2つのライブラリーを、関心のある標的部位を保有する発現ベクターに一緒にクローニングし、次いで、大腸菌を形質転換し、リコンビナーゼを一晩発現させる。得られた組換えプラスミド及び非組換えプラスミドを精製して、選択を開始する。(A)不活性変異型を選択することによって、対称部位での組換えに対する選択を行う。プライマーp4は、標的部位の間に結合し、その部位では不活性変異型のみが増幅される。(B)その部位での活性のある変異型の選択は2段階で生じる。最初に、精製プラスミドを、2つの標的部位の間を切断する制限酵素で消化する。増幅は、活性リコンビナーゼからの生成物のみをもたらすであろう。次いで、所望の活性を有する単離した変異型を、関心のある標的部位を保有するベクターに再びクローニングし、次のサイクルに勧める。各新しいサイクルの選択を、loxF8における活性変異型の選択とloxF8l及びloxF8Rにおける不活性変異型の選択の間でローテーションさせた(例えば、第1サイクルはloxF8における活性変異型について選択し、第2サイクルはloxF8Lにおける不活性変異型について選択し、第3サイクルはloxF8Rにおける不活性変異型について選択する)。
図16図16は、本発明による変異されるDNAリコンビナーゼを調製するために使用される野生型DNAリコンビナーゼのアミノ酸配列のアラインメントを示す。
図17図17は、野生型Creリコンビナーゼ-loxPシナプスの3D構造を示す。切断前の二量体複合体がA)に示されており、黒の強調表示は、偏性Cre様リコンビナーゼにおける高変異頻度の領域を示す。領域には、位置129~136、163~181、289~301、310~316及び321~324が含まれる。B)は、変異が、偏性Cre様リコンビナーゼ(球で示される)をもたらすCre二量体複合体における例示的な位置を示し、これには、位置129、133、173、176、201、289、292、311、315及び324が含まれる。右の単量体サブユニット上の位置はイタリック体で示されている。
図18図18は、単一リコンビナーゼ単量体及びリコンビナーゼ偏性二量体複合体のリコンビナーゼ活性に対する単一点変異とそれらの効果を示す概要である。
図19図19は、6つの触媒部位(ボックスで示されている)からなる、各リコンビナーゼについての触媒領域を示す、Cre、Vika及びDreリコンビナーゼの配列アラインメントである。異なるリコンビナーゼ間の保存されたアミノ酸は、灰色で強調表示されている。
【発明を実施するための形態】
【0054】
(例示的なリコンビナーゼの配列)
以下の表1は、本発明で使用されるリコンビナーゼの配列の例示的な概要を提供する。核酸配列を示す配列番号は、括弧内で引用されており、例えば、配列番号1は、wt Creリコンビナーゼ単量体のアミノ酸配列を示し、配列番号26(括弧内で引用されている)は、配列番号1のCreリコンビナーゼタンパク質をコードするそれぞれの核酸配列を示す。
【0055】
表1:リコンビナーゼのアミノ酸配列と核酸配列
【表1】
【0056】
(一般的な定義)
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「バイオテクノロジー用語の多言語用語集(A multilingual glossary of biotechnological terms):(IUPAC勧告)」, Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. 及びKlbl, H. (編)(1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland)に記載されているように定義される。
【0057】
本明細書及び以下の特許請求の範囲全体で、特に文脈が必要としない限り、単語「含む(comprise)」、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、所定の整数若しくは工程又は整数若しくは工程のグループの包含を暗示するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程のグループを除外するものではないことが理解されよう。
【0058】
本明細書で使用される表現「細胞」、「細胞株」、及び「細胞培養物」は互換的に使用され、そのような名称は全て子孫を含む。そのため、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という言葉は、導入の回数に関係なく初代対象細胞及びそれに由来する培養物を含む。意図的又は偶発的な変異のために、全ての子孫がDNA含有量において正確に同一ではない可能性も理解される。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたのと同じ機能又は生物学的活性を有する変異子孫が含まれる。違う名称が意図される場合には、これは文脈から明らかになるだろう。
【0059】
本明細書で使用される用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、交換可能であり、ペプチド結合によって結合されたアミノ酸で構成された生体分子を意味すると定義される。
【0060】
ペプチド又はアミノ酸配列が本明細書で言及される場合、各アミノ酸残基は、以下の従来のリストに従って、アミノ酸の慣用名に対応する1文字又は3文字の名称で表される:
【表2】
【0061】
本明細書で使用される用語「1つ(a)」、「1つ(an)」及び「その」は、「1以上」を意味すると定義され、文脈が不適切でない限り複数形を含む。
【0062】
数値に関連して使用される用語「約」は、示される数値よりも5%小さい下限を有し、かつ示される数値よりも5%大きい上限を有する範囲内の数値を包含することを意味する。
【0063】
本明細書で使用される用語「及び/又は」は、この用語の文脈で引用されるオプションのうちのいずれか/全てを指すことを意味する。
【0064】
本明細書で使用される用語「少なくとも1つ」は、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は10以上などの、それぞれの項目のうちの1以上を指す。好ましい実施態様によれば、用語「少なくとも1つ」は、ちょうど1つを指す。リコンビナーゼの触媒領域における変異の数に関する特に好ましい実施態様では、用語「少なくとも1つの変異」は、好ましくは、単一変異(特に好ましくは、単一アミノ酸置換)を意味し、触媒領域にさらなる変異はない。
【0065】
本明細書で使用される用語「対象」は、治療、観察又は実験の対象となっている動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを指す。
【0066】
本明細書で使用される用語「治療有効量」は、治療されている疾患又は障害の症状の緩和を含む、研究者、獣医師、医師若しくは他の臨床医によって求められる、組織系、動物若しくはヒトにおいて生物学的応答又は医薬応答を惹起する活性化合物又は医薬剤の量を意味する。
【0067】
本明細書で使用される用語「医薬組成物」は、疾患又は組織の状態の特定、予防又は治療のために使用される物質及び/又は物質の組み合わせを指す。医薬組成物は、疾患を予防及び/又は治療するために、患者への投与に適するように製剤化される。さらに、医薬組成物は、活性剤と不活性な又は活性ある担体との組み合わせを指し、組成物を治療用途に適するものにする。このような担体は、医薬として許容し得るものとも称される。医薬組成物は、それらの化学的及び物理的性質にしたがって、経口、非経口、局所、吸入、直腸、舌下、経皮、皮下又は膣への適用経路用に製剤化することができる。医薬組成物は、固体、半固体、液体、経皮治療システム(TTS)を含む。固体組成物は、錠剤、コーティング錠、粉末、顆粒、ペレット、カプセル、発泡性錠剤又は経皮治療システムからなる群から選択される。溶液、シロップ、注入液、抽出物、静脈内適用のための溶液、本発明の担体システムの注入用の溶液又は本発明の担体システムの溶液からなる群から選択される液体組成物も含まれる。本発明の文脈で使用することができる半固体組成物は、エマルション、懸濁液、クリーム、ローション、ゲル、小球、バッカル錠及び坐剤を含む。
【0068】
本明細書で使用される用語「医薬として許容し得る」は、ヒトと獣医学の両方における使用を包含する:例えば、用語「医薬として許容し得る」は、獣医薬として許容し得る化合物又はヒトの医学及びヘルスケアにおいて許容し得る化合物を包含する。
【0069】
「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウ上で2つの最適に整列された配列を比較することによって決定され、比較ウィンドウ内の配列の一部は、2つの配列の最適なアラインメントのための(付加又は欠失を含まない)参照配列と比較して、付加又は欠失(すなわち、ギャップ)を含むことができる。このパーセンテージは、一致する位置の数を得るために、同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が両方の配列において生じる位置の数を決定し、比較ウィンドウ内の一致した位置の数を位置の総数で除算し、得られた値に100を乗算して、配列同一性のパーセンテージを生成することによって計算される。
【0070】
用語「同一」は、同じである、すなわちヌクレオチド又はアミノ酸の同じ配列を含む、2以上の配列又はサブ配列を指すために、本明細書では、2以上の核酸又はポリペプチド配列のコンテキストで使用される。配列は、それらが同じであるヌクレオチド又はアミノ酸残基の特定のパーセンテージを有する場合に、互いに「同一」である。本発明によれば、少なくとも70%同一には、比較ウィンドウ上で比較して最大限一致するように整列させた場合の特定の配列に対して、又は以下の配列比較アルゴリズムのうちの1つを使用して、若しくは手動アラインメント及び目視検査によって測定される指定領域に対して少なくとも75%、少なくとも80、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性が含まれる。これらの定義は試験配列の相補も指す。したがって、用語「少なくとも70%の配列同一性」は、ポリペプチド及びポリヌクレオチド配列の比較に関して、本明細書全体を通して使用される。この表現は、好ましくは、それぞれの参照ポリペプチド又はそれぞれの参照ポリヌクレオチドに対して少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を指す。
【0071】
本明細書に開示される配列同一性は、好ましくは、リコンビナーゼの触媒領域外のアミノ酸配列又はアミノ酸又はそれらの位置を指し、本明細書で特定される触媒領域内のアミノ酸又はそれらの位置を包含しない。
【0072】
用語「配列比較」は、本明細書では、1つの配列が、試験配列と比較する参照配列として機能するプロセスを指すために使用される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列をコンピュータに入力し、必要であれば、サブ配列の座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。デフォルトプログラムパラメータが一般的に使用されるか、又は代替パラメータを指定することができる。次いで、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を計算する。2つの配列が比較され、配列同一性パーセンテージが計算される予定のものと比較して参照配列が特定されない場合には、特に具体的に示されない場合、配列同一性は、比較される2つの配列のうちの長い方を参照して計算されるべきである。参照配列が示される場合には、配列同一性は、特に具体的に示されない場合、配列番号によって示される参照配列の全長に基づいて決定される。
【0073】
配列アラインメントにおいて、用語「比較ウィンドウ」は、同じ数の位置を有する配列の連続する位置の参照ストレッチと比較される配列の連続する位置のストレッチを指す。典型的には、連続する位置の数は、約20~100の連続する位置、約25~90の連続する位置、約30~80の連続する位置、約40~約70の連続する位置、約50~約60の連続する位置の範囲である。本発明によれば、同一性パーセンテージについて、配列番号1などの本発明の配列と配列を比較するときに、参照配列が同じ長さを有するか、又は本発明の配列番号よりも長い場合には、好ましくは、配列番号1の106個のアミノ酸など、配列番号の全長が参照配列と比較されることになる。参照配列が本発明の配列番号よりも短い場合には、参照配列の全長は、本発明の配列番号の全長と比較されなければならない。
【0074】
比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野において周知である。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith及びWatermanの文献(Adv. Appl. Math. 2:482, 1970)の局所相同性アルゴリズム(local homology algorithm)によって、Needleman及びWunschの文献(J. Mol. Biol. 48:443, 1970)の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson及びLipmanの文献(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988)の類似性の検索方法によって、これらのアルゴリズム(例えば、Wisconsin Genetics Software Package中のGAP, BESTFIT, FASTA, 及びTFASTA, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)のコンピュータ実装によって、又は手動アラインメント及び目視検査(例えば、Ausubelらの文献, Current Protocols in Molecular Biology (1995 supplement)を参照されたい)によって行うことができる。配列同一性及び配列類似性の決定に適するアルゴリズムは、それぞれAltschulらの文献(Nuc. Acids Res. 25:3389-402, 1977)、及びAltschulらの文献(J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990)に記載されるBLAST及びBLAST 2.0アルゴリズムである。BLAST解析を実行するためのソフトウェアは、米国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公開されている。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させた場合に、何らかの正値の閾値スコアTと一致するか又はそれを満たす長さWの短いワードを検索配列中で特定することにより、高スコアの配列のペア(HSP)をまず特定する。Tは、近隣ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschulらの文献、前出)。これらの最初の近隣ワードのヒットは、それらを含む長いHSPを見いだすための検索を開始する源として機能する。累積アラインメントスコアが増加できる限り、ワードのヒットは、各配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、M(一致する残基のペアに関する報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基に関するペナルティスコア;常に<0)を用いて計算する。アミノ酸配列については、スコアリングマトリックスを用いて累積スコアを計算する。各方向へのワードヒットの延長は、累積アラインメントスコアが最大達成値から量X分低くなった場合:1以上の負のスコア残基アラインメントの蓄積のために累積スコアがゼロ又はそれ未満になった場合;又は配列のいずれかの端に達した場合に停止される。BLASTアルゴリズムのパラメータであるW、T、及びXは、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4、及び両方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、ワード長3、及び期待値(E)10、及びBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff及びHenikoffの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915, 1989)参照)のアラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4、及び両方の鎖の比較を使用する。BLASTアルゴリズムは、2つの配列の間の類似性に関する統計分析も行う(例えば、Karlin及びAltschulの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-87, 1993参照)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、最小合計確率(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の間での一致が偶然に生じる確率の指標を提供する。例えば、核酸は、参照核酸に対する試験核酸の比較における最小合計確率が約0.2未満、典型的には約0.01未満、及びより典型的には約0.001未満である場合に、参照配列と類似しているとみなされる。
【0075】
本発明の文脈における核酸は、1つの核酸分子に含まれていてよく、又は2以上の核酸分子に分けられていてもよく、各核酸分子は、本発明のポリペプチド又はタンパク質をコードする1以上の配列のうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施態様では、1つの核酸分子は、本発明のDNA組換え酵素の1つの部分又は単量体をコードし、別の核酸分子は、本発明のDNA組換え酵素の別の部分又は単量体をコードする。いくつかの実施態様では、核酸は、2以上のDNAリコンビナーゼポリペプチドをコードする。本発明の複数のDNAリコンビナーゼをコードする核酸は、DNAリコンビナーゼポリペプチドをコードする2つの配列の間に核酸切断部位を含むことができ、DNAリコンビナーゼポリペプチドをコードする2つの配列の間に内部リボソーム進入部位(IRES)などの転写開始部位又は翻訳開始部位を含むことができ、かつ/又は2以上のDNAリコンビナーゼポリペプチドの間にタンパク質分解標的部位をコードすることができる。2以上のDNAリコンビナーゼポリペプチドが1つの核酸分子上にコードされている場合、2以上のDNAリコンビナーゼポリペプチドは、同じプロモーターの制御下にあるか、又は別々のプロモーターの制御下にあることができる。
【0076】
用語「核酸」は、本発明の文脈において、デオキシリボヌクレオチド塩基若しくはリボヌクレオチド塩基若しくはその両方の一本鎖又は二本鎖のオリゴマーあるいは一本鎖又は二本鎖のポリマーを指す。ヌクレオチド単量体は、核酸塩基、5炭糖(限定されないが、リボース又は2'-デオキシリボースなど)、及び1~3個のリン酸基で構成される。典型的には、核酸は、個々のヌクレオチド単量体間のホスホジエステル結合を介して形成され、本発明の文脈において、核酸という用語は、リボ核酸(RNA)分子及びデオキシリボ核酸(DNA)分子を含むが、これらに限定されず、他の結合を含む核酸の合成形態(例えば、Nielsenらの文献(Science 254:1497-1500, 1991)に記載されているようなペプチド核酸)も含む。典型的には、核酸は、一本鎖又は二本鎖分子であり、天然に存在するヌクレオチドで構成される。核酸の一本鎖の表現は、相補鎖の配列も(少なくとも部分的に)定義する。核酸は、一本鎖若しくは二本鎖であってよく、又は二本鎖配列と一本鎖配列の両方の部分を含んでもよい。例示される二本鎖核酸分子は、3'又は5'オーバーハングを有することができ、したがって、それらの全長にわたって完全に二本鎖である必要がないか又は想定されない。核酸という用語は、染色体又は染色体セグメント、ベクター(例えば、発現ベクター)、発現カセット、裸のDNA又はRNAポリマー、プライマー、プローブ、cDNA、ゲノムDNA、組換えDNA、cRNA、mRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)又は低分子干渉RNA(siRNA)を含む。核酸は、例えば、一本鎖、二本鎖、又は三本鎖であり得、いかなる特定の長さにも限定されない。特に指示がない限り、特定の核酸配列は、明示的に示される任意の配列に加えて、相補配列を含むか、又はコードする。核酸は、単離された核酸又は組換え核酸であり得る。
【0077】
核酸は、細胞溶解物中の全細胞内に存在してよく、又は部分的に精製された形態若しくは実質的に純粋な形態の核酸であり得る。核酸は、標準的な技術によって、他の細胞の核酸又はタンパク質などの他の細胞成分又は他の混入物質から精製で取り除かれた場合に、「単離される」か、又は「実質的に純粋にされる」。
【0078】
用語「ベクター」、「クローニングベクター」及び「発現ベクター」は、宿主を形質転換させ、導入される配列の発現(例えば、転写及び翻訳)を促進するように、DNA又はRNA配列(例えば、外来遺伝子)を宿主細胞に導入することができるビヒクルを指す。DNAリコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド及び本発明のDNA組換え酵素を発現させるために、様々な発現ベクターを採用することができる。ウイルスベースの発現ベクターと非ウイルス発現ベクターの両方を使用して、例えば、哺乳動物宿主細胞において、本明細書に記載のDNAリコンビナーゼ及びDNA組換え酵素を生成することができる。非ウイルスベクター及びシステムには、プラスミド(複数)、プラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージ又はウイルスベクターが含まれる。そのようなベクターは、対象への投与時に前記ポリペプチドを発現させるか、又は発現を指示するためのプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどの調節エレメントを含んでよい。動物細胞用の発現ベクターに使用されるプロモーター及びエンハンサーの例には、SV40の初期プロモーター及びエンハンサー(Mizukami T.らの文献 1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーター及びエンハンサー(Kuwana Yらの文献 1987)、抗体重鎖のプロモーター(Mason JOらの文献 1985)及びエンハンサー(Gillies SDらの文献 1983)などが含まれる。例えば、哺乳動物(例えば、ヒト又は非ヒト)細胞における本明細書に記載のポリヌクレオチド及びポリペプチドの発現に有用な非ウイルスベクターには、タンパク質を発現させるための当技術分野で公知の全ての好適なベクターが含まれる。プラスミドの他の例には、複製起点を含む複製プラスミド、又は例えばpUC、pcDNA、pBRなどの組込みプラスミドが含まれる。
【0079】
用語「ウイルスベクター」は、ウイルス由来の少なくとも1つのエレメントを含み、ウイルスベクター粒子にパッケージングされる能力を有し、少なくとも外因性核酸をコードする核酸ベクターコンストラクトを指す。ベクター及び/又は粒子は、関心のある核酸をインビトロ又はインビボのいずれかで細胞に導入する目的で利用することができる。多くの形態のウイルスベクターが当技術分野で知られている。有用なウイルスベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、SV40に基づくベクター、パピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ワクシニアウイルスベクター、及びセムリキ森林ウイルス(SFV)に基づくベクターが含まれる。組換えウイルスは、パッケージング細胞をトランスフェクトすることによって、又はヘルパープラスミド若しくはウイルスでの一過性トランスフェクションなどによって、当技術分野で知られている技術によって生成され得る。ウイルスパッケージング細胞の典型的な例には、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などが含まれる。そのような複製欠損組換えウイルスを生成するための詳細なプロトコルは、例えば、WO 95/14785、WO 96/22378、米国特許第5,882,877号、同第6,013,516号、同第4,861,719号、同第5,278,056号及びWO 94/19478で見出され得る。
【0080】
用語「リコンビナーゼ」、「DNAリコンビナーゼ」、「DNAリコンビナーゼ酵素」及び「リコンビナーゼ酵素」は、本明細書において互換的に使用され、それぞれ、遺伝子組換えを可能にするタンパク質複合体の単量体として、当技術分野で理解されるものを指す。この用語には、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)、特にチロシンリコンビナーゼファミリーに由来する単量体サブユニットが含まれる。少なくとも2つのDNAリコンビナーゼ又は単量体を含む機能的複合体は、「DNA組換え酵素」とも呼ばれる。天然に存在するDNA組換え酵素、特に部位特異的リコンビナーゼ(SSR)系(チロシン型SSRなど)は、一般に4つの同一の単量体サブユニット又は単量体からなる。このような複合体はホモ四量体と呼ばれる。
【0081】
本明細書で使用される、DNAリコンビナーゼの「複合体」又は「リコンビナーゼ複合体」という用語は、リコンビナーゼ酵素とも呼ばれる、少なくとも2つの単量体リコンビナーゼサブユニットの組み合わせを指す。2つのサブユニットの複合体は二量体と呼ばれ、4つのサブユニットの複合体は四量体と呼ばれる。天然に存在するリコンビナーゼ複合体は、同一のリコンビナーゼ単量体又はサブユニットからなり、2つの同一のサブユニットの場合には、複合体はホモ二量体と呼ばれ、4つの同一のサブユニットの場合には、複合体はホモ四量体と呼ばれる)。本発明の好ましい実施態様によれば、リコンビナーゼ複合体は、少なくとも2つの異なるリコンビナーゼサブユニットを含み、したがってヘテロ二量体又はヘテロ四量体として存在する。
【0082】
一般に、そのようなリコンビナーゼ複合体は、2つの特異的標的配列の間のDNAを修飾する。これらの配列は、典型的には、長さが30~200塩基対の範囲であり、DNAの切断及び複製が起こる、中央スペーサー配列に隣接する2つの逆方向反復リコンビナーゼ結合領域で構成される(Meinkeらの文献, 2016)。本明細書における標的部位とも称されるそのような標的配列の例が、SSR Cre/loxP結合複合体を示す図11に示されており、そこでは、Creリコンビナーゼは、34塩基対のloxP標的配列に結合している。loxP部位は、8塩基対スペーサー領域に隣接する2つの13塩基対の逆方向反復Cre結合エレメントで構成されている。結合エレメントは、スペーサー配列を参照して、それらの位置によって区別される。左半部位は、スペーサーの左側の13塩基対結合エレメントであり、右半部位は、スペーサーの右側の13塩基対結合エレメントである。標的部位及びそれらのスペーサーの数並びに相対的な向きに応じて、DNA組換え酵素は、遺伝子内容物の切り出し、組込み、反転又は置換のいずれかを行う(図12; Meinkeらの文献, 2016で概説されている)。組換え事象を起こすために、リコンビナーゼ複合体は、DNA二本鎖上の第1の標的部位及び第2の標的部位を認識する。標的部位は、DNA二重鎖上のそれらの位置に応じて、上流及び下流認識部位とも称される。したがって、本明細書で言及される用語「半部位」は、それぞれ、スペーサー配列によって分離され、リコンビナーゼ酵素が結合するDNA配列の左右のセクションを意味する。半部位は、結合領域又は結合エレメントとも呼ばれる。本明細書で使用される用語「標的部位」又は「標的配列」は、左半部位、スペーサー配列、及び右半部位を含む配列エレメントを指す。
【0083】
リコンビナーゼの文脈で使用される用語「種類」は、特異的リコンビナーゼサブユニットを表す。好ましくは、前記特異的リコンビナーゼサブユニットは、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-及びPanto-リコンビナーゼからなる群から選択される。
【0084】
本明細書で使用される用語「触媒領域における単一変異」は、触媒領域における任意の追加の変異を除外するが、それぞれのリコンビナーゼ酵素のアミノ酸配列の残りの部分にいかなる変異(置換、欠失、挿入)も除外しない。そのため、触媒領域に所与の配列番号及びそれと同時に単一アミノ酸置換を有するあるパーセンテージの同一性を有するリコンビナーゼについては、パーセンテージ同一性は、触媒領域の外側の領域を指し、触媒領域内に追加の変異を許容しない。
【0085】
本明細書で使用される「上流」とは、DNA中のリコンビナーゼの5'標的部位を意味し、左半部位などの第1の半部位と、右半部位などの第2の半部位とを含み、前記第1の半部位及び前記第2の半部位は、スペーサー配列によって分離されている。
【0086】
本明細書で使用される「下流」とは、DNA中のリコンビナーゼの3'標的部位、左半部位などの第1の半部位、及び右半部位などの第2の半部位を意味し、前記第1の半部位及び前記第2の半部位は、スペーサー配列によって分離されている。
【0087】
対称標的部位では、左半部位などの第1の半部位、及び右半部位などの第2の半部位は、同一又はパリンドローム(逆相補)のいずれかである。非対称標的部位、左半部位などの第1の半部位、及び右半部位などの第2の半部位は、同一ではなく、パリンドロームでもなく、すなわち、それらは、少なくとも1つのヌクレオチド又は核酸において互いに異なる。
【0088】
「偏性」タンパク質は、複数のサブユニットで構成される複合体である。これらのサブユニットは単独で機能することができず、それらの単離された形態では触媒的に不活性である。サブユニットが一緒になると、それらは機能的複合体を形成する。したがって、全ての偏性タンパク質サブユニットの存在は、タンパク質の機能性、すなわち、本発明のリコンビナーゼ複合体のリコンビナーゼ活性に必須である。
【0089】
本明細書で使用されるように、その触媒領域内の単一点変異を有するDNAリコンビナーゼ酵素のコンテキストで使用される用語「DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さない」又は「触媒活性を有していない」などの類似の用語は、前記変異型DNAリコンビナーゼ酵素が、変異を有していない同じDNAリコンビナーゼ酵素の活性の約90%未満の触媒活性を示すことを意味する。リコンビナーゼ酵素の活性は、好ましくは、大腸菌でのプラスミド系アッセイを用いて決定される。このアッセイで使用されるプラスミドDNAは、所与のDNAリコンビナーゼ酵素の2つの標的部位(例えば、CreリコンビナーゼについてのloxP標的部位)を含む。DNAリコンビナーゼ酵素が発現時に活性である場合、DNA基質(プラスミドDNA)は、DNAリコンビナーゼ酵素によって組換えられる。組換え基質と非組換え基質のサイズ及び配列は異なるので、組換え活性は、以下の式: 組換え活性(%) = 100×(組換え基質/(組換え基質+非組換え基質))を用いて組換え基質と非組換え基質との比に基づいて計算される。これらの非組換えDNA断片及び組換えDNA断片は、ゲル電気泳動又は配列決定のいずれかによって区別することができる。
【0090】
本発明の実施は、特に指示がない限り、従来の生化学、細胞生物学、及び当技術分野の文献(例えば、分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual),第2版, J. Sambrookら(編), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989)参照)で説明されている組換えDNA技術を採用するであろう。
【0091】
本明細書に記載の全ての方法は、本明細書に特に示されないか、又は特に文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。本明細書に提供される任意の及び全ての例、又は例示的な言葉(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図したものであり、そうでなければ請求される本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる言葉も、本発明の実施に不可欠な任意の請求されていない要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0092】
(発明の詳細な説明)
本発明を以下に詳細に説明する前に、本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル及び試薬に限定されず、これらは変更してよいことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施態様を説明することを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0093】
以下の節で、本発明の異なる態様がより詳細に定義される。そのように定義された各態様は、明確に反対のことが示されない限り、任意の他の態様又は態様(複数)と組み合わせてよい。特に、任意で好ましい又は有利であるものとして示される任意の特徴は、任意で好ましい又は有利であると示される任意の他の特徴又は特徴(複数)と組み合わせてよい。
【0094】
本明細書の本文を通していくつかの文献が引用されている。上記又は下記にかかわらず、本明細書に引用される各文献(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様、説明などを含む)は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書には、本発明が先行発明によってそのような開示に先行する権利を与えられないことを認めるものとして解釈されるべきものは何もない。本明細書で引用される一部の文献は、「参照により組み込まれる」ことを特徴とする。そのような組み込まれた参考文献の定義又は教示と、本明細書で引用される定義又は教示との間に矛盾が生じた場合には、本明細書の本文を優先する。
【0095】
以下に、本発明の各要素を説明する。これらの要素は、特定の実施態様と共に列挙されているが、これらは、任意の方法で、任意の数で組み合わせて、さらなる実施態様を作り出すことができることを理解されたい。様々な記載される実施例及び好ましい実施態様は、本発明を明示的に記載される実施態様のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明示的に記載される実施態様を任意の数の開示される及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施態様を支持及び包含すると理解されるべきである。さらに、本出願における全ての記載される要素の任意の順列及び組み合わせは、文脈が特に示さない限り、本出願の説明によって開示されると見なされるべきである。
【0096】
本発明は、効率的かつ特異的なゲノム編集のための遺伝子操作されたDNA組換え酵素であって、リコンビナーゼの偏性複合体を含み、前記複合体が少なくとも第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも第2のリコンビナーゼ酵素を含み、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、触媒部位に少なくとも1つの変異を含み、触媒部位に前記少なくとも1つの変異を保有する前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さず、前記リコンビナーゼの偏性複合体ではDNAリコンビナーゼとしての触媒活性が補完される、前記DNA組換え酵素を提供する。
【0097】
好ましくは、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の前記第1の半部位及び前記第2の半部位は、同一ではなく、パリンドロームでもない。
【0098】
本発明はさらに、少なくとも第1のDNAリコンビナーゼ酵素と少なくとも第2のDNAリコンビナーゼ酵素の複合体を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素を提供する。前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素は、DNAリコンビナーゼの上流の標的部位及び/又は下流の標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識する。さらに、前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、それらの触媒領域において単一アミノ酸置換を含み、前記単一アミノ酸置換を保有する前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さず、前記単一アミノ酸置換を保有する前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素は、共発現させた場合に、複合体を形成し、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示す。
【0099】
一実施態様によれば、少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼは、同じ種類のものである。この文脈において、同じ種類のものは、第1及び第2のリコンビナーゼが同じリコンビナーゼ由来であることを意味し、好ましくは、それは、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-及びPanto-リコンビナーゼからなる群から選択される。
【0100】
特に好ましい実施態様によれば、DNA組換え酵素は、リコンビナーゼサブユニットの複合体である。このような複合体は、本明細書に記載の立体構造を有することができる。このような複合体の好ましい構成は、ヘテロ四量体である。
【0101】
驚くべきことに、前記単量体の触媒活性を不活性化するには、DNAリコンビナーゼの各単量体の触媒部位に正確に1つの変異を導入することが十分であるが、2つの変異した単量体を互いにペアになると、リコンビナーゼの偏性複合体でDNAリコンビナーゼとしての触媒活性が補完される(復元される)ことが見出された。換言すれば、触媒部位に少なくとも1つの変異を有する第1のリコンビナーゼが、触媒部位に少なくとも1つの変異を有する第2のリコンビナーゼと共発現して、両方がヘテロ複合体を形成すると、このヘテロ複合体は、触媒活性があり、そのリコンビナーゼ単量体サブユニットの触媒領域に変異を有していないDNAリコンビナーゼの活性を示す。したがって、より好ましい実施態様では、本発明は、効率的かつ特異的なゲノム編集のための遺伝子操作されたDNA組換え酵素であって、リコンビナーゼの偏性複合体を含み、前記複合体が少なくとも第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも第2のリコンビナーゼ酵素を含み、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素が、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、触媒部位に正確に1つの変異を含み、触媒部位に正確に1つの前記変異を保有する前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの同じ触媒活性を示さず、前記リコンビナーゼの偏性複合体ではDNAリコンビナーゼとしての触媒活性が補完される、前記DNA組換え酵素を提供する。もちろん、第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素は、触媒部位の外側にある、かつ/又はそれらの触媒活性を損なわないさらなる変異を含んでよい。好ましくは、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の前記第1の半部位及び前記第2の半部位は、同一ではなく、パリンドロームでもない。
【0102】
第1のリコンビナーゼ酵素において201位がリジンではなくアルギニンに変異していることは最も驚くべきことであった。この変更を興味深いものとすることは、リジン201がチロシンSSRファミリー全体にわたって高度に保存されており、組換え中にDNA切断を促進することによるCreの触媒活性にとって必須であると以前に記載されていることである。したがって、201位が変更されているリコンビナーゼは、機能するとは予想されない。触媒K201残基の変異は、単量体として発現させた場合に、SSRを不活性化する。これらの観察に基づいて、リコンビナーゼ活性は、第2のリコンビナーゼ酵素上のペアのQ311R変異の存在によって救済され得ることはさらに驚くべきことであった。各リコンビナーゼ酵素(サブユニット)の触媒領域に単一変異としてペアの変異が適用される場合にのみ、操作されたSSRは、意図される標的配列を効率的に組換えることができるが、点変異を保有するリコンビナーゼ酵素(サブユニット)を単独で発現させた場合には不活性になる。
【0103】
上述のように、操作及び指向性進化によりCreのDNA特異性を変更することによって、非対称標的配列をヘテロ四量体として一緒に組換える別々のSSR変異型を生成することができる(6、8~10)。このようなヘテロ四量体SSRシステムの生成によって、ゲノム内で標的化できる可能性のある配列が実質的に広がる。しかし、異なるサブユニットの可能な組み合わせは、オフターゲット組換えを触媒できる活性SSR副産物につながる可能性がある。以前に、ホモ四量体形成の防止は、異なるリコンビナーゼ単量体間のタンパク質間相互作用界面に関与するいくつかの残基の構造誘導再設計を経て達成された(16)。したがって、偏性SSRシステムを生成するこの手法は、利用可能な結晶構造を有する酵素に限定され、したがって、操作された又は遠縁のリコンビナーゼに容易に適応可能ではない。
【0104】
本発明はさらに、loxF8リコンビナーゼ標的部位の上流及び下流標的配列を特異的に認識し、loxF8リコンビナーゼ標的部位のこれらの上流標的配列と下流標的配列の間の遺伝子配列の反転を触媒する遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼに関する。
【0105】
本発明はさらに、本発明による遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼをコードする核酸分子に関する。
【0106】
さらなる実施態様では、本発明は、本発明による遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼをコードする前記核酸分子又は分子(複数)を含む哺乳動物、昆虫、植物又は細菌の宿主細胞を提供する。
【0107】
本発明による遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼ又は核酸分子は、薬剤として使用することができ、したがって、任意に、1以上の治療上許容し得る希釈剤又は担体と組み合わせて、医薬組成物に含めることができる。
【0108】
本発明による遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼ又は医薬組成物は、ゲノム編集、特に血友病Aの治療によって治癒され得る疾患の治療に適している。
【0109】
さらなる実施態様では、本発明による遺伝子操作されたDNAリコンビナーゼを含む宿主細胞培養物又は患者におけるゲノムレベルでの組換えを決定する方法が提供される。
【0110】
指向性分子進化を採用すると、驚くべきことに、本発明者らは、組換え触媒に関与する残基を変異させることによっても偏性SSRシステムを生成できることを発見した。重要なことに、偏性SSRを生成するこの新規方法は、それぞれの別々のSSR単量体内の1つの保存された残基の改変のみを必要とした。この簡略化された手法は、以前の酵素の構造知識なしに、多くの操作された又は天然のSSRに適用できる可能性がある。
【0111】
特定された変異が天然に存在するSSRを、Creリコンビナーゼを含む偏性酵素に変換することができるという知見は、洗練された遺伝学及び合成生物学研究のために有用に検討され得る。生成された多数の条件付きノックアウトマウスモデルは、Cre/loxPシステムに基づく(28、29)。典型的には、フロックス(flox)対立遺伝子を保有する動物を、組織特異的プロモーターからCreを発現するマウスと交配して、特定の器官又は組織における遺伝子を不活性化させる。この手法は、CreK201R、CreQ311K及びCreQ311Rを2つの異なるプロモーターから発現させることによってさらに精製することができる。ここで、遺伝子の欠失は、両方のプロモーターが活性である細胞においてのみ起こるであろう。同様に、遺伝子系統追跡研究(30)の精度のさらなる向上は、偏性CreK201R/CreR282E及びCreQ311K/CreQ311R系を採用することによって達成された。同様に、偏性SSRは、合成生物学のためのより洗練された回路の生成を可能にし得、そこで、SSRは、バイオセンサー及び生物学的機構を構築するために頻繁に使用される(31、32)。
【0112】
例えば、偏性リコンビナーゼ複合体を提供するためにCreシステムにおいて特定された変異K201R、Q311K及びQ311Rは、他のリコンビナーゼの偏性複合体、特に、少なくとも2つのリコンビナーゼ酵素を含む偏性複合体をもたらすことが本明細書に示され、ここで、第1のリコンビナーゼ酵素は、前記少なくとも1つの変異K201Rを含み、ここで、アミノ酸の位置の付番が配列番号1の野生型Creリコンビナーゼ単量体のアミノ酸配列を指し、第2のリコンビナーゼ酵素は、Q311K及びQ311Rからなる群から選択される前記少なくとも1つの変異を含み、ここで、アミノ酸位置の付番は、配列番号1の野生型Creリコンビナーゼ単量体のアミノ酸配列を指す。
【0113】
変異を有する好ましいリコンビナーゼ配列を以下に列挙する:
K201R変異を含む変異した第1のリコンビナーゼ酵素は、配列番号2を有する。
Q311K変異を含む変異した第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号4を有する。
Q311R変異を含む変異した第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号5を有する。
【0114】
偏性複合体に含まれるリコンビナーゼ酵素は、好ましくはDNAリコンビナーゼであり、天然に存在するリコンビナーゼ(すなわち、任意の種類の生体試料から単離されたリコンビナーゼ)又は指向性分子進化若しくは合理的設計によって進化させたリコンビナーゼなどのデザイナーリコンビナーゼ、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。デザイナーリコンビナーゼを生成する方法は、当技術分野において公知である。例えば、WO 2018/229226 A1は、指向性分子進化によってデザイナーDNA組換え酵素を作製するためのベクター及び方法を教示している。WO 2008/083931 A1は、HIVの末端反復配列(LTR)中の配列を認識部位(loxLTR Tre 1.0)として使用する目的に合ったリコンビナーゼ(Tre 1.0)の指向性分子進化を開示している。非対称標的部位を用いるこの手法のさらなる開発は、WO 2011/147590 A2 (Tre 3.0)及びWO 2016/034553 A1(Tre 3.1及びTre/Brec1)並びに出版物Karpinski Jらの文献2016(Brec1)に記載された。合理的設計によって天然に存在するリコンビナーゼ又はデザイナーリコンビナーゼを操作する方法も当技術分野で公知である(例えば、Abi-Ghanemらの文献, 2013; Karimovaらの文献, 2016)。
【0115】
本発明の好ましい実施態様によれば、遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、天然に存在する部位特異的リコンビナーゼの変異体又はデザイナーDNAリコンビナーゼの変異体である。天然に存在する部位特異的リコンビナーゼには、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-又はPanto-リコンビナーゼが含まれるが、これらに限定されない。デザイナーDNAリコンビナーゼが、例えば、WO 2014/016248及びWO 2018/229226に開示されている。
【0116】
本発明によれば、DNAリコンビナーゼ中の少なくとも1つ、好ましくは、単一アミノ酸置換が、前記DNAリコンビナーゼの触媒領域内の位置にある。リコンビナーゼ、具体的には、チロシン型SSRリコンビナーゼの触媒領域は、6つの触媒部位からなる。これらの触媒部位は、Creリコンビナーゼを参照する位置が付番されたボックスとして図19のアラインメントに示されている。以下の表2に、それらのアミノ酸、示された各DNAリコンビナーゼの完全な配列内のそれらの位置、及び触媒領域に属する対応する配列番号が特定されている。
表2.例示的なDNAリコンビナーゼ中の触媒領域
【表3】
【0117】
異なるリコンビナーゼのアラインメントに基づいて(例えば、図19参照)、他のリコンビナーゼ中の触媒領域を特定することができる。当業者は、欧州分子生物学研究所の欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute of the European Molecular Biology Laboratory)の周知のツールであるClustal Omega又はEMBOSS Needleなどの適切なアラインメントツールを容易に特定するであろう。図19に示す配列アラインメントには、Clustal Omega v1.2.4のデフォルト設定が使用されている。このようなアラインメントに基づいて、触媒領域のコンセンサス配列も決定することができる。したがって、本発明によれば、触媒領域は、以下のアミノ酸配列によって定義することもできる:
【化3】
ここで、括弧内のアミノ酸は、それぞれの位置の代替アミノ酸を示す。
【0118】
好ましい実施態様によれば、DNAリコンビナーゼ中の少なくとも1つの変異、具体的には、単一アミノ酸置換は、DNAリコンビナーゼの触媒領域における保存アミノ酸の位置にある。リコンビナーゼの触媒領域内の保存アミノ酸は、図19に示されるアラインメントなどのリコンビナーゼのアラインメントから誘導可能である。リコンビナーゼの触媒領域内の保存アミノ酸には、好ましくは、配列番号1の位置E129、R130、Q133、A134、A167、Y168、T170、L171、L172、R173、E176、K201、T202、H289、S290、A291、R292、V293、G294、A295、A296、R297、D298、M310、Q311、G313、W315、V321、M322、N323及びY324、並びに別のリコンビナーゼ、好ましくは配列番号14、配列番号17及び配列番号20のうちの1以上における対応する位置が含まれる。
【0119】
本発明の文脈において使用される用語「位置に対応するアミノ酸位置」は、本明細書に記載のリコンビナーゼのアミノ酸配列、好ましくは配列番号1の全長アミノ酸配列とのアミノ酸配列のアラインメントおいて整列されるアミノ酸の位置を指す。例えば、当業者は、さらなるリコンビナーゼを図19に示されるアラインメントに容易に整列させ、配列番号1及び同様に配列番号14、17及び20について特定されたアミノ酸位置に対応するアミノ酸の特定を可能にすることができる。例えば、アラインメントから誘導できるように、配列番号1のE129に対応する位置は、配列番号14のE146、配列番号17のE130、及び配列番号20のE131である。したがって、他のリコンビナーゼ酵素のさらなる対応するアミノ酸位置を、過度の負担なく当業者が特定することができる。
【0120】
特に好ましい実施態様によれば、DNAリコンビナーゼ中の少なくとも1つの変異、具体的には単一アミノ酸置換は、配列番号1の位置E129、Q133、R173、E176、K201、H289、R292、Q311、W315、及びY324からなる群から選択される位置、又は別のリコンビナーゼの対応する位置に存在し、ここで、他のリコンビナーゼ中の前記アミノ酸位置は、配列番号1の位置E129、Q133、R173、E176、K201、H289、R292、Q311、W315、又はY324に対応する。好ましくは、前記他のリコンビナーゼは、配列番号14、配列番号17及び配列番号20のうちの1つに記載の配列を含む。対応する位置は、図19のアラインメントに示されている。具体的には、配列番号14内の対応する位置は、位置E146、Q151、R191、N194、K219、H308、R311、Q330、W334、及びY343に存在し、配列番号17では、位置E130、Q134、R174、E177、K202、H290、R293、Q312、W316、及びY325に存在し、配列番号20では、位置E131、Q135、R175、E178、K202、H290、R293、Q312、W316、及びY325に存在する。図19に示すアラインメントから、当業者は、さらなるDNAリコンビナーゼを整列させ、その触媒領域及び本明細書に示される特異的位置を特定することができる。
【0121】
特に好ましい実施態様によれば、DNAリコンビナーゼ中の単一置換は、配列番号1のE129R、Q133H、R173A、R173C、R173D、R173E、R173F、R173G、R173I、R173K、R173L、R173M、R173N、R173P、R173Q、R173S、R173T、R173V、R173W、R173Y、E176H、E176I、E176L、E176M、E176V、E176W、E176Y、K201A、K201C、K201C、K201D、K201F、K201G、K201H、K201I、K201L、K201M、K201N、K201P、K201Q、K201R、K201S、K201T、K201V、K201W、K201Y、H289D、H289E、H289I、H289K、H289R、H289W、R292A、R292C、R292E、R292F、R292G、R292H、R292I、R292L、R292M、R292N、R292P、R292Q、R292S、R292T、R292V、R292W、R292Y、Q311R、W315C、W315E、W315G、W315I、W315K、W315L、W315M、W315N、W315Q、W315R、W315S、W315T、W315V、Y324A、Y324C、Y324E、Y324F、Y324H、Y324I、Y324K、Y324L、Y324M、Y324N、Y324Q、Y324R、Y324S、Y324T、Y324V、及びY324Wからなる群から選択されるか、又は別のリコンビナーゼの対応する位置に、好ましくは配列番号14、配列番号17又は配列番号20の対応する位置に存在する。
【0122】
第1及び第2のDNAリコンビナーゼの触媒領域における単一置換の特に好ましい組み合わせは、表6及び図18に強調表示されている。
【0123】
第1及び第2のDNAリコンビナーゼ中の単一アミノ酸置換の非常に好ましい組み合わせは、それぞれ配列番号1の位置R173とQ311、K201とQ311、Q311とR292、W315とY324、及び位置Q311とY324、又は別のリコンビナーゼの対応する位置、好ましくは配列番号14、配列番号17又は配列番号20の対応する位置に存在する単一置換である。
【0124】
好ましい実施態様では、前記第1のリコンビナーゼ酵素は、K201Rから選択される前記少なくとも1つの変異を含み、アミノ酸位置の付番は、配列番号1の野生型Creリコンビナーゼ単量体のアミノ酸配列を指し、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、Q311K及びQ311Rから選択される位置に前記少なくとも1つの変異を含み、アミノ酸位置の付番は、配列番号1の野生型Creリコンビナーゼ単量体のアミノ酸配列を指す。本発明の遺伝子操作された偏性DNAリコンビナーゼは、標的配列の切り出し、置換又は反転などのDNA組換え事象を触媒する。本発明は、具体的には、ヒトX染色体上のint1h領域に存在するDNA配列の反転を触媒するリコンビナーゼの偏性複合体を開示する。
【0125】
最も好ましい実施態様では、前記第1のリコンビナーゼ酵素は、位置K201Rにおける前記少なくとも1つ又は正確に1つの変異を含み、ここで、アミノ酸位置の付番は、配列番号1の野生型Creリコンビナーゼ単量体のアミノ酸配列を指し、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、前記少なくとも1つ又は正確に1つの変異Q311K及びQ311Rを含み、ここで、アミノ酸位置の付番は、配列番号1の野生型Creリコンビナーゼ単量体のアミノ酸配列を指す。
【0126】
最も好ましい実施態様では、複合体に含まれるリコンビナーゼは、本明細書に記載の方法を用いて生成された。したがって、本明細書で後述するリコンビナーゼ標的部位及びリコンビナーゼに関する特徴及び実施態様は、本発明の記載の方法にも適用される。
【0127】
リコンビナーゼ複合体、例えば、本発明のDNA組換え酵素も、通常、4つのリコンビナーゼ酵素、すなわち4つのリコンビナーゼ単量体を含む。本発明の範囲内に該リコンビナーゼ複合体の組成物が入り、例えば、
・4つのリコンビナーゼ単量体が全て異なる;
・3つのリコンビナーゼ単量体が同一であり、1つの単量体が異なる;
・2つのリコンビナーゼ単量体が同一であり、他の2つの単量体が異なる;
・該複合体は2つの異なるホモ二量体を含む;
・該複合体は2つの異なるヘテロ二量体を含む;
・該複合体は2つの同一のヘテロ二量体を含む;
・該複合体は2つの異なる単量体を含む;又は
・該複合体は2つの同一の単量体を含む。
【0128】
この文脈における「異なる」とは、単量体が、それらの触媒領域に少なくとも1つ、好ましくは、単一アミノ酸置換を保有するという点でそれらの一次構造において同一ではない、すなわちそれらのアミノ酸配列における相違を示し;かつ/又はリコンビナーゼの上流標的部位及び下流標的部位の4つの半部位のうちの1つに対して高い特異性を示し、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素の驚くほど増加した特異性を都合よくもたらすことを意味する。本発明のDNA組換え酵素が4つの単量体からなる場合、好ましくは、少なくとも2つの単量体は、それらの触媒領域に第1のアミノ酸置換、例えば、K201R変異又はそれに対応する変異を保有し、他の2つの単量体は、それらの触媒領域に第2のアミノ酸置換、例えば、Q311K又はQ311R変異又はそれに対応する変異を保有する。
【0129】
好ましい実施態様では、リコンビナーゼ複合体は、偏性二量体であり、より好ましくは、偏性ヘテロ二量体であり、好ましくは、DNA中の上流又は下流のリコンビナーゼ標的部位の第1の標的配列及び第2の標的配列を認識できる。
【0130】
さらに好ましい実施態様では、本発明のリコンビナーゼ複合体は、DNA中のリコンビナーゼの上流標的部位及び下流標的部位の認識のための四量体、より好ましくはヘテロ四量体であり、前記四量体は、本明細書に記載の2つの偏性ヘテロ二量体からなり、前記ヘテロ二量体の単量体は、好ましくは、例えば、ペプチド結合又はタンパク質間相互作用を介して互いに結合され、前記偏性ヘテロ二量体は、DNAリコンビナーゼの活性を示す。
【0131】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、前記ヘテロ二量体の単量体は、リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位又は第2の半部位を特異的に認識するように指向性進化又は合理的な設計によってさらに進化している。したがって、前記2つの偏性ヘテロ二量体の複合体における第1のヘテロ二量体は、DNA中の上流のリコンビナーゼ標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、第2の偏性ヘテロ二量体は、下流のリコンビナーゼ標的部位の第1の半部及び第2の半部を特異的に認識する。
【0132】
より好ましくは、前記ヘテロ二量体の単量体はチロシン部位特異的リコンビナーゼである。したがって、本発明の好ましい実施態様は、部位特異的リコンビナーゼ、最も好ましくはチロシン部位特異的リコンビナーゼであるリコンビナーゼサブユニットを含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素を提供する。
【0133】
好ましくは、前記チロシン部位特異的リコンビナーゼは、Cre、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-及びPanto-リコンビナーゼからなる群から選択される。これらの細菌及び酵母T-SSRシステムの認識標的部位は、Meinkeらの文献、2016及びKarimovaらの文献、2016で論じられており、以下の表3に示されている。
表3.細菌及び酵母T-SSRシステムの認識標的部位
【表4】
下線付き実線:左半部位
破線の下線:右半部位
太字:スペーサー配列
【0134】
さらなる好ましい実施態様では、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素が提供され、前記リコンビナーゼ標的部位は、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-及びPanto-リコンビナーゼなどの、指向性進化によって進化させたチロシン部位特異的リコンビナーゼの標的部位である。より好ましい実施態様では、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素が提供され、前記リコンビナーゼ標的部位は、Cre-、Dre-、VCre-、Vika-及びPanto-リコンビナーゼなどの、指向性進化によって進化させたチロシン部位特異的リコンビナーゼの標的部位である。好ましくは、対応する単一アミノ酸置換は、Dre-、VCre-、Vika-及びPanto-リコンビナーゼにおける第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素の触媒領域中の以下の位置:
・Dre-リコンビナーゼ:第1のリコンビナーゼ酵素中の変異K202R及び第2のリコンビナーゼ酵素中の変異Q312R;
・VCre-リコンビナーゼ:第1のリコンビナーゼ酵素中の変異K221R及び第2のリコンビナーゼ酵素中の変異Q336R;
・Vikaリコンビナーゼ:第1のリコンビナーゼ酵素中の変異K219R及び第2のリコンビナーゼ酵素中の変異Q330R;及び
・Panto-リコンビナーゼ:第1のリコンビナーゼ酵素中の変異K202R及び第2のリコンビナーゼ酵素中の変異Q312R
で導入される。
【0135】
最も好ましくは、前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、以下を含む群から選択される:
・第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素、ここで、第1のリコンビナーゼ酵素は、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、K201R位の変異に対応する変異を含むポリペプチドであり、第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号11に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、Q311R位の変異に対応する変異を含むポリペプチドである。この実施態様では、K201R位における変異は、配列番号6のポリペプチドに導入され、Q311R位における変異は、配列番号10のポリペプチドに導入された。この文脈における配列同一性は、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指し、すなわち、触媒領域は、好ましくは、単一アミノ酸置換のみを含み、さらなる変異を含まない。
・第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素、ここで、第1のリコンビナーゼ酵素は、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、K201R位の変異に対応する変異を含むポリペプチドであり、第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号12に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、Q311K位の変異に対応する変異を含むポリペプチドである。この実施態様では、K201R位における変異は、配列番号6のポリペプチドに導入され、Q311K位における変異は、配列番号10のポリペプチドに導入された。この文脈における配列同一性は、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指し、すなわち、触媒領域は、好ましくは、単一アミノ酸置換のみを含み、さらなる変異を含まない。
【0136】
好ましい実施態様によれば、変異K201Rは、第1のリコンビナーゼの触媒領域における唯一の変異であり、変異Q311K又はQ311Rは、第2のリコンビナーゼの触媒領域における唯一の変異である。
【0137】
さらなる好ましい実施態様では、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素が提供され、それは、以下から選択される天然に存在する部位特異的リコンビナーゼの変異体である:
・Creリコンビナーゼであって、第1のリコンビナーゼ酵素中にK201R変異を含み、配列番号2に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有し;かつ配列番号5の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素中にQ311R変異を含む、前記Creリコンビナーゼ。変異した配列番号2及び5が得られた野生型Creリコンビナーゼは、配列番号1の配列を有し、配列同一性は、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指し、すなわち、触媒領域は、好ましくは、単一アミノ酸置換のみを含み、さらなる変異を含まない;
・Creリコンビナーゼであって、第1のリコンビナーゼ酵素中にK201R変異を含み、配列番号2に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有し;かつ配列番号4の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素中にQ311K変異を含む、前記Creリコンビナーゼ。変異した配列番号2及び4が得られた野生型Creリコンビナーゼは、配列番号1の配列を有し、配列同一性は、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指し、すなわち、触媒領域は、好ましくは、単一アミノ酸置換のみを含み、さらなる変異を含まない;
・Vikaリコンビナーゼであって、第1のリコンビナーゼ酵素中にK219R変異を含み、配列番号15に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有し;かつ配列番号16の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素中にQ330R変異を含む、前記Vikaリコンビナーゼ。変異した配列番号15及び16が得られた野生型Vikaリコンビナーゼは、配列番号14の配列を有し、配列同一性は、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指し、すなわち、触媒領域は、好ましくは、単一アミノ酸置換のみを含み、さらなる変異を含まない;
・Pantoリコンビナーゼであって、第1のリコンビナーゼ酵素中にK202R変異を含み、配列番号18に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有し;かつ配列番号19の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素中にQ312R変異を含む、前記Pantoリコンビナーゼ。変異した配列番号18及び19が得られた野生型Pantoリコンビナーゼは、配列番号17の配列を有し、配列同一性は、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指し、すなわち、触媒領域は、好ましくは、単一アミノ酸置換のみを含み、さらなる変異を含まない;
・Dreリコンビナーゼであって、第1のリコンビナーゼ酵素中にK202R変異を含み、配列番号21に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有し;かつ配列番号22に記載を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素中にQ312R変異を含む、前記Dreリコンビナーゼ。変異した配列番号21及び22が得られた野生型Dreリコンビナーゼは、配列番号20を有し、配列同一性は、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指し、すなわち、触媒領域は、好ましくは、単一アミノ酸置換のみを含み、さらなる変異を含まない;かつ
・Vcreリコンビナーゼであって、第1のリコンビナーゼ酵素中にK221R変異を含み、配列番号24に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有し;かつ配列番号25の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素中にQ336R変異を含む、前記Vcreリコンビナーゼ。変異した配列番号24及び25が得られた野生型Vcreリコンビナーゼは、配列番号23を有し、配列同一性は、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指し、すなわち、触媒領域は、好ましくは、単一アミノ酸置換のみを含み、さらなる変異を含まない。
【0138】
さらなる好ましい実施態様によれば、第1のリコンビナーゼ酵素は、配列番号1、2又は7の変異K201R、配列番号18又は21のK202R、配列番号15の変異K219R、及び配列番号24の変異K221Rからなる群から選択される変異を含み;かつ第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号4又は11の変異Q311K、配列番号5又は12の変異Q311R、配列番号19又は22の変異Q312R、配列番号16の変異Q330R、及び配列番号25の変異Q336Rからなる群から選択される変異を含む。
【0139】
一般に、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、リコンビナーゼ標的側を認識し、ここで、前記上流のリコンビナーゼ標的部位及び前記下流のリコンビナーゼ標的部位は非対称である。
【0140】
最も好ましくは、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、核酸配列:
【化4】
又はその逆相補配列を有するloxF8標的部位の上流のリコンビナーゼ標的配列を特異的に認識し、核酸配列:
【化5】
又はその逆相補配列を有するloxF8標的部位の下流のリコンビナーゼ標的配列を特異的に認識する。
【0141】
さらに最も好ましくは、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、loxF8リコンビナーゼ標的部位の配列番号65の上流リコンビナーゼ標的配列と配列番号66の下流リコンビナーゼ標的配列との間の遺伝子配列の反転を触媒する。
【0142】
loxF8リコンビナーゼ標的部位の配列番号65の上流リコンビナーゼ標的配列と配列番号66の下流リコンビナーゼ標的配列との間の遺伝子配列の反転を触媒する能力は、
a)細胞内の第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素を発現させる工程;及び
b)工程a)で発現させた遺伝子操作されたDNA組換え酵素が、前記細胞内のヒト染色体上のDNA配列を反転できるかどうかを分析する工程
を含む方法によって試験することができる。
【0143】
本発明による好ましい遺伝子操作されたDNA組換え酵素又はリコンビナーゼ複合体は、loxF8リコンビナーゼ標的部位の配列番号65の上流リコンビナーゼ標的配列と配列番号66の下流リコンビナーゼ標的配列との間の遺伝子配列の反転を触媒することができ、第1のリコンビナーゼ酵素が、配列番号7又は配列番号8に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ/又は前記第2のリコンビナーゼ酵素が、配列番号11又は配列番号12に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するDNA組換え酵素である。
【0144】
本発明による最も好ましい遺伝子操作されたDNA組換え酵素又はリコンビナーゼ複合体は、loxF8リコンビナーゼ標的部位の配列番号65の上流リコンビナーゼ標的配列と配列番号66の下流リコンビナーゼ標的配列との間の遺伝子配列の反転を触媒することができ、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素と、配列番号11に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素と、を含み、配列同一性は、好ましくは、リコンビナーゼの触媒領域の外側のアミノ酸配列を指す。
【0145】
loxF8標的部位の上流及び下流の標的配列を組換えるDNAリコンビナーゼを生成するために、基質結合指向性進化手法を採用することができる(Buchholz及びStewartの文献 2001)。そのように進化させたDNAリコンビナーゼにおいて、配列番号1の第1のCreリコンビナーゼ単量体の変異K201R又はG282E又はR282Eに対応する位置、及び配列番号1の第2のCreリコンビナーゼ単量体の変異Q311K又はQ311Rに対応する位置にそれぞれ変異を導入すると、本発明の配列番号2、3、4及び5の遺伝子操作されたリコンビナーゼ単量体が得られる。
【0146】
本発明による前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、2つの標的部位を認識し、DNA配列の欠失、挿入、反転又は置換を引き起こすことによって核酸配列、特にDNA配列を組換える。都合の良いことに、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、配列番号65(上流)及び配列番号66(下流)に記載のloxF8配列の非対称認識部位を認識する。これらの認識部位は、ヒトゲノム中のどこにも存在しないため、特異的DNA組換えに使用することができる。本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、都合の良いことに、ゲノム中に人工的に導入される標的部位を必要としない。さらに都合がよくかつ最も好ましくは、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、DNA配列の反転を引き起こす。さらなる利点は、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素が、内因性DNA修復経路を始動させることなく正確なゲノム編集を可能にすることである。本発明はさらに、ポリヌクレオチド又は核酸又は複数の核酸分子などの核酸分子であって、本発明による第1及び第2のDNAリコンビナーゼなどのDNAリコンビナーゼ、又は遺伝子改変されたDNA組換え酵素又はそのサブユニットをコードする核酸配列をそれぞれが含むか又はそれからなる、前記核酸分子に関する。
【0147】
ポリペプチドをコードするコード配列は、配列番号27~30、32、33、36、37、40、41、43、44、46、47、49及び50、好ましくは配列番号27~30、32、33、36及び37に示されるポリペプチドのコード配列と同一であってよく、又は遺伝暗号若しくは一塩基多型の冗長性又は縮重の結果として、同じポリペプチドをコードする異なるコード配列であってもよい。
【0148】
例えば、本発明のポリペプチドのコード配列の全長を含む、配列番号27~30、32、33、36、37、40、41、43、44、46、47、49及び50のRNA転写物であってもよい。好ましい実施態様では、本発明による「ポリヌクレオチド」は、配列番号27~30、32、33、36及び37のうちの1つである。
【0149】
本発明による遺伝子操作に使用された野生型又は元のポリペプチドは、以下のポリヌクレオチドによってコードされる:
・配列番号26のポリヌクレオチドは、配列番号1の野生型Cre DNAリコンビナーゼ単量体をコードする;
・配列番号31のポリヌクレオチドは、配列番号6の進化したD7L DNAリコンビナーゼ単量体をコードする;
・配列番号35のポリヌクレオチドは、配列番号10の進化したD7R DNAリコンビナーゼ単量体をコードする;
・配列番号39のポリヌクレオチドは、配列番号14の野生型Vika DNAリコンビナーゼ単量体をコードする;
・配列番号42のポリヌクレオチドは、配列番号17の野生型Panto DNAリコンビナーゼ単量体をコードする;
・配列番号45のポリヌクレオチドは、配列番号20の野生型Dre DNAリコンビナーゼ単量体をコードする;かつ
・配列番号48のポリヌクレオチドは、配列番号23の野生型Cre DNAリコンビナーゼ単量体をコードする。
【0150】
配列番号2~5、7、8、11、12、15、16、18、19、21、22、24又は25、好ましくは配列番号2~5、7、8、11又は12のポリペプチドをコードする核酸には、ポリペプチド単独のコード配列;ポリペプチドのコード配列と、リーダー配列若しくは分泌配列又はプロタンパク質配列などの追加のコード配列;及びポリペプチドのコード配列(及び場合により追加のコード配列)と、ポリペプチドのコード配列のイントロン又は非コード配列の5'及び/若しくは3'などの非コード配列が含まれ得るが、これらに限定されない。配列番号2~5、7、8、11、12、15、16、18、19、21、22、24又は25、好ましくは配列番号2~5、7、8、11又は12のポリペプチドをコードする核酸には、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化された核酸が含まれる。それらはさらに核局在化配列を含んでよい。
【0151】
そのため、用語「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」又は用語「ポリペプチドをコードする核酸」は、本発明のDNAリコンビナーゼ酵素のコード配列のみを含むポリヌクレオチド又は核酸、例えば、配列番号2~5、7、8、11、12、15、16、18、19、21、22、24又は25から選択される、好ましくは配列番号2~5、7、8、11又は12のポリペプチド、並びに追加のコード配列及び/又は非コード配列を含むものを包含すると理解されるべきである。ポリヌクレオチド及び核酸という用語は、互換的に使用される。
【0152】
本発明はまた、ポリペプチドのコード配列が、宿主細胞からのポリペプチドの発現及び分泌を助けるポリヌクレオチド配列に同じリーディングフレーム内で融合され得るポリヌクレオチドを含む;例えば、細胞からのポリペプチドの輸送を制御するための分泌配列として機能するリーダー配列を、そのように融合させてもよい。そのようなリーダー配列を有するポリペプチドは、プレタンパク質又はプレプロタンパク質と呼ばれ、リーダー配列が宿主細胞によって切断され、タンパク質の成熟型を形成し得る。これらのポリヌクレオチドは、N末端にさらなるアミノ酸残基を加えた成熟タンパク質であるプロタンパク質をコードするように5'伸長領域を有し得る。そのようなプロ配列を有する発現産物は、成熟タンパク質の不活性型であるプロタンパク質と呼ばれ;しかし、プロ配列が切断されると、活性成熟タンパク質が残る。追加の配列はまた、タンパク質に結合し、成熟タンパク質の一部となり得る。そのため、例えば、本発明のポリヌクレオチドは、ポリペプチド、又はプロ配列を有するタンパク質、又はプロ配列とプレ配列の両方を有するタンパク質(リーダー配列など)をコードし得る。
【0153】
本発明のポリヌクレオチドはまた、本発明のポリペプチドの精製を可能にするマーカー配列にインフレームで融合されたコード配列を有してよい。マーカー配列は、ポリヒスチジンタグ、ストレプトアビジンタグ、Xpressタグ、FLAGタグ、セルロース又はキチン結合タグ、グルタチオン-Sトランスフェラーゼタグ(GST)、ヘマグルチニン(HA)タグ、c-mycタグ若しくはV5タグなどの親和性タグ又はエピトープタグであり得る。
【0154】
HAタグは、インフルエンザ・ヘマグルチニンタンパク質から得られたエピトープ(Wilsonらの文献, 1984)に対応し、c-mycタグは、ヒトMycタンパク質(Evansらの文献, 1985)からのエピトープであり得る。
【0155】
本発明の核酸が、特に医薬として使用するためのmRNAである場合、mRNA治療薬の送達は、mRNAの翻訳及び安定性の最大化、その免疫刺激活性の防止及びインビボ送達技術の開発における著しい進歩によって促進されている。5'キャップと3'ポリ(A)テールは、成熟真核生物mRNAの効率的な翻訳と半減期の延長に対して主に貢献している。ARCA(抗リバースキャップ類似体)などのキャップ類似体及び120~150 bpのポリ(A)テールをインビトロ転写(IVT) mRNAに組み込むと、コードされるタンパク質の発現及びmRNAの安定性が著しく改善された。1,2-ジチオ二リン酸修飾キャップなどの新しい種類のキャップ類似体は、RNA脱キャッピング複合体に対する耐性を有し、RNA翻訳の効率をさらに向上させることができる。mRNAタンパク質コード配列内の希少コドンを頻繁に生じる同義コドンで置き換える、いわゆるコドン最適化すると、より良好な効率のタンパク質合成を促進し、希少コドンによるmRNA不安定化を制限するため、転写産物の加速された分解を防止する。同様に、RNA結合タンパク質(RBP)及びmiRNAのリクルートに関与する配列を含む3'及び5'非翻訳領域(UTR)を操作すると、タンパク質産物のレベルを高めることができる。興味深いことに、UTRは、調節エレメント(例えば、K-turnモチーフ及びmiRNA結合部位)をコードするように意図的に改変することができ、細胞特異的にRNA発現を制御する手段を提供する。N1-メチル-プソイドウリジンなどのいくつかのRNA塩基修飾は、mRNA免疫刺激活性をマスキングするのに役立つだけでなく、翻訳開始を増強することによってmRNA翻訳を増加させることも示されている。タンパク質の翻訳に対する観察された効果に加えて、塩基修飾とコドン最適化はmRNAの二次構造に影響を与え、それが今度は翻訳に影響を与える。本発明の核酸分子のそれぞれの修飾もまた、本発明によって企図される。
【0156】
RNA又は複数のRNAは、好ましくは、DNA組換え酵素又はそのサブユニットのいずれかをコードする。核酸及び具体的にRNAを送達及び発現するための具体的な方法は、例えば、EP2590676及びEP3115064に開示されている。RNAは、粒子中に存在してもよく、好ましくは自己複製性である。粒子をインビボで投与した後、RNAを粒子から放出し、細胞内で翻訳して、DNA組換え酵素又はその単量体サブユニットのいずれかを提供する。
【0157】
自己複製性RNA分子(レプリコン)は、いかなるタンパク質も含まずに脊椎動物細胞に送達されると、それ自体からの転写によって(それ自体が生成するアンチセンスコピーを介して)複数の娘RNAの生成をもたらすことができる。これらの娘RNA、及び共直線性サブゲノム転写物は、それ自体が翻訳されて、コードされるポリペプチドのインサイツ発現を提供するか、又はポリペプチドのインサイツ発現を提供するために翻訳され送達されるRNAと同じ意味でさらなる転写物を提供するために転写されてよい。この転写配列の全体的な結果は、導入されるレプリコンRNAの数の大幅な増幅であり、したがって、コードされるポリペプチドは、細胞の主要なポリペプチド産物となる。
【0158】
好ましい自己複製RNA分子は、(i)自己複製RNA分子からRNAを転写することができるRNA依存性RNAポリメラーゼ及び(ii)本発明のポリペプチドをコードする。ポリメラーゼは、例えば、アルファウイルスタンパク質nsP1、nsP2、nsP3及びnsP4のうちの1以上を含むアルファウイルスレプリカーゼであり得る。本発明の自己複製RNA分子は、アルファウイルス構造タンパク質をコードしないことが好ましい。そのため、好ましい自己複製RNAは、細胞内でのそれ自体のゲノムRNAコピーを生成することができるが、RNA含有ビリオンを生成できない。本発明の文脈において有用な自己複製RNA分子は、2つのオープンリーディングフレームを有し得る。第1の(5')オープンリーディングフレームはレプリカーゼをコードし、第2の(3')オープンリーディングフレームは、本発明のポリペプチドをコードする。いくつかの実施態様では、RNAは、例えば、アクセサリポリペプチドをさらにコードするために、追加の(例えば、下流の)オープンリーディングフレームを有してもよい。
【0159】
このようなRNAは、遺伝子治療における一般的な使用、具体的には、遺伝性障害又は疾患の治療における使用に特に適している。
【0160】
本発明はさらに、配列間で少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性又は類似性があり、そのため、類似の生物学的活性を有するタンパク質をコードする本明細書上記の配列にハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供すると考えられる。さらに、当技術分野で知られているように、アミノ酸配列が配列中に個々の残基について同一の又は保存されたアミノ酸置換を含む場合、2つのポリペプチド間に「類似性」が存在する。同一性及び類似性は、配列解析ソフトウェア(例えば、PBIL(Pole Bioinformatique Lyonnais)のClustalW http://npsa-pbil.ibcp.fr)を用いて測定され得る。本発明は特に、本明細書上記のポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするようなポリヌクレオチドを提供する。
【0161】
適切なストリンジェント条件は、例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーション溶液中の塩又はホルムアミドの濃度、又はハイブリダイゼーション温度によって定義することができ、当技術分野において周知である。特に、ストリンジェンシーは、塩の濃度を低下させることによって、ホルムアミドの濃度を増加させることによって、及び/又はハイブリダイゼーション温度を上昇させることによって増加させることができる。
【0162】
例えば、高ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションは、約37℃~42℃で、約50%のホルムアミドを採用し得るが、低減されたストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションは、約30℃~35℃で、約35%から25%のホルムアミドを採用し得る。高ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションのための1つの特定の条件セットは、42℃で、50%のホルムアミド、5x SSPE、0.3%のSDS、及び200μg/mlの剪断及び変性済みサケ精子DNAを採用する。低減されたストリンジェンシー下でのハイブリダイゼーションの場合に、35℃の低減された温度で、35%のホルムアミドで上記と類似の条件を使用してよい。特定のレベルのストリンジェンシーに対応する温度範囲は、関心のある核酸のプリン対ピリミジン比を計算し、それに応じて温度を調整することによってさらに狭めることができる。上記の範囲及び条件のバリエーションは、当技術分野において周知である。好ましくは、ハイブリダイゼーションは、配列間に少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%の同一性がある場合にのみ生じるべきである。好ましい実施態様では本明細書上記のポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドは、配列番号2~5、7、8、11、12、15、16、18、19、21、22、24又は25、好ましくは配列番号2~5、7、8、11又は12の成熟タンパク質と実質的に同一の生物学的機能又は活性を示すポリペプチドをコードする。
【0163】
前述のように、適切なポリヌクレオチドプローブは、少なくとも14塩基、好ましくは30塩基、より好ましくは少なくとも50塩基を有してよく、本明細書上記のようにそれと同一性を有する本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズする。例えば、そのようなポリヌクレオチドは、例えば、そのようなポリヌクレオチドの回収のため、又は診断プローブとして、又はPCRプライマーとして、それぞれ配列番号2~5、7、8、11、12、15、16、18、19、21、22、24又は25、好ましくは配列番号2~5、7、8、11又は12のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするためのプローブとして採用してよい。そのため、本発明は、配列番号2~5、7、8、11、12、15、16、18、19、21、22、24又は25、好ましくは配列番号2~5、7、8、11又は12のポリペプチド、並びに好ましくは少なくとも30塩基、より好ましくは少なくとも50塩基を有するそれらの断片をコードする配列番号27~30、32、33、36、37、40、41、43、44、46、47、49及び50のポリヌクレオチドと少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するポリヌクレオチドを含む。
【0164】
本明細書で互換的に使用される用語「相同性」又は「同一性」は、2つのポリヌクレオチド配列間又は2つのポリペプチド配列間の配列類似性を指し、同一性はより厳密な比較である。「パーセント同一性又は相同性」及び「同一性又は相同性」という語句は、2以上のポリヌクレオチド配列又は2以上のポリペプチド配列の比較において見出される配列類似性の割合を指す。「配列類似性」は、2以上のポリヌクレオチド配列間の(任意の適切な方法によって決定される)塩基対配列におけるパーセント類似性を指す。2以上の配列は、0~100%のどこか、又はその間の任意の整数値の類似度であり得る。同一性又は類似性は、比較の目的で整列させることができる各配列内の位置を比較することによって決定することができる。比較される配列内の位置が同じヌクレオチド塩基又はアミノ酸によって占有される場合、分子はその位置で同一である。ポリヌクレオチド配列間の類似性又は同一性の程度は、ポリヌクレオチド配列によって共有される位置における同一の又は一致するヌクレオチドの数の関数である。
【0165】
ポリペプチド配列の同一性の程度は、ポリペプチド配列によって共有される位置における同一アミノ酸の数の関数である。ポリペプチド配列の相同性又は類似性の程度は、ポリペプチド配列によって共有される位置におけるアミノ酸の数の関数である。本明細書で使用される用語「実質的に同一」は、少なくとも70%、75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の同一性又は相同性を指す。
【0166】
配列同一性の程度は、クエリ配列として1つの配列を選択し、blastpアルゴリズム(NCBI)を用いてGenBankから取得した相同配列と、インターネットベースツールのClustalWを用いて整列させることによって決定される。
【0167】
当技術分野において周知であるように、遺伝暗号は、特定のアミノ酸が2以上のヌクレオチドトリプレット(コドン)によってコードされるという点で冗長であり、本発明は、本明細書の配列に具体的に例示されるものとは異なるコドンを用いて同じアミノ酸をコードするポリヌクレオチド配列を含む。そのようなポリヌクレオチド配列は、本明細書では「等価」ポリヌクレオチド配列と呼ばれる。本発明はさらに、配列番号2~5、7、8、11又は12のポリペプチドのタンパク質、類似体並びに誘導体の一部又は全部などの、断片をコードする本明細書上記のポリヌクレオチドのバリアントを含む。ポリヌクレオチドのバリアント形態は、天然に存在するポリヌクレオチドの対立遺伝子バリアント又は天然に存在しないポリヌクレオチドのバリアントであり得る。例えば、核酸のバリアントは、単に遺伝暗号の縮重に起因するアミノ酸のコドン配列の違いであり得るか、又は欠失バリアント、置換バリアント及び付加若しくは挿入のバリアントが存在し得る。当技術分野で知られているように、対立遺伝子バリアントは、ポリヌクレオチド配列の代替形態であり、コードされるポリペプチドの生物学的機能を実質的に変更しない1以上のヌクレオチドの置換、欠失又は付加を有し得る。
【0168】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、偏性ヘテロ二量体をコードし、前記ヘテロ二量体は、リコンビナーゼ標的部位の上流標的配列及び下流標的配列の認識のための配列番号2、3、7、8、15、18、21又は24に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する第1のリコンビナーゼ酵素、及び配列番号4、5、11、12、16、19、22又は25に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する第2のリコンビナーゼ酵素を含む。
【0169】
一実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号27の核酸及び配列番号29の核酸を含む。
【0170】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号27の核酸及び配列番号30の核酸を含む。
【0171】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号28の核酸及び配列番号30の核酸を含む。
【0172】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号32の核酸及び配列番号36の核酸を含む。
【0173】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号32の核酸及び配列番号37の核酸を含む。
【0174】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号33の核酸及び配列番号36の核酸を含む。
【0175】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号40の核酸及び配列番号41の核酸を含む。
【0176】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号43の核酸及び配列番号44の核酸を含む。
【0177】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号46の核酸及び配列番号47の核酸を含む。
【0178】
さらなる実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号49の核酸及び配列番号50の核酸を含む。
【0179】
本発明はまた、そのようなポリヌクレオチドを含むベクター、好ましくは発現ベクター、そのようなベクターで遺伝子操作されるか、又は本発明による核酸分子若しくは複数の核酸分子を含む宿主細胞、及び組換え技術による配列番号2~5、7、8、11、12、15、16、18、19、21、22、24又は25、好ましくは配列番号2~5、7、8、11又は12などの本発明のポリペプチドの生成も提供する。宿主細胞は、例えばクローニングベクター又は発現ベクターであり得るそのようなベクターで遺伝子操作(形質導入又は形質転換又はトランスコンジュゲート又はトランスフェクト)される。ベクターは、例えば、プラスミド、コンジュゲートプラスミド、ウイルス粒子、ファージなどの形態であってよい。ベクター又は遺伝子は、特異的部位又は非特異的部位で染色体に組み込まれてよい。相同組換え又はトランスポザーゼ媒介組込みなどの組換えDNAのゲノム組込みの方法は、当技術分野において周知である。操作された宿主細胞は、プロモーターを活性化するか、形質転換体を選択するか、又は本発明の遺伝子を増幅するために適宜改変された従来の栄養培地で培養することができる。温度、pHなどの培養条件は、当業者に周知である発現用に選択される宿主細胞と共に一般に用いられるものである。宿主細胞は、本明細書に記載の核酸若しくは組換えポリヌクレオチド分子又は発現ベクターを含む哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞又は細菌宿主細胞であり得る。
【0180】
発現ベクター中のポリヌクレオチド配列は、mRNA合成を指示するために、適切な発現制御配列(複数可)(プロモーター)に作用可能に結合される。そのようなプロモーターの限定されない代表例として、LTR又はSV40プロモーター、大腸菌lac、ara、rha又はtrp、ファージラムダPLプロモーター及び原核細胞若しくは真核細胞又はそれらのウイルスにおける遺伝子の発現を制御することが知られている他のプロモーターを挙げることができる。
【0181】
当業者は、例えば、哺乳動物細胞又は細菌細胞などの特定の細胞におけるベクターの生成のために、所望の特性に基づいてベクターを選択することができる。
【0182】
種々の誘導性プロモーター又はエンハンサーのいずれかを、本発明の抗体又は調節され得る核酸の発現のためのベクターに含めることができる。そのような誘導システムには、例えばテトラサイクリン誘導システム;重金属によって誘導されるメタロチオネインプロモーター;エクジソン又はムリステロンなどの関連ステロイドに応答する昆虫ステロイドホルモン;グルココルチコイド及びエストロゲンなどのステロイドによって誘導されるマウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV);及び温度変化によって誘導可能なヒートショックプロモーター;ラットニューロン特異的エノラーゼ遺伝子プロモーター;ヒトβ-アクチン遺伝子プロモーター;ヒト血小板由来成長因子B(PDGF-B)鎖遺伝子プロモーター;ラットナトリウムチャネル遺伝子プロモーター;ヒト銅-亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子プロモーター;及び哺乳動物POUドメイン調節遺伝子ファミリーのメンバーのためのプロモーターが含まれる。
【0183】
プロモーター又はエンハンサーを含む調節エレメントは、構成的であるか又は調節の性質に応じて調節することができる。調節配列又は調節エレメントは、ポリヌクレオチド配列と調節配列との間の物理的及び機能的関係がポリヌクレオチド配列の転写を可能にするように、本発明のポリヌクレオチド配列の1つに作用可能に結合される。真核細胞での発現に有用なベクターには、例えば、CAGプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロイルス(CMV)プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)ステロイド誘導性プロモーター、Pgtf、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)プロモーター、thy-1プロモーターなどを含む調節エレメントが含まれ得る。
【0184】
所望により、ベクターは、選択マーカーを含むことができる。本明細書で使用される「選択マーカー」は、選択マーカーが導入された細胞に選択可能な表現型を提供する遺伝子エレメントを指す。選択マーカーは、一般に、その遺伝子産物が細胞増殖を阻害するか、又は細胞を殺す薬剤に対する耐性を提供する遺伝子である。例えば、Ausubelらの文献, 1999及び米国特許第5,981,830号に記載の、例えばNeo、Hyg、hisD、Gpt及びBle遺伝子を含む様々な選択マーカーを本発明のDNAコンストラクトにおいて使用することができる。選択マーカーの存在を選択するのに有用な薬物には、例えば、NeoについてはG418、Hygについてはハイグロマイシン、hisDについてはヒスチジノール、Gptについてはキサンチン、及びBleについてはブレオマイシンが含まれる。本発明のDNAコンストラクトは、陽性選択マーカー、陰性選択マーカー、又はその両方を組み込むことができる。
【0185】
組換えタンパク質を発現させるために種々の哺乳動物細胞培養系も採用することができる。哺乳動物発現系の例には、サル腎臓線維芽細胞のCOS-7株が含まれる。適合性ベクターを発現し得る他の細胞株には、例えば、C127、3T3、CHO、HeLa及びBHK細胞株が含まれる。哺乳動物発現ベクターには、一般に、複製起点、適切なプロモーター及びエンハンサー、並びに任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー及びアクセプター部位、転写終結配列、及び5'隣接非転写配列も含まれる。SV40スプライスに由来するDNA配列、及びポリアデニル化部位は、必要な非転写遺伝子エレメントを提供するために使用され得る。
【0186】
ポリペプチドは、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、リン酸化セルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含む方法によって組換え細胞培養物から回収及び精製することができる。ポリペプチドが細胞の表面で発現している場合には、回収を容易にすることができるが、そのようなことは前提条件ではない。また、より長いポリペプチド形態の発現後に切断される切断生成物の回収が望ましい場合がある。この技術分野において知られているようなタンパク質リフォールディング工程は、必要に応じて、成熟タンパク質の立体配置を完成させるために使用することができる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、最終精製工程に採用することができる。
【0187】
本発明のさらなる実施態様に従って、例えば、対象における本発明の遺伝子操作されたタンパク質の発現を全身的又は局所的に増加させるのに使用するための遺伝子治療ベクターが提供される。遺伝子治療ベクターは、ゲノム編集によって治療することができる疾患、特に血友病Aの予防、緩和、改善、軽減、阻害、及び/又は治療に使用される。遺伝子治療ベクターは、典型的には、本発明の遺伝子操作された、DNA組換え酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットを含む。一実施態様では、ベクターはウイルスベクターである。好ましい実施態様では、ウイルスベクターは、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)からなる群から選択されるウイルスに由来する。より好ましい実施態様では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型1~11、又は任意のサブグループ又はそれらの任意の操作された形態の1以上に由来する。別の実施態様では、ウイルスベクターは、アニオン性リポソームに封入される。
【0188】
別の実施態様では、ベクターは、非ウイルスベクターである。好ましい実施態様では、非ウイルスベクターは、裸のDNA、カチオン性リポソーム複合体、カチオン性ポリマー複合体、カチオン性リポソーム-ポリマー複合体、及びエキソソームからなる群から選択される。
【0189】
ベクターがウイルスベクターである場合、発現カセットは、適切には(転写されるmRNAの観点から)5'から3'方向に作用可能に結合される第1の逆末端反復、エンハンサー、プロモーター、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素をコードするポリヌクレオチド、3'非翻訳領域、ポリアデニル化(polyA)シグナル、及び第2の逆末端反復を含む。プロモーターは、例えば、サイトメガロイルス(CMV)プロモーター及びニワトリベータアクチン(CAG)プロモーターからなる群から選択される。ポリヌクレオチドは、好ましくはDNA又はcDNA又はRNA又はmRNAを含む。好ましい実施態様では、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素をコードするポリヌクレオチドは、配列番号27~30、32、33、36、37、40、41、43、44、46、47、49及び50のポリペプチドの1以上を含む。最も好ましい実施態様では、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素をコードするポリヌクレオチドは、配列番号27~30、32、33、36及び37のうちの1以上と少なくとも約75%、80%、85%又は90%の配列同一性、例えば、少なくとも約91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する。
【0190】
本発明はさらに、医薬として使用するための本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素又は本発明の核酸分子又は複数の核酸分子、若しくは組換えポリヌクレオチド、若しくは発現ベクターに関する。より好ましい実施態様では、本発明はさらに、ゲノム編集によって治療することができる疾患、特に血友病Aの予防又は治療に使用するための本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は本発明の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は本発明の組換えポリヌクレオチド、又は発現ベクターに関する。
【0191】
さらなる実施態様では、本発明は、ゲノム編集によって治療することができる疾患の予防又は治療のための医薬の調製のための本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素又は本発明の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は組換えポリヌクレオチド、又は発現ベクターの使用に関する。好ましい実施態様によれば、前記疾患は、遺伝性疾患又は障害である。特に好ましい実施態様によれば、前記疾患又は障害は血友病Aである。
【0192】
さらなる実施態様では、本発明は、ゲノム編集によって治療することができる疾患、特に血友病Aの予防又は治療方法であって、治療有効量の本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素又は本発明の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は組換えポリヌクレオチド、又は発現ベクターを、それを必要とする患者に投与することを含む方法に関する。
【0193】
本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は本発明の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は組換えポリヌクレオチド、又は発現ベクターは、遺伝子障害又は遺伝子障害に起因する疾患の治療に使用することができる。特に好ましい実施態様は、重篤型の血友病Aの治療に関する。
【0194】
本発明はまた、偏性DNAリコンビナーゼ酵素の複合体を生成する方法を提供する。好ましい実施態様によれば、そのような方法は、
(i)第1のDNAリコンビナーゼ酵素の触媒領域に単一アミノ酸置換を導入する工程、ここで、前記単一アミノ酸置換は、第1のDNAリコンビナーゼ酵素を触媒的に不活性にする;
(ii)第2のDNAリコンビナーゼ酵素の触媒領域に単一アミノ酸置換を導入する工程、ここで、前記単一アミノ酸置換は、第2のDNAリコンビナーゼ酵素を触媒的に不活性にする;
(iii)宿主細胞内の変異した第1のDNAリコンビナーゼ酵素と変異した第2のDNAリコンビナーゼ酵素の両方を共発現させる工程;
(iv)変異した第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び変異した第2のDNAリコンビナーゼ酵素を宿主細胞から単離する工程
を含む。
【0195】
本発明は、ゲノム編集のための、好ましくはDNA配列の組換えのための偏性DNAリコンビナーゼを生成する方法であって、
i. 第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素が、非対称リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位に結合し、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、非対称リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位に結合し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、DNA配列中の前記非対称リコンビナーゼ標的部位において関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができるヘテロ二量体を形成し、前記非対称リコンビナーゼ標的部位は、リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を含み、これらは同一ではなく、パリンドロームでもない;
ii.第1の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーを作製するために変異誘発を行う工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素に変異が導入される;
iii. 第1の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリー及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーを発現ベクターにクローニングすることにより発現ベクターを作製する工程、ここで、前記発現ベクターは、組換えられる予定の関心のあるDNA配列を保有している;
iv. 工程iii)の発現ベクターで細胞をトランスフェクトし、前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素のライブラリーを同じ細胞内で発現させることにより、第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素を含むリコンビナーゼヘテロ二量体を形成する工程;
v. DNA中の非対称リコンビナーゼ標的部位で関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができる、工程ivで得られたヘテロ二量体についての陽性選択スクリーニングを行う工程;
vi. オフターゲット部位、好ましくは、DNA中の対称リコンビナーゼ標的部位において、関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができない、工程iv又はvで得られたヘテロ二量体についての陰性選択スクリーニングを行う工程;
vii. 非対称リコンビナーゼ標的部位においてDNA中のリコンビナーゼ標的部位で関心のあるDNA配列を組換えることができ、かつDNA中のオフターゲットリコンビナーゼ標的部位で関心のあるDNA配列を組換えることができない偏性DNAリコンビナーゼを選択する工程、
を含む、前記方法を提供する。
【0196】
驚くべきことに、単量体間の界面変異はホモ二量体の形成を阻止するだけでなく、非対称リコンビナーゼ標的部位でのヘテロ二量体の組換え活性を劇的に減少させるが、第1及び第2のリコンビナーゼ酵素の触媒領域における変異は、非対称リコンビナーゼ標的部位で高い活性を有するヘテロ二量体の形成につながったことが見出された。
【0197】
したがって、本発明の方法の好ましい実施態様では、工程viiで得られた前記偏性DNAリコンビナーゼの前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素は各々、触媒部位に少なくとも1つの変異を含み、これにより、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素を単独で発現させた場合に、触媒的に不活性になる。
【0198】
より好ましくは、工程viiで得られた前記偏性DNAリコンビナーゼの前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素は、単量体間の界面変異を含まない。
【0199】
工程ii~viによる前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、好ましくは、基質結合指向性進化(SLiDE)又は指向性進化によって進化される。基質結合タンパク質進化(SLiDE)を使用するリコンビナーゼの進化は、当技術分野で公知であり、例えば、本明細書以下に記載のBuchholz及びStewartの文献, 2001; Sakaraらの文献, 2007; Karpinskiらの文献, 2016;並びにLansingらの文献, 2020並びにWO 2018/229226 A1に記載されている。
【0200】
好ましい実施態様では、本発明の方法の工程v及びviによる選択は、非対称標的部位で触媒活性のある偏性ヘテロ二量体の選択(陽性選択)の間、及びオフターゲット部位、好ましくは対称標的部位で触媒活性のないヘテロ二量体間で繰り返される。
【0201】
本発明による方法は、非対称標的部位での活性についての陽性選択圧の生成と、対称標的部位での陰性選択圧の生成を含み、ここで、陽性選択圧及び前記陰性選択圧の生成は、エラープローンPCR(例えば、error-prone MyTaq DNAポリメラーゼ, Bioline)を介してDNA組換え酵素の2つのライブラリーの多様化、及び所望の非対称標的部位で活性を有する第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素の変異体ペアの選択によって達成される。これは、実施例2及び図2と15でより詳細に説明されている。
【0202】
さらに好ましくは、陽性選択及び陰性選択の少なくとも10、より好ましくは少なくとも15、最も好ましくは少なくとも20のSLiDEサイクルが行われる。
【0203】
本発明の方法のさらに好ましい実施態様では、陽性選択スクリーニング及び陰性選択スクリーニングは、工程ivで得られた細胞の培養後の発現ベクターの精製及び組換えベクター及び非組換えベクターの分析を含む。
【0204】
最も好ましくは、陽性選択スクリーニングは、非対称標的部位loxF8に対して行われ、陰性選択スクリーニングは、対称標的部位loxF8R及びloxF8Lに対して行われる。
【0205】
本発明による方法は、
viii. 所望の偏性DNAリコンビナーゼの潜在的なオフターゲット部位を同定する工程;
ix. 同定されたオフターゲット部位での所望の偏性DNAリコンビナーゼのリコンビナーゼ活性を分析する工程;及び
x. 少なくとも1つのオフターゲット部位でリコンビナーゼ活性を示さない偏性DNAリコンビナーゼを選択する工程
をさらに含むことができる。
【0206】
本発明はさらに、前述の方法のいずれかを用いて特定又は取得される偏性DNAリコンビナーゼに関する。偏性DNAリコンビナーゼについて上述した特性、特徴及び実施態様は、ゲノム編集のための偏性DNAリコンビナーゼを生成する方法及び前記方法によって得られた偏性DNAリコンビナーゼに等しく適用される。
【0207】
本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素又は本発明の核酸分子、組換えポリヌクレオチド又は発現ベクター若しくは宿主細胞は、医薬組成物にさらに含めることができ、これは、場合により、さらに、1以上の治療上許容し得る希釈剤又は担体を含有してもよい。
【0208】
さらなる態様によれば、本発明は、例えば、血友病Aなどのゲノム編集によって治療することができる障害を予防又は治療する際に使用するための医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、本発明の少なくとも1つの第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び/又は少なくとも1つの第2のDNAリコンビナーゼ酵素、又は本発明のDNA組換え酵素、又は本発明の核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は多組換えポリヌクレオチド、又は発現ベクター、又は宿主細胞、及び1以上の治療上許容し得る希釈剤又は担体を含む。
【0209】
好ましい実施態様による医薬組成物は、本発明による1以上の遺伝子操作されたタンパク質をコードするポリヌクレオチドの核酸配列を含むか、又は治療上活性のある量の本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素をコードする核酸を含むか、又は治療上活性のある量の本発明の遺伝子操作された組換え型DNA組換え酵素を含むか、又は治療上活性のある量の本発明の宿主細胞(複数可)を含む(共に「治療活性剤」と命名される)ベクターの治療有効量を含む。
【0210】
本発明はまた、治療有効量の遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は本発明の核酸分子、又は組換えポリヌクレオチド、又は発現ベクター、又は宿主細胞を、それを必要とする対象に投与することによって、疾患又は障害、具体的には遺伝子疾患又は障害を治療する方法を提供する。
【0211】
本発明の治療活性剤及び組成物の単回投与量又は総1日投与量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されよう。任意の特定の患者についての特異的治療有効用量レベルは、治療される障害及び障害の重症度;採用される特異的化合物の活性;採用される特異的組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事;採用される特異的化合物の投与期間、投与経路、及び排出速度;治療期間;採用される特異的核酸又はポリペプチドと組み合わせて、若しくは一緒に使用される薬物;並びに医学分野で周知の要因などを含む種々の要因に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要なレベルよりも低いレベルで化合物の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当業者の範囲内である。しかし、生成物の1日投与量は、成人1日当たり広範囲にわたって変化し得る。投与されるべき本発明によるベクターなどの治療活性剤の治療有効量、並びに本明細書に記載の多数のウイルス若しくは非ウイルス粒子及び/又は医薬組成物で病理学的状態を治療するための投与量は、患者の年齢及び状態、障害(disturbance)又は障害(disorder)の重症度、投与方法及び投与頻度並びに使用される特定のペプチドを含む多数の要因に依存する。
【0212】
本発明による治療活性剤を含有する医薬組成物は、選択された投与様式に適する任意の形態であってよい。
【0213】
一実施態様では、本発明の医薬組成物は、非経口的に投与される。
【0214】
本明細書で使用される語句「非経口投与」及び「非経口的に投与される」は、経腸及び局所投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、表皮内、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下内、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外及び胸骨内の注射並びに注入を含む。
【0215】
本発明の治療活性剤は、単独の活性剤として、又は他の活性剤と組み合わせて、単位投与形態で、従来の医薬支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。
【0216】
さらなる実施態様では、該医薬組成物は、注射され得る製剤用の医薬として許容し得るビヒクルを含有する。これらは、特に等張性の滅菌生理食塩水(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウムなど、又はそのような塩の混合物)、又は乾燥、特に凍結乾燥組成物であり得、これは、添加時に、滅菌水又は生理食塩水の場合に応じて、注射可能な溶液の構成を可能にする。
【0217】
注射可能な使用に適する医薬形態には、滅菌水溶液又は分散液;ゴマ油、落花生油又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び滅菌注射可能な溶液又は分散液の即時調製用の滅菌粉末が含まれる。全ての場合において、該形態は、無菌でなければならず、液体でなければならない。それは、製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の混入作用に対して保存されなければならない。
【0218】
遊離塩基又は薬理学的に許容し得る塩として治療活性剤を含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水で調製することができる。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物及び油類で調製することもできる。貯蔵及び使用の通常の条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための防腐剤を含有する。
【0219】
治療活性剤は、中性又は塩の形態の組成物に製剤化することができる。医薬として許容し得る塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基で形成される)を含み、例えば、塩酸若しくはリン酸などの無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される。遊離カルボキシル基と形成される塩はまた、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基に由来し得る。
【0220】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び植物油を含む溶媒又は分散媒として存在し得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合に必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張化剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物中での使用によってもたらされ得る。
【0221】
滅菌注射用溶液は、必要に応じて、上記に列挙した他の成分のいくつかと共に適切な溶媒中に必要量の活性ポリペプチドを組込み、続いて濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散液は、上記に列挙したものから塩基性分散媒及び必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに種々の滅菌活性成分を組込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、好ましい調製方法は、予め滅菌濾過した溶液から活性成分プラス任意の追加の所望の成分の粉末をもたらす真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0222】
製剤化に際し、溶液は、投薬製剤と適合性のある様式で、かつ治療有効量で投与することができる。該製剤は、上記の注射用溶液の種類など種々の剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども採用できる。複数回用量でも投与することができる。適切な場合、本明細書に記載の治療活性剤は、送達のための任意の適切なビヒクルで製剤化され得る。例えば、それらは、医薬として許容し得る懸濁液、溶液又はエマルジョンに入れられ得る。適切な培地には、生理食塩水及びリポソーム調製物が含まれる。より具体的には、医薬として許容し得る担体は、非水性溶液、懸濁液、及びエマルジョンの滅菌水性担体を含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体には、生理食塩水及び緩衝媒体を含む水、アルコール性/水性溶液、エマルジョン又は懸濁液が含まれるが、これらに限定されない。静脈内ビヒクルには、体液及び栄養素補充剤、電解質補充剤(リンゲルデキストロースに基づくものなどの)などが含まれる。
【0223】
例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガスなどの防腐剤及び他の添加剤も存在してよい。
【0224】
コロイド分散系も、標的遺伝子送達のために使用され得る。コロイド分散系には、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、及びリポソームを含む脂質ベース系が含まれる。
【0225】
適切な治療レジメンは、医師が決定することができ、対象の年齢、性別、体重、及び疾患の病期に依存する。一例として、ウイルス発現ベクターを用いた本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素をコードする核酸配列の送達のために、遺伝子操作されたDNA組換え酵素発現ベクターの各単位投与量は、例えば、1mlあたり1011~1016の範囲のウイルスゲノム濃度で医薬として許容し得る流体にウイルス発現ベクターを含む2.5μl~100μlの組成物を含み得る。
【0226】
組換えポリペプチドの形態で本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素を投与するための有効投与量及び投与計画は、治療すべき疾患又は状態に依存し、当業者によって決定され得る。本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素の治療有効量についての例示的で非限定的な範囲は、約0.1~10 mg/kg/体重、0.1~5 mg/kg/体重など、例えば、0.1~2 mg/kg/体重、0.1~1 mg/kg/体重など、例えば、約0.15、約0.2、約0.5、約1、約1.5又は約2 mg/kg/体重である。
【0227】
当技術分野の通常の技術を有する医師又は獣医師は、必要な医薬組成物の有効量を容易に決定及び処方することができる。例えば、医師又は獣医師は、所望の治療効果を達成するのに必要とされるレベルよりも低いレベルで医薬組成物に採用される本発明の治療活性剤の用量から開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることができた。一般に、本発明の組成物の適切な1日用量は、治療効果が生じるのに有効な最低用量である送達系の量である。そのような有効用量は、一般に、上記の要因に依存する。投与は、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下であってよく、例えば、標的部位の近位に投与される。所望により、医薬組成物の有効1日用量は、任意に、単位剤形で、1日を通して適切な間隔で別々に投与される2回、3回、4回、5回、6回又はそれ以上のサブ用量として投与され得る。本発明の送達系を単独で投与することも可能であるが、上記の医薬組成物としての送達系で投与することが好ましい。
【0228】
上記及び本明細書に記載の治療活性剤を含むキットがさらに提供される。一実施態様では、該キットは、対象への投与の準備ができている1以上の単位剤形で、例えば、プリロードシリンジ又はアンプル中に調製された治療活性剤を提供する。別の実施態様では、該治療活性剤は、凍結乾燥形態で提供される。
【0229】
ゲノム中の関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができるDNA組換え酵素の潜在的な標的部位である核酸配列は、WO 2018/229226 A1に記載の方法に従って同定することができ、これは、例えば、
a) 少なくとも5で最大12 bpの長さを有する潜在的なスペーサー配列である2つの配列について、関心のある配列を含むゲノム又はその一部をスクリーニングするサブ工程であって、ここで、潜在的スペーサー配列の一方は、関心のある配列の上流にあり、他方の潜在的スペーサー配列は、関心のある配列の下流にあり、該2つの配列は、2メガベース以下、好ましくは1.5メガベース以下又は1メガベース以下、より好ましくは900 kb、800 kb、700 kb、600 kb又は500 kb、最も好ましくは400 kb又は300 kbの最大距離を有し、150 bpの最小距離を有する、前記サブ工程、
b) 潜在的な半部位とその間のスペーサー配列の両方が潜在的な標的部位を形成するが、各潜在的スペーサー配列について、潜在的な第1の半部位を形成する一方の側の近傍ヌクレオチド、好ましくは10~20ヌクレオチド、より好ましくは12~15ヌクレオチド、最も好ましくは13ヌクレオチド、並びに潜在的な第2の半部位を形成する他方の側の近傍ヌクレオチド、好ましくは10~20ヌクレオチド、より好ましくは12~15ヌクレオチド、最も好ましくは13ヌクレオチドを決定することにより潜在的な標的部位を同定するサブ工程、
c)工程b)で同定された潜在的標的部位をさらにスクリーニングして、配列特異的組換え、好ましくは反転を確実にするための宿主のゲノム中(どこか)に生じない潜在的標的配列を選択するサブ工程、
を含む。
【0230】
好ましくは、DNA組換え酵素について同定された潜在的標的部位の配列は、ゲノム中に天然に存在する。
【0231】
第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素は、指向性進化又は合理的設計によって、好ましくは、例えば、WO 2018/229226 A1に記載の基質結合指向性進化(SLiDE)によって進化させることができ、前記指向性進化は、a)で選択される第1の標的部位で活性のある少なくとも1つの第1のデザイナーDNA組換え酵素が得られ、第2の標的部位で活性のある少なくとも1つの第2のデザイナーDNA組換え酵素が得られるまで、
a)改変すべきヌクレオチド配列の上流のヌクレオチド配列を第1の標的部位として選択し、改変すべきヌクレオチド配列の下流のヌクレオチド配列を第2の標的部位として選択する工程、該標的部位の配列は同一でないことが好ましいが、各標的部位は、5~12ヌクレオチドのスペーサー配列によって区切られた各10~20ヌクレオチドを有する第1の半部位及び第2の半部位を含み、
b) 基質としてa)で選択される第1の標的部位及び第2の標的部位を含むベクターを用いてDNA組換え酵素の少なくとも1つのライブラリーに分子指向性進化を適用する工程
を含む。
【0232】
非対称標的部位の選択は、2つの異なる進化戦略を比較する機会を提供する。単一リコンビナーゼは、両方の10~20 bp、より好ましくは12~15bp、最も好ましくは13 bpの半部位を認識するように進化させることができるか、又は2つのリコンビナーゼを各半部位について並列に進化させることができる。2つのリコンビナーゼを組み合わせることにより、非対称部位を組換えることができる機能的なヘテロ二量体を形成することができる。
【0233】
本発明の一実施態様では、単一リコンビナーゼを両方の10~20bp、より好ましくは12~15bp、最も好ましくは13bpの半部位を認識するように進化させることが好ましい。
【0234】
本発明のさらなる実施態様では、ヘテロ二量体を生じる各半部位について2つのリコンビナーゼを並列に進化させることが好ましい。ヘテロ二量体は、ヘテロ二量体又は2つの異なるホモ二量体のいずれかを形成することができる2つのリコンビナーゼからなるので、潜在的な認識配列の量が増加する。この手法は、オフターゲット部位で意図しない組換えの機会が増加するので不都合である可能性がある。オフターゲット部位での組換えの機会を減らすために、単量体がホモ二量体化するのを制限することが本発明の目標であった。この目標を達成するために、リコンビナーゼ単量体を物理的に融合/互いに結合させて、本明細書に開示されるような変異によって可能になる所望のヘテロ二量体アセンブリを強制した。
【0235】
所望のリコンビナーゼ標的部位に高度に特異的である遺伝子操作されたDNA組換え酵素、すなわち低下したオフターゲット組換えを示す遺伝子操作されたDNA組換え酵素を選択するために、本発明の方法は、さらなる実施態様では、
i. 所望の遺伝子操作されたDNA組換え酵素の潜在的オフターゲット部位を同定する工程;
ii. 工程iで同定されたオフターゲット部位における所望の遺伝子操作されたDNA組換え酵素のリコンビナーゼ活性を分析する工程;及び
iii. 少なくとも1つのオフターゲット部位でリコンビナーゼ活性を示さない遺伝子操作されたDNA組換え酵素を選択する工程
を含み得る。
【0236】
リコンビナーゼのオフターゲット部位は、例えば、当業者に公知のバイオインフォマティクス手法を用いて同定することができる。他の手法には、ヒトにおける推定オフターゲットを同定するためのChIP-Seqベースアッセイ、続くqPCRによる検証及びDNA濃縮が含まれる。これらの方法も当業者に公知である。
【0237】
これらの潜在的なオフターゲット部位での遺伝子操作されたDNA組換え酵素のリコンビナーゼ活性は、例えば、本明細書に以下に記載するような細菌レポーターベクターに切り出し基質としてゲノム配列をクローニングすることによって実験的に試験することができる。次いで、オフターゲット部位での組換えは、例えばPCRベースのアッセイを用いて、レポーター遺伝子の発現を監視することによって検出することができる。そのようなアッセイは、オフターゲット部位がインビボで遺伝子操作されたDNA組換え酵素によって変更するかを調べるために、ヒト組織培養物でも行うこともできる。
【0238】
最も好ましくは、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、配列番号65及び66の標的配列を有するloxF8標的部位に対する高い特異性を示し、高い誘導レベルでオフターゲット部位では活性を示さない。好ましくは、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素によって認識されないオフターゲット部位は、表4に示されるように、配列番号67~83からなる群から選択される。
表4:オフターゲット部位の核酸配列
【表5】
太字:標的loxF8配列に対して相同でない配列(配列番号65)
下線:スペーサー配列
【0239】
本発明の特定の利点は、任意のリコンビナーゼ標的部位を用いて、このリコンビナーゼ標的部位に対して比活性を示す遺伝子操作されたDNA組換え酵素のリコンビナーゼ酵素を進化させることができることである。本発明の方法は、標的部位特異的偏性リコンビナーゼ複合体の提供を含み、リコンビナーゼヘテロ二量体の単量体は、進化させた又は天然に存在するリコンビナーゼに単一変異を導入することによって特異的には適合される。本発明の方法は、さらに、リコンビナーゼ複合体、すなわち、遺伝子操作されたDNA組換え酵素の望ましくないオフターゲット活性を劇的に低減する、好ましくは完全に排除することができるという利点を有する。これにより、偏性リコンビナーゼ複合体、すなわち遺伝子操作されたDNA組換え酵素は、遺伝子治療における使用に特に適している。
【0240】
さらなる実施態様では、本発明は、宿主細胞培養物中でのゲノムレベルでの組換えを決定するための方法であって、本発明による効率的かつ特異的なゲノム編集のための遺伝子操作されたDNA組換え酵素を含み、
i. 第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素は、リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位を特異的に認識するように指向性進化又は合理的な設計によって進化されており、前記第1のリコンビナーゼ酵素は、前記第1のリコンビナーゼ酵素のDNAリコンビナーゼとして前記触媒活性を不活性化する少なくとも1つの変異を含む;
ii. 第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位を特異的に認識するように指向性進化又は合理的な設計によって進化されており、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、前記第2のリコンビナーゼ酵素のDNAリコンビナーゼとして前記触媒活性を不活性化する少なくとも1つの変異を含む;
iii. 工程iの第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び工程iiの第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を、第1のレポータータンパク質を発現させるための第1のレポーター遺伝子をさらに含む発現ベクターにクローニングすることによって発現ベクターを作製する工程;
iv. 宿主細胞を工程iiiの発現ベクターでトランスフェクトし、第2のレポータータンパク質を発現させるための第2のレポーター遺伝子を含むレポータープラスミドで該宿主細胞をトランスフェクトする工程;
v. 前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素を含み、前記第1のレポーター遺伝子に融合される遺伝子操作されたDNA組換え酵素を発現させる工程;及び第2のレポータータンパク質を発現させる工程;
vi. 第1のレポータータンパク質及び第2のレポータータンパク質の二重発現を示し、組換えの成功、及びそれによる、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素を含む遺伝子操作された偏性DNA組換え酵素を形成することによるDNAリコンビナーゼとしての機能の補完を示す細胞を特定する工程
を含む、前記方法を提供する。
【0241】
工程iiiによる適切な第1レポーター遺伝子は、EGFPをコードする遺伝子である。その結果、適切な第1のレポータータンパク質はEGFPである。
【0242】
工程ivによる適切な第2のレポーター遺伝子は、mCherryをコードする遺伝子である。その結果、適切な第2のレポータータンパク質はmCherryである。
【0243】
このシステムは、発現プラスミドとレポータープラスミドの両方でトランスフェクトした細胞のトランスフェクション効率をGFP蛍光に基づいて測定できる利点を有する。GFPとmCherry二重陽性細胞は、ヒト細胞におけるレポーターの組換えを反映する。ヒト細胞におけるレポータープラスミドの組換え効率を計算するために、二重陽性細胞をトランスフェクション効率に正規化することができる。
【0244】
宿主細胞培養物中のゲノムレベルでの組換えを決定する方法で使用するのに適する遺伝子操作された第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素並びにそれらのDNAリコンビナーゼ活性を不活性化する単一変異は、本明細書上記に記載されている。同様に、相補的DNAリコンビナーゼ活性を有する偏性DNAリコンビナーゼ複合体を形成する第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素の適切なペアも、本明細書上記に記載されている。
【0245】
本明細書に記載の遺伝子操作されたDNA組換え酵素を、例えば、血友病Aを引き起こしているF8遺伝子におけるエクソン1の大きな遺伝子反転を修正するために開発した。ゲノムレベルに対するヘテロ二量体の反転効力を調べるために、実施例9に記載のインビトロリコンビナーゼアッセイを開発した。リコンビナーゼ発現細胞におけるゲノムレベルでの偏性ヘテロ二量体の反転効力は、非偏性ヘテロ二量体と同等であることがわかった。本発明による偏性ヘテロ二量体の欠失効率について、同じことが実証された(実施例6及び図3、特に図3C参照)。本発明による偏性ヘテロ二量体の欠失効率は、わずかに増加した。これは驚くべきことであり、その理由は、タンパク質間の界面を変えることによって生成された従来の偏性ヘテロ二量体は、組換え活性が著しく低下しているからである。
【0246】
したがって、本発明は、さらなる実施態様では、細胞におけるゲノムレベルでのDNA配列の反転の方法であって、
i. 第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素は、前記第1のリコンビナーゼ酵素のDNAリコンビナーゼとしての触媒活性を不活性化する少なくとも1つの変異をその触媒領域に含み、前記第1のリコンビナーゼ単量体は、リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位を特異的に認識する;
ii. 第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、前記第2のリコンビナーゼ酵素のDNAリコンビナーゼとしての触媒活性を不活性化する少なくとも1つの変異をその触媒領域に含み、前記第2のリコンビナーゼ単量体は、リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位を特異的に認識する;
iii. 第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子と第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングすることによって発現ベクターを作製する工程;
iv. 反転させる予定のDNA配列を含む細胞に、工程iii)の発現ベクターを送達する工程;
v. 前記細胞内で第1及び第2のリコンビナーゼ酵素を発現させる工程;
vi. 前記第1及び第2のリコンビナーゼ酵素が発現した前記細胞内の染色体上で反転させる予定のDNA配列を反転させる工程
を含む、前記方法を提供する。
【0247】
好ましい実施態様によれば、細胞はヒト細胞であり、反転は前記細胞内のヒト染色体で生じる。好ましい実施態様によれば、細胞はヒト生殖細胞ではない。
【0248】
好ましくは、工程vのDNA組換え酵素は、本明細書に記載の本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素であり、より好ましくはリコンビナーゼの上流標的部位及び下流標的部位の第1の半部位並びに第2の半部位、最も好ましくはloxF8リコンビナーゼの配列番号65の上流標的部位及び配列番号66の下流標的部位又はその逆相補配列を認識する。
【0249】
一実施態様によれば、工程iii)の発現ベクターは、例えば、トランスフェクションによって前記細胞に送達される。
【0250】
代替的な実施態様によれば、本方法は、発現ベクターを生成する工程を含まないが、本発明による遺伝子操作されたDNA組換え酵素をコードするRNA分子を前記細胞に送達することを含む。
【0251】
一実施態様では、ゲノムレベルでのDNA配列の反転の方法は、遺伝子操作された宿主細胞において行われる。
【0252】
好ましい実施態様では、ゲノムレベルでのDNA配列の反転の方法は、患者、より好ましくは血友病Aに罹患している患者に由来するヒト細胞においてインビトロで行われる。
【0253】
さらに好ましい実施態様では、ゲノムレベルでのDNA配列の反転の方法は、患者、特に血友病Aに罹患している患者においてインビボで行われる。
【0254】
宿主細胞培養物中のゲノムレベルでのDNA配列の反転の方法で使用するのに適する遺伝子操作された第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素並びにそれらのDNAリコンビナーゼ活性を不活性化する単一変異は、本明細書上記に記載されている。同様に、相補的DNAリコンビナーゼ活性を有する偏性DNAリコンビナーゼ複合体を形成する第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素の適切なペアも、本明細書上記に記載されている。
【0255】
さらなる態様によれば、本発明は、疾患を治療又は予防する方法であって、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は発現ベクター、又は宿主細胞、又は医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記方法を提供する。
【0256】
本発明はさらに、血友病Aを治療又は予防する方法であって、本発明の遺伝子操作されたDNA組換え酵素、又は核酸分子若しくは複数の核酸分子、又は発現ベクター、又は宿主細胞、又は医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記方法を提供する。任意に、血友病Aは重症血友病Aである。
【0257】
本発明はさらに、細胞内での標的DNA配列の組換えの方法であって、
(a)本発明の第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子;並びに/又は
(b)本発明の第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素
を細胞に導入し、それにより、該細胞内で標的DNA配列を組換えることを含む、前記方法を提供する。
【0258】
一実施態様によれば、第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び/又は第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子は、mRNAである。
【0259】
さらなる実施態様によれば、第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び/又は第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子は、発現ベクター、好ましくは、本明細書に記載の発現ベクターである。
【0260】
本発明は、以下の項にも関する:
項1. 少なくとも第1のDNAリコンビナーゼ酵素と少なくとも第2のDNAリコンビナーゼ酵素の複合体を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素、ここで、前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素は、DNAリコンビナーゼの上流の標的部位及び/又は下流の標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を特異的に認識し、前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素はそれぞれ、その触媒領域に単一アミノ酸置換を含み、前記単一アミノ酸置換を保有する前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素は、単独で発現させた場合に、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示さず、前記単一アミノ酸置換を保有する前記第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び前記第2のDNAリコンビナーゼ酵素は、共発現させた場合に、複合体を形成して、DNAリコンビナーゼの触媒活性を示す。好ましくは、第1のリコンビナーゼ酵素の触媒領域における単一アミノ酸置換は、第2のリコンビナーゼ酵素の触媒領域における単一アミノ酸置換とは異なる。より好ましくは、第1のリコンビナーゼ酵素の触媒領域における単一アミノ酸置換は、第2のリコンビナーゼの触媒領域における単一アミノ酸置換とは異なる触媒領域内の位置にある。
項2. 少なくとも1つの第1のリコンビナーゼと少なくとも1つの第2のリコンビナーゼが同じ種類のものである、項1記載のDNA組換え酵素。
項3. 少なくとも1つの第1のリコンビナーゼと少なくとも1つの第2のリコンビナーゼの両方が、Cre-、Dre-、VCre-、SCre-、Vika-、lambda-Int-、Flp-、R-、Kw-、Kd-、B2-、B3-、Nigri-又はPanto-リコンビナーゼである、項2記載のDNA組換え酵素。
項4. 該DNA組換え酵素が、ヘテロ四量体の形態のリコンビナーゼの複合体である、項1~3のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
項5. 少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼ酵素中の単一アミノ酸置換は、触媒領域内の保存アミノ酸の位置にある、項1~4のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
項6. 少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼ酵素中の単一アミノ酸置換が、配列番号1のE129R、Q133H、R173A、R173C、R173D、R173E、R173F、R173G、R173I、R173K、R173L、R173M、R173N、R173P、R173Q、R173S、R173T、R173V、R173W、R173Y、E176H、E176I、E176L、E176M、E176V、E176W、E176Y、K201A、K201C、K201C、K201D、K201F、K201G、K201H、K201I、K201L、K201M、K201N、K201P、K201Q、K201R、K201S、K201T、K201V、K201W、K201Y、H289D、H289E、H289I、H289K、H289R、H289W、R292A、R292C、R292E、R292F、R292G、R292H、R292I、R292L、R292M、R292N、R292P、R292Q、R292S、R292T、R292V、R292W、R292Y、Q311R、W315C、W315E、W315G、W315I、W315K、W315L、W315M、W315N、W315Q、W315R、W315S、W315T、W315V、Y324A、Y324C、Y324E、Y324F、Y324H、Y324I、Y324K、Y324L、Y324M、Y324N、Y324Q、Y324R、Y324S、Y324T、Y324V、及びY324Wからなる群から選択されるか、又は別のリコンビナーゼの対応する位置、好ましくは配列番号14、配列番号17若しくは配列番号20の対応する位置にある、項1~5のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
項7. 少なくとも1つの第1のリコンビナーゼ酵素及び少なくとも1つの第2のリコンビナーゼ酵素中の単一アミノ酸置換が、
(i)配列番号1のE129、Q133、R173、E176、K201、H289、R292、Q311、W315、及びY324;
(ii)配列番号14のE146、Q151、R191、N194、K219、H308、R311、Q330、W334、及びY343;
(iii)配列番号17のE130、Q134、R174、E177、K202、H290、R293、Q312、W316、及びY325;
(iv)配列番号20のE131、Q135、R175、E178、K202、H290、R293、Q312、W316、及びY325;
からなる群から選択される位置、又は
(v)別のリコンビナーゼ中のアミノ酸位置
にあり、ここで、他のリコンビナーゼ中の前記アミノ酸位置が、配列番号1の位置E129、Q133、R173、E176、K201、H289、R292、Q311、W315、又はY324に対応する、項1~6のいずれか一項記載のDNA組換え酵素。
項8. 少なくとも第1のDNAリコンビナーゼ酵素と少なくとも第2のDNAリコンビナーゼ酵素の複合体を含む遺伝子操作されたDNA組換え酵素であって、
(i) 第1のリコンビナーゼ酵素が、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒領域に単一変異K201Rを含むポリペプチドであり、第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号11に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒領域に単一変異Q311Rを含むポリペプチドである;又は
(ii) 第1のリコンビナーゼ酵素が、配列番号7に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒領域に単一変異K201Rを含むポリペプチドであり、第2のリコンビナーゼ酵素は、配列番号12に記載の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、触媒領域に単一変異Q311Kを含むポリペプチドである、
前記遺伝子操作されたDNA組換え酵素。
項9. (i)触媒領域に単一変異K201Rを含み、配列番号2に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のCreリコンビナーゼ、及び触媒領域に単一変異Q311Rを含み、配列番号5に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のCreリコンビナーゼ;
(ii)触媒領域に単一変異K201Rを含み、配列番号2に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のCreリコンビナーゼ、及び触媒部位に単一変異Q311Kを含み、配列番号4に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のCreリコンビナーゼ;
(iii)触媒領域に単一変異K219Rを含み、配列番号15に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のVikaリコンビナーゼ、及びその触媒領域に単一変異Q330Rを含み、配列番号16に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のVikaリコンビナーゼ;
(iv)触媒領域に単一変異K202Rを含み、配列番号18に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のPantoリコンビナーゼ、及び触媒領域に単一変異Q312Rを含み、配列番号19に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のPantoリコンビナーゼ;
(v)触媒領域に単一変異K202Rを含み、配列番号21に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のDreリコンビナーゼ、及び触媒領域に単一変異Q312Rを含み、配列番号22に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のDreリコンビナーゼ;
(vi)触媒領域に単一変異K221Rを含み、配列番号24に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第1のVcreリコンビナーゼ、及び触媒領域に単一変異Q336Rを含み、配列番号25に記載の配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一であるアミノ酸配列を有する第2のVcreリコンビナーゼ
を含むDNA組換え酵素。
項10. 項1~9のいずれか一項記載の少なくとも1つの第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び/又は少なくとも1つの第2のDNAリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子。
項11. 項10記載の核酸分子、及びその発現を促進するために前記核酸と作用可能に結合された1以上の発現制御エレメントを含む発現ベクター。
項12. 項10記載の核酸分子又は項11記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
項13. 項1~9のいずれか一項記載の少なくとも1つの第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び/又は少なくとも1つの第2のDNAリコンビナーゼ酵素、又は項10記載の核酸分子、又は項11記載の発現ベクター、又は項12記載の宿主細胞、及び1以上の治療上許容し得る希釈剤又は担体を含む医薬組成物。
項14. 医薬品に使用するための、項1~9のいずれか一項記載のDNAリコンビナーゼの複合体、又は項10記載の核酸分子、又は項11記載の発現ベクター、又は項12記載の宿主細胞、又は項13記載の医薬組成物。
項15. 血友病Aの治療に使用するための、好ましくは重症血友病Aの治療に使用するための、項1~9のいずれか一項記載のDNAリコンビナーゼの複合体、又は項10記載の核酸分子、又は項11記載の発現ベクター、又は項12記載の宿主細胞、又は項13記載の医薬組成物。
項16. ゲノム編集のための偏性DNAリコンビナーゼを生成する方法であって、
(i)第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素が、非対称リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位に結合し、前記第2のリコンビナーゼ酵素は、非対称リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位に結合し、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素は、DNA配列中の前記非対称リコンビナーゼ標的部位において関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができるヘテロ二量体を形成し、前記非対称リコンビナーゼ標的部位は、DNAリコンビナーゼの上流標的部位及び/又は下流標的部位の第1の半部位及び第2の半部位を含み、前記第1の半部位及び第2の半部位は同一ではなく、パリンドロームでもない;
(ii)第1の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーを作製するために変異誘発を行う工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素に変異が導入される;
(iii)第1の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーと第2の変異体リコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子のライブラリーを発現ベクターにクローニングすることにより発現ベクターを作製する工程、ここで、前記発現ベクターは、組換えられる関心のあるDNA配列を保有している;
(iv)工程iii)の発現ベクターで細胞をトランスフェクトし、前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素のライブラリーを同じ細胞内で発現させることにより、第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び第2の変異体リコンビナーゼ酵素を含むリコンビナーゼヘテロ二量体を形成する工程;
(v)DNA中の非対称リコンビナーゼ標的部位で関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができる、工程ivで得られたヘテロ二量体についての陽性選択スクリーニングを行う工程;
(vi)オフターゲット部位、好ましくは、DNA中の対称リコンビナーゼ標的部位において、関心のある配列の部位特異的DNA組換えを誘導することができない、工程iv又はvで得られたヘテロ二量体についての陰性選択スクリーニングを行う工程;
(vii)DNAリコンビナーゼの上流の標的部位及び/又は下流の標的部位の第1の半部位と、第2の半部位とを含むDNA中のリコンビナーゼ標的部位で関心のあるDNA配列を組換えることができ、かつオフターゲット部位、好ましくは、DNA中の対称リコンビナーゼ標的部位で関心のあるDNA配列を組換えることができない偏性DNAリコンビナーゼを選択する工程、
を含み、ここで、工程(vii)で得られた前記偏性DNAリコンビナーゼにおいて、前記第1の変異体リコンビナーゼ酵素及び前記第2の変異体リコンビナーゼ酵素はそれぞれ、単独で発現させた場合に、前記第1のリコンビナーゼ酵素及び前記第2のリコンビナーゼ酵素を触媒的に不活性にさせる少なくとも1つの変異を触媒部位に含む、前記方法。
項17. 偏性DNAリコンビナーゼ酵素の複合体を生成する方法であって、
(i)第1のDNAリコンビナーゼ酵素の触媒領域に単一アミノ酸置換を導入する工程、ここで、前記単一アミノ酸置換は、第1のDNAリコンビナーゼ酵素を触媒的に不活性にする;
(ii)第2のDNAリコンビナーゼ酵素の触媒領域に単一アミノ酸置換を導入する工程、ここで、前記単一アミノ酸置換は、第2のDNAリコンビナーゼ酵素を触媒的に不活性にする;
(iii)宿主細胞内の変異した第1のDNAリコンビナーゼ酵素と変異した第2のDNAリコンビナーゼ酵素の両方を共発現させる工程;
(iv)変異した第1のDNAリコンビナーゼ酵素及び変異した第2のDNAリコンビナーゼ酵素を宿主細胞から単離する工程
を含む、前記方法。
項18. 項16又は17記載の方法によって得られるDNA組換え酵素。
項19. 細胞内で、ゲノムレベルでDNA配列をインビトロで反転させる方法であって、
(i)項1~9のいずれか一項記載の第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第1のリコンビナーゼ酵素が、リコンビナーゼ標的部位の第1の半部位を特異的に認識する;
(ii)項1~9のいずれか一項記載の第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を提供する工程、ここで、前記第2のリコンビナーゼ酵素が、リコンビナーゼ標的部位の第2の半部位を特異的に認識する;
(iii)第1のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子と第2のリコンビナーゼ酵素をコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングすることによって発現ベクターを作製する工程;
(iv)反転させる予定のDNA配列を含む細胞に前記発現ベクターを送達する工程;
(v)前記細胞内で第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を発現させる工程;
(vi)第1のリコンビナーゼ酵素及び第2のリコンビナーゼ酵素を含むDNAリコンビナーゼ複合体の形成を可能にする工程;
(vii)反転させるDNA配列の前記細胞内での反転を可能にする工程
を含む、前記方法。
【実施例
【0261】
(本発明の実施例)
以下の実施例は、本発明の様々な実施態様を説明することのみを目的として提供され、いかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【0262】
実施例1: プラスミド構築
loxF8、loxF8L及びloxF8Rの標的部位を含む以前に記載されたプラスミドを、進化のために使用した(それぞれpEVO-loxF8、pEVO-loxF8L及びpEVO-loxF8R)(10)。Zhangら(16)によって公表された変異を、DNA断片合成(Twist Bioscience)を介して両方のD7サブユニットの配列に導入し、変異A3 (K25R、D29R、R32E、D33L、Q35R、R337E、E123L)をD7Lに適用し、変異B2 (E69D、R72E、L76E、E308R)をD7Rに適用した。合成された断片を、2つのクローニング工程でpEVOベクターに挿入した。最初に、D7LA3はSacI及びXhoIを有し、次いでD7RB2はBsrGI及びXbaI(NEB)を有する。プライマー1及び2(表5)を用いるサンガー配列決定によって、正しい配列を確認すると、両方の分子を、制限酵素SacI及びSbfI (NEB)を用いて、loxF8、loxF8L及びloxF8Rの標的部位を含む3つの異なるpEVOベクターにサブクローニングした。
表5:クローニングプライマー
【表6】
【0263】
ライブラリー分析に使用されるベクターのpEVO-lacZを、前述の選択プラスミド(8)から適合させた。対称標的部位loxF8L
【化6】
及びloxF8R
【化7】
にloxPのスペーサー配列を付加し、loxF8部位との対称部位の組換えを防止した。対称標的部位は、2つの強い転写ターミネーター(17)に隣接する。組換え時に、ターミネーター配列の除去は、構成的catプロモーターによって促進されるlacZa断片の転写を可能にする。
【0264】
実施例2:基質結合指向性進化
リコンビナーゼを、前述の基質結合タンパク質進化(SLiDE)を用いて進化させた(Buchholz及びStewartの文献, 2001; Sakaraらの文献, 2007; Karpinskiらの文献, 2016; Lansingらの文献, 2019)。loxF8及び対称部位での活性リコンビナーゼ並びに不活性リコンビナーゼの選択をそれぞれ変えることによって、カウンターセレクション戦略を確立した。
【0265】
非対称部位(loxF8)における活性に対する陽性選択圧及び対称部位(loxF8L及びloxF8R)における陰性選択圧は、基質結合指向性進化の改変された方法によって達成された(6)。進化の各サイクルには、エラープローンPCR(MyTaq DNA Polymerase Bioline)によるライブラリーの多様化及び標的部位における所望の活性についての変異型の選択が含まれた。多様化したライブラリーを標的部位含有pEVOにクローニングし、次いで、ベクターをエレクトロコンピテントXL1-Blue大腸菌に形質転換して、アラビノース誘導性プロモーターを介してリコンビナーゼ変異型を一晩発現させた。陽性選択戦略と陰性選択戦略との間で選択を繰り返した。loxF8組換えについての陽性選択を行うために、精製プラスミドを酵素NdeI及びAvrIIで消化して、全ての非組換え変異型を直鎖状にし、次いで、プライマー1と3で増幅させた(表5)。陰性選択は、対称標的部位の間に結合し、組換え事象が行われていないリコンビナーゼのみを増幅できるプライマー(プライマー4、表5)によって達成した。進化の各ラウンドについて、3つの標的部位間で選択を交互に行った。組換え効率をプラスミドベースの活性アッセイによりモニターした。適用した進化方法のスキームを図15に示す。
【0266】
実施例3:リコンビナーゼ活性アッセイ:プラスミドベースの青色-白色スクリーニング
関心のある標的部位上のリコンビナーゼ又はリコンビナーゼライブラリーの組換え活性を可視化するために、先に説明したようにプラスミドベースのアッセイを使用した(6、9、10)。
【0267】
最終ライブラリーの活性分析及び活性変異型の選択のために、青色-白色活性スクリーニングを使用した。ライブラリーを、制限酵素のSacI及びSbfIを有するpEVO LacZカウンター選択プラスミドにクローニングした。選択用抗生物質及びアラビノースを含有するXgalインジケータプレートにプレーティングし、リコンビナーゼ変異型の活性を青色又は白色として読み取った。白色コロニーは、不活性リコンビナーゼのペア又はloxF8に非常に特異的なペアを表す。不活性リコンビナーゼを除去するために、ライブラリーを、青色-白色スクリーニングの前に低い(10μg/ml L-アラビノース、Sigma)アラビノースレベルで一晩誘導した。精製したプラスミドをNdeI及びAvrIIで消化して、組換わっていないプラスミドを直鎖状にし、次いで再形質転換し、より高いレベルのアラビノース(100μg/ml L-アラビノース, Sigma)で誘導して、低レベルの対称部位活性の高感度検出を可能にした。青色コロニーは、対称部位で活性があった変異体を含んでいた。したがって、対称部位を組換えないが、LoxF8部位を組換えた変異体を含む白色コロニーを選択した。80個の白色コロニーを選択し、コロニーPCRによって、80個のうち75個の選択コロニーが1.7KBのバンドを示す所望の活性プロファイルを有していたことが示された。
【0268】
実施例4:ライブラリー設計
A3残基位置K25、D29、R32及びD33及びB2位置E69、R72及びL76を、ISOR(遺伝子アセンブリを介した合成オリゴヌクレオチドの組込み(incorporating synthetic oligonucleotides via gene reassembly))によって標的化した。多様性をA3及びB2位置に標的化するために、遺伝子アセンブリを介した合成オリゴヌクレオチドの組込み(ISOR)の適合させた方法を適用した(18)。組み込まれたオリゴヌクレオチドを、縮重コドン(VNS、GHW及びMDG)を用いて設計した。VNSは、16個の可能なアミノ酸(D、E、H、I、K、M、N、Q、S、A、G、L、P、T、V、R)を含み、GHWは、4つの可能なアミノ酸変異型(D、E、A、V)に対応するコドンを含み、MDGは、5個のアミノ酸変異型(K、L、M、Q、R)に対応するコドンを含む。組み込まれたA3オリゴヌクレオチド及びB2オリゴヌクレオチド(プライマー5~20 表3)を、それぞれシャッフルしたD7L及びD7Rリコンビナーゼに並行して適用した。
【0269】
実施例5:配列分析
変異したリコンビナーゼの中でどの変異が最も高い頻度で発生しているかを決定するために、D7L変異体のアミノ酸配列を元のD7Lリコンビナーゼ配列と整列させ、D7R変異体を元のD7Rリコンビナーゼ配列と整列させた。アラインメントから、各位置で生じる変異の量を配列決定した試料の総量で除算して、各位置における変異頻度を決定した(図2C)。D7Lについては、最も共通して変異した残基位置は(濃い灰色で強調表示されている) K25、D29、K201、及びS305であり、D7については、最も共通して変異した残基はQ311である。D7R変異体については、バックグラウンドの読み出し情報が不良であったため、残基位置1~10を除去した。2つのリコンビナーゼライブラリー間のプライマー結合部位は、変異したペアを一緒に維持しながら、適切な読み取り情報を抽出するのに十分な長さではない。複合体形成を制御するために、各単量体に変異を適用する必要がある。両方の単量体が独自の変異を有することなく、D7L又はD7Rは、依然として機能的ホモ四量体を形成することができ、結果として、それらの相関する進化させた半部位の望ましくない組換えが生じた。したがって、変異の組み合わせが重要であると考えられた。
【0270】
実施例6:哺乳動物細胞における発現及び哺乳動物細胞における組換え効率
蛍光ベースのレポーターアッセイを使用して、先に説明したような偏性単量体の組換え特性を決定した(10)。HEK293T細胞を、トランスフェクションの1日前に350,000細胞/mlの密度で播種した。偏性単量体及び青色蛍光タンパク質(BFP)をコードするmRNAを、反復SVポリ(A)配列に隣接して組み込まれたlox部位を含むHEK293レポーター細胞株にトランスフェクトした。これらの部位が組換わると、下流の単量体の赤色蛍光タンパク質(mCherry)が発現する。リコンビナーゼ活性を、トランスフェクションの48時間後にMACSQuant VYBフローサイトメーター(Miltenyi Biotec)を使用してFACSにより定量化した。組換え率を、青色蛍光集団内に赤色蛍光を示す細胞の割合によって決定した。
【0271】
実施例7:HEK293T細胞培養
HEK293T細胞を、12ウェル型で、10% FBS (Capricon Scientific)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher)を添加したDMEM (Gibco)を用いて培養した。90%のコンフルエントに達したときに、細胞を分けた。各ウェルをPBSで1回洗浄し、100μlのトリプシン(Gibco)を添加した。37℃で3分間インキュベートした後、剥離させた細胞を15 mlのチューブに集めた。細胞をCountess 3 FL自動細胞計数器(Automated Cell Counter)(ThermoFisher)で計数し、75,000細胞/ウェルの密度で1ml培地に播種した。トランスフェクションのために、細胞を350,000細胞/ウェルの密度で1ml培地に播種した。
【0272】
実施例8:mRNAトランスフェクション
播種後24時間の時点で、HEK293T細胞をトランスフェクトした。各トランスフェクション反応について、1.5mlチューブで合計300ngのmRNA(100ngのタグBFP mRNA及び200ngのリコンビナーゼmRNA)を調製した。100μlのOpti-MEM I還元血清培地を1.5μlのLipofectamine MessangerMax (ThermoFisher)と混合し、mRNA試料に添加した。混合物を少しボルテックスし、RTで15分間インキュベートした。一方で、細胞の培地を新鮮な培地と置き換えた。次いで、トランスフェクション混合物を細胞に添加した。培地を翌日に変え、トランスフェクションの2日後に細胞を分析した。
【0273】
実施例9:PCRに基づくゲノム反転検出
HEK293T細胞をD7リコンビナーゼ二量体で処理した後のloxF8遺伝子座の反転を、前述のように検出した(10)。
【0274】
実施例10:インビトロ転写(IVT)
mRNAを、HiScribeTM T7 ARCA mRNAキット(NEB)を使用して生成し、製造元の説明書に従ってMonarch RNA Cleanupキット(NEB)で精製した。IVTのD7リコンビナーゼ二量体及びタグBFP鋳型を前述のように生成した(10)。異なるCre変異体の鋳型を、プライマー21及びプライマー22を使用して生成した(表5)。4μgのmRNAアリコートを、最大6ヶ月間、-80℃で保存した。
【0275】
実施例11: 偏性表現型を作製するための組換えシナプスの触媒領域における単一点変異の評価
さらなる偏性リコンビナーゼを生成するために、Creリコンビナーゼの組換えシナプス(Guoらの文献 1997、Leeらの文献 2002、Gibbらの文献 2010、Meinkeらの文献 2016)の触媒領域における追加の単一変異(すなわち、配列番号1のアミノ酸位置129~136、163~181、199~211、289~301、310~316及び321~324での、図17A、暗領域を参照されたい)を、以下の表6に概説するように導入した。Creにおける変異位置のより詳細な概要を図17Bに提供する。実験から、第1のリコンビナーゼ単量体の触媒領域における不活性化変異が、第2のリコンビナーゼ単量体の触媒領域の異なる不活性化変異によって救済できることが示される。本実施例では、触媒領域内に単一アミノ酸置換を有する配列番号1のCreリコンビナーゼ変異体を生成し、そのloxP標的部位で発現させて、導入された変異が単量体を不活性にするかどうかを評価した。第2の工程では、2つの異なる不活性単量体をそれらのloxP標的部位で共発現させて、2つの不活性単量体の組み合わせがリコンビナーゼ活性を救済できるかどうかを評価した。loxP上でのリコンビナーゼの組換え活性を、前述のプラスミドベースのアッセイ(6、9、10)によって測定した。実験では、組換えpEVOは、非組換えpEVOと比較してサイズが小さい。より大きな断片(約5kb)は非組換え基質を示す一方で、より小さい断片(約4.3kb)は組換え基質を示す。これらの2つの異なる断片は、ゲル電気泳動によって又は配列決定によって区別することができる。組換え効率(それぞれ二量体及び単量体の活性として示される)を、以下の式:組換え活性(%) = 100 × (組換え基質/(組換え基質+非組換え基質))を用いて組換え基質と非組換え基質との比に基づいて計算した。
表6
【表7】
【0276】
(本発明の実施例によって達成された結果)
1. 単量体間の界面変異は組換え活性を低下させる
非対称基質のための偏性ヘテロ特異的Cre型SSR複合体を形成するために、以前の研究では、相互作用単量体のタンパク質間の界面を再設計することに焦点を当てていた。特に、Zhangらは、人工非対称loxM7/loxP標的配列を組換えるために、偏性Cre及びCre変異型ヘテロ四量体を作製した(16)。界面再設計にとって重要な位置を、野生型Cre分子とCre変異型との間の代替的な相互作用界面を形成すると予測される変異から選択した。同じ界面変異が他のヘテロ特異的Cre型SSRに採用され得るかどうかを調べるために、D7変異型を、2つのサブユニットを変異させて、潜在的に偏性D7リコンビナーゼを形成することによって生成した。したがって、D7L変異型(D7LA3)は、位置K25R、D29R、R32E、D33L、Q35R、E123L及びR337Eを変異させることによって生成したが、D7R変異型(D7RB2)は、変異E69D、R72K、L76E及びE308Rを保有していた。
【0277】
変異の適用の前後の組換え効率を比較するために、最初に、非変異D7L及びD7Rを、切り出し基質としてloxF8、loxF8L又はloxF8R標的部位のいずれかを保有するベクターから共発現させた(図1A及び図6)。予想通り、D7LとD7Rの単量体の両方を共発現させた場合に、非対称loxF8標的部位で効率的に組換えられた(図1B)。組換えは、おそらく、それらの対応する進化させたリコンビナーゼの機能的ホモ四量体形成によって、対称loxF8LとloxF8R標的部位の両方についても観察された(図1B)。界面変異(D7LA3とD7RB2)の導入は、ホモ四量体のアセンブリを防ぐことによって、対称loxF8L及びloxF8R部位での組換えを阻止するが、異なるサブユニットは、依然として、非対称loxF8配列上で活性型ヘテロ四量体を形成できる必要がある(図1C)。実際、D7LA3とD7RB2の共発現は、対称loxF8L又はloxF8R配列を保有するベクターからの検出可能な組換えをもたらさず(図1D)、これらの変異が活性型ホモ四量体の形成を防いだことを示す。しかし、非対称loxF8部位上でのD7LA3とD7RB2の共発現は、L-アラビノース(100μg/mL)の同じ誘導濃度で元のD7L+D7R複合体の活性と比較して観察可能な活性をもたらさなかった。共発現させたD7LA3とD7RB2のリコンビナーゼが活性複合体を形成できるかどうかを決定するために、誘導を1000μg/mLのL-アラビノースまで増加させると、loxF8部位での活性は非常に低くなり、複合体が機能的で、単に非常に非効率的であることが証明された(図1D)。したがって、適用した変異は原理的には機能するが、D7ヘテロ四量体の組換え活性にも影響を及ぼす。したがって、変性D7システムにより適するアミノ酸変化の組み合わせを探索することにより、活性を回復させることが求められた。
【0278】
2. 高活性を有する偏性D7リコンビナーゼを進化させるための基質結合指向性進化
有益な残基の変化を探索するために、D7LとD7Rリコンビナーゼ変異型の2つのライブラリーの生成を、タンパク質間の界面に関与する前述(16)の残基位置(A3 - K25、D29R、R32E、D33L、Q35R、E123L及びR337E並びにB2 - E69D、R72K、L76E及びE308R)の周囲で始めた。ライブラリーを、確立した基質結合指向性進化(SLiDE)手順(6、18)に適用した。ライブラリーを実用的なスクリーニングサイズに維持するために、最大単量体間の界面に沿って位置するA3位置K25、D29、R32及びD33並びにB2位置E69、R72及びL76の残基位置のサブセットに多様性を向けた。これらの位置のそれぞれにおいて、変異を、界面再設計について以前に予測されたアミノ酸(D、E、H、I、K、M、N、Q、S、A、G、L、P、T、V、R)のサブセットに限定した(16)。2つのD7LとD7Rの最初のライブラリーを対応するベクターにクローニングして、SLiDEの改変バージョンにより非対称部位(loxF8)で活性な陽性選択と対称部位(loxF8L及びloxF8R)での陰性選択の反復を開始した(図2A及び図7A)。並列の代わりに、2つのライブラリーを一緒に進化させることによって、所望の活性プロファイルを有する機能的なペアを選択することができた。SLiDEの26サイクル後、本発明者らは、非対称部位に対する組換え活性の顕著な増加及び対称部位での無視できる組換えを検出し(図2B)、所望の特徴を有するリコンビナーゼのヘテロ二量体ペアが進化したことが示された。
【0279】
選択を通して漏出した不活性リコンビナーゼ変異型のキャリーオーバーを除去するために、青色-白色コロニースクリーニングを使用することによって単一変異型のペアを評価した。選択プラスミド(pEVO-LacZa)は、非対称loxF8部位で高い活性を示す一方で、対称部位を組換えなかった変異型の同時特定を可能にした(図8A~C)。75個の白色コロニーを選択し、コードされるリコンビナーゼペアの配列を決定した。驚くべきことに、高変異アミノ酸位置(69、72、76と308)のいずれも、進化させたD7Rリコンビナーゼでは富化されていないことが見出された。対照的に、311位のグルタミンは、配列決定したD7Rリコンビナーゼの41%(75個のうち31個の変異型)で変わっており、変異体の87%(31個のうち27個)がこの位置でアルギニンを示した。結果から、最初の標的残基は所望の結果をもたらさず、代わりに、進化中にランダムに生じた単一置換が好ましく(すなわち、Q311R)、D7L変異型と共発現させた場合に、非対称loxF8配列上での活性を維持しながら、対称loxF8R部位での組換えをおそらく防止したことが示される。
【0280】
D7L由来のクローンの配列を決定すると、配列決定したクローンのうちの20%超で変異した5つの位置(位置25、29、20、282及び305、図2C)が明らかになった。位置25及び29が、タンパク質間相互作用に関与する最初の標的残基に由来する可能性が最も高いが、位置201、282及び305は、それらが指向性進化中にランダムな変異と選択を経て生じたことが示唆された。
【0281】
最も驚くべき結果は高頻度に変異した201位であり、これは、クローンの48%(75個のうち36個)で変化しており、全てのクローンがこの位置にリジンではなくアルギニンを有することが見出された(図2C)。この変更を興味深くさせることは、リジン201がチロシンSSRファミリー(19)全体にわたって高度に保存され、残基がCreの触媒活性に不可欠であると説明されていることである(20~22)。K201は、組換え中のDNA切断を容易にするために、Cre複合体内の活性残基として機能することが観察されている(20、23)。したがって、201位が変更しているリコンビナーゼは、いかなるリコンビナーゼ活性も示さないことが予想される。この研究に基づいて、単量体として発現させた場合に、D7L中の触媒K201残基を変異させるとSSRを不活性化するかどうか、そして、もしそうであれば、D7R単量体上に対のQ311R変異が存在することによって活性が救済され、組換えが行われるかどうかをさらに調べることを目的とした。
【0282】
各単量体に適用される変異の組換えに対する効果を決定するために、単量体として単独で発現させた場合に、それらの元の標的を組換える能力を最初に評価した。それぞれ対称loxF8L又はloxF8R部位上のD7LK201R又はD7RQ311Rの単独発現は、検出可能な組換え事象をもたらさず、これらの変異は、単独で発現させた場合に、酵素を不活性化することが実証された(図2D)。さらに、D7LK201R及びD7RQ311Rは、単独で発現させた場合に、非対称loxF8部位で不活性であった(図2D)。全く対照的に、D7LK201RとD7RQ311Rを共発現させた場合には、非対称loxF8上での効率的な組換えが観察されたが(図2E)、対称loxF8L及びloxF8R部位では組換えは検出できなかった(図2E)。重要なことに、loxF8部位は、元の野生型D7クローンと比較して似た割合で組換えられ(図2E)、2つの変異がリコンビナーゼ複合体全体の活性を損なわなかったことが示された。したがって、各リコンビナーゼ単量体に1つのみ変異を適用すると、野生型D7 SSRと同等の活性を有する偏性SSR複合体が得られた。
【0283】
3. D7LK201R+D7RQ311Rは哺乳動物細胞内で偏性組換えを支持する
D7リコンビナーゼはヒトゲノム内での適用を目的としているので、次の工程は、ヒト細胞内での偏性D7LK201R +D7RQ311R複合体の活性を調べることであった。簡単な定量化を可能にするために、HEK293Tレポーター細胞株(10)における組換え効率を測定した。このレポーター細胞株を、タグBFPをコードするmRNAと共に、リコンビナーゼを保有するmRNAで同時トランスフェクトして、トランスフェクション効率をモニターした(図3A)。偏性D7LK201R+ D7RQ311R分子のトランスフェクションにより、野生型D7の組換え効率79%と比較して81%の組換え効率が明らかになり(図3B、C)、偏性変異の導入がヒト細胞内でリコンビナーゼ活性を損なわないことが示唆された。重要なことに、各変異体単量体サブユニットを単独でトランスフェクトすると、顕著なloxF8標的部位組換えは生じなかった(図3B、C)。
【0284】
D7リコンビナーゼは元々、血友病A患者に高頻度で見出されるゲノムint1h反転を修正するために生成された(24)。この酵素は、互いに140 kbの距離でヒトX染色体上に見出される2つのloxF8配列を認識する。第1の部位は、第VIII因子遺伝子のイントロン1に存在し、第2の部位は、第VIII因子転写開始部位の130 kb上流に位置する(10、25、26)。D7は、ヒト細胞内での発現時に、loxF8標的部位に隣接する置換されたエクソン1配列を効率的に反転させることが示されている(10)。内因性遺伝子座におけるこれらの部位に作用するD7LK201R+D7RQ311R変異型の能力を確認するために、D7LK201R及びD7RQ311RmRNAでトランスフェクトしたHEK293T細胞からゲノムDNAを抽出し、エクソン1の反転を検出するように設計したPCRベースのアッセイを実行した(図3D)。実際、D7LK201R+D7RQ311Rの発現は、ゲノム断片の反転をもたらし(図3E)、この変性変異が、この疾患を引き起こす反転を組換えるリコンビナーゼの活性に干渉しないことが実証された。
【0285】
D7LK201R+D7RQ311Rヘテロ二量体が標的部位特異性を改善したかどうかを評価するために、プラスミドベースの活性アッセイ(追加の図1)を使用して、4つの予測されるヒトのオフターゲット部位に対するその活性を分析した(図3F)。以前のデータ(10)と一致して、野生型D7リコンビナーゼは、4つのうちの3つの配列で検出可能な活性を示さなかったが、HG2Lオフターゲット部位に対する活性を示した(図3G)。比較すると、偏性D7LK201R+ D7RQ311R複合体は、予測されるオフターゲット部位の4つ全てにおいて検出可能な活性を示さず(図3G)、その適用される特性の改善が実証された。まとめると、これらの結果は、D7LK201R+ D7RQ311Rヘテロ二量体が、哺乳動物細胞内でloxF8標的部位に対して同等の組換え効率を維持しながら標的部位特異性を促進することを示す。
【0286】
4. K201R及びQ311R変異はCre、Vika及びDreリコンビナーゼを偏性にする
より一般的な適用性を調査し、特定した偏性SSRシステムの分子機構への洞察を得るために、2つの天然に存在するホモ四量体SSR複合体、すなわち、Cre及びVikaにおける対応する変異の表現型を調査した(27)。システムを試験するために、CreK201R及びCreQ311Rを生成した。2つの変異体単量体、すなわちVikaK219RとVikaQ330Rを形成するために、配列アラインメントに見られる保存された配列(27)に従って、偏性変異も位置219及び330でVikaに組み込んだ。大腸菌における切り出し基質に対する両者の活性について分析した。CreK201R又はCreQ311Rを単独で発現させた場合、loxP標的に組換えは観察されなかった(図4A)。同じ単量体に導入した両方の変異が組換えをもたらすかどうかを試験するために、CreK201R+Q311Rを生成した。大腸菌における切り出し基質に対するCre二重変異体の分析により、loxP標的配列の観察可能な組換えが示されなかったことから、活性SSR複合体の形成を可能にするためには、変異が異なる単量体上に存在する必要があることが示された(図4A)。VikaK219RとVikaQ330Rをvox標的配列上で共発現させた場合には、(ある程度活性が失われているが)同様の活性プロファイルが見られる一方で、変異した単量体を単独で発現させた場合には、組換えは観察されなかった(図4B)。
【0287】
次に、偏性Creシステムが哺乳動物細胞において効率的に機能し、細菌で見られる組換えプロファイルを維持することができるかどうかを評価した。HEK293T赤色蛍光レポーター細胞株をSSR mRNAでトランスフェクトし、組換え活性を評価した(図4C)。Cre変異体を単独で発現させた場合、無視できる程度の組換え活性が検出され(図4D、4E)、単独で発現させたCreK201R及びCreQ311Rが不活性であることが示された。非常に対照的に、CreK201RとCreQ311Rの共発現により、loxPにおいて野生型Creと同程度の組換え効率がもたらされた(図4D、4E)。まとめると、これらの結果は、標的変異がヘテロ四量体D7/loxF8複合体に適用可能であるだけでなく、天然に見出される野生型SSRの偏性システムを得るためにも適用することができることを実証している。
【0288】
偏性SSRシステムのさらなる適用性を、天然に存在するDre/rox複合体において試験した。変性変異を、Creに対するアラインメントに見られる保存された配列(図16)による位置202及び312でDreに組込み、DreK202R+DreQ312R/rox複合体を形成した。野生型Dreの活性が低いため、大腸菌における変異体複合体の機能性を試験するために、PCRベースの高感度検出方法を使用した(図14)(表3のプライマー23及び24)。基質上での増幅により、DreK202RとDreQ312Rの両方が存在する場合に、roxの組換えが確認され、偏性Dre変異体を単独で発現させた場合には、最小限の組換えか又は組換えの完全な喪失が確認される。PCRベースのアッセイの結果を図14に示す。
【0289】
5. 分子モデリングは偏性ヘテロ四量体形成の促進を触媒するための機構を支持する
最も高い分解能でのCreの共結晶構造に基づいて、loxP標的部位に結合したCreK201RとCreQ311Rの分子モデルを作成し(PDB: 3C29)、その後、広範な分子動力学シミュレーション分析を行った。これらの分析から、単一変異体CreK201RとCreQ311Rが不活性である理由が明らかになった(図5)。CreK201R変異体の場合、アルギニン201は、非活性サブユニット中で劇的にシフトして、上の鎖上の塩基T5と相互作用する代わりに、下の鎖の塩基A2でDNA骨格と相互作用し、これによって組換え能力が低下した。さらに、活性サブユニットの触媒チロシン324は、上の鎖上の塩基T3’と置き換わり、塩基A4’と水素結合を形成するため、CreK201Rが不活性である理由が説明された。
【0290】
CreQ311R変異体については、触媒チロシン324が活性サブユニットと不活性サブユニットの両方で置き換わったが、K201はDNA骨格との重要な相互作用を失ったことが観察された。さらに、組換え触媒作用(H289)において重要な役割を果たすことが知られている別の残基を変えた(図10D)。
【0291】
次に、K201R変異を活性サブユニットに導入したモデルを分析し、Q311R変異を不活性サブユニットに入れた(図10E)。驚くべきことに、この構成は、活性組換えに適合しないモデルをもたらした。チロシン324を不活性サブユニット内で置き換え、下の鎖上の塩基C3と相互作用させる一方で、K201は、下の鎖上の塩基C3とも相互作用するように劇的に移動した。したがって、この構成は、活性リコンビナーゼを構成しない。
【0292】
最後に、K201R変異を不活性サブユニットに導入したモデルを分析し、Q311R変異を活性サブユニットに入れた。この構成は、全ての触媒残基が組換えを可能にするように配置された活性酵素と一致した。
【0293】
6. 組換えシナプスの触媒領域における単一点変異は偏性表現型につながる
本発明者らはさらに、単量体の触媒領域内の不活性化変異を、別の単量体の触媒領域内の不活性化変異によって救済できることを示す。具体的には、単一Cre単量体変異体(表4参照)は、単独で発現させた場合に、loxP標的部位で不活性であった(図18、灰色のバーを参照されたい)。しかし、loxP上での活性は、2つの異なる不活性単量体をloxP上で共発現させた場合に救済された(図18、黒色のバーを参照されたい)。触媒作用が損なわれた単量体が偏性ヘテロ複合体を形成することができる原理は、186の組み合わせについて示された(表6)。さらに、触媒領域は、T-SSRのファミリーにおいて保存されているので(例えば、図19のアラインメントを参照されたい)、この原理は、他のDNAリコンビナーゼ、具体的には他のDNAリコンビナーゼ、例えば、Vika、Dre及びPantoリコンビナーゼなどのT-SSRに適用することができる。
【0294】
実施例の結果の考察
操作及び指向性進化を通じてCreのDNA特異性を変えることによって、非対称標的配列をヘテロ四量体として一緒に組換える別々のSSR変異型を生成することができる(6、8~10)。このようなヘテロ四量体SSRシステムの生成は、ゲノム内で標的化され得る潜在的な配列を実質的に広げる。しかし、サブユニットの可能な組み合わせは、オフターゲット組換えを触媒することができる活性SSR副産物につながる可能性がある。以前に、ホモ四量体形成の防止が、異なるリコンビナーゼ単量体間のタンパク質間相互作用界面に関与するいくつかの残基の構造誘導再設計によって達成された(16)。したがって、偏性SSRシステムを生成するこの手法は、利用可能な結晶構造を有する酵素に限定され、したがって、操作した又は遠縁のリコンビナーゼに容易に適応できない。本発明者らは、偏性SSRシステムも、触媒領域内のアミノ酸残基を変異させることによって生成することができることを示す。重要なことに、偏性SSRを生成するこの新規方法は、それぞれ別々のSSR単量体内の1つの単一保存残基の改変のみを必要とする。この簡略化された手法は、酵素の以前の構造知識なしに、多くの操作した又は天然のSSRに適用できる可能性がある。
【0295】
まとめると、本発明は、操作した野生型SSRのオフターゲット組換え及び特異性の改善を低減するための単純化した手法を提供する。特に、オフターゲット部位におけるD7LK201R及びD7RQ311Rシステムの特異性の増強が実証された。提供したデータは、別の触媒的に不活性な単量体と共発現させた場合に、触媒的に不活性な単量体を救済できる一般的な概念をさらに支持する。重要なことに、偏性SSRを生成するこの新規方法は、それぞれ別々のSSR単量体の触媒領域内の1つの残基の改変のみを必要とする。この簡略化された手法は、酵素の以前の構造知識なしに、多くの操作した又は天然のDNAリコンビナーゼに適用することができる。
【0296】
参考文献
【表8】
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図10-4】
図11
図12
図13
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図17A
図17B
図18
図19
【配列表】
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【国際調査報告】