(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】核燃料の高温高密度複合物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G21C 3/62 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G21C3/62 500
G21C3/62 120
G21C3/62 600
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527206
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 RU2021000579
(87)【国際公開番号】W WO2023113638
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518312460
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“ロスエネルゴアトム”
(71)【出願人】
【識別番号】524141315
【氏名又は名称】ルッチ リサーチ アンド プロダクション アソシエーション, リサーチ アンド デベロップメント インスティテュート, ジョイントストック カンパニー(“ルッチ ジェーエスシー”)
(71)【出願人】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】バヒン, アンドレイ・ニコラエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】レプニコフ, ウラジミール・ミハイロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィシュネフスキー, ヴャチェスラフ・ユレヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】コトフ, アレクサンダー・ユレヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】キセレフ, ドミトリー・セルゲイヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ベスペチャロフ, ボリス・ニコラエヴィッチ
(57)【要約】
本発明は、核燃料物質に属し、核燃料の高温高密度複合物質およびその製造方法に関する。核燃料の高温高密度複合物質は、核燃料粒子が分散された放射線不活性セラミックマトリックスを含む。そのマトリックスは、炭化ケイ素を主成分とした物質の粉末で作られている。核燃料粒子は、酸素を含まない核燃料粒子である。核燃料の高温高密度複合物質の製造方法は、核燃料粒子と放射線不活性セラミックマトリックスの粉末の混合物の調製、プレスによる混合物の成形、および成形された混合物の焼結を含む。成形された混合物はホットプレスによって焼結される。本発明により、真空中で0.63Tmeltの温度で10時間、焼鈍した後、質量減少が2%を超えない核燃料の高温高密度複合物質を製造することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核燃料の高温高密度複合物質であって、
核燃料粒子が分散されている放射線不活性セラミックマトリックスを含み、
前記放射線不活性セラミックマトリックスは、炭化ケイ素を主成分とした物質の粉末から作られ、
前記核燃料粒子は、酸素を含まない核燃料粒子である
ことを特徴とする核燃料の高温高密度複合物質。
【請求項2】
炭化ケイ素を主成分とした物質の粉末がサブミクロンの分散性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の核燃料の高温高密度複合物質。
【請求項3】
炭化ケイ素を主成分とした物質の粉末として、Si-C-Al系のカーボランダム粉末が使用される
ことを特徴とする請求項1に記載の核燃料の高温高密度複合物質。
【請求項4】
酸素を含まない核燃料の分散粒子は、窒化物または炭化物、若しくはウラン・ジルコニウム炭窒化物燃料の粒子である。
ことを特徴とする請求項1に記載の核燃料の高温高密度複合物質。
【請求項5】
セラミックマトリックス中に分散した核燃料粒子の比率と幾何学的寸法は、原子力プラントの炉心の中性子特性によって決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の核燃料の高温高密度複合物質。
【請求項6】
さらに、高密度炭化ケイ素の被覆層がコーティングされている
ことを特徴とする請求項1に記載の核燃料の高温高密度複合物質。
【請求項7】
前記高密度炭化ケイ素のコーティング層の厚さが50~100μmである
ことを特徴とする請求項6に記載の核燃料の高温高密度複合物質。
【請求項8】
核燃料の高温高密度複合物質の形状と幾何学的寸法は、原子力プラントの炉心の中性子特性によって決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の核燃料の高温高密度複合物質。
【請求項9】
核燃料の高温高密度複合物質を製造する方法であって、
核燃料粒子と放射線不活性セラミックマトリックスの粉末の混合物を調製し、その混合物をプレスにより成形し、成形された混合物を焼結するステップを含み、
成形された混合物は、ホットプレスにより焼結され、
前記放射線不活性セラミックマトリックスは、炭化ケイ素を主成分とする物質の粉末から作られ、
前記核燃料粒子は、酸素を含まない核燃料粒子である
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
成形された混合物は、(0.70~0.85)Tmeltの温度および少なくとも100MPaの圧力でホットプレス法により焼結される
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記核燃料の高温高密度複合物質に、高密度炭化ケイ素の被覆層がコーティングされる
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、高温照射の影響下での腐食亀裂に対する高い耐性、構造相の安定性、および揮発性核分裂生成物の保持能力の向上を特徴とする核燃料物質、ならびに核燃料の高温高密度複合物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
照射条件下での核燃料の熱強度を確保することは、原子力施設の設計と運用における重要な課題の一つである。
【0003】
放射線照射による核燃料の膨張、核分裂生成物、酸素やその他の固体と気体の化学相互作用による生成物の放出により、通常時および緊急時の運転モードにおいて燃料要素(熱を発生させる要素)の局所的な応力の発生や構造相状態の変化が生じ、機械的特性の劣化を招き、結果として核燃料の亀裂や燃料要素のシェルの破裂につながる。
【0004】
核燃料粒子が分散された放射性不活性セラミックマトリックスを含む核燃料の複合物質を製造する方法として、核燃料前駆体物質の粒子と、放射線不活性セラミックマトリックスの製造用物質の粉末との混合物を調製すること、その混合物をプレスによって成形すること、および成形された混合物の還元雰囲気中で焼結することを含む方法が知られている(英国特許第1116663号、IPC C01G 43/025,C04B 35/51,G21C 3/62、1968年6月12日公開)。
【0005】
しかし、この方法で製造された複合物質は、放射線照射下において核燃料が膨張し、揮発性核分裂生成物が放出されて、その物質内部に局所的な応力が発生するという問題を解決するものではない。
【0006】
原子炉用燃料組成物を製造する方法としては、微細に分散した燃料を所定の大きさと形状のシェルに注入し、さらに、燃料の融点以上の温度で固体マトリックスを形成する物質をそのシェルに充填し、微細に分散した燃料と固体マトリックスを形成する物質を充填したシェルを燃料の融点以上の温度で加熱して、冷却するという方法が知られている(ロシア特許第2295165号C1,IPC(2006.01)G21C 3/02,G21C 3/30,G21C 21/02,2007年3月10日公開)。その発明は、20~1200℃の周期的な温度変化(100周期)におけるこの燃料組成物の性能と完全性を実証している。
【0007】
しかし、燃料組成物の製造過程で金属核燃料とプレセラミックポリマーを使用することにより、高温での性能が制限される。
【0008】
本発明に係る核燃料の高温高密度複合物質およびその製造方法に技術的に最も近いものは、核燃料前駆体物質の粒子と物質の粉末との混合物を調製し、この混合物をプレス成形し、成形された混合物を還元雰囲気中で焼結することを含む複合核燃料物質およびその製造方法である(ロシア特許第2175791号C2,IPC(2000.01)G21C 3/64,C04B 35/51,2001年11月10日公開)。
【0009】
この物質は、放射線不活性セラミックマトリックスを含み、その中には核燃料粒子が分散されている。マトリックスと粒子の間の隙間の大きさは、1~10μmである。そのマトリックスの熱膨張係数は、その核燃料粒子の熱膨張係数よりも小さい。そのマトリックスは、スピネル、酸化マグネシウムまたは酸化イットリウムなどで作ることができる。その核燃料粒子は、UO2の粒子またはUO2を主成分とする酸化混合物の粒子である。
【0010】
しかし、このようにして得られた複合物質に高温照射を行うと、物質内の活性酸素による腐食や動作中のマトリックス物質の構造相状態の変化に伴う内部応力の蓄積が生じる。
【0011】
上記の物質はいずれも、高温照射条件下での核燃料の膨張と燃料要素の構造相状態の保存に関する問題を同時に解決できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】英国特許第1116663号
【特許文献2】ロシア特許第2295165号
【特許文献3】ロシア特許第2175791号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題を解決する新たな核燃料物質を得て、そのような核燃料を調製する方法を創出することを目的とする。
【0014】
これは、ほぼすべての熱物理パラメータにおいて従来の二酸化炭素燃料よりも優れている耐熱性の無酸素燃料を、高密度炭化ケイ素マトリックスと組み合わせることで達成される。このマトリックスは、高耐熱性、高解離温度、さまざまな環境下での高温耐性を有し、膨張せず、照射による影響がほとんどなく、低い熱中性子捕獲断面積を有する。これは、高温ガス冷却炉のマイクロ燃料要素の設計において電力層としてそれを使用した半世紀にわたる経験によって確認されている。
【0015】
高密度炭化ケイ素物質の低化学活性と高温耐性により、最大0.63Tmeltまでの高温動作条件下でも、気密性、および燃料要素と冷却材間の安定した熱交換が保証される。
【0016】
本発明が目的とする技術的成果は、真空中で0.63Tmeltの温度で10時間焼鈍した後、質量減少が2%を超えない核燃料の高温高密度複合物質を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この結果を達成するために、核燃料粒子が分散されている放射線不活性セラミックマトリックスを含む核燃料の高温高密度複合物質が提案されており、そのマトリックスは、炭化ケイ素を主成分とした物質の粉末から作られ、その核燃料粒子は、酸素を含まない核燃料粒子である。
【0018】
サブミクロンの分散性を持つ炭化ケイ素を主成分とした物質の粉末が使用される。
【0019】
炭化ケイ素を主成分とした物質の粉末として、Si-C-Al系のカーボランダム粉末が使用される。
【0020】
前記酸素を含まない核燃料の分散粒子は、窒化物または炭化物、若しくはウラン・ジルコニウム炭窒化物燃料の粒子である。
【0021】
セラミックマトリックス中に分散した核燃料粒子の比率と幾何学的寸法は、原子力プラントの炉心の中性子特性によって決定される。
【0022】
核燃料の高温高密度複合物質は、さらに、核分裂生成物を保持する高密度炭化ケイ素の被覆層でコーティングされている。
【0023】
高密度炭化ケイ素のコーティング層の厚さは、50~100μmである。
【0024】
核燃料の高温高密度複合物質の形状と幾何学的寸法は、原子力プラントの炉心の中性子特性によって決定される。
【0025】
核燃料の高温高密度複合物質を製造する方法が提案されている。この方法は、核燃料粒子と放射線不活性セラミックマトリックスの粉末の混合物を調製し、その混合物をプレスにより成形し、成形された混合物を焼結する各ステップを含み、成形された混合物は、ホットプレスにより焼結され、そのマトリックスは、炭化ケイ素を主成分とする物質の粉末から作られ、その核燃料粒子は、酸素を含まない無酸素核燃料粒子である。
【0026】
成形された混合物は、(0.70~0.85)Tmeltの温度および少なくとも100MPaの圧力でホットプレス法により焼結される。
【0027】
核燃料の高温高密度複合物質には、核分裂生成物を保持する高密度炭化ケイ素の被覆層がコーティングされる。
【0028】
複合物質に、無酸素核燃料を高密度炭化ケイ素マトリックスと組み合わせて使用することにより、物質内の酸素腐食の発生を防止し、核燃料の膨張速度を低減し、その結果、熱物理的特性を維持し、動作中のマトリックス物質の構造相状態の変化に伴う内部応力を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】製造された核燃料の高温高密度複合物質の熱試験後の物質組織を示す図である。
【
図2】製造された核燃料の高温高密度複合物質の熱試験後の物質組織を示す図である。
【
図3】製造された核燃料の高温高密度複合物質の熱試験後の物質組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔実施例1〕
核燃料の高温高密度複合物質は、2gの炭窒化ウラン・ジルコニウム燃料粒子と、放射線不活性セラミックマトリックス製造用の、25gの炭化ケイ素材料の粉末とを混合して、その混合物をプレス成形し、プレス成形された混合物を真空中で0.80Tmeltの温度と400MPaの圧力でホットプレスにより焼結することによって製造された。
【0031】
図1は、製造された核燃料の高温高密度複合物質の熱試験後の物質組織図であり、真空下で0.63Tmeltの温度で10時間焼鈍した後の物質の質量減少が0.3%になった状態を示している。
【0032】
〔実施例2〕
核燃料の高温高密度複合物質は、3gの窒化物核燃料粒子と、放射線不活性セラミックマトリックス製造用の、50gの炭化ケイ素材料の粉末とを混合して、その混合物をプレス成形し、プレス成形された混合物を真空中で0.75Tmeltの温度と300MPaの圧力でホットプレスにより焼結することによって製造された。
【0033】
図2は、製造された核燃料の高温高密度複合物質の熱試験後の物質組織図であり、真空下で0.63Tmeltの温度で10時間焼鈍した後の物質の質量減少が1.7%になった状態を示している。
【0034】
〔実施例3〕
核燃料の高温高密度複合物質は、1.5gのカーバイト核燃料と、放射線不活性セラミックマトリックス製造用の、20gの炭化ケイ素材料の粉末とを混合して、その混合物をプレス成形し、プレス成形された混合物を真空中で0.85Tmeltの温度と500MPaの圧力でホットプレスにより焼結することによって製造された。
【0035】
図3は、製造された核燃料の高温高密度複合物質の熱試験後の物質組織図であり、真空下で0.63Tmeltの温度で10時間焼鈍した後の物質の質量減少が1.1%になった状態を示している。
【0036】
そこで、核燃料粒子が分散された放射線不活性セラミックマトリックスを含む核燃料の高温高密度複合物質が提案されている。このマトリックスは、炭化ケイ素を主成分とした物質の粉末からなり、この核燃料粒子は、無酸素核燃料粒子である。
【0037】
製造された核燃料の高温高密度複合物質の熱試験は、真空中で0.63Tmeltの温度で10時間、焼鈍した後の物質の質量減少が2%を超えないことを示した。
【0038】
この物質の高温耐性と構造相安定性は、セラミックマトリックスと核燃料粒子との相互作用が観察された試作品や類似品の同様の試験温度よりも1.5倍高い試験温度で実証された。
【国際調査報告】