IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アクアフィル ソシエタ ペル アチオニの特許一覧

特表2024-544883ポリカプロラクタム(PA6)の解重合によるイプシロン-カプロラクタムの製造方法
<>
  • 特表-ポリカプロラクタム(PA6)の解重合によるイプシロン-カプロラクタムの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ポリカプロラクタム(PA6)の解重合によるイプシロン-カプロラクタムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/10 20060101AFI20241128BHJP
   C08J 11/08 20060101ALI20241128BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C08J11/10
C08J11/08 ZAB
C08J11/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527282
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-05-08
(86)【国際出願番号】 IB2022060831
(87)【国際公開番号】W WO2023084441
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】102021000028601
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521262172
【氏名又は名称】アクアフィル ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】AQUAFIL S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルトッラ、マッダレーナ
(72)【発明者】
【氏名】チェッケット、ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】ダル モーロ、アナクレート
(72)【発明者】
【氏名】モデスティ、ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】グエッラ、ステファノ
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA24
4F401AB06
4F401AD08
4F401CA22
4F401CA51
4F401CA67
4F401CA68
4F401EA01
4F401EA23
4F401EA27
4F401EA60
4F401EA64
4F401FA01Z
4F401FA07Z
(57)【要約】
本発明は、ポリカプロラクタム(PA6)の解重合によってε-カプロラクタムを製造するプロセスに関し、それは、
a.PA6及び少なくとも1つの繊維状強化材を含む複合材料を、130℃~200℃の範囲内の温度で、少なくとも1つのポリオールを含む溶媒と接触させ、それによって、可溶化されたPA6と少なくとも前記繊維状強化材を含む不溶性画分とを含む溶液を得ること、
b.前記溶液から前記不溶性画分を分離すること、
c.前記溶液を、水を含む凝固液と合わせて、液相中に分散された部分的に解重合された凝固PA6を得ること、
d.前記凝固PA6を、前記液相から分離すること、
e.前記フェーズdで分離された前記凝固PA6を、加水分解によるさらなる解重合に供して、ε-カプロラクタムを得ること、
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカプロラクタム(PA6)の解重合によってε-カプロラクタムを製造するプロセスであって、
a.PA6及び少なくとも1つの繊維状強化材を含む複合材料を、130℃~200℃の範囲内の温度で、少なくとも1つのポリオールを含む溶媒と接触させ、それによって、可溶化されたPA6と少なくとも前記繊維状強化材を含む不溶性画分とを含む溶液を得ること、
b.前記溶液から前記不溶性画分を分離すること、
c.前記溶液を、水を含む凝固液と合わせて、液相中に分散された部分的に解重合された凝固PA6を得ること、
d.前記凝固PA6を、前記液相から分離すること、
e.前記フェーズdで分離された前記凝固PA6を、加水分解によるさらなる解重合に供して、ε-カプロラクタムを得ること、
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記凝固液が、50℃~95℃の範囲内の温度、好ましくは80℃~95℃の範囲内の温度である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記PA6が、前記複合材料中に、PA6及び前記繊維状強化材の総重量に対して50重量%~95重量%の範囲内、より好ましくは55重量%~90重量%の範囲内、さらにより好ましくは60重量%~85重量%の範囲内の量で存在する、請求項1~請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記繊維状強化材が、前記複合材料中に、PA6及び前記繊維状強化材の総重量に対して5重量%~50重量%の範囲内、より好ましくは10重量%~45重量%の範囲内、さらにより好ましくは15重量%~40重量%の範囲内の量で存在する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記溶媒が、少なくとも1つのグリコールを含む、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記溶媒が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、及びこれらの混合物から選択される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記可溶化工程aが、150~170℃の範囲内の温度で行われる、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
工程aにおいて、前記複合材料と前記溶媒との間の重量比が、1:1~1:50の範囲内、好ましくは1:2~1:25の範囲内である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記可溶化PA6を含む前記溶液と前記凝固液との間の重量比が、1:1~1:10の範囲内、好ましくは1:1~1:5の範囲内である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
加水分解による前記解重合が、少なくとも1つの酸触媒の存在下で行われる、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカプロラクタム(PA6)の解重合によるε-カプロラクタムの製造方法に関する。詳細には、本発明は、少なくとも1つの繊維強化材を含む複合材料に含有されるポリカプロラクタムの解重合に関する。
【背景技術】
【0002】
公知のように、ポリカプロラクタム又はポリアミド-6(PA6)は、非常に優れた熱特性、機械特性、及び耐化学薬品性を有する半結晶性の熱可塑性ポリマーであり、そのため、テキスタイル、自動車、電気及び電子部品、建築、コーティングなどの様々な用途分野で用いることが可能である。特に、PA6は、エンジニアリングプラスチックの分野で、複合製品を製造するために、すなわち前述のポリマーが、ガラス繊維、炭素繊維、ポリマー繊維などの1又は複数の追加の繊維強化材と組み合わせて用いられてその機械特性が高められた材料を製造するために広く用いられている。
【0003】
PA6を含有する複合材料の再利用は、現在は主として機械的手段によって行われている。すなわち、ポストインダストリアル由来及びポストコンシューマー由来の両方の複合材料が、バージンポリマーの部分的代替物として新たな生産サイクルで用いるのに適するサイズの材料を得るために、破砕、粉砕、篩い分け、洗浄、高密度化などのプロセスによって処理される。
【0004】
しかし、機械的再利用には、ポリマー材料の機械特性が使用に従って劣化することから、廃棄物を発生させた製品よりも低い品質の新規製品しか製造できない(ダウングレード)という欠点がある。さらに、着色化合物が存在するため、ポリマーをその考え得るすべての用途で再使用することはできない。さらなる問題は、使用済みポリマーの再使用サイクルが繰り返されるに従って、前記ポリマー材料中に添加剤及び汚染物質が蓄積することである。
【0005】
強化複合材料では、繊維は、所望される向上を実現するために、特定の寸法特性及び機械特性に応じて選択される。例として、ガラス繊維充填剤なし及びありのPA6の場合を挙げると、以下の表に示されるように、これらの繊維によって、さまざまな機械特性を向上させることができる。
【表1】
【0006】
しかし、複合材料、特にガラス繊維又は他の無機繊維を用いた複合材料の製造によって実現することができる機械特性の向上は、これらの材料の再利用が困難であることを伴う。実際、これらの製品の使用済み後の再利用の方法は、本質的に機械的再利用に委ねられており、このことは、ポリマーの機械特性が製品の使用に従って劣化することから、回収されたポリマーの再使用に大きな制限を課すものであり、そのため、一般的には、再利用されたポリマーは、ほとんど例外なくバージンポリマーとの混合物として使用するしかない。
【0007】
一方、汚染物質及び非生分解性物質を環境中に排出しないために、及び化石燃料からのCO排出削減目標を達成するために、材料、特にプラスチックの再利用に対する必要性が高まっている。加えて、特定の材料の埋め立て処分を禁止し、再利用された材料の使用量をますます増加させて新製品を製造することを要求する現行規制によって、再利用が義務付けられることも多い。
【0008】
物理的-機械的再利用は、広く用いられているものの、依然として前記材料のダウングレードをもたらす経路であり、その一方で、好ましい経路は、前記材料のアップグレードに繋がる経路である。化学的手段によるアップグレードは、出発原材料(ポリマーの場合は、出発モノマー)を再び得ることに繋がり、そしてそれを用いて、石油由来のバージン材料から得ることのできるものと同じ品質の新製品を、バージン材料での製造に用いられるものと同じ方法を用いて製造することができる。
【0009】
多くの研究や特許に記載されている化学的再利用法は、溶媒によるポリマー及びそれを含む複合材の溶解、及び続いて濾過による不溶性物質の分離、残留不純物(例:製造プロセスの過程でポリマーに添加された顔料及び他の添加剤)の除去、これに続いての溶媒の蒸発又はポリマーを固相に戻す他の技術による、一般的には顆粒の形態でのポリマーの回収、に基づいている。
【0010】
以下のような例を挙げることができる。
- 刊行物、Papaspyrides, C. D., J. G. Poulakis, and C. D. Arvanitopoulos, "Recycling of glass fiber reinforced thermo-plastic composites. I. Ionomer and low density polyethylene based composites.", Resources, conservation and recycling 14.2 (1995): 91-101)、に記載のプロセスであって、ガラス繊維充填LDPEをトルエン中に溶解し、続いて前記ポリマーを前記繊維から分離することを含む。
- VinyLoopによって提案された不純物分離によるPVC再生プロセスであって、溶媒中にPVCを選択的に溶解することを含む。
【0011】
これまでのところ、複合材料を形成するポリマーを溶解することによって繊維及び他の不純物から前記ポリマーを分離する技術は、最適な結果をもたらしておらず、なぜなら、いずれにしても添加剤の一部が前記ポリマー中に残留して、色という意味でもその外観を変化させてしまい、したがって、再利用ポリマーの使用の可能性が常に厳しく制限されることになるからである。特に、様々な化学組成の粒子、特には無機固形物が、前記ポリマー中に残留するため、前記回収されたポリマーは、合成由来のポリアミド及びポリエステルが主に用いられるテキスタイル産業における紡糸プロセスなど、重要な生産部門で使用することができなくなる。
【0012】
ポリマーの機械的再利用及びポリマーの溶媒溶解を介する再利用の上述した欠点と共に、循環型経済の原理を適用することによって環境を保護する必要性がますます認識されるようになっていることにより、例えば、比較的少量の異物との混合物中にPA6が含まれる材料の場合において既にそうであるように(例:Nylon6の糸若しくはテキスタイル基材、又はカーペット、タイル、様々な種類のエンジニアリングプラスチックなどからのポリアミドの分離に由来する画分)、PA6を含む複合材料を化学的に再利用して、出発モノマーであるε-カプロラクタムを再製造可能とすることが非常に所望されている。
【0013】
化学的再利用では、PA6を含むスクラップ又は廃棄物は、ポリマー鎖が解重合される処理プロセスを受けて、元のモノマー(ε-カプロラクタム)が得られ、このモノマーは、精製後はバージンモノマーと同じ品質を有するため、新しい高品質の製品を製造するために特にいかなる制限もなく用いることができる。
【0014】
PA6の解重合は、長年知られている化学プロセスであり、例えば、Evergreen(Depolymerization of polyamides、米国特許第5668277号、1997年)及びPolyamide 2000(POLYAMIDE 2000-WORLD CONGRESS:The Polyamide Chain Resins, Products, Developments, Technologies, Markets, March 14-15-16, 2000, Zurich, Switzerland)として知られるプロセスにおいて工業的にも適用されている。
【0015】
現行の技術では、熱加水分解、加アンモニア分解、加溶媒分解、及び超臨界流体中の熱分解条件下での熱分解プロセスなど、PA6を解重合するためのいくつかのプロセスが提案されている。これらのプロセスの中でも、触媒の存在下又は非存在下での熱加水分解による解重合は、工業的スケールでの応用及び実施の可能性によって、最も有望な化学的再利用の選択肢の一つである。
【0016】
一般に、加水分解解重合は、溶融状態のPA6を、200℃~450℃の範囲内の温度及び0.2~20.0バールの圧力で、水蒸気の形態の水で処理して、モノマーのε-カプロラクタムを形成させることを含む。前記モノマーは、蒸気相で解重合混合物から分離され(例:水蒸気流を用いたストリッピングによって)、凝縮され、その後、不純物及び不要な反応副生成物を除去するために精製される。
【0017】
加水分解解重合プロセスの例は、例えば米国特許第6,087,494号及び米国特許第5,294,707号に記載されている。
【0018】
既知の解重合プロセスは、加水分解タイプであるか又は他のタイプであるかにかかわらず、繊維強化材を多量に含むPA6系複合材を直接処理することができないという実用上の欠点を有する。実際、無機繊維材は、解重合反応器内に蓄積する傾向があり、除去が非常に困難である固体残留物及び付着汚染物を発生させ、解重合プラントの運転を定期的に停止する必要が生ずる。
【0019】
PA6解重合プロセスに工業的に影響を及ぼす第2の問題は、解重合反応の継続時間であり、それは、数ある他の因子の中でも特に、解重合を受けているPA6鎖の分子量に依存する。本技術分野では、解重合反応を促進するための及び/又はより迅速に行わせるための数多くの触媒が研究されてきたが、解重合工程の継続時間を短縮する必要性は依然として残っており、なぜならそれは、ε-カプロラクタム製造プロセスの生産性を向上させることになるからである。
【0020】
ポリアミド、特にPA66及びPA6を、ガラス繊維のような繊維強化材などの異物との混合物中にポリアミドを含むプロセス廃棄物又はポストコンシューマー製品から回収するプロセスが、米国特許第5,430,068号に記載されている。この特許に記載されているプロセスは、(1)ポリアミドを無水ポリオール中又は2~6個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸中に高温で溶解すること、(2)ポリアミド溶液から異物を分離すること、(3)前記ポリアミド溶液を、前記溶液を急速に冷却して前記ポリアミドを析出させるように、前記ポリアミド溶液の温度よりも充分低い温度の追加量の同じ溶媒と組み合わせること、(4)析出したポリアミドを回収すること、を含む。1つの態様では、PA66又はPA6の溶解に用いられる前記溶媒は、エチレングリコール(EG)又はプロピレングリコール(PG)などのグリコールである。前記プロセスは、本質的に劣化していない形態で前記ポリアミドを回収すること、すなわち、その分子量の低下を可能な限り最小限に抑えて(相対粘度分析によって制御)、押出し又は成形プロセスでの再使用を可能とすることを目的としている。
【0021】
しかしながら、上述したプロセス、すなわち、高温で溶解し、続いて常に溶媒グリコールとの接触のみによって固体ポリアミドを析出させることによって複合材料から回収可能であるPA6は、それ自体、特に加水分解による、ε-カプロラクタムを得るための解重合プロセスを受けるのに適するものではなく、なぜなら、EG又はPG中での前記高温での溶解処理は、PA6鎖の末端カルボキシル基と前記溶媒自体との反応及びその結果としてのEG又はPGとのエステル基の形成も促進するからである。PA6中にこれらのエステル化基が存在すると、無視できない量のEG又はPGが解重合混合物中に導入される結果となり、そのことは、前記解重合反応の収率及び得られるε-カプロラクタムの品質に悪影響を及ぼす。実際、前記解重合工程では、グリコールのEG及びPGがエステル化末端基から遊離し、それらが、反応条件下において、カプロラクタムモノマーと共に蒸発する軽質副生成物を形成する。副生成物としては、前記グリコール自体、及び短鎖有機酸のエステル、ヒドロキシ酸、前記ヒドロキシ酸の環化によって形成されるラクトン、不飽和ケトンなどのその誘導体が挙げられる。比較的高い割合で存在する場合もあるこれらの副生成物は、化学的処理を用いること又は様々な蒸留工程を行うことのいずれによってもカプロラクタムから分離することは困難であり、精製コスト及び得られる前記モノマーの最終品質に大きな影響を及ぼす。これらの副生成物は、存在する場合、再利用ε-カプロラクタムの重合プロセスの妨げにもなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述の現行技術を考慮して、本出願者は、公知技術の欠点を克服する、モノマーのε-カプロラクタムを製造するためのPA6の解重合方法を提供するという課題に対処した。
【0023】
詳細には、本発明の目的は、少なくとも1つの繊維強化材もかなりの量ブレンドされたPA6を含む複合材料に適用可能である、ε-カプロラクタムを製造するための解重合方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらなる目的は、ε-カプロラクタムの製造方法を提供することであって、この製造方法は、解重合段階が比較的短時間で、及びPA6の高い転化収率で行われ、したがって前記方法の生産性が高まる。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以下の記述においてより良好に説明される前述の目的及び他の目的は、複合材料を、繊維材(及び場合によっては他の異物)を分離するための前処理に供することによって達成可能であることがここで見出され、この前処理は、PA6を部分的に解重合された形態で回収することを可能とし、したがって、より容易かつ迅速にε-カプロラクタムに加水分解によって解重合することを可能とする条件下で行われ、その結果、前記方法の全体としての生産性が高まる。
【0026】
本発明に従う方法により、例えばエンジニアリングプラスチック部門からの、PA6及び強化繊維をベースとする複合材料を、PA6の化学的再利用プロセスに用いることも可能となる。
【0027】
前記繊維材の分離は、可溶化されたPA6とPA6溶液から容易に分離可能な繊維材を含む不溶性画分とを含む初期懸濁液が得られるように、前記複合材料を、少なくとも1つのポリオール、好ましくはグリコールを含む溶媒で、加熱下(130℃~200℃)で処理することによって実現される。次に、前記PA6溶液を、水性凝固液と接触させて、部分的に解重合された形態の凝固PA6を生成する。驚くべきことに、米国特許第5,430,068号に記載されているように前記ポリオール自体によってではなく、水によるポリオール中に可溶化されたPA6の前記凝固によって、前記ポリオールによる前記ポリアミドのカルボキシル末端基のエステル化が阻害され、したがって、その後の加水分解による前記解重合の完了段階で、より高い品質のε-カプロラクタムの製造が有利となることが見出された。
【0028】
繊維材の除去、及びエステル化された末端基を実質的に含まない部分的に解重合されたPA6の回収の結果、本発明の方法によって、複合材料に含まれる前記PA6を化学的に再利用するために加水分解による解重合を効果的に適用することが可能となり、したがって、これまで埋め立て処分又は機械的再利用が成されていたこれらの材料を、モノマーのε-カプロラクタムを製造するための原材料として用いることが可能となる。
【0029】
加えて、前記回収されたPA6の部分的な分解は、その後に解重合を完了してε-カプロラクタムとするのに有利であることから、PA6の溶解、前記繊維材の分離、及び前記可溶化PA6の凝固の段階は、公知のように高温ではPA6の酸化(したがって、化学的変化)を引き起こすものである酸素、特に空気の存在下でも実施することができ、そのため、絶対的な不活性雰囲気条件(酸素濃度が、最悪の条件下では数ppmに制限される)を採用する必要がなく、前記溶媒の可燃性又は爆発性の条件を回避するために必要なブランケット条件を確保するだけでよいことから、前記方法のプラント管理が簡素化される。
【0030】
本発明のさらなる利点は、前記回収された繊維強化材が高品質であり、ポリマー残渣を実質的に含まず、したがって同じ又は別の製造プロセスでの再使用に適した形態であるという事実にあり、したがって、特に、製造プロセスが非常に不経済であるガラス繊維又は炭素繊維の場合に、原材料及びエネルギーが節約される。
【0031】
したがって、第1の態様によると、本発明は、ポリカプロラクタム(PA6)を解重合することによるε-カプロラクタムの製造方法に関し、その方法は、
a.PA6及び少なくとも1つの繊維強化材を含む複合材料を、130℃~200℃の範囲内の温度で、少なくとも1つのポリオールを含む溶媒と接触させ、それによって、可溶化されたPA6と少なくとも前記繊維強化材を含む不溶性画分とを含む溶液を得ること、
b.前記溶液から前記不溶性画分を分離すること、
c.前記溶液を、水を含む凝固液と組み合わせて、液相中に分散された部分的に解重合された凝固PA6を得ること、
d.前記凝固PA6を、前記液相から分離すること、
e.前記フェーズdで分離された前記凝固PA6を、加水分解によるさらなる解重合に供して、ε-カプロラクタムを得ること、
を含む。
【0032】
本発明の目的のために使用可能な前記複合材料は、PA6及び少なくとも1つの繊維強化材を含む。
【0033】
前記繊維強化材は、ガラス繊維、炭素繊維、PA6以外のポリマーのポリマー繊維、及び上述の繊維の混合物など、前記溶解フェーズaで用いられる前記ポリオールに不溶性の無機繊維又は有機繊維を含む。1つの態様では、前記繊維強化材は、少なくともガラス繊維を含む。
【0034】
前記複合材料は、PA6及び強化繊維以外の1又は複数の追加の材料も含み得る。前記複合材料中に存在し得る追加の材料の例としては、染料、UV吸収剤、充填剤、様々な種類の添加剤(例:難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、核形成剤など)、及び製品の使用又はその回収に起因する他の汚染物質(例:これまでの機械的再利用サイクルの結果として前記材料中に蓄積された添加剤)が挙げられる。
【0035】
好ましくは、PA6は、前記複合材料中に、PA6及び前記繊維強化材の総重量に対して50重量%~95重量%の範囲内、より好ましくは55重量%~90重量%の範囲内、さらにより好ましくは60重量%~85重量%の範囲内の量で存在する。
【0036】
好ましくは、前記繊維強化材は、前記複合材料中に、PA6及び前記繊維強化材の総重量に対して5重量%~50重量%の範囲内、より好ましくは10重量%~45重量%の範囲内、さらにより好ましくは15重量%~40重量%の範囲内の量で存在する。
【0037】
一般に、前記複合材料は、PA6及び前記繊維強化材の総重量に対して15重量%までの量で、好ましくは10重量%までの量で、例えば1%~5%の範囲内で追加の材料を含む。
【0038】
好ましくは、複合材料は、ポストコンシューマー廃棄物(使用済み製品)及び/又はポストインダストリアル廃棄物(複合材製造プロセスからの廃棄物)を含む。
【0039】
前記複合材料は、さまざまな形状及びサイズで、本発明に従う方法に供給され得る。好ましくは、前記複合材料は、およそ1~3mmのサイズの断片で供給され、これは、例えば、前記複合材料を破砕又は粉砕することによる前処理によって得ることができる。
【0040】
前記複合材料に含まれる前記PA6を溶解するために用いられる溶媒は、少なくとも1つのポリオールを含む。本発明の目的のために用いられ得るポリオールの例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、及びグリセリンである。ポリオールは、単独で、又は2つ以上のポリオールの混合物として用いられ得る。
【0041】
好ましい態様では、前記溶媒は、好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つのグリコールを含む又はそれから成る。特に好ましい形態では、前記溶媒は、エチレングリコールである。
【0042】
好ましくは、段階aでは、複合材料対溶媒の重量比は、1:1~1:50の範囲内、好ましくは1:2~1:25の範囲内である。
【0043】
段階aでは、前記複合材料を前記溶媒と接触させて、130℃~230℃の範囲内、好ましくは150℃~180℃の範囲内の温度でPA6を可溶化する。
【0044】
工程aは、例えば反応器中で、前記PA6が完全に溶解するまで、溶媒と複合材料との混合物を撹拌下に保持することによって行われ得る。
【0045】
一般に、前記溶解工程は、0.5~6時間の範囲内、より好ましくは2~4時間の範囲内にわたって継続する。
【0046】
前記PA6の溶解後、前記反応器中には、前記可溶化されたPA6を含む溶液(液相)と、前記繊維強化材及び段階aの操作条件において前記溶媒に不溶性である他のいずれかの材料又は物質(例:少量のポリマー添加剤)を含む不溶性画分(固相)とから成る二相混合物が存在する。
【0047】
次いで、前記不溶性画分を、例えば濾過又はデカンテーションによって、前記PA6溶液から分離する(段階b)。有利には、前記分離は、高温で、例えば130℃~200℃の範囲内の温度で、より好ましくは段階aでの前記ポリマー溶解が行われた温度と同じ温度で行われる。
【0048】
前記可溶化されたPA6を含む溶液の粘度は、温度及びPA6濃度に応じて様々となる。一般に、前記PA6溶液は、段階aが行われる温度では、透明でわずかに粘性の溶液として現れる。室温まで冷却させると、それは、固液相分離を起こすことなく、粘性の高いペースト状の物質を形成する。
【0049】
前記PA6溶液から分離された前記繊維強化材は、有利には、例えば可溶化に用いたものと同じ溶媒で洗浄されて、それに付随する残留ポリマーが除去され得る。
【0050】
前記凝固段階cでは、前記PA6溶液は、水を含む凝固液と組み合わされて、凝固し、部分的に解重合したPA6が得られる。この目的のために、例えば、前記PA6溶液は、前記凝固液を含む容器に注ぎ入れられ得る。好ましくは、前記凝固液は、50℃~95℃の範囲内の温度、より好ましくは80℃~95℃の範囲内の温度に維持される。
【0051】
好ましくは、凝固段階cにおいて、前記可溶化されたPA6を含む溶液と前記凝固液との間の重量比は、1:1~1:10の範囲内、好ましくは1:1~1:5の範囲内である。
【0052】
好ましくは、前記PA6溶液と前記凝固液との混合物は、室温まで冷却され、同時に前記凝固PA6ポリマーが徐々に形成され、これは、前記可溶化溶媒及び水を含む液相中に分散した状態で維持される。前記凝固ポリマーは、例えばおよそ1~5mmのサイズの不規則形状の粒子の形態で現れ得る。
【0053】
段階dにおいて、前記凝固PA6は、例えば濾過によって、前記液相「溶媒/凝固液」から分離される。好ましくは、前記凝固PA6は、存在する残留溶媒を除去するために水で洗浄される。
【0054】
有利には、1つの態様では、前記凝固PA6の洗浄に用いられ、ある割合の溶媒も含む水流は、前記凝固PA6の分離によって生成された前記液相溶媒/凝固液の流れと共に回収される。
【0055】
1つの態様では、上記2つの流れの混合物の少なくとも一部は、工程cに直接再循環され、そこで凝固液として用いられる。
【0056】
さらなる態様では、これら2つの流れの混合物の少なくとも一部又は全体は、前記凝固液(例:水)から前記溶媒を分離するための処理を受ける。
【0057】
例えば、前記溶媒及び前記凝固液、例えばグリコール及び水、を含む上記2つの流れの混合物は、蒸留による分離プロセスを受ける。前記凝固液(水)及び多くない量の溶媒を含む蒸発相は、凝固工程cで再使用することができ、一方本質的に溶媒を含む前記蒸留の底部液相は、さらなる複合材料の処理のための段階aで再使用することができる。
【0058】
凝固PA6の部分的解重合の程度は、相対粘度値(相対粘度-ISO 307又はASTM 789)を特定することによって評価することができる。
【0059】
PA6の前記可溶化及び凝固処理の結果としてエステル化されたカルボキシル基の量は、実施例に記載されるように、NMR分析によって特定することができる。
【0060】
本発明に従う方法により、段階dの終了後、溶媒分子、特にエチレングリコールでエステル化された末端カルボキシル基の量が、乾燥凝固PA6の重量に対して好ましくは2.0重量%未満である、凝固され、部分的に解重合されたPA6を得ることが可能である。
【0061】
上記で述べたようにして得られた凝固され、部分的に解重合されたPA6は、次の加水分解解重合段階(段階e)に供給されて、解重合を完了させ、モノマーのε-カプロラクタムを得ることができる。
【0062】
前記加水分解解重合段階は、当業者に公知のプロセスに従って行われ得る。
【0063】
一般に、凝固され、部分的に解重合されたPA6は、好ましくは酸触媒の存在下、蒸気流の形である水と反応され得る。
【0064】
PA6は、好ましくは、過熱蒸気流を用いて、例えば0.2~20バールの圧力での、200℃~450℃の範囲内の温度で、加水分解解重合を受ける。
【0065】
この目的のために、前記PA6は、好ましくは溶融状態で、例えば押出機/プレメルター(pre-melter)を介して、解重合反応器に供給される。しかし、前記PA6は、例えばホッパー及び/又は計量オージェ充填機(dosing auger)を介して、固体顆粒の形態で前記反応器に供給されてもよい。
【0066】
前記反応器内部での再凝縮を防止するために過熱される前記蒸気は、好ましくは、連続的な均一分布を維持し、溶融物との毛細管接触を促進すると同時に、その連続的な撹拌及びホモジナイゼーションを確実にする目的で、前記溶融物中に分散される。
【0067】
前記酸触媒は、当業者に公知の触媒のうちの1つであってよく、例えば、無機酸(例:オルソリン酸及びホウ酸)、有機酸(例:p-トルエンスルホン酸)、及びリン酸アンモニウム塩から選択される。
【0068】
解重合中に生成したモノマーのε-カプロラクタムは、解重合混合物から気相中に、例えば水蒸気流によって分離され、続いて凝縮される。
【0069】
例えば、前記反応器を出た蒸気は、水との直接接触による凝縮システムに送られてよく、それによって2つの流れ、本質的に蒸気のみから成る第1の流れ;50%以上の濃度の粗ε-カプロラクタム(ただし、既に高純度である)を含む水溶液から成る第2の流れ、を分離することが可能となる。
【0070】
続いて、前記凝縮されたモノマーは、例えば溶媒抽出又は無溶媒抽出(例:米国特許出願公開第20190382339号に記載)、水素化、過マンガン酸カリウムでの処理、並びに軽質及び重質副生成物を分離するための蒸留による、当業者に公知の方法を用いた精製に供される。
【0071】
本発明に従う方法の考え得る態様の一例を、以下の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1図1は、本発明に従うε-カプロラクタムの製造方法の模式図であり、「GFを含むPA6」は、ポリアミド及び強化材としてのガラス繊維を含む複合材料を意味し、「EG」は、エチレングリコールである。
【発明を実施するための形態】
【0073】
図1において、複合材料1は、例えば1~3mmの小サイズの断片を得るために、粉砕工程2に供給される。次に、粉砕された複合材料3は、130~200℃の温度でEG溶媒中での溶解工程4に供され、そこでは、EG中に可溶化されたPA6とガラス繊維を含む懸濁された不溶性画分とを含む二相混合物5が生成される。溶解に用いられる前記溶媒EG(流れ37)は、貯蔵ユニット28から取り出される。
【0074】
続く濾過工程6において、前記ガラス繊維を含む不溶性画分7は、例えば溶解工程4と同じ温度での熱濾過によって、8の可溶化されたPA6から分離される。次に、不溶性画分7のガラス繊維は、貯蔵ユニット11から再循環されたグリコールの流れ10を用いた洗浄工程9に供され、続いてプロセスから抽出される(流れ12)。洗浄に用いられた前記グリコール(流れ13)は、一部は凝固ユニット15(流れ13a)に、及び一部は、補給用グリコール流14も供給される貯蔵ユニット11(流れ13b)に再循環される。
【0075】
可溶化されたPA6流8は、水流17と接触させることによる凝固工程15に供される。前記凝固により、水及びEGの液相中に分散した部分的に解重合された形態のPA6顆粒が生成され(流れ16)、後続の濾過工程21に供給される。凝固に用いられる水流17は、水貯蔵ユニット18から得られ、それには、水/EG混合物の蒸留フェーズ30に続く凝縮フェーズ33からの水流19及び補給用水流20も供給される。
【0076】
濾過工程21において、PA6顆粒分散体の流れ16は、凝固PA6顆粒の流れ22と水/EG混合物を含む流れ23とに分離される。凝固PA6顆粒22は、次いで洗浄及び乾燥工程24に供されて、乾燥顆粒25を得る。洗浄には水流26aが用いられ、これは、その後貯蔵ユニット27に部分的に再循環され(水流35)、貯蔵ユニット27には濾過工程21からの水/EG混合物23も供給される。
【0077】
貯蔵ユニット27に含有される前記水/EG混合物の流れ29は、蒸留工程30に供され、そこからEG流31及び蒸気流32が得られ、蒸気流32は、凝縮工程33に供された後、サイクルから分離された微量のEGを含む水の流れ34と、凝固工程15で再使用するために貯蔵ユニット18に送られる主流19とが生成される。
【0078】
蒸留から回収されたEG流31は、貯蔵ユニット28に集められ、そこには、補給用EG流36も供給される。
【0079】
以下の例は、単に本発明の例示の目的で提供されるものであり、添付の請求項によって定められる保護範囲の限定として見なされるべきではない。
【0080】
例において、相対粘度(RV)は、ISO 307の方法(HSO中1%)に従って測定した。
【実施例
【0081】
参考例(比較例):複合材料(PA6 GF30)の直接加水分解解重合
加熱ジャケットを備えた容積がおよそ100リットルのパイロット反応器に、70重量%のPA6と30重量%のガラス繊維とを含む「PA6 GF30」と称される市販の複合材料の顆粒30kgを投入し、合計で21kgのPA6及び9kgのガラス繊維とした(PA6の相対粘度(RV):2.7、繊維径:11μm、繊維長:4.5mm、ガラス:E-Glass(DIN 1259))。
【0082】
前記複合材料を、カプロラクタムモノマーを得るために、大気圧及び250~300℃の範囲内の温度で操作する酸触媒の存在下での加水分解解重合に掛けた。
【0083】
解重合が継続するに従って、実際には投入材料の20~30%超えての解重合はできなかったが、前記反応器内部にガラス繊維が次第に蓄積していくことが観察され、それによって、残留する解重合混合物を底部バルブから排出することができなくなった。前記プラントを復旧させるためには、前記反応器を解体し、形成された固形物を機械的手段によって分解し、閉塞した部品の一部を交換する必要があった。
【0084】
この試験は、無機繊維強化材を含む複合材料を解重合することが不可能であることを示している。
【0085】
例1:PA6のエチレングリコールへの溶解性の試験
1000gのエチレングリコール(EG)と50gのPA6顆粒(PA6:EG比は1:20)とを、還流冷却器、温度制御温度計、及び加熱システムを備えた装置に投入した。前記PA6は、平均分子量19500のポリマー鎖に相当する相対粘度RV=2.7を有していた。混合物を、連続攪拌下でおよそ135℃まで徐々に加熱したところ、ポリマーの完全溶解が観察され、透明黄色の溶液が形成された。前記PA6溶液を150℃まで加熱し、析出物の形成をまったく観察することなく約1時間にわたってこの温度に保持した。その後、前記混合物を室温まで冷却したところ、粘稠な濾過できないペースト状の物質となった(固液相分離なし)。
【0086】
例2及び3:エチレングリコール(EG)中における、EGの沸点未満の温度でのPA6の最大可溶化の試験
エチレングリコールの沸点は、195℃である。大気圧で装置を操作するために、195℃未満でポリマーの完全溶解を実現することができる濃度を調べた。この目的のため、例1と同じプロセスに従い、表1に示す量のPA6及びEGを用いて溶解試験を行った。表1はまた、PA6の完全溶解が観察された温度(溶解温度)、及びPA6の前記完全溶解後に溶液が維持された(1時間)最高温度(最高温度)も示す。
【表2】
【0087】
例1~3で得られたデータに基づくと、溶媒の沸点(195℃)未満及び大気圧でのエチレングリコールへのPA6の溶解は、実質的に直線の傾向を示している。
【0088】
例2及び3のPA6溶液も、室温まで冷却した後、粘稠な濾過できないペースト状の物質を形成する。
【0089】
例4:高い溶媒/ポリマー比でのPA6 GF30複合材料の溶解
複合材料PA6 GF30に対する例1の溶解試験を、表2に示す条件下で繰り返した。
【表3】
【0090】
前記試験の終了時、黄色がかった溶液中の白色固体の懸濁液が得られた。前記懸濁液を170℃に維持したフィルターで濾過し、続いて以下に述べる操作を行った。
・前記フィルターに残った前記白色固体を、50gの熱エチレングリコール(温度150~170℃)で洗浄し、続いて少量のHOで洗浄して、綿毛のような固体が得られ、次いでこれを70℃で乾燥した。
・1035gの量の170℃での濾過で得られた透明溶液(濾液)を、前記固体の洗浄に用いた水50gと混合し(合計1085g)、攪拌下、90℃で4000gのHOに注ぎ入れ、凝固PA6が液相に懸濁した混合物を得た。
【0091】
OとEG中のPA6溶液との重量比は、4000:1085=3.7であり、HO:PA6の比は、4000:35=114であり、HO:EGの比は、4000:1050=3.8であった。
【0092】
前記凝固PA6を含む混合物を室温で濾過して、黄色がかった固体が得られ、次いでこれを少量の水で洗浄して表面に残ったグリコールを除去した。乾燥後、前記固体を表3の分析特定に供した。
【表4】
【0093】
前記ポリマー中のアミン基及びカルボキシル基の量は、電位差滴定によって特定した。
【0094】
表3のデータは、前記ガラス繊維から完全に分離した前記PA6ポリマーが、ポリマー鎖の部分的解重合を起こしたことを示している(RV値が2.7から1.8に低下)。部分的解重合は、その後のε-カプロラクタムモノマーの化学的回収を促進する。実際、RVが2.7の前記ポリマーの平均鎖長は、およそ19500/113=170単位に相当し、一方RVが1.8の前記凝固ポリマーの平均鎖長は、およそ9200/113=80に相当する(平均分子量とRV指数との関係は、Mw=11500(RV-1)であり、PA6の繰り返し単位の分子量は、113である)。
【0095】
例5及び6:低い溶媒/ポリマー比でのPA6 GF30の溶解
例4のプロセスを、EG及び凝固水は同じ量とし、処理される複合材料の量を増加させて繰り返した。
【0096】
試験で用いた混合物の組成及び溶解条件を、表4に示す。
【0097】
例5及び6は、PA6溶液を最高溶解温度に保持した時間(例5では2時間、例6では4時間)に関して異なっており、これは、この操作条件がPA6末端基のEGによるエステル化の程度に及ぼす可能性のある影響を検証するためであり、他の条件はすべて同じである。
【表5】
【0098】
前記試験の終了時、黄色がかった溶液中の白色固体の懸濁液が得られた。前記懸濁液を180℃に維持したフィルターで濾過し、続いて以下に述べる操作を行った。
・前記フィルターに残った前記白色固体を、50gの熱エチレングリコールで洗浄し、続いて少量のHOで洗浄して、綿毛のような固体が得られ、次いでこれを70℃で乾燥した。
・1175gの量の180℃での濾過で得られた透明溶液(濾液)を、前記固体の洗浄に用いた水50gと混合し(合計1225g)、攪拌下、90℃で4000gのHOに注ぎ入れ、凝固PA6が液相に懸濁した混合物を得た。
【0099】
OとEG中のPA6溶液との重量比は、4000:1225=3.3であり、HO:PA6の比は、4000:155=22.8であり、HO:EGの比は、4000:1050=3.8であった。
【0100】
前記凝固PA6を含む混合物を室温で濾過して、黄色がかった固体が得られ、次いでこれを少量の水で洗浄して、表面に残ったグリコールを完全に除去した。乾燥後、前記固体を、例5については表4.1の、例6については表4.2の分析特定に供した。
【表6】
【0101】
EG中のPA6 30GF複合材料の濃度が例4よりも著しく高い場合であっても、前記複合材料から前記PA6ポリマーを分離し、部分的に解重合された形態(RV=1.58)でPA6を回収することが可能である。前記ポリマーの平均鎖長は、RV=2.7である初期ポリマーの値19500/113=170単位から、RV=1.58である回収ポリマーのおよそ6670/113=60に変化する。
【表7】
【0102】
やはりEG中のPA6 30GF複合材料の濃度が例4よりも著しく高い例6においても、前記複合材料から前記PA6ポリマーを分離し、部分的に解重合された形態(RV=1.62)でPA6を回収することが可能である。最大溶解温度に対する時間を延長しても、末端基のエステル化は起こらない。この場合、前記ポリマーの平均鎖長は、RV=2.7である初期ポリマーの値19500/113=170単位の値から、RV=1.62である回収ポリマーのおよそ7130/113=63単位に変化する。
【0103】
例7:「PA6 GF20」(PA6に異なる20重量%のガラス繊維を充填)の溶解
複合材料「PA6 GF20」(80重量%のPA6、20重量%のガラス繊維)を用いて、例5及び6のプロセスを繰り返した。
【0104】
試験で用いた混合物の組成及び溶解条件を、表5に示す。
【表8】
【0105】
前記試験の終了時、黄色がかった溶液中の白色固体の懸濁液が得られた。前記懸濁液を濾過し、分離した凝固固体を、例5に記載したように洗浄した。乾燥後、前記固体を表6の分析特定に供した。
【0106】
この例は、前記ガラス繊維の濃度が異なっている場合であっても、前記複合材料から前記PA6ポリマーを分離し、部分的に解重合された形態(RV=1.61)で前記PA6を回収することが可能であることを示している。前記ポリマーの平均鎖長は、RV=2.7である初期ポリマーの値19500/113=170単位から、RV=1.61である回収ポリマーのおよそ7015/113=62単位に変化する。
【表9】
【0107】
例8:溶媒/ポリマー比を低減したPA6 GF30の溶解
複合材料「PA6 GF30」(30重量%のガラス繊維)を用いて、例5及び6のプロセスを繰り返した。
【0108】
試験で用いた混合物の組成及び溶解条件を、表7に示す。特に、この例では、用いたグリコールの量を、PA6 GF30複合材に対して減少させた。
【表10】
【0109】
溶解後、得られた溶液を、例5に記載の凝固、濾過、及び洗浄プロセスに供した。乾燥後、前記固体を表8の分析特定に供した。
【0110】
この例は、グリコールの量を減少させた場合であっても、前記複合材料から前記PA6ポリマーを分離し、部分的に解重合された形態(RV=1.95)でPA6を回収することが可能であることを示している。
【0111】
前記ポリマーの平均鎖長は、RV=2.7である初期ポリマーの値19500/113=170単位から、RV=1.95である回収ポリマーのおよそ10925/113=97単位に変化する。
【表11】
【0112】
例9:複合材料から分離したPA6の、ε-カプロラクタムへの解重合における適切性
前記複合材料から回収した前記PA6の、ε-カプロラクタムモノマーへの解重合における適切性を、NMR分光法によって調べた。本発明の目的のために、表9の条件が満たされる場合、PA6は、加水分解解重合に適するものと考えられる。
【表12】
【0113】
表9の要件のうちの1又は複数を満たしていないPA6を加水分解解重合に供給すると、触媒の活性又は得られるε-カプロラクタムの品質に影響を及ぼす場合がある(例:望ましくない副生成物の存在、腐食性無機酸の発生など)。
【0114】
分離、洗浄、及び乾燥の後、例4(RV=1.8)、例5(RV=1.58)、及び例6(RV=1.62)の凝固PA6顆粒を、1D及び2D NMR分光法(1H及び13C)によって分析した。この目的のために、例4からのPA6の51mg、例5からのPA6の54mg、及び例6からの52mgを、数分間加熱した後、各々600mLの重水素化トリフルオロエタノール(CFCDOD)に可溶化した。このようにして調製した3つのサンプルのNMRスペクトルから、表10に示すパラメータを特定した。
【表13】
【0115】
表10のデータから、前記複合材料から回収された前記PA6が加水分解解重合を受けるのに適していることが確認され、有用なPA6の含有量は、90%に設定された仕様の限度値を充分に上回っていることがわかる。
【0116】
例10:複合材料から分離したPA6の解重合
解重合試験の目的で、ガラス繊維から分離したPA6ポリマーを回収することを目標として、還流冷却器、温度制御用温度計、及びオイルバス加熱システムを備えた50リットルの反応器を用いて、例4に記載したプロセスを、PA6 30GF複合材料のサンプルに対して繰り返した。前記反応器中に、20kgのエチレングリコール(EG)及び5kgのPA6 30FV顆粒を充填し、合計25kgとした。
【0117】
混合物を、連続攪拌下で、およそ170~180℃まで徐々に加熱し、前記ポリマーの完全な溶解を確認したところで、この温度でおよそ2時間保持した。底部バルブから、常に保温された状態の懸濁液を、わずかな減圧下でパイロットフィルター(ヌッチェ型)上に直接浸透させ、次いで、80リットルの室温の脱塩水が凝固液として中に存在する、空気攪拌機を備えた120リットルの移動式反応器中に流入させた。前記PA6を、前記ガラス繊維が、PA6のグリコール溶液の薄い層で表面が濡れた状態で前記フィルターシステム内部に残されるように、前記反応器から排出した。
【0118】
不規則な黄色がかって見える顆粒の形態である凝固した固体を濾過し、フィルターを通して水で洗浄し、排出した後、わずかな減圧下で70℃のオーブンで乾燥させて、水分含有量を0.5重量%未満とした。
【0119】
例4、5、及び6の試験でも観察されたように、RVが1.6であるおよそ3.0kgのPA6が得られた。特に、前記乾燥PA6中に灰分が本質的に存在せず、したがって、残留ガラス繊維が存在していないことが確認された。
【0120】
上記で述べたガラス繊維分離の前処理を、乾燥PA6の回収量が12.34kgとなるまで、PA6 GF30の4つのアリコートで繰り返した。
【0121】
こうして回収したガラス繊維を含まないPA6ポリマーを、加熱ジャケット及び過熱水蒸気供給システムを備えた、参考例と同様の耐酸性合金製のパイロット反応器(およそ50リットルの容量)に投入した。
【0122】
前記材料を、カプロラクタムモノマーを得るために、大気圧及び250~300℃の範囲内の温度で操作する酸触媒の存在下での加水分解解重合に掛けた。
【0123】
前記PA6ポリマーを、ホッパー及び/又は計量オージェ充填システムを介して、その固体顆粒の形態で前記反応器に直接供給した。前記酸触媒及び300℃超に過熱された蒸気も、続いて反応器に供給した。前記反応器を出た前記蒸気を、水との直接接触による凝縮システムに供給し、蒸気のみを含む第1の画分と、粗ε-カプロラクタムの水溶液(濃度およそ50重量%)を含む第2の画分とに分離した。続いて、前記粗ε-カプロラクタム水溶液を、従来の精製プロセスに通して、商業的仕様(酸性度、アルカリ性度、揮発性塩基、APHA、光学濃度、及び過マンガン酸指数に関する)に沿った最終製品を得た。
【0124】
解重合中、比較例で述べたような閉塞現象は観察されず、前記解重合プロセスの速度は、例えばカーペットの分離から回収されたポリマーなどポリマーのRVが2.7で維持されたPA6廃棄物の解重合で見られたよりも高かった。
【0125】
以下の表11は、以下の組成:90重量%のPA6(RV=2.7)、10重量%の他の材料(主にポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、接着剤、及び添加剤)を有するポストコンシューマーカーペット廃棄物から成る参考材料と比較した、例10の凝固PA6に対して行った前記解重合のデータを示す。
【表14】
【0126】
ガラス繊維分離後に得られた前記凝固PA6は、カーペットからのポリアミドの分離によって回収された最良のPA6廃棄品(the best PA6 rejects)と同様であるが、同じ実験的試験条件下において、より高い最終溶液の収率及び濃度で、完全に解重合可能であることが証明された。
図1
【国際調査報告】