(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】分岐の領域における動脈瘤の治療のためのインプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/90 20130101AFI20241128BHJP
【FI】
A61F2/90
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527363
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2022083690
(87)【国際公開番号】W WO2023104590
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】102021132725.3
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508140512
【氏名又は名称】フェノックス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PHENOX GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】モンシュタット,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンネス,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケス,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】トレスケン,フォルカー
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267BB06
4C267BB16
4C267CC08
4C267FF05
4C267GG04
4C267GG05
4C267GG06
4C267GG08
(57)【要約】
本発明は、血管の血管分岐に局在する動脈瘤の領域における血流に影響を与えるためのインプラント(1)に関し、インプラント(1)は、血管内に埋め込まれている拡張状態と、血管またはカテーテルを通して移動可能である縮径された伸長状態とで存在し、インプラント(1)は、少なくとも拡張状態において管状である、少なくとも3つの部分(2,3)を有し、その壁は、編組ワイヤ(4)または相互連結ストラットから構成され、少なくとも2つの管状部分(3)は、第1の管状部分(2)から分岐し、少なくとも3つの管状部分(2,3)は、個々に構成され、それぞれ一端で互いに接続されて、拡張状態において、第1の管状部分(2)を通って第1の管状部分(2)から分岐する管状部分(3)への血流が確保される。本発明により提案されるインプラント(1)によって、インプラント(1)が半径方向に拡張して管状部分(2,3)が分岐する領域においてワイヤまたはストラット構造との干渉を引き起こすことなく、動脈瘤頸部の目標とする被覆を達成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の血管分岐に局在する動脈瘤の領域における血流に影響を与えるためのインプラントであって、
前記インプラント(1)は、血管内に埋め込まれている拡張状態と、血管またはカテーテルを通して移動可能である縮径された伸長状態とで存在し、
前記インプラント(1)は、少なくとも拡張状態において管状である、少なくとも3つの部分(2,3)を有し、その壁は、編組ワイヤ(4)または相互連結ストラットから構成され、少なくとも2つの管状部分(3)は、第1の管状部分(2)から分岐し、
前記少なくとも3つの管状部分(2,3)は、個々に構成され、それぞれ一端で互いに接続されて、拡張状態において、前記第1の管状部分(2)を通って前記第1の管状部分(2)から分岐する前記管状部分(3)への血流が確保される
ことを特徴とする、インプラント。
【請求項2】
前記少なくとも3つの管状部分(2,3)は、中央接続要素(5)において合流し、これによって前記少なくとも3つの管状部分(2,3)が互いに接続されていることを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記接続要素(5)は、互いに接続された複数のストラット(6)から構成されていることを特徴とする、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記接続要素(5)はY字型構造を有しており、該Y字型構造の各アーム(7)は、前記管状部分(2,3)のうちの1つに取り付けられることを特徴とする、請求項2または3に記載のインプラント。
【請求項5】
前記接続要素(5)の互いに接続されたストラット(6)は、前記インプラント(1)の縮径された伸長状態で同じ長さを有することを特徴とする、請求項2~4のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項6】
前記管状部分(2,3)は、ワイヤおよび/または糸によって前記接続要素(5)に取り付けられることを特徴とする、請求項2~5のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項7】
前記管状部分(2,3)は、融着/材料間接合によって前記接続要素(5)に取り付けられることを特徴とする、請求項2~5のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項8】
前記接続要素(5)は、レーザ切断構造であることを特徴とする、請求項2~7のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項9】
前記接続要素(5)は、該接続要素(5)を少なくとも部分的に覆う1つまたは複数の膜を備え、該膜は、前記接続要素(5)からの血液の出入りを完全にまたは部分的に防止することを特徴とする、請求項2~8のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項10】
前記少なくとも3つの管状部分(2,3)は、ワイヤ(8)および/または糸によって互いに接続されていることを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項11】
前記ワイヤ(8)および/または糸は、少なくとも部分的に放射線不透過性の特性を有することを特徴とする、請求項10に記載のインプラント。
【請求項12】
前記ワイヤ(8)は、前記管状部分(2,3)の一部を形成するか、またはそこから突出していることを特徴とする、請求項10または11に記載のインプラント。
【請求項13】
前記少なくとも3つの管状部分(2,3)は、融着/材料間接合によって互いに接続されることを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項14】
前記管状部分(2,3)を少なくとも部分的に覆う1つまたは複数の膜を特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項15】
前記第1の管状部分(2)から分岐する前記少なくとも2つの管状部分(3)は、拡張状態において、前記第1の管状部分(2)よりも小さい直径を有することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項16】
前記管状部分(2,3)の壁は、互いに編組されたワイヤ(4)から構成されており、前記管状部分(2,3)の少なくとも一部は、それぞれの管状部分(2,3)の少なくとも一端が自由ワイヤ端部を有しないように編組されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項17】
前記管状部分(2,3)の各々は、自由ワイヤ端部を有する端部と、自由ワイヤ端部のない端部とを有することを特徴とする、請求項16に記載のインプラント。
【請求項18】
前記自由ワイヤ端部のない端部を有する前記管状部分(2,3)は、中央接続要素(5)で合流するか、または中央で互いに接続されていることを特徴とする、請求項17に記載のインプラント。
【請求項19】
前記少なくとも3つの管状部分(2,3)は、まず個別に製造され、その後それぞれ一方の端部で互いに接合されることを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載のインプラント(1)を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管分岐部に位置する動脈瘤の領域における血流に影響を与えるためのインプラントに関する。このタイプの動脈瘤は、分岐動脈瘤とも称される。
【背景技術】
【0002】
動脈瘤は、通常、血管壁の嚢状または紡錘状の拡張部であり、血管壁に絶えず作用する血圧によって構造的に弱くなった血管壁領域で主に生じる。したがって、動脈瘤の血管内壁は、敏感であり、損傷を受けやすい。動脈瘤の破裂は、通常、重大な健康障害を引き起こし、脳動脈瘤の場合、神経障害および患者の死亡さえも引き起こす。
【0003】
例えば動脈瘤がクリップによって挟み込まれる外科的手術の他に、動脈瘤の処置のために特に血管内方法が知られており、主に2つのアプローチが追及される。一方では、動脈瘤を、閉塞手段、特にいわゆるコイル(プラチナスパイラル)を用いて、充填することができる。コイルは、血栓形成を促進し、したがって動脈瘤の閉塞を確実にする。他方では、ステント状のインプラントを用いて、血管側から、動脈瘤へのアクセス、例えば針状動脈瘤の頸部を遮断し、このようにして動脈瘤を血流から切り離すことが知られている。いずれの方法も、動脈瘤内への血流を減少させ、このようにして、動脈瘤に作用する圧力を減少させ、理想的には除去し、したがって、動脈瘤の破裂の危険性を低減するよう作用する。
【0004】
動脈瘤にコイルを充填する際、動脈瘤への充填が不十分であることが起こり得、これによって動脈瘤内への血液流入が許容され、その内壁に作用する圧力が維持され続ける。動脈瘤が連続的に拡張し、最終的に破裂する危険性は、弱められた形態であっても依然として存在する。さらに、この治療方法は、比較的狭い頸部を有する動脈瘤、いわゆる針状動脈瘤に主に適する-そうでなければ、コイルが広い動脈瘤の頸部から血管内に突出し、そこで血栓形成し、血管内に閉塞をもたらす危険性がある。最悪の場合、コイルは動脈瘤から完全に流れ出て、他の位置で血管を閉塞する。コイルを動脈瘤の嚢内の所定の位置に保持するために、動脈瘤の頸部はしばしば付加的に特別なステントで覆われる。
【0005】
別の血管内治療アプローチは、いわゆるフローダイバータに焦点を当てる。これらのインプラントは、狭窄部の治療に使用されるステントの外観に類似している。しかしながら、これらのフローダイバータの目的は、血管を開くのではなく、血管側における動脈瘤へのアクセスの遮断であるので、メッシュ幅は非常に狭い;あるいは、この種のインプラントは膜で覆われる。これらのインプラントの欠点は、治療すべき動脈瘤のすぐ近くにある出口の側枝も時に覆われ、それによって中長期的に閉塞され得るという危険性である。
【0006】
血管分岐、特に血管分岐部は、非常に頻繁に発生する現象である。血管壁が弱い場合、動脈を流れて分岐部の前壁に作用する血流は、すぐに突起や膨らみを生じ、これはさらに急速に拡張する。このような分岐部動脈瘤は、少なからず広い頸部を有し、これによって閉塞コイルのみを用いて治療を行うことが困難になる。
【0007】
血管分岐の領域において動脈瘤入口のこのような「格子化(latticing)」をもたらすのに適した血管インプラントは、例えば、特許文献1または特許文献2に開示されている。インプラントが所定の位置に配置された後に挿入される閉塞コイルによって、動脈瘤を非危険状態にすることができる。また、インプラント自体が動脈瘤を血流から十分に分断することも可能である。このために、例えば、インプラントは、動脈瘤頸部の領域内または動脈瘤頸部の前に配置される膜を有することができる。有用または好都合であると考えられる場合、動脈瘤への血流は、閉塞コイルまたは他の閉塞手段の動脈瘤への追加の導入を省くことができる程度まで、フィラメントのみ、典型的には小さな直径のワイヤまたは膜を用いて低減することができる。
【0008】
特許文献3は、分岐動脈瘤を治療するためのフローダイバータシステムおよびそれに関連する挿入システムを記載している。拡張状態では、フローダイバータまたは分岐ステントは、フローダイバータのアームを形成する3つの管状部分を有し、そのうち2つの部分は、血液を供給する親血管に配置される第1の部分から分岐する分岐血管に配置されることが意図される。このようにしてY字型構造が生じる。
【0009】
しかしながら、特に、編組ワイヤから構成された3つのアームを有するフローダイバータの場合、編組を形成するワイヤが、アームが互いに接続される領域において異なる長さを有することが問題であることが判明した。このようなインプラントをカテーテルに挿入するために圧縮された伸長状態にすると、編組構造は特に3つのアームの接続領域において破壊される。したがって、再拡張後、特に動脈瘤が覆われ、血流から隔離すべき領域では、均一な表面被覆は得られない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2012/113554号
【特許文献2】国際公開第2014/029835号
【特許文献3】国際公開第2018/134097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、前述された従来技術に基づいて、本発明の目的は、分岐動脈の治療に使用することができるインプラントを提供することであり、インプラントは、カテーテルを通して挿入するために圧縮され伸長された形状に容易にすることができ、これによって、標的位置での拡張後に、特に動脈瘤頸部の領域において均一な表面被覆を達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によって提案されるように、この目的は、血管の血管分岐に局在する動脈瘤の領域における血流に影響を与えるためのインプラントによって達成され、インプラントは、血管内に埋め込まれている拡張状態と、血管またはカテーテルを通して移動可能である直径が縮小された伸長状態とで存在し、インプラントは、少なくとも拡張状態において管状である、少なくとも3つの部分を有し、その壁は、編組ワイヤまたは相互連結ストラットから構成され、少なくとも2つの管状部分は、第1の管状部分から分岐し、少なくとも3つの管状部分は、個々に構成され、それぞれ一端で互いに接続されて、拡張状態において、第1の管状部分を通って第1の管状部分から分岐する管状部分への血流が確保される。
【0013】
本発明は、インプラントのアームとして機能する管状部分が、最初は別々に製造され、次いで各アームの端部で互いに接続され、その結果、第1の管状部分から少なくとも2つのさらなる管状部分が分岐するインプラントが得られると、インプラントの特性が全体として改善され得るという知見に基づいている。ほとんどの場合、インプラントは、合計3つの管状部分から構成され、各々がインプラントのアームを形成する。最初に3つの管状部分を個別に形成することによって、これらの管状部分が互いに隣接する領域において編組構造を破壊することなく、これらが容易に、縮径された伸長状態および拡張状態に移行可能であることが確保される。したがって、管状部分間の接続は、後になって初めて形成され、これによって、インプラントの拡張または圧縮によって接続領域における構造が悪影響を受けないように接続が設計される。これは、純粋に管状の部分は問題なく拡張および圧縮を受けることができる一方、部分が互いに分岐する領域は、これによって悪影響を受けず、代わりに、それぞれの用途に望まれるように、ワイヤまたはストラットは、目標とする理想的には予め定義可能な適切な表面被覆を達成することができる。これに関して、分岐の領域は、通常は動脈瘤頸部が存在する位置であるため、特に重要である。分岐インプラントは、通常、第1の管状部分が親血管内に配置され、そこから分岐する管状部分が分岐血管内に配置され、動脈瘤は通常、2つの分岐血管の間に形成され、その結果、動脈瘤の前方に位置するインプラントの領域は、ちょうど第1の管状部分から2つの管状部分が分岐する位置である。
【0014】
この文脈では、「分岐」とは、1つの管状部分から別の管状部分への任意の移行を示すと理解される。分岐は、直接的または間接的であってもよい、すなわち、管状部分が別の管状部分に直接隣接してもよい、または、中間部分、特に以下で説明する中央接続要素が2つの管状部分の間に配置されてもよい。分岐位置に関して重要なことは、管状部分の間に中間部分が依然として位置していても、最終的に第1の管状部分からさらなる管状部分への移行が存在するということだけである。拡張状態では、第1の管状部分を通って分岐管状部分へ血流が維持されることが確保されなければならない。
【0015】
本発明により提案されるインプラントは、ワイヤまたはストラットの少なくとも一部が動脈瘤頸部の前に位置するという事実により、管状部分の間の分岐位置に位置する分岐動脈を血流から大部分はまたは完全に分断するのに適している。第1の管状部分が配置される親血管および他の2つの管状部分が配置される分岐血管を通る血流は、実質的に影響を受けないままであることに留意されたい。その結果、動脈瘤内で血液の移動がないために、動脈瘤は萎縮し、血栓が形成されて動脈瘤が閉塞される。
【0016】
本発明の有利な実施形態によれば、少なくとも3つの管状区分は、中央接続要素において合流し、これによって管状区分が互いに接続されている。既に述べたように、通常は合計で3つの管状部分、すなわち、親血管に配置された第1の管状部分および分岐血管用の2つの追加の管状部分がある。しかしながら、個々の管状部分は、互いに直接連結されるのではなく、典型的には管状部分自体のものとは異なる構造を有する中央接続要素を介して間接的に接続される。特に、接続要素はレーザ切断構造であってもよいが、管状部分は織り合わされたワイヤの編組構造からなるように設計されてもよい。しかしながら、管状部分もレーザ切断され、それに対応して互いに接続されたストラットから構成されていてよい。典型的には動脈瘤頸部の直前に配置される中央接続要素の特性は、管状部分の特性に直接干渉することなく、必要に応じて調整することができる。
【0017】
接続要素は、互いに接続された複数のストラットから構成することができる。典型的には、このような構造はレーザ切断を用いて製造される。接続要素は、便宜的にY字型構造を有していてよく、Y字型構造の各アームは管状部分のうちの1つに接続される。したがって、接続要素は3つのアームを有しており、これらのアームの各々は管状部分に合流する。したがって、接続要素の構造は、インプラント全体の構造に適合され、原則として同様にY字型構造を形成する。
【0018】
便宜上、接続要素の相互連結されたストラットが、インプラントの直径が減少され、伸長された状態で同じ長さを有する。これによって、拡張/圧縮中に、動脈瘤頸部を効果的に覆うのに重要なインプラントの領域の望ましくない変形が起こらないことが確保される。
【0019】
それぞれの管状部分と接続要素との間の接続は、様々な方法で行うことができる。1つの可能性は、管状部分をワイヤまたは糸によって接続要素に固定または取り付けることであり、典型的にはY字型構造の各アーム上に1つの部分である。別の選択肢は、管状部分と接続要素またはY字型構造の1つのアームとの間に、融着または材料間接合を形成することである。融着接合は、特に溶接を含むが、接着またははんだ付けなどの他の一体結合方法も原理的に考えられる。
【0020】
接続要素がレーザ切断構造を有すると有利であると考えられる。フローダイバータまたはステントなどのインプラントでは、通常、個々のワイヤからなる編組構造とレーザ切断構造とが区別される。しかしながら、材料を徐々に加えることによって構造が構築される付加的方法などの、インプラントを製造する他の製造も基本的に考えられる。このような付加的方法は、特に3Dプリントである。
【0021】
接続要素は、接続要素を少なくとも部分的に覆う1つまたは複数の膜を備えることができ、この膜は、接続要素からの血液の出入りを完全にまたは部分的に防止するように配置される。このようにして、動脈瘤頸部の特に効果的な被覆が得られるので、動脈瘤は血流から大部分または完全に分断され、動脈瘤が破裂する危険性がなくなり、動脈瘤が萎縮する。
【0022】
膜による被覆とは、あらゆる種類の被覆を意味すると理解される、すなわち、膜は、接続要素の外側に適用されてもよく、接続要素の内側に取り付けられてもよく、または接続要素のストラットまたはワイヤが膜内に埋め込まれてもよい。
【0023】
中央接続要素を使用する代わりに、少なくとも3つの管状部分をワイヤおよび/または糸によって互いに直接接続することも可能である。別の選択肢は、融着/材料間接合によって少なくとも3つの管状部分を互いに取り付けることであり、特に融着は溶接を意味する。さらに、上述したはんだ付けまたは接着のような他の材料間結合方法も原理的に考えられる。
【0024】
本発明のこの実施形態では、したがって、中央接続要素は省略され、管状部分は、インプラントのアームとして互いに直接当接し、互いに接続される。それにもかかわらず、個々の管状部分を別々に構成することによって、個々の管状部分間の移行領域の構造に悪影響を与えることなく、管状部分の拡張および圧縮を行うことが確保される。
【0025】
管状部分を互いに接合するためまたは管状部分を接続要素に接合するために、ワイヤおよび/または糸が使用される場合、主治医による可視化を可能にするために、少なくとも部分的に放射線不透過性にすることができる。特に、白金、白金-イリジウムまたは同様の放射線不透過性金属および合金などの放射線不透過性材料からなるワイヤを使用することができる。
【0026】
管状部分を互いに接続するワイヤは、管状部分に加えて適用される別個のワイヤであってもよい。別の選択肢は、管状部分自体の一部であるか、または管状部分から突出しているワイヤを用いて接続を形成することである。これらのワイヤを一緒に連結または編組して、管状部分の間に接続を確立する。
【0027】
管状部分もまた、少なくとも部分的に前記部分を覆う1つまたは複数の膜を有することができる。このようにして、管状部分の壁を通る血流は、部分的にまたは完全に遮断される。これは、特に膜が管状部分間の分岐点の近くに配置される場合に、動脈瘤を血流から分断することをさらに助けることができる。したがって、分岐点の近くに位置する管状部分の領域には膜を設けるのに対して、分岐点から離れて位置する領域には設けないことが可能である。
【0028】
膜に関しては、接続要素の膜に関して上述したことが当てはまる、すなわち、膜を用いた被覆とは、任意の種類の被覆を意味すると理解される。膜は、管状部分の外側に適用されるか、または管状部分の内側に配置されるか、または管状部分のワイヤまたはストラットが膜に埋め込まれる。
【0029】
接続要素の領域および管状部分の両方において、より大きな領域にわたって延びる膜をしてもよく、または異なる領域を覆う複数の膜を提供してもよい。1つの選択肢は、放射線不透過性物質を膜に導入することである。これらは、放射線技術目的のために造影剤として通常使用されるような放射線不透過性粒子であってよい。このような放射線不透過性物質は、例えば、硫酸バリウムのような重金属塩またはヨウ素化合物である。放射線不透過性膜は、インプラントの配置中および局在化のために有益であることが証明され、マーカー要素に加えてまたはマーカー要素の代わりに使用することができる。
【0030】
膜は、抗血栓性効果または内皮形成を促進する効果を有するように設計することもできる。このような効果は、血管を通る血流が損なわれず、さらに血管系内でのインプラントの良好な固定が達成されるべきであるため、インプラントが正常な血管壁に隣接する場合に特に望ましい。膜は、材料の適切な選択によってそれ自体で所望の特性を有することができるが、所望の効果を生じるコーティングを備えることもできる。
【0031】
本発明の意味において、膜は、構造が液体に対して透過性であるか、不透過性であるか、または部分的に透過性であるかにかかわらず、平らな表面を有する薄い構造体である。しかしながら、動脈瘤の治療の目的を達成するために、膜は、血液などの液体に対して完全にまたは少なくとも実質的に不透過性であることが好ましい。さらに、膜は、特に動脈瘤頸部の領域において、閉塞剤を動脈瘤に導入することができる孔を備えていてもよい。別の選択肢は、閉塞剤を導入するためのマイクロカテーテルによって、または閉塞剤自体によって、貫通することができるように膜を設計することである。
【0032】
膜は、ポリマー繊維またはポリマーフィルムから作製されていてよい。好ましくは、膜は、エレクトロスピニングによって製造される。このプロセスでは、ワイヤ/ストラットは通常、膜内に埋め込まれる。これは、繊維でワイヤ/ストラットを織るまたは編むことによって達成することができる。
【0033】
エレクトロスピニングでは、ポリマー溶液からのフィブリルまたは繊維が、電流を用いて基板上に堆積される。この堆積により、フィブリルは凝集して不織布となる。通常、フィブリルは100~3000nmの範囲の直径を有する。エレクトロスピニングによって作成される膜は、非常に均一なテクスチャを有する。膜は、頑強であり、機械的応力に耐え、機械的に貫通しても開口部から亀裂が伝播することがない。フィブリルの厚さおよび空隙の程度は、プロセスパラメータを適切に選択することによって制御することができる。膜の製造の文脈においておよびこの目的に適した材料に関連して、国際公開第2008/049386号、独国特許出願公開第2806030号明細書、およびそこで言及される文献に特別な注意が向けられる。
【0034】
エレクトロスピニングの代わりに、膜を浸漬または噴霧プロセス、例えばスプレーコーティングによって製造することもできる。膜に使用される材料に関して、血管系にインプラントが挿入される際に生じる機械的応力によって損傷しないことが重要である。このために、膜は十分な弾性を有するべきである。
【0035】
膜は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィンまたはポリスルホンなどのポリマー材料から作製することができる。ポリカーボネートウレタン(PCU)が特に好ましい。特に、膜とワイヤ/ストラットとの間の一体的な接続が望ましい。このような一体的な接続は、膜とワイヤ/ストラットとの間に設けられた共有結合によって達成することができる。共有結合の形成は、ワイヤ/ストラットのシラン化によって、すなわちワイヤ/ストラットの表面の少なくとも一部にケイ素化合物、特にシラン化合物を化学的に結合することによって促進される。表面上で、ケイ素およびシラン化合物は、例えばヒドロキシおよびカルボキシ基に結合する。基本的に、シラン化の他に、ワイヤ/ストラットと膜との間の接着を媒介する他の方法も考えられる。
【0036】
この文脈においてシラン化合物とは、一般式RmSiXn(m、n=0~4)に従う全ての化合物であるとみなされ、式中、Rは有機ラジカル、特にアルキル、アルケニルまたはアリール基を表し、Xは加水分解性基、特にOR、OHまたはハロゲンを表し、R=アルキル、アルケニルまたはアリールである。特に、シランは一般式RSiX3を有することができる。さらに、複数のケイ素原子を有する関連化合物もシラン化合物に属するものとみなす。特に、有機ケイ素化合物の形態のシラン誘導体は、この文脈においてシラン化合物と解釈される。
【0037】
既に上述したように、内皮形成を促進する付加的な物質を、膜または膜またはワイヤ/ストラットの中に埋め込むかまたはその上に堆積してもよい。動脈瘤は血管壁の変性疾患により生じるので、内皮形成の促進および内皮機能不全の矯正は、有益な効果をもたらし得る。これは特に、動脈瘤がそれぞれの血管(親血管)内の血流と接触する領域に当てはまる。好ましくは、内皮形成を促進する物質は、膜の外側に適用され、外側とは、埋め込まれた状態で血管壁に面する膜の側を意味し、内側とは、血管壁とは反対側の膜の側を意味すると理解される。ヒアルロン酸、スタチン(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A還元酵素阻害薬)および他のポリマーは、内皮細胞のコロニー形成を促進することができる。多糖類、特にグリコカリックスを模倣することができるグリコサミノグリカンが、特に好適なポリマーである。別の使用可能な材料は、POSS-PCU(多面体オリゴマーシルセスキオキサンポリ(カルボネート-尿素)ウレタン)である。これは、ナノコンポジットであり、特に人工臓器のための骨格としておよび医療機器のためのコーティングとして記載されている(Tan et al.,Crit Rev. Biomed Eng.2013;41(6):495-513)。POSS-PCL(多面体オリゴマーシルセスキオキサンポリ(カプロラクトン-尿素)ウレタン)の使用も可能である。POSS-PCUおよびPOSS-PCLのいずれにも当てはまるが、特にこれらのナノコンポジットの官能化誘導体を使用することもできる。これは特に、ポリアクリル酸(ポリ-AA)との結合によって得られる誘導体に当てはまる。POSS-PCUおよび/またはPOSS-PCLナノコンポジットポリマーは、インプラントの表面への直接的な固定化にあまり適していないので、ポリアクリル酸(ポリ-AA)などのポリマーをナノコンポジットと組み合わせることが有利であることが判明した。これは、例えばアクリル酸のプラズマ重合によって達成することができる。このようにして得られたポリ-AA-g-POSS-PCU表面は、コラーゲン(特にI型コラーゲン)の結合、ひいては内皮形成を促進する(Solouk et al.,Mater Sci Eng C Mater Biol Appl.2015;46:400-408を参照)。概して、生体機能性または生物活性コーティングが膜上に存在していてもよい。
【0038】
第1の管状部分から分岐する少なくとも2つの管状部分は、拡張状態において、第1の管状部分よりも直径が小さくてもよい。これは一方では、分岐する血管がしばしば親血管よりも小さい内径を示すという事実に起因する。他方では、分岐する管状部分の直径が小さいことによって、第1の管状部分との応力のない接続が確保される。
【0039】
管状部分の壁は、織り合わされたワイヤから形成されていてよい。これに関連して、管状部分の少なくとも一部を、それぞれの管状部分の少なくとも一端に自由ワイヤ端部が存在しないように編組することも考えられる。したがって、この端部における管状部分は、壁の周囲に対して閉じられた状態で編組される。これは、織り合わされたワイヤがここでは自由に終端せず、反対方向に編組の中に戻されることを意味する。
【0040】
管状部分は、例えば、各管状部分が自由ワイヤ端部を有する端部と自由ワイヤ端部のない端部とを有するように設計することができる。言い換えると、各管状部分は、一端が開いた状態で編組され、他端が閉じた状態で編組され、この場合の開いた状態および閉じた状態は、管状部分の管腔ではなく周囲を指す。管状部分はこの場合、好ましくは、自由ワイヤ端部を有さない(すなわち、閉じた状態で編組される)端部を中心に集束する。そこで、中央接続要素に接続されてもよく、または、他の管状部分に直接接続されてもよい。これに関連して、管状部分を構成するワイヤは、接続要素または残りの管状部分との接続を形成するために、特にワイヤを接続要素のストラットまたは他の管状部分のワイヤと織り交ぜることによって、直接使用することができる。
【0041】
編組された管状部分に関して、編組は、基本的には、任意の既知の方法で編組することができる。これは、一重および/または多重構造を有してもよい。特に密な編組構成で使用する場合、密な編組は個々のワイヤに大きい応力をもたらす。しかしながら、多重設計は編組から張力を除去するのに有効であるが、他方で編組構成が密でありすぎると、編組における結合の劣化につながる。編組方法は、所与のワイヤが、面を変える前に交差するワイヤの同じ側でそのようなワイヤを通過し、その後に対応する数の交差するワイヤを反対側で通過する回数を示す。例えば、二重配置の場合、ワイヤは、2つの項さするワイヤの上を連続して通過し、次いで、2つの交差するワイヤの下側に沿って連続して通過する。一重構造では、ワイヤは交互に上下に重なって配置される。
【0042】
特に、マルチプライワイヤを使用することもできる。プライ方法は、接合された平行に配置された個々のワイヤの数を示す。単一または多重プライは、平行に延びる1つまたは複数の個々のワイヤを備えてもよい。編組製造プロセス中にワイヤはボビンからプロセスに導入されるので、1つまたは複数の個々のワイヤは、それぞれのボビンから同時に、編組が製造されるマンドレルに供給される。各ワイヤは、単一のワイヤから、または、接合され、好ましくは一緒に撚り合わされた複数の個々のワイヤを含むストランドから構成されてもよい。
【0043】
2以上のプライ構成のプライは、編組の表面密度をより高くし、同時に、編組が圧縮されたときに長手方向の拡張を低減する。しかしながら、そのようなより高い表面密度は、摩擦および張力の増加によっても可撓性を低減する。これは、より高度に編組された配置を使用することによって対抗することができる、すなわち、二重またはより高次の編組構造はより高い可撓性をもたらす。
【0044】
管状部分を形成するワイヤの総数は、24~96であることが好ましく、これによって、血管の内壁に良好に適合する密なメッシュ構造が作成される。これとは別に、多数のワイヤによって、動脈瘤の領域における良好な表面被覆および編組密度が確保される。
【0045】
様々な形状のフィラメントを、ワイヤまたはストラットとして使用することができる。これらは、円形、楕円形さらには角形の断面、特に長方形、正方形または台形の断面を有することができ、角形の断面の場合、エッジは丸くすることができる。平坦なワイヤまたは細いストリップの形態のストラットの使用も可能である。個々のワイヤは、互いに撚り合わされたまたは平行に延びる複数の個々のフィラメントから作製することもできる。ワイヤまたはストラットは中実であってもよいし、内部が中空であってもよい。さらに、ワイヤ/ストラットは、電気研磨に供して、より滑らかで丸みを帯び、したがってより外傷性を低くすることができる。これにより、細菌または他の不純物が付着する危険性が減少する。
【0046】
好ましくは、ワイヤまたはストラットは金属から作製されるが、基本的には、他の材料、例えばプラスチックまたはポリマー材料から作製されるワイヤの使用も考えられる。このようなフィラメントは、本発明によるワイヤまたはストラットとしても理解される。
【0047】
インプラントが、例えばカテーテルからまたはカテーテルの外に解放または放出されたときに、自動的に拡張し、血管の内壁に適合することを確保するために、インプラントを少なくとも部分的に形状記憶特性を有する材料から作製することが好ましい。これに関連して、ニッケル-チタン合金、例えばニチノール、または三元系ニッケル-チタン-クロム合金またはニッケル-チタン-銅合金が特に好ましい。しかしながら、他の形状記憶材料、例えば他の合金または形状記憶ポリマーも考えられる。形状記憶特性を有する材料によって、インプラントに、拡張が妨げられなくなるとすぐに自動的に採用しようとする二次構造を付与することが可能になる。コバルト-クロム-またはコバルト-クロム-ニッケル合金の使用も可能である。
【0048】
いわゆるDFT(登録商標)(drawn filled tubing)ワイヤまたはストラット、すなわち、ワイヤ/ストラットのコアがコアを囲むシースとは異なる材料から作製されるワイヤ/ストラットを使用することも可能である。特に、放射線不透過性材料からなるコアおよび形状記憶特性を有する材料のシースを有するワイヤ/ストラットを使用することが便宜である。放射線不透過性材料は、例えば、白金、白金-イリジウム合金、またはタンタルでもよく、形状記憶特性を有する材料は前述のように好ましくはニッケル-チタン合金である。この種のDFTフィラメントは、例えばFort Wayne Metalsから提供されている。
【0049】
それぞれのワイヤまたはストラットは、2つの材料の有利な特性を兼ね備える。形状記憶特性を有するシースは、インプラントが拡張して血管壁に適合することを確保する一方で、放射線不透過性材料は、インプラントが放射線写真において可視であり、したがって主治医によって観察され、必要に応じて位置決めできることを確保する。
【0050】
ワイヤまたはストラットの遠位端および近位端は、血管壁の損傷を防止するように構成されることが好ましい。例えば、ワイヤ/ストラットは、その端部において丸みを帯びており、したがって非外傷性であってよい。適切な成形は、レーザを用いた再溶融によって行うことができる。1つまたは複数のワイヤ/ストラットを各端部で接合し、したがって適切に成形された非外傷性の終端を作成することも可能である。特に、鋭いワイヤ端部を回避することが推奨され便宜である。
【0051】
レーザ切断された管状部分、または、より一般的には、互いに接続されたストラットから構成される管状部分の場合、オープンセル構造およびクローズドセル構造のいずれも使用することができる。クローズドセル構造は、通常はより容易に再配置することができ、または、介入中にインプラントを完全に交換することを可能にする。他方、オープンセル構造は、血管解剖学的構造の経路により良好に適合する。
【0052】
動脈瘤頸部の領域における表面被覆をさらに高めるために、インプラントは、製造中に成形プロセスを受けて、遠位方向において分岐位置におけるワイヤまたはストラットの数を増やすことができる。これは、特に、管状部分の間に接続要素が配置されない実施形態において重要である。遠位方向を向く分岐位置は、典型的には、動脈瘤頸部に対応し、したがって、この位置におけるワイヤ/ストラットの数の増加によって、動脈瘤頸部がより大きく被覆され、したがって血液供給からより効果的に分断されることができる。適切な成形プロセスは、機械的性質のものであってもよいが、特に少なくとも、インプラントが拡張状態において、遠位方向に分岐点において多数のワイヤまたはストラットを含むことを確保する熱処理である。そのような熱処理は、特に、形状記憶材料からなるワイヤまたはストラットについて便宜である、なぜならば、熱処理によってワイヤに、したがってインプラント全体にも、血管系内での放出時にインプラントが採用しようとする構造を付与することができるからである。
【0053】
インプラントの拡張状態において、遠位方向の分岐部位における有利な被覆率は、25~75%、好ましくは35~65%である。
【0054】
文脈から別段の指示がない限り、本発明の意味における拡張状態なる用語は、インプラントが外部の制約を受けていない場合に担う状態を示すものと理解される。インプラントが配置される血管の直径に応じて、血管系内の拡張状態は、インプラントが完全な拡張状態をとることができない場合があるので、外部の制約がない場合に存在する拡張状態とは異なるかもしれない。完全に拡張した状態では、管状部分は、有利には、1.5mm~7mmの外径を有し、前記直径は、血管系内のそれぞれの標的部位に適合させることができる。多くの場合、親血管の直径が分岐血管の直径よりも大きいという事実により、第1の近位に位置する管状部分は、より遠位に位置する管状部分よりも大きい外径を有する。拡張状態におけるインプラントの全長は、通常は5mm~100mmであり、特に、2つの遠位に位置する管状部分が平行な構成を有し、近位の管状部分と同じ方向に延びるようにインプラントが配置される場合、10~50mmである。インプラントを形成するワイヤまたはストラットは、例えば、20~60μmの直径または厚さを有することができる。
【0055】
他方、インプラントは、収縮状態または圧縮状態とも呼ばれる、縮径された伸長状態で存在してもよく、本発明の文脈において、この用語は、インプラントのそれぞれの管状部分が、拡張状態よりも直径が縮小した状態で著しく小さい半径方向の広がりを有するという意味で、同義的に使用される。伸長、収縮/圧縮状態は、例えば、インプラントがカテーテルによって標的部位に運ばれるときに想定される。インプラントを、カテーテル、管または同様のアイテムの外側に取り付けることもでき、この場合も、インプラントは、拡張状態と比較して、半径方向により拡大されない状態に保持される。
【0056】
インプラントの配置プロセスに関して、「近位」および「遠位」なる用語は、主治医の方を向くインプラントの部分(近位)、または、場合により、主治医から離れる方を向く部分(遠位)を称するものと理解されたい。典型的には、インプラントは、カテーテルによって、またはカテーテルを用いて、遠位方向に前進される。「軸方向」なる用語は、近位から遠位へ延びるインプラントの長手方向軸を指し、「半径方向」なる用語は、これに対して垂直な方向を指す。
【0057】
動脈瘤の閉塞をさらに改善するために、インプラントによって血流から動脈瘤を分断することに加えて、閉塞剤、例えば、当該技術において知られているようなコイルを動脈動脈に導入してもよい。粘性の塞栓剤を導入することも可能である。
【0058】
本発明により提案されるインプラントは、通常、配置部位での可視化および位置決め精度を促進する放射線不透過性マーカー要素を備える。例えば、このようなマーカー要素は、インプラントに固定されるワイヤコイル、スリーブおよびスロット付き管部分の形態で提供されてもよい。前記マーカー要素としては、特に白金および白金合金材料、例えば、マーキング目的のためにおよび閉塞コイルのための材料として先行技術に従ってしばしば使用されるので、白金およびイリジウムの合金が好適である。他の使用可能な放射線不透過性材料は、タンタル、金およびタングステンである。別の選択肢は、前述のように、放射線不透過性材料でワイヤまたはストラットを充填することである。インプラント、特にワイヤまたはストラットに、放射線不透過性材料からなるコーティングを提供する、例えば金コーティングを適用することも可能である。これは、例えば1~6μmの厚さを有することができる。放射線不透過性材料のコーティングは、インプラント全体に適用される必要はない。それにもかかわらず、放射線不透過性コーティングを適用する場合であっても、インプラント上に、特にインプラントの遠位端に、1つまたは複数の放射線不透過性マーカーを配置することが有用であると考えられる。
【0059】
本発明により提供されるインプラントは、特に頭蓋内分岐動脈瘤の治療に適しているが、他のタイプの動脈瘤、例えば大動脈瘤または末梢動脈瘤に使用することも考えられ、この場合、インプラントの寸法は適切に適合される。インプラントを分岐動脈瘤の前に配置することに関して、国際公開第2018/134097号に記載されているような挿入システムを使用することができる。
【0060】
本発明はまた、上述のようなインプラントの製造方法に関する。この目的のために、少なくとも3つ(たいていの場合は正確に3つ)の管状部分が最初に個々に製造される。各管状部分は、互いに接続されたストラットまたは織り合わされたワイヤから作製されている。管状部分は、それぞれ、一端で互いに接続され、液体が第1の管状部分から、この第1の管状部分から分岐する管状部分に流入する。意図された用途に使用される場合、言及される液体は血液である。管状部分の接続は、直接的または間接的でもよく、間接的な接続の場合には、中央の接続要素が管状部分の間に配置される。直接的な接続の場合、接続は、例えば、融着を提供することにより、好ましくは溶接により、またはワイヤまたは糸を用いて、行うことができる。
【0061】
インプラントおよびインプラントの製造方法に加えて、本発明は、動静脈奇形、特に(分岐)動脈瘤を治療するためのインプラントの使用、ならびに、インプラントを挿入システムとおよび場合によってはマイクロカテーテルと組み合わせることにも関する。インプラント自体に関してなされた全ての説明は、インプラントの使用、インプラントの製造方法およびインプラントの適用方法、ならびにインプラントと挿入システムとの組合せにも、同様の態様で当てはまる。
【0062】
本発明を添付の図面によって例示的に説明する。図は、本発明の好ましい実施形態のバリエーションを示すが、本発明自体はこれに限定されないことに留意されたい。技術的に便宜である限り、本発明は、特に、特許請求の範囲または明細書において本発明に関連するものとして記載されている技術的特徴の任意の組合せを包含する。
【0063】
以下の図面によって、本発明が明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1は、第1の実施形態によるインプラント1を示す。ここに示した実施形態では、3つの管状部分2,3が、それぞれ一方の端部で中央接続要素5に接続されており、中央接続要素5自体は、管状部分2,3と接続するために設けられた3つのアーム7を備えたY字形構造の形態で存在する。第1の管状部分2は親血管に配置され、他の遠位管状部分3は分岐血管に配置される。管状部分2,3は、織り合わされたワイヤ4から形成され、中央接続要素5は、個々のストラット6を備えるレーザ切断構造である。管状部分2,3の各々は、一方の端部で中央接続要素5に溶接されている。
【0066】
図2は、第1の実施形態の変形例を示しており、近位管状部分2は、中央接続要素5によって2つの遠位管状部分3に接続されている。ここで、管状部分2,3はまた、互いに編組された個々のワイヤ4から構成され、中央接続要素5は、レーザ切断されたストラット6から構成されている。中央接続要素5は、それぞれが管状部分2,3に接続された3つのアーム7を備えたY字型構造を有している。しかしながら、
図1に示した変形例と比較して、Y字型構造のアーム7は、管状部分2,3との重なりが大きい。この場合も、接続は、ワイヤ4をレーザ切断された接続要素5に溶接することによって行われる。
【0067】
図3は、中央接続要素5の様々な図を示す。
図1および
図2と同様に、
図3aは側面から見た図である;
図3bにおいて、中央接続要素5が90°回転する。
図3cは上方から見た図であり、
図3dは側面から見た図である。ここでも、ストラット6からなる構造が観察され、接続要素5は合計3つの個々のアーム7を形成している。
【0068】
図4は、本発明の第2の実施形態を示し、インプラント1は、親血管に配置するための第1の管状部分2と、分岐血管に配置するための2つのより遠位の管状部分3とを備える。この場合も、管状部分2,3は、個々のワイヤ4からなる編組構造である;しかしながら、第1実施形態とは対照的に、中央接続要素5は設けられず、代わりに、3つの管状部分2,3は、管状部分2,3の端部メッシュに通されたワイヤ8によって互いに接続される。
【0069】
本発明の第3の実施形態が
図5に示されており、基本的に、第2の実施形態に類似しているが、この実施形態では追加のワイヤ8は設けられておらず、代わりに、管状部分2,3を接続するためのワイヤ8は、管状部分2,3自体のワイヤである。この場合、個々の管状部分2,3は、したがって、端部において互いに絡み合っている。さらに、より遠位に位置する管状部分3は、近位に配置された管状部分2よりも小さい直径を有することが分かるが、これは、親血管の内径が通常は分岐血管のものよりも大きいという事実に起因する。
【国際調査報告】