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特表2024-544908ポリウレタン製品から原料を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ポリウレタン製品から原料を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/28 20060101AFI20241128BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20241128BHJP
   C08J 11/26 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C08J11/28 ZAB
C08J11/16
C08J11/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527443
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 EP2022081487
(87)【国際公開番号】W WO2023083968
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】21208004.8
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヒンツマン ディルク
(72)【発明者】
【氏名】シファー ヴェレナ
(72)【発明者】
【氏名】シュルフ セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ カザール マリア
(72)【発明者】
【氏名】リュートケ ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲン トルステン
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA26
4F401AD06
4F401BA06
4F401CA14
4F401CA67
4F401CA74
4F401CA75
4F401EA20
4F401EA32
4F401EA34
4F401EA54
4F401EA55
4F401EA59
4F401EA65
4F401EA67
4F401FA01Z
4F401FA02Z
4F401FA07Z
(57)【要約】
本発明は、ポリウレタン製品から原料を回収する方法に関し、該方法は、化学分解プロセスを有する。化学分解プロセスは、ポリウレタン製品を、(i)(a)第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有するアミノアルコール、又は(c)(a)と(b)との混合物から選択されるアミン化学分解試薬、及び(ii)水と、(iii)触媒の存在下にて、100℃~195℃の範囲の温度及び900mbar(abs)~2000mbar(abs)の範囲の圧力で反応させることを特徴とし、ここで、アミン化学分解試薬及び水とポリウレタン製品との質量比は、0.5~2.5の範囲であり、水の質量は、アミン化学分解試薬の質量の3.0%~22%の範囲である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン製品から原料を回収する方法であって、
(A)イソシアネート成分及びポリオール成分をベースとするポリウレタン製品を準備する工程と、
(B)(i)(a)第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有するアミノアルコール、又は(c)(a)と(b)との混合物から選択されるアミン化学分解試薬、及び(ii)水を用い、(iii)触媒の存在下にて、100℃~195℃の温度及び900mbar(abs.)~2000mbar(abs.)の圧力で、前記ポリウレタン製品を液相中で化学分解して、化学分解生成物を得る工程と、
なお、(1)一方のアミン化学分解試薬及び水と(2)他方のポリウレタン製品との質量比は、0.5~2.5の範囲であり、水の質量は、前記アミン化学分解試薬の質量の3.0%~22%である;
(C)前記化学分解生成物を後処理して、アミン及び/又はポリオールを得る工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程(B)において、前記ポリウレタン製品を、
(I)初めに(1)前記アミン化学分解試薬と混合するが、前記水とはまだ混合しないか、又は(2)前記アミン化学分解試薬及び前記水の第1の部分と混合し、次いで、
(II)前記水(1)又は前記水の第2の部分(2)を添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(II)において、工程(II)中の前記液相の温度が工程(I)における前記液相の温度と最大で20℃異なるように、前記水(1)又は前記水の第2の部分(2)を連続的に又は少量ずつ添加する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミン化学分解試薬(a)が、脂肪族第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有する脂肪族アミノアルコール、又は(c)これら2つの混合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒が水酸化物、カルボン酸塩、スズ化合物、亜鉛化合物、炭酸塩、オルトリン酸塩、オルトリン酸一水素塩、メタリン酸塩又は上述の触媒の2つ以上の混合物から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(C)が、抽出剤による液液抽出と、前記アミン又は前記アミンの塩を含む第1の生成物相及び前記ポリオールを含む第2の生成物相への相分離とを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記液液抽出の前に、前記化学分解生成物からの前記アミン化学分解試薬の蒸留分離を行う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記イソシアネート成分がトリレンジイソシアネートを含み、前記抽出剤が、(i)炭化水素又はハロゲン置換炭化水素から選択される有機溶媒と、(ii)水とを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記アミンを前記第1の生成物相から蒸留する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記有機溶媒がシクロヘキサン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、塩素化芳香族炭化水素又は上述の有機溶媒の2つ以上の混合物から選択される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記イソシアネート成分が、メチレンジフェニレンジイソシアネート又はメチレンジフェニレンジイソシアネートとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートとの混合物を含み、前記抽出剤が、(i)炭化水素又はハロゲン置換炭化水素から選択される有機溶媒と、(ii)塩酸とを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項12】
前記有機溶媒がハロゲン置換炭化水素を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(I)前記第1の生成物相をハロゲン置換炭化水素で抽出し、続いて、
(II)第1の水相と第1の有機相とに相分離し、
(III)前記第1の水相を中和し、第2の水相と第2の有機相とに相分離し、
(IV)前記第2の有機相を蒸留及び/又はストリッピングしてアミンを得る、
請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の生成物相を蒸留及び/又はストリッピングによって精製してポリオールを得る、請求項6~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリウレタン製品がポリウレタンフォームである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分解を含む、ポリウレタン製品、特にポリウレタンフォームから原料を回収する方法に関する。化学分解の特徴は、ポリウレタン製品を、(i)(a)第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有するアミノアルコール、又は(c)(a)と(b)との混合物から選択されるアミン化学分解試薬、及び(ii)水と、(iii)触媒の存在下にて、100℃~195℃の温度及び900mbar(abs.)~2000mbar(abs.)の圧力で反応させることであり、ここで、一方のアミン化学分解試薬及び水と他方のポリウレタン製品との質量比は、0.5~2.5の範囲であり、水の質量は、アミン化学分解試薬の質量の3.0%~22%である。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンフォームは、産業及び日常生活において様々な用途を有する。ポリウレタンフォームは通例、硬質フォームと軟質フォームとに分けられる。それらの異質性にも関わらず、基本ポリウレタン構造がこれらの製品全てに共通し、これは多官能性イソシアネートとポリオールとの重付加反応によって形成され、例えばジイソシアネートO=C=N-R-N=C=O及びジオールH-O-R’-O-H(ここで、R及びR’は有機ラジカルを表す)をベースとするポリウレタンの場合には、
~~~[O-R’-O-(O=C)-HN-R-NH-(C=O)]~~~
として表すことができる。
【0003】
ポリウレタン製品の大きな経済的成功こそが、多量のポリウレタン廃棄物(例えば古いマットレス又は椅子(seating furniture)から)が生じる原因であり、これを合理的に用いる必要がある。技術的に実行が最も簡単な再利用方法は焼却であり、放出される燃焼熱が他のプロセス、例えば工業プロセスに利用される。しかしながら、これでは原料サイクルを完了することができない。別の再利用方法は、ポリウレタン廃棄物を機械的に粉砕し、新たな製品の製造に用いる、「フィジカルリサイクル」と呼ばれるものである。このタイプのリサイクルには当然ながら限界があるため、ポリウレタン結合の逆切断(retrocleavage)によってポリウレタン製造の基本原料を回収する試み(「ケミカルリサイクル」と呼ばれるもの)がなくなることはない。回収すべきこれらの原料は、主にポリオール(すなわち、上記の例においては、H-O-R’-O-H)を含む。加えて、ウレタン結合の加水分解的切断によってアミンを回収することも可能であり(すなわち、上記の例においては、HN-R-NH)、これを後処理後にホスゲン化し、イソシアネートを得る(上述の例においては、O=C=N-R-N=C=Oを得る)ことができる。既知のポリウレタンリサイクル方法の概要は、非特許文献1による総説に与えられる。非特許文献1は、グリコール分解(下記の番号2.)が特に重要であると強調している。
【0004】
様々なケミカルリサイクルアプローチがこれまでに開発されている。これらのうちの4つは、以下のように簡潔にまとめられる:
1. 水との反応によってアミン及びポリオールが回収され、二酸化炭素が形成される、ウレタンの加水分解。
2. ウレタン基に組み込まれたポリオールが、使用されるアルコールに置き換えられることで、ポリオールが放出される、アルコールとの反応によるウレタンのグリコール分解(Glycolysis)。このプロセスは、文献中で一般にエステル交換(より正確にはウレタン交換(transurethanization))と称される。使用されるアルコールの正確な性質に関わらず、このケミカルリサイクルの方法は通常、文献中でグリコール分解と呼ばれている。これは実際にはグリコールのみに適用される用語であるため、より一般的にはアルコール分解と称することがより正確である。グリコール分解に続いて加水分解を行ってもよい。依然として変化していないグリコール分解混合物の存在下で加水分解を行う場合、加水グリコール分解と称される。
3. ウレタン結合の加水グリコール分解(Hydroglycolysis)。当然ながら最初からアルコール及び水を添加することも可能であり、その場合、上記の加水分解及びグリコール分解のプロセスが並行して進行する。
4. ウレタン基に組み込まれたポリオールが、使用されるアミンに置き換えられることで、ポリオールが放出される、第一級アミン及び第二級アミンとの反応によるウレタン結合のアミノ分解。この場合、ウレタン基は尿素基に変換される。同様に、ウレタン中のR-NH-(C=O)-結合を切断し、R-NH-基をアミノ分解に使用されるアミンに置き換え、最初に使用されるイソシアネートに対応するアミンR-NHを放出させることも可能である。第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有するアミノアルコールを使用する場合、当然ながら、使用されるアミノアルコールのアルコール基がウレタン結合と反応することも可能であり、カルバメートが形成され得る。以下に引用する従来技術によると、アミノ分解に続いて別工程で加水分解が行われる。
【0005】
特許文献1には、化学分解の前に、湿潤状態で再利用されるポリウレタン出発材料の機械的粉砕(湿式粉砕)を行う、ポリウレタンの化学分解方法が記載されている。この目的で、ポリウレタン出発材料を化学分解で得られたポリオールの一部と混合する。このプロセスは、先の化学分解プロセスからのポリオールを用いて開始される。化学分解はグリコール分解、加水分解、メタノール分解又はアミノ分解、好ましくはグリコール分解として行うことができる。アミノ分解と加水分解との組合せについての記載はない。好適な触媒は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド又はこれらの混合物等の標準的な触媒である。ポリウレタン出発材料を湿らせるために化学分解で得られたポリオールを使用することの強調された利点は、これが化学分解化学物質と反応せず、したがって化学分解のための標的配合物を破壊しないことである(特に段落[0021]、[0073]、[0074]及び[0078]を参照)。
【0006】
特許文献2には、ポリエーテルポリオールベースのポリウレタンを、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物等の塩基性触媒の存在下でアミンにより分解する方法が記載されている。これにより、ポリウレタン中のウレタン結合及び尿素結合が変換され、ポリエーテルポリオールが放出されて、化学分解に使用したアミンの尿素が得られる。これらの尿素は、塩基性触媒の影響下で切断され、アミン(すなわち、ポリウレタンの合成に使用されるイソシアネートに対応するアミン、及び化学分解に使用されるアミン)及び炭酸塩(例えば炭酸ナトリウム)となる。エタノールアミン(2-アミノエタノール、モノエタノールアミンとも呼ばれる)を使用すると、2-オキサゾリジノンが中間体として形成される。これは塩基性触媒の影響下で切断され、エタノールアミン及び炭酸塩となる。
【0007】
特許文献3には、第1段階においてポリウレタン出発材料、特にフォーム(軟質フォーム又は硬質フォーム、好ましくは軟質フォーム)をグリコール、ポリアミン又はアミノアルコールを添加することにより120℃~250℃で溶解し、続いて、任意に濾過して固体を除去した後、オートクレーブ内での第2段階において、水を用いて200℃~320℃、49bar(G)~76bar(G)(50kg/cmG~78kg/cmG;実施例を参照されたい)の圧力でオートクレーブ内にて加水分解する二段階の化学分解方法が記載されている。後処理のために水をガス状で抜き取るか、留去するか、又は不活性ガスを用いて追い出す。溶媒は蒸留によって除去される。形成されるポリオール及びポリアミンは蒸留、遠心分離又は溶媒抽出によって分離される。アミン含有加水分解物をアルキレンオキシドと反応させてポリオールを得ることもできる。
【0008】
特許文献4には、ポリウレタン出発材料、特にポリウレタンフォーム(軟質フォーム又は硬質フォーム、好ましくは軟質フォーム)を初めにポリアミンと混合し、120℃~250℃に加熱する方法が記載されている。これにより、ポリオール及びポリ尿素の溶解画分を含有する液相と、ポリ尿素の未溶解画分を含有する固相とが形成される。次いで、液相をオートクレーブ内にて200℃~320℃の温度及び高圧(実施例では、少なくとも4.7MPa=47bar)で加水分解する。固相を更なるポリアミンに溶解し、続いて任意に不溶性画分を除去した後、同様に加水分解することができる。後処理のために水をガス状で抜き取るか、留去するか、又は不活性ガスを用いて追い出す。溶媒は蒸留によって除去される。形成されるポリオール及びポリアミンは蒸留、遠心分離又は溶媒抽出によって分離される。アミン含有加水分解物をアルキレンオキシドと反応させてポリオールを得ることもできる。特許文献4には、方法が硬質フォームにも適用可能であることが言及されている。しかしながら、これらはジフェニルメタン系のポリイソシアネート(pMDI)を含有することが多く、化学分解で形成されるその対応するアミン(ジフェニルメタン系のポリアミン、pMDA)は、分解せずに蒸留することはできない。かかるアミンを回収する実施可能な方法は開示されていない。
【0009】
特許文献5では、化学分解生成物をアルキレンオキシドと反応させてポリオールを得ることにより、pMDAの蒸留性の欠如という問題を解決する試みがなされている。しかしながら、この手順では、原料サイクルを完成させることができない。記載の化学分解方法は、高圧下での水による加水分解の工程を含む。
【0010】
特許文献6には、硬質フォームを100℃~250℃及び周囲圧力でアミン又はグリコールに溶解した後、加水分解する方法が記載されている。開示されている好適なポリウレタンフォームは、トリレンジイソシアネート(TDI)及び/又はジフェニルメタン系のジイソシアネート(mMDI)をベースとしたものである。加水分解は、超臨界水又は亜臨界水で行われる。加水分解について開示されている圧力範囲は、100bar~250barである。後処理は分画によって行われる。回収されたアミンは、イソシアネートの新たな製造に又はポリオール合成のスターターとして使用することができる。
【0011】
記載のアミノ分解方法には、ポリウレタンとアミン又はアミノアルコールとの反応中に尿素生成物及び他のアミン含有共生成物が形成されるという不利点がある。これらのアミン含有共生成物は、ポリウレタンの調製に最初に使用されたイソシアネートに対応するアミン及びポリウレタンの調製に使用されたポリオールの回収を困難にする。結果として、第2の工程においてこれらのアミン含有共生成物を高圧下で複雑に加水分解する必要がある。
【0012】
特許文献7には、(特許文献8の教示による、すなわち100℃~300℃及び5bar~100barでの)ポリウレタンの加水分解によって得られた化学分解生成物を、好ましくは不活性溶媒、特にトルエンで希釈された加水分解物混合物に塩化水素ガスを導入し、形成されたアミン塩を濾別することにより、ポリウレタンプラスチックの製造に再使用可能なポリオール又はポリアミンへと分離する方法が記載されており、塩化水素による沈殿は、画分で(幾つかの部分的な工程で)行われる。
【0013】
特許文献9には、粉砕したプラスチックをオートクレーブ内にて直接蒸気圧下、約20atm(19.6bar(G))で150℃~220℃に少なくとも1時間加熱する、ポリウレタンプラスチックからポリエーテルポリオールを回収する方法が開示されている。後処理のために、このように処理された反応生成物を特にトルエン等の有機溶媒に溶解し、希塩酸と混合し、濾過することができる。残りの有機溶液を蒸発によって濃縮し、濾過すると、残渣としてポリエーテルポリオールが得られる。
【0014】
従来技術によると、純粋な加水分解方法であっても高圧を必要とし、これは当然不利である。
【0015】
文献から知られているケミカルリサイクルプロセスのうち、工業規模で持続的に稼働しているものはごく僅かであり、多くはパイロット規模にさえ達していない(非特許文献1)。環境意識の一般的な高まり及び産業プロセスを可能な限り持続可能なものとする努力の高まりを考えると、どちらも基本的にはケミカルリサイクルを支持しているが、ポリウレタン製品のケミカルリサイクルが技術的及び経済的な観点から未だ決して成熟していないことが明らかに示される。特に回収された生成物の純度に関して課題がある。さらに、経済的なリサイクル方法では、使用した試薬(例えば、使用したアルコール、アミノアルコール、又はアミン)を可能な限り完全に回収し、再利用し得る(すなわちクローズドループに従う)ことを確実にする必要がある。使用済みのポリウレタンフォーム(例えば、冷蔵庫、温水タンク、マットレス、椅子、自動車のシート等)から生じる大量のポリウレタン廃棄物のために、ポリウレタンフォームのリサイクルは特に重要である。加えて、再利用されるポリウレタン製品は、通常は様々な助剤及び添加剤(安定剤、触媒等)を依然として含有しており、これらを経済的に実行可能かつ環境に優しい方法で実際のリサイクル対象製品から分離し、廃棄する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0347927号
【特許文献2】米国特許第3,404,103号
【特許文献3】欧州特許第0990674号
【特許文献4】欧州特許出願公開第1142945号
【特許文献5】特開2001-261584号
【特許文献6】欧州特許出願公開第1149862号
【特許文献7】欧州特許出願公開第0013350号
【特許文献8】独国特許第2442387号
【特許文献9】独国特許第2207379号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Simon, Borreguero, Lucas and Rodriguez in Waste Management 2018, 76, 147 - 171
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、ポリウレタンフォームのケミカルリサイクルの分野において更なる改善が必要とされている。特に、従来技術からのアミノ分解(高圧下での第2段階を伴う必須の二段階の方法レジーム)に関連して更に上に概説した不利点を克服するか、又は少なくとも軽減することが望ましい。これは、アミノ分解が、ポリウレタン製品のイソシアネートに対応するアミンの直接放出を可能にすることから、それ自体魅力的な化学分解方法であるためであり、これらのアミンは、より強いルイス塩基性のアミン化学分解試薬で置換される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以上の要件を考慮すると、本発明は、ポリウレタン製品から原料を回収する方法であって、
(A)イソシアネート成分及びポリオール成分をベースとするポリウレタン製品を準備する工程と、
(B)(i)(a)第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有するアミノアルコール、又は(c)第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン(=a)と、第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有するアミノアルコール(=b)との混合物から選択されるアミン化学分解試薬、及び(ii)水を用い、(iii)触媒の存在下にて、100℃~195℃、好ましくは110℃~190℃、より好ましくは115℃~160℃の温度及び900mbar(abs.)~2000mbar(abs.)、好ましくは950mbar(abs.)~1500mbar(abs.)、より好ましくは1000mbar(abs.)~1300mbar(abs.)の圧力、特に周囲圧力で、必要に応じて還流冷却下でポリウレタン製品を液相中で化学分解して、化学分解生成物を得る工程と、
なお、(1)一方のアミン化学分解試薬(全体として使用)及び水(全体として使用)と(2)他方のポリウレタン製品との質量比(m(1)/m(2);すなわち[m(アミン化学分解試薬)+m(水)]/m(ポリウレタン製品);ここで、mは質量を表す)は、0.5~2.5の範囲であり、水の質量は、アミン化学分解試薬の質量の3.0%~22%、特に4.0%~15%である;
(C)化学分解生成物を後処理して、(少なくとも)アミン(イソシアネート成分のイソシアネートに相当する)及び/又は(少なくとも)ポリオール(ポリオール成分のポリオールに相当するか、又は化学分解においてそのようなポリオールから形成される)を得る工程と、
を含む、方法を提供する。
【0020】
全く驚くべきことに、アミン又はアミノアルコールによるポリウレタンのアミノ分解と、過剰な水によるin situ加水分解(すなわちアミノ加水分解)とを併せることで、標準的な精製方法によるアミン及びポリオールの回収が大幅に単純化されることが見出された。従来技術と比較した、アミノ分解とin situ加水分解とのこの組合せの利点は、化学分解中に形成され得る可能性がある共生成物(特に尿素)が、多大な複雑さを伴わず、特に耐圧装置を更に使用する必要なしに、in situで加水分解されることである。本発明の方法では、単一の反応装置(しかし、単一の反応装置の使用に限定されない)で準一段階的に(quasi-one-stage manner)化学分解を行うことが可能となる。アミノ加水分解後に存在する生成物混合物は、最初に使用されるイソシアネートに対応するアミン及びポリオール成分のポリオール(或いは、ポリオール成分の種類に応じて、その低分子量(モノマー又はオリゴマー)分解生成物)を含有する。
【0021】
本発明の文脈におけるポリウレタン製品は、多官能性イソシアネート(=ポリウレタン調製におけるイソシアネート成分)とポリオール(=ポリウレタン調製におけるポリオール成分)との反応による重付加生成物(場合により、完全には正しくないが、重縮合生成物とも称される)である。ポリウレタン製品は概して、概説したポリウレタン基本構造のみならず、他の構造、例えば尿素結合を有する構造も含む。ポリウレタン構造に加えた、純粋なポリウレタン基本構造から逸脱したかかる構造の存在は、本発明の範囲から逸脱するものではない。本発明の文脈におけるポリウレタン製品は特に、発泡剤の存在下での多官能性イソシアネートとポリオールとの反応によって得られるポリウレタンフォームである。
【0022】
本発明の専門用語においては、イソシアネートという用語は、ポリウレタン化学と関連して当業者に既知の全てのイソシアネート、例えば、特に(i)トリレンジイソシアネート(TDI;トリレンジアミン、TDAから調製される)、(ii)メチレンジフェニレンジイソシアネート(=「ジフェニルメタン系のジイソシアネート」、mMDI;メチレンジフェニレンジアミン、mMDAから調製される)、(iii)メチレンジフェニレンジイソシアネート(mMDI)とポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(=「ジフェニルメタン系のポリイソシアネート」、pMDI;ポリメチレンポリフェニレンポリアミン、pMDAから調製される)との混合物、(iv)ペンタン1,5-ジイソシアネート(PDI;ペンタン-1,5-ジアミン、PDAから調製される)、(v)ヘキサメチレン1,6-ジイソシアネート(HDI;ヘキサメチレン-1,6-ジアミン、HDAから調製される)、(vi)イソホロンジイソシアネート(IPDI;イソホロンジアミン、IPDAから調製される)、及び(vii)キシリレンジイソシアネート(XDI;キシリレンジアミン、XDAから調製される)を包含する。「イソシアネート」という表現は、例えば「厳密に1つのイソシアネート」という表現による別段の明示的な記載がない限り、2種以上の異なるイソシアネート(例えば、MDIとTDIとの混合物)がポリウレタン製品の製造に使用されている実施の形態も当然ながら包含する。ポリウレタン製品の調製に使用される全てのイソシアネートが、(ポリウレタン製品の)イソシアネート成分と総称される。イソシアネート成分は、少なくとも1つのイソシアネートを含む。同様に、ポリウレタン製品の調製に使用される全てのポリオールが、(ポリウレタン製品の)ポリオール成分と総称される。ポリオール成分は、少なくとも1つのポリオールを含む。
【0023】
本発明の専門用語において、ポリオールという用語は、ポリウレタン化学に関連して当業者に既知の全てのポリオール、例えば、特にポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール及びポリエーテルカーボネートポリオールを包含する。「ポリオール」という表現は、2種以上の異なるポリオールがポリウレタン製品の製造に用いられている実施の形態も当然ながら包含する。したがって、以下で例えば「ポリエーテルポリオール」(又は「ポリエステルポリオール」等)に言及する場合、この専門用語は、2種以上の異なるポリエーテルポリオール(又は2種以上の異なるポリエステルポリオール等)がポリウレタン製品の製造に使用されている実施の形態も当然ながら包含する。
【0024】
工程(C)との関連において、ポリオールという用語は、ポリウレタン製品の製造に最初に使用されたポリオールから化学分解中に形成されたポリオールを表すこともある。しかしながら、更に下に詳細に説明するように、ポリオール成分のポリオールは、好ましくは化学分解中にそのように回収することができるポリエーテルポリオールである。
【0025】
本発明の専門用語におけるカルバメートは、工程(B)においてアミノアルコールとの反応によって形成される任意のウレタンである。
【0026】
イソシアネートに対応するアミンとは、R-NH+COCl→R-N=C=O+2HClに従い、ホスゲン化してイソシアネートを得ることができるアミンである。
【0027】
本発明の方法の文脈において、水及びアミン化学分解試薬は、超化学量論的量で使用される。これは、ポリウレタン結合の全てを加水分解して、二酸化炭素の放出によりアミン及びポリオールを得るのに理論的に十分な量の水が使用されることを意味する。同様に、アミン化学分解試薬の超化学量論的使用は、全てのポリウレタン結合を変換して、尿素又はカルバメート及びポリオールを形成するのに理論的に十分な量で使用されることを意味する。これは通常、質量比[m(アミン化学分解試薬)+m(水)]/m(ポリウレタン製品)(a)と、及びアミン化学分解試薬(b)の質量をベースとした水の質量の割合との間に以下の好ましい関係が観察される場合に当てはまる。
【0028】
【0029】
例えば、aが0.5~1.0の範囲である場合、10%~22%の範囲のbの値を選ぶ必要があり、aが1.0超~1.5の範囲である場合、7.0%~10%未満の範囲のbの値を選ぶ必要がある。
【0030】
「(i)(a)第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有するアミノアルコール、又は(c)(a)と(b)との混合物から選択されるアミン化学分解試薬、及び(ii)水を用い、(iii)触媒の存在下にてポリウレタン製品を液相中で化学分解する」という表現は、工程(B)において使用される全ての水を、工程(B)のちょうど開始時に添加する必要があることを必ずしも意味する訳ではない。代わりに、本発明は、工程(B)の開始時に最初に水を添加しないか、又は水の一部のみを添加し、その後に水又は水の残りを(一度に又は好ましくは反応時間中に徐々に)添加する実施の形態を包含する。この場合、アミン化学分解試薬の質量の3.0%~22%という含有量の指定は(当然ながら、更に上に指定したaとbとの好ましい関係も)、工程(B)において反応時間の終了時までに合計で添加される水の量に関する。原則として、アミン化学分解試薬又は水とアミン化学分解試薬との混合物を徐々に添加することも考えられる。いずれの場合も、工程(B)に関連して規定された量は、その工程の反応時間の終了時まで、それぞれの場合に添加される総量に関する。工程(B)の開始時に初めは触媒がまだ存在しない実施の形態が同様に本発明に包含される。例えば、最初にアミン化学分解試薬のみ(水を含まず、触媒を含まない)をポリウレタン製品に添加し、続いて水及び触媒を、特に触媒の水溶液として添加することが可能である。当然ながら、この変形例では、更に水を(一度に又は反応時間中に徐々に)添加することも可能である。
【0031】
工程(B)における水に関する定量的数値は、加水分解的カルバメート切断のための試薬として添加する水に関するものである。比較すると、いずれの場合にも、特に使用されるアミン化学分解試薬中に存在する水分に由来する水の量は少ない。使用されるアミン化学分解試薬中の水分とは、適当な取扱い及び保管の場合であっても工業的規模で発生し得るような微量の水分を意味する。当然ながら、アミン化学分解試薬と、加水分解的切断に使用される水とを予め混合するか、又は加水分解的切断に使用される水でポリウレタン製品を湿らせることが可能である。かかる実施の形態は、本発明の範囲から逸脱するものではなく、このようにして添加される水は、当然ながら工程(B)の定量的数値に考慮すべきであり、すなわち、必要に応じて付加的に添加される水の量は、それに応じて低減すべきである。触媒を水溶液の形態で使用する場合、溶媒として使用される水を同様に工程(B)の定量的数値に考慮すべきであり、すなわち、必要に応じて付加的に添加される水の量は、それに応じて低減すべきである。
【0032】
本発明の文脈における圧力の数値は常に、圧力の単位に続く下付きの「abs.」によって識別される絶対圧力として表される(例えば、900mbarの絶対圧力は、「900mbar(abs.)」として引用される)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
初めに、本発明の様々な考え得る実施形態の概要を続けて示す。
【0034】
他の全ての実施形態と組み合わせることができる本発明の第1の実施形態においては、工程(B)におけるポリウレタン製品を、
(I)初めに(1)アミン化学分解試薬と混合するが、水とはまだ混合しないか、又は(2)アミン化学分解試薬及び水の第1の部分と混合し、次いで、
(II)水(1)又は水の第2の部分(2)を、特にポリウレタン製品が溶液になってから添加する。
【0035】
ここで、触媒を工程(I)において既に添加することが可能であり、これが好ましい。代替的に、触媒を工程(II)においてのみ、特に触媒水溶液として、特にポリウレタン製品が溶液になってからポリウレタン製品に添加することが可能である。
【0036】
第1の実施形態の特定の構成である本発明の第2の実施形態においては、工程(II)において、工程(II)中の液相の温度が工程(I)における液相の温度と最大で20℃、好ましくは最大で15℃、より好ましくは最大で10℃、更に好ましくは最大で5.0℃、非常に並外れて好ましくは最大で1.0℃異なるように、水(1)又は水の第2の部分(2)を連続的に又は少量ずつ添加する。
【0037】
第1の実施形態及び第2の実施形態の特定の構成である本発明の第3の実施形態においては、(I)(2)において、水の第1の部分が、工程(B)において全体として(すなわち(I)及び(II)を合わせて)添加される水の質量の最大4.0%、特に2.0%~4.0%である。
【0038】
他の全ての実施形態と組み合わせることができる本発明の第4の実施形態においては、アミン化学分解試薬(a)は、脂肪族第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有する脂肪族アミノアルコール、又は(c)これら2つの混合物である。
【0039】
他の全ての実施形態、特に第4の実施形態と組み合わせることができる本発明の第5の実施形態においては、第一級有機アミン又は第二級有機アミン(a)は、モノアミン、ジアミン、又はモノアミンとジアミンとの混合物である。
【0040】
他の全ての実施形態と組み合わせることができる本発明の第6の実施形態においては、アミン化学分解試薬は、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、3-アミノ-1-プロパノール、エチレン-1,2-ジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレン-1,6-ジアミン又は上述のアミン化学分解試薬の2つ以上の混合物から選択される。
【0041】
他の全ての実施形態と組み合わせることができる本発明の第7の実施形態においては、触媒は、水酸化物(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物)、カルボン酸塩(特に酢酸塩)(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属カルボン酸塩(特に酢酸塩))、スズ化合物(特にジブチルスズジラウレート又はスズ(II)オクトエート(=スズ(II)2-エチルヘキサノエート))、亜鉛化合物(特に酢酸亜鉛)、炭酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩)、オルトリン酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属オルトリン酸塩)、オルトリン酸一水素塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属オルトリン酸一水素塩)、メタリン酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属メタリン酸塩)又は上述の触媒の2つ以上の混合物から選択される。
【0042】
第7の実施形態の特定の構成である本発明の第8の実施形態においては、触媒は炭酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩)、オルトリン酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属オルトリン酸塩)、オルトリン酸一水素塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属オルトリン酸一水素塩)、又は上述の触媒の2つ以上の混合物から選択される。
【0043】
他の全ての実施形態、特に第7の実施形態及び第8の実施形態と組み合わせることができる本発明の第9の実施形態においては、触媒とポリウレタン製品との質量比は、0.001~0.035の範囲である。
【0044】
他の全ての実施形態と組み合わせることができる本発明の第10の実施形態においては、工程(II)は、撹拌タンク(特にジャケット付き撹拌タンク)、管型反応器又はこれら2つの組合せから選択される化学分解反応器内で行われる。
【0045】
他の全ての実施形態と組み合わせることができる本発明の第11の実施形態においては、工程(C)は、抽出剤による液液抽出と、アミン又はアミンの塩を含む第1の生成物相及びポリオールを含む第2の生成物相への相分離とを含む。
【0046】
第11の実施形態の特定の構成である本発明の第12の実施形態においては、液液抽出の前に、化学分解生成物からのアミン化学分解試薬の蒸留分離を行う。
【0047】
第11の実施形態及び第12の実施形態の特定の構成である本発明の第13の実施形態においては、液液抽出における抽出される混合物(=化学分解生成物又は生成物混合物)と抽出剤との質量の比率は、0.5~1.5、好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.9~1.1、特に1.0である。
【0048】
第11の実施形態~第13の実施形態の特定の構成である本発明の第14の実施形態においては、イソシアネート成分は、トリレンジイソシアネート(TDI)を含み、抽出剤は、(i)(脂肪族又は芳香族)炭化水素又はハロゲン置換された、特に塩素化された(脂肪族又は芳香族)炭化水素から選択される有機溶媒と、(ii)水とを含む。
【0049】
第14の実施形態の特定の構成である本発明の第15の実施形態においては、アミン、本実施形態ではトリレンジアミン(TDA)を第1の生成物相から蒸留する。
【0050】
第14の実施形態及び第15の実施形態の特定の構成である本発明の第16の実施形態においては、第2の生成物相を蒸留及び/又はストリッピングによって精製して、ポリオールを得る。
【0051】
第14の実施形態~第16の実施形態の特定の構成である本発明の第17の実施形態においては、有機溶媒は、シクロヘキサン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、塩素化芳香族炭化水素(特にクロロベンゼン又はオルト-ジクロロベンゼン等)又は上述の有機溶媒の2つ以上の混合物から選択される。
【0052】
第14の実施形態~第17の実施形態の特定の構成である本発明の第18の実施形態においては、液液抽出を20℃~40℃、好ましくは25℃~35℃の温度、特に常温で行う。
【0053】
第11の実施形態~第13の実施形態の更なる特定の構成である本発明の第19の実施形態においては、イソシアネート成分は、メチレンジフェニレンジイソシアネート(2つのイソシアネート基を有する「モノマーMDI」;mMDI)又はメチレンジフェニレンジイソシアネートとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(3つ以上のイソシアネート基を有する「ポリマーMDI」;pMDI)との混合物を含み、抽出剤は、(i)(脂肪族又は芳香族)炭化水素又はハロゲン置換された、特に塩素化された(脂肪族又は芳香族)炭化水素から選択される有機溶媒と、(ii)塩酸とを含む。
【0054】
第19の実施形態の特定の構成である本発明の第20の実施形態においては、有機溶媒(i)は、ハロゲン置換された、特に塩素化された(脂肪族又は芳香族)炭化水素を含む。
【0055】
第20の実施形態の特定の構成である本発明の第21の実施形態においては、ハロゲン置換炭化水素は、塩化メチレン、クロロホルム、塩素化芳香族炭化水素(特にクロロベンゼン又はオルト-ジクロロベンゼン等)又は上述のハロゲン置換炭化水素の2つ以上の混合物から選択される。
【0056】
第19の実施形態~第21の実施形態の特定の構成である、本発明の第22の実施形態においては、
(III)第1の生成物相をハロゲン置換炭化水素で抽出し、続いて、
(IV)第1の水相と第1の有機相とに相分離し、
(V)第1の水相を中和し、第2の水相と第2の有機相とに相分離し、
(VI)第2の有機相を蒸留及び/又はストリッピングして、アミン、本実施形態ではメチレンジフェニレンジアミン(2つのアミノ基を有する「モノマーMDA」;mMDA)又はメチレンジフェニレンジアミンとポリメチレンポリフェニレンポリアミン(3つ以上のアミノ基を有する「ポリマーMDA」;pMDA)との混合物を得る。
【0057】
第19の実施形態~第22の実施形態の特定の構成である本発明の第23の実施形態においては、第2の生成物相を蒸留及び/又はストリッピングによって精製してポリオールを得る。
【0058】
第19の実施形態~第23の実施形態の特定の構成である本発明の第24の実施形態においては、液液抽出を20℃~60℃、好ましくは40℃~55℃の温度、より好ましくは47℃~53℃で、特に50℃で行う。
【0059】
他の全ての実施形態と組み合わせることができる本発明の第25の実施形態においては、ポリウレタン製品はポリウレタンフォームである。
【0060】
本発明の上で簡単に概説した実施形態及び考え得る更なる構成を、以下でより詳細に明らかにする。当業者にとって逆のことが文脈から明らかに見て取れないか、又は明示的に記載されない限り、上記の全ての実施形態及び下記の本発明の更なる構成を所望に応じて互いにまとめて組み合わせることができる。
【0061】
ケミカルリサイクル用のポリウレタンフォームの準備
本発明の方法の工程(A)は、化学分解の準備において化学的にリサイクルされるポリウレタン製品を準備することを含む。
【0062】
これは原則として、どのような種類のポリウレタン製品であってもよいが、ポリウレタンフォームが好ましい。ポリウレタンフォームの場合、本発明の方法によって、軟質フォーム(例えば古いマットレス、クッション付き家具又は自動車のシートからのもの)又は硬質フォーム(例えば断熱材からのもの)のいずれかを加工することが可能である(この点でも実施例を参照されたい)。かかるポリウレタンフォームは通例、発泡剤としてペンタン、ジクロロメタン及び/又は二酸化炭素を用いて製造される。
【0063】
加えて、イソシアネート成分に関して、(i)トリレンジイソシアネート(TDI)、(ii)メチレンジフェニレンジイソシアネート(=「ジフェニルメタン系のジイソシアネート」、mMDI;メチレンジフェニレンジアミン、mMDAから調製される)、(iii)メチレンジフェニレンジイソシアネート(mMDI)とポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(=「ジフェニルメタン系のポリイソシアネート」、pMDI;ポリメチレンポリフェニレンポリアミン、pMDAから調製される)との混合物、(iv)ペンタン1,5-ジイソシアネート(PDI)、(v)ヘキサメチレン1,6-ジイソシアネート(HDI)、(vi)イソホロンジイソシアネート(IPDI)、(vii)キシリレンジイソシアネート(XDI)又は(viii)上述のイソシアネートの2つ以上の混合物から選択されるイソシアネートをベースとするポリウレタン製品が好ましい。イソシアネート成分に関してTDI又はMDIのいずれかをベースとするポリウレタンフォームが特に好ましい。
【0064】
ポリオール成分に関しては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリエーテルカーボネートポリオール、ポリアクリレートポリオール、又は上述のポリオールの2つ以上の混合物から選択されるポリオールをベースとするポリウレタンフォームが好ましい。ポリオール成分は、好ましくはポリエーテルポリオールである。より好ましくは、ポリオール成分は、ポリエーテルポリオールである(すなわち、ポリエーテルポリオール以外のポリオールを含有しないが、2つ以上の異なるポリエーテルポリオールの混合物が含まれ、本実施形態の範囲から逸脱しない)。ポリエーテルポリオールは、スチレン-アクリロニトリルコポリマー(SANコポリマー)で充填されたものであってもよい。それをかかるポリオール成分にも適用可能であることが本発明の利点の1つである。SANコポリマー充填ポリエーテルポリオールをベースとするポリオール成分を有するポリウレタンフォームの化学分解における問題は、化学分解中の微細なポリマー粒子としてSANコポリマーが放出されることである。これは、選択される化学分解方法に関係なく当てはまる。反応混合物中の微細なポリマー粒子として存在するSANポリマーは、例えばその後の抽出方法による分離に問題を引き起こす。さらに、ポリマー粒子の細かさにより、フィルターが急速に詰まり、更なる除去が可能ではなくなるため、濾過は殆ど不可能である。本発明の加水アミノ分解(hydroaminolysis)の利点は、ポリエーテルポリオールから放出された後、SANポリマーが加水分解工程によって部分的に可溶型に変換し戻され、したがって化学分解後に抽出によって反応混合物を容易に後処理し得ることである。
【0065】
最も好ましくは、ポリウレタン製品は、イソシアネート成分が、トリレンジイソシアネート(TDI)又はメチレンジフェニレンジイソシアネート(mMDI)又はmMDIとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(pMDI)との混合物のいずれかであり、ポリオール成分が、ポリエーテルポリオールを含有する(特にポリエーテルポリオールであり、すなわちポリエーテルポリオール以外の更なるポリオールを含有しないが、2つ以上の異なるポリエーテルポリオールの混合物が含まれ、本実施形態の範囲から逸脱しない)ものである。
【0066】
好ましくは、工程(A)は更に、工程(B)におけるウレタン結合の切断のための準備工程を含む。これは特に、ポリウレタン製品の機械的粉砕である。かかる準備工程は、当業者に既知である。例えば非特許文献1を参照されたい。ポリウレタン製品の特性によっては、粉砕操作を容易にするために機械的粉砕の前にポリウレタン製品を「凍結」することが有利であり得る。これは、特にポリウレタンフォームについて当てはまる。
【0067】
上記の準備工程を化学分解の場所から空間的に離れた場所で行うことも考えられる。その場合、準備されたポリウレタン製品を更なる輸送のために好適な輸送車両、例えばサイロ車両に移す。更なる輸送のために、準備されたポリウレタン製品を、特にポリウレタンフォームの場合、付加的に圧縮し、より高い質量対体積比を達成してもよい。次いで、ポリウレタン製品を化学分解の位置で化学分解のために準備された反応装置に移す。使用される輸送車両を反応装置に直接接続することも考えられる。
【0068】
化学分解生成物を得るためのポリウレタン製品の化学分解
本発明の方法の工程(B)は、工程(A)で準備されたポリウレタン製品の化学分解を含む。
【0069】
化学分解は、酸素の非存在下で行うのが好ましい。これは、反応が不活性ガス雰囲気(特に窒素、アルゴン又はヘリウム雰囲気)で行われることを意味する。不活性ガス飽和により、使用される化学分解試薬(水及びアミン化学分解試薬)から酸素を除去することも好ましい。
【0070】
既に述べたように、工程(B)のちょうど開始時に全ての水を添加する必要はない。特に、工程(B)において、
(I)初めにポリウレタン製品を、(1)アミン化学分解試薬と混合するが、水とはまだ混合しないか、又は(2)アミン化学分解試薬及び水の第1の部分と混合し、その後にのみ、
(II)水(1)又は水の第2の部分(2)を、特にポリウレタン製品が溶液になってから添加することも可能である。
【0071】
ここで、触媒を工程(I)において既に添加することが可能であり、これが好ましい。代替的に、触媒を工程(II)においてのみ、特に触媒水溶液として、特にポリウレタン製品が溶液になってからポリウレタン製品に添加することが可能である。これに関連して「溶液になった」という表現は、完全に均一な混合物という意味で「真の」溶液の存在を必ずしも意味する訳ではない。ポリウレタン製品の「濁った」溶液が存在する場合も十分にあり得る。これは本発明の範囲から外れるものではない。
【0072】
工程(I)及び工程(II)において工程(B)を行う過程で、工程(II)において、工程(II)中の液相の温度が工程(I)における液相の温度と最大で20℃、好ましくは最大で15℃、より好ましくは最大で10℃、更に好ましくは最大で5.0℃、非常に並外れて好ましくは最大で1.0℃異なるように、水(1)又は水の第2の部分(2)を連続的に又は少量ずつ添加することが特に好ましい。化学分解の進行を確実にするのに常に十分に高い温度がこれにより達成される。水の一部が化学分解の開始時に既に添加されている場合(=(I)(2))、水の第1の部分が工程(B)において(すなわち(I)及び(II)を合わせて)添加される水の総量の質量の最大4.0%、特に2.0%~4.0%であることが好ましい。
【0073】
工程(B)の正確な構成に関わらず、脂肪族アミン化学分解試薬を使用することが好ましい。このため、アミン化学分解試薬は、好ましくは(a)脂肪族第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有する脂肪族アミノアルコール、又は(c)これら2つの混合物である。
【0074】
第一級アミン又は第二級アミンは、好ましくはモノアミン及び/又はジアミンである。エタノールアミン(2-アミノエタノール)、N-メチルエタノールアミン、3-アミノ-1-プロパノール、エチレン-1,2-ジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレン-1,6-ジアミン又はこれらの2つ以上の混合物がアミン化学分解試薬として特に好ましい。
【0075】
化学分解の実施の選好に適した触媒は、水酸化物(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物)、カルボン酸塩(特に酢酸塩)(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属カルボン酸塩(特に酢酸塩))、スズ化合物(特にジブチルスズジラウレート又はスズ(II)オクトエート(=スズ(II)2-エチルヘキサノエート))、亜鉛化合物(特に酢酸亜鉛)、炭酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩)、オルトリン酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属オルトリン酸塩)、オルトリン酸一水素塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属オルトリン酸一水素塩)、メタリン酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属メタリン酸塩)又は上述の触媒の2つ以上の混合物である。炭酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩)、オルトリン酸塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属オルトリン酸塩)、オルトリン酸一水素塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属オルトリン酸一水素塩)又は上述の触媒の2つ以上の混合物が特に好ましい。触媒とポリウレタン製品との質量比は、好ましくは0.001~0.035の範囲である。
【0076】
化学分解の実施に適した反応装置(=化学分解反応器)は、例えば撹拌タンク及び管型反応器である。撹拌タンクは、好ましくは加熱可能なジャケット付き撹拌タンクとして設計される。これらは特に、ベース出口と、駆動手段によって制御可能な撹拌機と、固体を充填するための投入口と、定量ポンプに接続された液体用の供給管と、保護ガス用のスパージング管とを有する。
【0077】
既に述べたように、本発明の方法は、工程(B)における化学分解を単一の反応装置で行うことを可能にする。しかしながら、部分的な工程(I)及び工程(II)を含む、更に上に概説した実施形態において、特に連続的な方法レジームの場合、工程(I)(任意に水の一部の存在下で、ポリウレタン製品をアミン化学分解試薬に「溶解する」工程)及び工程(II)(水又はその一部を添加する工程)を、全体として化学分解反応器を構成する2つの連続した反応装置で行うことが望ましい場合がある。上述の好ましい反応装置をここでも使用することができるが、撹拌タンクを工程(I)で使用し、管型反応器を工程(II)で使用することも可能である(又は逆も同様)。
【0078】
化学分解生成物の後処理
工程(B)により、
イソシアネート成分のイソシアネートに対応する(少なくとも)1つのアミンと、
(少なくとも)1つのポリオール(ポリオール成分に由来する又は工程(B)においてポリオール成分から形成される)と、
(超化学量論的に使用されるため、不完全に変換された)アミン化学分解試薬と、
(超化学量論的に使用されるため、不完全に変換された)水と、
を含有する化学分解生成物が得られる。
【0079】
工程(C)においては、この化学分解生成物を後処理して原料を回収する。これにより(少なくとも)1つのアミン、(少なくとも)1つのポリオール又はその両方が回収される。
【0080】
工程(C)が抽出剤による液液抽出と、アミン又はアミンの塩を含む第1の生成物相及びポリオールを含む第2の生成物相への相分離(アミンとポリオールとの分離)とを含むことが好ましい。
【0081】
特にポリウレタン製品がMDIベースのポリウレタン製品であるか、又は親ポリオール成分に異なるポリオールの混合物を含むポリウレタン製品である場合に有利である、本実施形態の特定の構成においては、液液抽出の前に化学分解生成物からのアミン化学分解試薬の蒸留分離を行う。アミン化学分解試薬が分離された後、液液抽出に供される生成物混合物が残る。それぞれの場合において、液液抽出における抽出される混合物(すなわち、化学分解生成物又はアミン化学分解試薬の蒸留除去で得られた生成物混合物)と抽出剤との質量比は、好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.7~1.3、更に好ましくは0.9~1.1、特に1.0である。この分離が、全てのアミンが第1の生成物相に入り、全てのポリオールが第2の生成物相に入るという意味で必ずしも完全に進行する必要がないことは当業者には自明である。例えば、一般的な溶解度平衡の結果として、少量のアミンが第2の生成物相に入る(又は少量のポリオールが第1の生成物相に入る)場合、これは当然ながら本発明の範囲から外れるものではない。
【0082】
本発明の方法の好ましい使用分野は、トリレンジイソシアネートベース(TDIベース)のポリウレタン製品、好ましくはTDIベースのポリウレタンフォーム、特に軟質フォームのリサイクルである。この場合、抽出剤が、
(i)(脂肪族又は芳香族)炭化水素又はハロゲン置換された、特に塩素化された(脂肪族又は芳香族)炭化水素から選択される有機溶媒と、
(ii)水と、
を含むことが好ましい。
【0083】
好適な有機溶媒は、特にシクロヘキサン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、塩素化芳香族炭化水素(特にクロロベンゼン又はオルト-ジクロロベンゼン等)又は上述の有機溶媒の2つ以上の混合物である。液液抽出は、好ましくは20℃~40℃、好ましくは25℃~35℃の温度、特に常温で行われる。
【0084】
アミン、すなわち、この場合トリレンジアミン(TDA)は、蒸留によって第1の生成物相から得ることができ、TDAを精製蒸留物として得ることができる。TDAの蒸留は、専門家分野で十分によく知られているため、本明細書で詳細に説明する必要はない。
【0085】
第2の生成物相を、好ましくは蒸留及び/又はストリッピングによって精製してポリオールを得る。ストリッピングにおいては、ストリッピングガス(特に窒素又は蒸気、好ましくは窒素等)を使用する。流下膜式蒸発器、薄膜蒸発器、フラッシュ蒸発器、上昇膜蒸発器、自然循環蒸発器、強制循環蒸発器又はタンク蒸発器から選択される蒸発器にて蒸留を行うことが好ましい。蒸留に続いて蒸気によるストリッピング操作を行うことが特に好ましい。
【0086】
本発明の方法の更に好ましい使用分野は、MDIベースのポリウレタン製品、すなわち、イソシアネート成分が、メチレンジフェニレンジイソシアネート(2つのイソシアネート基を有する「モノマーMDI」;mMDI)、又は好ましくはメチレンジフェニレンジイソシアネートとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(3つ以上のイソシアネート基を有する「ポリマーMDI」;pMDI)との混合物をベースとするポリウレタン製品のリサイクルである。ここで特に言及すべきは、MDIベースのポリウレタンフォーム、特に硬質フォームである。MDIベースのポリウレタンフォームは、mMDIとpMDIとの混合物をベースとするのが好ましい。
【0087】
MDIベースのポリウレタン製品がフォームであるか否かに関わらず、またポリウレタン製品の製造に使用されるイソシアネート成分が、mMDIのみを含むか、又はmMDIとpMDIとの混合物を含むかに関わらず、抽出剤が、
(i)(脂肪族又は芳香族)炭化水素又はハロゲン置換された、特に塩素化された(脂肪族又は芳香族)炭化水素から選択される有機溶媒と、
(ii)塩酸と、
を含むことが好ましい。
【0088】
好適な有機溶媒は特に、ハロゲン置換された、特に塩素化された(脂肪族又は芳香族)炭化水素である。ここで特に言及すべきは、塩化メチレン、クロロホルム、塩素化芳香族炭化水素(特に、クロロベンゼン又はオルト-ジクロロベンゼン等)又は上述のハロゲン置換炭化水素の2つ以上の混合物である。液液抽出は、好ましくは20℃~60℃、好ましくは40℃~55℃、より好ましくは47℃~53℃の温度、特に50℃で行われる。
【0089】
塩酸は特に、存在する全ての第一級アミノ基又は第二級アミノ基をプロトン化し得るのに十分な量(HClと第一級アミノ基及び第二級アミノ基の合計とのモル比が1:1以上)で使用する必要がある。第一級アミノ基と第二級アミノ基との割合は、アミン価によって決定することができる。
【0090】
アミン価は、1gの物質中に存在する遊離有機アミンを中和するのに何mgの水酸化カリウムが必要とされるかを示す。これは、第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基をカバーする。アミノ基は弱塩基である。使用される溶媒は、濃酢酸(氷酢酸、99%~100%)である。アミンは、溶媒によってプロトン化されることで、対応する酸に変換され、ここでは氷酢酸の脱プロトン化された酸とのイオン対として存在する。混合物を続いて0.1モルの過塩素酸を滴定液として滴定し、その過程で過塩素酸が溶媒(氷酢酸)の陰イオンに置き換わる。プロセス中に消費される過塩素酸は、水酸化カリウムの消費量に等しい。アミン価は通例、分析サンプル1グラム当たりのKOHのミリグラム数で報告され、以下のように算出される:
AZ/(mg(KOH)・g-1)=(V/ml・[b/(mol・l-1)]・[M(KOH)/(g・mol-1)]・f)/(m/g)
ここで、
AZは、アミン価を表し、
Vは、消費された過塩素酸溶液の体積を表し、
mは、滴定サンプルの質量を表し、
M(KOH)は、KOHのモル質量(56.11g・mol-1)を表し、
は、過塩素酸溶液のモル濃度であり、
fは、過塩素酸溶液の無次元係数(滴定量)を表す。
【0091】
MDIベースのポリウレタン製品の場合、アミンを得るため、すなわち、この場合メチレンジフェニレンジアミン(2つのアミノ基を有する「モノマーMDA」;mMDA)又はメチレンジフェニレンジアミンとポリメチレンポリフェニレンポリアミン(3つ以上のアミノ基を有する「ポリマーMDA」;pMDA)との混合物を得るための第1の生成物相の後処理は、特に好ましい実施形態においては、以下の更なる工程を含む:
(I)第1の生成物相をハロゲン置換炭化水素で抽出し、続いて、
(II)抽出プロセス生成物を第1の水相(mMDAの塩酸塩、又はmMDA及びpMDAの塩酸塩を含有する)と第1の有機相とに相分離し、
(III)第1の水相を中和し、第2の水相(中和において形成された塩を含有する)と第2の有機相(mMDA又はmMDA及びpMDAを含有する)とに相分離し、
(IV)第2の有機相を蒸留及び/又はストリッピングしてアミン、すなわち、本実施形態においてはmMDA又はmMDAとpMDAとの混合物を得る。
【0092】
ポリオールを得るための第2の生成物相の後処理は、TDIベースのポリウレタン製品の場合と同様、好ましくは蒸留及び/又はストリッピングによって行われ、好ましい構成は、上記のものと同じである。
【0093】
以下の実施例は、本発明を更に説明することを意図したものである。
【実施例
【0094】
実施例1:
200gのエタノールアミン及び2gの炭酸ナトリウムを、撹拌機、温度計及び冷却アセンブリを取り付けた1000mlの4つ口フラスコに初めに投入し、窒素下で150℃に加熱する。表1に報告する組成を有する200gの硬質PUフォームを添加し、撹拌しながら溶解する。溶解後に混合物を150℃で2時間撹拌した後、反応温度が150℃を下回らないように30分かけて17gの水を添加した。水の添加後、150℃で3時間撹拌を続けた。続いて、エタノールアミンを150℃及び20mbar未満で留去した。
【0095】
【0096】
実施例3~実施例7:
実施例1とは異なるアミノアルコール及びアミンを用い、それ以外は同じ手順を用いて更なる実験を行った。使用した化学分解試薬を表2にまとめる。
【0097】
【0098】
実施例8:
実施例8は、エタノールアミン、水及び触媒を初めに直接投入し、表1の硬質PUフォームが溶解した後、反応を150℃で4時間行ったこと以外は実施例1に対応する。
【0099】
実施例9:
実施例9は、表1のフォームがエタノールアミンに溶解してから触媒及び水を添加した以外は、実施例8に対応する。次いで、反応を150℃で4時間行った。
【0100】
実施例10:(本発明でない:水の量が少なすぎる)
150gのエタノールアミン及び3gの50%水酸化ナトリウム水溶液を、撹拌機、温度計及び冷却アセンブリを取り付けた500mlの4つ口フラスコに初めに投入し、窒素下で150℃に加熱する。表1に報告する組成を有する150gの硬質PUフォームを添加し、撹拌しながら溶解する。溶解後に混合物を150℃で4時間撹拌した。続いて、エタノールアミンを150℃及び20mbar未満で留去した。
【0101】
実施例11(本発明:実施例10と比較して水を更に添加する)
150gのエタノールアミン及び3gの50%水酸化ナトリウム水溶液を、撹拌機、温度計及び冷却アセンブリを取り付けた500mlの4つ口フラスコに初めに投入し、窒素下で150℃に加熱する。表1に報告する組成を有する150gの硬質PUフォームを添加し、撹拌しながら溶解する。溶解後に混合物を150℃で2時間撹拌した後、反応温度が150℃を下回らないように30分以内に14gの水を添加した。水の添加後、150℃で3時間撹拌を続けた。続いて、エタノールアミンを150℃及び20mbar未満で留去した。
【0102】
【0103】
結果から、エタノールアミン及びN-メチルエタノールアミンがウレタン切断、並びにMDA及び(P)MDAの放出に関して最も効果的であることが示される。アミノ基がウレタン結合の化学的切断に役割を果たし得ないN,N-二置換(第三級)エタノールアミン(実施例3及び実施例5)は、大幅に悪い結果をもたらす。
【0104】
実施例12:
更なるアミノ加水分解実験を軟質フォームに対して行った。表4には、使用した軟質フォームの配合が含まれる。
【0105】
【0106】
300gのエタノールアミン及び3gの炭酸ナトリウムを、撹拌機、温度計及び冷却アセンブリを取り付けた1000mlの4つ口フラスコに初めに投入し、窒素下で150℃に加熱する。表4に報告する組成を有する300gの軟質PUフォームを添加し、撹拌しながら溶解する。溶解後に混合物を150℃で2時間撹拌した後、反応温度が150℃を下回らないように30分以内に18gの水を添加した。水の添加後、150℃で3時間撹拌を続けた。
【0107】
実施例13:r-ポリエーテルポリオールの回収
ポリエーテルポリオールを、実施例12で得られた反応混合物から以下のように回収した(「r-ポリエーテルポリオール」)。
【0108】
反応混合物を3重量部のシクロヘキサンと混合し、激しく均質化した。分液漏斗で混合物を有機シクロヘキサン-ポリエーテル相(少量のTDA及びエタノールアミンを含有する)及びエタノールアミン-TDA相の2相に分離した。有機相を分離し、溶媒を蒸留によって除去することで、r-ポリオールを回収した。
【0109】
r-ポリエーテルポリオールのOH価は64.8mg(KOH)/g、アミン価は16.9mg(KOH)/gであった。実験室規模では、過剰に使用されたエタノールアミン及び化学分解時に放出されたTDAを完全に留去することは必ずしも可能ではなく、これは16.9mg(KOH)/gのアミン価に反映される。アミン価によって補正したr-ポリエーテルポリオールのOH価は、47.9mg(KOH)/gであり、したがって新鮮なArcol 1108で規定された46mg(KOH)/g~50mg(KOH)/gの範囲内である。アミンが効率的な蒸留装置を用いて工業的規模で顕著により良好に分離されることが想定され得る。
【0110】
回収されたr-ポリエーテルポリオールのOH価(OHN)を滴定法によって決定した。これは、ピリジンの存在下においてサンプルを無水酢酸でアセチル化することを含む。ヒドロキシル基1つにつき1モルの酢酸が形成され、過剰な無水酢酸は、2モルの酢酸をもたらす。酢酸の消費は、主要値及び同時に行われるブランク値の間の差から滴定法によって決定される。ヒドロキシル価は、本試験及びブランク試験における0.5N水酸化カリウム溶液の消費ml、更にはサンプルの酸価(AN)及び開始重量を考慮して以下のように算出される:
OHZ/(mg(KOH)・g-1)=((V-V)/ml・28055)/(m/g)+SZ/(mg(KOH)・g-1
ここで、
は、本試験において消費された0.5N水酸化カリウム溶液の体積を表し、
は、ブランク試験において消費された0.5N水酸化カリウム溶液の体積を表し、
mは、滴定したサンプルの質量を表す。
【0111】
酸価も同様に滴定法によって決定した。酸価は、脂肪酸1g中の遊離脂肪酸を中和するのに何mgのKOHが必要とされるかを示す。好適な開始重量をガラスビーカーに秤量し、約100mlの中和エタノールに溶解し、水酸化ナトリウム溶液で終点まで電位差滴定する。酸価は、以下のように決定する:
SZ/(mg(KOH)・g-1)=(V/ml)・[M(KOH)/(g・mol-1)]・[N/(mol・l-1)]・f/(m/g)
ここで、
ANは酸価を表し、
Vは、消費された水酸化ナトリウム溶液の体積を表し、
M(KOH)は、KOHのモル質量(56.11g・mol-1)を表し、
Nは、水酸化ナトリウム溶液の規定度を表し、
fは、水酸化ナトリウム溶液の無次元係数(滴定量)を表し、
mは、滴定したサンプルの質量を表す。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン製品から原料を回収する方法であって、
(A)イソシアネート成分及びポリオール成分をベースとするポリウレタン製品を準備する工程と、
(B)(i)(a)第一級有機アミン若しくは第二級有機アミン、(b)第一級アミノ基若しくは第二級アミノ基を有するアミノアルコール、又は(c)(a)と(b)との混合物から選択されるアミン化学分解試薬、及び(ii)水を用い、(iii)触媒の存在下にて、100℃~195℃の温度及び900mbar(abs.)~2000mbar(abs.)の圧力で、前記ポリウレタン製品を液相中で化学分解して、化学分解生成物を得る工程と、
なお、(1)一方のアミン化学分解試薬及び水と(2)他方のポリウレタン製品との質量比は、0.5~2.5の範囲であり、水の質量は、前記アミン化学分解試薬の質量の3.0%~22%である;
(C)前記化学分解生成物を後処理して、アミン及び/又はポリオールを得る工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程(B)において、前記ポリウレタン製品を、
(I)初めに(1)前記アミン化学分解試薬と混合するが、前記水とはまだ混合しないか、又は(2)前記アミン化学分解試薬及び前記水の第1の部分と混合し、次いで、
(II)前記水(1)又は前記水の第2の部分(2)を添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(II)において、工程(II)中の前記液相の温度が工程(I)における前記液相の温度と最大で20℃異なるように、前記水(1)又は前記水の第2の部分(2)を連続的に又は少量ずつ添加する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(C)が、抽出剤による液液抽出と、前記アミン又は前記アミンの塩を含む第1の生成物相及び前記ポリオールを含む第2の生成物相への相分離とを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記液液抽出の前に、前記化学分解生成物からの前記アミン化学分解試薬の蒸留分離を行う、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記イソシアネート成分がトリレンジイソシアネートを含み、前記抽出剤が、(i)炭化水素又はハロゲン置換炭化水素から選択される有機溶媒と、(ii)水とを含む、請求項又はに記載の方法。
【請求項7】
前記アミンを前記第1の生成物相から蒸留する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記イソシアネート成分が、メチレンジフェニレンジイソシアネート又はメチレンジフェニレンジイソシアネートとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートとの混合物を含み、前記抽出剤が、(i)炭化水素又はハロゲン置換炭化水素から選択される有機溶媒と、(ii)塩酸とを含む、請求項又はに記載の方法。
【請求項9】
(I)前記第1の生成物相をハロゲン置換炭化水素で抽出し、続いて、
(II)第1の水相と第1の有機相とに相分離し、
(III)前記第1の水相を中和し、第2の水相と第2の有機相とに相分離し、
(IV)前記第2の有機相を蒸留及び/又はストリッピングしてアミンを得る、
請求項に記載の方法。
【国際調査報告】