(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー及びその製造方法と適用
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20241128BHJP
C08G 73/06 20060101ALI20241128BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
C08G73/06
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527609
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 CN2022128579
(87)【国際公開番号】W WO2023083035
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】202111329850.2
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510173476
【氏名又は名称】中国科学院▲寧▼波材料技▲術▼▲与▼工程研究所
【氏名又は名称原語表記】NINGBO INSTITUTE OF MATERIALS TECHNOLOGY & ENGINEERING,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.519 Zhuangshi Avenue,Zhenhai District,Ningbo,Zhejiang,315201 CHINA
(71)【出願人】
【識別番号】524175310
【氏名又は名称】寧波杭州湾新材料研究院
【氏名又は名称原語表記】QIANWAN INSTITUTE OF CNITECH
【住所又は居所原語表記】Zhongchuang 1st Road, Zhongchuang Park, Hangzhou Wan District, Ningbo, Zhejiang 315000 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宋育杰
(72)【発明者】
【氏名】高慕尭
(72)【発明者】
【氏名】孔文静
(72)【発明者】
【氏名】劉明
(72)【発明者】
【氏名】陳科
(72)【発明者】
【氏名】黄慶
(72)【発明者】
【氏名】何流
(72)【発明者】
【氏名】黄政仁
【テーマコード(参考)】
4H039
4H048
4J043
【Fターム(参考)】
4H039CA61
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB46
4H048AC43
4H048BA02
4H048BA32
4H048BC34
4H048BD70
4H048BE12
4H048VA20
4H048VA30
4J043PA02
4J043QC02
4J043QC22
4J043RA32
4J043RA33
4J043SA06
4J043SA14
4J043SA47
4J043SA61
4J043SB01
4J043UA171
4J043UB121
4J043UB391
4J043XA03
4J043XA06
4J043XB21
4J043XB27
4J043ZB47
4J043ZB51
(57)【要約】
本出願は、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー及びその製造方法と適用を開示する。前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーの製造方法は、ホウ素源と、フェノール系化合物と、溶媒と、を含む第一の混合反応系を反応させ、B-O構造を含有する化合物を得ることと、前記のB-O構造を含有する化合物と、4-ニトロフタロニトリルと、触媒と、溶媒と、を含む第二の混合反応系を反応させ、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを得ることとを含む。本出願で製造される超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーは、様々な有機溶媒に溶解可能であり、フタロニトリルモノマーの加工性能が向上するとともに、フタロニトリルモノマーから製造される変性フタロニトリル樹脂は、優れた耐高温性と耐焼付性を有し、それは、航空宇宙、軍艦潜水艦、電子パッケージングなどの分野で広範な応用見通しを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーであって、前記フタロニトリルモノマーは、式(I)に示す構造を有し、
ここで、R、R'、R''はいずれも独立して芳香構造から選択されることを特徴とする、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー。
【請求項2】
前記芳香構造は、ベンゼン環及び/又は芳香エーテルを含むことを特徴とする
請求項1に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー。
【請求項3】
前記フタロニトリルモノマーは、式(II)に示す構造を有することを特徴とする
請求項2に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーの製造方法であって、
ホウ素源と、フェノール系化合物と、溶媒と、を含む第一の混合反応系を反応させ、B-O構造を含有する化合物を得ることと、
前記のB-O構造を含有する化合物と、4-ニトロフタロニトリルと、触媒と、溶媒と、を含む第二の混合反応系を反応させ、前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを得ることとを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項5】
フェノール系化合物と第一の溶媒とを混合し、そしてシールドガス雰囲気下でホウ素源を加えて前記第一の混合反応系を形成し、100~160℃で3h反応させ、前記のB-O構造を含有する化合物を得ることを具体的に含むことを特徴とする
請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記のB-O構造を含有する化合物と溶媒とを混合し、さらに4-ニトロフタロニトリル、触媒を加えて、前記第二の混合反応系を形成し、そしてシールドガス雰囲気下で、30~80℃で12~18h反応させ、前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを得ることを具体的に含むことを特徴とする
請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ホウ素源は、ホウ酸及び/又はフェニルボロン酸を含み、
及び/又は、前記フェノール系化合物は、レゾルシン、フロログルシン、ビスフェノール-A、ビスフェノール-F又は1,3,5-ベンゼントリオールのうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含み、
及び/又は、前記触媒は、塩基性触媒を含み、好ましくは、前記塩基性触媒は、炭酸カリウムを含み、
及び/又は、前記溶媒は、N-メチルピロリドンを含むことを特徴とする
請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ホウ素源とフェノール系化合物とのモル比は、10:1~1:10であり、
及び/又は、前記のB-O構造を含有する化合物と、4-ニトロフタロニトリルと、触媒とのモル比は、1:1~4:1~4であることを特徴とする
請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
変性フタロニトリル樹脂の製造方法であって、
請求項1から3のいずれか一項に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを提供することと、
前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤とを硬化反応させ、変性フタロニトリル樹脂を得ることとを含むことを特徴とする、変性フタロニトリル樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記フタロニトリル硬化剤は、有機アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、強有機酸系硬化剤、強有機酸/アンモニウム塩硬化剤、金属塩系硬化剤、金属硬化剤のうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含むことを特徴とする
請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機アミン系硬化剤は、4,4'-(1,4-ベンゼンジオキシ)ビスアニリン硬化剤、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホンのうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含むことを特徴とする
請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤との質量比は、100:(1~30)であることを特徴とする
請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤とを混合し、150~600℃で硬化反応させることを具体的に含むことを特徴とする
請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか一項に記載の方法により製造される変性フタロニトリル樹脂。
【請求項15】
請求項1から3のいずれか一項に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー又は請求項14に記載の変性フタロニトリル樹脂の、航空宇宙、艦船、マイクロエレクトロニクス又は機械製造分野における用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年11月10日に提出された、出願番号が202111329850.2であり、発明の名称が「超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー及びその製造方法と適用」である中国特許出願の優先権に基づくものであり、その優先権を出張している。
本出願は、複合材料技術分野に属し、具体的には、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー及びその製造方法と適用に関する。
【背景技術】
【0002】
フタロニトリル樹脂は、o-フタロニトリル樹脂とも呼ばれ、1980年代、米国海軍実験室のKellerとそのチームが開発した耐高温樹脂である。それは、
図1に示すように、o-フタロニトリル構造を有するモノマーに対してシアノ基の付加架橋を行うことで得られる熱硬化性樹脂である。その他のいくつかの一般的な耐高温樹脂に比べて、フタロニトリル樹脂は、適切な後硬化処理を経て、優れた高温安定性を示しており、空気と窒素ガスの条件下で、分解温度T
5%が500℃以上であり、400℃の場合、ガラス転移温度又は軟化現象は見られず、長期使用温度は372 ℃と高い。付加硬化メカニズムにより、その硬化段階において小さな分子副生成物の生成がなく、得られる樹脂構造が致密で、寸法安定性に優れている。ポリマーは、良好な機械的性能、優れた耐高温性能及び低い吸水率を有し、さらに難燃、低毒性、無煙の特徴を有し、米国軍用規格(MIL-STD-2031))を満たす唯一の特殊な耐火高分子材料であり、航空宇宙、艦船、マイクロエレクトロニクス及び機械製造などの分野で使用可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本出願の主な目的は、従来技術の欠点を克服するために超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー及びその製造方法と適用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前述した発明の目的を実現するために、本出願に用いられる技術的解決手段は以下を含む。
本出願の実施例は、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを提供し、前記フタロニトリルモノマーは、式(I)に示す構造を有し、
ここで、R、R'、R''はいずれも独立して芳香構造から選択される。
本出願の実施例は、前述した超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーの製造方法をさらに提供し、この方法は、
ホウ素源と、フェノール系化合物と、溶媒と、を含む第一の混合反応系を反応させ、B-O構造を含有する化合物を得ることと、
前記のB-O構造を含有する化合物と、4-ニトロフタロニトリルと、触媒と、溶媒と、を含む第二の混合反応系を反応させ、前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを得ることとを含む。
本出願の実施例は、変性フタロニトリル樹脂の製造方法をさらに提供し、この方法は、
前述した超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを提供することと、
前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤とを硬化反応させ、変性フタロニトリル樹脂を得ることとを含む。
本出願の実施例は、前述した方法により製造される変性フタロニトリル樹脂をさらに提供する。
本出願の実施例は、前述した超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー又は前述した変性フタロニトリル樹脂の、航空宇宙、艦船、マイクロエレクトロニクス又は機械製造分野における用途をさらに提供する。
【発明の効果】
【0005】
従来技術に比べて、本出願の有益な効果は以下のとおりである。
(1)本出願は、o-フタロニトリルモノマーに超分岐B-O構造を初めて導入し、且つ合成方法が簡単であり、汎用性を有する。
(2)本出願で製造される超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーは、一般的な有機溶媒に溶解可能であり、フタロニトリルモノマーの加工性が向上した。
(3)本出願は、超分岐ホウ酸又は超分岐ホウ酸誘導体の構造をo-フタロニトリルモノマーに導入し、ホウ素の導入により、樹脂の耐焼付性と耐高温性を向上させた。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本出願の従来技術におけるo-フタロニトリル構造を有するモノマーに対してシアノ基の付加架橋を行うことで熱硬化性樹脂を得る概略図である。
【
図2】本出願の実施例3で製造される超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーのFTIR図である。
【
図3】本出願の実施例5で製造される変性フタロニトリル樹脂のTGA図である。
【
図4】本出願の実施例5で製造される変性フタロニトリル樹脂のPCFC曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本出願の実施例又は従来技術における技術的解決手段をより明瞭に説明するために、以下は、実施例又は従来技術の記述において使用される必要がある添付図面を簡単に紹介する。自明なことに、以下の記述における添付図面は、ただ本出願に記載のいくつかの実施例に過ぎず、当業者にとって、創造的な労力を払わない前提で、それらの添付図面に基づき、他の添付図面を取得することもできる。
【0008】
従来技術の欠陥に鑑み、本出願の発明者らは、長期の検討と大量の実践を経て、本出願の技術的解決手段を提出した。以下は、本出願の技術的解決手段を明瞭且つ完全に記述する。明らかに、記述された実施例は、本出願の一部の実施例であり、全部の実施例ではない。本出願における実施例に基づき、当業者が創造的な労力を払わない前提で得られたすべての他の実施例は、いずれも本出願の保護範囲に属する。
【0009】
具体的には、本出願の技術的解決手段の一態様として、それに係る超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーは、式(I)に示す構造を有し、
ここで、R、R'、R''はいずれも独立して芳香構造から選択される。
【0010】
さらに、前記芳香構造は、ベンゼン環及び/又は芳香エーテルを含み、且つそれらに限らない。
【0011】
いくつかの好適な実施案において、前記フタロニトリルモノマーは、式(II)に示す構造を有する。
さらに、前記フタロニトリルモノマーの分子構造に超分岐ホウ酸構造が含有され、又は超分岐ホウ酸誘導体の構造が含有される。
【0012】
本出願の実施例の別の態様によれば、前述した超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーの製造方法をさらに提供し、この方法は、
ホウ素源と、フェノール系化合物と、溶媒と、を含む第一の混合反応系を反応させ、B-O構造を含有する化合物を得ることと、
前記のB-O構造を含有する化合物と、4-ニトロフタロニトリルと、触媒と、溶媒と、を含む第二の混合反応系を反応させ、前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを得ることとを含む。
【0013】
いくつかの好適な実施案において、前記製造方法は、フェノール系化合物と第一の溶媒とを混合し、そしてシールドガス雰囲気下でホウ素源を加えて前記第一の混合反応系を形成し、100~160℃で3h反応させ、前記のB-O構造を含有する化合物を得ることを具体的に含む。
【0014】
いくつかの好適な実施案において、前記製造方法は、前記のB-O構造を含有する化合物と溶媒とを混合し、さらに4-ニトロフタロニトリル、触媒を加えて、前記第二の混合反応系を形成し、そしてシールドガス雰囲気下で、30~80℃で12~18h反応させ、前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを得ることを具体的に含む。
【0015】
いくつかの好適な実施案において、前記ホウ素源は、ホウ酸及び/又はフェニルボロン酸を含み、且つそれらに限らない。
【0016】
さらに、前記フェノール系化合物は、レゾルシン、フロログルシン、ビスフェノール-A、ビスフェノール-F又は1,3,5-ベンゼントリオールのうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含み、且つそれらに限らない。
【0017】
さらに、前記触媒は、塩基性触媒を含み、且つそれに限らない。
【0018】
よりさらに、前記塩基性触媒は、炭酸カリウムを含み、且つそれに限らない。
【0019】
さらに、前記溶媒は、N-メチルピロリドンを含み、且つそれに限らない。
【0020】
いくつかの好適な実施案において、前記ホウ素源とフェノール系化合物とのモル比は、10:1~1:10である。
【0021】
さらに、前記のB-O構造を含有する化合物と、4-ニトロフタロニトリルと、触媒とのモル比は、1:1~4:1~4である。
【0022】
本出願の実施例の別の態様によれば、変性フタロニトリル樹脂の製造方法をさらに提供し、この方法は、
前述した超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを提供することと、
前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤とを硬化反応させ、変性フタロニトリル樹脂を得ることとを含む。
【0023】
いくつかの好適な実施案において、前記フタロニトリル硬化剤は、有機アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、強有機酸系硬化剤、強有機酸/アンモニウム塩硬化剤、金属塩系硬化剤、金属硬化剤のうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含み、且つそれらに限らない。
【0024】
さらに、前記有機アミン系硬化剤は、4,4'-(1,4-ベンゼンジオキシ)ビスアニリン硬化剤、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホンのうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含み、且つそれらに限らない。
【0025】
いくつかの好適な実施案において、前記製造方法は、前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤とを混合し、150~600℃で硬化反応させることを具体的に含む。
【0026】
いくつかのより具体的な実施案において、前記のB-O構造を含有する化合物は、ホウ酸とフェノール系化合物との反応により得られる。
【0027】
さらに、ホウ酸とレゾルシンとを10:1から1:10のモル比で仕込み、N-メチルピロリドン(NMP)を溶媒として選択し、不活性ガス雰囲気下で、100~160℃で3h反応させ、B-O構造を含有する化合物を得る。
【0028】
いくつかのより具体的な実施案において、前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーは、前記のB-O構造を含有する化合物と4-ニトロフタロニトリルとの反応により得られ、ホウ素源がo-フタロニトリルモノマーに導入される。
【0029】
さらに、炭酸カリウムを塩基性触媒とし、N-メチルピロリドンなどを溶媒とし、前記のB-O構造を含有する化合物(前記のB-O構造を含有する化合物は、-OH構造を含有する)と4-ニトロフタロニトリルを原料とし、不活性ガス雰囲気下で、30~80℃で12~18h反応させ、超分岐B-O構造を含有するo-フタロニトリルモノマー(即ち、前述した「超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー」である)を得る。
【0030】
いくつかのより具体的な実施案において、前記変性フタロニトリル樹脂は、超分岐B-O構造を含有するo-フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤とを混合し、一定の条件下で硬化することで得られるものである。
【0031】
さらに、フタロニトリル樹脂の硬化条件は、150℃から600℃まで勾配的に昇温することである。
【0032】
本出願の実施例の別の態様によれば、前述した方法により製造される変性フタロニトリル樹脂をさらに提供する。
【0033】
本出願では、前記フタロニトリルモノマーは、一般的な有機溶媒、例えばテトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、ジクロロメタン、N-メチルピロリドン溶媒などに溶解可能であり、良好な加工性を有し、製造により得られる樹脂は、高温後硬化されていない場合、熱安定性T5%=411℃であり、1000℃での残炭率が45.68%である。熱酸化安定性T5%=411℃であり、良好な耐熱性を有し、該樹脂の熱放出ピーク値は、低く、総熱放出は小さく、変性フタロニトリル樹脂が良い耐焼付性を有することが示される。
【0034】
本出願では、変性フタロニトリル樹脂におけるホウ素は、熱分解過程において炭化物の表面に断熱防護層を形成し、ホウ素原子の電子欠乏性は熱分解過程において隣接する炭素原子から電子を吸引することにより、炭素原子と再配列された炭素骨格構造との間の共有結合が切断される。その結果、アモルファスカーボンがより規則的な黒鉛炭素構造に変化することによって、樹脂の熱分解率が低下した。
【0035】
本出願の実施例の別の態様によれば、前述した超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー又は前述した変性フタロニトリル樹脂の、航空宇宙、艦船、マイクロエレクトロニクス又は機械製造分野における用途をさらに提供する。
【0036】
以下では、複数の好適な実施例及び添付図面を参照しながら、本出願の技術的解決手段をさらに詳しく説明し、本実施例は発明の技術的解決手段を前提として実施し、詳細な実施形態と具体的な操作過程を示したが、本出願の保護範囲は、下記の実施例に限らない。
【0037】
以下の実施例で採用される実験材料は、特に説明しない限り、通常の生化学試薬会社が購入することができる。
【0038】
実施例1
本実施例では、ホウ酸、レゾルシン及び4-ニトロフタロニトリルモノマーを原料として、フタロニトリルモノマーを製造した。これらの原料はいずれも市販などの方法で入手できる。製造方法は以下のとおりである。
【0039】
(1)33.033gのレゾルシン(0.3mol)に150mLのNMPを加え、60℃で撹拌して溶解させた。
【0040】
(2)N2を注ぎ、パージを行った。
【0041】
(3)6.183gのホウ酸(0.1mol)を加え、N2雰囲気下で、100℃で3h反応させた。
【0042】
(4)続いて、55.28gのK2CO3(0.4mol)と17.313gの4-ニトロフタロニトリル(0.1mol)を系に加え、N2雰囲気下で、30℃で18h反応させた。
【0043】
(5)水洗いにより系における不純物を除去した。
【0044】
(6)生成物をオーブンに置き、80℃で12h乾燥し、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーである粉末状サンプルを得た。
【0045】
実施例2
本実施例では、ホウ酸、レゾルシン及び4-ニトロフタロニトリルモノマーを原料として、フタロニトリルモノマーを製造した。これらの原料はいずれも市販などの方法で入手できる。製造方法は以下のとおりである。
【0046】
(1)33.033gのレゾルシン(0.3mol)に150mLのNMPを加え、60℃で撹拌して溶解させた。
【0047】
(2)N2を注ぎ、パージを行った。
【0048】
(3)6.183gのホウ酸(0.1mol)を加え、N2雰囲気下で、130℃で3h反応させた。
【0049】
(4)続いて、49.754gのK2CO3(0.36mol)と69.252gの4-ニトロフタロニトリル(0.4mol)を系に加え、N2雰囲気下で、50℃で15h反応させた。
【0050】
(5)水洗いにより系における不純物を除去した。
【0051】
(6)生成物をオーブンに置き、80℃で12h乾燥し、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーである粉末状サンプルを得た。
【0052】
実施例3
本実施例では、ホウ酸、レゾルシン及び4-ニトロフタロニトリルモノマーを原料として、フタロニトリルモノマーを製造した。これらの原料はいずれも市販などの方法で入手できる。製造方法は以下のとおりである。
【0053】
(1)33.033gのレゾルシン(0.3mol)に150mLのNMPを加え、60℃で撹拌して溶解させた。
【0054】
(2)N2を注ぎ、パージを行った。
【0055】
(3)6.183gのホウ酸(0.1mol)を加え、N
2雰囲気下で、160℃で3h反応させ、トリス- (3-ヒドロキシフェニル)ホウ酸エステルを得、反応式は下記式に示すとおりである。
【0056】
(4)続いて、49.754gのK2CO3(0.36mol)と51.939gの4-ニトロフタロニトリル(0.3mol)を系に加え、N2雰囲気下で、80℃で12h反応させた。
【0057】
(5)水洗いにより系における不純物を除去した。
【0058】
(6)生成物をオーブンに置き、80Cで12h乾燥し、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー(モノマーの溶解性は表1に示すとおりである)である濃緑色の粉末を得、反応式は下記式に示すとおりである。
実施例4
本実施例では、フェニルボロン酸、レゾルシン及び4-ニトロフタロニトリルモノマーを原料として、フタロニトリルモノマーを製造した。これらの原料はいずれも市販などの方法で入手できる。製造方法は以下のとおりである。
【0059】
(1)22.022gのレゾルシン(0.2mol)に150mLのNMPを加え、60℃で撹拌して溶解させた。
【0060】
(2)N2を注ぎ、パージを行った。
【0061】
(3)12.193gのフェニルボロン酸(0.1mol)を加え、N
2雰囲気下で、120℃で3h反応させ、ビス- (3-ヒドロキシフェニル)フェニルボロン酸エステルを得た。
(4)続いて、49.754gのK
2CO
3(0.36mol)と34.626gの4-ニトロフタロニトリル(0.2mol)を系に加え、N
2雰囲気下で、50℃で15h反応させた。
【0062】
(5)水洗いにより系における不純物を除去した。
【0063】
(6)生成物をオーブンに置き、80℃で12h乾燥し、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーである粉末状サンプルを得た。
【0064】
【0065】
実施例5
本実施例では、フェニルボロン酸、レゾルシン及び4-ニトロフタロニトリルモノマーを原料として、フタロニトリルモノマーを製造した。これらの原料はいずれも市販などの方法で入手できる。製造方法は以下のとおりである。
【0066】
(1)22.022gのレゾルシン(0.2mol)に150mLのNMPを加え、60℃で撹拌して溶解させた。
【0067】
(2)N2を注ぎ、パージを行った。
【0068】
(3)12.193gのフェニルボロン酸(0.1mol)を加え、N2雰囲気下で、120℃で3h反応させた。
【0069】
(4)続いて、13.821gのK2CO3(0.1mol)と34.626gの4-ニトロフタロニトリル(0.2mol)を系に加え、N2雰囲気下で、50℃で15h反応させた。
【0070】
(5)水洗いにより系における不純物を除去した。
【0071】
(6)生成物をオーブンに置き、80℃で12h乾燥し、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーである粉末状サンプルを得た。
【0072】
性能の表現:
図1は、本出願の従来技術におけるo-フタロニトリル構造を有するモノマーに対してシアノ基の付加架橋を行うことで熱硬化性樹脂を得る概略図である。
【0073】
図2は、実施例3で製造された超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーのFTIR構造の表現であり、新たに生成された芳香エーテル結合のピーク1250 cm
-1が現われ、超分岐ホウ酸構造を含有するフタロニトリルモノマーの製造に成功したことが示された。
【0074】
図3は、実施例5で製造された性変性フタロニトリル樹脂のTGA結果であり、該樹脂について、空気雰囲気において、T
5%=413℃であり、アルゴンガス雰囲気において、T
5%=411℃であることが示されており、このような新型変性フタロニトリル樹脂が良好な熱安定性を有することを表した。
【0075】
図4は、実施例5で製造された変性フタロニトリル樹脂のPCFC曲線であり、その結果は、該樹脂の熱放出ピーク値が低く、総熱放出が小さく、変性フタロニトリル樹脂が良い耐焼付性を有することが示された。
【0076】
実施例6
本実施例では、フェニルボロン酸、ビスフェノールA及び4-ニトロフタロニトリルモノマーを原料として、フタロニトリルモノマーを製造した。これらの原料はいずれも市販などの方法で入手できる。製造方法は以下のとおりである。
【0077】
(1)68.4gのビスフェノールA(0.3mol)に150mLのNMPを加え、60℃で撹拌して溶解させた。
【0078】
(2)N2を注ぎ、パージを行った。
【0079】
(3)12.193gのフェニルボロン酸(0.1mol)を加え、N2雰囲気下で、120℃で3h反応させた。
【0080】
(4)続いて、49.754gのK2CO3(0.36mol)と34.626gの4-ニトロフタロニトリル(0.4mol)を系に加え、N2雰囲気下で、50℃で15h反応させた。
【0081】
(5)水洗いにより系における不純物を除去した。
【0082】
(6)生成物をオーブンに置き、80℃で12h乾燥し、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーである粉末状サンプルを得た。
【0083】
実施例7
本実施例における超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーは、実施例3により得られ、それと硬化剤とを混合し、変性フタロニトリル樹脂を製造した。具体的な方法は以下のとおりである。
【0084】
4gの超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーと0.4gの4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン硬化剤を15mLのアセトンに溶解し、均一に混合し、そして余分な溶媒を除去し、そして混合体をモールドに置き、真空オーブンに入れ、残りの溶媒を除去した。
【0085】
混合系を150℃、2hと、180℃、2hと、220℃、2hと、260℃、2hと、280℃、2hとの硬化プロセスに応じて硬化処理し、変性フタロニトリル樹脂を得た。
【0086】
実施例8
本実施例における超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーは、実施例3により得られ、それと硬化剤とを混合し、変性フタロニトリル樹脂を製造した。具体的な方法は以下のとおりである。
【0087】
4gの超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーと0.4gの4,4'-(1,4-ベンゼンジオキシ)ビスアニリン硬化剤を15mLのアセトンに溶解し、均一に混合し、そして余分な溶媒を除去し、そして混合体をモールドに置き、真空オーブンに入れ、残りの溶媒を除去した。
【0088】
混合系を150℃、2hと、180℃、2hと、220℃、2hと、260℃、2hと、280℃、2hとの硬化プロセスに応じて硬化処理し、変性フタロニトリル樹脂を得た。
【0089】
要するに、従来のo-フタロニトリルモノマーに比べて、本出願で製造された新型モノマーは、良好な溶解度を有する。得られた変性フタロニトリル樹脂は、高温に耐えられ、焼付に耐えられるという利点を有する。
【0090】
なお、本出願の発明者らは、前述した実施例をさらに参照しながら、本明細書に言及した他の原料、プロセス操作、プロセス条件で試験を行っており、すべて理想的な結果を得た。
【0091】
理解すべきこととして、本出願の技術的解決手段は、上記具体的な実施案に制限されず、本出願の趣旨や請求の範囲が保護する範囲から逸脱しない限り、本出願の技術的解決手段に基づいて行われる技術的変形は、いずれも本出願の保護範囲に入っている。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーであって、前記フタロニトリルモノマーは、式(I)に示す構造を有し、
ここで、R、R'、R''はいずれも独立して芳香構造から選択されることを特徴とする、超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー。
【請求項2】
前記芳香構造は、ベンゼン環及び/又は芳香エーテルを含むことを特徴とする
請求項1に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー。
【請求項3】
前記フタロニトリルモノマーは、式(II)に示す構造を有することを特徴とする
請求項2に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーの製造方法であって、
ホウ素源と、フェノール系化合物と、溶媒と、を含む第一の混合反応系を反応させ、B-O構造を含有する化合物を得ることと、
前記のB-O構造を含有する化合物と、4-ニトロフタロニトリルと、触媒と、溶媒と、を含む第二の混合反応系を反応させ、前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを得ることとを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項5】
フェノール系化合物と第一の溶媒とを混合し、そしてシールドガス雰囲気下でホウ素源を加えて前記第一の混合反応系を形成し、100~160℃で3h反応させ、前記のB-O構造を含有する化合物を得ることを具体的に含むことを特徴とする
請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記のB-O構造を含有する化合物と溶媒とを混合し、さらに4-ニトロフタロニトリル、触媒を加えて、前記第二の混合反応系を形成し、そしてシールドガス雰囲気下で、30~80℃で12~18h反応させ、前記超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを得ることを具体的に含むことを特徴とする
請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ホウ素源は、ホウ酸及び/又はフェニルボロン酸を含み、
及び/又は、前記フェノール系化合物は、レゾルシン、フロログルシン、ビスフェノール-A、ビスフェノール-F又は1,3,5-ベンゼントリオールのうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含み、
及び/又は、前記触媒は、塩基性触媒を含み、好ましくは、前記塩基性触媒は、炭酸カリウムを含み、
及び/又は、前記溶媒は、N-メチルピロリドンを含むことを特徴とする
請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ホウ素源とフェノール系化合物とのモル比は、10:1~1:10であり、
及び/又は、前記のB-O構造を含有する化合物と、4-ニトロフタロニトリルと、触媒とのモル比は、1:1~4:1~4であることを特徴とする
請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
変性フタロニトリル樹脂の製造方法であって、
請求項1から3のいずれか一項に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマーを提供することと、
前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤とを硬化反応させ、変性フタロニトリル樹脂を得ることとを含むことを特徴とする、変性フタロニトリル樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記フタロニトリル硬化剤は、有機アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、強有機酸系硬化剤、強有機酸/アンモニウム塩硬化剤、金属塩系硬化剤、金属硬化剤のうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含むことを特徴とする
請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機アミン系硬化剤は、4,4'-(1,4-ベンゼンジオキシ)ビスアニリン硬化剤、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホンのうちのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせを含むことを特徴とする
請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤との質量比は、100:(1~30)であることを特徴とする
請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記フタロニトリルモノマーとフタロニトリル硬化剤とを混合し、150~600℃で硬化反応させることを具体的に含むことを特徴とする
請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項
9に記載の方法により製造される変性フタロニトリル樹脂。
【請求項15】
請求項1から3のいずれか一項に記載の超分岐ホウ酸変性フタロニトリルモノマ
ーの、航空宇宙、艦船、マイクロエレクトロニクス又は機械製造分野における用途。
【請求項16】
請求項14に記載の変性フタロニトリル樹脂の、航空宇宙、艦船、マイクロエレクトロニクス又は機械製造分野における用途。
【国際調査報告】