(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】血小板の品質を改善する新しい方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241128BHJP
A61K 38/45 20060101ALI20241128BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20241128BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20241128BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241128BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20241128BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20241128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K38/45
A61P7/00
A61P7/04
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/54
C12Q1/06
C12N5/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528505
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 CN2022131812
(87)【国際公開番号】W WO2023083361
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】202111346275.7
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522293490
【氏名又は名称】シャンハイ シンヴィダ バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジュンリン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,シュエメイ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ26
4B063QS28
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4B065CA46
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4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084DC25
4C084NA14
4C084ZA51
4C084ZA53
4C084ZC19
4C084ZC20
(57)【要約】
本発明は、血小板の品質を改善するための方法である。本発明は、血小板ミトコンドリアの内膜に位置するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT2)分子が、血小板の生存、調製および保存の品質にとって重要であり、CPT2タンパク質の発現量および/または活性の低下は、血小板の品質に深刻な影響を及ぼし、当該タンパク質の正常または高発現は、血小板の品質を改善することを明らかにし、CPT2タンパク質に直接的および間接的に影響を与えるか、またはそれを修飾することによって、血小板に対するCPT2の効果を複数の角度から検証し、そして、血小板の生存度の維持に重要な役割を果たす経路および内因性または外因性の分子を発見した。CPT2自体またはそのアップレギュレーターは、血小板の生存度を維持または改善し、血小板の保存品質を維持または改善するために使用できる;CPT2又はそれが関与するシグナル伝達経路を標的とし、血小板の生存度を調節したり、血小板の保存品質を改善したりする物質をスクリーニングすることもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIまたはそのアップレギュレーターが組成物の調製における応用、前記の組成物は、以下の機能を有する:(1)血小板の生存度を維持または向上すること、(2)血小板の保存品質を維持または向上すること、(3)血小板アポトーシスを減少すること、(4)血小板の寿命を延長することおよび/または(5)血小板の数量を向上すること。
【請求項2】
前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターは、
(a)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下する物質;(b)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII活性を向上する物質;(c)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの発現、安定性または有効な効果時間を向上する物質
から選べられるの一つまたは複数を含むことを特徴とする請求項1記載される応用。
【請求項3】
前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターは、
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトを標的にして、当該サイトのアセチル化を弱めるか失う試薬;好ましくは、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下する物質は、タンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、CPT2特異性を有する;好ましくは、前記のアセチル化サイトは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジンである;好ましくは、前記の試薬は、部位特異的突然変異誘発試薬または部位特異的修飾試薬を含む;好ましくは、前記のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターは、遺伝子編集、遺伝子ノックアウト、siRNA、microRNA、または小分子ダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3またはその活性化剤である;
CPT1阻害剤;好ましくは、前記のCPT1阻害剤は、CPT1自己阻害剤、上流AMPK阻害剤、ACCアゴニストを含む;好ましくは、前記のCPT1阻害剤は、Malonyl-CoA、Etomoxir、Perhexiline maleate、Dorsomorphin 2HClである;
タンパク質アセチル化阻害剤;好ましくはリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤、またはその活性化剤または発現アップレギュレーターを含む;好ましくは、前記のリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤は、tip60阻害剤またはp300阻害剤を含む;好ましくは、前記のミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3を含む;好ましくは、SIRT3の活性化剤は、NAD[+]前駆体の濃度を向上する試薬またはNAMPT酵素活性を向上する試薬を含む;好ましくは、前記のNAD[+]前駆体の濃度を向上する試薬は、ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボシドを含む;好ましくは、前記のNAMPT酵素活性を向上する試薬は、P7C3、SBI-797812を含む;
AMPK阻害剤;好ましくは、Dorsomorphin 2HClを含む;
酸化防止剤;好ましくは、N-アセチルシステイン、メスナまたはグルタチオンを含む;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを組換え発現するための発現コンストラクト;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子プロモーターの駆動能力を促進するアップレギュレーター;または
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子特異性microRNAのダウンレギュレーター;
から選べられるの一つまたは複数を含むことを特徴とする請求項2記載される応用。
【請求項4】
血小板を保存する際に、以下から選べられる処理を行うことを含むことを特徴とする生体外で血小板を保存するおよび/または生体外で保存された血小板の品質を向上する方法:(a)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下すること;(b)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII活性を向上すること;(c)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの発現、安定性または有効な効果時間を向上すること;または(d)活性を有するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを添加すること。
【請求項5】
以下から選べられるのカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターを使用して処理することを特徴とする請求項4に記載の方法。
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトを標的にして、当該サイトのアセチル化を弱めるか失う試薬;好ましくは、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下する物質は、タンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、CPT2特異性を有する;好ましくは、前記のアセチル化サイトは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジンである;好ましくは、前記の試薬は、部位特異的突然変異誘発試薬または部位特異的修飾試薬を含む;好ましくは、前記のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターは、遺伝子ノックアウト、siRNA、microRNA、または小分子ダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3またはその活性化剤である;
CPT1阻害剤;好ましくは、前記のCPT1阻害剤は、CPT1自己阻害剤、上流AMPK阻害剤、ACCアゴニストを含む;好ましくは、前記のCPT1阻害剤は、Malonyl-CoA、Etomoxir、Perhexiline maleate、Dorsomorphin 2HClである;
タンパク質アセチル化阻害剤;好ましくはリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤、またはその活性化剤または発現アップレギュレーターを含む;好ましくは、前記のリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤は、tip60阻害剤またはp300阻害剤を含む;好ましくは、前記のミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3を含む;好ましくは、SIRT3の活性化剤は、NAD[+]前駆体の濃度を向上する試薬またはNAMPT酵素活性を向上する試薬を含む;好ましくは、前記のNAD[+]前駆体の濃度を向上する試薬は、ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボシドを含む;好ましくは、前記のNAMPT酵素活性を向上する試薬は、P7C3、SBI-797812を含む;
AMPK阻害剤;好ましくは、Dorsomorphin 2HClを含む;
酸化防止剤;好ましくは、N-アセチルシステイン、メスナまたはグルタチオンを含む;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを組換え発現するための発現コンストラクト;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子プロモーターの駆動能力を促進するアップレギュレーター;または
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子特異性microRNAのダウンレギュレーター。
【請求項6】
以下の一つまたは複数機能を有する組成物:(1)血小板の生存度を維持または向上すること、(2)血小板の保存品質を維持または向上すること、(3)血小板のアポトーシスを減少すること、(4)血小板の寿命を延長することおよび/または(5)血小板の数量を向上すること;前記の組成物は、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターを含み、以下から選べられるの一つまたは複数を含む:(a)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下する物質;(b)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII活性を向上する物質;(c)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの発現、安定性または有効な効果時間を向上する物質;好ましくは、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターは、以下から選べられるの一つまたは複数を含む:
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトを標的にして、当該サイトのアセチル化を弱めるか失う試薬;好ましくは、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下する物質は、タンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、CPT2特異性を有する;好ましくは、前記のアセチル化サイトは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジンである;好ましくは、前記の試薬は、部位特異的突然変異誘発試薬または部位特異的修飾試薬を含む;好ましくは、前記のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターは、遺伝子編集、遺伝子ノックアウト、siRNA、microRNA、または小分子ダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3またはその活性化剤である;
CPT1阻害剤;好ましくは、前記のCPT1阻害剤は、CPT1自己阻害剤、上流AMPK阻害剤、ACCアゴニストを含む;好ましくは、前記のCPT1阻害剤は、Malonyl-CoA、Etomoxir、Perhexiline maleate、Dorsomorphin 2HClである;
タンパク質アセチル化阻害剤;好ましくはリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤、またはその活性化剤または発現アップレギュレーターを含む;好ましくは、前記のリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤は、tip60阻害剤またはp300阻害剤を含む;好ましくは、前記のミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3を含む;好ましくは、SIRT3の活性化剤は、NAD[+]前駆体の濃度を向上する試薬またはNAMPT酵素活性を向上する試薬を含む;好ましくは、前記のNAD[+]前駆体の濃度を向上する試薬は、ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボシドを含む;好ましくは、前記のNAMPT酵素活性を向上する試薬は、P7C3、SBI-797812を含む;
AMPK阻害剤;好ましくは、Dorsomorphin 2HClを含む;
酸化防止剤;好ましくは、N-アセチルシステイン、メスナまたはグルタチオンを含む;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを組換え発現するための発現コンストラクト;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子プロモーターの駆動能力を促進するアップレギュレーター;または
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子特異性microRNAのダウンレギュレーター。
【請求項7】
タンパク質アセチル化阻害剤、酸化防止剤とCPT1阻害剤を含むことを特徴とする請求項6に記載の組成物;
好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、ニコチンアミドモノヌクレオチドであり、前記の酸化防止剤は、N-アセチルシステインであり、前記のCPT1阻害剤は、AMPK阻害剤である;
より好ましくは、前記のニコチンアミドモノヌクレオチド、N-アセチルシステインとAMPK阻害剤は、モル比で、(50~500):(500~5000):1である;より好ましくは、(80~300):(800~3000):1である;
より好ましくは、血小板または血小板を含有する物質中の前記のニコチンアミドモノヌクレオチドの添加濃度は、0.1~5000uMである;または、血小板または血小板を含有する物質中の前記のN-アセチルシステインの添加濃度は、1~50000uMである;または、血小板または血小板を含有する物質中の前記のAMPK阻害剤の添加濃度は、0.8~40000nMである。
【請求項8】
請求項6または7に記載の組成物を含有するキット。
【請求項9】
(1)血小板の生存度を維持または向上すること;(2)血小板の保存品質を維持または向上すること;(3)血小板のアポトーシスを減少すること;(4)血小板の寿命を延長することおよび/または(5)血小板の数量を向上すること;における請求項6または7に記載の組成物または請求項8に記載のキットの応用。
【請求項10】
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの、以下から選べられるの機能を有する薬物のスクリーニングにおける応用:(1)血小板の生存度を維持または向上すること;(2)血小板の保存品質を維持または向上すること;(3)血小板のアポトーシスを減少すること;(4)血小板の寿命を延長することおよび/または(5)血小板の数量を向上すること。
【請求項11】
(1)候補物質でカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを発現する発現システムを処理すること;及び、
(2)前記のシステムからカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを検出し、前記の候補物質には、以下から選べられるの性能が存在すると、当該候補物質は、所望の薬物であることを示す:
(i)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトにおけるアセチル化の弱めまたは失い;好ましくは、前記のアセチル化サイトは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジンである;
(ii) カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの発現の向上;または
(iii) カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの活性の向上
ことを含む、血小板の生存度を維持または向上し、血小板の保存品質を維持または向上する薬物をスクリーニングする方法。
【請求項12】
血小板またはその前駆体は、外因性のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIまたはそのアップレギュレーターに形質転換されることを特徴とする遺伝子工学的に改変された血小板またはその前駆体;好ましくは、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターは、以下の一つまたは複数を含む:
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトを標的にして、当該サイトのアセチル化を弱めるか失う試薬;好ましくは、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下する物質は、タンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のアセチル化サイトは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジンである;好ましくは、前記の試薬は、部位特異的突然変異誘発試薬または部位特異的修飾試薬を含む;好ましくは、前記のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターは、遺伝子ノックアウト、siRNA、microRNA、または小分子ダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3またはその活性化剤である;
タンパク質アセチル化阻害剤;好ましくはリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤、またはその活性化剤または発現アップレギュレーターを含む;好ましくは、前記のミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3を含む;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを組換え発現するための発現コンストラクト;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子プロモーターの駆動能力を促進するアップレギュレーター;または
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子特異性microRNAのダウンレギュレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月15日に提出された中国出願番号202111346275.7の優先権を主張する。
技術分野
本発明は、生物医薬分野に属し、より具体的に、本発明は、血小板の品質を改善する新しい方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板は、哺乳動物の血液中にある独特の血液細胞であり、核を持たず、ミトコンドリア、顆粒、リソソームなどの細胞内構造を含み、造血幹細胞の指向性増殖によって進化する。各血小板の寿命は非常に短く、体内の血液循環における血小板の寿命は約7~14日で、血小板のライフサイクルを終えて老化すると、脾臓と肝臓が古い血小板を除去する。
【0003】
ヒトの末梢血中の血小板数は、通常の状況では、約1~3×1011で、末梢血中の血小板数を一定に維持することが、非常に重要である。患者が全身性抗凝固療法、外傷性手術、致命的な出血、化学療法、放射線療法による血小板減少症、または感染症、免疫性血小板減少症、またはその他の出血性疾患の発症を罹患する場合、血液循環中の血小板の数量が減少し、末梢血血小板の数が2×1010未満になると、重度の出血が発生する恐れがある。この際に、制御不能な出血の可能性を防ぐため、または出血時間を修正するために、患者に血小板を輸血する必要がある。しかし、臨床的な個体差により、生体内または生体外での血小板の寿命と品質は、大きく異なり、なお、アフェレーシス血小板の輸血は、現在重要な臨床治療法となっており、アフェレーシス血小板の供給は需要を上回っている。
【0004】
現在、臨床で使用される血小板は、主に単一成分献血によって得られ、血小板を、アフェレーシス献血装置によって選択的に収集する。この装置は、ドナーの血液を採取し、装置内で、他の血球から血小板を分離し、そして、濃縮された血小板を多く含む血漿を、保存バッグに収集し、血液の他の成分を、ドナーの体内に再注入する。
【0005】
ただし、血小板は、環境に非常に敏感であり、保存方法の1つとしては、血小板にグリセロールと DMSOを加えて凍結血小板を調製し、-80℃で保存し、使用時に解凍する方法であるが、解凍後の血小板製品に、不可逆的なフィブリン沈殿が綿状に生じる可能性があり、これは、血小板が、すでに活性化された状態にあることを示し、凍結血小板は、主に緊急血小板輸血に使用され、即時止血が必要な場合に使用される。研究によると、凍結保存すると、血小板膜に不可逆的な変化が起こり、その結果、血小板は、輸血後に肝臓および脾臓のマクロファージによって迅速に貪食され、除去される。したがって、血小板の保存温度は、輸血後の循環系での血小板の生存にとって非常に重要である。上記の欠点により、凍結血小板の広範な臨床応用は、制限される。さらに、アフェレーシス血小板の有効期間は、わずか5日間であり、血小板自体の老化と代謝が、その老化、アポトーシス、病理学的死亡に影響を及ぼし、さらに、血小板輸血の初期段階では、血液型検査と病原微生物検査が必要で、その結果、臨床使用可能期間は非常に短く、輸血された血小板の生存度は非常に低くなる。したがって、この分野では、血小板の寿命と品質を改善する方法が緊急に必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、血小板の生存度または品質を調節する新しい標的、即ち、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT2)分子を提供することである;本発明の目的は、直接または間接的に当該標的に作用する調節分子、及びそれらの応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の様態では、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT2)またはそのアップレギュレーターが組成物の調製における応用を提供し、前記の組成物は、以下の機能を有する:(1)血小板の生存度を維持または向上すること、(2)血小板の保存品質を維持または向上すること、(3)血小板アポトーシスを減少すること、(4)血小板の寿命を延長することおよび/または(5)血小板の数量を向上すること。
【0008】
一つまたは複数の実施形態において、前記のCPT2の機能障害が、脂肪酸代謝障害を引き起こし、血小板の活性、品質、数量および/または寿命に影響を及ぼし、そのアップレギュレーターが、この状况を緩和または改善する。
【0009】
一つまたは複数の実施形態において、前記の脂肪酸代謝障害は、時間の経過とともに長鎖脂肪族アシルカルニチン(C16:0、C18:0)が蓄積することを含む。
【0010】
一つまたは複数の実施形態において、前記の脂肪酸代謝障害は、血小板血漿中に存在する脂肪族アシルカルニチン濃度の上昇を含む。
【0011】
一つまたは複数の実施形態において、前記の血小板は、分離血小板または生体内血小板である。
【0012】
一つまたは複数の実施形態において、前記の血小板は、哺乳動物から由来する血小板、例えばヒト血小板、マウス血小板、サル血小板または人工血小板である。
【0013】
一つまたは複数の実施形態において、前記の血小板は、多血小板血漿(PRP)である。
【0014】
一つまたは複数の実施形態において、前記の血小板は、常温および/または冷蔵保存の血小板である。
【0015】
一つまたは複数の実施形態において、前記の血小板アポトーシスを減少することとは、前記の組成物を投与する後の血小板サンプル中のアポトーシス血小板の数量百分比A1は、前記の組成物を投与しない血小板サンプル中のアポトーシス血小板の数量百分比A0と比較して、少なくとも5%、10%または20%減少する。
【0016】
一つまたは複数の実施形態において、前記の血小板の寿命を延長することとは、前記の組成物を投与する後の血小板の生存時間T1は、前記の組成物を投与しない血小板の生存時間T0と比較して、T1/T0は、少なくとも6、12、24、36、48または72時間を延長する。
【0017】
一つまたは複数の実施形態において、前記の血小板の数量を向上することとは、前記の組成物を投与する後の血小板の数量P1は、前記の組成物を投与しない血小板の数量P0と比較して、P1/P0は、少なくとも1.5であり、より好ましくは少なくともは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、50、または100である。
【0018】
一つまたは複数の実施形態において、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターは、以下から選べられるの一つまたは複数を含むが、それらに限定されない:(a)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下する物質;(b)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII活性を向上する物質;(c)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの発現、安定性または有効な効果時間を向上する物質。
【0019】
一つまたは複数の実施形態において、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーター以下から選べられるの一つまたは複数を含むが、それらに限定されない:
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトを標的にして、当該サイトのアセチル化を弱めるか失う試薬;好ましくは、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下する物質は、タンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤である;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、CPT2特異性を有する;好ましくは、前記のアセチル化サイトは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジンである;好ましくは、前記の試薬は、部位特異的突然変異誘発試薬または部位特異的修飾試薬を含むが、それらに限定されない;好ましくは、前記のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、タンパク質発現および/または活性を低下するダウンレギュレーターは、遺伝子編集、遺伝子ノックアウト、siRNA、microRNA、または小分子ダウンレギュレーターを含む;好ましくは、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3またはその活性化剤である;
CPT1阻害剤;好ましくは、前記のCPT1阻害剤は、CPT1自己阻害剤、上流AMPK阻害剤(AMPKi)、ACCアゴニストを含む;好ましくは、前記のCPT1阻害剤は、Malonyl-CoA(マロニル補酵素A)、Etomoxir(エトモキシル)、Perhexiline maleate(マレイン酸ペルヘキシリン)、Dorsomorphin 2HClを含むが、それらに限定されない;
タンパク質アセチル化阻害剤;好ましくはリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤、またはその活性化剤または発現アップレギュレーターを含むが、それらに限定されない;好ましくは、前記のリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤は、tip60阻害剤またはp300阻害剤を含むが、それらに限定されない;好ましくは、前記のミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤は、SIRT3を含むが、それらに限定されない;好ましくは、SIRT3の活性化剤(直接的または間接的に活性化)は、NAD[+]前駆体の濃度を向上する試薬またはNAMPT酵素活性を向上する試薬を含むが、それらに限定されない;好ましくは、前記のNAD[+]前駆体の濃度を向上する試薬は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ニコチンアミド(NAM)、ニコチンアミドリボシド(NR)を含むが、それらに限定されない;好ましくは、前記のNAMPT酵素活性を向上する試薬は、P7C3、SBI-797812を含むが、それらに限定されない;
AMPK阻害剤(AMPKi);好ましくは、Dorsomorphin 2HClを含むが、それらに限定されない;
酸化防止剤;好ましくは、N-アセチルシステイン(NAC)、メスナまたはグルタチオンを含むが、それらに限定されない;
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを組換え発現するための発現コンストラクト(発現ベクターを含む);
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子プロモーターの駆動能力を促進するアップレギュレーター;または
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII遺伝子特異性microRNAのダウンレギュレーター。
【0020】
一つまたは複数の実施形態において、前記の発現コンストラクト(発現ベクター)は、ウイルスベクター、非ウイルスベクターを含み、好ましくは、前記発現ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターを含む。
【0021】
一つまたは複数の実施形態において、前記のアセチルトランスフェラーゼは、tip60阻害剤またはp300阻害剤を含むが、それらに限定されない。
【0022】
本発明のもう一つの様態では、生体外で血小板を保存する方法を提供し、前記の方法は、血小板を保存する際に、以下から選べられる処理を行うことを含むが、それらに限定されない:(a)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下すること;(b)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII活性を向上すること;(c)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの発現、安定性または有効な効果時間を向上すること;または(d)活性を有するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(非アセチル化の酵素)を添加すること。
【0023】
一つまたは複数の実施形態において、tip60阻害剤の投与量は、0.1~100umol/L(例えば、0.5、1、2、5、10、20、30、50、60、80umol/L)である。
【0024】
一つまたは複数の実施形態において、p300阻害剤の投与量は、0.1~100umol/L(例えば、0.5、1、2、5、10、20、30、50、60、80umol/L)である。
【0025】
一つまたは複数の実施形態において、前記のNMNの投与量(最終濃度)は、0.05~50 mM(例えば0.08、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、3、5または10mM)、好ましくは0.1~10mM、より好ましくは0.2~5mMである。
【0026】
一つまたは複数の実施形態において、前記のニコチンアミドの投与量(最終濃度)は、0.05~10 mM(例えば0.08、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、3、5または10mM)、好ましくは0.1~10mM、より好ましくは0.2~5mMである。
【0027】
一つまたは複数の実施形態において、前記のニコチンアミドリボシドの投与量(最終濃度)は、0.05~50 mM(例えば0.08、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、3、5または10mM)、好ましくは0.1~10mM、より好ましくは0.2~5mMである。
【0028】
一つまたは複数の実施形態において、前記のP7C3の投与量(最終濃度)は、0.025~50uM(例えば0.04、0.05、0.2、0.4、0.5、1、2.5、4、5、8、10、15、25または40uM)、好ましくは0.05~30uM、より好ましくは0.25~15uMである。
【0029】
一つまたは複数の実施形態において、前記のSBI-797812の投与量(最終濃度)は、0.1~200uM(例えば0.15、0.2、0.8、1.5、2、4、10、15、20、30、40、60、100または150uM)、好ましくは0.2~120uM、より好ましくは1~60uMである。
【0030】
一つまたは複数の実施形態において、前記のDorsomorphin 2HClの投与量は、0.05~80uM(例えば0.08、0.1、0.15、0.2、0.3、0.5、0.5、1、2、5、10、15、20、30、40、60または70uM)、好ましくは0.1~50uM、より好ましくは0.5~20uMである。
【0031】
一つまたは複数の実施形態において、前記のN-アセチルシステインの投与量は、0.05~500mM(例えば0.08、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、3、5、10、20、50、80、100、200mM)である。
【0032】
一つまたは複数の実施形態において、前記のメスナの投与量は、1~1000uM(例えば1.5、2、4、10、15、20、30、40、60、100、150、200、400、600、800uM)である。
【0033】
一つまたは複数の実施形態において、前記のグルタチオンの投与量は、10~2000uM(例えば15、20、30、40、60、100、150、200、400、600、800、1000、1200、1500、1800uM)である。
【0034】
一つまたは複数の実施形態において、前記の「投与量」は、「添加量」を含み、好ましくは、組成物(以下の組成物を含む)中の対応する添加物の最終濃度、血小板または血小板を含有する物質中の対応する添加物の最終濃度を含む。
【0035】
一つまたは複数の実施形態において、前記の「血小板を含有する物質」は、自然に採取された(新たに採取されたものなど)血小板を含有する血液/血漿、血小板が豊富な血液製剤、および血液加工製剤を含む。
【0036】
本発明のもう一つの様態では、血小板の生存度を維持または向上する方法を提供し、血小板の生存度を向上する必要がある被験者に対して、以下から選べられる処理を行うことを含むが、それらに限定されない:(a)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化を低下すること;(b)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII活性を向上すること;(c)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの発現、安定性または有効な効果時間を向上すること;または(d)活性を有するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(非アセチル化の酵素)を添加すること。
【0037】
本発明の第一の様態では、以下の機能を有する組成物を提供する:(1)血小板の生存度を維持または向上すること、(2)血小板の保存品質を維持または向上すること、(3)血小板アポトーシスを減少すること、(4)血小板の寿命を延長することおよび/または(5)血小板の数量を向上すること;前記の組成物は、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターを含む。
【0038】
一つまたは複数の実施形態において、前記の組成物は、タンパク質アセチル化阻害剤、酸化防止剤とCPT1阻害剤を含む。
【0039】
一つまたは複数の実施形態において、前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、NMNであり、前記の酸化防止剤は、NACであり、前記のCPT1阻害剤は、AMPKiである。
【0040】
一つまたは複数の実施形態において、前記のNMN、NACとAMPKiは、モル比で、(50~500):(500~5000):1である;より好ましくは、(80~300):(800~3000):1(例えば、90:900:1、100:1000:1、110:1110:1、120:1200:1、125:1250:1、140:1400:1、150:1500:1、180:1800:1、200:2000:1、250:2500:1など)である。
【0041】
一つまたは複数の実施形態において、NMN、NACとAMPKiを組み合わせて応用する際に、血小板または血小板を含有する物質(例えば血漿、多血小板血漿など)に前記のNAD+前駆体NMNの添加濃度は、0.1~5000uM(例えば0.2、0.5、1、2、5、10、20、50、100、200、500、800、1000、1500、2000、3000、4000 uM)である。
【0042】
一つまたは複数の実施形態において、NMN、NACとAMPKiを組み合わせて応用する際に、血小板または血小板を含有する物質に前記のN-アセチルシステインの添加濃度は、1~50000uM(例えば2、5、10、20、50、100、200、500、1000、2000、5000、8000、10000、15000、20000、30000、40000 uM)である。
【0043】
一つまたは複数の実施形態において、NMN、NACとAMPKiを組み合わせて応用する際に、血小板または血小板を含有する物質に前記のAMPKiの添加濃度は、0.8~40000nM(例えば1.6、4、8、16、40、80、160、400、800、1600、4000、6400、8000、12000、16000、24000、32000 nM)である。
【0044】
本発明のもう一つの様態では、前記の組成物を含有するキットを提供する。
【0045】
本発明のもう一つの様態では、前記の組成物またはキットの以下の応用を提供する:(1)血小板の生存度を維持または向上すること;(2)血小板の保存品質を維持または向上すること;(3)血小板のアポトーシスを減少すること;(4)血小板の寿命を延長することおよび/または(5)血小板の数量を向上すること。
【0046】
本発明のもう一つの様態では、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの、薬物のスクリーニングにおける(即ち、薬物スクリーニングの標的としての)応用を提供し、前記の薬物は、以下から選べられるの機能を有する:(1)血小板の生存度を維持または向上すること;(2)血小板の保存品質を維持または向上すること;(3)血小板のアポトーシスを減少すること;(4)血小板の寿命を延長することおよび/または(5)血小板の数量を向上すること。
【0047】
本発明のもう一つの様態では、血小板の生存度を維持または向上し、血小板の保存品質を維持または向上する薬物(または潜在的な薬物)をスクリーニングする方法を提供し、当該方法は、以下を含む:
(1)候補物質でカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを発現する発現システムを処理すること;及び、
(2)前記のシステムからカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを検出し、前記の候補物質には、以下から選べられるの性能が存在すると、当該候補物質は、所望の(興味がある)薬物であることを示す:
(i)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトにおけるアセチル化の弱めまたは失い;好ましくは、前記のアセチル化サイトは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジンである;
(ii) カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの発現の向上;または
(iii) カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの活性の向上。
【0048】
一つまたは複数の実施形態において、ステップ(1)は、テストグループに、候補物質を前記の発現システムに加えることを含む;および/または、ステップ(2)は、前記のシステムからカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIを検出し、かつコントロールグループと比較して、ただし、前記のコントロールグループは、前記の候補物質を添加しない発現システムである;前記の候補物質が、統計的にカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの(i)~(iii)のいずれか一つに記載の性能を促進(例えば20%以上促進、好ましくは50%以上促進、より好ましくは80%以上促進)すると、当該候補物質は、所望の(興味がある)薬物であることを示す。
【0049】
一つまたは複数の実施形態において、前記システムは、細胞システム(または細胞培養物システム)、サブ細胞システム(またはサブ細胞培養物システム)、溶液システム、組織システム、器官システムまたは動物システムから選ばれる。
【0050】
一つまたは複数の実施形態において、前記の候補物質は、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII、そのフラグメントまたはバリアント、そのコード遺伝子またはその上下流分子またはシグナル伝達経路に対してデザインされた過剰発現分子(例えばコンストラクト、活性促進分子、低分子化学分子、相互作用分子など)を含むが、それらに限定されない。
【0051】
一つまたは複数の実施形態において、前記の方法は、さらに、候補物質から血小板の生存度の維持または向上、血小板の保存品質の維持または向上などに有用の組成物をさらに選択および決定するために、得られた薬物または化合物(潜在的な薬物または化合物)についてさらなる細胞実験および/または動物実験を行うことを含む。
【0052】
本発明のもう一つの様態では、遺伝子工学的に改変された血小板またはその前駆体を提供し、前記の血小板またはその前駆体は、外因性のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIまたはそのアップレギュレーターに形質転換される;好ましくは、前記のアップレギュレーターは、生物分子であり、例えばポリヌクレオチド、または、ポリヌクレオチドを含むコンストラクトまたはタンパク質である。好ましくは、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトを標的にして、当該サイトのアセチル化を弱めるか失う試薬であり、より好ましくは、アセチル化サイトとして、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジン対して、それを突然変異する。
【0053】
一つまたは複数の実施形態において、前記の前駆体は、巨核球および/または線維芽細胞である。
【0054】
本発明のもう一つの様態では、前記の遺伝子工学的に改変された血小板またはその前駆体を含有する組成物/培養システム(培養物)を提供する。
【0055】
本発明のもう一つの様態では、前記の遺伝子工学的に改変された血小板またはその前駆体、または前記の組成物/培養システム(培養物)を含有するキットを提供する。
【発明の効果】
【0056】
本文に開示された内容に基づき、当業者にとって、本発明の他の面は自明なものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1A.異なる日に保存された血小板の分析では、保存時間が増加するにつれ、血小板の機能が低下し、血小板のアポトーシス率が徐々に増加することを示した。
図1B.ウェスタンブロット実験によるリアルタイム検出では、血小板の保存日数が増加するにつれ、Caspase3の活性化度が増加する。Caspase3の分子量は35kdであり、せん断により活性化されたCaspase3の分子量は、17kdである。
【
図2】
図2A.異なる保存日における保存血小板のアセチル化修飾に関する定量的プロテオミクス研究により、血小板は保存中に、タンパク質修飾の程度が大きく変化し、血小板を3~4日間保存すると、血小板のタンパク質アセチル化度が大きく変化することがわかった。
図2B.差次的に発現されるタンパク質の細胞内構造の統計解析によると、タンパク質の種類の4分の1も、ミトコンドリア由来である。
図2Cは、実験結果に基づき、KEGG経路濃縮に基づくクラスター分析ヒートマップに対する分析を示す。アセチル化修飾の程度が変化したタンパク質は、主に細胞質とミトコンドリアに分布し、アセチル化修飾の程度が変化したタンパク質は、ほとんど、血小板の活性化や代謝などの生化学的プロセスに関与することが判明した。多くの代謝関連酵素、例えば、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT2)/プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCCA)/ジヒドロリポ酸デヒドロゲナーゼ(DLD)/アシルCoAデヒドロゲナーゼ(ACADM)/カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ2(CPT2)/コレステロールアシルトランスフェラーゼ1(ACAT1)/ミトコンドリア三機能タンパク質(HADHA/HADHB)/超長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(ACADVL)などが、アセチル化修飾を受けることが判明した。
【
図3】
図3A.アセチル化修飾の定量的プロテオーム解析により、血小板では、CPT2の79位のリジンがアセチル化されたことがわかった。
図3B.ドットブロット実験により、CPT2K79AC抗体は、アセチル化されたペプチドのみに結合し、非アセチル化のペプチドは認識しないことが確認された。
図3C.免疫沈降とウェスタンブロット実験で、CPT2分子の79位のアセチル化度が、保存時間につれて変化し、血小板を2日目に保存すると突然増加し、その後の保存中に徐々に減少したことを確認した。
【
図4】
図4A.血小板の代謝フラックス解析を行い、安定同位体マーカー-でさまざまなエネルギー物質の最終代謝経路を追跡した。血小板の保存中に、脂肪酸代謝の効率は、非常に低くて、かつ保存日数が増えるにつれて、遅くなる;グルコースは、主に解糖経路を通じて乳酸を生成する;グルタミンは、優先的に利用され、トリカルボン酸回路に大量に入り、細胞にエネルギーを供給することが判明した。
図4B.血小板の保存中に、血漿中の脂肪族アシルカルニチンの含有量が蓄積した。血小板は、保存中に毎日サンプリングされ、質量分析検出のために血漿が収集され、サンプルの前処理に、非誘導体化法を使用し、安定同位体マーカーを添加した脂肪族アシルカルニチンを、標準として添加し、超高速液体クロマトグラフィートリプル四重極質量分析システムを用いて、70種類以上の脂肪族アシルカルニチンを検出した。
図4C.フローサイトメトリーを使用し、血小板の保存に対するパルミチン酸、パルミチン酸プラスカルニチン、パルミタシルカルニチンの影響を検出し、参考指標は、血小板活性、アネキシンVおよびミトコンドリアのミトソックスの蛍光値を含む。
図4D.液体クロマトグラフィー質量分析タンデム技術によって、CPT2分子の79位のアセチル化が、細胞内に脂肪族アシルカルニチンの蓄積を引き起こすことを検出した。脂肪族アシルカルニチンの蓄積は、細胞の状態にさらに影響を与える。フローサイトメトリー分析によると、脂肪族アシルカルニチンの濃度の増加につれて、細胞のアポトーシス率とミトコンドリア内の活性酸素種のレベルが増加する。
図4E.透過型電子顕微鏡データは、CPT2細胞とKR細胞のミトコンドリアが健全であり、ミトコンドリアの並べが正しいことを示す。しかし、KQ細胞におけるミトコンドリアには、内膜の破壊と電子密度の減少を示した。細胞が低濃度のパルミトイル脂肪族アシルカルニチンに曝露された場合、KRミトコンドリアは、正常な構造を維持することができる。
【
図5】
図5A.血小板のタンパク質のアセチル化度を低下させると、血小板の品質を効果的に改善することができる。2つの代表的なアセチラーゼ阻害剤を、アフェレーシス血小板に添加することにより、血小板の品質に対する血小板タンパク質のアセチル化度を低下させる効果を観察する。tip60阻害剤を添加した実験グループでも、p300阻害剤を添加した実験グループでも、コントロールグループと比較して、7日間保存したアフェレーシス血小板の品質が有意に向上した。
図5B.血小板タンパク質の脱アセチル化修飾は、血小板保存の老化プロセスにおいて重要な役割を果たす。SIRT3がノックアウトされたマウスの血小板は、コントロールグループのマウスの血小板よりも、保存中にアポトーシスしやすく、かつミトコンドリア膜電位の低下も早く、代謝中により多くの活性酸素種を蓄積した。
図5C.野生型マウスと比較して、SIRT3がノックアウトされたマウスのcpt2分子の79位のアセチル化度がより高い。マウス血小板の保存中に、cpt2分子の79位のアセチル化度が増加したが、その増加は、sirt3がノックアウトされたマウスでより顕著でした。
図5D.保存されたマウスの血小板では、脂肪酸代謝障害が発生した。血小板の保存時間が増加するにつれて、血小板中の長鎖脂肪族アシルカルニチンの含有量は蓄積し続け、かつ、ミトコンドリアタンパク質のアセチル化度は、血小板中の長鎖脂肪族アシルカルニチンの含有量に大きな影響を与える。4つの化合物の添加が、いずれも血小板の品質を向上した。
図5E.さまざまな生物のCPT2分子のアミノ酸配列のアラインメントによって、ラットは、天然のCPT2K79Rモデルであることをわかった。マウス血小板とラット血小板の保存状態を比較すると、ラット血小板の方が、保存に強いことがわかった。マウス血小板は、脂肪族アシルカルニチンに対してより感受性が高く、脂肪族アシルカルニチンは、マウス血小板に効果的に損傷を与えるが、ラット血小板は、一定濃度の脂肪族アシルカルニチンに耐えることができる。
図5F.ラットCPT2K79Rモデルの血小板は、細胞内の脂肪族アシルカルニチンの蓄積に抵抗し、脂肪酸の正常な代謝を確保し、それによって、細胞をアポトーシスから保護する。
図5G.マウス血小板中の脂肪族アシルカルニチンの含有量は、保存時間の増加とともに、急激に変動し、脂肪族アシルカルニチンの含有量は、保存2日目に突然増加し、その後、ほとんどの血小板がアポトーシスを起こすにつれて、急速に減少した。
【
図6】
図6A.ウェスタンブロット技術の検出によって、血小板の保存中において、AMPK-ACCシグナル伝達経路が、徐々に活性化され、血小板のエネルギー代謝の異常は、AMPKのリン酸化を引き起こし、リン酸化されて活性化されたAMPKは、その下流の基質ACCをリン酸化した。リン酸化されたACCの活性が低下すると、脂肪酸の同化活性が低下し、異化活性が増加した。
図6B.異なる濃度のAMPK阻害剤およびアゴニストが、保存された血小板に及ぼす影響を示す。AMPK経路の活性化と阻害は、血小板の保存品質と密接に関連する。異なる濃度のAMPK阻害剤とアゴニストを、血小板に添加することにより、AMPK経路の活性化が、保存された血小板のアポトーシス、ミトコンドリア電位差、活性酸素種の蓄積、および凝集活性に密接に関連することがわかった。そして、こんな効果は、濃度に依存する。
【
図7】抗酸化作用のある小分子阻害剤(アセチルシステイン、メスナ、グルタチオン)は、ミトコンドリア内の活性酸素種の蓄積を減少させることができる。これにより、刺激剤に対する血小板の反応性や、ミトコンドリアの電位差を保護する。同時に、保存された血小板のアポトーシス率も低下した。
【
図8】
図8A.NAD+前駆体NMN、ROSスカベンジャーNAC、およびAMPK阻害剤(AMPKi)の三つの化合物の組み合わせ(採取したばかりの血小板では、NMNの添加量は0.5mM、NACの添加量は5mM、AMPKiの添加量は4uM)は、どの化合物よりも、保存された血小板の品質を改善し、血小板のアポトーシスを半分に減少させ、血小板の活性をコントロールグループの約4倍に向上した。
図8B、NMN+NAC+AMPKi(NMN 0.5mM、NAC 5mM、AMPKi 4μM)またはコントロールとしてのPBSを添加し、ヒト濃縮血小板を生体外で6日間保存した。次に、それらをビオチンで標識し、NCGマウスに注入した。コントロールグループと比較して、NMN+NAC+AMPKiグループの血小板クリアランス率は低かった。
図8C、マウスの多血小板血漿(PRP)を、生体外で1日間保存し、NMN、NAC、AMPK阻害剤、NMN+NAC+AMPK阻害剤(NMN 0.5mM、NAC 5mM、AMPKi 4uM)またはコントロールとしてのPBSを添加した。次に、血小板をビオチンで標識し、WTマウスに注入した。NMN、NAC、またはAMPK阻害剤とともに保存された血小板は、コントロールよりも、体内での生存率が高く、3つの化合物の組み合わせに引かれる相加効果がある。
図8D.ITP患者における血小板の生存に対するNMN、NACまたはAMPK阻害剤の効果を評価した。ITPマウスモデルを、低投与量の抗GPIb抗体R300を、尾静脈に注射することによって確立した。NMN、NAC、またはAMPK阻害剤グループ、特にNMN+NAC+AMPKiグループ(投与量1μmol NMN、10μmol NAC、8nmol AMPKi)の血小板の生存率と血小板数回復率は、コントロールグループよりも高い。
図8E.CPT2が関与する細胞内作用機序の概略図を示す。
【
図9】NMN+NAC+AMPKiを添加した冷蔵血小板の血小板の凝集活性は、コントロールグループより有意に高く、そのアポトーシスは、コントロールグループより有意に低かった。
【発明を実施するための形態】
【0058】
研究によって、本発明者らは、血小板ミトコンドリアの内膜に位置するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT2)分子が、血小板の生存、調製および保存の品質にとって非常に重要であり、CPT2タンパク質の発現量および/または活性の低下は、血小板の品質に深刻な影響を及ぼし、当該タンパク質の正常または高発現は、血小板の品質を改善することを初めて明らかにした。本発明は、CPT2タンパク質に直接的および間接的に影響を与えるか、またはそれを修飾することによって、血小板に対するCPT2の効果を複数の角度から検証し、そして、血小板の生存度の維持に重要な役割を果たす経路および内因性または外因性の分子を発見した。したがって、CPT2自体またはそのアップレギュレーターは、血小板の生存度を維持または改善し、血小板の保存品質を維持または改善するために使用できる;初めて開示されたCPT2の機能とそれが関与するシグナル伝達経路に基づいて、血小板の生存度を調節したり、血小板の保品質を改善したりする物質をスクリーニングすることもできる;本発明は、CPT2に影響を及ぼす様々な化合物を通じて、NAC、NMN、AMPK阻害剤の単独およびそれらの組み合わせは、血小板の寿命を効果的に延長し、その生存度を増強し、生体内と生体外の両方で、血小板の品質と生存サイクルを改善するために使用でき、これらの薬剤は、既に臨床的に使用され、その安全性は保証されることを確認した。
【0059】
CPT2
ヒトCPT2のアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号1376に示すようである。本発明はまた、他の物種(例えば霊長類動物、げっ歯類動物;具体的に、サル、マウスなど)由来のCPT2ホモログおよびそれらの応用も含む。
【0060】
本発明のCPT2は、天然に存在するものであってもよく、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物から単離または精製することができる。前記のCPT2は、人工的に調製することもでき、例えば、実験または臨床用途のために、従来の遺伝子工学的組換え技術に従って、組換えCPT2を生産することができる。応用では、組換えCPT2を使用できる。前記のCPT2は、全長CPT2またはその生物学的に活性なフラグメントを含む。CPT2のアミノ酸配列によれば、その対応するヌクレオチドコード配列を容易に得ることができる。
【0061】
一つまたは複数のアミノ酸残基を置換、欠失または付加してなるCPT2のアミノ酸配列も、本発明に含まれる。CPT2またはその生物学的に活性なフラグメントは、保存的アミノ酸置換配列の一部を含み、アミノ酸を置換された配列は、その活性に影響を与えないか、またはその活性の一部を保持する。アミノ酸の適切な置換は、当技術分野でよく知られた技術であり、当該技術は、容易に実施でき、得られる分子の生物学的活性が変化しないことを保証する。これらの技術により、当業者は、一般に、ポリペプチドの非必須領域における単一のアミノ酸を変更しても、生物学的活性は実質的に変化しないことを認識するようになった。
【0062】
CPT2の任意の生物学的に活性なフラグメントを、本発明で使用することができる。ここで、CPT2の生物学的に活性なフラグメントとは、全長CPT2の機能の全部または一部を維持し得るポリペプチドを意味する。通常、前記の生物学的に活性なフラグメントは、全長CPT2の活性の少なくとも50%を保持する。より好ましい条件下では、前記の活性フラグメントは、全長CPT2の活性の60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%を維持することができる。
【0063】
本発明で、修飾または改良されたCPT2も使用することができ、例えば、その半減期、有効性、代謝、および/またはタンパク質の効果を増強するために、修飾または改良されたCPT2を使用することができる。前記の修飾または改良されたCPT2は、CPT2の複合体であってもよく、あるいは、置換されたアミノ酸または人工アミノ酸を含んでいてもよい。前記の修飾または改良されたCPT2は、天然に存在するCPT2との共通点が少ないかもしれないが、血小板の生存度を維持または改善し、血小板の保存品質を維持または改善することもできる。すなわち、CPT2の生物学的活性に影響を及ぼさない任意の変化形式を、本発明で使用することができる。
【0064】
CPT2及びそのアップレギュレーターの応用
本発明者の研究において、意外なことに、血小板代謝プロセスにおいて、ミトコンドリア由来のタンパク質の修飾および差次的な発現、特に血小板ミトコンドリアの内膜にあるカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT2)のK79サイトのアセチル化が、血小板の寿命に重大な影響を与えることを明らかにし、さらに、本発明は、CPT2機能不全によって引き起こされる血小板の脂肪酸代謝経路の障害が、エネルギー代謝経路を介して血小板の品質に影響を与えることを確認する(
図8E)。それに、本発明はさらに、タンパク質アセチル化阻害剤を直接に使用し、脱アセチル化酵素SIRT3遺伝子を活性化し、または細胞エネルギー代謝経路の主要なシグナル伝達経路(例えばAMPK-ACC経路、活性酸素種の蓄積)に間接的に介入するなどによって直接的または間接的にCPT2の機能を変化させることにより、血小板、特に血小板の品質を保護することができることを確認する。
【0065】
本発明者の新たな発見に基づいて、本発明は、CPT2またはそのアップレギュレーターの、以下における応用、あるいは、薬物スクリーニングの標的としての応用を提供する:(1)血小板の生存度を維持または向上すること;(2)血小板の保存品質を維持または向上すること。
【0066】
本発明中、前記のCPT2のアップレギュレーターは、CPT2のアセチル化を低下する物質;CPT2活性を向上する物質;CPT2の発現、安定性または有効な効果時間を向上する物質などを含むが、それらを限定されない。
【0067】
本明細書で使用される場合、前記のCPT2のアップレギュレーターは、促進剤、アゴニストなどを含む。CPT2の活性を向上し、CPT2の安定性を維持し、CPT2の発現を促進し、CPT2の分泌を促進し、CPT2の有効な効果時間を延長し、またはCPT2の転写と翻訳を促進することができる任意の物質は、アップレギュレーション機能を持つ有効物質として本発明に用いられる。
【0068】
本発明の好ましい実施形態として、前記のCPT2のアップレギュレーターは、細胞に導入された後に、CPT2を発現(好ましくは過剰発現)できる発現ベクターまたは発現コンストラクトを含むが、これに限定されない。通常、前記の発現ベクターは、遺伝子カセットを含み、前記遺伝子カセットは、CPT2をコードする遺伝子およびそれに作動可能に連結された発現制御配列を含む。「作動可能に連結された」または「作動可能に連結する」とは、直鎖状DNA配列のある部分が、同じ直鎖状DNA配列の他の部分の活性を調節または制御できる状況を指す。例えば、プロモーターが、配列の転写を制御する場合、当該プロモーターは、コード配列に作動可能に連結されている。
【0069】
本発明において、CPT2ポリヌクレオチド配列は、組換え発現ベクターに挿入されてもよく、そして、それを細胞に導入し、過剰発現させてCPT2を産生することができる。宿主内で複製可能で安定している限り、任意のプラスミドとベクターを本発明に使用することができる。発現ベクターの重要な特徴の一つは、通常に、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子、および翻訳制御要素を含むことである。前記の発現発現ベクターは、ウイルスベクター、非ウイルスベクターを含み、好ましくは、前記発現ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されない。当業者に周知の方法を使用し、CPT2を含むDNA配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、DNA合成技術、インビボ組換え技術などを含む。
【0070】
本発明の開示によれば、血小板の保存中には、CPT2のアセチル化が起こる。よって、本発明に関わるアップレギュレーターには、好ましくは、CPT2アセチル化サイトを標的にし、当該サイトのアセチル化を弱めるか失うの試薬であり、前記のアセチル化サイトは、CPT2の79位のリジンである。CPT2の当該サイトまたはその隣接位置を標的にし、調節し、それによってそのアセチル化レベルを低下させることができる任意の試薬を、本発明で使用することができる。好ましくは、前記の試薬は、当該79位のリジンを標的にする部位特異的突然変異誘発試薬または部位特異的修飾試薬を含むが、これらに限定されない。こんな部位特異的突然変異誘発試薬または部位特異的修飾試薬の調製は、遺伝子編集技術、相同組換え技術等の当分野の様々な方法を利用して行うことができるが、これらに限定されない。
【0071】
もう一つの好ましい実施形態では、タンパク質アセチル化阻害剤によってCPT2のアセチル化を阻害する。前記のタンパク質アセチル化阻害剤は、リジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤、またはその活性化剤または発現アップレギュレーターであっても良い。
【0072】
リジンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)は、一連のタンパク質のアセチル化でタンパク質の活性を制御し、そして細胞のアポトーシス、細胞の代謝などの重要の細胞機能を制御する。リジンアセチルトランスフェラーゼは、アセチルCoAのアセチル基の基質タンパク質のリジンへの転移を触媒し、それによって、基質タンパク質の機能に影響を与える。
【0073】
tip60とp300の両方とも、典型的なアセチルトランスフェラーゼファミリーのメンバーである。tip60は、MYSTアセチルトランスフェラーゼファミリーに属し、細胞周期チェックポイントの活性化と、アポトーシスやオートファジーにおいて重要な制御役割を果たす。同時に、グルコース代謝などのさまざまな代謝経路でも、役割を果たす。p300はヒストンアセチラーゼ ファミリーの重要なクラスであり、その分子量が300kdであるため、p300と名付けられ、p300は、細胞増殖やアポトーシスなどのプロセスにおいて、制御役割を果たす。P300とtip60は、ミトコンドリアで発現し、かつミトコンドリアで、アセチルトランスフェラーゼとして機能し、非ヒストンタンパク質をアセチル化し、タンパク質の活性を変化させる。本発明の実施例の結果によれば、前記のリジンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤(tip60阻害剤またはp300阻害剤)は、血小板内のタンパク質のアセチル化を阻害することにより、血小板の保存品質を改善することができる。これは、血小板のタンパク質のアセチル化度の低下は、血小板の品質を効果的に改善することに寄与する。
【0074】
ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤も、本発明で使用することができる。SIRT3は、サーチュイン(Sirtuin)ファミリーのメンバーであるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)依存性脱アセチル化酵素であり、ミトコンドリアの重要なタンパク質脱アセチル化酵素であり、CPT2などのミトコンドリアタンパク質に作用して、その脱アセチル化を引き起こす。本発明の実施例の結果は、SIRT3を欠く血小板は、ミトコンドリアタンパク質の脱アセチル化機構を欠き、その結果、ミトコンドリアタンパク質のアセチル化度が増加し、したがって、血小板の保存状態に影響を与えることを示す。SIRT3がノックアウトされた血小板では、CPT2分子の79位のアセチル化度が高く、CPT2分子の正常な生理機能に影響を及ぼし、血小板脂肪酸代謝障害を引き起こし、血小板の品質を著しく低下させる。さらに、SIRTが3ノックアウトされた血小板では、脂肪族アシルカルニチンのレベルは、コントロールグループの脂肪族アシルカルニチンのレベルよりも高く、これによりわかるように、血小板の保存時間が増加するにつれて、血小板中の長鎖脂肪族アシルカルニチンの含有量が蓄積し続ける;かつ、ミトコンドリアタンパク質のアセチル度は、血小板中の長鎖脂肪族アシルカルニチンの含有量に大きな影響を与える。これは、血小板の脂肪酸代謝に関連する酵素のアセチル化度が変化する可能性があり、それによって、血小板ミトコンドリアの脂肪酸代謝に影響を与えることを示す。
【0075】
本発明の実施例の結果によれば、前記のミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤SIRT3の活性化剤、すなわち、NAD[+]前駆体の濃度を上昇させる試薬(ニコチンアミド(NAM)、ニコチンアミドリボシド(NR))、または、NAMPT酵素活性を増加させる試薬(P7C3、SBI-797812)は、血小板の品質を大幅に向上させることができる。
【0076】
本発明では、細胞エネルギー代謝の主要な経路と、CPTタンパク質および血小板の品質との間の相関関係も分析され、AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化に対する阻害が、血小板の保存に対する保護効果を有することを示した。AMPKは、体のエネルギー代謝を調節し、エネルギーの需要と供給のバランスを維持する機能がある。細胞内エネルギーレベルが低下する場合、AMPKの活性化が引き起こされ、酸化と合成代謝経路が調節される。アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)は、AMPKの下流標的の一つであり、活性化されたAMPKは、ACCをリン酸化することで、その機能を阻害し、マロニルCoA合成を減少させ、CPT1の活性を増加させ、脂肪酸の酸化を促進する。本発明の実施例の結果によれば、血小板におけるAMPK経路の活性化を阻害することにより、保存された血小板の品質を効果的に保護することができ、AMPK経路の活性化を阻害することが、CPT1による脂肪酸化の触媒作用を低減し、ミトコンドリアに入る脂肪族アシルカルニチンの量も減少し、これでCPT2の機能を回復させるため、AMPK経路阻害剤は、CPT2のタンパク質機能を間接的に回復させることができる。したがって、別の好ましい実施形態として、AMPK経路阻害剤を使用して血小板の質を改善することができ、例えば、ドルソモルフィン(Dorsomorphin)2HClを含むが、これに限定されない。
【0077】
さらに、酸化防止剤は、活性酸素種の蓄積を減らし、CPT2の機能を間接的に改善する。したがって、本発明に、酸化防止剤を用いても良い;好ましくは、N-アセチルシステイン、メスナまたはグルタチオンを含むが、それらに限定されない。
【0078】
本発明の実施形態には、代表的なタンパク質アセチル化阻害剤、ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤、AMPK経路阻害剤、および酸化防止剤がいくつか挙げられたが、これらの阻害剤と同じまたは類似の機能を有する他の化合物またはタンパク質も、本発明で使用することができ、いくつかの化合物阻害剤の類似体、誘導体、異性体、前駆体または塩も本発明で使用することができることを理解すべきである。
【0079】
本発明の実施例では、血小板の品質に影響を与える具体的に列挙された分子は、すべて、安全で入手可能な内因性または既存の臨床薬である。したがって、本発明で発見された標的およびそれらに関連する影響分子は、保存された血小板と、生理学的微小環境における血小板の寿命を改善することに使用することができ、同時に、標的として、CPT2を、さらに血小板の遺伝子操作にも使用することができる。
【0080】
本発明はまた、有効量(例えば、0.000001~20重量%、好ましくは0.00001~10重量%)の前記のCPT2、またはそのアップレギュレーター、またはその類似体、および薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。
【0081】
本発明の組成物は、血小板の品質(血小板の生存度の維持または改善、血小板の保存品質の維持または改善を含む)を改善するために直接使用することができる。さらに、他の活性剤や補助剤と組み合わせて使用することもできる。
【0082】
一般に、これらの物質は、非毒性で、不活性で、薬学的に許容される水性キャリア媒体中で、通常、約5~8のpH、好ましくは約6~8のpHで処方することができる。
【0083】
本明細書で使用される場合、「含有する」という用語は、各成分はともに本発明の混合物または組成物に応用しても良いことを示す。そして、用語「主に・・・からなる」と「・・・からなる」は、用語「含有する」に含まれる。本明細書で使用されるように、用語「有効量」または「有効投与量」とは、人及び/又は動物に、機能できる又は活性を有する、かつ人及び/又は動物に許容される量である。
【0084】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」成分は、ヒト及び/又は哺乳動物に適用され、過度の不良な副作用(例えば毒性、刺激とアレルギー反応)がないもので、すなわち合理な利益/リスク比がある物質である。「薬学的に許容される担体」という用語とは、治療剤の投薬に用いられる担体を指し、各種な賦形剤と希釈剤を含む。
【0085】
本発明の組成物は、安全有効量のCPT2、またはそのアップレギュレーター(例えば、CPT2を過剰発現する発現ベクター)、またはその類似体、および薬学的に許容される担体を含有する。このような担体としては、生理食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。通常、薬物製剤は、投与形態に応じる必要であり、本発明の薬物組成物は、注射剤に調製して、例えば、生理食塩水やブドウ糖やその他の補助剤を含む水溶液を用いて常法により調製される。前記薬物組成物は、好ましくは、無菌条件下で製造される。活性成分の投与量は、治療有効量である。本発明の薬物製剤は、徐放性製剤とすることもできる。
【0086】
CPT2の応用を了解した後、当技術分野で周知の様々な方法を使用し、前記のCPT2、またはそのコード遺伝子、またはその医薬組成物を投与することができる。前記のCPT2またはそのアップレギュレーターの投与方式は、実際の必要性に応じて、主に前記のアップレギュレーターの種類および特性に応じて決定し、これらは当業者によって評価され得る。前記のCPT2が化合物である場合、体内の血小板に対して、全身的または局所的に投与することができる;生体外で血小板を処理する場合、処理しようとする血小板、または、血小板を含む血漿に添加することができる。
【0087】
前記のCPT2が、遺伝子またはタンパク質である場合、CPT2またはそのアップレギュレーターを、例えば注射などの方法によって受験者に直接投与しても良い;あるいは、CPT2遺伝子を有する発現ユニット(例えば、発現ベクターやウイルスなど)を、特定の経路を通じて、標的部位に送達し、さらに活性を有するCPT2を発現させても良い。一実施形態として、前記のCPT2を、哺乳動物(例えばヒト)に直接投与でき、あるいは、CPT2をコードする遺伝子を、常法により適当なベクター(例えば、通常の原核生物または真核生物発現ベクター、またはヘルペスウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターなどのウイルスベクター)にクローニングし、前記ベクターを、前記のCPT2を発現可能な細胞に導入することにより、CPT2を発現することができる。
【0088】
CPT2を薬物スクリーニング標的とする
前記のCPT2の機能や作用機序がわかれば、その特徴に基づき、CPT2の発現や活性を促進する物質をスクリーニングし、前記の物質は、血小板の品質を改善するための候補物質として利用することができる。前記の候補物質は、CPT2、そのフラグメントまたはバリアント、そのコード遺伝子またはその上下流分子またはシグナル伝達経路に対してデザインされた過剰発現分子(例えばコンストラクト、活性促進分子、低分子化学分子、相互作用分子など)を含むが、それらに限定されない。
【0089】
本発明の好ましい態様においては、スクリーニングの際に、CPT2とそれが関与するシグナル伝達経路またはその上流および下流タンパク質の発現または活性の変化をより簡単に観察するために、コントロールグループを設定することもでき、前記コントロールグループは、前記候補物質を添加しないCPT2発現システムまたはその上流および下流のシグナル伝達経路システムとするであっても良い。
【0090】
前記発現システムは、例えば、細胞(または細胞培養物)システムであってもよく、前記細胞は、内因的にCPT2を発現する細胞であってもよく、または、CPT2を組換え的に発現する細胞であってもよい。前記CPT2を発現するシステムは、サブ細胞システム、溶液システム、組織システム、器官システム、または動物システム(動物モデルなど)などであってもよいが、これらに限定されない。
【0091】
本発明の好ましい実施形態として、上記の方法は、さらに、得られた潜在物質に対してさらなる細胞実験および/または動物実験を実施して、血小板の生存度または保存品質の向上に本当に有用な物質をさらに選択および確定することを含む。
【0092】
本発明は、CPT2 またはその上流および下流のシグナル伝達経路タンパク質の発現、活性、存在量または分泌状況の検測方法に、特に制限はない。SDS-PAGE法、Western-Blot法、ELISAなどの従来のタンパク質定量的または半定量的検出技術を使用できるが、これらに限定されない。
【0093】
一方、本発明は、前記スクリーニング方法で得られる化合物、組成物、薬物、あるいはいくつかの潜在物質も提供する。最初にスクリーニングされた物質は、スクリーニングライブラリーを形成することができ、人々は、最終的に、血小板の生存度または保存品質の向上に本当に有用な物質を、臨床用途に向けてスクリーニングすることができる。
【0094】
CPT2を血小板の品質を評価する標的とする
本発明の新しい発見に基づき、CPT2を血小板の生存度または保存品質を評価するのマーカーとし、血小板の生存度または血小板の保存品質の評価/検出を行っても良い。特に、そのアセチル化部位の検出には、好ましくは、当該サイトは、79位のリジンである。
【0095】
CPT2遺伝子の存在、発現状況、発現レベルまたは活性を検出するには、当技術分野で知られている様々な技術を使用することができ、これらの技術はすべて本発明に含まれる。例えば、サザンブロッティング、ウェスタンブロット、DNA配列解析、PCR等の既存の手法を用いることができ、また、これらの手法を組み合わせて用いることもできる。
【0096】
本発明は、さらに、分析物中のCPT2遺伝子の存在および発現状況を検出するための試薬も提供する。好ましくは、遺伝子レベルを検出する場合、CPT2を特異的に増幅するプライマーを使用することができる;またはCPT2遺伝子の有無を確定場合、CPT2を特異的に認識するプローブを使用することができる;タンパク質レベルを検出する場合、CPT2によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体またはリガンドを使用して、CPT2タンパク質の発現状況を確定することができる。本発明の好ましい実施形態として、前記の試薬は、CPT2遺伝子または遺伝子フラグメントを、特異的に増幅できるプライマーである。CPT2遺伝子に対する特異的プローブのデザインは、当業者に周知の技術であり、例えば、CPT2遺伝子上の特定の部位に特異的に結合できるが、CPT2遺伝子以外の他の遺伝子には特異的に結合しない、検出可能なシグナルを有するプローブを調製する。さらに、CPT2タンパク質に特異的に結合する抗体で、分析物中のCPT2タンパク質の発現状況を検出する方法も、当業者によく知られた技術である。
【0097】
当該技術分野では、タンパク質のアセチル化部位のアセチル化レベルを検出することは、十分に確立された技術である。一般的に言えば、アセチル化部位を決定するには、二つの汎用の方法が使用できる:質量分析による同定のために細胞内の標的タンパク質を直接精製する;精製された標的タンパク質を用いて、生体外でアセチルトランスフェラーゼによるアセチル化反応を行い、反応後の標的タンパク質を、質量分析により同定する。どの方法でアセチル化部位を確定する場合でも、一般的に、最終確認のために、突然変異体を構築する必要がある。アセチル化は、主にリジン(K)上で起こり、一般に、リジンからアルギニン(R)への変異は、脱アセチル化をシミュレートすることに相当し、リジンからグルタミン(Q)への変異は、アセチル化をシミュレートすることに相当する。
【0098】
アセチル化部位が確定したら、通常、構築したアセチル化/脱アセチル化シミュレーション変異体を使用し、標的タンパク質の機能に対するアセチル化の影響を研究できる。一般に、タンパク質のアセチル化修飾の研究には、次の手順を含む:標的タンパク質にアセチル化が存在するかどうかを確認する;アセチラーゼ/脱アセチラーゼ酵素をスクリーニングする;アセチル化部位を特定する;標的タンパク質に対するアセチル化の影響を分析する;標的タンパク質のアセチル化の生物学的機能を探索する。
【0099】
本発明は、さらに、分析物中のCPT2遺伝子の存在および発現状況を検出するキットを提供し、このキットは、CPT2タンパク質のアセチル化部位のアセチル化レベルを特異的に検出する試薬、CPT2遺伝子を特異的に増幅するプライマー、CPT2遺伝子を特異的に認識するプローブ、または、CPT2タンパク質に特異的に結合する抗体またはリガンドを含む。
【0100】
前記のキットは、DNA抽出、PCR、ハイブリダイゼーション、発色などに必要なさまざまな試薬を含んでも良く、抽出液、増幅液、ハイブリダイゼーション液、酵素、コントロール液、発色液、洗浄液などを含むが、これらに限定されない。さらに、前記のキットは、使用説明書および/または核酸配列分析ソフトウェアを含んでも良い。
【0101】
遺伝子工学的に改変された血小板またはその前駆体
本発明は、さらに、遺伝子工学的に改変された血小板またはその前駆体を提供し、前記の血小板またはその前駆体は、外因性カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIまたはそのアップレギュレーターに形質転換される。好ましい実施形態では、前記のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアップレギュレーターは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIのアセチル化サイトを標的にして、当該サイトのアセチル化を弱めるか失う試薬であり、より好ましくは、アセチル化サイトは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの79位のリジンであり、それを突然変異することで、アセチル化を弱めるか失う。
【0102】
様々な供給源からの血小板には、本発明に記載のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIまたはそのアップレギュレーターを形質転換され得る。人体から分離された血小板、線維芽細胞や巨核球幹細胞の分化により誘導された血小板を含む。前記の幹細胞は、造血幹細胞、胚性幹細胞、誘導幹細胞を含み、それらが、生体外で分化を誘導して成熟した機能的な血小板を産生できる。血小板の産生は、骨髄間質微小環境における複数のサイトカインの相乗的相互作用の結果であり、一般的に、比較的完全な血小板生体外培養系は、生体内に血小板を生成する微小環境をシミュレートすることによって得ることができる。
【0103】
以下、具体的な実施例を参照して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の単なる例示であることが理解されるべく。以下の実施例における特定の条件を特定しない実験方法は、通常に、J.Sambrookら、Guide to Molecular Cloning、Third Edition、Science Press、2002に記載された通常条件に従って実施され、或いはメーカーが推奨する条件に従って実施される。
【0104】
一般的な方法
1.CPT2K79Q点突然変異マウスの構築
1.1 CPT2K79Q/Rマウス
CPT2のアミノ酸配列は、UniProtKB-P23786に示す。
CPT2K79Qマウスの構築:C57BL/6株をバックグラウンドとして、CPT2遺伝子EXON3(K79Q:AAG→CAG)点突然変異を行い、この部位の近くに、NGGで終わる標的部位をデザインし、それを切断し、生体外で約90 bpのドナーを構築し、外因性ドナーは、相同組換えによって切断部位に挿入された。モデルマウスを構築するための上記の実験プロトコールは、Yaobang Biological Company によって提供された。
【0105】
子孫の遺伝子型は、フォワード プライマー シークエンシングでシーケンシングし、ピークチャートを使用し、標的位置に塩基変異があるかどうかを確認することによって特定された。GuideRNAと遺伝子配列は次のとおりであった:
CPT2-sgRNA2:tgtgttttcttgaaaattacagG(配列番号1)
CPT2-sgRNA3:GAAGACAGAAGTGTTGTGTAAGG(配列番号2)
CPT2(K79Q)-Oligo2:
gtggtttgacctgtgttttcttgaaaattacagACAGACAGAGGTGTTGTGTAAGGATTTTGAGAACGGCATTG*G*G(配列番号3)
CPT2(K79R)-Oligo2:
gtggtttgacctgtgttttcttgaaaattacagAAGGACAGAGGTGTTGTGTAAGGATTTTGAGAACGGCATTG*G*G(配列番号4)
1.2 同じ方法を使用し、CPT2K79Rマウスを構築し、違いはK79R: AAG-AGG 点突然変異である。塩基突然変異同定のGuideRNAと遺伝子配列は以下のとおりであった:
CPT2-sgRNA2:tgtgttttcttgaaaattacagG(配列番号5)
CPT2-sgRNA3:GAAGACAGAAGTGTTGTGTAAGG(配列番号6)
CPT2(K79R)-Oligo2:
gtggtttgacctgtgttttcttgaaaattacagAAGGACAGAGGTGTTGTGTAAGGATTTTGAGAACGGCATTG*G*G(配列番号7)
2.SIRT3遺伝子ノックアウトマウス
SIRT3がノックアウトされたマウス株のバックグラウンドは、C57BL/6Nであり、SIRT3がノックアウトされたマウスは、受精卵のハイスループットエレクトロトランスフォーメーションを使用して取得された。マウスは、すべてSPF(特定病原体除去)グレードであり、水と餌を自由に摂取し、飼育環境の湿度は40~70%、温度は約23℃に管理され、昼と夜が12時間ずつ交互に繰り返されるサイクルをシミュレートし、上海交通大学医学部動物科学部によって管理、飼育された。
【0106】
3 マウスの遺伝子型の同定
マウスに番号を付け、尾を切り取り、無水エタノール法を使用してマウスのゲノムDNAを抽出し、PCRで増幅後、Gel Image System 250ゲルイメージングシステムと紫外線照射を使用し、ゲルをイメージングした。
【0107】
PCRプライマー
【0108】
【0109】
【0110】
【表3】
PCR産物のシーケンシングと遺伝子型の同定
CPT2点突然変異マウスのPCR産物を、フォワードプライマーとともにシーケンシングし、返された塩基配列を、4PEAKSソフトウェアを使用して同定し、正しいことを確認した。
【0111】
SIRT3-KOマウスの遺伝子型の同定:単一の500bpバンドは、マウスが野生型であることを示し、単一の100bpバンドは、マウスがノックアウト型であることを示す。100bpと500bpのバンドが同時に現れた場合、マウスがヘテロ接合型であることを示す。
【0112】
4.ヒトのアフェレーシス血小板の常温保存とサンプル採取
適量のアフェレーシス血小板を、50mlの遠心管に加え(容量は15ml/管を超えない)、通気性膜として、臨床血小板保存バッグを使用して50ml遠心管の口を覆い、固定し、水平シェーカーの上に置き、チューブ内の体積に基づいて、血小板が十分に揺さぶられるように回転速度を決定し、通気性膜に触れることなく酸素に完全にさらされて呼吸できるようにした。
【0113】
この方法は、実験室環境で臨床アフェレーシス血小板の保存をシミュレートできる;サンプリングに使用でき、サンプリングが完了する。収集されたアフェレーシス血小板サンプルは、血小板の計数、フローサイトメトリー指標検出、タンパク質サンプリング、血小板の生存度の検出、ATP含有量検出などの目的に使用できる。
【0114】
5.マウス血小板の保存
マウスの腹部大動脈血を採取し、全血に、血小板凝集を阻害するアピラーゼ(最終濃度:1U/ml)とPGE1(最終濃度:0.1μg/ml)を加え、素早く混合し、遠心分離(1050rpm、室温、10分間)し、2回遠心分離した後、実験グループの上部血漿層を吸引して廃棄し、血小板沈殿物を底部に残した。野生型マウスの血漿を実験グループマウスと野生型マウスの血小板沈殿物に均一に分配させ、血小板を均一に分散懸濁させ、ヒト血小板法に従って保存した。
【0115】
6.血小板凝集機能の検査
従来の方法では、血小板凝集器を使用し、3×108/mlの血小板300μlを、凝集チューブに加え、必要な阻害剤を加え、穏やかに撹拌し、37℃で3分間インキュベートし、ベースラインを確立し、5分以内の凝集曲線の変化を観察した。
【0116】
7.血小板アポトーシス実験
従来の方法に従って、血小板をサンプリングし、タイロードバッファーで血小板濃度を10^8/mlに希釈し、実験グループとコントロールグループからの血小板を、それぞれ25μl採取し、新しいEPチューブに加え、各チューブに、5μlの10×Binding Bufferと2μl FITCマークされたアネキシンVを加え、さらに18μlのタイロードバッファーを加えて、反応系を50μlまで補充した。暗所室温で15分間インキュベートした後、200μlの1×Bingding Bufferを加え、マシンでの検出し、同時に、マークされない血小板のチューブを、陰性対照として準備した。アネキシンVでマークされた血小板を、マーク後1時間以内に検出し、FITC陽性細胞集団は、アポトーシスの過程にある血小板である。
【0117】
8.安定にトランスフェクトされた細胞株におけるアポトーシスのフローサイトメトリー検出
接着細胞を、トリプシンで消化して収集し、4℃、2000rpmで5分間遠心分離し、PBSで数回洗浄し(細胞沈殿物に1mlPBSを加え、3分間放置し、4℃、2000rpmで5分間遠心分離する)、残留されたEDTAを完全に除去し、遠心分離してから上清を除去し、細胞を再懸濁した後、5μlの蛍光マークされたアネキシンVを加え、よく混合し、暗所室温で15分間インキュベートし、その後、5μlのヨウ化プロピジウムを加え、暗所で室温5分間インキュベートし続け、200μl×Binding Bufferを加え、マシンで検出し、1時間以内に検出を完了した。
【0118】
9.ミトコンドリア電位差のフローサイトメトリー検出
9.1 JC1蛍光色素で、血小板ミトコンドリア電位差の変化を検出する:従来の方法に従って、JC1作業溶液を調製し、CCCPで陽性コントロールグループの血小板を処理し、ミトコンドリア膜電位を低下させ、陽性コントロールを形成した。血小板をサンプリングし、108/mlに希釈した。25μlの血小板を採取し、25μlのJC1作業溶液を加え、混合し、暗所で37℃30分間インキュベートし、200μlの1×JC1染色バッファーを加えて、マシンで蛍光強度を検出し、ミトコンドリアの脱分極の比率を、赤色と緑色の蛍光の相対比で表す。
【0119】
9.2 TMRM蛍光色素で、血小板ミトコンドリア電位差の変化を検出する
血小板をサンプリングし、上記のように希釈し、50μlのタイロードバッファーと0.1μlのTMRM原液を50μlの希釈液に加え、暗所で37℃30分間インキュベートし、その後、500μlのタイロードバッファーを加え、マシンで検出し、TMRMの蛍光強度は、ミトコンドリア電位差の変化に応じて赤方偏移し、蛍光強度で、ミトコンドリア電位差のレベルを表す。
【0120】
9.3 TMRM蛍光色素で、接着細胞ミトコンドリア電位差の変化を検出する
安定にトランスフェクトされた細胞を、1日前にプレーティングし、実験要件に応じて、異なる濃度の脂肪族アシルカルニチンまたはその他の阻害剤を、さまざまな細胞に添加した。翌日、TMRMを細胞培養液で、1:1000に希釈して、作業溶液を調製し、あらかじめ調製した細胞の培地を交換し、インキュベーターに入れて、30分間培養を続けた。細胞を氷冷したPBSで2回洗浄し、トリプシンで、細胞を消化して収集し、600gで5分間遠心分離して細胞沈殿物を取得し、細胞をPBSで2回洗浄し、200μlのPBSに再懸濁し、マシンで蛍光を検出した。
【0121】
10.Mitosox 蛍光色素の検出
従来の方法を使用して、25μlの血小板を等しい割合で希釈し、0.1μlのMitosox試薬(5mM)を加え、暗所で37℃30分間インキュベートし、その後、200μlの緩衝液を加えて、蛍光強度を検出した;接着細胞の染色:600gで、5分間遠心分離し、上清を除去し、細胞を、200μlのMitosox作業溶液に再懸濁し、暗所で37℃30分間インキュベートし、600gで5分間遠心分離し、細胞をPBSで2回洗浄し、次いで、200μlのPBSを加えて細胞を再懸濁し、検出した。
【0122】
11.CPT2、CPT2K79Q、CPT2K79Rプラスミドと安定にトランスフェクトされた細胞株
CPT2K79Rが挿入されたpLVX-IRES-ZsGreen1、CPT2K79Qが挿入されたpLVX-IRES-ZsGreen1、およびCPT2が挿入されたpLVX-IRES-ZsGreen1の3つのプラスミドは、Shanghai Sunny Biotechnology Co.,Ltd.によって合成された。レンチウイルストランスフェクション、293T細胞感染、および安定にトランスフェクトされた細胞株はすべて従来の方法で実行された。
【0123】
12.血小板中のATP含有量の測定
市販のATP検出キットを使用し、3x108個の血小板を採取し、EDTAとアピラーゼを加えて、遠心分離して、血小板沈殿物を得、沈殿物に、200μlのATP検出溶解溶液を加え、血小板を吹き飛ばして、氷上に置きた。4℃、12,000gで5分間遠心分離し、その後の試験のために上清を採取した。校正し、ATP標準液をそれぞれ10、3、1、0.1、0.01μM/lに希釈した。ATP検出試薬とATP検出試薬希釈液を、1:9の割合で混合した。ATP濃度の測定:100μlのATP検出作業溶液を検出ウェルに加え、室温で3~5分間放置し、遮光された96ウェルプレートの検出ウェルに、20μlの異なる濃度の標準および検測しようとするサンプルを加え、素早く混合し、少なくとも2秒の間隔の後、化学発光検出器(ルミノメーター)で蛍光値を測定し、検量線をフィットし、検測しようとするサンプル中のATP含有量を計算し、残りの検測しようとするサンプルにおけるBCAタンパク質を定量して、タンパク質量の違いによって生じる測定誤差を排除した。
【0124】
13.ミトコンドリア Mitotracker 染色
Mitotracker Deep Red FM-special packagingは、Thermofisher Companyから購入した。実験細胞は、1日前に処理され、24ウェルプレートの底に、円形のガラススライドを置き、細胞をプレーティングした。37℃の細胞培養インキュベーターで、一晩培養し、翌日に、各ウェルの細胞密度が、50%~70%になるようにした。24ウェルプレート内の細胞培養液を洗い流し、PBSで2回洗浄した。次に、Mitotracker作業溶液(1mM Mitotracker Deep Redを、100nMの作業濃度に希釈したもの)を、24ウェルプレートに加えた。24ウェルプレートを、37℃の細胞培養インキュベーターに戻し、30分間培養を続けた。染色後、細胞をPBSで洗浄し、水平シェーカーで、5分間ゆっくりと振盪し、新しいPBSバッファーに交換し、これを2回繰り返した。200μlの4%ホルムアルデヒドを、各ウェルに加え、室温で10分間固定し、細胞をPBSで再度洗浄した;すぐに使用できるDAPI色素200μlを、24ウェルプレートの各ウェルに添加し、全体を遮光し、室温で10分間染色した。退色防止試薬(Anti Fade Reagent)をスライドに1滴滴下し、スライドを、24ウェルプレートから取り出し、水を吸収し、ランダムに、5つの視野を選択し、蛍光顕微鏡で写真を撮り、異なる蛍光を重ね合わせた。
【0125】
14.Seahorse Metabolometerで血小板と安定にトランスフェクトされた細胞株のミトコンドリアの好気性代謝と解糖系をリアルタイムでモニターする
接着細胞を、30,000細胞/ウェルの比率で播種した。細胞呼吸に対する薬物の影響をテストするには、細胞を接種するときに阻害剤を添加した。Celltakを細胞接着剤とし、細胞培養プレートをコーティングし、浮遊細胞が、Seahorse XF96 細胞プレートの底に接着するようにした。実験当日、適量の血小板懸濁液をウェルに添加し、解糖能試験用の実験ウェルに、血小板107個を接種し、細胞酸素消費量試験用の実験ウェルに、血小板2×107個を接種し、Celltakに付着させた。
【0126】
2つのSeahorse検出液の調製:
【0127】
【表4】
37℃の水浴中で、1mM水酸化ナトリウムで、pHを7.4に調整し、後で使用するために、37℃の水浴に置きた。
【0128】
ミトコンドリアストレスキットと解糖系ストレスキットにおける薬剤の調製および投与方法
1)血小板代謝を検出する場合の投与スキーム
【0129】
【表5】
2) 安定にトランスフェクトされた細胞の代謝を検出する場合の投与スキーム
【0130】
【表6】
無炭酸インキュベーターから含水テストプレートを取り出し、投与ウェルの濃度に希釈した薬剤を、3つの投与ウェルA/B/Cにそれぞれ添加し、このうち、ウェルAに20μl、ウェルBに22μl、ウェルCに25μlを加えた。
【0131】
15.ウシ血清アルブミンと安定同位体にマークされたパルミチン酸共役体の調製
脂肪酸を含まないウシ血清アルブミン2.267gを取り、撹拌しながら、150mM NaCl溶液100mlに加え、温度を維持するために、37℃の水浴に入れた。別に、17mMのBSA Controlストック溶液を調製し、-20℃で保存した。安定同位体にマークされたパルミチン酸30.6mgを、150mM NaCl溶液44mlに加え、70℃の水浴中で撹拌した。別に、BSA溶液50mlを取り、パルミチン酸溶液40mlを8回に分けて加え、37℃の水浴中で、1時間以上撹拌し、150mM NaCl溶液で100mlに定量し、pHを7.4に調整し、濃度1mMのウシ血清アルブミンと安定同位体にマークされたパルミチン酸共役体を調製し、-20℃で保管した。
【0132】
新たに採取したアフェレーシス血小板を取り、血小板に安定同位体にマークされたパルミチン酸(最終濃度66μM)を添加し、パルミチン酸を添加した実験グループに、パルミチン酸の10倍の濃度のL-カルニチン(最終濃度660μM)を添加し、保存中、毎日にサンプルを採取し、0~7日間保存された血小板のサンプルを収集し、毎日に3×108個の血小板を採取し、EDTAとアピラーゼを添加して、血小板の凝集と活性化を阻害し、室温、800gで5分間遠心分離し、上清を捨て、血小板を緩衝液で一度洗浄し、再度遠心分離することにより、血小板の代謝を迅速に停止させるために、血小板沈殿物を液体窒素中で急速凍結させた。安定同位体にマークされた血小板サンプルを、Fluxomicsで分析し、透過型電子顕微鏡で、細胞のミトコンドリアの形態やミトコンドリアの内部構造の変化を観察した。
【0133】
16.マウスITPモデルの構築
WTマウスに、それぞれに、NMN、NAC、AMPK阻害剤、またはNMN+NAC+AMPK阻害剤を静脈内注射した。30分後、まず、HEMAVET自動血液分析装置を使用し、全血球計算から基礎血小板数を測定した。マウス血小板を、2μgの抗CD42bモノクローナル抗体R300(Emfretから購入)の静脈内注射によって除去した。血小板のクリアランスと回復をモニターするために、さまざまな時点で眼窩血液を収集した。
【0134】
17.ヒトのアフェレーシス血小板の冷蔵保存とサンプル採取
適量のアフェレーシス血小板を、50mlの遠心管に加え(容量は15ml/管を超えない)、通気性膜として、臨床血小板保存バッグを使用して50ml遠心管の口を覆い、固定し、4度の冷蔵庫で3日間保管し、血小板凝集活性の検出と血小板アポトーシスレベルのフローサイトメトリー検出を行った。
18.データ分析
上記の実験は、すべて、統計分析とグラフ作成のためにGraphpad Prism6ソフトウェアを使用して実行され、データ結果は、MEAN±SDとして表され、P値の計算には、Student’s Test方法が使用され、P値が小さいほど、結果はより有意になり、P値が0.05未満の場合、データは統計的に有意である。
【実施例1】
【0135】
異なる日に保存された血小板の品質は、時間の経過とともに低下する
採取したばかりの新鮮なアフェレーシス血小板を取り、臨床で使用される標準的な使い捨て血小板室温保存バッグ(材質は、クエン酸ブチリルトリ-n-ヘキシル可塑化軟質ポリ塩化ビニルカレンダー加工フィルム)(四川ナンゲル社より購入)に保存し、臨床用アフェレーシス血小板の保存条件をシミュレートするために、水平シェーカーを研究室細胞室のクリーンベンチに設置し、標準条件下に0~7日間置き、毎日に、異なる日に保存されたアフェレーシス血小板を収集し、血小板の機能と代謝を追跡した。
【0136】
実験では、血小板は、保存中に活性化剤に反応する能力を徐々に失い、かつ3~4日間保存すると、活性化剤に反応する能力が急速に低下することが判明した。同時に、血小板のミトコンドリア電位差 (Mitocondrial Potential)も、保存期間の増加とともに減少した。細胞のアポトーシス(Apoptosis)の指標となるホスファチジルセリンの曝露レベルは、保存中に増加し続けた。活性化剤に対する血小板の反応性(Agregation)も、4日目に大幅に減少した。血小板中の活性酸素種(ROS)のレベルは、保存3日目に、爆発的に増加した(
図1A)。
【0137】
Caspase3に対するウェスタンブロット分析により、血小板が保存中にCaspase3を活性化し、Caspasが媒介するアポトーシス経路を誘発し、細胞のアポトーシスを引き起こすことが判明した。保存時間が増加するにつれて、血小板のCaspase3活性化の程度も、増加する傾向を示した。Caspase3切断体のタンパク質の存在量は、Caspase3の活性化の程度を表す(
図1B)。
【0138】
これによって、保存中に、血小板は、活性化剤に反応する能力を失い、アポトーシスを増加させ、活性酸素種を蓄積し、ミトコンドリアを脱分極させ、3~4日間保管すると、急速な変化が見られることがわかった。これらの現象の背後にある影響要因をさらに解明して介入するには、血小板の代謝と死のプロセスに関する詳細な研究が必要である。
【実施例2】
【0139】
ミトコンドリア由来のタンパク質の差次的な発現が血小板の品質を低下する
1.血小板サンプルのアセチル化に関する定量的プロテオミクス研究により、タンパク質のアセチル化レベルが変化することが判明した
0~6日間保存した保存された血小板サンプルを収集し、TMTマーク、高速液体クロマトグラフィー分画技術、質量分析による定量的プロテオミクス技術などの一連の技術の組み合わせによって、血小板のアセチル化定量プロテオミクス研究を実施した。
まず、細胞を溶解してタンパク質を抽出し、トリプシンを用いてタンパク質を加水分解し、ペプチド断片にし、TMTでマークした後、高速液体クロマトグラフィーで分画し、その後に、液体クロマトグラフィーと質量分析のタンデム分析を実行し、得られた二次質量分析データを、Maxquant(V1.5.2.8)で検索した。最後に、データに対してバイオインフォマティクス分析を行った。この実験では、定量的な情報を持つ合計3204個のタンパク質を同定し、変化閾値として1.3倍、標準としてT-TestP値<0.05を採用すると、定量化されたタンパク質のうち、1d/0d比較グループでは、14個のタンパク質の発現がアップレギュレートされ、6個のタンパク質の発現がダウンレギュレートされた。2d/0d比較グループでは、7個のタンパク質の発現がアップレギュレートされ、6個のタンパク質の発現がダウンレギュレートされた。3d/0d比較グループでは、28個のタンパク質の発現がアップレギュレートされ、21個のタンパク質の発現がダウンレギュレートされた。4d/0d比較グループでは、41個のタンパク質の発現がアップレギュレートされ、225個のタンパク質の発現がダウンレギュレートされた。5d/0d比較グループでは、28個のタンパク質の発現がアップレギュレートされ、11個のタンパク質の発現がダウンレギュレートされた。6d/0d比較グループでは、38個のタンパク質の発現がアップレギュレートされ、16個のタンパク質の発現がダウンレギュレートされた。さらに、発現が変化した血小板のアセチル化修飾を分析したところ、従来の保存条件下で、血小板を3~4日間保存すると、血小板内のアセチル化が変化したタンパク質の数が、急速に増加したことが明らかになった(
図2A)。
【0140】
2.アセチル化修飾が起きたタンパク質の位置を確定する
アセチル化レベルが変化したタンパク質については、さらに、KEGG経路、細胞内構造の局在化などの詳細な分析を含む、バイオインフォマティクス分析を行った。
Wolfpsortソフトウェアを使用して、保存4日目に、アセチル化の差次的な発現を示したタンパク質の細胞内構造に関する分類統計を行う場合、タンパク質タイプの種類の1/4も、ミトコンドリア由来であることが判明し(
図2B)、これは、血小板を4日間保存すると、多数のミトコンドリアタンパク質のアセチル化修飾の程度が変化することを示唆する。
異なる比較グループにおける差次的なタンパク質を、KEGG経路で濃縮した後、発明者は、クラスター分析をさらに行い、さらに比較グループにおける差次的なタンパク質の機能の相関関係を見つける。濃縮分析により得られた濃縮試験P値によって、階層クラスタリングで、異なるグループ内の関連する機能をクラスター化し、ヒートマップを描画した。ヒートマップには、水平方向は、さまざまな比較グループの濃縮テストの結果を表し、垂直方向は、関連する機能の説明を表す。異なる比較グループの差次的な発現タンパク質と機能説明に対応するカラーブロックは、濃縮の程度を示し、色が赤くなるほど濃縮度が強くなり、色が青くなるほど濃縮度が弱くなる。ヒートマップの分析では、血小板の活性化経路と脂肪酸代謝関連経路には、濃縮レベルが高いことが示され、これら2つの経路の関連タンパク質が、血小板の保存中にアセチル化修飾によって制御されていることがわかった(
図2C)。
【実施例3】
【0141】
CPT2分子の活性の低下は、血小板の品質の低下に関連する可能性がある
実施例1~2では、それぞれ、ヒト血小板のプロテオーム解析を行ったところ、いずれの解析においても、脂肪酸代謝に関与する多くの酵素のアセチル化度が、保存時間とともに変化することが見出された。さらに分析した後、本発明者は、保存中に時間の経過とともに、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT2)分子がアセチル化され、かつ、当該アセチル化は、79位のリジン(CPT2K79)で起こったことを発見し、これは、CPT2タンパク質の79位のリジンの修飾が、保存時間とともに明らかに変化することができ、79位のリジンのアセチル化が、CPT2分子の機能を変化することができることを示す(
図3A)。
本発明者らは、79位のリシンでアセチル化されたCPT2を含むペプチド断片を合成することにより、K79でアセチル化されたCPT2分子に対する抗体を調製した。ドットブロット実験により、当該抗体は、アセチル化されたペプチドのみに結合し、非アセチル化のペプチドは認識しないことが確認された(
図3B)。当該抗体を使用し、0日から7日間保存されたヒト血小板サンプルのCPT2の79位のアセチル化度を検出し、免疫沈降およびウェスタンブロット実験により、保存中に、CPT2のアセチル化が確かに発生することが判明した。さらに、CPT2分子の79位のアセチル化度は、保存時間とともに増加し続け、血小板保存の2日目に、アセチル化のピークに達し、その後、CPT2分子の79位のアセチル化が、ゆっくりと減少した(
図3C)。
【実施例4】
【0142】
CPT2機能障害による脂肪酸代謝障害は、血小板の品質に直接影響を与える
CPT2分子は、ミトコンドリアの内膜に位置し、脂肪酸酸化のプロセスにおいて必須の触媒酵素であり、CPT2分子は、脂肪族アシルカルニチンの脂肪族アシルCoAとカルニチンへの分解を触媒し、脂肪酸をミトコンドリアに輸送し、その後の脂肪酸酸化に備えることが、CPT2タンパク質活性の低下は、エネルギー代謝経路を通じて血小板の品質に影響を与える可能性があることが示唆される。
【0143】
1.血小板の脂肪酸代謝経路が遮断される
グルタミンと脂肪酸は、生体にとって重要な3つのエネルギー物質である。本発明者は、液体クロマトグラフィー質量分析計を使用して、C13追跡代謝経路に関する実験を実施し、C13マークされたパルミチン酸およびカルニチン、C13マークされたグルコース、およびC13マークされたグルタミンを、ガス交換可能なプロ仕様血小板保存バッグに加えた。
安定同位体にマークされたパルミチン酸とカルニチンを添加した実験グループでは、脂肪酸の代謝が顕著に阻害され、保存日数の増加とともに、トリカルボン酸回路のマークされた中間代謝物の比率が低下し、これは、保存日数の増加につれて、酸化を受けてトリカルボン酸回路に入る脂肪酸が少なくなることを示す。脂肪酸の酸化経路は、血小板の保存中に遮断される。保存7日目では、マークされたリンゴ酸とマークされたフマル酸の比率は、10%未満であった。これは、血小板の保存中に、脂肪酸の酸化と分解の速度も低下したことを示す(
図4A)。
【0144】
2.CPT2機能障害の影響を受ける脂肪酸代謝において、長鎖脂肪族アシルカルニチン(C16:0、C18:0)が、時間の経過とともに蓄積する
脂肪酸は、生体にとって重要なエネルギー源であり、脂肪酸は、脂肪族アシルCoAシンターゼの作用により、細胞質内で脂肪族アシルCoAを生成する。長鎖脂肪族アシルCoAは、ミトコンドリア膜を自由に通過できなく、ミトコンドリアの外膜に位置するカルニチン パルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)によって触媒され、カルニチンと結合して脂肪族アシルカルニチンを形成してから、酸化と分解の次のステップに進むためにミトコンドリアマトリックスに入る必要がある。ミトコンドリアに輸送された脂肪族アシルカルニチンは、CPT2によって触媒され、再び、脂肪族アシルCoAとカルニチンが生成された。脂肪族アシルCoAは、ミトコンドリアマトリックスに入り、β-酸化多酵素複合体の秩序ある触媒作用の下で、アセチルCoAを生成し、アセチルCoAは、最終的に、トリカルボン酸回路に入り、完全に酸化され、エネルギーを提供する。
血小板における脂肪酸代謝の障害を観察した後、液体クロマトグラフィー質量分析を使用し、脂肪酸代謝の中間生成物である脂肪族アシルカルニチンの含有量を追跡し、その結果は、長鎖脂肪族アシルカルニチン(C16:0、C18:0)が、血小板の血漿中に蓄積し、保存時間の増加につれて、血漿中の脂肪族アシルカルニチンの含有量が増加することを見出した。血漿中の脂肪族アシルカルニチンのレベルは、脂肪酸の代謝の状態を表し、遊離脂肪酸は、ミトコンドリア膜上のトランスポーターを介してミトコンドリア内に輸送される前に、脂肪族アシルカルニチンに代謝される必要があり、そして、次の脂肪酸酸化代謝を行い、細胞にエネルギーを提供する。脂肪族アシルカルニチンの含有量は、血小板の保存の初期段階で蓄積し、これは、血小板が、保存の初期段階で非常に活発な脂肪酸代謝を受け、脂肪酸の完全な酸化に備えて大量の脂肪酸が脂肪族アシルカルニチンに代謝されることを示すが、CPT2タンパク質の活性が低下し、長鎖脂肪酸がミトコンドリアに入ることができなくなり、代謝されてエネルギーを産生できなくなる;長鎖脂肪族アシルカルニチンの細胞内蓄積という異常現象は、血小板の脂肪酸代謝障害が、CPT2触媒酵素の機能障害に関連することを示す(
図4B)。
【0145】
3.脂肪族アシルカルニチン濃度の増加は、血小板の保存に悪影響を及ぼす
血小板における脂肪族アシルカルニチンの蓄積現象は、血小板を3~4日間保存した場合のROS増加とアポトーシスの現象と一致する。したがって、有害な脂肪酸中間代謝産物である脂肪族アシルカルニチンは、何らかのメカニズムを通じて、代謝障害を引き起こし、それによって、細胞のアポトーシスを引き起こすと推測できる。
脂肪族アシルカルニチンの血小板に対する害を検証するために、パルミチン酸、カルニチン、パルミチン酸とカルニチンおよびパルミトイルカルニチンを、新たに分離した血小板に添加し、血小板を翌日まで保存すると、血小板の生存度を測定し、かつミトコンドリア電位差やミトコンドリア活性酸素種レベルなどの一連のミトコンドリア関連指標も検出した。フローサイトメトリー検出により、脂肪族アシルカルニチン濃度の異常な増加は、血小板の保存に寄与しないことが判明し、パルミチルカルニチンを添加した細胞は、コントロールグループ細胞よりもアポトーシス率が高く、ミトコンドリア電位差が低く、ミトコンドリア内の活性酸素種のレベルが高いことを見出した。同時に、脂肪酸とカルニチンを同時に添加した実験グループの血小板の状態は、カルニチンのみまたはパルミチン酸のみを添加した実験グループよりも、はるかに悪かったことがわかった。これは、パルミチン酸とカルニチンの反応で得られる中間代謝物であるパルミタシルカルニチンが、血小板の保存に悪影響を及ぼし、脂肪族アシルカルニチンは、非常に有害な脂肪酸の中間代謝産物であることをさらに示す(
図4C)。
【0146】
4.脂肪族アシルカルニチンに対するCPT2のK79サイトのアセチル化の影響
CPT2のK79サイトのアセチル化と脂肪族アシルカルニチン蓄積との相関関係をさらに検証するために、CPT2分子/CPT2K79R突然変異/CPT2K79Q突然変異の3つのプラスミドを構築し、3つのプラスミドシステムによって、レンチウイルスをパッケージングし、293T細胞株を感染し、外来遺伝子を宿主ゲノムに組み込み、さらに、4つの安定にトランスフェクトされた細胞株を、フロー蛍光スクリーニングを通じて構築した。CPT2K79Rは、CPT2分子の79位のリシンをアルギニンに突然変異させ、それにより、79位がアセチル化する能力を失う。CPT2K79Qは、CPT2分子の79位のリシンを、グルタミンに突然変異させ、79位のアセチル化をシミュレートするモデルである。
【0147】
続いて、安定にトランスフェクトされた4つの細胞株のさまざまな指標を研究し、4つの安定にトランスフェクトされた細胞株における脂肪族アシルカルニチンの含有量を液体クロマトグラフィー質量分析によって検出した結果、空ベクターのコントロールグループと比較して、CPT2K79Q突然変異細胞株は、より多くの脂肪族アシルカルニチンを蓄積し、CPT2K79R細胞株に蓄積された脂肪族アシルカルニチン含有量は、CPT2K79Q細胞株よりも有意に低いことを見出した。
安定にトランスフェクトされた4つの細胞株に対して蛍光染色を行ってフローサイトメトリー検出をした結果、CPT2K79Q細胞株の状態は、CPT2K79R細胞株の状態よりも明らかに劣り、CPT2K79Qの活性酸素種の蓄積と細胞アポトーシス率は、安定にトランスフェクトされた他の3つの細胞株よりも有意に高く、かつCPT2K79R細胞株における活性酸素種の蓄積と細胞アポトーシス率は、安定にトランスフェクトされた他の3つの細胞株よりも、大幅に低かった(
図4D)。
実験により、CPT2分子の79位の突然変異が、細胞内の脂肪族アシルカルニチンの蓄積、アポトーシス率、およびミトコンドリア活性酸素種の蓄積に、大きな影響を与えることを示す。CPT2分子の79位のアセチル化が、その機能を阻害し、79位にアセチル化されたCPT2は、脂肪族アシルカルニチンの脂肪族アシルCoAとカルニチンへの分解を触媒できなくなり、細胞内に脂肪族アシルカルニチンの蓄積を引き起こす。同時に、脂肪族アシルカルニチンの蓄積は、細胞の状態も影響を与える。脂肪族アシルカルニチンは、有毒な代謝中間体として、異常な脂肪酸代謝の指標として臨床的によく使用され、脂肪族アシルカルニチンの濃度の蓄積につれて、細胞のアポトーシス率とミトコンドリアの活性酸素種のレベルが増加する。
【0148】
上記の実験により、CPT2K79Q細胞株におけるCPT2の機能が損なわれると、脂肪族アシルカルニチンが蓄積することが確認された。CPT2K19R細胞株には、逆の効果がある;CPT2の機能障害が、必然的に、脂肪族アシルカルニチンがその後の代謝を受けられなくなり、ミトコンドリアに蓄積される。
CPT2およびCPT2変異体の安定にトランスフェクトされた細胞株を脂肪族アシルカルニチンで4時間処理した後、細胞を固定し、電子顕微鏡を使用して、パルミトイルカルニチンで処理または未処理のさまざまな細胞株のミトコンドリアの状態と構造を観察した。パルミトイルカルニチンを含まない3つの細胞グループのミトコンドリアの形態と比較すると、CPT2K79Q細胞株のミトコンドリアには構造異常があることが観察でき、具体的に、ミトコンドリア内のクリステの形状や並べに異常があり、クリステの構造が乱れたり、壊れたり、ぼやけたりして、ミトコンドリアの中心に明るい領域が現れ、これは、ミトコンドリアの内膜構造が深刻な損傷を受けていることを示す。CPT2K79R細胞株のミトコンドリアとCPT2細胞株のミトコンドリアを観察すると、きれいに並べった明確なクリステ構造が見られ、明るい領域が少なく、細胞株のミトコンドリアがより健康な状態にあることがわかった。
3つの細胞株に低濃度のパルミトイルカルニチンを添加し、さらに4時間インキュベートした場合、パルミトイルカルニチンを添加したミトコンドリアの状態は、パルミトイルカルニチンを添加しない実験グループのミトコンドリアの状態よりも、著しく悪かったことがわかった。パルミトイルカルニチンを添加した細胞では、ミトコンドリア内膜がさらに空胞化し、空胞同士が融合して、クリステが多胞構造になった。さらに、脂肪族アシルカルニチンを添加した細胞では、電子密度の高いファゴソームがより多く存在することも判明し、これは、損傷したミトコンドリアを貪食したリソソームである可能性があり、これは、ミトコンドリアが深刻な損傷を受けていることを、さらに示した。注目にすべきは、低投与量の脂肪族アシルカルニチン治療は、CPT2K79R細胞株のミトコンドリアの状態にほとんど影響を与えなく、脂肪族アシルカルニチンを添加しても、CPT2K79R細胞株のミトコンドリアは、多嚢胞性クリステ構造を示さなかった。CPT2機能障害のあるCPT2K79Q細胞株に対するパルミトイルカルニチンの効果は、特に明らかであり、CPT2細胞株に対する状態も明らかでした(
図4E)。
【0149】
上記の実験から次の結論が得られる:
1.パルミトイルカルニチンは、ミトコンドリアに有毒な影響を及ぼし、細胞ミトコンドリアの形態に影響を及ぼし、さらに、細胞の代謝能に影響を与える。
2.CPT2K79Q細胞では、CPT2分子の構造的アセチル化により、CPT2の触媒能力が低下し、ミトコンドリア自体が、より多くの脂肪族アシルカルニチンを蓄積し、その結果としては、ミトコンドリアの形態が変化し、代謝能力が低下する。追加の脂肪族アシルカルニチンを添加すると、CPT2が、脂肪族アシルカルニチンを代謝できなくなり、ミトコンドリアの損傷が激しくなる。
3.CPT2K79R細胞では、CPT2分子がアセチル化できないため、CPT2の触媒能力が非常に安定し、細胞自体のミトコンドリアに脂肪族アシルカルニチンの蓄積が少なく、ミトコンドリアの状態が良好である。追加の脂肪族アシルカルニチンを添加する場合、CPT2は、脂肪族アシルカルニチンの代謝を確実にするのに十分な活性を維持し、脂肪族アシルカルニチンの濃度が高すぎる場合でも、細胞内ミトコンドリアの構造が損傷しないようにすることもできる。
【実施例5】
【0150】
CPT2の機能を直接変化させることが血小板の品質に及ぼす影響
上記の実験から、血小板の品質の低下の過程で、CPT2の発現が異常であり、血小板代謝経路に対するその影響は、異常なCPT2が異常な脂肪酸代謝を引き起こし、最終的に血小板の品質に影響を与えることを証明した;CPT2の機能を改善し、血小板の品質を確保する方法をさらに見つけるために、次の実験を実施した。
【0151】
1.血小板品質に対するタンパク質アセチル化阻害剤の影響
リジンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)は、一連のタンパク質のアセチル化でタンパク質の活性を制御し、そして細胞のアポトーシス、細胞の代謝などの重要の細胞機能を制御する。リジンアセチルトランスフェラーゼは、アセチルCoAのアセチル基の基質タンパク質のリジンへの転移を触媒し、それによって、基質タンパク質の機能に影響を与える。
tip60とp300の両方とも、典型的なアセチルトランスフェラーゼファミリーのメンバーである。tip60は、MYSTアセチルトランスフェラーゼファミリーに属し、細胞周期チェックポイントの活性化と、アポトーシスやオートファジーにおいて重要な制御役割を果たす。同時に、グルコース代謝などのさまざまな代謝経路でも、役割を果たす。p300はヒストンアセチラーゼファミリーの重要なクラスであり、その分子量が300kdであるため、p300と名付けられ、p300は、細胞増殖やアポトーシスなどのプロセスにおいて、制御役割を果たす。P300とtip60は、ミトコンドリアで発現し、かつミトコンドリアで、アセチルトランスフェラーゼとして機能し、非ヒストンタンパク質をアセチル化し、タンパク質の活性を変化させる。
新たに採取したアフェレーシス血小板に、tip60とp300の阻害剤を添加し、標準的な保存条件下で、血小板を7日間保存し、7日後に保存したアフェレーシス血小板のさまざまな指標(活性化剤に対する血小板の反応性、血小板アポトーシスの程度、ミトコンドリア電位差、とミトコンドリア酸素フリーラジカルレベル)を検出した。
実験により、アセチルトランスフェラーゼ阻害剤を添加すると、それがp300阻害剤であろうとtip60阻害剤であろうと、血小板内タンパク質のアセチル化を阻害することによって、アフェレーシス血小板の品質を効果的に改善できることが判明した。コントロールグループと比較して、tip60阻害剤(添加量10uM)とp300阻害剤(添加量10uM)を添加した実験グループは、活性化剤に対する血小板の反応性を効果的に改善し、血小板ミトコンドリアの電位差を増加させ、血小板アポトーシスの程度とミトコンドリア活性酸素種の含有量を減少させた(
図5A)。これは、血小板内のタンパク質のアセチル化を阻害すると、アフェレーシス血小板の保存品質が向上するができることを示す。これは、血小板のタンパク質のアセチル化度が、血小板の保存品質と密接に関係することを示す。血小板のタンパク質のアセチル化度の低下は、血小板の品質を効果的に改善することに寄与する。
【0152】
2.ミトコンドリアタンパク質アセチル化阻害剤の血小板に対する影響
サイレントインフォメーションレギュレーター2関連酵素3(SIRT3)は、サーチュイン(Sirtuin)ファミリーのメンバーであるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+) 依存性脱アセチル化酵素であり、ミトコンドリアの重要なタンパク質脱アセチル化酵素であり、CPT2などのミトコンドリアタンパク質に作用して、その脱アセチル化を引き起こす。この実験では、SIRT3 の役割を研究した。
【0153】
(1)SIRT3がノックアウトされたマウスでは血小板の品質が低下する
まず、SIRT3がノックアウトされたマウスの血小板を使用して、生体外の保存実験を実施した。野生型マウスとSIRT3がノックアウトされたマウスからの血小板沈殿を無菌環境で調製し、その後、野生型マウスの血漿中に、血小板を再懸濁し、血漿中の因子が血小板保存の効果を妨げるのを避けた。標準的な臨床アフェレーシス血小板保存条件下で、マウスの多血小板血漿を保存し、毎日サンプルを採取し、血小板アポトーシス率、ミトコンドリア電位差、ミトコンドリア活性酸素種の蓄積の点から、血小板の状態を評価した。
実験の結果としては、野生型コントロールマウスと比較して、SIRT3がノックアウトされたマウスの血小板は、保存中に、より速くアポトーシスを起こし、より多くの活性酸素種をミトコンドリアに蓄積し、ミトコンドリア電位差もより速く減少することがわかった(
図5B)。これは、SIRT3を欠く血小板は、ミトコンドリアタンパク質の脱アセチル化機構を欠き、その結果、ミトコンドリアタンパク質のアセチル化度が増加し、したがって、血小板の保存状態に影響を与えることを示す。これは、さらに、血小板タンパク質のアセチル化と脱アセチル化修飾は、血小板保存の老化プロセスにおいて重要な役割を果たすことを証明した。
【0154】
(2)SIRT3がノックアウトされたマウスには、CPT2分子の79位で高度にアセチル化される
野生型マウスの血小板と比較して、SIRT3がノックアウトされたマウスの血小板では、CPT2分子の 79 位のアセチル化度がより高い。24時間の保存後、野生型マウスとSIRT3がノックアウトされたマウスの血小板のCPT2分子の79位のアセチル化度が両方とも増加し、SIRT3がノックアウトされたマウスのCPT2の79位のアセチル化度が有意に増加した。血小板におけるSIRT3分子が欠如するため、ノックアウトマウスの血小板は、保存中に効果的な脱アセチル化修飾を受けることができなく、その結果、CPT2分子の79位のアセチル化度が大幅に増加し(
図5C)、CPT2分子の正常な生理学的機能に影響を与え、血小板脂肪酸代謝障害を引き起こし、血小板の品質を著しく低下させた。
【0155】
(3)SIRT3がノックアウトされたマウスの血小板における脂肪族アシルカルニチン含有量が増加する
マウス血小板を保存した0日目と1日目に、サンプルを収集し、野生型マウスとSIRT3がノックアウトされたマウスの血小板中の脂肪族アシルカルニチンの含有量を、それぞれ0日目と1日目に検出し、主に長鎖脂肪族アシルカルニチン(パルミトイルカルニチン、ステアロイルカルニチン)の含有量を検出した。
その結果、野生型マウスの血小板中の脂肪族アシルカルニチン含有量は、SIRT3がノックアウトされたマウスの血小板含有量よりも、有意に低いことが示された。そして、血小板の保存後、血小板中の長鎖脂肪族アシルカルニチンのレベルは、新鮮な血小板中の脂肪族アシルカルニチンのレベルと比較して増加し、SIRT3がノックアウトされたマウスの血小板中の脂肪族アシルカルニチンのレベルは、コントロールグループよりも高かった。これは、血小板の保存時間の増加につれて、血小板中の長鎖脂肪族アシルカルニチンの含有量が、蓄積し続けることを示す。そして、ミトコンドリアタンパク質のアセチル化度は、血小板中の長鎖脂肪族アシルカルニチンの含有量に大きく影響する(
図5Dの上)。これは、血小板の脂肪酸代謝に関連する酵素のアセチル化度が変化する可能性があり、それによって、血小板ミトコンドリアの脂肪酸代謝に影響を与え、これは、CPT2酵素活性の低下の結果と一致し、CPT2アセチル化と、脂肪酸代謝障害と、血小板の品質の損いとの相関関係を、さらに検証した。
【0156】
(4)SIRT3の活性化が血小板の品質に及ぼす影響
SIRT3は、NAD(+)依存性脱アセチラーゼであり、SIRT3の酵素活性は、細胞内のNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とNADH含有量によって調節され、細胞内のNAD+含有量が増加すると、SIRT3酵素活性が活性化され、逆に、NADH含有量が増加すると、SIRT3酵素活性が阻害される。
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の前駆体とするニコチンアミド(NAM)は、細胞内のNAD+含有量を増加させ、SIRT3の活性を高めることができ、したがって、NAMは、SIRT3のアゴニストでもあり、NAMを添加すると、間接的に、SIRT3の脱アセチル化活性を高めることができる。ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+) の合成を触媒する律速酵素である。
ニコチンアミドリボシド(Nicotinamide riboside、NR)も、NAD[+]前駆体の一種であり、ニコチンアミドリボシドキナーゼの触媒作用によって、NAD[+] レベルを増加させることができる。NAD[+]レベルの上昇は、SIRT1とSIRT3を活性化することができ、最終的に、ミトコンドリアタンパク質のアセチル化度を低下させ、酸化代謝を高めることができる。
P7C3は、NAMPTに結合し、NAMPT酵素の活性を高め、そして、NAMPTを介したNADサルベージ合成経路を強化し、細胞内NADのレベルを増加することができる。
SBI-797812は、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)阻害剤と構造的に類似し、NAMPT阻害剤のNAMPTへの結合を遮断できる化合物であり、SBI-797812は、NAMPT反応平衡をNMN形成に向けてシフトさせ、ATPに対するNAMPT親和性を高め、His247でリン酸化されたNAMPTを安定化し、ピロリン酸塩副産物の消費を促進し、NAD+によるフィードバック阻害を不活性化した。
これらの物質が、細胞内NADレベルを増加させる化合物を介して直接的または間接的にSIRTを活性化する能力を検証するために、新鮮なアフェレーシス血小板を採取し、グループ分けした後、NADレベルを上昇させる4つの化合物が血小板の品質に及ぼす影響を研究するために、NMN(0.1mM、0.5mM)、NR(0.1mM、0.5mM)、P7C3 (0.5uM、2.5uM)、SBI797812(2uM、10uM)の4つの化合物をそれぞれ血小板に添加した。
血小板保存7日目に、血小板を採取し、フローサイトメトリーにより、血小板のアポトーシス率、血小板ミトコンドリアの電位差、血小板ミトコンドリア中の活性酸素種の程度を解析した。また、血小板凝集試験で、活性化剤に対するさまざまな実験グループの血小板の反応性を検出した。
実験結果は、コントロールグループと比較して、4つの化合物を添加した実験グループでは(高濃度実験グループでも低濃度実験グループでも)、血小板の品質が改善され、この改善効果は濃度依存性であり、添加された小分子化合物の濃度が高くなるほど、血小板の品質の改善が大きくなることを示した。これは、活性化剤に対する血小板応答の向上、ミトコンドリア電位差の増加、アポトーシス率と活性酸素種レベルの減少に反映される(
図5Dの下)。
これは、前駆体の濃度を増加させることによってNAD+の濃度を増加させるか、NAMPT酵素の活性を増加させることによってNAD+の濃度を増加させるかにかかわらず、血小板の品質を、さまざまな程度に改善できることを示す。これは、SIRT3の活性が、血小板の保存品質にとって重要であることも示す。血小板ミトコンドリア内のタンパク質のアセチル化レベルを下げると、血小板の品質を大幅に改善する。
【0157】
3.CPT2のK79サイトのアセチル化
前述の結果により、ヒトとマウスにおけるCPT2のK79サイトのアセチル化が、CPT2タンパク質の発現と機能の異常に重要な役割を果たし、それによって、血小板の品質に影響を与えることがわかった。そこで、いくつかの動植物種のCPT2分子のアミノ酸配列を比較したところ、CPT2が、哺乳類の保存タンパク質であることが判明した。ほとんどの哺乳類(ヒト、マウスなど)のCPT2タンパク質の79位は、リジンであるが、ラットのCPT2分子の79位は、アルギニン(R)であり、これは、ラットが、天然のCPT2K79R突然変異を持つ生物であることを示し(
図5E)、そのため、ラットの血小板に対する脂肪族アシルカルニチンの影響の程度を検証した。
野生型ラットと野生型マウスの全血を、腹部大動脈採血により採取し、それぞれラットとマウスの多血小板血漿(PRP)を調製し、血小板の保存実験に用いられ、かつ、追加のパルミトイルアシルカルニチンを添加する2つの実験グループを設定し、濃度を勾配(2μMと10μM)として設定し、0~4日間の保存中に、血小板のアポトーシス率、ミトコンドリア内の活性酸素種の含有量、およびミトコンドリア電位差の変化をそれぞれ検出した。
実験の結果、ラットの血小板の保存中では、血小板のアポトーシス率とミトコンドリアの活性酸素種の含有量が、どちらもマウスよりも低いが、ミトコンドリアの電位差がマウスよりも高く、これは、ラットの血小板の状態は、マウスの血小板よりも有意に良好であることを示した(
図5F)。1日と2日の実験結果を比較すると、血小板の保存中の脂肪族アシルカルニチンの添加は、ラットの血小板の状態に大きな変化を与えないが、脂肪族アシルカルニチンの添加は、マウスの血小板の状態を、効果的に低下させ、この効果は濃度依存的な傾向を示した。
【0158】
野生型ラットと野生型マウスの血小板保存期間において、血小板サンプルを毎日採取し、液体クロマトグラフィー質量分析により脂肪族アシルカルニチン含有量を検出した。パルミトイルカルニチンとステアロイルカルニチンの変化傾向を分析すると、新鮮なラット血小板中の脂肪族アシルカルニチンの含有量は、新鮮なマウス血小板中の脂肪族アシルカルニチンの含有量よりも大幅に低いことをわかり、これは、ラットCPT2分子の79位の突然変異が、CPT2の触媒活性を増強できることを示した。保存中には、ラット血小板中の脂肪族アシルカルニチンの含有量は、スムーズに変化し、保存3日目にはわずかに蓄積した。しかし、マウス血小板中の脂肪族アシルカルニチンの含有量は、保存時間の増加とともに、急激に変動し、脂肪族アシルカルニチンの含有量は、保存2日目に突然増加し、その後、ほとんどの血小板がアポトーシスを起こすにつれて、急速に減少した(
図5G)。これによって、ラットCPT2K79Rモデルの血小板は、細胞内の脂肪族アシルカルニチンの蓄積に有効に抵抗し、脂肪酸の正常な代謝を確保し、それによって、細胞を早期アポトーシスから保護する。
この実験結果は、CPT2タンパク質の79位のアセチル化が、脂肪族アシルカルニチンの蓄積と血小板の品質に密接に関連することを再度検証した。CPT2タンパク質の79位のアセチル化を阻害すると、血小板のアポトーシスを遅らせることができる。したがって、CPT2タンパク質の79位のアミノ酸を制御することは、血小板の品質において重要な役割を果たす。
【実施例6】
【0159】
細胞エネルギー代謝の主要な経路と、CPTタンパク質および血小板の品質との間の相関関係
AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)は、体のエネルギー代謝を調節し、エネルギーの需要と供給のバランスを維持する機能がある。細胞内エネルギーレベルが低下する場合、AMPKの活性化が引き起こされ、酸化と合成代謝経路が調節される。
アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)は、脂肪酸合成の律速酵素であり、糖代謝により生成されるアセチルCoAは、ACCの作用によりマロニルCoAを合成し、マロニルCoAは、脂肪酸合成の最初のステップの産物であり、それが、負のフィードバックを通じてパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)の活性を阻害し、それによって、ミトコンドリアの脂肪酸の酸化を阻害する。ACCは、AMPKの下流標的の一つであり、活性化されたAMPKは、ACCをリン酸化することで、その機能を阻害し、マロニルCoA合成を減少させ、CPT1の活性を増加させ、脂肪酸の酸化を促進する(
図6A)。
本発明の実施例に関する研究により、血小板の保存中に、ATPが急速に消費され、ADP/ATP比の向上が、AMPKの活性化を引き起こすことが判明した。ウェスタンブロット実験による検証の結果、AMPKは、血小板中で確かにリン酸化され、活性化され、AMPKの下流基質であるアセチルCoAカルボキシラーゼもリン酸化され、そして、ACCの活性は、リン酸化により低下され、その代謝物であるマロニルCoAの濃度が低下し、マロニルCoAのCPT1に対する阻害効果は弱まり、大量の脂肪族アシルカルニチンはCPT1の触媒作用によりミトコンドリアへ侵入して蓄積し、CPT2の機能障害を引き起こした。
血小板に対するAMPK活性化の影響を検証するために、血小板に、AMPK阻害剤ドルソモルフィン(Dorsomorphin)2HCl(1uM、4uM)とAMPKアゴニストAICAR(0.1uM、0.5uM)を添加した。そして、血小板保存の4日目に、フローサイトメトリーを使用して、実験グループとコントロールグループの血小板のさまざまな指標の差を検出した。
実験の結果としては、AMPK阻害剤を添加した実験グループでは、活性化剤に対する血小板の反応性、細胞アポトーシスの程度、ミトコンドリアの活性酸素種の程度、及びミトコンドリアの電位差が、程度の差こそあれ改善されたことを示し、実験結果は、AMPK活性化の阻害が血小板の保存に保護効果があることを証明した。AMPKアゴニストを添加した実験グループの血小板では、コントロールグループと比較して、AMPK経路の活性化は、活性化剤に対する血小板の反応性に有害であるだけでなく、血小板のアポトーシスの速度も増加し、かつ、血小板のミトコンドリア機能にも非常に有害であり、ミトコンドリアの電位差は、大幅に減少したが、ミトコンドリア内の活性酸素種のレベルも増加した(
図6B)。
同時に、AMPK活性化剤または阻害剤を添加した後の実験結果は、明らかに濃度に依存した。実験の結果によれば、血小板におけるAMPK経路の活性化を阻害することにより、保存された血小板の品質を効果的に保護することができ、AMPK経路の活性化を阻害することが、CPT1による脂肪酸化の触媒作用を低減し、ミトコンドリアに入る脂肪族アシルカルニチンの量も減少し、これでCPT2の負担を減少するため、AMPK経路阻害剤は、CPT2のタンパク質機能に影響を間接的に及ぼし、その産物である脂肪族アシルカルニチンの蓄積を減らすことができる。
【実施例7】
【0160】
酸化防止剤は、活性酸素種の蓄積を減らし、CPT2の機能を間接的に改善する
前の実験では、活性酸素種の含有量が、血小板の品質を測定する指標の1つとして使用された。細胞のアポトーシスが活性酸素種の蓄積と密接に関連していることを考慮すると、血小板における活性酸素種の生成と蓄積を抑制することで、保存された血小板の品質が向上し、血小板のアポトーシス率が低下すると推測される。この推測を検証するために、新たに採取したアフェレーシス血小板に、酸化防止剤を添加し、保存7日目に、血小板の活性酸素種含有量、アポトーシス率、およびミトコンドリア電位差を検出した。
N-アセチルシステイン(NAC)は、一般的に使用される酸化防止剤であり、スルフヒドリル含有化合物として、NACは、酸素フリーラジカルを除去してその合成を阻害する機能があり、NACが細胞に入ると、グルタチオンの合成を促進するシステインを生成することができ、グルタチオンは、酸化ストレスに対する体の主な武器となる。さらに、NACは、シトクロムCの放出を阻害することで、Caspase3の活性化を阻害し、細胞のアポトーシスを直接阻害する。
メスナ(Mesna、α-メルカプトエチルスルホン酸ナトリウム塩)は、臨床現場で広く使用されている化学療法保護剤であり、この薬剤は、顕著なペルオキシダーゼ活性があり、同時に、メスナは、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)とグルタチオン(GSH)の抗酸化活性も保護する。
グルタチオン(GSH)は、抗酸化作用と解毒作用を有し、グルタチオンの構造には、容易に酸化され脱水素される活性スルフヒドリル基(-SH)を含み、この基により、GSHは体内の重要なフリーラジカルスカベンジャーとなり、タンパク質や酵素分子のスルフヒドリル基を保護する。
実験結果によると、コントロールグループと比較し、抗酸化作用のある3つの低分子阻害剤、N-アセチルシステイン(添加量5mM)、メスナ(添加量50uM)、とグルタチオン(添加量200uM)は、さまざまな程度でミトコンドリア内の活性酸素種の蓄積を減少できることを見出した。さらに、抗酸化小分子阻害剤を添加した実験では、活性化剤に対する血小板の反応性とミトコンドリアの電位差が保護された。同時に、実験グループの血小板のアポトーシス率も、コントロールグループよりも低かった(
図7)。この実験はさらに、酸素フリーラジカルの含有量の減らしは、血小板の品質を大幅に改善することを示す。
【実施例8】
【0161】
CPT2機能アップモジュレーター、CPT1阻害剤と酸化防止剤の組み合わせは、生体外と生体内での血小板生存を有意に改善する
前記の実験により、NAD+の枯渇、CPT2 K79のアセチル化、AMPKの活性化、アシルカルニチンとmtROSの蓄積は、血小板保存損傷の主な特徴であることが確認された。NAD+前駆体であるNMN、ROSスカベンジャーであるNAC、とAMPK阻害剤(AMPKi)が、それぞれ、保存された血小板の品質を大幅に改善した。したがって、NMN、NAC、とAMPK阻害剤の併用による血小板保存損傷への影響は、さらなる研究に値す。
まず、血小板の保存プロセスに対するそれらの影響を研究した。
図8A に示す結果は、NMN、NAC、とAMPK阻害剤の三つ化合物の組み合わせは、保存された血小板の品質の改善においてどちらよりもはるかに優れ、血小板のアポトーシスを半分に減少させ、血小板活性をコントロールグループの約4倍に向上したことを示す。
血小板輸血では、保存された血小板が、循環から急速に除去されることは望ましくない。生体内で保存された血小板の品質に対する上記の化合物の効果を評価するために、2つのマウス輸血モデルを使用した。一つのモデルでは、保存されたヒト血小板が免疫不全NCG(NOD-Prkdcem26Cd52Il2rgem 26Cd22/NjuCrl)マウスに注入された。NMN+NAC+AMPKi(NMN 0.5mM、NAC 5mM、AMPKi 4μM)またはコントロールとしてのPBSを添加し、ヒト濃縮血小板を生体外で6日間保存した。次に、それらをビオチンで標識し、NCGマウスに注入した。血小板数は、最初の0.5時間以内に、大幅に減少した。しかしながら、コントロールグループと比較して、NMN+NAC+AMPKiグループの血小板クリアランス率は低かった(
図8B)。もう一つのモデルでは、マウスのPRPを、生体外で1日間保存し、NMN、NAC、AMPK阻害剤、NMN+NAC+AMPK阻害剤(NMN 0.5mM、NAC 5mM、AMPKi 4uM)またはコントロールとしてのPBSを添加した。次に、血小板をビオチンで標識し、WTマウスに注入した。NMN、NAC、またはAMPK阻害剤とともに保存された血小板は、コントロールよりも、体内での生存率が高く、3つの化合物の組み合わせは、いずれかの単独よりも、著しく優れた(
図8C)。
【実施例9】
【0162】
CPT2アップレギュレーター、CPT1阻害剤と酸化防止剤の組み合わせは、免疫性血小板減少症(ITP)における血小板生存率を著しく改善する
ITPは、血小板数の低下を特徴とする自己免疫疾患で、致命的な出血を引き起こす可能性がある。これまでの研究では、自己抗体の存在下で、ITP患者の血小板が、損傷とアポトーシスを発生し、寿命も短くなることが示す。ITP患者の血小板生存に対するNMN、NAC、またはAMPK阻害剤の効果を評価するために、ITPマウスモデルを、低投与量の抗CD42b抗体R300の尾静脈注射によって構築した。
結果としては、NMN、NAC、またはAMPK阻害剤グループ、特にNMN+NAC+AMPKiグループ(投与量1μmol NMN、10μmol NAC、8nmol AMPKi)の血小板の生存率と血小板数回復率は、コントロールグループよりも高い(
図8D)。
CPT2が関与する細胞内作用機序の概略図は、
図8Eに示す。
【実施例10】
【0163】
CPT2機能アップモジュレーター、CPT1阻害剤と酸化防止剤の組み合わせは、冷蔵の血小板の品質を大幅に改善する
低温は、血小板の変形や血小板の活性化を引き起こし、これは、注入された血小板の急速なクリアランスにつながる。したがって、冷蔵の血小板の広範な適用は限られる。しかしながら、冷蔵血小板の利点は、感染症を引き起こす可能性のある細菌の増殖を抑制することである。
本発明者らは、また、冷蔵血小板に対するNMN、NAC、およびAMPKiの効果を調べた。結果としてはNMN+NAC+AMPKiを添加した冷蔵血小板の血小板の凝集活性は、コントロールグループより有意に高く、そのアポトーシスは、コントロールグループより有意に低かったことを示す(
図9)。NMN、NAC、およびMPKiを組み合わせて使用すると、冷蔵血小板の寿命が延長され、冷蔵血小板の品質が向上することを示す。
【0164】
本出願に言及されている全ての参考文献は、参照として単独に引用されるように、本出願に引用されて、参照になる。理解すべきは、本発明の上記の開示に基づき、当業者は、本発明を様々な変更または修正を行っても良い、これらの同等の形態も本出願に添付された請求の範囲に規定される範囲内に含まれる。
【配列表】
【国際調査報告】