(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電極中間相制御に対する金属酸化物薄膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20241128BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241128BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/131
H01M4/136
H01M4/36 C
H01M4/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530411
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 US2022051515
(87)【国際公開番号】W WO2023102107
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】デュサラット,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】金 祥勳
(72)【発明者】
【氏名】上村 直
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050EA12
5H050EA22
5H050FA02
5H050GA24
5H050GA26
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【解決手段】
本発明は、ALD又はCVDによって、金属酸化物層を堆積させることによって、人工中間相を電極上に形成してそれを電気化学的性質の急速な低下から保護する新規な解決策を提供する。ここで考察される金属は、IVA-VIA元素(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)である。膜は、薄い必要があり、場合により不連続であり、十分にリチウムイオン伝導性である必要があり、その結果、この薄膜界面を付加することによって、電極と電解質との界面において速いリチウムイオンの移動を可能にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード又はカソード活物質を金属酸化物膜でコートする方法であって:
前記カソード又はカソード活物質を、式M(=NR
a)(OR
b)
2(NR
c
2)の前駆体を含む化学前駆体の蒸気と、酸化共反応体としての酸素供給源とに暴露する工程a1.と、
前記金属酸化物膜を前記カソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.を含み、
ここで:
MはNb、Ta、又はVから選択され、
R
aはiPr、tBu、t-Amから選択され、
それぞれのR
bは独立にEt、iPr、tBu、sBu、SPenから選択され、
それぞれのR
cは独立にEt又はMeから選択される、
方法。
【請求項2】
前記前駆体が式M(=NR
a)(OR
b)
2(NMeEt)のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R
bの少なくとも1つが独立にsBu、SPenから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆体が式M(=NR
a)(OR
b)
2(NMeEt)のものであり、R
bの少なくとも1つが独立にsBu、SPenから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
両方のR
bが独立にsBu、SPenから選択される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記前駆体がNb(=NtBu)(NEt
2)(O-tBu)
2、Nb(=NtBu)(NEt
2)
2(O-tBu)、Ta(=NtBu)(NEt
2)(O-tBu)
2、Ta(=NtBu)(NEt
2)
2(O-tBu)、及びそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記カソード又はカソード活物質を化学前駆体の蒸気に暴露する前記工程a1.と、前記カソード又はカソード活物質を共反応体に暴露する前記工程a2.とが順次に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記カソード又はカソード活物質を共反応体に暴露する工程a2の前に前記化学前駆体の蒸気をパージする工程a1.iを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記金属酸化物膜を前記カソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.が原子層堆積工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記金属酸化物膜を前記カソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.が化学蒸着工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記共反応体がO2、O3、H2O、H2O2、NO、NO2、N2O又はNOx;酸素含有ケイ素前駆体、酸素含有スズ前駆体、リン酸トリメチル、ジエチルホスホルアミデートなどのホスフェート、又は硫酸塩などの酸素供給源である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程b1.によって製造される前記金属酸化物膜がNb
xO
yD
zの平均原子組成を有し、Oが酸素であり、及びDが任意の他の原子であり、並びにx=0.3~0.4、y=0.4~0.65及びz=0.01~0.1である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記化学前駆体の蒸気及び/又は前記カソード又はカソード活物質の温度が100℃~300℃、より好ましくは125℃~275℃、更により好ましくは125℃~175℃である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属酸化物膜が0.02nm~10nm、好ましくは0.1nm~5nm、最も好ましくは0.2~2nmの平均厚さを有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記カソード活物質、又は前記カソード中の前記カソード活物質が、a)NMC(酸化コバルトマンガンニッケルリチウム)及びNCA(酸化アルミニウムコバルトニッケルリチウム)のような高Niカソード材料などの層状酸化物;b)LMO(酸化マンガンリチウム)、LNMO(酸化マンガンニッケルリチウム)などのスピネルカソード材料;c)オリビン構造化カソード材料、特にLCP(リン酸コバルトリチウム)、LNP(リン酸ニッケルリチウム)、LFP(リン酸鉄リチウム)などのオリビンリン酸塩の種類;及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程a1.及びb1.の1つ以上が1~10回、好ましくは1~3回行われる、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
a)前記化学前駆体の蒸気及び/又は前記カソード若しくはカソード活物質の温度が100℃~300℃、より好ましくは125℃~175℃であり、b)前記金属酸化物膜が0.02nm~10nm、好ましくは0.1nm~5nm、最も好ましくは0.2~2nmの平均厚さを有し;c)前記金属酸化物膜が、前記カソード又はカソード活物質の表面上で少なくとも50%連続、好ましくは95%以上連続、より好ましくは98%以上連続である、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リチウムイオンバッテリーの最初のサイクル中の、アノード上及び/又はカソード上の固体電解質界面(SEI)の形成は、電解質/電極界面における電解質の分解から観察される。リチウムイオンバッテリーの初期容量の低下は、このSEIの形成中のリチウムの消費の結果として生じる。更に、形成されたSEI層は不均一で不安定であり、電解質の連続的な分解による電極活物質の劣化に対して電極表面を不動態化するために効率的ではない。SEI層はバッテリーのサイクル中に物理的亀裂を受けることがあり、リチウム樹枝状結晶が生じ得、短絡回路と、その後の熱暴走とをもたらし得る。更にSEI層はまた、電極内のリチウムイオンのインターカレーションをいっそう難しくする障壁ポテンシャルを生じる。
【0002】
現在の設計において、リチウムイオンバッテリーは、電極と電解質との間の中間相を安定化するために金属酸化物又は/及びリン酸塩の連続膜の湿潤コーティング、乾燥コーティング又はスパッタリングによって、電極及び/又は電極活物質の表面に(リチウム)金属酸化物、リン酸塩又はフッ化物コーティング(例えばAlxOy、LixMyPOz、M=Nb、Zr、AlTiなど又はAlMxFyM=W、Yなど)を有する。リチウム含有薄膜は、リチウムイオンバッテリー用途における電極材料の表面コーティング層としてのそれらの使用について公知である。リチウム含有薄膜の例には、LiPON、リン酸リチウム、硼酸リチウム、ホウリン酸リチウム、ニオブ酸リチウム、チタン酸リチウム、酸化ジルコニウムリチウムなどが含まれる。ALD/CVD技術による電極の表面コーティングは、所記の固体電解質界面薄膜を形成する好ましい手段であり、したがってこれらの不安定層の形成を回避する。しかしながら、リチウム含有膜の蒸着は、大量製造のための適したリチウム前駆体がないため実施するのが難しい。大部分は揮発性でなく、十分に安定しておらず、それらは望ましくない不純物を含有し得る。中間相薄膜の別の重要な用途は、ソリッドステートバッテリーにおいて使用される固体電解質材料の形成においてである。ソリッドステートバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーよりも長い耐用年数、速い充電時間及び高いエネルギー密度を有する無溶剤系である。それらは、バッテリー開発における次の技術段階であると考えられる。ALD/CVD技術によって、均一且つコンフォーマルな電極/電解質界面薄膜を3Dバッテリーのような複雑な構造物上で得ることもできる。
【0003】
ケイ素アノードもまた、中間相薄膜の用途の範囲にある。ケイ素はリチウムイオンバッテリー開発におけるアノードの次世代であると考えられ、黒鉛アノード(Li+/Liに対して0.05V)と同じ電位レベル(Li+/Liに対して0.2V)で黒鉛アノード(372mAhg-1)よりも高い比容量(3600mAhg-1)を提供する。ケイ素アノードの主な欠点は、充電/放電中の300%までの体積膨脹であり、SEIの不安定化及び電極の物理的亀裂をもたらす。
【0004】
中間相の薄膜の用途は、リチウム金属アノード技術に拡大され得る。リチウム金属アノードは、LIBと比較して少なくとも3倍の理論容量を提供し得るので、ポストリチウムイオンバッテリー(LIB)であると考えられている。また、リチウム金属はその高い容量(黒鉛の10倍の容量)、低減されたバッテリー体積及びプロセスの簡素さのために注目されている。しかしながら、制御されていないリチウム金属表面は、Li樹枝状結晶の成長をもたらし得、短絡回路、最終的には火災を起こし得る。
【0005】
次世代カソード活物質のために、多くの研究が、金属酸化物カソード材料を特定して開発することに焦点を合わせている。広範囲の層状酸化物の中で、NMC(酸化コバルトマンガンニッケルリチウム)及びNCA(酸化アルミニウムコバルトニッケルリチウム)のような高Niカソード材料が、実用化のための最も有望な現在の候補である。しかしながら、高ニッケルカソード材料は、高い電圧が印加されるときに非晶質になる傾向がある。これらの金属酸化物材料の主な欠点の1つは、カソード材料と電解質の寄生反応による、遷移金属、特にニッケルの連続的溶解である。これは、バッテリーの充電中の電極/電解質界面におけるガス(O2)放出と共にカソード活物質の構造的劣化をもたらす。更に、溶解したニッケルイオンはアノード側に移動し、アノード表面上のその堆積は、アノードにおけるSEIの急速な分解を引き起こし、最終的にバッテリーの故障を招く。
【0006】
スピネルカソード材料は、それらの高レート能力及び低い又はゼロのコバルト含有量について徹底的に調査されている。LMO(酸化マンガンリチウム)、LNMO(酸化マンガンニッケルリチウム)などのスピネルカソード材料に関する主な問題の1つは、バッテリー充電プロセス中のマンガン二価イオンの溶解であり(2Mn3+→Mn4++Mn2+)、これは主に電極/電解質界面で起こり、次いでアノード上に再堆積が起こり、高Niカソード材料の同じ機構によるようにそのSEIの破壊が生じる。
【0007】
遷移金属の溶解、過度の電解質の分解などの電解質とカソード電極との間の界面問題に対処するために、カソード及び/又はカソード材料上の薄膜の堆積を用いることができる。例えば、米国特許第8535832B2号明細書には、Ni、Mn及びCoを含むカソード活物質上への金属酸化物(Al2O3、Bi2O3、B2O3、ZrO2、MgO、Cr2O3、MgAl2O4、Ga2O3、SiO2、SnO2、CaO、SrO、BaO、TiO2、Fe2O3、MoO3、MoO2、CeO2、La2O3、ZnO、LiAlO2又はそれらの組合せ)の湿潤コーティングが開示されている。米国特許第9543581B2号明細書には、Ni、Mn及びCo元素を含むカソード活物質の前駆体粒子上の非晶質Al2O3の乾燥コーティングが開示されている。米国特許第9614224B2号明細書には、Mnを含むカソード活物質上のスパッタリング方法を使用するLixPOyMnzコーティングが説明されている。米国特許第9837665B2号明細書には、Ti、Fe、Ni、V、Cr、Cu、及びCoの少なくとも1つのドーパントを有するLi、Mn、Ni、及び酸素含有化合物を含むカソード活物質上の、スパッタリング方法を使用するリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)薄膜コーティングが説明されている。米国特許第9196901B2号明細書には、Co、Mn、V、Fe、Si、又はSnを含み酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩又はそれらの2つ以上の混合物であるカソード積層体及びカソード活物質上の、原子層堆積(ALD)方法を使用するAl2O3薄膜コーティングが説明されている。米国特許第10224540B2号明細書には、多孔性ケイ素アノード上の、ALD方法を使用するAl2O3薄膜コーティングが説明されている。米国特許第10177365B2号明細書には、ALDを使用する、LiCoO2を含むカソード活物質上へのAlWxFy又はAlWxFyCz薄膜コーティングが説明されている。米国特許第9531004B2号明細書には、チタン酸リチウムLi(4+x)Ti5O12(0≦x≦3)(LTO)、黒鉛、ケイ素、ケイ素含有合金、スズ含有合金、及びそれらの組合せからなるアノード材料群上の、ALD方法を使用する、Al2O3、TiO2、SnO2、V2O5、HfO2、ZrO2、ZnOの第1の層と、フッ化物系コーティング、炭化物系コーティング、及び窒化物系コーティングの第2の層とを含むハイブリッド薄膜コーティングが説明されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ALD又はCVDによって、金属酸化物層をカソード又はカソード活物質上に堆積させることによって、人工中間相を電極上に形成してそれを電気化学的性質の急速な低下から保護する以下の解決策を提供する。これらの金属酸化物層は、SEI形成中の電極/電解質界面における電解質の過度の分解を低減し、最初のサイクルにおける容量損失を低減する。また、このような金属酸化物層の存在は、電解質とカソード活物質との間の寄生反応によって引き起こされる、カソード活物質の遷移金属カチオンの溶解を低減し、次いで、アノード上のその再堆積を低減する。バッテリーの電気化学的活性はそれによって改良される。上に記載したように、他のタイプの膜、特にAl2O3などの高純度金属酸化物が提案されている。しかしながらこのタイプの材料は、イオン絶縁体として作用し、したがって得られたカソード及びバッテリーの最良の電気化学的性能を可能にしない。
【0009】
本発明は更に、列挙文のように説明される以下の非限定的な、典型的な実施形態と関連して理解することができる:
【0010】
1. コーティングカソード又はカソード活物質を金属酸化物膜でコートする方法であって、
カソード又はカソード活物質を、式M(=NRa)(ORb)2(NRc
2)の化学前駆体を含む化学前駆体の蒸気と、酸化共反応体としての酸素供給源とに暴露する工程であって、ここで:
MはNb、Ta、又はVから選択され、
RaはiPr、tBu、t-Amから選択され、
それぞれのRbは独立にEt、iPr、tBu、sBu、SPenから選択され、
それぞれのRcは独立にEt又はMeから選択される工程a1.と;
金属酸化物膜をカソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.を含む、方法。
【0011】
2. カソード又はカソード活物質を化学前駆体の蒸気に暴露する工程a1と、カソード又はカソード活物質を共反応体に暴露する工程a2とが順次に行われる、文1に記載の方法。
【0012】
3. カソード又はカソード活物質を共反応体に暴露する工程a2の前に化学前駆体の蒸気をパージする工程a1.iを更に含む、文2に記載の方法。
【0013】
4. 金属酸化物膜をカソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.が原子層堆積工程を含む、文3に記載の方法。
【0014】
5. 金属酸化物膜をカソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.が化学蒸着工程を含む、文3に記載の方法。
【0015】
6. 共反応体がO2、O3、H2O、H2O2、NO、NO2、N2O又はNOx;酸素含有ケイ素前駆体、酸素含有スズ前駆体、リン酸トリメチル、ジエチルホスホルアミデートなどのホスフェート、又は硫酸塩などの酸素供給源である、文1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0016】
7. 前駆体が式M(=NRa)(ORb)2(NMeEt)のものである、文1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0017】
8. Rbの少なくとも1つが独立にsBu、SPenから選択される、文1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0018】
9. 前駆体が式M(=NRa)(ORb)2(NMeEt)のものであり、Rbの少なくとも1つが独立にsBu、SPenから選択される、文1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0019】
10. 両方のRbが独立にsBu、SPenから選択される、文8又は9に記載の方法。
【0020】
11. 工程b1.によって製造された金属酸化物膜がNbxOyDzの平均原子組成を有し、Oが酸素であり、Dがいずれかの別の原子であり、x=0.3~0.4、y=0.4~0.65及びz=0.01~0.1である、文1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0021】
12. 化学前駆体の蒸気及び/又はカソード又はカソード活物質の温度が100℃~300℃、より好ましくは125℃~275℃、更により好ましくは125℃~175℃である、文1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0022】
13. 金属酸化物膜が0.02nm~10nm、好ましくは0.1nm~5nm、最も好ましくは0.2~2nmの平均厚さを有する、文1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0023】
14. カソード活物質、又はカソード中のカソード活物質が、a)NMC(酸化コバルトマンガンニッケルリチウム)及びNCA(酸化アルミニウムコバルトニッケルリチウム)のような高Niカソード材料などの層状酸化物;b)LMO(酸化マンガンリチウム)、LNMO(酸化マンガンニッケルリチウム)などのスピネルカソード材料;c)オリビン構造化カソード材料、特にLCP(リン酸コバルトリチウム)、LNP(リン酸ニッケルリチウム)、LFP(リン酸鉄リチウム)などのオリビンリン酸塩の種類;及びそれらの組合せからなる群から選択される、文1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0024】
15. 工程a1.及びb1.の1つ以上が1~10回、好ましくは1~3回、より好ましくはただ1回行われる、文1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0025】
16. a)化学前駆体の蒸気及び/又はカソード若しくはカソード活物質の温度が100℃~300℃、より好ましくは125℃~275℃であり、b)金属酸化物膜が0.02nm~10nm、好ましくは0.1nm~5nm、最も好ましくは0.2~2nmの平均厚さを有し、c)金属酸化物膜が、カソード又はカソード活物質の表面上で少なくとも50%連続、好ましくは95%以上連続、より好ましくは98%以上連続である、文1~15に記載の方法。
【0026】
本発明の性質及び目的の更なる理解のために、添付した図面と併せて以下の詳細な説明が参照されるべきであり、同じ要素は同じか又は類似した参照番号を与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、粉末ALD(PALD)反応器を使用してNb(=NtBu)(NEt
2)(O-tBu)
2(「Nau2」)/H
2Oを使用するNMC622粉末上のNbO薄膜の堆積の光電子分光計結果を示す。
【
図2】
図2は、粉末ALD(PALD)反応器においてNb(=NtBu)(NEt
2)(O-tBu)
2/H
2Oを使用するNMC622粉末上に堆積したNbO薄膜の正規化されたCレート性能(2Cにおけるそれらの元の放電容量への正規化)を示す。
【
図3】
図3は、粉末ALD(PALD)反応器においてNb(=NtBu)(NEt
2)(O-tBu)
2/H
2Oを使用するNMC622粉末上に堆積したNbO薄膜の長期繰り返し性能を示す。
【
図4】
図4は、以下のおける実施例に記載のAL条件を用いた3回のALDサイクルの後のNbOの層でコートされたNMC 811粉末の電子顕微鏡写真を示す。この層は、矢印で区別されており、線で挟まれた区画でも示される。この層は、連続でコンフォーマルであり約1.5nm~2nmの厚さを有するとして視覚的に確認される。この層のコンフォーマルな被覆及びNb含有量を、エネルギー分散型X線分光法によって更に確認した(図示せず)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、電極上に中間相を形成してそれを電気化学的性質の急速な低下から保護する解決策を提供する。電極中間相は、最終カソードへのその導入前又は後にカソード活物質上に形成される。金属酸化物層は、揮発性化学前駆体種M(=NRa)(ORb)2(NRc
2)を使用して化学蒸着(CVD)又は原子層堆積(ALD)によって形成される。
MはNb、Ta、又はVから選択され、
RaはiPr、tBu、t-Amから選択され
それぞれのRbは独立にEt、iPr、tBu、sBu、SPenから選択され、
それぞれのRcは独立にEt又はMeから選択される。
【0029】
これらの揮発性化学前駆体は、同時に、順次に及び/又は前駆体の蒸気相のパルスによって供給される。このプロセスでは、9回未満のALD堆積サイクル、好ましくは3回以下のサイクルの後に改善されたカソード性能を実現するために、この種類の予期せぬ効率が利用される。この比較的少ない必要ALDサイクル数によって、Nb又はTaなどの金属の消費と、カソード又はカソード活物質を処理するために必要な時間とが大幅に減少する。
【0030】
本明細書中で用いられるとき「金属酸化物」及び「金属酸化物膜」は、原子比がMxOyDz(M=遷移金属の集合体部分であり、Oが酸素であり、及びDはアルミニウム、亜鉛、スズ、炭素、リチウム、及びリンなど、他の元素の集合体部分である)であるような1つ以上の付加的な元素を有する遷移金属酸化物膜を意味する。一般的に、xが10~60%の範囲であり、yが10~60%の範囲であり、及びzが検出不能~10%、好ましくは0~5%の範囲である。
【0031】
好ましくは、Mは不完全に満たされたd軌道を有する1つ以上の安定なイオンを形成する遷移金属である。特に、Mは、Nbであるが、任意選択によりTi、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、又はWの1つ以上を更に含み得る。
【0032】
金属酸化物膜は、最終カソードの中間製造工程の前、中、又は最終カソードへのその導入後に、金属酸化物層をカソード活物質上に堆積させるCVD又はALD法によって形成される。金属酸化物膜は、カソードに含まれる前に例えば粉末カソード活物質の粉末ALDによってカソード活物質を完全にコートする連続膜であり得る。膜は、膜成長を制限する制御された堆積条件によって又はその表面の一部だけがCVD又はALD堆積法に供されるようにカソード活物質がカソードに導入される結果として不連続であり得る。一般的に金属酸化物膜は、0.125~10nm、例えば0.125nm~1.25nm、好ましくは0.3nm~4nmの平均厚さを有する。
【0033】
以下のものから構成される金属酸化物堆積物を電極上に堆積させることができる:
● 層構造化酸化物、好ましくは「NMC」(酸化コバルトマンガンニッケルリチウム、例えばNMC811(Ni:Mn:Co=8:1:1)、更により好ましくはNMC955(Ni:Mn:Co=9:0.5:0.5))、NCA(酸化アルミニウムコバルトニッケルリチウム)又はLNO(酸化ニッケルリチウム);
● スピネル、好ましくはLNMO(酸化マンガンニッケルリチウム)又はLMO(酸化マンガンリチウム);
● オリビン(リチウム金属リン酸塩、金属は鉄、コバルト、マンガンであり得る);
● ドープされるか又はされていない、黒鉛などの炭素アノードの形態;
● ケイ素アノード、
● ケイ素-炭素アノード、
● スズアノード、
● ケイ素-スズアノード、又は
● リチウム金属。
【0034】
堆積は、電極活物質粉末上、電極活物質多孔性材料上、異なった形状の電極活物質上に行なうことができ、又は電極活物質を導電性炭素及び/若しくはバインダーと既に混在させていることができ且つ集電体箔によって既に担持させていることができる予備形成された電極内で行なうことができる。
【0035】
リチウムイオンバッテリー内の「カソード」は、充電中にカソード材料の還元が電子及びリチウムイオンの挿入によって行われる電気化学セル(バッテリー)内の陽極を意味する。放電中に、カソード材料は、電子及びリチウムイオンを放出することによって酸化される。電子が外部回路を通って移動する間に、リチウムイオンは、電解質を通って電気化学セル内でカソードからアノードに移動し、又は逆の場合も同様である。カソードは一般的に、カソード活物質(すなわちリチウム化金属層状酸化物)及び導電性カーボンブラック剤(アセチレンブラックSuper C65、Super P)及びバインダー(PVDF、CMC)から構成される。
【0036】
「カソード活物質」は、バッテリーセルのためのカソード(陽極)の組成物中の主な要素である。カソード活物質は、層状構造などの結晶構造内の例えば、コバルト、ニッケル及びマンガンであり、リチウムが挿入されるマルチメタルオキサイド材料を形成する。カソード活物質の例は、層状酸化コバルトマンガンニッケルリチウム(LiNixMnyCozO2)、スピネル酸化マンガンリチウム(LMn2O4)及びオリビンリン酸鉄リチウム(LiFePO4)である。
【0037】
表面上のコーティングに関連する「連続性」は、任意の厚さのコーティング材料を有するその表面のパーセント値を意味する。連続性は、一般的に、表面のグリッドマッピングなどによって、コートされた材料を画像化し、膜によって覆われた又は覆われていない表面の比率を(例えばnm2の単位で)定量化することによって光学的に評価される。表面を画像化するために、電子顕微鏡法を使用することができる。被覆量は、基材表面積のパーセントで表され得る。膜の中のピンホール、空隙、又はその他の不連続部分は、連続性が100%未満であることを意味する。
【0038】
金属酸化物膜は、揮発性化学前駆体種M(=NRa)(ORb)2(NRc
2)と、場合により最終膜形成に寄与する1つ以上の別の化学前駆体との蒸気を用いるCVD又はALD法によって形成される。あらゆる追加の適切な前駆体を、別の用途に使用される金属酸化物の形成に対するそれらの公知の適用可能性に基づいて使用するために選択することができる。
【0039】
最適化された堆積条件下で好適にはNau2で多種多様な任意選択の前駆体を使用して、金属酸化物を形成することができる。
【0040】
好ましいIVA金属前駆体は次の通りである:
● M(OR)4、各Rは独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはM(OMe)4、M(OiPr)4、M(OtBu)4、M(OsBu)4
● M(NR1R2)4、各R1及びR2は独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはM(NMe2)4、M(NMeEt)4、M(NEt2)4
● ML(NR1R2)3、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニルを表わし、各R1及びR2は独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはMCp(NMe2)3、M(MeCp)(NMe2)3、M(EtCp)(NEt2)3、MCp*(NMe2)3、MCp(NMe2)3、M(MeCp)(NMe2)3、M(EtCp)(NEt2)3、MCp*(NMe2)3、M(iPrCp)(NMe2)3、M(sBuCp)(NMe2)3、M(tBuCp)(NMe2)3、N(secPenCp)(NMe2)3、M(nPrCp)(NMe2)3
● ML(OR)3、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニルを表わし、各Rは独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはMCp(OiPr)3、M(MeCp)(OiPr)3、M(EtCp)(OEt)3、MCp*(OEt)3、M(iPrCp)(NMe2)3、M(sBuCp)(NMe2)3、M(tBuCp)(NMe2)3、N(secPenCp)(NMe,)3、M(nPrCp)(NMe2)3
【0041】
好ましいVA金属前駆体は次の通りである:
● M(OR)5、各Rは独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはM(OEt)5、M(OiPr)5、M(OtBu)5、M(OsBu)5
● M(NR1R2)5、各R1及びR2は独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはM(NMe2)5、M(NMeEt)5、M(NEt2)5
● ML(NR1R2)x、x=3又は4であり、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル又はN-R形態のイミドを表わし、各R1及びR2は独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはMCp(NMe2)3、M(MeCp)(NMe2)3、M(EtCp)(NEt2)3、MCp*(NMe2)3M(=NtBu)(NMe2)3、M(=NtAm)(NMe2)3、M(=NtBu)(NEt2)3、M(=NtBu)(NEtMe)3、M(=NiPr)(NEtMe)3。
● M(=NR1)L(NR2R3)x、x=1又は2であり、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニルを表わし、各R1及びR2及びR3は独立にC1~C6炭素鎖であり、最も好ましくはMCp(=NtBu)(NMe2)2、M(MeCp)(N=tBu)(NMe2)2、M(EtCp)(N=tBu)(NMe2)2、MCp*(=NtBu)(NMe2)2、MCp(=NtBu)(NEtMe)2、M(MeCp)(N=tBu)(NEtMe)2、M(EtCp)(N=tBu)(NEtMe)2。
● ML(OR)xx=3又は4であり、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル又はN-R形態のイミドを表わし、各Rは独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはMCp(OiPr)3、M(MeCp)(OiPr)3、M(EtCp)(OEt)3、MCp*(OEt)3M(=NtBu)(OiPr)3、M(=NtAm)(OiPr)3、
● ML(OR)x(NR1R2)y、x及びyは独立に1又は2に等しく、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル(cylohexadienyl)、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル又はN-R形態のイミドを表わし、各Rは独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはMCp(OiPr)2(NMe2)、M(MeCp)(OiPr)2(NMe2)、M(EtCp)(OEt)2(NMe2)、M(=NtBu)(OiPr)2(NMe2)、M(=NtBu)(OiPr)(NMe2)2、M(=NtBu)(OiPr)2(NMe2)、M(=NtBu)(OiPr)2(NEtMe)、M(=NtBu)(OiPr)2(NEt2)、M(=NtBu)(OEt)2(NMe2)、M(=NtBu)(OEt)2(NEtMe)、M(=NtBu)(OEt)2(NEt2)、M(=NiPr)(OiPr)2(NMe2)、M(=NiPr)(OiPr)2(NMe2)2、M(=NiPr)(OiPr)2(NEtMe)、M(=NiPr)(OiPr)2(NEt2)、M(=NiPr)(OEt)2(NMe2)、M(=NiPr)(OEt)2(NEtMe)、orM(=NiPr)(OEt)2(NEt2)。
【0042】
好ましいVIA金属前駆体は次の通りである:
● M(OR)6、各Rは独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはM(OEt)5、M(OiPr)5、M(OtBu)5、M(OsBu)5
● M(NR1R2)6、各R1及びR2は独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはM(NMe2)6、M(NMeEt)6、M(NEt2)6
● M(NR1R2)xLy、x及びyは独立に1~4に等しく、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル又はN-R形態のイミドを表わし、各R1及びR2は独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはMCp(NMe2)3、M(MeCp)(NMe2)3、M(EtCp)(NEt2)3、MCp*(NMe2)3、M(=NtBu)2(NMe2)2、M(=NtAm)2(NMe2)2、M(=NtBu)(NEt2)2
● M(OR)x(NR1R2)yLzML、x、y及びzは独立に0~4に等しく、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル又はN-R形態のイミドを表わし、各Rは独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはMCp(OiPr)3、M(MeCp)(OiPr)3、M(EtCp)(OEt)3、M(=NtBu)2(OiPr)2、M(=NtAm)2(OiPr)2、M(=NtBu)2(OtBu)2、M(=NiPr)2(OtBu)2、M(=NtBu)2(OiPr)2、M(=NiPr)2(OiPr)2.
● M(=O)xLy、x、y及びzは独立に0~4に等しく、Lは非置換又は置換アリル、シクロペンタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニルを表わし、アミド又はN-R形態のイミド、各Rは独立にC1~C6炭素鎖(直鎖又は分岐状)であり、最も好ましくはM(=O)2(OtBu)2、M(=O)2(OiPr)2、M(=O)2(OsecBu)2、M(=O)2(OsecPen)2、M(=O)2(NMe2)2、M(=O)2(NEt2)2、M(=O)2(NiPr2)2、M(=O)2(NnPr2)2、M(=O)2(NEtMe)2、M(=O)2(NPen2)2。
【0043】
単一前駆体として又は1つ以上の他の前駆体との組合せにおいて揮発性化学前駆体種の1つのメンバーを使用して、いずれの場合においても(必要ならば又は望ましいならば)任意選択により酸化共反応体を使用して、金属酸化物膜を形成することができる。当業者は、適切な更なる前駆体及び共反応体を本技術分野に公知のものから選択して、最適化された堆積条件下で使用して金属酸化物の組成を「調整」するときに所望の組成を有する金属酸化物膜を製造することができる。様々な前駆体の選択肢の典型的なものには、以下のものが含まれる:
● 酸素は、O2、O3、H2O、H2O2、NO、NO2、N2O又はNoxなどのO供給源に由来し得る。
● 酸素は、酸素含有ケイ素前駆体、酸素含有スズ前駆体などのドーパント供給源、リン酸トリメチル、ジエチルホスホルアミデートなどのホスフェート、又は硫酸塩に由来し得る。
● 窒素は、N2、NH3、N2H4、N2H4含有混合物、アルキルヒドラジン、NO、NO2、N2O又はNOxなどのN供給源に由来し得る。
● 窒素は、窒素含有ケイ素前駆体、窒素含有スズ前駆体などのドーパント供給源、又はジエチルホスホルアミデートなどのホスフェートに由来し得る。
● 炭素は、炭化水素、炭素含有ケイ素前駆体、炭素含有スズ前駆体、炭素含有ホウ素前駆体、炭素含有アルミニウム前駆体、炭素含有リン前駆体、リン酸トリメチル、ジエチルホスホルアミデートなどのホスフェート、又は硫酸塩などのC供給源に由来し得る。
● ケイ素は、シラン又はケイ素含有有機金属前駆体などのSi供給源に由来し得る。
● スズは、スタンナン又はスズ含有有機金属前駆体などのSn供給源に由来し得る。
● アルミニウムは、アルキルアランなどのアラン、又はアルミニウム含有有機金属前駆体などのAl供給源に由来し得る。
● リンは、に由来し得る。有機ホスフィンなどのホスフィン又はリン酸トリメチル又はジエチルホスホルアミデートなどのホスフェート
● 硫黄は、硫黄、S8、H2S、H2S2、SO2、有機亜硫酸塩、硫酸塩、又は硫黄含有有機金属前駆体などのS供給源に由来し得る。
● 第一列遷移金属は、蒸着において使用するために適した公知の有機金属又は他の前駆体に由来し得る。
【実施例】
【0044】
実施例1~5:250℃でNMC622粉末上にNau2/H2Oを使用して堆積されるNbO薄膜の堆積及び電気化学的性能
堆積/膜形成のための実験条件:
NMC622電極又はNMC粉末に関するサイクル数は典型的に、20回のALDサイクルに限られるが、これは、膜組成物を達成するためには不十分な厚さである、約1.5~4オングストロームに相当する。したがって、このような特性決定は、ブランクシリコンウエハ上にO3を用いて300回のALDサイクル後に堆積された膜上で行われた。X線光電子分光計(XPS)による相当する成長速度及び膜組成は次の通りである:
● GPC約2.96Å。Nb:約38.7%、O:約54.8%、C:約3%、N:約2%、Si約1.4%
● これらの膜の屈折率は2.38である。
【0045】
以下の実験条件で流動床反応器を使用してNMC622粉末上に堆積を実施した:
ALDのためのALD条件
反応器設定温度 250℃
反応器圧力 約40トール
サイクル数 1/2/3/9cy
前駆体及びガス
Nautilus2キャニスター温度 100℃
Nautilus2キャニスター圧力 50トール
Nautilus2中のN2バブリング 20 sccm
O3 FR 20sccm
N2プッシュ/パージ 約120sccm
パルスシーケンス
Nautilus2(2sccm) 900秒
パージ 1040秒
H2O 180秒
パージ 1040秒
投入基材
5gのNMC622粉末
【0046】
これらの実施例における化学前駆体はNb(=NtBu)(NEt2)(O-tBu)2(「Nau2」)である。
【0047】
電気化学的特性決定:
実験条件:
バッテリーセル条件:
● カソード材料:NMC622
○ 約5mg/cm2の配合量
○ カレンダー加工なし
● コーティング材料:Nb2O5
○ 前駆体:Nautilus2
○ 共反応体:O3又はH2O
○ Dep.T=250℃
○ 粉末反応器P<40トール
○ コートされた粉末量:5g
○ 反応器充填:x%
● 膜:Celgate 2400
● ニート電解質:EC:EMC(重量比1:1)中1MのLiPF6
● アノード材料:Li金属
測定条件:
● 温度:26℃
● 0.2C、次いで1Cにおける3回の予備サイクル
● 電圧:3.0~4.3V、CC
【0048】
図1に見られるように、酸化ニオブとして堆積されたニオブの量は、1回のALDサイクルから2~3回のALDサイクルまで増加し、9回のALDサイクルで大幅に増加する。これらの酸化ニオブの堆積の効果は
図2及び3に見られる。バッテリー性能は、コートされない対照と比較して大幅に向上する。しかしながら、非常に予期せぬことに、2~3回のサイクルでほぼ同じとなるが、1回のALDサイクルで最良の結果が得られる。9回のALDサイクルによって、対照と比較して更に性能が改善されるが、1~3回のサイクルと同様ではない。通常、カソード活物質のためのALDコーティングは、最適な効果のために5~20回のALDサイクルが必要である。驚くべきことにNau2によって、カソード活物質の単位当たりにはるかに短い時間及びはるかに少ない前駆量を必要とする低ALDサイクルプロセスが可能となる。これによって、工業的用途におけるコストが大幅に削減される。
【0049】
水の代わりにオゾンを使用するALDで、同じ条件及び試験を使用した。オゾンの結果は水と同じであり、低サイクル数堆積は、使用した酸化剤による影響を実質的に受けなかったことを示している。
【0050】
同様なTGA及びDTA特性を、Ta類似体のTa(=NtBu)(NEt2)(O-tBu)2の場合に測定した。O3を用いたシリコンウエハ上の200サイクルにおける堆積によって同様に、Nb(=NtBu)(NEt2)(O-tBu)2の場合に見られものと同様な結果が得られる。275℃において、成長速度は4.69オングストローム/サイクルであり、組成はTa:32.8%、O:56.5%、及びC:8.1%であった。これらの結果に基づくと、カソード又はカソード材料コーティングの場合に1~9サイクルのALDによって、上記のNau2の場合に示されるものと同様の電極性能の利点が得られると予想される。
【0051】
本発明はその特定の実施形態と共に説明されたが、前述の説明を考慮に入れて多くの代替形態、改良形態、及び別形態が当業者には明白であることは明らかである。したがって、添付した請求の範囲の趣旨及び広い範囲内に含まれる全てのこのような代替形態、改良形態、及び別形態を包含することが意図される。本発明は好適には、開示される要素を含む、からなる又はから本質的になり得、開示されていない要素の非存在下で実施され得る。更に、第1及び第2などの順序を参照する言語がある場合、それは、典型的な意味において、及び制限的な意味においてではなく理解されるべきである。例えば、特定の複数の工程を単一工程に組み合わせることができることは当業者によって認識され得る。
【0052】
単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈がはっきりと他に指示しない限り、複数形の指示物を含む。
【0053】
請求項における「Comprising(含む)」は、その後に特定される請求項の要素が非排他的な列挙である、すなわち他の何も更に含まれ得ず「comprising(含む)」の範囲内にあり得ることを意味する開いた移行語である。「Comprising(含む)」は、より限られた移行語「consisting essentially of(本質的に~からなる)」及び「consisting of(~からなる)」を必然的に包含するとして本明細書において定義される。したがって「comprising(含む)」は、「consisting essentially of(本質的に~からなる)」又は「consisting of(~からなる)」で置き換えられ得、「comprising(含む)」の明確に定義された範囲内にある。
【0054】
請求項における「提供する(Providing)」は、何かあるものを備える、供給する、利用可能にする、又は用意することを意味すると定義される。工程は、請求項におけるそれと反対の明示された言語が存在しない場合任意の行為者によって実施され得る。
【0055】
任意選択の又は任意選択によりは、その後に説明される事柄又は状況が起こっても起こらなくてもよいことを意味する。説明は、事柄又は状況が起こる場合とそれが起こらない場合とを含む。
【0056】
範囲は、大雑把に1つの特定の値から、及び/又は大雑把にもう1つの別の特定の値まで本明細書において表され得る。このような範囲が表されるとき別の実施形態は、前記範囲内の全ての組合せと共に、1つの特定の値から及び/又は他の特定の値までであると理解されるべきである。
【0057】
本明細書に示される全ての文献はそれぞれ、本出願にそれらの全体において参照によって、並びにそれぞれが引用される特定の情報について本明細書に組み込まれる。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード又はカソード活物質を金属酸化物膜でコートする方法であって:
前記カソード又はカソード活物質を、式M(=NR
a)(OR
b)
2(NR
c
2)の前駆体を含む化学前駆体の蒸気と、酸化共反応体としての酸素供給源とに暴露する工程a1.と、
前記金属酸化物膜を前記カソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.を含み、
ここで:
MはNb、Ta、又はVから選択され、
R
aはiPr、tBu、t-Amから選択され、
それぞれのR
bは独立にEt、iPr、tBu、sBu、SPenから選択され、
それぞれのR
cは独立にEt又はMeから選択される、
方法。
【請求項2】
前記前駆体が式M(=NR
a)(OR
b)
2(NMeEt)のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R
bの少なくとも1つが独立にsBu、SPenから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆体が式M(=NR
a)(OR
b)
2(NMeEt)のものであり、R
bの少なくとも1つが独立にsBu、SPenから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
両方のR
bが独立にsBu、SPenから選択される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記前駆体がNb(=NtBu)(NEt
2)(O-tBu)
2、Nb(=NtBu)(NEt
2)
2(O-tBu)、Ta(=NtBu)(NEt
2)(O-tBu)
2、Ta(=NtBu)(NEt
2)
2(O-tBu)、及びそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程a1.では、前記カソード又はカソード活物質を化学前駆体の蒸気に暴露す
る工程と、前記カソード又はカソード活物質を
酸化共反応体
としての酸素供給源に暴露す
る工程とが順次に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記カソード又はカソード活物質を
酸化共反応体
としての酸素供給源に暴露する工
程の前に前記化学前駆体の蒸気をパージする工程a1.iを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記金属酸化物膜を前記カソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.が原子層堆積工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記金属酸化物膜を前記カソード又はカソード活物質上に堆積させる工程b1.が化学蒸着工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記酸素供給源がO
2
、O
3
、H
2
O、H
2
O
2
、NO、NO
2
、N
2
O又はNOx;酸素含有ケイ素前駆体、酸素含有スズ前駆体
から選択される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程b1.によって製造される前記金属酸化物膜がNb
xO
yD
zの平均原子組成を有し、Oが酸素であり、及びDが任意の他の原子であり、並びにx=0.3~0.4、y=0.4~0.65及びz=0.01~0.1である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記化学前駆体の蒸気及び/又は前記カソード又はカソード活物質の温度が100℃~300
℃である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属酸化物膜が0.02nm~10n
mの平均厚さを有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記カソード活物質、又は前記カソード中の前記カソード活物質が、a
)層状酸化物;b
)スピネルカソード材料;c)オリビン構造化カソード材
料;及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程a1.及びb1.の1つ以上が1~10
回行われる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
a)前記化学前駆体の蒸気及び/又は前記カソード若しくはカソード活物質の温度が100℃~300
℃であり、b)前記金属酸化物膜が0.02nm~10n
mの平均厚さを有し;c)前記金属酸化物膜が、前記カソード又はカソード活物質の表面上で少なくとも50%連
続である、請求項16に記載の方法。
【国際調査報告】