(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/032 20210101AFI20241128BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241128BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241128BHJP
B01D 71/44 20060101ALI20241128BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20241128BHJP
B01D 71/28 20060101ALI20241128BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20241128BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20241128BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241128BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241128BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241128BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20241128BHJP
C25B 11/043 20210101ALI20241128BHJP
C25B 11/048 20210101ALI20241128BHJP
【FI】
C25B11/032
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/44
B01D71/40
B01D71/28
B01D69/02
B01D53/22
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B13/04 301
C25B11/043
C25B11/048
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532304
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 KR2022019144
(87)【国際公開番号】W WO2023101380
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0169323
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(71)【出願人】
【識別番号】592127149
【氏名又は名称】韓国科学技術院
【氏名又は名称原語表記】KOREA ADVANCED INSTITUTE OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】291,Daehak-ro Yuseong-gu,Daejeon 34141,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミュン・ソク・オ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・フン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ド・フン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウイ-ドゥク・キム
(72)【発明者】
【氏名】サラン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ヒョジン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】スン・ガプ・イム
(72)【発明者】
【氏名】ジン・リュ
【テーマコード(参考)】
4D006
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4D006GA42
4D006HA42
4D006MA07
4D006MA09
4D006MA14
4D006MA31
4D006MB03
4D006MB09
4D006MB12
4D006MC02
4D006MC05
4D006MC24
4D006MC30
4D006MC36
4D006MC37
4D006MC40
4D006MC73
4D006MC75
4D006MC78
4D006NA31
4D006NA46
4D006PA01
4K011AA12
4K011AA16
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
本発明は、親水性であり、耐アルカリ性を備えながらも高い多孔性および低い電気抵抗を維持する陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層およびその製造方法を提供しようとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体;および
前記多孔性支持体表面の全部または一部に蒸着された高分子薄膜;を含み、
前記高分子薄膜はアミン、ヒドロキシル、エステル、酸無水物、カルボキシル、エポキシ、およびピリジンからなる群より選択された1種以上の官能基を含む、陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層。
【請求項2】
前記高分子薄膜は、ビニルピリジン(vinylpyridine)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(hydroxyalkyl (meth)acrylate)、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレート(dimethylaminoalkyl (meth)acrylate)、ジメチルアミノアルキルスチレン(dimethylaminoalkyl styrene)、エチレングリコール(メタ)アクリレート(ethylene glycol (meth)acrylate)、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ethylene glycol di(meth)acrylate)、スチレン-マレイン酸無水物共重合体(styrene-co-maleic anhydride)、および(メタ)アクリル酸((meth)acrylic acid)からなる群より選択された1種以上の単量体に由来した繰り返し単位を含むものである、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層。
【請求項3】
前記陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層は、水に対する接触角が50°以下である、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層。
【請求項4】
前記陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層は、気体透過度が1×10
-12m
2以上である、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層。
【請求項5】
前記陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層は、KOH 1Mの水溶液で耐アルカリ性を有する、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層。
【請求項6】
前記多孔性支持体は、多孔性カーボン布、多孔性カーボンフェルト、多孔性カーボン紙、ニッケルメッシュ、およびチタンメッシュからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層。
【請求項7】
前記多孔性支持体と高分子薄膜の間にポリテトラフルオロエチレンを含む微細多孔層をさらに含む、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層。
【請求項8】
多孔性支持体を準備する段階(段階1);および開始化学気相蒸着法を使用して前記多孔性支持体表面の全部または一部に蒸着された高分子薄膜を形成する段階(段階2);を含み、
前記(段階2)は高分子薄膜の単量体としてアミン、ヒドロキシル、エステル、酸無水物、カルボキシル、エポキシ、およびピリジンからなる群より選択された1種以上の官能基を含む単量体を使用する段階である、陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法。
【請求項9】
前記(段階2)の高分子薄膜の単量体は、ビニルピリジン(vinylpyridine)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(hydroxyalkyl (meth)acrylate)、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレート(dimethylaminoalkyl (meth)acrylate)、ジメチルアミノアルキルスチレン(dimethylaminoalkyl styrene)、エチレングリコール(メタ)アクリレート(ethylene glycol (meth)acrylate)、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ethylene glycol di(meth)acrylate)、スチレン-マレイン酸無水物共重合体(styrene-co-maleic anhydride)、および(メタ)アクリル酸((meth)acrylic acid)系の単量体からなる群より選択された1種である、請求項8に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法。
【請求項10】
前記(段階2)は、開始化学気相蒸着法の開始剤としてtert-ブチルペルオキシドおよびtert-ブチルペルオキシベンゾエートからなる群より選択された1種以上を使用することである、請求項8に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法。
【請求項11】
前記(段階2)は、反応器内チャンバーの圧力を0.01~1Torrで行われることである、請求項8に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法。
【請求項12】
前記(段階2)は、反応器内基板温度が10~50℃で行われることである、請求項8に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法。
【請求項13】
前記(段階2)は、反応器内単量体流量が1sccm~10sccmである、請求項8に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法。
【請求項14】
前記(段階2)は、反応器内開始剤流量が1sccm~5sccmである、請求項8に記載の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は2021年11月30日付韓国特許出願第10-2021-0169323号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
ガス拡散層(GDL、gas diffusion layer)は燃料電池(FC、fuel cell)および水電解(EC、electrolysis)で電極に反応物を伝達すると同時に、生成物を排出する通路であり、熱排出と電極支持台などの役割を果たす核心構成要素である。
【0004】
商用化されたGDLは大部分が高分子電解質燃料電池(PEMFC、polymer electrolyte membrane fuel cell)用で、多孔性炭素紙(carbon paper)の上に疎水性の高分子が含まれている微細多孔層(MPL、microporous layer)をコーティングした構造を有している。この時、燃料電池の場合、酸素極(cathode)から発生した水がガス拡散層の気孔をふさぐ現象(water flooding)が発生することがあって、ガス拡散層が疎水性を有することが要求される。よって、燃料電池のガス拡散層は疎水性を付与するために、高分子としてPTFEおよびバインダーを使用するのである。
【0005】
しかし、陰イオン交換膜水電解の場合、電解液の円滑な移動が要求されるため、燃料電池とは異なり、疎水性を有するガス拡散層が適しない。即ち、物質伝達側面から電解液に対するぬれ性が向上する必要があり、このためにはガス拡散層の親水性が増加するほど有利である。また、電解液として高濃度のKOH水溶液を使用するので、ガス拡散層は高い耐アルカリ性を有することが良い。
【0006】
よって、陰イオン交換膜水電解に使用可能な親水性であり高い耐アルカリ性を有するガス拡散層の開発が必要であるのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層およびその製造方法を提供しようとする。
【0008】
具体的に本発明は、親水性であり、耐アルカリ性を備えながらも高い多孔性および低い電気抵抗を維持する陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層およびその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層は多孔性支持体、および前記多孔性支持体表面の全部または一部に蒸着された高分子薄膜を含み、前記高分子薄膜はアミン(amine)、ヒドロキシル(hydroxyl)、エステル(ester)、酸無水物(anhydride)、カルボキシル(carboxyl)、エポキシ(epoxy)、およびピリジン(pyridine)からなる群より選択された1種以上の官能基を含むことができる。
【0010】
また、本発明の一実施形態の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法は、多孔性支持体を準備する段階(段階1);および開始化学気相蒸着法(initiated chemical vapor deposition、iCVD)を使用して前記多孔性支持体表面の全部または一部に蒸着された高分子薄膜を形成する段階(段階2);を含むことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、親水性であり、高い耐アルカリ性を有する陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層を提供することができる。
【0012】
また、本発明により、高い多孔性および低い電気抵抗を維持する陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層を提供することができる。
【0013】
また、本発明により、開始化学気相蒸着法を用いた陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層製造方法を提供することができる。
【0014】
また、本発明により、開始化学気相蒸着法を使用して製造することによって、非常に薄い厚さで多孔性支持体全体を効果的に表面改質可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明一実施形態の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の模式図である。
【
図2】本発明一実施形態の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の模式図である。
【
図3】本発明一実施形態の高分子薄膜蒸着前後の多孔性支持体表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したものを示したものである。
【
図4】本発明一比較例のカーボン紙の接触角を測定するために接触角分析器(DSA、KRUSS)で観察したものを示したものである。
【
図5】本発明一比較例のカーボン紙一面に微細多孔層が形成されたガス拡散層の接触角を測定するために接触角分析器(DSA、KRUSS)で観察したものを示したものである。
【
図6】本発明一実施形態のカーボン紙一面に高分子薄膜が形成されたガス拡散層の接触角を測定するために接触角分析器(DSA、KRUSS)で観察したものを示したものである。
【
図7】本発明一実施形態のカーボン紙一面に微細多孔層が形成され、その上に高分子薄膜が形成されたガス拡散層の接触角を測定するために、接触角分析器(DSA、KRUSS)で観察したものを示したものである。
【
図8】本発明一実施形態のカーボン紙一面に高分子薄膜が形成されたガス拡散層の耐アルカリ性テスト前後をFT-IRで測定したグラフを示したものである。
【
図9】本発明一実験例の圧縮率による平均電気抵抗値を測定した結果を示したものである。
【
図10】本発明一実験例の圧縮率による平均電気抵抗値を測定した結果を示したものである。
【
図11】本発明一実験例の圧縮率による平均電気抵抗値を測定した結果を示したものである。
【
図12】本発明一実験例の圧縮率による平均電気抵抗値を測定した結果を示したものである。
【
図13】本発明一実験例の気体透過度を測定した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明するのに使用され、前記用語は一つの構成要素を他の構成要素と区別するための目的にのみ使用される。
【0017】
また、本明細書で使用される用語はただ例示的な実施形態を説明するために使用されたものであって、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書で、“含む”、“備える”、または“有する”などの用語は実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在するのを指定しようとするものであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解されなければならない。
【0018】
また、本明細書において、各層または要素が各層または要素の“上に”または“の上に”形成されると言及される場合には各層または要素が直接各層または要素の上に形成されることを意味するか、または他の層または要素が各層の間、対象体、基材上に追加的に形成できるのを意味する。
【0019】
本発明は多様な変更を加えることができ様々の形態を有することができるところ、特定実施形態を例示し下記で詳細に説明しようとする。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むと理解されなければならない。
【0020】
陰イオン交換膜水電解では、ガス拡散層の親水性が増加するほど電解液のぬれ性と透過率が増加するので、セル(cell)の効率が増加できる。したがって、疎水性の微細多孔層を有する既存の燃料電池用ガス拡散層は電解液のぬれ性を低下させると同時に、数十マイクロメートル(μm)に達する微細多孔層の厚さはガス拡散層の多孔性支持体の多孔性も減少させる原因となることがある。したがって、薄いナノメートルスケールの高分子薄膜を通じた多孔性支持体の親水性表面改質が要求される。また、水電解工程のうち、特に陰イオン交換膜水電解の場合、電解液として高濃度のKOH水溶液を使用するので、高分子薄膜は親水性と共に高い耐アルカリ性を備える必要がある。
【0021】
以下、本発明の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層について具体的に見てみようとする。
【0022】
本発明は、親水性であり、高い耐アルカリ性を備えながらも高い多孔性および低い電気抵抗を維持する陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層を提供しようとする。
【0023】
図1は、本発明一実施形態の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の模式図である。
【0024】
図1を参照すれば、本発明は、多孔性支持体10および前記多孔性支持体表面の全部または一部に蒸着された高分子薄膜20を含み、前記高分子薄膜はアミン(amine)、ヒドロキシル(hydroxyl)、エステル(ester)、酸無水物(anhydride)、カルボキシル(carboxyl)、エポキシ(epoxy)、およびピリジン(pyridine)からなる群より選択された1種以上の官能基を含む陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層100を提供しようとする。前記高分子薄膜20に含まれる官能基は、高分子薄膜に親水性性質を付与しながら、同時に高い耐アルカリ性を付与することができる。
【0025】
また、前記高分子薄膜20は、厚さが10~200nmであってもよい。具体的に、高分子薄膜は厚さが10nm以上、25nm以上、50nm以上、75nm以上、または100nm以上であり、200nm以下、175nm以下、150nm以下、または125nm以下であってもよい。
【0026】
また、前記高分子薄膜20は、ビニルピリジン(vinylpyridine)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(hydroxyalkyl (meth)acrylate)、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレート(dimethylaminoalkyl (meth)acrylate)、ジメチルアミノアルキルスチレン(dimethylaminoalkyl styrene)、エチレングリコール(メタ)アクリレート(ethylene glycol (meth)acrylate)、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ethylene glycol di(meth)acrylate)、スチレン-マレイン酸無水物共重合体(styrene-co-maleic anhydride)および(メタ)アクリル酸((meth)acrylic acid)系の単量体からなる群より選択された1種以上の由来した繰り返し単位体を含むことができる。具体的には、下記の繰り返し単位体を含むことができる。
【0027】
【0028】
このうち、好ましくは、2-ビニルピリジン(2-vinylpyridine)または4-ビニルピリジン(4-vinylpyridine)を単量体として使用することができる。ピリジン系単量体はpKaが高いので、優れた耐アルカリ性を示すことができる。
【0029】
前記繰り返し単位体を含むことによって、高分子薄膜20はアミン(amine)、ヒドロキシル(hydroxyl)、エステル(ester)、酸無水物(anhydride)、カルボキシル(carboxyl)、エポキシ(epoxy)、およびピリジン(pyridine)からなる群より選択された1種以上の官能基を有することになって親水性を示すことになる。
【0030】
前記陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層100は、接触角が50°以下であってもよい。本発明のガス拡散層100は親水性であるので、接触角(water contact angle)の下限を限定しないことが好ましく、具体的に接触角は40°以下、30°以下、20°以下、10°以下、または0°であってもよい。
【0031】
前記接触角は、改質前後のガス拡散層表面に蒸留水一滴(10μl)を落とし、接触角分析器(DSA、KRUSS)で撮影して接触角を測定して得ることができる。接触角測定方法は韓国登録特許第1644025号に従った。
【0032】
また、前記陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層100は、気体透過度が1×10-12m2以上であってもよい。本発明の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層100は気体透過度が高いほど良品であるので、上限を限定しないことが好ましいが、具体的に気体透過度は1×10m2以上、5×10-12m2以上、10×10-12m2以上、30×10-12m2以上、40×10-12m2以上、50×10-12m2以上、または60×10-12m2以上であり、80×10-12m2以下、70×10-12m2以下、または65×10-12m2以下であってもよい。
【0033】
本発明の気体透過度はGDL基本物性評価装置(CPRT 10、韓国エネルギー技術院自体規格)を活用し、無作為に面積0.332cm2のGDL表面を接触して総3回測定し下記論文および式1を使用して気体透過度を求めることができる。
【0034】
気体透過度は論文“In-plane and through-plane gas permeability of carbon ber electrode backing layers(Jeff T. Gostick, et al., Sep 1 2006)”のTrough plane permeability方式で求め、下記[式1]で気体透過度(K、単位m2)を計算した。
【0035】
【0036】
上記式1中、Kは気体透過度(m2)であり、μは使用した気体の動的粘性度、Aは気体が透過した断面の面積、tは気体が透過したガス拡散層の厚さ、mは単位面積を流れる気体の流量(質量)、P1は気体透過前の圧力、P2は気体透過後の圧力、Rは気体定数、Tは温度、Mは使用した気体の重量、およびPavgはP1とP2の平均値を意味する。
【0037】
前記陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層100は、KOH 1Mの水溶液で耐アルカリ性を有することができる。具体的に、本発明の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層100は1MのKOHで3日間保管してもその親水性を喪失せず、薄膜の分解または剥離が発生しない。
【0038】
本発明の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層100に含まれる多孔性支持体10は多孔性物質であれば制限しないが、例えば、布、フェルト、または紙などの形態である多孔性カーボン、メッシュなどの形態であるニッケルまたはチタンなどであってもよい。具体的に、多孔性カーボン紙であってもよい。また、前記多孔性支持体は厚さが100~500μmであってもよい。
【0039】
図2は、本発明他の一実施形態の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の模式図である。
【0040】
図2を参照すれば、前記陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層100は、多孔性支持体10と高分子薄膜20の間にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む微細多孔層30をさらに含むことができる。前記ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む微細多孔層30は厚さが50~200μmであってもよい。
【0041】
また、本発明は、前記陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法を提供することができる。
【0042】
本発明の陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法は、多孔性支持体を準備する段階(段階1);および開始化学気相蒸着法(initiated chemical vapor deposition、iCVD)を使用して前記多孔性支持体表面の全部または一部に蒸着された高分子薄膜を形成する段階(段階2);を含むことができる。
【0043】
前記(段階1)の多孔性支持体は多孔性物質であれば制限しないが、例えば、多孔性カーボン布、多孔性カーボンフェルト、多孔性カーボン紙、ニッケルメッシュ、およびチタンメッシュなどからなる群のうちの1種以上であってもよい。具体的に、多孔性カーボン紙であってもよい。
【0044】
前記(段階2)で用いられる開始化学気相蒸着法(iCVD)は、ナノスケールの高分子薄膜を多様な種類の基板上に気相で蒸着する工程である。これは、薄い厚さの薄膜を均一に蒸着させることができるため、基板、即ち、ガス拡散層の多孔性および電気抵抗に影響を与えずにその表面改質が可能であるという特徴がある。特に、本発明では、開始化学気相蒸着法を通じて高い耐アルカリ性を有する親水性高分子薄膜を多孔性支持体に蒸着させることによって、微細多孔層の有無に関係なく多孔性支持体表面改質を通じて陰イオン交換膜水電解用ガス拡散層の製造方法を提供しようとする。
【0045】
具体的に、iCVDは、気体状態の開始剤(initiator)をラジカル(radical)に分解して単量体の重合を起こす方法である。開始剤としてはtert-ブチルペルオキシドのような過酸化物(peroxide)が主に使用され、この物質は110℃程度の沸点を有する揮発性物質であって、約150℃前後で熱分解をするようになる。前記開始剤として過酸化物のように熱によって分解されてラジカルを形成するもの以外にも、UVと光によって分解されてラジカルを形成するベンゾフェノン(benzophenone)などを用いることもできる。
【0046】
iCVD工程は、加熱されたフィラメント熱源やUVなどのエネルギー供給で薄膜の蒸着が起こる。特に、iCVD工程は180℃~350℃の間の低いフィラメント温度で工程が行われ、高分子薄膜が蒸着される基板表面の温度は10~50℃で低く維持できる。基板表面温度が低く維持できて、前記(段階1)で準備された多孔性支持体に高熱工程によって熱収縮などの欠陥が発生することが防止される長所がある。同時に、チャンバー内圧力が0.01~1Torrの間の真空状態で工程が行われるため高真空装備が必要でなく、単量体と開始剤流量は注入バルブで調節できる。
【0047】
前記(段階2)は、高分子薄膜の単量体としてアミン(amine)、ヒドロキシル(hydroxyl)、エステル(ester)、酸無水物(anhydride)、カルボキシル(carboxyl)、エポキシ(epoxy)、およびピリジン(pyridine)からなる群より選択された1種以上の官能基を含む単量体を使用することができる。
【0048】
具体的に前記単量体は、ピリジン系のビニルまたはアクリレート単量体、ヒドロキシアルキル系のアクリレート単量体、3次アミン系の単量体などを含むことができる。
【0049】
例えば、ビニルピリジン(vinylpyridine)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(hydroxyalkyl (meth)acrylate)、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレート(dimethylaminoalkyl (meth)acrylate)、ジメチルアミノアルキルスチレン(dimethylaminoalkyl styrene)、エチレングリコール(メタ)アクリレート(ethylene glycol (meth)acrylate)、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ethylene glycol di(meth)acrylate)、スチレン-マレイン酸無水物共重合体(styrene-co-maleic anhydride)、および(メタ)アクリル酸((meth)acrylic acid)系の単量体群より選択された1種以上の由来した繰り返し単位体を含むことができる。
【0050】
また、前記(段階2)は、開始化学気相蒸着法(initiated chemical vapor deposition、iCVD)の開始剤としてtert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエートなどを使用することができる。
【0051】
前記(段階2)は、反応器内チャンバーの圧力を0.01Torr~1Torrで行うことができる。具体的に反応器内チャンバーの圧力は、0.01Torr以上、0.1Torr以上、0.2Torr以上、または0.3Torr以上、および1Torr以下、0.8Torr以下、0.6Torr以下、または0.4Torr以下であってもよい。前記反応器内チャンバーの圧力が過度に低いか、または過度に高い場合には多孔性支持体上に高分子薄膜の蒸着が行われないかまたは蒸着速度が遅くなる問題があることがある。
【0052】
前記(段階2)は、反応器内基板温度が10~50℃で行うことができる。具体的に、反応器内基板温度10℃以上、20℃以上、または30℃以上、および50℃以下、または40℃以下で行うことができる。前記基板の温度が10℃未満である場合には高分子薄膜の蒸着均一度が低下する問題があり、50℃を超過する場合には蒸着速度が遅くなる問題があることがある。
【0053】
前記(段階2)は、反応器内単量体流量が1sccm~10sccmであってもよい。具体的に、単量体流量は1sccm以上、または2sccm以上、および10sccm以下、5sccm以下、または4sccm以下であってもよい。
【0054】
また、前記(段階2)は、反応器内開始剤流量が1sccm~5sccmであってもよい。具体的に、開始剤流量は1sccm以上、および5sccm以下、3sccm以下、または2sccm以下であってもよい。
【0055】
前記単量体流量または開始剤流量が過度に低いかまたは高い場合には、蒸着時間を十分にしても蒸着厚さが過度に薄くなるか、または厚くなることがある。
【0056】
前記(段階2)の高分子薄膜蒸着は多孔性支持体の単面または両面に対して行うことができ、両面に対して行われる場合、前述の条件によるiCVD工程を繰り返して行うことができる。
【0057】
前記製造方法によって多孔性支持体表面を全部または少なくとも一部被覆する形態で蒸着された高分子薄膜は多孔性支持体上にシート形状の薄膜として形成されるのではなく、多孔性支持体の気孔構造をそのまま維持する形態で蒸着される。これにより、多孔性支持体の多孔性性質が維持できる。
【0058】
以下、発明の理解を助けるために好ましい実施例が提示される。しかし、下記の実施例は発明を例示するためのものに過ぎず、発明をこれらのみに限定するのではない。
【実施例】
【0059】
<実施例1>
多孔性支持体としては多孔性カーボンペーパー(ジェーエンティージー、JNT20)を準備した。その後、iCVD反応器(ダエキハイテック、iCVD system(custom built))の保管筒に高分子薄膜の単量体として4-ビニルピリジン(4-VP)(Aldrich、純度95%)を入れて45℃で加熱させた。その後、開始剤であるtert-ブチルペルオキシド(Aldrich、純度98%)は開始剤筒に入れて常温で維持させた。この時、開始剤tert-ブチルペルオキシドは1.172sccmで、単量体4-ビニルピリジン(4-VP)はそれぞれ3.515sccmの流量で流した。反応器に前記多孔性支持体である多孔性カーボンペーパーをローディングし反応器内基板の温度を30℃で維持した。フィラメント温度は140℃であり、圧力は0.3Torrと設定した状態で前記多孔性支持体の一面に対してのみ開始化学気相蒸着を30分間行って多孔性カーボンペーパー一面に高分子薄膜50nmが形成されたガス拡散層を得た。
【0060】
<実施例2>
一面にPTFEを含む微細多孔層が形成されている多孔性カーボンペーパー(ジェーエンティージー、JNT20-A6H)を準備した。JNT20-A6Hは厚さが250±20μmであり、高湿度条件で駆動可能であり、電気抵抗が10mOhm・cm2以下であり、密度は100±10g/m2である。
【0061】
その後、実施例1と同様の方法および流量でPTFEを含む微細多孔層上に高分子薄膜を形成させてガス拡散層を得た。
【0062】
<実施例3>
多孔性カーボンペーパー(JNT20)にPTFEが含まれている微細多孔層がコーティングされて疎水性が増加し空隙率が減ったmulti-layered GDL(ジェーエンティージー、JNT20-A3)を準備した。JNT20-A3は厚さが250±20μmであり、高湿度条件で駆動可能であり、電気抵抗が15mOhm・cm2以下であり、密度は95±10g/m2である。
【0063】
その後、実施例1と同様の方法および流量で高分子薄膜を形成させてガス拡散層を得た。
【0064】
<実施例4>
多孔性カーボンペーパー(JNT20)にPTFEが含まれている微細多孔層がコーティングされて疎水性が増加し空隙率が減ったmulti-layered GDL(ジェーエンティージー、JNT20-A6L)を準備した。JNT20-A6Lは厚さが250±20μmであり、低湿度条件で駆動可能であり、電気抵抗が10mOhm・cm2以下であり、密度は95±10g/m2である。
【0065】
その後、実施例1と同様の方法および流量で高分子薄膜を形成させてガス拡散層を得た。
【0066】
<比較例1>
微細多孔層や高分子薄膜が形成されていない清潔な多孔性炭素紙を比較例1として準備した。
【0067】
<比較例2>
一面にPTFEを含む微細多孔層が形成されている多孔性カーボンペーパー(ジェーエンティージー、JNT20-A6H)を比較例2として準備した。
【0068】
<比較例3>
一面にPTFEを含む微細多孔層が形成されている多孔性カーボンペーパー(ジェーエンティージー、JNT20-A3)を比較例3として準備した。
【0069】
<比較例4>
一面にPTFEを含む微細多孔層が形成されている多孔性カーボンペーパー(ジェーエンティージー、JNT20-A6L & A6H)を比較例4として準備した。
【0070】
<実験例1-高分子薄膜蒸着前後の多孔性支持体表面観察>
実施例1と比較例1の表面をSEMで観察し、その結果を
図3に示した。
比較例1の表面と実施例1の表面で観察される変化がなく、特に多孔性において変化がないのを確認することができた。
【0071】
<実験例2-接触角の測定>
実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2のガス拡散層の接触角を測定した。接触角は、改質前後のガス拡散層表面に蒸留水一滴(10μl)を落とし、接触角分析器(DSA、KRUSS)で測定した。
【0072】
その結果、実施例1の場合、接触角0°で超親水性に表面が改質されたのを確認することができた(
図6)。実施例2の場合、PTFE微細多孔層が中間層として含まれたにもかかわらず接触角が40°と測定されて依然として親水性を示すことが分かった(
図7)。
【0073】
反面、比較例1の場合、接触角が128°(
図4)、比較例2の場合、156°(
図5)と示されたところ、二つとも疎水性を示すことが分かった。
【0074】
この結果から、本発明による高分子薄膜を含むガス拡散層は親水性に表面がよく改質されて陰イオン交換膜水電解に使用するのに適していることが分かった。
【0075】
<実験例3-耐アルカリ性テスト>
実施例1の高分子薄膜が形成されたガス拡散層の耐アルカリ性をテストした。
【0076】
陰イオン交換膜水電解に使用時環境と類似するように、1MのKOH水溶液で3日間実施例1のガス拡散層を浸漬しておき、その後、接触角測定、FT-IRピーク変化測定を行った。
【0077】
接触角測定は実験例2と同様の方法で測定し、耐アルカリ性テスト前後の両方とも、接触角は0°と測定されて依然として超親水性表面特性を有することを確認した。
【0078】
FT-IRスペクトロメーター(ALPHA FT-IR Spectrometer、BRUKER)で耐アルカリ性テスト前後FT-IRを測定して、その結果、ピークは
図8に示した。耐アルカリ性テスト前後に同一な水準で1415cm
-1、1596cm
-1でピリジンピークが検出されて高分子薄膜の組成変化が発生しないのを確認することができた。
【0079】
結論的に、本発明のガス拡散層は強いアルカリ条件の陰イオン交換膜水電解に使用しても高分子薄膜が消失するかまたは組成が変化することなく、十分なぬれ性が持続すると把握された。
【0080】
<実験例4-圧縮率による平均電気抵抗観察>
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、および実施例4と比較例4それぞれのセットの圧縮率による電気抵抗を観察した。実施例1と比較例1を比較したことは
図9に示し、実施例2と比較例2を比較したことは
図10に示し、実施例3と比較例3を比較したことは
図11に示し、実施例4と比較例4を比較したことは
図12に示した。全体データは下記表1に示した。
【0081】
本発明の圧縮率による電気抵抗はGDL基本物性評価装置(CPRT 10、韓国エネルギー技術院自体規格)を活用し、無作為に面積4.799cm2のGDL表面を接触して総3回測定を実施し、0.25~10kgf/cm2の圧縮率範囲で実施した。
【0082】
図9~
図12は全て高分子薄膜を蒸着させた実施例1~4の場合に全ての圧縮率で電気抵抗が小幅増加したが、非常に小幅増加で陰イオン交換膜水電解に使用するのに影響を与える程度ではなく、特に水電解セルが組み立てられる環境である圧縮率が増加された場合には差がほとんどないところ、陰イオン交換膜水電解に使用するのに適しているのを確認した。
【0083】
【0084】
<実験例5-気体透過度観察>
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4の気体透過度を観察してその結果を
図13および表2に示した。
【0085】
本発明の気体透過度はGDL基本物性評価装置(CPRT 10、韓国エネルギー技術院自体規格)を活用し、無作為に面積0.332cm2のGDL表面を接触して総3回測定して下記論文および式1を使用して気体透過度を求めた。
【0086】
気体透過度は論文“In-plane and through-plane gas permeability of carbon ber electrode backing layers(Jeff T. Gostick, et al., Sep 1 2006)”のFig.2のTrough plane permeability方式で求め、下記[式1]で気体透過度(K、単位 m2)を計算した。
【0087】
【0088】
上記式1中、Kは気体透過度であり、μは使用した気体の動的粘性度、Aは気体が透過した断面の面積、tは気体が透過したガス拡散層の厚さ、mは単位面積を流れる気体の流量(質量)、P1は気体透過前の圧力、P2は気体透過後の圧力、Rは気体定数、Tは温度、Mは使用した気体の分子量、およびPavgはP1とP2の平均値を意味する。
【0089】
図13によれば、高分子薄膜蒸着前後によって気体透過度に差がないのを確認することができた。
【0090】
【符号の説明】
【0091】
100 ガス拡散層
10 多孔性支持体
20 高分子薄膜
30 微細多孔層
【国際調査報告】