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特表2024-545056電磁放射および反ストークス蛍光との相互作用を介した冷却を増強するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電磁放射および反ストークス蛍光との相互作用を介した冷却を増強するための装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20241128BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G02B5/20
F28F13/18 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533009
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 IL2022051285
(87)【国際公開番号】W WO2023100186
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】288642
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523259961
【氏名又は名称】ソルコールド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェンハフ、ヤロン
(72)【発明者】
【氏名】フォックス、マアヤン
(72)【発明者】
【氏名】テンプルマン、ツヴィ
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA05
(57)【要約】
本発明は、物体および/または物体表面の光冷却のための電磁放射との相互作用を通じた冷却を増強するための装置であって、IR放射を放出するように構成された単または複層材料から構成されている下層;電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されている中間層;および選択されたスペクトル帯域を反射するように、および/または中間層へ透過可能な電磁放射の選択されたスペクトル帯域を増強するように構成された単または複層材料から構成されている上層である本質的に3つの層を備える、装置である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非コヒーレント非単色電磁/太陽放射の吸収および反ストークス蛍光に基づく冷却メカニズムを増強するための装置であって、
少なくとも1つの下層、前記少なくとも1つの下層は、IR放射を放出するように構成された単または複層材料から構成されている;
少なくとも1つの中間層、前記少なくとも1つの中間層は、電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されている;および
少なくとも1つの上層、前記少なくとも1つの上層は、前記電磁放射をフィルタリングし、前記電磁放射の、前記中間層および前記下層へ透過可能な1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域を透過させるように構成された単または複層材料から構成されており、ここで、前記中間層は、前記1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域のうちの1つに応答するように構成されており、ここで、前記下層は、前記1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域のうちの2番目のものに応答するように構成されており、ここで、前記1つのおよび2番目のスペクトル帯域は互いに、同じである、または異なる
を備える、装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの上層はさらに、前記電磁放射の、前記中間層へ透過可能な1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域を増強するように構成された単または複層材料から構成されている、
物体および/または物体表面の光冷却のための電磁放射を増強するための、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの上層は、前記電磁放射をフィルタリングするように、かつ、前記電磁放射の1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域を前記中間層へ透過させるように構成されている、請求項1のいずれか一項に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの上層の上または下のいずれかにあるフィルタリング層をさらに備える、請求項1のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記下層は、前記電磁放射の少なくとも50%を反射するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
IR放射を放出するように構成された少なくとも1つの層をさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
少なくとも1つの絶縁層をさらに備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記絶縁層は、電磁放射に対して透明である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記絶縁層は、5μmよりも小さい直径を有する細孔を有する微孔膜である、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記絶縁層は、超低IR吸収ポリマーおよび材料から作られている、請求項7に記載の装置。
【請求項11】
前記ポリマーは、HDPE、ナイロン6およびナイロン6,6から選択され、前記材料は、ヨウ化物および臭化物塩である、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記HDPE、前記ナイロン6、前記ナイロン6,6、および前記ヨウ化物および臭化物塩は、膜として提供されている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記ナイロン6または前記ナイロン6,6は、織布として提供されている、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記絶縁層は、空気である、請求項7に記載の装置。
【請求項15】
前記絶縁層は、ITVOF(赤外透明可視光不透過)である材料からできている膜である、請求項7に記載の装置。
【請求項16】
前記絶縁層は、1ミリメートルおよび10センチメートルの間の範囲内にある厚さを有する膜であり、ここで、前記膜の、電磁放射に対する透明性は、その厚さに比例して低減する、請求項7に記載の装置。
【請求項17】
前記絶縁層は、多孔性PTFE、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、PS(ポリスチレン)およびゲルマニウム膜から選択される電磁放射選択的透明材料からできている膜である、請求項7に記載の装置。
【請求項18】
前記多孔性PTFE膜の厚さは、0.3~2μmの範囲内にある、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記ゲルマニウム膜は、8~13μmの間で透明である、請求項17に記載の装置。
【請求項20】
冷却される物体へ前記装置を取り付けるための、前記下層の下方の少なくとも1つの接着層をさらに備える、請求項1から19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記装置を機械的劣化に対して保護するための少なくとも1つの上側機械層をさらに備える、請求項1から20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記複数の層は、接着マトリクスドメインを通じて互いに結合されている、請求項1から21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記少なくとも1つの下層および/または前記少なくとも1つの上層および/または前記少なくとも1つの中間層は、1つまたは複数の膜内に提供されている、請求項1から22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記少なくとも1つの下、中間または上層は、通信周波数がそれらを通過することを可能にするために、連続的または非連続的のいずれかである、請求項1から23のいずれか一項に記載の装置。
【請求項25】
前記電磁放射は、広スペクトル帯域を有する非コヒーレント非単色放射であり、ここで、前記選択されたスペクトル帯域は、前記中間層内の活性成分における基底エネルギー状態から励起エネルギー状態への電子の励起のために十分である、請求項1に記載の装置。
【請求項26】
前記少なくとも1つの上層は、少なくとも80%のQYを有する蛍光材料から構成されている、請求項1のいずれか一項に記載の装置。
【請求項27】
前記少なくとも1つの上層は、ピラニン、ペロブスカイト、1 1,3-ビス[4-(ジメチルアミン)フェニル]-2,4-ジヒドロキシシクロブテンジイリウムジヒドロキシド、ビス(内塩)[スクアリリウム染料III]、シアニン-3b(シアニン族)、ピロメテン567(ボディピー族)、ぺリレン、クマリン6(クマリン族)、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、1,4-ビス(5-フェニルオキサゾール-2-イル)ベンゼン(POPOP)、ぺリレン(PMI)、ぺリレン(PMI(OR))、ぺリレン(PMI(OR)3)、ぺリレン(PDI)、フルオレセイン、ローダミン123、ローダミン6G、ローダミン101内塩、スルホローダミン101およびローダミン族および誘導体から選択される少なくとも1つの材料から構成されている、請求項1から26のいずれか一項に記載の装置。
【請求項28】
前記少なくとも1つの下層は、少なくとも90%のQYを有する蛍光材料から構成されている、請求項1から26のいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
前記少なくとも1つの中間層は、硫化カドミウム、ヒ化ガリウム(GaAs)量子井戸、イッテルビウムドープイットリウムリチウムフッ化物(Yb:YLF)結晶、イッテルビウムドープタングステン結晶(Yb:KGW)、1wt%のYb3+がドープされたフルオロジルコネートガラス(ZBLANP)、9Be+、セシウム、CdS/ZnS、ペロブスカイト、ピラニン、BPEA、ローダミン101(キサンチン族)およびピロメテン567(ボディピー族)から選択される少なくとも1つの材料から構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項30】
前記少なくとも1つの中間層は、少なくとも90%のQYを有する蛍光材料から構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項31】
前記少なくとも1つの中間層は、硫化カドミウム、ヒ化ガリウム(GaAs)量子井戸、イッテルビウムドープイットリウムリチウムフッ化物(Yb:YLF)結晶、イッテルビウムドープタングステン結晶(Yb:KGW)、1wt%のYb3+がドープされたフルオロジルコネートガラス(ZBLANP)、9Be+、セシウム、CdS/ZnS、ペロブスカイト、ピラニン、BPEA、ローダミン101(キサンチン族)およびピロメテン567(ボディピー族)から選択される少なくとも1つの材料から構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項32】
前記少なくとも1つの下層は、連続的または多孔性PTFEまたはPTFEナノまたは微粒子、連続的または多孔性PDMSまたはPDMSナノまたは微粒子、連続的または多孔性SiOまたはSiOナノまたは微粒子、アルミナ、TiO2、BaSO、金属、SiO、Siポリマーなどの連続的または多孔性エッチング済みセラミック、HDPE(高密度ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、ゲルマニア、アルミナ、チタニア、硫酸バリウムまたはそれらのナノまたは微粒子から選択される少なくとも1つの材料から構成されており、ここで、前記ナノまたは微粒子は、自立している、または、膜、マトリクスまたはメンブレン内に埋め込まれている、請求項1に記載の装置。
【請求項33】
前記連続的PDMSは、膜として提供されており、ここで、前記膜の厚さは、3.5μmおよび5μmの間である、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
前記膜の厚さは、4μmである、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
前記多孔性PDMSは、膜として提供されており、ここで、前記膜の全質量は、3.5μmから5μmまでの範囲内の厚さを有する、好ましくは4μmの厚さを有する前記連続的PDMS膜の質量にほぼ等しい、請求項32に記載の装置。
【請求項36】
前記多孔性PDMS膜内の細孔の直径は、8~14μmの範囲内にあり、ここで、前記細孔は、前記膜の体積内で均一に分散されている、請求項35に記載の装置。
【請求項37】
前記下層内の前記PDMS膜は、11μmの波長で電磁放射を放出する電磁放射エミッタをさらに含む、請求項32から36のいずれか一項に記載の装置。
【請求項38】
前記エミッタは、SiC、BaSOおよびZnOから選択される、請求項37に記載の装置。
【請求項39】
前記エミッタは、約0.3μmという比較的小さい直径を有する粒子として提供されている、請求項37に記載の装置。
【請求項40】
前記細孔の直径は、0.2から2μmまでの範囲内にある、請求項37に記載の装置。
【請求項41】
前記下層は、前記細孔の同じ直径の微粒子を有し、ここで、前記微粒子は、前記膜の体積内で均一に分散されている、請求項40に記載の装置。
【請求項42】
前記エミッタは、8~13μmの範囲内の直径を有する粒子として提供されている、請求項37に記載の装置。
【請求項43】
前記下層は、1~1000μmの範囲内の厚さを有する膜である、請求項32から42のいずれか一項に記載の装置。
【請求項44】
前記少なくとも1つの下層は、LW-FIR領域内の強い光学活性を有する多孔性物質からできている、請求項1に記載の装置。
【請求項45】
前記装置は、太陽に曝露されている、および/または、透明物体の下に位置している、および/または、有孔物体の下方に位置している、請求項1のいずれか一項に記載の装置。
【請求項46】
前記装置は、固体、液体および蒸気を冷却する、請求項1から45のいずれか一項に記載の装置。
【請求項47】
前記装置は、塗料内に提供されている、請求項1から45のいずれか一項に記載の装置。
【請求項48】
前記装置は、織物に組み込まれている、請求項1から45のいずれか一項に記載の装置。
【請求項49】
前記少なくとも1つの上層は、前記織物の繊維の外表面へ組み込まれており、前記少なくとも1つの下層は、前記繊維の芯へ組み込まれており、前記少なくとも1つの中間層は、前記繊維の前記外表面および前記繊維の前記芯の間に組み込まれている、請求項48に記載の装置。
【請求項50】
異なる材料の表面との物理的および化学的適合性を有する前記装置、請求項1から45のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体表面および物体の冷却に関する。より具体的には、本発明は、反ストークス蛍光を介した物体表面および物体の冷却に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光材料は、短波長の放射を吸収し、ストークスシフトとして説明される特定の放射形状を有する長波長の放射を放出することが知られている。そのような蛍光材料の放出は、ストークス/反ストークスシフトを介して生じ得る。
【0003】
蛍光材料のそのような周知の現象は、分析および細胞撮像のための非破壊的な方法として、生物学および物理学を含む明るい色が必要とされる様々な用途で用いられている。
【0004】
蛍光材料は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、光退色後蛍光回復(FRAP)、化学センサ、光電子デバイス、ディスプレイおよび検出用標識薬剤の使用を含む様々な他の用途で用いられている。
【0005】
蛍光物質は、量子収量および蛍光寿命に基づいて特徴付けられる。量子収量は、吸収される光子の数に対する放出される光子の数として説明され得る。量子収量の可能な値は、0から1までの範囲にある。寿命は、分子が基底状態へ戻る前に励起状態に留まる平均時間により定義される。
【0006】
物質の黒体放射は、それにより、物質が、振動によって誘導される表面からの光子放出を通じて熱エネルギーの一部を失う現象である。約300Kの温度では、黒体放射は、遠赤外(LW-FIR)光である長波と称される概ね5~50μmの波長で物質により放出および吸収される。
【0007】
晴天空へ曝露された物質は、LW-FIR光子の正味損失に起因する冷却を経る。この冷却効果は、2つの別個の現象に起因しており、(a)1番目のものは、それを通じて地上の光子が宇宙へ直接放出され得る8~14μm(「大気の窓」)に及ぶ大気透明性帯域の存在である(宇宙の温度が約4Kなので、戻って来る黒体放射は無視できる);(b)2番目のものは、高さと共に大気の温度が低下することである;大気の温度は、地表の温度よりも大幅に低いことがあり得るので、地上の黒体光子は、14μmから大気により吸収され、さらにより少ない光子が、大気の温度が低いことに起因して、表面に向かって再放出される。
【0008】
300Kにおける物質の合計黒体冷却は、150W/m程度の流束値を実現でき、これは、高い(>90%)太陽反射率と組み合わされた場合、日中でも周囲温度未満へ冷却される表面をもたらし得る。雲、湿度、温室効果ガスまたは他の放射体に起因してクリアスカイが遮られると、実放射冷却束が低下する。
【0009】
軽風における表面-空気境膜係数について内輪の推定値20W/K*mを取ると、表面から放出される実放射の20W/m毎に1度のサブ周囲冷却を実現することが可能である;これは、ほぼ全ての太陽放射(~1kW/m)を阻止すること、および、大気の窓を通じて主に宇宙へ、そして、残りのスペクトルにわたってより冷たい大気へ黒体放射を強力に放出することの両方を必要とする。
【0010】
固体のレーザ冷却は、放射との相互作用が固体材料の効果的な冷却を引き起こしている現象である。このアイデアは、早ければ1929年に、Pringsheimにより提案された。しかしながら、このアイデアは、固体の光学冷却とも呼ばれる固体のレーザ冷却が、固体をどうにか0.3Kだけ冷却したEpstein他により実現された1995年(Epstein 1995年)まで、そうならなかった。
【0011】
レーザ冷却は、成長速度が速い分野であり、最新技術は、わずか100Kという極低温へ固体を冷却するというものである(Melgaard 2016年)。ある物質の固相では、この物質の大量の熱エネルギーが、格子の振動モードに含まれる。したがって、粒子の振動運動が減少すると、物質の冷却がもたらされる。光の量子との類推で、振動運動の量子は通常、フォノンと称される。
【0012】
レーザ冷却のために重要である2つの主な相互作用は、(a)光が物質と相互作用することにより光子が吸収されてより低いエネルギーで再放出される処理であるストークス蛍光/散乱(この処理は、場合によっては、発光ダウンコンバージョンであることもある。失われたエネルギーが固体内の熱エネルギーへ変換される。これらにより、相互作用物質の熱がもたらされる)、および、(b)(発光アップコンバージョンとも称される)反ストークス蛍光/散乱(この処理では、各光子が初期エネルギーよりも多いエネルギーで散乱されるように、光が物質と相互作用する。このエネルギーは、物質内のフォノンにより提供され、これが、平衡後の物質の冷却につながる)である。
【0013】
固体におけるレーザ冷却の物理的原理は、最大反ストークス散乱および最小ストークス散乱を実現することを目的としている。散乱のタイプが光の波長に非常に依存するので、狭範囲の波長を有する光を放出するレーザが従来、そのような研究に用いられてきた。
【0014】
反ストークス蛍光を用いたレーザ冷却は、調査され、ある時点で確立されている。そのような冷却は、吸収された放射線の平均エネルギーよりも高い平均エネルギーを有する電磁放射(光子)の放出に起因して実現される。効果的に、熱が、物質から放出される光へ変換される。
【0015】
吸収された放射線よりも高いエネルギーを有する放射線放出は、基底および励起レベルの間のエネルギーバンドギャップおよび2つの励起レベルの間のエネルギーレベル分割を有する半導体を用いてモデル化でき、バンドギャップは、これらの励起レベルの間のエネルギーギャップよりも大きい桁(order of magnitude)である。2つの励起レベルの間の熱平衡により、より高い励起レベルの母集団がもたらされる。より高い励起レベルでは励起電子の非放射減衰がないと仮定すると、吸収された光子の周波数よりも高い(よりも短い波長の)周波数で光子放出が起こり、実冷却がもたらされる。
【0016】
現時点での固体のレーザ冷却は概ね、イオンドープガラスまたは結晶を用いたレーザ冷却および半導体(量子井戸構造のような、バルクまたは閉じ込められたもの)におけるレーザ冷却という2つの分野へ分類され得る。使用の一例は、反ストークス蛍光冷却によりレーザ加熱が補償されるようにポンプ波長が調節される放射バランス調整済みレーザにおけるものである。
【0017】
上記の最初の2つのオプションに基づく、光冷却器とも称される反ストークスソリッドステート冷却器は、希土類(RE)がドープされたガラスについてはわずか80K、直接バンドギャップ半導体については55Kという温度へ到達する際に効果的である。
【0018】
REイオンの主な利点は、充填された5sおよび5p外側シェルにより遮蔽される光学活性4f電子であり、これにより、REイオンを囲む格子との相互作用が制限され、非放射減衰が抑制される。低フォノンエネルギーを有するホスト、例えば、フッ化物ガラスおよび結晶は、非放射減衰を低下させ、量子効率を上げ得る。レーザ誘導冷却は、ZBLANP、ZBLAN、CNBZnおよびBIG、YAGおよびYSiO、BaY、KPbCl、KGdおよびKY、YLFなど、イッテルビウム(Yb3+)がドープされた多種多様なガラスおよび結晶において観察されてきた。レーザ誘導冷却は、ツリウム(Tm3+)がドープされたZBLANPおよびBaY、および、エルビウム(Er3+)がドープされたCNBZnおよびKPbClにおいても観察されてきた。
【0019】
温度測定―IRカメラ
全ての物体は、スペクトルが物体の温度に依存する放射を放出する。この放射は、理論上、黒体が黒体に降りかかる放射の全てを吸収し、したがって「黒い」ので、黒体放射と称される。室温付近の温度では、放出された放射はほとんどが、約10マイクロメートルの波長でスペクトルの中および遠IR部分に集中する。IRカメラは、これらの波長を有する光子の強度を測定する検出器を含む。それを通じて光子が伝搬する媒質がこれらの光子に対して透明であると仮定すると、これらのカメラにより、ある距離から身体の温度を測定することが可能になる。IR光の強度を測定することにより、温度が容易に計算される。特に、較正しなくても、温度差および進化傾向が容易に識別され得る。
【0020】
温度測定方法―ダイオード
この方法は、測定したい試料へ熱結合された小型ダイオードの温度を直接測定する。既知の量だけ温度が上がると、ダイオードにわたる電圧低下が増す。
【0021】
温度測定方法―流体レジーム
この方法は、光吸収中の流体内のレジームに着目して、容器内の異なるエリアで流体が動く方向を用いることでわずかな温度変化を決定する。
【0022】
ニュートン冷却モデル
【0023】
ニュートン冷却は、環境との身体の熱交換を説明する理論である。この理論は、冷却率が温度差に依存すると仮定しており、指数関数解を与える。安定した熱/冷却源を加えたうえでこの解を用いることにより、以下の式が与えられる。
太陽光シミュレータ
太陽光シミュレータは、地球に入射する太陽スペクトル(大気効果を考慮した後のもの)と密接に一致するスペクトルを有する光を放出するデバイスである。ASTM(米国材料試験協会)により生成された、図1(従来技術)に示される以下のグラフは、光の大気吸収がある場合およびない場合における、波長の関数としての地球に到達する光(太陽光スペクトルとも称される)の強度を示す。加えて、このグラフは、大気吸収がある場合およびない場合における、太陽の表面の温度のような実線で示される5778Kの温度を有する黒体により予想される理論上のスペクトルを示す。
【0024】
以下では、REドープガラス(4準位モデル)および半導体における反ストークス冷却のいくつかの基本モデルを詳述する。
【0025】
光学冷却の4準位モデル
一例としてYb3+:ZBLANP試料を用いた固体のレーザ冷却の基本概念を検討する。ZBLANPにおけるYb3+のcm-1でのエネルギーレベルおよび主要な遷移が、図2A(従来技術)に示される。図2Aに示される準位系は、図2B(従来技術)に示される4準位系により近似され得る。
【0026】
この4準位系において、基底状態マニホールド(2F7/2)は、このマニホールドの下(E0)および上(E1)に対応する、エネルギー分離δEg=E1-E0を伴う2つのエネルギーレベルにより示される。励起されたマニホールド(2F5/2)は、下(E2)に対応する、エネルギー分離δEex=E3-E2を伴う2つのエネルギーレベルにより示される。
【0027】
図2Aは、ZBLANにおけるYb3+のエネルギーレベルおよび主要な遷移を示す。
【0028】
図2Bは、基底(0および1)および励起された(2および3)マニホールドにおける2組の準位から成る光学冷却の4準位エネルギーモデルを示す。
【0029】
半導体における光冷却
半導体の開発および製造における近年の進展により、光冷却のための候補としての半導体への関心が押し上げられてきた。半導体および希土類ドープ材料の間の本質的な差は、冷却サイクルにある。REドープガラスの場合、冷却遷移は、ホスト内の局在ドナーイオンにおいて生じる。半導体の場合、冷却サイクルは、直接バンドギャップ半導体の拡張価電子および伝導帯の間の遷移を伴う。エネルギーhνpを有するレーザ光子により、正孔キャリアの冷分布が生成される。次に、キャリアは、フォノンを吸収することにより熱くなり、その後、hνfにおいてアップコンバートされた発光がなされる。
【0030】
図3(従来技術)は、hνfにおいてアップコンバートされた発光光子の放出前のhνp吸収エネルギーを有する半導体における冷却サイクルを概略的に示す。
【0031】
フェルミ-ディラック分布における区別不可能な電荷キャリアにより、REドープ物質よりも低い温度へ半導体が冷却されることが可能になる。実際、REドープ系における基底状態マニホールドの最も高いエネルギーレベルでは、ボルツマン分布に起因して、温度が下げられるとすぐに、分布密度が低くなる。格子温度がボルツマン定数倍だけ基底状態の幅と同等になった場合、REドープホストにおける冷却サイクルは停止する。そのような制限は、非ドープ半導体には存在しない。理論上の推定の後、わずか10Kという温度が、レーザ冷却された半導体において実現され得る。空間および時間において変わる異なる温度を格子およびキャリアが有し得ることが示された。
【0032】
半導体は固体のレーザ冷却のための非常に有望な材料であり、温度が下がるとその外部量子効率は上がるが、温度と反比例して、損失項AおよびCが減り、放射率(B係数)が上がるので、半導体の実冷却を実験的に実現すべく克服しなければならないいくつかの問題があり、上述の損失項A、BおよびCにより、正孔再結合の非放射、放射およびオージェ率が定義される。
(1)表面再結合率が低減される必要がある。
金属有機化学気相成長(MOCVD)など、非常に低い表面再結合率(A<104 sec-1)を提供できる十分に開発されたエピタキシャル成長技術が、この問題の有望な解決手段として検討され得る。この場合、GaAsの活性層は、AlGaAsまたはInGaPの2つの薄い層の間に挟まれている。これらの格子整合クラッディング層は、表面パッシベーションおよびキャリア閉じ込めを同時に提供する。
(2)寄生バックグラウンド吸収が低減される必要がある。
このバックグラウンド吸収は、十分に開発されたエピタキシャル方法を用いた材料準備中に低減され得る。自発的な放出の捕捉および再吸収を引き起こす合計内部反射が防がれ得る場合、抽出効率が強化され得る。現時点では、試料の純度が、半導体における実レーザ冷却を実現する道への主たる障害になっている。
【0033】
図2A図2Bおよび図3に描かれたものと同様のエネルギーレベル図を有する候補物質は、半導体(そのバンドギャップにわたって励起されたもの)、希土類または遷移金属がドープされた結晶およびガラス、および、任意の相の多原子分子(振動レベル間で励起されたもの)を含む。
【0034】
図2A(従来技術)は、REドープガラス、例えば、Yb3+:ZBLANPの光学冷却の4準位モデルを示す。この図は、元々はレーザ冷却に関連するが、広帯域放射にも等しく関連する。
【0035】
図2Bは、4準位モデルの特定の計算を示す(単位はcm-1)。
【0036】
図3は、半導体における光冷却の概略図である。隣接する励起されたエネルギーレベルの間の熱平衡から生じる励起された光子のアップコンバージョンは、吸収された光子のものよりも高いエネルギーを有する光子放出につながる。したがって、半導体材料における光冷却効果は、フォノンの吸収、および熱エネルギーから電磁エネルギーへの変換により実現される。
【0037】
図4(従来技術)は、測定された最大ΔT(二乗)および290Kにおける異なるポンプ波長でのポンプ電力(K/mW)へ正規化された理論上計算された温度変化曲線(実線)の例示的なプロットである。実線領域は、硫化カドミウムエンジニアリング材料の冷却ゾーンに対応する。505nmおよび560nmの間の波長を有する光子の吸収から生じる温度の低下をはっきりと見ることができる。本発明における広帯域放射へ適用すると、硫化カドミウムに対する太陽放射から抽出された505nm~560nmのスペクトル帯域を用いることにより、効果的な冷却をもたらす反ストークス蛍光が生成されるであろう。
【0038】
レーザによる励起および非常に特定の放射波長への調整の要求に基づく様々な反ストークスベースの冷却技術が、現在利用可能である。そのような技術は、非常に低い温度が必要とされ、かつ、単色放射が用いられる特定の用途について、効率的である。
【0039】
温度および非単色放射の条件において適用可能な反ストークスベースの冷却方法は、本願の出願人であるSolColdにより、2018年に初めて紹介された(WO201820503)。
【0040】
WO201820503において、出願人は、エネルギー源、すなわち、レーザポンプを、例えば太陽スペクトルから取られるより自然に利用可能なより広いスペクトルの放射源に置き換え、このスペクトル帯域を調整して、反ストークス蛍光を示す材料と一致させている。より具体的には、WO201820503は、物体表面の光反ストークス冷却のための二重または複層装置またはデバイスに関する。この装置は、電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された少なくとも1つの下層、および、電磁放射をフィルタリングし、電磁放射の選択されたスペクトル帯域を下層へ透過させるように構成された、下層の上に重ねられている少なくとも1つの上層を備える。アクティブ冷却は、放射のコヒーレント性に依存せず、これにより、アクティブ冷却入力電源としての非コヒーレント太陽放射の使用が可能になる。
【0041】
ここで、本発明の目的は、反ストークス効果を用いてより大きいスケールの物体および表面を冷却するための技術を改善することである。
【0042】
より具体的には、本発明の目的は、太陽放射を用いることによる物体および表面の反ストークスベースの冷却のための改善された装置、例えば、電磁/太陽放射の吸収および反ストークス蛍光に基づく冷却メカニズムを増強する改善された装置を提供することである。
【発明の概要】
【0043】
本発明は、非コヒーレント非単色電磁/太陽放射の吸収および反ストークス蛍光に基づく冷却メカニズムの増強に関する。本発明は、非常に蛍光性が高い分子およびナノ材料でできた固体複合材料の製造および実験測定に関する。これらの材料は、具体的に調査され、本発明の様々な実施形態における活性反ストークス冷却層として利用されるむしろ任意選択的な良好な候補であることが分かっている。そのような層は、特定の波長範囲のレーザまたは太陽放射のいずれかにより動作するように誘導され得る。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態によれば、したがって、
非コヒーレント非単色電磁/太陽放射の吸収および反ストークス蛍光に基づく冷却メカニズムを増強するための装置であって
少なくとも1つの下層、前記少なくとも1つの下層は、前記電磁放射を反射するように、および/またはIR放射を放出するように構成された単または複層材料から構成されている;
少なくとも1つの中間層、前記少なくとも1つの中間層は、電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されている;および
少なくとも1つの上層、前記少なくとも1つの上層は、前記電磁放射をフィルタリングし、前記電磁放射の、前記中間層および前記下層へ透過可能な選択されたスペクトル帯域を透過させるように構成された単または複層材料から構成されており、ここで、前記中間層は、前記1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域のうちの1つに応答するように構成されており、ここで、前記下層は、前記1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域のうちの2番目のものに応答するように構成されており、ここで、前記1つのおよび2番目のスペクトル帯域は互いに、同じである、または異なる
を備える、装置
が提供される。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態によれば、したがって、
物体および/または物体表面の光冷却のための電磁放射を増強するための装置であって、
少なくとも1つの下層、前記少なくとも1つの下層は、電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されている;および
少なくとも1つの上層、前記少なくとも1つの上層は、前記下層へ透過可能な前記電磁放射の1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域を増強するように構成された単または複層材料から構成されている
を備える装置
が提供される。
【0046】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、
物体および/または物体表面の光冷却のための電磁放射を増強するための装置であって、
少なくとも1つの下層、前記少なくとも1つの下層は、前記電磁放射を反射するように、および/またはIR放射を放出するように構成された単または複層材料から構成されている;
少なくとも1つの中間層、前記少なくとも1つの中間層は、電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されている;および
少なくとも1つの上層、前記少なくとも1つの上層は、前記中間層へ透過可能な前記電磁放射の1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域を増強するように構成された単または複層材料から構成されている
を備える装置
が提供される。
【0047】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの上層は、前記電磁放射をフィルタリングするように、かつ、前記電磁放射の1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域を前記中間層へ透過させるように構成されている。
【0048】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、前記少なくとも1つの上層の上または下のいずれかにあるフィルタリング層をさらに備える。
【0049】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記下層は、前記電磁放射の少なくとも50%を反射するように構成されている。
【0050】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、IR放射を放出するように構成された少なくとも1つの層をさらに備える。
【0051】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、少なくとも1つの絶縁層をさらに備える。いくつかの実施形態において、前記絶縁層は、電磁放射に対して透明である。さらに他の実施形態において、前記絶縁層は、5μmよりも小さい直径を有する細孔を有する微孔膜である。さらに他の実施形態において、絶縁膜を作る材料は、HDPE、ナイロン6およびナイロン6,6およびヨウ化物および臭化物塩から選択される超低IR吸収ポリマーおよび材料である。さらに他の実施形態において、ナイロン6またはナイロン6,6は、織布である。さらに別の実施形態において、絶縁層は、空気である。本発明のいくつかの実施形態において、前記絶縁膜は、ITVOF(赤外透明可視光不透過)である材料からできている。さらに他の実施形態において、絶縁層の厚さは、ミリメートルおよびセンチメートルの間、例えば、1ミリメートル~10センチメートルに及び、ここで、電磁放射、特に、IR放射に対する透明性は、その厚さに比例して低減する。いくつかの実施形態において、前記絶縁層は、電磁放射に対して選択的に透明である材料からできている。さらに他の実施形態において、前記電磁放射選択的透明材料は、多孔性PTFE、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、PS(ポリスチレン)およびゲルマニウム膜から選択される。好ましくは、前記多孔性PTFE膜の厚さは、0.3~2μmの範囲内にある。さらに別の実施形態において、前記ゲルマニウム膜は、8~13μmの間で透明である。さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、冷却される物体へ前記装置を取り付けるための、前記下層の下方の少なくとも1つの接着層をさらに備える。
【0052】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、前記装置を機械的劣化に対して保護するための少なくとも1つの上側機械層をさらに備える。
【0053】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記複数の層は、接着マトリクスドメインを通じて互いに結合されている。
【0054】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの下層および/または前記少なくとも1つの上層および/または前記少なくとも1つの中間層は、1つまたは複数の膜内に提供されている。
【0055】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの層は、通信周波数がそれらを通過することを可能にするために、連続的または非連続的のいずれかである。
【0056】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記電磁放射は、広スペクトル帯域を有する非コヒーレント非単色放射であり、ここで、前記選択されたスペクトル帯域は、前記下層内の活性成分における基底エネルギー状態から励起エネルギー状態への電子の励起のために十分である。
【0057】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記電磁放射は、広スペクトル帯域を有する非コヒーレント非単色放射であり、ここで、前記選択されたスペクトル帯域は、前記中間層内の活性成分における基底エネルギー状態から励起エネルギー状態への電子の励起のために十分である。
【0058】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの上層は、少なくとも80%のQYを有する蛍光材料から構成されている。
【0059】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの上層は、ピラニン、ペロブスカイト、1 1,3-ビス[4-(ジメチルアミン)フェニル]-2,4-ジヒドロキシシクロブテンジイリウムジヒドロキシド、ビス(内塩)[スクアリリウム染料III]、シアニン-3b(シアニン族)、ピロメテン567(ボディピー族)、ぺリレン、クマリン6(クマリン族)、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、1,4-ビス(5-フェニルオキサゾール-2-イル)ベンゼン(POPOP)、ぺリレン(PMI)、ぺリレン(PMI(OR))、ぺリレン(PMI(OR)3)、ぺリレン(PDI)、フルオレセイン、ローダミン123、ローダミン6G、ローダミン101内塩、スルホローダミン101およびローダミン族および誘導体から選択される少なくとも1つの材料から構成されている。
【0060】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、太陽放射の選択された波長帯域を反射するために、少なくとも1つの下層は、連続的または多孔性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、シリカ、ゲルマニア、アルミナ、チタニア、硫酸バリウム、またはそれらのナノまたは微粒子を有し、ここで、前記ナノまたは微粒子は、自立している、または、膜、マトリクスまたはメンブレン内に埋め込まれている。
【0061】
本発明のさらにいくつかの他の実施形態において、下太陽反射層の細孔直径は、0.2から2ミクロンまでの範囲内にある。本発明のさらに他の実施形態において、太陽放射反射下層は、そのような細孔の同じ直径の、すなわち、0.2~2ミクロンの微粒子を含み、ここで、これらの微粒子は、この層の体積において均一に分散される。
【0062】
太陽放射反射層内の粒子について、粒子境界において放射散乱、すなわち、散乱事象が行われる。したがって、太陽反射層の膜内の粒子サイズ、および、粒子数に従って決定される散乱事象数の間には、トレードオフが存在する。したがって、反射を最適化するには、個々の散乱体としての理想的な粒子サイズおよび膜内の粒子の数および分布の間のバランスを取ることが必要である。
【0063】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、太陽放射反射層は、1~1000ミクロンの範囲内の厚さを有する膜である。
【0064】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの下層は、少なくとも90%のQYを有する蛍光材料から構成されている。
【0065】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの下層は、硫化カドミウム、ヒ化ガリウム(GaAs)量子井戸、イッテルビウムドープイットリウムリチウムフッ化物(Yb:YLF)結晶、イッテルビウムドープタングステン結晶(Yb:KGW)、1wt%のYb3+がドープされたフルオロジルコネートガラス(ZBLANP)、9Be+、セシウム、CdS/ZnS、ペロブスカイト、ピラニン、20 BPEA、ローダミン101(キサンチン族)およびピロメテン567(ボディピー族)から選択される少なくとも1つの材料から構成されている。
【0066】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの中間層は、少なくとも90%のQYを有する蛍光材料から構成されている。
【0067】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの中間層は、硫化カドミウム、ヒ化ガリウム(GaAs)量子井戸、イッテルビウムドープイットリウムリチウムフッ化物(Yb:YLF)結晶、イッテルビウムドープタングステン結晶(Yb:KGW)、1wt%のYb3+がドープされたフルオロジルコネートガラス(ZBLANP)、9Be+、セシウム、CdS/ZnS、ペロブスカイト、ピラニン、BPEA、ローダミン101(キサンチン族)およびピロメテン567(ボディピー族)から選択される少なくとも1つの材料から構成されている。
【0068】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの下層は、連続的または多孔性PTFEまたはPTFEナノまたは微粒子、連続的または多孔性PDMSまたはPDMSナノまたは微粒子、連続的または多孔性SiOまたはSiOナノまたは微粒子、アルミナ、TiO、BaSO、金属、SiO、Siポリマーなどの連続的または多孔性エッチング済みセラミックから選択される少なくとも1つの材料から構成されている。さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの下層は、LW-FIR領域内の強い光学活性を有する多孔性物質からできている。
【0069】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、下層は、8~14μmの大気の窓内の黒体放射の放出のための連続的PDMS膜を有する。1つの特定の実施形態において、下層内の連続的PDMS膜の厚さは、3.5μmおよび5μmの間の範囲内にある。さらに別の特定の実施形態において、下層内の連続的PDMS膜の厚さは、4μmである。
【0070】
本発明の他の実施形態において、前記下層内の前記PDMS膜は、3.5から5μmまでの範囲内の厚さを有する、好ましくは4μmの厚さを有する連続的PDMS膜の質量にほぼ等しい全質量を有する多孔性である。本発明のさらに他の実施形態において、前記多孔性PDMS膜内の前記細孔の直径は、8~14μmの範囲内にあり、ここで、これらの細孔は、前記膜の体積内で均一に分散されている。
【0071】
本発明のさらに他の実施形態において、前記下層内の前記PDMS膜は、波長11μmの電磁放射エミッタを、この波長におけるPDMSの放出が比較的低いことに起因してさらに含む。いくつかの実施形態において、これらのエミッタは、SiC、BaSOおよびZnOから選択される。さらに他の実施形態において、これらのエミッタは、約0.3μmという比較的小さい直径を有する粒子として提供される。さらに他の実施形態において、これらのエミッタは、8~13μmの範囲内の比較的大きい直径を有する粒子として提供される。
【0072】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、太陽に曝露されている、および/または、透明物体の下に位置している、および/または、有孔物体の下方に位置している。
【0073】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、固体、液体および蒸気を冷却する。
【0074】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、塗料内に提供されている。
【0075】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記装置は、織物に組み込まれている。
【0076】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの上層は、前記織物の繊維の外表面へ組み込まれており、前記少なくとも1つの下層は、前記繊維の芯へ組み込まれており、前記少なくとも1つの中間層は、前記繊維の前記外表面および前記繊維の前記芯の間に組み込まれている。
【0077】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、異なる材料の表面との物理的および化学的適合性を有する前記装置。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】(従来技術)大気吸収がある場合およびない場合の5778Kという温度を有する黒体(実線で示される)としてモデル化された、太陽のスペクトルを示す。
【0079】
図2A】(従来技術)光学冷却の4準位モデルを示す。
【0080】
図2B】(従来技術)光学冷却の4準位モデルの一例を示す。
【0081】
図3】(従来技術)光学冷却の半導体モデルを示す。
【0082】
図4】(従来技術)計算された温度変化および光冷却のプロットを示す。
【0083】
図5A】本発明のいくつかの実施形態による、反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第1の装置を示す。
【0084】
図5B】本発明のいくつかの実施形態による、反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第2の装置を示す。
【0085】
図5C】本発明のいくつかの実施形態による、反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第3の装置を示す。
【0086】
図5D】本発明のいくつかの実施形態による、反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置内の様々な層および各層の可能な位置を示す概略図である。
【0087】
図5E】本発明のいくつかの実施形態による、複数の層から構成されている、反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置を示す概略図である。
【0088】
図6】太陽スペクトルを増強するピラニン染料のストークスシフトを示す時間プロットの関数としての強度である。
【0089】
図7】本発明の、物体および/または物体表面の光冷却のための装置の1つの特定の実装を概略的に示す。
【0090】
図8】物体および/または物体表面の光冷却のための装置を用いて屋外で実行された冷却実験の結果を示す。
【0091】
図9】物体および/または物体表面の光冷却のための装置を用いて屋内で実行された冷却実験の結果を示す。
【0092】
図10】本発明の、電磁放射を増強するための絶縁を備える複層装置内での反ストークス蛍光を用いた冷却をモデル化している。
【発明を実施するための形態】
【0093】
本発明は、反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置についてのものである。より具体的には、本発明は、広帯域太陽放射に応答する材料を介した物体表面の電磁放射および光反ストークスおよび放射冷却を増強するための複層装置についてのものである。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、反ストークス蛍光冷却のために太陽放射からの選択されたスペクトル帯域を抽出および増強し、したがって、反ストークス蛍光を放出することによりそれが重ねられる物体における冷却効果を生成する。
【0095】
図5Aは、本発明のいくつかの実施形態による、反ストークス蛍光100を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第1の装置を示す。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第1の装置は、
(a)電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されているアクティブ冷却層である少なくとも1つの下層102、および
(b)増強フィルタ層である少なくとも1つの上層104
を備え得る。少なくとも1つの上層104は、下層102へ透過された電磁放射を増強するように構成された単または複層材料から構成されている。
【0097】
図5Bは、本発明のいくつかの実施形態による、反ストークス蛍光200を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第2の装置を示す。
【0098】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光200を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第2の装置は、
(a)IR放出を伴う/伴わない反射層である少なくとも1つの下層202であって、放射の少なくとも50%を反射するように、かつ、IR放射を放出するように構成された単または複層材料を備え、例えば、放射の少なくとも50%にIR放出を追加して反射する反射器として機能し得る、少なくとも1つの下層202
(b)電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されているアクティブ冷却層である少なくとも1つの中間層204、および
(c)増強フィルタ層である少なくとも1つの上層206であって、中間層204へ透過された電磁放射を増強するように構成された単または複層材料から構成されている、少なくとも1つの上層206
を備え得る。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、フィルタリング能力をさらに含んでよい、すなわち、放射スペクトルをフィルタリングし、ストークスシフトを用いてスペクトル窓を増強し、反ストークス蛍光を示す層へ選択された帯域を透過させる複層構造を提供してよい。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの上層104、206内のストークスシフトにより生成された熱は、下層102/中間層204における反ストークス蛍光により冷却された熱よりも少なくてよい。つまり、下層102/中間層204が、元々は反ストークス蛍光のスペクトル窓外にある増強された電磁放射のみではなく、元々はスペクトル窓内にあるフィルタリングされた電磁放射も用い得るので、下層102/中間層204における冷却効果は、少なくとも1つの上層104、206における加熱効果を超え得る。さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、熱の一部が周囲へ放散するので、少なくとも1つの上層104、206におけるストークスシフトにより生成された熱の全部が下層102/中間層204へ浸透するわけではない。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの上層104、206は、電磁放射をフィルタリングして、下層102/中間層204へ透過された電磁放射の選択されたスペクトル帯域を透過させ得る。少なくとも1つの上層104、206は、冷却には有用でないUVおよび何らかの可視光などの軽粒子を選択的に反射するフィルタリング手段を含み得る。冷却には有用でない軽粒子のフィルタリングにより、この層の下方のより感度が高い層の加熱および劣化が防がれる。したがって、フィルタリング層は、光源(太陽)に曝露される最も外側である。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの層のフィルタリングおよび増強能力は、不必要に吸収された放射から物体および/または物体表面を遮蔽してよく、実際には、下層102/中間層204へ透過されたスペクトル帯域の増強を介して放射の入力対出力の比率を上げることにより、冷却効果をより効率的なものにしてよい。
【0103】
少なくとも1つのフィルタリング層は、放射を、その一部を大気へと反射し戻すことによりフィルタリングし、少なくとも1つの増強層は、放射の一部を特定の帯域へシフトさせることにより、スペクトル窓入射を増強する。少なくとも1つの増強層には、光子を高周波数から低周波数へシフトさせて反ストークス冷却のための所望の帯域内の光子束を増やし、増強された帯域を含む波長の選択された範囲をアクティブ冷却層へ、例えば下層102/中間層204へ透過させるためのストークスシフタが埋め込まれている。
【0104】
例えば、少なくとも1つの増強層は、無用な青色光を緑色光へ変え得る。したがって、少なくとも1つの増強層は、緑色へ変えられた青色光を用いて自然緑色光を増強し得る。
【0105】
したがって、本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つのフィルタリング層は、少なくとも1つの増強層の上または下のいずれかに位置し得る。代替的に、少なくとも1つの層、すなわち、少なくとも1つの上層は、フィルタリングおよび増強能力を有し得る。
【0106】
上述のように、少なくとも1つの上層104/206は、フィルタリング能力を有し得る。代替的に、フィルタリング能力を有する追加の層が、少なくとも1つの上層104/206の上方/下方に実装され得る。
【0107】
したがって、本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの上層104、206の役割は、少なくとも1つの上層104、206が、(a)放射スペクトルを、その一部を大気へ反射し戻すことにより、および/または、吸収を介して、または任意の他の態様でそれを遮断することにより、フィルタリングしてよく、(b)放射の一部を特定の帯域へシフトさせること(短波長のストークスシフト)によりスペクトル窓入射を増強してよく、かつ、(c)増強された帯域を含む波長の選択された範囲をアクティブ冷却層へ、例えば下層102/中間層204へ透過させてよいので、3倍である。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの下層102/中間層204、例えば、少なくとも1つの反ストークス層は、少なくとも1つの上層104、206の下方、すなわち、少なくとも1つの増強層(フィルタリング能力を有する/有しない)の下方に位置し得る。
【0109】
少なくとも1つの下層102/中間層204は、スペクトルの選択された一部(例えば、少なくとも1つの上層104、206を介して透過された帯域)を吸収し、光子のアップコンバージョンを介して熱エネルギーを失う、すなわち、反ストークス効果アクティブ冷却を用いて、吸収された帯域の波長を短波長範囲へシフトさせる。
【0110】
冷却効果は、少なくとも1つの上層(増強層)104、206を介したストークスシフト材料の埋め込みによってスペクトル窓を増強することにより強められて改善されることに留意されたい。いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの下層102/中間層204の反ストークス蛍光による冷却効果は、少なくとも1つの上層(増強層)104、206のストークスシフトにより、加熱効果を超え得る。
【0111】
単一のものではなく、ある周波数範囲(スペクトル帯域内)での反ストークス効果を用いても、スペクトル帯域全体にわたる反ストークス反応の存在に起因して、冷却を実行する可能性は変わらないことに留意されたい。
【0112】
本発明のいくつかの実施形態によれば、アクティブ冷却は、放射のコヒーレント性に依存せず、これにより、非コヒーレント太陽放射をアクティブ冷却入力電源として使用することが可能になる。このスペクトル帯域幅は、~10nmおよび~200nmの間であってよい。
【0113】
上で説明したように、反ストークス蛍光200を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第2の装置は、IR放出を伴う反射層である少なくとも1つの下層202備え得る。
【0114】
本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの下層202は、中間層204を介して透過された帯域を受け入れ、追加のIR放出を伴う帯域の大部分を反射し戻す。そのようなIR放出は、複数の層を通過し、吸収されることなく大気へと出ていき、したがって、冷却を強める。つまり、IR放出は、熱を周囲へ放散してよく、この熱は、装置内で吸収されない。いくつかの実施形態において、IR放出は、アクティブ冷却層のみによっては放散できない熱を装置が放散するのに役立ち得る。
【0115】
少なくとも1つの下層202、反射層は、用いられなかった軽粒子、および/または少なくとも1つの上層104、206を通じて「漏れた」軽粒子を反射するので、全ての層の下方に位置し得る。いくつかの実施形態において、用いられなかった軽粒子、および/または少なくとも1つの上層104、206を通じて「漏れた」軽粒子が少なくとも1つの上層104、206へ反射し戻され、反ストークス蛍光に用いられる別の機会があり得るので、反射層はまた、冷却効果を強め得る。
【0116】
電子機器の場合、少なくとも1つの下層202は、通信周波数を遮断し得る、アルミニウムなどの金属を含むので、用いられなくてよいことに留意されたい。
【0117】
本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの下層202は、冷却の度合いを増やすために、多孔性PDMS、または、LW-FIR領域(LW-FIR放出)において強い光学活性を有する他の多孔性物質からできていてよい。
【0118】
図5Cは、本発明のいくつかの実施形態による、反ストークス蛍光300を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための第3の装置を示す。
【0119】
第3の装置は、反射層である少なくとも1つの下層302、IR冷却を伴う少なくとも1つの第1の中間層304、電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されているアクティブ冷却層である少なくとも1つの第2の中間層306、および、増強フィルタ層である少なくとも1つの上層308を含み得る。少なくとも1つの中間層304、306へ透過された電磁放射を介した冷却を強化すべく、少なくとも1つの上層308は、所望のスペクトル帯域内の放射を増強するように構成された単または複層材料から構成されている。
【0120】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、図5Dおよび図5Eに見られるように、絶縁層など、追加の層を備え得る。
【0121】
図5Dは、本発明のいくつかの実施形態による、反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置内の様々な層および各層の可能な位置を示す概略図である。
【0122】
この図に見られるように、少なくとも1つのIR放射冷却層502は、1つの/複数の位置に位置してよく、様々な材料からできていてよい。
【0123】
この図に見られるように、少なくとも1つのIR放射冷却層502は、様々な位置、すなわち、少なくとも1つの上層104、206、308の上方/下方、少なくとも1つの下層102、少なくとも1つの中間層204、少なくとも1つの第1の中間層304および少なくとも1つの第2の中間層306の上方/下方および/または下層202、302の上方/下方に位置し得る。
【0124】
少なくとも1つのRC(放射冷却)層502は、少なくとも1つの上層104、206、308ありまたはなしで機能し得る。例えば、車両のフロントガラスへ内部コーティングが取り付けられる場合、フロントガラス(ガラス)は、少なくとも1つのIR放射冷却層502であってよい。IR放射冷却層502の材料は、例えば、PDMSであってよい。IR放射冷却層502は、赤外スペクトル8ミクロン~12ミクロンで動作する。したがって、IR放射冷却層502は、冷却効果を強め得る。
【0125】
この図に見られるように、少なくとも1つまたは複数の絶縁層504は、熱が少なくとも1つの下層102、中間層204、第1の中間層304、第2の中間層306へ浸透するのを防ぐために、少なくとも1つの上層104、206、308の下方に位置し得る。
【0126】
少なくとも1つの絶縁層504は、少なくとも1つの下層102、202、302、および冷却される物体の表面の間に位置し得る。少なくとも1つの絶縁層504は、HDPE、ナイロン6およびナイロン6,6、ヨウ化物および臭化物塩、および、ITVOFである材料からできていてよい。反ストークスシフトのための光子が少なくとも1つの絶縁層504を通過し、反ストークス蛍光に用いられるアクティブ冷却層に到達し得るように、少なくとも1つの絶縁層504は、透明であってよい。
【0127】
アクティブ冷却層による冷却効果は、この冷却効果が熱の放出ではなく、光子の放出により実現されるので、適切に実現され得る。
【0128】
図10は、増強された入射電磁放射の反ストークス蛍光を用いた冷却のための本発明の複層装置を概略的にモデル化している。モデル化の便宜のために、広帯域幅源(例えば、太陽)からの電磁放射の選択された帯域幅を吸収するのに適した、価電子および伝導帯の間のバンドギャップを有する半導体電気構成が用いられる。選択された波長λinは、価電子帯Eと、複数の伝導帯のうちの伝導帯における、ベースエネルギーレベルEよりも高い励起エネルギーレベルEと、の間のエネルギー差であるE-Eに対応する。入射電磁エネルギーの余剰分がフォノンqheat=E-Eへ変換され、ストークス蛍光である出射放射λoutがバンドギャップE-Eに対応する。これにより、上層への熱放出、および入射放射のレッドシフトがもたらされる。したがって、入射放射は、下層における冷却効果を生成するのに適した波長を有する光子を提供することにより増強される。冷却層の電子は、出射電磁放射λout、および、価電子帯における追加の熱エネルギー、フォノンを吸収する。消滅させられたフォノンは、冷却効果qcool=E'-E'(E':価電子帯の最も高い基底レベル;E':E'よりも低いエネルギーレベル)を生成すると共に、電子を伝導帯λout,Stokes~1(E'-E')へ励起するための追加のエネルギーを提供し、E'は、伝導帯の最も低いエネルギーレベルである。伝導帯における励起電子は、基底状態よりも下へ減少し、これにより、反ストークス蛍光における冷却層において、入射放射のブルーシフトλout,Anti-Stokes~1(E'-E')が引き起こされる。本発明のいくつかの実施形態において、増強上層において生成される熱エネルギーは、周囲へ放散され、または、冷却層内のフォノンの吸収と相殺になる。代替的に、本発明のいくつかの実施形態において、図10に示されるように、増強および冷却層の間に熱絶縁層が配置されている。この絶縁層は、増強層からの出射電磁放射に対して透明であり、これにより、レッドシフトされた光子が冷却層を通過することが可能になる。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、冷却される物体に対する反ストークス蛍光100、200、300を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置を取り付けるための下層の下方の接着層/磁気層など、追加の層を備え得る。
【0130】
加えて、反ストークス蛍光100、200、300を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、物理的、化学的または電気的な損傷のような損傷を防いで装置100、200、300の経時的な劣化を最小化するための、かつ、少なくとも1つの下層102、中間層204、第1の中間層304、第2の中間層306を環境に伴う影響から熱的かつ電気的に隔離するための追加の層、少なくとも1つの上側機械層を備え得る。
【0131】
本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの上側機械層は、すり傷およびひっかき傷を防いでよく、少なくとも1つの上側機械層は、静電気および粉塵の蓄積を防ぎ、容易な洗浄等を促進する。少なくとも1つの上側機械層は、ポリウレタンからできていてよい。反ストークスシフトのための光子が少なくとも1つの上側機械層を通過してアクティブ冷却層に到達し得るように、少なくとも1つの上側機械層は、透明であってよい。
【0132】
図5Eは、本発明のいくつかの実施形態による、複数の層から構成されている、反ストークス蛍光400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置を示す概略図である。
【0133】
この図に見られるように、冷却のために必要な2つの層に加え、図5Aにおいて説明されるように、すなわち、(a)電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されている少なくとも1つのアクティブ冷却層、および、(b)アクティブ冷却層へ透過された電磁放射を増強するように構成された少なくとも1つの上層。
【0134】
反ストークス蛍光400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、冷却を強めて最大化するための後方反射器層402,放射冷却層404,反ストークス層406、透明熱バリア408、ストークスフィルタ410およびUVフィルタ412など、複数の追加の層を備え得る。
【0135】
本発明のいくつかの実施形態によれば、UVフィルタ412の材料は、例えば、9Be+であってよい。UVフィルタ412は、300nmで動作する。したがって、UVフィルタ412は、冷却効果を強め得る。
【0136】
反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、1つまたは複数のいずれかの活性を各層が有し得る複数の層を備え得ることに留意されたい。例えば、装置は、フィルタリング手段を有する第1の層、および増強手段を有する第2の層を備え得る。代替的に、装置は、フィルタリングおよび増強手段の両方を有する単一の層を備え得る。本発明のいくつかの実施形態によれば、これら複数の層は、接着マトリクスドメインを通じて互いに結合され得る。したがって、接着マトリクスの役割は、2倍である、つまり、(a)これらの層を互いに取り付けること、および(b)これらの層を環境的な損傷(湿気等)から保護することである。
【0137】
本発明のいくつかの実施形態によれば、このマトリクスは、熱または任意の他の手段を介してこれらの層を冷却される物体の表面へ取り付けるために用いられ得る。
【0138】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、広スペクトル太陽放射下での広帯域ギャップ反ストークス冷却のための半導体材料、および/または、広範囲太陽放射を用いて反ストークス蛍光を得るためのREドープ合成材料を備えてよく、および/または、広範囲太陽放射を用いて反ストークス蛍光を得るための有機染料および量子ドットが用いられる。
【0139】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置の複数の層が膜内に提供される。
【0140】
本発明のいくつかの実施形態によれば、様々な材料が調査された。活性反ストークス冷却層として用いられる良好な候補となること、および特定の波長範囲のレーザまたは太陽放射のいずれにより動作することが分かった材料のうちのいくつかが、以下のとおり説明される。
【0141】
図6は、太陽スペクトルを増強するピラニン染料602のストークスシフトを示す時間プロットの関数としての強度である。この図において見られるのは、525nmおよび600nmの間のスペクトル窓の増強である。
【0142】
図7は、本発明の反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置の1つの特定の実装を概略的に示す。この図に見られるように、シェルは、入射放射をフィルタリングして図8に示される所望の波長範囲へ増強する上層104、206、308、412である。
【0143】
反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置の芯は、IR放出で反射する下層202、302、402であり、それらの間にあるのは、フィルタリング波長範囲内の放射を受け入れて吸収し、反ストークス蛍光における放射を放出することにより応答する活物質蛍光層102、204、304、306、406である。
【0144】
1つの特定の例において、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置の構造は、物体、身体および空間を、保護冷却織物でそれらを覆うことまたは熱源からそれらを遮蔽することにより冷却するためのあらゆる用途のための織物に用いられ得る。そのような覆いおよび遮蔽物の特定の用途は、衣類、ドレープ、シェード、カーテン、バッグ、キャンプ用品および食料クーラーカバー等から選択される。
【0145】
図8は、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置を用いて屋外で実行された冷却実験の結果を示す。反射層、放射増強層およびアクティブ冷却層から構成されている冷却膜について、空気温度33℃かつ相対湿度50パーセントであった夏のある1日に測定されている。
【0146】
この図に見られるように、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置により、温度が3℃下がった。
【0147】
図9は、空気温度が22℃であった屋内で反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置を用いて実行された冷却実験の結果を示す。
【0148】
この実験では、液体の形態の試料に100mWの光が投射された。この光は、反ストークス蛍光を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置によりフィルタリングおよび増強された。
【0149】
本発明において説明される反ストークス蛍光冷却実験は、電気入力、可動部品、ガス、液体、および、上で定義された反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置以外のいかなる追加のコンポーネントもなく実行され得ることに留意されたい。
【0150】
ペロブスカイト
ペロブスカイトは、共通式A を有する光電子材料である。Loredana Prodesescu他(Nano Lett., 2015, 15, 3692-3696)は、安定的かつ発光性QD(量子ドット)を得るための安価かつ効果的な材料を用いた無機ペロブスカイトを開発した。これらの固有材料は、異なる量子サイズ効果およびバンドギャップを用いて変調され得る。それらは、400~700nmの可視スペクトル領域全体で動作する。これらの量子ドットは、12~42nmの狭放出線幅により特徴付けられ、100%に近い素晴らしい量子収量を有する。8-ヒドロキシ-1,3,6-ピレントリスルホン酸三ナトリウム塩蛍光分子は、ピラニンならびにその置換体および誘導体の全てを指す。この分子は、周知であり、トレーサおよび蛍光pHインジケータとして用いられている。その蛍光放出は、そのpHに強く依存する。「ピラニン」の励起範囲は、400および460nmの間である。9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセンは、BPEAならびにその置換体および誘導体の全てを指す。BPEAは、周知の蛍光芳香族炭化水素フルオロフォアであり、非常に効率的な量子収量を有する。加えて、BPEAは、固有の光学的および電子的特徴を有するので、太陽電池、発光ダイオード等の有望な材料になっている。可視範囲内の光学特性は、335から500nmまでに現れる。9H-キサンテン、10H-9-オクサントラセンは、キサンチン族、および、その置換体および誘導体の全てを指す。キサンチン染料は、広い種類の化合物を表す。いくつかは、ここで研究されている蛍光特性を示し得る。これらの周知のタイプの化合物は、人体のいたるところにあり、グアニンおよびアデニンというDNA塩基に密接に関連している。これらのタイプの染料は、固有の化学的および物理的特性を示す超分子構造を形成できる。それは、300から700nmに及び得る膨大な紫外可視吸収を有する。
【0151】
ジケトシクロブテンジオールは、スクアライン染料、および、その誘導体および置換体の全てを指す。スクアライン染料は、700~1500nmに及ぶ近赤外における狭吸収帯域を示す有機化合物の一種である。スクアライン染料は、固有かつ強力な吸収帯域に加え、高モル吸収係数、および、良好な光伝導性および光安定性も示す。ビス(3-メチルインドール)-2-ピリジルメタンは、ジピロメタン、および、その置換体および誘導体の全てを指す。それらは、蛍光化合物を合成する場合に中間体として用いられる。通常、この合成は、酸触媒による凝縮である。ボディピーは、ジピロメタン族から合成される蛍光化合物である。ボディピーは、ジピロメタンと同じ核を有するが、2個のフルオレンが追加され、2個の水素が差し引かれている。これらのボディピー染料は、アミノ酸およびヌクレオチドに標識付けするために用いられる。これらは、500から750nmまでの紫外可視吸収範囲を有する。
【0152】
テトラメチルインド(di)-カルボシアニンは、シアニンフルオロフォアならびにその置換体および誘導体の全てを指す。これらの染料は、第四級アンモニウム塩であり、太陽エネルギー変換およびpH検知において用いられる。これらは、タンパク質、抗体およびペプチドの標識付けでも用いられる。これらは、400から900nmまでの紫外可視吸収スペクトル範囲を有する。
【0153】
太陽スペクトルがピラニン層を通過し、分光計を用いて測定される実験の結果が、図6に示されている。
【0154】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置の一部になり得る化合物の特定の非限定的な例が、以下に列挙される。
【0155】
表Iは、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した物体および/または物体表面の冷却のための装置の下層102/中間層204、306、406を形成するための用いられ得る化合物の例を示す。
【0156】
[表I]
【表1】
表Iは、反ストークス蛍光を得るためのこの表において示される材料の各々に必要とされるスペクトル帯域、および、放射の吸収対放出の変換効率を詳述している。
【0157】
90%またはそれよりも高いQY(量子収量)を有するあらゆる蛍光材料が、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した物体および/または物体表面の反ストークス冷却を形成するために用いられ得ることに留意されたい。
【0158】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのアクティブ冷却層は、2つよりも多くの層を含んでよく、これらの層の各々は、表Iにおける異なるアクティブ冷却材料からできていてよい。アクティブ冷却材料のスペクトル帯域が材料毎に異なるので、スペクトル帯域が例えば、610~660nmの範囲内の蛍光を伴い、かつ、600~660nmの蛍光範囲のGaAs量子井戸を有するペロブスカイト、CdSまたはZnSであり得るように、それぞれの層の材料が選択され得る。
【0159】
表IIは、下層102/中間層204、306、406(表1を参照されたい)の下方の層が反ストークス蛍光100、200、300、400を介した物体および/または物体表面の冷却となるように電磁放射を増強するための装置の上層104、206、308、412を形成するために用いられ得る化合物の例を示す。
【0160】
本発明のいくつかの実施形態によれば、フィルタ層は、活性層に入射する帯域の増強を実現するための、表IIにおいて詳述される化合物を含み得る。
【0161】
[表II]
【表2】
80%またはそれよりも高いQYを有するあらゆる蛍光材料が、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置の上層104、206、308、412を形成するために用いられ得ることに留意されたい。
【0162】
アクティブ冷却層の材料および増強フィルタ層の材料は、互換的に選択され得る。300nmで蛍光を発するアクティブ冷却層のスペクトル帯域と比較すると、増強フィルタ層のスペクトル帯域は、400~460nmの範囲内で放射を吸収し、525~600nmの範囲で蛍光を発し得る(図6を参照されたい)。ピラニンの吸収および蛍光波長範囲の各々は、ピラニンを含む層の異なるパラメータ(例えば、ピラニン濃度)に応じて、広く、または狭くてよく、かつ、互いに重複してよい。
【0163】
表IIIは、反ストークス蛍光200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置の下層202、302、402を形成するために用いられ得る化合物の例を示す。
【0164】
[表III]
【表3】
表IIIは、IRにおいて高放射率の90%よりも上を反射する下層用の可能な材料のうちのいくつかを詳述している。
【0165】
全ての層が連続的/非連続的であってよい、例えば、複数の通信周波数の通過を可能にするための開口を含んでよいことに留意されたい。
【0166】
いくつかの実施形態によれば、
コーティング、例えば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置が太陽へ曝露され得ること、
装置100、200、300、400が、透明物体(ガラスまたは水など)、または太陽へ曝露された透明コーティングの下に位置すること
を条件として、
反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置が、様々な物体を冷却するために用いられ得る。
【0167】
装置100、200、300、400は、太陽へ曝露されるメッシュのような有孔物体の下方に位置している。本発明のいくつかの実施形態によれば、本発明の反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、小および大スケールに適し得ると共に、実際には、上に層物質が付着させられ得る、または重ねられ得る表面を有するあらゆる物体、例えば、屋根、壁、自動車、船、テント、衣類等に適し得る。
【0168】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、塗料、生地等に実装され得る。
【0169】
反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置から構成されている塗料は、異なる材料および表面、例えば、コンクリート、生地およびガラス窓等に適用可能であり得る。
【0170】
すなわち、そのような複層塗料、すなわち、異なる材料の表面との物理的および化学的適合性を有する反ストークス蛍光100、200を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置から構成されている塗料を製造するための技術は、いかなる反ストークス蛍光ベースの冷却も別様には享受できないであろう複数の用途について実質的に効率的であることが証明されている。
【0171】
本発明のいくつかの実施形態によれば、そのような複層塗料を作るために選択された材料は、冷却について効率的であるのみでなく、接触する表面との長期の適合性も提供する。そのような複層塗料は、表面に重ねられ、または異なる材料からできている物体に埋め込まれた場合における長期の活性が証明されている。
【0172】
本発明のいくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの上、中間および下層は、織物へ組み込まれてよく、少なくとも1つの上層は、織物の繊維の外表面へ組み込まれており、下層は、繊維の芯へ組み込まれており、中間層は、それらの間にある。
【0173】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、金属(例えば、車両)、セラミック、ガラス(例えば、建物のガラス)、膜および生地(テント/織物/出荷のための絶縁物等)など、固体を冷却し得る。
【0174】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、水/化学物質/または(「冷コンデンサ」として用いられた場合、夜間に固化し、日中に再液化する)ワックスのような液体、ならびに、(空気から水を抽出する目的での)水蒸気のような気体、および(空調でのより効率的な冷却のための)空気を冷却し得る。
【0175】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、様々な用途、例えば、栽培期間中、収穫および貯蔵の間および貯蔵中に温度を低く保つことが必須である農業で用いられ得る。
【0176】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、納屋/鶏舎、テント/キャラバン/小型船/自動車を含む自動車分野/バス/トラック/電車等/建物/バラック/建物/空港/電車の駅/データセンタ/産業貿易等において用いられ得る。
【0177】
本発明のいくつかの実施形態によれば、反ストークス蛍光100、200、300、400を介した電磁放射および物体および/または物体表面の冷却を増強するための装置は、空気から水を抽出するために、果物および野菜を運搬するために、蒸発しない燃料および化学物質の保存のために、保護衣類およびアスリート/消防士/救助員(兵士および警察官など)用の衣類のために、スクリーン/携帯電話/レーダ等を含む外部に立つ電子機器の保護のために、温度が極端ではないことまたは変化が急激過ぎないことを必要とする屋外分析機器の保護のために、タンク/弾薬/地上の飛行機およびヘリコプタ/熱カムフラージュ等を含む軍事分野のために、および、宇宙および高高度における電子機器のために用いられ得る。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-07-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非コヒーレント非単色電磁/太陽放射の吸収および反ストークス蛍光に基づく冷却メカニズムを増強するための装置であって、
少なくとも1つの下層、前記少なくとも1つの下層は、IR放射を放出するように構成された単または複層材料から構成されている;
少なくとも1つの中間層、前記少なくとも1つの中間層は、電磁放射の吸収時に反ストークス蛍光において応答するように構成された単または複層材料から構成されている;および
少なくとも1つの上層、前記少なくとも1つの上層は、前記電磁放射をフィルタリングし、前記電磁放射の、前記少なくとも1つの中間層および前記少なくとも1つの下層へ透過可能な1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域を透過させるように構成された単または複層材料から構成されており、ここで、前記少なくとも1つの中間層は、前記1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域のうちの1つに応答するように構成されており、ここで、前記少なくとも1つの下層は、前記1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域のうちの2番目のものに応答するように構成されており、ここで、前記1つのおよび2番目のスペクトル帯域は互いに、同じである、または異なるを備える、装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの上層はさらに、前記電磁放射の、前記少なくとも1つの中間層へ透過可能な1つまたは複数の選択されたスペクトル帯域を増強するように構成された単または複層材料から構成されている、求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの下層は、前記電磁放射の少なくとも50%を反射するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
IR放射を放出するように構成された少なくとも1つの追加の層をさらに備える、請求項に記載の装置。
【請求項5】
少なくとも1つの絶縁層をさらに備え
前記絶縁層は、電磁放射に対して透明である絶縁層、超低IR吸収ポリマーおよび材料から作られている絶縁層、空気、ITVO(赤外透明可視光不透過)である材料からできている膜である絶縁層、1ミリメートルおよび10センチメートルの間の範囲内にある厚さを有する膜であって、前記膜の、電磁放射に対する透明性は、その厚さに比例して低減する膜である絶縁層、多孔性PTFE、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、PS(ポリスチレン)から選択される電磁放射選択的透明材料からできている膜である絶縁層、から選択される、請求項1に記載の装置
【請求項6】
前記絶縁層は、5μmよりも小さい直径を有する細孔を有する微孔膜である、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記絶縁層は、多孔性PTFE膜である、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの中間層における前記反ストークス蛍光のスペクトル帯域は、300nmから1500nmの範囲に含まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの下層は、8μmから14μmの範囲の赤外スペクトルに含まれるIR放射を放出する、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
冷却される物体へ前記装置を取り付けるための、前記少なくとも1つの下層の下方の少なくとも1つの接着層をさらに備える、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記装置を機械的劣化に対して保護するための少なくとも1つの上側機械層をさらに備える、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つの下層、前記少なくとも1つの中間層および前記少なくとも1つの上層は、接着マトリクスドメインを通じて互いに結合されている、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つの下層および/または前記少なくとも1つの上層および/または前記少なくとも1つの中間層は、1つまたは複数の膜内に提供されている、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記少なくとも1つの下層は、少なくとも90%のQYを有する蛍光材料から構成されている、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つの中間層は、硫化カドミウム、ヒ化ガリウム(GaAs)量子井戸、イッテルビウムドープイットリウムリチウムフッ化物(Yb:YLF)結晶、イッテルビウムドープタングステン結晶(Yb:KGW)、1wt%のYb3+がドープされたフルオロジルコネートガラス(ZBLANP)、9Be+、セシウム、CdS/ZnS、ペロブスカイト、ピラニン、BPEA、ローダミン101(キサンチン族)およびピロメテン567(ボディピー族)から選択される少なくとも1つの材料から構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記少なくとも1つの中間層は、少なくとも90%のQYを有する蛍光材料から構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも1つの下層は、連続的または多孔性PTFEまたはPTFEナノまたは微粒子、連続的PDMSまたは多孔性PDMSまたはPDMSナノまたは微粒子、連続的または多孔性SiO2またはSiO2ナノまたは微粒子、アルミナ、TiO2、BaSO4、金属、SiO2、Siポリマーなどの連続的または多孔性エッチング済みセラミック、HDPE(高密度ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、ゲルマニア、アルミナ、チタニア、硫酸バリウムまたはそれらのナノまたは微粒子から選択される少なくとも1つの材料から構成されており、ここで、前記ナノまたは微粒子は、自立している、または、膜、マトリクスまたはメンブレン内に埋め込まれており、
前記連続的PDMSは、膜として提供されており、ここで、前記連続的PDMS膜の厚さは、3.5μmおよび5μmの間であり、
前記多孔性PDMSは、膜として提供されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも1つの下層は、1~1000μmの範囲内の厚さを有する膜である、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記少なくとも1つの下層は、LW-FIR領域内の強い光学活性を有する多孔性物質からできている、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記装置は、織物に組み込まれている、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【国際調査報告】