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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】多電子移動に基づく水系ヨウ素電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20241128BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M50/417
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533104
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 CN2022098185
(87)【国際公開番号】W WO2023103313
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】202111489735.1
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503190796
【氏名又は名称】中国科学院大▲連▼化学物理研究所
【氏名又は名称原語表記】DALIAN INSTITUTE OF CHEMICAL PHYSICS,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】李先鋒
(72)【発明者】
【氏名】謝聰▲しん▼
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021EE03
5H021EE04
5H029AJ03
5H029AL11
5H029AM00
5H029HJ10
(57)【要約】
本願は、主な構造として、正極、負極、集電体、電解液、及びセパレータなどを含む、多電子移動型水系ヨウ素電池を開示する。正極及び負極のいずれの両側にも、電極材料として多孔質炭素フェルトが、膜材料として高分子膜が使用される。正極及び負極は、両方ともに電解液が多孔質炭素フェルト電極に貯蔵される。正極及び負極の電解液の両方は、I及びCd2+を含有する酸性混合溶液であり、充電中は、正極のIはCd(IOに充電され、6電子移動の電気化学的反応が実現され、負極は、Cd2+であり、Cd金属として堆積され、放電プロセスは逆になる。正極電解液の体積に基づいて計算される電池のエネルギー密度は約1100Wh/Lに達する。多電子移動プロセスの速度論及び可逆性を向上させるには、他の添加剤を溶液に加えて反応全体の電気化学的可逆性を向上させる必要があるので、電池は、80mA/cmの電流密度で77%を超えるエネルギー効率を達成させ、かつ500サイクル安定して動作することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電解液及び負極電解液を含む多電子移動に基づく水系ヨウ素電池であって、
正極電解液及び負極電解液は、いずれもCd2+及びIを含有する強酸性水溶液と、Br及び/又はCl由来添加剤と、を含有する、ことを特徴とする多電子移動に基づく水系ヨウ素電池。
【請求項2】
正極電解液及び負極電解液の両方のIは、それぞれHI、KI、NaI、又はCdIのうちの1種又は2種以上に由来し、Cd2+は、それぞれCdI、又はCdSOのうちの1種又は2種を使用し、電解液中の支持電解液は強酸性環境を確保するためにHSOを選択する、ことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項3】
正極電解液又は負極電解液中のCd2+のモル濃度は、それぞれ0.5~3Mであり、Iのモル濃度は1~6Mであり、Cd2+とIとのモル比は1:2~1:1であり、Hのモル濃度は3~12Mであり、Cd2+とIとのモル比は1:2であることが好ましい、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
充電プロセスでは、正極Iによって生成されるIO は、溶液中のCd2+とともにCd(IO沈殿を形成し、それにより、酸化状態の充電生成物IO の浸透による電池の自己放電の問題を解決する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電池。
【請求項5】
前記Brが由来する添加剤は、NaBr、KBr、又はHBrのうちの1種又は2種以上であり、Clが由来する添加剤は、NaCl、KCl、又はHClのうちの1種又は2種以上であり、導入される添加剤の濃度が1~3Mである、ことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項6】
正極電解液及び負極電解液の具体的な組成としては、それぞれ、
ヨウ素系活物質として濃度1~6M(HI濃度は好ましくは6M)のHI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが使用される場合、支持電解質HSOの濃度は1~3M(HSOの濃度は好ましくは1M)であり、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、ヨウ素系活物質として濃度1~6M(HI濃度は好ましくは6M)のHI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が使用される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは2M)であり、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、活物質として濃度0.5~3M(CdI濃度は好ましくは3M)のCdI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが使用される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは4M)であり、
又は、活物質として濃度0.5~3M(CdI濃度は好ましくは3M)のCdIが選択されるとともに、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が選択される場合、支持電解質HSOの濃度は3~5M(HSOの濃度は好ましくは5M)に維持され、
又は、活物質として濃度1~6M(NaI及び/又はKI濃度は好ましくは6M)のNaI及び/又はKI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが選択される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは4M)であり、Cdの活物質は、濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、活物質として濃度1~6M(NaI及び/又はKI濃度は好ましくは6M)のNaI及び/又はKIが選択されるとともに、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が選択される場合、支持電解質HSOの濃度は3~5M(HSOの濃度は好ましくは5M)に維持され、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOである、ことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項7】
正極、負極、膜材料、及び電解液を含み、正極電解液及び負極電解液の両方は、Cd2+及びIを含有する強酸性水溶液であり、電気化学的反応中の速度論及び可逆性を向上させるには、添加剤を電解液に導入する必要があり、電池の膜材料は、PES、PVC、PSF、又はPE、Nafionのうちの1種又は複数種の高分子材料、好ましくはNafion樹脂である、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の電池。
【請求項8】
単電池又はスタックを含み、単電池の構成は、順次積層された正極端板、正極集電体、正極電解液が含浸された正極炭素フェルト電極、セパレータ、負極電解液が含浸された負極炭素フェルト電極、負極集電体、及び負極端板を含み、スタックは、2つ以上の単電池の回路を直列及び/又は並列に接続したものである、ことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池分野に関し、特に多電子移動型水系ヨウ素電池の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
化石エネルギーの大量使用は環境汚染とエネルギー危機を引き起こしており、再生可能エネルギーの開発や利用が上記問題を解決する鍵となる。電気自動車の普及は、化石エネルギー危機を解決するための重要な手段であるが、現在、電気自動車は主にリチウムイオン電池を使用しているが、リチウムイオン電池はエネルギー密度が高い(約300Wh/L)ものの、有機電解液を使用しているため、引火性や爆発性などの問題を引き起こす可能性がある。水系電池は安全性が高く、出力密度が高いため、応用が期待できる。しかし、現在の水系電池は、一般にエネルギー密度が低いため、動力電池の分野での使用は困難である。出願人は、強酸環境において、正極の電解液中のIが電気化学的反応を通じてIを生成し、その後IがIO に充電され、6電子移動を達成させ、また、Iの高い溶解度により、電池のエネルギー密度が質的に飛躍する可能性がある、多電子移動型水系ヨウ素電池を開発した。しかし、多電子移動プロセスは深刻な電気化学的分極の問題に直面している。充電プロセスでは、IからIO への生成のための電気化学的プロセスには5個の電子の移動が必要であり、反応に参加するには複数のHOが必要である。対称的なIは、水分子の酸素がその正電荷中心を攻撃するのが困難であり、したがって、充電反応の分極が大きくなる。一方、放電プロセスでは、IO は、構造が安定しており、体積が大きいため、電極表面で直接放電することは困難であり、IO 酸化溶液中でIからIが生成されることによって間接的放電が行われるしかない。ただし、I/I(0.54V vs.SHE)の電極電位はIO /I(1.19V vs.SHE)よりもはるかに低いため、放電プロセスにも深刻な分極が生じる。
【発明の概要】
【0003】
正極電解液及び負極電解液を含む多電子移動に基づく水系ヨウ素電池であって、
正極電解液及び負極電解液は、いずれもCd2+及びIを含有する強酸性水溶液と、Br及び/又はCl由来添加剤と、を含有する。
【0004】
正極電解液及び負極電解液の両方のIは、それぞれHI、KI、NaI、又はCdIのうちの1種又は2種以上に由来し、Cd2+は、それぞれCdI、又はCdSOのうちの1種又は2種を使用し、電解液中の支持電解液は強酸性環境を確保するためにHSOを選択する。
【0005】
正極電解液又は負極電解液中のCd2+のモル濃度は、それぞれ0.5~3Mであり、Iのモル濃度は1~6Mであり、Cd2+とIとのモル比は1:2~1:1であり、Hのモル濃度は3~12Mであり、Cd2+とIとのモル比は1:2であることが好ましい。
【0006】
充電プロセスでは、正極Iによって生成されるIO は、溶液中のCd2+とともにCd(IO沈殿を形成し、それにより、酸化状態の充電生成物IO の浸透による電池の自己放電の問題を解決する。
【0007】
電気化学的プロセスにおける分極の問題を低減させるために、正極電解液及び負極電解液のそれぞれに添加剤が添加され、添加剤は、主にBr及び/又はClを導入するためのものである。前記Brが由来する添加剤は、NaBr、KBr、又はHBrのうちの1種又は2種以上であり、Clが由来する添加剤は、NaCl、KCl、又はHClのうちの1種又は2種以上であり、導入される添加剤の濃度が1~3Mである。
【0008】
正極電解液及び負極電解液の具体的な組成としては、それぞれ、
ヨウ素系活物質として濃度1~6M(HI濃度は好ましくは6M)のHI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが使用される場合、支持電解質HSOの濃度は1~3M(HSOの濃度は好ましくは1M)であり、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、ヨウ素系活物質として濃度1~6M(HI濃度は好ましくは6M)のHI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が使用される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは2M)であり、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、活物質として濃度0.5~3M(CdI濃度は好ましくは3M)のCdI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが使用される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは4M)であり、
又は、活物質として濃度0.5~3M(CdI濃度は好ましくは3M)のCdIが選択されるとともに、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が選択される場合、支持電解質HSOの濃度は3~5M(HSOの濃度は好ましくは5M)に維持され、
又は、活物質として濃度1~6M(NaI及び/又はKI濃度は好ましくは6M)のNaI及び/又はKI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが選択される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは4M)であり、Cdの活物質は、濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、活物質として濃度1~6M(NaI及び/又はKI濃度は好ましくは6M)のNaI及び/又はKIが選択されるとともに、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が選択される場合、支持電解質HSOの濃度は3~5M(HSOの濃度は好ましくは5M)に維持され、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOである。
【0009】
電池は、正極、負極、膜材料、及び電解液を含み、正極電解液及び負極電解液の両方は、Cd2+及びIを含有する強酸性水溶液であり、電気化学的反応中の速度論及び可逆性を向上させるには、添加剤を電解液に導入する必要があり、電池の膜材料は、PES、PVC、PSF、又はPE、Nafionのうちの1種又は複数種の高分子材料、好ましくはNafion樹脂である。
【0010】
電池は、単電池又はスタックを含み、単電池の構成は、順次積層された正極端板、正極集電体、正極電解液が含浸された正極炭素フェルト電極、セパレータ、負極電解液が含浸された負極炭素フェルト電極、負極集電体、及び負極端板を含み、スタックは、2つ以上の単電池の回路を直列及び/又は並列に接続したものである。
【0011】
電池充電中は、正極電解液中のIが多孔質電極上でIを生成して、充電が進んで、ヨウ素のハロゲン間化合物、例えばIBr/IClが生成され、引き続き充電が進んで、最後にIO が生成され、Cd2+とともにCd(IOを形成する。負極電解液中のCd2+が還元されて金属Cdとなる。放電プロセスでは、正極の放電プロセスは、Cd(IOが化学酸化-電気化学的反応を通じて間接的に放電し、最後に放電によりIが生成され、一方、負極の放電反応では、金属CdからCd2+が生成される。
【発明の効果】
【0012】
本願による有益な効果は以下の通りである。
本発明では、他のハロゲンイオン(Br又はCl)を添加剤として電解液に導入することにより、電解液の電気化学的活性及び可逆性を大幅に向上させることができる。異なる電気陰性度(IとBr、又はIとCl)を持つハロゲンがハロゲン間化合物(IBr/ICl)を形成し、水分子の正電荷中心への攻撃が促進され、それによって充電の分極が低下する。例えば、Cl又はBrが添加剤として溶液に導入される場合、電気化学的反応プロセスにおいてIがBr又はClとIClやIBrなどのハロゲン間化合物を生成する。対称分子Iと比較して、IClやIBrの正電荷は主にヨウ素原子に集中している。したがって、充電プロセスでは、HOの酸素原子がこれらを攻撃する可能性が高く、IO の生成に有利である。生成されたIO はCd2+とCd(IOを形成することができ、それによってIO の浸透によって引き起こされる自己放電を回避し、充電の電気化学的分極を低減させる。放電プロセスでは、IO はCl/Brなどの他のハロゲンイオンの化学酸化によってIBr、Br又はICl、Clを生成し、その後IBr、Br又はICl、Clを電極表面で還元することで間接的な放電を実現できる。また、電気陰性度の高いハロゲンほど電極電位が高くなり、例えば、Br/Brの電極電位は約1.08Vであり、I/IO の電極電位である1.19Vよりもわずかに低くなり、したがって、IO はBrを臭素単体に容易に酸化することができ、この2つの間の電位差は比較的小さく(IO /I(1.19Vvs.SHE)とI/I(0.54Vvs.SHE)の間の電位差よりもはるかに小さい)、電池の放電分極を効果的に低減できる。このシステムは、強酸性媒体中でのI/IO の可逆6電子移動反応を実現し、電子移動回数を増加させ、高濃度の電解液と組み合わせることで、極めて高いエネルギー密度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】多電子移動型水系ヨウ素電池システムの構造模式図である。
図2】実施例1で組足れられた電池の充放電曲線及びサイクル特性図である。電解質の組成は、0.5MCdI+3MHSO+1MHBrである。電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmの電流密度ではエネルギー密度が220Wh/Lを超え、エネルギー効率が77%を超える。また、100Wh/Lのエネルギー密度を維持しながら500サイクルを超えて安定して作動することができる。電池の構成は、主に、正極端板、正極集電体、正極電極、セパレータ、負極電極、負極集電体、及び負極端板などを含む。電池の試験条件として、充電終止条件は電圧と容量の二重終止、放電終止条件は0.1V電圧、電池の充放電プロセスは定電流充放電である。
図3】実施例2で組み立てられた電池の充放電曲線及びサイクル特性図である。電解質の組成は、1MCdI+3MHSO+2MHBrである。電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmの電流密度ではエネルギー密度が350Wh/Lを超え、エネルギー効率が77%を超える。また、220Wh/Lのエネルギー密度を維持しながら400サイクルを超えて安定して作動することができる。
図4】実施例3で組み立てられた電池の充放電曲線及びサイクル特性図である。電解質の組成は、3MCdI+3MHSO+3MHBrであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、40mA/cmでは1100Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が75%を超える。
図5】実施例4で組み立てられた電池の充放電曲線及びサイクル特性図である。電解質の組成は、3MHI+1.5MCdSO、+3MHSO+3MHBrであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは490Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が76%を超え、320Wh/Lのエネルギー密度を維持しながら120サイクルを超えて安定して作動することができる。
図6】実施例5で組み立てられた電池の充放電曲線である。電解質の組成は、1MCdI+3MHSO+2MNaBrであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは350Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が76%を超える。
図7】実施例6で組み立てられた電池の特性を示す図である。電解質の組成は、1MCdI、+3MHSO+2MNaClであり、添加剤としてBrの代わりにClが使用され、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは340Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が76%を超える。
図8】実施例7で組み立てられた電池の特性を示す図である。電解質の組成は、1MCdI+3MHSO+2MHClであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは345Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が76%を超える。
図9】好適例1で組み立てられた電池の特性を示す図である。電解質の組成は、6MHI+3MHBr+1MHSO+3MCdSOであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは1050Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が74%を超える。
図10】好適例2で組み立てられた電池の特性を示す図である。電解質の組成は、6MHI+3MKCl+2MHSO+3MCdSOであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは1020Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が75%を超える。
図11】好適例3で組み立てられた電池の特性を示す図である。電解質の組成は、6MNaI+3MHBr+4MHSO+3MCdSOであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは1060Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が74%を超える。
図12】好適例4で組み立てられた電池の特性を示す図である。電解質の組成は、6MNaI+3MNaBr+5MHSO+3MCdSOであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは1045Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が76%を超える
図13】好適例5で組み立てられた電池の特性を示す図である。電解質の組成は、6MKI+3MHBr+4MHSO+3MCdSOであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは1074Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が74%を超える。
図14】好適例6で組み立てられた電池の特性を示す図である。電解質の組成は、6MKI+3MHBr+4MHSO+3MCdSOであり、膜材料はNafion115膜である。電池は、80mA/cmでは1022Wh/Lを超えるエネルギー密度が得られ、エネルギー効率が74%を超える。
図15】比較例1で組み立てられた多電子移動ヨウ素電池の特性試験を示す図である。電解質の組成は、0.5MCdI+3MHSOであり、電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。しかし、電池は、分極が非常に大きく、エネルギー効率がわずか57%であり、分極の影響により、電池のエネルギー密度が低く、わずか114Wh/Lである。
図16】比較例2で組み立てられた多電子移動ヨウ素電池の特性試験を示す図である。電解液の組成は、0.5MCdI+3MHSO+0.1MHBrであり、電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。HBrの濃度が低いため、電池の分極が大きく、エネルギー効率はわずか54%であり、電池のエネルギー密度の発現が限られており、わずか104Wh/Lである。
図17】比較例3で組足れられた電池の特性試験を示す図である。電解質の組成は、1MHI+3MHSO+1MHBr、+0.2MCdSOである。電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。溶液中のCd2+:I=1:5のため、生成されたIO がCd2+とCd(IO沈殿を形成できず、電解液の互いの混合が深刻になる。したがって、電池のクーロン効率は低く、電池のエネルギー効率は60%に近く、電池のエネルギー密度はわずか約103Wh/Lである。
図18】比較例4で組み立てられた電池の特性試験を示す図である。電解質の組成は、0.5MCdI+1MHBrである。電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。添加剤としてHBrが添加されるが、溶液中のH濃度が低いため、IO がBrを酸化する化学反応速度が影響を受け、その結果として、電池のエネルギー効率に悪影響を与える。試験の結果、電池は、80mA/cmではエネルギー効率が僅か65%であり、エネルギー密度が150Wh/Lを下回ることを示した。
図19】比較例5で組み立てられた電池の特性試験を示す図である。電解質の組成は、0.5MCdI+0.5MHSO+1MHBrである。電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。比較例4と同様に、添加剤としてHBrが添加されるとともに、支持電解質としてHSOも添加されるが、Hの濃度が依然として低いため、IO がBrを酸化する反応の速度が遅く、したがって、電池の分極は依然として大きく、電池の効率はわずか70%である。
図20】比較例6で組み立てられた電池の特性試験を示す図である。電解質の組成は、0.1MCdI+3MHSO+1MHBrである。電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。しかし、この電解液システムでは、CdIの濃度が低いため、生成されるIO が少なく、放電プロセスでは、Brと化学反応を起こして間接的な放電を達成させるのが困難であり、したがって、電池の分極は依然として大きい。試験の結果、80mA/cmでは電池のエネルギー効率はわずか64%であることを示した。
図21】比較例7で組み立てられた電池の特性試験を示す図である。電解質の組成は、0.5MCdI+3MHSO+1MHBrである。電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はPE多孔質膜である。Nafion115膜と比較して、PE多孔質膜は、正極の充電生成物への遮断能力が低く、そのため、正極電解液の浸透が深刻で、電池のクーロン効率は非常に低い。電池の試験の結果、電池のエネルギー密度はわずか52%である。
図22】比較例8で組み立てられた電池の特性試験を示す図である。電解質の組成は、1MHI+3MHSO+1MTiOSOである。電池の作動電流密度は80mA/cmであり、膜材料はNafion115膜である。Cd2+/Cd負極と比較して、Ti3+/Ti4+は電池負極として使用される場合、電池の特性が非常に低く、これは、主に、IO とTiO2+で生成されるTiO(IOの活性が低く、Brを酸化しにいためである。電池のエネルギー効率はわずか32%である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
多電子移動型水系ヨウ素電池の特性試験では、充電電流密度は80mA/cm、電池の充電終止電圧は2.4V又は比容量のうちの1つ又は2つ、放電終止電圧は0.1Vであり、正極及び負極の両側の炭素フェルトは1mmであり、その面積は48cmであり、正極側の電解液の体積は5mLであり、負極側の電解液の体積は15mLであり、正極及び負極の両側の電解液も多孔質炭素フェルトの内部に吸着される。電池に必要な膜材料はNafion 115膜である。正極と負極の電解液は同じである。
【0015】
図2~5(実施例1~4)は、最適条件下での電池の充放電曲線とサイクル特性のテストである。電解液の濃度が上昇するに伴い、電池のエネルギー密度は1Mで220Wh/Lから1100Wh/Lまで増加する。また、電子4個の一定容量を維持しつつ充放電を行った結果、電池は、最大500サイクルを超えて安定して動作した。
【0016】
添加剤としてHBrを添加した電解液と比較して、溶液中のHBrをNaBr、HCl、又はNaClに置き換えることによっても(実施例5~7は図6~8に対応)、より高い電気化学的活性を得ることができる。これは、主に、充電プロセス中にヨウ素のハロゲン間化合物IBr/IClも形成され、それによって充電の分極が減少するためである。放電プロセスに関しては、IO がBr/Clを酸化して間接的な放電を実現し、電池の放電電圧を高めることができるため、上記の添加剤を使用した電解液系のエネルギー効率も75%以上を超えることができる。
【0017】
電解液の濃度が6M(最も好ましい電解液の組成、好適例1~6は図9~14に対応)まで増加すると、電池のエネルギー密度は約1100Wh/Lになり、エネルギー効率は74%を超える。これは、最も好ましい電解液がエネルギー密度の点で大きな利点があることを示している。
【0018】
添加剤を添加した電解液系と比較して、添加剤の濃度が低い、又は添加剤が添加されていない電解液は、分極が深刻で、電池の特性が低下し(比較例1~2、図15~16)、電池のエネルギー効率は60%未満である。
【0019】
高濃度のCd2+を添加した電解液系と比較して、Cd2+濃度が低いため、溶液中のIO とともに完全に沈殿を生成することができず、電池の自己放電が深刻になり、電池の特性が低下し(比較例3、図17)、電池のエネルギー効率は60%未満である。
【0020】
溶液中のH濃度を下げると、電池の特性も低下し、主な理由は、H濃度の低下により電解液中のIO の酸化性が低下し、溶液中のBrを酸化する速度が遅くなることである(比較例4~5、図18~19)。
【0021】
溶液中のIの濃度を下げる場合も、電池の効率は大幅に低下する。これは、主に、I濃度が低下するにつれて、充放電プロセス中の電解液のIO がBr又はClを化学的に酸化するプロセスの速度が制限されるためである。そのため、電池のエネルギー効率は僅か約64%である(比較例6、図20)。
【0022】
Nafion 115膜をPEポリオレフィン多孔質膜に置き換えた。電解液の互いの混合が深刻であるため、電池のクーロン効率は非常に低かった(比較例7、図21)。
電池のCd2+/Cd負極をTi3+/Ti4+に置き換えると、I酸化によって生成されたIO とTiO2+によりTiO(IOが生成され、TiO(IOによるBr又はClの化学酸化速度が遅いため、電池の効率はより低く、エネルギー密度はより低くなった(比較例8、図22)。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
以上は、本願のいくつかの実施例にすぎず、本願をいかなる形で制限するものではなく、本願は好適な実施例をもって以上で開示されたが、これは本願を制限するために用いられるものではなく、当業者であれば、本願の技術的解決手段を逸脱しない範囲内で、上記で開示された技術内容を利用して若干の変更又は修飾をすることは、等価実施例と同等であり、いずれも技術的解決手段の範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【手続補正書】
【提出日】2024-06-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電解液及び負極電解液を含む多電子移動に基づく水系ヨウ素電池であって、
正極電解液及び負極電解液は、いずれもCd2+及びIを含有する強酸性水溶液と、Br及び/又はCl由来添加剤と、を含有する、ことを特徴とする多電子移動に基づく水系ヨウ素電池。
【請求項2】
正極電解液及び負極電解液の両方のIは、それぞれHI、KI、NaI、又はCdIのうちの1種又は2種以上に由来し、Cd2+は、それぞれCdI、又はCdSOのうちの1種又は2種を使用し、電解液中の支持電解液は強酸性環境を確保するためにHSOを選択する、ことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項3】
正極電解液又は負極電解液中のCd2+のモル濃度は、それぞれ0.5~3Mであり、Iのモル濃度は1~6Mであり、Cd2+とIとのモル比は1:2~1:1であり、Hのモル濃度は3~12Mであり、Cd2+とIとのモル比は1:2であることが好ましい、ことを特徴とする請求項に記載の電池。
【請求項4】
充電プロセスでは、正極Iによって生成されるIO は、溶液中のCd2+とともにCd(IO沈殿を形成し、それにより、酸化状態の充電生成物IO の浸透による電池の自己放電の問題を解決する、ことを特徴とする請求項に記載の電池。
【請求項5】
前記Brが由来する添加剤は、NaBr、KBr、又はHBrのうちの1種又は2種以上であり、Clが由来する添加剤は、NaCl、KCl、又はHClのうちの1種又は2種以上であり、導入される添加剤の濃度が1~3Mである、ことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項6】
正極電解液及び負極電解液の具体的な組成としては、それぞれ、
ヨウ素系活物質として濃度1~6M(HI濃度は好ましくは6M)のHI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが使用される場合、支持電解質HSOの濃度は1~3M(HSOの濃度は好ましくは1M)であり、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、ヨウ素系活物質として濃度1~6M(HI濃度は好ましくは6M)のHI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が使用される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは2M)であり、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、活物質として濃度0.5~3M(CdI濃度は好ましくは3M)のCdI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが使用される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは4M)であり、
又は、活物質として濃度0.5~3M(CdI濃度は好ましくは3M)のCdIが選択されるとともに、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が選択される場合、支持電解質HSOの濃度は3~5M(HSOの濃度は好ましくは5M)に維持され、
又は、活物質として濃度1~6M(NaI及び/又はKI濃度は好ましくは6M)のNaI及び/又はKI、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のHBr及び/又はHClが選択される場合、支持電解質HSOの濃度は2~4M(HSOの濃度は好ましくは4M)であり、Cdの活物質は、濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOであり、
又は、活物質として濃度1~6M(NaI及び/又はKI濃度は好ましくは6M)のNaI及び/又はKIが選択されるとともに、添加剤として濃度1~3M(添加剤の濃度は好ましくは3M)のNaBr、KBr、NaCl、KClのうちの1種又は2種以上が選択される場合、支持電解質HSOの濃度は3~5M(HSOの濃度は好ましくは5M)に維持され、Cdの活物質は濃度1~3M(CdSOの濃度は好ましくは3M)のCd(SOである、ことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項7】
正極、負極、膜材料、及び電解液を含み、正極電解液及び負極電解液の両方は、Cd2+及びIを含有する強酸性水溶液であり、電気化学的反応中の速度論及び可逆性を向上させるには、添加剤を電解液に導入する必要があり、電池の膜材料は、PES、PVC、PSF、又はPE、Nafionのうちの1種又は複数種の高分子材料、好ましくはNafion樹脂である、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の電池。
【請求項8】
単電池又はスタックを含み、単電池の構成は、順次積層された正極端板、正極集電体、正極電解液が含浸された正極炭素フェルト電極、セパレータ、負極電解液が含浸された負極炭素フェルト電極、負極集電体、及び負極端板を含み、スタックは、2つ以上の単電池の回路を直列及び/又は並列に接続したものである、ことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【国際調査報告】