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特表2024-545074癌の処置における使用のための相乗効果のある組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】癌の処置における使用のための相乗効果のある組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20241128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/5395 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/50 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/4725 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K31/519
A61K31/5395
A61K31/5377
A61K31/4375
A61K31/50
A61K31/4725
A61K31/436
A61K31/506
A61K31/404
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533796
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 FI2022050813
(87)【国際公開番号】W WO2023105119
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】20216252
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524212073
【氏名又は名称】サーター セラピューティクス オーワイ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シト,ハリ
(72)【発明者】
【氏名】トイヴァネン,キルシ
(72)【発明者】
【氏名】ベーリング,トム
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086BC41
4C086BC42
4C086BC72
4C086BC73
4C086BC82
4C086CB05
4C086CB09
4C086CB22
4C086GA07
4C086GA11
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、癌の処置における使用のための、Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤、mTOR阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)阻害剤、インテグリンアルファ2タンパク質の阻害剤、NEDD8活性化酵素(NAE)阻害剤およびPAK4阻害剤からなる群より選択される阻害剤化合物との相乗効果のある組み合わせでホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物を含む組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の処置における使用のための、Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤、mTOR阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)阻害剤、インテグリンアルファ2タンパク質の阻害剤、NEDD8活性化酵素(NAE)阻害剤、PAK4阻害剤およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される阻害剤化合物との相乗効果のある組み合わせにおける、ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、ナウクレフィン、BRD9500、DNMDP、(R)-DNMDP、およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項3】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはその薬学的に許容される塩である、請求項2に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項4】
前記Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤が、A-1155463、ABT-263(ナビトクラックス)、A-1331852、AT-101、WEHI-539、ガンボギン酸、A-1210477、(S)-ゴシポール酢酸、アポゴシポール、ABT-737、およびその薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項5】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、前記Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤が、A-1155463、ABT-263(ナビトクラックス)、またはそれらの薬学的に許容される塩である、請求項2に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項6】
前記mTOR阻害剤が、ラパマイシン、シロリムス、エベロリムス、リダホロリムス、テムシロリムス、CC-115、トリン1、トリン2、およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項7】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、前記mTOR阻害剤が、リダホロリムス、テムシロリムス、シロリムス、エベロリムス、またはそれらの薬学的に許容される塩である、請求項6に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項8】
前記ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤が、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、モセチノスタット、ベリノスタット、リコリノスタット、ロミデプシン、ジビノスタット、ダシノスタット、キシノスタット、プラシノスタット、レスミノスタット、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、PCI34051、トリコスタチンA、SB939、CI994、CUDC-907、ツバシン、チダミド、RG2833、M344、MC1568、ツバスタチンA、スクリプタイド、バルプロ酸、フェニル酪酸ナトリウム、タスキニモド、ケベトリン、HPOB、4SC-202、TMP269、CAY10603、BRD73954、BG45、LMK-235、ネクスツラスタットA、CG200745、CHR2845、CHR3996、およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項9】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、前記HDAC阻害剤が、キシノスタット、またはその薬学的に許容される塩である、請求項8に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項10】
前記DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)阻害剤が、NU7441、NU7026、KU-0060648、LTURM34、CC-115、PIK-90、ウォルトマンニン、LY3023414、M3814、SF2523、compound 401、およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項11】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、前記DNA-PK阻害剤が、CC-115、またはその薬学的に許容される塩である、請求項10に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項12】
前記インテグリンアルファ2タンパク質の阻害剤が、E7820またはその薬学的に許容される塩である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項13】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、前記インテグリンアルファ2タンパク質の阻害剤が、E7820またはその薬学的に許容される塩である、請求項12に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項14】
前記NAE阻害剤が、ペボネディスタット(MLN4924)またはその薬学的に許容される塩である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項15】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、前記NAE阻害剤が、ペボネディスタット(MLN4924)またはその薬学的に許容される塩である、請求項14に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項16】
前記PAK4阻害剤が、KPT-9274、PF-03758309、IPA-3、FRAX1Q36、LCH-7749944、グラウカンビノン(glaucambinone)、KY-04031、KY-04045、Inka1、GL-1196、GNE-2861、およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項17】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、前記PAK4阻害剤が、PF-03758309またはその薬学的に許容される塩である、請求項16に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項18】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物の第1の投与量および前記阻害剤化合物の第1の投与量が、対象に同時に投与される、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項19】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物の第1の投与量および前記阻害剤化合物の第1の投与量が、連続的に、好ましくは24時間以内に投与される、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項20】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物および前記阻害剤化合物が、1つの医薬組成物または別個の医薬組成物に調剤され、前記組成物が、少なくとも薬学的に許容される緩衝液、担体、防腐剤またはアジュバントを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項21】
前記医薬組成物が、持続放出用、遅延放出用、もしくは徐放用に調剤されるか、または前記医薬組成物が、持続放出製剤と即時放出製剤とのブレンドである、請求項20に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項22】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、アナグレリド、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩である、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項23】
前記薬学的に許容される塩が、アナグレリド塩酸塩である、請求項22に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項24】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、3-ヒドロキシアナグレリドまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項25】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、DNMDP、BRD9500、またはそれらの薬学的に許容される塩である、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項26】
前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物が、BAY2666605である、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項27】
前記処置される癌が、胞巣状軟部肉腫、線維肉腫、消化管間質腫瘍(GIST)、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、悪性線維性組織球腫(fibro histiocytoma)、悪性末梢神経鞘腫瘍、横紋筋肉腫(rhabdomyosaroma)、粘液線維肉腫、未分化および分類不能の肉腫、ユーイング肉腫、ならびに滑膜肉腫からなる群より選択される軟部組織肉腫である、請求項1から26のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項28】
前記処置される癌が、消化管間質腫瘍(GIST)または脂肪肉腫である、請求項27に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項29】
前記処置される癌が、PDE3Aモジュレーターに応答性である癌として事前に選択された癌であり、前記事前選択が、参照と比較して少なくともPDE3Aおよびシュラーフェン12(SLFN12)ポリペプチドバイオマーカーの発現を検出することにより実行される、請求項1から26のいずれか一項に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【請求項30】
PDE3Aモジュレーターに応答性があるとして選択される前記癌が、骨癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、子宮内膜癌、GIST、頭頸部癌、造血癌、腎臓癌、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、軟部組織肉腫、甲状腺癌、または尿路癌である、請求項29に記載の使用のためのホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野は、癌生物学に関する。本開示はさらに、癌の処置における使用のための多剤併用に関する。
【背景技術】
【0002】
2000万近くの新規癌症例が診断され、2020年には世界各地で1000万人の癌患者が死亡した。世界中の癌発生率は、2040年には2840万人まで増加すると推定されている。しかし、過去数十年の間に癌治療は改善されているが、多くの癌は、現在の治療法に対して反応しないか、耐性を持つようになっている。この課題に対処するための1つのアプローチは、癌細胞の生存、増殖または普及にとって重要な、癌を促進するメカニズムを標的とする個別化医療アプローチを開発することである。例えば、HER2特異性抗体または抗体薬物複合体を用いた過剰発現HER2受容体に対する標的化は、転移性の乳癌での結果を顕著に改善した。同様に、肺癌における突然変異型EGFRチロシンキナーゼ受容体または慢性骨髄性白血病におけるABR-ABL1融合遺伝子を標的化する阻害剤などの低分子阻害剤は、有効な癌治療である。
【0003】
ホスホジエステラーゼ3(PDE3)タンパク質は、癌において有望な新規治療標的である(国際公開第2015055898号,Pulkka O,et al.2019).PDE3は、細胞内で第2のメッセンジャーcAMPおよびcGMPのAMPおよびGMPへの加水分解を触媒する酵素である。健康な組織では、PDE3Aアイソフォームは、一般的に、心筋細胞、血管平滑筋、血小板、卵母細胞および胎盤で発現する。PDE3B発現は、肝細胞、脂肪細胞および血管平滑筋で一般的である。アナグレリド、ミルリノンおよびシロスタゾールなどのPDE3酵素阻害剤は、末梢血管疾患において本態性血小板血症、心不全および間欠性跛行を処置するために使用される。
【0004】
PDE3Aの発現は、消化管間質腫瘍(GIST)や他の癌の種類で頻繁に検出される。アナグレリド、ナウクレフィン、17-ベータ-エストラジオール関連ホルモン、BAY2666605としても既知の(6S)-5-[4’-フルオロ-2-(トリフルオロメチル)ビフェニル-4-イル]-6-メチル-3,6-ジヒドロ-2H-1,3,4-オキサジアジン-2-オン、およびDNMDPとしても既知の6-(4-(ジエチルアミノ)-3-ニトロフェニル)-5-メチル-4,5-ジヒドロピリダジン-3(2H)-オンなどの標的特異的化合物を用いるPDE3発現癌細胞の処置は、インビトロおよびインビボで、腫瘍細胞を死滅させ、その成長および増殖を低減する(国際公開第2015055898号,Pulkka O,et al.2019,Nazir M,et al.2017,de Waal L,et al.2016)。これらの分子のPDE3Aへの結合は、PDE3Aとシュラーフェン12(SLFN12)タンパク質との間の相互作用を誘導し、細胞成長の抑制または細胞死をもたらす。SLFN12のPDE3Aとの相互作用は、通常、細胞内のターンオーバーが速いSLFN12を安定化し、SLFN12のリボソームへの結合が高まり、抗アポトーシスタンパク質であるBCL2およびMCL1のタンパク質翻訳の中断につながる。さらに、TNF-アルファ、DR4、DR5、Bcl-2、Bcl-Xl、サイクリンD1およびp21などの他の細胞周期またはアポトーシス制御遺伝子の発現は、アナグレリド処置後に変化する。さらに、PDE3AとのSLFN12相互作用により、細胞におけるDNMDP応答に必要なSLFN12のRNase活性が高まる。癌細胞におけるPDE3Bの発現は、薬物標的としてのPDE3Aを補完する(Pulkka O,et al.2019,Wu X,et al.2020)。
【0005】
癌細胞におけるPDE3Aの遺伝子およびタンパク質発現量は、PDE3A調節薬の抗癌効果と正に相関する(Wu X,et al.2020)。欧州特許第3411037号明細書は、癌の処置および癌の診断におけるPDE3Aモジュレーターの使用を開示する。しかし、PDE3A発現が低いと、PDE3A特異的抗癌治療の有効性が低下し、そのため、新規戦略は依然として必要である。
【0006】
PDE3A発現癌細胞株は、インターフェロン処置によりアナグレリドに感作される可能性がある。IFN-αおよびIFN-γは、細胞でSLFN12発現を誘導し、そのため、PDE3A発現細胞でPDE3A-SLFN12複合体を通じてアナグレリド誘導細胞死を可能にする。さらに、アナグレリド処置は、細胞で、細胞死シグナル伝達経路遺伝子であるTNF-α、ならびに細胞死受容体であるDR4およびDR5の発現を高める。DR4およびDR5リガンドTNF-αおよびTRAILを用いるBel7404細胞の処置は、アナグレリドとの相乗効果を示す(An R,et al.2019)。したがって、併用療法は、癌治療を改善するための道を提示するかもしれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第3411037号明細書
【特許文献2】国際公開第2015055898号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】An R, Liu J, He J, Wang F, Zhang Q, Yu Q. PDE3A inhibitor anagrelide activates death signaling pathway genes and synergizes with cell death-inducing cytokines to selectively inhibit cancer cell growth. Am J Cancer Res 2019, 9; 1905-1921.
【非特許文献2】de Waal L, Lewis TA, Rees MG, Tsherniak A, Wu X, Choi PS, Gechijian L, Hartigan C, Faloon PW, Hickey MJ, Tolliday N, Carr SA, Clemons PA, Munoz B, Wagner BK, Shamji AF, Koehler AN, Schenone M, Burgin AB, Schreiber SL, Greulich H, Meyerson M. Identification of cancer-cytotoxic modulators of PDE3A by predictive chemogenomics. Nat Chem Biol 2016, 12; 102-8.
【非特許文献3】Garvie CW, Wu X, Papanastasiou M, Lee S, Fuller J, Schnitzler GR, Horner SW, Baker A, Zhang T, Mullahoo JP, Westlake L, Hoyt SH, Toetzl M, Ranaghan MJ, de Waal L, McGaunn J, Kaplan B, Piccioni F, Yang X, Lange M, Tersteegen A, Raymond D, Lewis TA, Carr SA, Cherniack AD, Lemke CT, Meyerson M, Greulich H. Structure of PDE3A-SLFN12 complex reveals requirements for activation of SLFN12 RNase. Nat Commun 2021, 12; 4375.
【非特許文献4】Ianevski A, Giri AK, Aittokallio T. SynergyFinder 2.0: visual analytics of multi-drug combination synergies. Nucleic Acids Res 2020, 48(W1); W488-W493.
【非特許文献5】Lewis TA, de Waal L, Wu X, Youngsaye W, Wengner A, Kopitz C, Lange M, Gradl S, Ellermann M, Lienau P, Schreiber SL, Greulich H, and Meyerson M, Optimization of PDE3A Modulators for SLFN12-Dependent Cancer Cell Killing, ACS Med. Chem. Lett. 2019, 10, 1537-1542.
【非特許文献6】Nazir M, Senkowski W, Nyberg F, Blom K, Edqvist PH, Jarvius M, Andersson C, Gustafsson MG, Nygren P, Larsson R, Fryknas M. Targeting tumor cells based on Phosphodiesterase 3A expression. Exp Cell Res 2017, 36; 308-315.
【非特許文献7】Pulkka OP, Gebreyohannes YK, Wozniak A, Mpindi JP, Tynninen O, Icay K, Cervera A, Keskitalo S, Murumagi A, Kulesskiy E, Laaksonen M, Wennerberg K, Varjosalo M, Laakkonen P, Lehtonen R, Hautaniemi S, Kallioniemi O, Scoffs P, Sihto H, Joensuu H. Anagrelide for Gastrointestinal Stromal Tumor. Clin Cancer Res 2019, 25; 1676-1687.
【非特許文献8】Wu X, Schnitzler GR, Gao GF, Diamond B, Baker AR, Kaplan B, Williamson K, Westlake L, Lorrey S, Lewis TA, Garvie CW, Lange M, Hayat S, Seidel H, Doench J, Cherniack AD, Kopitz C, Meyerson M, Greulich H. Mechanistic insights into cancer cell killing through interaction of phosphodiesterase 3A and schlafen family member 12. J Biol Chem 2020, 295; 3431-3446.
【発明の概要】
【0009】
本発明は、独立請求項の特徴により定義される。いくらかの特定の実施形態は、従属請求項において定義される。
【0010】
以下で説明するように、本発明は、癌の処置における使用のための、ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーターと特異的タンパク質阻害剤との相乗効果のある組み合わせを開示する。
【0011】
したがって、本発明は、癌の処置における使用のための、Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤、mTOR阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)阻害剤、インテグリンアルファ2タンパク質の阻害剤、NEDD8活性化酵素(NAE)阻害剤、PAK4阻害剤およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される阻害剤化合物との相乗効果のある組み合わせにおける、ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、細胞株の特性評価を示す。A)細胞株でのPDE3A、SLFN12およびアクチンの発現を、ウェスタンブロットにより分析した。B)細胞株でのPDE3Aの免疫組織化学染色により、GIST882、SA4およびGOT3におけるPDE3Aの発現を確認した。C)アナグレリドについてのIC50値を、3種のアナグレリド感受性細胞株において定義した。
図2】PDE3特異的酵素阻害剤であるシロスタゾールは、Bcl-ファミリー阻害剤A1155463との相乗効果を示さない。
図3】A)GIST882、B)SA4およびC)GOT3細胞株における、アナグレリド単独およびBcl-ファミリー阻害剤A1155463との組み合わせの有効性。DMSO処置細胞のアッセイは、処置の陰性対照群を表す。
図4】A)GIST882、B)SA4、およびC)GOT3細胞株における、アナグレリド単独およびBcl-ファミリー阻害剤ナビトクラックスとの組み合わせの有効性。DMSO処置細胞のアッセイは、処置の陰性対照群を表す。
図5】A)GIST882、B)SA4、およびC)GOT3細胞株における、3-ヒドロキシアナグレリド単独およびBcl-ファミリー阻害剤A1155463との組み合わせの有効性。DMSO処置細胞のアッセイは、処置の陰性対照群を表す。
図6】A)GIST882、B)SA4、およびC)GOT3細胞株における、3-ヒドロキシアナグレリド単独およびBcl-ファミリー阻害剤ナビトクラックスとの組み合わせの有効性。DMSO処置細胞のアッセイは、処置の陰性対照群を表す。
図7】A)GIST882、B)SA4、およびC)GOT3細胞株における、DMNDP単独およびBcl-ファミリー阻害剤A1155463との組み合わせの有効性。DMSO処置細胞のアッセイは、処置の陰性対照群を表す。
図8】A)GIST882、B)SA4、およびC)GOT3細胞株における、DNMDP単独およびBcl-ファミリー阻害剤ナビトクラックスとの組み合わせの有効性。DMSO処置細胞のアッセイは、処置の陰性対照群を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使用されるように、用語「対象」、「個体」、「宿主」、および「患者」は、本明細書では交換可能に使用され、類人猿、ヒト、鳥類、ネコ科、イヌ科、ウマ科、げっ歯類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ類、哺乳類の農耕動物、哺乳類の変種動物、および哺乳類のペットを含むがこれらに限定されない、本明細書で教示されるような1つまたは複数の代表的な化合物で処置される動物を指す。種々の実施形態のための適切な対象は、本明細書に記載の1つまたは複数の代表的な化合物の投与によって好転することができる、処置することができる、または予防することができる疾患があると疑われる、そのような疾患があると診断されている、またはそのような疾患を発症するリスクがある、ヒトを含む任意の動物であり得る。
【0014】
本明細書で使用されるように、用語「処置」または「処置すること」は、完全な治癒だけでなく、障害または病理学的状態に関連する症状の予防、改善、または軽減も含む目的のための、対象、例えば、哺乳動物またはヒト対象への本発明の化合物の投与を指す。治療効果は、患者の症状、血液中のバイオマーカー、病変もしくは固形腫瘍のサイズ、転移腫瘍の数および/または患者の生存の長さをモニターすることにより評価することができる。
【0015】
本明細書で使用されるように、本明細書に記載の治療薬、組成物または化合物を対象に「投与すること」または「投与」という用語は、その目的とする機能を実行するために、対象に組成物または化合物を導入する、または送達する任意の経路を含む。投与することまたは投与は、経口、鼻腔内、非経口(静脈内、筋肉内、腹腔内、もしくは皮下)、直腸、または局所を含む、任意の適切な経路により実行することができる。投与することまたは投与には、自己投与および他人による投与が含まれる。
【0016】
「薬剤」とは、任意の低分子化合物、抗体、核酸、もしくはポリペプチド、またはそれらの断片を意味する。
【0017】
「ホスホジエステラーゼ3A」および「PDE3A」とは、国際公開第2015055898号で定義されたタンパク質またはその断片を意味する。
【0018】
「シュラーフェン12」および「SLFN12」とは、欧州特許第3411037号明細書で定義されたタンパク質またはその断片を意味する。
【0019】
本明細書で使用されるように、用語「モジュレーター」は、ポリペプチドに結合し、ポリペプチドの生物学的機能または活性を変更する任意の薬剤を指す。モジュレーターには、ポリペプチドの生物学的機能または活性を低下させるか、除去する薬剤が含まれるがこれらに限定されない。モジュレーターにはさらに、ポリペプチドの他の薬剤への結合を増加または低下する薬剤が含まれるがこれらに限定されない。例えばモジュレーターは、ポリペプチドのポリペプチドへの結合を促進することができる。
【0020】
本発明は、ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーターが、癌細胞に対してある特定のタンパク質阻害剤との相乗効果を有しているという知見に基づく。本開示は、これらの活性物質の新規の組み合わせを提供する。
【0021】
したがって、本発明は、癌の処置における使用のための、阻害剤化合物との相乗効果のある組み合わせでホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物を含む組成物を提供する。阻害剤は、Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)阻害剤、インテグリンアルファ2タンパク質の阻害剤、NEDD8活性化酵素(NAE)阻害剤およびp21活性化キナーゼ4(PAK4)阻害剤からなる群より選択される。
【0022】
いくらかの実施形態において、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド(CAS番号:68475-42-3)、3-ヒドロキシアナグレリド(CAS番号:733043-41-9)、ナウクレフィン(CAS番号:57103-51-2)、BRD9500(Cas番号:1630760-75-6)、DNMDP(CAS番号:328104-79-6)、(R)-DNMDP、BAY2666605(CAS番号:2275774-60-0)、およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される。他のホスホジエステラーゼ3Aモジュレーターは、欧州特許第3411037号明細書から、特に欧州特許第3411037号明細書の化合物1~6として既知である。好ましくは、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはその薬学的に許容される塩である。理論により束縛されることを望むことなく、本発明の好ましいホスホジエステラーゼ3Aモジュレーターは、癌細胞でPDE3A-シュラーフェン12相互作用の形成を誘導する(Garvie GW,et al.2021;Lewis TA,et al.,2019)。
【0023】
いくらかの実施形態において、相乗効果のある組み合わせは、Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤を含む。Bcl-2ファミリータンパク質は、ミトコンドリア外膜透過性を決定することにより、アポトーシス促進するか、阻害し、アポトーシスを制御するタンパク質を含む。好ましくは、前記Bcl-2ファミリータンパク質は、A-1155463(CAS番号:1235034-55-5)、ABT-263(ナビトクラックス、CAS番号:923564-51-6)、A-1331852(CAS番号:1430844-80-6)、AT-101(CAS番号:90141-22-3)、WEHI-539(CAS番号:1431866-33-9)、ガンボギン酸(CAS番号:2752-65-0)、A-1210477(CAS番号:1668553-26-1)、(S)-ゴシポール酢酸(CAS番号:1189561-66-7)、アポゴシポール(CAS番号:475-56-9)およびABT-737(CAS 852808-04-9)からなる群より選択される。したがって、一部の相乗効果のある組み合わせでは、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、もしくはBRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤は、A-1155463、ABT-263(ナビトクラックス)、またはそれらの薬学的に許容される塩である。
【0024】
他の実施形態において、相乗効果のある組み合わせは、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害剤を含む。mTORは、ラパマイシンの力学的標的またはFK506結合タンパク質12-ラパマイシン関連タンパク質1とも呼ばれる。mTORは、細胞成長、細胞増殖、細胞運動、細胞生存、タンパク質合成、オートファジー、および転写を調節するセリン/トレオニンタンパク質キナーゼとして機能する。好ましくは、mTOR阻害剤は、ラパマイシン(CAS番号:53123-88-9)、シロリムス、エベロリムス(CAS番号:159351-69-6)、リダホロリムス(CAS番号:572924-54-0)、テムシロリムス(CAS番号:162635-04-3)、CC-115(CAS番号:1228013-15-7)、トリン1(CAS番号:1222998-36-8)およびトリン2(CAS番号:1223001-51-1)からなる群より選択される。したがって、一部の相乗効果のある組み合わせでは、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、mTOR阻害剤は、リダホロリムス、テムシロリムス、シロリムス、エベロリムス、またはそれらの薬学的に許容される塩である。
【0025】
他の実施形態において、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は、相乗効果のある組み合わせに含まれる。HDACは、ヒストンのε-N-アセチルリジンアミノ酸からアセチル基を除去する酵素の類である。好ましくは、HDAC阻害剤は、ボリノスタット(CAS番号:149647-78-9)、エンチノスタット(CAS番号:209783-80-2)、パノビノスタット(CAS番号:404950-80-7)、モセチノスタット(CAS番号:726169-73-9)、ベリノスタット(CAS番号:414864-00-9)、リコリノスタット(CAS番号:1316214-52-4)、ロミデプシン(CAS番号:128517-07-7)、ジビノスタット(CAS番号:497833-27-9)、ダシノスタット(CAS番号:404951-53-7)、キシノスタット(CAS番号:875320-29-9)、プラシノスタット(CAS番号:929016-96-6)、レスミノスタット(CAS番号:864814-88-0)、ドロキシノスタット(CAS番号:99873-43-5)、アベキシノスタット(CAS番号:783355-60-2)、RGFP966(CAS番号:1396841-57-8)、AR-42(CAS番号:935881-37-1)、PCI34051(CAS番号:950762-95-5)、トリコスタチンA(CAS番号:58880-19-6)、SB939(CAS番号:929016-96-6)、CI994(CAS番号:112522-64-2)、CUDC-907(CAS番号:1339928-25-4)、ツバシン(CAS番号:537049-40-4)、チダミド(CAS番号:743420-02-2)、RG2833(CAS番号:1215493-56-3)、M344(CAS番号:251456-60-7)、MC1568(CAS番号:852475-26-4)、ツバスタチンA(CAS番号:1252003-15-8)、スクリプタイド(CAS番号:287383-59-9)、バルプロ酸(CAS番号:99-66-1)、フェニル酪酸ナトリウム(CAS番号:1716-12-7)、タスキニモド(254964-60-8)、ケベトリン(CAS番号:500863-50-3)、HPOB(CAS番号:1429651-50-2)、4SC-202(CAS番号:1186222-89-8)、TMP269(CAS番号:1314890-29-3)、CAY10603(CAS番号:1045792-66-2)、BRD73954(CAS番号:1440209-96-0)、BG45(CAS番号:926259-99-6)、LMK-235(CAS番号:1418033-25-6)、ネクスツラスタットA(CAS番号:1403783-31-2)、CG200745(CAS番号:936221-33-9)、CHR2845(CAS番号:914382-60-8)およびCHR3996(CAS番号:1256448-47-1)からなる群より選択される。したがって、一部の相乗効果のある組み合わせでは、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、HDAC阻害剤は、キシノスタットまたはその薬学的に許容される塩である。
【0026】
いくらかの実施形態において、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)阻害剤は、相乗効果のある組み合わせに含まれる。好ましくは、DNA-PK阻害剤は、NU7441(CAS番号:503468-95-9)、NU7026(CAS番号:154447-35-5)、KU-0060648(CAS番号:881375-00-4)、LTURM34(CAS番号:1879887-96-3)、CC-115(CAS番号:1228013-15-7)、PIK-90(CAS番号:677338-12-4)、ウォルトマンニン(CAS番号:19545-26-7)、LY3023414(CAS番号:1386874-06-1)、M3814(CAS番号:1637542-33-6)、SF2523(CAS番号:1174428-47-7)およびcompound 401(CAS番号:168425-64-7)からなる群より選択される。したがって、一部の相乗効果のある組み合わせでは、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、DNA-PK阻害剤は、CC-115またはその薬学的に許容される塩である。
【0027】
一部の相乗効果のある組み合わせは、インテグリンアルファ2タンパク質阻害剤を含む。好ましくは、インテグリンアルファ2タンパク質阻害剤は、E7820(CAS番号:289483-69-8)、BTT-3033(CAS番号:1259028-99-3)、BTT-3014、BTT-3016およびバテリズマブ(CAS番号1238217-55-4)からなる群より選択されるがこれらに限定されない。したがって、いくらかの実施形態において、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、インテグリンアルファ2タンパク質の阻害剤は、E7820またはその薬学的に許容される塩である。
【0028】
他の相乗効果のある組み合わせは、NEDD8活性化酵素(NAE)阻害剤を含む。好ましくは、前記NAE阻害剤は、ペボネディスタット(MLN4924、CAS番号:905579-51-3)である。したがって、いくらかの実施形態において、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、NAE阻害剤は、ペボネディスタット(MLN4924)またはその薬学的に許容される塩である。
【0029】
いくらかの実施形態において、相乗効果のある組み合わせは、PAK4阻害剤を含む。好ましくは、PAK4阻害剤は、KPT-9274(CAS番号:1643913-93-2)、PF-03758309(CAS番号:898044-15-0)、IPA-3(CAS番号:42521-82-4)、FRAX1Q36、LCH-7749944(CAS番号:796888-12-5)、グラウカンビノン(glaucambinone)、KY-04031(CAS番号:468056-29-3)、KY-04045(CAS番号:1223284-75-0)、Inka1(ジェンバンクID:389119)、GL-1196(CAS番号:591242-70-5)およびGNE-2861(CAS番号:1394121-05-1)からなる群より選択される。したがって、一部の相乗効果のある組み合わせでは、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリド、3-ヒドロキシアナグレリド、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩であり、PAK4阻害剤は、PF-03758309またはその薬学的に許容される塩である。
【0030】
本発明はさらに、前記相乗効果のある組み合わせを対象に投与することに関する。本発明のいくらかの実施形態によれば、ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物の第1の投与量および阻害剤化合物の第1の投与量は、対象に同時に投与される。他の実施形態において、ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物の第1の投与量および阻害剤化合物の第1の投与量は、連続的に、好ましくは24時間以内に投与される。いくらかの実施形態において、ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物および阻害剤化合物は、1つの医薬組成物に調剤される。他の実施形態において、ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーターおよび阻害剤化合物は、別個の医薬組成物に調剤される。
【0031】
前記組成物は、薬学的に許容される緩衝液、担体、防腐剤またはアジュバントを含有する場合がある。成句「薬学的に許容される」は、本明細書において、生理学的に許容され、患者に投与された場合、典型的にアレルギー反応または同様の反応を生じない組成物を指す。そのような組成物は、保管用に、適切な任意の剤形で、望ましい純度を有する活性剤を任意選択の生理学的に許容可能な担体、防腐剤、賦形剤、または安定剤と混合することにより調製することができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences,22nd edition,Allen,Loyd V.,Jr,Ed.,(2012))。前記医薬組成物はまた、持続放出用、遅延放出用、または徐放用に調剤される場合もあり、前記医薬組成物は、持続放出製剤と即時放出製剤とのブレンドである。
【0032】
いくらかの実施形態において、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、アナグレリドまたはその薬学的に許容される塩である。好ましくは、前記薬学的に許容される塩は、アナグレリド塩酸塩である。他の実施形態において、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、3-ヒドロキシアナグレリドまたはその薬学的に許容される塩である。さらなる実施形態において、前記ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物は、DNMDP、BRD9500、BAY2666605、またはそれらの薬学的に許容される塩である。
【0033】
本発明はさらに、対象において癌を処置するためのアプローチに関する。このアプローチは、このアプローチの標的であり得る悪性および良性の腫瘍の両方、原発性腫瘍および転移腫瘍の両方を含む、あらゆる癌または腫瘍を処置するために使用することができる。いくらかの実施形態において、処置される癌は、胞巣状軟部肉腫、線維肉腫、粘液線維肉腫、悪性の線維性組織球腫(fibro histiocytoma)、消化管間質腫瘍(GIST)、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、悪性の末梢神経鞘腫瘍、横紋筋肉腫、未分化および分類不能の肉腫、ユーイング肉腫、ならびに滑膜肉腫などの軟部肉腫からなる群より選択される。いくらかの実施形態において、処置される癌は、神経鞘腫、膠芽腫、髄芽腫、および髄膜腫からなる群より選択される。好ましくは、処置される癌は、消化管間質腫瘍(GIST)または脂肪肉腫である。
【0034】
他の実施形態において、処置される癌は、脳、口腔、鼻咽頭(nasopharanygeal)領域を含む頭頸部の癌、甲状腺癌、食道癌もしくは胃癌を含む消化器癌、膵臓癌、肝細胞癌もしくは結腸直腸癌、ならびに肺や気管支の癌、および卵巣、子宮内膜、頸部、乳房、前立腺、腎臓、皮膚の癌、中皮腫、黒色腫、メルケル細胞癌、胆嚢または多発性骨髄腫からなる群より選択される。
【0035】
他の実施形態において、処置される癌は、PDE3Aモジュレーターに応答性であるように事前に選択することができる。事前選択は、参照と比較して少なくともPDE3Aおよびシュラーフェン12(SLFN12)ポリペプチドバイオマーカーの発現を検出することにより実行され得る。好ましくは、前記PDE3Aモジュレーターに応答性があるとして選択される癌は、骨癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、子宮内膜癌、GIST、頭頸部癌、造血癌、腎臓癌、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、軟部組織肉腫、甲状腺癌、または尿路癌である。
【0036】
さらなる実施形態において、本開示はまた、対象に、有効量の(a)ホスホジエステラーゼ3Aモジュレーター化合物またはその薬学的に許容される塩ならびに(b)Bcl-2ファミリータンパク質の阻害剤、mTOR阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)阻害剤、インテグリンアルファ2タンパク質の阻害剤、NEDD8活性化酵素(NAE)阻害剤、PAK4阻害剤およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される1つまたは複数の阻害剤を投与することを含む、そのような処置を必要とする対象における癌を処置する方法に向けられる。好ましい実施形態において、(a)の第1の投与量および(b)の第1の投与量は、対象に同時に投与される。別の好ましい実施形態において、(a)の第1の投与量および(b)の第1の投与量は、連続的に24時間、2~5日間または1週間以内に投与される。
【0037】
本発明の背景を説明するため、特にその実施に関する追加的な詳細を提供するために、本明細書において使用される刊行物および他の資料は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、以下の実験の項でさらに説明されるが、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0038】
開示される本発明の実施形態が、本明細書で開示される特定の構造、工程段階、または材料に限定されるものでなく、関連分野における通常の当業者によって認識されると思われるその等価物まで拡張されることは理解されるべきである。本明細書において使用される専門用語が、特定の実施形態のみを説明する目的で使用され、限定することを意図するものではないこともまた理解されるべきである。
【0039】
本明細書の全体にわたって「一実施形態(one embodiment)」または「一実施形態(an embodiment)」という言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体にわたる各所において、成句「一実施形態において(in one embodiment)」または「一実施形態において(in an embodiment)」の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。
【0040】
本明細書で使用されるように、多数の項目、構造上の要素、組成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストに表す場合がある。しかし、これらのリストは、リストの各要素が、別個の特有の要素として個々に識別されるかのように解釈されるべきである。したがって、そのようなリストの個々の要素は、反対の指示がない場合、共通の群でのそれらの表現のみに基づいて、同じリストの任意の他の要素の事実上の等価物として解釈されるべきではない。さらに、本発明の種々の実施形態および例は、その種々の成分のための代替物とともに本明細書で参照される場合がある。そのような実施形態、例、および代替物は、互いの事実上の等価物と解釈されるべきではなく、本発明の別個の自律的な表現とみなされるべきであると理解される。
【0041】
前述の例は、1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理を説明するが、当業者であれば、本発明の機能を発揮することなく、また本発明の原理および概念から逸脱することなく、実施の形態、使用および詳細における多数の変更がなされ得ることは明らかであろう。したがって、以下で説明される特許請求の範囲による場合を除いて、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0042】
動詞「含む(to comprise)」および「含む(to include)」は、本文書において、引用されていない特徴の存在を排除するものでも必要とするものでもない、開かれた制限として使用される。従属請求項に引用された特徴は、特に明示的に述べられない限り、相互に自由に組み合わせることができる。さらに、本文書の全体にわたって、「a」または「an」、すなわち単数形の使用が、複数形を排除するものではないことが理解されるべきである。
【0043】
実験の項
材料および方法
別段の指示がない限り、本明細書で実験的に測定または決定された特性は、室温で測定または決定されている。特に指示がない限り、室温は25℃である。別段の指示がない限り、本明細書で実験的に測定または決定された特性は、大気圧で測定または決定されている。
【0044】
細胞株。PDE3A陽性細胞株(GIST882、SA4、およびGOT3)ならびにPDE3A陰性細胞株(93TT449、94T778、LPS141、MLS17656-92、MLS402-91、およびSW872)を、5%、10%または20%のウシ胎児血清(FBS、gibco)、100U/mLのペニシリン、100U/mLのストレプトマイシンおよび0.03mg/mLのL-グルタミン(Pen Strep Glut、gibco、10378-016)を加えたRPMI培地1640(gibco)中、加湿、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。
【0045】
高スループットの薬物感受性および耐性の試験。528種の化合物に対する癌細胞株の感受性および耐性を、9種の細胞株(GIST882、SA4、GOT3、93TT449、94T778、LPS141、MLS17656-92、MLS402-91、およびSW872)で調査した。さらに、PDE3A低発現細胞株SA4およびGOT3ではアナグレリド塩酸塩(100nM)処置とともに、また全PDE3A陽性細胞株GIST882、SA4およびGOT3ではBAY2666605(40nM)とともに同じ化合物を調査した。化合物を100%ジメチルスルホキシドまたは水に溶解し、以前詳細に説明されたように(Pulkka OP,et al 2019)、10,000倍の濃度範囲をカバーする10倍希釈で透明平底384ウェルマイクロプレートに播種した。CellTiter-Glo細胞生存率アッセイ(プロメガ社)およびPHERAstar FSプレートリーダー(BMG Labtech)を使用して、72時間後に細胞生存率を測定した。データを、陰性(0.01%ジメチルスルホキシドのみ)対照および陽性(100μmol/Lの塩化ベンゼトニウム)対照に対して標準化した。
【0046】
マルカート-レーベンバーグアルゴリズムおよびBreeze分析プラットフォームを使用して、4パラメータロジスティック用量反応曲線を推定した。薬物感受性スコア(DSS)を使用して、試験化合物に対する薬物応答を測定した。調査した細胞株で共通する薬物相乗効果パートナーを、以下のように同定した:単剤のDSS値を、単一細胞株におけるアナグレリド-薬物組み合わせのDSS値から差し引いた。その後、獲得したDSS値(DSS組み合わせ-DSSアナグレリド-薬物組み合わせ)の平均薬物感受性スコア(aDSS)を算出した。aDSS値>3.0は、細胞株において観察された薬物相乗効果を示すとみなされた。PDE3AモジュレーターとしてBAY2666605を使用して、この分析を繰り返した。
【0047】
これらの分析で相乗効果を示した12種の薬物を、GIST882、SA4、およびGOT3細胞株で、より詳細に調査した。アナグレリドおよび12種の選択された薬物の薬物組み合わせ試験を、上述した通りであるが、選択された薬物を用いて各組み合わせの3つの複製試料を用いて7種の異なる濃度をカバーする薬物濃度マトリックスを使用して、2回の反復アッセイで実行した。RパッケージのシナジーFinder2.0を使用して、相乗効果を評価した(Ianevski A,et al.2020)。このツールは、4つの主要な参照モデル:HSA、Loewe、BlissおよびZIPモデルを用いる相乗効果スコアリングを実装している。薬物組み合わせ効果の程度は、用量マトリックスおよびZIP相乗効果スコア上で相乗効果ランドスケープマップとして容易に可視化することができる。
【0048】
ウェスタンブロット。ウェスタンブロッティングを使用して、それぞれ、ポリクローナルウサギ抗PDE3A抗体(希釈1:1000;HPA014492、シグマアルドリッチ)およびポリクローナルウサギ抗SLFN12(希釈1:500、ab234418、アブカム)を使用することにより、細胞株におけるPDE3Aおよびシュラーフェン12の発現を検出した。細胞を冷PBSで2回洗浄してから、HALT(商標)プロテアーゼ阻害剤カクテル(サーモ、78429)およびHALT(商標)ホスファターゼ阻害剤カクテル(サーモ、78420)を含有するM-PER(商標)哺乳動物タンパク質抽出試薬(サーモサイエンティフィック(商標)、78501)中、氷上で溶解した。ゲル電気泳動を使用してタンパク質溶解物6~10μgを分離し、PVDF膜上にブロットし、その後、抗体で染色した。メーカーの説明書にしたがって、SuperSignal West Pico PLUS化学発光基質(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)により、免疫染色を検出した。
【0049】
細胞生存率アッセイ。薬物での培地交換の24時間前に、96ウェルの白色/透明組織培養用処理済みプレート(FALCON、353377)に細胞を播種した。メーカーの説明書にしたがって、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイ(G7572、プロメガ)での処理インキュベーションの72時間後に、様々な処置における細胞の生存率を評価した。試薬および細胞を、室温で安定させた。試薬を100μl/ウェルで添加し、室温で2分間振盪し、室温で10分間インキュベートしてから、Hidex Senceマイクロプレートリーダー(Hidex oy)を使用することにより発光を測定した。結果からバックグラウンドシグナルを排除するために、増殖培地を使用した。
【0050】
免疫組織化学。70%コンフルエンスまで細胞株を増殖させ、剥がして、計数し(約800万個の細胞/チューブ)、PBS(コーニング、REF21-040-CV)で2回洗浄してから、細胞を2つのエッペンドルフチューブに分割し、遠心分離して(10000rpm/約9600g)、密な細胞ペレットを形成した。上清を除去し、細胞ペレットをヒト血漿60μl(+4℃)に再懸濁した。その後、100NIH-U/mlのトロンビン(メルク、REF1.12374.0001)60μlを+4℃で細胞懸濁液に添加して、細胞を凝固させた。次に、5%ホルマリン1mlを添加して、エッペンドルフチューブから塊を剥がし、その後、5%ホルマリン約6mlを含有する、より大きいチューブに塊を移した。5%ホルマリン中、室温で2時間、細胞塊を固定した。固定の後、細胞塊を上昇アルコール/キシレン系列に供して、試料を乾燥した。その後、細胞塊をパラフィンに一晩浸漬し、FFPE様の組織学的試料を形成した。
【0051】
免疫組織化学染色の前に、組織スライドを脱パラフィンした。抗PDE3A抗体(希釈1:100;HPA014492、シグマアルドリッチ)をDraco抗体希釈液(AD500、WellMed)で希釈し、スライド上で1時間、室温でインキュベートした。1ステップ検出システム、ウサギHRP(R500HRP、WellMed)およびImmPact DAB基質キット(SK-4105、ベクター)を使用して、一次抗体結合を検出した。マイヤーのヘマトキシリンを用いて、スライドを対比染色した。細胞株試料の免疫染色を、染色の強度に基づいて、陰性、低、中または強と評価した。
【0052】
結果
PDE3A、SLFN12およびアクチンの発現を8種の細胞株で研究し、これらのタンパク質の存在を確認した(図1A)。これらの8種の細胞株における528種の化合物の高スループット薬物スクリーニングにより、アナグレリド処置に高感受性であった2種の細胞株、SA4(IC50=73.5nM;DSS=15.4)およびGOT3(IC50=84.3nM;DSS=9.2)を同定した(図1C)。免疫ブロッティングの結果により、両細胞株が、PDE3AおよびSLFN12を発現することが検証された(図1B)。しかし、SA4およびGOT3細胞株におけるPDE3A発現は、GIST882細胞株よりも顕著に低かった。これらの3種の細胞株を以下の実験で使用した。
【0053】
次に、アナグレリドまたはBAY2666605を用いて全化合物について高スループットスクリーニングを繰り返すことにより、どの薬物がアナグレリド感受性細胞株においてアナグレリドおよびBAY2666605との相乗効果を有するかを研究した。アナグレリドとの相乗効果は、GOT3細胞株およびSA4細胞株において44種の化合物で認められた(表1)。BAY2666605との相乗効果は、GIST882、GOT3およびSA4細胞株において38種の化合物で認められた(表2)。以下の相乗効果のある化合物を明らかにした:Bcl-ファミリー阻害剤のナビトクラックス、A-1155463、A-1331852、WEHI-539、ベネトクラクス;PAK4阻害剤のPF-03758309;PI3K/AKT/mTOR経路阻害剤のセラベリシブ、GDC-0084、CC-223、CC-115(DNA依存性タンパク質キナーゼ阻害剤でもある)、AZD8055、CUDC-907(HDACファミリー阻害剤でもある)、テムシロリムス、エベロリムス、シロリムス、リダホロリムス、ウプロセルチブ、ダクトリシブ、コパンリシブ、オミパリシブ、LY3023414(DNA依存性タンパク質キナーゼ阻害剤でもある)、NVP-BGT226;HDACファミリー阻害剤のキシノスタット、プラシノスタット、AR-42、パノビノスタット、ベリノスタット、ジビノスタット、ロミデプシン、ボリノスタット、レスミノスタット、アベキシノスタット、ロシリノスタット、ツバスタチンA;NAE阻害剤のペボネディスタット;インテグリンアルファ2阻害剤のE7820;MELK阻害剤のOTS163;P53-MDM2経路阻害剤のSAR405853、AMG-232、イダサヌトリン;PIMキナーゼ阻害剤のPIM-447、ADZ1208;XPO1/CRM1阻害剤のエルタネクソル、セリネクソル;アミノペプチダーゼ阻害剤のトセドスタット;オーロラB阻害剤のAZD1152;IGF1R阻害剤のBMS-754807;FAK阻害剤のVS-4718;ATM阻害剤のAZD0156;CDK2阻害剤のミルシクリブ;CHEK1阻害剤のMK-8776;CENP-E阻害剤のGSK923295;カゼインキナーゼ阻害剤のPF-670426;プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブ;DOTL1阻害剤のピノメトスタット;ならびにミドスタウリン、テモゾロミド、ベキサロテン、ルボキシスタウリン(ruboxitaurin)およびONX-0914の化合物。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
分析においてアナグレリドおよび/またはBAY2666605との相乗効果を示した12種の化合物を、アナグレリドおよび目的の薬剤の7つの異なる濃度をカバーする薬物濃度マトリックスを使用することにより、さらにGOT3、SA4およびGIST882細胞株で調査した。相乗効果結果は、3種の細胞株すべてにおいて調査された全薬物について検証された(表3)。
【0057】
【表3】
【0058】
Bcl-ファミリー阻害剤のナビトクラックス、A-1155463およびA-1331852は、薬物濃度マトリックスおよびシナジーFinder2.0により分析されたとき、アナグレリドと投与された場合にのみ細胞株において顕著な有効性を示した。細胞生存率アッセイにより、細胞が、ナビトクラックスもしくはA-1155463およびアナグレリド(図3および図4)または3-ヒドロキシ-アナグレリド(図5および図6)で処置された場合の結果を検証した。しかし、PDE3AモジュレーターであるアナグレリドとA-1155463との間で観察された相乗効果は、PDE3A阻害剤であるシロスタゾールでは得られず、PDE3A-SLFN12相互作用の形成が、細胞上でのPDE3A関連抗癌作用を誘導するのに必要であることが示唆された(図2)。
【0059】
最後に、観察された相乗効果がアナグレリド特異的であるかどうか、または他のPDE3Aモジュレーターが同じ効果を有しているかどうかを調査した。A1155463およびナビトクラックスは両方とも、細胞株においてDNMDPとの相乗効果を示し、明らかになった相乗効果が、アナグレリドに対して特異的ではないことが示唆された(図7図8)。これらの結果に基づいて、PDE3A-シュラーフェン12相互作用の形成を誘導する他のPDE3A特異的薬剤は、癌併用療法で使用することができる。
【0060】
結論
我々は、PDE3A特異的薬剤と、Bcl-ファミリー、PI3K/AKT/mTOR、DNA依存性タンパク質キナーゼ、インテグリンアルファ2、HDAC-ファミリー、NEDD8活性化酵素およびPAK4阻害剤との間の相乗効果を明らかにした。PDE3A特異的薬剤と上述の阻害剤との併用療法は、PDE3A陽性癌を処置するための新規治療を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】