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特表2024-545101抗CLEVER-1がん治療を誘導するための炎症マーカーの使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】抗CLEVER-1がん治療を誘導するための炎症マーカーの使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534071
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-07-26
(86)【国際出願番号】 FI2022050809
(87)【国際公開番号】W WO2023105118
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】20216250
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504459559
【氏名又は名称】ファロン ファーマシューティカルズ オサケ ユキチュア
【氏名又は名称原語表記】Faron Pharmaceuticals Oy
【住所又は居所原語表記】Joukahaisenkatu 6, 20520 Turku Finland
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤルカネン、ユホ
(72)【発明者】
【氏名】フッツネン、テッポ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA13
2G045AA26
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
インターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、及びC反応性タンパク質から選択される炎症マーカーのうちの1つ又はいくつかを使用する、抗CLEVER-1療法を開始する前に、抗CLEVER-1療法に対する患者を選択するための方法。炎症マーカーの測定されたレベルが、実質的に炎症マーカーの基準値以内であるか、又は炎症マーカーの平均基準値よりも低い場合、それは、患者を選択し、抗CLEVER-1療法を開始するための指標である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CLEVER-1療法を開始する前に、抗CLEVER-1療法に対する患者を選択するための方法であって、前記CLEVER-1療法が、患者におけるCLEVER-1に結合することが可能な薬剤の投与を含み、前記方法が、
-抗CLEVER-1療法を開始する前の第1の時点で前記患者から得られた血液試料を提供することと、
-得られた前記試料から、インターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、及びC反応性タンパク質(CRP)からなる群から選択される1つ以上の炎症マーカーのレベルを測定することと、
-前記炎症マーカーの測定された前記レベルを、前記炎症マーカーの基準値と比較することと、
を含むことを特徴とし、実質的に前記炎症マーカーの前記基準値以内であるか、又は前記炎症マーカーの平均基準値よりも低い前記炎症マーカーの測定された前記レベルが、前記患者を選択し、前記抗CLEVER-1療法を開始するための指標である、方法。
【請求項2】
前記患者が、がん患者であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗CLEVER-1剤が、抗CLEVER-1抗体、好ましくは、WHO Drug Information,Vol.33,No.4,ページ814-815(2019)に開示されている抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗CLEVER-1剤が、アクセッション番号DSM ACC3361の下で受託された抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブ(FP-1305)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、少なくともインターフェロンガンマ(IFNg)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)のレベルを測定することを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、C反応性タンパク質(CRP)のレベルの測定と組み合わせて、インターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)、及び/又はインターロイキン8(IL-8)のレベルを測定することを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記炎症マーカーのレベルが、血清及び/又は血漿から測定されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗CLEVER-1療法が、進行性固形腫瘍を治療するために使用されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CLEVER-1に基づくがん治療を誘導するための1つ以上の炎症マーカーの使用、及び抗CLEVER-1療法の前に抗CLEVER-1療法に対する患者を選択するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗PD-1、抗PD-L1、及び抗CTLA-4免疫チェックポイント阻害剤は、臨床患者ケアに広く使用されている。現在、CTLA-4及びPD-1/PD-L1軸を標的とする免疫チェックポイント阻害剤は、臨床使用のために承認されており、黒色腫及びある特定の他の腫瘍を有する患者の約10~20%では有効性が高いが、いくつかの他の重要ながん型(例えば、前立腺がん、乳がん、及び結腸直腸がん)は、それらに対して依然として難治性であり、レスポンダーを非レスポンダーから区別し、治療を誘導し得る明確なバイオマーカーは利用可能ではない[1]。チェックポイント阻害に良好に応答する患者は、通常、高密度のインターフェロンガンマ(IFNg)産生CD8+T細胞、腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1の発現、及び高い変異負荷を特徴とする既存の抗腫瘍免疫応答を有する。免疫チェックポイント遮断に応答しない腫瘍は、腫瘍へのT細胞の浸潤(TIL)若しくは腫瘍微小環境(TME)におけるT細胞の活性化が、免疫抑制間質区画によって防止される間質T細胞表現型、又は低いT細胞浸潤、低い変異負荷、及び腫瘍細胞の高増殖を特徴とする非炎症性表現型のいずれかを示す。腫瘍は、腫瘍浸潤細胞傷害性CD8 T細胞の存在に基づいて免疫学的に分類することができる(炎症性対非炎症性)[2]。炎症性腫瘍は、高い変異負荷、高いIFNg及びPD-L1発現を示し、免疫チェックポイント遮断療法に良好に応答する。T細胞によって産生されるIFNgは、免疫学的チェックポイント阻害剤が抗がん剤として機能するために必要とみなされる。
【0003】
しかしながら、マクロファージなどの先天性免疫細胞は、高い変異負荷にもかかわらず、T細胞活性化を抑制し、腫瘍の進行に寄与し得る。腫瘍に関連する免疫抑制に寄与し、腫瘍成長を補助するシグナルを提供するマクロファージは、これらの細胞が、様々な腫瘍に豊富に存在し、非常に塑性であり、T細胞活性化及び腫瘍拒絶を補助する炎症促進性マクロファージへと変換することができるため、標的療法のための非常に適格な候補であり得る[3、4]。現在まで、臨床開発中のマクロファージ標的方略は、マクロファージコロニー刺激因子受容体の阻害を利用して、腫瘍中のマクロファージ集団を枯渇させている[5]。しかしながら、これらのアプローチに対する耐性が、すでに報告されている[6]。したがって、これらの細胞を利用して、免疫系によって腫瘍細胞の死滅を誘発するための新規の方法を見出す必要性が存在する。
【0004】
近年、異なる刺激に対するマクロファージ反応の調節におけるスカベンジャー受容体の寄与に、ますます注目が払われている。CLEVER-1(STABILIN-1としても知られている)は、抗炎症性マクロファージのサブセットに捕捉能力を付与する多機能分子である[7、8]。これらの細胞では、これは、受容体媒介性エンドサイトーシス及びリサイクリング、細胞内選別、並びに変化した自己構成要素及び正常な自己構成要素のトランスサイトーシスに関与する。より最近では、いくつかの腫瘍モデルにおけるStab1-/-(Clever-1ノックアウト)マウスにおいて、及び抗CLEVER-1療法で治療されたマウスにおいて、成長及び転移が減弱されることが見出されている[9、10]。加えて、抗PD-1剤とともに抗CLEVER-1剤を用いた併用治療は、トリプルネガティブ乳がん及び大腸がんのマウスモデルにおいて抗腫瘍応答を生じさせることが示されている[10]。ベクスマリリマブと名付けられた最初の抗CLEVER-1抗体は、臨床開発を開始し、そのファースト イン ヒューマン試験で有望な抗腫瘍応答を示している[11]。
【発明の概要】
【0005】
現在、驚くべきことに、古典的チェックポイント阻害剤、抗PD-1、抗PD-L1、及び抗CTLA-4とは対照的に、抗CLEVER-1療法は、低いインターフェロンガンマ(IFNg)レベル並びに低いレベルの他の炎症性サイトカインを特徴とする非炎症性腫瘍型において有効であることが見出されている。最近では、進行性黒色腫、胃がん、及び胆管がんを有する患者の約30%は、第I/II相研究において抗CLEVER-1 IgG4抗体ベクスマリリマブ(FP-1305)に良好に応答することが見出されている(clinicaltrials.gov NCT03733990:A Study to Evaluate Safety,Tolerability and Preliminary Efficacy of FP-1305 in Cancer Patients(MATINS))。現在、MATINS試験において抗CLEVER-1抗体療法に応答するこれらの患者は、ベースラインでの高い値と比較して低いIFNg値によって効率的に識別することができ、これは、これまで免疫腫瘍学の分野で見られたものとは完全に対照的であることが更に観察されている。同様に、血清試料中の腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)レベルは、ベースラインで低いか、又はMATINS試験で臨床的利益を体験した患者における基準値と実質的に同じであることが観察されている。加えて、受信者動作特性(ROC)曲線分析に基づいて、低いレベルのIFNg及びTNF-αを有する患者の83%が、抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブで治療されたときに臨床的利益を体験することが予期される。更に、インターロイキン6(IL-6)及び/又はインターロイキン8(IL-8)などの古典的炎症促進性サイトカインがROC分析に加えられる場合、抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブに対する応答を予測する可能性は、91%まで増加する。また、標準的な炎症検査値C反応性タンパク質(CRP)は、抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブに応答する非炎症性がん型を反映する優れた能力を有することが観察されている。
【0006】
したがって、本発明は、がん患者のための新規の炎症マーカーに基づく治療を提供し、したがって、応答する患者から非レスポンダーを定義する際の上記の問題を低減するか、又は更には排除する。本発明は、単純な採血を介して固形腫瘍の分子ランドスケープを精査する可能性を与える。
【0007】
本発明は、抗CLEVER-1療法を受けるべきである患者を選択するために、特に、CLEVER-1に結合することが可能な薬剤、好ましくは抗CLEVER-1抗体、より好ましくは抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブの投与を含む、抗CLEVER-1療法を受けることから利益を得る患者を選択するために、抗CLEVER-1療法を開始する前に1つ以上の炎症マーカーを測定することに基づく。本発明は、抗CLEVER-1治療、好ましくは抗CLEVER-1抗体治療、より好ましくは抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブ治療を受けるべきである者を選択するためのツールを提供する。本発明は、抗CLEVER-1に基づくがん治療を誘導するためのインターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、及びC反応性タンパク質(CRP)からなる群から選択される1つ以上の炎症マーカーの使用を提供する。
【0008】
抗CLEVER-1療法を開始する前に、抗CLEVER-1療法に対する患者を選択するための本発明による典型的な方法であって、その抗CLEVER-1療法が、患者におけるCLEVER-1に結合することが可能な薬剤、好ましくは抗CLEVER-1抗体、より好ましくは抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブの投与を含み、本方法が、以下のステップ、すなわち、
-抗CLEVER-1療法を開始する前の第1の時点で患者から得られた血液試料を提供するステップと、
-得られた試料から、インターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、及びC反応性タンパク質(CRP)からなる群から選択される1つ以上の炎症マーカーのレベルを測定するステップと、
-炎症マーカーの測定されたレベルを、当該炎症マーカーの基準値と比較するステップと、
を含み、実質的に炎症マーカーの基準値以内であるか、または炎症マーカーの平均基準値よりも低い当該炎症マーカーの測定されたレベルが、患者を選択し、抗CLEVER-1療法を開始するための指標である、方法。
【0009】
本発明による方法は、IFNg、TNF-α、IL-6、IL-8、及びCRPからなる群から選択される1つだけの炎症マーカーの測定を含むことができるが、これはまた、2つ以上のこれらの炎症マーカーの組み合わせであってもよい。抗CLEVER-1療法を開始することを決定するために、これらの炎症マーカーは、ベースラインであるか、若しくはベースラインを下回るか、又は当該炎症マーカーの基準値と実質的に同じであるか、若しくは基準値よりも低い必要がある。炎症マーカーのレベルがベースラインと比較して異常に高い値である場合、抗CLEVER-1療法、例えば、抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブ療法などの抗CLEVER-1抗体療法に対する非応答性につながり得る。
【0010】
更に、本発明は、がん患者を治療するための方法を提供し、その方法は、少なくとも、以下のステップ、すなわち、
-抗CLEVER-1療法を開始する前の第1の時点でがん患者から血液試料を得るステップと、
-得られた試料から、インターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、及びC反応性タンパク質(CRP)からなる群から選択される1つ以上の炎症マーカーのレベルを測定するステップと、
-炎症マーカーの測定されたレベルを、当該炎症マーカーの基準値と比較するステップと、
-当該炎症マーカーの測定されたレベルが、実質的に炎症マーカーの基準値以内であるか、又は炎症マーカーの平均基準値よりも低いときに、患者におけるCLEVER-1に結合することが可能な薬剤、好ましくは抗CLEVER-1抗体、より好ましくは抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブの投与を開始するステップと、を含む。
【0011】
本発明に基づいて、CLEVER-1に結合することが可能な薬剤、好ましくは抗CLEVER-1抗体、より好ましくはヒト化モノクローナル免疫グロブリンG4κ抗体ベクスマリリマブは、がん患者におけるがんの治療、特に、進行性固形腫瘍の治療に効率的に使用することができる。本発明の一態様では、抗CLEVER-1抗体、好ましくはヒト化モノクローナル免疫グロブリンG4κ抗体ベクスマリリマブは、がんの治療に、好ましくは、抗CLEVER-1療法の開始前に炎症マーカーの基準値以内であるか、又は炎症マーカーの平均基準値よりも低い基準値を示す患者における進行性固形腫瘍の治療に使用され、その炎症マーカーは、インターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、及び/又はC反応性タンパク質(CRP)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ファースト イン ヒューマンベクスマリリマブ試験(MATINS)の拡張コホートから抽出された炎症マーカーデータは、カプランマイヤー生存分析においてベクスマリリマブからの臨床的利益を示した対象(図1では生存確率0.8)が、明らかにより低いベースライン血清IFNg(図2)及びTNF-αレベル(図3)を有することを示す。図2及び3では、右側の図は、カプランマイヤー生存分析においてベクスマリリマブから利益を得る対象を提示する(疾患制御率(DCR)=はい)。
図2】ファースト イン ヒューマンベクスマリリマブ試験(MATINS)の拡張コホートから抽出された炎症マーカーデータは、カプランマイヤー生存分析においてベクスマリリマブからの臨床的利益を示した対象(図1では生存確率0.8)が、明らかにより低いベースライン血清IFNg(図2)及びTNF-αレベル(図3)を有することを示す。図2及び3では、右側の図は、カプランマイヤー生存分析においてベクスマリリマブから利益を得る対象を提示する(疾患制御率(DCR)=はい)。
図3】ファースト イン ヒューマンベクスマリリマブ試験(MATINS)の拡張コホートから抽出された炎症マーカーデータは、カプランマイヤー生存分析(図1では生存確率0.8)においてベクスマリリマブからの臨床的利益を示した対象(図1では生存確率0.8)が、明らかにより低いベースライン血清IFNg(図2)及びTNF-αレベル(図3)を有することを示す。図2及び3では、右側の図は、カプランマイヤー生存分析においてベクスマリリマブから利益を得る対象を提示する(疾患制御率(DCR)=はい)。
図4】ファースト イン ヒューマンベクスマリリマブ試験(MATINS)において、ベクスマリリマブから生存利益を得た患者における治療前IFNg及びTNF-αレベルを、生存利益を得なかった患者と比較する、ROC分析。低いIFNg及びTNF-α値は、臨床的利益と関連する。これらのバイオマーカーの予測値は優れていた(AUC 0.83、p<0.0001)。
図5】ファースト イン ヒューマンベクスマリリマブ試験(MATINS)において、ベクスマリリマブから生存利益を得た患者における治療前IFNg、TNFa、IL-6、及びIL-8レベルを、生存利益を得なかった患者と比較する、ROC分析。低い値は、臨床的利益と関連する。これらのバイオマーカーの予測値は優れていた(AUC 0.91、p<0.0001)。
図6】ファースト イン ヒューマンベクスマリリマブ試験(MATINS)において、ベクスマリリマブから生存利益を得た患者における治療前CRPレベルを、生存利益を得なかった患者と比較する、ROC分析。低いCRP値は、臨床的利益と関連する。CRP単独の予測値は比較的良好である(AUC 0.78、p=0.036)。
図7】抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブの軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0013】
CLEVER-1は、国際公開第03/057130号のCommon Lymphatic Endothelial and Vascular Endothelial Receptor-1に開示されているタンパク質である。これは、全身血管系及びびリンパ系の両方において内皮へのリンパ球の接着を媒介する結合タンパク質である。CLEVER-1及びそのリンパ球基質の相互作用を遮断することによって、リンパ球の組織への流入及び組織からの流出部位で、リンパ球の再循環及びリンパ球の遊走、並びに炎症などの関連する状態を同時に制御することが可能である。
【0014】
「CLEVER-1に結合することが可能な薬剤」という用語は、CLEVER-1及び悪性腫瘍細胞の相互作用を遮断するためにCLEVER-1に結合することが可能な抗体及びその断片、ペプチド又は同等物を含む薬剤を指す。本薬剤はまた、CLEVER-1受容体に結合し、かつタンパク質活性を阻害するために十分な親和性を有する、小分子阻害剤又は巨大分子などの任意の他の阻害剤であり得る。「抗体又はその断片」という用語は、最も広い意味で、個体においてCLEVER-1分子に結合することが可能な抗体又はその断片を包含するために使用される。特に、これは、所望の生物学的活性を示す限り、キメラ抗体、ヒト化抗体又は霊長類化抗体、並びに抗体断片及び一本鎖抗体(例えば、Fab、Fv)を含むと理解されるものとする。特に有用な薬剤は、抗CLEVER-1抗体及びその断片である。したがって、本発明の一実施形態によれば、CLEVER-1に結合することが可能な薬剤、すなわち、抗CLEVER-1剤は、抗体又はその断片、ペプチド(複数可)、巨大分子、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。本発明によれば、「抗CLEVER-1治療」又は「抗CLEVER-1療法」は、CLEVER-1に結合することが可能な少なくとも1つの薬剤、好ましくは抗CLEVER-1抗体の投与を含む治療を指す。本発明の好ましい実施形態では、抗CLEVER-1療法は、抗CLEVER-1抗体療法を指す。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、抗CLEVER-1抗体は、治療用ヒト化抗CLEVER-1抗体である。本発明の一実施形態によれば、抗CLEVER-1抗体は、以前に国際公開第2017/182705号に提示されているヒト化モノクローナルCLEVER-1抗体である。
【0016】
本発明の一実施形態では、抗CLEVER-1抗体は、ヒト化モノクローナル免疫グロブリンG4κ抗体ベクスマリリマブ(WHO Drug Information,Vol.33,No.4,ページ814-815(2019)に開示されている国際一般名(INN))、又はベクスマリリマブバリアント若しくはベクスマリリマブバイオシミラーにおける抗体である。本明細書で使用される場合、「ベクスマリリマブ」は、WHO Drug Information,Vol.33,No.4,ページ814-815(2019)に記載されている構造を有するヒト化モノクローナルIgG4抗体を意味する。ヒト化IgG4モノクローナル抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブは、重鎖のアミノ酸配列配列番号1及び軽鎖のアミノ酸配列配列番号2を含む。抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブの重鎖(配列番号1)及び軽鎖(配列番号2)のアミノ酸配列もまた、図7に示される。
【0017】
ベクスマリリマブバイオシミラーとは、ベクスマリリマブバイオシミラーとして上市するために、いずれかの国において規制当局によって承認される生物学的製品を意味する。一実施形態では、ベクスマリリマブバイオシミラーは、薬物物質としてベクスマリリマブバリアントを含む。一実施形態では、ベクスマリリマブバイオシミラーは、ベクスマリリマブと実質的に同じアミノ酸配列の重鎖及び軽鎖を有する。本明細書で使用される場合、「ベクスマリリマブバリアント」とは、軽鎖CDRの外側に位置する位置に1つ以上の保存的アミノ酸置換、及び/又は重鎖CDRの外側に位置する1つ以上の保存的アミノ酸置換を有する、例えば、バリアント位置が、フレームワーク領域又は定常領域中に位置する以外は、ベクスマリリマブと同一の重鎖及び軽鎖の配列を含む抗体を意味する。換言すれば、ベクスマリリマブ及びベクスマリリマブバリアントは、同一のCDR配列を含むが、その全長軽鎖及び重鎖の配列中の他の位置に保存的アミノ酸置換を有することに起因して、互いに異なる。ベクスマリリマブバリアントは、CLEVER-1に対する結合親和性に関して、ベクスマリリマブと実質的に同じである。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、治療用抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブ(FP-1305)を産生する細胞株は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の条項に基づいて、DSMZ-ジャーマン コレクション オブ マイクロオーガニズム アンド セルカルチャー ゲーエムベーハー(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH)、ドイツ連邦共和国、デー-38124 ブラウンシュヴァイク、インホッフェンシュトラーセ 7ベー(Inhoffenstrasse 7B,D-38124 Braunschweig, Germany)に2020年5月27日に寄託されており、受託番号DSM ACC3361を有する。受託された実施形態が、本発明の一態様の単一の例証として意図されており、機能的に同等である任意の培養物が、本発明の範囲内であるため、本発明は、受託された培養物によって範囲を限定されるものではない。本明細書における材料の受託は、本明細書に含まれる文書による説明が、そのベストモードを含む本発明の任意の態様の実施を可能にするのに不十分であることを認めることを構成するものではなく、また、それが表す特定の例示に特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、患者へのCLEVER-1に結合することが可能な薬剤の投与の前、好ましくは、抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブなどの抗CLEVER-1抗体の投与の前の第1の時点で得られた試料は、CLEVER-1に結合することが可能な薬剤の最初の投与の前、好ましくは、抗CLEVER-1抗体ベクスマリマブなどの抗CLEVER-1抗体の最初の投与の前に得られた試料を指す。患者から得られた試料は、血液試料を指す。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、方法は、得られた試料から、インターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、又はC反応性タンパク質(CRP)からなる群から選択される1つ以上の炎症マーカーを測定することと、1つの炎症マーカーの測定値又は炎症マーカーの2つ以上の測定値の組み合わせを使用して、抗CLEVER-1治療で、好ましくは抗CLEVER-1抗体治療で患者を治療することを選択することと、を含む。炎症マーカーのレベルは、血清及び/又は血漿から測定することができる。抗CLEVER-1療法、好ましくは抗CLEVER-1抗体療法を開始することを決定するために、これらの炎症マーカーのレベルは、炎症マーカーの基準の平均範囲にあるか、又は平均基準値よりも低い必要がある。本発明の所見に基づいて、当該炎症マーカーの基準値と比較して異常に高い値は、CLEVER-1に結合することが可能な薬剤、例えば、抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブへの非応答性につながり得る。本発明に基づいて、1つだけの炎症マーカーを、抗CLEVER-1療法、好ましくは抗CLEVER-1抗体療法の開始のための意思決定に使用することができるが、2つ以上の炎症マーカーの組み合わせを使用する場合、療法に対する起こり得る応答の信頼性が向上する。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、本方法は、少なくともインターフェロンガンマ(IFNg)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)のレベルを測定することを含む。本発明の一実施形態では、本方法は、インターフェロンガンマ(IFNg)及び/又は腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)のレベルと、また、インターロイキン6(IL-6)及び/又はインターロイキン8(IL-8)のレベルとを測定することを含む。本発明の一実施形態では、本方法は、C反応性タンパク質(CRP)のレベルの測定と組み合わせて、インターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)、及び/又はインターロイキン8(IL-8)のレベルを測定することを含む。本発明の一実施形態によれば、C反応性タンパク質(CRP)単独のレベルが、抗CLEVER-1療法、好ましくは抗CLEVER-1抗体療法を開始する必要性を評価するために使用され得る。
【0022】
本発明によれば、炎症マーカーの測定は、当該技術分野で公知である従来の方法によって実行することができる。これらの目的のために、様々な分析方法及び装置が利用可能である。炎症マーカーの基準値又はベースライン値は、測定方法に依存する。本発明によれば、炎症マーカーの基準値又はベースライン値は、正常値、または当該分野においての当該炎症マーカーの正常又は平均従来値であると定義されている、ある特定の範囲内の値を意味する。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、抗CLEVER-1療法は、治療有効量のClever-1に結合することが可能な薬剤、好ましくは抗CLEVER-1抗体、より好ましくは抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブの投与を含む。「療法」、「治療」、又は「治療すること」という用語は、疾患又は障害の完全な治癒、並びに当該疾患又は障害の改善又は軽減を含むと理解されるものとする。本発明による一実施形態では、抗CLEVER-1療法は、治療有効量の抗CLEVER-1抗体、好ましくは抗CLEVER-1抗体ベクスマリマブの投与を含む、抗CLEVER-1抗体療法を指す。「治療有効量」という用語は、所望の治療結果をもたらすために十分である、本発明による薬剤の任意の量を含むことを意味する。「投与すること」は、当業者に公知である様々な方法及び送達システムのうちのいずれかを使用する、個体への当該治療剤を含む組成物の物理的導入を指す。本発明で使用される薬剤は、それらの意図した目的を達成する任意の手段によって投与され得る。例えば、投与は、例えば、注射による、静脈内、筋肉内、腹腔内、腫瘍内、皮下、又は他の非経口投与経路であり得る。薬理学的活性化合物に加えて、当該薬剤の薬学的調製物は、好ましくは、薬学的に使用され得る調製物への活性薬剤の処理を容易にする賦形剤及び補助剤を含む、好適な薬学的に許容される担体を含有する。選択された用量は、悪性腫瘍成長を低減若しくは阻害し、かつ/又は転移形成を阻害するために十分でなければならない。
【0024】
抗CLEVER-1療法を開始する前にがん患者を治療することを決定するための本発明による方法、また、がんを治療する方法は、全ての形態のがんに適用可能である。したがって、任意の悪性腫瘍又は転移を治療することができる。本発明による一実施形態では、抗CLEVER-1療法は、進行性固形腫瘍を治療するために使用される。本発明の一実施形態によれば、抗CLEVER-1療法は、少なくとも、黒色腫、胃がん、及び胆管がんから選択されるがんを治療するために使用される。
【0025】
実験部分
がんの治療のためのCLEVER-1阻害に関するヒト研究
CLEVER-1阻害剤である抗CLEVER-1抗体FP-1305は、進行性固形腫瘍を有する患者における第I/II相試験において、安全性及び予備有効性について現在試験されている(clinicaltrials.gov NCT03733990:A Study to Evaluate Safety,Tolerability and Preliminary Efficacy of FP-1305 in Cancer Patients(MATINS))。
【0026】
抗CLEVER-1抗体FP-1305は、以前に特許公開第WO2017/182705号に提示されているヒト化モノクローナルCLEVER-1抗体である。より正確には、FP-1305(DSM ACC3361)は、ヒト化モノクローナル免疫グロブリンG4κ抗体ベクスマリリマブである(提案された国際一般名称(INN)としてWHO Drug Information,Vol.33,No.4(2019)に、及び推奨されたINNとしてWHO Drug Information,Vol.34,No.3(2020),ページ699-700に開示されているINN)。
【0027】
本研究では、第1の(投与前)血清試料が、FP-1305(ベクスマリリマブ)の投与を開始する前に患者から採取されている。IFNg、TNF-α、IL-6、及びIL-8レベル並びにC反応性タンパク質(CRP)は、当該技術分野で公知である従来の測定方法を使用して、標準的血清試料から測定される。
【0028】
本研究では、患者は、疾患進行まで無制限の時間にわたって、3週間毎に投与される1mg/kgの用量で抗CLEVER-1抗体を受ける。
【0029】
結果
MATINS試験では、進行性黒色腫、胃がん、及び胆管がんを有する患者の約30%が、抗CLEVER-1 IgG4抗体ベクスマリリマブ(FP-1305)に良好に応答した。
【0030】
図1~3に示されるように、ファースト イン ヒューマンベクスマリリマブ試験(MATINS)のこれらの拡張コホートから抽出された炎症マーカーデータは、カプランマイヤー生存分析においてベクスマリリマブからの臨床的利益を示した対象が、明らかにより低いベースライン血清IFNg及びTNF-αレベルを有することを示す。これは、ベクスマリマブが、いわゆる高度に免疫抑制された非炎症性「コールド(cold)」腫瘍において特に有効であり得ることを示す。
【0031】
より詳細には、全員が高度に前治療を受け、チェックポイント阻害剤に不応性であった30人の患者のうち、臨床的利益(部分応答又は安定した疾患)を体験した9人、及びベクスマリリマブを用いた治療後に臨床的利益を体験しなかった21人が存在した。ベースラインでは、臨床的利益を体験した9人の患者は、ベクスマリリマブを用いた治療後に臨床的利益を体験しなかった患者の13.07pg/ml(SD、+/-13.26)と比較して、5.11pg/ml(SD、+/-4.99pg/ml)の平均血清インターフェロンガンマ(IFNg)レベルを有していた(図2)。同様に、臨床的利益を体験した患者におけるベースラインでの血清腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)レベルは、ベクスマリリマブを用いた治療後に臨床的利益を体験しなかった患者における2.37pg/ml(SD、+/-1.43pg/ml)と比較して、0.96pg/ml(SD、+/-0.74pg/ml)であった(図3)。受信者動作特性(ROC)曲線分析に基づいて、低いレベルのIFNg及びTNF-αを有する患者の83%が、ベクスマリリマブで治療されたときに臨床的利益を体験することが予期される(図4)。インターロイキン6(IL-6)及び/又はインターロイキン8(IL-8)などの古典的炎症促進性サイトカインがROC分析に加えられる場合、ベクスマリリマブに対する応答を予測する可能性は、91%まで増加する(図5)。また、標準的な炎症検査値C反応性タンパク質(CRP)は、ベクスマリリマブに応答する非炎症性がん型を反映する優れた能力を有する(図6)。
【0032】
したがって、カプランマイヤー生存分析において抗CLEVER-1抗体ベクスマリリマブからの臨床的利益を示した患者の上記の分析に基づいて、抗CLEVER-1抗体療法を開始する決定は、当該炎症マーカーを使用して行われ得ると結論付けることができる。抗CLEVER-1抗体療法に対する応答は、当該炎症マーカーのレベルが、療法を開始する前に正常平均レベルであるか、又は基準値を下回る場合、より良好であろう。炎症マーカーのレベルが基準値と比較して異常に高い値である場合、抗CLEVER-1抗体療法に対する非応答性につながり得、他の治療選択肢が、より良好である可能性が高い。
【0033】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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【国際調査報告】