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特表2024-545103基材から金属堆積物を電解除去するための水性剥離組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】基材から金属堆積物を電解除去するための水性剥離組成物
(51)【国際特許分類】
   C25F 5/00 20060101AFI20241128BHJP
   C25F 3/06 20060101ALI20241128BHJP
   C25F 1/06 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C25F5/00
C25F3/06
C25F1/06 B
C25F1/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534078
(86)(22)【出願日】2022-12-08
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2022085062
(87)【国際公開番号】W WO2023104999
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】21213202.1
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511188635
【氏名又は名称】アトテック ドイチェランド ゲーエムベーハー ウント コ カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フローレンス・ラゴルス-ブロック
(57)【要約】
本発明は、基材から金属堆積物を電解除去するための水性剥離組成物であって、(i)硝酸アニオン、(ii)1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩、並びに(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオン、を含み、水性剥離組成物中、(i)は唯一の窒素含有種である、組成物に関する。本発明は、そのそれぞれの使用及び前記水性剥離組成物を利用するそれぞれの方法に更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材から金属堆積物を電解除去するための水性剥離組成物であって、
(i)硝酸アニオン、
(ii)1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩、並びに
(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオン、を含み、
前記水性剥離組成物中、(i)は唯一の窒素含有種である、組成物。
【請求項2】
(i)が、前記水性剥離組成物の総体積に対して、10mmol/L~2600mmol/Lの範囲、好ましくは100mmol/L~2000mmol/L、より好ましくは200mmol/L~1600mmol/L、更により好ましくは300mmol/L~1400mmol/L、なお更により好ましくは400mmol/L~1200mmol/L、最も好ましくは500mmol/L~900mmol/L、なお最も好ましくは550mmol/L~750mmol/Lの範囲の濃度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(ii)が、前記水性剥離組成物の総体積に対して、25mmol/L~3000mmol/Lの範囲、好ましくは70mmol/L~2000mmol/L、より好ましくは120mmol/L~1500mmol/L、更により好ましくは230mmol/L~1000mmol/L、なお更により好ましくは300mmol/L~900mmol/L、最も好ましくは370mmol/L~800mmol/L、更に最も好ましくは450mmol/L~700mmol/Lの範囲の総濃度を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(i)は(iii)に対し、(iii)の総濃度に対して、1以上、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.3以上、更により好ましくは1.5以上、最も好ましくは2以上のモル比を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
(ii)は(iii)に対し、(ii)と(iii)の個々の総濃度に対して、1以上、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上、更により好ましくは1.7以上、最も好ましくは1.8以上のモル比を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
(ii)が、モノカルボン酸及び/又はその塩のみを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
(ii)が、2つ又は3つ以上、好ましくは2つのカルボン酸及び/又はその塩を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
(ii)が、ギ酸、酢酸及び/又はそれらの塩、好ましくは酢酸及び/又はその塩を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
(ii)が、少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
(ii)が、クエン酸、グルコン酸、ヘプタグルコン酸及び/又はそれらの塩、最も好ましくはグルコン酸及び/又はその塩を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
(ii)が、
(ii-a)第1のモノカルボン酸及び/又はその塩、好ましくはC1~C4モノカルボン酸及び/又はその塩、より好ましくはギ酸、酢酸、及び/又はそれらの塩、最も好ましくは酢酸及び/又はその塩、
並びに、更に
(ii-b)第2のモノカルボン酸及び/又はその塩、好ましくはC5~C14モノカルボン酸及び/又はその塩、より好ましくはC5~C14ヒドロキシモノカルボン酸及び/又はその塩、最も好ましくは、グルコン酸、ヘプタグルコン酸、及び/又はそれらの塩、を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
金属堆積物とは異なる基材から、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及び/又はそれらのうちの少なくとも1つを含む合金を含む前記金属堆積物を部分的又は完全に電解除去するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の水性剥離組成物の使用。
【請求項13】
基材から金属堆積物を部分的又は完全に除去するための方法であって、以下の工程
(a)前記金属堆積物を含む前記基材をアノードとして用意する工程であり、前記金属堆積物は、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及び/又はそれらのうちの少なくとも1つを含む合金を含む、工程、
(b)(i)硝酸アニオン、
(ii)1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩、並びに
(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオン、を含む水性剥離組成物を用意する工程であり、
前記水性剥離組成物中、(i)は唯一の窒素含有種である、工程、
(c)少なくとも1つのカソードを用意する工程、
(d)前記基材を前記水性剥離組成物と接触させ、前記金属堆積物が前記基材から部分的又は完全に除去されるように、前記アノード及び前記少なくとも1つのカソードに電流を印加する工程であり、
前記基材は、前記金属堆積物とは異なる、工程、
を含む、方法。
【請求項14】
前記基材が鉄を含み、好ましくはステンレス鋼基材である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記金属堆積物からのパラジウム、銅、ニッケル、及びクロムのうちの少なくとも1つが、前記少なくとも1つのカソード上に同時に堆積され、好ましくは前記金属堆積物は少なくとも銅を含み、工程(d)中に、銅が少なくとも1つのカソード上に同時に堆積される、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材から金属堆積物を電解除去するための水性剥離組成物であって、
(i)硝酸アニオン、
(ii)1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩、並びに
(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオン、を含み、
水性剥離組成物中、(i)は唯一の窒素含有種である、組成物に関する。本発明は、そのそれぞれの使用及び前記水性剥離組成物を利用するそれぞれの方法に更に関する。
【背景技術】
【0002】
金属堆積物の剥離は、めっき業界、特に電気めっき業界では一般に重要である。典型的には、めっきされる基材は、電気めっき組成物と接触させる前に、何らかの方法で、例えばラック上又はバレル内で、それぞれ、ある特定の場所(すなわち、固定具)に、固定するか、少なくともその場所に制限する必要がある。実際、多くの場合、金属層は基材上に堆積されるだけでなく、少なくとも部分的にそれぞれの固定具上にも堆積される。固定具は再利用されるため、時間の経過とともに金属層が蓄積し、望ましくない比較的厚い金属堆積物が形成される。これは、固定具の電気接触領域(接触チップとも呼ばれることが多い)で特に問題になる。したがって、特に固定具を信頼できる状態に維持し、望ましくない金属層/金属堆積物を除去するために、そのような金属堆積物の剥離が随時望まれる。多くの場合、固定具はベース材料としてステンレス鋼を含むか、ステンレス鋼で作製されている。
【0003】
更に、めっき/電気めっき組成物で典型的に使用される種々の攻撃的な化学物質に曝露されるとき、及び基材を固定具に装填する/取り外すときに、ステンレス鋼ではこの材料がある特定の表面改質を受けることが観察されている。多くの場合、粗さの増加は電気めっき中の樹枝状結晶形成の増加のリスクを意味し、すすぎ特性の低下が観察されるが、これは望ましくないことである。より深い調査により、最新のプロセスでは基材への最適な電流の流れを確保するために、信頼性の高いステンレス鋼の接触領域が不可欠であることが分かった。欠陥のない良好なめっき(すなわち、期待される厚さ、陰影がない、及び/又は望ましくない粗さがない)のみならず固定具への効果的/安全な取り付けは、それらの接触領域の状態に大きく依存することが見出されている。しかし、固定具、及び特に接触領域から望ましくない金属堆積物、樹枝状結晶、及び望ましくない粗さをすべて同時に阻止し続けることは、非常に困難である。典型的には、固定具のベース材料を典型的に傷つけることなく、望ましくない金属堆積物を除去するには、高度な選択的剥離が必要である。これは、それぞれの剥離組成物が銅、ニッケル、及びクロム等の典型的な種類の金属に対して高度に選択的である必要がある一方で、ステンレス鋼の除去が起こってはならないことを意味する。
【0004】
一般に、剥離組成物は、当技術分野において公知である。
【0005】
米国特許第6,332,970B1号は、鉄、鋼、アルミニウム、及びチタン合金、並びに他の選択された導電性基材から無電解ニッケルを迅速に除去するための、オキソ酸及び/又はオキソ酸塩と過酸化水素とを含む電解剥離溶液について言及している。
【0006】
EP3168332B1は、例えば硝酸、更なる窒素含有化合物、及び臭化物を含む、パラジウムを除去するための治具用電解剥離剤の使用について言及している。
【0007】
効果的な剥離組成物は公知であるが、典型的には、それらは前述の要件、すなわち、望ましくない金属堆積物の除去と、同時に望ましくない表面粗さの低減/防止のすべてを満たすことができないことが観察されている。
【0008】
優れた剥離品質に加えて、ここ数年、持続可能性の改善がますます重要になってきている。実際のところ、元の化合物だけでなく、更に剥離金属カチオンを含む、完全に利用された水性剥離組成物を廃棄しなければならない。したがって、排水処理が重要な課題となっている。
【0009】
したがって、特に持続可能性の側面及び上述の要件を考慮して、既存の剥離組成物を更に改善する必要性が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,332,970B1号
【特許文献2】EP3168332B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、剥離品質及び剥離選択性を損なうことなく、より持続可能な剥離組成物を提供することである。特に、廃水処理の工程/労力を削減し、最も好ましくは、少なくとも一部の成分、主に剥離金属の少なくとも部分的なリサイクルを可能にすることが特に目的である。更に、剥離組成物は、特にステンレス鋼、例えばステンレス鋼の接触領域上の望ましくない表面粗さを低減/防止することが可能でなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的は、基材から金属堆積物を電解除去するための水性剥離組成物であって、
(i)硝酸アニオン、
(ii)1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩、並びに
(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオン、を含み、
水性剥離組成物中、(i)は唯一の窒素含有種である、水性剥離組成物によって解決される。
【0013】
更に、この目的は、本文中で以下に更に詳細に説明するように、基材から金属堆積物を部分的又は完全に除去するための方法によって解決される。
【0014】
本発明との関係においては、水性剥離組成物が唯一の窒素含有種(又は化合物)として硝酸アニオンを含有することが本質的な特徴である。アンモニア及び/又は他のアミン等の窒素含有化合物は、安定な金属錯体を形成するために、廃水処理の観点から典型的に問題となるため、これは廃水処理の観点から不可欠である。典型的には、一般的な廃水規制に準拠するために、剥離金属は事前に除去する必要がある。アンモニア及び/又は他のアミンが使用される場合、典型的に、それらを除去するために、沈殿、デカンテーション、濾過、化学酸化、中和、及び/又は化学還元等の種々の処理工程が含まれる。現在、ほとんどの水性剥離組成物、特に銅及びニッケルの除去には、これらの処理工程のすべて又はほぼすべてが必要である。逆に、本発明の水性剥離組成物は、一般に、単一の中和及び沈殿工程後、更なる化学的酸化及び/又は還元を必要とせず、既に法的規制に適合する。これは、硝酸アニオン以外の窒素含有化合物を含まないことによって実現される。
【0015】
更に、本発明の水性剥離組成物によって、基材用、例えば固定具用等の典型的なベース材料であるステンレス鋼を実質的に除去することなく、ニッケル(非常に貴な半光沢ニッケルから卑な光沢ニッケルを含む)、銅、クロム、パラジウム、及びこれらの少なくとも1つを含む合金の選択的除去が可能になる。これに関連して、前記金属及びその合金が単一層、組み合わせ、又はそれらの混合物で存在するかどうかは関係ない。それらは、金属堆積物中でどのように組織化されているかに関係なく、最も好ましくは非常に類似した剥離速度(特にニッケル及び銅に関しての)で除去される。したがって、本発明との関係において、金属堆積物は、好ましくは、銅、ニッケル、クロム、及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1つ又は2つ以上の金属を含む;或いは、金属堆積物は、好ましくは、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、及びスズからなる群から選択される1つ又は2つ以上の金属を含む。これには、好ましくは、前述の金属の少なくとも1つを含む合金が含まれる。最も好ましくは、銅及び/又は(好ましくは及び)ニッケルが、好ましくは個別に並びに組み合わせて、パラジウムよりも多量に存在する。また、好ましくは、銅及び/又は(好ましくは及び)ニッケルが、好ましくは個別に並びに組み合わせて、クロムよりも多量に存在する。最も好ましくは、パラジウムは、銅、ニッケル、及びクロムの個々の量と比較して最低量で存在する。
【0016】
更に、独自の実験により、本発明の水性剥離組成物は特にバランスが良好なベース材料除去を示すことが示された。これは、ベース材料の除去が完全にゼロではなく、むしろ非常に低いことを意味する。非常に低い除去であっても望ましくないことが最初に想定された。しかし、驚くべきことに、そのような非常に低い除去量が、所望の表面平滑化に寄与することが判明した。これは、望ましくないピット及びスクラッチが平らになるか又は防止すらされ、空洞が開いて滑らかになり、優れた表面洗浄効果が得られ、後続の各電気めっき組成物の汚染を軽減することを意味する。更に、すすぎ性の向上も観察された。水性剥離組成物を繰り返し適用しても、時間の経過とともにベース材料の重大な損失には至らず、むしろ上記の利点が得られることが判明した。本発明の水性剥離剤組成物がこのようにバランスが良好な個々の除去を示していることは非常に驚くべきことであった。
【0017】
これらすべてに加えて、本発明の水性剥離組成物によって電解採取用途が可能になることは予想外であった。これは、それぞれの電解剥離法において本発明の水性剥離組成物を利用すると、剥離金属(水性剥離組成物にアノード溶解される)をカソード上に堆積できることを意味する。これは、特に銅及びパラジウムに当てはまり、最も好ましくは銅に当てはまる。しかし、これは剥離したニッケルイオンにも当てはまる。したがって、剥離金属は完全に廃棄する必要はなく、むしろ少なくとも部分的にリサイクルすることが好ましい。最も好ましくは、リサイクル前に剥離金属を互いに分離するために、選択的カソード金属堆積も可能である。硝酸アニオン以外の窒素含有種が存在しないため、剥離金属カチオンの過剰な錯体形成が防止され、その結果、カソード堆積が可能になると想定される。それぞれの堆積物はカソード上に形成され、銅は利用される水性剥離組成物中にパラジウムより多量に存在するので、好ましくは主に銅を含む。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明との関係において、「除去する」及び「除去された」という用語は、溶解(dissolving)(すなわち溶解(dissolution))、好ましくはそれぞれ電気化学的溶解(dissolving)及び溶解(dissolution)を意味する。これは同様に剥離、好ましくは電気化学的剥離を意味する。いずれの場合も、除去は、溶解を加速し、主に推進する駆動力としての電流に、主に依存する。好ましくは、これには、不溶性状態から可溶性状態への移行が含まれ、これは、最も好ましくは電気化学的アノード酸化による。これには、金属堆積物の金属が整流器に接続されたアノードを形成し、一方、対電極が前記電気化学的溶解を可能にするカソードとして使用されることが含まれる。その結果、除去された金属は、好ましくは金属イオンを形成する。
【0019】
本発明の水性剥離組成物は、溶媒を含む。好ましくは、溶媒は、前記アノード溶解を支援するために導電性である。
【0020】
本発明の水性剥離組成物は水性である、すなわち水を含み、好ましくは水性剥離組成物の総体積に対して少なくとも55体積%以上、より好ましくは65体積%以上、更により好ましくは75体積%以上、なお更により好ましくは85体積%以上、なおも更により好ましくは90体積%以上、最も好ましくは95体積%以上が水である。最も好ましくは、水が唯一の溶媒である。
【0021】
水性剥離組成物が、アルカリ性、酸性又は中性、好ましくは酸性又は中性、最も好ましくは酸性である、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0022】
水性剥離組成物が、4~9、好ましくは4.5~8.5、より好ましくは5~8、より好ましくは5.3~7.5、更により好ましくは5.5~7、最も好ましくは5.7~6.5の範囲のpHを有する、本発明の水性剥離組成物がより好ましい。
【0023】
(i)が、水性剥離組成物の総体積に対して、10mmol/L~2600mmol/Lの範囲、好ましくは100mmol/L~2000mmol/L、より好ましくは200mmol/L~1600mmol/L、更により好ましくは300mmol/L~1400mmol/L、なお更により好ましくは400mmol/L~1200mmol/L、最も好ましくは500mmol/L~900mmol/L、なお最も好ましくは550mmol/L~750mmol/Lの範囲の濃度を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0024】
濃度が10mmol/Lを大幅に下回ると、多くの場合、金属堆積物の除去が不十分となり、特にニッケル及びその合金の除去が不十分となる。濃度が2600mmol/Lを大幅に超えると、ステンレス鋼であっても除去が強すぎる等、除去が過剰になることが多くの場合観察された。このため、前述したバランスが良好な個々の除去が損なわれる。
【0025】
場合によっては、(i)が、水性剥離組成物の総体積に対して少なくとも100mmol/L、好ましくは少なくとも140mmol/L、より好ましくは少なくとも200mmol/Lの総濃度を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。これは、(i)について上記の範囲で述べた濃度の上限と組み合わせて最も好ましく適用される。いくつかの場合では、(i)の総濃度が100mmol/L未満の場合、望ましくないステンレス鋼の除去が観察された。
【0026】
前記硝酸アニオンの好ましい供給源は、アルカリ性硝酸塩、好ましくは硝酸ナトリウムである。
【0027】
前記硝酸アニオンは主に、アノード水の加水分解から生成されるヒドロニウムカチオンと相互作用すると考えられる。これにより局所的に硝酸が生成され、一方では金属堆積物、特に銅及びニッケルを効率的に溶解する。他方では、硝酸はステンレス鋼上に保護不動態層を形成する。金属堆積物が溶解すると、溶解した金属カチオンは可溶性硝酸塩を形成する。
【0028】
(i)が水性剥離組成物全体における唯一の窒素源であることが重要である。これには特に、(ii)において窒素原子を含む化合物が含まれないことが含まれる。
【0029】
(ii)が、水性剥離組成物の総体積に対して、25mmol/L~3000mmol/Lの範囲、好ましくは70mmol/L~2000mmol/L、より好ましくは120mmol/L~1500mmol/L、更により好ましくは230mmol/L~1000mmol/L、なお更により好ましくは300mmol/L~900mmol/L、最も好ましくは370mmol/L~800mmol/L、更に最も好ましくは450mmol/L~700mmol/Lの範囲の総濃度を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0030】
濃度が25mmol/Lを大幅に下回ると、多くの場合、水性剥離組成物の導電性が低すぎるため、金属堆積物の溶解が遅すぎる。このような条件下では、典型的に、溶解には非常に大量のエネルギーが必要となり、それぞれの方法はもはや経済的ではない。濃度が2500mmol/Lを大幅に超えると、アノード上にブロッキング塩層が形成され、電流の流れが停止又は少なくとも減少し、したがって完全な剥離プロセスが悪化することが多くの場合観察された。
【0031】
本発明との関係において、1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩は、好ましくは導電剤及び/又は錯化剤として機能する。
【0032】
(i)が(iii)に対し、(iii)の総濃度に対して1以上、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.3以上、更により好ましくは1.5以上、最も好ましくは2以上のモル比を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。このモル比が1未満の場合、場合によっては、望ましくないステンレス鋼の除去が観察された。
【0033】
(i)が(iii)に対し、(iii)の総濃度に対して、1~20の範囲、好ましくは1.1~15、より好ましくは1.3~11、更により好ましくは1.5~9、なお更により好ましくは1.6~7、最も好ましくは1.7~4の範囲のモル比を有する、本発明の水性剥離組成物がより好ましい。場合によっては、1.7~2.8の範囲の比率が非常に好ましい。(i)に対する(iii)の10未満(ただしゼロより大きい)、好ましくは9未満の比が非常に好ましい。場合によっては、この比率が10を大幅に超えると、望ましくない表面粗さが観察された。
【0034】
(ii)が(iii)に対し、(ii)と(iii)の個々の総濃度に対して、1以上、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上、更により好ましくは1.7以上、最も好ましくは1.8以上のモル比を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0035】
(ii)が(iii)に対し、(ii)と(iii)の個々の総濃度に対して、1~8の範囲、好ましくは1.3~6、より好ましくは1.5~4、更により好ましくは1.7~3.5、最も好ましくは1.8~2.3の範囲のモル比を有する、本発明の水性剥離組成物がより好ましい。
【0036】
(ii)が(i)に対し、(ii)の総濃度に対して、0より大きく10未満であり、好ましくは0.1~9、より好ましくは0.2~8、更により好ましくは0.3~6、なお更により好ましくは0.4~4、最も好ましくは0.5~2の範囲のモル比を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。この比率が10を大幅に超えると、場合によっては、望ましくない表面粗さが観察された。
【0037】
本発明の水性剥離組成物は、1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩を、好ましくは上で定義した総濃度及び/又はモル比で含む。1つ又は2つ以上のカルボン酸及びその塩は、窒素を含まない。
【0038】
場合によっては、前記1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩が、水性剥離組成物中の唯一の有機化合物であることが好ましい。
【0039】
(ii)が、(ii-a)1つ又は2つ以上のC1~C4カルボン酸及び/又はその塩、好ましくは1つ又は2つ以上のC1~C3カルボン酸及び/又はその塩、最も好ましくは1つ又は2つ以上のC2~C3カルボン酸及び/又はその塩を含む、本発明の水性剥離組成物が好ましい。これは、好ましくはモノカルボン酸に適用される。
【0040】
好ましくは、(ii-a)によるカルボン酸は、本発明との関係において、主に導電剤として機能し、好ましくは更に緩衝剤として機能する。
【0041】
(i)が(ii-a)に対し、(i)と(ii-a)の個々の総濃度に対して、0.1以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.7以上、更により好ましくは1以上、最も好ましくは1.2以上のモル比を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0042】
(ii-a)が、水性剥離組成物の総体積に対して、50mmol/L~2000mmol/Lの範囲、好ましくは100mmol/L~1500mmol/L、より好ましくは150mmol/L~1000mmol/L、更により好ましくは200mmol/L~900mmol/L、なお更により好ましくは250mmol/L~800mmol/L、最も好ましくは300mmol/L~700mmol/L、更に最も好ましくは400mmol/L~600mmol/Lの範囲の総(すなわち、すべての個々の(ii-a)の合計)濃度を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0043】
(ii)が、(ii-b)1つ又は2つ以上のC5~C14カルボン酸及び/又はその塩、好ましくは1つ又は2つ以上のC6~C10カルボン酸及び/又はその塩、より好ましくは1つ又は2つ以上のC6~C9カルボン酸及び/又はその塩、最も好ましくは1つ又は2つ以上のC6~C8カルボン酸及び/又はその塩、なお最も好ましくは1つ又は2つ以上のC6~C7カルボン酸及び/又はその塩を含む、本発明の水性剥離組成物が好ましい。これは、好ましくはヒドロキシカルボン酸に適用される。これは、より好ましくはモノカルボン酸、ジカルボン酸、及び/又はトリカルボン酸に適用され、最も好ましくはモノカルボン酸に適用される。これは最も好ましくはヒドロキシモノカルボン酸及び/又はヒドロキシトリカルボン酸に適用され、最も好ましくはヒドロキシモノカルボン酸に適用される。場合によっては、トリカルボン酸、好ましくはヒドロキシトリカルボン酸、最も好ましくはクエン酸、及び/又はその塩が好ましい。好ましくは、(ii-a)に加えて(ii-b)が存在し、これにより、ほとんどの場合、水性剥離組成物の効率が大幅に改善される。
【0044】
好ましくは、(ii-b)によるカルボン酸は、本発明との関係において、主に錯化剤として機能する。
【0045】
(i)が(ii-b)に対し、(i)と(ii-b)の個々の総濃度に対して、1以上、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、更により好ましくは8以上、最も好ましくは10以上のモル比を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。1~25、好ましくは2~20、最も好ましくは5~15、更に最も好ましくは10~14の範囲が非常に好ましい。
【0046】
(ii-b)が、水性剥離組成物の総体積に対して、1mmol/L~1000mmol/Lの範囲、好ましくは10mmol/L~500mmol/L、より好ましくは20mmol/L~250mmol/L、更により好ましくは30mmol/L~150mmol/L、なお更により好ましくは35mmol/L~120mmol/L、最も好ましくは40mmol/L~90mmol/L、更に最も好ましくは45mmol/L~75mmol/Lの範囲の総(すなわち、すべての個々の(ii-b)の合計)濃度を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0047】
(ii)が、少なくとも1つのモノカルボン酸及び/又はその塩を含む、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0048】
(ii)が、モノカルボン酸及び/又はその塩のみを含む、本発明の水性剥離組成物がより好ましい。一部の稀な場合では、(ii-b)がトリカルボン酸及び/又はその塩のみを含むことが好ましい。
【0049】
(ii)が、2つ又は3つ以上、好ましくは2つのカルボン酸及び/又はその塩を含む、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0050】
(ii)が、2つ以上、好ましくは2つのモノカルボン酸及び/又はその塩を含む、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0051】
(ii)が、ギ酸、酢酸及び/又はそれらの塩、好ましくは酢酸及び/又はその塩を含む、本発明の水性剥離組成物がより好ましい。
【0052】
(ii)が、少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩を含む、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0053】
(ii)が、クエン酸、グルコン酸、ヘプタグルコン酸及び/又はそれらの塩、最も好ましくはグルコン酸及び/又はその塩を含む、本発明の水性剥離組成物がより好ましい。
【0054】
(ii)が
(ii-a)第1のモノカルボン酸及び/又はその塩、好ましくはC1~C4モノカルボン酸及び/又はその塩、より好ましくはギ酸、酢酸、及び/又はそれらの塩、最も好ましくは酢酸及び/又はその塩、
並びに、更に
(ii-b)第2のモノカルボン酸及び/又はその塩、好ましくはC5~C14モノカルボン酸及び/又はその塩、より好ましくはC5~C14ヒドロキシモノカルボン酸及び/又はその塩、最も好ましくは、グルコン酸、ヘプタグルコン酸、及び/又はそれらの塩、を含む、本発明の水性剥離組成物が最も好ましい。
【0055】
更に、本発明の水性剥離組成物は、(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオンを含む。
【0056】
1種又は2種以上のハロゲンアニオンは、主に酸化物、特に酸化ニッケルの除去を支援する。これは、金属堆積物の除去を支援する。
【0057】
(iii)が、フッ化物、塩化物、臭化物及び/又はヨウ化物、好ましくは塩化物、臭化物及び/又はヨウ化物、より好ましくは塩化物及び/又は臭化物、最も好ましくは臭化物を含む、本発明の水性剥離組成物が好ましい。好ましくは、(iii)は、塩化物及び/又は臭化物のみを含み、最も好ましくは臭化物のみを含む。最も好ましくは、臭化物は、水性剥離組成物中の唯一の種類のハロゲンアニオンである。
【0058】
(iii)が、水性剥離組成物の総体積に対して、1mmol/L~1250mmol/Lの範囲、好ましくは40mmol/L~1000mmol/L、より好ましくは80mmol/L~880mmol/L、更により好ましくは120mmol/L~760mmol/L、なお更により好ましくは160mmol/L~640mmol/L、最も好ましくは200mmol/L~520mmol/L、なお最も好ましくは280mmol/L~400mmol/Lの範囲の総濃度を有する、本発明の水性剥離組成物が好ましい。これは、臭化物に最も好ましく適用される。
【0059】
(iii)が、水性剥離組成物の総体積に対して少なくとも100mmol/L、好ましくは少なくとも180mmol/Lの総濃度を有する、本発明の水性剥離組成物が一般に好ましい。これは、(iii)について上記の範囲で述べた濃度の上限に最も好ましく適用される。
【0060】
濃度が1mmol/Lを大幅に下回ると、多くの場合、特にニッケルの場合、金属堆積物の除去が遅れる。濃度が1250mmol/Lを大幅に超えると、特に臭化物が含まれる場合、驚くべきことに、ステンレス鋼のバランスが良好なベース材料除去(すなわち、表面の平滑化)が低すぎることが観察された。
【0061】
前述のように、水性剥離組成物中では、(i)が唯一の窒素含有種である。したがって、本発明の水性剥離組成物は、アンモニウムイオンを好ましくは実質的に含まず、アンモニウムイオンを好ましくは含まない。
【0062】
硫酸を実質的に含まない、好ましくは含まない、好ましくは、硫酸アニオンを実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0063】
リン酸を実質的に含まない、好ましくは含まない、好ましくは、リン酸アニオンを実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の水性剥離組成物が好ましい。
【0064】
本発明は、金属堆積物とは異なる基材から、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及び/又はそれらのうちの少なくとも1つを含む合金を含む金属堆積物を部分的又は完全に電解除去するための、好ましくは好ましいものとして上記で定義した、上記で定義したような水性剥離組成物の使用に更に関する。或いは、金属堆積物は、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、スズ、及び/又はそれらのうちの少なくとも1つを含む合金を含む。
【0065】
本発明の水性剥離組成物に関する前述のことは、特に好ましいと定義された特徴を含めて、好ましくは本発明による使用にも同様に適用される。
【0066】
本発明は、基材から金属堆積物を部分的又は完全に除去するための方法であって、以下の工程
(a)金属堆積物を含む基材をアノードとして用意する工程であり、金属堆積物は、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及び/又はそれらのうちの少なくとも1つを含む合金を含む、工程、
(b)(i)硝酸アニオン、
(ii)1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩、並びに
(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオン、を含む水性剥離組成物を用意する、工程であり、
水性剥離組成物中、(i)は唯一の窒素含有種である、工程、
(c)少なくとも1つのカソードを用意する工程、
(d)基材を水性剥離組成物と接触させ、金属堆積物が基材から部分的又は完全に除去されるように、アノード及び少なくとも1つのカソードに電流を印加する工程であり、
基材は、金属堆積物とは異なる、工程、
を含む、方法に更に関する。
【0067】
本発明の水性剥離組成物に関する前述のことは、特に好ましいと定義された特徴を含めて、好ましくは本発明の方法にも同様に適用される。
【0068】
或いは、工程(a)において、金属堆積物は、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、スズ、及び/又はそれらのうちの少なくとも1つを含む合金を含む。
【0069】
基材が鉄を含み、好ましくはステンレス鋼基材である、本発明の方法が好ましい。
【0070】
基材が湿式化学めっきプロセスでめっきされる基材を保持するための固定具、好ましくはラック、最も好ましくはそれぞれ固定具及びラックである、本発明の方法が好ましい。しかし、本発明の水性剥離組成物並びに本発明の方法は、そのような特定の基材に限定されない。
【0071】
前述のように、本発明の水性剥離組成物は、特にバランスが良好なベース材料除去を示す。その結果、所望の表面平滑化が得られるとともに維持される。これは本発明の方法にも同様に適用される。基材が0.5μm~1.5μmの範囲、好ましくは0.7μm~1.3μm、最も好ましくは0.9μm~1.1μmの範囲の表面粗さRaを有する本発明の方法が好ましい。工程(d)が繰り返し実施された後でも前記粗さRaが維持される、本発明の方法がより好ましい。
【0072】
これも上で既に述べたように、本発明よって電解採取用途が可能になる。これは従来の剥離組成物を上回る大きな利点であり、除去された(すなわち、剥離された)金属はリサイクルできるため、これによって、非常に持続可能な用途が可能になる。
【0073】
金属堆積物からのパラジウム、銅、ニッケル、及びクロムのうちの少なくとも1つ(或いは、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及びスズのうちの少なくとも1つ)が、少なくとも1つのカソード上に同時に堆積され、好ましくは金属堆積物は少なくとも銅を含み、工程(d)中に、銅が少なくとも1つのカソード上に同時に堆積される、本発明の方法が非常に好ましい。「同時に」という用語は、工程(d)が実施され、行われることを意味する。
【0074】
工程(d)中に、金属堆積物からパラジウム、銅、ニッケル、及びクロムのうちの2つ以上(或いは、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及びスズのうちの2つ以上)を2つ以上のカソード上に選択的かつ個別に堆積する、本発明の方法がより好ましい。これは、非常に好ましい選択的電解採取用途である。独自の実験によれば、選択的かつ個々のカソード電流密度に基づいて、パラジウム、銅、ニッケル、及びクロム(工程(d)で金属堆積物から除去される)がそれぞれのカソード上に個別に堆積されることが示されている。除去されたニッケルは、好ましくは比較的高い電流密度(すなわち、比較的小さい表面積を有するカソード)を必要とするが、パラジウムは、好ましくは比較的低いカソード電流密度(すなわち、比較的大きい表面積を有するカソード)を必要とする。典型的には、除去された銅は、パラジウムとニッケルについて定義されたカソード電流密度の間のカソード電流密度を必要とする。
【0075】
しかし、場合によっては、工程(d)中に、金属堆積物からパラジウム、銅、ニッケル、及びクロムのうちの2つ以上(或いは、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及びスズのうちの2つ以上)を1つのカソード上に一緒に堆積させることが好ましい。
【0076】
少なくとも1つのカソードが鉄、鉛、炭素、チタン、白金、銅、ニッケル、それらの混合物、及び/又は酸化物を含む、本発明の方法が一般に好ましい。これは、好ましくは、その上に金属が堆積されていない、すなわちブランク状態にある少なくとも1つのカソードを指す。
【0077】
少なくとも1つのカソードが、鋼カソード、鉛カソード、グラファイトカソード、チタンカソード、白金カソード、銅カソード、ニッケルカソード、及び/又は混合金属酸化物(MMO)カソードを含む、本発明の方法がより好ましい。
【0078】
好ましい鋼カソードは、ステンレス鋼カソードを含む。
【0079】
好ましいチタンカソードは、白金メッキチタンカソードを含む。
【0080】
場合によっては、少なくとも1つのカソードが銅を含み、好ましくは銅である、本発明の方法が好ましい。このような好ましい場合、少なくとも1つの銅カソードに、追加の銅を含む均質なカソード体が得られるように、比較的純粋な金属銅を更に堆積させる。このようなカソード体は価値が高く、容易にリサイクルすることができる。
【0081】
他の場合には、少なくとも1つのカソードが鉄を含み、好ましくはステンレス鋼を含む(最も好ましくはステンレス鋼である)、本発明の方法が好ましい。
【0082】
工程(d)において、水性剥離組成物が、20℃~80℃の範囲、好ましくは21℃~65℃の範囲、より好ましくは22℃~55℃の範囲、更により好ましくは23℃~45℃の範囲、最も好ましくは24℃から36℃の範囲の温度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0083】
工程(d)において、金属堆積物が、0.1μm/分~30μm/分の範囲、好ましくは1μm/分~26μm/分の範囲、より好ましくは3μm/分~22μm/分の範囲、更により好ましくは5μm/分~18μm/分の範囲、なお更により好ましくは7μm/分~15μm/分の範囲、最も好ましくは11μm/分~13μm/分の範囲の速度で部分的又は完全に除去される、本発明の方法が好ましい。これは、以下に定義される電流密度に最も好ましく適用される。更に、これは、金属堆積物中の銅及びニッケルに最も好ましく適用される。
【0084】
工程(d)において、電流が、10A/dm2~100A/dm2の範囲、好ましくは20A/dm2~90A/dm2の範囲、より好ましくは30A/dm2~80A/dm2の範囲、更により好ましくは40A/dm2~70A/dm2の範囲、最も好ましくは45A/dm2~60A/dm2の範囲、更に最も好ましくは47A/dm2~53A/dm2の範囲の電流密度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0085】
工程(d)において、接触を、基材を水性剥離組成物に浸漬することによって実施する、本発明の方法が好ましい。
【0086】
工程(d)において、接触を、好ましくは、10秒~120分の範囲、好ましくは30秒~100分の範囲、より好ましくは1分~80分の範囲、更により好ましくは1.5分~60分の範囲、最も好ましくは2分~45分の範囲の時間で実施する。典型的には、この期間は、金属堆積物の総厚さ、その組成、及び適用条件によって異なる。場合によっては、非常に好ましい期間は、30秒~30分の範囲、好ましくは60秒~20分の範囲である。
【0087】
本発明の精神は、特許請求の範囲で定義される本発明の範囲を限定することなく、以下の実施例で更に例示される。
【実施例
【0088】
1. 水性剥離組成物:
以下の例「E1」~「E6」(本発明による)は、それぞれの化合物を水に溶解することによって調製した。更なる詳細を、表1にまとめる;特に明記しない限り、濃度はmmol/Lで示される。必要に応じて、水酸化ナトリウムを使用してpH補正を実施した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1において、酢酸及び酢酸ナトリウムは(ii-a)として考慮され、グルコン酸ナトリウムは(ii-b)として考慮される。
【0091】
(i)と(iii)の合計量が少ないため、E2は他の組成物と比較して電気抵抗の増加を示す。これはあまり好ましくないが、E2は依然として非常に許容される結果を提供する(以下を参照のこと)。
【0092】
2. 金属堆積物を電解除去する
例E1~E6による剥離組成物を、金属堆積物を電解剥離するために25℃~35℃の範囲の温度で試験した。アノード電流密度は、約50A/dm2であった。
【0093】
試験された金属堆積物は、ステンレス鋼を除いて、それぞれの水性剥離組成物に約2分間曝し、ステンレス鋼は、非常に穏やかに攻撃されたため、約10分間の曝露が適用された。
【0094】
典型的には、それぞれのパネル又はそのワイヤの形態で試験された金属堆積物、及びそれぞれの剥離速度を、表2にまとめる。剥離速度は、重量損失に対して決定した。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示すように、最も貴な(半光沢)Ni及びCuについて優れた剥離速度が得られ、ステンレス鋼の損失はゼロではないが、わずかである。本発明との関係において、これは、ステンレス鋼基材の滑らかな表面を獲得又は維持するのに望ましい。
【0097】
ステンレス鋼の表面粗さを評価するために、それぞれの水性剥離組成物に曝す前に、ステンレス鋼基材の表面粗さを測定し、Saが約1μmであることを特徴付けた。上記の10分後、測定を繰り返したところ、すべての例でSaは再び約1、E3の場合は0.8μm、E6の場合は0.9μmであった。したがって、試験された水性剥離組成物は、ステンレス鋼表面をわずかにエッチングする場合、剥離時に表面粗さを大幅には増加させず、むしろ表面粗さを減少させることもできる。Saは、表面の算術平均と比較した各点の高さの差を絶対値で示し、表面粗さを評価するために一般的に使用される。これは、本発明によって得られる表面平滑化効果のための重要な前提条件である。その結果、それぞれのステンレス鋼基材の初期の表面粗さを維持することができる。
【0098】
更なる試験(データは示さず)では、更なる金属及び金属合金の以下の剥離速度を、実験的に決定した。
ニッケル-リン:合金中のリン含有量に応じて2μm/分~15μm/分の範囲(リンが多いと剥離速度が低下する)
光沢ニッケル:15μm/分
クロム(三価クロムより):4μm/分
クロム(六価クロムより):6μm/分
パラジウム(ガルバニック層) 0.1μm/分
スズ(ガルバニック層、酸性) 4μm/分~25μm/分
【手続補正書】
【提出日】2024-06-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材から金属堆積物を電解除去するための水性剥離組成物であって、
(i)硝酸アニオン、
(ii)1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩、並びに
(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオン、を含み、
前記水性剥離組成物中、(i)は唯一の窒素含有種である、組成物。
【請求項2】
(i)が、前記水性剥離組成物の総体積に対して、10mmol/L~2600mmol/Lの範囲の濃度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(ii)が、前記水性剥離組成物の総体積に対して、25mmol/L~3000mmol/Lの範囲の総濃度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(i)は(iii)に対し、(iii)の総濃度に対して、1以上のモル比を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
(ii)は(iii)に対し、(ii)と(iii)の個々の総濃度に対して、1以上のモル比を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
(ii)が、モノカルボン酸及び/又はその塩のみを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
(ii)が、2つ又は3つ以上のカルボン酸及び/又はその塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
(ii)が、ギ酸、酢酸及び/又はそれらの塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
(ii)が、少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
(ii)が、クエン酸、グルコン酸、ヘプタグルコン酸及び/又はそれらの塩を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
(ii)が、
(ii-a)第1のモノカルボン酸及び/又はその塩
並びに、更に
(ii-b)第2のモノカルボン酸及び/又はその塩、を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
金属堆積物とは異なる基材から、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及び/又はそれらのうちの少なくとも1つを含む合金を含む前記金属堆積物を部分的又は完全に電解除去するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の水性剥離組成物の使用。
【請求項13】
基材から金属堆積物を部分的又は完全に除去するための方法であって、以下の工程
(a)前記金属堆積物を含む前記基材をアノードとして用意する工程であり、前記金属堆積物は、パラジウム、銅、ニッケル、クロム、及び/又はそれらのうちの少なくとも1つを含む合金を含む、工程、
(b)(i)硝酸アニオン、
(ii)1つ又は2つ以上のカルボン酸及び/又はその塩、並びに
(iii)1種又は2種以上のハロゲンアニオン、を含む水性剥離組成物を用意する工程であり、
前記水性剥離組成物中、(i)は唯一の窒素含有種である、工程、
(c)少なくとも1つのカソードを用意する工程、
(d)前記基材を前記水性剥離組成物と接触させ、前記金属堆積物が前記基材から部分的又は完全に除去されるように、前記アノード及び前記少なくとも1つのカソードに電流を印加する工程であり、
前記基材は、前記金属堆積物とは異なる、工程、
を含む、方法。
【請求項14】
前記基材が鉄を含、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記金属堆積物からのパラジウム、銅、ニッケル、及びクロムのうちの少なくとも1つが、前記少なくとも1つのカソード上に同時に堆積される、請求項13に記載の方法。
【国際調査報告】