(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】細胞組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20241128BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20241128BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20241128BHJP
C12Q 1/6809 20180101ALN20241128BHJP
【FI】
C12N5/077
A61K35/32
A61P19/04
A61L27/38 110
A61L27/36 100
C12Q1/6809 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024534322
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 AU2022051442
(87)【国際公開番号】W WO2023102594
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524216635
【氏名又は名称】オーソセル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェン、ミンハオ
(72)【発明者】
【氏名】キャノン、モニーク
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ43
4B063QR08
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4B065CA44
4C081AB18
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB46
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA31
4C087ZA96
(57)【要約】
本発明は、in vitroで腱細胞を単離及び増殖する方法の技術分野に関する。本発明は、また、このような腱細胞を含む細胞組成物及び腱組織を修復するその使用に関する。特に、本発明は、テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)を発現する単離された腱細胞を含む細胞組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)を発現する単離された腱細胞を含む細胞組成物。
【請求項2】
テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)の両者の発現についてin vitroで選択された単離された腱細胞を含む細胞組成物。
【請求項3】
前記腱細胞が培養で選択的に増殖されたものである、請求項1に記載の細胞組成物。
【請求項4】
前記腱細胞が、Col1A1、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN及びFMOD又はそれらの組合せからなる群から選択される1種以上のマーカーを更に発現する、請求項3に記載の細胞組成物。
【請求項5】
薬学的に許容される担体を更に含む、請求項4に記載の細胞組成物。
【請求項6】
前記腱細胞が、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA1μg当たり100コピーより多くの各マーカーを発現する、請求項3に記載の細胞組成物。
【請求項7】
腱細胞を含む細胞組成物を得るための方法であって、前記組成物は、少なくとも70%の生存可能な腱細胞を含み、前記方法は、哺乳動物の腱のサンプルを得る工程;少なくとも1回の酵素による解離工程を行うことで、前記腱から腱細胞懸濁液を得る工程;適切な条件で前記細胞懸濁液を培養する工程;テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)の両者を発現する腱細胞を選択する工程;及び、適切な条件で選択された腱細胞を増殖させて、治療的な量を達成する工程を含む、方法。
【請求項8】
前記腱細胞が、腱のサンプル又は腱の生検に由来する、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitroにおいて腱細胞を単離及び増殖するための方法の技術分野に関する。本発明はまた、このような腱細胞を含む細胞組成物及び腱組織を修復するためのその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
腱は、筋肉を骨に架橋し付着させる、規則正しく配列された高密度で柔らかい結合組織の一種である。腱は、原線維の形態で配列されたI型コラーゲン(80重量%)で構成される。腱を覆うものは、薄い筋膜組織の膜である。腱はまた、結合組織の繊維の間に、いくらかのエラスチン繊維、プロテオグリカンマトリックス及びタンパク質様のフィラーも含有する。
【0003】
腱は、外傷、摩耗の蓄積又は外科的介入によって損傷を受けると、通常、治癒するのに、例えば骨より長い時間を要する。腱は、自発的な再生能が弱く、集中的なリモデリングにもかかわらず完全な再生はほとんど達成されない。
【0004】
腱が断裂した患者は、疼痛、可動性の低減、関節でつながれている組織と隣接する組織との間の潤滑性の低減を経験し、外傷後の瘢痕化、癒着及び疼痛のリスクが高まる。一部のケースにおいて、腱が外傷によって傷害を受けた後の治癒の過程において、体は、傷害の部位に過量の繊維状コラーゲンを沈着させる可能性がある。腱周囲の癒着はまた、腱の外科手術を受けた患者における結果を悪くする一因でもある。
【0005】
腱修復手術の後、治癒の過程の間に周囲の組織由来の線維芽細胞が創傷に移動して、瘢痕組織の形成が生じる。Peacock E K. In: Peacock E K (ed) Wound repair. W B Saunders, Philadelphia, 1984; pp 263-331。腱と周囲の組織との間に癒着が形成されると、修復された腱の正常に動く能力が低減する。これが、可動域の低減と炎症性疼痛の増加の結果として、術後のリハビリテーションを制限する。
【0006】
これまでに使用されてきた、さまざまな結果を伴う腱を修復するための1つの方法は、腱細胞治療である。これらの手順は、通常、所定期間にわたりin vitroで培養され、その後、場合によっては足場構造内に再び埋め込まれた、線維芽細胞、羊膜幹細胞、骨髄穿刺液又は他の腱に関連する細胞を使用する;しかし、腱細胞の培養には多くの落とし穴があり、そのため最終的には不良な臨床的結果を引き起こしてきた。
【0007】
したがって、断裂した、及びそれ以外の理由で傷害を受けた腱を処置することにおいて、線維芽細胞の形成、瘢痕化及び癒着形成を効果的に阻害すると予想される改善された方法及び生成物が引き続き必要である。線維芽細胞の形成、瘢痕化及び癒着形成を効果的に阻害すると予想される生成物は、断裂した、及びそれ以外の理由で傷害を受けた腱を処置することに有用であり得る。本発明は、上述した問題の一部を軽減できる生成物を記載する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、腱から単離された腱由来の細胞を含む細胞組成物を提供する。
【0009】
本発明の一実施形態において、テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)の両者の発現に関し、in vitroで選択した単離された腱細胞を含む細胞組成物が提供される。
【0010】
一部の実施形態において、細胞組成物は、培養で選択的に増殖し単離された腱細胞であって、Col1A1、TSP-4、TNC、DCN、FN1、BGN及びFMOD又はそれらの組合せからなる群から選択される1種以上のマーカーを更に発現する腱細胞と、薬学的に許容される担体とを含む。
【0011】
これらのマーカーの発現のレベルはゼロより大きく、すなわち、発現の検出可能なレベルが存在していなければならない。一実施形態において、細胞組成物は、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA 1μg当たり100コピーであるか又はそれを超えるマーカーを発現する、増殖し単離された腱細胞を含む。好ましくは、マーカーの発現レベルは、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA 1μg当たり、最小で、Scxが5000コピー、Col1A1が5000コピー、TNMDが1000コピーである。
【0012】
本発明の一実施形態において、腱細胞を含む細胞組成物を得るための方法であって、前記組成物は、少なくとも70%の生存可能な腱細胞を含み、方法は、哺乳動物の腱のサンプルを得る工程;少なくとも1回の酵素による解離工程を行うことで、前記腱から腱細胞懸濁液を得る工程;適切な条件下で前記細胞懸濁液を培養する工程;テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)の両者を発現する腱細胞を選択する工程;及び、適切な条件下で選択された腱細胞を増殖して、治療的な量を達成する工程を含む方法が提供される。
【0013】
好ましくは、腱細胞は、腱のサンプル又は腱の生検に由来するが、腱細胞源は、単離された腱であってもよい。腱のサンプルの性質に応じて、本方法は、好ましくは分離工程を含み、それによって腱細胞は、少なくとも部分的に腱鞘から分離される。この分離は、単に、例えば鉗子、メス若しくはピンセットの使用によって機械的に行ってもよいし、酵素のような解離剤を使用してもよい。一実施形態において、両者の方法を組み合わせてもよい。
【0014】
解離した腱細胞は、好ましくは増殖培地中で培養する。増殖培地は、馴化培地又は馴化されていない培地を含んでいてもよい。好適な馴化培地の例としては、イスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ダルベッコ最小必須培地(DMEM)若しくはα最小必須培地(MEM)又は同等な培地が挙げられる。好適な馴化されていない培地の例としては、IMDM、DMEM若しくはαMEM又は同等な培地が挙げられる。培地は、血清(例.ウシ血清、ウシ胎児血清、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清又は人工血清代替物[例.1%ウシ血清アルブミン、10μg/mlのウシ膵インスリン、200μg/mlのヒトトランスフェリン、10-4Mのβメルカプトエタノール、2mMのL-グルタミン及び40μg/mlのLDL(低密度リポタンパク質)])を含んでいてもよく、又は無血清であってもよい。
【0015】
一実施形態において、増殖培地は、アスコルビン酸(0.017mg/mL)を補充したDMEM(商標)F12中の20%v/vのウシ胎児血清(FBS)を含む。
【0016】
腱細胞が増殖の所望のレベルに達した後に、腱細胞を収集し、腱の傷害を防止又は処置するための治療的な量で細胞組成物を形成する。一実施形態において、増殖した腱細胞を遠心分離で収集し、好適な薬学的に許容される担体に、治療的な量、通常は1~10×106腱細胞/mlで再懸濁される。in vivoでの使用に好適である限り、すなわち不活性である限り、あらゆる好適な薬学的に許容される担体が使用できる。一実施形態において、腱細胞は、組立て用培地(アスコルビン酸(0.3%v/v;0.015mg/mL)及びゲンタマイシン(0.1%v/v;0.05mg/mL)を含み、フェノールレッドを含まないDMEM(商標)中の10%v/vのヒト血清)に再懸濁される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、培養条件における総遺伝子発現を示す。遺伝子発現データをさまざまな培養条件で分析した:A 最小の取り扱い;B 3日目における半分の培地の交換;C 5%の血清の補充を含む;D 欠乏培地;及びE サブコンフルエントでの継代。
【
図2】
図2は、PD腱細胞のスクレラキシス(Scx)の発現(コピー/μg cDNA)分布プロットを示す。
【
図3】
図3は、PD腱細胞のコラーゲンI(Col1A1)発現(コピー/μg cDNA)分布プロットを示す。
【
図4】
図4は、PD腱細胞のテノモジュリン(TNMD)発現(コピー/μg cDNA)分布プロットを示す。
【
図5】
図5は、ベースライン、及び細胞組成物(ATI)又はコルチコステロイド(CS)での処置後の、1、3、6及び12か月における平均ASESスコアを示す。エラーバー=平均の標準誤差。点線は、12か月目に、コルチコステロイド群における著しい脱落があったことを示す(n=4)。p値は、群間の統計学的に有意な差を提供する。NS=群間に統計学的に有意な差がない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明に従って、当業界の技術の範囲内で、従来の分子生物学、微生物学、細胞生物学、細胞培養及び組換えDNA技術を採用できる。このような技術は文献で詳細に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsch, & Maniatis; DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (D. N. Glover ed. 1985);Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait ed. 1984); Nucleic Acid Hybridization B. D. Hames & S. J. Higgins eds. (1985);Transcription and Translation B. D. Hames & S. J. Higgins eds (1984); Animal Cell Culture R. I. Freshney, ed. (1986);Immnobilized Cells and enzymes IRL Press, (1986)及びB. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (1984)を参照。本発明はまた、当業界において公知の免疫学における標準的な方法を採用する場合もある。
【0019】
別段の指定がない限り、本発明の開示で使用される全ての用語は、専門用語及び学術用語を含めて、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるとおりの意味を有する。さらなる指針によって、用語の定義は、本発明の教示をよりよく理解するために含まれる。
【0020】
以下の用語は、本明細書では、以下の意味を有する:
本明細書における「実施形態」、「一部の実施形態」、「他の実施形態」などへの言及は、記載された実施形態は特定の特色、構造又は特徴を含み得るが、全ての実施形態が、必ずしもその特定の特色、構造又は特徴を含むとは限らない場合があることを示すことに留意する。さらに、このような語句は、必ずしも同じ実施形態に対して言及しているとは限らない。さらに、特定の特色、構造又は特徴が、ある実施形態と関連して記載される場合、他の実施形態と関連して、このような特色、構造又は特徴に影響を与えることは、明示的に記載されているかどうかにかかわらず、そうではないことが明らかに述べられていない限り、当業者の知識の範囲内であると考えられる。つまり、以下に説明するさまざまな個々の要素は、特定の組合せで明示的に示されていないとしても、当業者であれば理解できるように、他の追加の実施形態を形成し、説明した実施形態を補完し及び/若しくは強化させるように互いに組み合わせ、又は配置することができることが企図されている。
【0021】
上下限値による数値範囲の記載は、その範囲に含まれる全ての数及び分数に加えて、示した上下限値も含む。
【0022】
表現「重量%」(重量パーセント)は、本明細書の全ての記載にわたり、別段の指定がない限り、配合物の全体の重量に基づくそれぞれの構成要素の相対的な重量を指す。
【0023】
表現「v/v%」(体積パーセント)は、本明細書の全ての記載にわたり、別段の指定がない限り、配合物の全体の体積に基づくそれぞれの構成要素の相対的な体積を指す。
【0024】
「1つの」及び「その」は、本明細書では、文脈から明らかに別段の指示がない限り、単数形及び複数形の指示対象を指す。一例として、「1つの細胞」は、1つ又は1つより多くの細胞を指す。
【0025】
本明細書では、「約」は、例えばパラメーター、量、一時的な持続時間のような測定可能な値を修飾する場合、変動が開示された本発明において性能を発揮するのに適切である限り、示した値の、±20%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、更により好ましくは±1%以下、更により好ましくは±0.1%以下の変動を包含することを意味する。しかし、修飾語「約」が対象とする値それ自体も具体的に開示されていることが理解される。
【0026】
「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」及び「含む(comprises)」並びに「構成される」は、本明細書では、「含む(include)」、「含むこと(including)」、「含む(includes)」又は「含有する(contain)」、「含有すること(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、構成要素のような後に続くものの存在を特定する包括的な又はオープンエンドの用語であり、当業界において公知の、又はそこで開示された、追加の、列挙されていない構成要素、特色、要素、メンバー、工程の存在を排除したり又は不可能にしたりしない。
【0027】
「組織」は、類似の形態や機能を有する細胞の集合体を意味する。
【0028】
「腱」は、哺乳動物に見いだされる高密度の線維性結合組織を意味し、主として腱鞘内に含有されるコラーゲン繊維で構成される。
【0029】
「腱のサンプル」は、腱の断片、切片又は生検を意味し、前記サンプルは、腱細胞を含有する繊維の束を含む。
【0030】
用語「腱細胞」は、本明細書では、腱から単離した細胞又は腱に由来する細胞を包含し、in vitroで培養された細胞も含む。
【0031】
「増殖」は、腱細胞数が増加することを意味する。
【0032】
「腱のサンプルを解離させる」は、腱組織を、単一の腱細胞、小さい細胞クラスター又は組織のより小さい断片に分離することを意味する。
【0033】
用語「酵素による解離工程」は、幾何学的に配列された2次元又は3次元構造、例えば腱のサンプル内に通常存在する細胞の完全又は部分的なつながりの切断をもたらす酵素又は酵素を含む溶液(消化溶液)を含むあらゆる工程として理解されるものとする。最終結果として、好ましくは主として単一の腱細胞及び/又は腱細胞クラスターからなる腱細胞溶液が最終的に得られる。解離は、好ましくは、腱細胞の細胞間の癒着結合を破壊することによって生じる。
【0034】
好ましくは、前記酵素による解離工程に続いて、腱鞘からの腱細胞の機械的な分離を行う。細胞懸濁液は、腱鞘からの腱細胞の前記機械的な分離の後、好ましくは1つ以上の酵素による解離工程によって、得ることができる。
【0035】
より好ましい実施形態において、前記酵素による解離工程は、腱細胞の単離の割合を増加させると予想される。この酵素による解離工程のために使用できる好適な酵素溶液(消化溶液)は、I型コラゲナーゼ、II型コラゲナーゼ、III型コラゲナーゼ、パパイン及びディスパーゼを含んでいてもよい。好ましくは、前記酵素による解離工程は、II型コラゲナーゼを含む。
【0036】
好ましくは、細胞は、腱細胞の培養及び増殖に特に最適化された増殖培地(腱細胞培地)中でプレーティングされると予想される。本発明の実施形態において、増殖培地は、馴化培地又は馴化されていない培地を含んでいてもよい。好適な馴化培地の例としては、IMDM、DMEM若しくはαMEM又は同等な培地が挙げられる。好適な馴化されていない培地の例としては、イスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、DMEM若しくはαMEM又は同等な培地が挙げられる。培地は、血清(例.ウシ血清、ウシ胎児血清、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清又は人工血清代替物[例.1%ウシ血清アルブミン、10μg/mlのウシ膵インスリン、200μg/mlのヒトトランスフェリン、10-4Mのβ-メルカプトエタノール、2mMのL-グルタミン及び40μg/mlのLDL(低密度リポタンパク質)])を含んでいてもよいし、血清を含まなくてもよい。
【0037】
一実施形態において、増殖培地は、アスコルビン酸(0.017mg/mL)を補充したDMEM(商標)F12中の20%v/vのウシ胎児血清(FBS)を含む。
【0038】
一般的に、腱細胞の得られた集団は、少なくとも70%の腱細胞を含む。より好ましくは、得られた細胞集団は、少なくとも80%の腱細胞、更により好ましくは少なくとも90%の腱細胞を含むと予想される。最も好ましい実施形態において、得られた細胞集団は、100%純粋な腱細胞からなると予想される。
【0039】
実際に純粋な細胞組成物が得られたことを確認するために、得られた腱細胞は、好適なマーカーの使用によって試験される。本発明の実施形態において、細胞組成物は、本明細書で定義するとおり、分子マーカーであるTNMD及びScxを発現する腱細胞を含む。好ましくは、腱細胞は、マーカーCol1A1、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN及びFMODの1種以上を更に発現する。
【0040】
最も好ましい実施形態において、最終的な結果を得るためにマーカーの組合せを試験する。これは、単離及び精製された腱細胞の性質を区別すること、及び得られたサンプルの純度を確立することを可能にする。上述のマーカーの存在に従わない細胞は、腱修復において有用な腱細胞としてみなされない。本発明による方法によって、純粋な腱細胞集団の非常に高い収量を得ることができる(最大100%)。これは、あらゆる下流での用途にとって大きな重要性を有する。
【0041】
一部の実施形態において、本発明の腱細胞は、発現マーカーが最小の発現量を有する。好ましい例において、発現マーカーは、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)で測定する場合、cDNA 1μg当たりのコピー数として示される。自己の細胞を移植に使用する前に、ddPCRを、細胞の純度、効力及び同一性(PPI)を評価する一連の分析の一部として使用する。ddPCRは、主要な表現型特異的マーカー遺伝子の発現を測定するもので、培養した細胞の使用の承認のために、マーカー遺伝子の発現が特定のレベル内に維持されていることが期待される。
【0042】
マーカーの発現のレベルはゼロより大きく、すなわち、検出可能なレベルの発現がなければならない。一実施形態において、細胞組成物は、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA 1μg当たり100コピーであるか又はそれを超えるマーカーを発現する、増殖し単離された腱細胞を含む。好ましくは、マーカーの最小の発現レベルは、以下のとおりである:ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA 1μg当たり、Scxが5000コピー、Col1A1が5000コピー、TNMDが1000コピーである。一部の実施形態において、Scx及びCol1A1の最小の発現は、cDNA 1μg当たり10,000コピーである。
【0043】
「細胞生存」は、細胞生存率を意味する。
【0044】
「細胞死を低減させること」は、細胞が致死すると予想される傾向又は確率を低減させることを意味する。細胞死は、アポトーシス、ネクローシスによるものであってもよいし、他の手段によるものであってもよい。
【0045】
「細胞性因子」は、細胞によって生産されるあらゆる生物学的物質を意味する。培地から単離された細胞性因子は、通常、培養中に細胞が分泌するが、本発明の範囲は、培養した細胞から増殖培地に放出されるあらゆる因子を含むことが意図される。一実施形態において、本発明の細胞性因子は、細胞が分泌するか、又は、細胞が壊れその内容物が増殖培地に放出される場合、培地に放出される。代表的な細胞性因子としては、HGF、VEGF、SDF-1α及びIGF-1が挙げられる。
【0046】
「分泌された細胞性因子」は、in vitroでの培養中に細胞が分泌するあらゆる生物学的に活性な物質を意味する。
【0047】
「薬剤(agent)」は、あらゆる低分子化合物、抗体、核酸分子若しくはポリペプチド、又はそれらの断片を意味する。
【0048】
「改善する」は、疾患の発達又は進行を減少させる、抑制する、弱める、減らす、停止させる又は安定化することを意味する。
【0049】
「変更」は、明細書に記載したもののような標準的な当業界公知の方法で検出する場合の、遺伝子又はポリペプチドの発現レベル又は活性における変化(増加又は減少)を意味する。本明細書では、変更としては、発現レベルにおける10%の変化、好ましくは25%の変化、より好ましくは40%の変化、最も好ましくは50%又は発現レベルにおけるそれより大きい変化が挙げられる。
【0050】
「由来する」は、本明細書では、対象、腱のサンプル又は細胞培養から腱細胞を得る過程を指す。
【0051】
「検出する」は、検出しようとする目的物の存在、非存在又は量を特定することを指す。
【0052】
「検出可能な標識」は、目的の分子に連結されていると、分光、光化学、生化学的、免疫化学又は化学的手段を介してその分子を検出可能にする組成物を意味する。例えば、有用な標識としては、放射性同位体、磁気ビーズ、金属製のビーズ、コロイド粒子、蛍光色素、電子密度が高い試薬、酵素(例.ELISAで一般的に使用されるものなど)、ビオチン、ジゴキシゲニン又はハプテンが挙げられる。
【0053】
「疾患」は、細胞、組織又は臓器の正常な機能に損傷を与える又は干渉するあらゆる状態又は障害を意味する。疾患の例としては、細胞数又は生物学的機能の低減をもたらす、組織の損傷又は傷害を含むあらゆる疾患又は傷害が挙げられる。
【0054】
本明細書では、用語「防止する」、「防止すること」、「防止」、「予防的処置」などは、障害又は状態を有さないが、それを発生させるリスクがある又は発生させやすい対象において、障害又は状態が発生する確率を低減することを指す。
【0055】
「修復」は、組織又は臓器における損傷又は疾患を改善することを意味する。
【0056】
本明細書では、用語「処置する」、「処置すること」、「処置」などは、障害及び/又はそれに関連する症状を低減又は改善することを指す。そうであることが除外されることはないが、障害又は状態を処置することは、障害、それに関連する状態又は症状が完全に消滅することを必要としないことが理解されると予想される。
【0057】
「マーカー」又は「発現マーカー」は、in vitroで本発明の腱細胞又は腱由来の細胞を培養することに関連する発現レベル又は活性において変更を有するあらゆるタンパク質又はポリヌクレオチドを意味する。本発明のマーカーとしては、スクレラキシス(Scx)、コラーゲンI(Col1A1)、テノモジュリン(TNMD)、トロンボスポンジン-4(TSP-4)、テネイシン-C(TNC)、デコリン(DCN)、フィブロネクチン(FN1)、ビグリカン(BGN)及びフィブロモジュリン(FMOD)が挙げられる。これらの多数のマーカーが複数のアイソフォームを有し、この明細書で使用するマーカーという用語は、全てのアイソフォームを含む。
【0058】
本明細書では、「得ること」は、例えば「薬剤を得ること」において、薬剤を合成すること、購入すること、又はそれ以外の方法で獲得することを含む。
【0059】
「参照」は、標準又は対照条件を意味する。
【0060】
「参照配列」は、配列比較の基礎として使用される定義された配列である。参照配列は、特定された配列のサブセット又はその全体であってもよく;例えば、全長cDNA若しくは遺伝子配列、又は完全長cDNA若しくは遺伝子配列のセグメントであってもよい。ポリペプチドの場合、参照ポリペプチド配列の長さは、一般的に、少なくとも約16アミノ酸、好ましくは少なくとも約20アミノ酸、より好ましくは少なくとも約25アミノ酸、更により好ましくは約35アミノ酸、約50アミノ酸又は約100アミノ酸であると予想される。核酸の場合、参照核酸配列の長さは、一般的に、少なくとも約50ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約60ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約75ヌクレオチド、更により好ましくは約100ヌクレオチド若しくは約300ヌクレオチドであるか、又はその前後若しくはその間のあらゆる整数であると予想される。
【0061】
「実質的に同一な」は、参照アミノ酸配列(例.明細書に記載したアミノ酸配列のいずれか)又は核酸配列(例.明細書に記載した核酸配列のいずれか)と少なくとも50%の同一性を示すポリペプチド又は核酸分子を意味する。好ましくは、このような配列は、アミノ酸レベル又は核酸レベルで、比較のために使用される配列に、少なくとも60%、より好ましくは80%又は85%、より好ましくは90%、95%又は更には99%同一である。
【0062】
配列同一性は、通常、配列分析ソフトウェアを使用して測定される(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705, BLAST, BESTFIT, GAP, or PILEUP/PRETTYBOX programs)。このようなソフトウェアは、さまざまな置換、欠失及び/又は他の改変に相同性の程度を割り当てることによって同一な又は類似の配列を一致させる。保存的置換としては、通常、以下の群内の置換が挙げられる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;フェニルアラニン、チロシン。同一性の程度を決定するための代表的なアプローチでは、BLASTプログラムを使用してもよく、e-3~e-100の確率スコアは、密接に関連した配列を示す。
【0063】
「患者」は、予防的処置を含む本発明の細胞、調製物及び組成物での処置が提供される動物、好ましくはヒトを指す。ヒト患者のような特定の動物に特有な状態又は病態を処置する場合、この用語は、その特定の動物を指す。「ドナー」は、患者における使用のために腱細胞を供与する個体(ヒトを含む動物)を指す。多くの場合、ドナーもまた患者であると予想され、すなわち自己処置である。
【0064】
「有効量」は、腱細胞の増殖を含む意図した結果をもたらす、又は、本発明の細胞、調製物及び細胞組成物で疾患若しくは状態を処置する若しくは処置しようとする患者への細胞の移植を行うのに有効な、増殖因子、細胞、調製物又は組成物のような成分の濃度を指す。
【0065】
「治療的な量」は、腱の傷害を防止又は処置できる本発明の細胞組成物中の増殖した腱細胞の体積又は数を指す。この腱細胞の体積又は数は、患者及び傷害の性質に依存する。一例は、1×106細胞/1mlの範囲内であり;しかし、正確な量又は体積は、臨床的な因子に依存する。
【0066】
用語「投与すること」又は「投与」は、処置目的のために本発明の細胞、調製物又は組成物を患者に送達する方法を指す:細胞、調製物又は組成物は、非経口(例.静脈内及び動脈内、他の適切な非経口経路)、経口、皮下、吸入又は経皮を含む多数の方法で投与してもよい。本発明の細胞、調製物及び組成物は、患者の臨床的状態、投与の部位及び方法、投薬量、患者の年齢、性別、体重、並びに医師が知っている他の要因を考慮した優れた医療行為によって投与される。
【0067】
「移植すること」、「移植」、「グラフトすること」及び「グラフト」は、患者の組織への損傷を修復すること、疾患、傷害若しくは外傷、遺伝学的損傷、又は例えば事故若しくは他の活動によって引き起こされた臓器若しくは組織への環境的な傷害を処置することのような、細胞が好都合な作用を示すことが意図される患者内の部位に、本発明の細胞、調製物及び組成物を送達する方法を記述するために使用される。細胞、調製物及び組成物は、移植を達成するために体内の適切な領域への細胞の移動に頼るあらゆる投与様式によって、体の離れた領域に送達してもよい。
【0068】
「本質的に」は、少なくとも20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上又は95%以上有効な、より好ましくは少なくとも98%以上有効な、最も好ましくは99%以上有効な、細胞の集団又は方法を指す。したがって、所定の細胞集団を濃縮する方法は、対象とする細胞集団を、少なくとも約20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%、85%、90%又は95%を濃縮し、最も好ましくは細胞集団を少なくとも約98%濃縮し、最も好ましくは細胞集団を約99%濃縮する。特定の実施形態において、本発明の濃縮した腱又は腱細胞集団中の細胞は、マーカーScx及びTNMDを発現する、好ましくはマーカーCol1A1、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN、FMODの1以上又はそれらの組合せも発現する細胞を本質的に含む。
【0069】
「単離された」又は「精製された」は、天然状態から「人の手によって」変更されたことを指し、すなわち、自然に存在するものを、その元の環境から取り出した場合、それは単離されたと定義される。一態様において、細胞の集団又は組成物は、自然において関連する可能性がある細胞及び材料を実質的に含まない。実質的に含まない又は実質的に精製されたとは、集団の少なくとも50%が標的細胞であることを意味し、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも90%が他の細胞を含まないことを意味する。細胞の集団又は組成物の純度は、当業界において周知の適切な方法によって評価できる。
【0070】
「断片」は、ポリペプチド又は核酸分子のある部分を意味する。この部分は、好ましくは、核酸分子又はポリペプチドの全長の、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%を含有する。断片は、10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000個のヌクレオチド又はアミノ酸を有していてもよい。
【0071】
「単離されたポリヌクレオチド」は、本発明の核酸分子の由来となる生物の天然に存在するゲノムにおいて、遺伝子に隣接する遺伝子がない核酸(例.DNA)を意味する。したがって、この用語は、例えば、ベクターに組み込まれた組換えDNA、自律複製型プラスミド若しくはウイルスに組み込まれた組換えDNA;原核生物若しくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組換えDNA;又は他の配列から独立した別個の分子(例.PCR又は制限エンドヌクレアーゼ消化によって生産されたcDNA又はゲノム若しくはcDNA断片)として存在する組換えDNAを含む。さらに、この用語は、DNA分子から転写されたRNA分子、及び、別のポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換え体DNAを含む。
【0072】
手法
本発明は、哺乳動物の腱から単離された腱細胞を含む細胞組成物を得るための方法であって、前記組成物は、少なくとも70%の生存可能な腱細胞を含む方法に関する。これらの組成物は、その増殖性の性質のために、さまざまな腱修復の要求に使用できる。
【0073】
本発明による方法は、あらゆるタイプ及び起源の腱組織に実行できる。好ましくは、哺乳動物の腱は、得られた細胞組成物の基礎であると予想される。前記哺乳動物の腱は、例えば、ヒト、マウス、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ラット、モルモット、他のげっ歯類などから得ることができるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
好ましい実施形態の1つにおいて、腱細胞は、処置しようとするヒト対象から単離及び精製され、すなわち腱細胞は自己の腱細胞である。
【0075】
腱細胞の単離
一実施形態において、腱のサンプルは、対象又は患者からの標準的な生検により得られる。腱は、機械的及び/又は化学的に解離され、篩又はストレーナーでろ過して、個々の腱細胞が生産される。次いで腱細胞は、洗浄され、計数され、標準的な組織培養技術を使用して増殖培地中に再懸濁される。
【0076】
組織培養のための培地及び試薬は当業界において周知である(例えば、Pollard, J. W. and Walker, J. M. (1997) Basic Cell Culture Protocols, Second Edition, Humana Press, Totowa, N.J.;Freshney, R. I. (2000) Culture of Animal Cells, Fourth Edition, Wiley-Liss, Hoboken, N.J.を参照)。腱細胞のインキュベートに好適な培地の例としては、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI培地、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)リン酸緩衝食塩水(PBS)及び当業界において公知の他の培地が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の細胞を培養するための適切な培地の例としては、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI培地が挙げられるが、これらに限定されるものではない。培地には、ウシ胎児血清(FCS)又はウシ胎児血清(FBS)、さらには、抗生物質、増殖因子、アミノ酸、阻害剤などが補充されてもよく、これらは十分に当業者の一般知識の範囲内である。
【0077】
一部の実施形態において、増殖培地は、馴化培地又は馴化されていない培地を含んでいてもよい。好適な馴化培地の例としては、IMDM、DMEM若しくはαMEM又は同等な培地が挙げられる。好適な馴化されていない培地の例としては、イスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、DMEM若しくはαMEM又は同等な培地が挙げられる。培地は、血清(例.ウシ血清、ウシ胎児血清、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清又は人工血清代替物[例.1%ウシ血清アルブミン、10μg/mlのウシ膵インスリン、200μg/mlのヒトトランスフェリン、10-4Mのβ-メルカプトエタノール、2mMのL-グルタミン及び40μg/mlのLDL(低密度リポタンパク質)])を含んでいてもよいし、血清を含まなくてもよい。
【0078】
一実施形態において、増殖培地は、アスコルビン酸(0.017mg/mL)を補充したDMEM(商標)F12中の20%v/vのウシ胎児血清(FBS)を含む。
【0079】
腱細胞を増殖培地中に再懸濁したら、所定の期間、腱細胞を培養してその数を増やす。増殖条件は、特異的なマーカーの発現を維持しながら調製物中の外植体腱細胞の数が増加するのに十分な期間、濃縮した外植体腱細胞調製物を培養することを必要とする。細胞は、一般的に、細胞が約1~100回の細胞周期、好ましくは5~75回の細胞周期;より好ましくは2~50、2~40又は2~20回、最も好ましくは少なくとも約2~10又は4~5回の細胞周期を完了するように維持される。これは、通常、約4~40日の培養期間、好ましくは約2~20日の培養期間、より好ましくは少なくとも又は約2~15日又は4~10日の培養期間、最も好ましくは少なくとも又は約4~8日の培養期間に相当する。
【0080】
濃縮した外植体腱細胞調製物に栄養を供給する頻度は、好ましい細胞マーカーを発現する能力を有する、又はそのような能力が増加した細胞の生存及び増殖を促進するように選択される。一実施形態において、細胞は、週1回又は2回栄養が供給される。外植体の細胞が放出した細胞性因子が失われないように、培地の全体を、新しい培地で、又は好ましくは所定の割合の培地で交換することによって、細胞に栄養を供給してもよい。
【0081】
好ましい一実施形態において、「半分の培地」による栄養の供給が使用される。理論又は仮説に制限されることは望まないが、半分の培地による栄養の供給の目的は、腱細胞のセクレトーム(馴化培地)を利用することである。この明細書では、セクレトームという用語は、腱細胞表面から流出したタンパク質、そして、非古典的分泌経路により放出された細胞内タンパク質又はin vitroにおける培養中のエキソソームを包含する。これらの分泌されたタンパク質としては、さまざまな酵素、増殖因子、サイトカイン及びホルモン、又は他の可溶性メディエーターが挙げられる。培養中の腱細胞以外の細胞は、細胞間及び細胞と細胞外マトリックスの相互作用を調節することによって、細胞の増殖、分化、浸潤及び血管新生に影響を及ぼす可能性があるタンパク質を分泌することが報告されている(Dowling & Clynes, 2011, Proteomics 2011, 11, 794-804参照)。
【0082】
多くの標準的な細胞培養方法の場合と同様に、本発明の腱細胞は、定期的な継代を必要とする。本発明の一実施形態において、継代はトリプシン処理工程を含む。前記トリプシン処理工程は、腱構造からの腱細胞の放出を可能にする条件で実行される。トリプシン処理は、細胞間の連結を破壊するのに十分に長い期間、室温(20~25℃)又はそれより低い温度若しくはそれより高い温度(例.37又は38℃)で実行できる。
【0083】
本発明の方法は、大規模に実行でき、例えば本発明の細胞組成物は、バイオリアクターで単離及び/又は増殖できる。
【0084】
本発明の方法は、in vivoで腱を修復する能力を有する、又はそのような能力が増加した外植体腱細胞の集団を含む新たに作り出された細胞組成物をもたらす。
【0085】
本発明の一態様において、マーカーであるテノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)の発現を特徴とする腱細胞を含む又は本質的に含む、単離及び精製された細胞組成物が提供される。
【0086】
一部の実施形態において、精製された細胞組成物は、培養で選択的に増殖し単離された腱細胞であって、Col1A1、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN及びFMOD又はそれらの組合せからなる群から選択される1種以上のマーカーを更に発現する腱細胞を含む。
【0087】
マーカーの発現のレベルはゼロより大きく、すなわち、発現の検出可能なレベルが存在していなければならない。一実施形態において、細胞組成物は、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA 1μg当たり100コピーであるか又はそれを超えるマーカーを発現する、増殖し単離された腱細胞を含む。好ましくは、マーカーの発現レベルは、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA 1μg当たり、最小で、Scxが5,000コピー、Col1A1が5,000コピー、TNMDが1,000コピーである。一部の実施形態において、Scx及びCol1A1の最小の発現は、cDNA 1μg当たり10,000コピーである。
【0088】
ddPCRに関する技術は周知であり、当業者によって理解される。好ましい一実施形態において、ddPCR反応物を個々のddPCR反応が行われる数ナノリットルのドロップレットのパーティション(QX200システムの場合、20,000個の油中水型エマルジョンドロップレット)に区切るために、微小流体工学技術を利用するBio-Rad QX200(商標)ddPCRシステムを使用して、ddPCRを行う。サンプルは、単一のドロップレット(約1nLの体積)に区分けされているため、増幅中に各ドロップレットにおいて独立したPCR反応が行われるとみなされる。増幅は40サイクル行い、完了後、増幅閾値を確立するデジタルリーダーを使用してサンプルの蛍光を定量化する。次いで、ポアソン統計を陽性ドロップレットの総ドロップレットに対する比に適用して、ddPCR反応における1マイクロリットル当たりのコピー数(cp/μL)の単位で標的の絶対濃度を決定する。
【0089】
ddPCRに使用する全てのオリゴヌクレオチド(プライマー、プローブ及びミニ遺伝子)は、例えば、Integrated DNA Technologies(IDT)が、カスタム設計し製造してもよい。蛍光プローブは、受領後、TE緩衝液(pH8.0)で100μMに希釈し、周辺光への曝露を防ぎながら-20℃で保管することで、最大の性能、安定性及び保管寿命を維持できる。プライマーは、通常、TE緩衝液(pH8.0)中、100μMのストック濃度で「ラボですぐつかえる(lab-ready)」状態で出荷され、受領後直ちに-20℃で保管する。全てのオリゴヌクレオチド製品の作業用ストックは、ddPCRのために推奨された濃度で(すなわちプローブの場合は5μM、プライマーの場合は25μM)、TE緩衝液(pH8.0)で調製される。
【0090】
ddPCRアッセイ対照は、RNA抽出、cDNA合成を含むアッセイの完全性を確認するために含まれ、ddPCR陰性対照は、外来のRNAによる汚染又は試薬による汚染がないこと、(プライマー二量体などによる)自己増幅の排除、並びに、逆転写酵素対照及び陽性対照(ミニ遺伝子)がないことを確認するために含まれる。
【0091】
本発明の細胞組成物は、明細書に記載した組成物の細胞の特徴の1つ以上に基づく、発現マーカー以外の陽性又は陰性選択技術を使用して調製することもできる。
【0092】
細胞の改変
本発明の細胞調製物又は細胞組成物は、自然に、又はin vivo若しくはin vitroでの遺伝子工学技術によってのいずれかで遺伝子改変された(形質導入又はトランスフェクトされた)腱細胞に由来するものであってもよいし、前記腱細胞で構成されていてもよい。
【0093】
本発明の細胞調製物及び組成物中の細胞は、細胞(又はそれらが得られる細胞)内の遺伝子に変異を導入することによって、又は細胞に導入遺伝子を導入することによって改変してもよい。挿入又は欠失変異は、標準的な技術を使用して細胞中に導入できる。導入遺伝子は、リン酸カルシウム又は塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション又はマイクロインジェクションのような従来の技術を介して細胞に導入できる。細胞を形質転換及びトランスフェクトするための好適な方法は、Sambrookら、及び他の実験教本に見いだすことができる。一例として、導入遺伝子は、適切な発現ベクターを使用して細胞に導入でき、このようなベクターの例としては、コスミド、プラスミド又は改変されたウイルス(例.複製欠損性レオウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。トランスフェクションは、ウイルス産生細胞の単分子層上で細胞を培養することを含む標準的な方法を使用して、容易に効率的に得られる。
【0094】
選択可能マーカーをコードする遺伝子を、本発明の細胞調製物又は組成物の細胞に組み込んでもよい。例えば、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ又は蛍光タンパク質マーカーなどのタンパク質をコードする遺伝子を、細胞に組み込んでもよい。蛍光タンパク質マーカーの例は、クラゲのA.ビクトリア(A. victoria)、又は、無脊椎動物の細胞で発現した場合にその蛍光特性を保持するそのバリアントからの緑色蛍光タンパク質(GFP)である。
【0095】
本発明の別の態様は、本発明の細胞調製物及び組成物中の細胞又はそれら由来の細胞が、細胞で生物学的に有意な量で通常生産されないか、又は少量で、ただし調節的な発現が治療上の利益をもたらすと考えられる状況において生産されるポリペプチド、ホルモン及びタンパク質をin vitro又はin vivoで生産するような方式で、本発明の細胞調製物及び組成物中の細胞を遺伝学的に操作することに関する。例えば、細胞は、通常発現されるタンパク質がより一層低いレベルで発現されるように改変できる。次いでこれらの生成物は、細胞から周囲の培地に分泌されるか又は精製されると予想される。このようにして形成された細胞は、発現された物質の連続する短い期間又は長い期間の生産システムとして役に立つ可能性がある。
【0096】
したがって、遺伝子を細胞に導入でき、このような細胞は次いで、遺伝子の発現が治療作用を有するレシピエントに注射される。
【0097】
目的の腱細胞の選択のために使用できる他の手順としては、密度勾配遠心分離、フローサイトメトリー、抗体でコーティングした磁気ビーズによる磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、mAbと結合し又はmAbと組み合わせて使用する、限定されるものではないが補体及び細胞毒素などの細胞毒性物質、固体マトリックスに結合させた抗体によるパニング、又は他のあらゆる便利な技術が挙げられるが、これらに限定されるものではない。細胞は、ヨウ化プロピジウム(PI)のような死細胞に関連する色素を採用することによって、死細胞に対して選択できる。好ましくは、細胞は、(αMEM)、ウシ胎児血清(FCS)若しくはウシ血清アルブミン(BSA)を含む培地、又は他のあらゆる好適な、好ましくは滅菌された等張培地中で収集される。本発明の選択された細胞は、明細書に記載した分泌された細胞性因子の単離のために採用できる。
【0098】
一実施形態において、本発明の選択された細胞は、TNMD及びScxの発現のために選択された腱細胞の精製された集団を含む。好ましくは、腱細胞は、ColI、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN及びFMOD又はそれらの組合せからなる群から選択される1種以上のマーカーを更に発現する。当業者は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)のようなさまざまな周知の方法を使用して、集団中の腱細胞の割合を容易に決定できる。選択された細胞を含む集団における好ましい純度の範囲は、約50~約55%、約55~約60%及び約65~約70%である。より好ましくは、純度は、少なくとも約70%、75%又は80%純粋であり、より好ましくは少なくとも約85%、90%又は95%純粋である。一部の実施形態において、集団は、少なくとも約95%~約100%の選択された細胞である。
【0099】
選択された細胞は、数時間、数日にわたる、又は更には数週間にもわたる培養で増殖させることができるその時間の間に、それらの培地は、腱細胞の増殖を支持する、腱細胞死を低減する、傷害事象後に腱の機能を保存する、腱の損傷を防止若しくは低減する、腱の機能を増加させる、腱の治癒を増加させる、又は腱の再生を増加させる1種以上の分泌された細胞性因子が富化された状態になる。このような生物学的に活性な物質が富化された培地は、「馴化培地」という。
【0100】
必要に応じて、腱細胞又はその子孫は、増殖状態での細胞を維持する条件で培養する。一実施形態において、細胞は、その増殖を強化するために、不死化される。細胞を不死化するための方法は当業界において公知であり、その例としては、細胞中で、ドミナントネガティブp53、テロメラーゼ、ベータカテニン、ノッチ及び/若しくは転写因子、又は細胞の増殖(例.幹細胞の増殖)を促進する他のポリペプチドの1種以上を発現させることが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前述のポリペプチドは、心外膜前駆細胞における発現に好適なあらゆるベクター(例.ウイルスベクター)を使用して発現させてもよい。
【0101】
低温保存
必要があれば、増殖させた腱細胞は、将来的な使用のために、標準的な技術を使用して低温保存してもよい。
【0102】
使用及び投与様式
腱細胞が増殖の所望のレベルに達した後に、腱細胞を収集し、腱の傷害を防止又は処置するための治療的な量で細胞組成物を形成してもよい。一実施形態において、増殖した腱細胞を遠心分離で収集し、好適な薬学的に許容される担体に、治療的な量、通常は1~10×106腱細胞/mlで再懸濁される。in vivoでの使用に好適である限り、すなわち不活性である限り、あらゆる好適な薬学的に許容される担体が使用できる。一実施形態において、腱細胞は、組立て用培地(アスコルビン酸(0.3%v/v;0.015mg/mL)及びゲンタマイシン(0.1%v/v;0.05mg/mL)を含み、フェノールレッドを含まないDMEM(商標)中の10%v/vのヒト血清)に再懸濁される。
【0103】
本発明の腱細胞調製物及び組成物は、さまざまな方法(例.移植)で使用でき、医学分野で非常に多くの用途を有する。それらは、外傷、年齢、代謝若しくは毒性傷害、疾患、特発性喪失又は他のあらゆる原因によって失われたか又は損傷を受けた腱、又は腱の成分若しくは構造の置換のために使用できる。
【0104】
本発明の細胞組成物を使用して修復可能な腱としては、腱障害、腱炎、腱症、腱滑膜炎、実質内腱断裂又は完全な腱断裂の根底にある原因を有する腱が挙げられる。腱断裂の例としては、これらに限定されないが、アキレス腱断裂、膝蓋腱断裂又は二頭筋腱断裂が挙げられ、これらは全て、本発明の実施形態による方法を使用して外科的に修復できる。さらに、本発明の細胞組成物は、構造が腱と非常に類似している靱帯の修復で利用可能であることが想定される。
【0105】
移植、グラフト又は投与は、本明細書で同義的に使用される場合、本発明による細胞調製物を単離する工程、及び調製物中の細胞を哺乳動物又は患者に移す工程を含んでいてもよい。移植は、哺乳動物若しくは患者への細胞懸濁液の注射、哺乳動物若しくは患者の組織への細胞塊の外科的移植、又は細胞懸濁液での組織若しくは臓器の灌流によって、細胞を哺乳動物又は患者に移すことを含んでいてもよい。細胞を移す経路は、細胞を特定の組織に存在させるための必要条件によって、及び所望の標的組織又は臓器を見いだし、それによって保持される細胞の能力によって決定できる。移植された細胞は、特定の配置に存在させようとする場合、組織に外科的に設置されてもよい。
【0106】
本発明は、自家移植(個体からの細胞が同じ個体で使用される)、同種移植細胞(ある個体からの細胞が別の個体で使用される)及び異種移植(ある種から別の種への移植)に使用できる。したがって、本発明の細胞、細胞調製物及び細胞組成物は、腱細胞又は腱細胞の欠陥を改善するために、又は組織を修復するために、自己又は同種移植で使用できる。
【0107】
本発明はまた、本発明の細胞、細胞調製物又は細胞組成物と、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤とを含む医薬組成物も企図する。本明細書に記載の医薬組成物は、有効量の活性物質が、混合物中で薬学的に許容されるビヒクルと組み合わされるように、対象に投与できる薬学的に許容される組成物の調製のためのそれ自体公知の方法によって調製できる。好適なビヒクルは、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)に記載される。これに基づき、組成物は、これらに限定されないが、1種以上の薬学的に許容されるビヒクル又は希釈剤と共に、好適なpHを有し、生理学的流体と等張の緩衝化溶液中に含有される、細胞、細胞調製物又は細胞組成物の溶液を含む。
【0108】
本発明のそれでもなお別の態様は、in vivoで腱組織を形成する能力を有する、又はそのような能力が増加した細胞を含む本発明の細胞組成物を生産するためのキットである。キットは、細胞組成物を生産するための本発明の方法のための試薬を含む。このキットは、好ましくは、少なくとも1種の陽性増殖因子及び使用説明書を含むと考えられる。
【0109】
1つの一般的な態様において、増殖された腱細胞は、腱の外科的修復における使用のための構築物、例えば足場を植え付けるか又は定着させるのに使用される。構築物は、硬質、半硬質又はフレキシブルであってもよい。使用において、構築物が腱又は腱の一部を覆い、次いで腱に接着する。構築物は、外科手術又は臨床的な手順中の罹患した又は損傷を受けた腱の外科的修復の後、腱の上に配置してもよいし、好ましくは腱の周りに巻き付けてもよい。罹患した又は損傷を受けた腱は、例えば、脛骨の腱、短腓骨筋、長い腱(longus tendon)などであってもよい。本方法は、理学療法、NSAIDなどのような、罹患した又は損傷を受けた腱のための1つ以上の追加の療法で対象を処置することを更に含んでいてもよい。
【0110】
以下の非限定的な例によって本発明を更に説明するが、このような例は、本発明を更に例示するものであり、本発明の範囲を限定することは意図しておらず、そのように解釈されるべきでもない。
【実施例】
【0111】
実施例1 腱細胞の単離及び精製
生検腱組織を、滅菌鉗子及び/又は滅菌メスを使用して患者から取り出し、滅菌ペトリ皿に置き、滅菌メスを使用してさいの目に切るか又は細かく刻む。消化溶液(>100U/mL)を添加し、ペトリ皿をオービタルシェーカーに置き、150rpm、37℃で2~4時間、又は腱の生検材料が個々の細胞に解離するまで、作動させる。次いで、増殖培地(アスコルビン酸(0.017mg/mL)を補充したDMEM(商標)F12中の20%v/vのウシ胎児血清(FBS))を添加して消化を停止する。次いで腱細胞(外植体腱細胞又は外植体細胞)を100μmのセルストレーナーでろ過し、標準的手順で遠心分離し、4mlの上記増殖培地に再懸濁し、<25cm2の滅菌フラスコに入れる。
【0112】
次いで外植体細胞を、目視検査及び培地交換の前に、37℃、5%CO2で12~24時間インキュベートする。外植体細胞がフラスコに接着したら、細胞のコンフルエンシーに応じて、7日後の培地交換、約3日後の半分の培地交換又はトリプシン処理のいずれかを標準的手順で行い、7日間培養する。外植体細胞の継代では、通常は25cm2、75cm2、2×175cm2といった、標準的な順序でフラスコに植え付ける。外植体細胞が樹立したら、低温保存又は処置サンプルの組立てを可能にするのに十分な外植体細胞(約10~20×106細胞)が得られるまで、通常は約7日ごとにトリプシン処理する。トリプシン処理は、通常約80%のコンフルエンシーで実行する。
【0113】
細胞が十分に増殖しない場合、ヒト血清を上記増殖培地に使用することがある。その場合、標準的なFBSではなく5%ヒト血清を補充し、約3日間だけ細胞上に存在させる。より一般的な手順は、約3日ごとに半分の培地の交換することである。この方法は、外植体細胞が産生した増殖因子を除去するのではなく維持することを原理としている。
【0114】
腱細胞の処置サンプルを調製するために、標準的な組織培養手順により、増殖した(又は以前に低温保存した)外植体細胞をトリプシン処理し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄する。次いで増殖した腱細胞を遠心分離で集め、細胞ペレットを、薬学的に許容される担体培地(組立て用培地という場合もある)(アスコルビン酸(0.3%v/v;0.015mg/mL)及びゲンタマイシン(0.1%v/v;0.05mg/mL)を含み、フェノールレッドを含まないDMEM(商標)中の10%v/vのヒト血清)中に2~5×106細胞/mLとなるように再懸濁する。
【0115】
実施例2 増殖した外植体腱細胞中の細胞マーカー
実施例1の方法で製造した外植体である腱細胞治療製品は、腱(慢性変性性腱障害)及び関節軟骨の傷害の処置に使用できる。増殖させた腱細胞を移植する前に、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を、細胞の純度、効力及び同一性(PPI)を評価する一連の分析の一部として使用する。ddPCRは、主要な表現型特異的マーカー遺伝子の発現を測定するもので、培養した細胞のリリースの承認のために、マーカー遺伝子の発現が特定のレベル内に維持されていることが期待される。
【0116】
ddPCR技術は、増幅の前に、規定の体積(約1nl)の数千ものマイクロ反応容器(ドロップレット)に分割して、蛍光ベースのPCR反応を行うことに基づく。増幅の後、各ドロップレットを、蛍光検出器(Bio-Rad QX100/QX200ドロップレットリーダー)で分析し、目的の遺伝子の増幅に関して陽性(標的を含有する)又は陰性のいずれかとして計数する。この方法は、反応効率とは無関係に、反応における標的DNA分子の数の直接的な定量を可能にする。
【0117】
培養した腱細胞の発現閾値は、単層培養の達成後に、初代外植体細胞内の遺伝子の発現レベルを評価することで決定する。これまでに説明したように、出願人は、過去のデータに基づいて予想される発現のレベルを確立しているが、in vivoからin vitroへの増殖への移行に関連して、ある程度の下方調節が予想される。データの十分な蓄積後の遺伝子発現データの再評価がアッセイ開発の必要な部分であることが、これまでに指摘されている。したがって、データは、検量線又は公知の濃度の標準を使用せずに、ポアソン統計に基づくBio-Rad QuantaSoftソフトウェアによって報告されたとおりに表現される。そのため、この報告では、蓄積したデータを使用して、細胞表現型の分析から予想される遺伝子発現の最小のコピー数を定義する。
【0118】
遺伝子コピー数(コピー/100μg RNA)が、明細書に記載した培養条件で安定して発現していることが判明した。
【0119】
発現の限界を、解釈の誤りが生じ難いバイアスのない評価方法である、ノンパラメトリックなアプローチ(パーセンタイル値)を使用して確立した。この方法は、公開された指針に基づく。このアプローチでは、参照下限値は、集団の下限のX(2.5、5又は10)パーセンタイルに当てはまる値として確立される。例えば、データセットが109個のデータポイントからなる場合、2.5%の参照下限値は、0.025×109=2.725(端数処理して3)である。したがって、このデータセットの場合、データ中の(昇順でソートした)3番目の値は、参照下限値又は最小の発現閾値を表す。その結果、分析した集団の大部分に基づいて参照範囲が確立される。
【0120】
(表1の)ddPCR反応物(最終体積20μL)当たりのcDNAの総量を使用して、cDNA 1μg当たりの標的遺伝子のコピー数を計算した。この分析では、固有の生物学的変動から予想される発現レベルの全範囲を捕獲するために、処理した全てのドナーの培養を評価した。そして、過去の発現データを再分析し、コピー/μg cDNAとして表し、頻度分布ヒストグラムとして提示して、結果を可視化した(
図2~4)。コラーゲンIを
除く全ての遺伝子の許容できる発現レベルは、観察したデータの分布に基づいており、許容できるカットオフポイント(最小の発現閾値)として5パーセンタイルを選択した。コラーゲン1A1では許容できる結果における分布が大きいために、カットオフポイントを10パーセンタイルとして選択した。評価したデータは、in vitroでの培養環境の影響を取り除き、さらに、親細胞集団の遺伝子発現プロファイルを正確に表すため、in vitroでの培養の開始時(PD)に収集したサンプルからのものであった。
【0121】
【0122】
発現の最終的な閾値を確立するために、分析は、最小で20個のPDサンプルに依存する。
【0123】
スクレラキシス(SCX)
in vitroでの培養の開始時におけるSCXの発現の範囲を、
図2に示す(n=157)。SCX発現は、PDにおいて、246~85385コピー/μg cDNA(中央値=7000コピー/μg cDNA)である。結果の分布が比較的タイトであったため、5パーセンタイルの結果が予測される発現の下限の区切りであり、データにおける(昇順でソートした)8番目の値(0.05×157=7.85)をカットオフとして使用する。
【0124】
コラーゲンI(COL1A1)
in vitroでの培養の開始時におけるCOL1A1の発現の範囲を、
図3に示す(n=157)。COL1A1I発現は、PDにおいて、0~7.69×10
8コピー/μg cDNA(中央値=2.26×10
6コピー/μg cDNA)である。結果の分布が比較的広範であったため、10パーセンタイルの結果が予測される発現の下限の区切りであり、データにおける(昇順でソートした)16番目の値(0.1×157=15.7)をカットオフとして使用する。
【0125】
テノモジュリン(TNMD)
in vitroでの培養の開始時におけるTNMDの発現の範囲を、
図4に示す(n=21)。TNMD発現は、PDにおいて、2082~10580コピー/μg cDNA(中央値=4182コピー/μg cDNA)である。結果の分布が比較的小さかったため、5パーセンタイルの結果が予測される発現の下限の区切りであり、データにおける(昇順でソートした)1番目の値(0.05×21=1.05)をカットオフとして使用する。
【0126】
出願人は、ddPCRの導入後、多数の培養サンプルを評価してきた。細胞を、in vitroでの培養の開始時(消化後/PDサンプル;タイムポイント1)及び培養の終了時(投与のための組立ての前-PAサンプル;タイムポイント2)に分析した。2つのタイムポイントにおける評価の目的は、特定の遺伝子の発現が、in vitroでの細胞培養の間に、確実に維持されることであった。説明した最小の発現レベルは、PAタイムポイントでの培養後に達成されなければならない。最小の発現レベルは、細胞表現型の予測を確実にするための過去の遺伝子発現データに基づいているので、製造したバッチ間の一貫性を確実にする。
【0127】
発現の限界
特定したパーセンタイル値に基づく最小の発現の閾値レベルを、表2に要約する。これらの値は、表現型特異的な遺伝子を有する自己細胞治療製品の組立ての前に試験する培養した細胞に必要な最小の発現レベルである。これらのデータは、腱細胞の表現型の確認のために、スクレラキシスが(コラーゲンIの場合と同様に)単独でマーカーとして使用できるか、両者のマーカーを一緒に使用できることを示す。コラーゲンI発現の10パーセンタイル(データ値の最も低い10%)をグラフ化すると、対応するスクレラキシス発現レベルの発現の傾向は高い。このように、観察された発現レベルは、標的遺伝子それ自体の発現が低い場合、その遺伝子を標的とする転写因子は多いという予測と一致する。
【0128】
【0129】
考察
コピー/μg cDNAに関するデータの分析は、形態学及び増殖特性の評価を含む細胞生成物の細胞特性を決定に使用する一連の全分析と一致する。
【0130】
コピー数がddPCRデータを評価する最も適切な方法であることを確立し、培養した細胞の表現型特異的な遺伝子発現に関する予測を定義する最小の発現レベル(閾値)を確立した。
【0131】
結論
コピー/μg cDNAとして表されるddPCRデータの分析は、文献で報告されているGAPDHのような内因性又はハウスキーピング遺伝子の正規化した遺伝子発現の比率よりも、関連性が高い。分析により、コピー/μg cDNAデータの絶対的な表現が、正規化した比率に基づく相対的な表現よりも、PPIに関する細胞特性をよりよく表していることが示された。
【0132】
実施例3 回旋腱板の腱障害及び断裂に対する腱細胞移植とコルチコステロイド注射のランダム化対照試験
実施例1の方法によって培養で増殖し、薬学的に許容される担体、すなわち、アスコルビン酸(0.3%v/v;0.015mg/mL)及びゲンタマイシン(0.1%v/v;0.05mg/mL)を含み、フェノールレッドを含まないDMEM(商標)中の10%v/vのヒト血清(組立て用培地ともいう)に再懸濁した自己の腱細胞を含む本発明の細胞組成物を、実施例2の方法によって特徴付け、次いで最小限の侵襲処置で使用して、回旋腱板の腱障害及び断裂の根本的な病変に対処した。このランダム化対照試験は、部分的な実質内回旋腱板断裂及び腱障害の患者に対する新たな処置としての本発明の腱細胞の実現可能性を調査するために設計された。肩の機能、疼痛、生活の質及び腱構造を、処置前と処置後12か月間、検証済みの評価指標を使用して評価した。
【0133】
この試験では、19人の参加者が、ランダム化され、本発明の細胞組成物による処置を受け、11人の参加者が、ランダム化され、コルチコステロイド処置を受けた。群間でベースラインの特徴に有意差はなく、処置後12か月の期間中に追跡不能な参加者はいなかった。ベースラインの特徴から、2つの参加者群は、慢性の変性性回旋腱板の病変を有し、介入なしでは改善する可能性が低いことが確認された。
【0134】
この試験は、実質内腱断裂を伴う慢性の変性性回旋腱板の腱障害を有する参加者における、コルチコステロイド注射と比較した、本発明の細胞組成物の有効性、安全性及び忍容性の予備的な証拠を提供し、大規模で統計学的に検出力のある有効性試験の実現可能性を評価するために行われた。この報告で示されたデータと分析結果は、試験がその目標を達成したことを確認している。
【0135】
全体的に、2つの試験処置は忍容性が良好であり、本発明の腱細胞に関する安全性の懸念は確認されなかった。細胞組成物処置群の全ての参加者は、12か月の経過観察のための来院を完了し、コルチコステロイド群の64%は、応答の欠如/処置失敗のために早期に離脱した。さらに、コルチコステロイド群の54%は、試験処置を受けてから12か月以内に回旋腱板の腱障害に対する追加処置を受けた。
【0136】
細胞組成物での処置を受けた参加者は、コルチコステロイド処置を受けるようにランダムに割り当てられた参加者よりも、処置後の疼痛及び機能スコアが、統計学的及び臨床的に有意に改善した。細胞組成物移植群における疼痛及び機能スコアの改善は臨床的に意味があり、参加者の大部分が、よい状態を反映するスコアを報告した。コルチコステロイド群は、疼痛の一時的な改善を経験し、3か月目にピークに達した後にベースラインに戻ったが、機能における有意義な改善は達成されなかった。MRIスキャンは、臨床では回旋腱板の状態の診断に役に立つが、広く使用され検証済みの定量的な手法ではないことと、MRIで観察される腱の異常が必ずしも臨床的に重要な症状の存在を示すわけではないという知られている現象のために、通常、処置の有効性のモニターには使用されない。MRIスキャンの分析結果はこれと一致し、腱構造/断裂のサイズと処置後の臨床的結果との間に一致する関係がないことが示された。
【0137】
この試験の結果は、実質内腱断裂を伴う回旋腱板の腱障害を処置に、本発明の細胞組成物がコルチコステロイド注射より有効であることを示す。これらのデータは、将来的な重要なランダム化対照試験のための、参加者集団、サンプルサイズの計算及び有効性の評価指標を含む試験設計の主要な要素を支持する証拠を提供する。
【0138】
簡潔に説明すると、腱細胞処置にランダムに割り当てられた参加者から、局所麻酔下での腱の生検によって、自己の腱細胞を採取した。14ゲージの生検針を使用して、腱の最大で3×1mmの切片を、腱の表面から回収した。参加者は、1~2日間、過剰な使用や過剰な反復動作を避けるようにアドバイスを受けた。膝蓋腱が主な採取源であったが、必要に応じて他の腱も生検に選択された。
【0139】
生検の約4週間後に、10%の自己血清に懸濁させた最大で2mlの自己の腱細胞(2~5×106細胞/ml)を、18ゲージの針を使用して注射した。注射は、超音波ガイダンスのもとで腱の障害/断裂部位に行った。参加者は、2日間は休息し、4週間は軽い家事/事務作業に限るようにアドバイスを受けた。
【0140】
コルチコステロイド処置を受けた参加者は、超音波ガイダンスのもとで、肩峰下腔に、局所麻酔と組み合わせた1mLのCelestone(登録商標)Chronodose(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム3.9mg/ベタメタゾン酢酸エステル3mg)の単回注射を受けた。
【0141】
有効性及び安全性の変数
有害事象
有害事象に関する情報を、来院1から最後の来院まで収集した。試験処置又は手順に関連する有害事象を把握するために、各来院時に、患部の身体検査により、参加者から具体的な情報を収集した。
【0142】
米国肩肘外科学会肩評価(ASES)
ASESは、肩及び肘の手術の多施設治験における結果を評価する標準化した方法を提供するために米国肩肘外科学会が作成した。患者は疼痛及び機能に関する項目を含む質問票に全て回答し、スコアが高いほど疼痛及び機能が悪いことを示す。統合ASESスコアの範囲は0~100で、スコアが高いほど結果がよいことを示す。12.0のASESスコアの変化は、臨床的に重要な最小の差(MCID)を表す。患者の許容できる症状の状態(PASS)は78.6と報告されている。
【0143】
生活の質の評価(AQoL-6D)
AQol-6Dは、生活の質を評価する検証済みで健康に関連する多属性の実用的な方法である。患者は、6つの側面(自立した生活、人間関係、精神的健康、対処行動、疼痛、感覚)にわたる20個の項目からなる質問票に全て回答する。AQoLは、費用効用分析及び質調整生存年の計算に使用できる。スコアは、0(死亡)~100(完全な健康)である。
【0144】
コンスタントスコア
コンスタントスコアは、欧州肩肘外科学会が推奨するスコアリングシステムであり、欧州において最も一般的に使用されている評価指標である。これは、患者質問票と臨床検査で得られた疼痛、機能、可動域及び外転筋力の評価を含む検証済みの評価指標である。コンスタントスコアの範囲は0~100ポイントで、スコアが高いほど結果がよいことを示す。コンスタントスコアのMCIDは10.4、PASSは80と報告されている。
【0145】
MRIスキャン
処置前と処置後6及び12か月に、3T MRIイメージングを実行した。これまでに参加者にMRIスキャンが行われていた場合、処置前のMRIは治験責任者の裁量で再度行った。例えば、試験に参加する2~3か月以上前にスキャンが行われていた場合、参加者の臨床的状態が介入期間中に変化している可能性があるため、参加者には処置前にMRIを行った。
【0146】
身体検査
試験処置後の関節の異常、機能を記録し、局所的な有害事象をとらえるため、患部の簡単な身体検査を実行した。
【0147】
肩の簡易試験
SSTは、米国で開発され、肩の機能不全の患者において検証されている。これは、患者が回答する12項目の質問票により、患部の肩の機能的な制限を測定する。各項目について、患者は、患者が活動を実行できるか又はできないかを示し、スコアの範囲は、0(最悪)~100(最良)である。SSTのMCIDは16.7、PASSは70と報告されている。
【0148】
視覚アナログスケール疼痛評価(VAS疼痛)
視覚アナログスケール(VAS)疼痛スコアの範囲は、疼痛を0(疼痛なし)~10(最も強い疼痛)で評価する。参加者は、痛みが最も強いとき、安静時、夜間、及び患部で作業を行うときの疼痛を評価するように求められる。参加者の来院時の全体的な疼痛スコアを、来院時に参加者が提供した全ての評価の平均をとることで計算した。VAS疼痛のMCID及びPASSは、それぞれ1.4及び3.0として報告されている。
【0149】
統計的分析
試験データの分析で採用する統計の原則と方法は、統計的分析プラン(SAP、バージョン1、2021年11月11日)に記載されている。
【0150】
結果
治験期間
調査は、2017年7月25日の最初の参加者のランダム化で始まり、2020年6月17日の最後の参加者のランダム化で終了した。経過観察の最後の来院は、2021年8月18日に完了した。
【0151】
参加者の素因
35人の患者が、インフォームドコンセントに署名し、適格性について正式に評価された。3人が、好適な厚さの実質内棘上筋腱断裂を部分的に有しておらず、排除された。細胞組成物群に割り当てられた2人の患者は、全ての適格性の基準を満たしていないにもかかわらずランダム化され、その後、処置を受ける前に試験から除外された。最終分析セット(FAS)は、コルチコステロイド処置にランダム化され、処置された11人の参加者、及び、本発明の細胞組成物にランダム化され、処置された19人の参加者で構成された。処置後12か月の期間で、追跡不能な参加者はいなかったが、コルチコステロイド群の7人の参加者は、試験プロトコールが認めるように、12か月目の来院の前に離脱して、別の処置を受けることを選択した。
【0152】
人口統計及びベースラインの特徴
試験処置の時点での登録された参加者の平均年齢は50.5歳(SD8.5、範囲30.3~63.4)であった。参加者は10人が女性で20人が男性であった。肩の症状の平均持続時間は23.5か月(SD18.3。範囲7~60)で、参加者は、試験参加前に平均4.0回の処置(コルチコステロイド注射及び物理療法を含む)を受けていた。
【0153】
有効性の分析
ASESスコアは、疼痛及び機能の患者による評価を含み、その範囲は0(最悪)~100(最良)ポイントである。細胞組成物群のベースラインの平均ASESスコアは74.2ポイント(SD15.2)であった。処置後、平均ASESスコアは、1か月で82.1(SD16.4)、3か月で87.1(SD13.3)、6か月で88.6(SD11.4)、12か月で93.3(SD7.8)に増加した。6及び12か月におけるASESスコアにおける平均の改善(それぞれ14.4及び19.1ポイント)がASESの公開されたMCIDより大きかったことから、平均して、参加者は、細胞組成物による処置後の疼痛及び機能に関し、有意義で持続的な改善を経験したことが示された。さらに、6か月目では、細胞組成物群の72%が、「許容できる」症状の状態(PASS)に等しいか又はそれより優れたASESスコアを報告した。これは、処置後12か月で参加者の95%に増加した。
【0154】
コルチコステロイド群の平均ASESスコアは、ベースラインで62.6(SD19.6)、処置後1か月目は63.6(SD19.9)であった。平均スコアは、3か月目に74.8(SD19.3)に改善し、6か月目にわずかに減少した(平均74.0、SD19.8)。コルチコステロイド群の7人の参加者は、症状の悪化又は改善の欠如のために12か月目の前に離脱した。4人の参加者が12か月目に完了し、平均ASESスコアは62.9(SD23.6)であった。ASESスコアにおける平均の変化は、6か月目に11.4ポイントであったが、これは有意義な改善の閾値を満たしておらず、12か月目におけるベースラインからの変化を正確に評価するデータは不十分であった。参加者の55%のみが、許容できる症状の状態を満たすか又はそれを超える6か月目のASESスコアを達成した。
【0155】
群間の比較では、平均ASESスコアは、処置後の全てのタイムポイントにおいて、コルチコステロイドと比較して、細胞組成物群で有意により高かったことが示された:1か月目(p=0.006)、3か月目(p=0.026)、6か月目(p=0.012)及び12か月目(p=<0.001)(
図5)。
【0156】
コンスタントスコア
コンスタントスコアは、疼痛、機能、強度及び可動域の患者及び医師の評価からなる。最終的なスコアの範囲は、0(最悪)~100(最良)のポイントである。細胞組成物群のベースラインの平均コンスタントスコアは、75.2(SD11.6)であった。処置後、平均コンスタントスコアは、1か月で81.8(SD11.5)、3か月で83.5(SD10.3)、6か月で84.9(SD10.7)、12か月で86.5(SD9.5)に増加した。6か月におけるコンスタントスコアにおける平均の改善は、9.7ポイントであった;コンスタントスコアの公開されたMCIDをわずかに下回っていた。処置後12か月のコンスタントスコアの平均の改善が11.3ポイントであったことから、平均して、参加者は、細胞組成物での処置の後に、疼痛及び機能において有意義で持続的な改善を経験したことが示される。さらに、6か月目に、細胞組成物群の73%が、「許容できる」症状の状態(PASS)に等しいか又はそれより優れたコンスタントスコアを達成した。これは、12か月目で維持され、参加者の71%がPASSを達成した。
【0157】
コルチコステロイド群のベースラインの平均コンスタントスコアは66.5(SD16.3)であった。処置後1か月の平均スコアは67.6(SD18.3)で安定であり、その後、3か月目に70.6(SD19.6)、6か月目に71.1(SD20.5)にわずかに増加した。コルチコステロイド群の7人の参加者は、症状の悪化又は改善の欠如のために12か月目の前に離脱した。3人の参加者が12か月目にコンスタントスコアを完了し、平均65.4(SD23.1)であった。コンスタントスコアにおける平均の変化は、6か月目に4.6であったが、これは有意義な改善の閾値を満たしておらず、12か月目におけるベースラインからの変化を正確に評価するデータは不十分であった。コルチコステロイド群の40%のみが、許容できる症状の状態を満たすか又はそれを超える6か月目のコンスタントスコアを達成した。
【0158】
群間の比較では、処置後の平均コンスタントスコアは、細胞組成物群において、コルチコステロイド群と比較して、1か月目(p=0.020)、6か月目(p=0.026)及び12か月目(p=0.024)で有意により高かったことが示された。
【0159】
肩の簡易試験(SST)
SSTは、患部の肩を用いた具体的な作業を実行する能力の患者による評価に基づいて、患部の肩の機能的な制限を測定する。スコアの範囲は、0(最悪)~100(最良)のポイントである。細胞組成物処置群のベースラインの平均SSTスコアは、67.5(SD22.5)であった。処置後、SSTスコアは、1か月目に77.8(SD19.0)、3か月目に84.3(SD17.8)、6か月目に88.0(SD19.0)、12か月目に90.8(SD14.1)に改善した。6及び12か月におけるSSTスコアにおける平均の改善(それぞれ20.5及び23.3)がSSTに関して公開されたMCIDより大きかったことから、平均して、参加者は、Ortho-ATI(商標)での処置の後に疼痛及び機能における有意義な改善を経験したことが示された。さらに、6か月目では、細胞組成物群の89%が、「許容できる」症状の状態(PASS)に等しいか又はそれより優れたSSTスコアを報告した。これは、処置後12か月(84%)で類似していた。
【0160】
コルチコステロイド群の平均SSTスコアは、ベースラインが64.4(SD22.4)で、処置後1か月で60.6(SD24.5)に悪化し、その後、3か月で69.7(SD22.1)、6か月目に75.0(SD26.6)に増加した。コルチコステロイド群の7人の参加者は、症状の悪化又は改善の欠如のために12か月目の前に離脱した。4人の参加者が12か月目に完了し、平均SSTスコアは77.1(SD31.5)であった。SSTスコアにおける平均の変化は、6か月目に10.6ポイントであったが、これは有意義な改善の閾値を満たしておらず、12か月目におけるベースラインからの変化を正確に評価するデータは不十分であった。6か月目に、参加者の72%は、許容できる症状の状態を満たすか又はそれを超えるSSTスコアを有していた。
【0161】
群間の比較では、処置後の平均SSTスコアが、細胞組成物群において、コルチコステロイド群と比較して、3か月目(p=0.041)及び12か月目(p=0.046)で有意により高かったことが示された。
【0162】
視覚アナログスケール疼痛評価(VAS疼痛)
VAS疼痛評価は、0(疼痛なし)~10(最も強い疼痛)である。参加者は、痛みが最も強いとき、安静時、重い物体の持ち上げ、繰り返しの作業の実行、及び夜間における参加者の疼痛を評価するように求められた。個々の評価のために報告されたスコアの平均をとることによって、全体的な疼痛スコアを得た。細胞組成物群のベースラインの平均VAS疼痛スコアは、4.8(SD1.8)であった。処置後、平均VAS疼痛スコアは、1か月で2.8(SD1.9)、3か月で2.3(SD2.0)、6か月で2.3(SD2.1)、12か月で1.6(SD1.3)に改善した。6か月及び12か月におけるVAS疼痛スコアにおける平均の改善(それぞれ-2.5及び-3.2)がVAS疼痛に関して公開されたMCIDより大きかったことから、平均して、参加者は、細胞組成物での処置の後に疼痛の有意義な低減を達成したことが示される。さらに、6か月目では、細胞組成物群の67%が、「許容できる」症状の状態(PASS)に等しいか又はそれより優れたVAS疼痛スコアを報告し、これは、処置後12か月で参加者の84%に改善した。
【0163】
コルチコステロイド群の平均VAS疼痛スコアは、ベースラインが5.2(SD1.6)で、処置後1か月でほんのわずか改善した(平均5.1;SD2.0)。平均スコアは、3か月目に2.8(SD2.0)に改善し、処置後6か月で4.2(SD1.9)に悪化した。6か月におけるVAS疼痛スコアにおけるベースラインからの平均の改善(-1.0)は、有意義な改善に関する閾値未満であった。さらに、参加者の27%のみが、6か月目に、公開されたPASSに等しいか又はそれより優れたVAS疼痛スコアを達成した。コルチコステロイド群の7人の参加者は、症状の悪化又は改善の欠如のために12か月目の前に離脱した。4人の参加者が12か月目に完了し、平均VAS疼痛スコアは4.3(SD2.0)であった。
【0164】
平均VAS疼痛スコアは、処置後3か月で両者の処置群において改善した。細胞組成物群は、6か月で疼痛を持続的に低減させ、これは、処置後12か月まで続いた。対照的に、コルチコステロイド群における疼痛の低減は一時的であり、VAS疼痛スコアは3か月目~6か月目に増加した。群間の比較では、平均VAS疼痛スコアは、処置後の全てのタイムポイントにおいて、コルチコステロイド群と比較して、細胞組成物群において有意に低いことが示された:1か月目(p=0.002)、3か月目(p=0.047)、6か月目(p=0.010)及び12か月目(p=<0.001)。
【0165】
生活の質の評価(AQoL-6D)
AQoL-6Dスコアの範囲は、0~100である(高いスコアは、優れた健康状態を示す)。細胞組成物群のベースラインの平均AQoL-6Dスコアは、78.0(SD9.3)であった。処置後、平均スコアは、1か月で83.1(SD8.4)、3か月で83.5(SD8.6)、6か月で85.2(SD7.1)、12か月で87.5(SD6.8)に改善した。
【0166】
コルチコステロイド群の平均AQoL-6Dスコアは、ベースラインが74.6(SD8.5)で、スコアは比較的安定なままであり、処置後1か月で(72.0;SD11.9)、3か月で(77.2;SD9.2)、6か月で(79.4;SD8.7)であった。コルチコステロイド群の7人の参加者は、症状の悪化又は改善の欠如のために12か月目の前に離脱した。4人の参加者が12か月目に完了し、平均AQoL-6Dスコアは76.6(SD19.0)であった。
【0167】
2つの群は、処置後の平均AQoL-6Dスコアにおいて小さい改善を示し、細胞組成物群は、コルチコステロイド群における4.8ポイントと比較して、6か月目に7.2ポイント改善した。12か月目における細胞組成物群における平均の改善は、9.5ポイントであった。細胞組成物群は、コルチコステロイド群と比較して、1か月目の平均AQoL-6Dスコアが有意(p=0.010)に優れていたが、他のタイムポイントにおいて群間に統計学的に有意な差はなかった。
【0168】
MRIスキャン
全ての参加者は、ベースライン時に(前処置)MRI評価を受けた。しかし、一部の処置後MRIスキャンは実行されなかった。行われなかった8回のMRIスキャンのうち6回は、COVID-19規制によるものであった。コルチコステロイド群において、全ての参加者は処置後6か月にMRIを受けた。細胞組成物群において、6か月で19人の参加者のうち17人及び12か月で19人の参加者のうち16人がMRIを受けた。
【0169】
全ての参加者がベースライン時に回旋腱板の病状を示し、実質内棘上筋断裂の厚さの部分的なばらつきがあり、腱障害の程度が異なった。MRIの臨床的な評価は、細胞組成物を受けた患者は、断裂の低減及び腱障害の改善への傾向を示したが、結果はばらつきもみられたことが示された。コルチコステロイドのみを受けた参加者の大部分は、12か月目の前に多くが脱落したために、6か月における処置後MRI評価は1回であった。MRI評価は、コルチコステロイド注射を受けた多数の患者が持続的な腱障害を有し、腱断裂における決定的な変化はなかったことが示された。半定量的評価は処置後MRIスキャンの臨床的な解釈と一致しなかったことから、MRIを使用して処置の作用を定量化するための信頼できる高感度の手法がないことが示された。
【0170】
結論
統計的分析の結果、ASES及びVAS疼痛評価指標では、処置後の全てのタイムポイントにおいて、細胞組成物群がコルチコステロイドと比較して有意に優れていることが示された。コンスタントスコアは、コルチコステロイド群と比較して、細胞組成物群において、1、6及び12か月目において有意に優れており、SSTスコアは、細胞組成物群において3及び12か月目において有意に優れていた。コルチコステロイド群が、細胞組成物群よりも有意に優れた処置後の結果を示しいた評価指標又はタイムポイントはなかった。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テノモジュリン(TNMD)
、スクレラキシス(Scx)
及びコラーゲンI(Col1A1)を発現する単離され
、実質的に精製された腱細胞を含む細胞組成物
であって、前記腱細胞における最小の発現レベルは、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA 1μg当たり、Scxが5000コピー、Col1A1が5000コピー及びTNMDが1000コピーである、細胞組成物。
【請求項2】
前記腱細胞が培養で選択的に増殖されたものである、請求項1に記載の細胞組成物。
【請求項3】
前記腱細胞が
、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN及びFMOD又はそれらの組合せからなる群から選択される1種以上のマーカーを更に発現する、請求項
2に記載の細胞組成物。
【請求項4】
薬学的に許容される担体を更に含む、請求項
3に記載の細胞組成物。
【請求項5】
腱細胞を含む細胞組成物を得るための方法であって、前記組成物は、少なくとも70%の生存可能な腱細胞を含み、前記方法は、
(i) 哺乳動物の腱のサンプルを得る工程;
(ii) 少なくとも1回の酵素による解離工程を行うことで、前記腱
のサンプルから腱細胞懸濁液を得る工程;
(iii) 適切な条件で前記
腱細胞懸濁液を培養
して、増殖させた腱細胞を生成する工程;
(iv) テノモジュリン(TNMD)
、スクレラキシス(Scx)
及びコラーゲンI(Col1A1)の発現
レベルに基づいて、前記増殖させた腱細胞を選択する工程
、ここで、前記増殖させた腱細胞における最小の発現レベルは、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA 1μg当たり、Scxが5000コピー、Col1A1が5000コピー及びTNMDが1000コピーである;及び、
(v) 工程(iv)で得た増殖させた腱細胞を収集し、これを薬学的に許容される担体中に懸濁して、治療的な量の前記細胞組成物を生成する工程
;
を含む、方法。
【請求項6】
前記腱細胞が、腱のサンプル又は腱の生検に由来する、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記腱細胞が、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN及びFMOD又はそれらの組合せからなる群から選択される1種以上のマーカーを更に発現する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法によって製造した細胞組成物。
【請求項9】
腱の傷害の防止又は処置に使用する医薬の製造における請求項1に記載の細胞組成物の使用。
【請求項10】
腱の傷害を防止又は処置する方法であって、治療的な量の請求項1又は8に記載の細胞組成物を必要とする患者に投与する工程を含む、方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
実際に腱細胞の純粋な細胞組成物が得られたことを確認するために、得られた腱細胞は、好適なマーカーの使用によって試験される。本発明の実施形態において、細胞組成物は、本明細書で定義するとおり、分子マーカーであるTNMD及びScxを発現する腱細胞を含む。好ましくは、腱細胞は、マーカーCol1A1、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN及びFMODの1種以上を更に発現する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0170
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0170】
結論
統計的分析の結果、ASES及びVAS疼痛評価指標では、処置後の全てのタイムポイントにおいて、細胞組成物群がコルチコステロイドと比較して有意に優れていることが示された。コンスタントスコアは、コルチコステロイド群と比較して、細胞組成物群において、1、6及び12か月目において有意に優れており、SSTスコアは、細胞組成物群において3及び12か月目において有意に優れていた。コルチコステロイド群が、細胞組成物群よりも有意に優れた処置後の結果を示しいた評価指標又はタイムポイントはなかった。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)を発現する単離された腱細胞を含む細胞組成物。
[2] テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)の両者の発現についてin vitroで選択された単離された腱細胞を含む細胞組成物。
[3] 前記腱細胞が培養で選択的に増殖されたものである、[1]に記載の細胞組成物。
[4] 前記腱細胞が、Col1A1、TSP-4、TSC、DCN、FN1、BGN及びFMOD又はそれらの組合せからなる群から選択される1種以上のマーカーを更に発現する、[3]に記載の細胞組成物。
[5] 薬学的に許容される担体を更に含む、[4]に記載の細胞組成物。
[6] 前記腱細胞が、ドロップレットデジタルPCRで検出する場合、cDNA1μg当たり100コピーより多くの各マーカーを発現する、[3]に記載の細胞組成物。
[7] 腱細胞を含む細胞組成物を得るための方法であって、前記組成物は、少なくとも70%の生存可能な腱細胞を含み、前記方法は、哺乳動物の腱のサンプルを得る工程;少なくとも1回の酵素による解離工程を行うことで、前記腱から腱細胞懸濁液を得る工程;適切な条件で前記細胞懸濁液を培養する工程;テノモジュリン(TNMD)及びスクレラキシス(Scx)の両者を発現する腱細胞を選択する工程;及び、適切な条件で選択された腱細胞を増殖させて、治療的な量を達成する工程を含む、方法。
[8] 前記腱細胞が、腱のサンプル又は腱の生検に由来する、[7]に記載の方法。
【国際調査報告】