(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ガラスファイバー粉末を利用した高耐熱及び耐化学性ポリイミド粉末及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534378
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 KR2022019855
(87)【国際公開番号】W WO2023106843
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0174321
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ソク・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】イク・サン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ホ・スン・イ
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PB15
4J043QB15
4J043QB26
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4J043RA35
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4J043ZB51
4J043ZB52
4J043ZB53
4J043ZB54
4J043ZB55
(57)【要約】
本発明は、ポリイミド粉末及びその製造方法に関するもので、本発明によると、ジアミン単量体及びジアンヒドリド単量体にガラスファイバー粉末を利用して重合することで、絶縁性を維持すると共に800℃レベルの高温で安定性を確保することができ、耐化学性に優れた高耐熱ポリイミド粉末を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスファイバーを含む有機溶媒内でジアンヒドリド単量体とジアミン単量体を溶液重合させてポリアミック酸溶液を製造する段階;
前記ポリアミック酸溶液を加熱してポリイミド混合液を製造する段階;及び
前記混合液内に存在する沈殿物を濾過及び乾燥してポリイミド粉末を収得する段階を含むことを特徴とする、ポリイミド粉末の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒内に含まれる前記ガラスファイバーの含量は、ジアンヒドリド単量体とジアミン単量体の総合100重量部に対して5~90重量部であることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、非プロトン性溶媒及びプロトン性溶媒の混合溶媒であることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項4】
前記非プロトン性溶媒は、トルエン、キシレン、ナフタ、アニソール、クレゾール、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ビフェニル、テルフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、アセトフェノン、塩素化ビフェニル及び塩素化ジフェニルエーテルからなるグループのうち選択された一つ以上であり、
前記プロトン性溶媒は、N-メチル-ピロリドン(NMP)、N,N'-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N'-ジエチルホルムアミド(DEF)、N,N'-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルプロパンアミド(DMPA)、N,N-ジエチルアセトアミド(DEAc)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(KJCMPA)及びγブチロラクトン(GBL)からなるグループのうち選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項3に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項5】
前記混合溶媒は、非プロトン性溶媒10~90wt%及びプロトン性溶媒10~90wt%を含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアミック酸溶液を製造する段階は、50~100℃で行われることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項7】
前記ポリイミド混合液を製造する段階は、140~200℃で行われることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項8】
前記ジアンヒドリド単量体は、ピロメリト酸ジアンヒドリド(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3',4-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタル酸ジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオルイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)からなる群より選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項9】
前記ジアミン単量体は、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4'-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニライド(4,4-DABA)、N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキシアミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオルメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群より選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項10】
ジアンヒドリド単量体とジアミン単量体から誘導された重合単位を有するポリイミドメトリックス、及び
前記ポリイミドメトリックス内に分散されたガラスファイバーを含み、
下記条件のうち一つ以上を満足することを特徴とする、ポリイミド粉末:
a)800℃で25時間放置した後に測定した重量損失率が35%以下であり、表面抵抗が10
14Ω/cm
2以上;
b)pHが5以下である酸性水溶液で168時間浸漬した後に測定した重量損失率が2.6%以下;又は
c)pHが9以上であるアルカリ水溶液で168時間浸漬した後に測定した重量損失率が15%以下。
【請求項11】
ポリイミド粉末100重量部に対して、0.01~90重量部のガラスファイバー粉末を含むことを特徴とする、請求項10に記載のポリイミド粉末。
【請求項12】
前記ジアンヒドリド単量体は、ピロメリト酸ジアンヒドリド(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3',4-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタル酸ジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオルイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)からなる群より選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項10に記載のポリイミド粉末。
【請求項13】
前記ジアミン単量体は、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4'-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニライド(4,4-DABA)、N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキシアミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオルメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群より選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項10に記載のポリイミド粉末。
【請求項14】
請求項10に記載のポリイミド粉末を加圧成形する段階を含むことを特徴とする、ポリイミド成形品の製造方法。
【請求項15】
加圧成形する段階は、30~1,000MPaの圧力で行われることを特徴とする、請求項14に記載のポリイミド成形品の製造方法。
【請求項16】
加圧成形する段階は、200~500℃で行われることを特徴とする、請求項14に記載のポリイミド成形品の製造方法。
【請求項17】
加圧成形されたポリイミド粉末を200~500℃で焼結する段階を追加で含むことを特徴とする、請求項14に記載のポリイミド成形品の製造方法。
【請求項18】
請求項14~請求項17のうちいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする、ポリイミド成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスファイバー粉末を利用した高耐熱及び耐化学性ポリイミド粉末及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミド(polyimide、PI)は、ジアンヒドリドとジアミン又はジイソシアネートを溶液重合して形成されたイミド単量体の重合体であって、イミド環の化学的安定性を基礎として優れた強度、耐化学性、耐候性、耐熱性などの機械的特性を有する。それだけでなく、ポリイミドは、絶縁特性、低い誘電率のような優れた電気的特性によって電子、通信、光学など広範囲な産業分野に適用可能な高能性高分子材料として脚光を浴びている。
【0003】
一方、従来のポリイミドは、上述したように絶縁特性及び耐熱特性に優れているが、800℃レベルの高温で安定性は落ちるという問題がある。このような従来のポリイミド粉末の高温安定性の活歩のために無機材料のうちセラミックス材料を用いる場合、加工が難しいという問題があり、無機材料のうち金属材で使用する場合、絶縁性が低いため絶縁材料として使用しにくいという問題がある。
【0004】
したがって、絶縁性を維持するとともに800℃レベルの高温で安定性を確保し得る高耐熱ポリイミド粉末の製造方法に対する研究が必要とされているのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような従来技術の問題点と技術的課題を解決することを目的とする。
【0006】
本発明は、絶縁性を維持するとともに800℃レベルの高温で安定性を確保し得る高耐熱ポリイミド粉末及びその製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、酸及び/又は塩基に対して安定性を確保し得る耐化学性ポリイミド粉末及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリイミド粉末及びその製造方法に関する。
【0009】
本発明によるポリイミド粉末は、ジアンヒドリド単量体成分とジアミン単量体成分を重合単位として有する。
【0010】
従来のポリイミドは、上述したように絶縁特性及び耐熱特性に優れているが、800℃レベルの高温で安定性又は耐化学性は落ちるという問題があった。このような従来のポリイミド粉末の高温安定性の確保のために無機材料のうちセラミックス材料を用いる場合、加工が難しいという問題があり、無機材料のうち金属材で使用する場合、絶縁性が低いため絶縁材料として使用しにくいという問題があった。
【0011】
本発明は、ジアンヒドリド単量体成分とジアミン単量体成分とともにガラスファイバー粉末を利用して重合することで、絶縁性を維持すると共に800℃レベルの高温で安定性を確保し得る高耐熱性及び酸とアルカリに抵抗性を有する耐化学性ポリイミド粉末を提供することができる。
【0012】
本発明の一実施形態によるポリイミド粉末の製造方法は、ガラスファイバーを含む有機溶媒内でジアンヒドリド単量体とジアミン単量体を溶液重合させてポリアミック酸溶液を製造する段階;前記ポリアミック酸溶液を加熱してポリイミド混合液を製造する段階;及び前記混合液内に存在する沈殿物を濾過及び乾燥してポリイミド粉末を収得する段階を含む。
【0013】
従来では、ジアンヒドリド単量体及びジアミン単量体を水系溶媒に分散させて分散液を製造した後に熱処理してポリイミド粉末を製造した。しかし、従来のように水系溶媒にガラスファイバー粉末をさらに含んで分散液を製造して熱処理する場合、ガラスファイバー粉末は、分散液内で凝集して分散性が低下するという問題があった。
【0014】
本発明の一実施形態によるポリイミド粉末の製造方法は、ジアンヒドリド単量体及びジアミン単量体とガラスファイバーを混合有機溶媒に分散させて重合溶液(ワニス)を形成した後、これを熱処理してポリイミド粉末を製造するので、ガラスファイバーの分散性が良好であり得る。
【0015】
一具体例で、前記ガラスファイバーは、形状は特に制限されないが、チョップドストランド形態又はこれを粉末化した粉末形態を用いることができる。特別に分散性を考慮して、直径が5μm以上、7μm以上又は9μm以上であってよく、また、18μm以下、15μm以下又は12μm以下の粉末を用いることができる。
【0016】
また、ガラスファイバーの種類も特に制限されないが、耐酸性、耐塩基性、電気抵抗が高い等級のガラスファイバーを用いることができる。
【0017】
有機溶媒内に含まれる前記ガラスファイバーの含量は、ジアンヒドリド単量体とジアミン単量体の総合100重量部に対して、例えば、5~90重量部、6~70重量部、7~60重量部、8~55重量部又は10~50重量部であってもよい。ガラスファイバーの含量が過度に少ない場合、800℃レベルの高温で安定性又は耐化学性の確保が困難であり、その含量が過度に多い場合、引張強度や伸率などの機械的物性が落ちることがある。
【0018】
本発明の有機溶媒は、非プロトン性溶媒及びプロトン性溶媒の混合溶媒を用いることができる。混合溶媒を用いる場合、非プロトン性溶媒単独あるいはプロトン性溶媒単独で用いる場合に比べて成形性及び加工性に優れるという長所がある。
【0019】
理論にとらわれないが、非プロトン性溶媒の場合、一種のイミド化触媒としての役割をし、プロトン性溶媒の場合、分子量を成長させ得る役割をすると判断される。
【0020】
非プロトン性溶媒は、特に制限されないが、トルエン、キシレン、ナフタ、アニソール、クレゾール、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ビフェニル、テルフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、アセトフェノン、塩素化ビフェニル及び塩素化ジフェニルエーテルからなるグループのうち選択された一つ以上を用いることができる。プロトン性溶媒は、特に制限されないが、N-メチル-ピロリドン(NMP)、N,N'-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N'-ジエチルホルムアミド(DEF)、N,N'-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルプロパンアミド(DMPA)、N,N-ジエチルアセトアミド(DEAc)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(KJCMPA)及びγブチロラクトン(GBL)からなるグループのうち選択された一つ以上を用いることができる。
【0021】
混合溶媒は、非プロトン性溶媒10~90wt%及びプロトン性溶媒10~90wt%、例えば、非プロトン性溶媒20~80wt%及びプロトン性溶媒20~80wt%を含むことができる。非プロトン性溶媒の含量が過度に少ないと、加熱工程でイミド化が十分に行われないため成形性が確保されず、固有粘度(IV)が低くなる短所があり、その含量が過度に多いと、重合液の分子量が過度におそく(鎖が過度に小さく)形成されて、その後、成形品の成形時に成形性が確保されないという短所がある。
【0022】
ポリアミック酸溶液を製造する段階は、50~100℃、例えば、60~90℃、65~85℃又は70~80℃で行われ得、ポリイミド混合液を製造する段階は、160~200℃、例えば、170~190℃又は175~185℃で行われ得る。
【0023】
前記加熱温度が前記範囲より低い場合、伸率及び引張強度のような機械的物性が低下し、成形加工時に破断が発生して収率が低下し、加工性が低下し得る。また、前記加熱温度が前記範囲より高い場合、粉末の色が暗くなり、粒子サイズが増加し得る。
【0024】
前記ポリアミック酸溶液を製造する段階及び/又はポリイミド混合液を製造する段階は、加圧条件、例えば、1~10barの条件で行われ得る。特に、本発明の一実施形態では、ジアンヒドリド単量体及びジアミン単量体とガラスファイバー粉末を混合溶媒に分散させて重合するので、常圧又は1bar~3bar以下の加圧条件で重合反応を行うことができる。加圧は、反応器の内部に不活性気体を注入するか反応器の内部で生成された水蒸気を利用することができる。前記不活性気体は、窒素、アルゴン、ヘリウム又はネオンなどを用いることができる。
【0025】
前記加圧条件が前記範囲より低い場合、伸率及び引張強度のような機械的物性が低下し、成形加工時に破断が発生して収率が低下し、加工性が低下し得る。また、加圧条件が前記範囲より高い場合、粉末の色が暗くなり、粒子サイズが増加し得る。
【0026】
前記ポリアミック酸溶液を製造する段階及び/又はポリイミド混合液を製造する段階の反応時間は、1~20時間であってもよく、例えば、1~10時間、1~8時間、1~6時間又は1~4時間であってもよい。
【0027】
前記反応時間が前記範囲より低い場合、反応収率が落ち、伸率及び引張強度のような機械的物性が低下し、成形加工時に破断が発生して収率が低下し、加工性が低下し得る。また、反応時間が前記範囲より高い場合、粉末の色が暗くなり、粒子サイズが増加し得る。
【0028】
前記ポリイミド粉末を収得する段階は、前記混合液内に存在する沈殿物を濾過及び乾燥してポリイミド粉末を得る段階である。
【0029】
前記濾過及び乾燥する方法は、特に制限されず、例えば、真空乾燥又はオーブン乾燥することができる。
【0030】
前記ジアンヒドリド単量体は、ジアミン単量体と反応してポリイミドを形成することができるものであれば、特に制限されない。例えば、本発明によるジアンヒドリド単量体は、ピロメリト酸ジアンヒドリド(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3',4-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタル酸ジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオルイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)からなる群より選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0031】
前記ジアミン単量体は、ジアンヒドリド単量体と反応してポリイミドを形成することができるものであれば、特に制限されない。例えば、本発明によるジアミン単量体は、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4'-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニライド(4,4-DABA)、N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキシアミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオルメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群より選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0032】
このとき、前記ジアンヒドリド単量体成分のモル数(a)に対するジアミン単量体成分のモル数(b)を示すモル比(b/a)は、1以下である。例えば、前記ジアンヒドリド単量体成分に対するジアミン単量体成分のモル比(b/a)の上限は、0.99以下、0.98以下、0.97以下、0.96以下又は0.95以下であってもよく、モル比の下限は、0.9以上、0.91以上、0.92以上、0.93以上又は0.94以上であってもよく、具体的に、前記ジアンヒドリド単量体成分に対するジアミン単量体成分のモル比は、0.9~0.99、0.93~0.99、0.94~0.99、0.95~0.99、0.95~0.98又は0.96~0.98であってもよい。
【0033】
例えば、本発明は、ジアンヒドリド単量体成分のモル数よりジアミン単量体成分のモル数がさらに少ない。化学量論的にジアンヒドリド単量体及びジアミン単量体は、1:1反応によりポリイミドが製造され得るが、反応の進行は、主に溶媒及び/又は触媒の存在下で進行され、このとき、溶媒又は触媒の作用基とジアミンの副反応が進行され得るので、一般的にジアミンを過量で投入するか又はジアンヒドリドとジアミンを同等のモル数で投入する。
【0034】
前記混合溶媒内で固形分は、1~30重量%であってもよい。前記固形分は、ジアンヒドリド単量体成分及びジアミン単量体成分を意味し得る。例えば、前記混合溶媒中の固形分の含量は、1~20%又は10~20%であってもよい。前記のような固形分の含量を有することで、ポリイミド粉末の固有粘度を適合する加工性を有するように調節することができる。
【0035】
特に、本発明の一実施形態によるポリイミド粉末の製造方法は、ジアンヒドリド単量体成分及びジアミン単量体成分とガラスファイバー粉末を混合溶媒に分散させて重合溶液(ワニス)を形成した後、これを熱処理してポリイミド粉末を製造するので、ポリイミド粉末の固有粘度が従来の水系重合方式に比べてさらに高いため(>0.9dL/g)成形性及び加工性が優秀である。
【0036】
本発明の他の実施形態によるポリイミド粉末は、ジアンヒドリド単量体とジアミン単量体から誘導された重合単位を有するポリイミドメトリックス及び前記ポリイミドメトリックス内に分散されたガラスファイバーを含み、下記条件のうち一つ以上を満足する。
【0037】
a)800℃で25時間放置した後に測定した重量損失率が35%以下であり、表面抵抗が1014Ω/cm2以上;
b)pHが5以下である酸性水溶液で168時間浸漬した後に測定した重量損失率が2.6%以下;又は
c)pHが9以上であるアルカリ水溶液で168時間浸漬した後に測定した重量損失率が15%以下。
【0038】
ガラスファイバー粉末は、ポリイミド粉末100重量部に対して、0.01~90重量部の含量で含むことができ、好ましくは、0.1~50重量部の含量で含むことができる。ガラスファイバー粉末は、ポリイミド粉末の重合時に含まれてもよく、追加でポリイミド粉末に混合されてもよい。
【0039】
ポリイミド粉末は、800℃で25時間放置した後に測定した重量損失率が35%以下、例えば、34%以下、33%以下、10~35%、15~34%又は18%~32%であってもよい。重量損失率が35%以上である場合、高温耐熱性が不足し得る。
【0040】
ポリイミド粉末は、ASTM D257で測定した表面抵抗が1014Ω/cm2以上であってもよい。例えば、本発明によるポリイミド粉末は、ASTM D257で測定した表面抵抗の下限が1014Ω/cm2以上であってもよく、表面抵抗の上限が1015Ω/cm2以下であってもよい。表面抵抗が1014Ω/cm2未満である場合、絶縁特性が不足し得る。
【0041】
ポリイミド粉末は、pHが5以下である酸性水溶液で168時間浸漬した後に測定した重量損失率が2.6%以下、例えば、2.5%以下、0.5~2.6%又は1~2.5%であってもよい。pHが5以下である酸性水溶液は、特に制限されないが、例えば、45~55wt%フッ酸水溶液を用いることができる。測定温度又は圧力は、特に制限されないが、常温又は常圧で測定することができる。
【0042】
ポリイミド粉末は、pHが9以上であるアルカリ水溶液で168時間浸漬した後に測定した重量損失率が15%以下、例えば、13%以下、1~11%又は2~10%であってもよい。pHが9以上であるアルカリ水溶液は、特に制限されないが、例えば、20~30wt%アンモニア水溶液を用いることができる。測定温度又は圧力は、特に制限されないが、常温又は常圧で測定することができる。
【0043】
ポリイミド粉末の前記ジアンヒドリド単量体は、ピロメリト酸ジアンヒドリド(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3',4-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタル酸ジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオルイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)からなる群より選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0044】
ポリイミド粉末の前記ジアミン単量体は、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4'-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニライド(4,4-DABA)、N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキシアミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオルメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群より選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0045】
また、本発明は、上述したポリイミド粉末を加圧成形する段階を含むポリイミド成形品の製造方法を提供する。
【0046】
前記加圧成形する段階は、30~1000MPaの圧力で行われ得、加圧成形する段階は、200~500℃で行われ得る。また、加圧成形段階は、常温で進行して加圧成形されたポリイミド粉末を200~500℃で焼結する段階を追加で含んでもよい。前記圧力範囲より低いと、成形時に粉末の成形性が不足であり得、高いと、成形品の加工性が低下し得る。前記温度範囲より低いと、分子の流動性が確保されないため成形性が大きく低くなり得、高いと、過熱により一部が酸化され得る。
【0047】
また、本発明は、ポリイミド粉末を利用して製造される成形品を提供する。本発明により製造されたポリイミド粉末は、多様な成形方法により成形品に製造され得、例えば、圧縮成形、射出成形、スラッシュ成形、中空成形、押出成形又は紡績方法を利用して必要とする成形品を製造することができる。成形品の形態は、制限されないが、フィルム、シート、ペレット、チューブ、ベルト、射出成形品又は押出成形品であってもよい。
【0048】
本発明によって製造されたポリイミド粉末は、電気/電子、半導体、ディスプレイ、自動車、医療、電池及び宇宙航空など多様な分野に用いられ得る。
【発明の効果】
【0049】
本出願によると、絶縁性を維持すると共に800℃レベルの高温で安定性を確保し得る高耐熱ポリイミド粉末の製造が可能である。
【0050】
本出願によるポリイミド粉末は、成形品の基準表面抵抗を1014Ω/cm2以上まで高めることができるので、絶縁性の維持が可能である。
【0051】
また、本出願によるポリイミド粉末は、ガラスファイバー粉末をフィラーとして含むことで、他のフィラーとは異なり絶縁性を維持すると共に800℃レベルの高温で安定性を確保することができる。
【0052】
また、本出願によるポリイミド粉末は、フッ酸溶液に浸漬時に測定した質量変化率が1.0%~2.6%であり、アンモニア水に浸漬時に測定した質量変化率が2.0%~10.0%であって、従来のポリイミド粉末に比べて耐化学性が優秀である。
【0053】
しかし、本発明の効果は、以上で言及した効果に制限されず、言及しなかったまた他の効果は、下の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明による実施例及び本発明によらない比較例を通じて本発明をより詳しく説明するが、本発明の範囲が下記提示された実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0055】
<実施例1>
ガラス反応器にm-キシレン30wt%とNMP(N-メチルピロリドン)70wt%の混合溶媒900g、ODA 46g、ガラスファイバー粉末10g、PMDA 40g及びODPA 14gを順に投入した後、75℃で2時間撹拌してポリアミック酸溶液を製造した。完成されたポリアミック酸溶液を常圧で2時間180℃で加熱してポリイミド混合液を製造した。混合液内に沈澱されたパウダーを濾過してエタノールを利用して洗浄した後、24時間の間乾燥してポリイミド粉末を製造した。製造された前記粉末を>50MPa、及び>300℃で加圧成形して成形品を製造した。
【0056】
<実施例2>
ガラスファイバー粉末15gを用いたこと以外は、実施例1と同一に成形品を製造した。
【0057】
<実施例3>
ガラスファイバー粉末20gを用いたこと以外は、実施例1と同一に成形品を製造した。
【0058】
<実施例4>
ガラスファイバー粉末30gを用いたこと以外は、実施例1と同一に成形品を製造した。
【0059】
<実施例5>
ガラスファイバー粉末40gを用いたこと以外は、実施例1と同一に成形品を製造した。
【0060】
<実施例6>
ガラスファイバー粉末50gを用いたこと以外は、実施例1と同一に成形品を製造した。
【0061】
<比較例1~5>
下記表1のように、フィラーの成分が異なること以外は、実施例1と同一の方法でポリイミド粉末を製造した。
【0062】
具体的に、比較例1は、フィラーを追加しない場合であり、比較例2~5は、従来投入される多様な成分のフィラーを追加した場合である。
【0063】
<実験例>
製造されたポリイミド粉末の物性を、下記方式を利用して測定し、その結果を下記表1に示した。
【0064】
実験例1-重量損失率の測定
重量損失率の分析のために、ポリイミドパウダーの圧縮成形試験片(5mm*5mm*5mm正六面体形態)を利用し、熱重量分析機(TGA)を利用して800℃重量損失率(%)を測定した。具体的に、0.61Mpa空気圧下で800℃で25時間放置して重量損失率を比較した。
【0065】
%重量損失=(初期重量-露出後重量)/初期重量×100
【0066】
実験例2-表面抵抗の測定
表面抵抗の測定のために、ポリイミドパウダーの圧縮成形試験片を利用し、ASTMD257規格によって実施例及び比較例の表面抵抗を測定した。具体的に、表面抵抗の測定は、ASTM-D257測定方法に基づいて55% RH、23℃、印加電圧500Vの条件下で測定し、測定装備は、4-point probe meter(CMT-SR 1000N、AIT)を用いて測定した。
【0067】
【0068】
前記表1を参照すると、本発明のようにジアンヒドリド単量体成分とジアミン単量体成分を重合単位で有するポリイミド粉末として、ガラスファイバー粉末をさらに含む実施例2、4、5及び6の場合、表面抵抗が1014Ω/cm2以上であり、800℃重量損失率(%)が18.1%~31.5%であって、絶縁性を維持すると共に800℃レベルの高温で安定性を確保し得ることが分かる。特に、実施例6の場合には、ガラスファイバー粉末の含量が50wt%の場合であり、800℃重量損失率(%)が18.1%であって、優れた高耐熱特性を有することが分かる。これによって、本発明の実施例2、4、5及び6の場合には、成形品基準が1014Ω/cm2以上であり、800℃重量損失率(%)を低めることができるので、絶縁性を維持すると共に800℃レベルの高温で安定性を確保し得ることが分かる。
【0069】
一方、フィラーが投入されない場合(比較例1)及び従来のフィラーを投入した場合(比較例2~5)では、表面抵抗が低くなって絶縁性が低くなる問題があるか、800℃重量損失率(%)が増加して高温安定性が低くなることが分かる。
【0070】
また、本出願によるポリイミド粉末の製造方法は、in-situ重合時にガラスファイバーを混合する方法で製造するので、ポリイミド粉末の分散性が優秀であり、ガラスファイバーがシード(seed)として作用してより均一な粉末製造が可能である。
【0071】
また、本出願によるポリイミド粉末は、芳香族鎖を含んでおり、ガラスファイバー粉末をフィラーとしてさらに含むので、従来のポリイミド粉末に比べて耐熱性がより優秀であり得る。
【0072】
実験例2-耐化学性(重量損失率)の測定
耐化学性の分析のために、ポリイミド成形品を5mm*5mm*5mm正六面体形態の試験片を加工して用いた。正六面体試験片を49%フッ酸溶液に168時間の間浸漬させる。浸漬後の外観変化と重量損失率を測定した。
【0073】
同一の方法で正六面体形態の試験片を25~28%アンモニア水に168時間浸漬させ、浸漬前後の外観変化と重量損失率を測定した。
【0074】
【0075】
前記表2を参照すると、本発明のようにジアンヒドリド単量体とジアミン単量体から誘導された重合単位を有するポリイミドメトリックス内に分散されたガラスファイバー粉末を含む実施例1、3、4及び6の場合、フッ酸溶液に浸漬時に測定した重量損失率が1.0%~2.6%であり、アンモニア水溶液に浸漬時に測定した重量損失率が2.0%~10.0%であって、耐化学性が優秀であることが分かった。
【0076】
一方、フィラーが投入されない場合(比較例1)には、フッ酸溶液及びアンモニア水に浸漬時に測定した重量損失率が高いため耐化学性が低いことが分かった。
【0077】
下表3は、本発明の一実施形態による非プロトン性溶媒及びプロトン性溶媒の混合溶媒を用いた実施例と非プロトン性溶媒単独あるいはプロトン性溶媒単独で用いた場合の比較例による固有粘度(IV)、成形性及び加工性を比較した実験結果を示す。
【0078】
具体的に、比較例6は、m-クレゾールを単独で用いた場合であり、比較例7は、NMPを単独で用いたこと以外は、実施例1と同一な場合である。また、実施例7は、m-クレゾール/NMPの50/50wt%混合液の場合であり、実施例8は、m-クレゾール/NMPの30/70wt%混合液の場合であり、実施例9は、m-クレゾール/NMPの70/30wt%混合液であること以外は、実施例1と同一な場合である。
【0079】
【0080】
前記表3に示したように、プロトン性溶媒単独あるいは非プロトン性溶媒単独で用いた比較例6及び7の場合には、固有粘度(IV)が低く、成形性及び加工性の確保が難しいことが分かる。
【0081】
一方、本発明の実施形態のように、プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒の混合溶媒を用いた実施例7~9の場合には、固有粘度(IV)が高く、成形性及び加工性が全て優秀であることが分かる。
【0082】
以上で説明した本発明は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に本発明の技術的思想を脱しない範囲内で様々な置換、変更が可能なので、上述した実施例に限定されるものではない。
【国際調査報告】