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特表2024-545175ヒドロゲルマイクロ粒子ベースの軟組織充填剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ヒドロゲルマイクロ粒子ベースの軟組織充填剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/14 20060101AFI20241128BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20241128BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20241128BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20241128BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20241128BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20241128BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/745 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/79 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/78 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/77 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/765 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61L27/14
A61L27/52
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/24
A61L27/22
A61K31/715
A61K31/727
A61K31/728
A61K31/745
A61K31/79
A61K31/78
A61K31/77
A61K31/765
A61K38/17
A61K38/39
A61P17/00
A61K9/16
A61K9/06
A61K47/02
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534565
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 US2022081274
(87)【国際公開番号】W WO2023108124
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】63/287,769
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521527990
【氏名又は名称】リカルダ、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】LIKARDA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メーガン、イー.ハミルトン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン、ハリントン
(72)【発明者】
【氏名】カールティック、ラマチャンドラン
(72)【発明者】
【氏名】リサ、ステフノ-ビッテル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA29
4C076BB16
4C076DD23F
4C081AB19
4C081AB36
4C081BA16
4C081BB04
4C081CA051
4C081CA081
4C081CA101
4C081CA171
4C081CA181
4C081CC04
4C081CD061
4C081CD081
4C081CD091
4C081CD111
4C081CD121
4C081CE01
4C081CE02
4C081DA12
4C081DA13
4C081DA14
4C081DA15
4C081DC13
4C084AA03
4C084AA19
4C084BA44
4C084CA17
4C084MA23
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA042
4C084ZA082
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB352
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086EA23
4C086EA24
4C086EA27
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA23
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
ヒト対象における審美的または美容的軟組織充填のための方法、組成物、およびキット。組成物および方法は、担体ビヒクル中に分散された複数の多孔性粘弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子を含んでなる懸濁液として特徴づけられ、各マイクロ粒子は、外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有する自立体であり、これらのマイクロ粒子は、いずれの細胞、組織、または治療化合物も実質的に含まない。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象における審美的または美容的軟組織充填のための方法であって、それを必要とする対象における移植部位に、担体ビヒクル中に分散された複数の多孔性粘弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子を含んでなる懸濁液を配置することを含み、各マイクロ粒子は、外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有する自立体であり、前記マイクロ粒子は、いずれの細胞、組織、または治療化合物も実質的に含まない、方法。
【請求項2】
前記懸濁液が前記対象の真皮表層、真皮中層、皮下層、筋膜層、筋肉層、または骨膜層に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記移植部位が、外科手術または外傷による空隙を再建するために、対象の外観を改善または向上させるためにさらなる組織体積および充実度を必要としているまたは所望している対象の領域である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記懸濁液が注射によって前記移植部位に配置される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記懸濁液はマイクロ粒子の粒子サイズよりも小さい開口部を有する注射装置を通して注射され、前記マイクロ粒子は注射時に砕ける、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、共有結合的またはイオン的に架橋されたポリマー化合物の3次元マトリックスを有する自立体として特徴づけられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー化合物が、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、フィブリン、キトサン、コラーゲン、ヘパリン、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、ポリ乳酸・グリコール酸コポリマー(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、メタクリル酸(MAA)、メタクリル2-ヒドロキシエチル(HEMA)、ポリアクリルアミド(PAM)細胞外マトリックス、およびこれらの官能基化変種からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状が、真球度Ψが0.25より大きい丸みを帯びた形状および幾何学的形状である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が30μmより大きく2mmより小さい粒子サイズを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が対象の移植部位において有利な生理応答を誘導する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が移植部位において組織体積の量または質を高める、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が移植部位に自然な外観をもたらすために弾力性のある応答を提供する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が前記懸濁液中で第1の粒子サイズを有し、前記マイクロ粒子は移植部位に導入した後に膨潤力し、前記マイクロ粒子は、前記移植部位では前記第1の粒子サイズよりも大きい第2の粒子サイズを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記懸濁液が、前記マイクロ粒子と懸濁状態にある溶質をさらに含んでなり、前記溶質は、前記マイクロ粒子が前記懸濁液中で第1の粒子サイズを有するように、前記マイクロ粒子を前記懸濁液中で収縮させ、前記マイクロ粒子は、前記移植部位において、前記移植部位への前記配置後の前記溶質の濃度の減少により、前記第1の粒子サイズよりも大きい第2の粒子サイズを有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の多孔性粘弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子が少なくとも2つの異なるマイクロ粒子集団を含んでなり、第1のマイクロ粒子集団は、第1の特徴を有する複数のマイクロ粒子を含んでなり、第2のマイクロ粒子集団は、第2の特徴を有する複数のマイクロ粒子を含んでなり、前記第1の特徴は前記第2の特徴と異なる、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記送達ビヒクルが緩衝生理食塩水、粘性溶液、パテ、ペースト、またはゲルであり、所望により麻酔剤、抗生物質、または鎮痛剤を含有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が移植部位に直接注射される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が体内に注射するための装填済み注射器内の組成物中に提供される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、美容的または審美的に有効な期間、前記移植部位に閉じ込められる、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が通常の生理学的条件下で少なくとも6か月間分解なく前記移植部位に留まる、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ヒト対象が、6か月ごと、好ましくは6~12か月ごと、好ましくは1~5年ごとの間隔で投与される前記ヒドロゲルマイクロ粒子の反復投与を受けている、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記移植部位に化学物質または酵素を導入することにより、移植部位の前記マイクロ粒子を溶解させることをさらに含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記移植部位に音波またはUV光などの物理的刺激を導入することにより、前記移植部位において前記注射されたマイクロ粒子を溶解させることをさらに含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
美容的または審美的軟組織充填のためのキットであって、複数の多孔性弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子であって、各マイクロ粒子は、外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有し、いずれの細胞、組織、または治療化合物も実質的に含まない自立体である、複数の多孔性弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子と、これを投与するための説明書とを含んでなる、キット。
【請求項25】
前記複数の多孔性弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子が凍結乾燥され、前記キットが、前記ヒドロゲルマイクロ粒子を再構成するための別の容器中の担体ビヒクルまたは投与前に前記ヒドロゲルマイクロ粒子を再構成するため説明書をさらに含んでなる、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
注射器および前記注射器に再構成後の前記ヒドロゲルマイクロ粒子を装填するための説明書をさらに含んでなる、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記複数の多孔性粘弾性固体状ヒドロゲルマイクロ粒子が懸濁液として包装され、前記懸濁液が投与用注射器に予め装填され、そのための説明書も包装される、請求項24に記載のキット。
【請求項28】
前記複数の多孔性粘弾性固体状ヒドロゲルマイクロ粒子が懸濁液として包装され、前記キットは、空の注射器および前記投与前に前記注射器に装填するために前記容器から懸濁液を引き出すことを可能にするように構成された別の容器内の前記ヒドロゲルマイクロ粒子と、そのための説明書とを含んでなる、請求項24に記載のキット。
【請求項29】
移植された粘弾性固体状ヒドロゲルマイクロ粒子を必要に応じて除去するための溶解化学物質または酵素を含んでなる別の容器をさらに含んでなる、請求項24に記載のキット。
【請求項30】
移植された粘弾性固体状ヒドロゲルマイクロ粒子を要求に応じて、光、音、または超音波エネルギーの適用により溶解させるための携帯型装置をさらに含んでなる、請求項24に記載のキット。
【請求項31】
前記複数の多孔性粘弾性固体状ヒドロゲルマイクロ粒子が、溶質を含んでなる貯蔵懸濁液として包装され、前記溶質が、前記マイクロ粒子を前記懸濁液中で収縮させて、前記貯蔵懸濁液中での前記マイクロ粒子の第1の粒子サイズが、対象に投与された後の前記マイクロ粒子の粒子サイズよりも小さくなるようにする、請求項28に記載のキット。
【請求項32】
ヒト対象における審美的または美容的軟組織充填に使用するための組成物であって、担体ビヒクル中に分散された複数の多孔性粘弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子を含んでなる懸濁液として特徴づけられ、各マイクロ粒子は、外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有する自立体であり、前記マイクロ粒子は、いずれの細胞、組織、または治療化合物も実質的に含まない、組成物。
【請求項33】
ヒト対象における審美的または美容的軟組織充填のための組成物の使用であって、前記組成物が、担体ビヒクル中に分散された複数の多孔性粘弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子を含んでなる懸濁液として特徴づけられ、各マイクロ粒子は、外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有する自立体であり、前記マイクロ粒子は、いずれの細胞、組織、または治療化合物も実質的に含まない、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年12月9日に出願されたヒドロゲルマイクロ粒子ベースの皮膚用充填剤という名称の米国仮特許第号第63/287,769号の優先権の利益を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書の一部とされる。
【0002】
背景
発明の分野
本開示は、皮膚または他の軟組織充填剤として使用するための様々な様々なヒドロゲルから作製された完全架橋マイクロ粒子に関する。
【背景技術】
【0003】
分野の説明
過去100年以上にわたって、人間は、体積を増し、しわを減らすために、顔および他の身体部分に様々な材料を注射することを含め、外観を改善しようと試みてきた。実際、自己脂肪を顔に注射する報告は1890年代までさかのぼる。その後、ヨーロッパでは女性の顔にパラフィンが注射された。パラフィン注射による長期合併症の報告は1900年代初頭に始まったが、アジアの一部では1950年代までボリュームエンハンサーとしてなお使用されていた。美を追求するためにかつて使用された他の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、シリコンオイル、およびウシのコラーゲンがあった。
【0004】
2003年にヒアルロン酸(HA)が初めてFDAから注射用として承認された時、この分野は大きな飛躍を遂げた。ヒアルロン酸は、β-1,4グリコシド結合を介して直鎖状に結合した繰り返しモノマー(グルクロン酸とN-アセチルグルコサミン二糖単位)からなる多糖である。美容充填剤としてのHAの重要性は、以前の充填剤の2つの問題点を軽減した。第一に、注射が容易であった。第二に、強い炎症反応の頻度が少なかった。さらに有益な特徴は、室温で保存可能であり、保存期間が長く、非発癌性であり、効果が数か月持続することであった。HA充填剤は通常、耐久性を高めるために架橋剤として1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)を用いて部分的に架橋される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当技術分野では、代替の改良された皮膚充填材の必要がなおある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本開示は、しわの充填、体積の創出、加齢、座瘡、傷害または手術に続発する軽度の変形の矯正、皮膚の弾力性の欠如の治療、皮膚の張りの欠如の治療、および軟組織の欠損または空隙の矯正を含む、審美的または美容的特徴を改善するために、軟組織充填剤として送達され得る完全架橋粘弾性ヒドロゲルマイクロ粒子を使用する第1のアプローチを記載する。従って、軟組織充填剤の配置は、真皮表層、真皮中層、皮下層、ならびに骨膜層の中および直上に行われる。現在の非架橋または部分架橋の溶液またはペーストとは対照的に、架橋されたマイクロ粒子は、配置された移植場所に長期間留まるため、美容的または審美的な矯正の持続期間が長くなる。
【0007】
現在のヒアルロン酸充填剤は、部分的に架橋された粘性のある液体溶液で構成され、効果の持続時間は短い。表3は現在市販されているHAベースの充填剤を、本発明の完全架橋粘弾性ヒドロゲルマイクロ粒子と比較してまとめたものである。市販製品の架橋率を比較すると、RESTYLANE(登録商標)は架橋度が低く、粒子サイズが小さくて耐久性が低いが、JUVEDERM(登録商標)Ultraは架橋度がより高く、分解速度がより遅い。この表は、本発明の個々の架橋マイクロ粒子が単一分子と考えられることから、ヒドロゲルマイクロ粒子の分子量が高いことを示している。さらに、架橋マイクロ粒子は著しく高い架橋率を有する。表4は、同じ情報の一部を要約したものであるが、ポリエチレングリコール(PEG)から構成されるマイクロ粒子の特徴を、ヒト美容用充填剤で販売されている他の非HAヒドロゲルと比較したものである。カルシウムヒドロキシルアパタイト(CaHA)は、水性カルボキシメチルセルロースゲル担体に懸濁された均一なCaHAマイクロ小球を含むもう一つの注射可能な皮膚充填料(RADIESSE(登録商標))であり、注射部位でのコラーゲン産生を刺激することにより作用する。しかしながら、このセラミック/ミネラルベースの充填剤は、患者が結果を気に入らない場合、または望まない相互作用もしくは副作用があった場合に、溶解させることができない。
【0008】
本明細書には、ヒト対象における審美的または美容的軟組織充填のための方法、組成物、およびキットが記載される。1または複数の実施形態において、それを必要とする対象の移植部位に、担体ビヒクル中に分散された複数の多孔性粘弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子を含んでなる懸濁液を配置または導入することを含む方法が開示される。各マイクロ粒子は、外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有する自立体であり、マイクロ粒子は、いずれの細胞、組織、または治療化合物も実質的に含まない。1または複数の実施形態において、懸濁液は対象の真皮表層、真皮中層、皮下層、筋膜層、筋肉層、または骨膜層に配置される。
【0009】
本明細書にはまた、美容的または審美的軟組織充填のためのキットも記載される。これらのキットは、複数の多孔性弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子を含んでなり、各マイクロ粒子は、外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有する自立体であり、いずれの細胞、組織、または治療化合物も実質的に含まず、それを投与するための説明書も含む。
【0010】
本明細書ではまた、ヒト対象において審美的または美容的軟組織充填で使用するための種々の組成物も記載される。これらの組成物は一般に、担体ビヒクル中に分散された複数の多孔性粘弾性固体ヒドロゲルマイクロ粒子を含んでなる懸濁液として特徴づけられ、各マイクロ粒子は、外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有する自立体であり、これらのマイクロ粒子は、いずれの細胞、組織、または治療化合物も実質的に含まない。
【0011】
本明細書では、ヒト対象における審美的または美容的軟組織充填のためのこのような組成物の使用も企図される。
【0012】
特許または出願ファイルには,少なくとも1つのカラー図面が含まれている。カラー図面を含むこの特許または特許出願公報の写しは,請求して必要な手数料を支払えば特許庁から提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1に、皮膚充填剤として注射可能な種々の定義された幾何学形状のマイクロ粒子の画像を挙げる:A)球形、B)涙形、C)楕円形、D)管状、E)混合形状。
図2図2に、マイクロ粒子の直径より小さい開口部を通してマイクロ粒子を押し出すことによるヒドロゲルの粘弾性固体断片を示す画像を挙げる。
図3図3は、架橋粒子として作製可能な種々のサイズを示す画像である。A)平均直径2040+21μm、B)平均直径1214+46μm、C)平均直径361+19μm、D)サイズの混合型。
図4図4は、図に示すようなマイクロ粒子を作製するために使用可能な種々の材料の例を示す。
図5図5は、相補的分子による架橋後にマイクロ粒子をどのように修飾できるかの一例を示す概略図である。
図6図6に、ヒドロゲルを蛍光標識して体内での位置および持続期間を追跡できることを示す画像を挙げる。
図7図7に、溶質により制御される縮小に曝されたヒドロゲルマイクロ粒子の画像を挙げる。
図8図8に、溶質により制御される縮小に曝された際の3つの異なるヒドロゲル化学物質の直径の変化をまとめる。
図9図9に、溶質により制御される縮小に曝された際の3つの異なるヒドロゲル化学物質のマイクロ粒子体積の変化をまとめる。
図10図10は、異なる濃度の溶質に対する球体積の正規化減少を示す。
図11図11は、種々の濃度の溶質中に置かれたマイクロ粒子に関するマイクロ粒子直径の縮小(薄い灰色)および元のサイズへの回復(濃い灰色)を示す。
図12図12は、ボーラス注射または分散体としての皮下へのマイクロ粒子配置の2つの方法を示す。
図13図13に、健康なラットの網近傍または網内に注射された3つの異なるマイクロ粒子製剤の生体適合性を示す画像を挙げる。
図14図14は、ラットの腹膜に2週間後、細胞炎症も非接着マイクロ粒子への線維細胞間接着もないことを示す。
図15図15は、マイクロ粒子製剤の1つのイン・ビボ(in vivo)分解を非生体適合性材料と比較する。
図16図16に、特定のヒドロゲル製剤を用い、酵素により経時的に分解された際のマイクロ粒子の画像を挙げる。
図17図17に、要求に応じて化学的に分解されたマイクロ粒子の画像を挙げる。
図18A図18Aは、完全に架橋されたマイクロ粒子を溶解させる潜在的分解経路を、潜在的副生成物とともに示す。
図18B図18Bは、完全に架橋されたマイクロ粒子を溶解させる潜在的分解経路を、潜在的副生成物とともに示す。
図19図19に、室温で水中に4年以上保存し、その後画像化したチオール化HAマイクロ粒子の画像を挙げ、マイクロ粒子中の構造に目に見える損失がないことを示している。
図20図20は、液体窒素中での凍結および解凍前のマイクロ粒子(PEG-MAL)の画像であり、低温保存後に無傷のマイクロ粒子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
マイクロ粒子は、(共有結合または強いイオン性架橋を介して)完全に架橋されたヒドロゲルポリマー化合物の3次元マトリックスから本質的になる、またはからなり、従って、得られた架橋マイクロ粒子体は多孔性弾性固体(ヒドロゲル)として特徴づけられ、弾性変形は可逆的である。言い換えれば、マイクロ粒子は半剛性であるが、弾力性があり、従って、このマイクロ粒子は荷重下ではたわみ、荷重を取り除くと元の形状に戻る。マイクロ粒子の形成に使用するのに適したヒドロゲル前駆体化合物には、ヒドロゲル形成ポリマー、オリゴマー、および/またはモノマーが含まれ、従って、共有結合または強いイオン性架橋によって架橋またはネットワーク構造またはマトリックスを形成することができ、その結果得られる弾性ゲル化構造またはマトリックス体(ヒドロゲル)の間隙または細孔内に液体を保持、懸濁、捕捉、および/または封入することができる。好ましくは、前駆体化合物は官能化されたヒドロゲル形成ポリマー、オリゴマー、および/またはモノマーであり、これは、天然ポリマー、オリゴマー、またはモノマー骨格が、ヒドロゲルマトリックスの形成中に共有結合またはイオン結合が形成される(すなわち、架橋される)複数の化学反応性基(すなわち、官能基)を含むように化学的に修飾されていることを意味する。このようにして、ゾル-ゲル転移後に得られる完全に架橋されたヒドロゲル粒子は、分子もつれ、ファンデルワールス力、または他の弱い分子相互作用に依存せず、その代わりに、共有結合または強いイオン結合によって、粒子の物質全体にわたって架橋されたネットワークまたはマトリックスを有する不可逆的で不溶性のヒドロゲルを形成することを特徴とする。
【0015】
マイクロ粒子は3次元の自立体であり、いったんその形状が形成されると、外部支持構造なしにその特定の粘弾性形状を保持し、単に自重または重力による変形またはクリープを受けにくいことを意味する。言い換えれば、自立体は、ゼリー、パテ、またはペーストのように永久的に変形可能または流動可能なものではなく、弾力性があり、マトリックス体が力を受けて一時的に降伏または変形する可能性はあるが、破壊されない限り、力を取り除くと元の形状に戻る。マイクロ粒子は通常、約2,000μm未満、好ましくは約1,500μm未満で、約30μmを超える、好ましくは約100μm以上より大きい粒子サイズを有する。本明細書で使用される場合、「粒子サイズ」は、最大表面間寸法(例えば、いくらか球状体の場合には直径)を指す。以下により詳細に論じるように、マイクロ粒子は好ましくは丸みを帯びた三次元体であり、アスペクト比は少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.7、より好ましくは約1である。本明細書で使用される場合、「アスペクト比」とは、各粒子の最小表面間寸法に対する最大表面間寸法(すなわち、粒子サイズ)の比を指す。
【0016】
ヒドロゲルマイクロ粒子は、単なる「粒子」またはランダムな凝集体ではなく、マイクロ小球、マイクロビーズ、またはヒドロゲルマイクロ粒子としても特徴づけられ得る。使用されるポリマー系によって、マイクロ粒子は一般に、約1,000Pa~約2.5MPa(メガパスカル)、より好ましくは約10,000Pa~約2MPa、より好ましくは約25,000Pa~約1MPa、より好ましくは約50,000Pa~約0.5MPaの範囲のヤング弾性率によって特徴づけることができる。弾力性があり、弾性成分を有するが、十分な力が加わると、マイクロ粒子は砕けるかまたはより小さな断片に分かれることがあり、しかし、そのような後続の断片は、より小さな小体としてではあるが、やはり3次元ポリマーマトリックスを構成する。言い換えれば、ヒドロゲルマイクロ粒子は剪断減粘性ではなく、マトリックス体自体も溶媒系中で溶解または希釈されやすくもないが、担体またはビヒクル系によっては個々のマトリックス体の膨潤が起こる可能性がある(すなわち、液体がマトリックスの間隙または細孔に移動する場合)。1または複数の実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は不可逆的ヒドロゲルとして特徴づけることができ、これは、いったん砕けると、マトリックスの架橋は再形成されないか、またはそうでなければ回復もしくは自己治癒しないことを意味する。
【0017】
マイクロ粒子を形成するために使用される例示的ポリマー前駆体化合物としては、アルギン酸(alginate)などの、強いマトリックスを形成するゲル化の速い天然ポリマー、ならびに分岐または非分岐ヒアルロン酸、分岐または非分岐官能基化ヒアルロン酸、分岐または非分岐官能基化ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、フィブリン、キトサン、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリ(L-乳酸)、ポリ乳酸・グリコール酸コポリマー、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、およびそれらの組合せからなる群から選択されるゲル化の遅いポリマー前駆体が挙げられる。
【0018】
マトリックスは、ジチオトレイトール、分岐または非分岐官能基化ポリエチレングリコール、ジチオール、ビス-メルカプト酢酸エチレングリコール、およびそれらの組合せからなる群から選択される架橋剤(ポリマー化合物と架橋)をさらに含んでなり得る。例示的官能基化ポリエチレングリコールとしては、限定されるものではないが、ポリエチレングリコールジチオール、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジビニルスルホン、ポリエチレングリコールジマレイミド、およびそれらの組合せが挙げられる。1または複数の実施形態において、ポリマー前駆体溶液は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)を実質的に含まない。
【0019】
マトリックスは、1種類の共有結合架橋ポリマー骨格を含んでなる均質なものであってよい(異なるポリマー種の付加的架橋剤を含んでも含まなくてもよい)。マトリックスはまた、高分子量(≧500kDA、好ましくは≧100kDA)および低分子量(≦100kDA、好ましくは≦50kDa)のポリマー前駆体の組合せなど、2種類以上のポリマー前駆体の混合物、および/または2種類以上の架橋剤の混合物を含んでなる不均質なものであってもよい。
【0020】
一般に、前駆体溶液に含まれるポリマー前駆体の量は、50%w/w未満である。この量は、高分子量(≧500kDa、好ましくは≧100kDa)の多置換ポリマー、例えばヒアルロン酸では約1%~約50%w/w、低分子量ポリマー(≦100kDa、好ましくは≦50kDa)、例えば、PEGDAまたはPEGMALでは約5%~約50%w/wの範囲である。
【0021】
適切な架橋剤でヒドロゲルを形成するために使用できる、異なる骨格化学物質からの反応性基の例を下表に示す。架橋反応のいくつかはUV光によって開始されるが、他のものは化学反応である。
【0022】
【表1】
【0023】
さらなる例示的前駆体化合物には、限定されるものではないが、非アルギン酸多糖、コラーゲン/ゼラチン、キトサン、アガロースなどが含まれる。これらの前駆体化合物は、複数のアームを有する分岐ポリマーであっても、または単一骨格の非分岐/直鎖ポリマー鎖であってもよい。これらは、目視観察のための色素を付着させるために、さらに官能基化することができる。特に好ましいヒドロゲル前駆体化合物はヒアルロン酸、またはヒアルロン酸/PEG混合物である。前駆体化合物はまた、ヒドロゲル製造時に前駆体化合物に添加される様々な化学実体で官能基化することもできる。これらの化学物質はヒドロゲルマトリックスに結合し、マイクロ粒子から単純に拡散するために間隙に封入されるのとは対照的である。
【0024】
生体適合性ヒドロゲルが特に好ましい。本明細書で使用される場合、「生体適合性」とは、生体組織に有害でないことを意味し、より具体的には、過度の毒性、刺激、またはアレルギー応答もしくは免疫原性応答なく対象に投与することができ、いかなる望ましくない生物学的効果も引き起こさず、または有害な様式で相互作用しないという点で、生物学的または他の点で望ましくないものではないことを意味する。生体適合性ヒドロゲルは、当業者に周知のように、対象における副作用を最小化するように選択される。ヒドロゲル前駆体とともに含まれ得る付加的な任意の成分としては、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、細胞外マトリックスの他の成分などが、それらの合成変種も含めて挙げられる。
【0025】
マイクロ粒子の架橋プロファイルは、前駆体化合物の分子量、ならびに選択された架橋剤、架橋条件、および架橋プロセスを調節することによって調整することができる。例えば、架橋中に分子が液滴/コアから周囲環境に浸出する能力を制限することによって、より滑らかなビーズ表面および/またはより強いゲルを達成するために、いくつかの実施形態では「より堅い」またはより速い架橋が望まれる場合がある。これは、前駆体種の分子量を増加させること(例えば、~>40kDa)、および/または架橋化学もしくは開始方法を調節して架橋時間を短縮することの両方によって達成することができる。架橋は、特定のヒドロゲル前駆体化合物によって様々な機構で実施することができる。
【0026】
一般に、マイクロ粒子を調製するための1つの技術は、参照により本明細書の一部とされる、2015年6月3日出願の米国特許第9,642,814号に詳細に記載されている。この方法は、ヒドロゲル前駆体化合物と、溶媒系に分散または溶解した二価陽イオン(例えば、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、およびそれらの組合せ)からなるヒドロゲル前駆体溶液を調製することを含む。二価陽イオンは、ヒドロゲル前駆体化合物とともに溶媒系に分散または溶解される。二価陽イオンは、溶液の総量を100%として、約0.025モル/リットル~約0.25モル/リットルのレベルで溶液に含まれるべきである。
【0027】
ヒドロゲル前駆体溶液はまた、任意のヒドロゲル架橋剤、触媒、添加剤、媒体、栄養素、pH緩衝剤、密度調整剤、粘度調整剤などを含むことができる。次いで、ヒドロゲル前駆体溶液をアルギン酸と合わせて、ヒドロゲル前駆体溶液の周囲でアルギン酸のゲル化を開始させ(「インサイドアウト」ゲル化プロセスを介する)、コア/シェルマイクロ粒子を得る。各コア/シェルマイクロ粒子は、ヒドロゲル前駆体溶液を含んでなる液体コアを取り囲むアルギネートシェルを含んでなる。これは一般に、アルギン酸浴に前駆体溶液を滴下添加することを含み、例えば、アルギン酸浴に滴下または噴霧される前駆体溶液の液滴を生成/押し出すことによる。溶液中のアルギン酸の量は変化させることができるが、溶液の総量を100%として、約0.1~約2.0重量/容量%の範囲であり得る。一般に、アルギン酸溶液の粘度は、ヒドロゲル前駆体溶液の粘度より小さくなければならない。アルギン酸溶液の粘度は、アルギン酸濃度およびアルギン酸ポリマーの平均分子量(すなわち、アルギン酸分子の長さまたは鎖中のモノマー単位の数)に依存し、より長い鎖は、同様の濃度でより高い粘度をもたらす。1または複数の実施形態において、アルギン酸溶液の粘度は、室温(約20~25℃)で約1~約20cP、好ましくは約1~約4cPの範囲となる。より具体的には、アルギン酸溶液の粘度に対するヒドロゲル前駆体溶液の粘度の比は、室温で1を超えるべきである。1または複数の実施形態において、ヒドロゲル前駆体溶液の粘度とアルギン酸溶液の粘度の比は、約1:1~約1000:1である。1または複数の実施形態において、ヒドロゲル前駆体の粘度の比は約20:1である。1または複数の実施形態において、ヒドロゲル前駆体溶液の粘度は約1~約500cPであり、室温で約40~約100cPが特に好ましい。アルギン酸浴のpHは約6.2~約7.8、好ましくは約6.6~約7.4の範囲であるべきである。
【0028】
アルギン酸のシェルは内側から外側へと形成し、前駆体溶液の液滴から陽イオンが溶出するにつれて液滴の周囲で厚くなる。言い換えれば、液滴中に陽イオンが存在することで、浴中のアルギン酸が表面に凝集し、液滴の周囲で架橋する。
【0029】
次に、架橋および/または重合などによって、液体コア中のヒドロゲル前駆体化合物のゲル化が開始され、コア/シェル架橋マイクロ粒子が得られる。1または複数の実施形態において、コア/シェルマイクロ粒子は、好ましくは溶液中でヒドロゲルマトリックス架橋剤と組み合わされる。架橋剤はアルギネートシェルを通してコア/シェルマイクロ粒子に溶出し、ヒドロゲル前駆体化合物のゲル化(架橋)をもたらし、3次元ヒドロゲルマトリックスを形成する。架橋剤はヒドロゲル前駆体化合物に対応するが、得られる架橋マトリックス内で達成される架橋の速度とレベルを制御するために変化させることができる。一般に、マイクロ粒子の形成に使用される架橋剤の量は、選択される架橋剤およびポリマー系によって約0.5mM~約30mM、好ましくは約1mM~約20mM、より好ましくは約2mM~約15mM、さらに好ましくは約2.5mM~約10mM、さらにより好ましくは約2.5mM~約5mMの範囲である。
【0030】
各コア/シェル架橋マイクロ粒子は、アルギネートシェルと、架橋された3次元ヒドロゲルマトリックスを含んでなるゲル化コアを含んでなる。架橋は、調製される特定の前駆体溶液によって、化学的に誘導されるか、熱的に誘導されるか、または光開始される。例えば、ヒドロゲル架橋剤はアルギン酸浴に含まれ、アルギネートシェルを通って拡散し、コア中のヒドロゲルマイクロ粒子を架橋することができる。あるいは、コア/シェルマイクロ粒子はUV照射源に供され、ヒドロゲルマイクロ粒子コアで架橋を開始する。UV露光時間は約1分~約10分、好ましくは約2分~約8分、さらにより好ましくは約2.5分~約5分の範囲である。UV露光の波長は、選択される光重合開始剤および/またはポリマー系によって異なるが、一般に約100nm~約400nm、好ましくは約315nm~約400nmの範囲、さらにより好ましくは約365nmである。
【0031】
適切な架橋剤としては、光または熱開始架橋剤、化学架橋剤、例えばアクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、ビニルスルホン、ジチオールなどが挙げられ、これらはアルギン酸浴の一部として含まれる。自己架橋性ヒドロゲル前駆体もまた使用され得る。これらの実施形態において、IRGACURE(登録商標)2959(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン)またはリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイル-ホスフィネート(LAP)などの光開始剤が、触媒としてヒドロゲル前駆体溶液に含まれ得る。光開始剤もアルギン酸浴に含まれ得る。化学架橋系の場合、架橋剤は通常アルギン酸浴に提供される。UV開始架橋系の場合、架橋剤はアルギン酸浴中またはヒドロゲル前駆体溶液中に主要ポリマー(骨格)種とともに含まれ得る。
【0032】
前駆体化合物は、架橋反応を介して最終生成物中で化学的に変化し、定義された粒子形態の多孔性弾性固体として特徴づけられる完全に架橋されたヒドロゲルマトリックスをもたらすことが理解されるであろう。例えば、1または複数の実施形態において、ヒドロゲルマトリックスはチオエーテルおよびエステル架橋結合を含むPEGおよびHAポリマーの架橋ネットワークから本質的になる(またはからなる)(例えば、チオール化HAの場合)。しかしながら、マトリックスはネットワーク中に残存する微量の未反応前駆体化合物、官能基などを含み得ることが理解されるであろう。存在し得るヒドロゲルマトリックスと架橋の他の例は実施例に記載されている。一覧は例を示すものであって、網羅するものではない。使用可能な骨格分子の例としては、キトサン、アガロース、コンドロイチン硫酸、またはそれらの組合せが挙げられる。骨格間に形成される結合としては、チオエーテル+エステル、チオエーテル+エステル+β炭素上のメチル、チオエーテルスルホン、またはチオエーテルスクシンイミドとの化学結合が挙げられる。しかし、他の化学結合を用いてもよい。光(フリーラジカル)結合としては、エステル+エーテル、またはアミド+エーテルなどを含み得る。利用可能な組合せはますます複雑となり、可能な組合せは事実上無限であることが理解されるであろう。
【0033】
いったんコアが架橋されると、アルギネートシェルは次に除去され(例えば、キレート化剤、および/または超音波処理などの機械的撹拌を用いて)、本明細書の他所に記載される特徴を有する自立性ヒドロゲルマイクロ粒子またはマイクロビーズが得られる。言い換えれば、アルギネートシェルは最終製品の一部ではなく、マイクロ粒子の使用前に常に除去される。得られたヒドロゲルマイクロ粒子は、メッシュスクリーンまたは他の装置を用いて溶液から回収することができ、所望により、すすいでもよいし、または培地中に懸濁させてもよい。
【0034】
その他の製造方法としては、二重乳化、噴霧、レーザー印刷、3D印刷/付加製造、および押出挙げられる。製造方法にかかわらず、得られるヒドロゲルマトリックスは、液体および気体に対して透過性であるが、流動性を示さず、定常状態ではその完全性を保持する半剛性ネットワーク(すなわち、多孔性弾性固体)であることを特徴とする。ヒドロゲルマイクロ粒子は、コアシェル型カプセルのように明確なシェルを持つのではなく、ビーズ本体全体に架橋充填材料をある程度均一に保持するマトリックス型カプセルである。上述したように、各ヒドロゲルマイクロ粒子はまた、(ランダムな粒子または凝集体とは対照的に)外面および定義された/離散的な3次元形状および幾何学的形状を有する自立体でもある。言い換えれば、本発明のマイクロ粒子は、糸、繊維、またはシートでもなく、絡み合った糸、繊維、またはシートでもなく、凝集体でもなく、凝集塊でもなく、斑点でもなく、フレークでもなく、分岐鎖構造またはポリマー鎖または分岐断片でもない。1または複数の実施形態において、得られるマイクロ粒子は、制御されたサイズを有し、好ましくは、合成されたマイクロ粒子の所与のバッチ間の変動係数(すなわち、平均粒子直径に対する粒子の標準偏差の比)が20%以下である実質的に単分散である。
【0035】
1または複数の実施形態において、得られるマイクロ粒子体は実質的に球形である(球形体は必ずしも完全な円形である必要はなく、楕円形、長円形、卵形、涙形などであってもよいと理解される)。すなわち、マイクロ粒子本体は、好ましくは、図面の画像に例示されるように、実質的に滑らかな外面を有する、実質的に丸く、角がなく、好ましくは、鋭角がない。1または複数の実施形態において、マイクロ粒子は、少なくとも0.25、好ましくは少なくとも0.35、より好ましくは少なくとも0.49、さらにより好ましくは少なくとも0.7、さらにより好ましくは約0.75~約1の真球度または「真円度指数」を有する。真球度または真円度指数は、所定の粒子の表面積に対する、所定の粒子と同じ体積を有する完全な球体の表面積の比である。真球度または真円度指数は、
【数1】
によって計算することができ、式中、Vpは粒子の体積であり、Apは粒子の表面積である(完全な球体の粒子では、真球度Ψ=1である)。
【0036】
有利には、粒子サイズは、選択された液滴発生器の能力によって高度にカスタマイズ可能である。1または複数の実施形態において、得られるヒドロゲルマイクロ小球またはマイクロ粒子は、30μmより大きい、場合によっては300μmより大きい平均粒子サイズ(すなわち、平均最大断面表面間寸法)を有する。参照しやすいように、本明細書ではこの断面寸法を単にマイクロ粒子の「サイズ」と呼ぶ。1または複数の実施形態において、得られるヒドロゲルマイクロ小球またはマイクロ粒子は、約5mm未満の平均粒子サイズを有する。好ましくは、得られるヒドロゲルマイクロ小球またはマイクロ粒子は、約2mm未満、より好ましくは約30μm~約2mm、さらにより好ましくは約50μm~約1.5mm、より好ましくは約150μm~約1.5mm、さらにより好ましくは約300μm~約1.4mmの範囲の平均粒子サイズを有する。場合によっては、約30μm~約750μmまたは500μmの範囲のサイズのより小さなマイクロ粒子を形成することもできる。前述のように、サイズにかかわらず、実質的に丸みを帯びた粒子は、少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.7、さらに好ましくは約1のアスペクト比を有する。
【0037】
特定の用途では、単一の用途のために多様なサイズを製造することが有益な場合がある。他の場合には、懸濁液中の粒子の粒子サイズが均一であることが製品にとって有益である。いずれにせよ、本発明のヒドロゲルマイクロ粒子はナノサイズではなく、ナノ粒子または他のいずれの種類のナノ結晶形状ともみなされない。
【0038】
マイクロ粒子の耐久性は、ポリマー前駆体の質量分率または分子量、架橋剤の分子量、架橋剤とポリマー前駆体の比、架橋剤の加水分解、架橋速度論、架橋時間、例えば、UV露光時間、およびそれらの組合せなどの、製剤および/または処理パラメータを含む、マイクロ粒子の種々のパラメータを変更することによって調節することができる。さらなるヒドロゲルが、2020年6月5日出願の共同係属中のPCT/US2020/036361に記載されており、その全体が参照により本明細書の一部とされる。
【0039】
本マイクロ粒子は、本明細書で定義されるような低分子化合物、細胞組織、または他の「治療薬」を送達するための薬物送達系またはビヒクルではなく、ほとんどの実施形態において、「空」であってよく、すなわち、その中に封入されているか、またはそれに付着しているそのような薬物、生物製剤、細胞、組織、または他の治療ペイロードを実質的に含まない。本明細書で使用される場合、「治療」とは、軟組織充填剤の配置部位それ自体(空隙を充填する、皮膚をふっくらさせる、しわを滑らかにするためなど)のケアおよび回復に関連しないか、または直接関連しない疾患または状態を治療または予防するための活性/生物活性を有する化合物または材料である。従って、企図される活性化合物は、充填剤の配置または移植の結果または回復を改善することを意図したもののみである。マイクロ粒子はまた、金属、プラスチック、またはセラミックを実質的に含まない。「実質的に含まない」という用語は、本明細書で使用される場合、偶発的な不純物が存在したり、製造工程から残留/微量が残ったりすることはあるが、成分が組成物に意図的に添加されていないことを意味する。そのような実施形態において、ヒドロゲル前駆体溶液組成物に含まれるそのような成分は、溶液の総重量を100重量%として、約0.05重量%未満、好ましくは約0.01重量%未満、より好ましくは約0重量%である。
【0040】
上記にかかわらず、マイクロ粒子を可視化するために使用され得る色素または他の検出可能な標識などの、非「治療用」ペイロードがマイクロ粒子と共送達され得ることは、本発明の企図される範囲内にある。1または複数の実施形態において、企図されるペイロードは、リドカイン、抗生物質、抗炎症剤、ボトックスなどの注射部位の疼痛もしくは感染を軽減するための局所鎮痛剤もしくは麻酔剤、または補完(imputation)部位の疼痛、打撲、または炎症を軽減することなどにより、軟組織充填剤の配置の成功、回復、および充填剤処置の結果に直接寄与する他の活性剤を含む。このような鎮痛剤または麻酔剤は、一時的な疼痛緩和、打撲、または炎症を超えて患者を「治療」することを意図したものではなく、従って「治療薬」の範囲には含まれない。局所鎮痛剤、抗生物質、または麻酔剤は、マイクロ粒子ヒドロゲルマトリックスに注入することができ、かつ/または、組成物の投与のために、例えば送達ビヒクル中のように、懸濁状態のマイクロ粒子と単に混合され得る。
【0041】
従って、本明細書に開示される組成物は、薄い唇をふっくらさせる、浅い輪郭を強調する、顔のしわを和らげる、しわを除去する、手をふっくらさせる、傷跡の外観を改善するなどの美容的または審美的処置のため、ならびに手術、外傷などによる組織の喪失または除去による空隙を充填するなどの再建手術のために、軟組織充填剤として、移植(例えば、注射)により個人の真皮、真皮中層、皮下、真皮下層、筋膜、または骨膜領域内、その上、またはその下に配置する。ヒドロゲル組成物の個々の患者への投与経路は、一般には、個人および/または医師が所望する美容的および/または臨床的効果、ならびに処置される身体部分または領域に基づいて決定される。本明細書に開示される組成物は、限定されるものではないが、針付き注射器、ピストル(例えば、水圧圧縮ピストル)、カテーテル、局所的、または直接的な外科的移植もしくは配置を含む、当業者に公知の任意の手段によって投与され得る。マイクロ粒子の投与は1回であっても、例えば一定の間隔で繰り返してもよい。最終的には、使用されるタイミングは品質管理基準に従う。例えば、本明細書に開示されるマイクロ小粒子の投与は1回であってもよく、数週間間隔で数回にわたってもよい。本明細書で使用される場合、「真皮領域」という用語は、表皮-真皮接合部および真皮表層(乳頭領域)および真皮深層(網状領域)を含む真皮からなる皮膚の領域を指す。従って、本明細書に開示されるマイクロ粒子は、例えば、表皮-真皮接合領域、乳頭領域、網状領域、またはそれらの任意の組合せに注射することによって、個人の真皮領域に投与することができる。
【0042】
組成物は一般に、薬学上許容される送達ビヒクル(一般に、生理学的pHが7~7.4の範囲、またはそれよりややアルカリ性、例えばpH8または9まで)中に懸濁された複数の3次元ヒドロゲルマイクロ粒子を含んでなる。ビヒクルは、好ましくは、小ゲージの針を通すなど、移植部位での局所的送達(直接注入)に適するように選択される。1または複数の実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は凍結乾燥され、乾燥粉末として保存され、その後、適切な水性ビヒクルで再構成される得る。1または複数の実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、保存のために凍結保存することができ、解凍時にマトリックスの質の低下を示さない。有利なことに、マイクロ粒子の完全架橋性のために、本明細書に記載される軟組織充填剤組成物は、マイクロ粒子が送達ビヒクル中に懸濁され、好ましくは均一に懸濁されるが、懸濁液中でそれ自体異なる特性を有するものとして残存し維持される不均質な混合物または懸濁液(溶液ではない)である。従って、マイクロ粒子は、所望により濾過により送達ビヒクル(または保存に使用される他のビヒクル)から分離することができる。よって、組成物の粘度は、選択された送達ビヒクルを調節することによって調節することができる。滅菌水さえも含む水性送達ビヒクルの場合、組成物は非常に薄く、低粘度の流動性とすることもできるし、またはマイクロ粒子は、所望により、液体ポリマー溶液のような、より高粘度を有する担体ビヒクルに懸濁させることもできる。いずれの場合も、完全に架橋されたマイクロ粒子は異種組成物の別個の成分のままであり、所望によりそこから濾過または分離することができる。
【0043】
1または複数の実施形態において、送達ビヒクルは、懸濁状態にある間、マイクロ小粒子の膨潤を低減または最小化する(従って、そのサイズを縮小する)高浸透圧溶媒系として調製することができる。しかしながら、注射して体内の流体(およびイン・ビボ環境における塩分濃度の変化)に曝されると、マイクロ粒子は膨潤し、所望のサイズに拡大して欠損空隙(例えば、しわなど)を充填する。このようにして、マイクロ粒子は体内に入れるまで小さいままであり、小さな針での注射を容易にする一方で、体内での粒子の膨潤を可能にし、移植場所を充填または移植場所で拡大する。従って、マイクロ粒子は、粒子サイズおよび移植の標的部位によって約27~24ゲージ、または約14ゲージまでのより大きなゲージの針の好ましいサイズを有する任意の針を介して注射することができる。いくつかの実施形態では、マイクロ粒子は針を通過する際に剪断または断片化されてより小さな粒子になることもある。
【0044】
1または複数の実施形態において、(初期形成後の)マイクロ粒子の膨潤および収縮は、実施例に例示されるように、担体ビヒクル中の完全に架橋されたマイクロ粒子とマイクロ粒子の収縮を誘導することができる溶質とを共懸濁させることによって調節することができる。懸濁液中のこの溶質の濃度を高めるとマイクロ粒子は収縮する。しかし、注射して体内の流体に曝されると(またイン・ビボ環境における濃度変化が起こると)、マイクロ粒子は膨潤し、欠陥空隙(例えば、しわなど)を充填するために所望の大きさまで拡大する。このようにして、マイクロ粒子製剤は体内に入るまでは小さいままであり、小さな針での注射を容易にする一方で、体内で膨潤して空間を充填することができる。
【0045】
1または複数の実施形態において、本明細書では、皮膚、美容、または再建的充填の方法が企図される。本方法は、一般に、複数のヒドロゲルマイクロ粒子を、注射または移植によるなど、対象の移植部位またはその近傍に配置することを含む。これらの新規な軟組織充填剤は、皮膚の状態、一般には顔面および四肢の体積の損失の処置、ならびにしわの充填のために有用である。移植されたヒドロゲルマイクロ粒子は、移植部位にクッションとなる体積と充填物を提供する。実施例で実証されるように、マイクロ粒子はまた、移植部位で対象に有利な生理学的応答を誘導する。例えば、マイクロ粒子は、移植部位において望ましくない炎症応答を誘導しない。1または複数の実施形態において、ここで企図される方法は、しわを減らすこと、容積を加えること、および重度の火傷、腫瘍、または組織除去(例えば、脂肪腫除去)後などの、真皮層から骨膜層までの外科手術または損傷に関連する変形を審美的に矯正することを含む。マイクロ粒子は、皮膚内の構造とクッションを回復または維持するのに役立つ。さらに、その弾力性により、それらは本来の組織を模倣した弾性応答を示す。
【0046】
本方法は、限定されるものではないが、顔、首、および手のしわ、ならびに腕、脚、腹部、手、および足とともに前記部位の体積充填を含む様々なヒトへの適用に応用することができる。好ましくは、マイクロ粒子またはマイクロ粒子を含んでなる組成物は、真皮領域ならびに皮下組織、またはさらには骨膜にも導入される。
【0047】
治療法の場合、マイクロ粒子は対象への投与のために適切な送達ビヒクルに懸濁または分散させる。例示的な送達ビヒクルとしては、適合性生物流体、および非架橋または部分架橋型低濃度HA液体溶液などの生体適合性の液体懸濁液、粘性溶液、パテ、ペースト、またはゲルなどがあり、その中にマイクロ粒子を分散させる。生理食塩水または他の緩衝溶液も送達のためのビヒクルとして使用可能である。注射組成物は、例えば直径400~600μmのような狭いサイズ範囲(実質的に単分散)のマイクロ粒子の単一製剤を含み得る。逆に、組成物は、異なるマイクロ粒子サイズ(多分散)を有する製剤の混合物であってもよい。例えば、ヒドロゲルの異なる製剤を混合して、異なる時点で分解するか、または異なる剛性特性を有するマイクロ粒子の組合せを有することが有利な場合がある。従って、本明細書では、第1の特徴(例えば、サイズ範囲、剛性、および/または分解プロファイルなど)を有する第1のマイクロ粒子集団と、第2の特徴(例えば、サイズ範囲、剛性、および/または分解プロファイルなど)を有する第2のマイクロ粒子集団とを含んでなり、第2の特徴は第1の特徴と異なる、異なるマイクロ粒子の組成物が企図される。混合組成物は、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10またはそれを超える異なるマイクロ粒子製剤を含み得る。同様に、本発明の粘弾性マイクロ粒子は、架橋されていない、もしくは部分的にしか架橋されていない粘性HA、または他の粘性皮膚充填剤と混合して(担体ビヒクルとして)適切な製剤を得ることができる。この製品は例えば、部分架橋HAなどの粘性皮膚充填剤に懸濁させた1:10比のマイクロ粒子で構成することができる。
【0048】
より一般的には、本方法は、得られたマイクロ粒子組成物の美容上または審美上有効な量を患者に局所投与することを含む(またはからなる)。投与は一般に、標的部位またはその近傍へのマイクロ粒子組成物の直接注射を含む。有利なことに、耐久性のあるマイクロ粒子は一般に、美上または審美上有効な期間、局所領域に閉じ込められる。本明細書で使用される場合、「美容上または審美上有効な」という用語は、研究者、臨床医、または患者が求める組織の美容的または審美的応答を維持する量および/または期間を指す。
【0049】
治療は,必要であれば,追加の注射または注入によって繰り返すことができる。当業者であれば、治療プロトコールは、特定の審美的標的および医療従事者または研究者の選好によって可変であることを理解するであろう。典型的な注射手順の例としては、連続注入、線状スレッディング、扇状注入、およびより大きな表面積に対するクロスハッチングが挙げられる。本明細書に記載される組成物は、特に皮膚充填剤として使用することが企図される。
【0050】
有利なことに、ヒドロゲルマイクロ粒子は耐久性があり、37℃のPBS中で少なくとも6か月間、保存条件下で崩壊または分解しないことを意味する。言い換えれば、耐久性マイクロ粒子は6か月を超える「イン・ビトロ(in vitro)保存安定性」を有する。1または複数の実施形態において、耐久性ヒドロゲル粒子は室温(27℃)のPBS中で1年以上保存安定があり、現在のデータでは4年を超える保存寿命を有するマイクロ粒子が例示されている。好ましくは、このような耐久性ヒドロゲルマイクロ粒子が移植された場合、通常の生理学的(食作用、分解、吸着などを介した異物の通常のイン・ビボクリアランスを意味する)条件下で、少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間崩壊しない。
【0051】
本発明の組成物およびマイクロ粒子の特定の利点は、移植された際に他のタイプのマイクロ粒子と比較して「粘着性」が改善されることである。すなわち、マイクロ粒子はイン・ビボにおいて移植部位で組織に接着または粘着する傾向があり、以下の実施例の写真に示されている。このことは、移植部位での局所的な充填を維持することにより、治療の有効性をさらに高める。さらに、マイクロ粒子は、移植部位におけるいかなる炎症性応答、および/またはリンパ球もしくはコラーゲンリング形成を含むいかなる異物応答の誘導も示さない。
【0052】
本発明の組成物およびマイクロ粒子のもう一つの特定の利点は、要求に応じて分解される能力である。これは、エンドユーザーが製品を特定の領域に誤って適用する可能性がある場合、美容効果が所望通りでない場合、またはTyndall効果のような予期せぬ効果が認められる状況において重要である。このとき、ヒドロゲルマイクロ粒子は数時間~数日以内に溶解させる必要がある。以下の実施例に記載され、表5および表6に要約されているように、オンデマンド溶解を達成するために多くの異なるアプローチをとることができる。
【0053】
本発明の様々な実施形態のさらなる利点は、本明細書の開示および以下の実施例を検討すれば、当業者には明らかとなる。本明細書に記載される様々な実施形態は、本明細書で別段の指示がない限り、必ずしも相互に排他的ではないことが理解されるであろう。例えば、1つの実施形態に記載または描写された特徴は、他の実施形態にも含まれる可能性があるが、必ずしも含まれるわけではない。従って、本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態の様々な組合せおよび/または統合を包含する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「および/または」という語句は、2つ以上の項目のリストで使用される場合、挙げられている項目のうちのいずれか1つがそれ自体で採用されてもよいし、または挙げられている項目のうちの2つ以上の任意の組合せが採用されてもよいことを意味する。例えば、組成物が成分A、B、および/またはCを含むまたは含まないと記載されている場合、その組成物は、A単独;B単独;C単独;AとBの組合せ;AとCの組合せ;BとCの組合せ;またはAとBとびCの組合せを含むまたは含まない場合ある。
【0055】
本明細書ではまた、本発明の様々な実施形態に関する特定のパラメータを定量化するために数値範囲を使用する。数値範囲が示される場合、このような範囲は、範囲の下限値のみを記載する請求項の限定ならびに範囲の上限値のみを記載する請求項の限定の文字通りの裏付けを提供するものと解釈されることを理解されたい。例えば、開示された約10~約100の数値範囲は、「約10より大きい」(上限なし)と記載された請求項および「約100より小さい」(下限なし)と記載された請求項に対する文字通りの裏付けを提供する。
【実施例
【0056】
実施例
以下の実施例は、本発明に従う方法を示す。しかしながら、これらの実施例は説明のために示されるものであり、そこに記載されているものは本発明の全範囲を限定するものとして捉えられるべきではないことを理解されたい。
【0057】
最終的なヒドロゲルマイクロ粒子の特徴
架橋マイクロ粒子は、コアシェル球状化、エマルション、アルギン酸の押出、パターン鋳型、および印刷(限定されるものではない)を含む多くの異なる製造方法を用いて構築することができる。マイクロ粒子は通常、針を通して注射するため、またはカテーテルを通して注入するために十分に小さい。本発明者らは、150μm未満から1,500μmを超えるサイズ範囲のマイクロ粒子を製造しており、従って18~30Gの針を通すことができ、皮膚への注射が容易である。しかしながら、マイクロ粒子は直径50μm未満で作製することができるので、さらに小さな針を使うこともできる。マイクロ粒子のサイズと形状は、治療目標に合わせて変えることができる。図1は、球形(図1A)、涙形(図1B)、楕円形(図1C)、および有機大型管状(図1D)のマイクロ粒子の例を示している。また、管状、長方形、またはその他の形状にすることもできる。さらに、図1Eに示すように、形状の混合物を製造し、同じ製品に使用することもできる。粒子は剪断のような物理的な力に耐えることができる。しかしながら、過度の力がかかると粒子は細かく砕けるが、明確な物理的形状は維持される。これは、物理的な境界および明確な形状を維持しないペースト状の潤滑剤ゲルとは異なる。図2は、剪断に曝される前(図2A)と曝された後(図2B)のMeHAマイクロ粒子を示す。剪断力によってマイクロ粒子はばらばらになるが、固体状の形状をなお維持している。剪断力に曝す前(図2C)と曝した後(図2D)の蛍光プローブを含浸させたAHAマイクロ粒子を示す。
【0058】
同様に、マイクロ粒子は、図3に示されるように、平均100~2000ミクロンという広範囲のサイズで作出することができる。大型のマイクロ粒子を図3Aに、中サイズを図3Bに、小型のマイクロ粒子を図3Cに、サイズの混合物を図3Dに示す。理論上、大サイズと小サイズの混合は、皮膚充填剤としてより滑らかな製品を提供し得る。
【0059】
種々の前駆体ポリマーおよび架橋スキームを利用することで、様々な材料から架橋マイクロ粒子を製造することができる。図4に、チオール化ヒアルロン酸(ThHA)、ポリビニルアルコールアクリルアミド(PVA-AA)、ジアクリレートポリエチレングリコールポリエチレンジアクリレート(PEGDA)、アルギン酸、ポリエチレンビニルスルホン、およびアクリル化ヒアルロン酸(AHA)から製造されたマイクロ粒子のいくつかの例を示す。
【0060】
ヒドロゲルマイクロ粒子は有利には、ヒアルロン酸(HA)およびポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)、ポリエチレングリコールマレイミド(PEGMAL)、マルチアームPEG、ヒアルロナン、フィブリン、キトサン、コラーゲン、ヘパリン、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、ポリ乳酸・グリコール酸コポリマー(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、メタクリル酸(MAA)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、ポリアクリルアミド(PAM)細胞外マトリックス、およびこれらの官能基化変種(例えば、アクリル化、メタクリル化、チオール化など)またはこれらのマルチアーム変種(例えば、4アームPEG、8アームPEG)などの様々なゲル化の遅いポリマー前駆体から構築することができる。しかしながら、いずれの架橋可能なヒドロゲル前駆体化合物も本明細書とともに使用するのに適しており、好ましい化合物は、生体適合性ホモポリマーまたはコポリマー、特にはブロックコポリマー、ならびに他のタイプの架橋可能なモノマーおよび/またはオリゴマーである。
【0061】
最終製品のいくつかの化学型のさらなる特徴を表2に示す。前駆体ポリマーと潜在的架橋剤を架橋機構とともに示す。最初の行は、反応性基、架橋剤、架橋時間、ポリマー質量の範囲、粒子直径の範囲を含む、粘弾性固体状マイクロ粒子の特徴の多様性を示す。光開始および化学反応を含む様々な架橋機構を利用することができ(表2)、そのため、表2に示すように、架橋アプローチが異なれば硬化に必要な時間が異なる。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に挙げたマイクロ粒子は、膨潤特性が大きく異なる。例えば、AHAの膨潤比(Q値)は約250であるのに対し、ThHAはわずか28である。ヒドロゲル化学は、注射後まで膨潤を抑制する環境にマイクロ粒子を維持することが可能なように、膨潤特性に高度の制御を提供する。このような状況は、より小さな針と皮膚への進入点が使用可能で、なおかつ高度の増量を提供するので有利となる。
【0064】
様々な架橋アプローチに加えて、マイクロ粒子の特徴を変えるために、さらなる化学修飾を行うこともできる。例えば、完全に架橋された粒子内の未反応種を、図5に示すようにさらに修飾することができる。これは粒子と周囲組織との相互作用を変化させるために行うことができ、用途に応じて反応性を低くしたり高くしたりすることができる。この例では、一般的に、架橋後のヒドロゲル内に低レベルの残存反応性基が存在する。これらの基は、所望により、下流の官能基化に利用することができる。この例では、単官能性PEG-マレイミド「分子キャップ」を、残留チオール基をクエンチするために使用する。この例で見られるように、未処理の球体は色素と容易に結合するのに対し、分子キャップでヒドロゲル球体を処理すると、マレイミド結合蛍光色素の結合をうまくブロックすることができた。
【0065】
記載されているアプローチは、粘弾性固体状皮膚充填剤を製造するための幅広い選択肢を提供するものである。ここに記載される粘弾性マイクロ粒子と、現在市販されているペースト状の皮膚充填剤の特性を比較すると、その違いが明らかになる。まず、化粧品分野では、充填剤の分子量が高いほどイン・ビボでの持続時間が長くなることが知られている。表3で、最終的な架橋固体状マイクロ粒子と現在市販されているペースト状充填剤の分子量を比較する。固体状粘弾性マイクロ粒子の前駆体の出発分子量は、表3の例に示すように0.2MDaであり得るが、完全に架橋されると、その値は決定できないほど増大する。基本的に、ビーズ全体が単一分子として働く。対照的に、現在市販されているペースト状の皮膚充填剤は、高分子量の前駆体から出発しているかもしれないが、研究では、実際の最終製品は処理後により低分子量になることが示されている。
【0066】
また、ペースト状充填剤に比べて粘弾性固体状マイクロ粒子では、製品内の架橋パーセンテージも大きく異なる。いったん形成された粘弾性固体状マイクロ粒子は、好ましくは20%以上の架橋、好ましくは20%~30%の架橋を有するが、他の製品は全て20%未満である(表3)。粒子直径は全て類似の範囲であるが、粘弾性固体状マイクロ粒子は定義された非角形の表面を有する。製品中のHAの最終濃度は、粘弾性固体状マイクロ粒子ではペースト状の製品の2倍近くである。ペースト状充填剤の耐久性は、前駆体の分子量とゲルの架橋%に直接関係している。表3は、架橋により測定不能な分子量を持つ単一マイクロ粒子となるため、最終製品の分子量は決定されないことを示している。不自然な外観となる可能性があるため、剛性が高くないことは重要である。従って、現在市販されている製品と比べて剛性(G’)値が低いことは有利である。また、マイクロ粒子の剛性測定はバルクゲルとは異なるため、数値を直接比較することはできないことに留意されたい。
【0067】
【表3】
【0068】
粘弾性固体状ヒドロゲルマイクロ粒子と、現在市販されている非HAペースト状製品を比較する場合にも、同じ一般的な違いが適用できる(表4)。独立した測定は報告されていないが、非粘弾性ペーストの初期分子量と最終分子量はおそらく変化しない。しかしながら、粘弾性固体状マイクロ粒子は、HAベースのマイクロ粒子について述べたように分子量が劇的に増加している。この違いからこの場合にも、より硬く、想定されるより耐久性のある製品が得られる。
【0069】
【表4】
【0070】
イン・ビトロ分解速度
これらの未架橋型のHAとは対照的に、本発明者らの完全架橋型HAマイクロ粒子の1つの製剤はイン・ビトロでの半減期が約50日であるのに対し、ポリエチレングリコールベースの製剤から作製されたマイクロ粒子のイン・ビトロで持続時間は無限である。この実験では、マイクロ粒子は50日間37℃、湿度10%で維持された。
【0071】
体内では、HAマイクロ粒子の分解はヒアルロニダーゼなどの内因性酵素に依存している。予備段階のイン・ビトロ研究は、完全架橋マイクロ粒子の酵素的分解を実証するであろう。マイクロ粒子分解をイン・ビボでモニターできるように、本発明者らは蛍光マイクロ粒子を開発した。図6Aに示す前駆体AHA溶液にSAMSAフルオレセインを添加した。図6BはPEGDAマイクロ粒子の蛍光標識である。
【0072】
溶質により制御されるマイクロ粒子サイズ
マイクロ粒子直径の変化は、ヒドロゲルの文脈で水性二相抽出として知られるプロセスのヒューリスティックスを利用した、溶質により制御されるアプローチによって得ることができる(Gehrkeら、1998)。このアプローチは過去にヒドロゲルにタンパク質を担持させるために利用された。この反復では、それは小さな針で注射しやすくするために、マイクロ粒子のサイズを小さくするために使用される。ヒドロゲルマイクロ粒子は通常、通常のリン酸緩衝生理食塩水中で保存される。しかしながら、PEGなどのポリマーが保存溶液に共溶解されると、ヒドロゲルネットワーク内に第2の水相が形成される。これは最終的に水とヒドロゲルポリマーの相互作用を破壊し、膨潤力を低下させ、従ってマイクロ粒子のサイズを小さくする。図7~11の実験では、PEG(分子量20kDa)を保存液に5、10、20、および30質量%溶解させた。図7に示すように、サイズの縮小は溶液中のPEGの濃度に直接関係していた。この図では、HAベースのマイクロビーズは溶質濃度の増加に対して直径の減少が最小であるのに対し、PVAベースのヒドロゲルは同じ溶質濃度に対して直径の劇的な減少を示す。
【0073】
図8は、異なるヒドロゲル製剤とそのサイズ縮小能力の比較を示す。図8Aは、HAヒドロゲルマイクロ粒子とPVAヒドロゲルマイクロ粒子の比較である。どちらも溶質の割合が30%まで増加すると直径が小さくなった。図8Bでは、溶質濃度が低いほど直径も小さくなった。溶質の濃度が高くなると、マイクロ粒子は画像化できなくなった。マイクロ粒子の体積を測定した場合にも同じ傾向が見られた(図9AおよびB)。溶質濃度による体積の変化を図10で視覚的に追跡した。
【0074】
直径の縮小は、溶質を含む保存液を通常のリン酸緩衝生理食塩水に交換することで可逆的となる。図11Aは、溶媒濃度が高くなっていく場合のマイクロ粒子の直径の縮小レベルを示す(薄い灰色)。マイクロ粒子を溶質のない溶液に戻すと、マイクロ粒子の直径は元のサイズに戻った。図11Aは、HAベースのマイクロ粒子の直径の変化を示す。図11Bは、PVAマイクロ粒子の変化を示す。図11Cは、PEGベースのマイクロ粒子の直径の変化を示す。PEGマイクロ粒子のサイズの変化は、高濃度の溶質中では測定できなかったが、溶質を含まない状態(濃い灰色)に戻すとマイクロ粒子が可視化できた。
【0075】
マイクロ粒子の生体適合性
生体適合性を調べるためにマイクロ粒子をラットに皮下注射した。マイクロ粒子はボーラス量(図12A)または個々のマイクロ粒子としての注射(図12B)のいずれかで注射した。画像は、マイクロ粒子を注射してから2週間後に取得し、肉眼的な炎症(発赤または腫脹)の徴候は見られなかった。ヒドロゲル粒子を同じ技術を用いてPEGDA、ThHA、またはAHAから作製した場合のマイクロ粒子の生体適合を図13に示す。マイクロ粒子をラットに腹腔内注射し、2~10週間後、無傷のヒドロゲルマイクロ小球がまだその領域に見られた。線維化(コラーゲンリング)および炎症応答(マクロファージおよびリンパ球)の面積は、盲検化された2人の技術者によって、各マイクロ小球の周囲の4つの異なる場所で測定した。いくつかのマイクロ粒子の周囲に限られた線維化が見られるだけであった(図13;ThHA)。AHAマイクロ粒子の周囲では線維化の割合が最も少なかった。AHAマイクロ粒子の周囲で線維化が見られた場合、それは他の成分から作製された粒子の場合よりもはるかに小さかった。さらに、マイクロ粒子の周囲の炎症細胞の視野の幅を測定した。マイクロ粒子の周囲に炎症細胞の徴候を示すAHAサンプルは少なかった。
【0076】
周囲の組織にはほとんどまたは全く反応がないだけでなく、ルーズな粘弾性マイクロ粒子をその部位から取り除くと、図14に示すように、生体適合性材料を覆う炎症細胞または線維化は見られない。左の画像では、数個の炎症細胞がマイクロ粒子を取り囲んでいるかマイクロ粒子に付着しているが、線維化の輪は存在しない。
【0077】
固体状マイクロ粒子が溶解またはそうでなければ分解すると、分解は表面から始まり、それでも異物応答は誘発されない(図15)。図15Aは新たに沈着したAHAマイクロ粒子を示すが、周囲の網に異物反応はない。移植から10週間後、マイクロ粒子は表面から分解しているが、なお異物応答はない(図15B)。これは、図15Cのラットの網の例で示したように、マイクロ粒子を破壊する強い異物応答を誘発する可能性のある非生体適合性材料とは対照的である。
【0078】
計画的分解
時折、使用者の誤りまたはアレルギーなどのレシピエントの生理的な問題により、マイクロ粒子を除去しなければならないことがある。架橋化学物質は、ビーズが数時間から数日でばらばらになるように設計することができる。図16は、HAベースのマイクロ粒子の場合、ヒアルロニダーゼなどの酵素への暴露に続くマイクロ粒子の分解を示す。計画的分解の別法では、化学的溶解を利用する。図17では、マイクロ粒子をDTTに曝し、15分で完全に溶解させた。図18A~Bでは、計画的分解の背後にある化学的作用のいくつかを示す、結果として生じる副生成物を記載している。
【0079】
化学的に架橋されたマイクロ粒子が関与している場合、溶解試薬を問題の領域に注射することができる。表5は、起こり得る架橋反応と各状況で使用される溶解試薬の概要を示す。グルタチオンなどの試薬は、オンデマンドの溶解のために、ジスルフィド結合を含むヒドロゲルマイクロ粒子の部位に注射することができる。
【0080】
【表5】
【0081】
粘弾性ヒドロゲルマイクロ粒子の化学的溶解に加えて、物理的様式を用いて、架橋結合を切断し、マイクロ粒子を溶解することもできる。表6は、ヒドロゲルマイクロ粒子の化学的性質と可能性のある物理的および化学的溶解法のいくつかの例を示す。例えば、メタクリレートで架橋したヒアルロン酸マイクロ粒子は、ヒアルロニダーゼなどの酵素を用いるか、または2光子レーザーから放出される励起光によって溶解することができる。別の例では、アルギン酸マイクロ粒子は高強度の超音波を皮膚表面に当てることで溶解させることができる。また、チオールで架橋されたポリビニルアルコールベースのマイクロ粒子を溶解させるためには、可視光線およびUV光も使用可能である。アゾ基で架橋されたポリ(アクリル)酸ベースのマイクロ粒子を溶解させるためには、赤色光を使用することができる。これらの方法では、携帯型装置を皮膚に当て、粘弾性固体状マイクロ粒子を溶解させることができる。対照的に、現在の皮膚充填剤の中には溶解する方法がないものがある。PMMAから製造されたARTEFILL(登録商標)の場合がそうである(表4)。この製品を除去しなければならない場合、唯一の選択肢は侵襲的な手術である。
【0082】
【表6】
【0083】
皮膚の表面に当てることでマイクロ粒子を溶解させる目的で、超音波もしくはUV光、または2光子レーザーを発生させる特定の携帯型器具を使用または開発することができる。現在、様々な既存のライトワンドが利用可能である。
【0084】
マイクロビーズの保存寿命
非公式に、本発明者らはPEGベースのヒドロゲルマイクロビーズを、PBS中、4年以上室温で保存したが、物理的特性に目に見える劣化は見られなかった。図19にチオール化ヒアルロン酸を水中で4年以上室温保存した後に画像化した2つの画像例を示す。より正式には、本発明者らはマイクロ小球を凍結保存し、解凍後の構造的完全性を測定した。
【0085】
最終的な架橋生成物は、緩慢凍結プロトコールを用いて、マイクロ粒子の物理的特性の化学的性質に悪影響を与えることなく凍結することができ、37℃で約2分間置くことによって解凍すると、マイクロ粒子はその構造と表面形状を維持することが判明した。図20は、-80℃での凍結保存前と、凍結保存および融解後のマイクロ粒子の写真を示し、サイズ、形状、または微視的構造に変化はない。
【0086】
マイクロ粒子の滅菌
CSS法を用いてマイクロ粒子の製造は、完全に閉鎖された無菌系である。しかしながら、エマルションなどの他の手段による製造は、それ自体無菌条件とすることが容易ではない。このような場合、最終製品は滅菌を必要とする場合ある。表7は、最終形態のマイクロ粒子をオートクレーブ滅菌した滅菌実験の結果を示す。
【0087】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
【国際調査報告】