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特表2024-545186ウイルスベクターによるMYBPC3関連肥大型心筋症を処置するための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ウイルスベクターによるMYBPC3関連肥大型心筋症を処置するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20241128BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241128BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/11 Z
A61K35/76
A61P9/00
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534656
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 US2022081321
(87)【国際公開番号】W WO2023108157
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】63/288,519
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501453307
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.
(71)【出願人】
【識別番号】524219234
【氏名又は名称】アーヴァンティバイオ,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】AAVANTIBIO,INC.
【住所又は居所原語表記】500 Rutherford Avenue,Third Floor,Charlestown,Massachusetts 02129,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーン,バリー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】クルーズ,ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】ゾロツキン,イレーネ
(72)【発明者】
【氏名】キャシー,ウィドラー
(72)【発明者】
【氏名】コルティ,マニュエラ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
いくつかの態様において、本開示は、治療用遺伝子を対象に送達するための、核酸、組成物および方法に関する。いくつかの態様において、治療用遺伝子は、ウイルスベクターの使用を介する。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスである。いくつかの態様において、治療用遺伝子は、心臓の疾患、傷害または他の障害を処置するために送達される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓特異的エンハンサーまたは調節エレメントおよびプロモーターに作動可能に連結されたヒトMYBPC3コード配列を含む発現コンストラクトを含む核酸であって、ここで、発現コンストラクトは、逆位末端反復配列によって両側から挟まれている、前記核酸。
【請求項2】
ヒトMYBPC3コード配列が、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
ヒトMYBPC3コード配列が、配列番号9、29または43の配列に対して、少なくとも約85%の配列同一性を有する、請求項1に記載の核酸。
【請求項4】
プロモーターが、心臓特異的プロモーターを含む、請求項1の核酸。
【請求項5】
プロモーターが、CMV、mini-CMV、CBA、HSV、TK、RSV、SV40、MMTV、Ad E1Aおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、およびここで、心臓特異的エンハンサーまたは調節エレメントが、アルファMHCエンハンサーを含む、請求項1に記載の核酸。
【請求項6】
MYBPC3プロモーター配列が、配列番号5、24または39の配列に対して、少なくとも約85%の配列同一性を有する、請求項4に記載の核酸。
【請求項7】
発現コンストラクトが、順次アセンブルされた場合に、配列番号1~14、または20~34、または35~48の配列に対して、少なくとも約85%の配列同一性を有する、請求項1に記載の核酸。
【請求項8】
発現コンストラクトが、順次アセンブルされた場合に、配列番号1~14、または20~34、または35~48の配列を含む、請求項7に記載の核酸。
【請求項9】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである、請求項1に記載の核酸。
【請求項10】
一本鎖または自己相補的rAAV核酸ベクターである、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子。
【請求項12】
rh74粒子である、請求項11に記載のrAAV粒子。
【請求項13】
AAV9粒子である、請求項11に記載のrAAV粒子。
【請求項14】
rh10粒子である、請求項11に記載のrAAV粒子。
【請求項15】
請求項12、13、または14のいずれか一項に記載のrAAV粒子を複数含む、組成物。
【請求項16】
薬学的に許容し得る担体をさらに含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
肥大型心筋症を処置する方法であって、以下:
心臓特異的エンハンサーまたは調節エレメントおよびプロモーターに作動可能に連結されたヒトMYBPC3コード配列を含む核酸発現コンストラクトを含むrAAVの治療有効量を投与すること、ここで、発現コンストラクトは、逆位末端反復配列によって両側から挟まれており、およびここで、前記投与は、治療有効量のヒトMyBP-Cの発現をもたらし、それにより肥大型心筋症を処置する、
を含む、前記方法。
【請求項18】
rAAVが静脈内注射を介して投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
細胞1つあたり約0.5~約5のrAAVベクターゲノムが投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
細胞1つあたり約0.5~約2のrAAVベクターゲノムが投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
標的細胞におけるヒトMyBP-Cの発現の増大を誘導する方法であって、以下:
標的細胞を、心臓特異的エンハンサーまたは調節エレメントおよびプロモーターに作動可能に連結されたヒトMYBPCコード配列を含む核酸発現コンストラクトを含む複数のrAAV粒子に接触させること、ここで、発現コンストラクトは、逆位末端反復配列によって両側から挟まれている、ならびに
ここで、前記接触させることは、標的細胞において、接触させる前と比較して、ヒトMyBP-Cの発現の増大をもたらし、それにより、MyBP-Cの発現を増加させる、
を含む、前記方法。
【請求項22】
接触させることが、in vivoにおけるものである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
肥大型心筋症の処置のための、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸、請求項11~14のいずれか一項に記載のrAAV粒子、または請求項15もしくは16に記載の組成物の、肥大型心筋症の処置のための医薬の製造における使用。
【請求項25】
請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸、請求項11~14のいずれか一項に記載のrAAV粒子、または請求項15もしくは16に記載の組成物の、拡張型心筋症の処置のための使用。
【請求項26】
以下:
ヒトMYBPC3コード配列;
プロモーターに作動可能に連結された心臓エンハンサーエレメント;および
Kozak配列、ここで、Kozak配列は、心臓における導入遺伝子発現を増強し、ここで発現コンストラクトは、逆位末端反復配列によって両側から挟まれており、ここで、Kozak配列は、ヒトMYBPC3コード配列、心臓エンハンサーエレメント、および/またはプロモーターに関して非ネイティブである、
を含む発現コンストラクトを含む、核酸。
【請求項27】
Kozak配列が、合成配列であり、配列番号28の配列に対して、少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項26に記載の核酸。
【請求項28】
ヒトMYBPCコード配列が、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項26または27に記載の核酸。
【請求項29】
ヒトMYBPCコード配列が、配列番号9、29または43の配列に対して、少なくとも約85%の配列同一性を有する、請求項26~28のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項30】
プロモーターが、心臓特異的プロモーターを含む、請求項26~29のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項31】
プロモーターが、CMV、mini-CMV、CBA、HSV、TK、RSV、SV40、MMTV、Ad E1Aおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、およびここで、心臓特異的エンハンサーまたは調節エレメントが、アルファMHCエンハンサーを含む、請求項26~29のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項32】
MYBPC3プロモーター配列が、配列番号5、24または39の配列に対して、少なくとも約85%の配列同一性を有する、請求項30または31に記載の核酸。
【請求項33】
発現コンストラクトが、順次配置された、配列番号1~14、または20~34、または35~48の配列に対して、少なくとも約85%の配列同一性を有する、請求項26~32のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項34】
発現コンストラクトが、順次配置された、配列番号1~14、または20~34、または35~48の配列を含む、請求項33に記載の核酸。
【請求項35】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである、請求項26~34のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項36】
一本鎖または自己相補的rAAV核酸ベクターである、請求項35に記載の核酸。
【請求項37】
請求項35または36に記載の核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子。
【請求項38】
AAV9粒子である、請求項37に記載のrAAV粒子。
【請求項39】
rh74粒子である、請求項37に記載のrAAV粒子。
【請求項40】
rh10粒子である、請求項37に記載のrAAV粒子。
【請求項41】
請求項38、39、または40のいずれか一項に記載のrAAV粒子を複数含む、組成物。
【請求項42】
薬学的に許容し得る担体をさらに含む、請求項41に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、2021年12月10日に出願された米国仮特許出願番号63/288519に対する優先権を主張し、当該仮出願の全内容は、本明細書において参照により組み込まれる。
【0002】
配列表における材料の参照による組み込み
本願は、添付のXMLファイル、表題U120270087WO00-SEQ-PRW.xml(2022年12月8日作成、サイズ67,554バイト)において提供される材料を組み込む。
【背景技術】
【0003】
背景
心筋症は、心筋の多様な状態の集合を表し、対象における心疾患の2番目に最も一般的な原因であり、二次徴候の医学的管理が唯一の治療選択肢である。これらの疾患は、多くの原因、症状、および処置を有し、あらゆる年齢および人種の人々に影響を与え得る。心筋症が発生すると、心臓における正常な筋肉が肥大したり、硬化したり、薄くなったり、または、身体が産生する物質であるが心筋に属さないもので満たされたりする可能性がある。結果として、心筋の血液をポンピングする能力が低下し、これは、不規則な心拍、肺または身体の残りの部分への血液の逆流(backup)、および心不全を引き起し得る。心筋症は、後天性または遺伝性の可能性がある。原因は、常に知られているものではないが、疾患の遺伝的形態の遺伝的土台は、次第に理解されてきている。
【0004】
遺伝子導入戦略は、心臓疾患を改善することが示されている。
【発明の概要】
【0005】
概要
心筋症は、心血管系を通して血液を循環させる心臓の能力に有害な影響を及ぼす、心筋の疾患のクラスである。心筋症の多様な型が存在し、これは、拡張型心筋症、肥大型心筋症、および拘束型心筋症を包含する。ヒト集団における心筋症は、主要な医療上の負担であり、ヒト集団における心筋症が処置されることが特に望ましいにもかかわらず、処置の必要性は現在のところ満たされていない。
【0006】
拡張型心筋症(DCM)は、最も一般的な型の心筋症の1つであり、主に20~60歳の成人において発生する。DCMは、それぞれ心臓の下部および上部の房室(chamber)である心室および心房に影響を及ぼす。DCMのほとんどの形態は、冠動脈心疾患、心臓発作、高血圧、糖尿病、甲状腺疾患、心筋を炎症させるウイルス肝炎およびウイルス感染症を包含する多数の原因からの後天性の形態である。アルコール依存およびコカインおよびアンフェタミンなどのある薬物、ならびにがんの処置に使用される少なくとも2つの薬物(ドキソルビシンおよびダウノルビシン)はまた、DCMを導き得る。加えて、デュシェンヌ型およびベッカー型筋ジストロフィーに関連するDCMを包含するが、これらに限定されない、DCMの多数の遺伝子形態が存在する。ベッカー型筋ジストロフィーのある形態の場合、ならびに、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのほとんどの場合では、心筋症は、結局は、患者の生存を制限し得る。
【0007】
肥大型心筋症(HCM)は、心筋の壁が異常に厚くなったときに発生する。壁の厚さの増大は、心臓の合併症を増加させる場合があるのみならず、心臓内の血液の流れを遮断するかまたは閉塞させる場合がある。肥大型心筋症は、他の点では未解明の左心室肥大を呈し、これは、不整脈、心不全、および特定の場合においては突然心臓死(SCD)をもたらし得る。HCMはまた、青年期における突然心臓死の主な原因であり、リスクは年間0.5~2%である。注目すべきことに、MYBPC3変異は、HCMと一般的に関連しており、遺伝子が同定された症例の約40%に寄与し、50~75%の浸透率を示す。
【0008】
拘束性心筋症(RCM)は、経時的に心臓の房室が硬化する病気である。心臓が収縮する能力はほとんど影響を受けないが、一方で、心筋は、心臓の拍動の間に完全に弛緩することがない。このことが、心室が血液で充満する能力を制限し、血液が循環系内を逆流することを引き起こす。
【0009】
心臓機能は、カルシウム依存性のシグナリングに重要に依存している。心臓疾患の間、心筋細胞内のカルシウムチャンネルの機能不全は、カルシウム循環異常を促進し、心臓機能をさらに阻害する。カルシウム循環異常を低減するための遺伝子導入ストラテジーが、小動物および大動物モデルにおいて、ならびに、ヒト臨床試験において、心臓疾患を改善することが報告されている。
【0010】
本明細書において開示されるのは、1つ以上の型の心筋症またはその症状を有するヒト対象の処置のための遺伝子送達アプローチである。
【0011】
結果的に、本開示のいくつかの側面は、対象の心臓へ導入遺伝子を送達するための、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを提供する。かかるrAAVベクターは、5’から3’の順で、第1のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)配列、1つ以上の導入遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター、および第2のAAV逆方向末端反復(ITR)配列を包含してもよい。いくつかの態様において、rAAVベクターは、プロモーターに加えて、例えば生理学的に関連する発現レベルを提供する、および/または発現を特定の細胞型もしくは組織に制限する様式において、発現を変更する調節エレメントを包含する。いくつかの態様において、調節エレメントは、エンハンサー、5’非翻訳領域(UTR)、および3’UTRのうちの1つ以上を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターはまた、少なくとも1つのポリアデニル化シグナルを含む(例えば、導入遺伝子の3’に位置する)。いくつかの態様において、2つの導入遺伝子は、同じ単一のプロモーターに作動可能に連結されている。いくつかの態様において、各々の導入遺伝子は、別個のプロモーターに作動可能に連結される。複数の導入遺伝子が提供されるいくつかの態様において、rAAVベクターはまた、少なくとも1つのポリアデニル化シグナルを包含する(例えば、単一のプロモーターから発現される2つの導入遺伝子の3’、または異なるプロモーターから発現される一方または両方の導入遺伝子の3’に位置する)。本開示の側面は、2つ以上の導入遺伝子を対象の心臓に送達するための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)核酸ベクターを提供し、ここで、前記ベクターは、5’から3’へ、第1のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)配列、2つ以上の導入遺伝子および該2つ以上の導入遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター、ポリアデニル化シグナル、ならびに第2のAAV逆末端反復(ITR)配列を含む。
【0012】
いくつかの態様において、治療用導入遺伝子は、順番に配列番号9、29、または43として記述されるヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされる。いくつかの態様において、本開示の導入遺伝子の1つ以上は、天然に存在する配列である。いくつかの態様において、1つ以上の導入遺伝子は、種特異的となるように操作される。いくつかの態様において、1つ以上の導入遺伝子は、目的の種、例えばヒト、における発現のためにコドン最適化される。例えば、いくつかの態様において、治療用導入遺伝子(例えば、MYBPC導入遺伝子)は、コドン最適化されている。
【0013】
さらに本明細書に提供されるのは、AAVカプシド中にカプシド化された、本明細書に開示のrAAVベクターを含有するrAAV粒子である。本開示の他の側面は、本明細書に記載のrAAV粒子を含有する組成物を包含する。いくつかの態様において、かかる組成物は、心筋症のための遺伝子治療のために対象に投与されてもよい。追加の態様において、かかる組成物は、心臓疾患のための遺伝子治療のために対象に投与されてもよい。いくつかの態様において、心臓疾患は、対象において心不全を引き起こす。
【0014】
本開示の組成物は、異なる経路を介して、対象に投与されてもよい。いくつかの態様において、組成物は、対象への静脈内注射を介して投与される。いくつかの態様において、組成物の投与は、対象の心臓において導入遺伝子の発現(または複数の導入遺伝子が用いられる場合は、2つ以上の導入遺伝子の発現)をもたらす。様々な態様において、組成物を投与するステップは、対象における10か月超にわたる改善された心臓機能などの、対象における心臓機能の改善を結果として生じる。いくつかの態様において、投与は、12か月超、14か月超、16月か月超、17月か月超、20月か月超、22か月超、または24月か月超にわたる、心臓機能の改善を結果として生じる。いくつかの態様において、心臓機能の改善は、左室駆出率(LVEF)の増大により表される。いくつかの態様において、LVEF(治療前の測定値と比較して)は、少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、またはそれより多く増大する(列挙されたものの間の任意の量を包含する)。いくつかの態様において、LVEFは、心エコー法によって測定される。いくつかの態様において、投与は、12か月超、14か月超、16か月超、17か月超、20か月超、22か月超、または24か月超にわたり、心臓生理機能(例えば、構造的特色)の改善をもたらす。いくつかの態様において、心臓生理機能の改善は、左心室壁の厚さの減少により表される。いくつかの態様において、左心室壁の厚さは、少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、またはそれより多く減少する(列挙されたものの間の任意の量を包含する)。いくつかの態様において、左心室壁の厚さは、心臓磁気共鳴画像法(MRI)または経胸壁心エコー法(TTE)により測定される。
【0015】
いくつかの態様において、本明細書において記載されるのは、1つ以上の有益なまたは治療的な生成物(単数または複数)をコードする遺伝物質を哺乳動物の細胞および組織に送達するための方法において有用な、AAVベクター、ビリオン、ウイルス粒子、およびそれらの医薬製剤を含む、組成物である。本開示のrAAVベクター、rAAV粒子、またはrAAV粒子を含む組成物は、遺伝子治療を必要とする対象における、1つ以上の型の心筋症などの心臓疾患のための遺伝子治療のために用いてもよい。
【0016】
加えて、本明細書において提供されるのは、開示されたAAV組成物の1つ以上を包含する、1つ以上の追加成分と共に製剤化されるか、または1つ以上のそれらの使用のための説明と共に調製された組成物、ならびに治療用および/または診断用キットである。
【0017】
いくつかの態様において、本明細書において記載されるのは、ヒトMYBPC3コード配列、および任意に、プロモーターに作動可能に連結されたエンハンサーエレメント(アルファMHCエンハンサーなど)を含む発現コンストラクトを含む核酸であり、ここで、発現コンストラクトは、逆位末端反復配列によって両側から挟まれている。いくつかの態様において、本明細書に記載されるのは、ヒトMYBPC3コード配列、プロモーターに作動可能に連結されたエンハンサーエレメント(アルファMHCエンハンサーなど)、およびKozak配列を含む発現コンストラクトを含む核酸であって、ここで、Kozak配列は、心臓における導入遺伝子発現を増強し、ここで、発現コンストラクトは、逆位末端反復配列によって両側から挟まれており、ここで、Kozak配列はヒトMYBPC3コード配列に対して非ネイティブであり、および/またはプロモーターに対して非ネイティブである。いくつかの態様において、Kozak配列は、合成配列である。いくつかの態様において、ヒトMYBPC3コード配列は、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている。いくつかの態様において、プロモーターは、心臓特異的プロモーターを含む。いくつかの態様において、プロモーターは、CMV、mini CMV、CBA、HSV、TK、RSV、SV40、MMTV、Ad E1A、およびそれらの組み合わせのうちの1つ以上である。いくつかの態様において、心臓特異的エンハンサーまたは調節エレメントは、アルファMHCエンハンサーを含む。いくつかの態様において、プロモーターは、CBA(ニワトリベータ-アクチン)である。いくつかの態様において、核酸は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである。いくつかの態様において、核酸は、一本鎖または自己相補的rAAV核酸ベクターである。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAV9粒子である。いくつかの態様において、rAAV粒子は、rh74粒子である。いくつかの態様において、rAAV粒子は、rh10粒子である。いくつかの態様において、複数のrAAV粒子を含む組成物が提供される。いくつかの態様において、複数のrAAV粒子は、薬学的に許容し得る担体をさらに含んでもよい。いくつかの態様において、rh74粒子は、配列番号18、または配列番号29の部分に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされる少なくとも1つのカプシドタンパク質を含む(例えば、配列番号29は、rh74 VP1、VP2、およびVP3タンパク質をコードし、よって、いくつかの態様において、本明細書において開示される態様によるrh74粒子は、配列番号18のヌクレオチド配列の部分の一部に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされる少なくとも1つのカプシドタンパク質を含む)。いくつかの態様において、rh74粒子は、配列番号16として記載されたアミノ酸配列、または配列番号16の部分に対して、少なくとも約85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性があるアミノ酸配列を含む(例えば、配列番号16は、rh74 VP1、VP2、およびVP3タンパク質のアミノ酸配列であり、よって、いくつかの態様において、本明細書において開示される態様によるrh74粒子は、配列番号16のアミノ酸配列の部分の一部に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する少なくとも1つのカプシドタンパク質を含む)。いくつかの態様において、AAV9粒子は、配列番号7として記載されたアミノ酸配列に対して、少なくとも約85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性があるアミノ酸配列を含む。
【0018】
いくつかの態様において、肥大型心筋症を処置する方法が記載され、該方法は、ヒトMYBPC3コード配列およびプロモーターに作動可能に連結されたエンハンサーエレメントを含む核酸発現コンストラクトを含むrAAVの治療有効量を投与することを含み、ここで、発現コンストラクトは、逆位末端反復配列によって両側から挟まれており、およびここで、前記投与は、治療有効量のヒトMYBPC3の発現をもたらし、それにより肥大型心筋症を処置する。いくつかの態様において、rAAVは、静脈内注射を介して投与される。いくつかの態様において、細胞あたり約0.5~約5個のrAAVベクターゲノムが投与される。いくつかの態様において、細胞あたり約0.5~約2個のrAAVベクターゲノムが投与される。いくつかの態様において、1キログラムあたり約1×1013~約3×1014個(vgs/kg)のベクターゲノムが投与される。
【0019】
また、本明細書において記載されるのは、標的細胞におけるヒトMYBPC3の発現の増大を誘導する方法であって、該方法は、標的細胞を、ヒトMYBPC3コード配列およびプロモーターに作動可能に連結されたエンハンサーエレメント(アルファMHCエンハンサーなど)を含む核酸発現コンストラクトを含む複数のrAAV粒子に接触させることを含み、ここで、発現コンストラクトは、逆位末端反復配列によって両側から挟まれており、およびここで、前記接触させることは、接触させる前と比較して標的細胞におけるヒトMYBPC3の発現の増大をもたらし、それによりヒトMYBPC3の発現を増大させる。いくつかの態様において、接触させることは、in vivoのものである。いくつかの態様において、方法は、肥大型心筋症の処置のために用いられる。いくつかの態様において、本明細書に記載される核酸、rAAV粒子、組成物、またはその製造方法は、肥大型心筋症の処置のために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、MYBPC3についての配列を包含するコンストラクトの非限定的な例のための遺伝子コンストラクトマップを示す。
【0021】
図2図2は、MYBPC3についての配列を包含するコンストラクトの非限定的な例のための遺伝子コンストラクトマップを示す。
【0022】
図3図3は、RTにより媒介されるMYBPC3 RNAの検出を評価するゲルを示す。
【0023】
図4A-4B】図4A~4Dは、本明細書において記載されるコンストラクトの非限定的な例に関するhMYBPC3発現を示す、複数のqPCRプロットを示す。図4Aは、心臓組織におけるGAPDHの発現を示す。図4Bは、心臓組織におけるMYBPC3の発現を示す。
図4C-4D】図4Cは、心臓組織におけるMYBPC3の発現を、GAPDHに対して正規化して示す。図4Dは、それぞれのAAV9試料に基づくMYBPC3発現を示す。
【0024】
図5図5は、MYBPC3 DNAの検出を評価するゲルを示す。
【0025】
図6A-6B】図6Aは、本明細書において記載されるコンストラクトの非限定的な例に関するhMYBPC3発現を示す複数のqPCRプロットを示す。図6Aは、心臓組織におけるGAPDHの発現を示す。図6Bは、心臓組織におけるMYBPC3の発現を示す。
図6C-6D】図6Cは、心臓組織におけるMYBPC3の発現をGAPDHに対して正規化して示す。図6Dは、それぞれのAAV9試料に基づくMYBPC3発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
本発明の特定の特色および/または非限定的な態様に対する参照がなされる。本明細書における発明の開示は、かかる特定の特色のすべての可能な組み合わせを包含することが、理解されるべきである。例えば、本発明の特定の側面または態様、または特定の請求項の文脈において、特定の特色が開示されている場合、その特色はまた、本発明の他の特定の側面および態様と組み合わせて、および/またはそれらの文脈において、ならびに、本発明全般において、可能である程度まで、用いることができる。
【0027】
定義
【0028】
別段に定義されない限り、本明細書において用いられるすべての技術用語および科学用語は、当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。別段に記述されない限り、本明細書において参照されるすべての特許、出願、公開された出願および他の刊行物は、その全体において参照により組み込まれる。本明細書においてある用語について複数の定義が存在する場合、別段に記述されない限り、このセクションにおけるものが優先される。
【0029】
「対象」とは、本明細書において提供されるとおりの方法または組成物を用いる処置の対象である哺乳動物を指す。「哺乳類」は、限定することなく、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、サル、チンパンジー、類人猿などの霊長類、およびヒトを包含する。いくつかの態様において、対象は、ヒトである。
【0030】
「処置すること」、「処置」、「治療的」、または「治療」という用語は、必ずしも疾患または状態の完全な治癒または除去を意味するものではない。疾患または状態の望ましくない兆候または症状の任意の緩和は、程度にかかわらず、処置および/または治療とみなすことができる。疾患を「処置する」とは、当該用語が本明細書において用いられる場合、対象により経験される疾患または障害の少なくとも1つの兆候または症状の頻度または重症度を低減させることを意味する。
【0031】
本明細書で使用される用語「有効量」は、疾患または状態を処置または改善することができる量、あるいは、対象により経験される疾患または障害の少なくとも1つの兆候または症状の頻度または重症度を軽減することなどの、意図された治療効果をもたらすことができる量を指す。
【0032】
「核酸」配列とは、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)配列を指す。当該用語は、限定されないが、以下のものなどのDNAおよびRNAの既知の塩基類似体のいずれかを包含する配列を捉える:4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシ-メチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルキューオシン(mannosylqueosine)、5’-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、シュードウラシル、キューオシン(queosine)、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリン。
【0033】
「ポリヌクレオチド」という用語は、DNA、RNA、またはそれらの類似体を包含する、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含んでもよく、非ヌクレオチド構成要素により中断されてもよい。ヌクレオチド構造に対する修飾が存在する場合、それは、ポリマーの組み立ての前に付与されても後に付与されてもよい。本明細書において用いられる場合、ポリヌクレオチドという用語は、二本鎖分子および一本鎖分子を互換的に指す。別段に特定または要求されない限り、本明細書において記載される本発明の任意の態様であって、ポリヌクレオチドであるものは、二本鎖形態、および二本鎖形態を構成することが知られているかまたは予測される2つの相補的な一本鎖形態の各々の、両方を網羅する。
【0034】
ヌクレオチド配列に言及する場合の「単離された」という用語は、示された分子が、同じ型の他の生体高分子の実質的な不在下において存在することを意味する。よって、「特定のポリペプチドをコードする単離された核酸分子」とは、対象のポリペプチドをコードしない他の核酸分子を実質的に含まない核酸分子を指す;しかしながら、当該分子は、組成物の基本的な特徴に物質的(materially)に影響を及ぼさないいくつかの追加の塩基または部分を包含してもよい。
【0035】
「同一性」という用語は、それぞれ2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の、正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の対応を指す。2つ以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)は、それらの「同一性のパーセント(percent identity)」を決定することにより比較することができる。2つの配列の同一性のパーセントは、核酸配列またはアミノ酸配列のいずれであれ、2つのアラインメントされた配列の間の正確な一致の数を、より短い方の配列の長さで除算して、100を乗算したものである。
【0036】
本願全体にわたり、特定の核酸分子におけるヌクレオチド配列の相対的な位置を記載する目的のために、例えば、特定のヌクレオチド配列が別の配列に対して相対的に「上流」、「下流」、「3’」、または「5’」に位置するものとして記載される場合、それは、当該分野において慣習的であるとおり、言及されているDNA分子の「センス」または「コード」鎖における当該配列の位置であることが理解されるべきである。
【0037】
配列同一性は、Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0(Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)中のBESTFIT、FASTA、およびTFASTAなどのアルゴリズムを用いて、デフォルトのギャップパラメータを用いるかまたは検査により配列をアラインメントすること、および最適なアラインメント(すなわち、比較ウィンドウ全体にわたり最も高い配列類似性のパーセンテージをもたらすもの)により、決定することができる。配列同一性のパーセンテージは、比較のウィンドウ全体にわたり最適にアラインメントされた2つの配列を比較し、両方の配列において同一の残基が生じる位置の数を決定して一致する位置の数を算出し、比較のウィンドウにおいて、ギャップは数えずに(すなわち、ウィンドウのサイズ)、一致する位置の数を、一致する位置と不一致の位置の合計数により除算し、結果に100を乗算して、配列同一性のパーセンテージを算出することにより、計算される。別段に示されない限り、2つの配列の間の比較のウィンドウは、2つの配列のうちのより短い方の全長により定義される。
【0038】
ポリヌクレオチドに対して適用される場合、「組み換え」という用語は、ポリヌクレオチドが、天然において見出されるポリヌクレオチドから区別し得るコンストラクトおよび/もしくは天然においては見出されないポリヌクレオチドとウイルスタンパク質との組み合わせをもたらす、クローニング、制限またはライゲーションのステップ、ならびに他の手順の様々な組み合わせの産物であることを意味する。組み換えウイルスは、組み換えポリヌクレオチドを含む、ウイルス粒子である。当該用語は、それぞれ、元のポリヌクレオチドコンストラクトの複製物および元のウイルスコンストラクトの子孫を包含する。
【0039】
「遺伝子」という用語は、特定の遺伝子産物をコードすることができる少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。本明細書において記載されるポリヌクレオチド配列のうちの任意のものを、それらが関連する遺伝子の、より大きなフラグメントまたは全長コード配列を同定するために用いてよい。より大きなフラグメントの配列を単離する方法は、当業者に公知である。
【0040】
「導入遺伝子」という用語は、本明細書において用いられる場合、ウイルスベクター内に配置されるべき核酸配列であって、目的のポリペプチド、タンパク質、または他の生成物をコードするものを指す。いくつかの態様において、1つのrAAVベクターは、1つ以上の導入遺伝子(これは、任意に、同じ遺伝子であっても、または異なる遺伝子であってもよい)をコードする配列を含んでもよい。例えば、1つのrAAVベクターは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の導入遺伝子についてコード配列を含み得る。本開示の導入遺伝子は、本明細書において提供されるとおり、心筋症などの1つ以上の心臓の状態の改善に関する。
【0041】
「遺伝子導入」または「遺伝子送達」という用語は、導入遺伝子などのDNAを、心筋症を罹患する対象のものなどの宿主細胞に挿入するための、方法または系を指す。いくつかの態様において、遺伝子導入は、組み込まれていない導入されたDNAの一過性発現、染色体外複製、および導入されたレプリコン(例えば、エピソーム)の発現をもたらす。追加の態様において、遺伝子導入は、導入された遺伝物質の宿主細胞のゲノムDNA中への組み込みをもたらす。
【0042】
「調節エレメント」または「調節配列」という用語、またはそのバリエーションは、ポリヌクレオチドの複製、重複(duplication)、転写、スプライシング、翻訳、または分解を包含する、ポリヌクレオチドの機能調節に関与するヌクレオチド配列を指す。調節エレメントは、態様に応じて、本質的に増強的または阻害的になり得る。調節エレメントの非限定的な例は、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、内部リボソーム進入部位(「IRES」)、エンハンサーなどの、転写調節配列を包含する。これらのエレメントは、集合的に、レシピエント細胞におけるコード配列の複製、転写および翻訳を提供するが、これらの配列のうちの全てが、常に存在する必要はない。本明細書において提供されるとおりのrAAVベクターの構造的構成要素は、明確にするためにのみ、個別の段落において列挙されてもよく、組み合わせて一緒に用いてもよいことが、理解されるべきである。例えば、任意の調節エレメントまたは他の構成要素は、本明細書において提供される任意の導入遺伝子(または複数の導入遺伝子)と組み合わせて用いることができる。
【0043】
「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼと相互作用し、通常はプロモーターから下流に(3’方向において)位置づけられるコード領域(例えば、導入遺伝子)の転写を開始するポリヌクレオチドである。
【0044】
「作動可能に連結された」という用語は、当該構成要素が機能を実行するように構成された、エレメントの配置を指す。例えば、コード配列に作動可能に連結された調節配列は、コード配列の発現をもたらす。態様に依存して、調節配列は、コード配列と連続している必要はない。よって、例えば、プロモーター配列とコード配列との間に、翻訳されていないが転写された1つ以上の配列が存在する可能性があり、それらの2つの配列は、なお「作動可能に連結されている」と見なされる。
【0045】
「ベクター」という用語は、遺伝子配列(例えば、導入遺伝子)を、目的の細胞に、または目的の細胞間で移すことができる、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ウイルス粒子、ビリオンなどの、任意の分子ビヒクルを意味する。
【0046】
「発現ベクター」とは、目的の遺伝子産物(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)をコードする核酸の領域(例えば、導入遺伝子)を含むベクターである。本明細書において開示されるとおり、ベクターは、意図された標的細胞におけるタンパク質の発現、例えば、安定な発現を達成するために用いられる。発現ベクターはまた、標的細胞におけるコードされたタンパク質の発現を促進するために、導入遺伝子に動作可能に連結された制御エレメントを含んでもよい。1つ以上の調節エレメントと、それらが発現のために作動可能に連結された遺伝子(単数または複数)との組み合わせは、本明細書において「発現カセット」として言及される場合がある。
【0047】
「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスについての略語であり、ウイルス自体またはその誘導体を指すために用いられる場合がある。当該用語は、別段に示されない限り、すべてのサブタイプ、ならびに天然に存在する形態および組み換え形態の両方をカバーする。「rAAV」という略語は、組換えアデノ随伴ウイルスを指し、これはまた、組換えAAVベクター(または「rAAVベクター」)としても言及され、これは、AAV起源ではないポリヌクレオチド配列(例えば、導入遺伝子)を含むAAVを指す。「AAV」という用語は、AAV血清型1(AAV-1)、AAV血清型2(AAV-2)、AAV血清型3(AAV-3)、AAV血清型4(AAV-4)、AAV血清型5(AAV-5)、AAV血清型6(AAV-6)、AAV血清型7(AAV-7)、AAV血清型8(AAV-8)、AAV血清型9(AAV-9)、血清型rh10 AAV、血清型rh74 AAV、またはシュードタイプrAAV(例えば、AAV2/9、これは、AAV2のゲノム(例えば、AAV2のITR)およびAAV9のカプシドを有するAAVベクターを指す)を包含する。いくつかの態様において、心筋症に罹患しているヒト患者への送達のための好ましい血清型は、AAV-9、血清型rh74、血清型rh10、またはAAV-8のうちの1つである。いくつかの態様において、rh74 AAVは、例えばVP1カプシドのアミノ酸505のトリプトファンからアルギニンへの変異、またはPCT公開WO2019/178412(これは、その全体において本明細書において参照により組み込まれる)において記載されるとおりの他の変異により、心臓組織への送達を有利に強化するように変異される。
【0048】
「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」または「rAAVベクター粒子」という用語は、少なくともAAVカプシドタンパク質およびカプシド化されたポリヌクレオチドから構成されるウイルス粒子を指す。
【0049】
「異種」という用語は、遺伝子型により区別し得る起源を指す。例えば、異種ポリヌクレオチドとは、参照種と比較して異なる種に由来するものである(例えば、ウイルスプラスミドに挿入されたヒト遺伝子は、異種遺伝子である)。そのネイティブなコード配列から除去され、それが連結されることを天然においては見出されないコード配列に動作可能に連結されたプロモーターは、異種プロモーターである。
【0050】
本明細書において用いられる場合、「キット」という用語は、携帯可能な、必要なものがすべて揃った、封入物のバリエーションであって、本開示の診断または治療方法の1つ以上を実施するための構成要素の少なくとも1つのセットを包含するものを記載するために用いられてもよい。
【0051】
用語「担体」は、rAAV粒子または調製物および/またはrAAVベクターと一緒に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。かかる医薬担体は、水および油などの滅菌された液体(鉱油などの石油、落花生油、大豆油、およびゴマ油などの植物油、動物油、または合成起源の油のものを包含する)であり得る。生理食塩水溶液および水性のデキストロースおよびグリセロール溶液もまた、液体担体として使用され得る。
【0052】
いくつかの態様において、本明細書において記載される配列は、CpGが除去され、cDNAコドンが最適化されている。いくつかの態様において、MYBPC3をコードする配列は、任意に、CpGが除去されている。
【0053】
本出願において用いられる用語および句、ならびにそれらのバリエーション、特に添付の請求項におけるものは、別段明示的に記述されていない限り、限定的なものとは反対に、オープンエンドであるものとして解釈されるべきである。前述のものの例として、「包含する(including)」という用語は、「限定することなく包含する(including, without limitation)」、「包含するがこれらに限定されない(including but not limited to)」などを意味すると解釈されるべきであり;本明細書において用いられる「含む(comprising)」という用語は、「包含する(including)」、「含有する(containing)」、または「特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加の、記載されていない要素または方法ステップを除外せず;「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する(having at least)」として解釈されるべきであり;「包含する」という用語は「包含するがこれらに限定されない」と解釈されるべきであり;「例」という用語は、議論中の項目の例示的な例を提供するために用いられ、それらの網羅的または限定的なリストではなく;ならびに「好ましくは(preferably)」、「好ましい(preferred)」、「所望される(desired)」、または「望ましい(desirable)」といった用語、および類似の意味の言葉の使用は、特定の特色が、構造または機能にとって不可欠であるか、必須であるか、またはさらに重要であることを暗示するものとして理解されるべきではなく、代わりに、単に、特定の態様において利用されても利用されなくともよい、代替的または付加的な特色を強調することを意図するものとして理解されるべきである。加えて、「含む」という用語は、「少なくとも有する」または「少なくとも包含する」という句と同義に解釈されるべきである。プロセスの文脈において用いられる場合、「含む」という用語は、当該プロセスが、少なくとも記載されたステップを包含するが、追加のステップを包含してもよいことを意味する。化合物、組成物またはデバイスの文脈において用いられる場合、「含む」という用語は、当該化合物、組成物またはデバイスが、少なくとも記載された特色または構成要素を包含するが、また、追加の特徴または構成要素を包含してもよいことを意味する。同様に、接続詞「および(and)」で連結された項目のグループは、それらの項目の各々およびすべてがグループ中に存在することを要求するものとして読まれるべきではなく、むしろ、別段に明示的に記述されていない限り、「および/または(and/or)」として読まれるべきである。同様に、接続詞「または(or)」で連結された項目のグループは、そのグループ内での相互排他性を要求するものとして読まれるべきではなく、むしろ、別段に明示的に記述されない限り、「および/または」として読まれるべきである。
【0054】
本明細書における実質的にすべての複数形および/または単数形の用語の使用に関して、当業者は、文脈および/または用途にとって適切である場合、複数形から単数形へ、および/または単数形から複数形へ翻訳することができる。明確さのために、様々な単数/複数の順列が、本明細書において明示的に記載される場合がある。不定冠詞「a」または「an」は、複数形を除外するものではない。単一のプロセッサまたは他のユニットが、請求の範囲において記載されるいくつかの項目の機能を満たす場合がある。特定の手段が相互に異なる従属請求項において記載されるという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有利に用いることができないことを示すものではない。請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0055】
本明細書において開示される範囲はまた、任意のおよびすべての重複、部分範囲、およびそれらの組み合わせを包含する。「~まで(up to)」、「少なくとも」、「~より大きい」、「~より小さい」、「~の間の」などの言葉は、記載された数字を包含する。「約」または「およそ」などの用語により先行される数は、記載された数字を包含する。例えば、「約90%」は、「90%」を包含する。いくつかの態様において、少なくとも95%相同または同一であるとは、参照配列に対して96%、97%、98%、99%、および100%相同または同一であることを包含する。加えて、配列が、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を「含む」ものとして開示されている場合、かかる参照はまた、別段に示されない限り、当該配列が、記載された配列を「含む」か、これ「からなる」か、またはこれ「から本質的になる」ことを包含する。
【0056】
配列表
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】
【化1-5】
【化1-6】
【化1-7】
【化1-8】
【化1-9】
【0057】
aMHC-mCMV-MYBPC3コンストラクト
【化2-1】
【化2-2】
【化2-3】
【化2-4】
【0058】
【化3-1】
【化3-2】
【0059】
Kozak配列
【化4】
【0060】
導入遺伝子
導入遺伝子は、遺伝子欠損を修正するか、減少させるか、除去するか、または別段に改善するために用いられてもよく、遺伝子欠損は、正常な遺伝子が正常よりも低いレベルで発現される欠損、正常もしくは正常に近いレベルで発現されるが異常な活性を有する遺伝子産物を有する欠損、または機能的な遺伝子産物が発現されない欠損を包含してもよい。いくつかの態様において、導入遺伝子配列は、宿主細胞において発現されるべき治療用タンパク質またはポリペプチドをコードする。本開示の態様はまた、複数の導入遺伝子を用いることを包含する。
【0061】
MYBPC3遺伝子は、心筋ミオシン結合タンパク質C(cardiac myosin binding protein C:心筋MyBP-C)を作製するための指示を提供する。心筋MyBP-Cは、心筋細胞において見出され、ここでそれはサルコメアの収縮において役割を果たす。筋肉の収縮は、筋細胞において存在するサルコメアの活性に大きく依存する。MYBPC3における変異は、家族性肥大型心筋症の一般的な原因であり、全症例の最大30%を占める。一部の個体は明らかな健康への影響を有しないが、全ての影響を受けた個体は、心不全および突然死のリスクの増大を有する。MYBPC3変異は、一般的に、表現型がより短いか、または別段に変更されたMyBP-Cタンパク質を提示する。サルコメアにおけるMyBPCの減少は、ミオシンの立体構造を破壊し、これは、様々な心疾患の状態の原因となる場合がある。
【0062】
調節エレメント
いくつかの態様において、rAAVベクターは、異種核酸の発現を促進する配列、例えば、異種核酸に動作可能に連結された発現調節配列を含む、1つ以上の領域を含む。プロモーターは、それが調節する核酸配列の転写を駆動し、よって、それは、遺伝子の転写開始部位かまたはその近くに典型的に位置付けられる。プロモーターは、例えば、100~1000ヌクレオチドの長さを有し得る。いくつかの態様において、プロモーターは、核酸、または核酸の配列(ヌクレオチド配列)に作動可能に連結されている。プロモーターが配列を調節するように(例として配列の転写開始および/または発現を制御する(「駆動する」)ように)その配列に関して正確な機能的な位置および配向でプロモーターが存在するとき、プロモーターは、それが調節する核酸の配列に「作動可能に連結」されていると考えられる。多数のかかる配列が、当該技術分野において知られている。
【0063】
本開示に従って使用され得るプロモーターは、対象の心臓において導入遺伝子の発現を駆動できるいずれかのプロモーターを含んでもよい。いくつかの態様において、プロモーターは、組織特異的プロモーターであってもよい。「組織特異的プロモーター」は、本明細書において用いられる場合、特定の型の組織、例えば心臓においてのみ機能することができるプロモーターを指す。よって、「組織特異的プロモーター」は、他の型の組織において導入遺伝子の発現を駆動することはできない。いくつかの態様において、本開示に従って使用され得るプロモーターは、心臓に限定されるプロモーターである。用いてもよい組織特異的プロモーターおよび/または調節エレメントの非限定的な例は、(1)筋肉細胞に特異的な、デスミン、クレアチンキナーゼ、ミオゲニン、アルファミオシン重鎖、およびナトリウム利尿ペプチド、ならびに(2)肝細胞に特異的な、アルブミン、アルファ-1-アンチトリプシン、B型肝炎ウイルスコアタンパク質プロモーターを包含する。心臓に限定されるプロモーターの非限定的な例は、心臓トロポニンC、心臓トロポニンI、および心臓トロポニンT(cTnT)から選択される。本明細書において提供されるとおり、心筋症を処置することにおいて、心臓に限定されるプロモーターは、少なくとも導入遺伝子のオフターゲット発現の可能性の低下に起因して有利であり、それにより心臓に送達される用量を効果的に増加させ、治療を増強する。発現調節配列の非限定的な例は、プロモーター、インシュレーター、サイレンサー、応答エレメント、イントロン、エンハンサー、開始部位、終結シグナル、およびポリ(A)テイルを包含する。かかる調節配列の任意の組み合わせが、本明細書において企図される(例えば、プロモーターおよびエンハンサー)。
【0064】
あるいは、プロモーターは、限定することなく、以下の遺伝子のうちの1つからのプロモーターであってもよい:α-ミオシン重鎖遺伝子、6-ミオシン重鎖遺伝子、ミオシン軽鎖2v(MLC-2v)遺伝子、ミオシン軽鎖2a遺伝子、CARP遺伝子、心臓α-アクチン遺伝子、心臓m2ムスカリン性アセチルコリン遺伝子、心房性ナトリウム利尿因子遺伝子(ANF)、心臓筋小胞体Ca-ATPase遺伝子、骨格α-アクチン遺伝子;またはMLC-2v遺伝子由来の人工心臓プロモーター。
【0065】
目的の核酸、タンパク質、またはポリペプチドの適切な発現レベルを達成するために、選択された宿主細胞における使用のために好適な多数のプロモーターのいずれかを使用してもよい。プロモーターは、例えば、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、または合成プロモーターであってもよい。例えば、様々な強度の構成的プロモーターを用いることができる。本明細書において記載されるrAAVベクターは、一般に転写を促進することにおいて活性なウイルスプロモーターまたは哺乳動物の遺伝子からのプロモーターなどの、1つ以上の構成プロモーターを含んでもよい。構成的ウイルスプロモーターの非限定的な例は、単純ヘルペスウイルス(HSV)、チミジンキナーゼ(TK)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、サルウイルス40(SV40)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、Ad E1Aおよびサイトメガロウイルス(CMV)のプロモーターを包含する。非ウイルス性構成的プロモーターの非限定的な例は、ニワトリβ-アクチンプロモーター(CBA)を包含するβ-アクチンプロモーターにより例示されるような、多様なハウスキーピング遺伝子プロモーターを包含する。
【0066】
誘導性プロモーターおよび/または調節エレメントもまた、目的のタンパク質またはポリペプチドの適切な発現レベルを達成するために企図されてもよい。適切な誘導性プロモーターの非限定的な例は、シトクロムP450遺伝子、熱ショックタンパク質遺伝子、メタロチオネイン遺伝子、およびエストロゲン遺伝子プロモーターなどのホルモン誘導性遺伝子などの、遺伝子からのものを包含する。誘導性プロモーターの別の例は、テトラサイクリンに対して応答性であるtetVP16プロモーターである。
【0067】
合成プロモーターもまた、本明細書において企図される。合成プロモーターは、例えば、既知のプロモーターの領域、調節エレメント、転写因子結合部位、エンハンサーエレメント、リプレッサーエレメントなどを含んでもよい。
【0068】
エンハンサーエレメントは、導入遺伝子の発現を増大させるために、他の調節エレメントとの組み合わせにおいて機能することができる。いくつかの態様において、エンハンサーエレメントは、導入遺伝子の上流にある(5’に位置する)。エンハンサーエレメントの非限定的な態様は、例えば、サルウイルス40からの100塩基対のエレメント(SV40 late 2XUSE)、ヒト免疫不全ウイルス1からの35塩基対のエレメント(HIV-1 USE)、ジリス肝炎ウイルスからの39塩基対のエレメント(GHV USE)、アデノウイルスからの21塩基対のエレメント(アデノウイルスL3 USE)、ヒトプロトロンビンからの21塩基対のエレメント(hTHGB USE)、ヒトC2補体遺伝子からの53塩基対のエレメント(hC2 USE)、前述のもののいずれかのトランケーション、および前述のものの組み合わせを含む、ヌクレオチド配列を包含する。いくつかの態様において、エンハンサーは、α-ミオシン重鎖(αMHC)遺伝子に由来する。いくつかの態様において、αMHCエンハンサーは、配列番号3を含む。
【0069】
非限定的なポリアデニル化シグナルは、例えば、ヒト成長ホルモン(hGH)からの624塩基対のポリアデニル化シグナル、サルウイルス40(sV40後期)からの135塩基対のポリアデニル化シグナル、ウサギベータ-グロビンからの49塩基対の合成ポリアデニル化シグナル(SPA)、ウシ成長ホルモン(bGH)からの250塩基対のポリアデニル化シグナル、前述のもののいずれかのトランケーション、および前述のものの組み合わせを含む、ヌクレオチド配列を包含する。
【0070】
開示されたrAAVベクターのいくつかの態様において、2以上の導入遺伝子は、単一のプロモーターによって作動可能に制御される。いくつかの態様において、2以上の導入遺伝子の各々は、別個のプロモーターによって作動可能に制御される。
【0071】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターはさらに、配列内リポソーム進入部位(IRES)を含む。IRESは、タンパク質合成のより大きなプロセスの一部として、メッセンジャーRNA(mRNA)配列の中央における翻訳開始を可能にするヌクレオチド配列である。開始複合体のアセンブリのために5’キャップ認識が必要とされるので、大抵、真核生物において、翻訳は、mRNA分子の5’末端のみにおいて開始することができる。いくつかの態様において、IRESは、導入遺伝子の間に位置付けられる。
【0072】
かかる態様において、異なる導入遺伝子によってコードされるタンパク質は、個々に翻訳される(すなわち、融合タンパク質として翻訳されるのに対して)。
【0073】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターは、少なくとも、5’から3’の順に、第1のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)配列、第1の導入遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター、第2の導入遺伝子に作動可能に連結されたIRES、ポリアデニル化シグナル、および第2のAAV逆位末端反復(ITR)配列を含む。
【0074】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターはさらに、ポリアデニル化(pA)シグナルを含む。
【0075】
発現カセット
発現カセットは、最少で、導入遺伝子およびその調節配列から構成される。カセットがrAAVから発現されるように設計されている場合、発現カセットは、5’および3’AAV ITRをさらに含む。これらのITRは、全長であっても、またはITRのうちの一方または両方がトランケートされていてもよい。一態様において、rAAVは、シュードタイプであり、すなわち、AAVカプシドは、ITRを提供するAAVとは異なる供給源のAAVからのものである。一態様において、AAV血清型2のITRが用いられる。追加の態様において、AAV血清型1のITRが用いられる。しかしながら、他の好適な供給源からのITRを選択してもよい。
【0076】
図1は、本明細書において記載されるコンストラクトの非限定的な態様を表す。5’末端において、AAV ITRおよびアルファMHCエンハンサーが、プロモーターから上流側に位置する。プロモーターの後に続いて、複数のエクソンからなるMYBPC3導入遺伝子が表されている。コンストラクトは、MYBPC3導入遺伝子の後に続く、ポリアデニル化部位をさらに包含する。前述のコンストラクトに記載される構造配列内には、コンストラクト内の任意の点に、少なくとも1つまたは複数のスペーサー配列が挿入されていてもよい。加えて、任意の数のプロモーターまたは調節配列が、MYBPC3の発現を変更するかまたはこれを変化させるために、コンストラクトを構成してもよい。
【0077】
図2は、本明細書において記載されるコンストラクトの非限定的な態様を表す。5’末端において、AAV ITRおよびアルファMHCエンハンサーが、CMVプロモーターから上流側に位置する。プロモーターの後に続いて、MYBPC3導入遺伝子が表されている。コンストラクトは、MYBPC3導入遺伝子の後に続く、bGHポリアデニル化部位をさらに包含する。前述のコンストラクトに記載される構造配列内には、コンストラクト内の任意の点に、少なくとも1つまたは複数のスペーサー配列が挿入されていてもよい。加えて、任意の数のプロモーターまたは調節配列が、MYBPC3の発現を変更するかまたはこれを変化させるために、コンストラクトを構成してもよい。
【0078】
ベクター
さらに本明細書に提供されるのは、rAAVウイルス粒子またはかかる粒子を含有するrAAV調製物である。いくつかの態様において、rAAV粒子は、ウイルスカプシド、および本明細書において記載されるとおりウイルスカプシドによりカプシド化された1つ以上の導入遺伝子を含む。rAAV粒子を製造する方法は、当該技術分野において公知であり、商業的に入手可能である(例えば、Zolotukhin el al. Production and purification of serotype 1, 2, and 5 recombinant adeno-associated viral vectors. Methods 28 (2002) 158-167;ならびに米国特許出願公開番号US2007/0015238およびUS2012/0322861(これらは本明細書において参照により組み込まれる);ならびにATCCおよびCell Biolabs, Inc.から入手可能であるプラスミドおよびキットを参照)。例えば、rAAVベクターを含有するプラスミドは、1以上のヘルパープラスミド、例として、rep遺伝子(例として、Rep78、Rep68、Rep52およびRep40をコードする)およびcap遺伝子(VP1、VP2、およびVP3をコードし、本明細書に記載の改変されたVP3領域を包含する)を含有するものと組み合わされ得、およびrAAV粒子がパッケージングされおよび続いて精製できるように、生産株にトランスフェクトされ得る。
【0079】
本明細書に開示のrAAV粒子またはrAAV調製物内の粒子は、いずれかの誘導体またはシュードタイプ(例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、2/1、2/5、2/8、2/9、3/1、3/5、3/8、または3/9)を包含する、いずれかのAAV血清型であってもよい。本明細書において用いられる場合、rAAV rAAV粒子の血清型は、組換えウイルスのカプシドタンパク質の血清型を指す。いくつかの態様において、rAAV粒子は、rAAV6またはrAAV9である。いくつかの態様において、rAAV粒子は、AAVrh.74である。好ましい態様において、rAAV粒子は、AAVrh74である。追加の好ましい態様において、rAAVは、AAV9である。いくつかの態様において、rh74 AAVは、例えばVP1カプシドのアミノ酸505のトリプトファンからアルギニンへの変異、またはPCT公開WO2019/1784412(これは、その全体において本明細書において参照により組み込まれる)において記載されるとおりの他の変異により、心臓組織への送達を有利に強化するように変異される。誘導体、シュードタイプ、および/または他のベクターの型の非限定的な例は、AAVrh.10、AAVrh.74、AAV2/1、AAV2/5、AAV2/6、AAV2/8、AAV2/9、AAV2-AAV3ハイブリッド、AAVhu.14、AAV3a/3b、AAVrh32.33、AAV-HSC15、AAV-HSC17、AAVhu.37、AAVrh.8、CHt-P6、AAV2.5、AAV6.2、AAV2i8、AAV-HSC15/17、AAVM41、AAV9.45、AAV6(Y445F/Y731F)、AAV2.5T、AAV-HAE1/2、AAVクローン32/83、AAVShHIO、AAV2(Y->F)、AAV8(Y733F)、AAV2.15、AAV2.4、AAVM41、およびAAVr3.45を包含するが、これらに限定されない。
【0080】
かかるAAV血清型および誘導体/シュードタイプ、およびかかる誘導体/シュードタイプを生産する方法は、当該技術分野において公知である(例えば、Mol Ther. 2012 Apr;20(4):699-708. doi: 10.1038/mt.2011.287. Epub 2012 Jan 24. The AAV vector toolkit: poised at the clinical crossroads. Asokan A1, Schaffer DV, Samulski RJ.を参照)。特定の態様において、本明細書に開示されるrAAV粒子のいずれかのカプシドは、AAVrh.10血清型のものである。いくつかの態様において、カプシドは、AAV2/6血清型のものである。いくつかの態様において、rAAV粒子は、シュードタイプのrAAV粒子であり、これは、(a)1つの血清型(例として、AAV2、AAV3)からのITRを含むrAAVベクターおよび(b)別の血清型(例として、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、またはAAV10)に由来するカプシドタンパク質から構成されるカプシドを含む。シュードタイプのrAAVベクターを生産および使用する方法は、当該技術分野において知られている(例として、Duan et al, J. Virol., 75:7662-7671, 2001;Halbert et al, J. Virol., 74:1524-1532, 2000;Zolotukhin et al, Methods, 28:158-167, 2002;およびAuricchio et al., Hum. Molec. Genet., 10:3075-3081, 2001を参照)。
【0081】
心臓疾患のためのrAAV遺伝子治療
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターはさらに、ポリアデニル化(pA)シグナルを含む。例えば、好ましい態様において、pAシグナルは、以下の配列の1つ以上を含む:順次、12、または11~13、または順次12~13、または32、または46。
【0082】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターは、少なくとも、5’から3’の順に、第1のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)配列、導入遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター、ポリアデニル化シグナル、および第2のAAV逆位末端反復(ITR)配列を含む。
【0083】
いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムは、環状である。いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムは、直鎖状である。いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムは、一本鎖である。いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムは、二本鎖である。いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムは、自己相補的なrAAVベクターである。
【0084】
本明細書において記載されるのは、rAAVベクターの非限定的な例である。以下に説明されるベクターは、配列番号1~14、または20~34、または35~48として記載される直鎖状プラスミド配列を含む。本開示のベクターは、配列番号1~14、または20~34、または35~48として記載される配列に対して、少なくとも70%の同一性、少なくとも約80%の同一性、少なくとも約90%の同一性、少なくとも約95%の同一性、少なくとも約96%の同一性、少なくとも約97%の同一性、少なくとも約98%の同一性、少なくとも約99%の同一性、少なくとも約99.5%の同一性、または少なくとも約99.9%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでもよい。いくつかの態様において、rAAVは、配列番号1~14、または20~34、または35~48として記載される配列の1つ以上に対して100%の同一性を有する1つ以上のヌクレオチド配列を含む。
【0085】
いくつかの態様において、開示されたrAAV核酸ベクター配列のいずれかは、配列番号1~14、または20~34、または35~48のいずれか1つの配列と比べて、5’または3’末端においてトランケーションを含む。いくつかの態様において、rAAVベクターのいずれかは、配列番号1~14、または20~34、または35~48のいずれか1つの配列とは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または18を超えるヌクレオチドが異なるヌクレオチド配列を含む。
【0086】
組み換えアデノ随伴ウイルスベクターおよびその治療的使用
AAVの多くの血清型がクローニングされ、配列決定されている。血清型1および6は、それらのカプシドタンパク質において、>99%のアミノ酸相同性を共有する。最初の6つのAAV血清型のうち、血清型2は広く特徴付けられ、したがって、しばしば遺伝子導入研究において用いられるが、本明細書において開示される態様によれば、AAV9、AAV20、AAVrh74、AAVrh10などの他のAAV血清型もまた用いられる。いくつかの態様において、体液性免疫応答を誘発すると期待される所与の血清型の繰り返し投与が、免疫管理レジメンに関連して行われる。いくつかの態様において、免疫管理レジメンは、B細胞枯渇薬(depletor)として機能する1つ以上の剤の、単独での、またはmTOR経路の1つ以上の側面を阻害する1つ以上の剤と組み合わせての、投与を含む。一態様において、抗CD20抗体が投与され、ラパマイシンが投与される。いくつかの態様において、このことが、所与の血清型のrAAVの繰り返し投与を可能にし、この場合、その後の当該rAAVの投与に対する免疫応答が低下するか、限定されるか、または不在になる。免疫管理についてのさらなる情報は、米国特許出願番号15/306,139において見出され、その全内容は、本明細書において参照により組み込まれる。
【0087】
本開示の治療用rAAVベクター、治療用rAAV粒子、または治療用rAAV粒子を含む組成物は、本明細書において提供されるとおりの心筋症などの心臓疾患のための遺伝子治療のために、それを必要とするヒト対象において、用いてもよい。本開示の方法および組成物を使用して処置され得る心臓疾患の例は、これらに限定されないが、心筋症および急性虚血を包含する。いくつかの態様において、心筋症は、肥大型心筋症または拡張型心筋症である。いくつかの態様において、心筋症は肥大型心筋症であり、MYBPC3の発現および/または機能の低下または不在によって引き起こされるか、またはこれと関連する。治療用rAAVベクター、粒子、および治療用rAAV粒子を含む組成物は、例えば、冠動脈への血管送達および/または心臓への直接注射を介して、それを必要とする対象に投与される場合、かかる心不全(例えば、心筋症に続発する心不全)の処置のために用いてもよい。いくつかの態様において、投与は、それを必要とする対象への全身送達を介するものである。治療用rAAVベクター、粒子、およびrAAV粒子を含む組成物は、対象の心筋細胞におけるMYBPC3の同時発現を駆動する。
【0088】
MYBPC3導入遺伝子によりコードされる治療用MyBP-Cのアミノ酸配列は、配列番号15として記載されるアミノ酸配列と少なくとも約85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性がある。
【0089】
いくつかの態様において、核酸コードの縮重について説明しつつ、本明細書に開示される(および/または添付の配列表において包含される)核酸のいずれかに対応するアミノ酸配列が提供される。さらに、本明細書において明示的に開示されている(および/または添付の配列表において包含される)ものとは異なるが、機能的類似性または同等性を有する配列もまた(核酸またはアミノ酸のいずれであれ)、本開示の範囲内において企図される。前述のものは、変異、トランケーション、置換、または他の型の修飾を包含する。
【0090】
本明細書において記載されるいくつかの態様によれば、配列のうちのいずれを用いてもよく、または本明細書において開示される(および/または添付の配列表において包含される)配列のうちのいずれかのトランケートされたかまたは変異した形態を、任意の組み合わせにおいて用いてもよい。
【0091】
治療用核酸の発現を駆動するプロモーターは、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター、ニューロン特異的プロモーター、筋肉特異的プロモーター、または合成プロモーターであり得るが、これらに限定されない。いくつかの態様において、プロモーターは、ニューロン特異的プロモーターまたは筋肉特異的プロモーターである。構成的プロモーターは、単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、サルウイルス40(SV40)プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、アデノウイルスE1Aプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、哺乳類ハウスキーピング遺伝子プロモーター、またはβ-アクチンプロモーターであり得るが、これらに限定されない。誘導性プロモーターは、シトクロムP450遺伝子プロモーター、熱ショックタンパク質遺伝子プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、ホルモン誘導性遺伝子プロモーター、エストロゲン遺伝子プロモーター、またはテトラサイクリンに対して応答性のtetVP16プロモーターであり得るが、これらに限定されない。筋肉特異的プロモーターは、デスミンプロモーター、クレアチンキナーゼプロモーター、ミオゲニンプロモーター、アルファミオシン重鎖プロモーター、またはナトリウム利尿ペプチドプロモーターであり得るが、これらに限定されない。
【0092】
いくつかの態様において、治療用rAAVプロモーターは、ニューロンまたは心筋特異的プロモーターを含む。
【0093】
治療用rAAVは、血清型1、血清型2、血清型3、血清型4、血清型5、血清型6、血清型7、血清型8、血清型9、血清型10、血清型11、血清型12、血清型rh10、または血清型rh74であり得る。治療用rAAVはまた、シュードタイプrAAVであり得る。
【0094】
いくつかの態様において、治療用rAAVは、順次アセンブルされた場合に、配列番号1~14、または20~34、または35~48と、少なくとも85%の配列同一性を共有する配列を有する。
【0095】
いくつかの態様において、治療用rAAVは、順次アセンブルされた場合に、配列番号1~14、または20~34、または35~48と、少なくとも95%の配列同一性を共有する配列を有する。
【0096】
医薬製剤および投与
本明細書において記載される組成物は、さらに、医薬賦形剤、緩衝剤、または希釈剤を含んでもよく、ex vivoで宿主細胞へ、またはin situで動物、特にヒトへの投与のために処方されてもよい。かかる組成物はさらに、任意に、リポソーム、脂質、脂質複合体、ミクロスフェア、マイクロ粒子、ナノスフェア、もしくはナノ粒子を含んでもよく、または別段に、細胞、組織、器官、もしくはそれを必要とする対象の身体への投与のために処方されてもよい。かかる組成物は、例えば、本明細書において記載されるとおりの疾患または障害をもたらす状態を包含する、ペプチド欠乏症、ポリペプチド欠乏症、ペプチド過剰発現、ポリペプチド過剰発現などの状態の寛解、予防、および/または処置におけるなどの、様々な治療における使用のために処方されてもよい。
【0097】
薬学的に許容し得る賦形剤および/または担体溶液を含む製剤は、例えば、経口、非経口、静脈内、鼻腔内、関節内、および筋肉内の投与および製剤化を包含する様々な処置レジメンにおいて、本明細書に記載の具体的な組成物を使用するための好適な投薬および処置レジメンの開発と同様に、当業者に周知である。
【0098】
典型的には、これらの製剤は、少なくとも約0.1%またはそれ以上の治療剤(例えば、治療用rAAV粒子または調製物)を含有してもよいが、活性成分(単数または複数)のパーセンテージは、もちろん、変化してもよく、便宜上、全製剤の重量または体積の約1または2%と、約70%または80%またはそれ以上との間であってもよい。当然ながら、各治療上有用な組成物中の治療剤(単数または複数)の量は、好適な投薬量がいずれかの所定の単位用量の化合物で得られるであろう様式で、調製され得る。可溶性、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与ルート、製品貯蔵寿命などの因子、ならびに他の薬理学的な考慮は、かかる医薬製剤を調製する場合に、当業者により企図されるだろう。加えて、様々な投薬量および処置レジメンが望ましい場合がある。
【0099】
ある状況において、皮下で、血管内で、心臓内で、眼内で、硝子体内で、非経口的に、皮下で、静脈内で、脳室内で、筋肉内で、髄腔内で、経口的に、腹腔内で、経口もしくは経鼻吸入により、あるいは1つ以上の細胞(例えば、心筋細胞および/もしくは他の心臓細胞)、組織、または器官への直接注射により、本明細書に開示の好適に製剤化された医薬組成物中で、治療用rAAV粒子または調製物を送達することが望ましいであろう。いくつかの態様において、本発明の治療用rAAV粒子または治療用rAAV粒子を含む組成物は、ヒトを治療するためのものにおいては特に、静脈内注射を介して全身に送達される。いくつかの態様において、本発明の治療用rAAV粒子または治療用rAAV粒子を含む組成物は、対象の心臓に直接的に注射される。心臓への直接注射は、例えば、針カテーテルを用いての、心筋組織、心臓の裏層(lining)、または心臓を囲む骨格筋のうちの1つ以上への注射を含んでもよい。いくつかの態様において、例えば、心臓へのアクセスが改善される外科手技と同時に送達が行われる場合には、ヒトの心臓への直接注射が好ましい。
【0100】
注射可能な用途に好適な組成物の医薬製剤は、滅菌水性溶液または分散体を包含する。いくつかの態様において、製剤は、滅菌され、および容易な通針性(syringability)が存在する程度に流動性である。いくつかの態様において、形態は、製造および保管の条件下で安定であり、かつ、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対して保存されている。担体は、例えば、水、生理食塩水、エタノール、ポリオール(例として、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、好適なそれらの混合物、植物油または合衆国食品医薬品局によって一般的に安全と認められている(Generally Recognized as Safe(GRAS))ものなどの他の薬学的に許容し得る担体を含有する、溶媒または分散媒体である。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散の場合の要求される粒子サイズの維持により、および、界面活性剤の使用により、維持され得る。追加の薬剤が標的細胞または宿主組織と接触した際に有意な弊害を引き起こさないかぎり、事実上は包含され得る他の構成要素に制限はない。治療用rAAV粒子または調製物は、よって、具体的な場合における必要に応じて、様々な他の薬学的に許容し得る剤と一緒に送達されてもよい。かかる組成物は、宿主細胞または他の生物学的供給源から精製されてもよく、または代替的に本明細書において記載されるとおり、化学的に合成されてもよい。
【0101】
治療用rAAV粒子または製剤、および/または治療用rAAVベクター組成物の量、ならびにかかる組成物の投与の時間は、本発明の教示の恩恵を受ける当業者の知識の範囲内であろう。しかしながら、本開示の組成物の治療有効量の投与は、単一の投与、例えば、かかる処置を受けている患者に治療上の利益を提供するために十分な数の感染性粒子の単一の注射により、達成されてもよい。いくつかの状況において、rAAV粒子もしくは調製物、および/またはrAAVベクター組成物の複数のまたは連続的な投与を、相対的に短い期間、または相対的に長い期間のいずれかにわたり、提供することが望ましい場合があり、このことは、かかる組成物の投与を監督している医師により決定され得る。
【0102】
本開示の方法において利用される組成物の毒性および有効性は、LD50(集団の50%にとって致死的な用量)を決定するために、培養細胞または実験動物のいずれかを用いて、標準的な薬学的手順により、決定されてもよい。毒性と有効性との間の用量比率は、治療的指標であり、およびそれは、比率LD50/ED50によって表され得る。大きい治療的指標を示す組成物が好ましい。毒性の副作用を示す組成物を使用してもよいが、一方で、かかる副作用の潜在的な損傷を最小化する送達系を設計するように注意されるべきである。本明細書に記載されるとおりの組成物の投薬量は、一般に、毒性がほとんどないかまたは毒性が全くないED50を包含する範囲内である。投薬量は、使用される剤形および利用される投与ルートに依存して、この範囲内で変化し得る。
【0103】
本開示の他の側面は、ヒトまたは非ヒト対象、対象におけるin situでの宿主細胞、または対象に由来する宿主細胞などの対象による使用のための、方法および調製物に関する。いくつかの態様において、対象は、哺乳動物である。いくつかの態様において、対象は、伴侶動物である。「伴侶動物」は、本明細書において用いられる場合、ペットおよび他の飼育動物を指す。伴侶動物の非限定例は、イヌおよびネコ;ウマ、畜牛、ブタ、ヒツジ、ヤギ、およびニワトリなどの家畜;およびマウス、ラット、モルモット、およびハムスターなどの他の動物を包含する。いくつかの態様において、対象は、ヒト対象である。
【0104】
いくつかの態様において、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤(ビヒクル、キャリア、希釈剤、および/または送達ポリマーを包含する)が、治療薬を包含する医薬組成物に添加され、それにより、ヒトなどの対象へのin vivoでの送達のために好適な医薬製剤を形成する。
【0105】
医薬組成物または医薬は、治療薬および任意に1つ以上の薬学的に許容し得る賦形剤のうちの少なくとも1つの薬理学的有効量を包含する。薬学的に許容し得る賦形剤(賦形剤)は、薬物送達系に意図的に包含される有効活性成分(Active Pharmaceutical ingredient:API、治療製品)以外の物質である。賦形剤は、意図された投与量においては、治療効果を発揮しないか、発揮することを意図されていない。賦形剤は、a)製造の間の薬物送達系の処理を補助する、b)APIの安定性、バイオアベイラビリティもしくは患者の認容性を保護、支持もしくは増強する、c)製品の識別を補助する、および/またはd)保管または使用の間のAPIの送達の、全体的な安全性、有効性の任意の他の特質を増強するために作用してもよい。薬学的に許容し得る賦形剤は、不活性物質であっても、そうでなくともよい。
【0106】
賦形剤は、以下を包含するが、これらに限定されない:吸収促進剤、付着防止剤、消泡剤、抗酸化剤、結合剤、緩衝剤、担体、コーティング剤、着色剤、送達促進剤、送達ポリマー、デキストラン、デキストロース、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、増量剤、充填剤、香味剤、流動促進剤、保湿剤、潤滑剤、油脂、ポリマー、保存剤、生理食塩水、塩、溶媒、糖、懸濁剤、徐放性マトリックス、甘味料、増粘剤、等張化剤、ビヒクル、撥水剤、および湿潤剤。
【0107】
医薬組成物は、医薬組成物において一般的に含まれる他の追加の構成要素を含有することができる。かかる追加の構成要素は、鎮痒薬、収斂薬、局所麻酔薬、抗炎症薬(例えば、抗ヒスタミン薬、ジフェンヒドラミンなど)を包含し得るが、これらに限定されない。
【0108】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、および好適なそれらの混合物を含有する溶媒または分散媒体であり得るが、これらに限定されない。担体はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などのアジュバントを含有してもよい。担体はまた、糖、多価アルコール、塩化ナトリウムなどの等張剤を、組成物中に含有してもよい。
【0109】
薬学的に許容し得るとは、薬理学的/毒物学的観点から対象にとって許容され得る特性および/または物質を指す。「薬学的に許容し得る」という句は、生理学的に耐容し得、対象に投与された場合に、典型的にはアレルギー性の、または他の有害もしくは毒性の反応を引き起こさない、分子実体、組成物、および特性を指す。いくつかの態様において、薬学的に許容し得る化合物は、連邦もしくは州の政府の規制当局により承認されているか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識される薬局方において、動物およびより具体的にはヒトにおける使用について列記されている。
【0110】
本明細書において記載されるとおりのrAAVまたは医薬組成物は、ex vivoで宿主細胞へ、またはin situで動物、特にヒトにおける投与のために処方されてもよい。rAAVまたは医薬組成物は、様々な経路により投与することができる。投与経路は、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、肝臓内、腹腔内、および/または標的組織への局所送達を包含するが、これらに限定されない。いくつかの態様において、複数の注射、または他の投与の型、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10回またはそれより多くの注射が提供される。所望される場合、投与の経路は、組み合わされてもよい。態様に応じて、第1および第2のrAAVは、同じ回数投与される必要はない(例えば、第1のrAAVは1回投与されてもよく、第2のベクターは3回投与されてもよい)。いくつかの態様において、投与は、筋肉内投与である。
【0111】
いくつかの態様において、対象に投与されるrAAV粒子の数は、約10~約1014粒子/mLもしくは約10~約1013粒子/mLの範囲の桁、またはいずれかの範囲の間の任意の値、例えば、約10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、または1014粒子/mLなどであってもよい。いくつかの態様において、対象に投与されるrAAV粒子の数は、約10~約1014ベクターゲノム(vgs)/mLもしくは10~1015vgs/mLの範囲の桁、またはいずれかの範囲の間の任意の値、例えば、約10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、または1014vgs/mLなどであってもよい。いくつかの態様において、細胞あたり約0.5~約5個のrAAVベクターゲノムが投与される。いくつかの態様において、細胞あたり約0.5~約2個のrAAVベクターゲノムが投与される。いくつかの態様において、1キログラムあたり約1×1013~約3×1014個(vgs/kg)のベクターゲノムが投与される。いくつかの態様において、投与量は、対象の心筋の質量に基づく。いくつかの態様において、投与量は、体重に基づく。いくつかの態様において、投与量は、体表面積に基づく。rAAV粒子は、単回用量として投与することができ、または処置される具体的な疾患または障害の治療を達成するために要求され得るとおり、2以上の投与に分けることができる。いくつかの態様において、約0.0001mL~約10mLの範囲の用量が、対象に送達される。
【0112】
注射可能な水性溶液の投与のために、例えば、溶液は、好適に緩衝化され得、必要ならば、液体希釈剤が、充分な生理食塩水またはグルコースを用いて、最初に等張性にされる。これらの具体的な水性溶液は、静脈内、筋肉内、硝子体内、皮下および腹腔内の投与のために特に好適である。この文脈において、使用され得る滅菌された水性媒体は、本開示を考慮して、当業者に公知であろう。例えば、1投薬量は、1mLの等張性NaCl溶液中に溶解されて、および、1000mLの皮下注入液に添加されるか、または、注入の提案部位において注射されるか、のいずれかであってもよい(例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、第15版、1035~1038および1570~1580頁を参照)。いくつかの態様において、rAAV製剤は、活性rAAV成分、一塩基性緩衝剤(例えば、一塩基性リン酸ナトリウム緩衝剤)、二塩基性塩(例えば、二塩基性リン酸ナトリウム)、ナトリウムベースの等張化剤(例えば、塩化ナトリウム等張化剤)、非ナトリウム等張化剤(例えば、塩化マグネシウム六水和物等張化剤)、界面活性剤(例えば、ポロキサマー188界面活性剤)、および水を、含むか、それらからなるか、または本質的にそれらからなるであろう。いくつかの態様において、rAAV製剤は、活性rAAV成分、リン酸ナトリウム一塩基性緩衝剤、二塩基性リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム等張化剤、塩化マグネシウム六水和物等張化剤、ポロキサマー188界面活性剤、および水を、含むか、それらからなるか、または本質的にそれらからなるであろう。いくつかの態様において、活性rAAV成分は、本明細書において提供されるベクターゲノムの量に応じて製剤中に存在する。いくつかの態様において、一塩基性緩衝剤(例えば、リン酸ナトリウム一塩基性緩衝剤)は、約0.2mg/mL~約0.5mg/mLの濃度で製剤中に存在する。いくつかの態様において、二塩基性塩(例えば、二塩基性リン酸ナトリウム)は、約1.5mg/mL~約4mg/mLの濃度で製剤中に存在する。いくつかの態様において、ナトリウムベースの等張化剤(例えば、塩化ナトリウム等張化剤)は、約8mg/mL~約12mg/mLの濃度で製剤中に存在する。いくつかの態様において、非ナトリウム等張化剤(例えば、塩化マグネシウム六水和物等張化剤)は、約0.1mg/mL~約0.35mg/mLの濃度で製剤中に存在する。いくつかの態様において、界面活性剤(例えば、ポロキサマー188界面活性剤)は、約0.05mg/mL~約0.8mg/mLの濃度で製剤中に存在する。いくつかの態様において、水は、製剤(例えば、投与単位)の体積を1mLにするために、存在する。
【0113】
投薬量におけるいくつかのバリエーションは、処置される対象の状態に応じて、必然的に発生するであろう。投与の責を負う人は、いずれの事象においても、個々の対象について適切な用量を決定するであろう。その上、ヒト投与のために、調製物は、例えば、FDAの生物製剤標準局(Office of Biologics standards)により要求されるとおりの、無菌性、発熱性、ならびに一般的な安全性および純度の基準を満たすべきである。
【0114】
滅菌注射液は、rAAV粒子または製剤を、要求される量において、必要に応じて上で列挙される他の成分のうちのいくつかと共に、適切な溶媒中に組み込み、その後、濾過滅菌することにより、調製される。一般に、分散体は、様々な滅菌された活性成分を、基本的な分散媒および上に列挙されるものからの他の成分を含有する滅菌されたビヒクル中に組み込むことにより、調製される。滅菌された注射可能な溶液の調製のための滅菌された粉末の場合、調製の好ましい方法は、真空乾燥および凍結乾燥技法であり、これらは、活性成分に任意の追加の所望される成分を加えたものの粉末を、先に滅菌ろ過されたそれらの溶液から生産する。
【0115】
rAAV粒子または調製物の量、およびかかる粒子または調製物の投与の時間は、本発明の教示の恩恵を受ける当業者の知識の範囲内であろう。しかしながら、本開示のAAV粒子または調製物の治療有効量の投与は、単一の投与、例えば、かかる処置を受けている患者に治療上の利益を提供するために十分な数の感染粒子の単一の注射により、達成されてもよい可能性がある。代替的に、いくつかの状況において、rAAV粒子または調製物の複数または連続する投与を、かかる組成物の投与を監視する医師によって決定され得るように、相対的に短い期間、または相対的に長い期間のいずれかで、提供することが所望され得る。
【0116】
所望される場合、rAAV粒子は、治療用ポリペプチド、その生物学的に活性なフラグメントまたはバリアントの1以上の投与を包含する、例えば、タンパク質またはポリペプチドまたは様々な薬学的に活性な剤などの、他の剤とも組み合わせて、投与され得る。追加の薬剤が標的細胞または宿主組織と接触した際に有意な弊害を引き起こさないかぎり、事実上は包含され得る他の構成要素に制限はない。rAAV粒子または調製物は、よって、具体的な場合における必要に応じて、様々な他の薬学的に許容し得る剤と一緒に送達されてもよい。かかる組成物は、宿主細胞または他の生物学的供給源から精製されてもよく、または代替的に本明細書において記載されるとおり、化学的に合成されてもよい。
【0117】
いくつかの態様において、本明細書におおいて記載されるとおりのrAAV粒子による対象の処置は、例えば、以下を包含する以下の効果のうちの1つ、2つ、3つ、4つまたはそれより多くを達成する:(i)疾患またはそれに関連する症状の重症度の軽減または寛解、(ii)疾患に関連する症状の持続期間の短縮、(iii)疾患またはそれに関連する症状の進行に対する保護、(iv)疾患またはそれに関連する症状の退行、(v)疾患に関連する症状の発生または開始に対する保護、(vi)疾患に関連する症状の再発に対する保護、(vii)対象の入院の減少、(viii)入院期間の短縮、(ix)疾患を有する対象の生存率の増大、(x)疾患に関連する症状の数の減少、(xi)別の治療の予防または治療効果(単数または複数)の増強、改善、補足、補完、または増大。
【0118】
本明細書の教示を考慮して、当業者には明らかであるとおり、添加されるべきウイルスベクターの有効量は、経験的に決定することができる。投与は、治療の経過全体にわたり、単回投与、複数回投与において、連続的または断続的に、投与することができる。最も効果的な投与手段および投与量を決定する方法は、当業者には周知であり、ウイルスベクター、治療の組成、標的細胞、および処置されている対象によって異なるであろう。単回および複数回の投与を行うことができ、投与のレベルおよびパターンは、処置している医師により選択される。
【0119】
キット
本明細書においては、心筋症などの心臓の疾患または状態の1つ以上の症状を診断するか、予防するか、処置するかまたは寛解させるためのキット内に含まれる、開示されるrAAVベクターのうちの1つ以上を包含する組成物が記載される。かかるキットは、ヒトの疾患の診断、予防、および/または治療において有用である場合があり、心筋症などの心臓疾患の1つ以上の症状の処置、予防、および/または寛解において特に有用である場合がある。いくつかの態様において、心臓疾患は、心筋症により引き起こされる。いくつかの態様において、心臓疾患は、肥大型心筋症または拡張型心筋症により引き起こされる。いくつかの態様において、心臓疾患は、肥大型心筋症である。
【0120】
開示されるrAAVベクター(ならびに、かかるベクターを含む、1つ以上のビリオン、ウイルス粒子、形質転換された宿主細胞または医薬組成物)の1つ以上を含むキット;ならびに、1つ以上の治療的、診断的、および/または予防的な臨床の態様において、かかるキットを使用するための説明もまた、いくつかの態様により提供される。かかるキットは、1つ以上の試薬、制限酵素、ペプチド、治療薬、医薬化合物、あるいは宿主細胞への、または動物への、組成物(単数または複数)の送達のための手段(例えば、シリンジ、注射剤など)を含んでもよい。態様に依存して、キットは、疾患、欠損、機能障害、および/または傷害の症状を処置するか、予防するか、または寛解させるためのものを包含するか、あるいは、ウイルスベクター自体のラージスケールでの産生のための構成要素を包含してもよい。
【0121】
いくつかの態様において、キットは、記載される治療薬のいずれかの1つ以上の用量を含む1つ以上の容器(container)または容器(receptacle)を含む。かかるキットは、本質的に治療的なものであってもよい。いくつかの態様において、キットは、単位投薬量を含有し、これは、例えば、1つ以上の追加の剤と共にまたはこれを伴わずに、記載された治療薬を含む組成物の所定量を意味する。
【0122】
キットの1つ以上の構成要素は、1つ以上の液体または凍結された溶媒中で提供することができる。溶媒は、水性または非水性であり得る。キット中の製剤はまた、乾燥粉末(単数または複数)として、または適切な溶媒の添加により再構成することができる凍結乾燥形態において、提供することができる。
【0123】
いくつかの態様において、キットは、キットの内容物の適切な利用の指示を示す、ラベル、マーカー、添付文書、バーコード、および/またはリーダーを含む。いくつかの態様において、キットは、キットの内容物が対象を処置するために特定の投与量または投与計画に従って投与され得ることを示す、ラベル、マーカー、添付文書、バーコードおよび/またはリーダーを含んでもよい。
【0124】
加えて、キットはまた、洗浄試薬、溶出試薬、および濃縮試薬を包含するがこれらに限定されない、様々な試薬を含んでもよい。かかる試薬は、本明細書において記載される試薬の中から、および従来の濃縮試薬の中から、容易に選択され得る。
【0125】
本明細書において用いられる場合、「キット」という用語は、携帯可能な、必要なものがすべて揃った、封入物のバリエーションであって、本発明の診断または治療方法の1つ以上を実施するための構成要素の少なくとも1つのセットを包含するものを記載するために用いられてもよい。
【0126】
併用療法
本開示の複数の態様は、本明細書に記載の、各々の個々の特色、系、物品、材料、キット、および/または方法に関する。加えて、かかる特色、系、物品、材料、キット、および/または方法の2以上の任意の組み合わせは、かかる特色、系、物品、材料、キット、および/または方法が相互に不一致でない場合、本開示の範囲内に包含される。
【0127】
本開示の組成物は、rAAV粒子または調製物および/またはrAAVベクターを、単独で、あるいは、天然または組換えの供給源から得られても、または化学的に合成されてもよい、1以上の追加の活性成分と組み合わせて、包含し得る。いくつかの態様において、rAAV粒子または調製物は、ボルテゾミブなどのプロテアソームインヒビター、またはヒドロキシウレアと、同じ組成物中で、または同じ処置レジメンの一部として、組み合わせて投与される。
【0128】
所望される場合、rAAV粒子およびrAAVベクターは、例えばタンパク質またはポリペプチドまたは多様な医薬活性剤などの、他の剤と組み合わせて、同様に投与されてもよい。このことは、いくつかの態様においては、例えば、治療用ポリペプチド(例えば、導入遺伝子によりコードされるタンパク質のrAAVベースの産生を置き換えるかまたはこれを補足するために役立つ、機能的ペプチドまたはタンパク質の組換え形態)、その生物学的に活性なフラグメントまたは変異体の、1回以上の投与を反映している場合がある。rAAV粒子または調製物は、よって、具体的な場合における必要に応じて、様々な他の薬学的に許容し得る剤と一緒に送達されてもよい。かかる組成物は、宿主細胞または他の生物学的供給源から精製されてもよく、または代替的に本明細書において記載されるとおり、化学的に合成されてもよい。
【0129】
いくつかの態様において、追加の治療剤は、抗炎症剤を含む。抗炎症剤は、以下であり得るが、これらに限定されない:副腎皮質ステロイド、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン-21-モノエステル(例えば、ヒドロコルチゾン-21-アセタート、ヒドロコルチゾン-21-ブチラート、ヒドロコルチゾン-21-プロピオン酸、ヒドロコルチゾン-21-パレラートなど)、ヒドロコルチゾン-17,21-ジエステル(例えば、ヒドロコルチゾン-17,21-ジアセタート、ヒドロコルチゾン-17-アセタート-21-ブチラート、ヒドロコルチゾン-17,21-ジブチラートなど)、アルクロメタゾン、デキサメタゾン、フルメタゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン(典型的にはベタメタゾンベンゾアートまたはベタメタゾンジプロピオナートとして);フルオシノニド;プレドニゾン;およにトリアムシノロン(典型的にはトリアムシノロンアセトニドとして)。いくつかの態様において、抗炎症剤は、限定することなく、クロモリン(5,5’-(2-ヒドロキシプロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)ビス(4-オキソ-4H-クロメン-2-カルボン酸)(別名、クロモグリケート)、および2-カルボキシラトクロモン-5’-イル-2-ヒドロキシプロパン誘導体、例えばビス(アセトキシメチル)、クロモグリケート二ナトリウム、ネドクロミル(9-エチル-4,6-ジオキソ-10-プロピル-6,9-ジヒドロ-4H-ピラノ[3,2-g]キノリン-2,8-ジカルボン酸)およびトラニラスト(2-{[(2E)-3-(3,4-ジメトキシフェニル)プロプ-2-エノイル]アミノ})、およびロドキサミド(2-[2-クロロ-5-シアノ-3-(オキサロアミノ)アニリノ]-2-オキソ酢酸)などのマスト細胞脱顆粒阻害剤である。いくつかの態様において、抗炎症剤は、限定することなく、アスピリン化合物(アセチルサリチル酸塩)、非アスピリンサリチル酸塩、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メクロフェナム酸、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、フェニルブタゾン、スリンダク、およびトメチンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。
【0130】
いくつかの態様において、抗炎症剤は、抗ヒスタミン薬を含む。抗ヒスタミン薬は、以下であり得るが、これらに限定されない:クレマスチン、フマル酸クレマスチン(2(R)-[2-[1-(4-クロロフェニル)-1-フェニルエトキシ]エチル-1-メチルピロリジン)、デクスメデトミジン、ドキシラミン、ロラチジン、デスロラチジンおよびプロメタジン、およびジフェンヒドラミン、またはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはエステル。いくつかの態様において、抗ヒスタミン薬は、限定することなく、アザタジン、アゼラスチン、ブルフロリン、セチリジン、シプロヘプタジン、ドキサントロゾール、エトドロキシジン、フォルスコリン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、オキサトミド、ピゾチフェン、プロキシクロミル、N,N’-置換ピペラジンまたはテルフェナジンを包含する。いくつかの態様において、抗ヒスタミン薬は、セチリジン、クロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、オルフェナドリン、フェニラミン、およびドキシラミンなどのH1アンタゴニストであるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、抗ヒスタミン薬は、シメチジン、ファモチジン、ラフチジン、ニザチジン、ラニチジン、およびロキサチジンなどのH2拮抗薬であるが、これらに限定されない。
【0131】
いくつかの態様において、追加の治療剤は、抗レトロウイルス剤を包含する抗ウイルス剤を含む。適切な抗ウイルス剤は、限定することなく、レムデシビル、アシクロビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、ホスカルネット、イドクスウリジン、ソリブジン、トリフルオロチミジン、バラシクロビル、ビダラビン、ジダノシン、ジデオキシイノシン、スタブジン、ザルシタビン、ジドブジン、アマンタジン、インターフェロンアルファ、リバビリンおよびリマンタジンを包含する。
【0132】
いくつかの態様において、追加の治療剤は、抗生物質を含む。適切な抗生物質の非限定的な例は、ペニシリン、アミノペニシリン(例えば、アモキシシリン、アンピシリン、ヘタシリンなど)、ペニシリナーゼ耐性抗生物質(例えば、クロキサシリン、ジクロキサシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリンなど)、広域スペクトル抗生物質(例えば、アキスロシリン、カルベニシリン、メズロシリン、ピペラシリン、チカルシリンなど)などのベータラクタム;セファロスポリン(例えば、セファドロキシル、セファゾリン、セファリキシン、セファロチン、セファピリン、セフラジン、セファクロル、セファクマンドール(cefacmandole)、セフメタゾール、セフォニシド、セフォラニド、セフォテタン、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、ロラカルベフ、セフィキシム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチオフル、セフチゾキシム、セフトリアキソン、モキサラクタムなど);アズトレオナムなどのモノバクタム;イミペネムおよびエロペネムなどのカルバペネム;キノロン(例えば、シプロフロキサシン、エンロフロキサシン、ジフロキサシン、オルビフロキサシン、マルボフロキサシンなど);クロラムフェニコール(例えば、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、フロルフェニコールなど);テトラサイクリン(例えば、クロルテトラサイクリン、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど);マクロライド(例えば、エリスロマイシン、タイロシン、トリミコシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど);リンコサミド(例えば、リンコマイシン、クリンダマイシンなど);アミノグリコシド(例えば、ゲンタマイシン、アミカシン、カナマイシン、アプラマイシン、トブラマイシン、ネオマイシン、ジヒドロストレプトマイシン、パロモマイシンなど);スルホンアミド(例えば、スルファドメトキシン、スフルファメタジン、スルファキノキサリン、スルファメラジン、スルファチアゾール、スルファサラジン、スルファジアジン、スルファブロモメタジン、スルフラエトキシピリダジンなど);糖ペプチド(例えば、バンコマイシン、テイコプラニン、ラモプラニン、およびデカプラニン;ならびに他の抗生物質(例えば、リファンピン、ニトロフラン、バージニアマイシン、ポリミキシン、トブラマイシンなど))を包含する。
【0133】
いくつかの態様において、追加の治療薬は、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルオコナゾール、およびアムホテリシンBなどの抗真菌薬を含むが、これらに限定されない。いくつかの態様において、治療薬は、広域スペクトル抗寄生虫薬であるニタゾキサニド;抗マラリア薬およびその他の抗原虫薬(例えば、アルテミシン、メフロキン、ルメファントリン、チニダゾール、およびミルテホシン);メベンダゾール、チアベンダゾール、およびイベルメクチンなどの駆虫薬;ならびにリファンピンおよびアムホテリシンBなどの抗アメーバ薬などの抗寄生虫薬であるが、これらに限定されない。
【0134】
いくつかの態様において、追加の治療剤は、限定することなく、アルフェンタニル、ブプレノルフィン、ブトルファノール、コデイン、ジヒドロコデイン(drocode)、フェンタニル、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、レボルファノール、メペリジン、メタドン、モルヒネ、ナルブフィン、オキシコドン、オキシモルホン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、スフェンタニル、およびトラマドールなどのオピオイド鎮痛剤;ならびにアパゾン、エトドラク、ジフェンピラミド、インドメタシン、メクロフェナメート、メフェナム酸、オキサプロジン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、およびトルメチンなどの非オピオイド鎮痛剤を包含する、鎮痛剤を含む。
【0135】
ある態様に関連する任意の特定の特色、側面、方法、特性、特徴、品質、属性、要素などの本明細書における開示は、本明細書において記載されるすべての他の態様において用いることができる。結果的に、開示された態様の様々な特色および側面は、開示された発明の様々な様式を形成するために、互いに組み合わせたり、置き換えたりすることができることが理解されるべきである。よって、本明細書に開示される本発明の範囲は、上記の特定の開示された態様により限定されるべきではないことが意図されている。その上、本発明は、様々な修飾および代替的形態が可能であるが、その特定の例が図面に示され、本明細書において詳細に説明される。しかしながら、本発明は、開示された特定の形態または方法に限定されるものではなく、それとは反対に、本発明は、記載される様々な態様および添付の特許請求の範囲の精神および範囲の内に該当する、すべての修飾、均等物、および代替物をカバーするものであることが理解されるべきである。本明細書において開示される方法はいずれも、記載された順序において実行される必要はない。本明細書において開示される方法は、実施者により行われる特定の行為を包含する;しかしながら、それらはまた、明示的または暗示的に、第三者によるそれらの行為の指示をも包含し得る。さらに、本開示の特色または側面が、マーカッシュ群により説明されている場合、当業者は、本開示はまた、当該マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループによっても記載されることを認識するであろう。
【0136】
本明細書において用いられる任意の表題または小見出しは、整理を目的とするものであって、本明細書において開示される態様の範囲を制限するために用いられるべきではない。
【0137】

以下の例は、説明的なものに過ぎず、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0138】
材料および方法
コンストラクト設計
MYBPC3 cDNAを、ヒト組織における発現のためにコドン最適化し、AAVの産生のために好適なプラスミド骨格中にサブクローニングした。一本鎖AAVゲノムを含むコンストラクを、下の表1において提供されるとおりのエレメントを含むように操作し、他の設計および代替的な構造(configuration)も記述した。コンストラクトの概略図は、図1において提供される。
表1
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【0139】
心臓組織における発現増強のためのコンセンサスKozak配列のin silico誘導
【0140】
心臓における導入遺伝子発現を増強するための新しい合成Kozak配列を設計するために、ヒトの心臓組織において高度に発現している遺伝子の分析を行った。下の表2において示されるとおり、ヒトタンパク質アトラスから遺伝子を選択し、各々についてのKozak配列をNCBIにおいて同定した。コンセンサス配列は、Weblogo(https://weblogo.berkeley.edu/logo.cgi)を用いて誘導した。コンセンサス配列(AGCCCCAAC(配列番号28))を、次いで、本明細書において提供される導入遺伝子コンストラクトの設計において利用した。
表2.
【表2】
【0141】
以下の表3において示されるとおり、代替的なコンストラクトを、様々なプロモーターおよびin silico由来の配列を用いて設計した。
表3.
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【0142】
追加のコンストラクトは、以下の代替的プロモーターを含むように設計した。
TNNC1
GATCACTGGGACCAGAGGAGGGGCTGGAGGATACTACACGCAGGGGTGGGCTGGGCTGGGCTGGGCTGGGCCAGGAATGCAGCGGGGCAGGGCTATTTAAGTCAAGGGCCGGCTGGCAACCCCAGCAAGCTGTCCTGTGAG(配列番号63)
MHC
CAAGGCTGTGGGGGACTGAGGGCAGGCTGTAACAGGCTTGGGGGCCAGGGCTTATACGTGCCTGGGACTCCCAAAGTATTACTGTTCCATGTTCCCGGCGAAGGGCCAGCTGTCCCCCGCCAGCTAGACTCAGCACTTAGTTTAGGAACCAGTGAGCAAGTCAGCCCTTGGGGCAGCCCATACAAGGCCATGGGGCTGGGCAAGCTGCACGCCTGGGTCCGGGGTGGGCACGGTGCCCGGGCAACGAGCTGAAAGCTCATCTGCTCTCAGGGGCCCCTCCCTGGGGACAGCCCCTCCTGGCTAGTCACACCCTGTAGGCTCCTCTATATAACCCAGGGGCACAGGGGCTGCCCTC(配列番号64)
【0143】
AAV産生.
コンストラクトの各々を含む組み換えAAV(rAAV)粒子は、MYBPC3コンストラクト、およびrAAV産生のために必要とされる他のプラスミド(例えば、repおよびcap発現カセットを含む)による、Expi293F細胞の懸濁トランスフェクションにより作製され、以下を含む3つのグループのrAAVを生成する:(1)AAV9カプシドタンパク質、(2)rh74カプシドタンパク質、および(3)rh74 VP1カプシドタンパク質のアミノ酸505におけるトリプトファンからアルギニンへの変異を含むrh74バリアントカプシドタンパク質。ベクターは、捕捉カラム、およびその後にアニオン交換カラムを用いて単離し、塩化セシウム勾配を用いて、2-5E+13vg/mlの力価まで精製する。
【0144】
例1.In vitro発現研究
MYBPC3コンストラクトを含むrAAVの3つのグループを、上記のとおり作製し、HEK293、C2C12、またはヒトの誘導多能性幹細胞から誘導される心筋細胞に送達する。全細胞ライセートを生成し、ELISAおよび/またはイムノブロッティングによりMYBPC3の発現について探査する。
【0145】
例2.In vivo発現研究
MYBPC3コンストラクトを含むrAAVの3つのグループを、上記のとおり作製し、新生仔C57BL/6マウス(n=6~10/群)に、5E+13vg/kgで、顔面静脈を介して投与する。rAAV投与の2~4週間後に、心臓、横隔膜、および骨格筋の組織を採取し、全細胞ライセートを、MYBPC3発現について、ELISAおよび/またはイムノブロッティングを用いて分析する。
【0146】
MYBPC3コンストラクトを含むrAAVの3つのグループを、上記のとおり作製し、5~7週齢のC57BL/6マウス(n=6~10/群)に、3つの異なる用量:1E+13vg/kg、5E+13vg/kg、または1+E14vg/kgで、頸静脈を介して投与する。rAAV投与の1か月後に、心臓、横隔膜、および骨格筋の組織を採取し、全細胞ライセートを、MYBPC3発現について、ELISAおよび/またはイムノブロッティングを用いて分析する。
【0147】
例3.In vivoでのMYBPC3発現の回復
構成的ホモ接合MYBPC3ノックアウトマウス(Mybpc3tm1Rmos;MGI:3526881)は、重篤な早期発症型の肥大型心筋症に関連する表現型を急速に発症し、それは、経時的に比較的安定しており、成体期(>1年)まで十分に生存する(Harris et al.、2002)。
【0148】
Mybpc3-loxP導入(Mybpc3-floxed:Mybpc3 fl/fl)マウス(Mybpc3tm2.1Rmos;MGI:5523781)を利用して、組織特異的なMYBPC3欠損動物を作製する(Chen et al.、2012)。MYBPC3の心筋細胞特異的ノックアウト(CKO)マウスを生成するために、Mybpc3 fl/flマウスを、α-ミオシン重鎖トランスジェニック(αMHC-Cre)マウスと交雑させる。
【0149】
MYBPC3コンストラクトを含むrAAVを、上記のとおり作製し、症状が出る前および/または症候性のMYBPC3変異マウスに、様々な用量を用いて、単回IV注射を介して送達する。エンドポイントは、生存率、ならびに心エコー法によりモニタリングされる心機能を包含する。剖検に際して、心臓組織を採取し、全組織ライセートを、AAVの生体内分布についてddPCRにより、ならびにヒトMYBPC3の発現についてELISAおよび/またはイムノブロットにより、分析する。加えて、組織切片を、組織病理学のために分析する。rAAVの治療効果を、測定されたエンドポイントおよび/または組織病理学的評価を介して評価する。
【0150】
例4.処置マウスからのMYBPC3のDNAおよびmRNAの検出
表4に従って、(1)AAV9カプシドタンパク質および(2)rh74カプシドタンパク質を含む、2つのグループのrAAVを、新生仔マウスモデルに、腹腔内注射を介して投与した。少なくとも25日後(平均で28日目に剖検)、処置後のマウスの心臓組織を処置されたマウスから分離し、採取された心臓を、心臓上部組織、心臓中部組織、および心臓下部組織の3つの別々のセクションに分離した。心臓上部組織は、パラフィン包埋(FFPE)組織処理のためにホルマリン中で固定し、一方、心臓の中部および下部組織は直ちに-80℃で凍結した。凍結された心臓組織を、処理し、ビーズ破砕を介してホモジェナイズし、結果として生じたホモジェナイズされたライセートを、2つの画分:RNA抽出のための第1の画分、およびDNA抽出のための第2の画分に分割した。
表4
【表4】
【0151】
RNA抽出
RNAは、Promega製の抽出試薬を用いて抽出し、精製されたRNAを、Tapestationおよびnanodropを介して、量および質について分析した。RT-PCRを実行して、コドン最適化されたhMYBPC3 mRNAを検出した。図3は、単離された組織ライセートからのhMYBPC3 mRNAについてのmRNAシグナルの検出を示す。理解され得るとおり、RT陽性試料は、260bpの予測サイズにおいて、AAV9およびRH74媒介ベクターについてのmRNA hMYBPC3シグナルを示す。図4は、A:GAPDH対照、B:MYBPC3、C:GAPDHに対して正規化されたhMYBPC3 RNA、およびD:AAV9試料に関して正規化されたhMYBPC3 RNAを比較するRT-qPCRプロットを示す。試料2-2および3-5は、hMYBPC3について高い相対的倍率変化(fold change)を表した。結果は、AAV9およびRH74媒介ベクターを用いて処置されたマウス心臓試料におけるhMYBPC3 RNA発現の検出を確認する。
【0152】
DNA抽出およびhMYBPC3についてのアッセイ
RNA抽出法と同様に、ホモジェナイズされた組織ライセートからDNAを抽出し、Tapestationおよびnanodropを介して量および質について分析した。全DNAを、コドン最適化されたヒトMYBPC3 DNAを特異的に認識するように設計されたプライマーによるPCF反応における鋳型として用いた。図5は、rAAV9の複製物A~D、およびRH74の複製物E~H、ならびに未処置のモックコ対照を示す。予想される260bpのバンドの存在は、hMYBPC3 DNAが、rAAV9およびRH74の両方に基づくコンストラクトの両方において処置されたマウスにおいて検出可能であったことを示す。図6は、A:GAPDH対照、B:MYBPC3、C:GAPDHに対して正規化されたhMYBPC3 DNA、およびD:AAV9試料に関して正規化されたhMYBPC3 DNAを比較するqPCRプロットを示す。理解され得るとおり、試料2-2および3-5は、組織試料において検出されたレベルの4~6倍増大したhMYBPC3 DNAを発現した。結果は、AAV9およびRH74媒介ベクターを用いて処置されたマウスの心臓試料におけるco-hMYBPC3 DNAの検出を確認する。
図1
図2
図3
図4A-4B】
図4C-4D】
図5
図6A-6B】
図6C-6D】
【配列表】
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【国際調査報告】