(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】時間領域ロールオフを伴うチャープパルスを用いたデータ伝送耐性のある分散型音響センシング
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G01H9/00 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534776
(86)(22)【出願日】2023-02-17
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 US2023062793
(87)【国際公開番号】W WO2023159164
(87)【国際公開日】2023-08-24
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2023-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504080663
【氏名又は名称】エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】イプ、 エズラ
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、 ユエ-カイ
(72)【発明者】
【氏名】フェレイラ デ リマ、 トーマス
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064BC12
2G064BC33
(57)【要約】
本開示の態様は、センシング信号の前縁と後縁に帯域外チャープを付加することによって生成される滑らかな振幅プロファイルを示すチャープインタロゲーションパルス(センシング信号)を有利に使用する分散型光ファイバセンシング/分散型音響センシングシステム、方法、および構造を記載する。チャープパルスセンシング信号に前縁の帯域外信号および後縁の帯域外信号を付加して「滑らかな」振幅プロファイルを生成することにより、同じ光ファイバ上でセンシング信号と通信信号の共存が容易になる。
【選択図】
図2(B)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型光ファイバセンシング(DFOS)/分散型音響センシング(DAS)システムであって、
光ファイバセンサケーブルと、
前記光ファイバセンサケーブルと光通信するDFOS/DASインタロゲータと、を有し、
前記DFOS/DASインテロゲータは、プローブ信号を生成し、生成されたプローブ信号を前記光ファイバセンサケーブルに発射し、前記光ファイバセンサケーブルからレイリー後方散乱信号を受信するように構成され、
前記分散型光ファイバセンシング(DFOS)システムは、前記プローブ信号には発射前に前縁および後縁が付加され、前記前縁および後縁を含む前記プローブ信号が滑らかな振幅プロファイルを示すことを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記プローブ信号はチャープパルスを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プローブ信号は、それぞれが異なる中心周波数を中心としたチャープパルスの連結を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記前縁および後縁は、前記連結されたチャープパルスの周波数の外側に中心周波数を有するチャープパルスである、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記光ファイバセンサケーブルは、通信トラフィックを同時に伝送する、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記通信トラフィックは、前記光ファイバセンサケーブルで波長分割多重(WDM)光信号として伝送される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記前縁および後縁が二乗余弦の振幅プロファイルを示す、請求項3に記載のシステム。
【請求項8】
前記前縁および後縁がランプ関数の振幅プロファイルを示す、請求項3に記載のシステム。
【請求項9】
前記プローブパルスは、N倍の周波数ダイバーシティを示し、各チャープパルス(CP
i)が中心周波数f
1によって変調された形式p(t)のチャープパルスである、請求項3に記載のシステム。
【請求項10】
前記CP
iは、前記光ファイバセンサケーブルの往復伝播時間よりも大きい全体繰り返しレートT
pで時間的に連続して発射される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
分散型光ファイバセンシング(DFOS)/分散型音響センシング(DAS)を実行する方法であって、
光センサファイバを設けること、
前記光センサファイバと光通信するDFOS/DASインタロゲータであって、光プローブパルスを生成し、生成されたプローブパルスを前記光センサファイバに取り入れ、前記光センサファイバから後方散乱信号を受信するように構成されたDFOS/DASインタロゲータを設けること、
前記後方散乱信号を分析し、前記後方散乱信号から前記光センサファイバに沿った位置で生じる環境状態を判断するように構成されたインテリジェントアナライザを設けること、を含み、
前記プローブ信号には、前記光センサファイバに取り入れる前に前縁および後縁が付加され、前記前縁および後縁を含む前記プローブ信号が、滑らかな振幅プロファイルを示す、方法。
【請求項11】
前記プローブ信号はチャープパルスを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記プローブ信号は、それぞれが異なる中心周波数を中心としたチャープパルスの連結を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記前縁および後縁は、前記連結されたチャープパルスの周波数の外側に中心周波数を有するチャープパルスである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記光ファイバセンサケーブルは、通信トラフィックを同時に伝送する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記通信トラフィックは、前記光ファイバセンサケーブルで波長分割多重(WDM)光信号として伝送される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記前縁および後縁が二乗余弦の振幅プロファイルを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記前縁および後縁がランプ関数の振幅プロファイルを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記プローブパルスは、N倍の周波数ダイバーシティを示し、各チャープパルス(CP
i)が中心周波数f
1によって変調された形式p(t)のチャープパルスである、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記CP
iは、前記光ファイバセンサケーブルの往復伝播時間よりも大きい全体的な繰り返しレートT
pで時間的に連続して発射される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記WDM通信トラフィックおよび前記プローブパルスが前記光ファイバセンサケーブルに多重化される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、時間領域ロールオフを伴うチャープパルスを利用する分散型光ファイバセンシング(DFOS)システム、方法、および構造に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、道路、橋梁、および建物の優れた音響および/または振動の監視を提供するために、DFOSシステムおよび方法が採用されている。このようなシステムの信頼性、ロバスト性、および感度は、既存の従来型システムや方法とは比べものにならないほど優れていることが一般に知られている。より最近では、チャープパルスを用いた分散型音響センシング(DAS)は、空間分解能を犠牲にしたり、インタロゲーション信号のピーク電力を増加させたりすることなく、戻ってくる後方散乱信号の信号対雑音比(SNR)を高めることができることから人気が高まっている。DFOS/DASに対するチャープパルス技術の重要性を考えると、その改良は当該技術分野への歓迎すべきものである。
【発明の概要】
【0003】
当該技術分野における進歩は、チャープインタロゲーションパルス(センシング信号)を使用するDFOS/DASシステム、方法、および構造に関する本開示の態様に従ってなされる。
【0004】
従来技術とは対照的に、本開示によるセンシング信号は、センシング信号の前縁および後縁に帯域外チャープを付加することによって生成される滑らかな振幅プロファイルを示す。
【0005】
本開示では、チャープパルスセンシング信号に前縁の帯域外信号および後縁の帯域外信号を付加して「滑らかな」振幅プロファイルを生成するという発明的特徴により、有利には、同じ光ファイバ上でセンシング信号と通信信号との共存を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本開示のより完全な理解は、添付図面を参照することによって実現され得る。
【0007】
【
図1(A)】本開示の態様によるDFOSシステムを示す概略図である。
【0008】
【
図1(B)】本開示の態様による、帯域外信号生成を伴う符号化定振幅DFOSシステムを示す概略図である。
【0009】
【
図2(A)】時間領域および周波数領域での表現であって、各チャープCP
iは持続時間T
cおよび帯域幅αT
cを有する従来のN倍の周波数ダイバーシティチャープパルスDASにおけるセンシング信号の時間領域および周波数領域での表現である。振幅プロファイルは持続時間NT
cの矩形であり、信号はNαT
cの帯域幅を有する。
【
図2(B)】時間領域および周波数領域での表現であって、帯域外信号が従来のセンシング信号の前後に挿入され、滑らかな振幅プロファイルを生成するセンシング信号の時間領域および周波数領域の表現である。立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジにおける持続時間T
rtの信号は、CP
1からCP
Nが占有する帯域幅の外側にある必要があり、結果として得られる信号はより長い持続時間およびより広い帯域幅を有するが、通信信号上のXPMが低減されるため、本開示の態様によれば、通信信号に悪影響を及ぼすことなく、より高いピーク電力P
sensをインタロゲーション(センシング)信号として発射することができる。
【0010】
【
図3(A)】帯域外チャープを周波数ダイバーシティチャープパルスインタロゲーション(センシング)(N=20、T
c=10μs、B=10MHZ、T
p=10.5ms)に付加することにより滑らかな振幅プロファイルを利用することで非線形許容誤差が改善されることを示したグラフであって、リアルタイムコヒーレントトランスポンダによって測定されたpost-FEC BERと、センシング信号のピーク電力P
sensとの関係を、様々な立ち上がり時間T
rtについて示しおり、センシング信号によって生じるXPM非線形性は、サイクルスリップおよびバーストエラーを引き起こし、これらはコヒーレントトランスポンダのFECによって修正されず、T
rtを増加させると、post-FEC BERがゼロとなる最大許容P
sensが増加する。
【
図3(B)】帯域外チャープを周波数ダイバーシティチャープパルスインタロゲーション(センシング)(N=20、T
c=10μs、B=10MHZ、T
p=10.5ms)に付加することにより滑らかな振幅プロファイルを利用することで非線形許容誤差が改善されることを示したグラフであって、本開示の態様によるT
rtに対する最大許容P
sensを示す。
【0011】
【
図4】本開示の態様に係るシステムおよび方法を評価するための実験装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下は、単に本開示の原理を例示するものである。したがって、当業者は本明細書に明示的に記載または図示されていないが、本開示の原理を具現化し、その精神および範囲内に含まれる様々な構成を考案することができることが理解されよう。
【0013】
さらに、本明細書に記載されているすべての実施例および条件付き用語は、本開示の原理および技術を促進するために発明者によって寄与された概念を読者が理解するのを助けるための教育目的のためだけのものであることを意図しており、そのような具体的に列挙された実施例および条件に限定されないと解釈されるべきである。
【0014】
さらに、本開示の原理、態様、および実施形態を記載する本明細書のすべての記述、ならびにその具体例は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することを意図している。さらに、そのような等価物は、現在知られている等価物と、将来開発される等価物、すなわち、構造に関係なく同じ機能を実行する開発された要素との両方を含むことが意図されている。
【0015】
したがって、たとえば、本明細書の任意のブロック図が、本開示の原理を実施する例示的な回路の概念図を表すことは、当業者には理解されるであろう。
【0016】
本明細書で特に明記しない限り、図面を構成する図は、縮尺通りに描かれていない。
【0017】
追加の背景として、分散型光ファイバセンシング(DFOS)は、インタロゲータに順番に接続された光ファイバケーブルに沿って任意の場所で環境条件(温度、振動、音響励起振動、伸縮レベルなど)を検出するために重要で広く使用されている技術であることに注目することから始める。知られているように、現代のインタロゲータは、ファイバへの入力信号を生成し、反射/散乱され、その後受信された信号を検出/分析するシステムである。信号が分析され、ファイバに沿って遭遇する環境条件を示す出力が生成される。このように受信された信号は、ラマン後方散乱、レイリー後方散乱、ブリリオン後方散乱などのファイバ内の反射に起因する可能性がある。DFOSは、複数のモードの速度差を利用した順方向の信号を使用することもできる。一般性を失うことなく、以下の説明では反射信号を想定しているが、同じアプローチを転送信号にも同様に適用できる。
【0018】
図1(A)は、一般化された従来技術のDFOSシステムの概略図である。理解されるように、現代のDFOSシステムは、光パルス(または任意の符号化信号)を周期的に生成し、それらを光ファイバに注入するインタロゲータを含む。注入された光パルス信号は、光ファイバに沿って伝送される。
【0019】
ファイバに沿った位置では、信号のごく一部が反射され、インタロゲータに戻される。反射信号は、例えば、機械的振動を示す電力レベルの変化など、インタロゲータが検出するために使用する情報を伝送する。詳細には示されていないが、インタロゲータは、
図1(B)に示すような当技術分野で知られているコヒーレント受信機構成を採用することができる符号化DFOSシステムを含むことができる。
【0020】
反射信号は電気領域に変換され、インタロゲータ内で処理される。パルス注入時間と信号が検出された時間に基づいて、インタロゲータは信号がファイバ上のどの位置から来ているかを判断し、ファイバ上の各位置の行動を感知することができる。
【0021】
当業者であれば、質問信号に信号符号化を実装することにより、より多くの光パワーをファイバに送信することができ、これにより、レイリー散乱ベースのシステム(例えば、分散型音響センシング、すなわちDAS)及びブリルアン散乱ベースのシステム(例えば、ブリルアン光時間領域反射率測定法、すなわちBOTDR)の信号対雑音比(SNR)を有利に改善できることを理解し、認識するであろう。
【0022】
多くの現代の実装で現在実施されているように、専用ファイバは、光ファイバケーブルのDFOSシステムに割り当てられ、異なるファイバで伝送される既存の光通信信号から物理的に分離されている。しかし、帯域幅の需要が爆発的に増加していることを考えると、DFOS運用のためだけに光ファイバを経済的に運用および保守することはますます困難になっている。その結果、より大きなマルチファイバケーブルの一部である共通ファイバ上で、通信システムとセンシングシステムを統合することへの関心が高まっている。
【0023】
動作上、DFOSシステムは、符号化実装を備えたレイリー散乱ベースのシステム(例えば、分散型音響センシング、すなわちDAS)およびブリルアン散乱ベースのシステム(例えば、ブリルアン光時間領域反射測定法、すなわちBOTDR)であると想定される。このような符号化設計により、これらのシステムは、低電力で動作するため、ファイバ通信システムと統合される可能性が高く、光増幅器の応答時間の影響もより大きくなる。
【0024】
ブロック図に例示的に示した配置では、符号化された質問シーケンスがデジタル的に生成され、デジタル/アナログ変換(DAC)および光変調器を介してセンシングレーザーに変調されると仮定する。変調された質問シーケンスは、質問のためにファイバに送られる前に、最適な動作電力に増幅される場合がある。
【0025】
有利なことに、DFOS/DAS動作は、同じファイバ内の通信チャネルと一緒に統合することもできる。
【0026】
前述のように、チャープパルスを使用した分散型音響センシング(DAS)は、空間分解能を犠牲にしたり、センシング信号のピーク電力を増加させたりすることなく、戻ってくる後方散乱の信号対雑音比(SNR)を高めることができるため、最近人気が高まっている。このようなチャープパルスDASは、「時間ゲート領域直交周波数領域反射測定法」(TGD-OFDR)とも呼ばれている。
【0027】
空間分解能保存の原理は、ピーク電力P
sens、持続時間T
c、および帯域幅B=αT
c(γはチャープ係数)用いたチャープパルス
【数1】
が、主ローブが変換制限幅1/Bである「狭い」自己相関関数
【数2】
を有することである。これにより、相関検出を使用して、被試験ファイバ(FUT)のレイリーインパルス応答を回復することが可能になる。
【0028】
チャープパルスDASは、中継器なしで約171kmの到達距離を達成しており、この技術を採用した最近のフィールド試験の結果では、全ラマン増幅リンクで1,000を超える到達距離が得られている。
【0029】
p(t)で記述されるような矩形エンベロープを有する従来のチャープパルスを使用する場合の1つの問題は、パルスの開始と終了における信号振幅の急激な変化が、共伝搬する通信チャネルに大きな非線形ペナルティを引き起こすことである。これは、従来のオンオフキーイング(OOK)信号がコヒーレントな通信信号に大きな相互位相変調(XPM)ペナルティを課すのと類似している。センシング信号の帯域幅は通信信号よりもはるかに狭いため、センシング信号が通信信号に与える非線形の影響を考慮する際には、一時的に色分散を無視することができる。
【0030】
各々の有効非線形長がL
effであるN
span個の同一のファイバスパンを持つリンクを想定する。また、センシングチャネルが対象の通信チャネルに隣接していると想定するため、「ウォークオフ」も無視される。カー非線形性により、センシング信号は通信信号に
【数3】
の非線形位相を引き起こす。
【0031】
したがって、チャープセンシングパルスの開始時と終了時には、非線形位相は時間スケール~1/Bにわたって0からγNspanLeffPsensまで急速に変化するが、これはコヒーレント受信機の搬送波位相回復(CPR)が追跡するには速すぎる。これによりサイクルスリップが発生し、バーストエラーが発生する可能性があり、また、前方誤り訂正(FEC)で使用されるインターリーバの長さが不十分な場合、バーストエラーが十分にランダム化されず、pre-FEC BERがしきい値を下回っていても、非ゼロpost-FCEビット誤り率(BER)になる可能性がある。
【0032】
要約すると、通信チャネル上のセンシング信号によって課されるXPMは、通信チャネルの「動作停止」(非ゼロpost-FEC BER)を引き起こす可能性がある。
【0033】
センシングチャネルを通信チャネルと共存させる1つの方法は、通信チャネルのpost-FECがゼロになるまでPsensを低減することであるが、Psensを低減すると、センシングトランスポンダが受信するレイリー後方散乱のSNRも減少する。
【0034】
本発明の態様によれば、本発明のシステムおよび方法は、滑らかな振幅プロファイルを有する修正されたセンシング信号を使用して、共伝播する通信信号に対する有害な非線形効果を低減する。これは、センシング信号の周囲に前縁と後縁を付加し、それらを帯域外チャープで埋めることによって実現される。
【0035】
本発明の特徴は、チャープパルスセンシング信号に前縁の帯域外信号と後縁の帯域外信号を付加することであり、これにより、その振幅プロファイルが「滑らか」になることが保証され、通信信号に課せられる非線形ペナルティが低減され、同じ光ファイバ上でセンシング信号と通信信号の共存が容易になる。
【0036】
データ伝送における非線形ペナルティを軽減する別の方法は、滑らかな振幅プロファイルを持つセンシング信号を使用することである。センシング信号
【数4】
によって引き起こされるXPM非線形位相は瞬時電力に比例するため、
【数5】
をゆっくりと変化させることで、コヒーレント通信トランスポンダのCPRがロック解除されることなく追跡できるほどφ
NL(t)の変化が遅くなることを確実にすることができ、サイクルスリップやバーストエラーの確率を低減することができる。
【0037】
本開示の態様によれば、
図2(B)に例示的に示すようなセンシング信号を採用し、通常の従来の信号は
図2(A)に例示的に示されている。N倍の周波数ダイバーシティの使用を想定しており、各CP
iが中心周波数f
iで変調された形式p(t)のチャープパルスであることに留意されたい。CP
iは、被試験ファイバ(FUT)の往復伝播時間よりも大きい全体的な繰り返しレートT
pで、時間的に連続して発射される。発射された信号の振幅プロファイルは矩形であり、持続時間NT
cを示す。信号の周波数領域表現も示されている。
【0038】
Trtで与えられる立ち上がり時間と立ち下がり時間で振幅プロファイルが滑らかになるように、CP1の前とCPNの後に帯域外信号を挿入することでセンシング信号を修正する。
【0039】
図2(A)および
図2(B)は、時間領域および周波数領域での表現である。
図2(A)は、各チャープCP
iが持続時間T
cおよび帯域幅αT
cを有する従来のN倍の周波数ダイバーシティのチャープパルスDASにおけるセンシング信号である。振幅プロファイルは持続時間NT
cの矩形で、信号はNαT
cの帯域幅を有する。
図2(B)は、帯域外信号が従来のセンシング信号の前後に挿入され、滑らかな振幅プロファイルを生成するセンシング信号の時間領域および周波数領域の表現である。立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジにおける持続時間T
rtの信号は、CP
1からCP
Nが占有する帯域幅の外側にある必要があり、結果として得られる信号はより長い持続時間およびより広い帯域幅を有するが、通信信号上のXPMが低減されるため、本開示の態様によれば、通信信号に悪影響を及ぼすことなく、より高いピーク電力P
sensをインタロゲーション(センシング)信号として発射することができる。
【0040】
図2(B)は、帯域外の振幅プロファイルが二乗余弦である一例の構造を示す。ランプ関数などの他の例示的な構成も可能である。唯一の要件は、φ
NLがゆっくり変化するように関数が滑らかである必要があることである。立ち上がり時間と立ち下がり時間の下の信号は、DAS機能を妨げないように、センシング信号CP
1からCP
Nの帯域幅の外にある必要がある。
【0041】
図2(B)には、f
0,f
-1,・・・,f
N+1を中心とする帯域外チャープCP
0,CP
-1,・・・,CP
N+1を使用する特定の構成が示されている。他の帯域外信号は、その振幅が外形曲線で示される滑らかな関数である場合に使用できる。
【0042】
有利なことに、本発明の方法は、最近、全ラマン増幅を用いた1,000kmのファイバーリンクでテストされ、センシング信号は50×200Gb/sのDP-16QAMデータチャネルと共伝播した。非線形許容誤差の増加は顕著であり、まず、センシング信号から50GHz離れたリアルタイムコヒーレントトランスポンダーのpost-FEC BERを測定した。
【0043】
図3(A)および
図3(B)は、帯域外チャープを周波数ダイバーシティチャープパルスインターロゲーション(センシング)(N=20、T
c=10μs、B=10MHZ、T
p=10.5ms)に付加することにより滑らかな振幅プロファイルを利用することで非線形許容誤差が改善されることを示したグラフである。ここで、
図3(A)は、リアルタイムコヒーレントトランスポンダによって測定されたpost-FEC BERと、センシング信号のピーク電力P
sensとの関係を、様々な立ち上がり時間T
rtについて示しおり、センシング信号によって生じるXPM非線形性は、サイクルスリップおよびバーストエラーを引き起こし、これらはコヒーレントトランスポンダのFECによって修正されず、T
rtを増加させると、post-FEC BERがゼロとなる最大許容P
sensが増加する。
図3(B)は、本開示の態様によるT
rtに対する最大許容P
sensを示す。
【0044】
図2(B)から分かるように、P
sensが大きい場合、サイクルスリップによって生じたバーストエラーはFECによって訂正されず、その結果、非ゼロpost-FEC BERが生じる。P
sensが減少すると、post-FEC BERがゼロになるしきい値が存在する。センシング信号の最大許容ピーク電力P
sensは、T
rtに依存する。
図2(B)では、T
rtが0から60μs(3T
cに等しい)に増加すると、P
sens,maxが-2dBmから+3dBmに増加することがわかる。
実験装置
【0045】
前述したように、分散型センシングのための通信光ファイバーインフラストラクチャの使用は、公共の安全とよりスマートな都市を促進すると同時に、通信サービスプロバイダ/事業者に新たな収益源を可能にするため、サービスプロバイダの間でますます注目を集めている。データ伝送とセンシングの共存が実証されている。
【0046】
特に、レイリー後方散乱の位相光時間領域反射測定法(φ-OTDR)に基づく分散型音響センシング(DAS)は、交通監視、侵入検知、地震監視などの用途を可能にする。 現在まで、DASは、光信号対雑音比(OSNR)が含まれるため、ほとんどが数十キロメートルの光ファイバで実施されてきた。DASの到達距離を長距離データ伝送に匹敵するほど伸ばすことが望ましい。これにより、特定の地理的領域で必要なセンシングトランスポンダの数を削減し、海底ケーブルで沖合の地震を早期に警告できるようになる。
【0047】
本発明の態様によれば、インラインアイソレータを使用せずに全ラマン増幅を採用し、相関検出およびダイバーシティ合成を用いた周波数ダイバーシティチャープパルスDAS(FD-CP-DAS)を使用する。ここでは、全後方励起ラマン増幅方式を使用して、1,000kmを超える標準シングルモードファイバ(SSMF)にわたる初めてのDAS結果を報告する。
【0048】
実験装置を
図4に模式的に示す。この図に示すように、送信機では、1GSa/sで動作する任意波形発生器(AWG)で駆動されるマッハツェンダI/Q変調器(MZM)に1550.112nmの低位相ノイズNKT X15ファイバレーザーを通過させることで、センシング信号が生成される。生成されるセンシング信号は、20倍の周波数ダイバーシティチャープパルス(CP)で構成され、各パルスは帯域幅B=10MHz(空間分解能z≒10m)、持続時間T=10nsを有する。
【0049】
fを中心とする20個のCPが連続して発射され、それらの相互周波数間隔はΔf=Bである。繰り返し期間は、1,000kmを超えるインタロゲーション距離を可能にするためにT=10.5msに設定した。
【0050】
同じ空間分解能での単一周波数非チャープDASに対する理論的なOSNRゲインは33dBであり、そのうち20dBは相関検出によるものであり、13dBは周波数ダイバーシティによるものである。通信信号の相互位相変調(XPM)歪み(従来のオンオフキーイング信号とコヒーレント信号の共伝搬で観察されるXPM効果など)を低減するために、帯域外チャープを使用して持続時間Tの追加の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジを挿入し、滑らかな振幅プロファイルを作成する。
【0051】
データチャネルについては、チャネルあたり200Gb/sのデータレートをサポートするリアルタイム32GHz DP-16QAMコヒーレントトランスポンダを使用した。191.75THzから194.25THzまでの50個の高密度波長分割多重(DWDM)データチャネルの共伝搬は、ノイズ負荷を使用してエミュレートされ、増幅自然放出(ASE)雑音源は、中間段階の波長選択スイッチ(WSS)を備えた2段階EDFAによって増幅され、これにより同時に、送信スペクトルを均等化し、エミュレートされたWDM隣接の、200Gの被試験チャネル(CUT)とセンシング信号とを合成する。
【0052】
リンクは、標準シングルモードファイバ(SSMF)の13スパンから構成される。最初の10スパンは、ラボファイバである。スパン11とスパン12は、以前に報告されたノースダラスプールの長さ79.8kmのフィールドファイバの2つのループで構成されている。スパン13は、長さ5.5kmと長さ9.3kmの2本以上のフィールドファイバのループバックと、それに続く2つの10.1kmスパンのラボファイバとで構成されている。レイリー後方反射がトランスポンダに戻ることを可能にするために、全ラマン増幅を使用した。スパン1~10(平均スパン長:79.7km、平均スパン損失:16.5dB)およびスパン13では、後方ポンピングを使用した。損失が19.9dBと20.9dBの高損失スパン11と12では、前方ラマンポンピングおよび後方ラマンポンピングを使用した。ラマンポンプ(1426nm~1466nm)の電力は、ゲインの平坦性を最大化しながら、前のスパンの損失を均等化するように調整した。
【0053】
WDM信号は+14dBm(3dBm/ch)でリンクに送信し、センシング信号は14.2dBm(ピーク電力:+2.2dBm)で送信した。
【0054】
受信されたレイリー後方散乱光は、EDFAプリアンプを通過し、続いて0.1nmの光バンドパスフィルタ(OBPF)を通過し、さらに別のEDFAプリアンプを通過した。結果として得られた信号は、二重偏波光ハイブリッド、バランス型フォトダイオード(BPD)、110MHzの電気ローパスフィルタ(ELPF)、250MSa/sで動作するデジタルサンプリングオシロスコープ(DSO)によるサンプリングおよびデジタル化で構成される従来のコヒーレント受信機を使用して検出した。DSOは、フレームレートトリガーがAWGによって提供されるシーケンシャルキャプチャモードで作動した。各フレームが200μsのデータ(データセットあたり100Mサンプル)を含むデータセットごとにN=2,000のフレームを取得した。ナイキスト周波数50Hzまでの振動は、1/NT=0.05Hzの周波数分解能で観測できる。データチャネルについては、リアルタイムトランスポンダの受信機によって、pre-FEC BER(pre-forward error correction bit-error rate)およびpost-FCE BER(post-forward error correction bit-error rate)を測定した。
実験結果
【0055】
まず、相関検出により各センシングチャネルにおけるレイリーインパルス応答を測定した。リンクの凡その電力プロファイルは、コネクタでの反射によりスパイクで観察できる。FC-APCコネクタよりもSC-PCコネクタで強い反射が観測された。
【0056】
「空間的な漏れ」を低減するために、各CPの帯域幅によって設定された最小ゲージ時間の2倍、すなわちτ=2/R=0.2μsで差動ビート積が計算される。タイミングの再調整後、回転ベクトル和を使用してビート積が最適に合成され、複素数値ζ[n,m]が生成され、ここで、nとmはそれぞれ距離とフレーム指数である。各ファイバ位置nでアンラップ角を取ると、その位置での推定歪み誘起光位相シフトが得られる。
【0057】
空間分解能を実証するために、長さ1.5mと12mの圧電トランスデューサー(PZT)をスパン10の端部近くに挿入した。PZTはそれぞれ、16Hzと27Hzの正弦波で駆動した。空間的なクロストークは観察されず、位相ノイズは10~48Hzにわたってほぼ平坦であるが、レーザーの位相ノイズにより低周波数で上昇する。15Hzからナイキスト周波数R/2までの平坦な領域における位相雑音電力スペクトル密度(PSD)フロアをrad Hz単位で推定する。リンク内の様々なポイントを中心としたデータを取得することで、1kmの解像度で感度対距離のスイープを取得する。スパン11、12とスパン13の前半で観測された大きな位相ノイズPSDは、実世界の振動によって引き起こされた。
【0058】
この実験では、相関検出とダイバーシティ合成とを用いたFD-CP-DASを使用して、最初の1,000kmを超えるDAS実験を実施した。全ラマン増幅方式により、レイリー後方散乱はセンシングトランスポンダに戻ることができた。センシング信号は10Tb/sのデータ伝送と共存し、リアルタイムDP-16QAMトランスポンダとノイズ負荷でエミュレートされた。FEC符号化後、すべてのデータチャネルがゼロBERを達成し、ゲージ長20メートルで~100pHzのセンシング性能を達成した。DASは実世界の振動イベントの波形も復元することに成功した。
【0059】
ここまで、いくつかの具体的な例を用いて本開示を提示したが、当業者であれば、本発明の教示はそれに限定されないことを認識するであろう。したがって、本開示は、本明細書に添付された特許請求の範囲によってのみ制限されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型光ファイバセンシング(DFOS)/分散型音響センシング(DAS)システムであって、
光ファイバセンサケーブルと、
前記光ファイバセンサケーブルと光通信するDFOS/DASインタロゲータと、を有し、
前記DFOS/DASインテロゲータは、プローブ信号を生成し、生成されたプローブ信号を前記光ファイバセンサケーブルに発射し、前記光ファイバセンサケーブルからレイリー後方散乱信号を受信するように構成され、
前記分散型光ファイバセンシング(DFOS)システムは、前記プローブ信号には発射前に前縁および後縁が付加され、前記前縁および後縁を含む前記プローブ信号が滑らかな振幅プロファイルを示すことを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記プローブ信号はチャープパルスを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プローブ信号は、それぞれが異なる中心周波数を中心としたチャープパルスの連結を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記前縁および後縁は、前記連結されたチャープパルスの周波数の外側に中心周波数を有するチャープパルスである、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記光ファイバセンサケーブルは、通信トラフィックを同時に伝送する、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記通信トラフィックは、前記光ファイバセンサケーブルで波長分割多重(WDM)光信号として伝送される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記前縁および後縁が二乗余弦の振幅プロファイルを示す、請求項3に記載のシステム。
【請求項8】
前記前縁および後縁がランプ関数の振幅プロファイルを示す、請求項3に記載のシステム。
【請求項9】
前記プローブ
信号は、N倍の周波数ダイバーシティを示し、各チャープパルス(CP
i)が中心周波数f
1によって変調された形式p(t)のチャープパルスである、請求項3に記載のシステム。
【請求項10】
前記CP
iは、前記光ファイバセンサケーブルの往復伝播時間よりも大きい全体繰り返しレートT
pで時間的に連続して発射される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
分散型光ファイバセンシング(DFOS)/分散型音響センシング(DAS)を実行する方法であって、
光センサファイバを設けること、
前記光センサファイバと光通信するDFOS/DASインタロゲータであって、光プローブパルスを生成し、生成された
光プローブパルスを前記光センサファイバに取り入れ、前記光センサファイバから後方散乱信号を受信するように構成されたDFOS/DASインタロゲータを設けること、
前記後方散乱信号を分析し、前記後方散乱信号から前記光センサファイバに沿った位置で生じる環境状態を判断するように構成されたインテリジェントアナライザを設けること、を含み、
前記
光プローブ
パルスには、前記光センサファイバに取り入れる前に前縁および後縁が付加され、前記前縁および後縁を含む前記
光プローブ
パルスが、滑らかな振幅プロファイルを示す、方法。
【請求項12】
前記
光プローブ
パルスはチャープパルスを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記
光プローブ
パルスは、それぞれが異なる中心周波数を中心としたチャープパルスの連結を含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記前縁および後縁は、前記連結されたチャープパルスの周波数の外側に中心周波数を有するチャープパルスである、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記光ファイバセンサケーブルは、通信トラフィックを同時に伝送する、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記通信トラフィックは、前記光ファイバセンサケーブルで波長分割多重(WDM)光信号として伝送される、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記前縁および後縁が二乗余弦の振幅プロファイルを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記前縁および後縁がランプ関数の振幅プロファイルを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記
光プローブパルスは、N倍の周波数ダイバーシティを示し、各チャープパルス(CP
i)が中心周波数f
1によって変調された形式p(t)のチャープパルスである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記CP
iは、前記光ファイバセンサケーブルの往復伝播時間よりも大きい全体的な繰り返しレートT
pで時間的に連続して発射される、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記WDM通信トラフィックおよび前記
光プローブパルスが前記光ファイバセンサケーブルに多重化される、請求項
16に記載の方法。
【国際調査報告】