(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】骨欠損、骨変形、及び骨癒合不全の再建のための生体活性インプラント
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20241128BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20241128BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20241128BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20241128BHJP
A61F 2/28 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/58
A61L27/54
A61L27/56
A61L27/52
A61L27/40
A61L27/12
A61K38/18
A61P19/08
A61L27/34
A61L27/22
A61F2/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535308
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 US2022052412
(87)【国際公開番号】W WO2023114104
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516231051
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ユンジ
(72)【発明者】
【氏名】リン、シイン
(72)【発明者】
【氏名】モインザデ、セイェドシナ
(72)【発明者】
【氏名】ルイ、イレイン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081BA12
4C081BA16
4C081BB06
4C081CA082
4C081CA171
4C081CD042
4C081CD062
4C081CD152
4C081CD28
4C081CF021
4C081DA16
4C081DB03
4C081DC03
4C081DC04
4C081DC05
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DB60
4C084MA67
4C084NA12
4C084ZA961
4C097AA01
4C097MM04
4C097MM05
(57)【要約】
本開示によれば、整形外科用の生物活性インプラントが提供される。本開示の生物活性インプラントは、表面特性を改質するために処理された表面を有するロッドと、ロッドの表面に荷電ポリマー及び塩イオンを介して物理的に架橋された、凍結乾燥した親水性ヒドロゲルネットワークと、親水性ヒドロゲルネットワークに捕捉され、担持された生物学的物質と、親水性ヒドロゲルネットワーク自体、及び、ロッドの表面に対する親水性ヒドロゲルネットワークの物理的な架橋を強化するために、親水性ヒドロゲルネットワークに化学的に架橋された共有結合反応性マクロモノマーと、を含む。ロッドの表面は、共有結合性分子でコーティングされており、共有結合性分子は、ロッドの表面に化学的及び物理的に架橋された親水性ヒドロゲルネットワークのロッドに対する接着性を高めるために、共有結合反応性マクロモノマーに化学的に架橋されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨欠損、骨変形、または骨癒合不全を再建する方法であって、
(a)生体活性整形外科用インプラントであって、
(i)表面特性を改質するために処理された表面を有するロッドと、
(ii)前記ロッドの前記表面に荷電ポリマー及び塩イオンを介して物理的に架橋された、凍結乾燥した親水性ヒドロゲルネットワークと、
(iii)前記親水性ヒドロゲルネットワークに捕捉され、それによって、該ヒドロゲルネットワークに担持された生物学的物質と、
(iv)前記親水性ヒドロゲルネットワーク自体、及び、前記ロッドの前記表面に対する前記親水性ヒドロゲルネットワークの物理的な架橋を強化するために、前記親水性ヒドロゲルネットワークに化学的に架橋された共有結合反応性マクロモノマーと、を含む、該生体活性整形外科用インプラントを用意するステップと、
(b)前記生体活性整形外科用インプラントを、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位に移植するステップであって、前記生体活性整形外科用インプラントは、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位への移植に適合する大きさを有する、該ステップと、を有する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記生体活性整形外科用インプラントは、(v)1以上のコーティング層をさらに含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記ロッドは、相互接続された多孔性ロッドであり、
前記生物学的物質は、前記相互接続された多孔性ロッドの細孔に担持される、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記生体活性整形外科用インプラントは、前記2つの骨セグメント間、前記骨トンネル内、または前記骨折部位への髄内移植に適合する大きさを有する、方法。
【請求項5】
生物活性整形外科用インプラントであって、
(i)表面特性を改質するために処理された表面を有するロッドと、
(ii)前記ロッドの前記表面に荷電ポリマー及び塩イオンを介して物理的に架橋された、凍結乾燥した親水性ヒドロゲルネットワークと、
(iii)前記親水性ヒドロゲルネットワークに捕捉され、それによって、該ヒドロゲルネットワークに担持された生物学的物質と、
(iv)前記親水性ヒドロゲルネットワーク自体、及び、前記ロッドの前記表面に対する前記親水性ヒドロゲルネットワークの物理的な架橋を強化するために、前記親水性ヒドロゲルネットワークに化学的に架橋された共有結合反応性マクロモノマーと、を含む、生体活性整形外科用インプラント。
【請求項6】
請求項5に記載の生物活性整形外科用インプラントであって、
前記ロッドの前記表面は、共有結合性分子でコーティングされており、
前記共有結合性分子は、前記ロッドの前記表面に化学的及び物理的に架橋された前記親水性ヒドロゲルネットワークの前記ロッドに対する接着性を高めるために、前記共有結合反応性マクロモノマーに化学的に架橋されている、生物活性整形外科用インプラント。
【請求項7】
請求項5に記載の生物活性整形外科用インプラントであって、
前記ロッドは、相互接続された多孔性ロッドであり、
前記生物学的物質は、前記相互接続された多孔性ロッドの細孔に担持される、生物活性整形外科用インプラント。
【請求項8】
請求項5に記載の生物活性整形外科用インプラントであって、
当該生体活性整形外科用インプラントは、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位への髄内移植に適合する大きさを有する、生物活性整形外科用インプラント。
【請求項9】
請求項5に記載の生物活性整形外科用インプラントであって、
当該生体活性整形外科用インプラントは、1以上のコーティング層をさらに含む、生物活性整形外科用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年12月14日出願の米国特許仮出願第63/289、431号、2022年1月28日出願の米国特許仮出願第63/304、216号、2021年12月14日出願の米国特許仮出願第63/289、447号、及び、2022年1月28日出願の米国特許仮出願第63/304、207号に基づく優先権を主張するものである。上記の各出願の開示内容の全体は、参照により本明細書中に援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、骨欠損、骨変形、及び骨癒合不全の再建のための生体活性インプラントに関する。
【背景技術】
【0003】
高エネルギー外傷、デブリードマン処置、または腫瘍切除に起因する分節性骨欠損は、依然として、整形外科の分野における大きな課題である。機械的支持と骨再建との複合機能により、自家骨移植または同種骨移植が、分節性骨欠損を再建するための伝統的な方法と見なされてきた。しかしながら、これらの処置は、通常、患者の可動性を低下させ、複数回の手術を必要とし、限られた程度の骨欠損の再建にしか効果がない。
【0004】
骨折の固定または再建のための近代的な患肢救済手術は、何十年もの間、大きな骨欠損の治療に用いられてきた。特に、仮骨延長術(DO)とも呼ばれるイリザロフ法は、大きな骨欠損の治療における比較的成熟した患肢救済手術である。この手術は、骨切りした後、外固定器または内固定器を介して骨を延長する。治療の種類に応じて、イリザロフ法は、急性短縮術及び延長術(単焦点アプローチ)、一重レベル骨輸送(二重焦点アプローチ)、及び、二重レベル骨輸送(三重焦点アプローチ)の3つのカテゴリーに分類される。小さな骨欠損(通常<2cm)の治療では、骨延長の前に骨欠損を直接閉鎖する単焦点アプローチが推奨されている。しかしながら、骨欠損の大きさが3cmを超える場合、急性短縮は軟部組織に影響を及ぼし、血管系を損傷し、四肢虚血をもたらす恐れがある。二焦点アプローチは、欠損部位から離れた部位での骨切り術を用いる。その後、節間セグメントを皮質骨切除部位から離れる方向に移動させ、欠損部位で圧迫して最適な骨長を維持する。三焦点アプローチでは、欠損部位での圧迫に加えて、2回の延長骨切り術を行う。二焦点アプローチまたは三焦点アプローチは、四肢の不一致や軟部組織の収縮を伴わないより大きな骨欠損の治療において、いくつかの利点を示している。しかしながら、骨輸送術には、ピントラック感染、ドッキング部位での癒合不全、及び、不十分な骨硬化などの欠点が依然として存在する。これらの欠点のうちで、ドッキング部位での癒合不全は、骨輸送術を施したほぼすべての患者に認められた。ドッキング部位での不活発な骨接触及び軟部組織の侵入は、偽関節を形成する傾向がある。ドッキング部位での最終的な骨再建を達成するためには、二次的なデブリードマン処置及び骨移植手術が常に不可欠である。近年、外固定期間を短縮する方法としての、金属製の髄内釘(intramedullary nail:IM釘)を使用した骨輸送を取り上げた報告が増加している。しかしながら、金属製のIM釘が、早期骨硬化を達成したり、ドッキング部位の癒合不全を低下させたりすることを示唆する信頼できるエビデンスは存在しない。また、金属製のIM釘を使用した場合には、金属製のIM釘を除去するために追加の手術が必要となる。
【0005】
骨形成タンパク質(BMP)は、骨の修復や再建に重要な役割を果たす最も強力な骨誘導因子の1つである。DO動物モデルでは、BMP-2、BMP-4、及びBMP-7が、骨延長期に骨再建部位で高度に発現し、骨硬化期には徐々に減少することが示された。組換えヒト(rh)BMP-2またはBMP-7の局所注射は、多くのDOモデルにおいて骨形成を促進することが示されている。本発明者らは、生分解性の髄内釘(IM釘)を用いることにより、1回の手術でBMPの送達を維持し、二次的な手術、移植、または重篤な合併症を伴うことなく、骨治癒を促進し、骨輸送における偽関節を減少させることができるのではないかと考えた。本発明は、上記の問題点の少なくともいくつかを解決するものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態では、本開示によれば、骨欠損、骨変形、または骨癒合不全を再建する方法が提供される。また、本開示によれば、生体活性インプラントであって、スキャフォールドと、スキャフォールドに物理的及び化学的に架橋され、かつスキャフォールドに化学的に結合された、凍結乾燥したヒドロゲルネットワーク層と、凍結乾燥したヒドロゲルネットワーク層内に分散して担持された生物学的物質と、を含む、生体活性インプラントが提供される。一実施形態では、生体活性インプラントは、コーティングされている。
【0007】
生体活性インプラントは、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位への移植に適合する大きさを有し、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位移植される。生体活性インプラントが髄内生体活性インプラントとして使用される場合には、生体活性インプラントは、2つの骨セグメント間への髄内移植に適合する大きさを有する。生体活性インプラントが、足、足首、肩、腰、または関節の外傷及び障害を治療するために外科的に形成された骨トンネルに使用される場合には、生体活性インプラントは、治療が意図される解剖学的位置に外科的に形成された骨トンネル内への圧入に適合する大きさ、またはそれよりも若干大きい大きさを有する。
【0008】
別の実施形態では、スキャフォールドは、相互接続された多孔性スキャフォールドである。凍結乾燥ヒドロゲルネットワーク層は、相互接続された多孔性スキャフォールドに物理的及び化学的に架橋され、かつ化学的に結合されている。そして、生物学的物質は、相互接続された多孔性スキャフォールドの表面上及び細孔内に担持された凍結乾燥ヒドロゲル層内に分散して保持される。
【0009】
さらに別の実施形態では、本開示によれば、整形外科用の生体活性インプラントが提供される。本開示の生体活性インプラントは、スキャフォールドと、スキャフォールドに物理的及び化学的に架橋され、かつスキャフォールドに化学的に結合された、凍結乾燥したヒドロゲルネットワーク層と、凍結乾燥したヒドロゲルネットワーク層内に分散して担持された生物学的物質と、を含む。生体活性インプラントは、2つの骨セグメント間または骨折部位への移植に適合する大きさを有する。生体活性インプラントが髄内生体活性インプラントとして使用される場合には、生体活性インプラントは、2つの骨セグメント間への髄内移植に適合する大きさを有する。一実施形態では、生体活性インプラントは、コーティングされている。
【0010】
さらに別の実施形態では、スキャフォールドは、相互接続された多孔性スキャフォールドであり、凍結乾燥したヒドロゲルネットワーク層は、相互接続された多孔性スキャフォールドに物理的及び化学的に結合され、生物学的物質は、相互接続された多孔性スキャフォールドの表面上及び細孔内に分散して担持される。
【0011】
さらに別の実施形態では、本開示は、長骨欠損の改善された治療、骨変形の矯正、または骨癒合不全を治療のための、生体活性(髄内(IM))インプラントデバイスに基づく治療を提供する。生体活性インプラントデバイスは、コアスキャフォールドと、生体活性ヒドロゲルコーティングとを含む。コアスキャフォールドは、ポリマー、セラミック、金属、または複合材料から作製される。コアスキャフォールドは、多孔性または非多孔性であり、また、分解性または非分解性である。ヒドロゲルは、物理的に架橋されたゲルと、共有結合的に架橋されたゲルとの相互貫通ネットワークであり得る。ヒドロゲルの例としては、ゼラチンメタクリロイル-アルギン酸ベース(GelMA-アルギン酸)ゲルが挙げられる。架橋密度を高めるために、低分子量の架橋剤をヒドロゲルに添加することができる。生物学的物質としては、成長因子及び薬剤が挙げられる。成長因子としては、BMP-2、PDGF、IGF-1、FGF2が挙げられる。成長因子は、ヒドロゲルに担持され、調節可能なまたは徐放性の放出パターンを示す。本開示の生体活性インプラントデバイスは、仮骨延長術や、他の整形外科的な外傷及び障害に対する補助療法に使用することができる(
図1A~D)。
(1)IMインプラントによる骨輸送、
(2)IMインプラントによる骨延長、
(3)IMインプラント、または、骨癒合不または骨障害の治療のための骨トンネルへの移植に適合する大きさを有するインプラントによる骨治療、または、
(4)IMインプラントによる骨欠損治療。
【0012】
生体活性インプラントデバイスは、髄内空間でなくても、骨や骨欠損部間の通常の骨移植部位でも使用することができ、髄内用途に限定されないことに留意されたい。スキャフォールド(またはIM釘)は、中実ロッドまたは多孔性スキャフォールドであり得、とりわけ、金属製のロッドは耐荷重性を有する。
【0013】
本開示の生体活性インプラントデバイスは、患者が骨輸送術を受けるときに、骨延長における骨硬化を効果的に促進し、それにより、ドッキング部位の癒合不全を防止することができる。また、本開示の生体活性インプラントデバイスは、癒合不全の治療において、骨癒合を効果的に促進することもできる。
図1A~Dは、3つの異なる条件下での骨治癒のための、本開示の生体活性インプラントデバイスの概略設計を示す。
【0014】
別の実施形態では、本開示は、スキャフォールド及びコーティング材料を含むインプラントデバイスを提供する。コアスキャフォールド材料は、ポリマー、セラミック、金属、または複合材料、例えば、ポリカプロラクトン-リン酸三カルシウム(PCL-TCP)や、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体-TCP(PLGA/TCP)など、から作製される。重量比80:20(w/w)のPCL-TCPフィラメントは、100μm~mmの範囲の細孔径を有する3次元多孔性スキャフォールドに印刷することができる。コアスキャフォールド材料は、チタン合金、コバルトクロム合金、マグネシウム合金、亜鉛合金などの金属材料であり得る。コアスキャフォールドは、多孔性または非多孔性であり得る。ヒドロゲルコーティング層は、コアスキャフォールドの全体または一部を覆うことができる。
【0015】
移植に関しては、3つの用途に応じて4つの異なる方法がある(
図1A~D)。(1)(大きな)骨欠損の治療では、本開示のインプラントデバイスは、骨輸送術中に、骨欠損部の隙間から、または低侵襲的な方法で、遠位骨セグメントと近位骨セグメントとの間に挿入される。ヒドロゲルコーティング層は、再建部位からドッキング部位までの長さを覆うべきである。インプラントデバイスの両端部は、遠位固定ピン及び近位固定ピンによって固定される。注目すべきことには、中間の骨セグメントを輸送するためのピンは、IMデバイスと接触しないようにする必要がある。(2)骨延長では、本開示のインプラントデバイスは、低侵襲的な方法で、長骨に前方または後方から挿入される。ヒドロゲルコーティング層は、再建部位の長さを覆うべきである。インプラントデバイスは、遠位固定ピンまたは近位固定ピンによって固定される。(3)癒合不全の治療では、本開示のインプラントデバイスは、外科的デブリードマン処置中に低侵襲的な方法で、長骨に前方または後方から挿入される。ヒドロゲルコーティング層は、癒合不全の隙間の長さを覆うべきである。インプラントデバイスは、遠位固定ピンまたは近位固定ピンによって固定される。(4)骨欠損の治療では、本開示のインプラントデバイスは、骨欠損部の隙間から、遠位骨セグメント及び近位骨セグメントに挿入される。ヒドロゲルコーティング層は、骨欠損部の隙間の長さを覆うべきである。インプラントデバイスは、遠位固定ピン及び近位固定ピン、またはプレートやIM釘などの内固定具もしくは外固定具で固定される。
【0016】
生物学的に担持されたヒドロゲルコーティングの例を以下に示す。ヒドロゲルコーティングは、脱イオン水中に、メタクリル酸ゼラチン(GelMA;15%)、アルギン酸塩(1.25%)、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリル酸(PEGDMA;2%)、メタクリル酸ヘパリン(HepMA;1%)、骨形成タンパク質-2(BMP-2;200μg/mL)、及び光開始剤(0.3%)を含有する。GelMAマクロモノマーを合成するために、ゼラチンを50°Cの脱イオン水(10%w/v)に溶解させた。メタクリル酸ヘパリン(HepMA)を合成するために、1gのヘパリンを100mLのMES緩衝液(100mM)に溶解させた。続いて、45mgのEDC及び30mgのNHSを含有する5mLのMES緩衝液をヘパリン溶液に加えて、カルボン酸基を活性化させた。その溶液を室温で1時間反応させた後、1mLのMES中の25mgのAPMAを加え、室温で2時間反応させた。次に、HepMA溶液を、6~8kDaの分子量カットオフを有する透析チューブ(米国カリフォルニア州ランチョ・ドミンケス、スペクトラム・ラボラトリーズ社(Spectrum Laboratories))を使用して、脱イオン水に対して室温で3日間透析した。その後、凍結乾燥させ、-80°Cで保存した。
【0017】
生体活性インプラントデバイスの例を以下に示す。例えば、BMP-2含有ヒドロゲルを担持するポリカプロラクトン-β-リン酸三カルシウム(PCL-TCP)フィラメントを、
図2A~Pに示すようにして作製した。重量比80:20(w/w)、直径0.9mmのPCL-TCPフィラメントを上述のようにして合成し、手作業で切断して15mmのフィラメントを作製し、5NのNaOH溶液に6時間浸漬させた。続いて、フィラメントを脱イオン水で3回洗浄し、表面のカルボン酸基を活性化させるために、EDC(5mg/mL)及びNHS(5mg/mL)を含有するMES緩衝液(100mM)中で、室温で30分間インキュベートした。次に、フィラメントを脱イオン水で3回洗浄し、MES緩衝液中のメタクリル酸ゼラチン(GelMA)2%溶液中で、37°Cで1時間インキュベートした。次いで、フィラメントを脱イオン水で3回洗浄して未反応のGelMAを除去し、MES緩衝液中のEDC/NHS(5mg/mL)中で、室温で15分間インキュベートした。続いて、GelMAでコーティングしたフィラメントを、脱イオン水で3回洗浄し、真空下で乾燥させた。次に、GelMAでコーティングしたフィラメントを、60°Cの脱イオン水(100mg/mL)中のCaSO
4懸濁液に浸漬させ、30秒間超音波処理した。次いで、フィラメントを24ウェルプレートのウェルに移し、真空下で乾燥させた。乾燥したフィラメントを、脱イオン水中にGelMA(15%)、アルギン酸(1.25%)、PEGDMA(2%)、HepMA(1%)、タンパク質(BMP-2、200μg/mL)、及び光開始剤(0.3%)を含有する96ウェルプレートのウェルに、37°Cで2分間浸漬させた。ヒドロゲル担持フィラメントを溶液から取り出し、別の96ウェルプレートの乾燥したウェル中に5分間放置した。その後、ヒドロゲル担持フィラメントに可視光を15分間照射して、GelMA、PEGDMA、及びHepMAを共有結合的に架橋させた。架橋したヒドロゲル担持フィラメントを、凍結乾燥させ、-80°Cで保存した。
【0018】
ラット骨輸送モデルを用いた、骨再建を促進するための生体活性インプラントデバイスのインビトロでの検証の一例を、
図3A~H、
図4A~C、
図5A~C、
図6A~F、及び、
図7に示す。
図3A~Hは、カスタマイズされた金属製の仮骨延長術用の固定器による骨輸送のエクスビボ及びインビトロでの実証を示す。
図4A~Cは、術後34日目(POD34)または術後55日目(POD55)に採取した大腿骨試料の肉眼的観察及び癒合率を示す。
図5A~Cは、マイクロCT分析で測定した、POD34またはPOD55における、患部大腿骨の3D再構成画像及び定量的骨量データを示す。
図6は、POD34またはPOD55における、3点曲げ試験によって測定した患部大腿骨の機械的特性を、その対側の部分で正規化して示す。
図7は、POD34またはPOD55における、患部大腿骨の代表的な組織学的結果を示す。
【0019】
機械的特性は、6μgのBMP2を担持した髄内釘(IMN+B6)群では、POD34において、ブランク対照(BLK)群と比較した場合は、正規化した最大担持率で26.6%(P<0.001)、正規化したヤング率で11.6%(P<0.001)、正規化したエネルギー吸収率で31%(P<0.001)であり、髄内釘(IMN)群と比較した場合は、正規化した最大担持率で26.1%(P<0.001)、正規化したヤング率で11.3%(P<0.001)、正規化したエネルギー吸収率で30.5%(P<0.001)であった(
図6A~F)。しかしながら、POD34において、2μgのBMP2を担持した髄内釘(IMN+B2)群と比較した場合、(IMN+B6)群の機械的特性に有意差は見られなかった(
図6A~F)。
【0020】
組織学的データは、ドッキング部位及び再建部位を含む患部大腿骨の縦断像を示す(
図7)。結果から、BLK群及びIMN群では、POD34及びPOD55において、ドッキング部位に軟部組織の介在が認められた(
図7)。しかしながら、(IMN+B2)及び(IMN+B6)群では、POD34及びPOD55において、ドッキング部位に骨癒合が認められ、軟部組織の介在は認められなかった(
図7)。すべての群において、POD34及びPOD55において、再建部位に新生骨が認められたた(
図7)。BLK及びIMN群の試料のいくつかで、POD34及びPOD35において、ピントラック感染が認められた(
図7)。(IMN+B2)群では、POD55において、ドッキング部位だけでなく、再建部位でも皮質骨及び骨梁が明瞭に認められ、骨再形成の促進が示された(
図7)。また、(IMN+B2)群及び(IMN+B6)群では、移植部位に、非常に多量の新生骨が認められた(
図7)。
【0021】
本開示の実施形態は、骨の治療のために成長因子を送達するための髄内インプラントデバイスとして適用することができる。例を以下に示す。
・骨輸送術の補助として、長骨欠損の治療のために成長因子を送達するための金属、ポリマー、または複合材料製のインプラント、
・骨延長術の補助として、骨変形の矯正のために成長因子を送達するための金属、ポリマー、または複合材料製のインプラント、
・癒合不全の治療または予防のために成長因子を送達するための金属、ポリマー、または複合材料製のインプラント、または、
・骨輸送または骨延長のための抗生物質を担持した金属、ポリマー、または複合材料製のインプラント。
【0022】
本開示の実施形態は、整形外科の分野において依然として大きな課題である高エネルギー外傷、デブリードマン処置、または腫瘍切除に起因する分節性骨欠損の分野において有益である。機械的支持と骨再建との複合機能により、自家骨移植または同種骨移植が、分節性骨欠損を再建するための伝統的な方法と見なされてきた。しかしながら、これらの処置は、通常、患者の可動性を低下させ、複数回の手術を必要とし、限られた程度の骨欠損の再建にしか効果がない。骨折の固定または再建のための近代的な患肢救済手術は、何十年もの間、大きな骨欠損の治療に用いられてきた。特に、仮骨延長術(DO)とも呼ばれるイリザロフ法は、大きな骨欠損の治療における比較的成熟した患肢救済手術である。この手術は、骨切りした後、外固定器または内固定器を介して骨を延長する。治療の種類に応じて、イリザロフ法は、急性短縮術及び延長術(単焦点アプローチ)、一重レベル骨輸送(二重焦点アプローチ)、及び、二重レベル骨輸送(三重焦点アプローチ)の3つのカテゴリーに分類される。小さなサイズの骨欠損(通常<2cm)の治療では、骨延長の前に骨欠損を直接閉鎖する単焦点アプローチが推奨されている。
【0023】
しかしながら、骨欠損の大きさが3cmを超える場合、急性短縮は軟部組織に影響を及ぼし、血管系を損傷し、四肢虚血をもたらす恐れがある。二焦点アプローチは、欠損部位から離れた部位での骨切り術を用いる。その後、中節間セグメントを皮質骨切除部位から離れる方向に移動させ、欠損部位で圧迫して最適な骨長を維持する。三焦点アプローチでは、欠損部の圧迫に加えて、2回の延長骨切り術を行う。二焦点アプローチまたは三焦点アプローチは、四肢の不一致や軟部組織の収縮を伴わないより大きな骨欠損の治療において、いくつかの利点を示している。しかしながら、骨輸送術には、ピントラック感染、ドッキング部位の癒合不全、及び、不十分な骨硬化などの欠点が依然として存在する。これらの欠点のうちで、ドッキング部位の癒合不全は、骨輸送術を施したほぼすべての患者に認められた。ドッキング部位の不活発な骨接触及び軟部組織の侵入は、偽関節を形成する傾向がある。ドッキング部位での最終的な骨再建を達成するためには、二次的なデブリードマン処置及び骨移植手術が常に不可欠である。近年、外固定期間を短縮する方法としての、金属製の髄内釘(IM釘)を使用した骨輸送を取り上げた報告が増加している。
【0024】
しかしながら、金属製のIM釘が、早期骨硬化を達成したり、ドッキング部位の癒合不全を低下させたりすることを示唆する信頼できるエビデンスは存在しない。また、金属製のIM釘を使用した場合には、金属製のIM釘を除去するために追加の手術が必要となる。
【0025】
本開示による生体活性インプラントデバイスは、ドッキング部位の癒合不全や骨硬化の遅延などの重大な臨床的課題に対処するために、利用可能な調節経路、製造プロセス、流通、及び臨床的適用性を考慮して開発された。第1に、本開示の生体活性インプラントデバイスは、FDAの認可を受けた材料及び成長因子をベースとしており、迅速な510(K)調節経路に適用可能である。第2に、本開示の生体活性インプラントデバイスは、現在の外科的治療と互換性があり、エンドユーザである整形外科医が容易に適応できる。第3に、本開示の生体活性インプラントデバイスは、長骨欠損、骨変形、または骨癒合不全の治療のための骨切りや骨折固定に必要とされる1回の手術で移植することができる。髄内デバイスは、骨セグメントの近位端部や遠位端部に挿入してもよいし、または、骨トンネルを介して低侵襲的な方法で挿入してもよい。本開示の生体活性インプラントデバイスは、固定ピンによって、原位置に固定することができる。第4に、骨癒合不全部位の組織を除去し、骨輸送DOに同種移植片を移植するための二次的手術が不要である。骨癒合不全のための手術中に、同種移植は必要としない。生分解性生体材料から作製した場合、本開示の生体活性インプラントデバイスは、生分解性である。金属材料から作製した場合、本開示の生体活性インプラントデバイスは、機械的支持を提供することができる。第5に、本開示の生体活性インプラントデバイスの保管及び輸送条件は良好であり、製造業者、流通業者、及びエンドユーザである外科医にとって便利である。
【0026】
本開示の生体活性インプラントデバイスのスキャフォールドは、ポリマー、金属、または複合材料から作製することができる。本開示の生体活性インプラントデバイスは、様々な表面処理を施した後、用途に応じて、様々な用量の様々な成長因子を担持したヒドロゲルでコーティングすることができる。
【0027】
一実施形態では、治療薬の放出を遅らせるために、生体活性インプラント(例えば、HyTEC構築物)を、吸収性ポリエステル(例えば、PCL、PLA、PLGA)、または他の吸収性ポリマー(例えば、ポリウレタン)でコーティングすることができる。HyTECは、ハイブリッド組織工学的構築物(hybrid tissue engineered construct)の略称であり、生体活性インプラントである。HyTEC構築物のコーティングに用いられる方法の概略図を
図8に示す。例えば、タンパク質担持HyTECを、-80°Cで一晩凍結させ、次いで、-20°Cで10分間凍結させた後、アセトンまたはクロロホルム(2%~20%)中のPCL溶液に浸漬させて、HyTECの表面にPCL層を堆積させ、修飾されたHyTEC(mHyTEC)を作製する。その後、PCLでコーティングされたHyTECを、0~4°Cで風乾させる。PCL溶液の濃度や、堆積させるPCL層の数を変えることにより、mHyTEC構築物の物理的性質とタンパク質の放出速度を調節することができる。1層のPCLコーティング(mHyTEC(1L))または3層のPCLコーティング(mHyTEC(3L))を施したmHyTECの代表的な画像を
図9に示す。コーティングなしのBSA担持HyTECでは、14日後に、カプセル化されたBSAの92%が該HyTECから放出されたが、PCL/アセトン(10%wt/v)溶液を使用して1層または3層の保護PCLコーティングを形成すると、BSA放出率は、70日後の92%または91日後の80%に減少した(
図10)。また、PBS中で28日後にBMP2担持HyTEC構築物から放出された骨形態形成タンパク質2(BMP2)タンパク質の量は、1層または3層のPCLコーティングを堆積させた場合には、84%から、62%または24%に減少した(
図11)。
【0028】
別の特徴付けでは、本発明は、以下のように説明することができる。仮骨延長術は、大きな分節性骨欠損の治療に対する最も成功した外科的アプローチの1つである。しかしながら、顕著な合併症として、特に骨輸送術を伴う場合には、骨硬化の長期化、及び、ドッキング部位の癒合不全が挙げられる。後者の場合、骨架橋を達成するために、骨移植の二次的手術が常に必要となる。そのため、本発明者らは、上記の骨輸送術の臨床的課題に対処するための補助療法として、生分解性インプラントから骨形成タンパク質-2(BMP-2)を溶出させることによって、骨誘導性の生分解性髄内(IM)釘を作製した。概念実証のために、本発明者らはIM釘を作製し、ラット長骨輸送モデルで試験した。まず、ポリカプロラクトン-リン酸三カルシウム(PCL-TCP)フィラメントを、BMP-2(2μgまたは6μg)を担持したゼラチンメタクリロイル-アルギン酸(GelMA-アルギン酸)ヒドロゲルでコーティングして、IM釘を作製した。IM釘におけるBMP-2の放出特性を、凍結乾燥及び滅菌後に測定した。次に、IM釘の有効性を、ラット大腿骨骨輸送モデルで評価した。治癒過程を、毎週、X線で観察した。術後34日目または術後55日目に、試料を採取し、ピントラック感染及びセグメント架橋を肉眼的に観察し、ドッキング部位での新骨形成の機械的特性、微細構造、及び形態などを評価した。その結果、BMP-2は、21日間にわたって、IM釘から持続的に放出されることが分かった。大腿骨輸送モデルでは、ドッキング部位及び再建部位の両方で、ピントラック感染と不十分な骨硬化が首位よく認められた。BMP-2を含有するIM釘群の骨量及び3点曲げ機械的強度は、POD34及びPOD55において、外科的対照群と比較して有意に大きかった。また、BMP-2を含有するIM釘は、ピントラック感染が減少し、ドッキング部位の骨癒合が促進された。組織学的データでも、BMP-2を含有するIM釘群はミネラル付着率が高く、BMP-2を含有するIM釘の優れた効果が確認された。骨癒合効果については、2つのBMP-2含有量の間に、有意差は認められなかった。全体として、生分解性BMP-2を含有するIM釘インプラントは、二次的手術が不要であり、仮骨延長術(DO)において、骨硬化を有意に促進し、ピン感染を減少させ、ドッキング部位の癒合率を改善し、荷重能力を高め、かつ、外固定器の早期除去をもたらすことが、実験により実証された。この補助療法技術は、将来、大きい骨欠損の治療及び患肢救済手術における骨輸送術を活性化させ、革命を起こすことが大いに期待される。
【0029】
本開示によれば、骨欠損、骨変形、または骨癒合不全を再建する方法が提供される。本開示の方法は、生体活性整形外科用インプラントを用意するステップを有する。生体活性整形外科用インプラントは、(i)表面特性を改質するために処理された表面を有するロッドと、(ii)ロッドの表面に荷電ポリマー及び塩イオンを介して物理的に架橋された、凍結乾燥した親水性ヒドロゲルネットワークと、(iii)親水性ヒドロゲルネットワークに捕捉され、それによって、該ヒドロゲルネットワークに担持された生物学的物質と、(iv)親水性ヒドロゲルネットワーク自体、及び、ロッドの表面に対する親水性ヒドロゲルネットワークの物理的な架橋を強化するために、親水性ヒドロゲルネットワークに化学的に架橋された共有結合反応性マクロモノマーと、を含む。また、本開示の方法は、生体活性整形外科用インプラントを、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位に移植するステップを有する。生体活性整形外科用インプラントは、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位への移植に適合する大きさを有する。あるいは、生体活性整形外科用インプラントは、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位への髄内移植に適合する大きさを有する。ロッドは、相互接続された多孔性ロッドであり得、その場合、相互接続された多孔性ロッドは、多孔性スキャフォールド/ロッドにおける中央または内部チャネルの実施形態を含む。生体活性整形外科インプラントのコーティングは、ロッドの全体または部分的に施すことができる。したがって、ロッドの異なるセグメントに対して、異なるコーティングを施すこともできる。これらはすべて、所望される再建のタイプに依存することは、当業者であれば容易に理解できるであろう。加えて、生体活性整形外科用インプラントは、1以上の(追加の)コーティング層をさらに含むことができる。さらなる実施形態では、ロッドは、相互接続された多孔性ロッドであり、生物学的物質は、相互接続された多孔性ロッドの細孔に担持される。
【0030】
また、本開示によれば、生物活性整形外科用インプラントが提供される。本開示の生物活性整形外科用インプラントは、(i)表面特性を改質するために処理された表面を有するロッドと、(ii)ロッドの表面に荷電ポリマー及び塩イオンを介して物理的に架橋された、凍結乾燥した親水性ヒドロゲルネットワークと、(iii)親水性ヒドロゲルネットワークに捕捉され、それによって、該ヒドロゲルネットワークに担持された生物学的物質と、(iv)親水性ヒドロゲルネットワーク自体、及び、ロッドの表面に対する親水性ヒドロゲルネットワークの物理的な架橋を強化するために、親水性ヒドロゲルネットワークに化学的に架橋された共有結合反応性マクロモノマーと、を含む。生体活性整形外科インプラント(ロッド)の表面は、共有結合性分子でコーティングされており、共有結合性分子は、ロッドの表面に化学的及び物理的に架橋された親水性ヒドロゲルネットワークのロッドに対する接着性を高めるために、共有結合反応性マクロモノマーに化学的に架橋されている。ロッドは、相互接続された多孔性ロッドであり、生物学的物質は、相互接続された多孔性ロッドの細孔に担持される。生物活性整形外科用インプラントは、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位への移植に適合する大きさを有する。あるいは、生体活性整形外科用インプラントは、2つの骨セグメント間、骨トンネル内、または骨折部位への髄内移植に適合する大きさを有する。生体活性整形外科インプラントのコーティングは、ロッドの全体または部分的に施すことができる。したがって、ロッドの異なるセグメントに対して、異なるコーティングを施すこともできる。これらはすべて、所望される再建のタイプに依存することは、当業者であれば容易に理解できるであろう。加えて、生体活性整形外科用インプラントは、1以上の(追加の)コーティング層をさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
必要に応じて、図面中のグレースケールのさらなる解釈のために、読者は各図に関する優先権書類を参照されたい。
【0032】
【
図1A】
図1A~Dは、本発明の例示的な実施形態による、3つの条件下での骨治癒のための生体活性インプラントデバイスの概略図を示す。「青色」は、ヒドロゲルコーティングを表す。インプラントデバイスにおける「白い点」は、多孔性構造を表す。
図1Aは、インプラント上の骨輸送を示す。インプラントの両端部は、2本の固定ピンで固定される。
【
図1B】
図1Bは、インプラントを介した骨延長を示す。インプラントは、骨トンネルを通して挿入することができる。インプラントの一端部は、1本の固定ピンで固定される。
【
図1C】
図1Cは、インプラントで治療した癒合不全を示す。インプラントの両端部は、2本の固定ピンで固定される。
【
図1D】
図1Dは、インプラントで治療した骨欠損を示す。インプラントの両端部は、固定ピンで固定される。
【
図2A】
図2A~Pは、本発明の例示的な実施形態による髄内(IM)釘インプラントの作製及び特性評価を示す。
図2Aは、骨誘導性の生分解性IM釘インプラントを作製するための概略手順を示す。
【
図2B】
図2Bは、押出成形後のPCL-TCPフィラメントの表面のSEM画像を示す。
【
図2C】
図2Cは、押出成形後のPCL-TCPフィラメントの表面のSEM画像を示す。
【
図2D】
図2Dは、NaOH処理及び凍結/解凍後のPCL-TCPフィラメントの表面のSEM画像を示す。
【
図2E】
図2Eは、NaOH処理及び凍結/解凍後のPCL-TCPフィラメントの表面のSEM画像を示す。
【
図2F】
図2Fは、GelMAコーティング及びCaSO
4懸濁液中での超音波処理後のPCL-TCPフィラメントの表面のSEM画像を示す。
【
図2G】
図2Gは、GelMAコーティング及びCaSO
4懸濁液中での超音波処理後のPCL-TCPフィラメントの表面のSEM画像を示す。
【
図2H】
図2Hは、ヒドロゲルコーティング後のPCL-TCPフィラメントの表面のSEM画像を示す。
【
図2I】
図2Iは、ヒドロゲルコーティング後のPCL-TCPフィラメントの表面のSEM画像を示す。
【
図2J】
図2Jは、PCL-TCPフィラメントの引張弾性率に対する、凍結/解凍または超音波処理を伴わない化学処理(chem;Bl)、凍結/解凍を伴うが超音波処理は伴わない化学処理(chem+FT;G)、または、凍結/解凍及び超音波処理を伴う化学処理(chem+FT+sonic;R)の影響を示す。対照群は、何も処理しない(未処理、B)のPCL-TCPフィラメントであった。
【
図2K】
図2Kは、ヒドロゲルコーティングなしのPCL-TCPフィラメント(ロッド;Br)、ヒドロゲルコーティングを有するがBMP-2を含有しないフィラメント(ロッド+ゲル;Bl)、2μgのBMP-2を含有するヒドロゲルコーティングを有するフィラメント(ロッド+ゲル/2μgBMP-2;G)、及び、6μgのBMP-2を含有するヒドロゲルコーティングを有するフィラメント(ロッド+ゲル/6μgBMP-2;R)の重量(
図2K)を示す。
【
図2L】
図2Lは、ヒドロゲルコーティングなしのPCL-TCPフィラメント(ロッド;Br)、ヒドロゲルコーティングを有するがBMP-2を含有しないフィラメント(ロッド+ゲル;Bl)、2μgのBMP-2を含有するヒドロゲルコーティングを有するフィラメント(ロッド+ゲル/2μgBMP-2;G)、及び、6μgのBMP-2を含有するヒドロゲルコーティングを有するフィラメント(ロッド+ゲル/6μgBMP-2;R)の重量パーセンテージの変化を示す。
【
図2M】
図2Mは、湿潤させたBMP-2含有ヒドロゲルを担持したインプラントの肉眼図を示す。
【
図2N】
図2Nは、凍結乾燥させたBMP-2含有ヒドロゲルを担持したインプラントの肉眼図を示す。
【
図2O】
図2Oは、2μg(G)または6μg(R)のBMP-2を含有する凍結乾燥ヒドロゲルを担持したインプラントから28日間に放出されたBMP-2の量を示す。
【
図2P】
図2Pは、2μgのBMP-2を含有する保存した(Bl)または未処理(G)の凍結乾燥ヒドロゲルを担持したインプラントから28日間に放出されたBMP-2の量を示す。
図2K及び
図2Lのデータについては、1群当たり8つの試料であった。
図2J、
図2O及び
図2Pのデータについては、1群当たり3つの試料があった。
図2J、
図2O、
図2Pに示すデータは、平均±SDに対応する。
図2K及び
図2Lに示すデータは、平均及び95%信頼区間に対応する。
【
図3A】
図3A~Hは、本発明の例示的な実施形態による、カスタマイズされた金属製の創外固定器による骨輸送のエクスビボ及びインビボでの実証を示す。
図3Aは、片側創外固定器フレームの概略設計を示す(縦断面または側面図)。
【
図3B】
図3Bは、作製後の創外固定器フレーム及びピンの最終製品を示す。
【
図3C】
図3Cは、骨切り術、皮質切除術、及びIM釘移植後のラット大腿骨に固定し外固定器フレーム及びピンの平面図を示す。
【
図3D】
図3Dは、大腿骨の近位部から遠位部へIM釘を介して骨スライスを輸送する様子を示す。
【
図3E】
図3Eは、大腿骨の近位部から遠位部へIM釘を介して骨スライスを輸送する様子を示す。
【
図3F】
図3Fは、大腿骨の近位部から遠位部へIM釘を介して骨スライスを輸送する様子を示す。
【
図3G】
図3Gは、骨切り術及び皮質切開術後の手術の拡大図を示す。
【
図4A】
図4A~Cは、本発明の例示的な実施形態による、POD34またはPOD55に採取した大腿骨試料の肉眼的観察及び癒合率を示す。動物群には、ブランク対照群(BLK)、IM釘単独群(IMN)、2μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B2)、及び、6μgmのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B6)が含まれる。
図4Aは、大腿骨試料の肉眼図である。白色の矢印は、ドッキング部位を指す。2本の白色の破線は、再建部位を示す。
【
図4B】
図4Bは、肉眼的観察及びマイクロCT分析により求めた骨癒合率を示す。
【
図4C】
図4Cは、屠殺前に、POD34またはPOD55で評価したピントラック染率を示す(n=8)。ピントラック感染は、Checketts-Otterburn分類にしたがって分類した。屠殺前の数匹では、1匹に1~2本のピンの緩みを含む軽微なピントラック感染のみが認められた。
【
図5A】
図5A~Cは、本発明の例示的な実施形態による、マイクロCT分析によって測定した、POD34またはPOD55における患部大腿骨の3D再構成画像及び定量的骨量データを示す。動物群には、ブランク対照群(BLK)、IM釘単独群(IMN)、2μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B2)、及び、6μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B6)が含まれる。
図5Aは、患部大腿骨の代表的な3D画像(縦半分カット)を示す。ドッキング部位または再建部位の2つの関心領域(ROI)は、緑色の破線の長方形または黄色の破線の長方形で強調表示した。
【
図5B】
図5Bは、POD34におけるドッキング部位または再建部位の骨量(骨体積/組織体積、BV/TV)の定量的データを示す。
【
図5C】
図5Cは、POD55におけるドッキング部位または再建部位の骨量(BV/TV)の定量的データを示す。データは、BV/TV及びSDの正規化平均値で示す(各時点につき、n=8)。aP<0.05、aaP<0.01、aaaP<0.001、対BLK群;bP<0.05、bbP<0.01、bbbP<0.001、対IMN群。
【
図6A】
図6A~6Fは、本発明の例示的な実施形態による、POD34またはPOD55において、患部大腿骨の3点曲げ試験によって測定した機械的特性を、対側の部分で正規化して示す。動物群には、ブランク対照群(BLK)、IM釘単独群(IMN)、2μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B2)、及び、6μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B6)が含まれる。正規化した最大荷重率、ヤング率、エネルギー吸収率などの機械的パラメータを示す。
図6Aは、POD34における機械的特性の結果を示す。
【
図6B】
図6Bは、POD34における機械的特性の結果を示す。
【
図6C】
図6Cは、POD34における機械的特性の結果を示す。
【
図6D】
図6Dは、POD55における機械的特性の結果を示す。
【
図6E】
図6Eは、POD55における機械的特性の結果を示す。
【
図6F】
図6Fは、POD55における機械的特性の結果を示す。データは、平均値及び標準偏差で示す(各時点につき、n=8)。aP<0.05、aaP<0.01、aaaP<0.001、対BLK群;bP<0.05、bbP<0.01、bbbP<0.001、対IMN群。
【
図7】
図7は、本発明の例示的実施形態による、POD34またはPOD55における患部大腿骨の代表的な組織学的結果を示す。動物群には、ブランク対照群(BLK)、IM釘のみの群(IMN)、2μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B2)、及び、6μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B6)が含まれる。赤色の破線の長方形は、ドッキング部位を示す。黄色の破線の長方形は、再建部位を示す。この図の組織学には、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色及びマッソントリクローム染色が含まれる。
【
図8】
図8は、本発明の例示的な実施形態による、生物活性インプラント(HyTEC構築物)をコーティングするために用いられる方法の概略図を示す。
【
図9】
図9は、本発明の例示的な実施形態による、PCL/アセトン(10%wt/v)溶液を用いて作製した、1層のPCLコーティング(mHyTEC(1L))または3層のPCLコーティング(mHyTEC(3L))を有するmHyTECの画像を示す。
【
図10】
図10は、本発明の例示的な実施形態による、PCL保護コーティングなしの場合(対照)、PCL/クロロホルム(10%wt/v)溶液を使用して作製された1層のPCLコーティングを有する場合(PCL/クロロホルム:1L)、PCL/アセトン(10%wt/v)溶液を使用して作製された1層のPCLコーティングを有する場合(PCL/アセトン:1L)、PCL/クロロホルム(10%wt/v)溶液を使用して作製された3層のPCLコーティングを有する場合(PCL/クロロホルム:3L)、及び、PCL/アセトン(10%wt/v)溶液を使用して作製された3層のPCLコーティングを有する場合(PCL/アセトン:3L)における、HyTEC構築物からのBSAの放出動態を示す。
【
図11】
図11は、本発明の例示的な実施形態による、PCL保護コーティングなしの場合、PCL/アセトン(10%wt/v)溶液を使用して作製された1層のPCLコーティングを有する場合(mHyTEC(1L))、及び、PCL/アセトン(10%wt/v)溶液を使用して作製された3層のPCLコーティングを有する場合(mHyTEC(3L))における、HyTEC構築物(HyTEC)からのrhBMP2の放出動態を示す。
【
図12】
図12は、本発明の例示的な実施形態による、POD5からPOD34までの患部大腿骨のインビボ動的X線画像を示す。動物群には、ブランク対照群(BLK)、IM釘単独群(IMN)、2μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B2)、及び、6μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B6)が含まれる。白色の矢印は、POD5における骨輸送前の骨欠損部位を示す。赤色の矢印は、POD13~34(3週間後の強化後)における骨輸送後の骨欠損部位を示す。
【
図13A】
図13A~13Bは、本発明の例示的な実施形態による、POD34における患部大腿骨の組織形態計測の結果を示す。動物群には、ブランク対照群(BLK)、IM釘単独群(IMIN)、2μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B2)、及び、6μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B6)が含まれる。白色の矢印は、緑色蛍光色素と赤色蛍光色素との間の距離を示し、屠殺前の10日間のミネラル付着を表している。
【
図13B】データは、平均値及び標準偏差で示した(n=3)。ap<0.05、aap<0.01、aap<0.001、対BLK群;bp<0.05、bbp<0.01、bbp<0.001、対IMN群。
【
図14】
図14は、本発明の例示的な実施形態による、PODの患部大腿骨のドッキング部位の骨膜における、オステオカルシン(OCN)、骨形成タンパク質受容体II(BMPRII)、または、α-平滑筋アクチン(α-SMA)の発現を示す。動物群には、IM釘のみの群(IN)、2μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B2)、及び、6μgのBMP-2を含有するIM釘群(IN+B6)が含まれる。白色の矢印は、免疫蛍光で染色した骨形成マーカーOCN、BMPRII、または骨膜幹細胞マーカーα-SMAの陽性発現を示す。
【
図15A】
図15A~15Fは、本発明の例示的な実施形態による、必要に応じて、ロッドまたはインプラントの構造全体または選択された部分領域または構造に形成されたコーティング処理を示す。
図15A~Dは、コーティング1510を有するロッドまたはインプラント1520の概略図である。
図15E~Fは、部分的または全体的にコーティングされたロッド状インプラントまたは3D印刷された多孔性インプラントの概略図である。
図15Aは、インプラント1520の一方の端部にコーティング1510を形成した場合を示す。
【
図15B】
図15Bは、インプラント1520の中央以外の部分にコーティング1510を形成した場合を示す。
【
図15C】
図15Cは、インプラント1520の中央部分のみにコーティング1510を形成した場合を示す。
【
図15D】
図15Dは、インプラント1520の表面全体にコーティング1510を形成した場合を示す。
【
図15E】
図15Eは、ロッド状インプラントの一方の端部にコーティング1510を形成した場合を示す。
【
図15F】
図15Fは、3D印刷したインプラント1530の多孔性構造の全体にコーティング1510を形成した場合を示す。
【
図16】
図16は、本発明の例示的な実施形態により、ヒツジの中足骨の骨輸送モデルにおける、Infuse骨移植片及びHyTECインプラントで治療した欠損部における骨再建の経時的なX線画像を示す。PODは術後日を示す。例えば、POD37は、術後37日目を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
【0034】
以下の詳細な説明は、組織工学的構築物を作製/製造する方法、及び組織工学的構築物の構造的特徴の例示的な実施形態である。一般に、以下の用語の定義は、本発明の範囲内で指針として用いることができる。
・スキャフォールドとは、ポリマー、セラミック、金属、または複合材料から作製される多孔性または非多孔性の3次元構築物として定義される。
・表面の処理としては、塩基(例えば、NaOH)処理、酸処理、プラズマ処理、凍結/融解などの方法が挙げられる。
・表面特性を改質するために処理された表面とは、化学的または物理的な処理(例えば、塩基、酸、血漿、凍結/融解などの処理)によって、表面粗さを増大させた表面として定義される。
・表面への化学的架橋を促進にする共有結合性分子とは、表面に結合するための官能基、及び、他の分子に結合することができる別の官能基を有する分子である。例としては、アミノプロピルメタクリルアミド(APMA)、メタクリル酸ゼラチン(GelMA)、及びN-ヒドロキシコハク酸イミドエステルジアジンなどが挙げられる。
・塩とは、正に荷電したイオン、及び負に荷電したイオンなどを含む化学物質として定義される。例としては、塩化カルシウム、及び硫酸カルシウムなどが挙げられる。表面開始型の物理的架橋を促進(誘起)するために、インプラント(移植片)の表面に、塩化カルシウム(CaCl2)または硫酸カルシウム(CaSO4)を堆積させる。二価カチオンの他の塩(例えば、Ca2+、Mg2+、Sr2+)、または多価カチオンの他の塩(例えば、Ti4+、Al3+)を、表面開始型の物理的架橋に使用してもよい。
・ヒドロゲル前駆体溶液とは、架橋性ポリマー及び開始剤を含有する溶液として定義される。
・荷電ポリマーとは、アルギン酸やポリグルタミン酸などの、負または正の電荷を有するポリマーとして定義される。
・共有結合反応性マクロモノマーとは、化学反応性基を有するポリマー分子として定義される。
・開始剤とは、化学反応を開始させる化学物質として定義される。例としては、光開始剤(例えば、フェニル-2、4、6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム)、及び化学開始剤(例えば、過硫酸アンモニウム)などが挙げられる。
・生物学的物質とは、インビトロで相互作用することができる任意の分子または生物と定義される。例としては、タンパク質、ペプチド、細胞、DNA、RNA、薬物、抗生物質などが挙げられる。
・1層以上のコーティングとは、10~1000μmの範囲の厚さを有する単一の層のコーティング、または、それぞれ10~1000μmの範囲の厚さを有する複数の層のコーティングとして定義される。
・組織工学とは、骨、軟骨、腱、靭帯、筋肉、心臓、心臓弁などの硬組織または軟組織のエンジニアリングまたは再建(再生)と定義される。
【0035】
以下の例示的な説明は、二次的手術、移植、または重篤な合併症なしに、1回の手術で、BMPを持続的に放出することができる生分解性IM釘を導入することによって、骨治癒を促進し、骨輸送における癒合不全を低減できるかどうかという問題に取る組んだものである。トランスレーショナル・リサーチ及び本発明の目的は、臨床的に利用可能な外科的アプローチである仮骨延長術と、新規な生体工学的ソリューションである骨誘導性の生分解性IMインプラントデバイスとを組み合わせた単一の治療により、大きな骨欠損の治療における、骨硬化の長期化や不十分さ、及び、骨癒合不全の高い割合などの臨床的課題を解決することである。この目的のために、本発明者らは、第1に、カスタマイズした外固定器を開発することによって、臨床的に意義のあるラット骨輸送モデルを確立した。第2に、本発明者らは、米国食品医薬品局(FDA)から認証された材料及び成長因子から作製された新規のBMP-2溶出性の生分解性IMインプラントデバイスを開発し、エクスビボでの徐放効率を調べた。第3に、本発明者らは、確立したラット骨輸送モデルにおいて、骨硬化と、ドッキング部位の癒合とに対する、新規のBMP-2溶出性IM釘の効果を調べた。
【0036】
結果
【0037】
髄内釘インプラントの合成及び特性評価
【0038】
骨誘導性の生分解性髄内釘インプラントの作製手順を
図2Aに概略的に示す。ポリカプロラクトン-β-リン酸三カルシウム(PCL-TCP、重量比80:20)のフィラメント(長さ18.0mm、各直径1.1mm)を押出成形した後、
図2Aに示すように、3つの連続したステップによって、BMP-2含有ヒドロゲルをフィラメント表面に担持させた。各ステップに対応するPCL-TCPフィラメントの表面の走査電子顕微鏡(SEM)画像を
図2B~Iに示す。結果が示すように、NaOH処理及び凍結/解凍後のフィラメント表面(
図2D~E)は、押出成形の直後のフィラメント表面(
図2B~C)と比較して、粗さ及び微細孔性が高かった。GelMAコーティング、及びCaSO
4懸濁液中での超音波処理後に、CaSO
4微小粒子を、フィラメントの表面上に堆積させた(
図2F~G)。アルギン酸塩の表面開始型の物理的架橋と、それに続く、GelMA及びPEGDMAの共有結合架橋とにより、平均孔径8μmの多孔性BMP-2含有ヒドロゲル層を、PCL-TCPフィラメントの表面に形成した(
図2H~I)。PCL-TCPフィラメントの引張弾性率に対する、凍結/解凍または超音波処理を伴わない化学処理(chem)(NaOH処理及びGelMAコーティング)、凍結/解凍を伴うが超音波処理は伴わない化学処理(chem+FT)、及び、凍結/解凍及び超音波処理を伴う化学処理(chem+FT+sonic)の影響を
図2Jに示す。いずれの処理フィラメント群(chem、chem+FT、chem+FT+sonic)と未処理フィラメント群(未処理)との間にも、引張弾性率において、有意差は認められなかった。ヒドロゲルの担持及びBMP-2の含有が、インプラントの重量に与える影響を、
図2Kに示す。フィラメントの平均重量は、ヒドロゲル担持により、15.9mgから32.3mgに増加した。フィラメント上のヒドロゲルの平均担持率は112.5%であり、ヒドロゲルのBMP-2の含有量が2μgの場合でも6μgの場合でも、有意な変化は認められなかった(
図2L)。湿潤または凍結乾燥させた、BMP-2含有ヒドロゲルを担持したインプラントの代表的な画像を、
図2M~Nにそれぞれ示す。ヒドロゲル層は、凍結乾燥後も無傷であった(
図2N)。凍結乾燥後のヒドロゲル層でコーティングすると、フィラメントの直径は、平均0.9mmから1.2mmに増加した。凍結乾燥ヒドロゲル担持インプラントからの、2μgまたは6μgのBMP-2の、28日間にわたる放出動態を、
図2Oに示す。BMP-2は、21日間にわたって持続的にインプラントから放出された。2μgまたは6μgのBMP-2を担持したインプラントから21日間にわたって放出されたBMP-2の総量は、1.6μg(80%)または4.3μg(71.7%)であり、21日目以降は有意な変化は認められなかった。各時点において、6μgのBMP-2を担持したインプラントから放出されたタンパク質の量は、2μgのBMP-2を担持したインプラントから放出されたタンパク質の量と比べて有意に高かった。凍結乾燥させたBMP-2担持インプラントの保存性を評価するために、4°Cで2ヵ月保存した後の凍結乾燥インプラントからのBMP-2の放出動態を測定し、未処理の凍結乾燥インプラントからのBMP-2の放出動態と比較した(
図2P)。28日間のどの時点においても、未処理のインプラントから放出されたBMP-2の総量と、保存したインプラントから放出されたBMP-2の総量との間に、統計的な有意差は認められなかった。
【0039】
骨輸送における髄内釘(IM釘)のエクスビボ移植またはインビトロ移植
【0040】
創外固定器の動作性能を、成体SDラットの大腿試料を用いて、エクスビボで調べた。まず、基本的な創外固定器をベースにして、2つの固定端部と、その間に設けられた1つの可動部とを有する骨延長フレームを設計した(
図3A)。金属製の創外固定器は、片側フレームと、5つの固定ピンとから構成される(
図3B)。続いて、この固定器を使用して、大腿骨試料の近位端及び遠位端を固定し、両端間でIM釘を介して、骨スライスを順方向または逆方向のいずれかに輸送した(
図3C~F)。カスタマイズしたドリルガイドによって、大腿骨の外側部位に5本のピンを刺入した。大腿骨骨幹部で8mmの骨切りを行った。骨輸送のために、4mmの皮質切開も行った。次に、4mmの骨スライスを、第1皮質層に刺入した固定ピンで固定した。IM釘を髄管に挿入し、IM釘の両端を2つの近接した固定ピンで固定し、4mmの骨スライスの髄管に貫通させた。なお、中間のピンは、髄管内のIM釘と接触することなく挿入されることに留意されたい。手術中、BMP-2コーティングの有無にかかわらず、IM釘を動物に移植した(
図3G~H)。手術後、動物に、DO処置を施した。DO処置の治療期間は、5日間の待機期間、8日間の延長期間、及び、21日間(3週間)または42日間(6週間)の硬化期間の3つの段階からなる。
【0041】
POD55(6週間の硬化期間後)に記録した歩行能力から、本発明者らは、BMP-2を含有しないIM釘を移植した動物は歩行能力が不良であり、その1週間前(POD48)に固定具を取り外した後に麻痺性歩行さえ示したことを見出した。驚くべきことに、BMP-2(2μg)でコーティングしたIM釘を移植し、POD48に固定器を除去すると、動物は速く滑らかに動いた。POD34またはPOD55に、固定器に連結した大腿骨試料を慎重に採取し、さらなる評価のために保存した(
図4A)。
【0042】
採取後の試料を肉眼的に観察した。
図4A~Bに示すように、大腿骨試料の大部分で、ブランク対照(BLK)及びIM釘のみ(IMN)群ではドッキング部位で癒合不全を示し、BLK群ではPOD34の12.5%からPODS5の25%に癒合率が増加し、IMN群ではPOD34の0%からPOD55の37.5%に癒合率が増加した。また、BLK及びIMN群のいくつかの試料で、ドッキング部位に偽関節が認められた(
図4A)。驚くべきことに、すべての大腿骨試料において、2μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMIN+B2、POD34またはPOD55)、及び、6μgのBMP-2を含有するIM釘群(IMN+B6、POD34)では、ドッキング部位で100%の癒合を示した(
図4A~B)。また、すべての試料における骨輸送後の再建部位は、100%の癒合を達成したことが分かった。試料の癒合率は、マイクロコンピューター断層撮影(CT)分析によって二重に確認した。
【0043】
3週間または6週間の硬化期間後、動物はピン部位で軽微な感染を示したが、重大な感染は見られなかった(
図4C)。しかしながら、本発明者らは、BMP-2コーティングなしの(BMP-2を含有しない)IM釘を移植した場合、多くの動物に軽微なピントラック感染が見られた。ピントラック感染は、屠殺前の固定器の解体工程中に測定した。一部の動物でピンの緩みが認められたが、試験期間中は外固定を継続することができた。その結果、BLK群ではPOD34で25%またはPOD55で50%、IMN群ではPOD34で37.5%またはPOD55で50%のピントラック感染率が認められた(
図4C)。興味深いことに、BMP-2を含有するIM釘を移植した場合、BMP-2の含有量や屠殺時点にかかわらず、感染は生じなかった(
図4C)。
【0044】
骨治癒の2D及び3Dでの放射線学的評価
【0045】
動的X線イメージングを行い、骨の治癒過程を観察した。
図12に示すように、5日間の待機期間の後(POD5)、8mmの骨欠損が、各動物で認められた。8日間の延長期間の後(POD13)、8mmの骨欠損が、各動物の他の部位で認められた。一週間の硬化期間の後(POD20)、(IMIN+B2)群及び(IMN+B6)群の欠損部位で、仮骨が認められた(
図12)。BMP-2を含有する2つの群における仮骨のミネラル密度は、硬化期間(POD20~POD12)を通じて徐々に増加した(
図12)。一方、ブランク対照群またはIM釘のみの群では、POD34まで、ごく限られた程度の仮骨形成しか認められなかった(
図12)。
【0046】
マイクロCT分析を行い、患部大腿骨の3D画像を再構成し、POD34またはPOD55における2つの関心領域(ROI)、すなわち骨欠損部位及びドッキング部位における定量的骨量を測定した。結果が示すように、BLK群及びIMN群では、POD34とPOD55において、ドッキング部位に癒合不全が認められた(
図5A~C)。対照的に、(IMN+B2)群(正規化BV/TVにおいて+30.1%、POD34でP<0.001;正規化BV/TVにおいて+53.4%、POD55でP<0.05)、及び、(IMIN+B6)群(正規化BV/TVにおいて+35.2%、POD34でP<0.001)では、IMN群と比較して、ドッキング部位での明らかな骨融合及び骨量の顕著な増加が認められた(
図5B~C)。BLK群と比較すると、POD34またはPOD55において、(IMN+B2)群では、正規化BV/TVにおいて36.8%(P<0.001)または30.5%(P<0.001)の顕著な増加が認められ、(IMN+B6)群では、正規化BV/TVにおいて41.9%(P<0.001)または57.0%(P<0.001)の有意な増加が認められた(
図5B~C)。また、すべての群で、再建部位に新生骨が認められた(
図5A)。(IMN+B2)群(正規化BV/TVにおいて+16.1%、POD34でP<0.05;正規化BV/TVにおいて+26.1%、POD55でP<0.05)、及び、(IMN+B6)群(正規化BV/TVにおいて+13.2%、POD34でP<0.05)では、IMN群(
図5B~C)と比較して、再建部位で骨量の有意な増加が認められた。再建部位では、POD34において、BLK群とBMP-2含有群との間に有意な差は認められなかった(
図5B)。また、2つのBMP-2含有IM釘群間の2つのROIでは、骨量に有意な差は認められなかった(
図5B)。
【0047】
患部大腿骨の機械的特性
【0048】
大腿骨試料の機械的特性を測定するために3点曲げ機械的試験を行った(
図6A)。患部大腿骨の最大荷重率、ヤング率、エネルギー吸収率などのパラメータは、対側の無傷の対照骨のパラメータによって正規化した。BLK群及びIMN群では癒合不全の比率が高いため、すべての機械的試験を完了するために利用可能な大腿骨試料の数は非常に限られていた。癒合不全の試料については、試験の失敗として機械的パラメータは0に設定した。結果が示すように、POD55でのIMN群におけるエネルギー吸収率の増加を除いて、BLK群とIM釘群との間では、他の機械的パラメータに有意差は認められなかった(
図6A~F)。また、(IMN+B2)群では、BLK群と比較して、機械的特性が顕著に向上し、正規化した最大荷重率、ヤング率、及びエネルギー吸収率は、POD34ではそれぞれ、22.7%(P<0.01)、7.6%(P<0.05)、18.6%(P<0.05)増加し(
図6A~C)、POD55ではそれぞれ、34.1%(P<0.001)、30.4%(P<0.01)、18.9%(P<0.001)増加した(
図6D~F)。加えて、(IMIN+B2)群でも、IM群と比較して、機械的特性が有意に向上し、正規化した最大荷重率、ヤング率、及びエネルギー吸収率は、POD34ではそれぞれ、22.2%(P<0.01)、7.3%(P<0.05)、20.1%(P<0.05)増加し(
図6A~C)、POD55ではそれぞれ、29.4%(P<0.001)、31.0%(P<0.01)、7.5%(P>0.05)増加した(
図6D~F)。
【0049】
また、(IMN+B6)群でも、機械的特性が有意に向上し、正規化した最大荷重率、ヤング率、及びエネルギー吸収率は、POD34において、BLK群と比較して、それぞれ、26.6%(P<0.001)、11.6%(P<0.001)、31%(P<0.001)増加し、また、IMN群と比較して、26.1%(P<0.001)、11.3%(P<0.001)、30.5%(P<0.001)増加した(
図6A~C)。しかしながら、POD43では、(IMN+B6)と(IMN+B2)群と比較した場合、機械的特性に有意な差は認められなかった(
図6A~C)。
【0050】
組織学的分析
【0051】
組織学的データは、ドッキング部位及び再建部位を含む患部大腿骨の縦断像を示す(
図7)。結果から、POD34及びPOD55において、BLK群及びIMN群のドッキング部位に軟部組織が介在している証拠が示された(
図7)。しかしながら、POD34及びPOD55において、(IMN+B2)群及び(IMN+B6)群では、ドッキング部位で骨癒合が達成され、軟部組織の介在は認められなかった(
図7)。POD34及びPOD55において、すべての群の再建部位で、新生骨が認められた(
図7)。POD34及びPOD55において、BLK群及びIMN群のいくつかの試料に、ピントラック感染が認められた(
図7)。POD55において、(IMIN+B2)群では、ドッキング部位だけでなく、再建部位でも、皮質骨及び骨梁骨が明確に識別され、動物における骨再形成が促進されたことが分かった(
図7)。また、(IMN+B2)及び(IMN+B6)群では、移植部位に、非常に多くの量の新生骨が認められた(
図7)。
【0052】
POD34での患部大腿骨のドッキング部位及び再建部位における動的な骨石灰化速度を測定するために、組織学的形態計測を行った。インビトロ蛍光標識の画像及び定量データから、石灰化速度(MAR)は、(IMIN+B2)及び(IMN+B6)では、BLK群と比較して、再建部位ではそれぞれ、128.1%(P<0.001)、126.0%(P<0.001)、ドッキング部位ではそれぞれ、21.0%(P>0.05)、27.0%(P<0.05)の有意な増加が認められた(
図13A~B)。同様に、石灰化速度(MAR)は、(IMN+B2)及び(MN+B6)では、IMN群と比較して、ドッキング部位ではそれぞれ、142.6%(P<0.003)、140.4%(P<0.001)、再建部位ではそれぞれ、33.0%(P<0.05)、39.6%(P<0.01)の有意な増加が認められた(
図13A~B)。
【0053】
基本的メカニズムを理解するために、免疫蛍光染色及び免疫組織化学染色を行った。
図14から、(IMN+B2)群及び(IMN+B)群において、骨形成マーカー(オステオカルシン;OCN)、BMP-2受容体II(BMPRI;BI)、及び骨膜幹細胞マーカー(α-SMA)の高発現レベルが認められた。これらのデータは、ドッキング部位での骨形成が活発であり、骨膜幹細胞がドッキング部位の治癒過程に関与することを示している。BMPRIIの高発現レベルは、BMP-2の骨形成前駆細胞への結合を促進する。
【0054】
考察
【0055】
長骨輸送DOモデル
【0056】
本発明者らは、一般的に再建部位では正常な骨再建を示すが、ドッキング部位での癒合不全やピントラック感染の罹患率が高い、骨輸送手術を受けたヒト患者の臨床環境と転帰を模倣した、ラットを用いた新規の長骨輸送DOモデルの確立に成功した。過去の研究では、ヒツジやウサギなどの比較的大型の動物を用いた長骨輸送モデルが報告されている。イヌやウサギの骨輸送モデルも、下顎組織再建の分野で見られる。本発明者らの知る限りでは、ラット骨輸送モデルの報告はこれが初めてである。げっ歯類モデルは、より大型の動物モデルにおけるその後の実験及び臨床研究の前に、入手のしやすさや費用対効果などの利点から、整形外科研究におけるインビトロ試験の第1選択肢として従来用いられている。しかしながら、げっ歯類は体の大きさが小さいため、限られたスペースでの手術及び長期にわたる延長を可能にする特殊なハードウェアや専門的な外科的専門知識を必要とする従来の骨輸送実験ではほとんど使用されていなかった。本発明者らは、本発明の研究の実験を容易にするために、ラットの長骨の手術用の独自の新規な創外固定器及びドリルガイドを特注で設計及び製造した。
【0057】
BMP-2送達のための担体としてのIM釘
【0058】
ワッサースタイン1世(Wasserstein I)は、IMインプラント、及び、IMインプラントと創外固定器との併用を考案したパイオニアの1人と目されている。彼は、1963年から、この方法を用いて手術を行っている。しかしながら、仮骨延長術の直後に、二次的な長管骨同種移植が必要であった。ペーリー(Paley)は、1997年に、創外固定器の装着期間を短縮するために、創外固定器とIM釘とをその場で組み合わせるという概念を初めて発表した。IM釘は通常、ステンレス鋼製またはチタン合金製である。このような金属製のIM釘の利点は、患者の満足度が高いことであり、これは、1つには、社会心理学的な懸念が少ないことが原因である。欠点は、IM釘に追加費用がかかること、及び、骨硬化後にIM釘の除去が必要なことである。
【0059】
早くも1992年には、ポリグリコール酸とポリ乳酸との共重合体から作製された生分解性IM釘が髄内固定用に開発された。関節外骨折の固定にキルシュナーワイヤーを用いた対照群と、生分解性IM釘群と間で、骨治癒に有意差は認められなかった。その後、開放創が細菌や他の感染性微生物にさらされるため、骨折の固定や他の骨再建術のために、様々な種類の抗生物質溶出性IM釘が開発された。最近の臨床研究によると、抗生物質を含有するポリメチルメタクリレートセメントをコアとする金属製IM釘は、脛骨開放骨折の治療において、標準的な釘と比較して、感染が少なく、骨硬化が速く、合併症が少ないことが示された。しかしながら、本発明者らは、骨輸送に生分解性IM釘を使用した患者モデル及び動物モデルのいずれにおいても、そのような報告は見つけていない。本発明では、PCL-TCPフィラメントにBMP-2含有ヒドロゲル層を担持させるための新規な技術を用いて、骨誘導性の生分解性IM釘インプラントを作製した。PCL-TCP複合材料は、生体適合性、機械的安定性、生体吸収性、及び骨伝導性を有する。しかしながら、PCL-TCP構築物は、骨形成を誘起して骨治癒を促進する骨誘導因子を欠いている。
【0060】
表面コーティングが、組織工学用途のスキャフォールドの表面にタンパク質を固定するために用いられてきた。しかしながら、表面コーティングによってスキャフォールドの表面に担持できるタンパク質の量は、一般的に少なく、また、タンパク質の放出速度も速い。例えば、交互積層法(LBL:layer-by-layer)によってキトサン及びヒアルロン酸ナトリウムをコーティングしたヒドロキシアパタイト系スキャフォールドの表面でのウシ血清アルブミンの担持量は、コーティングしていないスキャフォールドよりも低く、また、放出速度も速かった。高含水量及び多孔性微細構造を有するヒドロゲルは、タンパク質の十分な担持及び持続的放出のためのプラットフォームを提供する。しかしながら、硬質の構築物の表面に軟質のヒドロゲルを担持させることは、界面での機械的特性の不整合に起因して困難である。さらに、従来の技術を用いてタンパク質含有ヒドロゲルを担持したスキャフォールドは、ヒドロゲルからの水分蒸発及びタンパク質変性を避けるために、ヒドロゲルの担持直後に使用する必要があった。本開示のIM釘インプラントでは、BMP-2含有ヒドロゲル層は、PCL-ICPフィラメント自体よりも重く、硬いフィラメント表面と完全に一体化する。重量比80:20のPCL-TCPフィラメントは、IM釘のコアとして硬いフィラメント形状を維持し、エクスビボ及びインビトロの両方の試験で、固定ピンと連結したときにも安定性を維持した。押出成形によりPCL-TCPフィラメントを作製した後、親水性を増加させ、ヒドロゲル接着性を向上させ、表面開始型架橋を促進するために、フィラメントを連続的に処理した。NaOH処理及び凍結/融解はそれぞれ、カルボキシル基及び水酸基へのエステル結合の切断及び表面上への微細孔形成により、ポリエステルの表面に親水性を付与する。GelMAで表面をコーティングすると、ヒドロゲルと共有結合するための二重結合が表面に形成された。PCLの融点(S)に近い温度(60°C)で、CaSO4懸濁液中で超音波処理することにより、CaSO微小粒子をGelMA修飾フィラメントの軟質表面上に堆積させ、担持させた。その結果、いずれの処理ステップも、フィラメントの引張剛性に対して悪影響を与えなかった。CaSO4で処理したスキャフォールドをヒドロゲル前駆体溶液に浸漬させると、カルシウムイオンがスキャフォールドの表面から溶液中に拡散して、表面の近傍でアルギン酸を架橋し、これにより、スキャフォールドの表面にヒドロゲル層が形成された。物理的に架橋されたヒドロゲル中のGelMA及びPEGDMAマクロモノマーを、次のステップで共有結合的に架橋させて、堅固な相互貫通ネットワークを形成した。また、BMP-2に対するヘパリンの親和性は高いため、BMP-2の放出を延長するためにヒドロゲルにHeMAを組み込んだ。アルギン酸塩ベースのヒドロゲルにHeMAを添加すると、BMP-2の放出期間が延長され、マウスの皮下骨形成が改善されることが示された。PCL-TCPフィラメントに担持されたヒドロゲルは、フィラメント自体よりも重かった。したがって、本開示の方法は、インビボでの骨再建を促進するのに十分な量のBMP-2を担持するのに用いることができる。さらに、ヒドロゲルネットワークは、凍結乾燥後も、PCL-TCPフィラメントと一体化したままであった。2μgまたは6μgのBMP-2を担持した凍結乾燥BMP-2担持インプラントからの放出データによると、21日後には、最初に担持したBMP-2の80.0%または71.7%が放出された。BMP-2担持インプラントを2ヵ月間保存しても、BMP-2の活性及び放出動態に影響はなかった。したがって、本開示の方法は、保存可能な骨誘導性の生分解性髄内釘インプラントの作製に用いることができる。
【0061】
臨床的観点からは、本発明者らは、PCL、TCP、アルギン酸塩、生物活性因子th-BMP-2、食品加工用ゼラチンなどの、米国食品医薬品局(FDA)によって臨床応用が認可された材料を用いて、生分解性IM釘を作製することに成功しており、これらの組み合わせは、将来の臨床応用において、多くの障害を伴わない有望な医療デバイスを形成する可能性がある。これらの材料の中で、PCL-TCP複合材料は、高い生体適合性、長期分解性、適切な機械的特性、及び骨伝導性を有することから、骨組織工学において広く注目されている。本発明では、重量比80:20のPCL-TCP複合体は、IM釘のコアとして硬いフィラメント形状を維持し、エクスビボ及びインビトロの両方の試験で、固定ピンと連結したときにも安定性を維持した。GelMA/アルギン酸塩複合ヒドロゲルは、調節節能な機械的特性、及び優れた生体適合性を有するため、薬物や細胞の送達にも頻繁に適用されている。結果が示すように、PCL-TCPコアとの優れた一体化により、凍結乾燥後に形成されたGelMA/アルギン酸塩シェルは、ヘパリンの補助により28日間にわたってrhBMP-2を徐放する能力を有しており、BMP-2を分解から保護し、徐放特性を維持するのに役立つ。さらに、生分解性IM釘は、動物において優れた生体適合性を示し、ピントラック感染及びドッキング部位での癒合不全において、ブランク対照群とほぼ同じ比率を示し、このIM釘移植の安全なアプローチを示した。骨膜幹細胞がDO補助骨欠損治癒において主要な役割を果たすことが、より多くの研究によって明らかになっている。IM釘は移植後に髄管を占有することによって、骨髄を危険にさらす可能性があるが、本研究では骨膜が骨セグメント上に無傷のまま残っている場合、骨治癒は維持される。臨床研究からのエビデンスにより、金属製のIM釘は、骨輸送処置中に、骨治癒を遅らせることなく機械的支持を発揮することがすでに示されている。
【0062】
BMP-2及びBMP-7は、長骨の開放骨折、癒合不全、及び脊椎固定での臨床使用が認可されている。しかしながら、満足のいく臨床結果を達成し、かつ潜在的な副作用を避けるためには、BMPを適切に投与する必要がある。BMPの送達システムの主な役割は、骨損傷部位に成長因子を長時間保持するとともに、最適な生分解性及び組織内部成長のための機械的支持を提供することである。450人の患者を対象とした前向き無作為化対照単盲検臨床試験により、BMP-2インプラント(BMP-2は吸収性コラーゲン担体に担持される)は、脛骨開放骨折患者における二次介入の減少、骨折及び創傷治癒の促進、感染率の低下において、標準治療(髄内釘固定及び日常的な軟部組織管理)よりも優れていることが明らかになった。BMP-2(ウサギ1匹当たり25~750μg)またはBMP-7(ラット1匹当たり20μg)を注射またはスポンジ担体によって局所的に適用して、ウサギまたはラットの骨延長モデルにおける骨硬化を促進した。デンシトメトリー法の結果から用量依存的な効果が示された。
【0063】
本発明はさらに、非常に低い用量(ラット当たり2μg)のBMP-2を組み込んでも、IM釘は骨治癒を促進し、早ければPOD48(5週間の骨硬化期間後)の時点で固定具を早期に除去するのに有効であることを実証した。これは、生分解性IM釘を介した髄内送達によるBMP-2の特異的送達の最初の報告であり、現在の診療に適合し、DO処置の中断を最小限に抑えるとともに、局所的な骨治癒を促進する効果を固定化することができる。
【0064】
ドッキング部位及び再建部位における骨硬化
【0065】
ドッキング部位の癒合不全は、治癒過程の実質的な延長、骨移植の二次手術、及び固定器除去の遅延をもたらす、骨輸送における頻繁な問題として認識されている。ドッキング部位の癒合不全は、骨接触が不活発であること、及び、軟部組織がかなり介在していることが原因であると考えられている。骨輸送が完了すると、輸送された骨セグメントが標的セグメントに接触する前に空洞が存在するため、血腫は徐々に線維軟骨組織に置換される。輸送されたセグメントの先端部、及び標的セグメントのドッキング端部も、線維軟骨組織によってシールされる。肉眼的観察及び画像診断の結果、IM釘インプラントの使用の有無にかかわらず、骨輸送動物モデルは、ドッキング部位での癒合率が非常に低く(0~37.5%)、偽関節を形成することさえあり、このことは、従来の臨床転帰と一致した。これらの結果は、IM釘自体が、ドッキング部位の骨硬化に影響を与えないことも示している。癒合不全試料では、ドッキング部位での軟部組織の介在、あるいは、偽関節さえも観察された。
【0066】
上述のように、ドッキング部位の骨硬化は、治療プロセス全体における律速段階となる。ドッキング部位の骨硬化を改善する戦略としては、急性短縮、骨移植、圧迫、交互圧迫-延長、または、脱灰骨マトリックスと組み合わせた骨髄移植などの外科的処置に焦点が当てられてきた。本開示により得られた素晴らしい結果によると、2μgまたは6μgのBMP-2を組み込んだIM釘を使用して治療したすべての動物において、POD34という早い段階でドッキング部位の癒合が達成され、二次的な手術や移植を行うことなく、両方の時点で機械的特性が改善された。免疫蛍光法及び免疫組織化学の結果から、骨形成マーカー(OCN)、骨膜幹細胞マーカー(α-SMA)、及び、BMPRIIが、ドッキング部位の骨膜で高度に発現したことが明らかになった。本発明者らは、IM釘から放出されたBMP-2が、セグメントの先端部及びドッキング端部における活発な骨形成を維持し、両端部が接する位置において骨融合を促進することによって、ドッキング部位に対して好影響を与えると考えた。このような持続的BMP-2溶出性の活性化骨形成は、ドッキング部位への軟部組織の侵入を防止したり、遊走する線維芽細胞を骨組織に変換したりするのにも役立つと考えられる。本発明者らは、IM釘インプラントから放出されたBMP-2が、その受容体であるBMPRIlに結合することによって、ドッキング部位の両端に存在する骨膜幹細胞の遊走及び骨形成が有意に促進されるという仮説を立てた。しかしながら、ドッキング部位で持続的に放出されたBMP-2がどのようなメカニズムで作用するのかについては、さらなる研究が必要である。
【0067】
BMP-2含有群では、ドッキング部位での十分な骨硬化に加えて、再建部位での早期の骨硬化も達成された。このことは、POD55でのマイクロCT及び機械的試験で分析した、より高いBV/TV比によって示されている。機械的特性が完全には回復していないことが機械的試験のデータで示されたにもかかわらず、BMP-2含有群の動物の歩行能力は、固定具を1週間早く外した後(POD48)には正常に戻っており、このことは、再建部位が日常動作の重さに耐えられるように十分に成熟(硬化)していることを示している。骨硬化の促進は、IM釘に沿ったBMP-2曝露量の増加に対する延長量の比率によって制御される一定の放出動態で、IM釘から拡張した血管に富む軟質再建にBMP-2が持続的に放出されることに起因する。骨硬化期間は、局所的及び全身的な健康状態によって大きく異なる。しかしながら、臨床では、1mmの仮骨延長術に対する1週間の骨硬化期間後に、従来の割合が報告された。げっ歯類モデルの結果は、種差を考慮しても、BMP-2を含有するIM釘によって、1週間あたり1.6mmという高い骨硬化率を達成できることを示した。BMP-2含有群では、再建部位におけるマイクロCTで測定したBV/TV及び組織形態計測で測定したMARの変化は、BLK群またはIMN群と比較して、初期時点(POD34)では有意ではなかったが、骨硬化期間後(POD55)では有意であったことも非常に心強い。これらの結果は、本開示のBMP-2含有IM釘インプラントが、臨床的に重要なヒトの大きな骨欠損の治療において、さらなる延長を妨げる早期の骨硬化を生じなかったことを示唆しており、重要である。
【0068】
臨床的適応及び将来性
【0069】
提示された結果及び実施形態は、本開示による新規の生分解性BMP-2含有IM釘インプラントが、DO処置において、再建部位とドッキング部位との両方で安全かつ効率的に骨硬化を促進し、二次的な手術を行うことなく早期の外固定装置の除去を容易にすることを示している。このような有望な結果が得られ、ほとんどの材料がすでにFDAによって医療用途の認可を受けていることから、本発明者らは、本開示による新規の生分解性BMP-2含有IM釘が、骨輸送技術と組み合わせて臨床応用される大きな可能性を有すると信じる。
【0070】
IM釘インプラントは、PCL-TCP多孔性スキャフォールドと、GelMA-アルギン酸-BMP-2含有ヒドロゲルコーティングとのハイブリッド型3D印刷技術の組み合わせによって、十分な機械的支持を提供し、BMP-2の担持量を増加させ、かつ、移植後の血管新生を容易にする、大型動物または臨床試験におけるインビボ研究用に設計することもできる。本発明者らは、骨輸送術や患肢延長術を受ける患者が、この単一手術アプローチによって大きな利益を得ることを期待している。このアプローチでは、外固定具がより早い時期に取り外され、二次手術が回避され、ピントラック感染が大幅に減少する。
【0071】
材料及び方法
【0072】
試験デザイン
【0073】
骨輸送DOにおいて8mmの大腿骨セグメント欠損の再建を誘導する骨誘導性IM釘(IMN)移植片として、生分解性インプラントを作製した。本開示の生分解性インプラントは、PCL/TCP(4/1)フィラメントを、BMP-2(2μgまたは6μg)を添加した脱イオン水中で、GelMA(15%)、アルギン酸塩(1.25%)、PEGDMA(2%)、HepMA(1%)、及び光開始剤(0.3%)を含有する凍結乾燥ヒドロゲルでコーティングした複合体から構成される。本開示の生分解性インプラントの表面形態、引張強度、及びインビトロでのタンパク質放出動態を特性評価した。本開示の生分解性インプラントを、ラット輸送DOモデルの髄管に移植した。本研究のDOプロトコルは、5日間の待機期間、8日間の延長期間、及び、21日間(PO34D)または42日間(POD55)の硬化期間から構成される。X線イメージング、マイクロCT分析、機械的試験、組織学試験、及び組織形態計測を実施し、仮骨延長術(DO)に伴う骨欠損治癒に対するIM釘デバイスの効果を評価した。
【0074】
化学物質
【0075】
医療グレードのポリカプロラクトン(PCL、Mn=80kDa)を、シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)から購入した。平均粒径100nmのβ-TCPナノ粉末(TCP)を、バークレー・アドバンスト・マテリアル社(Berkeley Advanced Materials Inc.)から入手した。ジメチルホルムアミド(DMF)、水酸化ナトリウム(NaOH)、及びエタノールを、フィッシャー・サイエンティフィック社(Fisher Scientific Inc.)から購入した。N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N´-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA)、A型ゼラチン、ヘパリン、及び硫酸カルシウム二水和物(CaSO4)を、シグマ・アルドリッチ社から購入した。ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA、Mn=1000グラム/モル)を、ポリサイエンス社(Polyscience, Inc.)から入手した。アルギン酸ナトリウム(アルギン酸、500GM)を、ファルツ・アンド・バウワー社(Pfaltz & Bauer Inc.)から購入した。ヒトBMP-2タンパク質は、メドトロニック社(Medtronic)から提供された。ヒトBMP-2ELISAキットを、シグマ・アルドリッチ社から購入した。
【0076】
PCL-TCPフィラメントの合成
【0077】
直径が0.9mmで、PCLとTCPとの重量比が80:20のPCL-TCPフィラメントを合成した。簡単に説明すると、80gのPCL及び20gのTCPをそれぞれ800mL及び400mLのDMFに別々に溶解させ、80°Cで3時間撹拌した。続いて、PCL溶液とTCP溶液とを混合し、1時間撹拌した。次に、その混合物を4リットルの水中で沈殿させて、PCL-TCP複合体シートを作製した。PCL-TCP複合体シートを水で洗浄し、残留溶媒を周囲温度で24時間、ヒュームフード内で蒸発させた。乾燥させたPCL-TCP複合材料をペレット状に切断し、自社製のスクリュー押出機を用いて押出成形した。
【0078】
メタクリル酸ゼラチン及びメタクリル酸ヘパリンの合成
【0079】
GelMAマクロモノマーを合成するために、ゼラチンを50°Cの脱イオン水(10%w/v)に溶解させた。ゼラチン溶液に、メタクリル酸無水物を100:1(メタクリル酸無水物:ゼラチン)のモル比で加え、撹拌しながら50°Cで1時間反応させた。次に、混合物を脱イオン水で5倍に希釈し、6~8kDaの分子量カットオフを有する透析チューブ(米国カリフォルニア州ランチョ・ドミンケス、スペクトラム・ラボラトリーズ社)を使用して、脱イオン水に対して40°Cで3日間透析した。その後、GelMA溶液を凍結乾燥させ、-80°Cで保存した。
【0080】
メタクリル酸ヘパリン(HepMA)を合成するために、1gのヘパリンを100mLのMES緩衝液(100mM)に溶解させた。続いて、45mgのEDC及び30mgのNHSを含有する5mLのMES緩衝液をヘパリン溶液に加えて、カルボン酸基を活性化させた。室温で1時間反応させた後、1mLのMES中の25mgのAPMAを溶液に加え、室温で2時間反応させた。次に、HepMA溶液を、6~8kDaの分子量カットオフを有する透析チューブ(米国カリフォルニア州ランチョ・ドミンケス、スペクトラム・ラボラトリーズ社)を使用して、脱イオン水に対して周囲温度で3日間透析し、その後、凍結乾燥させ、-80°Cで保存した。
【0081】
BMP-2含有ヒドロゲルによるPCL-TCPフィラメントのコーティング
【0082】
PCL-TCPフィラメントをBMP-2-含有ヒドロゲルでコーティングする手順を
図2Aに概略的に示す。直径0.9mmのPCL-TCPフィラメントを合成し、手作業で18mmのフィラメントに切断し、5NのNaOH溶液に6時間浸漬させた。続いて、フィラメントを脱イオン水で3回洗浄した後、フィラメント表面のカルボン酸基を活性化させるために、EDC(5mg/mL)及びNHS(5mg/mL)を含有するMES緩衝液(100mM)中で、室温で30分間インキュベートした。次に、フィラメントを脱イオン水で3回洗浄した後、MES緩衝液中のGelMA2%溶液中で、37°Cで1時間インキュベートした。次いで、フィラメントを脱イオン水で3回洗浄して未反応のGelMAを除去した後、MES緩衝液中のEDC/NHS(5mg/mL)中で、室温で15分間インキュベートした。その後、GelMAでコーティングしたフィラメントを脱イオン水で3回洗浄した後、真空下で乾燥させた。続いて、GelMAでコーティングしたフィラメントを60°Cの脱イオン水(100mg/mL)中のCaSO
4懸濁液に浸漬させ、30秒間超音波処理した。次に、フィラメントを24ウェルプレートのウェルに移し、真空下で乾燥させた。乾燥させたフィラメントを、37°Cの脱イオン水中のGelMA(15%)、アルギン酸(1.25%)、PEGDMA(2%)、HepMA(1%)、タンパク質(BMP-2:200μg/mL)、及び光開始剤(0.3%)を含有する96ウェルプレートのウェルに2分間浸漬させた。ヒドロゲル担持フィラメントを溶液から除去し、別の96ウェルプレートの乾燥させたウェル内に5分間放置した。次いで、ヒドロゲル担持フィラメントに対して可視光を15分間照射して、GelMA、PEGDMA、及びHepMAを共有結合的に架橋させた。その後、ヒドロゲル担持フィラメントを-80°Cで保存し、凍結乾燥させた。
【0083】
引張弾性率、ヒドロゲル担持、及び表面形態の特性評価
【0084】
PCL-TCPフィラメントの引張弾性率(引張係数)を、2kNのロードセル、及び、1Nの予荷重を有するインストロン5944単軸試験システム(米国マサチューセッツ州ノーウッド、インストロン社(Instron Corporation))を使用して試験した。引張弾性率の測定は、1%ひずみ/秒の変位速度で、25%ひずみまで実施した。応力対ひずみ曲線の線形領域の勾配を、引張弾性率とした。引張弾性率の測定には、1群あたり5つの試料を使用した。
【0085】
ヒドロゲル担持率(%)は、ヒドロゲル担持前のスキャフォールド重量(Wb)と、ヒドロゲル担持後のスキャフォールド重量(Wa)とから、下記の式を用いて計算した。ヒドロゲル担持率の測定には、1群あたり8つの試料を使用した。
ヒドロゲル担持率(%)=100×(Wa-Wb)/Wb
【0086】
表面形態を可視化するために、フィラメントを液体窒素に浸漬させ、凍結乾燥させた。続いて、SPIスパッタ(米国ペンシルベニア州ウェストチェスター、ストラクチャープローブ社のSPIサプライヤー部門(SPI Supplier Division of Structure Prob, Inc.))を使用して、ヒドロゲル試料を金で180秒間コーティングし、電界放出型走査電子顕微鏡(米国ニューヨーク州ホワイトプレインズ、ツァイス・シグマ社(Zeiss Sigma))を使用して加速電圧5keVで画像化した。
【0087】
タンパク質の放出
【0088】
放出動態を測定するために、2μgまたは6μgのBMP-2を含有するヒドロゲルでコーティングしたフィラメントを凍結乾燥させ、1mLのPBS中で、37°Cで28日間インキュベートした。各時点で、放出培地中のBMP-2の量を、ELISAを用いて測定し、放出培地を新鮮なPBSと交換した。タンパク質の活性及び放出動態に対するインプラントの保存の影響を調べるために、BMP-2を含有するヒドロゲルでコーティングしたフィラメントを4℃で2ヶ月間保存し、保存したインプラントからのBMP-2の放出動態を測定し、未処理のインプラントと比較した。
【0089】
骨輸送のための創外固定器の設計
【0090】
SDラットモデルにおける骨輸送のために、片側創外固定器を特別に設計し、カスタマイズした。片側創外固定器は、1つのフレーム(長さ32mm)と、5本の固定ピン(直径1.2mm、長さ22mm)との2つの部分から構成される。フレームは2つの固定端部を有し、各固定端部は2つの固定ピンで固定され、骨切り術後に近位骨セグメント及び遠位骨セグメントを固定するために使用される。また、フレームは、2つの固定端部の間に1つの可動部分を有し、この可動部分は、皮質切除後に可動骨スライスを固定するために最後のピンをロックするために使用される。片側創外固定器の性能を、12週齢のSDラットの大腿試料を用いてエクスビボで試験した。
【0091】
動物手術及びDOプロトコル
【0092】
手術前に、各ラットを、温熱パッド上での手術中に2~3%イソフルラン(米国アイダホ州ボイシ、VetOne社)で麻酔した。その後、セファゾリン(25mg/kg)を動物に皮下注射した。消毒後、左大腿の骨外側部位を25mm切開した。固定のために、4本の固定ピンを骨に刺入した。骨輸送のためにのみ、第1皮質骨に別の固定ピンを刺入し、その後、骨を固定するためにフレームを設置した。無菌条件下で8mmの骨スライスを除去するために、大腿骨中骨幹部での大腿骨横骨切り術を、ワイヤーダイヤモンドソーを用いて実施した。さらに、大腿骨遠位部において、骨輸送のための4mmの横骨切り術を実施した。長さ18mm、直径1.2mmのIM釘デバイスを、近位大腿骨セグメント及び遠位大腿骨セグメントの髄管に挿入し、IM釘デバイスの両端部を近位固定ピン及び遠位固定ピンで固定した。上述のように、IM釘を、0μg(IMN、16例)、2μg(IMN+B2、n=16)、または、6μg(IMN+B6、n=8)のBMP-2を含有したヒドロゲルでコーティングした。IM釘を移植していない動物を、ブランク対照(BLK、n=16)とした。その後、外科的切開部を、順次縫合した。本試験のDOプロトコルの治療期間、5日間の待機期間(手術日から手術後(POD)5日目まで)、8日間の能動的な延長期間(0.5mm/12時間、POD5からPOD13まで)、及び、21日間(POD13からPOD34まで)または42日間(POD13からPOD55まで)の骨硬化期間の3つの段階からなる。この動物実験では、骨輸送は、IM釘を介して逆行方向に行った。
【0093】
術後ケア及び試料採取
【0094】
手術後、動物を個別に飼育した。また、試験期間中、すべての動物においてピントラック感染をモニター及びケアした。必要に応じて、ポリビニルピロリドンヨード及びエタノールを、ピントラックのケア中に使用した。ピントラック感染をモニターし、Checketts-Otterburn分類にしたがって分類した。この分類方法によると、ピントラック感染は、軽度(グレード1~3)と重度(グレード4~6)との2群に分類される。各群3匹のラットを無作為に選択し、インビボ標識のため、終了13日前(POD33)にキシレノールオレンジ(30mg/kg;米国ミズーリ州セントルイス、シグマ・アルドリッチ社)を、終了3日前(POD44)にカルセイン(10mg/kg;、シグマ・アルドリッチ社)を皮下注射した。終了1週間前(POD48)に固定具を取り外し、POD54に動物の一般的歩行能力を観察した。すべての動物を屠殺し、定性的及び定量的な評価のために、POD34またはPOD55に両大腿骨を採取した。注目すべきことには、(IMN+B6)群では、8匹のラットのすべてをPOD34で屠殺した。骨癒合は主に標本の肉眼的観察によって評価し、後述するマイクロCT分析によってさらに確認した。標本を10%緩衝ホルマリンで48時間固定し、70%エタノールに移して保存した。
【0095】
動的X線イメージング
【0096】
LAGO-Xインビボ撮像システム(米国アリゾナ州ツーソン、スペクトラル・インストゥルメント・イメージング社(Spectral Instrument Imaging))を用いて、骨欠損治癒における動的変化を、全動物でPOD5からPOD34まで毎週モニターした。まず、動物を、誘導チャンバー内で、3%イソフルランで麻酔した。その後、各動物を加熱した撮像プラットフォームに移し、撮像前に上下逆さまに配置した。撮像パラメータは、40keV、露光時間18秒に設定した。
【0097】
マイクロコンピューター断層撮影(CT)検査
【0098】
動物の延伸再建部位及びドッキング部位における微細構造変化を、マイクロCTを用いて定性的及び定量的に評価した。簡単に説明すると、すべての試料を、Skyscan 1276 マイクロCT(ベルギー国コンティフ、Bruker社)を用いて、電圧70kV、電流200A、回転ステップ0.8°、360°走査モードで、等方性ボクセルサイズ20μmのカスタム等方性分解能で撮像した。0.5mmのAlフィルタを用いて、ビーム硬化還元を行った。投影画像は、画像解析のためのポストアラインメント及びビーム硬化補正を伴うコーンビームNReconアプリケーション(バージョン1.0.7.0、Bruker社)を用いて、オフラインで再構成した。再構成画像の後処理を、SkyScan CAnソフトウェアパッケージ(バージョン1.17、Bruker社)を用いて解析した。延長領域(長さ8mm)とドッキング部位(長さ1.5mm)とを含む2つの関心領域(ROI)を、別々に分析した。延長領域またはドッキング部位の断面スライスを、CTanによる骨組織体積率(骨体積/総体積、BV/TV)測定に用いた。ROIのBW/TVは、対側の無傷対照群によって正規化した。MicroView3D画像ビューア(バージョン2.5.0;カナダ国イルダートン、パララックス・イノベーションズ社(Parallax Innovations Inc.))を用いた目視検査のため、CTAn(CTハンスフィールド単位(HU)の閾値>10000)のセグメント化データセットから、3D骨構造を作成した。骨癒合不全は、再建部位またはドッキング部位での骨癒合を示すX線像の証拠がないことにより定義されるマイクロCT分析によって確認された。
【0099】
機械的試験
【0100】
マイクロCT解析後、24時間以内に3点曲げ試験を行い、機械的特性を評価した。2kNのロードセルを備えた材料試験システムInstron5944試験システム(米国マサチューセッツ州ノーウッド)を用いて、大腿骨の破壊試験を行った。大腿骨には、ブレードの内側及び外側スパンをそれぞれ8mm及び18mmに設定して、前後方向に荷重をかけた。骨を0.01mm/sの速度で試験し、試験中に、大腿骨の長軸をブレードに対して垂直に置いた。引張弾性率(ヤング率)、最大荷重率、破壊エネルギー(エネルギー吸収率)を求め、内蔵ソフトウェア(OMATプロフェッショナル;米国ペンシルベニア州ホーシャム、ティニアス・オルセン社(Tinius Olsen, Inc.))で解析した。新生骨の生体力学的特性を、対側の無傷骨の特性に対するパーセンテージとして表した。機械的試験中、本発明者らは、骨の破壊を防ぐために、荷重が15%減少した時点で圧縮試験を終了した。
【0101】
組織学
【0102】
機械的試験の直後に、試料を10%ホルマリンで48時間固定し、その後、70%エタノールに移した。試料(n=5/群)を10%EDTA溶液で5週間脱灰し、エタノールで脱水した後、パラフィンで包埋した。ミクロトーム(RM2525;ドイツ国ヴェッツラー、ライカ社(Leica))によって、薄切片(5μm)を、矢状面の各大腿骨の長軸に沿って、切り出した。標準プロトコルにしたがって、スライドを、ヘマトキシリン・エオジン染色(H&E;シグマ・アルドリッチ社)、または、マッソントリクローム染色(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、アブカム社(Abcam))で染色した。
【0103】
組織形態計測
【0104】
組織形態計測のために、本試験では、石灰化骨のパラフィン包埋のプロトコルを適用した。固定後、いくつかの試料(n=3)をオービタルシェーカーで、室温で96時間、5.0%(w/v)水酸化カリウム水溶液で処理した。その後、骨を水で洗浄し、真空浸透システム下で、エタノール中で脱水した。処理した骨は、パラフィン包埋ブロックに規定どおりに埋め込んだ。10μm切片を、矢状面の各大腿骨の長軸に沿って、RM2255ミクロトーム(ドイツ国、ライカ社)で切断した。組織形態計測のために、100μm離間した2つの切片を、測定のために選択した。蛍光画像を、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X800(日本国大阪、キーエンス社)で撮像した。ドッキング部位または再建部位で、10倍の倍率で、無作為で5つ撮像し、測定に用いた。ミネラル付着率(MAR)は、赤色ラベルと緑色ラベルとの間の距離を10日間隔で割って求めた。
【0105】
免疫蛍光アッセイ及び免疫組織化学アッセイ
【0106】
免疫蛍光アッセイ及び免疫組織化学アッセイを、標準プロトコルを用いて実施した。試料を、抗オステオカルシン(米国テキサス州ダラス、サンタクルーズ社(Santa Cruz))、抗BMPRII(米国テキサス州ダラス、サンタクルーズ社)、または、抗α-SMA抗体(米国テキサス州ダラス、サンタクルーズ社)と、4°Cで一晩インキュベートした。免疫蛍光には、Alexa Fluor 488、594、または647標識二次抗体(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、アブカム社)を使用した。免疫組織化学には、西洋ワサビペルオキシダーゼ-ストレプトアビジン検出系(米国カリフォルニア州サンタクララ、ダコ社(Dako))を使用し、続いて、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0107】
統計分析
【0108】
すべての定量的データは、平均及び標準偏差(SD)として示した。コルモゴロフ-スミルノフ検定で正規分布を確認した後、すべてのパラメータを、ANOVA、及び事後テューキーのHSD検定によって分析した。マイクロCT分析及び機械的試験については、対側の大腿骨を用いてパラメータを正規化した。統計分析は、SPSS(バージョン16.0;米国イリノイ州シカゴ、SPSS社)を用いて計算し、有意水準はP<0.05に設定した。
【国際調査報告】