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特表2024-545219擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置
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  • 特表-擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置 図1
  • 特表-擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置 図2A
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  • 特表-擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置 図7A
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  • 特表-擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20241128BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H03F1/32
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535470
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 CN2022136830
(87)【国際公開番号】W WO2023109570
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】202111529775.4
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503433420
【氏名又は名称】華為技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUAWEI TECHNOLOGIES CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Huawei Administration Building, Bantian, Longgang District, Shenzhen, Guangdong 518129, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】ユイ,ミーンラーン
(72)【発明者】
【氏名】トゥオン,トゥオン
(72)【発明者】
【氏名】イエ,ジエンウエイ
(72)【発明者】
【氏名】ユイ,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,シヤオミン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ,ユイスー
【テーマコード(参考)】
5F102
5J500
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GJ05
5F102GK05
5F102GK06
5F102GK08
5F102GL04
5F102GM06
5F102GM08
5F102GN05
5F102GQ03
5J500AA01
5J500AC21
5J500AF16
5J500AH12
5J500AK12
5J500AK29
5J500AQ02
5J500AS13
5J500AT01
5J500NG01
(57)【要約】
この出願は、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタPHEMT、低雑音増幅器、及び関連装置を提供する。当該PHEMTは、チャネル層と、該チャネル層の両側にそれぞれ配置された下部バリア層及び上部バリア層であり、当該下部バリア層はチャネル層に接続されている、下部バリア層及び上部バリア層と、チャネル層と上部バリア層との間に配置された第1の分離層及び第1のドープト層であり、当該第1の分離層は、当該第1のドープト層をチャネル層から分離するように構成され、当該第1のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される、第1の分離層及び第1のドープト層と、を含む。当該PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。これは、小さい出力電流下でのPHEMTの線形性を改善し、LNA非線形性によって引き起こされる相互変調歪みを低減させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ(PHEMT)であって、
チャネル層と、
前記チャネル層の両側にそれぞれ配置された下部バリア層及び上部バリア層であり、当該下部バリア層は前記チャネル層に接続されている、下部バリア層及び上部バリア層と、
前記チャネル層と前記上部バリア層との間に配置された第1の分離層及び第1のドープト層であり、当該第1の分離層は、当該第1のドープト層を前記チャネル層から分離するように構成され、当該第1のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される、第1の分離層及び第1のドープト層と、
を有し、
当該PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいとき、前記チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い、
PHEMT。
【請求項2】
前記下部バリア層は前記チャネル層に直接接続されている、請求項1に記載のPHEMT。
【請求項3】
前記第1のドープト層はシリコンドープされており、ドーピング濃度は、3e12cm-2から5e12cm-2である、請求項2に記載のPHEMT。
【請求項4】
前記下部バリア層は、第2の分離層及び第2のドープト層を介して前記チャネル層に接続され、前記第2の分離層は、前記チャネル層を前記第2のドープト層から分離するように構成され、前記第2のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される、請求項1に記載のPHEMT。
【請求項5】
前記第1のドープト層のドーピング濃度は、3.5e12cm-2から4.5e12cm-2であり、前記第2のドープト層のドーピング濃度は、3e11cm-2から5e11cm-2である、請求項4に記載のPHEMT。
【請求項6】
前記第2のドープト層のドーピング濃度に対する前記第1のドープト層のドーピング濃度の比が、予め設定された値よりも大きい、請求項4に記載のPHEMT。
【請求項7】
前記予め設定された値は9より大きい、請求項6に記載のPHEMT。
【請求項8】
前記第1のドープト層の前記濃度及び前記第2のドープト層の前記濃度の値は、当該PHEMTがオン状態にあるときに、前記チャネル層の前記伝導帯エネルギーレベルが前記フェルミエネルギーレベルよりも低いことを可能にする、請求項3乃至7のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項9】
前記チャネル層の厚さは15-20nmである、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項10】
当該PHEMTの前記出力電流が第2の閾値よりも小さいとき、前記チャネル層の前記伝導帯エネルギーレベルは実質的に厚さ方向に低下する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項11】
当該PHEMTは更に、キャップ層、ソース、ドレイン、及びゲートを有し、前記キャップ層は、前記上部バリア層の前記チャネル層から遠い側に配置され、且つオーミックコンタクトを提供するための貫通孔を備え、前記ゲートは前記貫通孔内に配置され、前記ソース及び前記ドレインは、どちらも前記キャップ層の前記上部バリア層から遠い側に配置され、且つ前記貫通孔の両側にそれぞれ位置する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項12】
前記チャネル層は、インジウムガリウム砒素からなり、前記上部バリア層、前記下部バリア層、又は前記分離層は、アルミニウムガリウム砒素からなる、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のPHEMTを有する低雑音増幅器。
【請求項14】
請求項13に記載の低雑音増幅器を有する無線周波数回路。
【請求項15】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のPHEMT、請求項13に記載の低雑音増幅器、及び請求項14に記載の無線周波数回路のうちの少なくとも1つを有する、無線周波数チップ。
【請求項16】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のPHEMT、請求項13に記載の低雑音増幅器、請求項14に記載の無線周波数回路、及び請求項15に記載の無線周波数チップのうちの少なくとも1つを有する電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2021年12月14日に中国国家知識産権局に出願された、“擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置”と題された中国特許出願第202111529775.4号に対する優先権を主張するものであり、その出願をその全体にてここに援用する。
この出願は、半導体デバイス技術の分野に関し、特に、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、受信信号が低雑音増幅器LNAを通り抜けるとき、無線通信プロダクトのアンテナ端の受信リンク上の受信信号と、該受信リンクへと漏れる送信信号とで、相互変調信号を生成し、相互変調歪み(intermodulation distortion,IMD)を生じる。これは、LNAの非線形な特性によって引き起こされる。3次相互変調積の周波数が受信信号の周波数に非常に近いので、3次相互変調積は受信リンクにおける後続のフィルタによって抑圧されることができず、リンク上の受信信号に対する干渉を生じさせる。
【発明の概要】
【0003】
この出願の実施形態は、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタPHEMT、低雑音増幅器、及び関連装置を提供する。PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。これは、小さい出力電流下でのPHEMTの線形性を改善し、LNA非線形性によって引き起こされる相互変調歪みを低減させる。
【0004】
第1の態様によれば、この出願の一実施形態は、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタPHEMTを提供し、当該PHEMTは、
チャネル層と、
チャネル層の両側にそれぞれ配置された下部バリア層及び上部バリア層であり、当該下部バリア層はチャネル層に接続される、下部バリア層及び上部バリア層と、
チャネル層と上部バリア層との間に配置された第1の分離層及び第1のドープト層であり、当該第1の分離層は、当該第1のドープト層をチャネル層から分離するように構成され、当該第1のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される、第1の分離層及び第1のドープト層と、
を含み、
当該PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。
【0005】
当該PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいときに、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低いように、当該PHEMT内のチャネル層のエネルギーレベル構造が調整される。これは、小さい出力電流下でのPHEMTの線形性を改善し、LNA非線形性によって引き起こされる相互変調歪みを低減させる。
【0006】
取り得る一実装において、下部バリア層はチャネル層に直接接続される。
【0007】
PHEMT内の下部ドープト層が除去されることで、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配がより小さくなり、小電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低くなる。
【0008】
取り得る一実装において、第1のドープト層はシリコンドープされており、ドーピング濃度は、3e12cm-2から5e12cm-2である。
【0009】
取り得る一実装において、第1のドープト層のドーピング濃度は、5e12cm-2から6e12cm-2である。
【0010】
当該PHEMT内の第1のドープト層の濃度が増加されることで、当該PHEMTの利得が増加される。
【0011】
取り得る一実装において、下部バリア層は、第2の分離層及び第2のドープト層を介してチャネル層に接続され、第2の分離層は、チャネル層を第2のドープト層から分離するように構成され、第2のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される。
【0012】
当該PHEMTは、ダブルドープトトPHEMT、例えば、ダブルδドープトPHEMTである。
【0013】
取り得る一実装において、第1のドープト層のドーピング濃度は、3.5e12cm-2から4.5e12cm-2であり、第2のドープト層のドーピング濃度は、3e11cm-2から5e11cm-2である。
【0014】
取り得る一実装において、第1のドープト層のドーピング濃度は、4e12cm-2から6e12cm-2であり、第2のドープト層のドーピング濃度は、2e8cm-2から3e11cm-2である。
【0015】
取り得る一実装において、第2のドープト層のドーピング濃度に対する第1のドープト層のドーピング濃度の比が、予め設定された値よりも大きい。
【0016】
オプションで、予め設定された値は、6より大きい正の数であり、例えば、9、10、15、30、70、100、又は150である。
【0017】
当該PHEMTの総ドーピング濃度が変わらない又は減少しない場合、下部ドープト層(第2のドープト層)のドーピング濃度が減少され、又は下部ドープト層(第2のドープト層)のドーピング濃度に対する上部ドープト層(第1のドープト層)のドーピング濃度の比が増加されることで、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配が小さくなり、小電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低くなる。
【0018】
取り得る一実装において、チャネル層の厚さは15-20nm、18-20nm、又は20-25nmであり、例えば18nmである。
【0019】
取り得る一実装において、当該PHEMTの出力電流が第2の閾値よりも小さいとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルは実質的に厚さ方向に低下する。
【0020】
当該PHEMTのチャネル層の厚さが増加されることで、デバイスが動作するときのチャネル層の下の電子の蓄積が回避され、より均一に電子が分布する。これは、当該PHEMTの線形性を向上させる。
【0021】
取り得る一実装において、当該PHEMTは更に、キャップ層、ソース、ドレイン、及びゲートを含み、キャップ層は、上部バリア層のチャネル層から遠い側に配置され、且つオーミックコンタクトを提供するための貫通孔を備え、ゲートは貫通孔内に配置され、ソース及びドレインは、どちらもキャップ層の上部バリア層から遠い側に配置され、且つ貫通孔の両側にそれぞれ位置する。
【0022】
取り得る一実装において、チャネル層は、インジウムガリウム砒素からなり、上部バリア層、下部バリア層、又は分離層は、アルミニウムガリウム砒素からなる。
【0023】
第2の態様によれば、この出願の一実施形態は更に、第1の態様又は第1の態様の取り得る実装のうちのいずれか一に従ったPHEMTを含む低雑音増幅器を提供する。
【0024】
第3の態様によれば、この出願の一実施形態は更に、第2の態様に従った低雑音増幅器を含む無線周波数回路を提供する。
【0025】
第4の態様によれば、この出願の一実施形態は更に、第1の態様又は第1の態様の取り得る実装のうちのいずれか一に従ったPHEMT、第2の態様に従った低雑音増幅器、及び第3の態様に従った無線周波数回路のうちの少なくとも1つを含む無線周波数チップを提供する。
【0026】
第5の態様によれば、この出願の一実施形態は更に、第1の態様又は第1の態様の取り得る実装のうちのいずれか一に従ったPHEMT、第2の態様に従った低雑音増幅器、第3の態様に従った無線周波数回路、及び第4の態様に従った無線周波数チップのうちの少なくとも1つを含む電子機器を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
この出願の実施形態における技術的ソリューションをより明確に説明するために、以下にて、実施形態を説明するための添付の図面を簡単に説明する。
図1】この出願の一実施形態に従った、アンテナ端受信リンク上で生成される相互変調信号の概略説明図である。
図2A】従来技術に従ったダブルδドープトPHEMTの構造の概略図である。
図2B図2Aに示すPHEMTの直流出力特性カーブの図の一例である。
図2C図2Aに示すPHEMTのエネルギーバンド構造の概略図である。
図2D】異なる出力電流の下での図2Aに示すPHEMTのOIP3値のカーブの図の一例である。
図3】従来技術におけるOIP3値を定義する概略図である。
図4】この出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTの断面構造の概略図である。
図5】この出願の一実施形態に従ったダブルδドープトPHEMTの断面構造の概略図である。
図6A】異なる出力電流の下での、従来技術に従ったダブルδドープトPHEMT及びこの出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTそれぞれのOIP3値のカーブの図の一例である。
図6B】異なる出力電流の下での、従来技術に従ったダブルδドープトPHEMT及びこの出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTそれぞれのOIP3値のカーブの図の一例である。
図7A】従来技術に従ったダブルδドープトPHEMTのエネルギーバンドの図の一例である。
図7B】この出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTのエネルギーバンドの図の一例である。
図7C】この出願の一実施形態に従った、チャネル層におけるシングルδドープトPHEMT及びダブルδドープトPHEMTの伝導帯構造の図の一例である。
図8】60mA/mmの出力電流下での、チャネル層がそれぞれ12nm厚及び18nm厚であるダブルδドープトPHEMTの電子濃度分布の図である。
図9】この出願の一実施形態に従ったLNAの回路構造の概略図である。
図10】この出願の一実施形態に従った無線周波数システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
一般に、相互変調信号によって受信信号に引き起こされる干渉を低減させる方法が2つる。
【0029】
1つの方法では、受信リンクへの送信信号のリークを抑制するために、デュプレクサのアイソレーションが高められる。デュプレクサは、ダイプレクサとも呼ばれ、送信リンク及び受信リンクの双方が同時に動作できることを確保するために、共用アンテナによって送信される送信信号を、共用アンテナによって受信される受信信号からアイソレートするように機能する。相互変調信号によって受信信号に引き起こされる干渉を抑制するためにデュプレクサのアイソレーションが高められる場合、デュプレクサのキャビティを大きくする必要がある。これは、デュプレクサのサイズを増大させ、コストも大幅に増加させる。
【0030】
もう1つ方法では、リーク信号と受信信号とによって生成され、フィルタによってでは完全に抑圧できない相互変調信号を低減させるために、低雑音増幅器(LNA)の線形性が改善される。LNAの線形性は、トランジスタのコアによって決定される。トランジスタは、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ(pseudomorphic high electron mobility transistor,PHEMT)を使用することがある。
【0031】
図2Aは、ガリウム砒素(GaAs)系PHEMTの典型的な構造を示している。PHEMTのコアのエピタキシャル層は、上から下に、それぞれ、バッファ層(buffer layer)、下部バリア層、下部δドープト層、下部分離層、チャネル層(channel layer)、上部分離層、上部δドープト層、上部バリア層、及びキャップ層である。ガリウム砒素(GaAs)系PHEMTの場合、基板上のバッファ層は、ガリウム砒素又はアルミニウムガリウム砒素からなることができ、基板の欠陥がPHEMTの別の層に入るのを防止するように構成される。下部バリア層及び上部バリア層は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)からなることができ、2次元電子ガスがバッファ層に入るのを防止するように構成される。下部δドープト層及び上部δドープト層はどちらも、シリコン(Si)ドープされることができ、2次元電子ガスを提供するように構成される。上部分離層及び下部分離層は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)からなることができ、ドープト層をチャネル層から分離するように構成される。チャネル層はインジウムガリウム砒素(InGaAs)からなることができる。キャップ層は、高濃度ドープされたガリウム砒素からなることができ、ソース及びドレインを接続する。ソースとドレインとの間の出力電流を制御することができるように、ゲート電圧を用いることによってチャネル層の電子濃度が制御される。これは信号増幅機能を実現する。図2Bは、図2Aに示すPHEMTの直流出力特性カーブを示している。例えば、図2Bには、PHEMTの5つの動作状態、すなわち、オフ状態(1)、オンしかけ状態(2)、オン状態(3)、完全オン状態(4)、及び線形動作状態(5)をそれぞれ区別するために、5つの異なるゲート電圧が示されている。
【0032】
図2Cは、5つの異なる動作状態における、図2Aに示すPHEMTのエネルギーバンド構造の概略図である。理解されるべきことには、図2Cの各エネルギーバンド構造の図は、単に、全ての層の伝導帯構造を示しており、左から右に、すなわち、厚さ方向に、キャップ層、上部バリア層、上部δドープト層、上部分離層、チャネル層、下部分離層、下部δドープト層、及び下部バリア層の伝導帯を順に含んでいる。図には、上部δドープト層、下部δドープト層、チャネル層の位置のみが記されている。
【0033】
図2Cに示されるように、PHEMTがオフ状態(1)にあるとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルは、フェルミエネルギーレベルEfよりも遥かに高い。ゲート電圧が増加するにつれ、PHEMTがオンしかけ状態(2)になると、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルEfに近づく。ゲート電圧が更に増加するにつれ、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルが部分的にフェルミエネルギーレベルEfよりも低くなると、特定量の自由電子がチャネル層に現れる。この場合、PHEMTはオン状態(3)にある。ゲート電圧が更に増加するにつれ、チャネル層の伝導帯構造は、オン状態(3)での左上がり右下がりの形態から、完全オン状態(4)での形態へ、そして、線形動作状態(5)での形態へと順に変化する。すなわち、チャネル層の上側(つまりは、図2Dにおける左側、すなわち、上部分離層に隣接する側)にキャリアが位置する傾向がある。
【0034】
しかしながら、無線周波数システムの受信リンクにおける低電力消費及び低雑音の要件を満たすために、LNAは、実質的に、出力電流密度が60-100mA/mmに制限された状態、すなわち、図2CにおけるPHEMTのオン状態(3)で動作する。
【0035】
無線周波数回路におけるLNAの低電力消費及び低雑音係数の要件を満たすために、動作点の出力電流は、実質的に60-100mA/mmに制限される。高電子移動度の特性により、PHEMTは、低濃度の2次元電子ガスのみで動作状態電流に達することができる。結果として、ほとんどの動作点がPHEMTのターンオン電圧付近にある。しかしながら、この範囲におけるPHEMTの線形性は小さく、用途の要件を満たすことができない。PHEMTの線形性は、出力3次インターセプトポイント(output 3rd order intercept point,OIP3)によって表される。より高いOIP3は、より高い直線性を示す。図2Dに示されるように、異なる出力電流の下での図2Aに示すPHEMTのOIP3値のカーブは、図2Bに示す直流出力特性カーブに基づいて、計算を通じて取得され得る。図2Dからわかることには、出力電流が60mAであるとき、PHEMTのOIP3値は約36dBmであり、41dBm以上であるという要件を満たすことができない。従って、出力電流が小さいとき、すなわち、PHEMTがちょうどターンオンされるときにデバイスの線形性をどのように改善するかが、現在解決すべき喫緊の技術的問題である。
【0036】
以下にて、この出願の実施形態における技術用語を説明する。
【0037】
(1)LNA
【0038】
LNAは、無線通信システムの重要な回路であり、非常に低い雑音係数を有する増幅器であり、アンテナによって受信された信号を増幅するように機能する。アンテナからの受信信号は弱い。このような弱い信号を増幅するには、信号品質を確保することが最も重要である。この目的のために、LNAは、あまり多くのノイズを導入することができない。さもなければ、信号が更に劣化することになり、復調を行うことができない。
【0039】
ほとんどのLNAは、トランジスタ及び電界効果トランジスタを使用している。この出願の実施形態において、LNAは擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ(pseudomorphic high electron mobility transistor,PHEMT)を使用する。
【0040】
(2)相互変調信号
【0041】
相互変調信号は、無変調信号と有用な信号とが非線形デバイスを通り、そして互いに相互作用するときに生成される相互変調周波数信号である。相互変調信号の周波数は有用な信号の周波数に非常に近いので、バックエンドフィルタでは相互変調信号をほとんど抑圧することができない。図1に示したように、受信信号(つまりは、有用な信号)と、受信リンクに漏れ入る送信信号(つまりは、干渉信号)とが同時にLNAを通るとき、非線形効果により、それら2つの信号によって生成される相互変調信号の周波数は、時にして、受信信号の周波数に正確に等しくなったり近くなったりすることがあり、その結果、相互変調信号は受信器をスムーズに通過する。3次相互変調信号は、相互変調干渉と呼ばれる最も深刻な干渉を引き起こす。
【0042】
(3)PHEMT
【0043】
PHEMTは、高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transistor,HEMT)の改良である。PHEMTはダブルヘテロ接合構造を持ち、PHEMTの2次元電子ガス2DEGはポテンシャル井戸の両側にダブルリミッティング効果を持つ。従って、HEMTと比べて、PHEMTは、高い電子表面密度を持つとともに、高い電子移動度を持つ。
【0044】
図2Aは、典型的なダブルδドープトPHEMTを示している。
【0045】
(4)OIP3
【0046】
PHEMTの線形性は、出力3次インターセプトポイント(output 3rd order intercept point,OIP3)によって表され得る。より高いOIP3値は、より高い直線性を示す。OIP3値は、PHEMT無線周波数入力及び出力カーブから作図によって取得され得る。図3に示すように、具体的には2つのカーブが描かれる。一方のカーブは、入力電力に対する入力周波数における増幅信号電力のカーブであり、他方のカーブは、入力電力に対する3次相互変調信号のカーブである。対数座標系において、線形増幅信号のカーブは、1の傾きを有する直線として表され、3次相互変調信号のカーブは、3の傾きを有する直線として表される。これら2つのカーブの交点に対応する出力信号電力がOIP3値である。
【0047】
(5)出力電流
【0048】
この出願の実施形態における出力電流は、ドレインから出力される電流としても参照される。小さい出力電流は簡潔に小電流とも称される。小さい出力電流は、出力電流が第1の閾値よりも小さい又は第2の閾値よりも小さいことを意味し、第1の閾値又は第2の閾値は、PHEMTがちょうどターンオンされるときに存在する電流密度とし得る。あるいは、小さい出力電流は、PHEMTの出力電流密度が40-200mA/mm又は60-100mA/mmであることを意味する。第1の閾値は第2の閾値と等しくてもよいし、等しくなくてもよい。この出願の実施形態では、小さい出力電流が60mA/mmである例が説明される。この出願の実施形態における電流は電流密度も指す。
【0049】
この出願の実施形態では、PHEMTのチャネル層のエネルギーバンド構造が調整されるように、PHEMT内の全ての層構造の厚さ及び材料などが設計され、特に、エピタキシャル層の厚さ、ドープト層のドーピング濃度、及び他の構造が設計される。従って、PHEMTが小さい出力電流下で動作するとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルはフェルミエネルギーレベルよりも低い。ゲート電圧が増加するにつれて、フェルミエネルギーレベル付近の電子濃度の増加はチャネル層の電子濃度に対してあまり影響を持たなくなる。これはPHEMTの線形性を向上させる。伝導帯構造の観点から、オン状態(3)においてチャネル層の伝導帯勾配がより小さい。
【0050】
以下、チャネル層のエネルギーバンド構造の調整メカニズムを説明する。
【0051】
チャネル層のエネルギーバンド構造に影響を与える以下の幾つかの主要因が存在する。
【0052】
a:チャネル層とゲートとの間の距離。この距離は、チャネル層のエネルギーレベルに影響を与える。
【0053】
b:上部/下部ドープト層のドーピング濃度。ドープト層は、そのドープト層の上の構造のエネルギーバンドの屈曲度合いを変化させる。例えば、上部ドープト層のドーピング濃度が増加すると、上部バリア層のエネルギーバンドの屈曲度合いが大きくなり、厚さ方向における上部バリア層のエネルギーレベルの勾配が大きくなる。他の一例では、下部ドープト層のドーピング濃度が増加すると、チャネル層のエネルギーバンドの屈曲度合いが大きくなり、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配が大きくなる。従って、下部ドープト層の濃度が低減されることで、チャネル層のエネルギーバンドの屈曲度合いが大きくなり、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配が大きくなり、小さい出力電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルが、フェルミエネルギーレベルよりも低くなる。
【0054】
c:上部/下部ドープト層のドーピング濃度の比。PHEMTが小電流下で動作するときにチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低いという要件を満たすために、下部ドープト層のドーピング濃度が低減される。しかしながら、上部/下部ドープト層の総ドーピング濃度はキャリア濃度に影響を及ぼす。これはデバイスの性能に影響する。また、より高いドーピング濃度は、デバイスのより高いターンオン電圧を示す。従って、総ドーピング濃度は、過度に低くても過度に高くてもいけない。
【0055】
d:チャネル層の厚さ。チャネル層の厚さは、電子及び電流の分布に影響を及ぼす。厚いチャネル層とすると、デバイスが動作するときにチャネル層の下に蓄積される電子を回避することができ、その結果、電子がいっそう均一に分布する。これはPHEMTの線形性を向上させる。
【0056】
従って、上述の幾つかの要因を参照して、この出願の実施形態は、チャネル層のエネルギーバンド構造を調整するための以下の幾つかのソリューションを提供する。それ故に、PHEMTが小電流下で動作するとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルはフェルミエネルギーレベルよりも低い。
【0057】
ソリューション1:下部ドープト層が除去されることで、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配がより小さくなり、小電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低くなる。
【0058】
ソリューション2:総ドーピング濃度が減少しない場合、下部ドープト層のドーピング濃度が減少され、又は下部ドープト層のドーピング濃度に対する上部ドープト層のドーピング濃度の比が増加される。
【0059】
ソリューション3:チャネル層の厚さが増加される。
【0060】
上記ソリューション1、2、及び3の組み合わせ、上部バリア層の厚さ及び/又は上部分離層の厚さの調整と上記ソリューション1、2、及び3のうちの少なくとも1つとの組み合わせ、並びにこれらに類するものも存在し得る。
【0061】
上述のソリューションでは、小電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低くなるように、PHEMT内の全ての層構造の厚さ及びドーピング濃度が調整される。斯くして、PHEMTの線形性を改善することができ、PHEMTによって形成されるLNAの線形性を改善することができ、LNAによって出力される相互変調信号を低減させることができ、信号品質を改善することができる。
【0062】
以下、この出願の実施形態における添付の図面を参照して、この出願の実施形態を明確且つ詳細に説明する。
【0063】
図4は、PHEMTの断面構造の概略図である。上記ソリューション1を用いることによって、あるいは、上記ソリューション1と、上部バリア層の厚さ及び/又は上部分離層の厚さの調整、上記ソリューション2、及び上記ソリューション3のうちの少なくとも1つとの組み合わせを用いることによって、チャネル層のエネルギーバンド構造が調整される。
【0064】
図4に示すように、PHEMTは、シングルδドープされており、基板1と、基板1上に順に配置されたバッファ層2、下部バリア層3、チャネル層4、上部分離層5、第1のドープト層6、上部バリア層7、及びキャップ層8と、キャップ層8上に配置されたソース9及びドレイン10と、上部バリア層7上に配置されたゲート電極11とを含んでいる。以下では、GaAs系PHEMTを例として用いて、各層の機能、組成、及び厚さなどを説明する。
【0065】
基板1はガリウム砒素(GaAs)ウエハとし得る。
【0066】
バッファ層2は、ガリウム砒素(GaAs)又はアルミニウムガリウム砒素(AlGa1-xAs)、ただし、0<x<1からなり得る。バッファ層2は、基板1の欠陥がPHEMTのコアに入ることを防止することができる。一般に、基板1と下部バリア層3との間の格子不整合によって生じる欠陥を減少させることができるように、バッファ層におけるAlのドーピング濃度は、基板1から離れる方向に徐々に増加する。
【0067】
下部バリア層3はアルミニウムガリウム砒素(AlGa1-xAs)からなり得る。下部バリア層3のバンドギャップ幅は、チャネル層4のバンドギャップ幅よりも大きい。下部バリア層3とチャネル層4とで、負接合であるヘテロ接合を形成する。下部バリア層3の厚さは、10-50nm又は10-25nmとすることができ、例えば、17nm又は20nmなどとし得る。
【0068】
例えば、バッファ層2におけるAlの最大ドーピング濃度は、下部バリア層3におけるAlのドーピング濃度以下である。
【0069】
チャネル層4は、インジウムガリウム砒素(InGa1-yAs)、ただし、0<y<1からなり得る。例えば、yの値の範囲は0.1-0.5とし得る。例えば、yは0.22又は0.3である。
【0070】
一部の実施形態において、チャネル層4の厚さは、8nm又は12nmよりも大きく、チャネルエピタキシャル層の臨界厚さよりも小さいとし得る。例えば、In0.22Ga0.78Asからなるチャネル層の臨界厚さは約20nmである。臨界厚さは、インジウム含有量が減少するにつれて増加する。オプションで、チャネル層4の厚さは、8-30nm、12-30nm、又は15-20nmとすることができ、例えば、17nm、18nm、20nm、又は24nmなどとし得る。チャネル層4の厚さが増加されることで、チャネル層4内の電子及び電流の分布が改善され得る。これは、チャネル層4の下の電子の蓄積を回避し、縦方向(つまりは、PHEMTの積層方向)の電流を低減させ、PHEMTの線形性を向上させる。
【0071】
例えば、チャネル層4はIn0.22Ga0.78Asからなり、厚さは18nmである。
【0072】
上部分離層5は、チャネル層4を第1のドープト層6から分離して、第1のドープト層6のドーピング不純物がチャネル層4に入るのを防止するように構成される。上部分離層5は、アルミニウムガリウム砒素からなることができ、厚さは2-6nm、例えば4nm又は6nmとすることができる。上部分離層5は、第1の分離層としても参照される。
【0073】
第1のドープト層6は、δドープされることができ、上部δドープト層としても参照される。第1のドープト層6はシリコンドープされ得る。上部分離層5上にドーピング不純物としてシリコンの薄い層が成長され、イオン化された後に2次元電子ガスを提供する。第1のドープト層6は数原子の厚さとすることができ、厚さは、2nm未満であり、例えば、1nm又は1nm未満である。
【0074】
例えば、第1のドープト層6のドーピング濃度は、従来技術のダブルδドープトPHEMTにおける2つのドープト層のドーピング濃度の合計であり、あるいは、該ドーピング濃度は、3e12cm-2から5e12cm-2、5e12cm-2から6e12cm-2、1e12cm-2から3e12cm-2、4.6e12cm-2から5.5e12cm-2、又は5.5e12cm-2から6.5e12cm-2であり、例えば、4.5e12cm-2である。
【0075】
上部バリア層7は、アルミニウムガリウム砒素(AlGa1-xAs)からなり得る。上部バリア層7のバンドギャップ幅は、チャネル層4のバンドギャップ幅よりも大きい。上部バリア層7と、第1のドープト層6と、上部分離層5と、チャネル層4とで、正の接合であるヘテロ接合を形成する。上部バリア層7の厚さは、10-30nm又は10-25nmとすることができ、例えば、15nm、17nm、又は20nmなどとし得る。
【0076】
キャップ層8は、高濃度ドープされたガリウム砒素(n-GaAs)からなることができ、厚さは5-10nmとし得る。キャップ層8はオーミック接触を提供するように構成される。
【0077】
キャップ層8は貫通孔を備える。ゲート11は、貫通孔内に配置され、キャップ層8とは接触しない。ソース9及びドレイン10は、どちらもキャップ層8の上部バリア層7から遠い側に配置され、貫通孔の両側にそれぞれ位置する。
【0078】
ソース9、ドレイン10、ゲート11は全て、導電性の金属からなる。ゲート11は、PHEMTにゲート電圧を提供するように構成される。ゲート電圧がターンオン電圧よりも高いとき、ソース9とドレイン10とが接続され、ドレイン電流が出力される。
【0079】
この出願のこの実施形態では、下部バリア層3がチャネル層4に直接接続される。ここで、“直接接続”は直接接触を意味する。換言すれば、下部バリア層3とチャネル層4との間に、他の層構造は含まれていない。
【0080】
なお、バッファ層2、下部バリア層3、上部分離層5、及び上部バリア層7は全て、アルミニウムガリウム砒素(AlGa1-xAs)を用い得るが、これらの層におけるAlのドーピング濃度は同じであってもよいし、異なってもよい。これは、ここで限定されることではない。例えば、下部バリア層3、上部分離層5、及び上部バリア層7は全て、Al0.22Ga0.78Asを用いる。
【0081】
この出願のこの実施形態で提供されるシングルδドープトPHEMTによれば、上部バリア層7のバンドギャップ幅及び下部バリア層3のバンドギャップ幅がどちらもチャネル層4のバンドギャップ幅よりも大きいので、当該シングルδドープトPHEMTは、1つのドープされた正の接合(上部バリア層7/第1のドープト層6/上部分離層5/チャネル層4)と、1つのドープされていない負の接合(チャネル層4/下部バリア層3)とを持つ。ゲート電圧がターンオン電圧よりも高いとき、ドーピング不純物がイオン化される。上部バリア層7のバンドギャップ幅とチャネル層4のバンドギャップ幅とが異なるため、伝導帯は連続でなく、電子がチャネル層の片側に移動して2次元電子ガスを形成する。ソース9とドレイン10とが接続され、ドレイン電流が出力される。
【0082】
この出願のこの実施形態では、チャネル層のエネルギーバンド構造の上述の調整メカニズムに基づいて、下部ドープト層が除去され、上部ドープト層(すなわち、第1のドープト層6)の適切な濃度が選択され、チャネル層4、上部バリア層7、及び上部分離層5の適切な厚さが選択される。得られるシングルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低く、あるいは、チャネル層4と上部分離層5との間の境界における伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。オプションで、当該PHEMTにおいて、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルが厚さ方向に実質的に低下する。この出願のこの実施形態において、厚さ方向は、キャップ層から基板への方向である。図4に示される方向を参照されたい。この実質的な減少は、以下の2つのケースを含み得る。
【0083】
1. チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルが厚さ方向に低下する。換言すれば、上部バリア層からの距離が遠いことは、より低い伝導帯エネルギーレベルを示す。
【0084】
2. チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルが厚さ方向に実質的/巨視的に下降傾向にある。換言すれば、上部バリア層から微視的に離れた小領域において、伝導帯エネルギーレベルが相対的に高いことが許される。
【0085】
例えば、上部バリア層7の厚さは3-7nmである。上部分離層5の厚さは4nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.0-4.5e12cm-2である。チャネル層の厚さは12nmである。
【0086】
例えば、上部バリア層7の厚さは5nmである。上部分離層5の厚さは3-5nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.0-4.5e12cm-2である。チャネル層の厚さは8-14nmである。
【0087】
従来技術におけるダブルδドープトPHEMTとは異なり、この出願のこの実施形態はシングルδドープトPHEMTを提供する。総ドープ濃度が変えられないまま又は減少しない場合、上部バリア層7上のみでδドーピングが行われ、下部ドープト層は除去されて、厚さ方向におけるチャネル層4の伝導帯エネルギーレベルの勾配を低減させ、その結果、利得(つまりは、相互コンダクタンスgm)に影響を及ぼすことなく、小さい出力電流下でのPHEMTの線形性を改善することができる。
【0088】
また、チャネル層4の厚さが増加されることで、チャネル層4内の電子及び電流の分布を改善することができる。これは、チャネル層4の下の電子の蓄積を回避し、縦方向(つまりは、PHEMTの積層方向)の電流を減少させ、PHEMTの線形性を更に改善することができる。
【0089】
図5は、この出願の一実施形態に従った他のPHEMTを示している。当該PHEMTはダブルドープトPHEMTとし得る。図4に示した層構造に加えて、当該PHEMTは更に、第2のドープト層12及び下部分離層13を含み得る。
【0090】
第1のドープト層6及び第2のドープト層12の両方がδドープされ得る。従って、第1のドープト層6は上部δドープト層6としても参照され、第2のドープト層12は下部δドープト層12としても参照される。第1のドープト層6及び第2のドープト層12はどちらもシリコンドープされ得る。上部分離層5及び下部バリア層3の各々上にドーピング不純物としてシリコンの薄い層が成長され、イオン化された後に2次元電子ガスを提供する。第1のドープト層6及び第2のドープト層12はどちらも数原子の厚さとすることができ、厚さは、2nm未満であり、例えば、1nm又は1nm未満である。第1のドープト層6のドーピング濃度は、第2のドープト層12のドーピング濃度よりも高い。
【0091】
下部分離層13は、第2のドープト層12をチャネル層4から分離して、第2のドープト層12のドーピング不純物がチャネル層4に入るのを防止するように構成される。下部分離層13は、ガリウム砒素からなることができ、厚さは2-6nm、例えば4nmとし得る。下部分離層13は第2の分離層としても参照される。
【0092】
なお、バッファ層2、下部バリア層3、上部分離層5、下部分離層13、及び上部バリア層7は全て、アルミニウムガリウム砒素を用い得るが、これらの層におけるAlのドーピング濃度は同じであってもよいし、異なってもよい。これは、ここで限定されることではない。
【0093】
この出願のこの実施形態で提供されるダブルδドープトPHEMTによれば、上部バリア層7のバンドギャップ幅及び下部バリア層3のバンドギャップ幅がどちらもチャネル層4のバンドギャップ幅よりも大きいので、当該ダブルδドープトPHEMTは、1つのドープされた正の接合(上部バリア層7/第1のドープト層6/上部分離層5/チャネル層4)と、1つのドープされた負の接合(チャネル層4/下部分離層13/第2のドープト層12/下部バリア層3)とを持つ。ゲート電圧がターンオン電圧よりも高いとき、ドーピング不純物がイオン化される。バリア層のバンドギャップ幅とチャネル層4のバンドギャップ幅とが異なるため、伝導帯は連続でなく、電子がチャネル層の片側に移動して2次元電子ガスを形成する。ソース9とドレイン10とが接続され、ドレイン電流が出力される。
【0094】
一部の実施形態において、チャネル層のエネルギーバンド構造が、上述のソリューション3を使用することによって調整される。図5に示すPHEMTにおいて、チャネル層4の厚さは、12nmより大きく、且つチャネルエピタキシャル層の臨界厚さより小さい(すなわち、InGaAsチャネルエピタキシャル層の移動限界を超えない)。従って、当該ダブルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。例えば、チャネル層4の厚さは、8-30nm、12-30nm、又は15-20nmであり、例えば、17nm、18nm、20nm、又は24nmなどである。チャネル層4の厚さ又は臨界厚さは、インジウムの含有量に関係する。より少ないインジウムの含有量は、より大きい厚さを示す。例えば、チャネル層4はIn0.22Ga0.78Asからなり、厚さは18nmである。
【0095】
上述のダブルδドープトPHEMTでは、チャネル層4の厚さが増加されることで、チャネル層4内の電子及び電流の分布を改善することができる。これは、チャネル層4の下の電子の蓄積を回避し、厚さ方向の電流を低減させ、PHEMTの線形性を改善することができる。
【0096】
一部の他の実施形態において、チャネル層のエネルギーバンド構造が、上述のソリューション2を使用することによって調整される。従って、当該ダブルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。
【0097】
例えば、第1のドープト層6のドーピング濃度は、3.5-4.5e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は、3-5e11cm-2である。
【0098】
例えば、第1のドープト層6のドーピング濃度と第2のドープト層12のドーピング濃度との比が、予め設定された値よりも大きい。予め設定された値は、6以上であり、例えば、9、10、15、30、70、100、又は150などである。
【0099】
他の一例では、第1のドープト層6のドーピング濃度は4-6e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は、2e8cm-2から3e11cm-2、1e6cm-2から1e11cm-2、又は1e6cm-2から1e8cm-2である。
【0100】
他の一例では、第1のドープト層6のドーピング濃度は、3.5-4.5e12cm-2、4.5-6e12cm-2、又は4.6-5.5e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は、2e8cm-2から3e11cm-2である。
【0101】
当該ダブルδドープトPHEMTでは、上部/下部δドープト層のドーピング濃度及びドーピング濃度の比が調整されることで、第2のドープト層12によって生じるチャネル層4のエネルギーレベルの勾配が低減される。従って、デバイスが低電流下で動作するとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。これはデバイスの線形性を改善する。
【0102】
一部の他の実施形態において、チャネル層のエネルギーバンド構造が、上述のソリューション2及びソリューション3を使用することによって調整される。従って、当該ダブルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。例えば、チャネル層の厚さは18nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.5-4.5e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は2e8cm-2から3e11cm-2である。あるいは、第1のドープト層6のドーピング濃度と第2のドープト層12のドーピング濃度との比が、予め設定された値よりも大きいように設定される。予め設定された値は、6以上であり、例えば9である。
【0103】
ダブルδドープトPHEMTでは、上部/下部ドープト層のドーピング濃度及びドーピング濃度の比が調整されることで、下部ドープト層によって生じるチャネル層4のエネルギーレベルの勾配が低減される。従って、デバイスが低電流下で動作するとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。これはデバイスの線形性を改善する。
【0104】
一部の他の実施形態において、チャネル層のエネルギーバンド構造が、ソリューション2及び/又はソリューション3と、上部バリア層及び/又は上部分離層の厚さの調整との組み合わせを使用することによって調整される。従って、当該ダブルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。
【0105】
例えば、上部バリア層7の厚さは3-7nmである。上部分離層5の厚さは3-5nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.0-4.5e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は3-5e11cm-2である。チャネル層の厚さは18nmである。
【0106】
他の一例では、上部バリア層7の厚さは3-7nmである。上部分離層5の厚さは3-5nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は、3.0-4.5e12cm-2である。第2のドープト層のドーピング濃度は2e8cm-2から3e11cm-2である。チャネル層の厚さは14-20nmである。
【0107】
他の一例では、上部バリア層7の厚さは5nmである。上部分離層5の厚さは4nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.0-4.5e12cm-2である。第2のドープト層のドーピング濃度は2e8cm-2から3e11cm-2である。チャネル層の厚さは14-20nmである。
【0108】
また、上述の実施形態において、PHEMTが小さい出力電流下にあるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルが厚さ方向に実質的に低下する。
【0109】
一部の他の実施形態において、図4又は図5の各層構造は、代わりに、別の材料からなって、別の厚さを有してもよく、例えば、ガリウム砒素の三元、四元、又は多元化合物からなってもよい。他の一例では、当該PHEMTはガリウム燐(GaP)系PHEMTである。
【0110】
なお、図4及び図5の説明において、上部ドープト層又は上部δドープト層は第1のドープト層6に対応し、下部ドープト層又は下部δドープト層は第2のドープト層12に対応する。
【0111】
なお、また、明確な説明のために、図4及び図5における層の厚さは、層の実際の厚さ又は厚さ比に対応しておらず、具体的な厚さ範囲は、上述の層に対して指定される厚さに従う。
【0112】
従来技術と比較して、この出願のこの実施形態で提供されるシングルδドープトPHEMTのOIP3値は大幅に高くなる。出力ドレイン電流が60-100mAであるとき、当該シングルδドープトPHEMTのOIP3値は、5dBmより大きく増加する。具体的なデータを図6に示す。図6は、従来技術におけるダブルδドープトPHEMTのOIP3値のシミュレーション結果を、この出願のこの実施形態で提供されるシングルδドープトPHEMTのOIP3値のシミュレーション結果と比較するものである。従来技術におけるダブルδドープトPHEMTと比較して、この出願のこの実施形態で提供されるシングルδドープトPHEMTのOIP3値は、出力電流が50-200mAであるときに、5dBmよりも大きく増加することが分かり得る。
【0113】
図7A図7Cを参照して、以下にて、シングルδドーピングを通じてPHEMTの線形性を改善することの原理を説明する。
【0114】
図7Aは、従来技術におけるダブルδドープトPHEMTのエネルギーバンドの図である。図7Bは、この出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTのエネルギーバンドの図である。図7Cは、チャネル層におけるダブルδドープトPHEMTの伝導帯構造とシングルδドープトPHEMTの伝導帯構造とを比較するものである。理解されるべきことには、ゲート電圧が増加するにつれてフェルミエネルギーレベルが増加する。図7A図7Cは全て、ドレイン電流(つまりは、出力電流)が60mAであるときのフェルミエネルギーレベルの位置を示している。
【0115】
δドーピング位置に空間電荷が集中して分布するため、δドーピング位置の左側のエネルギーバンドが曲がる。出力電流が60mAであるとき、エネルギーバンド構造から分かり得ることには、図7Cに陰影領域によって示すように、シングルδドープトPHEMTのチャネル層の伝導帯構造は四角形に近く、ダブルδドープトPHEMTの伝導帯構造は三角形に近い。チャネル層内の電子濃度は、伝導帯とフェルミエネルギーレベルとで囲まれた多角形の面積に比例するため、ゲート電圧の変化過程において、四角形の伝導帯構造は、三角形の伝導帯構造よりも高い線形性を持つ。
【0116】
シングルδドープトPHEMTのチャネル層内の電子は全て、上部δドープト層によって提供される。従って、同じ出力電流を得るために、シングルδドープトPHEMTのチャネル層の伝導帯は、ダブルδドープトPHEMTのチャネル層の伝導帯と比較して、フェルミエネルギーレベルから、よりいっそう下である。フェルミエネルギーレベル近くの電子にフェルミディラック分布が生じる。具体的には、フェルミエネルギーレベル付近(図7Cに破線枠の領域によって示す)での電子発生の確率は0.5であり、フェルミエネルギーレベルよりも下での電子発生の確率は1である。斯くして、フェルミエネルギーレベル近くでの電子発生の確率は、ゲート電圧が変化するときに、ある程度、非線形である。しかしながら、フェルミエネルギーレベル近くの電子によって占有される面積は、シングルδドープトPHEMTのチャネル層の伝導帯構造全体において小さい割合を持つ。従って、伝導帯がフェルミエネルギーレベルよりもいっそう下にあるシングルδドーピング設計は、より高い線形性を提供することができる。
【0117】
図8を参照して、以下にて、チャネル層の厚さを増加させることによってPHEMTの線形性を改善することの原理を説明する。
【0118】
図8は、60mA/mmの出力電流下での、チャネル層がそれぞれ12nm厚及び18nm厚であるダブルδドープトPHEMTの電子濃度分布の図である。図8から分かり得ることには、60mA/mmの出力電流下でPHEMTが動作するとき、そのチャネル層が12nm厚であるPHEMTでは、そのチャネル層の下に大量の電子が集められ、チャネル層内の電流が大きなz方向成分を持つ。比較して、そのチャネル層が18nm厚であるPHEMTでは、PHEMTが動作するときに、そのチャネル層内に電子がいっそう均一に分布する。これは、チャネル層内の電流のz方向成分を低減させ、ゲートを用いてチャネル電流を制御することの複雑さを低減させ、PHEMTの線形性を改善する。
【0119】
以下、この出願の実施形態で提供されるPHEMTの適用シナリオを説明する。
【0120】
この出願の一実施形態は更にLNAを提供する。図9に示すように、当該LNAは、入力整合ネットワーク、バイアス回路、PHEMT、及び出力整合ネットワークを含む。PHEMTは、図4又は図5に示したPHEMTとし得る。バイアス回路は、PHEMTの適切な動作のためのバイアス電圧を提供するように構成され、すなわち、PHEMTのゲート、ソース、及びドレインを必要な電位に設定するように構成される。入力整合ネットワークは、LNAが最大の励起電力を得るように、信号源の出力インピーダンスとLNAの入力インピーダンスとの間のマッチングを実現するように構成される。出力整合ネットワークは、外部負荷抵抗を、増幅器によって使用される最適な負荷抵抗に変換して、最大の出力電力を確保するように構成される。
【0121】
この出願の一実施形態は更に、受信器又はトランシーバを提供する。当該受信器又はトランシーバは、図9に示したLNAを含み得る。オプションで、当該受信器又はトランシーバは更に、デュプレクサ、バンドパスフィルタ、デジタル-アナログ変換器(ADC)、及びこれらに類するものを含み得る。
【0122】
LNAは無線周波数システムに適用され得る。図10に示すように、無線周波数システムは、送信リンクと受信リンクとに分割され得る。この出願の適用シナリオにおいて、無線周波数システムの受信リンク内の低雑音増幅器LNAは、図9に示したLNAとすることができ、アンテナによって受信された信号を増幅するように構成される。
【0123】
送信リンクは、パワーアンプ(power amplifier,PA)、ドライバ(driver)、少なくとも1つのフィルタ(filter)、少なくとも1つのミキサ(mixer)、少なくとも1つのローカル発振器(local oscillato,LO)、及び少なくとも1つの増幅器(amplifier,AMP)などを含み得る。受信リンクは、低雑音増幅器LNA、少なくとも1つのフィルタ、少なくとも1つのミキサ、少なくとも1つのローカル発振器(local oscillato,LO)、及び少なくとも1つの増幅器などを含み得る。上記少なくとも1つのフィルタは、イメージ除去フィルタ(image rejection filter)、中間周波数フィルタ(IF filter)、又は他のフィルタなどを含み得る。
【0124】
理解されるべきことには、図10は説明のための例にすぎない。無線周波数システムは、代わりに他の回路構造であってもよく、代わりに図10のものより少ないコンポーネントを含んでいてもよい。これは、ここで限定されることではない。
【0125】
この出願は更に無線周波数回路を提供する。当該回路は、図4又は図5に示したPHEMTを含み、あるいは図9に示したLNAを含み、無線通信分野に適用され、アンテナによって受信された信号を処理する、及び/又は信号を送信するようにアンテナを制御する、ように構成される。
【0126】
この出願は更に無線周波数チップを提供する。当該無線周波数チップは、受信アンテナによって受信された信号を処理し、該信号をプロセッサに送り、該プロセッサの命令を受信し、信号を送信するように送信アンテナを制御するように構成される。
【0127】
この出願は更に電子機器を提供する。当該電子機器は、例えば携帯電話、タブレットコンピュータ、電子書籍リーダ、テレビジョン、ノートブックコンピュータ、デジタルカメラ、車載デバイス、ウェアラブルデバイス、基地局、又はルータなどの、無線周波数機能又はワイヤレス通信機能を持つ機器とし得る。当該電子機器は、上述したPHEMT、LNA、無線周波数システム、無線周波数回路、及び無線周波数チップのうちの少なくとも1つを含み得る。
【0128】
要するに、上述の実施形態は、単に、この出願の技術的ソリューションを説明することを意図しており、この出願を限定することは意図していない。この出願は、上述の実施形態を参照して詳細に説明されているが、当業者が理解するはずのことには、この出願の実施形態の技術的ソリューションの範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に記録された技術的ソリューションに対する変更、又はその一部の技術的特徴に対する均等な置換がなおも為され得る。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ(PHEMT)であって、
チャネル層と、
前記チャネル層の両側にそれぞれ配置された下部バリア層及び上部バリア層であり、当該下部バリア層は前記チャネル層に接続されている、下部バリア層及び上部バリア層と、
前記チャネル層と前記上部バリア層との間に配置された第1の分離層及び第1のドープト層であり、当該第1の分離層は、当該第1のドープト層を前記チャネル層から分離するように構成され、当該第1のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される、第1の分離層及び第1のドープト層と、
を有し、
当該PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいとき、前記チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い、
PHEMT。
【請求項2】
前記下部バリア層は前記チャネル層に直接接続されている、請求項1に記載のPHEMT。
【請求項3】
前記第1のドープト層はシリコンドープされており、ドーピング濃度は、3e12cm-2から5e12cm-2である、請求項2に記載のPHEMT。
【請求項4】
前記下部バリア層は、第2の分離層及び第2のドープト層を介して前記チャネル層に接続され、前記第2の分離層は、前記チャネル層を前記第2のドープト層から分離するように構成され、前記第2のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される、請求項1に記載のPHEMT。
【請求項5】
前記第1のドープト層のドーピング濃度は、3.5e12cm-2から4.5e12cm-2であり、前記第2のドープト層のドーピング濃度は、3e11cm-2から5e11cm-2である、請求項4に記載のPHEMT。
【請求項6】
前記第2のドープト層のドーピング濃度に対する前記第1のドープト層のドーピング濃度の比が、予め設定された値よりも大きい、請求項4に記載のPHEMT。
【請求項7】
前記予め設定された値は9より大きい、請求項6に記載のPHEMT。
【請求項8】
前記第1のドープト層の前記濃度及び前記第2のドープト層の前記濃度の値は、当該PHEMTがオン状態にあるときに、前記チャネル層の前記伝導帯エネルギーレベルが前記フェルミエネルギーレベルよりも低いことを可能にする、請求項3乃至7のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項9】
前記チャネル層の厚さは15-20nmである、請求項1乃至のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項10】
当該PHEMTの前記出力電流が第2の閾値よりも小さいとき、前記チャネル層の前記伝導帯エネルギーレベルは実質的に厚さ方向に低下する、請求項1乃至のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項11】
当該PHEMTは更に、キャップ層、ソース、ドレイン、及びゲートを有し、前記キャップ層は、前記上部バリア層の前記チャネル層から遠い側に配置され、且つオーミックコンタクトを提供するための貫通孔を備え、前記ゲートは前記貫通孔内に配置され、前記ソース及び前記ドレインは、どちらも前記キャップ層の前記上部バリア層から遠い側に配置され、且つ前記貫通孔の両側にそれぞれ位置する、請求項1乃至のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項12】
前記チャネル層は、インジウムガリウム砒素からなり、前記上部バリア層、前記下部バリア層、又は前記分離層は、アルミニウムガリウム砒素からなる、請求項1乃至のいずれか一項に記載のPHEMT。
【請求項13】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のPHEMTを有する、無線周波数チップ。
【請求項14】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のPHEMTを有する電子機器。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
擬似 の出願は、半導体デバイス技術の分野に関し、特に、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ、低雑音増幅器、及び関連装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、受信信号が低雑音増幅器LNAを通り抜けるとき、無線通信プロダクトのアンテナ端の受信リンク上の受信信号と、該受信リンクへと漏れる送信信号とで、相互変調信号を生成し、相互変調歪み(intermodulation distortion,IMD)を生じる。これは、LNAの非線形な特性によって引き起こされる。3次相互変調積の周波数が受信信号の周波数に非常に近いので、3次相互変調積は受信リンクにおける後続のフィルタによって抑圧されることができず、リンク上の受信信号に対する干渉を生じさせる。
【発明の概要】
【0003】
この出願の実施形態は、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタPHEMT、低雑音増幅器、及び関連装置を提供する。PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。これは、小さい出力電流下でのPHEMTの線形性を改善し、LNA非線形性によって引き起こされる相互変調歪みを低減させる。
【0004】
第1の態様によれば、この出願の一実施形態は、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタPHEMTを提供し、当該PHEMTは、
チャネル層と、
チャネル層の両側にそれぞれ配置された下部バリア層及び上部バリア層であり、当該下部バリア層はチャネル層に接続される、下部バリア層及び上部バリア層と、
チャネル層と上部バリア層との間に配置された第1の分離層及び第1のドープト層であり、当該第1の分離層は、当該第1のドープト層をチャネル層から分離するように構成され、当該第1のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される、第1の分離層及び第1のドープト層と、
を含み、
当該PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。
【0005】
当該PHEMTの出力電流が第1の閾値よりも小さいときに、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低いように、当該PHEMT内のチャネル層のエネルギーレベル構造が調整される。これは、小さい出力電流下でのPHEMTの線形性を改善し、LNA非線形性によって引き起こされる相互変調歪みを低減させる。
【0006】
取り得る一実装において、下部バリア層はチャネル層に直接接続される。
【0007】
PHEMT内の下部ドープト層が除去されることで、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配がより小さくなり、小電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低くなる。
【0008】
取り得る一実装において、第1のドープト層はシリコンドープされており、ドーピング濃度は、3e12cm-2から5e12cm-2である。
【0009】
取り得る一実装において、第1のドープト層のドーピング濃度は代わりに、5e12cm-2から6e12cm-2であってもよい
【0010】
当該PHEMT内の第1のドープト層の濃度が増加されることで、当該PHEMTの利得が増加される。
【0011】
取り得る一実装において、下部バリア層は、第2の分離層及び第2のドープト層を介してチャネル層に接続され、第2の分離層は、チャネル層を第2のドープト層から分離するように構成され、第2のドープト層は、2次元電子ガスを提供するように構成される。
【0012】
当該PHEMTは、ダブルドープトトPHEMT、例えば、ダブルδドープトPHEMTである。
【0013】
取り得る一実装において、第1のドープト層のドーピング濃度は、3.5e12cm-2から4.5e12cm-2であり、第2のドープト層のドーピング濃度は、3e11cm-2から5e11cm-2である。
【0014】
取り得る一実装において、第1のドープト層のドーピング濃度は、4e12cm-2から6e12cm-2であり、第2のドープト層のドーピング濃度は、2e8cm-2から3e11cm-2である。
【0015】
取り得る一実装において、第2のドープト層のドーピング濃度に対する第1のドープト層のドーピング濃度の比が、予め設定された値よりも大きい。
【0016】
オプションで、予め設定された値は、6より大きい正の数であり、例えば、9、10、15、30、70、100、又は150である。
【0017】
当該PHEMTの総ドーピング濃度が変わらない又は減少しない場合、下部ドープト層(第2のドープト層)のドーピング濃度が減少され、又は下部ドープト層(第2のドープト層)のドーピング濃度に対する上部ドープト層(第1のドープト層)のドーピング濃度の比が増加されることで、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配が小さくなり、小電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低くなる。
【0018】
取り得る一実装において、チャネル層の厚さは15-20nm、18-20nm、又は20-25nmであり、例えば18nmである。
【0019】
取り得る一実装において、当該PHEMTの出力電流が第2の閾値よりも小さいとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルは実質的に厚さ方向に低下する。
【0020】
当該PHEMTのチャネル層の厚さが増加され、デバイスが動作するときチャネル層の下に蓄積される電子が回避されることで、電子がより均一に分布する。これは、当該PHEMTの線形性を向上させる。
【0021】
取り得る一実装において、当該PHEMTは更に、キャップ層、ソース、ドレイン、及びゲートを含み、キャップ層は、上部バリア層のチャネル層から遠い側に配置され、且つオーミックコンタクトを提供するための貫通孔を備え、ゲートは貫通孔内に配置され、ソース及びドレインは、どちらもキャップ層の上部バリア層から遠い側に配置され、且つ貫通孔の両側にそれぞれ位置する。
【0022】
取り得る一実装において、チャネル層は、インジウムガリウム砒素からなり、上部バリア層、下部バリア層、又は分離層は、アルミニウムガリウム砒素からなる。
【0023】
第2の態様によれば、この出願の一実施形態は更に、第1の態様又は第1の態様の取り得る実装のうちのいずれか一に従ったPHEMTを含む低雑音増幅器を提供する。
【0024】
第3の態様によれば、この出願の一実施形態は更に、第2の態様に従った低雑音増幅器を含む無線周波数回路を提供する。
【0025】
第4の態様によれば、この出願の一実施形態は更に、第1の態様又は第1の態様の取り得る実装のうちのいずれか一に従ったPHEMT、第2の態様に従った低雑音増幅器、及び第3の態様に従った無線周波数回路のうちの少なくとも1つを含む無線周波数チップを提供する。
【0026】
第5の態様によれば、この出願の一実施形態は更に、第1の態様又は第1の態様の取り得る実装のうちのいずれか一に従ったPHEMT、第2の態様に従った低雑音増幅器、第3の態様に従った無線周波数回路、及び第4の態様に従った無線周波数チップのうちの少なくとも1つを含む電子機器を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
この出願の実施形態における技術的ソリューションをより明確に説明するために、以下にて、実施形態を説明するための添付の図面を簡単に説明する。
図1】この出願の一実施形態に従った、アンテナ端受信リンク上で生成される相互変調信号の概略説明図である。
図2A】従来技術に従ったダブルδドープトPHEMTの構造の概略図である。
図2B図2Aに示すPHEMTの直流出力特性カーブの図の一例である。
図2C図2Aに示すPHEMTのエネルギーバンド構造の概略図である。
図2D】異なる出力電流の下での図2Aに示すPHEMTのOIP3値のカーブの図の一例である。
図3】従来技術におけるOIP3値を定義する概略図である。
図4】この出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTの断面構造の概略図である。
図5】この出願の一実施形態に従ったダブルδドープトPHEMTの断面構造の概略図である。
図6A図6A及び図6Bは、異なる出力電流の下での、従来技術に従ったダブルδドープトPHEMT及びこの出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTそれぞれのOIP3値のカーブの図の一例を示している
図6B図6A及び図6Bは、異なる出力電流の下での、従来技術に従ったダブルδドープトPHEMT及びこの出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTそれぞれのOIP3値のカーブの図の一例を示している
図7A】従来技術に従ったダブルδドープトPHEMTのエネルギーバンドの図の一例である。
図7B】この出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTのエネルギーバンドの図の一例である。
図7C】この出願の一実施形態に従った、チャネル層におけるシングルδドープトPHEMT及びダブルδドープトPHEMTの伝導帯構造の図の一例である。
図8】60mA/mmの出力電流下での、チャネル層がそれぞれ12nm厚及び18nm厚であるダブルδドープトPHEMTの電子濃度分布の図である。
図9】この出願の一実施形態に従ったLNAの回路構造の概略図である。
図10】この出願の一実施形態に従った無線周波数システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
一般に、相互変調信号によって受信信号に引き起こされる干渉を低減させる方法が2つる。
【0029】
1つの方法では、受信リンクへの送信信号のリークを抑制するために、デュプレクサのアイソレーションが高められる。デュプレクサは、ダイプレクサとも呼ばれ、送信リンク及び受信リンクの双方が同時に動作できることを確保するために、共用アンテナによって送信される送信信号を、共用アンテナによって受信される受信信号からアイソレートするように機能する。相互変調信号によって受信信号に引き起こされる干渉を抑制するためにデュプレクサのアイソレーションが高められる場合、デュプレクサのキャビティを大きくする必要がある。これは、デュプレクサのサイズを増大させ、コストも大幅に増加させる。
【0030】
もう1つ方法では、リーク信号と受信信号とによって生成され、フィルタによってでは完全に抑圧できない相互変調信号を低減させるために、低雑音増幅器(LNA)の線形性が改善される。LNAの線形性は、トランジスタのコアによって決定される。トランジスタは、擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ(pseudomorphic high electron mobility transistor,PHEMT)を使用することがある。
【0031】
図2Aは、ガリウム砒素(GaAs)系PHEMTの典型的な構造を示している。PHEMTのコアのエピタキシャル層は、上から下に、それぞれ、バッファ層、下部バリア層、下部δドープト層、下部分離層、チャネル層、上部分離層、上部δドープト層、上部バリア層、及びキャップ層である。ガリウム砒素(GaAs)系PHEMTの場合、基板上のバッファ層は、ガリウム砒素又はアルミニウムガリウム砒素からなることができ、基板の欠陥がPHEMTの別の層に入るのを防止するように構成される。下部バリア層及び上部バリア層は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)からなることができ、2次元電子ガスがバッファ層に入るのを防止するように構成される。下部δドープト層及び上部δドープト層はどちらも、シリコン(Si)ドープされることができ、2次元電子ガスを提供するように構成される。上部分離層及び下部分離層は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)からなることができ、ドープト層をチャネル層から分離するように構成される。チャネル層はインジウムガリウム砒素(InGaAs)からなることができる。キャップ層は、高濃度ドープされたガリウム砒素からなることができ、ソース及びドレインを接続する。ソースとドレインとの間の出力電流を制御することができるように、ゲート電圧を用いることによってチャネル層の電子濃度が制御される。これは信号増幅機能を実現する。図2Bは、図2Aに示すPHEMTの直流出力特性カーブを示している。例えば、図2Bには、PHEMTの5つの動作状態、すなわち、オフ状態(1)、オンしかけ状態(2)、オン状態(3)、完全オン状態(4)、及び線形動作状態(5)をそれぞれ区別するために、5つの異なるゲート電圧が示されている。
【0032】
図2Cは、5つの異なる動作状態における、図2Aに示すPHEMTのエネルギーバンド構造の概略図である。理解されるべきことには、図2Cの各エネルギーバンド構造の図は、単に、全ての層の伝導帯構造を示しており、左から右に、すなわち、厚さ方向に、キャップ層、上部バリア層、上部δドープト層、上部分離層、チャネル層、下部分離層、下部δドープト層、及び下部バリア層の伝導帯を順に含んでいる。図には、上部δドープト層、下部δドープト層、チャネル層の位置のみが記されている。
【0033】
図2Cに示されるように、PHEMTがオフ状態(1)にあるとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルは、フェルミエネルギーレベル よりも遥かに高い。ゲート電圧が増加するにつれ、PHEMTがオンしかけ状態(2)になると、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベル に近づく。ゲート電圧が更に増加するにつれ、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルが部分的にフェルミエネルギーレベル よりも低くなると、特定量の自由電子がチャネル層に現れる。この場合、PHEMTはオン状態(3)にある。ゲート電圧が更に増加するにつれ、チャネル層の伝導帯構造は、オン状態(3)での左上がり右下がりの形態から、完全オン状態(4)での形態へ、そして、線形動作状態(5)での形態へと順に変化する。すなわち、チャネル層の上側(つまりは、図2Dにおける左側、すなわち、上部分離層に隣接する側)にキャリアが位置する傾向がある。
【0034】
しかしながら、無線周波数システムの受信リンクにおける低電力消費及び低雑音の要件を満たすために、LNAは、実質的に、出力電流密度が60-100mA/mmに制限された状態、すなわち、図2CにおけるPHEMTのオン状態(3)で動作する。
【0035】
無線周波数回路におけるLNAの低電力消費及び低雑音係数の要件を満たすために、動作点の出力電流は、実質的に60-100mA/mmに制限される。高電子移動度の特性により、PHEMTは、低濃度の2次元電子ガスのみで動作状態電流に達することができる。結果として、ほとんどの動作点がPHEMTのターンオン電圧付近にある。しかしながら、この範囲におけるPHEMTの線形性は小さく、用途の要件を満たすことができない。PHEMTの線形性は、出力3次インターセプトポイント(output 3rd order intercept point,OIP3)によって表される。より高いOIP3は、より高い直線性を示す。図2Dに示されるように、異なる出力電流の下での図2Aに示すPHEMTのOIP3値のカーブは、図2Bに示す直流出力特性カーブに基づいて、計算を通じて取得され得る。図2Dからわかることには、出力電流が60mAであるとき、PHEMTのOIP3値は約36dBmであり、41dBm以上であるという要件を満たすことができない。従って、出力電流が小さいとき、すなわち、PHEMTがちょうどターンオンされるときにデバイスの線形性をどのように改善するかが、現在解決すべき喫緊の技術的問題である。
【0036】
以下にて、この出願の実施形態における技術用語を説明する。
【0037】
(1)LNA
【0038】
LNAは、無線通信システムの重要な回路であり、非常に低い雑音係数を有する増幅器であり、アンテナによって受信された信号を増幅するように機能する。アンテナからの受信信号は弱い。このような弱い信号を増幅するには、信号品質を確保することが最も重要である。この目的のために、LNAは、あまり多くのノイズを導入することができない。さもなければ、信号が更に劣化することになり、復調を行うことができない。
【0039】
ほとんどのLNAは、トランジスタ及び電界効果トランジスタを使用している。この出願の実施形態において、LNAは擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ(PHEMT)を使用する。
【0040】
(2)相互変調信号
【0041】
相互変調信号は、無変調信号と有用な信号とが非線形デバイスを通り、そして互いに相互作用するときに生成される相互変調周波数信号である。相互変調信号の周波数は有用な信号の周波数に非常に近いので、バックエンドフィルタでは相互変調信号をほとんど抑圧することができない。図1に示したように、受信信号(つまりは、有用な信号)と、受信リンクに漏れ入る送信信号(つまりは、干渉信号)とが同時にLNAを通るとき、非線形効果により、それら2つの信号によって生成される相互変調信号の周波数は、時にして、受信信号の周波数に正確に等しくなったり近くなったりすることがあり、その結果、相互変調信号は受信器をスムーズに通過する。3次相互変調信号は、相互変調干渉と呼ばれる最も深刻な干渉を引き起こす。
【0042】
(3)PHEMT
【0043】
PHEMTは、高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transistor,HEMT)の改良である。PHEMTはダブルヘテロ接合構造を持ち、PHEMTの2次元電子ガス2DEGはポテンシャル井戸の両側にダブルリミッティング効果を持つ。従って、HEMTと比べて、PHEMTは、高い電子表面密度を持つとともに、高い電子移動度を持つ。
【0044】
図2Aは、典型的なダブルδドープトPHEMTを示している。
【0045】
(4)OIP3
【0046】
PHEMTの線形性は、出力3次インターセプトポイント(OIP3)によって表され得る。より高いOIP3値は、より高い直線性を示す。OIP3値は、PHEMT無線周波数入力及び出力カーブから作図によって取得され得る。図3に示すように、具体的には2つのカーブが描かれる。一方のカーブは、入力電力に対する入力周波数における増幅信号電力のカーブであり、他方のカーブは、入力電力に対する3次相互変調信号のカーブである。対数座標系において、線形増幅信号のカーブは、1の傾きを有する直線として表され、3次相互変調信号のカーブは、3の傾きを有する直線として表される。これら2つのカーブの交点に対応する出力信号電力がOIP3値である。
【0047】
(5)出力電流
【0048】
この出願の実施形態における出力電流は、ドレインから出力される電流としても参照される。小さい出力電流は簡潔に小電流とも称される。小さい出力電流は、出力電流が第1の閾値よりも小さい又は第2の閾値よりも小さいことを意味し、第1の閾値又は第2の閾値は、PHEMTがちょうどターンオンされるときに存在する電流密度とし得る。あるいは、小さい出力電流は、PHEMTの出力電流密度が40-200mA/mm又は60-100mA/mmであることを意味する。第1の閾値は第2の閾値と等しくてもよいし、等しくなくてもよい。この出願の実施形態では、小さい出力電流が60mA/mmである例が説明される。この出願の実施形態における電流は電流密度も指す。
【0049】
この出願の実施形態では、PHEMTのチャネル層のエネルギーバンド構造が調整されるように、PHEMT内の全ての層構造の厚さ及び材料などが設計され、特に、エピタキシャル層の厚さ、ドープト層のドーピング濃度、及び他の構造が設計される。従って、PHEMTが小さい出力電流下で動作するとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルはフェルミエネルギーレベルよりも低い。ゲート電圧が増加するにつれて、フェルミエネルギーレベル付近の電子濃度の増加はチャネル層の電子濃度に対してあまり影響を持たなくなる。これはPHEMTの線形性を向上させる。伝導帯構造の観点から、オン状態(3)においてチャネル層の伝導帯勾配がより小さい。
【0050】
以下、チャネル層のエネルギーバンド構造の調整メカニズムを説明する。
【0051】
チャネル層のエネルギーバンド構造に影響を与える以下の幾つかの主要因が存在する。
【0052】
a:チャネル層とゲートとの間の距離。この距離は、チャネル層のエネルギーレベルに影響を与える。
【0053】
b:上部/下部ドープト層のドーピング濃度。ドープト層は、そのドープト層の上の構造のエネルギーバンドの屈曲度合いを変化させる。例えば、上部ドープト層のドーピング濃度が増加すると、上部バリア層のエネルギーバンドの屈曲度合いが大きくなり、厚さ方向における上部バリア層のエネルギーレベルの勾配が大きくなる。他の一例では、下部ドープト層のドーピング濃度が増加すると、チャネル層のエネルギーバンドの屈曲度合いが大きくなり、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配が大きくなる。従って、下部ドープト層の濃度が低減されることで、チャネル層のエネルギーバンドの屈曲度合いが小さくなり、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配が小さくなり、小さい出力電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルが、フェルミエネルギーレベルよりも低くなる。
【0054】
c:上部/下部ドープト層のドーピング濃度の比。PHEMTが小電流下で動作するときにチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低いという要件を満たすために、下部ドープト層のドーピング濃度が低減される。しかしながら、上部/下部ドープト層の総ドーピング濃度はキャリア濃度に影響を及ぼす。これはデバイスの性能に影響する。また、より高いドーピング濃度は、デバイスのより高いターンオン電圧を示す。従って、総ドーピング濃度は、過度に低くても過度に高くてもいけない。
【0055】
d:チャネル層の厚さ。チャネル層の厚さは、電子及び電流の分布に影響を及ぼす。厚いチャネル層とすると、デバイスが動作するときにチャネル層の下に蓄積される電子を回避することができ、その結果、電子がいっそう均一に分布する。これはPHEMTの線形性を向上させる。
【0056】
従って、上述の幾つかの要因を参照して、この出願の実施形態は、チャネル層のエネルギーバンド構造を調整するための以下の幾つかのソリューションを提供する。それ故に、PHEMTが小電流下で動作するとき、チャネル層の伝導帯エネルギーレベルはフェルミエネルギーレベルよりも低い。
【0057】
ソリューション1:下部ドープト層が除去されることで、厚さ方向におけるチャネル層のエネルギーレベルの勾配がより小さくなり、小電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低くなる。
【0058】
ソリューション2:総ドーピング濃度が減少しない場合、下部ドープト層のドーピング濃度が減少され、又は下部ドープト層のドーピング濃度に対する上部ドープト層のドーピング濃度の比が増加される。
【0059】
ソリューション3:チャネル層の厚さが増加される。
【0060】
上記ソリューション1、2、及び3の組み合わせ、上部バリア層の厚さ及び/又は上部分離層の厚さの調整と上記ソリューション1、2、及び3のうちの少なくとも1つとの組み合わせ、並びにこれらに類するものも存在し得る。
【0061】
上述のソリューションでは、小電流下での動作中にチャネル層の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低くなるように、PHEMT内の全ての層構造の厚さ及びドーピング濃度が調整される。斯くして、PHEMTの線形性を改善することができ、PHEMTによって形成されるLNAの線形性を改善することができ、LNAによって出力される相互変調信号を低減させることができ、信号品質を改善することができる。
【0062】
以下、この出願の実施形態における添付の図面を参照して、この出願の実施形態を明確且つ詳細に説明する。
【0063】
図4は、PHEMTの断面構造の概略図である。上記ソリューション1を用いることによって、あるいは、上記ソリューション1と、上部バリア層の厚さ及び/又は上部分離層の厚さの調整、上記ソリューション2、及び上記ソリューション3のうちの少なくとも1つとの組み合わせを用いることによって、チャネル層のエネルギーバンド構造が調整される。
【0064】
図4に示すように、PHEMTは、シングルδドープされており、基板1と、基板1上に順に配置されたバッファ層2、下部バリア層3、チャネル層4、上部分離層5、第1のドープト層6、上部バリア層7、及びキャップ層8と、キャップ層8上に配置されたソース9及びドレイン10と、上部バリア層7上に配置されたゲート11とを含んでいる。以下では、GaAs系PHEMTを例として用いて、各層の機能、組成、及び厚さなどを説明する。
【0065】
基板1はガリウム砒素(GaAs)ウエハとし得る。
【0066】
バッファ層2は、ガリウム砒素(GaAs)又はアルミニウムガリウム砒素(AlGa1-xAs)、ただし、0<x<1からなり得る。バッファ層2は、基板1の欠陥がPHEMTのコアに入ることを防止することができる。一般に、基板1と下部バリア層3との間の格子不整合によって生じる欠陥を減少させることができるように、バッファ層におけるAlのドーピング濃度は、基板1から離れる方向に徐々に増加する。
【0067】
下部バリア層3はアルミニウムガリウム砒素(AlGa1-xAs)からなり得る。下部バリア層3のバンドギャップ幅は、チャネル層4のバンドギャップ幅よりも大きい。下部バリア層3とチャネル層4とで、負接合であるヘテロ接合を形成する。下部バリア層3の厚さは、10-50nm又は10-25nmとすることができ、例えば、17nm又は20nmなどとし得る。
【0068】
例えば、バッファ層2におけるAlの最大ドーピング濃度は、下部バリア層3におけるAlのドーピング濃度以下である。
【0069】
チャネル層4は、インジウムガリウム砒素(InGa1-yAs)、ただし、0<y<1からなり得る。例えば、yの値の範囲は0.1-0.5とし得る。例えば、yは0.22又は0.3である。
【0070】
一部の実施形態において、チャネル層4の厚さは、8nm又は12nmよりも大きく、チャネルエピタキシャル層の臨界厚さよりも小さいとし得る。例えば、In0.22Ga0.78Asからなるチャネル層の臨界厚さは約20nmである。臨界厚さは、インジウム含有量が減少するにつれて増加する。オプションで、チャネル層4の厚さは、8-30nm、12-30nm、又は15-20nmとすることができ、例えば、17nm、18nm、20nm、又は24nmなどとし得る。チャネル層4の厚さが増加されることで、チャネル層4内の電子及び電流の分布が改善され得る。これは、チャネル層4の下の電子の蓄積を回避し、縦方向(つまりは、PHEMTの積層方向)の電流を低減させ、PHEMTの線形性を向上させる。
【0071】
例えば、チャネル層4はIn0.22Ga0.78Asからなり、厚さは18nmである。
【0072】
上部分離層5は、チャネル層4を第1のドープト層6から分離して、第1のドープト層6のドーピング不純物がチャネル層4に入るのを防止するように構成される。上部分離層5は、アルミニウムガリウム砒素からなることができ、厚さは2-6nm、例えば4nm又は6nmとすることができる。上部分離層5は、第1の分離層としても参照される。
【0073】
第1のドープト層6は、δドープされることができ、上部δドープト層としても参照される。第1のドープト層6はシリコンドープされ得る。上部分離層5上にドーピング不純物としてシリコンの薄い層が成長され、イオン化された後に2次元電子ガスを提供する。第1のドープト層6は数原子の厚さとすることができ、厚さは、2nm未満であり、例えば、1nm又は1nm未満である。
【0074】
例えば、第1のドープト層6のドーピング濃度は、従来技術のダブルδドープトPHEMTにおける2つのドープト層のドーピング濃度の合計であり、あるいは、該ドーピング濃度は、3e12cm-2から5e12cm-2、5e12cm-2から6e12cm-2、1e12cm-2から3e12cm-2、4.6e12cm-2から5.5e12cm-2、又は5.5e12cm-2から6.5e12cm-2であり、例えば、4.5e12cm-2である。
【0075】
上部バリア層7は、アルミニウムガリウム砒素(AlGa1-xAs)からなり得る。上部バリア層7のバンドギャップ幅は、チャネル層4のバンドギャップ幅よりも大きい。上部バリア層7と、第1のドープト層6と、上部分離層5と、チャネル層4とで、正の接合であるヘテロ接合を形成する。上部バリア層7の厚さは、10-30nm又は10-25nmとすることができ、例えば、15nm、17nm、又は20nmなどとし得る。
【0076】
キャップ層8は、高濃度ドープされたガリウム砒素(n-GaAs)からなることができ、厚さは5-10nmとし得る。キャップ層8はオーミック接触を提供するように構成される。
【0077】
キャップ層8は貫通孔を備える。ゲート11は、貫通孔内に配置され、キャップ層8とは接触しない。ソース9及びドレイン10は、どちらもキャップ層8の上部バリア層7から遠い側に配置され、貫通孔の両側にそれぞれ位置する。
【0078】
ソース9、ドレイン10、ゲート11は全て、導電性の金属からなる。ゲート11は、PHEMTにゲート電圧を提供するように構成される。ゲート電圧がターンオン電圧よりも高いとき、ソース9とドレイン10とが接続され、ドレイン電流が出力される。
【0079】
この出願のこの実施形態では、下部バリア層3がチャネル層4に直接接続される。ここで、“直接接続”は直接接触を意味する。換言すれば、下部バリア層3とチャネル層4との間に、他の層構造は含まれていない。
【0080】
なお、バッファ層2、下部バリア層3、上部分離層5、及び上部バリア層7は全て、アルミニウムガリウム砒素(AlGa1-xAs)を用い得るが、これらの層におけるAlのドーピング濃度は同じであってもよいし、異なってもよい。これは、ここで限定されることではない。例えば、下部バリア層3、上部分離層5、及び上部バリア層7は全て、Al0.22Ga0.78Asを用いる。
【0081】
この出願のこの実施形態で提供されるシングルδドープトPHEMTによれば、上部バリア層7のバンドギャップ幅及び下部バリア層3のバンドギャップ幅がどちらもチャネル層4のバンドギャップ幅よりも大きいので、当該シングルδドープトPHEMTは、1つのドープされた正の接合(上部バリア層7/第1のドープト層6/上部分離層5/チャネル層4)と、1つのドープされていない負の接合(チャネル層4/下部バリア層3)とを持つ。ゲート電圧がターンオン電圧よりも高いとき、ドーピング不純物がイオン化される。上部バリア層7のバンドギャップ幅とチャネル層4のバンドギャップ幅とが異なるため、伝導帯は連続でなく、電子がチャネル層の片側に移動して2次元電子ガスを形成する。ソース9とドレイン10とが接続され、ドレイン電流が出力される。
【0082】
この出願のこの実施形態では、チャネル層のエネルギーバンド構造の上述の調整メカニズムに基づいて、下部ドープト層が除去され、上部ドープト層(すなわち、第1のドープト層6)の適切な濃度が選択され、チャネル層4、上部バリア層7、及び上部分離層5の適切な厚さが選択される。得られるシングルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低く、あるいは、チャネル層4と上部分離層5との間の境界における伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。オプションで、当該PHEMTにおいて、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルが厚さ方向に実質的に低下する。この出願のこの実施形態において、厚さ方向は、キャップ層から基板への方向である。図4に示される方向を参照されたい。この実質的な減少は、以下の2つのケースを含み得る。
【0083】
1. チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルが厚さ方向に低下する。換言すれば、上部バリア層からの距離が遠いことは、より低い伝導帯エネルギーレベルを示す。
【0084】
2. チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルが厚さ方向に実質的/巨視的に下降傾向にある。換言すれば、上部バリア層から微視的に離れた小領域において、伝導帯エネルギーレベルが相対的に高いことが許される。
【0085】
例えば、上部バリア層7の厚さは3-7nmである。上部分離層5の厚さは4nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.0-4.5e12cm-2である。チャネル層の厚さは12nmである。
【0086】
例えば、上部バリア層7の厚さは5nmである。上部分離層5の厚さは3-5nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.0-4.5e12cm-2である。チャネル層の厚さは8-14nmである。
【0087】
従来技術におけるダブルδドープトPHEMTとは異なり、この出願のこの実施形態はシングルδドープトPHEMTを提供する。総ドープ濃度が変えられないまま又は減少しない場合、上部バリア層7上のみでδドーピングが行われ、下部ドープト層は除去されて、厚さ方向におけるチャネル層4の伝導帯エネルギーレベルの勾配を低減させ、その結果、利得(つまりは、相互コンダクタンスgm)に影響を及ぼすことなく、小さい出力電流下でのPHEMTの線形性を改善することができる。
【0088】
また、チャネル層4の厚さが増加されることで、チャネル層4内の電子及び電流の分布を改善することができる。これは、チャネル層4の下の電子の蓄積を回避し、縦方向(つまりは、PHEMTの積層方向)の電流を減少させ、PHEMTの線形性を更に改善することができる。
【0089】
図5は、この出願の一実施形態に従った他のPHEMTを示している。当該PHEMTはダブルドープトPHEMTとし得る。図4に示した層構造に加えて、当該PHEMTは更に、第2のドープト層12及び下部分離層13を含み得る。
【0090】
第1のドープト層6及び第2のドープト層12の両方がδドープされ得る。従って、第1のドープト層6は上部δドープト層6としても参照され、第2のドープト層12は下部δドープト層12としても参照される。第1のドープト層6及び第2のドープト層12はどちらもシリコンドープされ得る。上部分離層5及び下部バリア層3の各々上にドーピング不純物としてシリコンの薄い層が成長され、イオン化された後に2次元電子ガスを提供する。第1のドープト層6及び第2のドープト層12はどちらも数原子の厚さとすることができ、厚さは、2nm未満であり、例えば、1nm又は1nm未満である。第1のドープト層6のドーピング濃度は、第2のドープト層12のドーピング濃度よりも高い。
【0091】
下部分離層13は、第2のドープト層12をチャネル層4から分離して、第2のドープト層12のドーピング不純物がチャネル層4に入るのを防止するように構成される。下部分離層13は、ガリウム砒素からなることができ、厚さは2-6nm、例えば4nmとし得る。下部分離層13は第2の分離層としても参照される。
【0092】
なお、バッファ層2、下部バリア層3、上部分離層5、下部分離層13、及び上部バリア層7は全て、アルミニウムガリウム砒素を用い得るが、これらの層におけるAlのドーピング濃度は同じであってもよいし、異なってもよい。これは、ここで限定されることではない。
【0093】
この出願のこの実施形態で提供されるダブルδドープトPHEMTによれば、上部バリア層7のバンドギャップ幅及び下部バリア層3のバンドギャップ幅がどちらもチャネル層4のバンドギャップ幅よりも大きいので、当該ダブルδドープトPHEMTは、1つのドープされた正の接合(上部バリア層7/第1のドープト層6/上部分離層5/チャネル層4)と、1つのドープされた負の接合(チャネル層4/下部分離層13/第2のドープト層12/下部バリア層3)とを持つ。ゲート電圧がターンオン電圧よりも高いとき、ドーピング不純物がイオン化される。バリア層のバンドギャップ幅とチャネル層4のバンドギャップ幅とが異なるため、伝導帯は連続でなく、電子がチャネル層の片側に移動して2次元電子ガスを形成する。ソース9とドレイン10とが接続され、ドレイン電流が出力される。
【0094】
一部の実施形態において、チャネル層のエネルギーバンド構造が、上述のソリューション3を使用することによって調整される。図5に示すPHEMTにおいて、チャネル層4の厚さは、12nmより大きく、且つチャネルエピタキシャル層の臨界厚さより小さい(すなわち、InGaAsチャネルエピタキシャル層の移動限界を超えない)。従って、当該ダブルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。例えば、チャネル層4の厚さは、8-30nm、12-30nm、又は15-20nmであり、例えば、17nm、18nm、20nm、又は24nmなどである。チャネル層4の厚さ又は臨界厚さは、インジウムの含有量に関係する。より少ないインジウムの含有量は、より大きい厚さを示す。例えば、チャネル層4はIn0.22Ga0.78Asからなり、厚さは18nmである。
【0095】
上述のダブルδドープトPHEMTでは、チャネル層4の厚さが増加されることで、チャネル層4内の電子及び電流の分布を改善することができる。これは、チャネル層4の下の電子の蓄積を回避し、厚さ方向の電流を低減させ、PHEMTの線形性を改善することができる。
【0096】
一部の他の実施形態において、チャネル層のエネルギーバンド構造が、上述のソリューション2を使用することによって調整される。従って、当該ダブルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。
【0097】
例えば、第1のドープト層6のドーピング濃度は、3.5-4.5e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は、3-5e11cm-2である。
【0098】
例えば、第1のドープト層6のドーピング濃度と第2のドープト層12のドーピング濃度との比が、予め設定された値よりも大きい。予め設定された値は、6以上であり、例えば、9、10、15、30、70、100、又は150などである。
【0099】
他の一例では、第1のドープト層6のドーピング濃度は4-6e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は、2e8cm-2から3e11cm-2、1e6cm-2から1e11cm-2、又は1e6cm-2から1e8cm-2である。
【0100】
他の一例では、第1のドープト層6のドーピング濃度は、3.5-4.5e12cm-2、4.5-6e12cm-2、又は4.6-5.5e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は、2e8cm-2から3e11cm-2である。
【0101】
当該ダブルδドープトPHEMTでは、上部/下部δドープト層のドーピング濃度及びドーピング濃度の比が調整されることで、第2のドープト層12によって生じるチャネル層4のエネルギーレベルの勾配が低減される。従って、デバイスが低電流下で動作するとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。これはデバイスの線形性を改善する。
【0102】
一部の他の実施形態において、チャネル層のエネルギーバンド構造が、上述のソリューション2及びソリューション3を使用することによって調整される。従って、当該ダブルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。例えば、チャネル層の厚さは18nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.5-4.5e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は2e8cm-2から3e11cm-2である。あるいは、第1のドープト層6のドーピング濃度と第2のドープト層12のドーピング濃度との比が、予め設定された値よりも大きいように設定される。予め設定された値は、6以上であり、例えば9である。
【0103】
ダブルδドープトPHEMTでは、上部/下部ドープト層のドーピング濃度及びドーピング濃度の比が調整されることで、下部ドープト層によって生じるチャネル層4のエネルギーレベルの勾配が低減される。従って、デバイスが低電流下で動作するとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。これはデバイスの線形性を改善する。
【0104】
一部の他の実施形態において、チャネル層のエネルギーバンド構造が、ソリューション2及び/又はソリューション3と、上部バリア層及び/又は上部分離層の厚さの調整との組み合わせを使用することによって調整される。従って、当該ダブルδドープトPHEMTでは、出力電流が小電流であるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルがフェルミエネルギーレベルよりも低い。
【0105】
例えば、上部バリア層7の厚さは3-7nmである。上部分離層5の厚さは3-5nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.0-4.5e12cm-2である。第2のドープト層12のドーピング濃度は3-5e11cm-2である。チャネル層の厚さは18nmである。
【0106】
他の一例では、上部バリア層7の厚さは3-7nmである。上部分離層5の厚さは3-5nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は、3.0-4.5e12cm-2である。第2のドープト層のドーピング濃度は2e8cm-2から3e11cm-2である。チャネル層の厚さは14-20nmである。
【0107】
他の一例では、上部バリア層7の厚さは5nmである。上部分離層5の厚さは4nmである。第1のドープト層6のドーピング濃度は3.0-4.5e12cm-2である。第2のドープト層のドーピング濃度は2e8cm-2から3e11cm-2である。チャネル層の厚さは14-20nmである。
【0108】
また、上述の実施形態において、PHEMTが小さい出力電流下にあるとき、チャネル層4の伝導帯エネルギーレベルが厚さ方向に実質的に低下する。
【0109】
一部の他の実施形態において、図4又は図5の各層構造は、代わりに、別の材料からなって、別の厚さを有してもよく、例えば、ガリウム砒素の三元、四元、又は多元化合物からなってもよい。他の一例では、当該PHEMTはガリウム燐(GaP)系PHEMTである。
【0110】
なお、図4及び図5の説明において、上部ドープト層又は上部δドープト層は第1のドープト層6に対応し、下部ドープト層又は下部δドープト層は第2のドープト層12に対応する。
【0111】
なお、また、明確な説明のために、図4及び図5における層の厚さは、層の実際の厚さ又は厚さ比に対応しておらず、具体的な厚さ範囲は、上述の層に対して指定される厚さに従う。
【0112】
従来技術と比較して、この出願のこの実施形態で提供されるシングルδドープトPHEMTのOIP3値は大幅に高くなる。出力ドレイン電流が60-100mAであるとき、当該シングルδドープトPHEMTのOIP3値は、5dBmより大きく増加する。具体的なデータを図6A及び図6Bに示す。図6A及び図6Bは、従来技術におけるダブルδドープトPHEMTのOIP3値のシミュレーション結果を、この出願のこの実施形態で提供されるシングルδドープトPHEMTのOIP3値のシミュレーション結果と比較するものである。従来技術におけるダブルδドープトPHEMTと比較して、この出願のこの実施形態で提供されるシングルδドープトPHEMTのOIP3値は、出力電流が50-200mAであるときに、5dBmよりも大きく増加することが分かり得る。
【0113】
図7A図7Cを参照して、以下にて、シングルδドーピングを通じてPHEMTの線形性を改善することの原理を説明する。
【0114】
図7Aは、従来技術におけるダブルδドープトPHEMTのエネルギーバンドの図である。図7Bは、この出願の一実施形態に従ったシングルδドープトPHEMTのエネルギーバンドの図である。図7Cは、チャネル層におけるダブルδドープトPHEMTの伝導帯構造とシングルδドープトPHEMTの伝導帯構造とを比較するものである。理解されるべきことには、ゲート電圧が増加するにつれてフェルミエネルギーレベルが増加する。図7A図7Cは全て、ドレイン電流(つまりは、出力電流)が60mAであるときのフェルミエネルギーレベルの位置を示している。
【0115】
δドーピング位置に空間電荷が集中して分布するため、δドーピング位置の左側のエネルギーバンドが曲がる。出力電流が60mAであるとき、エネルギーバンド構造から分かり得ることには、図7Cに陰影領域によって示すように、シングルδドープトPHEMTのチャネル層の伝導帯構造は四角形に近く、ダブルδドープトPHEMTの伝導帯構造は三角形に近い。チャネル層内の電子濃度は、伝導帯とフェルミエネルギーレベルとで囲まれた多角形の面積に比例するため、ゲート電圧の変化過程において、四角形の伝導帯構造は、三角形の伝導帯構造よりも高い線形性を持つ。
【0116】
シングルδドープトPHEMTのチャネル層内の電子は全て、上部δドープト層によって提供される。従って、同じ出力電流を得るために、シングルδドープトPHEMTのチャネル層の伝導帯は、ダブルδドープトPHEMTのチャネル層の伝導帯と比較して、フェルミエネルギーレベルから、よりいっそう下である。フェルミエネルギーレベル近くの電子にフェルミディラック分布が生じる。具体的には、フェルミエネルギーレベル付近(図7Cに破線枠の領域によって示す)での電子発生の確率は0.5であり、フェルミエネルギーレベルよりも下での電子発生の確率は1である。斯くして、フェルミエネルギーレベル近くでの電子発生の確率は、ゲート電圧が変化するときに、ある程度、非線形である。しかしながら、フェルミエネルギーレベル近くの電子によって占有される面積は、シングルδドープトPHEMTのチャネル層の伝導帯構造全体において小さい割合を持つ。従って、伝導帯がフェルミエネルギーレベルよりもいっそう下にあるシングルδドーピング設計は、より高い線形性を提供することができる。
【0117】
図8を参照して、以下にて、チャネル層の厚さを増加させることによってPHEMTの線形性を改善することの原理を説明する。
【0118】
図8は、60mA/mmの出力電流下での、チャネル層がそれぞれ12nm厚及び18nm厚であるダブルδドープトPHEMTの電子濃度分布の図である。図8から分かり得ることには、60mA/mmの出力電流下でPHEMTが動作するとき、そのチャネル層が12nm厚であるPHEMTでは、そのチャネル層の下に大量の電子が集められ、チャネル層内の電流が大きなz方向成分を持つ。比較して、そのチャネル層が18nm厚であるPHEMTでは、PHEMTが動作するときに、そのチャネル層内に電子がいっそう均一に分布する。これは、チャネル層内の電流のz方向成分を低減させ、ゲートを用いてチャネル電流を制御することの複雑さを低減させ、PHEMTの線形性を改善する。
【0119】
以下、この出願の実施形態で提供されるPHEMTの適用シナリオを説明する。
【0120】
この出願の一実施形態は更にLNAを提供する。図9に示すように、当該LNAは、入力整合ネットワーク、バイアス回路、PHEMT、及び出力整合ネットワークを含む。PHEMTは、図4又は図5に示したPHEMTとし得る。バイアス回路は、PHEMTの適切な動作のためのバイアス電圧を提供するように構成され、すなわち、PHEMTのゲート、ソース、及びドレインを必要な電位に設定するように構成される。入力整合ネットワークは、LNAが最大の励起電力を得るように、信号源の出力インピーダンスとLNAの入力インピーダンスとの間のマッチングを実現するように構成される。出力整合ネットワークは、外部負荷抵抗を、増幅器によって使用される最適な負荷抵抗に変換して、最大の出力電力を確保するように構成される。
【0121】
この出願の一実施形態は更に、受信器又はトランシーバを提供する。当該受信器又はトランシーバは、図9に示したLNAを含み得る。オプションで、当該受信器又はトランシーバは更に、デュプレクサ、バンドパスフィルタ、デジタル-アナログ変換器(DAC)、及びこれらに類するものを含み得る。
【0122】
LNAは無線周波数システムに適用され得る。図10に示すように、無線周波数システムは、送信リンクと受信リンクとに分割され得る。この出願の適用シナリオにおいて、無線周波数システムの受信リンク内の低雑音増幅器LNAは、図9に示したLNAとすることができ、アンテナによって受信された信号を増幅するように構成される。
【0123】
送信リンクは、パワーアンプ(power amplifier,PA)、ドライバ、少なくとも1つのフィルタ、少なくとも1つのミキサ、少なくとも1つのローカル発振器(LO)、及び少なくとも1つの増幅器(AMP)などを含み得る。受信リンクは、低雑音増幅器LNA、少なくとも1つのフィルタ、少なくとも1つのミキサ、少なくとも1つのローカル発振器(LO)、及び少なくとも1つの増幅器などを含み得る。上記少なくとも1つのフィルタは、イメージ除去フィルタ、中間周波数フィルタ(IF filter)、又は他のフィルタなどを含み得る。
【0124】
理解されるべきことには、図10は説明のための例にすぎない。無線周波数システムは、代わりに他の回路構造であってもよく、代わりに図10のものより少ないコンポーネントを含んでいてもよい。これは、ここで限定されることではない。
【0125】
この出願は更に無線周波数回路を提供する。当該回路は、図4又は図5に示したPHEMTを含み、あるいは図9に示したLNAを含み、無線通信分野に適用され、アンテナによって受信された信号を処理する、及び/又は信号を送信するようにアンテナを制御する、ように構成される。
【0126】
この出願は更に無線周波数チップを提供する。当該無線周波数チップは、受信アンテナによって受信された信号を処理し、該信号をプロセッサに送り、該プロセッサの命令を受信し、信号を送信するように送信アンテナを制御するように構成される。
【0127】
この出願は更に電子機器を提供する。当該電子機器は、例えば携帯電話、タブレットコンピュータ、電子書籍リーダ、テレビジョン、ノートブックコンピュータ、デジタルカメラ、車載デバイス、ウェアラブルデバイス、基地局、又はルータなどの、無線周波数機能又はワイヤレス通信機能を持つ機器とし得る。当該電子機器は、上述したPHEMT、LNA、無線周波数システム、無線周波数回路、及び無線周波数チップのうちの少なくとも1つを含み得る。
【0128】
要するに、上述の実施形態は、単に、この出願の技術的ソリューションを説明することを意図しており、この出願を限定することは意図していない。この出願は、上述の実施形態を参照して詳細に説明されているが、当業者が理解するはずのことには、この出願の実施形態の技術的ソリューションの範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に記録された技術的ソリューションに対する変更、又はその一部の技術的特徴に対する均等な置換がなおも為され得る。
【国際調査報告】