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特表2024-545273哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法
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  • 特表-哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法 図1A
  • 特表-哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法 図1B
  • 特表-哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法 図2
  • 特表-哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法 図3
  • 特表-哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法 図4
  • 特表-哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法 図5
  • 特表-哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】哺乳動物細胞における異種ポリペプチドの効率的な発現および分泌に関するシグナルペプチドのスクリーニング法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20241128BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241128BHJP
   C40B 40/06 20060101ALI20241128BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241128BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241128BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241128BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241128BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241128BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20241128BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/867 Z
C12N5/10
C40B40/06
C12Q1/6869 Z
C12N15/86 Z
C12N15/62 Z
C12P21/02 C
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C07K19/00
G01N33/53 D
G01N33/536 D
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536406
(86)(22)【出願日】2022-12-23
(85)【翻訳文提出日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 FI2022050871
(87)【国際公開番号】W WO2023118670
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】20216346
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524229196
【氏名又は名称】ヘルシンギン イリオピスト
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】パーヴィライネン,ヴィレ
(72)【発明者】
【氏名】ケロサロ,ユホ
(72)【発明者】
【氏名】カールスン,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ロスティ,カーチャ
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,マリナ
(72)【発明者】
【氏名】ナネカール,ラーフル
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ06
4B063QQ07
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR75
4B063QR76
4B063QR77
4B063QS05
4B063QS25
4B063QS33
4B063QX01
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、哺乳動物細胞において異種ポリペプチドを高効率で発現および分泌させるためのシグナルペプチドをスクリーニングする方法を対象とするが、この方法は:各種の候補シグナルペプチドを含む目的ポリペプチドをコードするウイルス発現ベクターのプールを提供する工程であって;ここで該プールの各ウイルス発現ベクターが、融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも含み;該ポリヌクレオチドが:(i)プロモーター、(ii)シグナルペプチドをコードする配列、(iii)目的ポリペプチドをコードする配列、(iv)任意選択的に、エピトープタグをコードする配列、および(v)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)接着についてのC末端シグナルペプチドをコードする配列、または膜貫通ドメインをコードする配列、を含む、プールを提供する工程;各宿主細胞が好ましくは平均して該プールの1ウイルスベクターのみで形質転換されるように、該ウイルスベクタープールで宿主細胞を形質転換する工程;宿主細胞表面にGPIで固定される、あるいは該融合蛋白質の膜貫通ドメインで宿主細胞表面に固定される融合蛋白質を産生させる目的で、該宿主細胞において該融合蛋白質を発現させる工程;該宿主細胞を第1の結合試薬に接触させる工程であって;ここで該第1の結合試薬が好ましくは該目的ポリペプチドに特異的に結合する抗体であり;あるいは融合蛋白質中に該エピトープタグが存在する場合には、該エピトープタグに特異的に結合する第1の結合試薬に接触させ;ここで該結合試薬が任意選択的に蛍光標識または他の検出手段で標識されていてもよい、該宿主細胞を第1の結合試薬に接触させる工程;各宿主細胞の蛍光特性に基づいて、形質転換宿主細胞を少なくとも2群に分割する工程;および宿主細胞における目的ポリペプチドに関する最適シグナルペプチドを同定する目的で、最も効率的な融合蛋白質発現を示す宿主細胞の群について次世代シーケンシングを実施する工程、を含む。本開示は、該方法に用いるベクター、宿主細胞またはDNAライブラリーをも対象とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞において異種ポリペプチドを高効率で発現および分泌させるためのシグナルペプチドをスクリーニングする方法であって、該方法が:
(a)各種の候補シグナルペプチドを含む目的ポリペプチドをコードするウイルス発現ベクターのプールを提供する工程であって;
ここで該プールの各ウイルス発現ベクターが、融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも含み;
該ポリヌクレオチドが:
(i)プロモーター、
(ii)シグナルペプチドをコードする配列、
(iii)目的ポリペプチドをコードする配列、
(iv)任意選択的に、エピトープタグをコードする配列、
および
(v)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)接着についてのC末端シグナルペプチドをコードする配列、または膜貫通ドメインをコードする配列、
を含む、
プールを提供する工程;
(b)各宿主細胞が好ましくは平均して該プールの1ウイルスベクターのみで形質転換されるように、該ウイルスベクタープールで宿主細胞を形質転換する工程;
(c)宿主細胞表面にGPIで固定される、あるいは該融合蛋白質の膜貫通ドメインで宿主細胞表面に固定される融合蛋白質を産生させる目的で、該宿主細胞において該融合蛋白質を発現させる工程;
(d)該宿主細胞を第1の結合試薬に接触させる工程であって;
ここで該第1の結合試薬が好ましくは該目的ポリペプチドに特異的に結合する抗体であり;
あるいは融合蛋白質中に該エピトープタグが存在する場合には、該エピトープタグに特異的に結合する第1の結合試薬に接触させ;
ここで該結合試薬が任意選択的に蛍光標識または他の検出手段で標識されていてもよい、
該宿主細胞を第1の結合試薬に接触させる工程;
(e)任意選択的に該宿主細胞を第2の結合試薬、好ましくは抗体に接触させる工程であって;
ここで該第1の結合試薬が標識した結合試薬でない場合には、該第2の結合試薬が蛍光標識されており;
ここで該第2の結合試薬が該第1の結合試薬に特異的に結合する、
接触させる工程;
(f)各宿主細胞の蛍光特性に基づいて、形質転換宿主細胞を少なくとも2群に分割する工程;
(g)宿主細胞における目的ポリペプチドに関する最適シグナルペプチドを同定する目的で、最も効率的な融合蛋白質発現を示す宿主細胞の群について次世代シーケンシングを実施する工程、
を含む、
方法。
【請求項2】
請求項1にしたがう方法であって、ここで目的ポリペプチドをコードするウイルス発現ベクターの該プールが:
・ 各種のシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドおよびその相補的配列のライブラリーを合成する工程であって、
ここで該オリゴヌクレオチドが、ライブラリー中の相補的オリゴヌクレオチドに結合する際に、配列の両方の遊離末端において制限酵素認識部位突出部を形成する、工程;
・ 二本鎖DNA断片を生成させるために、ライブラリー中のオリゴヌクレオチドを該制限酵素認識部位の突出部で、ライブラリー中に存在する相補的オリゴヌクレオチドとアニーリングさせる工程;
および
・ シグナルペプチドをコードするDNA断片を、目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドと組み合わせて、各種の候補シグナルペプチドを有する目的ポリペプチドをコードするウイルス発現ベクターのプールを作成する目的で、好適なクローニング部位を有するウイルスベクターに該二本鎖DNA断片をライゲーションする工程、
によって調製される、方法。
【請求項3】
請求項2にしたがう方法であって、ここで各種のシグナルペプチドが、真核生物、好ましくは哺乳動物、細菌、またはウイルスの蛋白質、その改変および/または人工配列の公知のシグナルペプチドから選択される、方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項にしたがう方法であって、該方法が:
(h)工程(g)において検出される該最適シグナルペプチドの組み合わせをコードするポリヌクレオチドおよび目的ポリペプチドを第2の発現ベクターにクローニングし、該第2のベクターで宿主細胞を形質転換し、および該宿主細胞で該ポリペプチドを生産させる工程をさらに含む、
方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項にしたがう方法であって、ここで該宿主細胞が、CHO細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、BHK細胞、COS7細胞、COP5細胞、A549細胞、NIH3T3細胞、MDCK細胞、およびWI38細胞、好ましくはCHO細胞、またはレンチウイルスによって形質導入が可能な他の任意の細胞種から成る群から選択される細胞である、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項にしたがう方法であって、ここで該ウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項にしたがう方法であって、ここで該プロモーターが、誘導性プロモーター、好ましくはテトラサイクリン制御プロモーター、または構成的プロモーターを含むその他の好適なプロモーター配列である、方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項にしたがう方法であって、ここで該エピトープタグが、ヒスチジンタグ(Hisタグ)、mycタグ、FLAGタグ、小型ユビキチン様修飾タグ(SUMOタグ)、プロテインCの重鎖のタグ(HPCタグ)、カルモジュリン結合ペプチドタグ(CBPタグ)、および赤血球凝集素タグ(HAタグ)、またはその他のエピトープタグまたはその他の標識基から成る群から選択される、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項にしたがう方法であって、ここで該目的ポリペプチドが、治療用または診断用の抗体などの治療用または診断用の蛋白質である、方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項にしたがう方法であって、ここで工程(f)が蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を用いて実施される、方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項にしたがう方法であって、ここで該プールの各ウイルス発現ベクターが、形質導入マーカー蛋白質、好ましくは赤色蛍光蛋白質、RFPまたは他の蛍光蛋白質、またはフローサイトメトリーで検出可能な遺伝子マーカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、方法。
【請求項12】
融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも含むウイルス発現ベクターであって、該ポリヌクレオチドが:
(i)プロモーター、
(ii)シグナルペプチドをコードする配列、
(iii)目的ポリペプチドをコードする配列、
(iv)任意選択的に、エピトープタグをコードする配列、
および
(v)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)接着についてのC末端シグナルペプチドをコードする配列、または膜貫通ドメインをコードする配列、
を含む、ウイルス発現ベクター。
【請求項13】
請求項12にしたがうベクターであって、ここで該誘導性プロモーターが、テトラサイクリン制御プロモーター、または構成的プロモーターを含むその他の好適なプロモーター配列である、ベクター。
【請求項14】
請求項12または13にしたがうベクターであって、ここで該エピトープタグが、ヒスチジンタグ(Hisタグ)、mycタグ、FLAGタグ、小型ユビキチン様修飾タグ(SUMOタグ)、プロテインCの重鎖のタグ(HPCタグ)、カルモジュリン結合ペプチドタグ(CBPタグ)、および赤血球凝集素タグ(HAタグ)、またはその他のエピトープタグまたはその他の標識基から成る群から選択される、ベクター。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項にしたがうベクターであって、ここで該目的ポリペプチドが治療抗体などの治療用蛋白質である、ベクター。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか1項にしたがうベクターであって、ここで該ベクターがレンチウイルスベクターである、ベクター。
【請求項17】
請求項12~15のいずれか1項にしたがうベクターであって、形質導入マーカー蛋白質、好ましくは赤色蛍光蛋白質、RFPをコードする配列をさらに含む、ベクター。
【請求項18】
請求項12~17のいずれか1項にしたがうウイルスベクターを含む宿主細胞。
【請求項19】
請求項18にしたがう宿主細胞であって、その細胞膜表面に融合蛋白質を表出し、ここで該融合蛋白質が、GPI接着によって、あるいは膜貫通ドメインを介して細胞膜に付着する、宿主細胞。
【請求項20】
請求項18または19にしたがう宿主細胞であって、ここで該宿主細胞が、CHO細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、BHK細胞、COS7細胞、COP5細胞、A549細胞、NIH3T3細胞、MDCK細胞およびWI38細胞、好ましくはCHO細胞、あるいはレンチウイルスで形質導入が可能なその他の任意の細胞種から成る群から選択される、宿主細胞。
【請求項21】
請求項12~17のいずれか1項にしたがう複数のウイルスベクターを含むDNAライブラリーであって、ここで該ベクターが、目的ポリペプチドに関して各種の候補シグナルペプチドをコードする、DNAライブラリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は組換え蛋白質生産の分野に関するものである。特に、本開示は、効率的に目的蛋白質を宿主細胞から分泌させる特異的シグナルペプチドを、多様なシグナルペプチドの中から選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質輸送は、全細胞蛋白質の約30%についての細胞膜透過および細胞膜内輸送に関する動的機構である(Gemmer、Forster、2020)。このプロセスはトランスロコン(小胞体(ER)膜に存在する複数サブユニットの蛋白質複合体)によって促進される。普遍的に保存されているヘテロ三量体型蛋白質チャンネルであるSec61は、トランスロコンのコアを形成する。
【0003】
真核細胞の細胞質においてリボソームが分泌蛋白質合成を開始する時に、新生ポリペプチド鎖のアミノ末端に位置する配列ERシグナルペプチド(SP)がリボソームをER膜へ移動させる。新生蛋白質のSP配列がシグナル認識粒子(SRP)によって認識され、新生中のポリペプチドがER膜を透過して移動する。したがって、SPは蛋白質分泌経路および蛋白質標的部位に印を付ける宛先番号コードとして機能する(Blobel、Dobberstein、1975)。コンピューター計算による研究および実験的研究に基づけば、SP配列は3種類の特徴的領域に分割される;すなわち、正に荷電したアミノ酸を含む親水性N末端領域;疎水性コア領域、およびシグナルペプチダーゼによる通常極性アミノ酸残基を含む開裂部位を含むC末端領域である(von Heijne、1985)。
【0004】
分泌蛋白質のER内腔へのシグナルペプチド媒介性輸送は、分泌経路のボトルネックであることが判明しており、したがって組換え蛋白質の安定的生産を達成するために解決の必要な重要課題である。シグナルペプチドは非常に不均一であるが、多くのシグナルペプチドは異なる生物種間で機能的互換性があることが示されている(Tan、Hoら、2002)。一方、異なるシグナルペプチドは、産生される蛋白質の分泌および機能に非常に異なる影響を与え得る(Koberら、2013)。したがって、蛋白質分泌の効率は、シグナルペプチド配列によって顕著な影響を受け得る。これらの知見は、哺乳動物システムにおいて組換え蛋白質を最大量で生産させる目的の場合に、シグナルペプチド最適化が重要であることを強く示唆する。
【0005】
現在のシグナルペプチド最適化法は、シグナルペプチドを個々に試験する多大な労力を要する試験によって行われており(Koberら、2013)、そのため試験可能な配列の数が限定的となり最適シグナルペプチドを発見することが不可能となる、あるいは法外な時間を要するのである。
【発明の概要】
【0006】
本特許出願では、哺乳動物細胞における治療関連蛋白質の高レベル生産を可能にする最適シグナルペプチドを発見するために、数千のシグナルペプチドを迅速かつ高効率の網羅的にスクリーニングすることが可能なスクリーニングプラットフォームを提示する(図1および6)。本開示は、2種類のモデル蛋白質、すなわちスーパーフォルダーGFPおよび凝固因子VII(FVII)(第VII因子または第IX因子の欠損に起因する血友病様出血障害の治療に用いる治療用蛋白質)のシグナルペプチド最適化のプラットフォームの利用の詳細を含む。
【0007】
本発明者らは、物理的シグナルペプチドスクリーニングプラットフォームに加えて、生物工学的に重要な異なる蛋白質の生産に最適なシグナルペプチドを推定する人工知能法をも設計している。これは当該技術分野における関心領域の1つであると考えられるので、このアプローチは本開示の重要部分を構成する可能性が高い。
【0008】
本開示の一局面では、哺乳動物細胞において異種ポリペプチドを効率的に発現および分泌させるシグナルペプチドをスクリーニングする方法を提供するが、該方法は以下の工程を含む:
(a)各種の候補シグナルペプチドを含む目的ポリペプチドをコードするウイルス発現ベクターのプールを提供する工程であって;
ここで該プールの各ウイルス発現ベクターが、融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも含み;
該ポリヌクレオチドが:
(i)プロモーター、
(ii)シグナルペプチドをコードする配列、
(iii)目的ポリペプチドをコードする配列、
(iv)任意選択的に、エピトープタグをコードする配列、
および
(v)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)接着についてのC末端シグナルペプチドをコードする配列、または膜貫通ドメインをコードする配列、
を含む、
プールを提供する工程;
(b)各宿主細胞が好ましくは平均して該プールの1ウイルスベクターのみで形質転換されるように、該ウイルスベクタープールで宿主細胞を形質転換する工程;
(c)宿主細胞表面にGPIで固定される、あるいは該融合蛋白質の膜貫通ドメインで宿主細胞表面に固定される融合蛋白質を産生させる目的で、該宿主細胞において該融合蛋白質を発現させる工程;
(d)該宿主細胞を第1の結合試薬に接触させる工程であって;
ここで該第1の結合試薬が好ましくは該目的ポリペプチドに特異的に結合する抗体であり;
あるいは融合蛋白質中に該エピトープタグが存在する場合には、該エピトープタグに特異的に結合する第1の結合試薬に接触させ;
ここで該結合試薬が任意選択的に蛍光標識または他の検出手段で標識されていてもよい、
該宿主細胞を第1の結合試薬に接触させる工程;
(e)任意選択的に該宿主細胞を第2の結合試薬、好ましくは抗体に接触させる工程であって;
ここで該第1の結合試薬が標識した結合試薬でない場合には、該第2の結合試薬が蛍光標識されており;
ここで該第2の結合試薬が該第1の結合試薬に特異的に結合する、
接触させる工程;
(f)各宿主細胞の蛍光特性に基づいて、該形質転換宿主細胞を少なくとも2群に分割する工程;
および
(g)該宿主細胞における該目的ポリペプチドに関する最適シグナルペプチドを同定する目的で、最も効率的な融合蛋白質発現を示す宿主細胞の群について次世代シーケンシングを実施する工程。
【0009】
本開示の別の一局面においては、融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも含むウイルス発現ベクターを提供するが;
ここで該ポリヌクレオチドは以下を含む:
(i)プロモーター、
(ii)シグナルペプチドをコードする配列、
(iii)目的ポリペプチドをコードする配列、
(iv)任意選択的に、エピトープタグをコードする配列、
および
(v)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)接着についてのC末端シグナルペプチドをコードする配列。
【0010】
本開示のさらなる局面においては:
(1)本開示にしたがうウイルスベクターを含む宿主細胞、
および
(2)本開示にしたがう複数のウイルスベクターを含むDNAライブラリー、
を提供するが、
ここで該ベクターは、目的ポリペプチドについて各種の候補シグナルペプチドをコードする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本シグナルペプチド(SP)スクリーニングプラットフォームの図示である。(A)エピトープタグを付加し、GPI固定した目的蛋白質(POI-EPI-GPI)であって、機能的なシグナルペプチドおよび無機能シグナルペプチドを有する目的蛋白質の運命に関する模式図である。機能的シグナルペプチドは、蛋白質の折りたたみおよび成熟を起こすERへ目的蛋白質を導く。正しく折りたたまれ処理されたPOI-EPI-GPIは細胞表面に輸送され、細胞表面において該蛋白質はエピトープタグまたは折りたたまれたPOIに結合する抗体で標識され得る。シグナルペプチドがPOIのERへの移行あるいはその成熟または折りたたみを促進させるものでない場合には(すなわちそれが非機能的な場合には)、そのPOIはそこにそのまま留まる(移行障害)、あるいはER関連分解経路で細胞質に移行し(折りたたみ/成熟障害)、細胞質プロテアソームで分解される。(B)シグナルペプチドスクリーニングプロセスのワークフロー。シグナルペプチドをコードするDNAオリゴプールを合成し、好ましくはPOI-EPI-GPIをコードするレンチウイルス導入プラスミドにバッチでクローン化する。SP-POI-EPI-GPIをコードする構築物を用いて、ヒトまたはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)の細胞を低MOIで形質導入するが、その際に1個の形質導入細胞が、SP-POI-EPI-GPIをコードする単一構築物を平均で1コピーのみ含むように形質導入を行う。SP-POI-EPI-GPIの発現に加えて、好ましくは形質導入マーカーとしてのiRFP蛋白質を発現する形質導入細胞をエピトープタグ認識抗体(抗EPI)で染色した後、抗EPIシグナルに基づいて選別を行う。あるいは、折りたたまれた蛋白質を認識する抗体を細胞染色に用いることもできる。ゲノム組込みレンチウイルス構築物のSPインサートコード領域を増幅した後、次世代シーケンシングによって同定を行う。強いおよび弱い抗EPI/抗折りたたみ蛋白質シグナルを示す細胞集団の読み取りSP配列を比較することによって、POI産生を最高レベルに増強するSPの同定が可能になる。次世代シーケンシング前の濃縮対照として、選別プールにおけるシグナルペプチドの特異的濃縮をqPCRで評価する。
図2】(A)レンチウイルス発現カセット。シグナルペプチド(SP)ライブラリーおよび目的蛋白質(POI)がクローン化される可変領域1および2。(B)発現宿主の外に分泌され、GPI/TMアンカーを介して細胞膜上に表示される翻訳蛋白質ポリペプチドの模式的表現。LTR、長い末端反復;プロモーター、誘導性プロモーター;SP、シグナルペプチド、POI、目的蛋白質;GPI、グリコホスファチジルイノシトール;TM、膜貫通ドメイン;IRES、内部リボソーム進入部位;形質導入マーカー、蛍光蛋白質;N、アミノ末端;C、カルボキシ末端。(C)本実験において、構築物はPOIとしての凝固因子VII(FVII)を含み、エピトープタグは3xFLAGタグである。
図3】qPCR/RT-PCRによる濃縮SPの同定。工程1において、GFP発現レベル(高GFP(Q2)および低GFP(Q3))に基づきGFP発現CHO細胞を2つの異なるチューブに選別した。工程2および3において、選別細胞からゲノムDNAを抽出し、qPCR/RTPCRにおけるテンプレートとして用いた。qPCRによるシグナルペプチド領域の増幅には、部位特異的プライマーを用いた。低GFP細胞には、アズロシジンプレ蛋白質SPが含まれていた。GFP、緑色蛍光蛋白質;RFP、赤色蛍光蛋白質;gDNA、ゲノムDNA;高GFP、より高いレベルのGFPを発現する細胞;低GFP、低レベルGFP発現細胞;qPCR、定量的ポリメラーゼ連鎖反応;RT-PCR、逆転写PCR。
図4】特異的SPは、凝固因子VII(FVII)の発現レベルに影響を与える。(A)構築物1:ORI SP FVIIおよび構築物2:IgK SP FVII(予想蛋白質サイズは50kDa)で形質導入したHEK293T細胞を抗FLAG抗体で染色したウェスタンブロット。(B)50kDaのバンドの平均的強度に基づく相対発現レベルの定量。
図5】GPI固定したFVIIの抗体染色によって、差異的に染色された細胞のソーティングが可能となる。(A)ドキシサイクリンで誘導し、1次抗体(抗FLAG)および2次抗体(AlexaFluor647)の両方で染色したHEK293T細胞(陰性対照)のFACSプロット。(B)SPライブラリーFVIIを形質導入し、ドキシサイクリンで誘導して、2次抗体(AlexaFluor647)のみで染色したHEK293T細胞(陰性対照)のFACSプロット。(C)SPライブラリーFVIIを形質導入し、ドキシサイクリンで誘導して、1次抗体(抗FLAG)および2次抗体(AlexaFluor647)の両方で染色したHEK293T細胞のFACSプロット;1.2%の細胞が形質導入マーカー(tRFP)および2次抗体シグナル(Q2内で点線表示の四角で強調されている)の両方を示している。
図6】本開示のシグナルペプチドスクリーニングプラットフォームに用いた工程毎のワークフローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書の用語「シグナルペプチド」は、細胞外に分泌されて細胞膜を通過する分泌蛋白質のN末端部分であるペプチドを意味する。シグナルペプチドは通常、おおよそ10~30アミノ酸で構成され、後に細胞膜に特異的なプロテアーゼで切断され除去される。そのため、分泌蛋白質のみが細胞外に輸送されるのである。シグナルペプチドは標的シグナルとして働き、特定の細胞内または細胞外の位置に蛋白質を導くための細胞内輸送機構を可能にする。現在までに、4000種類を超える数のシグナルペプチドが真核細胞に存在することが公知となっている。シグナルペプチドをコードするDNAライブラリーについては、例えば、WO2021045541A1およびKR20210028116Aに開示されている。
【0013】
本明細書の用語「目的蛋白質」または「POI」は、好適な宿主細胞を用いることによって高効率の産生が意図される蛋白質を意味する。POIは、好ましくは治療的または診断的に重要な蛋白質(抗体など)である。
【0014】
本明細書の用語「エピトープタグ」またはEPは、遺伝子工学を用いて、エピトープをコードする配列を蛋白質の同一オープンリーディングフレーム内に配置することにより組換え蛋白質にタグ(典型的には6~30アミノ酸)を融合する技術を指す。この技術では、もともと利用可能な抗体が存在しない場合であっても、抗体の利用が可能なエピトープタグを選択することによって、タグ付加した蛋白質の検出が可能になるのである。適切なエピトープタグと抗体の対を選択することによって、所望の実験法(ウェスタンブロット分析、免疫沈降、免疫化学、親和性精製など)に好適な特性を有する組み合わせを見つけることが可能である。好ましいエピトープタグは、例えば、ヒスチジンタグ(Hisタグ)、mycタグ、FLAGタグ、小型ユビキチン様修飾タグ(SUMOタグ)、プロテインCの重鎖のタグ(HPCタグ)、カルモジュリン結合ペプチドタグ(CBPタグ)、および赤血球凝集素タグ(HAタグ)から成る群から選択することができる。
【0015】
本明細書の用語「GPIで固定した(GPI連結した)」は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)で真核細胞の外表面に固定した蛋白質を指す。これらの分泌蛋白質は、共有結合によって該蛋白質のC末端に結合したGPI部分で細胞膜に固定されている。GPI部分は、保存性コアグリカン、ホスファチジルイノシトール、およびグリカン側鎖から成る。コアグリカンの構造は、EtNP-6Manα2-Manα6-(EtNP)2Manα4-GlNα6-myoIno-P-脂肪である(EtNP、エタノールアミンリン酸;Man、マンノース;GlcN、グルコサミン;Ino、イノシトール)。本開示においては、C末端シグナルペプチドによって蛋白質がGPI接着する(例えば、EP3389682を参照のこと)。
【0016】
本明細書の用語「膜貫通ドメイン」は、宿主細胞膜を貫通する疎水性アルファヘリックス構造を指す。膜貫通ドメインは、該ベクターによってコードされる融合蛋白質のC末端部分に直接的に融合するのであってもよい。特定の実施態様においては、膜貫通ドメインは内在性膜蛋白質(例えば、受容体、分化(CD)分子クラスター、酵素、トランスポーター、細胞接着分子など)に由来する。好ましい実施態様においては、膜貫通ドメインはヒトVCAM-1蛋白質(血管細胞接着分子1)で例示される1型膜貫通蛋白質に由来する。I型膜貫通蛋白質の成熟型が細胞膜に局在する場合には、該蛋白質はアンカーの膜透過停止配列によって脂質膜に固定されるが、細胞外空間への誘導に関するN末端ドメインを有している。本開示にしたがう膜貫通ドメインのさらなる例としては、Tim1、Tim2、およびTim3の膜貫通ドメイン、FcR膜貫通ドメイン、およびCD8a膜貫通ドメインが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。本発明に用いるさらなる膜貫通ドメインが、EP3389682に開示されている。
【0017】
本明細書の用語「ベクター」は、例えば、別の核酸分子を細胞内に導入、輸入など、進入を媒介することが可能な核酸分子を指す。導入核酸は一般的に、ベクター核酸分子に連結される、例えば、挿入される。ベクターとしては、自己複製を指令する配列を挙げることができ、あるいは宿主細胞DNAへの組み込みに充分な配列を挙げることができる。有用なベクターとしては、例えば、プラスミド、コスミド、およびウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターとしては、例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレンチウイルスが挙げられる。当業者には明白なことであるが、ウイルスベクターは、導入核酸の進入を仲介する核酸に加えて、各種のウイルス成分を含んでいてもよい。したがって、用語「ウイルスベクター」は、核酸を細胞に導入可能なウイルスまたはウイルス粒子、あるいは導入したその核酸自体のいずれかを指すことがある。
【0018】
一実施態様においては、本開示は、哺乳動物細胞において異種ポリペプチドを高効率で発現および分泌させるためのシグナルペプチドをスクリーニングする方法を対象とするが、該方法は以下の工程を含む:
(a)各種の候補シグナルペプチドを含む目的ポリペプチドをコードするウイルス発現ベクターのプールを提供する工程であって;
ここで該プールの各ウイルス発現ベクターが、融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも含み;
該ポリヌクレオチドが:
(i)プロモーター、
(ii)シグナルペプチドをコードする配列、
(iii)目的ポリペプチドをコードする配列、
(iv)任意選択的に、エピトープタグをコードする配列、
および
(v)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)接着についてのC末端シグナルペプチドをコードする配列、または膜貫通ドメインをコードする配列、
を含む、
プールを提供する工程;
(b)各宿主細胞が好ましくは平均して該プールの1ウイルスベクターのみで形質転換されるように、該ウイルスベクタープールで宿主細胞を形質転換する工程;
(c)宿主細胞表面にGPIで固定される、あるいは該融合蛋白質の膜貫通ドメインで宿主細胞表面に固定される融合蛋白質を産生させる目的で、該宿主細胞において該融合蛋白質を発現させる工程;
(d)該宿主細胞を第1の結合試薬に接触させる工程であって;
ここで該第1の結合試薬が好ましくは該目的ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはアプタマーであり;
あるいは融合蛋白質中に該エピトープタグが存在する場合には、該エピトープタグに特異的に結合する第1の結合試薬に接触させ;
ここで該結合試薬が任意選択的に蛍光標識または他の検出手段で標識されていてもよい、
該宿主細胞を第1の結合試薬に接触させる工程;
(e)任意選択的に該宿主細胞を第2の結合試薬、好ましくは抗体またはアプタマーに接触させる工程であって;
ここで該第1の結合試薬が標識した結合試薬でない場合には、該第2の結合試薬が蛍光標識されており;
ここで該第2の結合試薬が該第1の結合試薬に特異的に結合する、
接触させる工程;
(f)各宿主細胞の蛍光特性に基づいて、好ましくは蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を用いて、形質転換宿主細胞を少なくとも2群に分割する工程;
および
(g)宿主細胞における目的ポリペプチドに関する最適シグナルペプチドを同定する目的で、最も効率的な融合蛋白質発現を示す宿主細胞の群について次世代シーケンシングを実施する工程。
【0019】
好ましい一実施態様では、本法の工程(a)において目的ポリペプチドをコードするウイルス発現ベクターの該プールが以下の方法で調製される:
・ 各種のシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドおよびその相補的配列のライブラリーを合成する工程であって;
ここで該オリゴヌクレオチドが、ライブラリー中の相補的オリゴヌクレオチドに結合する際に、配列の両方の遊離末端において制限酵素認識部位突出部を形成する、工程;
・ 二本鎖DNA断片を生成させるために、ライブラリー中のオリゴヌクレオチドを該制限酵素認識部位の突出部で、ライブラリー中に存在する相補的オリゴヌクレオチドとアニーリングさせる工程;
および
・ シグナルペプチドをコードするDNA断片を、目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドと組み合わせて、各種の候補シグナルペプチドを有する目的ポリペプチドをコードするウイルス発現ベクターのプールを作成する目的で、好適なクローニング部位を有するウイルスベクターに該二本鎖DNA断片をライゲーションする工程。
【0020】
好ましい一実施態様においては、各種のシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドのライブラリーは、真核生物、好ましくは哺乳動物、細菌、またはウイルスの蛋白質、その改変および/または人工配列の公知のシグナルペプチドを含む。
【0021】
別の好ましい一実施態様においては、本開示の方法は、以下のさらなる工程を含む:
(h)工程(g)において検出される該最適シグナルペプチドの組み合わせをコードするポリヌクレオチドおよび目的ポリペプチドを第2の発現ベクターにクローニングし、該第2のベクターで宿主細胞を形質転換し、および該宿主細胞で該ポリペプチドを生産させる工程。
【0022】
好ましい一実施態様においては、該ベクターのプロモーターは、誘導性プロモーター、好ましくはテトラサイクリン制御プロモーターである。
【0023】
別の一実施態様においては、本開示は、融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも含むウイルス発現ベクターを対象とするが;
ここで該ポリヌクレオチドは:
(i)プロモーター、
(ii)シグナルペプチドをコードする配列、
(iii)目的ポリペプチドをコードする配列、
(iv)任意選択的に、エピトープタグをコードする配列、
および
(v)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)接着についてのC末端シグナルペプチドをコードする配列、
を含む。
【0024】
さらなる実施態様においては、本開示は:
(1)本開示にしたがうベクターを含む宿主細胞、
または
(2)本開示にしたがう複数のウイルスベクターを含むDNAライブラリー、
を対象とするが、
ここで該ベクターは、目的ポリペプチドについて各種の候補シグナルペプチドをコードする。
【0025】
以下の実施例は、1種類以上のより具体的な応用によって本発明の原理の実例を示すものであるが、発明力を用いることなく、また本開示の原理および概念から逸脱することなく実施の態様、用途および詳細に多くの変更を加え得ることは、当業者には明白であろう。したがって、後述の請求項によって規定されるものを除いて、本発明を限定することを意図するものではない。
【0026】
動詞「を含む(to comprise)」および「を含む(to include)」は、本書において、非列挙の特徴の存在をも除外することなく、また要求することもない開放的限定として用いるのである。明示的にそうでないことに言及するのでない限り、従属請求項において列挙される特徴は相互に自由に組み合わせ可能である。さらに、本明細書全体を通じて単数形として用いる「a」および「an」の使用は、複数の存在を除外するものではないことを理解されたい。
【0027】
本明細書全体を通じて一実施態様(one embodiment)または一実施態様(an embodiment)への言及は、当該実施態様に関して記載される特定の特性、構造、または特徴が、本開示の少なくとも一つの実施態様に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたって様々な部位で用いられる表現「一実施態様においては(in one embodiment)」、「一実施態様においては(in an embodiment)」、または「好ましい一実施態様においては(in a preferred embodiment)」が用いられる場合でも、必ずしも全て同一の実施態様を指すとは限らない。例えば、約(about)または実質的に(substantially)などの用語を用いて数値に言及する場合に、正確な数値もまた開示されるものである。
【0028】
実験の節
pINDUCERを基盤とする哺乳動物発現プラスミドの構築
細胞膜固定型の目的蛋白質(POI)の発現を可能にするレンチウイルス導入プラスミドは、本発明者らのシグナルペプチドスクリーニングプラットフォームのコアを成すものである(図1)。発現構築物のレンチウイルス形質導入は、シグナルペプチド-POIの単一組み合わせを有する細胞であって、POIの高発現レベルを示す細胞の単離を可能にする(図1)。本発明者らのレンチウイルス構築物の利用を、シグナルペプチドライブラリーの大規模スケールの遺伝子合成、およびフローサイトメトリー選別しプールした細胞試料由来の最適シグナルペプチドの同定のための次世代シーケンシングの利用と組み合わせることによって、シグナルペプチドの網羅的スクリーニングが達成可能である(図1)。この大規模並行シグナルペプチドスクリーニングプラットフォームは、シグナルペプチドを個々に試験することによる現在のシグナルペプチド最適化法と比較して、より迅速でより網羅的であることの両方において、蛋白質産生の最適シグナル配列の同定を可能にするのである。
【0029】
本発明者らが試験したシグナルペプチド-目的蛋白質構築物のゲノム組込みに用いたレンチウイルス導入プラスミド(図2)は、pINDUCER11プラスミド(Meerbrey、Huら、2011)に基づくものであり、オーバーラップ伸長PCR法でIRES-tRFPまたはIRES-iRFP670インサートを増幅した後、制限酵素AscIおよびPacI(NEB)による消化およびその後のT4リガーゼ(NEB)によるライゲーションでそのインサートを該ベクターにクローニングすることにより、元々の形質導入マーカー(GFP)がiRFP670(Shcherbakova、Verkhusha、2013)またはtRFP(Strack、Stronginら、2008)に変更されたものである。
【0030】
スーパーフォルダー-GFP SP-ユビキチンG76V(Ub(G76V)-sfGFP-GPIアンカー構築物のシグナルペプチドスクリーニングに関しては、Ub(G76V)(Dantuma、Lindstenら、2000)、sfGFP(Costantini、Balobanら、2015)およびGPIアンカー(Rhee、Pirityら、2006)の異なるインサートから、オーバーラップ伸長PCR法によって構築を行った。構築した融合蛋白質インサートを、元々のpINDUCER11プラスミドのtRFP-shRNAインサートの位置にクローン化した。
【0031】
FVIIのシグナルペプチドスクリーニングに関しては、ハムスターのコドンに最適化した、不活性FVII(D302N)-変異体を含むDNA構築物を、SP-3xFLAGタグ-FVII-GPIまたはSP-HA-tag-FVII-GPIの融合蛋白質遺伝子断片としてTwist Biosciencesに注文した。融合蛋白質をコードするこれらのDNA構築物を、元々のpINDUCER11プラスミドのtRFP-shRNAインサートの位置にクローン化した。
【0032】
改変pINDUCER11プラスミドの機能的要素
・ CMVプロモーター:目的遺伝子の発現を制御するドキシサイクリン誘導性プロモーター
・ 高感度緑色蛍光蛋白質(eGFP):本発明者らの概念実証実験において目的遺伝子として用いた。
・ 内部リボソーム進入部位(IRES):キャップ非依存性の翻訳開始を可能にする。
・ トランス活性化因子3(rtTA3):CMVプロモーターのドキシサイクリン誘導を制御する。構成的プロモーターhUBCの制御下。
・ ヒトユビキチンCプロモーター(hUBC):iRFP670またはtRFPの異所性発現を制御する構成的プロモーター。
・ iRFP670:構成的プロモーターhUBCの制御下でのレポーター蛋白質の形質導入。
・ tRFP:構成的プロモーターhUBCの制御下でのレポーター蛋白質の形質導入
・ SV40遺伝子:プラスミド複製領域
【0033】
シグナルペプチドの発現プラスミドへのクローン化
ディレクショナルクローニングを行うために、オリゴヌクレオチドアニーリングによって作成したSPインサートおよび環状pINDUCERベクターを2種類の制限酵素MluIおよびNotIで消化した。さらに、2種類の制限酵素で消化したpINDUCERベクターを、5′末端の脱リン酸化を非特異的に触媒するシュリンプアルカリホスファターゼ(rSAP)によって処理した;この処理はベクターのセルフライゲーションを回避するためである。しかし、DNA断片のライゲーションには、5′リン酸基がホスホジエステル結合を形成することが必要となるので、2種類の制限酵素で消化したオリゴヌクレオチドを、ATPの存在下でT4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB)を用いるサーマルサイクリングによってリン酸化させた。このようにして生成したSPインサートおよび直鎖状pINDUCERベクターを、T4 DNAリガーゼ(NEB)を用いたライゲーションによって共有結合させた。全ライゲーション混合物でstable3(Thermo Fisher)化学的コンピテント大腸菌細胞を形質転換して、抗生物質アンピシリン(100μg/ml)を含むLB寒天プレート上で増殖させた。得られたコロニーを、正確なSPインサートを含むか否かに関してサンガーシーケンシングによりスクリーニングした。
【0034】
細胞株および標準的条件下におけるその培養
10%ウシ胎仔血清(FBS)および0.5%L-グルタミンを含むDMEM中で、ヒト胎児腎臓293細胞(HEK293T)(Thermo-Fisher Scientific)を接着性単一層として培養した。FreeStyleチャイニーズハムスター卵巣(CHO)懸濁液馴化(CHO-S)細胞(Thermo-Fisher Scientific)をFreeStyle(商標)CHO培地(Thermo-Fisher Scientific)による懸濁培養で増殖させた。両細胞株はいずれも37℃、5%COの標準的条件下で培養を行った。
【0035】
実施例1:概念実証実験
モデル蛋白質1:緑色蛍光蛋白質(GFP)
sfGFPを用いる概念実証実験として、下記のシグナルペプチドを選択した:すなわち、SP1(インターロイキン4)、SP2(血清アルブミン)、SP3 fPrP(mut17~21)、SP4(アズロシジンプレ蛋白質)、SP5(セルラーゼ)、SP6(PrP)、SP7(Vcam)、SP8(FCRL-1)。
【0036】
上記のSPを改変pINDUCER11にクローン化した(2を参照のこと)。MluI(NEB)およびNotI(NEB)の制限酵素部位を利用した。詳細なクローニング方略を本明細書において説明する。
【0037】
各シグナルペプチドに関しては、シグナルペプチドをコードする各配列を含むオリゴヌクレオチドを合成した(Integrated Data Technologies)。それらオリゴヌクレオチドは全て5′末端および3′末端において、それぞれMluIおよびNotIの制限酵素部位によって挟まれた。サーマルサイクラー(Bio-Rad)で一本鎖オリゴヌクレオチドをアニーリングすることによりdsDNAインサートを生成させた。
【0038】
モデル蛋白質2:凝固因子FVII(FVII)
上記に開示のような手段で、目的遺伝子を含む第3世代レンチウイルス導入プラスミドpINDUCER11を設計した。FVII発現PMID(Peng、Yuら、2016)に対するシグナルペプチドの差異的効果に基づいて選択した2種類の異なるシグナルペプチド(表1)を3xFLAGタグ-FVII-GPI融合構築物およびHA-tag-FVII-GPI融合構築物のN末端にクローン化した。
【0039】
【表1】
【0040】
(a)哺乳動物細胞において目的蛋白質を発現するレンチウイルスの調製
上記に開示のような手段で、目的遺伝子を含む第3世代レンチウイルス導入プラスミドpINDUCER11を設計した。他のレンチウイルスパッケージングプラスミドpVP157、pVP158、pVP159、およびpVP160は、Martin Kampmann/Jonathan Weissmannからの供与であった(Bassik、Kampmannら、2013)。
【0041】
レンチウイルスの調製は、他の文献に記載の方法によるポリエチレンイミン(PEI)媒介性形質転換プロトコルにしたがって実施した(PMID:(Lobato-Pascual、Saetherら、2013;Bassik、Kampmannら、2013)。簡単に説明すると、トランスポーター5(登録商標)形質転換試薬(Polysciences、ドイツ)を含む陽イオンポリマーPEIを用いて、パッケージングベクターをHEK293T細胞に導入した。総量800~1000μgの導入プラスミドをパッケージングプラスミドと混合した。形質転換試薬をPBSで希釈してプラスミドと混合した。この混合液を室温で25分間インキュベートした。確実に均一分布させるために、接着性HEK293T細胞培養物にこの混合液を滴下によって加えた。形質転換後に細胞を3日間(72時間)インキュベートした。レンチウイルスを含む上清を回収した。0.45μの濾過アセンブリを用いて上清液を濾過した。濾過したレンチウイルスを回収して分注し、4℃で保存した。
【0042】
(b)HEK293T細胞およびCHO細胞におけるウイルス力価の測定
レンチウイルス滴定には、Singer Tiscorniaら(2006)のプロトコルを用いた。
1日目:500μlの細胞を含む24穴シードプレート(各ウェルに100,000細胞)
3日目:レンチウイルスのストックから培地による4倍段階希釈物を調製した。
ウイルス希釈:無希釈、1:4、1:16、1:64
24穴プレートのウェルから培地を除去し、250μLの新鮮培地を加えた。ウイルス希釈物(20μL)を滴下で細胞に加え、穏やかに撹拌してから細胞を37℃でインキュベートした。2~3時間後に、さらに250μLの培地をウェルに加えた。細胞は48時間増殖させた。
5日目:ウェルの培地を捨てた。細胞を150μlのPBSで1回洗浄した。30μlのトリプシン(0.5%)を用いて細胞を剥がした後、500μlの新鮮培地を混合した。別のプレートにおいて、3日目から100μlの細胞と共に400μlの新鮮培地を加えた。次いで、細胞を37℃で3日間インキュベートした。
この工程をさらに3回繰り返した。全体として、細胞を洗浄し、1週間分裂させた。これらの徹底した洗浄工程は、ウイルス粒子の除去にとって重要であった。
14日目:後述のフローサイトメトリーの節に説明するFACS分析のために細胞を調製した。FACS分析を実施して、陽性細胞の蛍光レポーター(GFPおよびmRFP)の割合(%)を測定した。
【0043】
ウイルス力価(VT=TU/mL、形質導入単位)は、以下の式にしたがって算出した:
形質導入単位(TU/ml)=(N×P)/(V×D)
ここで、
N=2日目の感染に用いた各ウェルの細胞数;
P=GFP/RFP陽性細胞の割合(%)(10%~20%となるはずである);
V=各ウェルの感染に用いたウイルス容積;
このプロトコルにおいて、V(ml)=20(μl)×10-3;
D=希釈倍数;
TU=形質導入単位。
【0044】
(c)細胞表面の抗体染色およびフローサイトメトリー
3X-FLAGタグまたはHAタグを含むFVII-融合蛋白質またはsfGFP融合蛋白質をコードするレンチウイルスを、HEK293T細胞およびCHO細胞に形質導入した。形質導入細胞を2回分裂させた。回収の24時間前に、1μg/mlのドキシサイクリンで細胞の誘導を行った。10mMのEDTAを用いて細胞を回収した。室温にて2400rpmで5分間、遠心分離することにより細胞を沈殿させた後、室温でFACS緩衝液に再懸濁した(1xPBS、4%FBS、10mM EDTA)。FACS分析用に試料分注物を保存し、残りを室温にて2400rpmで2分間遠心分離を行い沈殿させた後、1mLのFACS緩衝液に再懸濁した。遠心分離を繰り返し、次いで培地を除去した(1回洗浄)。細胞ペレットを500μlの1次抗体溶液(表2を参照のこと)に再懸濁して、室温で15分間インキュベートした後、1mLのFACS緩衝液で2回洗浄した。その後、500μlの2次抗体溶液(表2を参照のこと)に細胞を再懸濁し、室温で15分間インキュベートしてから、1mLのFACS緩衝液で2回洗浄して最終的にFACS緩衝液に再懸濁した。FACS測定の直前に、細胞を2回濾過してFACSチューブに入れた後、BD LSRFortessaフローサイトメーターで分析を行った;あるいはBD FACSAria IIフローサイトメーターで低抗体シグナルおよび高抗体シグナルを示す集団として選別を行った(図1を参照のこと)。このフローサイトメトリーデータをFlowJoソフトウェア(Tree Star社、アシュランド、オレゴン州、米国)で分析した。
【0045】
【表2】
【0046】
BD LSRFortessa分析に用いたレーザーおよびフィルターのパラメータは以下であった:
(1)iRFPシグナルについてはAPC-A;および抗体:ヤギ抗マウスAlexa647、ヤギ抗ウサギAlexa Fluor546
(2)tRFPシグナルについてはPE-A
(3)GFPシグナルについてはAlexaFluor488;および抗体:PGT145 Alexa488
(4)HAシグナルについてはAlexaFluor700;および抗体:抗ウサギ680RD
【0047】
qPCRによる個々のシグナルペプチドの同定
混合プールSP-POIレンチウイルス構築物で形質導入した細胞から、目的蛋白質(POI)に融合した個々のシグナルペプチドを同定するためにqPCRを用いた。この目的のために、フローサイトメトリー選別した細胞のgDNAを、Nucleospin Blood QuickpureまたはLキット(Macherey Nagel)によって単離した。次いで、特定の選別細胞集団(図1を参照のこと)における特異的シグナルペプチドを含む構築物の濃縮を、シグナルペプチド特異的プライマー(表3)を用いたqPCRによって示した。このqPCRの実施には、75ngのgDNA、1μMの順方向および逆方向プライマー、およびさらに1mMのMgClを含む5μlの反応混合液を用いた。PCR条件は:
ステップ1:95℃、10分間、
ステップ2:95℃、15秒間、
ステップ3:66℃、5秒間、
ステップ4:72℃、10秒間、
ステップ2~4を45回反復、
ステップ5:72℃、5分間。
【0048】
【表3】
【0049】
次世代シーケンシングによる大規模プールからのシグナルペプチドの同定
高抗体シグナルのフローサイトメトリー選別細胞集団(図1を参照のこと)を示すPOIの最良発現について、濃縮されたシグナルペプチドを全て同定する目的で、次世代シーケンシング(NGS)を用いた。この目的のためにまず、フローサイトメトリーで選別した細胞のgDNAを、Nucleospin Blood QuickpureまたはLキット(Macherey Nagel)によって単離した。おおよそ360000コピーの2倍体CHO細胞ゲノムに対応する2μgのgDNAを、50μlのPCR反応混合液に加えた;上記混合液は、Q5緩衝液(NEB)、0.2mMのdNTP、0.5mMの順方向および逆方向プライマー(表4を参照のこと)、4%のDMSO、1UのQ5ホットスタートポリメラーゼ(NEB)、およびさらに2mMのMgClを含むものであった。次いで、以下のパラメータを用いてPCRを実施した:
ステップ1:98℃、3分間、
ステップ2:98℃、30秒間、
ステップ3:61℃、15秒間、
ステップ4:72℃、15秒間、
ステップ2~4を25回反復、
ステップ5:72℃、5分間。
【0050】
次いで、増幅した、SPをコードする単位複製配列について、AMPure XPビーズ(Beckman Coulter)を用いたサイズ選択を行い、最終的にはMiSeqシーケンシング(イルミナ)で配列決定を行った。形質導入した選別細胞の最高発現の1%と残りの99%との間でリード濃縮を比較することにより、最高発現レベルを付与するシグナルペプチドを同定した。
【0051】
【表4】
【0052】
一過性形質転換による蛋白質産生の試験
本発明者らのSPスクリーニングの結果が、バイオ医薬品産業において高レベル蛋白質生産を模倣する蛋白質生産条件にも応用可能であることを、ELISAアッセイを用いて示した。ここでは、FVIIおよびsfGFPの両方に関して最高発現レベルを付与するシグナルペプチドの同定後に、上記のアッセイを実施した。分泌型蛋白質を含む上記のSPを発現させる目的で、この蛋白質をコードする発現プラスミドを用いてHEK293T細胞またはCHO細胞、あるいはその他の好適な哺乳動物発現宿主細胞の一過性形質転換を行った。
【0053】
目的とする標的に応じて、分泌蛋白質を含む培地を、典型的には形質転換から3日~5日後に回収した。コニカルチューブに発現試験試料を回収して、室温で5分間、500xgの遠心分離(エッペンドルフ)を行い、細胞をペレットにした。清明化上清を新しいチューブに移し、目的とする標的に対するサンドイッチELISAアッセイを用いて分泌sfGFPまたはFVIIの量を定量した。
【0054】
すなわち、96穴ELISAプレートを、POIまたはそのエピトープタグ結合蛋白質で事前コーティングした。次いで、回収した清明化発現培地をコーティング済みのプレートに加えた。さらに、異なる陽性対照および陰性対照(それぞれ、市販の精製POIおよびモック形質導入細胞から回収した培地)を用いて、本アッセイの機能性を確認した。これは、起こり得る疑陽性を回避するためであり、またPOI発現レベルおよび標的親和性に基づくその機能性を推定することを目的とするものであった。
【0055】
典型的には、製造元(Thermo-Fisher Scientificなど)が推奨する標準的方法の後に、ELISA試験を実施した。捕捉標的のプレートコーティングは、典型的には4℃で一晩実施した。非結合蛋白質はアッセイ緩衝液で洗い流した;洗浄を3回反復した後、プレートを軽くタッピングすることによって素早い乾燥を行った。市販のブロッキング緩衝液(例えば、Thermo-Fisher Scientificの商品)を全ウェルに加えて、室温で1時間、プレートをインキュベートした。ブロッキング緩衝液を除去して、ウェルに清明化発現培地および対照を加えた。上記のように洗浄工程を繰り返し行い、好適な標識抗体(Thermo-Fisher Scientific)でウェルを処理した。蛋白質標的複合体シグナルを検出する目的で、プレートをペーパータオル上に軽く叩きつけて手短に空気乾燥させ後、標識した検出2次抗体を含むブロッキング緩衝液(50μl)をウェルに加えた。過剰の検出抗体を洗い流して、好適なアッセイ緩衝液を加えた。ELISAプレートリーダー(Thermo-Fisher Scientific)を用いてシグナルを測定した。
【0056】
必要に応じて、HRP検出を用いた。この場合には、アッセイ緩衝液の代わりに、最終工程においてHRP複合体およびHRP基質を加えた後、プレートリーダーを用いて検出を行った。上記の方法の結果を図3~5に示す。

参考文献
【表5】
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】