(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】アミノピラゾール化合物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4439 20060101AFI20241128BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241128BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20241128BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241128BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P17/00
A61P37/08
A61P29/00
A61P43/00 111
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537401
(86)(22)【出願日】2022-12-23
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2022087698
(87)【国際公開番号】W WO2023118555
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ホースプール,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】コワルスキー,ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】モーラー,クリスティーナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB111
4C084ZB112
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4C084ZC511
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4C084ZC75
4C086AA01
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4C086BC36
4C086GA02
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4C086GA08
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4C086MA01
4C086MA04
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4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZB13
4C086ZC41
4C086ZC51
4C086ZC61
(57)【要約】
本発明は、JAK阻害剤であることから、若い動物でのアトピー性皮膚炎及びアレルギー性皮膚炎などのJAK-1介在疾患の治療のための式(I)の化合物の使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌ、ネコ及びウマから選択されるペット動物のJAK-1介在疾患の治療に使用するための式(I)の化合物又は該化合物の薬学的に許容される塩若しくは立体異性体:
【化1】
であって、
治療上有効量のそのような化合物を12齢より若いその動物に投与することを特徴とする、式(I)の化合物又は該化合物の薬学的に許容される塩若しくは立体異性体。
【請求項2】
前記式(I)の化合物が下記のものであることを特徴とする、請求項1に記載の使用のための化合物。
【化2】
【請求項3】
前記動物が約6~12ヶ月齢であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
前記動物が約8~12ヶ月齢であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
前記動物がイヌであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
前記アトピー性疾患がアレルギー性皮膚炎又はアトピー性皮膚炎であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
前記化合物が、アトピー性皮膚炎の臨床症状の治療に用いられることを特徴とする、請求項6に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
前記化合物が、アレルギー性皮膚炎に関連する掻痒の治療又は抑制に使用されることを特徴とする、請求項6に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
前記化合物の前記治療上有効用量が約0.1mg/kg/日~約6.0mg/kg/日であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
前記治療上有効用量が約0.25mg/kg/日~約3.0mg/kg/日、好ましくは0.6~約1.8mg/kg/日であることを特徴とする、請求項9に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
前記治療上有効用量が約0.6mg/kg/日~約1.2mg/kg/日であることを特徴とする、請求項9に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
前記治療上有効用量が経口投与されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
前記投与を少なくとも4ヶ月間にわたり毎日繰り返すことを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
前記投与を少なくとも1年間にわたり毎日繰り返すことを特徴とする、請求項13に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
前記化合物の用量が最初に2~6週間にわたり1日2回投与され、その後は1日1回投与されることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項16】
前記式(I)の化合物が、1以上の追加の有効成分と組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項17】
そのような追加の有効成分が、免疫調節剤、抗炎症剤、又は、抗生物質剤若しくは抗真菌剤であることを特徴とする、請求項16に記載の使用のための化合物。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の使用のための、式(I)の化合物:
【化3】
又は該化合物の薬学的に許容される塩若しくは立体異性体を含む医薬組成物。
【請求項19】
前記式(I)の化合物が、
【化4】
であることを特徴とする、請求項18に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項20】
前記組成物が、経口投与用の単位製剤、好ましくは所期のペット動物にとって口当たりの良い香料を含む錠剤であることを特徴とする、請求項18又は19に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アトピー性皮膚炎又はアレルギー性皮膚炎などの動物のJAK-1介在疾患の治療での使用のための化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患は、イヌ、ネコ、ウマなどのペットの最も深刻な問題の一つである。このような疾患の症状は、ペットの健康と生活の質に影響を及ぼす。
【0003】
アレルギー疾患に関与する潜在的な要因は数多くあり、十分に理解されていない。これらの疾患は、免疫系と身体にとっての異物との相互作用によって引き起こされる障害又は疾患であるアレルギー反応に関連している。この異物は「アレルゲン」と呼ばれる。一般的なアレルゲンには、花粉、ほこり、カビのような空気アレルゲン、イエダニのタンパク質、虫刺されからの注入唾液が含まれる。
【0004】
非受容体チロシンキナーゼの哺乳動物ヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーには、JAK-1、JAK-2、JAK-3及びTYK-2の四つの構成員がある。JAKファミリーは、70種類を超える異なるサイトカインからの細胞内シグナル伝達に関与している。サイトカインは細胞表面の受容体に結合し、それにより受容体の二量体化とそれに続くJAKチロシンキナーゼの活性化/リン酸化を生じる。次に、受容体上の特定のチロシン残基は活性化JAKによってリン酸化され、STATタンパク質のドッキング部位として働く。STATはJAKによってリン酸化され、二量化してから核に移行し、そこで特定のDNA要素に結合して遺伝子転写を活性化する。JAK-1は、サイトカイン依存的にすべてのJAKアイソフォームと連動してシグナルを伝達する。
【0005】
JAKは、複数の生理機能に不可欠である。これは、特定のJAKを欠損した遺伝子組み換えマウスモデルを使用した研究(K. Ghoreschi, A. Laurence, J. J. O′Shea, Immunol. Rev. 228, 273(2009))や、ヒトの疾患に関連するJAK酵素の突然変異の同定によって証明されている。(J. J. O’Shea, M. Pesu, D. C. Borie, PSC hangelian, Nat. Rev. Drug Discov. 3, 555(2004))。(Y. Minegishiet al, Immunity. 25, 745(2006))。
【0006】
これらのマウス及びヒトの遺伝子データは、Jak/STAT経路を、白血病やリンパ腫などの過剰増殖性疾患やがん、移植拒絶反応、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アレルギー、関節リウマチ、アレルギー性及びアトピー性皮膚炎、I型糖尿病、筋萎縮性側索硬化症及び多発性硬化症などの免疫障害及び炎症性障害など(これらに限定されるものではない)の各種疾患及び障害に関連している。
【0007】
近年、アレルギーの病態生理における哺乳類ヤヌスキナーゼ(JAK)の役割が研究され、理解が進んできた。市販されているJAK阻害剤であるアポキル(Apoquel)(登録商標)は、オクラシチニブマレイン酸塩を有効成分とする動物薬であり、イヌにおけるアトピー性皮膚炎に伴う掻痒の抑制とアトピー性皮膚炎の抑制について認可されている。オクラシチニブは、部分選択的JAK-1阻害剤である。
【0008】
JAK阻害剤は、JAK酵素活性に依存する各種サイトカインの機能を阻害することができる。多くのこれらサイトカインは、アレルギー性皮膚疾患/イヌアトピー性皮膚炎の病態生理学においてある役割を果たしている。これらのサイトカインの一部は炎症誘発性であったり、アレルギー反応/掻痒で示唆されている一方で、これら及び他のサイトカインは多様な細胞タイプで広範囲の反応を引き起こす。たとえば、多くのJAK依存性サイトカインが、宿主防御の重要な構成要素であったり、正常な造血において役割を果たしたりする。
【0009】
したがって、JAK阻害剤は、サイトカインシグナル伝達の調節異常が関与するアトピー性皮膚炎などの疾患に有用であり得る一方で、広範囲の他の非標的効果(例えば、宿主防御、造血などへの望ましくない効果)があり得る。
【0010】
重要な既知の獣医学的JAK-1介在疾患には、例えば、皮膚、消化管及び気道のアレルギー性の疾患又は症状などがある。例としては、アレルギー反応、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、湿疹、夏季湿疹、じんましん、喘鳴、炎症性気道疾患、再発性気道閉塞、気道過敏性、慢性閉塞性肺疾患、自己免疫に起因する炎症プロセス、及び非ヒト動物、特にペット動物の炎症性疾患がある。
【0011】
多くのJAK-1介在疾患には、掻痒性症状、つまり強い掻痒感があってその痒みを和らげるために皮膚をこすったり引っかいたりする衝動を引き起こすことを特徴とする疾患又は障害などがある。動物は一般に、掻くことで臨床的に痒みの感覚を示すものである。しかしながら、それは、舐める、吸う、噛む、咀嚼する、こする又は転がるなどによっても表され得る。
【0012】
掻痒が制御されないまま、特に長期間続くと、二次的な皮膚疾患が治療を複雑にする場合が多い。
【0013】
動物の掻痒症に起因する皮膚状態は、例えば、脱毛、鱗屑化及び色素沈着過剰、紅斑、色素沈着過剰、鱗屑化、痂皮形成、丘疹及び膿疱であることができる。若い犬(又は若い動物として疾患を発症して以来、長年の病歴を持つ老犬)では、それは慢性又は慢性再発性膿皮症として現れることがあり得る。
【0014】
アトピー性皮膚炎の有病率は、イヌの全個体数の10%と推定されている。世界的には、約450万匹の犬がこの慢性的かつ生涯にわたる病気に罹患しており、発症率は増加傾向にあるように思われる。最も頻繁に観察される臨床徴候は激しい掻痒で、これは動物とその飼い主の両方の生活の質に重大な影響を及ぼす。その診断は、他の掻痒性皮膚疾患の除外に関連する病歴及び特徴的な臨床症状に基づいて臨床的に行われる。犬種及び性別による偏りが疑われてきたが、地理的な地域によって大きく異なる場合がある。
【0015】
アレルギー性皮膚炎は、全て環境、食物及び/又は昆虫アレルゲン、並びに他の疾患によって引き起こされる可能性のある、複数の皮膚反応パターンを呈する。アレルギー性皮膚炎は、健常な猫や犬では反応を誘発しない物質に対する免疫系の異常な反応によって引き起こされると考えられている。アレルギー性皮膚炎の最も一貫した特徴は、慢性的な再発性掻痒である。アレルギー性皮膚炎に関与する潜在的な要因は数多くあり、ほとんど理解されていない。
【0016】
現在の治療は、臨床症状の重度、期間及び飼い主の好みによって決まり、アレルゲン特異的免疫療法及びグルココルチコイドやシクロスポリンなどのかゆみ止め薬などがある。グルココルチコイドやシクロスポリンなどの免疫抑制薬は一般的に有効であるが、長期使用は望ましくない有害効果を引き起こすことが多い。これらの薬は効果的であるが、長期使用を妨げる重大な副作用がある。たとえば、これらの薬は動物の免疫系を抑制し、それが感染症を引き起こす可能性がある。コルチコステロイドは、イヌやネコ、並びにその他の人間以外の動物で骨粗鬆症、内分泌問題及び白内障を引き起こすこともあり得る。さらに、コルチコステロイドは動物に頻繁に摂食、飲水及び排尿を引き起こす傾向があり、それがペットの飼い主には望ましくないと思われる。
【0017】
免疫療法は一部の患者には効果的であるが、頻繁な注射が必要であり、臨床的な改善が6~9か月間見られない可能性がある。
【0018】
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤、又はJAK阻害剤として知られる最近承認された製品も、アトピー性皮膚炎の治療に使用可能である。
【0019】
JAK-1酵素は、アトピー性皮膚炎に関連する炎症誘発性、アレルギー誘発性、及び掻痒誘発性のサイトカインのシグナル伝達及びシグナル変換に関与している。
【0020】
アレルギー性又はアトピー性皮膚炎のイヌにオクラシチニブを投与すると、掻痒が急速に改善し、病変が縮小する[Cosgrove et al., Vet. Derm. (2013), 24:479;Cosgrove etal., Vet. Derm. (2013), 24:587]。オクラシチニブの用量をさらに増やすと、JAK-2阻害によるものと考えられる、ヘマトクリット値、ヘモグロビン値、及び網状赤血球数の減少が生じる[FOI Summary NADA 141-345;Gonzales et al., J. Vet. Pharmacol. Therapeut. (2014), 37:317]。
【0021】
これらのデータを総合すると、JAK-1の阻害がアレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎の有効な治療法であることを強く示唆している。
【0022】
イヌやネコのアトピー性皮膚炎は慢性的な症状であることが多いため、これらの安全性と副作用の問題のため、安全で効果的な長期治療に対する大きな医療ニーズが満たされなくなっている。
【0023】
代替のJAK阻害剤が知られている。WO2013/041042は、関節リウマチ、喘息、COPD及びがんの治療に有用なヤヌスキナーゼ阻害剤としてピラゾールカルボキサミジンを開示している。この開示の化合物は、下記式で表される。
【化1】
【0024】
WO2013/040863は、例えば喘息、閉塞性気道疾患、関節炎、肺気腫、がん、重症筋無力症、バセドウ病及びアルツハイマー病の治療に有用なヤヌスキナーゼ1阻害剤である置換されたシクロアルキルニトリルピラゾールカルボキサミドを開示している。
【0025】
WO2014/146490は、置換された2-(3-アミノ-4-オキソ-4,5-ジヒドロピラゾロ(4,3-c)ピリジン-1-イル)-シクロブタンカルボニトリル化合物がヤヌスキナーゼ阻害剤であることを開示している。
【0026】
WO2018/108969は、選択的Janus-1キナーゼ(JAK)阻害剤であり、従ってアトピー性皮膚炎、関節炎及びがんなどのJAK介在疾患の治療に有用な化合物を開示している。具体的には、式(I)の化合物としての1-[(3R,4S)-4-シアノテトラヒドロピラン-3-イル]-3-[(2-フルオロ-6-メトキシ-4-ピリジル)アミノ]ピラゾール-4-カルボキサミドが開示されている。
【0027】
アポキル(Apoquel)(登録商標)は、オクラシチニブを有効成分とする動物薬で、アトピー性皮膚炎に伴う掻痒の抑制及び生後少なくとも12か月のイヌのアトピー性皮膚炎の抑制用に認可されている(FOI Summary for NADA 141-345, May 14, 2013参照)。また、米国特許第6,890,929号、同7,687,507号、同8,133,899号、同8,987,283号も参照する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】WO2013/041042
【特許文献2】WO2013/040863
【特許文献3】WO2014/146490
【特許文献4】WO2018/108969
【特許文献5】米国特許第6,890,929号
【特許文献6】米国特許第7,687,507号
【特許文献7】米国特許第8,133,899号
【特許文献8】米国特許第8,987,283号
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】K. Ghoreschi, A. Laurence, J. J. O′Shea, Immunol. Rev. 228, 273(2009)
【非特許文献2】J. J. O’Shea, M. Pesu, D. C. Borie, PSC hangelian, Nat. Rev. Drug Discov. 3, 555(2004)
【非特許文献3】Y. Minegishiet al, Immunity. 25, 745(2006)
【非特許文献4】Cosgrove et al., Vet. Derm. (2013), 24:479
【非特許文献5】Cosgrove etal., Vet. Derm. (2013), 24:587
【非特許文献6】FOI Summary NADA 141-345;Gonzales et al., J. Vet. Pharmacol. Therapeut. (2014), 37:317
【非特許文献7】FOI Summary for NADA 141-345, May 14, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
アポキルについては、安全域(MOS)試験が実施された。このGLP試験は、試験開始時に約6か月齢の若い成犬のビーグル犬を対象に実施された。オクラシチニブは、最大曝露用量0.6mg/kgの0、1、3及び5倍の量を1日2回イヌに投与した。試験の予定期間は26週間であった。4か月の治療後、2匹のイヌが安楽死を必要とし、中用量及び高用量群の数匹のイヌが、治療関連の免疫抑制に起因する臨床的毛包虫症を発症した。免疫抑制に続発する感染症により2匹が死亡し、そのうち1匹はオクラシチニブマレイン酸塩の中断後28日で死亡した。
【0031】
試験は、16週に予定より早く終了した。
【0032】
最も重度の有害臨床効果は1年未満の動物齢のイヌで認められることがわかった。若い犬で観察された効果の結果、それの使用を1歳超のイヌに限定することが決定された。
【0033】
したがって、唯一入手可能なJAK-1阻害剤であるアポキルは、生後12か月以下の動物には使用が禁忌である。
【0034】
ペット動物、特に生後12か月未満の動物におけるアトピー性皮膚炎及びアレルギー性皮膚炎に対する安全かつ有効な代替治療に対するニーズが現在もなお満たされていないことを考慮すると、新たな有効かつ安全な治療選択肢を提供することが望ましいものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明は、イヌ、ネコ及びウマから選択されるペット動物のJAK-1介在疾患の治療に使用するための式(I)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは立体異性体であって、
【化2】
治療上有効量のそのような化合物を12か月齢より若い動物に投与することを特徴とする、式(I)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは立体異性体に関する。
【0036】
別の実施形態は、上記で示した使用のための、治療上有効用量の式(I)の化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。
【化3】
【0037】
別の態様は、そのような使用のための、治療上有効用量の上記で記載の式(I)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩又は立体異性体及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。
【0038】
具体的な実施形態において、前記疾患はイヌのアトピー性皮膚炎又はアレルギー性皮膚炎である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1A】
図1は、IL-31誘発掻痒モデルで試験を行った場合の化合物1の結果を示す図である。
図1Aは、化合物1のプラセボ及びアポキルとの比較を示す図である。
【
図1B】
図1は、IL-31誘発掻痒モデルで試験を行った場合の化合物1の結果を示す図である。
図1Bは、三つの異なる用量の化合物1の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の目的は、有効であり、12か月齢以下の動物に有効かつ安全に投与できる、JAK介在疾患の治療に有効かつ安全な化合物を提供することである。本発明は、このニーズに応えるものである。
【0041】
理解すべき点として、本発明は、本明細書に開示された例示の方法又は組成物に限定されない。さらに理解すべき点として、本明細書で使用されている用語は、本発明の特定の実施形態を説明することのみを目的としたものであり、限定的なものではない。
【0042】
本発明を詳細に説明する前に、本発明の文脈で使用されるいくつかの用語を定義する。これらの用語に加えて、他の用語については、必要に応じて本明細書の他の箇所で定義される。
【0043】
本明細書において別断で明示的に定義されていない限り、本明細書で使用される技術用語は、当該技術分野で認められた意味を有する。
【0044】
本明細書及び請求項で使用されている場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに別段の定めがない限り複数形も含む。
【0045】
本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、組成物及び方法が、記載された要素を含むが、他の要素を除外しないことを意味するものである。
【0046】
本発明者らは、驚くべきことに、イヌ、ネコ及びウマなどのペット動物、特にイヌのJAK-1介在疾患を治療するために、式(I)の化合物を12ヶ月齢未満の若い動物に投与することができることを見出した。
【0047】
式(I)の化合物は、JAK-1阻害剤であると記載されている。このような作用機序を持つ唯一の市販された動物用製品は、アポキルという製品であり、その動物薬の有効成分はオクラシチニブであり、それは生後12か月以上のイヌにおけるアトピー性皮膚炎関連の掻痒の抑制及びアトピー性皮膚炎の抑制用に認可されている(FOI Summary for NADA 141-345, May 14, 2013を参照)。また、米国特許第6,890,929号、同7,687,507号、同8,133,899号、及び同8,987,283号も参照する。
【0048】
アポキルについては、安全域研究で、最も重度の有害臨床効果が1歳未満のイヌで観察されたことが判明した。若いイヌ(成犬と比較して)で観察された副作用の一部は、免疫系の能力の違いによる可能性がある。若いイヌで認められた副作用の結果、アポキルの使用は1歳超のイヌに限定されることが決定された。
【0049】
したがって、唯一入手可能なJAK-1阻害剤であるアポキルは、生後12か月以下での使用は禁忌である。
【0050】
年齢は、動物の健康と病気の表現型の変化を考慮する際に、一般的に重要な要素であることが知られている。患者の年齢は、病気の経過及び進行に影響を及ぼしたり、正しい治療方針を決定する上で重要になり得る。
【0051】
結果的に、入手可能な情報に基づくと、JAK阻害剤を12か月未満のペット動物に使用して奏功し得ると予想できないと考えられる。
【0052】
しかしながら、アトピー性皮膚炎の兆候は、12か月以下のそのような若い成体動物ですでに現れている。イヌのアトピー性皮膚炎の発症年齢は、通常、6か月~3歳である。
【0053】
この年齢のイヌは、アトピー症候群、特にアトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎に関連する掻痒の症状を示すことが多い。
【0054】
したがって、特に皮膚症状(掻痒など)のある12か月未満の動物は、若い年齢でそのような症状が発症したときに(すでに)治療できることが望ましい。
【0055】
これは、このような疾患の進行を抑制する上で非常に重要である。早期治療は、一方ではこの年齢での症状の悪化を防ぎ、他方では、引っかき傷によって動物の皮膚障壁が破壊されたときに現れる病原体による二次感染の出現を防ぐ。
【0056】
アトピー性皮膚炎の動物は、二次皮膚感染、耳の感染症及びマラセチア(酵母)感染にかかりやすく、皮膚が敏感になることがよくある。皮膚感染症、刺激物質及びノミはいずれもアレルギー症状を悪化させ、抑制されている場合でも再発を引き起こす可能性がある。
【0057】
アレルギー性皮膚炎のイヌは、皮膚と耳の同時感染を起こすことがよくある。アトピーのイヌの皮膚には、一般に膿皮症で示唆されるブドウ球菌属が多く生息しており、特にスタフィロコッカス・シュードインテルメディウス(Staphylococcus pseudintermedius)が多く見られる。研究では、炎症を起こした皮膚やアトピーの皮膚にはブドウ球菌が付着しやすく、この細菌が大量に存在する理由を説明できると推測されている。これらの細菌は過敏症反応にも関与していることが示唆されており、最も一般的にはブドウ球菌の成分又は毒素がスーパー抗原として作用するためである。治療には、多くの場合、局所的及び/又は全身的な抗菌剤療法が必要である。
【0058】
その結果、膿皮症は十分早期に治療されなかった掻痒によって引き起こされることが多い。
【0059】
したがって、若い動物、特に生後12か月以下のイヌを治療すると、アトピー性皮膚炎及びアレルギー性皮膚炎の治療に大きな効果が得られると考えられる。
【0060】
驚くべきことに、式(I)の化合物は、実施例1に示すように、若い動物、特に生後約6~12ヶ月のイヌに投与できることが分かり、それは治療上有効用量の式(I)の化合物について安全域が確立されていることを示している。
【0061】
年齢は治療開始時の動物の年齢であり、治療はこの年齢を超えて継続される。
【0062】
式(I)の化合物は、ペット動物の掻痒を効果的に抑制することが分かっている。
【0063】
結果的に、1実施形態において、式(I)の化合物は、イヌのアレルギー性皮膚炎に関連する掻痒の治療、又はペット動物、特に12ヶ月齢未満のイヌのアトピー性皮膚炎の臨床症状の治療に使用される。
【0064】
1実施形態において、治療される動物の年齢は、約8~12ヶ月齢である。
【0065】
式(I)の化合物は、ペット動物、特に12ヶ月齢未満のイヌにおけるアレルギー性皮膚炎関連の掻痒の抑制及びアトピー性皮膚炎の抑制に使用することができる。1実施形態において、治療される動物の年齢は、およそ8~12ヶ月齢である。
【0066】
したがって、本発明の目的の一つは、式(I)の化合物、又はそのような化合物を含む医薬組成物若しくは動物薬製品を、そのような若いペット動物におけるJAK-1介在アトピー性疾患の治療用医薬品の製造に使用することである。
【0067】
これは、アトピー性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、湿疹、又は夏季湿疹(特にウマ)などの掻痒症状を伴うJAK-1介在疾患に特に有効である。
【0068】
特定の実施形態において、疾患はアレルギー性皮膚炎又はアトピー性皮膚炎である。好ましくは、疾患はイヌ又はネコ、特にイヌのアトピー性皮膚炎である。
【0069】
特定の実施形態において、式(I)の化合物は、イヌのアトピー性皮膚炎の臨床症状の治療に使用される。
【0070】
別の実施形態において、式(I)の化合物は、イヌのアレルギー性皮膚炎に関連する掻痒の治療に使用される。
【0071】
本発明で使用するための化合物は、式(I)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは立体異性体である。
【化4】
【0072】
式(I)の化合物は、1以上の不斉中心を含むことから、ラセミ体及びラセミ混合物、単一のエナンチオマー、ジアステレオマー混合物及び個々のジアステレオマーとして存在し得る。本発明は、式Iの化合物のこのような異性体形態すべてを、単一種又はそれらの混合物として包含することを意図している。
【0073】
好ましい実施形態において、式Iの化合物は下記のものである。
【化5】
【0074】
1実施形態において、本発明の化合物は、JAK-2及びJAK-3に対して選択的JAK-1阻害剤である。1実施形態において、本発明の化合物は、JAK-2又はJAK-3に対して選択的JAK-1阻害剤である。所与の化合物のJAK1阻害に対する相対選択性の決定は、(JAK2 IC50値/JAK1 IC50値)の相対比が少なくとも2であると定義される。また、(JAK3 IC50値/JAK1 IC50値)の相対比は少なくとも500である。
【0075】
さらに別の実施形態において、所与の化合物について、(JAK2 IC50値/JAK1 IC50値)の相対比は少なくとも5であるか、又は少なくとも10である。別の実施形態において、(JAK3 IC50値/JAK1 IC50値)の相対比は少なくとも500であるか、又は少なくとも750であるか、又は少なくとも1000である。
【0076】
「薬学的に許容される塩」という用語は、無機塩基及び有機塩基を含む薬学的に許容される非毒性塩基から製造される塩を指す。本発明の化合物が塩基性である場合、塩は、無機酸及び有機酸を含む薬学的に許容される非毒性酸から製造され得る。
【0077】
別断の断りがない限り、式(I)の化合物への言及は、それの立体異性体又はそれの薬学的に許容される塩も含むことを意味することが理解されるであろう。
【0078】
式(I)の化合物は、ペット動物のJAK-1介在疾患の治療に使用することができる。
【0079】
1実施形態において、JAK-1介在疾患は、JAK2及びJAK3と比較したヤヌスキナーゼJAK-1の選択的阻害によって改善できる疾患である。
【0080】
重要な既知の動物JAK-1介在疾患には、例えばアレルギー疾患や皮膚、胃腸及び気道の症状などがある。例としては、アレルギー反応、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、湿疹、夏季湿疹、じんましん、喘鳴、炎症性気道疾患、再発性気道閉塞、気道過敏、慢性閉塞性肺疾患、自己免疫に起因する炎症プロセス、及び非ヒト動物、特にペット動物の炎症性疾患がある。
【0081】
特定の実施形態において、JAK-1介在疾患は、アレルギー性皮膚炎又はアトピー性皮膚炎である。好ましくは、この疾患は、ペット動物、特にイヌ又はネコ、好ましくはイヌのアトピー性皮膚炎である。
【0082】
これらの疾患はアレルギー反応に関連している。「アレルギー反応」という用語は、本明細書においては免疫系と身体に対する異物との間の相互作用によって引き起こされる障害又は疾患と定義される。この異物は「アレルゲン」と呼ばれる。一般的なアレルゲンには、花粉、ほこり、カビ、ダニのタンパク質、虫刺されからの注入唾液などの空気アレルゲンなどがある。アトピー性皮膚炎は、ノミアレルギーに次いでイヌで2番目に多いアレルギー性皮膚症状である。
【0083】
多くのJAK-1介在疾患が掻痒症状を含む。掻痒症状を含むJAK-1介在疾患の例には、アトピー性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、湿疹及び夏季湿疹などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎を患っているペット動物は、掻痒、脱毛、深い引っかき傷による皮膚の剥脱、頻繁な足舐め、及び涙の過剰産生に悩まされることが多い。
【0085】
掻痒は感覚であり、痒みと同義である。動物は一般的に掻くことで臨床的に痒みの感覚を示す。しかしながら、舐める、吸う、噛む、咀嚼する、こする、及び転がることでそれが現れる場合もある。掻痒が抑制されないまま残り、特に長期間続くと、二次的な皮膚疾患が治療を複雑にすることが多い。
【0086】
動物の掻痒症に起因する皮膚疾患には、脱毛、鱗屑化、色素沈着過剰、紅斑、痂皮形成、丘疹及び膿疱などがある。比較的若いイヌ(又は若い動物の時に発症して以来、長年の病歴を持つ老犬)では、それは慢性又は慢性再発性膿皮症として現れることがある。
【0087】
実施例2に示すように、式(I)の化合物は掻痒を効果的に抑制することがわかった。
【0088】
結果的に、1実施形態において、式(I)の化合物を、イヌのアレルギー性皮膚炎に関連する掻痒の治療に使用することができる。式(I)の化合物を、ペット動物、特にイヌのアトピー性皮膚炎の臨床症状の治療に使用することができる。
【0089】
式(I)の化合物を、ペット動物、特に12ヶ月齢未満のイヌにおけるアレルギー性皮膚炎に関連する掻痒の治療又は抑制、及びアトピー性皮膚炎の抑制に使用することができる。
【0090】
ペット動物とは、イヌ(例えば、飼い犬)、ネコ(例えば、家猫)、ウマ(例えば、馬)である。イヌ又はネコ、特にイヌを治療することが好ましい。
【0091】
また、本明細書で使用される「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」又は「治療(treatment)」という用語は、当該技術分野で周知であると思われるように、例えば、対象者の症状の(例えば、1以上の症状の)改善、障害、疾患若しくは病気の進行の遅延、及び/又は症状、障害、疾患若しくは病気の臨床パラメータの変化などを含む、例えば、有益な効果及び/又は治療効果となり得る調節効果を、症状、障害、疾患又は病気に罹患している動物に与える任意の種類の動作を指す。
【0092】
さらに、本明細書で使用される場合、「予防する(prevent)」、「予防すること(preventing)」又は「予防(prevention)」という用語は、動物における疾患、障害及び/又は臨床症状の発症及び/又は進行の欠如、回避及び/又は遅延、及び/又は本発明の方法がない場合に起こると考えられるものと比較して疾患、障害及び/又は臨床症状の発症の重度低下をもたらすあらゆる種類の作用を指す。予防は完全なもの、例えば疾患、障害及び/又は臨床症状の完全な欠如であってもよい。予防は部分的であることで、動物における疾患、障害及び/又は臨床症状の発生及び/又は発症の重度が、本発明がない場合に起こると考えられるものより低いものとするものであっても良い。
【0093】
本発明における「治療」という用語には、上記のような予防の側面も含まれる。
【0094】
「治療上有効用量」又は「治療上有効量」とは、治療効果及び/又は有益な効果であることができる所望の効果を生み出すのに十分な本発明の化合物又は組成物の量を指す。それは、動物に対して無毒であり、疾患又は障害に関連する兆候及び症状を軽減することによって所望の効果を達成するのに十分な量である。
【0095】
アレルギー疾患については、そのような効果は、例えば、症状の重度及び/又は頻度の軽減又は消失、及び/又は損傷の改善又は修復(例えば、炎症の軽減、遅延、及び/又は予防)、及び/又はアトピー性皮膚炎又はアレルギー性皮膚炎を患う動物の病変及び/又は痒みの軽減、抑制、緩和、又は予防である。
【0096】
この文書における「無毒性」とは、特定の投与量で、治療された動物に重度の副作用がないことを意味する。これは具体的には、副作用が観察された場合、それが許容できるものである、例えば、臨床的又は顕微鏡的所見が一時的であり、(長期の)治療やその他の介入を必要とせずに解消するか、わずかな変化しか示さない(血液学的パラメータなど)ことを意味する。
【0097】
このような慢性疾患のもう一つの重要な側面は、掻痒を抑制する治療上有効及び無毒性用量の式(I)の化合物で治療すると、動物(及びペットの飼い主)の生活の質が大幅に改善されることである。これは、このような慢性疾患が動物の継続的な不快感をもたらすことから、動物福祉の観点からも重要である。特に、生後約6~12か月の若いイヌの場合、継続的な痒みは精神的及び身体的発達を妨げ、動物の望ましくない行動につながる可能性があり、若い(イヌ)動物の社会化に悪影響を与える可能性がある。
【0098】
驚くべきことに、治療上有効な投与量は、12か月齢以下の若いイヌでは耐容性が高く、無毒性であることが観察されている。この所見は、市販のJAK阻害剤アポキルを、若いイヌに投与する研究で観察された副作用の報告を考慮すると予想外のものであり、それによって重篤な副作用が生じ、12か月齢未満のイヌでは禁忌となっている。
【0099】
式(I)の化合物の治療上有効な1日投与量は、約0.1mg/kg~約6.0mg/kgである。1実施形態において、治療上有効な投与量は、約0.25mg/kg~約3.0mg/kg/日、好ましくは0.5~約1.8mg/kg/日又は約0.6mg/kg~約1.2mg/kg、或いは1mg/kgである。
【0100】
好ましくは、治療上有効な量の式(I)の化合物を動物に経口投与する。これには、投与に獣医師の介入が不要であり、長期間にわたって継続できるという利点がある。
【0101】
アトピー性皮膚炎又はアレルギー性皮膚炎は、多くの場合、その症状の生涯にわたる治療を必要とする。多くの実施形態において、治療は、動物の生涯とまではいかなくても、何週間も毎日連続で(維持療法として)継続される。
【0102】
代表的には、治療は、あまり長くなくても少なくとも14日間連続して、つまり少なくとも1か月、好ましくは少なくとも4か月、毎日投与を繰り返して継続される。多くの実施形態において、毎日の治療は、長くなくとも少なくとも1年間、つまり5年間から動物の残りの生涯にわたって継続される。
【0103】
1実施形態において、投与は少なくとも4ヶ月間毎日繰り返される。
【0104】
別の実施形態において、投与は少なくとも1年間毎日繰り返される。
【0105】
所望の治療上有効用量は、1日1回投与で、又は適切な間隔で投与される分割投与、例えば1日2回、3回、4回又はそれ以上として簡便に提供することができる。
【0106】
また、理解すべき点として、所望の血漿濃度を迅速に達成するために、投与される初期投与量を上記の上限レベルを超えて増加させることもできる。他方、初期投与量は最適量よりも少なくすることができ、特定の状況に応じて治療の過程で1日投与量を徐々に増加させることもできる。
【0107】
1日用量を複数回に分けて投与することもでき、例えば、1日用量をその1日用量の半分に分け、それを約12時間の間隔をあけて1日2回投与する。
【0108】
1実施形態において、式(I)の化合物の用量は、最初は2~6週間にわたり1日2回投与され、その後は維持療法として同じ用量が1日1回投与される。
【0109】
好ましい1実施形態において、式(I)の化合物は、1日2回、最大14日間、好ましくは2週間経口投与され、その後、維持療法として1日1回投与され、その維持療法は4ヶ月、1年又はそれ以上続く場合がある。
【0110】
別の好ましい実施形態において、治療上有効量の式(I)の化合物を6週間にわたり1日2回経口投与し、その後、維持療法として同じ用量を1日1回投与する。
【0111】
一部の実施形態において、式(I)の化合物は、1以上の追加の有効成分と組み合わせて投与される。このような追加の有効成分としては、例えば、免疫調節剤、抗炎症剤、又は抗生物質があり得る。
【0112】
式(I)の化合物は、単独で、又は哺乳動物の免疫系を調節する1以上の追加の有効成分、又は抗炎症剤、例えばNSAID若しくは抗炎症ステロイド(例えばプレドニゾロン又はデキサメタゾン)と組み合わせて、薬学的に許容される形態で投与することができる。これらの薬剤は、当業者に知られている標準的な薬学的実務に従って、同じ又は別の剤形の一部として、同じ又は異なる投与経路を介して、同じ又は異なる投与計画で投与することができる。
【0113】
好ましくは、式(I)の化合物は、医薬組成物として投与される。医薬組成物におけるような「組成物」という用語は、有効成分と、担体を構成する不活性成分(医薬として許容される賦形剤)とを含む製品、並びに、いずれか2以上の成分の組み合わせ、複合体形成又は凝集、又は1以上の成分の解離、又は1以上の成分の他の種類の反応又は相互作用から直接的又は間接的に生じるあらゆる製品を包含することを意図している。
【0114】
したがって、本発明の医薬組成物は、式(I)の化合物及び少なくとも一つの薬学的に許容される賦形剤とを混合することによって製造されるあらゆる組成物を包含する。
【0115】
各種実施形態において、式(I)の化合物は、錠剤又はカプセルとして単位用量形態で製剤される。一部の実施形態において、錠剤又はカプセルは咀嚼可能である。さらに、ネコ用の単位用量形態の質感及び製剤は、一般的にイヌ用のものと同じか実質的に同様であるが、ネコ用の単位用量形態は、より小型の動物により適したより小さなサイズ及び/又は濃度で入手できるようにしてもよい。
【0116】
1実施形態において、本発明で使用するための医薬組成物は、経口投与用の単位用量であり、好ましくは、所期のペット動物にとって口に合う香料を含む錠剤である。
【0117】
各種実施形態において、式(I)の化合物は、所期のペット動物にとって口に合う香料を含む組成物に製剤される。例えば、一部の場合では、イヌにとって口に合う香料を含む製剤が提供される。他の場合では、ネコに口に合う香料を含む製剤が提供される。好適な香料には、牛肉、鶏肉、豚肉、魚、及び七面鳥の香料、又はイヌ及びネコの食品に使用されるその他の香料などがある。1実施形態において、香料は、牛レバー、鶏レバー、豚レバー、及び七面鳥レバーのうちの1以上を含む調製物である。
【0118】
1実施形態において、本発明は、ペット動物、例えばイヌ又はネコ、好ましくはイヌにおけるアトピー性皮膚炎又はアレルギー性皮膚炎の治療のための、式(I)の化合物の経口投与される咀嚼用で香味を付けた医薬組成物を提供する。好ましくは、このようなペット動物は、治療開始時に12ヶ月齢未満である。
【0119】
本発明はまた、治療上有効量の式(i)の化合物を含むペースト及びゲルの形態の医薬製剤を提供する。特にウマへの投与に適した1実施形態において、適切な用量を、ウマの歯肉及び/又は歯に適用されるペーストの形態で投与する。特にネコへの投与に適した別の実施形態において、適切な用量を、ネコの足及び/又は毛皮に適用されるペーストの形態で投与する。
【0120】
このような医薬組成物は、一般に標準的な製剤プロセス及び装置を使用して調製することができ、式(I)の化合物に加えて、例えば前述のような追加の有効成分を含むことができる。
【実施例】
【0121】
下記の実施例において、化合物1は1-((3R,4S)又は(3S,4R)-4-シアノテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル)-3-((2-フルオロ-6-メトキシピリジン-4-イル)アミノ)-1H-ピラゾール-4-カルボキサミド)である。
【0122】
実施例1
パイロット標的動物安全性試験を行った。
【0123】
本試験の目的は、8ヶ月齢のビーグル犬(投与開始時)に化合物1を最大推奨市販用量(0.6mg/kgを2週間にわたり1日2回、及びその後は1日1回(BID)、又は1.2mg/kgを1日1回(SID))の1、3及び5倍の用量で4ヶ月間(連続112日間)経口投与した場合の安全域データを提供することであった。BID治療計画の2週間の臨床負荷期は、VICH GL43に従って本試験では6週間(提案期間の3倍)に延長した。
【0124】
試験品は、投与用にゼラチンカプセルに充填された治験用獣医製品の最終製剤混合物であった。対照品は、空のゼラチンカプセルとした。
【0125】
それに加えて、6か月齢のイヌで、群当たり雄3匹及び雌3匹を用い、対照群と比較して、最初の6週間(負荷期)は0.6、1.8、又は3.0mg/kgの用量を1日2回使用し、その後は1日1回(BID)に減らすか、又は試験期間全体にわたって用量6.0mg/kgを1日1回投与(SID)して、4か月間のパイロット標的動物安全性試験を行った(Robertson, 2021)。
【0126】
すべての投与量は雄犬と雌犬によく耐容され、体重、食物消費量、眼科検査、心電図又は血圧変化に変化はなかった。
【0127】
化合物1を、推奨される最大市販用量である1.2mg/kg(BID又はSID投与)の最大5倍の用量で毎日経口投与し、それは雄及び雌の6か月齢ビーグル犬で十分に耐容されたと結論付けることができる。過量投与された動物で、軽微な臨床所見(例えば、指間嚢胞、結膜炎、歯肉炎、下痢)が認められた。嚢胞は、筋骨格系の全体的な機能(跛行)には影響を及ぼさなかった。さらに、上記の他の所見は獣医の治療により解消された。結膜炎、歯肉炎、下痢、並びに趾間嚢胞などの軽度の感染は、一般的に大型犬のコロニーでは再発する問題であり、環境細菌と関連していることが多い(Ledbetter et al, 2009;Kovacs et al, 2005;Saleh et al, 2016)。
【0128】
要約すると、化合物1を繰り返し過量投与しても、環境細菌に関連する軽度の感染症(例えば、結膜炎、歯肉炎、下痢、趾間嚢胞)に対する感受性が高まるだけであった。推奨される最大市販用量では、軽度の感染症に対する感受性の上昇は認められなかった。
【0129】
従って、化合物1は若いイヌに使用しても安全であると考えられると結論付けられる。
【0130】
実施例2
ビーグル犬におけるイヌインターロイキン-31(cIL-31)誘発掻痒モデルを用いて、イン・ビボでJAK1シグナル伝達を阻害するのに必要な化合物1の用量についての情報を得た。cIL-31誘発掻痒モデルは、イヌにおけるアトピー性皮膚炎及びアレルギー性皮膚炎に関連する急性掻痒の関連モデルである。JAK阻害剤によるcIL-31誘発掻痒の抑制の程度は、アレルギー性皮膚炎又はアトピー性皮膚炎の患者における掻痒抑制を予測させるものである。
【0131】
イン・ビボでのJAK-1阻害、及び拡大して化合物1の予想される臨床効力の尺度として、本発明者らは、関連する薬力学モデルで化合物1を評価し、臨床的基準を含めた。イヌのインターロイキン-31(cIL-31)は、イヌにおけるアトピー性皮膚炎及びアレルギー性皮膚炎に関連する掻痒に関与していることが実証されており[Gonzales et al., Vet Dermatol 2013;24:48]、IL-31はそれの受容体複合体に結合した後、JAK-1及びJAK-2シグナル伝達分子を活性化することができる[Zhang et al., Cytokine & Growth Factor Reviews 19(2008) 347-356]。
【0132】
ビーグル犬にcIL-31を投与すると、強力な掻痒反応が生じるが、これはJAK阻害剤オクラシチニブによる事前治療によって抑制することができる[Gonzales et al., Vet Dermatol 2016;27:34-e10]。
【0133】
無作為化非盲検交差試験計画を使用して、化合物1(1mg/kg)、アポキル(登録商標)、又はプラセボを、cIL-31負荷の2時間前(化合物1及びアポキル(登録商標)の概ねのTmax)に実験用ビーグル犬に経口投与した。イヌをcIL-31負荷後2時間観察し、動物が掻痒行動をとっていた時間を記録した。
【0134】
この試験では、化合物1はcIL-31誘発性掻痒を有意に抑制し、その程度はアポキルと同程度であった。無作為化非盲検交差計画を使用した第2の試験で、化合物1のいくつかの用量(0.5、0.1及び0.05mg/kg)を評価し、アポキル(登録商標)及びプラセボ治療も含めた。
【0135】
化合物1は、0.5mg/kgの用量で掻痒を有意に抑制したが、0.1mg及び0.05mg/kgの用量では抑制しなかった。効果の程度は、0.5mg/kgの化合物1とアポキル(登録商標)で同様であった。
図1A及び1Bを参照する。
【国際調査報告】