(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電気化学的海洋アルカリ度向上のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20241128BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20241128BHJP
B01D 63/08 20060101ALI20241128BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241128BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/46 500
B01D63/08
C02F1/44 D
C02F1/44 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538203
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 US2022053755
(87)【国際公開番号】W WO2023122240
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503035992
【氏名又は名称】ザ・リサーチ・ファウンデーション・フォー・ザ・ステイト・ユニヴァーシティ・オブ・ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・イーサマン
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA17
4D006HA42
4D006JA04A
4D006JA04B
4D006JA04C
4D006JA14A
4D006JA18A
4D006JA41A
4D006JA42A
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4D006KB19
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4D061EB13
4D061EB17
4D061EB19
4D061EB39
4D061FA09
4D061GC18
(57)【要約】
本開示は、普通なら湯垢形成を発生する二価カチオンを除去することなく、バイポーラ膜電気透析(BPMED)を使用して、ブライン、例えば海水のアルカリ度を向上させることに関する。一実施形態では、BPMEDが用いられるが、この場合、塩基化室に通すブライン体積流量がブライン室に通すブライン体積流量よりも所定の電流密度で大きく、これにより、ブライン出力のpHは、上昇する一方で、沈殿pH未満に保持される。一実施形態では、塩基化室に位置するスペーサは、BPMEDの他の場所のスペーサよりも厚く、その結果、より大きい体積流量が与えられる塩基化室内の静水圧の上昇に起因する膜の歪みに耐える。高められたアルカリ度を有するブライン出力を海洋に戻して酸性化を軽減すること及び大気二酸化炭素の捕捉を可能にすることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ度を向上させるための方法であって、
(i)電極並びにブライン室、酸室及び塩基室から構成される少なくとも1つのユニットを含むバイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)を用意する工程と、
(ii)水性ブライン溶液を第1の体積流量(fba)で塩基室に及び第2の体積流量(fbr)でブライン室に貫流させる工程であり、水性ブライン溶液が、水性ブライン溶液が沈殿pH以上である場合に水性ブライン溶液から沈殿して固体沈殿物を形成する少なくとも1つの2価カチオンを含む、貫流させる工程と、
(iii)一定の電流密度で一定の電極間電圧をBPMEDデバイスに印加して、塩基室内に、ブラインのpHよりも高いが沈殿pH未満のpHを有する向上されたアルカリ性のブライン生成物を形成する工程と、
(iv)前記電流密度で、塩基室に通す第1の体積流量を、ブライン室に通す第2の体積流量よりも十分に大きい量で維持して、塩基室で形成された向上されたアルカリ性のブライン生成物のpHを沈殿pH未満に保持する工程と、
(v)向上されたアルカリ性のブライン生成物を塩基室から出力する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
塩基室へと流れる及びブライン室へと流れる水性ブライン溶液がブライン源からであり、このブライン源が、個別に塩基室及びブライン室のそれぞれについて、同じである又は異なる供給源である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水性ブライン溶液が、ブライン源から塩基室に直接流されるか、ブライン室に直接流されるか、又は両方に直接流される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水性ブライン溶液が、海水、逆浸透濃縮ブライン又は両方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ブライン源が、天然の海水又は溶解されて水性ブライン溶液を生成する採掘された塩である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
二価カチオンがカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)又は両方の二価カチオンから選択され、沈殿物がCaCO
3又はMg(OH)
2又は両方から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ブラインのpHが約6~約8.5であり、沈殿pHが約8.9以上であり、向上されたアルカリ性のブライン生成物のpHが約8.5~約8.9である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第1の体積流量は、第2の体積流量の約1~約10倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
塩基室から出力される向上されたアルカリ性のブライン生成物の少なくとも一部が、海水域へと流される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
部分的に脱塩されたブライン生成物がブライン室で形成され且つそれから出力され、ブライン室から出力される脱塩されたブライン生成物の少なくとも一部が、塩基室から出力される向上されたアルカリ性のブライン生成物の少なくとも一部と組み合わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
部分的に脱塩されたブライン生成物がブライン室で形成され且つそれから出力され、ブライン室から出力される脱塩されたブライン生成物の少なくとも一部が、塩基室へと入力される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
部分的に脱塩されたブライン生成物と向上されたアルカリ性のブライン生成物との組合せが、海水域へと流される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ブライン室から出力される脱塩されたブライン生成物が約8.5以下のpHを有し、組み合わされた脱塩されたブライン生成物及び向上されたアルカリ性のブライン生成物のpHが、約8.1~約8.9である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ブライン室、酸室及び塩基室がセルトリプレットに含まれ、BPMEDが直列で複数のセルトリプレットを含み、電極間に印加される電圧がセルトリプレットあたり約1V~約4Vであり、電流密度が約5mA/cm
2~約120mA/cm
2である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
第1の濃度のHClを含む水性流が酸室へと流され、第1の濃度よりも大きい第2の濃度のHClを有する酸性化生成物が酸室で形成され且つそれから出力される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
水性流が、酸室から出力される酸性化生成物の少なくとも一部と水供給との組合せを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
水供給が脱イオン水又はブラインを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
水性流の第1の部分が、約0.1M~約1MのHCl濃度を有するHCl生成物として回収され、水性流の第2の部分が酸室へと流される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
バイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)を含む、アルカリ度を向上させるためのシステムであって、バイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)が、
カソード及びアノードと、
少なくとも1つのユニットであり、
第1のカチオン交換膜、ブライン室スペーサ及びアニオン交換膜を含むブライン室、
バイポーラ膜、塩基室スペーサ及び第2のカチオン交換膜を含む塩基室、並びに
ブライン室と塩基室の間に位置し、且つアニオン交換膜の反対側の側面、酸室スペーサ、及びバイポーラ膜の反対側の側面を含む酸室
を含み、
塩基室スペーサが、ブライン室スペーサ及び酸室スペーサと同程度に剛直であるか又はそれらよりも剛直である、
少なくとも1つのユニットと、
を含む、システム。
【請求項20】
バイポーラ膜に近い塩基室スペーサの側面が、バイポーラ膜とは反対側の塩基室スペーサの側面よりも剛直であるように構成されている、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
塩基室スペーサが、ブライン室スペーサの厚さよりも大きい且つ酸室スペーサの厚さよりも大きい厚さを有する、請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
酸室スペーサとブライン室スペーサが同じ厚さを有する、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
酸室スペーサ及びブライン室スペーサがそれぞれ約0.15~約1.5mmの間の厚さを有する、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
塩基室スペーサが、酸室スペーサ及びブライン室スペーサの厚さの最大10倍である、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
塩基室スペーサが、織布のポリプロピレン又はシリコーンメッシュを含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項26】
酸室、ブライン室及び塩基室が、それぞれ個別に入口及び出口を含み、それぞれ個別に貫流操作用に構成されている、請求項19に記載のシステム。
【請求項27】
塩基室に通す体積流量を、ブライン室に通す体積流量よりも大きい量で維持するために、流量コントローラを更に含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項28】
ブライン室、酸室及び塩基室がセルトリプレットに含まれ、BPMEDが直列で複数のセルトリプレットを含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項29】
第1の側面及び第2の側面を含むバイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)用のスペーサであって、(i)第1の側面が第1のメッシュパターンを含み、第1の側面とは反対側の第2の側面が第2のメッシュパターンを含み、第1のメッシュパターンの開口の少なくとも一部が第2のメッシュパターンの開口域よりも大きな開口域を有する、若しくは(ii)第1の側面が第1の側面の上面に剛直なバッキングを含む、又は(iii)(i)と(ii)の両方である、スペーサ。
【請求項30】
第1のメッシュパターンの開口が、第2のメッシュパターンの開口よりも小さい流体抵抗をもたらすように構成されている、請求項29に記載のスペーサ。
【請求項31】
スペーサが実質的に長方形であり、上端部及び下端部を含み、第1のメッシュパターンの開口が第1の端部に向かって大きくなっている、請求項29に記載のスペーサ。
【請求項32】
第1のメッシュパターンの開口が、第1の側面にわたって均一ではない、請求項29に記載のスペーサ。
【請求項33】
第1及び第2のメッシュパターンがそれぞれ個別に織布ポリマーを含む、請求項29に記載のスペーサ。
【請求項34】
織布ポリマーが非重なりパターンを含む、請求項33に記載のスペーサ。
【請求項35】
剛直なバッキングが、第1の側面と統合しているか又はそれに接着されている、請求項29に記載のスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年12月22日出願の、米国仮特許出願第63/292,627号に対する優先権を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ブライン、例えば海水などの流体のアルカリ度向上のための方法及びシステムに関するものであり、この結果は、アルカリ性向上ブラインを海洋に戻して、大気から二酸化炭素を除去しそれを溶存イオン形態(重炭酸イオン及び炭酸イオン)で海洋中に貯留する海洋の能力を向上させることを含めて、ネガティブエミッション炭素除去に活用することができる。
【背景技術】
【0003】
ブラインなどの流体のアルカリ性向上には、電気化学的海洋アルカリ度向上(OAE)が含まれ、これは、電気化学を使用してアルカリ度を発生させることに関連するものであり、この場合、そのアルカリ度が海洋へと添加され、その結果、海洋の酸性化が軽減されること及び重炭酸塩としての海洋への大気CO2の安全な継続的吸収がもたらされる。海洋を使用して大気中のCO2を捕捉することは、一般に、海洋二酸化炭素除去、又は海洋CDRと呼ばれる。
【0004】
通常には、こういった電気化学システムは、電気及びいくらかのブライン流(海水、逆浸透濃縮物等)を入力として取り込み、出力は流入する塩の成分酸及び成分塩基であり、例えば、海水中のNaClはHCl酸及びNaOH塩基に変換される。バイポーラ膜電気透析(BPMED)は、2つの端部電極の間のイオン選択膜を使用して流入するNaCl含有ブラインからHCl及びNaOHを生成する電気化学プロセスである。結果として生じるNaOH及び海水を海洋に戻すと、このことによって、海洋のアルカリ度が向上され、その結果、海洋の酸性化が軽減され、大気からCO2を除去し且つ安全に溶存イオン形態(重炭酸塩及び炭酸塩)で海洋にCO2を貯留する海洋の能力が高まる;生成するHClは、商業販売又はCO2鉱物化リアクターの反応速度及び貯蔵容量を改善することなどの、他の目的向けに陸上に留めることができる。通常、BPMEDへと流入するブライン流、例えば海水又は逆浸透濃縮物は、カルシウム(Ca++)及び/又はマグネシウム(Mg++)の二価カチオンを含有する。これらの二価カチオンは、pHが上昇するにつれて、CaCO3及び/又はMg(OH)2などの固体カルシウム及び/又はマグネシウムの沈殿物を形成することができる。こういった沈殿物はBPMED膜上に湯垢生成を引き起こすおそれがあり、その結果、このことは、より高いエネルギー消費、より短い膜寿命及び多くの場合BPMED操作の崩壊をもたらす。従来において、湯垢形成の問題は、BPMEDの前にこれらの二価カチオンを除去することによって、通常は水軟化処理などの前処理によって対処されていた。しかし、こういった前処理は高価であり、操作の複雑性を増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、BPMEDへの入力流からそれらの二価カチオンを除去することを必要とせず、ブラインなどの流体のアルカリ度を向上させる方法及びシステムが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本開示はアルカリ度を向上させるための方法であって、(i)電極並びにブライン室、酸室及び塩基室から構成される少なくとも1つのユニットを含むバイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)を用意する工程と、(ii)水性ブライン溶液を第1の体積流量(fba)で塩基室に及び第2の体積流量(fbr)でブライン室に貫流させる工程であり、水性ブライン溶液が、水性ブライン溶液が沈殿pH以上である場合に水性ブライン溶液から沈殿して固体沈殿物を形成する少なくとも1つの2価カチオンを含む、貫流させる工程と、(iii)一定の電流密度で一定の電極間電圧をBPMEDデバイスに印加して、塩基室内に、ブラインのpHよりも高いが沈殿pH未満のpHを有する向上されたアルカリ性のブライン生成物を形成する工程と、(iv)上記電流密度で、塩基室に通す第1の体積流量を、ブライン室に通す第2の体積流量よりも十分に大きい量で維持して、塩基室で形成された向上されたアルカリ性のブライン生成物のpHを沈殿pH未満に保持する工程と、(v)向上されたアルカリ性のブライン生成物を塩基室から出力する工程とを含む、方法を対象とする。
【0007】
別の態様では、本開示は、バイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)を含む、アルカリ度を向上させるためのシステムであって、バイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)が、カソード及びアノードと、少なくとも1つのユニットであり、第1のカチオン交換膜、ブライン室スペーサ及びアニオン交換膜を含むブライン室;バイポーラ膜、塩基室スペーサ及び第2のカチオン交換膜を含む塩基室;並びにブライン室と塩基室の間に位置し且つアニオン交換膜の反対側の側面、酸室スペーサ、及びバイポーラ膜の反対側の側面を含む酸室を含み、塩基室スペーサが、塩基室スペーサがブライン室スペーサ及び酸室スペーサよりも厚い場合、ブライン室スペーサ及び酸室スペーサよりも剛直であるとし得る、少なくとも1つのユニットと、を含む、システムを対象とする。
【0008】
別の態様では、本開示の方法及びシステムは、沈殿する二価カチオンを除去するための前処理を回避することにより、低コストで極めて高品質の「ネガティブエミッション」炭素除去を作り出す電気化学的海洋アルカリ度向上をもたらす。
【0009】
一実施では、本方法及びシステムの貫流設計により、前処理並びにCa++及びMg++などの二価カチオンの除去を必要とせずに、海水、又は逆浸透濃縮液などのその他の水性ブライン溶液を直接にブライン室及び塩基室へと供給する能力が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の方法の実施形態並びに本開示のBPMEDシステム及び方法の実施形態の概略図である。
【
図2】
図1のBPMEDシステムの実施形態の概略断面図である。
【
図3A】本開示の塩基室スペーサの実施形態の概略斜視図である。
【
図3B】
図3Aの塩基室スペーサの実施形態のもう一方の側面の概略斜視図である。
【
図3C】本開示の塩基室スペーサの別の実施形態の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のある特定の実施形態に関する次に続く詳細な説明は、添付の図面を参照してなされるものであり、本開示の範囲に限定されるものではない。不要な詳細によって本発明を不明瞭にすることを回避するために、本発明の概念を理解する上で明確にする目的で、当技術分野の公知の関連機能又は関連構造についての説明は省略する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「約(about)」という用語は、変更により本明細書に記載の方法及びシステムの不適合がもたらされない限り、列挙される値がいくらか変更されてもよいことを指示する。例えば、一部の要素について、「約」という用語は、±0.1%の変動を指す場合があり、他の要素について、「約」という用語は、±1%~±10%の変動、又はそれらの間の任意の点を指す場合もある。本明細書で使用される場合、「実質的に」又は「実質的な」という用語は、否定的な意味合いで使用される場合にも等しく適用可能であり、完全又はほぼ完全な作用、特徴、特性、状態、構造、物品、又は結果を指す。例えば、「実質的に」平坦である表面は、完全に平坦であるか、又は上記表面が完全に平坦である場合と効果が同じと思われるほどに、ほぼ平坦である。本明細書で使用されるような任意の数値範囲への言及は、その範囲により包含される各数値(少数及び整数を含めて)を明示的に含み、当該範囲の端点を含む。単に例示の目的で、「0.0001から5000」の範囲への言及は、5000、4999、4998...3、2、1などの整数を含み、0.00011、0.00012...0.1、0.2、0.3...1.1、1.2、1.3….100.5、100.6...4900.5、4990.6、4990.7などの少数を含む。
【0013】
本明細書に記載のシステム及び方法の実施形態は、流れをバイポーラ膜電気透析ユニットへと入力する前の二価カチオンの除去を回避し、入力として二価カチオンを含むブラインを取り込むように特別に構成されたバイポーラ膜電気透析のシステム及び方法を提供する。
【0014】
図1に、水性ブライン溶液のアルカリ度を向上させるための方法及びシステムの概略図を図示するが、本明細書で使用される水性ブライン溶液という用語には、限定されないが、海水、汽水、脱塩プロセスから得られるブラインなどの塩水、又は溶解されてブライン溶液を生成する、例えばナトリウム及び/若しくはカリウムの重炭酸塩並びに/又は炭酸塩などの採掘された塩が含まれる。
図1(及び
図2)に、バイポーラ膜電気透析デバイス(BPMEDと表記)並びにカソード及びアノードを示すが、BPMEDは、左から右に示した実施形態では、少なくとも1つの酸室、ブライン室及び塩基室を含む(
図2)。
図1に示す実施では、ブライン室への入力(「ブライン入力」)と塩基室(「塩基室」)への入力は同じである、すなわち、それらの入力は両方とも同じブライン源からのもの、例えば何らかの形態の水性ブライン流からのものであるか、それには場合によっては海洋からの海水(塩分約35を有する)若しくは脱塩プラントに由来することができる逆浸透濃縮ブライン(塩分約70を有する)からのものがあるが、又は、ブライン源は他の何らかのブライン流若しくはプロセスからのものであってもよい。一実施では、ブライン源は海洋であり、向上されたアルカリ度のブライン生成物流は海洋酸性化を軽減するために海洋へと戻される。一実施形態では、向上されたアルカリ度のブライン生成物流は、海洋へ戻すために部分的に脱塩されたブライン出力流と組み合わされる。
【0015】
図1に、ブライン入力及び塩基入力のpHが8.1であると示されているが、いずれか又は両方の入力のpHは、pH6~8.5の範囲とすることができる。従来から、海水又は逆浸透濃縮物などのブライン入力流及び塩基入力流は、例えばカルシウム(Ca++)及び/又はマグネシウム(Mg++)の二価カチオンを除去するために前処理する必要があったが、これは、BPMEDユニットの塩基室で通常に遭遇する高pH値で、例えばpH14程で、これらのカチオンが存在すると、BPMED内の膜上に固体のMg(OH)
2及びCaCO
3の沈殿がもたらされ、次にBPMEDは性能が大幅に低下するからである。
図1に図示する貫流システム及び方法では、こういったタイプの二価カチオンの除去は行われず又は必要とされず、なぜなら、塩基室に通す塩基入力の体積流量(f
BA)が、塩基室内の最大pH(塩基室出力で測定)を8.5~8.9の範囲に保持するほど、電極間にある電圧が印加される場合の印加電流密度に起因してOH
-イオンの移動に対して十分に大きいからであるが、その8.5~8.9の範囲は、それによって、Mg(OH)
2固体及びCaCO
3固体並びにその他の固体の沈殿が発生するpH未満であり、その結果、関連する二価カチオンを取り除く必要性が排除される。電流密度の典型的な操作値について、これは、
図1で、塩基室に通す体積流量をブライン室に通す体積流量(f
BR)に対して十分に大きくすること、すなわちf
BA>f
BRによって
図1において実現され、その結果、塩基室で生成される向上されたアルカリ性のブライン生成物のpHは、沈殿pH未満のままである。このようなことは、塩基室に通す所定の体積流量で、電流密度を十分に低く保持して、塩基室のpHを沈殿閾値未満に保持する工程によっても実現することができる。
【0016】
図1に示す貫流構成では、酸流は「フィードアンドブリード」構成である。示すように、酸室チャネルへの水性酸入力の濃度は一定であり、X%HC1と表示される。BPMEDユニットの酸室を通流した後、出力酸濃度は(X+ε)%HC1に上昇する(「より濃縮された酸出力」と示される)。示す実施では、次いで、この(X+ε)%HC1のより高濃度の生成物酸の一部についてブリードオフがある。高濃度酸がブリードオフされる速度は、脱イオン水(DI水)の供給速度に一致し、こういった構成よって、酸入力にてX%HC1の一定濃度がもたらされる。
図1に「DI水」が図示されているが、この供給は、海水などの水性ブライン溶液であってもよく、生成物がブライン中、例えば海水中のHC1である場合にその他の水性溶液であってもよく、DI水ではなくその他の水性溶液であってもよい。(X+ε)%HC1の濃度でブリードオフされたHC1は、商業販売又はCO
2鉱物化リアクターの反応速度及び貯蔵容量を改善することを含めて、他の用途に向けて回収することがすることができる。
【0017】
図2を参照すると、
図1において有用なBPMEDシステムの実施形態の概略断面図があり、電気透析ユニット100であって、ブライン室210、酸室220及び塩基室230を含む少なくとも1つのセルトリプレット(セル1)を含むが、直列で複数の「N」個のこのようなセルトリプレット、例えば最大100個のセル又はそれ超を含むことができ、図示の構成では、直列の場合でブライン室210、210A…最大200N、酸室220、220A…200N(いずれも示されておらず)の各トリプレットを有する、電気透析ユニットを示す。ユニット100は、カソード110及びアノード114を含み、この場合、それぞれの電極室200及び116はエンドキャップ膜118及び120を有し、これらの膜はBPMED膜セルから電極室を隔て且つそれぞれが個別にNafion(登録商標)として市販のスルホン化テトラフルオロエチレンベースのフルオロポリマー-共重合体を含むことができる。電極110及び114は、当技術分野で公知の材料、例えばニッケルを含むことができる。
図2に図示のそういった膜がそれぞれの電極に隣接しているという点で、複数の構成が可能であること、及びこの点で
図2に示す構成は単に代表的なものであることが理解される。一実施では、電極溶液、例えば水性水酸化ナトリウム(NaOH)溶液が、電極室200及び116に貫流される;本実施では、正に帯電した電極114によってナトリウムイオン(Na+)がエンドキャップ膜120を横切って移動することになり、負に帯電した電極110によってナトリウムイオンが電極室200に誘引されることになる。他の適切な電極溶液は、硫酸の添加によって酸性であるように調整された硫酸ナトリウム又は水酸化ナトリウムの添加によって塩基性であるように調整された硫酸ナトリウムを含む。
【0018】
図2に示す実施形態では、ブライン室210は、カチオン交換膜(CEM)130及びアニオン交換膜(AEM)150(これらの要素又はBPMEDのその他の要素が複数で存在し且つ直列である場合、これらの膜は文字接尾辞と共に、例えば130、130A…130N;150、150A…150N等で表示される)によって画定される。実用向きのCEMには、当技術分野で公知の一価カチオン透過選択膜、例えば限定されないが、Neosepta CMX-Sとして市販されているものが含まれる。実用向きのAEMには、当技術分野で公知の一価アニオン透過選択膜、例えば、限定されないがNeosepta ACSとして市販されているものが含まれる。ブライン室210はまた、ブライン室スペーサ140を含み、このスペーサは、当技術分野で公知のスペーサ、ポリプロピレンを含めてポリオレフィン類などのポリマー、又はシリコーン化合物を含むことができ、織布であっても不織布であってもよく、CEM130及びAEM150と外寸サイズが同じのものであっても類似のものであってもよく、厚さ約0.15~約1.5mmを有することができる。酸室220は、AEM150の反対側の側面によって及びバイポーラ膜(BPM)170によって画定される。本明細書で使用のための実用向きのBPMには、当技術分野で公知のもの、例えば限定されないが、Neosepta BP-1Eとして市販されているものが含まれる。酸室220はまた、酸室スペーサ160を含み、このスペーサは、塩基室スペーサ140と同じ構造材料及びサイズを含んでもよい;一実施では、塩基室スペーサ及び酸室スペーサは実質的に同一であり、その結果、隣接する室に通す体積流量に起因して、普通なら膜を横切って生じると思われる静水圧差を回避するか又は最小限に抑える。全体として、電極110、114によってユニット100にかかって電圧が印加される場合、BPM内部の水の解離によって、BPMの一方の側面からの水素イオン(H
+)の輸送及び反対側の側面から水酸化イオン(OH
-)の輸送がもたらされる。AEM/CEMについては、AEM/CEMによって膜を通す負/正に帯電したイオンの輸送が可能になる。
【0019】
塩基室230は、BPM170の反対側の側面とCEM130Aの反対側の側面によって画定される。カチオン交換膜130Aは、CEM130と異なっていてもよく、好ましくは同じであってもよい。一実施形態では、塩基室スペーサ180は、ブライン室スペーサ140及び酸室スペーサ160よりも剛直である。これは、BPMEDが動作時である場合に望ましくない静水圧差を最小限に抑えるか又は防止するためである。一実施形態では、バイポーラ膜170に近い塩基室スペーサ180の側面は、例えばスペーサ180の内部と比較して当該側面上により剛直なバッキングを例えば含むことによって、バイポーラ膜170に対向している塩基室スペーサ180の側面よりも剛直であるように構成される。加えて、又はこの点で別に、塩基室スペーサ180は、ブライン室スペーサ140の厚さよりも大きな厚さ、酸室スペーサ160の厚さよりも大きな厚さを有することができ、例えば、塩基室スペーサ180は、ブライン室スペーサ140及び酸室スペーサ160の厚さの最大10倍とすることができるが、これらのスペーサ140及び160は同じ厚さを有することができる。塩基室スペーサ180は、ポリプロピレンなどの織布ポリオレフィン又はシリコーンを含むことができ、メッシュとして構成することができる。種々の塩基室スペーサの実施形態を
図3に図示する。
【0020】
操作上、非限定的な一実施において及び
図1に関連して、水性ブライン溶液は、第1の体積流量(fba)で塩基室230に貫流し(塩基入力)、第2の体積流量(fbr)でブライン室210に貫流する(ブライン入力)。水性ブライン溶液は、水性ブライン溶液が沈殿pH以上である場合に水性ブライン溶液から沈殿して固体沈殿物を形成する少なくとも1つの二価カチオンを含む;代表的な二価カチオンにはカルシウム(Ca
++)、マグネシウム(Mg
++)又は両方が含まれる;代表的な固体沈殿物にはCaCO
3、Mg(OH)
2又は両方が含まれる。このようなCa及びMgの二価カチオンの存在は、海水及び汽水におけるように自然に起こることができる。ブライン室210へと流れる水性ブライン溶液(ブライン入力)は、塩基室220へと流れる水性ブライン溶液(塩基入力)と同じでも異なっていてもよく、例えば海水、逆浸透濃縮ブライン等とすることができる;ブライン入力及び塩基入力のそれぞれは、同じブライン源からのものでも異なるブライン源からのものでもよく、このブライン源は、例えば天然の海水(海洋などの)又は溶解されて水性ブライン溶液を生成する採掘された塩を含む供給源を含むことができる。水性ブライン溶液は、個別にブライン源からブライン室及び/又は塩基室210、230のそれぞれに別々のラインで流す場合もあり、
図1に図示するように、分岐してそれぞれのブライン室及び塩基室210、230に供給する共通ラインで流す場合もある。
【0021】
電極110と114の間に一定の電圧が印加され、この電圧によって一定の電流密度がBPMED100に供給され、これにより、向上されたアルカリ性のブライン生成物が塩基室230(及び、本明細書で理解されるように、直列でセルが使用される場合は塩基室230A...230N)で形成され、向上されたアルカリ性のブライン生成物は、水性ブライン溶液供給(塩基入力)のpHよりも高いが1つ以上の二価カチオンを含有する水性ブライン溶液供給の沈殿pH未満であるpHを有する。これを行うための一実施形態は、上記電流密度で、塩基室230に通す第1の体積流量(fba)を、ブライン室210に通す第2の体積流量(fbr)よりも十分に大きい量で維持して、塩基室230で形成される向上されたアルカリ性のブライン生成物のpHを沈殿pH未満に保持する工程を含む。一実施では、塩基室230に通す第1の体積流量(fba)は、ブライン室210に通す第2の体積流量(fbr)の約1~約10倍である。
図2に示すように、ブライン室210、酸室220及び塩基室230は、セルトリプレット(セル1トリプレット)に含まれている;一実施では、BPMED100は、直列で複数のセルトリプレット(セル1トリプレット...セルNトリプレット(示さず))を含む。一実施形態では、上のアルカリ度向上を行うために電極間に印加される電圧及び電流密度は、セルトリプレットあたり約1V~約4Vであり、電流密度は約5mA/cm
2~約120mA/cm
2である。一実施形態では、電圧は、生成された酸510又は540の一部を全室に通してフラッシュすることによって、迅速な定置洗浄に関する必要性のシグナルを送る早期指標として使用される;この洗浄過程での出力のpHは、電圧フィードバック信号を改善するために使用することができる。
【0022】
限定されないが、ブライン入力400(及び直列でのセルについてブライン入力400A...400N、示さず)向けの及び塩基入力410(及び直列でのセルについて塩基入力410A...410N)向けの水性ブライン溶液供給のpHの典型的な値は、約6~約8.5の間、例えばpH8.1である。カルシウム及び/又はマグネシウムの二価カチオンを含む水性ブライン溶液供給入力の典型的な沈殿pHは、pH14程、例えばpH9以上とすることができる。限定されないが、ブライン室210(直列でのセルについて210A...210N、示さず)からの部分的に脱塩されたブライン出力420(直列でのセルについて420A...420N)のpHの典型的な値は、入力410と同じであり、約6~約8.5の間である。塩基室230(直列のセルについて230A…230N)から出力される向上されたアルカリ性のブライン生成物430A(最大430Nまで)の典型的な値は、約8.5~約8.9の間である。一実施では、電流密度と比較した塩基室230に通す第1の体積流量(fba)は、塩基室230のpHが8.5を超えないような程度のものである。
【0023】
一実施形態では(示さず)、塩基室230から出力される向上されたアルカリ性のブライン生成物430Aの少なくとも一部は、最終目的地300に直接流され、最終目的地には、海水域、例えば海洋が含まれ得、又は他の処理を伴う。
図2に図示する別の実施形態では、ブライン室210で形成され且つブライン室210から出力される部分的に脱塩されたブライン生成物420の一部又は全部が、塩基室230から出力される向上されたアルカリ性のブライン生成物430Aの全部又は少なくとも一部と組み合わされ、組み合わされた流れが最終目的地300、例えば海洋へと流される。一実施形態(示さず)では、ブライン室210で形成され、ブライン室210から出力される部分的に脱塩されたブライン生成物420の一部又は全部が、塩基室230への供給410(塩基入力)の全部又は一部を構成する。
【0024】
図2に示すように、第1の濃度のHCl(X%HCl)を含む水性流500が酸室220へと流され、第1の濃度よりも大きい第2の濃度のHClを、(X+ε)%HClと表示されるが(式中、εは濃度の上昇を表す)、有する酸性化生成物510が酸室で生成され且つそれから出力される。一実施形態では、酸性化生成物流510の一部が520としてブリードオフされる。脱イオン水又は水性ブライン溶液を含むことができる水流310は、ブリードオフされなかった濃度(X+ε)%HC1で酸性化生成物を含む流れ530に、第1の濃度X%HC1を有する流れ540を形成するのに十分な速度及び量で供給され、その後、その流れ540は酸室220に酸入力供給500を供給する。当然のことながら、BPMEDユニット100が複数のセルトリプレットを含む場合、このフィードアンドブリード技法は、すべての酸室220(最大200N、示さず)に適用することができる。一実施では、流れ540の第1の部分は、約0.1M~約1MのHC1濃度を有するHC1生成物として回収される;流れ540の第2の部分は、酸入力供給として酸室220へと流される。別の実施形態では、第2の濃度の(X+ε)%HClを含むブリードオフ流520は、生成物として回収されるか、又は回収されて他のプロセスへの供給として利用される。
【0025】
図2に示す本開示の別の実施形態では、アルカリ度を向上させるための本システムは、バイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)100を含み、バイポーラ膜電気透析デバイスは、カソード110及びアノード114と、少なくとも1つのユニット、又はセルトリプレットであって、第1のカチオン交換膜130、ブライン室スペーサ140及びアニオン交換膜150を含むブライン室210;バイポーラ膜170、塩基室スペーサ180及び第2のカチオン交換膜130Aを含む塩基室230;並びにブライン室210と塩基室230の間に位置し、アニオン交換膜150の反対側の側面、酸室スペーサ160、及びバイポーラ膜170の反対側の側面を含む酸室220を含む、少なくとも1つのユニットと、を含む。一実施では、
図2に示すように、酸室220、ブライン室210及び塩基室230は、それぞれ個別に入口及び出口を含み、それぞれ個別に貫流操作用に構成されている。
図2に示すシステムは、塩基室に通す体積流量をブライン室に通す体積流量よりも大きい量で維持するために、当技術分野で公知の1つ以上の流量コントローラ(示さず)を更に含むことができる。システムのBPMESは、直列で1つ又は複数のセルトリプレットを含むことができる。
【0026】
塩基室スペーサ180は、ブライン室スペーサ140及び/又は酸室スペーサ160と同程度に剛直であるか又はそれらよりも剛直である。一実施では、バイポーラ膜170に近い塩基室スペーサ180の塩基性側面は、バイポーラ膜とは反対側の塩基室スペーサの側面よりも剛直であるように構成され、そこで塩基室スペーサはブライン室スペーサ140及び酸室スペーサ160よりも剛直である。付加的に又は別に、塩基室スペーサ180は、ブライン室スペーサ140の厚さよりも大きい且つ酸室スペーサ160の厚さよりも大きい厚さを有する。この点で、酸室スペーサ160とブライン室スペーサ160は、同じ厚さを有しても異なる厚さを有してもよい。酸室スペーサ160及びブライン室スペーサ140のそれぞれの典型的な厚さは、約0.5~約1.2mmの間である。一実施では、塩基室スペーサ180は、酸室スペーサ及びブライン室スペーサの厚さの最大10倍の厚さを有する。限定されないが、塩基室スペーサ180は、織布のポリプロピレン又はシリコーンメッシュを含むことができる。
【0027】
図3A、
図3B及び
図3Cを参照すると、塩基室スペーサとして有用なスペーサの実施形態がそれらに図示されている。
図3A及び
図3Bでは、スペーサ700は、第1の側面730及び第1の側面と反対側である第2の側面750を含む。示されているように、スペーサ700は実質的に長方形であり、その他の形状も企図されるが、第1の端部770及び第2の端部780を有する。スペーサは、それぞれの室内で流体が流れることを可能とするように、貫通孔710及び/又は720も含むこともできる。一実施では、第1の側面730は第1のメッシュパターン740を有し、第2の側面750は第2のメッシュパターン760を有し、第1のメッシュパターン740の開口の少なくとも一部は、第2のメッシュパターン760の開口域よりも大きな開口域を有し、図示のように、第2のメッシュパターン760の開口域は、より密な、より目が詰まったメッシュを有する。第1のメッシュパターン740の開口は、第1の側面730にわたり均一であっても不均一であってもよい。一実施形態では、第1のメッシュパターン740のより大きな開口域及びメッシュ設計は、スペーサ膜表面近傍の不均一な高pHホットスポットを排除するように構成される。一実施形態では、第1のメッシュパターン740の開口は、第2のメッシュパターン760の開口よりも小さい流体抵抗をもたらすように構成される。一実施では、第1のメッシュパターン740の開口は、第1の端部770に向かって大きくなる。第1及び第2のメッシュパターン740、760は、それぞれ個別に、例えばポリプロピレンなどのポリオレフィン又はシリコーンメッシュからの織布ポリマーメッシュを含むことができる。織布メッシュは、重なりパターンの場合もあり非重なりパターンの場合もある。
図3Cに、塩基室で使用するためのスペーサ600の別の実施形態がある。スペーサ600は、先に記載のようなメッシュ、第1の側面650及び第2の側面620を含むことができ、第1の側面650の上面に剛直なバッキング630を含む本体610を含む;剛直なバッキングは第1の側面と一体化されていてもよく、それに接着されていてもよい。剛直なバッキング630はまた、膜表面(示さず)の近傍にあり、スペーサの内部と比較してより剛直とすることができる。示されているように、剛直なバッキング630は、BPMEDの塩基室で使用される場合にバイポーラ膜に近接して配置されることになる面640を構成する。剛直なバッキングは、
図3A及び
図3Bのオープンメッシュの実施形態と結び付けられて使用することができる。別の実施では、スペーサ600は、BPMEDのブライン室及び酸室で使用される対応するスペーサの厚さの最大10倍である厚さTを構成する。限定されないが、厚さTは約2mmから約12mmまでの範囲とすることができる。
【実施例】
【0028】
予備試験を実施して、塩基室のpHを8.7未満に保持することにより、Ca++及びMg++のような二価イオンが存在する場合さえでも、BPMEDシステム内部での固形物の沈殿が防止されることを実証した。BPMEDシステムは、酸タンク、塩基タンク及びブラインタンクを含み、バッチモードでランさせた。BPMEDへの入力を、これらのタンクから導き、BPMEDシステム内のそれぞれの経路を通して送り、次いで同じタンクへと戻した。バッチモードでは、酸は時間の経過とともにより酸性化し続け、塩基は時間の経過とともにより塩基性化し続け、ブラインは時間の経過とともに塩分が低下し続ける。下のTable 1(表1)に、本試験からのデータを示す。開始溶液は、酸室及びブライン室では0.5MNaCl、塩基室では0.5M「Instant Ocean」とした。Instant Oceanとは、Ca++及びMg++のような二価カチオンを海水と略同一濃度で含有する、海水を模倣するように設計された市販の塩混合物である。下の各行は、電流が印加された10秒間隔の間にBPMEDシステムで測定された電流及び電圧を表す。これらの時間の合間では、酸、ブライン及び塩基の各溶液は流れ続けたが、電流の印加はなかった。これにより、電流の印加の後、各タンクが十分に混合されることが可能になり、その結果、各タンクのpHが均一となった。列記されているpH値は、pHが安定した後の値である。システム内での沈殿の開始に関する指標とは、所定の電流密度で、膜上に固体沈殿が形成されることによって電圧が上昇し始めること、である。下のデータが示すところは、電圧は110分間一定電流値で一定のままであり、一方、塩基溶液は二価カチオンの除去無しの海水であったという事実にもかかわらず、塩基室で最大8.69のpH値に暴露されていること、である。これらのデータが指示するところは、貫流に関する本発明におけるようにpHを十分に低く保持することで、前処理を必要とせずに海水の使用が可能になること、である
【0029】
【符号の説明】
【0030】
100 電気透析ユニット/バイポーラ膜電気透析デバイス(BPMED)
110 カソード
114 アノード
116 電極室
118 エンドキャップ膜
120 エンドキャップ膜
130 カチオン交換膜(CEM)/第1のカチオン交換膜
130A 第2のカチオン交換膜
140 ブライン室スペーサ
150 アニオン交換膜(AEM)
160 酸室スペーサ
170 バイポーラ膜(BPM)
180 塩基室スペーサ
200 電極室
210 ブライン室
220 酸室
230 塩基室
300 最終目的地
310 脱イオン水又は水性ブライン溶液を含むことができる水流
400 ブライン入力
410 塩基入力/塩基室230への供給
420 部分的に脱塩されたブライン出力/部分的に脱塩されたブライン生成物
430 向上されたアルカリ性のブライン生成物
500 第1の濃度のHCl(X%HCl)を含む水性流/酸入力供給
510 生成された酸/酸性化生成物/酸性化生成物流
520 酸性化生成物流の一部/第2の濃度の(X+C)%HClを含むブリードオフ流
530 ブリードオフされなかった濃度(X+C)%HC1で酸性化生成物を含む流れ
540 生成された酸/第1の濃度X%HC1を有する流れ/酸室220に酸入力供給500を供給する流れ
600 スペーサ
610 本体
620 第2の側面
630 剛直なバッキング
640 バイポーラ膜に近接して配置されることになる面
650 第1の側面
700 スペーサ
710 貫通孔
720 貫通孔
730 第1の側面
740 第1のメッシュパターン
750 第2の側面
760 第2のメッシュパターン
770 第1の端部
780 第2の端部
【国際調査報告】