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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電磁撮像較正方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
A61B5/11 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538245
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 AU2022051567
(87)【国際公開番号】W WO2023115141
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】2021904208
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519439966
【氏名又は名称】エムビジョン メディカル デバイセズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EMVISION MEDICAL DEVICES LTD
【住所又は居所原語表記】10/12 Creek Street,Brisbane Queensland 4000,Australia
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100170597
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】アミン アボッシュ
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティ ビアルコフスキー
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB02
4C038VC20
(57)【要約】
撮像領域の周りに設けられたアンテナのアレイに伝送線を介して結合されるベクトルネットワークアナライザ(VNA)を有する電磁医療撮像装置の較正方法は、
当該装置を用いて前記撮像領域内部の既知の位置で既知の較正物体についての散乱パラメータScalを測定する段階であって、前記アンテナのアレイのアンテナの各々は、前記伝送線と前記アンテナとの間に設けられる対応のインライン較正モジュールに接続され、前記測定は、前記インライン較正モジュールの少なくとも4つの配置の各々について実行され、前記少なくとも4つの配置は、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を対応アンテナに電気的に接続するように構成される測定配置、及び、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を各対応する較正基準を実装するように構成される少なくとも3つの較正配置を含む、段階と、
前記の測定された散乱パラメータScalを処理してポートAとBについての較正項e00, e01, e10, e11を計算する段階と、
前記撮像領域内部に設けられた対象物の撮像準備のために前記伝送線の少なくとも一部を再配置する段階と、
前記の再配置された伝送線によって、一ポート較正基準用の散乱パラメータを測定して、以下の式に従って各対応するポートAとBの行列YとYを決定する段階と、
【数1】

以下の式に従って前記対象物の散乱パラメータを較正する通過誤差項を計算する段階であって、
【数2】

Tcalは前記既知の較正物体の伝送行列である、段階と、
前記の再配置された伝送線によって、前記撮像領域内部に設けられた前記対象物の散乱パラメータを測定する段階と、
以下の式に従って前記対象物の前記の測定された散乱パラメータを較正する段階であって、
【数3】

Tsubject_calは前記対象物の較正済み伝送行列で、Tsubject は前記対象物の未較正伝送行列である、段階と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像領域の周りに設けられたアンテナのアレイに伝送線を介して結合されるベクトルネットワークアナライザ(VNA)を有する電磁医療撮像装置の較正方法であって、
当該装置を用いて前記撮像領域内部の既知の位置で既知の較正物体についての散乱パラメータScalを測定する段階であって、前記アンテナのアレイのアンテナの各々は、前記伝送線と前記アンテナとの間に設けられる対応のインライン較正モジュールに接続され、前記測定は、前記インライン較正モジュールの少なくとも4つの配置の各々について実行され、前記少なくとも4つの配置は、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を対応アンテナに電気的に接続するように構成される測定配置、及び、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を各対応する較正基準を実装するように構成される少なくとも3つの較正配置を含む、段階と、
前記の測定された散乱パラメータScalを処理してポートAとBについての較正項e00, e01, e10, e11を計算する段階と、
前記撮像領域内部に設けられた対象物の撮像準備のために前記伝送線の少なくとも一部を再配置する段階と、
前記の再配置された伝送線によって、一ポート較正基準用の散乱パラメータを測定して、以下の式に従って各対応するポートAとBの行列YとYを決定する段階と、
【数1】

以下の式に従って前記対象物の散乱パラメータを較正するスルー誤差項αを計算する段階であって、Tcalは前記既知の較正物体の伝送行列である、段階と、
【数2】

前記の再配置された伝送線によって、前記撮像領域内部に設けられた前記対象物の散乱パラメータを測定する段階と、
以下の式に従って前記対象物の前記の測定された散乱パラメータを較正する段階であって、Tsubject_calは前記対象物の較正済み伝送行列で、Tsubject は前記対象物の未較正伝送行列である、段階と、
【数3】

を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記少なくとも3つの較正配置は、前記インライン較正モジュールが、(i)前記伝送線を短絡させ、(ii)前記伝送線を開放し、(iii)前記伝送線を所定の負荷に電気的に接続するように構成される較正配置を含む、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、
(i)前記対象物が前記撮像領域内部に留まり、かつ、前記インライン較正モジュールが前記伝送線の第1端部を前記所定の負荷へ接続するように構成されている間に前記装置を用いて散乱パラメータを測定する段階と、
(ii)得られた測定結果と対応する過去の測定結果との差異を計算する段階と、
(iii)前記差異と雑音レベルとを比較して、前記伝送線の運動を評価する段階、
をさらに有する方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、時間間隔を空けて(i)~(iii)を反復することで時間経過に対する前記伝送線の運動を監視する段階をさらに有する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記の計算された差異が前記雑音レベルよりも実質的に大きくならない場合、さらなる散乱パラメータの測定を一時中止する段階をさらに有する方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を実装するように構成される電磁医療撮像装置。
【請求項7】
電磁医療撮像装置の少なくとも1つのプロセッサによって実行されるときに、前記少なくとも1つのプロセッサに、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を実施させる実行可能な命令を格納するコンピュータ可読媒体。
【請求項8】
撮像領域の周りに設けられたアンテナのアレイと、
それぞれの伝送線を介して前記アンテナに接続されるベクトルネットワークアナライザ(VNA)、及び、前記アンテナと前記伝送線との間に設けられるインライン較正モジュールと、
少なくとも1つのプロセッサ、
を備える電磁医療撮像装置であって、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記撮像領域内部の既知の位置で既知の較正物体についての散乱パラメータScalの測定結果を前記VNAから受信する段階であって、前記測定は、前記伝送線が第1配置をとった状態で、前記インライン較正モジュールの少なくとも4つの配置の各々について実行され、前記少なくとも4つの配置は、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を対応アンテナに電気的に接続するように構成される測定配置、及び、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を各対応する較正基準を実装するように構成される少なくとも3つの較正配置を含む、段階と、
前記の測定された散乱パラメータScalを処理してポートAとBについての較正項e00, e01, e10, e11を計算する段階と、
一ポート較正基準の散乱パラメータの測定結果を前記VNAから受信する段階であって、前記測定は、前記撮像領域内部に設けられる対象物を撮像する準備のために、前記伝送線の少なくとも一部が前記第1配置とは異なる第2配置の状態で実行される、段階と、
前記一ポート較正基準用の前記散乱パラメータを処理して、以下の式に従って各対応するポートAとBの行列YとYを決定する段階と、
【数4】

以下の式に従って前記対象物の散乱パラメータを較正するスルー誤差項αを計算する段階であって、Tcalは前記既知の較正物体の伝送行列である、段階と、
【数5】

前記の再配置された伝送線によって、前記撮像領域内部に設けられた前記対象物の散乱パラメータを測定する段階と、
以下の式に従って前記対象物の前記の測定された散乱パラメータを較正する段階であって、Tsubject_calは前記対象物の較正済み伝送行列で、Tsubject は前記対象物の未較正伝送行列である、段階と、
【数6】

を実行するように構成される、電磁医療撮像装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置であって、前記少なくとも3つの較正配置は、前記インライン較正モジュールが、(i)前記伝送線を短絡させ、(ii)前記伝送線を開放し、(iii)前記伝送線を所定の負荷に電気的に接続するように構成される較正配置を含む、装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の装置であって、前記少なくとも1つのプロセッサは、
(i)前記対象物が前記撮像領域内部にと留まり、かつ、前記インライン較正モジュールが前記伝送線の第1端部を前記所定の負荷へ接続するように構成されている間に前記装置を用いて散乱パラメータを測定する段階と、
(ii)得られた測定結果と対応する過去の測定結果との差異を計算する段階と、
(iii)前記差異と雑音レベルとを比較して、前記伝送線の運動を評価する段階、
を実行するようにさらに構成される、
装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置であって、前記少なくとも1つのプロセッサは、時間間隔を空けて(i)~(iii)を反復することで時間経過に対する前記伝送線の運動を監視するようにさらに構成される装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置であって、前記少なくとも1つのプロセッサは、前記の計算された差異が前記雑音レベルよりも実質的に大きくならない場合、さらなる散乱パラメータの測定を一時中止するようにさらに構成される装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療撮像技術に関し、特に電磁撮像に関し、より詳細には、電磁医療撮像較正モジュール及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁医療撮像は、一般に、撮像対象の周囲に配置された送受信アンテナを有する多チャンネルセンサアレイを必要とする。各アンテナによって受信された無線周波数(「RF」)信号の正確で偏りのない測定を可能にするためには、各センサ・チャンネルの振幅と位相を均等かつ正確に設定することが不可欠である。しかし実際には、各センサ・チャンネルのRFハードウェアが異なるため、チャンネル間にかなりの振幅と位相の差が生じることがある。このような望ましくない位相のずれや振幅の減衰は、主にアンテナ、整合媒体、アダプタ、コネクタ、伝送線路、同軸ケーブルなどのRF特性の意図しないばらつきによって引き起こされる。さらに、ほとんどのRFデバイスの位相と振幅の特性は周波数と温度に依存し、通常は時間とともにドリフトする。
【0003】
センサーアレイが正確かつ信頼性の高い方法で所望の性能を発揮するためには、すべてのセンサーチャンネルの位相・振幅特性を測定し、等化することによって、システムハードウェアを較正する。RFデバイスの相対的な位相/振幅シフトは、温度や機械的な外乱に依存することが多く、通常(例えば、経年変化や温度変化により)経時的に変化するため、このようなハードウェアの較正は、定期的に(または必要なときに)繰り返して、これらの変動を補正する必要がある。実際、これらの望ましくない影響による散乱信号の変化は、頭部撮像における脳卒中応答のような目標応答よりも大きい可能性があるため、このような較正は、妥当な撮像結果を得るためには不可欠である。
【0004】
ポータブルEM撮像システムが開発されている。これには明らかな利点がある一方で、システムの較正に大きな課題が生じる。特に、システムの動きやアンテナアレイを患者の頭部に設置する行為は、接続ケーブルの不可避な動きを引き起こし、取得データに誤差を生じさせる。これらの誤差は、深い及び/又は小さい目標からの弱い目標応答を覆い隠す可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. Ferrero and U. Pisani, 「Two-port network analyzer calibration using an unknown 『thru』,」 in IEEE Microwave and Guided Wave Letters, vol. 2, no. 12, pp. 505-507, Dec. 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、従来技術の1つ以上の難点を克服または軽減するか、あるいは少なくとも有用な代替手段を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、撮像領域の周りに設けられたアンテナのアレイに伝送線を介して結合されるベクトルネットワークアナライザ(VNA)を有する電磁医療撮像装置の較正方法が供される。当該方法は、
当該装置を用いて前記撮像領域内部の既知の位置で既知の較正物体についての散乱パラメータScalを測定する段階であって、前記アンテナのアレイのアンテナの各々は、対応の伝送線と前記伝送線と前記アンテナとの間に設けられる対応のインライン較正モジュールを介して前記VNAに接続され、前記測定は、前記インライン較正モジュールの少なくとも4つの配置の各々について実行され、前記少なくとも4つの配置は、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を対応アンテナに電気的に接続するように構成される測定配置、及び、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を各対応する較正基準を実装するように構成される少なくとも3つの較正配置を含む、段階と、
前記の測定された散乱パラメータScalを処理してポートAとBについての較正項e00, e01, e10, e11を計算する段階と、
前記撮像領域内部に設けられた対象物の撮像準備のために前記伝送線の少なくとも一部を再配置する段階と、
前記の再配置された伝送線によって、一ポート較正基準用の散乱パラメータを測定して、以下の式に従って各対応するポートAとBの行列YとYを決定する段階と、
【数1】

以下の式に従って前記対象物の散乱パラメータを較正するスルー誤差項αを計算する段階であって、Tcalは前記既知の較正物体の伝送行列である、段階と、
【数2】
前記の再配置された伝送線によって、前記撮像領域内部に設けられた前記対象物の散乱パラメータを測定する段階と、
以下の式に従って前記対象物の前記の測定された散乱パラメータを較正する段階であって、Tsubject_calは前記対象物の較正済み伝送行列で、Tsubject は前記対象物の未較正伝送行列である、段階と、
【数3】
を有する。
【0008】
一部の実施形態では、前記少なくとも3つの較正配置は、前記インライン較正モジュールが、(i)前記伝送線を短絡させ、(ii)前記伝送線を開放し、(iii)前記伝送線を所定の負荷に電気的に接続するように構成される較正配置を含む。
【0009】
一部の実施形態では、当該方法は、
前記対象物が前記撮像領域内部に留まり、かつ、前記インライン較正モジュールが前記伝送線の第1端部を前記所定の負荷へ接続するように構成されている間に前記装置を用いて散乱パラメータを測定する段階と、
得られた測定結果と対応する過去の測定結果との差異を計算する段階と、
前記差異と雑音レベルとを比較して、前記伝送線の運動を評価する段階、
をさらに有する。
【0010】
一部の実施形態では、当該方法は、時間間隔を空けて(i)~(iii)を反復することで時間経過に対する前記伝送線の運動を監視する段階をさらに有する。一部の実施形態では、当該方法は、前記の計算された差異が前記雑音レベルよりも実質的に大きくならない場合、さらなる散乱パラメータの測定を一時中止する段階をさらに有する。
【0011】
一部の実施形態では、当該方法は、前記の計算された差異が前記雑音レベルよりも実質的に大きくならない場合、さらなる散乱パラメータの測定を一時中止する段階をさらに有する。
【0012】
本発明はまた、上述のいずれかの方法を実装するように構成される電磁医療撮像装置をも供する。
【0013】
本発明は、電磁医療撮像装置の少なくとも1つのプロセッサによって実行されるときに、前記少なくとも1つのプロセッサに、上述のいずれかの方法を実施させる実行可能な命令を格納するコンピュータ可読媒体をも供する。
【0014】
本発明はまた、電磁医療撮像装置をも供する。当該電磁医療撮像装置は、
撮像領域の周りに設けられたアンテナのアレイと、
それぞれの伝送線を介して前記アンテナに接続されるベクトルネットワークアナライザ(VNA)、及び、前記アンテナと前記伝送線との間に設けられるインライン較正モジュールと、
少なくとも1つのプロセッサ、を備える。前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記撮像領域内部の既知の位置で既知の較正物体についての散乱パラメータScalの測定結果を前記VNAから受信する段階であって、前記測定は、前記伝送線が第1配置をとった状態で、前記インライン較正モジュールの少なくとも4つの配置の各々について実行され、前記少なくとも4つの配置は、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を対応アンテナに電気的に接続するように構成される測定配置、及び、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を各対応する較正基準を実装するように構成される少なくとも3つの較正配置を含む、段階と、
前記の測定された散乱パラメータScalを処理してポートAとBについての較正項e00, e01, e10, e11を計算する段階と、
一ポート較正基準の散乱パラメータの測定結果を前記VNAから受信する段階であって、前記測定は、前記撮像領域内部に設けられる対象物を撮像する準備のために、前記伝送線の少なくとも一部が前記第1配置とは異なる第2配置の状態で実行される、段階と、
前記一ポート較正基準用の前記散乱パラメータを処理して、以下の式に従って各対応するポートAとBの行列YとYを決定する段階と、
【数4】
以下の式に従って前記対象物の散乱パラメータを較正するスルー誤差項αを計算する段階であって、Tcalは前記既知の較正物体の伝送行列である、段階と、
【数5】
前記の再配置された伝送線によって、前記撮像領域内部に設けられた前記対象物の散乱パラメータを測定する段階と、
以下の式に従って前記対象物の前記の測定された散乱パラメータを較正する段階であって、Tsubject_calは前記対象物の較正済み伝送行列で、Tsubject は前記対象物の未較正伝送行列である、段階と、
【数6】
を実行するように構成される、電磁医療撮像装置。
【0015】
一部の実施形態では、前記少なくとも3つの較正配置は、前記インライン較正モジュールが、(i)前記伝送線を短絡させ、(ii)前記伝送線を開放し、(iii)前記伝送線を所定の負荷に電気的に接続するように構成される較正配置を含む。
【0016】
一部の実施形態では、前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記対象物が前記撮像領域内部に留まり、かつ、前記インライン較正モジュールが前記伝送線の第1端部を前記所定の負荷へ接続するように構成されている間に前記装置を用いて散乱パラメータを測定する段階と、
得られた測定結果と対応する過去の測定結果との差異を計算する段階と、
前記差異と雑音レベルとを比較して、前記伝送線の運動を評価する段階、
を実行するようにさらに構成される。
【0017】
一部の実施形態では、前記少なくとも1つのプロセッサは、時間間隔を空けて(i)~(iii)を反復することで時間経過に対する前記伝送線の運動を監視するようにさらに構成される。
【0018】
一部の実施形態では、前記少なくとも1つのプロセッサは、前記の計算された差異が前記雑音レベルよりも実質的に大きくならない場合、さらなる散乱パラメータの測定を一時中止するようにさらに構成される。
【0019】
本発明によると、撮像領域の周りに設けられたアンテナのアレイに伝送線を介して結合されるベクトルネットワークアナライザ(VNA)を有する電磁医療撮像装置の較正方法も記載されている。当該方法は、
当該装置を用いて前記撮像領域内部の既知の位置で既知の較正物体についての散乱パラメータScalを測定する段階であって、前記伝送線の各々は、第1ポートと第2ポートを有する対応のインライン較正モジュールを有し、前記第1ポートは対応の伝送線の第1端部に接続され、前記対応の伝送線の他端は前記VNAに接続され、前記第2ポートは、前記アンテナのアレイの対応アンテナに接続され、前記測定は、前記インライン較正モジュールの少なくとも4つの配置の各々について実行され、前記少なくとも4つの配置は、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を対応アンテナに電気的に接続するように構成される測定配置、及び、前記インライン較正モジュールが、前記伝送線を各対応する較正基準を実装するように構成される少なくとも3つの較正配置を含む、段階と、
前記の測定された散乱パラメータScalを処理してポートAとBについての較正項e00, e01, e10, e11を計算する段階と、
前記撮像領域内部に設けられた対象物の撮像準備のために前記伝送線の少なくとも一部を再配置する段階と、
前記の再配置された伝送線によって、一ポート較正基準用の散乱パラメータを測定して、以下の式に従って各対応するポートAとBの行列YとYを決定する段階と、
【数7】

以下の式に従って前記対象物の散乱パラメータを較正するスルー誤差項αを計算する段階であって、Tcalは前記既知の較正物体の伝送行列である、段階と、
【数8】

前記の再配置された伝送線によって、前記撮像領域内部に設けられた前記対象物の散乱パラメータを測定する段階と、
以下の式に従って前記対象物の前記の測定された散乱パラメータを較正する段階であって、Tsubject_calは前記対象物の較正済み伝送行列で、Tsubject は前記対象物の未較正伝送行列である、段階と、
【数9】

を有する。
【0020】
前記少なくとも3つの較正配置は、前記インライン較正モジュールが、(i)前記伝送線を短絡させ、(ii)前記伝送線を開放し、(iii)前記伝送線を所定の負荷に電気的に接続するように構成される較正配置を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下、本発明の幾つかの実施形態を、添付の図面を参照して、例示的にのみ説明する。
図1】先行技術の電磁撮像装置のブロック図である。
図2】先行技術の電磁撮像装置のVNAマルチポート較正を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態によるインライン較正部を含む電磁撮像装置のブロック図である。
図4】本発明の実施形態による電磁撮像較正方法のフロー図である;
図5】先行技術のUT較正方法の未知物体および誤差行列を示す概略図であり;そして
図6】(左側のグラフ)固定された較正対象物、及び(右側のグラフ)スキャン中に移動した患者に対する、周波数の関数としての電力レベルの差のグラフを含む。
【発明を実施するための形態】
【0022】
電磁(「EM」)撮像は、典型的には、撮像される対象(例えば、患者の頭部)をアンテナの内向きアレイに囲まれた撮像領域に導入することによって実行される。アンテナは順次通電され、対象物によって散乱され、対象物を透過し、対象物から反射される電磁(例えば、マイクロ波)信号を発生し、アレイの他のアンテナによって受信され、対象物内の特徴の空間分布を表す有意な空間情報を収集する。このようにして収集された情報には、各アンテナごとに反射された信号の測定値と、各アンテナ対間で送信された信号の測定値が含まれる。これらの測定は、(送信アンテナによる)反射測定に加えて、各アンテナで周波数を掃引して順次送信し、得られた信号を他のアンテナで受信することにより、周波数範囲にわたって実行される。「ベクトルネットワークアナライザ」(または「VNA」)として当該技術分野で知られている装置は、その各ポートにおける送信アンテナ電圧と受信アンテナ電圧の比を周波数の関数として記憶することにより、アレイから測定データを生成する。結果として得られるデータは、当技術分野では「散乱パラメータ」(または「Sパラメータ」)と呼ばれている。
【0023】
図1は、先行技術のEM撮像システムの典型的なデータ取得部を示す高レベル概略ブロック図であるが、本発明の実施形態に従ったインライン較正装置を含む。一般に、アンテナをVNAのそれぞれのポート(ポート1...ポートN)に取り付けるために利用される複数組の可撓性および/または固定RF伝送線路(典型的には、同軸ケーブルの形態であるが、必ずしもそうである必要はない)およびコネクタが存在する場合がある。あるシステムでは、アンテナは薄い空気層で隔てられているが、他のシステムでは、1つ以上の材料が、撮像対象への信号の進入を改善するように結合媒体として使用される。アンテナの向こう側にあるこれら2つの領域(すなわち、それぞれ結合媒体/媒質と被検査体を含む)は、撮像領域の一部であると仮定される。VNAは通常、同軸ケーブルを介してアンテナに接続される。説明した実施形態では、アンテナは剛性のある容積の中に包まれており、これによってアンテナが互いに相対的に動かないようにし、そうでなければ漏れる可能性のある迷走信号が吸収されるようにしている。アンテナを被試験体に最適に適合させるため、アンテナと被試験体の間の容積は、大きな隙間を避けるために液体で満たされている。
【0024】
EM撮像システムは、以下のような較正の不確かさや未知数に悩まされている。
(i) VNA内部:スイッチング素子、チャンネル間リーク、インピーダンスミスマッチなど、EM信号経路に沿った不確かさ
(ii) 伝送線路/同軸ケーブル:製造公差/不完全性に起因するインピーダンス不整合および位相長変動
(iii) コネクター:トルクのばらつきや製造公差・不完全性によるインピーダンスの不整合
(iv) アンテナ:個々のアンテナの製造公差および/または不完全性による周波数帯域での感度の変化
(v)アンテナアレイ配置:製造公差による構造とアンテナ位置の初期変動
【0025】
これらの問題は以下の2つのクラスに分類される。
(i) 初期不整合:システムの特定のプロトタイプを他のプロトタイプと比較したときに明らかになる。これらの不一致は、製造公差/不完全性によって引き起こされる可能性があり、製造後に補正することができる。
(ii)時間安定性:同じシステムを異なる時間帯で比較した場合に明らかであり、動作および/または温度変動によって引き起こされる可能性がある。これらは定期的に、特に患者の測定前に補正する必要がある。
【0026】
[標準VNA較正]
VNAメーカーは、VNA本体と対応する接続ケーブルを含むネットワークポートの各ペアに対応する補正係数を決定するために、標準マルチポートキャリブレーションを推奨している。図2に示すように、各ポートの組み合わせの誤差項を決定するには、最低でも各ポートのペアを基準ポートに接続する必要がある。VNAメーカーによる較正は、多くの場合、VNA本体内の受信器-パス間の内部スイッチングだけでなく、信号漏れも考慮した詳細なエラーモデルを使用して実施される。この較正の結果、基準面は実質的にVNAから最も遠いケーブルの端に移動し、較正結果は保存して後で適用することができる。上述の不確かさ/未知数に関して、この先行技術の較正プロセスは、VNA内部の不確かさ/未知数(i)に完全に対処し、ケーブルおよびコネクタの不確かさ/未知数(ii)および(iii)に部分的に対処している。
【0027】
[インライン較正]
本発明者らは、従来技術のVNA較正および工場での較正のなかなか解決しない欠点は、VNA較正の時点と測定が実行される時点との間でケーブルが移動し、不要な位相変化が生じる可能性がある(そして、一般的に移動する)ことであることを特定した。
【0028】
この欠点に対処するため、本発明の実施形態では、図4に示すように、較正プロセスにおいて、図3に示すようにアンテナの給電点に取り付けられるインライン較正モジュールを利用する。Nポートのアンテナアレイの場合、合計N個のインライン較正モジュールが必要である。各較正モジュールには、「測定中」状態、開回路状態、短絡状態、および所定のまたは既知の負荷状態を含む4つの状態がある。電磁撮像システムでモジュールを使用する前に、(較正された)VNAを使用して、4つの状態の各モジュールの電磁特性を測定する。結果として得られたSパラメータ測定値はデータベースに保存され、較正プロセス中に検索される。この較正プロセスは、非特許文献1(「Ferrero」)に記載されている「未知スルー」の拡張とみなすことができる(または「UT」)較正法(「Reciprocal Short Open Load」(または「RSOL」)較正法としても知られている)。
【0029】
[未知スルー法]
UT較正法は、VNAの各ポートの信号伝送成分の電磁伝送特性が、開回路、短絡、既知の負荷条件下では容易に測定できるが、既知の「スルー」(すなわち、画像化される対象物)については、測定配置を変更せずに測定することが困難なネットワーク較正に特に適用できる。画像化される対象物(当該技術分野において伝統的に「テスト対象デバイス」と呼ばれる一般的な意味で、それゆえ「DUT」と略される)に本方法を適用する場合、以下の点に依存する。
(i) 対象物が逆相であること
(ii) 対象物のSijの位相変化に関するおおよその知識があること
(iii) 受信側に検出可能な信号があること
【0030】
UT法は、図5に示されるように、測定された未知のスルー行列Smと、ポートAおよびBのそれぞれに対する2つの誤差行列EAおよびEBから構成される8項の誤差モデルを使用する。Ferreroに記載されているように、2ポートネットワーク(ネットワーク内のすべてのポートペアについて後述する誤差項を計算することにより、複数ポートに簡単に拡張できる)のコンテキストでは、図5に示す2つの誤差ボックスは散乱行列として表現できる。
【数10】
【0031】
行列YAおよびYBは、これらの誤差行列からの項のみに依存して定義され、3つの1ポート標準(本明細書で説明するインライン較正モジュールの場合、これらの標準は、短絡、開回路、および既知の負荷条件によって提供される)によってポートで測定された反射係数を使用して、各ポートについて個別に解くことができる。
【数11】
【0032】
伝送行列TmおよびTDUTは、SmおよびSDUTから計算され、ここでSDUTは較正された物体(「DUT」で表される)の散乱行列である(これはこれらの計算の望ましい出力である)。
【数12】

ここで、開回路、短絡回路、既知の負荷、および未知のスルーの測定から得られたすべての既知の項の結果をXとして考える。
αの位相の曖昧さは、Sijの位相変化の近似的な知識を用いて解決することができる。結果の位相選択が正確であるためには、位相知識が±π/2以内である必要がある。残りの成分であるSDUT11とSDUT22は、当業者に知られた標準的な1ポート較正方法を使用して解くことは些細なことである。
【0033】
[未知スルー - 過去スルー方法]
UT法をEM医用撮像システムに直接適用する際の主な難点は、患者がアレイ内で動く可能性があり、さらに患者の体内の物理的プロセスがその電磁気特性に微妙な変化を引き起こす可能性があることである。これによる最も大きな影響は、相互性の仮定が満たされないことである。これだけでなく、患者の体に装着された場合の未知のスルー経路は、いくつかのSij信号経路に沿って高い損失を被る可能性が高い。このような不確かさは、測定信号対雑音比が低下するにつれて増加するため、未知のスルーには低損失の経路を使用することが望ましい。
【0034】
このため、寸法が既知の較正用物体を既知の位置で撮像領域に挿入し、初期UT較正パラメータを収集する。較正用物体の電磁気的特性は逆数(すなわち非磁性)であることが望ましく、アンテナに最適なマッチングが得られるように最適化することができる。較正オブジェクトは再現可能な方法で配置され、各信号測定に一貫した既知の位相経路を提供する必要がある。さらに、対象物の特性や大きさに関する知識を利用することで、UT法を使用してより正確な位相の初期推定を行うことができる。
【0035】
較正対象物の測定と患者の測定との間にいかなる変更もない固定された撮像システムの場合、この較正対象物とUT法で十分な較正が得られる。しかし、ポータブルシステムを使用する場合、患者を測定するときに使用したのと全く同じケーブル配置でEMシステムに較正対象を取り付けることは現実的ではない。この困難に対処するため、本発明者らは、本明細書において「未知スルー - 過去スルー」(または「UT-PT」)較正法と呼ばれる新しい較正法を以下のように開発した。
1.上述のインライン較正モジュールを使用して、画像領域内の既知の(固定された)位置にある既知の較正対象で初期測定を実行する。上述したUT較正項がこの位置に対して完全に計算され、その結果得られたSm,calが後で使用するために保存される。
2.その後、EMシステムを患者まで移動させ、ワンポート較正標準を測定し、YA,patとYB,patを得る。
3.患者データを較正するためのスルー誤差項は、次式に従って計算される。
【数13】

4.位相の曖昧さは、平均的な誘電特性と撮像領域内の位置が既知の較正対象物を使用することで解決される。その後、患者データを収集し、次式で与えられる修正α項を使用して較正する。
【数14】

[未知スルー - 過去スルーの検証]
この置換がα項にどのような影響を与えるかを調べるには、次式のようにすればよい。
【数15】

ここで、t11とt22は各ポートの反射トラッキング誤差係数である。
【0036】
ここで、t11とt22は各ポートの反射トラッキングエラー係数である。これらの項は、各ポートのソース基準信号と反射信号を収集し比較する VNA内部の 2つの受信器間の周波数応答の違いを補正する。これらと測定値Sm21、Sm12との組み合わせにより、送信トラッキング誤差が計算される。
【0037】
実際には、反射トラッキングエラー係数が方程式を支配し、比Sm12/Sm21よりも大きな影響を与える。掃引時間中に患者が動いた結果、較正中に相互性が失われた場合、この比率項がより支配的になり、較正に大きな不正確さが生じる可能性がある。比率項は、相互性が維持されている場合、応答ポート試験信号と刺激ポート基準信号にのみ依存するため、較正対象物からのこの項は、患者測定の文脈で使用するために有効でなければならない。
【0038】
この例を図6に示す。この例では、VNAの掃引時間は約1.5秒であった。比較したのはアンテナペア1,3と1,15である。アンテナ1,3はどちらも測定ウィンドウの初期に送信機として測定されたのに対し、アンテナ15はウィンドウの終盤に測定されました。較正対象物の生測定(左のグラフ)では、較正対象物がドメイン内で安定していたため、相互性にはほとんど差がなかった。患者の生測定(右のグラフ)では、3番目のアンテナが送信している時間によって相互性が少し影響され、15番目のアンテナが送信しているときに大きく影響されていることがわかる。
【0039】
[測定安定性のモニタリング]
インライン較正モジュールのもう一つの用途は、ヘッドセットが患者測定の位置にある間にケーブルの移動量をモニターする機能である。定期的に、インラインモジュールを、当技術分野では「整合負荷」と呼ばれる標準的な50オームの端子負荷に切り替え、アレイが患者の上に配置されている間に測定を行い、直近の整合モード測定と比較することができる。その差のパワーが、正確な画像を生成するのに必要なS/N比よりも高いレベルに達した場合、ケーブルの移動があったと結論付けることができ、これらの影響は病気による応答よりも大きくなる。その後、システムは自動的に測定と比較を繰り返し、動きが収まるまで待ってから、較正データの収集に進み、患者の測定を続けることができる。
【0040】
[較正形態]
UT-PT法の使用だけでなく、EM撮像システムは、他の多くの較正問題を解決するために、特定の誘電特性を持つ較正オブジェクトを使用することができる。リジッドアレイ内の既知の位置に既知の誘電特性を持つことで、個々のアンテナやアンテナアレイ配置の不確かさに対処することができる。
【0041】
本発明の範囲を逸脱することなく、当業者には多くの変更が明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】