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特表2024-545346抗菌性に優れた歯科用インプラント及び抗菌コーティング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】抗菌性に優れた歯科用インプラント及び抗菌コーティング方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/06 20060101AFI20241128BHJP
   A61K 6/58 20200101ALI20241128BHJP
   A61K 6/816 20200101ALI20241128BHJP
   A61L 27/30 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61L27/06
A61K6/58
A61K6/816
A61L27/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538388
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 KR2022019746
(87)【国際公開番号】W WO2023128360
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0191745
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517128064
【氏名又は名称】オステムインプラント カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OSSTEMIMPLANT CO., LTD
【住所又は居所原語表記】(Magok-dong) 3, Magokjungang 12-ro Gangseo-gu Seoul 07789 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハ,キュンウォン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジェウォン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C089
【Fターム(参考)】
4C081AB06
4C081CF141
4C081CG07
4C081DA01
4C081DA02
4C081EA06
4C089AA01
4C089BA06
4C089BB04
(57)【要約】
チタン基材、及び前記基材の表面の少なくとも一部にコーティングされた銀-酸化チタンマトリックスを含み、前記銀-酸化チタンマトリックスは、XPSで測定した結合エネルギー570~580eVのピークP及び360~375eVのピークPを有し、Pの強さIとPの強さIは、下記式を満たす、歯科用インプラントが開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン基材、及び
前記基材の表面の少なくとも一部にコーティングされた銀-酸化チタンマトリックスを含み、
前記銀-酸化チタンマトリックスは、XPSで測定した結合エネルギー570~580eVのピークP及び360~375eVのピークPを有し、
の強さIとPの強さIは、下記式を満たす、歯科用インプラント。
【数1】
【請求項2】
前記歯科用インプラントは、37℃の無機溶媒内で少なくとも1週間にわたって1ppm/日以下の銀を放出する、請求項1に記載の歯科用インプラント。
【請求項3】
(a)銀前駆体が溶解してAg濃度が10~300mMのコーティング溶液にチタン基材を担持する段階、及び
(b)前記コーティング溶液を加熱して水熱処理する段階を含む、歯科用インプラントの抗菌コーティング方法。
【請求項4】
前記銀前駆体は、硝酸銀(AgNO)、過塩素酸銀(AgClO)、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)、酢酸銀(CHCOOAg)、銀トリフルオロメタンスルホン酸(AgCFSO)、硫酸銀(AgSO)、銀2,4-ペンタンジオネート(CHCOCH=COCHAg)、酸化銀類(AgO、AgO、Ag、Ag)及びそれらのうち2つ以上の混合物からなる群から選ばれる一つである、請求項3に記載の歯科用インプラントの抗菌コーティング方法。
【請求項5】
前記(a)段階を行う前に、前記チタン基材をサンドブラスト、エッチング、洗浄、乾燥の少なくとも1つの方法で処理する前処理段階をさらに含む、請求項3に記載の歯科用インプラントの抗菌コーティング方法。
【請求項6】
前記(b)段階は、150~300℃及び1~5時間の条件で行われる、請求項3に記載の歯科用インプラントの抗菌コーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
抗菌性に優れた歯科用インプラント及び抗菌コーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラントは、欠損した歯を永久的に代替できる人工歯で、部分または完全無歯顎部位の咀嚼機能回復のために広く使用されている。したがって、インプラントは、機能的に実際の歯の役割を果たすことができるだけでなく、歯に加えられる荷重を適切に分散させることができ、長時間使用できるように作製されなければならない。
【0003】
インプラントの成功率を高めるために、患者の骨量及び骨質によってインプラントの安定性、すなわち、固定力によって左右される。インプラントの安定性は、インプラントが周辺の骨に接触することによって発生する1次安定性と、インプラントの植立後に新生骨組織が形成され、骨癒着が起こることによって得られる2次安定性の和として表される。特に、インプラントの植立後、早期安定性を向上させることが中長期安定性、最終的にインプラントの成功率を高める上で重要な要素である。
【0004】
インプラントの早期失敗の主な要因は、製品の欠陥、施術要因、患者の要因など様々な原因によるインプラント周辺骨の消失または固定力の減少によって発生し得る。特にインプラント周辺骨が消失する場合、消失によるインプラントの固定力の減少は伴わざるを得ない。そこで、インプラント周辺骨の消失による早期失敗ケースを分析した結果、歯周炎または細菌検出による早期失敗が約90%に相当し、顧客から回収された製品を分析した結果、約60%で嫌気性細菌が検出された。
【0005】
このような問題点を解決するために、インプラントの表面に抗菌性を付与することにより、汚染された唾液及び細菌から能動的に防御できるシステムを構築する方法が提案された。特に、インプラントの早期失敗率を低減するために、初期の植立期間中でも抗菌性の維持力を伴わなければならない。したがって、インプラントの表面で抗菌性を付与し、初期植立期間中に抗菌性を維持できる抗菌コーティング方法及びそれによる歯科用インプラントの研究開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗菌性に優れた歯科用インプラント及び抗菌コーティング方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様によれば、チタン基材、及び前記基材の表面の少なくとも一部にコーティングされた銀-酸化チタンマトリックスを含み、前記銀-酸化チタンマトリックスは、XPSで測定した結合エネルギー570~580eVのピークP及び360~375eVのピークPを有し、Pの強さIとPの強さIは、下記式を満たす、歯科用インプラントを提供する。
【0008】
【数1】
【0009】
一実施例において、前記歯科用インプラントは、37℃の無機溶媒内で少なくとも1週間にわたって1ppm/日以下の銀を放出してもよい。
【0010】
他の一態様によれば、(a)銀前駆体が溶解してAg濃度が10~300mMのコーティング溶液にチタン基材を担持する段階、及び(b)前記コーティング溶液を加熱して水熱処理する段階を含む、歯科用インプラントの抗菌コーティング方法が提供される。
【0011】
一実施例において、前記銀前駆体は、硝酸銀(AgNO)、過塩素酸銀(AgClO)、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)、酢酸銀(CHCOOAg)、銀トリフルオロメタンスルホン酸(AgCFSO)、硫酸銀(AgSO)、銀2,4-ペンタンジオネート(CHCOCH=COCHAg)、酸化銀類(AgO、AgO、Ag、Ag)及びそれらのうち2つ以上の混合物からなる群から選ばれる一つであってもよい。
【0012】
一実施例において、前記(a)段階を行う前に、前記チタン基材をサンドブラスト、エッチング、洗浄、乾燥の少なくとも1つの方法で処理する前処理段階をさらに含んでもよい。
【0013】
一実施例において、前記(b)段階は、150~300℃及び1~5時間の条件で行われてもよい。
【発明の効果】
【0014】
一態様によれば、抗菌性に優れた歯科用インプラント及び抗菌コーティング方法は、インプラントの表面に銀-酸化チタンマトリックスが形成され、インプラントの抗菌性を向上させることができる。前記銀-酸化チタンマトリックスから銀イオンが植立初期期間中に徐放出され、前記インプラントの抗菌性を付与及び維持しうる。これにより、前記歯科用インプラントの早期失敗率が低減され、最終的にインプラントの成功率を向上させることができる。
【0015】
本明細書の一態様の効果は、前記の効果に限定されず、本明細書の詳細な説明または特許請求の範囲に記載された構成から推論可能なすべての効果を含むものと理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本明細書の抗菌イオンの選定のための抗菌性能評価グラフである。
図2図2は、本明細書の抗菌コーティング方法の選定のための除去トルクグラフである。
図3図3は、水熱処理条件による抗菌性能評価グラフである。
図4図4は、本明細書の実施例及び比較例のFE-SEM分析イメージである。
図5図5は、本明細書の実施例のSEMイメージ及び位置別元素分布図を分析した結果である。
図6図6は、本明細書の実施例及び比較例のEDS分析イメージである。
図7図7は、本明細書の実施例及び比較例のXPS分析グラフである。
図8図8は、本明細書の実施例のAg放出量グラフである。
図9図9は、本明細書の実施例の担持期間による抗菌性能評価グラフである。
図10図10は、本明細書の実施例及び比較例の洗浄条件による抗菌性能評価グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本明細書の一態様を説明する。しかし、本明細書の記載事項は、様々な異なる形態で具現されることができ、したがって、ここで説明する実施例に限定されるものではない。また、図面において本明細書の一態様を明確に説明するために、説明と関係ない部分は省略しており、明細書の全体を通じて類似した部分に対しては、類似した図面符号を付けた。
【0018】
明細書全体において、ある部分が他の部分と「連結」されていると言う場合、これは「直接的に連結」されている場合だけではなく、その中間に他の素子を介して「間接的に連結」されている場合も含む。また、ある部分がある構成要素を「含む」と言う場合、これは特に反対される記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに備えることができるということを意味する。
【0019】
本明細書において、数値的値の範囲が記載されたとき、その具体的な範囲が特に記載のない限り、その値は有効数字に対する化学における標準規則に従って提供される有効数字の精度を持つ。例えば、10は、5.0~14.9の範囲を含み、数字10.0は、9.50~10.49の範囲を含む。
【0020】
以下、添付図面を参照し、本明細書の一実施例を詳細に説明する。
【0021】
抗菌性に優れた歯科用インプラント
一態様によれば、チタン基材、及び前記基材の表面の少なくとも一部にコーティングされた銀-酸化チタンマトリックスを含み、前記銀-酸化チタンマトリックスは、XPSで測定した結合エネルギー570~580eVのピークP及び360~375eVのピークPを有し、Pの強さIとPの強さIは、下記式を満たす、歯科用インプラントを提供する。
【0022】
【数2】
【0023】
歯科用インプラントの成功率を高めるためには、初期の植立期間中にユーザーの周辺の骨との安定した結合が形成されなければならない。植立失敗の様々な要因のうち、細菌感染による早期植立失敗率が大きな比重を占めている。
【0024】
本明細書の歯科用インプラントは、チタン基材、及び前記基材の表面の少なくとも一部にコーティングされた銀-酸化チタンマトリックスを含んで抗菌性を有してもよい。銀-酸化チタンマトリックスは、クオラムセンシング(Quorum sensing)を遮断して前記インプラントの表面上にバイオフィルムの形成を抑制しうる。これにより、前記インプラント時に細菌感染による植立失敗を最小限に抑えることができる。
【0025】
本明細書において使用される用語の「クオラムセンシング(Quorum sensing)」とは、細菌の増殖中に細胞密度と比例及び蓄積し、特定の濃度に達すると細菌の集団的代謝活性が調節される細菌密度-依存的遺伝子発現調節メカニズムを意味する。すなわち、増殖により菌体濃度が、いわゆる意思決定のための定足数(Quorum)に達すると、低密度の細胞では観察されない特定の形質が集団的に誘導されて発現される現象を意味する。特に病原性細菌の場合、クオラムセンシングにより病毒性を誘発して感染を引き起こすことがある。
【0026】
銀-酸化チタンマトリックスは、抗菌イオンである銀イオンを放出して細菌を死滅させることができる。その結果、前記インプラントの表面に細菌が付着する現象を抑制しうる。前記銀イオンは、細菌膜のシステイングループに結合してタンパク質を不活性化させることができる。結合した細胞の活性酸素種の放出を誘導して細菌を死滅させることができる。銀イオンは、前述したメカニズムを介して細菌を死滅させ、バイオフィルムの形成を効果的に抑制することができ、抗菌耐性なしに持続的に抗菌性を維持しうる。
【0027】
前記銀-酸化チタンマトリックスは、抗菌成分を様々な形態で含んでもよい。その結果、植立初期に必要なレベルの抗菌性を有し、長期間の抗菌効果の持続が可能である。
【0028】
結合エネルギー570~580eVのピークP及びIは、Ag2pのピークの範囲とその強度値を意味する。360~375eVのピークP及びIは、Ag3dのピークの範囲とその強度値を意味する。前記Ag2pは、銀金属を意味し、Ag3dは、酸化された銀イオンを意味する。これらのピークにおける強度であるI及びIが特定の条件を満たす銀-酸化チタンマトリックスは、銀金属及び銀イオンを同時に含んで徐放出効果を具現しうる。また、I及びIが特定の条件を満たせば、前記歯科用インプラントの早期植立成功率を効果的に上昇させることができる。
【0029】
前述した式で表されるI及びIの条件は、XPSグラフで測定された銀金属と銀イオンの比率を意味する。前記Iは、Iの2倍以上であり、5倍以下であってもよい。一例において、前記Iは、Iの2倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、2.5倍以上、2.6倍以上、2.7倍以上、2.8倍以上、2.9倍以上、3倍以上、3.1倍以上、3.2倍以上、3.3倍以上または3.4倍以上であってもよい。他の一例において、前記Iは、Iの5倍以下、4.9倍以下、4.8倍以下、4.7倍以下、4.6倍以下、4.5倍以下、4.4倍以下、4.3倍以下、4.2倍以下、4.1倍以下、4倍以下、3.9倍以下、3.8倍以下、3.7倍以下または3.6倍以下であってもよい。
【0030】
前記条件を満たす歯科用インプラントは、初期の銀放出量が高く、初期の植立期間の細菌死滅、付着抑制などの抗菌効果を有することができる。また、銀が徐々に放出される徐放出効果を有することにより、抗菌効果を持続的に維持しうる。
【0031】
例えば、前記歯科用インプラントは、37℃の無機溶媒内で少なくとも1週間に1ppm/日以下の銀を放出しうる。前記歯科用インプラントの徐放出効果は、少なくとも1週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月またはそれ以上持続しうる。前記歯科用インプラントの徐放出効果は、銀イオン及び銀金属の少なくとも1つを長期間放出して持続的な抗菌効果を具現することを意味する。前記無機溶媒は、精製水、イオン交換水などの水を意味する。前記歯科用インプラントは、前記期間中に少なくとも1ppb/日以上、5ppb/日以上または10ppb/日以上の銀を放出しうる。
【0032】
非制限的な一例として、前記チタン基材は、純チタンまたはチタンと周期律表上の他の金属の合金からなる素材を意味する。前記チタン合金は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)及びこれらのうちの少なくとも1つ以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0033】
歯科用インプラントの抗菌コーティング方法
他の一態様によれば、(a)銀前駆体が溶解してAg濃度が10~300mMのコーティング溶液にチタン基材を担持する段階、及び(b)前記コーティング溶液を加熱して水熱処理する段階を含む、歯科用インプラントの抗菌コーティング方法が提供される。
【0034】
前記(a)段階は、銀前駆体が溶解したコーティング溶液にチタン基材を担持してもよい。前記銀前駆体は、硝酸銀(AgNO)、過塩素酸銀(AgClO)、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)、酢酸銀(CHCOOAg)、銀トリフルオロメタンスルホン酸(AgCFSO)、硫酸銀(AgSO)、銀2,4-ペンタンジオネート(CHCOCH=COCHAg)、酸化銀類(AgO、AgO、Ag、Ag)及びそれらのうち2つ以上の混合物からなる群から選ばれる1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
一例として、前記コーティング溶液のAg濃度が10~300mMであってもよい。例えば、10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM、19mM、20mM、21mM、22mM、23mM、24mM、25mM、26mM、27mM、28mM、29mM、30mM、31mM、32mM、33mM、34mM、35mM、36mM、37mM、38mM、39mM、40mM、41mM、42mM、43mM、44mM、45mM、46mM、47mM、48mM、49mM、50mM、51mM、52mM、53mM、54mM、55mM、56mM、57mM、58mM、59mM、60mM、61mM、62mM、63mM、64mM、65mM、66mM、67mM、68mM、69mM、70mM、71mM、72mM、73mM、74mM、75mM、76mM、77mM、78mM、79mM、80mM、81mM、82mM、83mM、84mM、85mM、86mM、87mM、88mM、89mM、90mM、91mM、92mM、93mM、94mM、95mM、96mM、97mM、98mM、99mM、100mM、110mM、120mM、130mM、140mM、150mM、160mM、170mM、180mM、190mM、200mM、210mM、220mM、230mM、240mM、250mM、260mM、270mM、280mM、290mM、300mMまたはこれらのうち2つの値の間の範囲であってもよいが、これに限定されるものではない。Ag濃度が前記範囲未満であれば、銀の量が不足して抗菌性が低下することがあり、前記範囲超過であれば、コーティング溶液の形成が難しかったり、粘度などの問題によりコーティング層の形成が不良であることがある。
【0036】
一例として、前記(a)段階を行う前に、前記チタン基材をサンドブラスト、エッチング、洗浄、乾燥の少なくとも1つの方法で処理する前処理段階をさらに含んでもよいが、
これに限定されるものではない。
【0037】
前記チタン基材をサンドブラストまたはエッチングして表面粗さを付与する場合、骨融合特性を向上できるが、細菌に対する付着性も上昇することがある。前記チタン基材を洗浄または乾燥して前記基材の表面の異物を除去することができ、後続する抗菌コーティング層を効果的に形成させることができる。
【0038】
前記(b)段階は、前記コーティング溶液を加熱して水熱処理し、前記チタン基材の表面上に銀-酸化チタンマトリックスを形成しうる。
【0039】
一例において、前記(b)段階は、150~300℃及び1~5時間の条件で行われてもよい。前記(b)段階は、例えば、150℃、155℃、160℃、165℃、170℃、175℃、180℃、185℃、190℃、195℃、200℃、205℃、210℃、215℃、220℃、225℃、230℃、235℃、240℃、245℃、250℃、255℃、260℃、265℃、270℃、275℃、280℃、285℃、290℃、295℃、300℃またはこれらのうち2つの値の間の範囲の温度で行われてもよいが、これに限定されるものではない。前記(b)段階の温度条件は、前記銀-酸化チタンマトリックスの銀コーティング量とそれによる抗菌性能に影響を及ぼすことができる。また、前記b)段階は、例えば、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間またはこれらのうち2つの値の間の範囲の時間の間に行われてもよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
前記(b)段階以後、チタン基材の表面を洗浄して結合していない銀イオンを除去しうる。ただし、このような洗浄は、チタン基材の表面に形成された銀-酸化チタンマトリックスの抗菌性能を阻害しない方法で行われてもよい。例えば、精製水、アルコール及びそれらの混合物からなる群から選ばれる1つに浸漬させた後、撹拌して行われてもよい。
【0041】
以下、本明細書の実施例についてさらに詳細に説明する。ただし、以下の実験結果は、前記実施例のうち代表的な実験結果のみを記載したものであり、実施例などにより本明細書の範囲と内容を縮小するか、または制限して解釈できない。以下に明示的に提示されていない本明細書の様々な具現例のそれぞれの効果は、該当部分で具体的に記載する。
【0042】
実験例1:抗菌イオンの選定
抗菌イオンを選定するために唾液細菌汚染率を評価した。対照群としては唾液(saliva、SA)、実験群としては生理食塩水(Saline)、水和溶液(EC)、マグネシウムイオン塩、銀イオン塩100mlを用意した。前記対照群及び実験群のそれぞれの溶液に用意された唾液から分離された唾液細菌懸濁液を1mlずつ投入した後、37℃、嫌気性条件で16時間維持した。16時間後、唾液細菌汚染率を測定し、その結果を図1に示した。対照群である唾液の唾液細菌汚染率を100%に設定し、実験群の唾液細菌汚染率を測定した。
【0043】
図1を参照すると、生理食塩水及び水和溶液(EC)では、唾液に対してそれぞれ52.45%及び23.6%の唾液細菌汚染率を示した。抗菌イオン塩であるマグネシウムイオン塩は102.34%と最も高い唾液細菌汚染率を示した。これに対して、銀イオン塩では0.28%の唾液細菌汚染率を示し、唾液に対して99.7%の細菌汚染減少率を示した。したがって、抗菌イオンとして銀イオンを選定した。
【0044】
実験例2:抗菌コーティング方法の選定
抗菌コーティング法を選定するために動物実験を行った。対照群としてチタンインプラントを用意した。実験群として銀イオン塩と過酸化水素を含む溶液で処理されたチタンインプラント及び銀イオン塩を含む溶液で水熱処理されたチタンインプラントを用意した。前記インプラント試料をそれぞれ8個ずつ用意した。用意されたインプラントを植立前に唾液に24時間担持して汚染させ、ウサギ(rabbit)の脛骨に植立して21日間維持して骨形成を行った後、除去トルク(Removal torque)を評価した。その実験結果を図2に示した。
【0045】
図2を参照すると、図2(a)は、それぞれ8つの試料に対する除去トルクの平均値である。図2(b)は、8つの試料に対するそれぞれの除去トルクを示すものである。未処理のチタンインプラントの場合、平均値で26.95Nの除去トルクを示し、最も不良であることを示し、植立失敗件数は、8件のうち2件を記録した。これに対して、銀イオンコーティング処理されたインプラントの場合、それぞれ46.43N及び52.11Nの値を示し、銀イオンによる唾液汚染が減少することが確認できる。また、水熱処理により銀イオンコーティングが行われたインプラントは最も優れた除去トルクを示し、植立失敗件数は、8件のうち0件を記録した。したがって、唾液細菌に対する銀イオンの優れた抗菌性を確認し、コーティング方法として水熱処理法を選定した。
【0046】
実験例3:水熱処理条件の選定1
水熱処理条件を選定するために、温度、時間及び銀イオン濃度による抗菌性能評価を行った。
【0047】
評価のために、チタン基材を3×3cmサイズのサンプルとして9個用意した。それぞれのチタン基材の水熱処理条件として温度は、180℃、200℃、250℃とし、時間は、1時間、2時間、3時間とし、銀イオンの濃度は、30mM、60mM、100mMとした。
【0048】
唾液細菌としては、急性歯周炎やインプラント周囲炎などの原因菌であるアグリゲイティバクターアクチノミセテムコミタンス菌(Aggregatilacter actinomycetemcomitans ATCC 33384)とポルフィロモナスジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)を使用した。用意された唾液細菌をそれぞれBHI(Brain heart infusion broth,Merck)培地に接種し、37℃の嫌気性条件で16~24時間培養した。前記培養液をBHI培地に希釈して600nmの吸光度が0.1になるように希釈した後、細菌の濃度が1/10になるように、さらにBHI培地に1回希釈して2種類の唾液細菌懸濁液を製造した。
【0049】
前記9個のチタン基材をクリーンベンチ(Clean bench)でUVに曝露させて30分間滅菌した後、24ウェルプレート(24 well plate)の各ウェルあたり1個ずつ入れた。用意された唾液細菌懸濁液を各ウェルあたり1mLずつ投入した後、37℃、嫌気性条件で16時間培養した。新しい24ウェルプレート(24 well plate)に各ウェル当たり1mLずつ0.1重量%のクリスタルバイオレット(Crystal violet)溶液を投入した。サンプルをクリスタルバイオレットが入ったウェルプレートの各ウェルに移した後、10分間常温でインキュベートして細菌を紫色に染色した。
【0050】
新しい24ウェルプレートに各ウェルあたり、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline,PBS)溶液を1mLずつ投入して用意した後、染色されたそれぞれのサンプルを各ウェルに移した後、前記過程をもう一度繰り返した。PBS溶液で洗浄したサンプルを乾いたティッシュの上に移し、サンプルの底面を拭いた。新しい24ウェルプレートに各ウェル当たり、酢酸(acetic acid)30重量%溶液500μLを投入し、それぞれのサンプルを各ウェルに移した後、20分間常温で培養して染色薬を溶解させた。溶解された溶液を96ウェルプレートに200μLずつ投入した後、マイクロプレートリーダー(Microplate reader)を用いて吸光度(595nm)を測定し、その結果を図3に示した。サンプルと比較するために、唾液細菌を未接種した培地(Media)及び未処理のチタン基材サンプルを前述のように、唾液細菌懸濁液に処理した対照群とともに吸光度(O.D,595nm)を測定した。
【0051】
9つのサンプルに対するそれぞれの水熱処理条件は、下記表1に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1及び図3を参照すると、サンプル1及び4を除いたすべてのサンプルにおいて0.08以下のO.D(595nm)値を示し、銀イオンによる唾液細菌抑制効果が優れていることが確認できる。
【0054】
最適な水熱処理条件を導き出すために、温度別、時間別、銀イオン濃度別にO.D(595nm)値を合算して表2に示した。
【0055】
【表2】
【0056】
表2を参照すると、水熱処理において、温度条件によるO.D(595nm)値は、200℃及び250℃でそれぞれ0.246、0.212を示し、180℃条件で水熱処理された場合に比べて抗菌性が向上したことを確認した。また、時間条件による唾液細菌汚染率は、2時間及び3時間の条件で優れており、銀イオン濃度による唾液細菌汚染率は60mM及び100mMで優れていた。したがって、抗菌性向上のための最適な水熱処理条件としては、温度200~250℃、時間2~3時間及び銀イオン濃度60~100mMで導き出した。
【0057】
実験例4:水熱処理条件の選定2
水熱処理条件を選定するために、水熱処理時、H濃度(化学的処理)、温度、経時的な唾液細菌汚染抑制率、初期チタン(Ti)イオン溶出量及び銀(Ag)イオン放出量評価を行った。
【0058】
評価のために、チタン基材を3×3cmサイズのサンプルとして9個用意した。それぞれのチタン基材の水熱処理条件としてH濃度は0重量%(未添加)、1重量%、2重量%とし、温度は180℃、200℃、250℃とし、時間は1時間、2時間、3時間とし、銀イオン濃度は100mMで固定した。
【0059】
唾液細菌汚染抑制率は、実験例3で前述した抗菌性能評価と同様に行い、未処理のチタン基材サンプルを唾液細菌に汚染させたO.D(595nm)値を基準にして、唾液細菌汚染抑制率を導き出した。
【0060】
【数3】
【0061】
最適な水熱処理条件を導出するために、H濃度別、温度別、時間別に唾液細菌汚染抑制率、初期Ti溶出量及びAg放出量を合算した値を表3に示した。
【0062】
【表3】
【0063】
表3を参照すると、水熱処理においてH濃度条件による唾液細菌汚染抑制率は、最大値-最小値の差が0.08と微差を示すが、濃度が高いほど、初期Ti溶出量が大きく上昇することを確認した。これにより、水熱処理時にHは使用しなかった。また、温度条件において200℃以上でAgイオンの放出量に優れており、初期Tiイオンは少なく溶出して有意な結果値を示した。時間条件による唾液細菌汚染抑制率は3時間で最も高い抑制率を示し、Agイオンの放出量は、2時間で最も高い溶出量を示し、初期Tiイオン溶出量は3時間で最も少ない溶出量を示した。
【0064】
前述した実験例1~4による抗菌イオン選定及び水熱処理条件に従って実施例及び比較例を設定した。
【0065】
実施例
直径6mm、厚さ2mm、長さ10mmのディスク(円柱)状のCp-Ti(Titanium Grade 4)試片を用意した。前記試片をAg濃度100mMの硝酸銀溶液に担持した後、加熱して200℃の温度で3時間水熱処理した。水熱処理後、精製水(Deionized Water)に5分間担持して洗浄し、試片に抗菌コーティングを完了した。
【0066】
比較例1
銀前駆体溶液を精製水に置き換えて水熱処理を行ったこと以外は、実施例と同様の方法で行った。
【0067】
比較例2
水熱処理後、精製水に担持して5分間超音波洗浄を行ったこと以外は、実施例と同様の方法で行った。
【0068】
実験例5:FE-SEM及びEDS分析
実施例及び比較例の表面分析のためにFE-SEM及びEDS分析を行い、これを図4図6に示した。
図4は、本明細書の実施例及び比較例のFE-SEM分析イメージである。図4を参照すると、実施例の表面上に銀粒子が形成されていることが確認できる。これに対して、比較例1は、表面上にコーティング粒子が形成されていないことが確認でき、比較例2は、実施例に比べて銀粒子のコーティングが低下したことが確認できる。
【0069】
図5は、実施例のSEMイメージのうち、位置別チタンと銀の元素分布図を分析したものである。図5を参照すると、位置1ではチタン99.79at%及び銀0.21at%を示し、位置2ではチタン99.69at%及び銀0.31at%を示し、位置3ではチタン94.16at%及び銀5.84at%を示した。位置3において、バルク銀粒子が形成されて銀のat%が上昇したことが確認できる。
【0070】
図6は、本明細書の実施例及び比較例のEDS分析イメージである。図6を参照すると、実施例はチタン基材の表面上に銀が均一に分布していることが確認できる。比較例1は、抗菌コーティング層が形成されず、チタン元素のみが分布していることが確認できる。比較例2は、チタン基材の表面上に銀が均一に分布しているが、実施例に比べて少ない量であることが確認できる。
【0071】
実験例6:XPS分析
実施例及び比較例の原子状態を分析するためにXPS分析を行い、これを図7に示した。対照群として未処理のCp-Ti(Titanium Grade 4)試片もともにXPS分析を行った。
【0072】
図7を参照すると、実施例の分析グラフにおいて、Ag金属(Ag2p)及び酸化されたAgイオン(Ag3d)ピークが同時に検出されたことが確認できる。これにより、実施例は、チタン基材の表面上に銀粒子が効果的にコーティングされたことが確認できる。これに対して、比較例ではAgに対するピークは検出されず、Ti(Ti2s、Ti2p)に対するピークのみが検出された。対照群では比較例とほぼ類似のピーク様相を示すが、表面処理ができず、酸化されたTiイオンピークが微弱に現れることが確認できる。
【0073】
Ag金属ピークと酸化されたAgイオンピークの高さを比較すると、570~580eVのAg2pのピークよりも360~375eVのAg3dのピークが約3.5倍高いことが確認できる。
【0074】
実験例7:Ag放出量の評価
実施例の担持期間によるAg放出量を評価するために実施例の試片を精製水(DW)に担持し、90日間のAg放出量を測定した。Ag放出量はICP-MS分析器で測定し、その結果を図8に示した。
【0075】
図8を参照すると、担持直後に250ppb以上のAgイオン放出量を示し、担持してから3日経過後に100ppb以上のAgイオン放出量を示した。担持してから3日後にAgイオンの放出量が徐々に減少し、30日経過後にAgイオン放出量は50ppb以上のAgイオンが徐放出することが確認できる。担持期間60日経過後に30ppb以上のAgイオン放出量を示した。したがって、本明細書の実施例を歯科用インプラントに適用する場合、初期植立期間(約3ヶ月)の間、抗菌イオンである銀イオンが徐放出され、初期植立失敗率が著しく減少すると予測できる。
【0076】
実験例8:Agイオン放出期間による抗菌性能評価
実施例のAgイオン放出期間による抗菌性能を評価した。実施例との比較のために唾液細菌を未接種した培地(Media)及び唾液細菌懸濁液のみを含む培地(対照群)もともに唾液細菌汚染抑制率を測定し、その結果を図9に示した。
【0077】
図9を参照すると、実施例のAgイオン放出期間に応じて3日目では80%以上の唾液細菌汚染抑制率を示した。90日間、唾液細菌汚染抑制率は徐々に減少したが、60%以上の唾液細菌汚染抑制率を示した。これにより、Agイオンが90日以内に徐放出されることが確認できる。
【0078】
実験例9:洗浄条件による抗菌性能評価
実施例及び比較例のAg洗浄条件による抗菌性能評価を行った。評価のために実施例と水熱処理後に精製水で超音波洗浄した比較例2を選定した。比較例2で洗浄時間別に超音波洗浄時間を1分、3分、5分に細分化し、それぞれ比較例2-1、比較例2-2、比較例2-3に設定した。洗浄溶液をエタノールに置き換えて比較例3に設定し、超音波洗浄時間を1分、3分、5分に細分化し、それぞれ比較例3-1、比較例3-2、比較例3-3に設定した。抗菌性能評価は、実験例3で前述したように行い、吸光度であるO.D(595nm)値を測定し、その結果を図10に示した。
【0079】
図10を参照すると、精製水に担持して洗浄処理した実施例の抗菌性が最も優れていることを示した。これに対して、超音波洗浄を行った比較例2(2-1、2-2、2-3)及び3(3-1、3-2、3-3)は、抗菌性能がやや減少したことを示した。これは超音波洗浄によってバルクイオン粒子が一部除去され、抗菌性能に影響を及ぼすと予測できる。洗浄溶液による抗菌性能はほとんど影響を及ぼさないことが確認できる。
【0080】
前述した本明細書の説明は例示のためのものであり、本明細書の一態様が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本明細書に記載された技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるだろう。したがって、前述した実施例は、あらゆる面において例示的なものであり、限定的でないものと理解すべきである。例えば、単一の形態で説明されている各構成要素は分散して行われてもよく、同様に分散されていると説明されている構成要素も結合された形態で行われてもよい。
【0081】
本明細書の範囲は後述する請求範囲によって示され、請求範囲の意味と範囲、及びその均等概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本明細書の範囲に含まれるものと解釈されなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】