(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】心内信号の処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/346 20210101AFI20241128BHJP
【FI】
A61B5/346
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538429
(86)(22)【出願日】2022-12-23
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 FR2022052497
(87)【国際公開番号】W WO2023118769
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520195774
【氏名又は名称】サブストレート ホールディングス
【氏名又は名称原語表記】SUBSTRATE HD
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】ブドゥ・トマ
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127CC02
4C127GG02
4C127GG05
4C127GG11
(57)【要約】
【課題】心内信号を処理する装置、方法、コンピュータプログラムおよびデータ記憶媒体を提供する。
【解決手段】心内信号の処理装置は、心電図データ及び時間を合わせた電位図データを受け取るように設けられた記憶手段4と、前記心電図データを分析し、前記心電図データからQRS波時間点を検出するように設けられた検出手段6と、前記電位図データのウェーブレット変換を実行するように設けられた分析手段8と、前記ウェーブレット変換から、検出手段6により検出されたQRS波時間点にそれぞれ対応する係数を導出し、これらを蓄積手段14に格納するように設けられた抽出手段10と、蓄積手段14からQRSフィンガープリント信号を抽出し、前記ウェーブレット変換の前記QRS波時間点から該QRSフィンガープリント信号を差し引き、得られた信号のウェーブレット逆変換により、ノイズが低減した電位図データを出力として生成するように設けられた構成手段12と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心内信号の処理装置であって、
心電図データ及び同期された電位図データを受け取るように設けられた記憶手段(4)と、
前記心電図データを分析し、前記心電図データからQRS波時間点を検出するように設けられた検出手段(6)と、
前記電位図データのウェーブレット変換を実行するように設けられた分析手段(8)と、
前記ウェーブレット変換から、前記検出手段(6)により検出されたQRS波時間点にそれぞれ対応する係数を導出し、これらを蓄積手段(14)に格納するように設けられた抽出手段(10)と、
前記蓄積手段(14)からQRSフィンガープリント信号を抽出し、前記ウェーブレット変換の前記QRS波時間点から該QRSフィンガープリント信号を差し引き、得られた信号のウェーブレット逆変換により、ノイズが低減した電位図データを出力として生成するように設けられた構成手段(12)と、
を備える、心内信号の処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記記憶手段(4)が、別々のトラックに対応する電位図データを受け取るように設けられており、前記検出手段(6)、前記分析手段(8)、前記抽出手段(10)および前記構成手段(12)が、別々のトラックに対応する電位図データを別々に処理するように設けられている、装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置において、前記抽出手段(10)は、所与のウェーブレット変換レベルの所与の時間点に対応する選択された係数について、該所与のウェーブレットレベルに対応して該所与の時間点を中心としたウェーブレット信号が、該選択された係数の導出元である前記電位図データから抽出された、各係数に対応する前記QRS波時間点を中心とした窓と重複するように、係数を導出するよう設けられている、装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置において、前記抽出手段(10)が、各係数に対応する時間点を中心とするとともに各係数のウェーブレットレベルと対応した前記ウェーブレット信号と、各係数に対応する前記QRS波時間点を中心とした前記窓との時間的な重複に応じて、前記蓄積手段(14)に格納された前記係数を重み付けするように設けられている、装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の装置において、前記抽出手段(10)により各ウェーブレットレベルについて導出された前記係数の関数にそれぞれ基づいて、前記構成手段(12)が、前記ウェーブレット変換の各ウェーブレットレベルに対するQRSフィンガープリント信号を形成するように設けられている、装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置において、前記構成手段(12)が、幾何中央値、PCAおよびICAを含む群から選択される関数を適用するように設けられている、装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の装置において、前記構成手段(12)が、各ウェーブレットレベルについて、前記蓄積手段(14)内の係数を最新のものから数えて所定数使用するように設けられている、装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の装置において、前記抽出手段(8)が、SWT型ウェーブレット変換を実行するように設けられている、装置。
【請求項9】
心内信号の処理方法であって、
a)心電図データ及び同期した電位図データを受け取る過程と、
b)前記心電図データを分析し、前記心電図データからQRS波時間点を検出する過程と、
c)前記電位図データのウェーブレット変換を実行する過程と、
d)前記ウェーブレット変換から、過程b)で検出されたQRS波時間点にそれぞれ対応する係数を導出し、これらを蓄積手段(14)に格納する過程と、
e)前記蓄積手段(14)からQRSフィンガープリント信号を抽出し、過程c)の前記ウェーブレット変換の前記QRS波時間点から該QRSフィンガープリント信号を差し引く過程と、
f)過程e)の信号のウェーブレット逆変換を実行し、ノイズが低減した対応する電位図データを出力として返す過程と、
を備える、心内信号の処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、過程d)は、所与のウェーブレット変換レベルの所与の時間点に対応する選択された係数について、該所与のウェーブレットレベルに対応して該所与の時間点を中心としたウェーブレット信号が、該選択された係数の導出元である前記電位図データから抽出された、該選択された係数に対応する前記QRS波時間点を中心とした窓と重複するように、過程c)の前記ウェーブレット変換から係数を導出する副過程を含む、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、過程d)が、導出された各係数を前記蓄積手段(14)に格納する前に、該導出された各係数に対応する時間点を中心とするとともに該導出された各係数のウェーブレット変換レベルと対応した前記ウェーブレット信号と、該導出された各係数に対応する前記QRS波時間点を中心とした前記窓との時間的な重複に応じて、該導出された各係数を重み付けする、副過程を含む、方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項に記載の方法において、過程e)が、過程d)の各ウェーブレットレベルに対応する前記係数の関数にそれぞれ基づいて、過程b)の前記ウェーブレット変換の各ウェーブレットレベルに対する各QRSフィンガープリント信号を形成する副過程を含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記関数が、幾何中央値、PCAおよびICAを含む群から選択される、方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか一項に記載の方法を実行する命令を備えるコンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラムが記録されたデータ記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心内信号の処理およびノイズ低減の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
心室の近位にある心房(例えば、冠静脈-焼灼手術で使われるリファレンスカテーテル)の電位図の測定は、心室活動による妨害を受ける可能性がある。心室活動は、心内電位図に「ファーフィールド」(FF)としても知られる波形を生じさせる。心室によるこのような歪みは、心房の電位図の信号の分析をより困難なものにする。また、心房と関係のないこの情報が、(例えば、周期の長さの推定等に)誤って混入してしまう。
【0003】
具体的には、本発明は、心内消息子から得られた電位図のトラックから、ノイズと見なされるファーフィールド心室寄与成分を、これがニアフィールド活動と重なり合っていたとしても、ニアフィールド活動を残したまま除去することを目的としている。
【0004】
臨床現場(すなわち、手術室)でこのような信号が検出された場合には、該信号を大雑把に消去することによってファーフィールドの影響を処理している。これは、あまり効果的ではなく、信号の劣化にもなる。
【0005】
学術文献では、幾つかの指針が提示されている:
- TMS(「テンプレートマッチング・サブトラクション(Template matching and subtraction)」の意味)法は、記録期間中のQRS群の平均値を算出し、出くわす全てのQRS群からその平均値を差し引くというものである(例えば、Rieta, J. J., et al. “Atrial activity extraction based on blind source separation as an alternative to QRST cancellation for atrial fibrillation analysis.” Computers in Cardiology 2000. Vol. 27 (Cat. 00CH37163), IEEE, 2000(非特許文献1)等を参照);
- 独立成分分析(ICA)法は、ECG信号中に様々な区間で存在する相互情報量を最小限に抑えるような成分一式を見つけるというものである。心室活動や心房活動の部分空間内でこのような独立成分を集約させることにより、心房活動の部分空間から各観測点の心房活動を再構成することが可能となり得る(例えば、F. Castells, et al. “Multidimensional ICA for the Separation of Atrial and Ventricular Activities from Single Lead ECGs in Paroxysmal Atrial Fibrillation Episodes”, Lecture Notes in Computer Science, vol. 3195, p. 1229-1236, 2004(非特許文献2)等を参照);
- 適応型心室相殺(AVC)法は、リファレンスチャネルへの有限インパルス応答フィルタの適用によって干渉を推定した後、同リファレンスチャネルから該干渉を取り除くというものである(例えば、Widrow B., et al. “Adaptive noise cancelling: principles and applications”, Proc. IEEE 63, 1692-716, 1975(非特許文献3)等を参照);
- ウェーブレット分解結合型ICA法は、電位図及び心電図のウェーブレット分解にICA法を適用するというものである(例えば、Simanto Saha, et al. “A Ventricular Far-field Artefact Filtering Technique for Atrial Electrograms”, 2019 Computing in Cardiology Conference, 2019(非特許文献4)等を参照);ならびに
- 主成分分析(PCA)法は、互いに関連(統計学でいえば相関)する変数同士を、互いに非相関化した新たな変数に変換するというものである(例えば、Christopher Schilling, “Analysis of Atrial Electrograms”, Vol. 17 Karlsruhe Transactions on Biomedical Engineering, 2012(非特許文献5)等を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rieta, J. J., et al. “Atrial activity extraction based on blind source separation as an alternative to QRST cancellation for atrial fibrillation analysis.” Computers in Cardiology 2000. Vol. 27 (Cat. 00CH37163), IEEE, 2000
【非特許文献2】F. Castells, et al. “Multidimensional ICA for the Separation of Atrial and Ventricular Activities from Single Lead ECGs in Paroxysmal Atrial Fibrillation Episodes”, Lecture Notes in Computer Science, vol. 3195, p. 1229-1236, 2004
【非特許文献3】Widrow B., et al. “Adaptive noise cancelling: principles and applications”, Proc. IEEE 63, 1692-716, 1975
【非特許文献4】Simanto Saha, et al. “A Ventricular Far-field Artefact Filtering Technique for Atrial Electrograms”, 2019 Computing in Cardiology Conference, 2019
【非特許文献5】Christopher Schilling, “Analysis of Atrial Electrograms”, Vol. 17 Karlsruhe Transactions on Biomedical Engineering, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の手法には、どれも大きな短所がある。つまり、TMS法は、心房の電位図を変形させるため、それを基にしたあらゆる手法が使えなくなる。ICA法は、信号が不規則かつまとまりのないものになるや否や、その有効性の大部分が消失する。AVC法は、ICA法ほど有効でないほか、相殺の有効性がリファレンス信号に大きく依存するという点がある。PCA法は、TMS法を改良したものであるが、同様の欠点がある。
【0008】
つまり、いずれの手法も、電位図信号のノイズを効果的に低減させて心房性不整脈の場面での活用を可能とすることができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、この状況を改善する。この目的のために、本発明は、心内信号の処理装置であって、心電図データ及び時間を合わせた電位図データを受け取るように設けられた記憶手段と、前記心電図データを分析し、前記心電図データからQRS波時間点を検出するように設けられた検出手段と、前記電位図データのウェーブレット変換を実行するように設けられた分析手段と、前記ウェーブレット変換から、前記検出手段により検出されたQRS波時間点にそれぞれ対応する係数を導出し、これらを蓄積手段に格納するように設けられた抽出手段と、前記蓄積手段からQRSフィンガープリント信号を抽出し、前記ウェーブレット変換の前記QRS波時間点から該QRSフィンガープリント信号を差し引き、得られた信号のウェーブレット逆変換により、ノイズが低減した電位図データを出力として生成するように設けられた構成手段と、を備える、心内信号の処理装置を提供する。
【0010】
この装置は、ファーフィールドの活動を相殺するだけでなく、ファーフィールドと重なり合っていたニアフィールドを再構成することもでき、S/N比が大幅に向上するため、極めて有利である。
【0011】
各実施形態において、本発明は、下記の構成を1つ以上備え得る:
- 前記記憶手段が、別々のトラックに対応する電位図データを受け取るように設けられており、前記検出手段、前記分析手段、前記抽出手段および前記構成手段が、別々のトラックに対応する電位図データを別々に処理するように設けられている;
- 前記抽出手段は、所与のウェーブレット変換レベルの所与の時間点に対応する選択された係数について、該所与のウェーブレットレベルに対応して該所与の時間点を中心としたウェーブレット信号が、該選択された係数の導出元である前記電位図データから抽出された、各係数に対応する前記QRS波時間点を中心とした窓と重複するように、係数を導出するよう設けられている;
- 前記抽出手段が、各係数に対応する時間点を中心とするとともに各係数のウェーブレットレベルと対応した前記ウェーブレット信号と、各係数に対応する前記QRS波時間点を中心とした前記窓との時間的な重複に応じて、前記蓄積手段に格納された前記係数を重み付けするように設けられている;
- 前記構成手段が、前記ウェーブレット変換の各ウェーブレットレベルについて、前記抽出手段により各ウェーブレットレベルについて導出された前記係数の関数にそれぞれ基づいて、QRSフィンガープリント信号を形成するように設けられている;
- 前記構成手段が、幾何中央値、PCAおよびICAからなる群から選択される関数を適用するように設けられている;
- 前記構成手段が、各ウェーブレットレベルについて、前記蓄積手段内の係数を最新のものから数えて所定数使用するように設けられている;ならびに
- 前記抽出手段が、SWT型ウェーブレット変換を実行するように設けられている。
【0012】
本発明は、さらに、心内信号の処理方法であって、
a)心電図データ及び時間を合わせた電位図データを受け取る過程と、
b)前記心電図データを分析し、前記心電図データからQRS波時間点を検出する過程と、
c)前記電位図データのウェーブレット変換を実行する過程と、
d)前記ウェーブレット変換から、過程b)で検出されたQRS波時間点にそれぞれ対応する係数を導出し、これらを蓄積手段に格納する過程と、
e)前記蓄積手段からQRSフィンガープリント信号を抽出し、過程c)の前記ウェーブレット変換の前記QRS波時間点から該QRSフィンガープリント信号を差し引く過程と、
f)過程e)の信号のウェーブレット逆変換を実行し、ノイズが低減した対応する電位図データを出力として返す過程と、
を備える、心内信号の処理方法に関する。
【0013】
各実施形態において、この方法は、下記の構成を1つ以上備え得る:
- 過程d)は、任意のウェーブレット変換レベルの任意の時間点に対応する任意の係数について、該任意のウェーブレットレベルに対応して該任意の時間点を中心としたウェーブレット信号が、該任意の係数の導出元である前記電位図データから抽出された、該任意の係数に対応する前記QRS波時間点を中心とした窓と重複するように、過程c)の前記ウェーブレット変換から係数を導出する副過程を含む;
- 過程d)が、前記蓄積手段に格納する前に、導出された各係数に対応する時間点を中心とするとともに該導出された各係数のウェーブレット変換レベルと対応した前記ウェーブレット信号と、該導出された各係数に対応する前記QRS波時間点を中心とした前記窓との時間的な重複に応じて、該導出された各係数を重み付けする、副過程を含む;
- 過程e)が、過程b)の前記ウェーブレット変換の各ウェーブレットレベルについて、過程d)の各ウェーブレットレベルに対応する前記係数の関数にそれぞれ基づいて、各QRSフィンガープリント信号を形成する副過程を含む;
- 前記関数が、幾何中央値、PCAおよびICAからなる群から選択される;
- 前記関数が、各QRSフィンガープリント信号について、前記蓄積手段内の係数を最新のものから数えて所定数使用する;ならびに
- 過程c)が、SWT型ウェーブレット変換を実行する。
【0014】
本発明は、さらに、本発明に係る方法を実行する命令を備えるコンピュータプログラム、このようなコンピュータプログラムが記録されたデータ記憶媒体、およびこのようなコンピュータプログラムを記録したメモリに接続されたプロセッサを備えるコンピュータシステムに関する。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、図面を参考に、本発明を限定しないあくまでも例示である例から派生した以下の説明を参酌することで、より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図1の装置が実施する機能の一実施形態を示す図である。
【
図3】ノイズ低減前の信号、ノイズ低減後の信号、これらの信号を重ね合わせたもの、およびそれらの差分についての電位図の一例である。
【
図4】ノイズ低減前の信号、ノイズ低減後の信号、これらの信号を重ね合わせたもの、およびそれらの差分についての電位図の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面および以下の説明では、実質上、特定の性質の構成/構成要素を含めている。つまり、これらは、本発明のより良い理解に利用されるだけでなく、適宜、本発明の定義にも貢献し得る。
【0018】
図1は、本発明に係る心内信号の処理装置2の概略図である。装置2は、記憶手段4、検出手段6、分析手段8、抽出手段10、構成手段12および蓄積手段14を備える。
【0019】
記憶手段4は、ハードディスク、ソリッドステートドライブ、任意の形態のフラッシュメモリ、ランダムアクセスメモリ、磁気ディスク、ローカルの又はクラウド上の分散型ストレージなどの、デジタルデータを受信可能な任意の種類のデータストレージからなり得る。前記装置の演算によるデータは、記憶手段4と同様の任意の種類の記憶手段、あるいは、記憶手段4に記憶され得る。これらのデータは、前記装置がタスクを実行した後に消去され得るか、あるいは、維持され得る。
【0020】
記憶手段4は、様々な種類のデータを受信する:
- 心臓カテーテルからの1つ以上のトラックで測定された信号を表す電位図データ(各データが別々のトラックに由来する場合、別々の各トラックに対応するデータ同士をひとめまとめにすることができるようになっている。例えば、5つの別々のトラックを受信するのが一般的である。);
- 心電図データ;
- QRS波時間点データ(後述のようにして求める);
- QRSフィンガープリントデータ(後述のようにして求める);および
- ノイズ低減後の電位図データ。
【0021】
蓄積手段14は、記憶手段4の一部として形成されてもよいし、記憶手段4とは別のものであってもよい。蓄積手段14は、記憶手段4を参考に上述したものと同様の手段で実現され得る。
【0022】
装置2は、電気生理学的手法により得られる信号の多様性および相補性を利用したものである。
【0023】
後で分かるように、検出手段6は、まず、心電図上のファーフィールドQRS波時間点の位置を求める。実際に、これらは、心内枝の心室活動ノイズと位置が揃っている。そして、時間周波数解析により、ファーフィールドとニアフィールドとが重なり合っている場合も含め、このノイズがもう1つの電位図から、ニアフィールド活動の低減を引き起こすことなく除去される。
【0024】
分析手段8および抽出手段10は、時間周波数アプローチの実施により、局所的に記録された(すなわち、ニアフィールドの)双極電位図から、心室由来のファーフィールド成分を分離する。
【0025】
同時に記録された体表面心電図と心腔信号を使って、該心腔信号を複数の時間周波数成分に分割した。
【0026】
抽出手段10は、各トラックごとのそれぞれのファーフィールド心室活動を収集して記憶する。これらの活動は、前記心電図データからウェーブレット領域上の閾値法で検出され得るQRS波時間点との同期性により検出が行われる。これらは、蓄積手段14に格納される。変形例として、Pan-Tompkinsアルゴリズムの実施によってQRS波時間点を検出するようにしてもよい。
【0027】
初めのうちは、格納手段14には何も格納されていない。その後、たちまち十分な格納状態となって、各トラックの各フィンガープリントを算出することができるようになれば、ファーフィールド活動の除去が可能となる。
【0028】
そして、構成手段12が、ウェーブレット領域からこれらのフィンガープリントを差し引いてからウェーブレット逆変換を施すことで、ノイズを低減させた信号が再構成される。
【0029】
心房活動と心室活動は、2つの別々の起源に由来する統計学的に独立した活動として捉えられるというのが、基本的な考え方である。この場合の心内枝は、ウェーブレット領域で効果的に処理することが可能な心房成分と心室成分との混合成分からなることになる。
【0030】
検出手段6、分析手段8、抽出手段10および構成手段12は、記憶手段4に対して直接または間接的にアクセスを行う。これらは、1つ以上のプロセッサで実行される適切なコンピュータコードの形態で形成され得る。プロセッサとは、後述の演算に適したあらゆる処理手段のことであると理解されたい。このようなプロセッサは、パーソナルコンピュータ、ラップトップ型、タブレット型又はスマートフォン型のコンピュータ用のマイクロプロセッサ、FPGA型又はSoC型の専用チップ、グリッド又はクラウド上の演算リソース、グラフィクプロセッサ(GPU)のクラスタ、マイクロコントローラの形態などの、後述の実装に必要な演算能力を提供することができる任意の形態のものが、任意の既知の様式で形成されたものであり得る。また、これらの1つ以上の要素は、ASICなどの専用電子回路の形態で形成されたものであってもよい。また、プロセッサと電子回路とが組み合わされたものも考えられ得る。
【0031】
図2は、装置2が実施するノイズ低減機能の実施の一例を示す図である。
【0032】
第1の過程200では、互いに同期した電位図データと心電図データを受け取る。典型的に、これらのデータは、それぞれ2秒のスライスで受け取られる。
【0033】
次に、過程210では、検出手段6が、心電図データを引数として受け取る関数QRS()を実行し、該心電図データから検出した前述のQRS波時間点を返す。
【0034】
これと並行して又はこれに続いて、分析手段8が過程220を実行する。過程220では、関数SWT()が、電位図データを引数として受け取り、該電位図データの導出元である個別のトラックに各々相当する複数のウェーブレット分解を返す。本明細書で説明する例では、関数SWT()が定常ウェーブレット変換型アルゴリズム(SWT)を実施する。定常ウェーブレット変換型アルゴリズム(SWT)には、離散ウェーブレット変換(DWT)のシフト不変性の欠如を補うことで、新たな分解レベルごとに信号のサイズが1/2になるのを避けられるという利点がある。変形例として、離散ウェーブレット変換または連続ウェーブレット変換(CWT)が用いられてもよい。
【0035】
ウェーブレット変換とQRS波時間点が得られると、過程230にて、抽出手段10が関数Buf()を実行する。関数Buf()は、ウェーブレット変換とQRS波時間点を受け取り、該ウェーブレット変換からの抽出物を蓄積手段14に格納する。
【0036】
各トラックの各ウェーブレットレベルは蓄積手段14に個別に格納されるので、格納手段14内の各抽出物について、どのトラックに対応しているのか、さらに、どのウェーブレットレベルに対応しているのかを判断することが可能となっている。
【0037】
この点は、重要である。というのも、信号からファーフィールドに対応する成分を除去できるようにするうえで、各トラックのQRS波時間点に対応したウェーブレット係数を格納しておくのが有用であることに、本願の出願人が気付いたからである。
【0038】
詳細に述べると、電位図信号がファーフィールド信号を含むと考えられる期間を形成するQRS波時間点を中心として、QRS窓を規定する。本明細書で説明する例では、この窓が、各QRS波時間点を中心とした、医学的知識におけるQRS波の一般的な期間に相当する120ミリ秒間の窓とされる。変形例として、前記窓は、別のやり方で定められてもよく、例えば関数QRS()等で決まるものとしてもよい。
【0039】
各ウェーブレットレベルには、使用するウェーブレット変換とウェーブレットレベルとに関係した時間のウェーブレット関数が対応している。つまり、ウェーブレット変換の各ウェーブレット係数は、該係数と対応する時間点を中心とした、そのウェーブレットレベルのウェーブレット関数の幅での時間窓と対応している。
【0040】
このようにして、関数Buf()は、所与のウェーブレットレベル及びトラックの各QRS波時間点に対し、QRS窓と重複する時間窓のウェーブレット変換係数を選択する。
【0041】
任意の構成であるが、本願の出願人は、所与の係数の時間窓とQRS窓との重複量に応じて、蓄積手段14に格納されたウェーブレット係数に重み付けするのが有利であることを見出した。
【0042】
実際に、QRS窓の時間点が最も極端な場合には、該時間点を中心とした時間窓との重複が小さくなる。しかし、この係数に対応する信号が抑制の対象であるため、ファーフィールドと対応していない信号を抑制してしまう恐れがある。同様に、高次レベルのウェーブレットの時間窓についても、QRS窓よりも大きくなり得るという面で、同様の問題を明らかに有している。相対的な重複量に応じて重み付けを行うことにより、このようなエッジ効果を抑制することができる。
【0043】
他の変形例として、最も広い範囲の時間窓のサイズがQRS窓の範囲と同一範囲になるようにウェーブレットレベルを抑えるという兼ね合いが行われてもよい。
【0044】
蓄積手段14が十分な格納状態になると(例えば、過程230からの蓄積手段14内の各トラックの抽出物が5つ以上になると)、過程240にて、構成手段12が関数Out()を実行し得る。関数Out()では、構成手段12が、対象の抽出物の各トラック及びウェーブレットレベルのメディアンを求めて、トラック及び対応するウェーブレットレベルの電位図データのウェーブレット変換から該メディアンを差し引く。メディアンとは、幾何中央値、PCAおよびICAのどれで得られたものであるのかにかかわらず、一連の抽出物を象徴した値を求めることを可能にするあらゆる手法のことであると理解されたい。関数Out()は、最後に、前記メディアンが差し引かれた信号についてウェーブレット逆変換を実行することで、ノイズが低減された対応する信号を返す。
【0045】
図3および
図4は、装置2により得られるゲイン、特に、ファーフィールドとニアフィールドが重なり合った部分のゲインを示し得る。これらの図は、一番上から、電位図データ(すなわち、ノイズ低減されていない信号)、ノイズ低減後の信号、これらの信号を重ね合わせたもの、およびそれらの差分を図示したものであり、QRSフィンガープリント信号を差し引いたことによるウェーブレット逆変換への影響は明らかである。
【0046】
これらの図から、ファーフィールドと重なり合っていたニアフィールド信号を、これらの部分以外の信号を悪化させることなく完全に再形成する、装置2の効率が分かる。
【0047】
ほかにも、本願の出願人は、装置2により得られるゲインを定量化するための試験を実施した。この目的のために、本願の出願人は、周期時間が分かっている電位図に基づいて3種類の手法を比較し、それらの的確性を調べた。この目的のために、本願の出願人は、対応する電位図信号を取り出し、そこから、変更点のない第1の複製物、心室QRS波時間点の信号を抑えた(すなわち、信号の連続性を保つ等電位線で該信号を置き換えた)第2の複製物、および装置2を使ってノイズを低減させた第3の複製物の、3種類の複製物を作成した。そして、得られた信号を使って求めた周期時間を、実際に分かっている周期時間と比較した。
【0048】
この試験は、洞調律、心房頻拍、心房細動のいずれかであり得る52人の患者群について実施した。各複製物について、次の式の二乗平均平方根誤差のスコアを算出した:
【0049】
【0050】
(式中、cは、対象の複製物を示す添字であり、yc(i)は、添字cの複製物のi番目の電位図信号に基づいて求められた周期時間であり、y(i)は、実際の周期時間である。)
【0051】
第1の複製物のスコアは13.36%、第2の複製物のスコアは8.45%、第3の複製物のスコアは4.06%となる。
【0052】
このとおり、装置2によってS/N比のゲインが得られることが実証される。
【国際調査報告】