(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-06
(54)【発明の名称】網目構造を有する鉄-銅合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 6/00 20060101AFI20241129BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C21D6/00 101Z
C22C38/00 302Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519953
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 KR2022005790
(87)【国際公開番号】W WO2023085532
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0153133
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518432757
【氏名又は名称】エムティーエー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MTA Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】24, Daejesandan 5-gil, Goesan-eup, Goesan-gun, Chungcheongbuk-do 28023 (KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】李 光春
(57)【要約】
本発明は、網目構造を有する鉄-銅合金(Fe-Cu Alloy)及びその製造方法を提供する。本発明は鉄65~85原子%。銅15~35原子%を含み、合金組織に銅によって形成された網目構造を有する鉄-銅合金を提供する。また、本発明は、鉄-銅合金に鉄65~85原子%と銅15~35原子%を含むように、溶解炉に鉄と銅を投入、溶解して溶湯を形成する溶解工程、溶湯を鋳造枠に注入して鋳造物を形成する鋳造工程、鋳造物を常温で自然冷却させる冷却工程、自然冷却された鋳造物を熱処理炉に投入して945℃~980℃の温度で熱処理する熱処理工程、及び熱処理された鋳造物を熱処理直後に冷却媒体に焼入れして急冷させる急冷工程を含み、合金組織に銅によって形成された網目構造を有する鉄-銅合金の製造方法を提供する。本発明によれば、鉄(Fe)に適正含有量の銅(Cu)を含み、合金組織内に銅(Cu)によって形成された網目構造を含めさせて、高い硬さを有しつつ引張強度及び熱伝導性等が向上される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄-銅合金に鉄65~85原子%と銅15~35原子%を含むように、溶解炉に鉄と銅を投入し、溶解して溶湯を形成する溶解工程;
前記溶湯を鋳造枠に注入して鋳造物を形成する鋳造工程;及び
前記鋳造物を常温で自然冷却させる冷却工程を含み、
冷却された前記鋳造物を860℃以上で熱処理するときに、亀裂が発生しない、鉄―銅合金の製造方法。
【請求項2】
鉄-銅合金に鉄65~85原子%と銅15~35原子%を含むように、溶解炉に鉄と銅を投入し、溶解して溶湯を形成する溶解工程;
前記溶湯を鋳造枠に注入して鋳造物を形成する鋳造工程;
前記鋳造物を常温で自然冷却させる冷却工程;
自然冷却された前記鋳造物を熱処理炉に投入して945℃~980℃の温度で熱処理する熱処理工程;及び
熱処理された前記鋳造物を熱処理直後に冷却媒体に焼入れさせる急冷工程を含み、合金組織に銅によって形成された網目構造を有する鉄-銅合金の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、自然冷却された前記鋳造物を熱処理炉に投入した後、前記熱処理炉内の温度を2℃/分~15℃/分の速度で945℃~980℃に昇温させて行う、請求項2記載の鉄-銅合金の製造方法。
【請求項4】
鉄-銅合金において、
請求項2記載の鉄-銅合金の製造方法で製造され、
鉄68~80原子%;及び、
銅20~32原子%を含み、
合金組織に銅によって形成された網目構造を有し、
下記(a)~(c)
(a)ロックウェル硬度 30HRC以上
(b)引張強さ 700N/mm
2以上
(c)熱伝導率 90W/m・K以上
の物性を有する、鉄-銅合金。
【請求項5】
鉄-銅合金において、
鉄65~85原子%;及び、
銅15~35原子%を含み、
合金組織に銅によって形成された網目構造を有する鉄-銅合金。
【請求項6】
前記鉄-銅合金は、
鉄68~80原子%;及び
銅20~32原子%を含み、
下記(a)~(c)
(a)ロックウェル硬度 30HRC以上
(b)引張強さ 700N/mm
2以上
(c)熱伝導率 90W/m・K以上
の物性を有する、請求項5記載の鉄-銅合金。
【請求項7】
前記網目構造は、銅-リッチ線が網目形態で連結されて形成され、
前記銅-リッチ線は、0.1μm~30μmの太さを有する、請求項4乃至6のいずれか1つに記載の鉄-銅合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網目構造を有する鉄-銅合金及びその製造方法に関し、1つの実施形態では、鉄(Fe)に適正含量の銅(Cu)を含み、合金組織内に銅(Cu)によって形成された網目構造を含み、高い硬度を有しながら引張強度及び熱伝導性などが向上した、高硬度の鉄-銅合金及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量性、熱伝導性、延性などに優れ、様々な産業分野のいろいろな用途に使用されている。アルミニウム合金は、特に、高い熱伝導性を有し、熱を迅速に冷却させる。これにより、アルミニウム合金は成形品の変形と反りを最小化でき、射出成形やダイキャスト(die casting)用金型素材としても有効に使われている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2などにはダイキャスト用アルミニウム合金に関する技術が開示されている。アルミニウム合金はアルミニウム(A1)をベースとするが、少量のシリコン(Si)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、及びマグネシウム(Mg)などを添加されており、アルミニウム-シリコン-マグネシウム(Al-Si-Mg)型の合金がダイキャスト用金型素材として多く使用されている。
【0004】
しかしながら、アルミニウム合金は硬度(耐摩耗性)及び引張強度などの機械的物性が低い。そこで、近年、熱伝導性が良好で、硬度および引張強度などの機械的物性に優れたベリリウム-銅(Be-Cu)合金が金型素材として脚光を浴びている。例えば、特許文献3~5などには、ベリリウム-銅(Be-Cu)合金に関する技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、ベリリウム-銅合金では、溶融鋳造が難しく、ベリリウム(Be)と銅(Cu)の原料自体の価格も高く、経済性が低いという問題点がある。これにより、ベリリウム-銅合金は高価な高級製品での使用に限定され、汎用性が劣るという問題点もある。
【0006】
一方、鉄-銅(Fe-Cu)合金はベリリウム-銅合金に比べて、溶融鋳造が容易で、経済性においても有利である。例えば、特許文献6などには溶融鋳造法を用いた鉄-銅合金が開示されている。しかしながら、従来の鉄-銅合金はベリリウム-銅合金に比べて機械的物性が低く、特に、硬さと熱伝導性が低く、放熱や冷却が要求される機械部品などでは適用しにくいといった問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】大韓民国特許公開第10-2015-0046014号公報
【特許文献2】大韓民国特許第10-1606525号公報
【特許文献3】日本国特開2003-003246号公報
【特許文献4】大韓民国特許公開第110-2012-0048287号公報
【特許文献5】大韓民国特許公開第10-2015-0053814号公報
【特許文献6】日本国特開平5-331572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ベリリウム-銅(Be-Cu)合金に代わる安価な鉄-銅(Fe-Cu)合金であり、高い硬さを有しながら引張強度及び熱伝導性なども向上した、高硬度の鉄-銅合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、鉄65~85原子%、及び、銅15~35原子%を含み、合金組織に銅によって形成された網目構造を有する鉄-銅合金を提供する。
【0010】
また、本発明は、鉄68~80原子%、及び、銅20~32原子%を含み、合金組織に銅によって形成された網目構造を有し、下記(a)乃至(c)の物性を有する鉄-銅合金を提供する。
【0011】
(a)ロックウェル硬度 30HRC以上
(b)引張強度 700N/mm2以上
(c)熱伝導率 90W/m・K以上
【0012】
また、本発明は、鉄-銅合金に鉄65~85原子%と銅15~35原子%を含むように、溶解炉に鉄と銅を投入、溶解させて溶湯を形成する溶解工程;
前記溶湯を鋳造枠に注入して鋳造物を形成する鋳造工程;
前記鋳造物を常温で自然冷却させる冷却工程;
前記自然冷却された鋳造物を熱処理炉に投入して945℃~980℃の温度で熱処理する熱処理工程;、及び
前記熱処理された鋳造物を熱処理直後に冷却媒体に浸漬して急冷させる急冷工程;
を含み、合金組織に銅によって形成された網目構造を有する鉄-銅合金の製造方法を提供する。
【0013】
1つの実施形態によって、前記熱処理工程は、前記自然冷却された鋳造物を熱処理炉に投入した後、前記熱処理炉内の温度を2℃/分~15℃/分の速度で945℃~980℃に昇温させて行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ベリリウム-銅(Be-Cu)合金を代替可能な安価な鉄-銅(Fe-Cu)合金が提供される。具体的に、本発明によると、鉄(Fe)に適正含量の銅(Cu)が溶融合金された非晶質の合金で、合金組織内に網目構造を含むことによって、従来の鉄-銅(Fe-Cu)合金と比べて少なくとも硬さ、引張強度及び熱伝導性などが向上する効果を有する。また、本発明によると、機械的物性とともに熱伝導性が向上し、金型素材としてはもちろん、冷却用機械部品などとしても使用できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明による網構造を説明するためのFe-Cu合金の切断模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例によって製造されたFe-Cu合金のSEM写真であり、熱処理前の写真である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例によって製造されたFe-Cu合金のSEM写真であり、熱処理及び急冷を行った後の高倍率拡大組織写真である。
【
図4】
図4は、本発明の比較例によって製造されたFe-Cu合金のSEM写真で、熱処理及び急冷を行った後の高倍率拡大組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は鉄(Fe)を主成分とする鉄系合金で、鉄(Fe)と銅(Cu)を適正含有量として含み、合金組織内に形成された網構造を含み、少なくとも機械的物性及び熱的特性が改善された鉄-銅合金を提供する。また、本発明はこのような鉄-銅合金の製造方法を提供する。
【0017】
本発明による鉄-銅合金は、鉄(Fe)と銅(Cu)を含むが、銅(Cu)より鉄(Fe)の含有量が高い鉄系合金として、鉄(Fe)と銅(Cu)の全体基準で、鉄(Fe)65~85原子%(atomic%)と銅15~35原子%を含む。本発明で使用される含量単位「原子%」は、鉄(Fe)と銅(Cu)の原子(atomic)全体を基準(FeとCuの合計100原子%)としたものであり、これはまた、当業界で周知されたように「体積%」で表現できる。すなわち、本発明では、原子%=体積%で表現することができる。
【0018】
本発明による鉄-銅合金は、不可避的なものを除いては、鉄(Fe)と銅(Cu)以外の他の金属元素は含まない。本発明による鉄-銅合金は、不可避な不純物を含むことができる。不可避な不純物は原料自体に含まれるものであり、又は溶解過程等において外部から流入した不可避なものであって、例えばアルミニウム(A1)及びニッケル(Ni)等の金属元素や炭素(C)及び酸素(O)等の非金属元素を含むことができるが、このような不純物は極少量である。不純物は、合金組成全体の基準(Fe+Cu+不純物の和)であり、例えば、0.5原子%以下、0.2原子%以下、0.1原子%以下、0.05原子%以下、または0.01原子%以下の極少量でやむを得ず含まれることがある。
【0019】
本発明による鉄-銅合金は、鉄(Fe)と銅(Cu)が適正含量で造成され、これと共に合金組織内に形成された網目構造によって、少なくとも高い機械的物性及び熱的特性を有する。具体的には、本発明による鉄-銅合金は、従来の鉄-銅合金に比べて高い硬さ、引張強度、熱拡散速度及び熱伝導性などを有し、これはまた偏析やクラック(crack)を含まない。
【0020】
以下、本発明による鉄-銅合金の製造方法を説明しながら、本発明による鉄-銅合金の実施形態を共に説明する。以下で説明される製造方法は、本発明による鉄-銅合金の製造を容易に具現する。しかしながら、本発明による鉄-銅合金は、以下で説明される製造方法によって製造されたものに限定されるものではない。
【0021】
本発明による鉄-銅合金の製造方法(以下、「製造方法」と略称する。)は、溶解炉で鉄-銅溶湯を形成する溶解工程、前記溶湯を鋳造枠に注入して鋳造する鋳造工程、及び、前記鋳造物を常温で自然冷却させる冷却工程を含む。望ましい実施形態によって、本発明による製造方法は、前記自然冷却された鋳造物を熱処理する熱処理工程;、及び、前記熱処理された鋳造物を急冷させる急冷工程をさらに含む。工程ごとの実施形態を説明すると以下の通りである。
【0022】
[1]溶解工程
溶解炉に鉄と銅の合金原料を投入して溶解する。このとき、鉄は高純度の純鉄を使用でき、銅は高純度の電解銅を使用できる。溶解炉は特に制限されず、これは例えば通常のセラミック材の溶解炉を使用することができる。溶解炉は、好ましくは急激な昇温を通じて素早い溶解が可能な高周波誘導熱溶解炉を使用することができる。溶解炉は、鉄と銅が溶解できる温度に保持することが好ましい。例えば、高周波誘導熱を通じて溶解炉を素早く昇温させ、約l520℃~1650℃に保持して鉄と銅を溶解することが好ましい。このような溶解過程では攪拌が進められる。また、鉄と銅を完全に溶解させた後には、溶湯温度を例えば1450℃~1520℃に保持して放置する方法で安定化させることができる。このような安定化により、鉄と銅の均質化が行われ得る。
【0023】
本溶解工程では、最終生成された鉄-銅合金の全体基準で、鉄65~85原子%(または体積%)と銅15~35原子%(または体積%)を含むように、溶解炉に鉄と銅を投入、溶解して溶湯を形成する。具体的には、溶解炉に鉄と銅の総投入量を鉄65~85体積%と銅15~35体積%(すなわち、鉄:銅=65~85:15~35の体積比)とする場合に、前記した合金組成を有するようにできる。このとき、銅の含有量が15原子%未満の場合、網目構造が形成されず、機械的物性及び熱的特性などが微小になり得る。また、銅の含量が15原子%未満の場合、溶融鋳造後、860℃以上で高温熱処理したときに、クラックが発生することもある。そして銅の含量が35原子%を超過する場合、完全な網目構造が形成されにくく、機械的物性が低くなり得る。これにより、本発明の実施形態では、銅の含有量を15~35原子%とする場合、溶融鋳造後に860℃以上の高温熱処理をしてもクラックが発生せず、高い機械的物性及び熱的特性などを有する。
【0024】
本発明の望ましい実施形態によって、溶解工程では最終生成された鉄-銅合金が鉄68~80原子%と銅20~32原子%を含むように、溶解炉に鉄と銅を投入、溶解して溶湯を形成することが好ましい。すなわち、溶解炉に鉄と銅の総投入量を鉄68~80体積%と銅20~32体積%とし、鉄68~80原子%と銅20~32原子%を含む合金組成を有するようにさせることが望ましい。このような合金組成を有する場合、合金組織内に完全な網目構造が形成され、優れた機械的物性及び熱的特性などを有することになる。
【0025】
図1は、本発明によるFe-Cu合金を図示した切断面斜視図で、これは網目構造を説明するための合金組織の模式図である。
図1を参考にすると、本発明の網目構造(10)は銅(Cu)によって形成されたもので、これは合金の表面及び内部に全体的に形成され、立体的な構造を有する。本発明では、「銅(Cu)によって形成されたもの」とは、銅リッチ(Cu-rich)を意味する。本発明によると、網目構造(10)は合金の機械的物性(硬さ及び引張強度など)を改善し、これは特に合金の熱拡散速度を増加させて熱伝導性を顕著に向上させる。
【0026】
図1に示すように、網目構造(10)は合金組織内で線形の銅-リッチ線(Cu-rich wire)(12)が網状に連結されて形成される。網目構造(10)は、例えばケージ(cage)状の立体的網目構造を有し、これは銅(Cu)を主成分とする。具体的に、銅-リッチ線(12)は銅(Cu)を主成分とする。1つの実施形態では、銅-リッチ線(12)は銅(Cu)と鉄(Fe)を含むが、鉄(Fe)より銅(Cu)の含量が多い。銅-リッチ線(12)は、例えば60原子%以上、70原子%以上または80原子%以上の銅(Cu)を含むことができ、残りは鉄(Fe)で構成される。また、銅-リッチ線(12)はマイクロメーター(μm)の太さを有し、これは例えば0.1μm~30μmの太さを有することができる。このような銅-リッチ線(12)は、早い熱拡散のための高速トンネルの役割をし、これは少なくとも合金の熱拡散速度を増加させる。
【0027】
[2]鋳造工程
溶湯を鋳造枠に注入して所定の形状を有する合金鋳造物を形成する。本鋳造工程は通常の工程による。鋳造枠は特に制限されず、これは鋳塊(ingot)及び鋳造片の形状を有するか、場合によっては実際に適用製品(機械部品など)の形状を有することができる。併せて、鋳造枠は通常のように冷却機能を有し得る。
【0028】
[3]冷却工程
鋳造物を常温で自然冷却させる。本冷却工程は、例えば鋳造枠内に収容された状態で鋳造物を常温に放置して行うことができる。本発明で常温は、例えば、5℃~30℃の温度であり、具体的な例として、約15℃~25℃の室温(Room temperature)であり得る。
【0029】
[4]熱処理工程
自然冷却された鋳造物を熱処理する。熱処理は、熱処理炉に自然冷却させた鋳造物を投入した後、熱処理炉内の温度を高温に昇温させ、所定時間高温を維持する方法で行い得る。熱処理は、大気の雰囲気又は不活性(非酸化性)の雰囲気で行われることができる。熱処理炉は、鋳造物に高温の熱を加えることができるものであれば、特に制限されず、これは例えば電熱線が設置された電気炉(加熱炉)などを使用することができる。
【0030】
熱処理は、945℃~980℃の温度で行うことが望ましい。熱処理は、具体的に、自然冷却された鋳造物を熱処理炉に投入した後、熱処理炉内の温度を2℃/分~15℃/分の昇温速度で945℃~980℃の温度に昇温させた後、945℃~980℃を所定時間維持する方法で行い得る。このような温度範囲で熱処理する場合、合金の機械的物性および熱的特性などが改善される。熱処理温度が945℃未満である場合、又、980℃を超過する場合、機械的物性と熱的特性の改善の程度が低下し得る。かかる点を考慮すると、熱処理は950℃~970℃の温度で行うことがより望ましい。また、熱処理は鋳造物の厚さによって適切な時間だけ行うことができ、例えば、鋳造物の厚さ25mmあたり、約30分から90分間行うことが好ましい。一例を挙げると、鋳造物の厚さが50mmの場合、約1時間乃至3時間の間、熱処理を行うことが好ましい。
【0031】
[5]急冷工程
熱処理された鋳造物を急冷させる。急冷は熱処理直後に行い、具体的には、熱処理した後、5分以内に行う。急冷は、熱処理された鋳造物を冷却媒体に焼き入れ(Quenching)する方法で行う。このような急冷を完了すれば、完全な網目構造(10)を有しながら優れた機械的物性と熱的特性などを有する合金が得られる。この時、熱処理された鋳造物を急冷させずに、放冷(徐々に自然冷却)させる場合、網目構造(10)が解消されてしまい、機械的物性と熱的特性が劣化することがある。
【0032】
本発明で、急冷は熱処理直後に冷却媒体に焼き付けるもので、ここで使用される冷却媒体は30℃以下の温度を有する液体から選択できる。冷却媒体は、例えば、水及びオイル(oil)などから選択でき、これらは常温であり得る。
【0033】
以上で説明した本発明の製造方法によれば、偏析やクラックがなく均質な非晶質の鉄-銅合金として、少なくとも機械的物性(硬度および引張強度など)及び熱的特性(熱伝導性など)が向上した鉄-銅合金が製造される。
【0034】
望ましい実施形態によって、本発明による鉄-銅合金は、鉄68~80原子%および銅20~32原子%を含む。このような合金組成を有する場合、硬さ、引張強度及び熱伝導性などの特性が効果的に改善される。また、本発明による鉄-銅合金は、下記(a)から(c)の物性を有することが好ましい。下記(a)から(c)の物性を有する場合、射出成形及びダイキャスティング用などの金型素材としてはもちろん、放熱や冷却が要求される冷却用機械部品などとしても有用に使用できる。
【0035】
(a)ロックウェル硬度 30HRC以上
(b)引張強度 700N/mm2以上
(c)熱伝導率90W/m・K以上
【0036】
ロックウェル硬度、引張強度及び熱伝導率は通常の測定方法に従う。ロックウェル硬度はKSB0806に準じて測定され、引張強度はKSB0801に準じて測定されたものであり得る。そして、熱伝導率は、例えば、ASTME1461(Laser flash: Thru-plane)に準じて常温(20℃~25℃)で測定された値であり得る。本発明による鉄-銅合金は、具体的な例を挙げると、30~48HRCのロックウェル硬度、700~750N/mm2の引張強度、及び、90~120W/m・Kの熱伝導率を有し得る。
【0037】
以下、本発明の実施例および比較例を例示する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるために例示的に提供されるものであり、これにより本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、下記の比較例は従来技術を意味するものではなく、これは単に実施例との比較のために提供される。
【0038】
[実施例1]
<溶解/鋳造/冷却>
溶解炉(高周波誘導熱溶解炉)に鉄(純度約99.9重量%の純鉄)と銅(純度約99.9重量%の電解銅)を初期に1:1の体積比で投入し、攪拌を行いながら溶解炉の電源出力を高めて素早く溶解させた。このとき、溶解過程では、脱酸剤を間欠的に添加し、脱酸させた。肉眼観察により、投入された鉄と銅が完全に溶解したことを確認し、継続的な撹拌を行いながら溶解炉に鉄を少しずつ数回に分けて追加投入し、溶湯温度を約l500℃~l550℃の範囲内に維持し、追加投入された鉄を完全に溶解させた。次に、電源を遮断し、合金組織が安定化するように溶解炉で溶湯を所定時間放置した。以後、溶湯を溶解炉から取り出し鋳造枠に注入した後、常温(約25℃)で徐々に自然冷却させFe-Cu合金インゴット(ingot)を得た。
【0039】
<焼入/急冷>
自然冷却されたインゴット(横×縦×厚さ=約50mm×25mm×25mm)をあらかじめ準備された熱処理炉(電熱線が設置された電気炉)に投入した後、5℃/分の昇温速度で昇温させた。熱処理温度は温度制御器により845℃に設定した。この時、熱処理炉内の温度は約840~850℃の範囲で維持された。上記温度範囲で約1時間、インゴットを熱処理した。熱処理されたインゴットを熱処理直後(熱処理炉から取り出した後1分以内)、約17℃の水(冷却媒体)が入った水槽に浸漬して急冷させた。水槽に十分な時間焼入れをして急冷させた後、インゴットを水槽から取り出すことで、熱処理/急冷工程を完了した本実施例による合金試料が製造された。
【0040】
[実施例2~6]
上記した実施例1と比較して、熱処理時の温度を変えたものを本実施例による合金試験片として使用した。具体的には、実施例1と同じ合金組成のFe-Cu合金インゴットに対して、各実施例によって熱処理時の温度を変化させた。これについては、[表1]に示すとおりである。
【0041】
[実施例7~11]
実施例1と比較して、合成組成のCu含有量と熱処理時の温度を変化させたものを本実施例による合金試験片として使用した。各実施例による具体的なCu含量と熱処理時の温度を[表1]に示した。
【0042】
[比較例1~10]
実施例1と比較して、合成組成のCu含量、熱処理時の温度、熱処理方法及び熱処理後の冷却方法のうち、1つ以上を変化させたものを本比較例による合金試料として使用した。これは[表1]に示すとおりである。[表1]において、比較例8及び比較例9の徐冷は、熱処理されたインゴットを常温(約25℃)で徐々に冷却させて行った自然冷却である。また、[表1]において、比較例10の「焼き入れ(950)」はインゴットを約950℃の温度に保持されたオイル(oil)に1時間浸漬する方法で行った熱処理である。
【0043】
上記したように得られた各実施例及び比較例によるFe-Cu合金試験片について、次のように成分分析、クラック、網目構造及び物性評価を行い、その結果を[表1]に示した。[表1]に示すCu含量は、後述する成分分析により、FeとCu原子の合計100(=Fe+Cu)を基準としたCuのat%(残りはFe)であり、これは極少量の金属元素(FeとCu以外の金属)、C及びOなどの不可避な不純物は考慮されなかった。
【0044】
<成分分析>
重量を測定した合金試料をグラス(glass)材質のビーカーに入れ、王水(塩酸+硫酸水溶液)10mLを加えて溶解した。その上で、下記測定条件による高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)により、FeとCuを定量して試料中の濃度に換算して分析した。
【0045】
* ICP-AESの測定条件
-測定装置:Perkin Elmer Optima 5300DV
-測定波長:238.204nm(Fe)、327.393nm(Cu)
-定量方法: 内部標準法
【0046】
<クラック>
熱処理及び急冷した後の合金試料に対して、高倍率で表面観察し、クラックが発生した場合:「発生」、クラックがない場合:「なし」と評価して[表1]に示した。
【0047】
<網目構造>
熱処理及び急冷した後の合金試験片に対して、SEM(走査電子顕微鏡)観察し、完全な網目構造が観察される場合:”〇”、完全な網目構造と見なしにくく、固まりや切れが観察される場合:“△”、網目構造が観察されない場合:”×”、と評価して[表1]に示した。
【0048】
図2は実施例4によるFe-Cu合金の熱処理前の写真であり、
図3は実施例4によるFe-Cu合金に対して熱処理及び急冷後の高倍率拡大組織写真である。そして、
図4は、比較例7によるFe-Cu合金に対して熱処理及び急冷後の高倍率拡大組織写真である。網目構造の評価について詳しく説明すると、
図3のように完全な網目構造がはっきりと現れ、Cuがほぼ一定の太さで網目構造を形成する場合には“〇”とし、
図4のように完全な網目構造とは見難く、Cuが固まっている部分が観察される場合には“△”とし、網目構造が全く観察されない場合には“×”とした。
【0049】
<物性>
物性は、熱処理及び急冷後の合金試験片について評価した。硬さはKSB0806に準じてロックウェル硬度(Rockwell Hardness)(HRC)で評価し、引張強度はKSB0801に準じて評価した。熱伝導率は金属試料の熱伝導度測定方法として、合金試料の密度、比熱及び熱拡散係数を測定した後、ASTME1461(Laser flash : Thru-plane)に準じて評価した。
【0050】
【0051】
本発明では、合金組成中のFeとCuの含有量、溶融鋳造後の熱処理条件、及び熱処理後の冷却条件等がFe-Cu合金にどのような影響を及ぼすかについて多くの実験を行った。例えば、合金組成の場合にはCu含有量を5~50at%の範囲内で微細に細分して行い、熱処理温度の場合には600℃から10℃ずつ上げながら1100℃まで行った。上記の実施例及び比較例は、本発明の多くの実験例のうちのいくつかを示したものである。
【0052】
本発明の実験的考察によれば、合金組成中のCu含有量、熱処理温度及び熱処理後の冷却方法(急冷又は徐放)によってFe-Cu合金の組織状態、機械的物性及び熱的特性等が異なることが分かった。特に、特定のCu含有量と熱処理条件でCuによって形成された網目構造が観察され、このような網目構造により少なくとも硬さおよび熱伝導性が著しく改善されることが分かった。これについて、[表1]を参照して説明すると以下の通りである。
【0053】
[表1]を参照すると、まずCuの含有量に応じて網目構造の存在可否が分かった。具体的には、Cuの含有量が15at%未満の場合(比較例1~5)には合金組織内に網目構造が現れなかった。また、Cuの含有量が15at%未満の場合、860℃以上の温度で熱処理すると、クラックが発生する(比較例2~5)ことが分かった。これは、Feの組織が細かく分割されずに偏析したためであると判断される。一方、Cuの含有量が35at%を超える場合(比較例6及び比較例7)には網目構造が現れるが、これは完全な網目構造とは見えにくかった。具体的には、
図4(比較例7の合金試験片写真:Cu含有量40.24at%)に示すように、銅-リッチ線(Cu-rich wire)の形態や太さが不均一で完全な網目構造とは見えにくく、これはまた所々にCuとFeの凝集現象が発生した。
【0054】
一方、Cuの含有量が約20~32at%の場合(実施例1~11)、完全な網目構造がはっきりと現れた。また、
図3(実施例4の合金試験片写真:Cu含有量20.12at%)に示すように、網目構造を形成する銅-リッチ線(Cu-rich-wire)がマイクロメートル(μm)としてほぼ一定の太さを有することがわかった。そして[表1]に示すように、硬度及び引張強度はもちろん、熱伝導性が高く評価されることが分かった。
【0055】
また、熱処理温度によって機械的物性及び熱的特性が異なることがわかった。例えば、実施例1~6を対比してみると、全ての同じ条件で約950℃~980℃の温度で熱処理した場合(実施例4及び5)が硬さ、引張強度及び熱伝導性のすべての特性で最も良好な結果が見られることもわかった。特に、硬さと引張強度は、熱処理温度の上昇に比例して継続的に増加しなかった。これらの結果から、熱処理温度は約945℃~980℃が最適であることが分かった。
【0056】
また、熱処理後の冷却にあたっては急冷が好ましいことがわかった。例えば、実施例4(急冷)と比較例9(徐冷)を対比すると、全ての同じ条件で徐冷した場合(比較例9)には網目構造が現れず、機械的物性及び熱的特性が劣ることが分かった。これは、合金組織内の初期に形成された網目構造が徐々に冷却される過程で消えたものと判断される。
【0057】
さらに、熱処理方法によって機械的物性及び熱的特性が異なることも分かった。実施例4(熱処理炉で熱処理)と比較例10(焼入れ炉で熱処理)を対比してみると、全ての同じ条件で焼入れ熱処理を行う場合(比較例10)には完全な網目構造が現れず、硬さ及び熱伝導性が低下することが分かった。
【0058】
以上の結果を総合すると、Cu含有量は約20~32at%(残りはFe)範囲内に組成し、熱処理は熱処理炉(電気炉)で行い、945℃~980℃(好ましくは、950℃~970℃)の温度範囲で熱処理し、熱処理後は急冷(冷却媒体に焼入れ)して冷却させる場合、クラックがなく完全な網目構造を有し、機械的物性及び熱的特性に優れることが分かった。具体的には、機械的物性と熱的特性として、少なくとも30HRC以上のロックウェル硬度、少なくとも700N/mm2以上の引張強度、及び少なくとも90W/m・K以上の熱伝導率を有することが分かった。このような特性を有する本発明の鉄-銅(Fe-Cu)合金は、ベリリウム-銅(Be-Cu)合金の代替と出来ることはもちろん、特に、30HRC以上の高い硬さとともに、90W/m・K以上の高い熱伝導率を有するため、冷却用機械部品などとしても有用に使用することができる。
【国際調査報告】