(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-06
(54)【発明の名称】純粋な無機構造層により焦げ付き防止効果を実現する調理器具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20241129BHJP
A47J 36/02 20060101ALI20241129BHJP
A47J 36/04 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
A47J27/00 101B
A47J36/02 B
A47J36/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522395
(86)(22)【出願日】2023-06-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 CN2023099824
(87)【国際公開番号】W WO2024098743
(87)【国際公開日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】202211398575.4
(32)【優先日】2022-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202222978121.6
(32)【優先日】2022-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521120838
【氏名又は名称】浙江三禾厨具有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG SANHE KITCHENWARE CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Farm Field, Longshan Town, Cixi City, Zhejiang, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】方 成
(72)【発明者】
【氏名】程 強
【テーマコード(参考)】
4B055
【Fターム(参考)】
4B055AA01
4B055BA69
4B055CA02
4B055FA02
4B055FB01
4B055FB12
4B055FB23
4B055FB32
4B055FC09
4B055FC20
4B055FD10
(57)【要約】
本発明は、純粋な無機構造層により焦げ付き防止効果を実現する調理器具及びその製造方法に関する。前記調理器具は、基材層と、純粋な無機構造層とを含み、前記基材層の内面に無機粒子をスプレーして前記純粋な無機構造層を形成し、前記純粋な無機構造層の無機粒子間には、連通する空隙構造が形成され、純粋な無機構造層は、少なくとも3つのサブ無機構造層を含み、少なくとも3つのサブ無機構造層は、無機粒子の粒径サイズに応じて順に前記基材層の内面に積層され、ここで、前記基材層に隣接するサブ無機構造層の無機粒子の粒径が最も大きく、前記基材層から遠ざかる方向に、複数のサブ無機構造層の無機粒子の粒径が順に小さくなり、これによって、前記複数のサブ無機構造層における空隙は、前記基材層から遠ざかる方向に沿って順に小さくなる。本発明の調理器具の純粋な無機構造層は、結合強度及び靭性が高く、表面硬度が高く、傷が付きにくく、耐摩耗性があり、表面に油を吸収し、貯油と自己潤滑の機能があり、加熱後、空隙が細孔の加熱呼吸を行うことができ、焦げ付き防止、洗浄し易いという効果が達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純粋な無機構造層により焦げ付き防止効果を実現する調理器具であって、
前記調理器具は、基材層(1)と、純粋な無機構造層(2)とを含み、前記基材層(1)の内面に無機粒子をスプレーして前記純粋な無機構造層(2)を形成し、前記純粋な無機構造層(2)の無機粒子間には、連通する空隙構造が形成され、
前記純粋な無機構造層(2)は、少なくとも3つのサブ無機構造層を含み、前記少なくとも3つのサブ無機構造層は、無機粒子の粒径サイズに応じて順に前記基材層(1)の内面に積層され、ここで、前記基材層(1)に隣接するサブ無機構造層の無機粒子の粒径が最も大きく、前記基材層(1)から遠ざかる方向に、複数のサブ無機構造層の無機粒子の粒径が順に小さくなり、これによって、前記複数のサブ無機構造層における空隙は、前記基材層(1)から遠ざかる方向に沿って順に小さくなることを特徴とする、調理器具。
【請求項2】
前記無機粒子の粒径は100nm-60μmであり、前記基材層(1)の内面に無機粒子をプラズマスプレー、超音速スプレー、コールドスプレー、レーザークラッディング又はエアレススプレーし、前記純粋な無機構造層(2)の厚さは61-130μmであることを特徴とする、請求項1に記載の調理器具。
【請求項3】
無機粒子材料は、金属粒子、セラミック粒子又は炭素粉末であり、金属粒子は、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ステンレス鋼、低炭素鋼、高炭素鋼及び亜鉛のうちの1種又は複数種であり、セラミック粒子は、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、四三酸化鉄、三二酸化鉄、窒化ホウ素、酸化カルシウム、酸化ケイ素及び窒化ケイ素のうちの1種又は複数種であり、炭素粉末は、天然黒鉛、多結晶黒鉛、熱分解黒鉛、高配向熱分解黒鉛及びカーボン量子ドットのうちの1種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載の調理器具。
【請求項4】
前記3つのサブ無機構造層は、貯油層(21)、徐放性硬化層(22)及び分散表面層(23)であり、前記貯油層(21)、徐放性硬化層(22)及び分散表面層(23)は、前記基材層(1)から遠ざかる方向に順に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の調理器具。
【請求項5】
前記貯油層(21)、徐放性硬化層(22)及び分散表面層(23)は、順に積層されることを特徴とする、請求項4に記載の調理器具。
【請求項6】
前記貯油層(21)の無機粒子の粒径は15-60μmであり、前記貯油層(21)の層厚さは40-70μmであり、空隙率は15-25%であり、前記徐放性硬化層(22)の無機粒子の粒径は1-15μmであり、前記徐放性硬化層(22)の層厚さは20-40μmであり、空隙率は5-15%であり、前記分散表面層(23)の無機粒子の粒径は100nm-1μmであり、前記分散表面層(23)の層厚さは1-20μmであることを特徴とする、請求項5に記載の調理器具。
【請求項7】
前記貯油層(21)におけるセラミック粒子の重量比は70%以上であり、前記徐放性硬化層(22)における金属粒子の重量比は60%以上であり、前記分散表面層(23)における炭素粉末の重量比は50%以上であることを特徴とする、請求項5に記載の調理器具。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の調理器具の製造方法であって、
金属基材を延伸又はダイカスト方法により成形し、その後、バリを除去し、表面研磨及び洗浄処理を行い、厚さが1mm以上の基材層(1)を形成するステップと、
コールドスプレー、プラズマスプレー、超音速スプレー、レーザークラッディング又はエアレススプレーにより無機粒子を基材層(1)の内面にスプレーして純粋な無機構造層(2)を形成するステップと、
を含む、ことを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッチン用品の技術分野に属し、具体的には、焦げ付き防止層を有する調理器具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焦げ付き防止調理器具、特に焦げ付き防止鍋は、現在市販されている調理器具の主流製品であり、主に鍋基材の表面に一層の焦げ付き防止材料を形成することにより実現されている。
【0003】
従来技術では、一般的な非粘着材料の主成分は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素系有機化合物であり、フッ素系有機化合物の非濡れ性を利用して調理器具に焦げ付き防止の機能を持たせることができる。しかしながら、フッ素系有機化合物は、高温条件(例えば、ポリテトラフルオロエチレンは250℃を超える温度)で分解することにより、フッ素系有機化合物コーティングが損傷し、調理器具の焦げ付き防止機能を失うとともに、フッ素系有機化合物コーティングの分解後に有毒物質が発生し、人体の健康を損なうおそれがある。
【0004】
もう一つの非粘着性材料の主成分はシリカゾル樹脂であり、フッ素系有機化合物材料と同様に、それらの非粘着性は優れているが、材料自体の特性により、耐熱性、硬度、耐久性及び環境保護の安全性などの面で極めて制限があり、市場及び消費者の要求を完全には満たすことができない。
【0005】
また、セラミックとエナメルを非粘着材料として使用して焦げ付き防止調理器具を製造することも提案されている。セラミックとエナメルは、外観が良く、超耐熱性で、硬度が高く、耐久性及び環境保護などの特性を有するが、材料自体は焦げ付き防止の特性は何も有しておらず、油が付着している状態でも油が付着していない状態でも、焦げ付き防止効果が低い。従って、一般的にスープ鍋やシチューポットなどの製品に使用されており、大量に普及させることができない。
【0006】
現在、調理器具の内面に多数の微細な溝又は毛細孔が形成された焦げ付き防止構造が市場に出始め、調理時に食材と調理器具の内面との接触面積を減少させるとともに、調理器具の内面の溝及び毛細孔に油脂を吸着することができ、加熱調理時に、溝及び毛細孔中の油脂が膨張して溝及び毛細孔から放出され、調理器具の底部に一層の油膜が形成されることにより、「焦げ付き防止」の効果が生じ、加熱停止後、食用油が冷却されて調理器具の内面の溝及び毛細孔に貯蔵される。したがって、上記構造の調理器具は長期間にわたって一定の機能を維持することができるが、このような小さな溝又は毛細孔の構造は調理器具の焦げ付き防止性に大きな影響を与え、良好な焦げ付き防止効果を実現するために特定の構造が必要であるため、製造プロセス等に対する要求が高い。
【発明の概要】
【0007】
上記の問題を解決するために、本発明は、純粋な無機構造層により焦げ付き防止効果を実現する調理器具及びその製造方法を提供する。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記調理器具は、基材層と、純粋な無機構造層とを含み、前記基材層の内面に無機粒子をスプレーして前記純粋な無機構造層を形成し、前記純粋な無機構造層の無機粒子間には、連通する空隙構造が形成され、前記基材層の内面にスプレーされる無機粒子は有機溶媒が添加されていない純粋な無機粒子であり、
前記純粋な無機構造層は、少なくとも3つのサブ無機構造層を含み、前記少なくとも3つのサブ無機構造層は、無機粒子の粒径サイズに応じて順に前記基材層の内面に積層され、ここで、前記基材層に隣接するサブ無機構造層の無機粒子の粒径が最も大きく、前記基材層から遠ざかる方向に、複数のサブ無機構造層の無機粒子の粒径が順に小さくなり、これによって、前記複数のサブ無機構造層における空隙は、前記基材層から遠ざかる方向に沿って順に小さくなる。
【0009】
一実施例では、前記無機粒子の粒径は100nm-60μmであり、前記基材層の内面に無機粒子をプラズマスプレー、超音速スプレー、コールドスプレー、レーザークラッディング又はエアレススプレーし、前記純粋な無機構造層の厚さは61-130μmである。
【0010】
一実施例では、無機粒子材料は、金属粒子、セラミック粒子又は炭素粉末であり、金属粒子は、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ステンレス鋼、低炭素鋼、高炭素鋼及び亜鉛のうちの1種又は複数種であり、セラミック粒子は、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、四三酸化鉄、三二酸化鉄、窒化ホウ素、酸化カルシウム、酸化ケイ素及び窒化ケイ素のうちの1種又は複数種であり、炭素粉末は、天然黒鉛、多結晶黒鉛、熱分解黒鉛、高配向熱分解黒鉛及びカーボン量子ドットのうちの1種又は複数種である。
【0011】
一実施例では、前記3つのサブ無機構造層は、貯油層、徐放性硬化層及び分散表面層であり、前記貯油層、徐放性硬化層及び分散表面層は、前記基材層から遠ざかる方向に順に配置される。
【0012】
一実施例では、前記貯油層、徐放性硬化層及び分散表面層は、順に積層される。
【0013】
一実施例では、前記貯油層の無機粒子の粒径は15-60μmであり、前記貯油層の層厚さは40-70μmであり、空隙率は15-25%であり、前記徐放性硬化層の無機粒子の粒径は1-15μmであり、前記徐放性硬化層の層厚さは20-40μmであり、空隙率は5-15%であり、前記分散表面層の無機粒子の粒径は100nm-1μmであり、前記分散表面層の層厚さは1-20μmである。
【0014】
一実施例では、前記貯油層におけるセラミック粒子の重量比は70%以上であり、前記徐放性硬化層における金属粒子の重量比は60%以上であり、前記分散表面層における炭素粉末の重量比は50%以上である。
【0015】
本発明の別の態様によれば、前記調理器具の製造方法は、
金属基材を延伸又はダイカスト方法により成形し、その後、バリを除去し、表面研磨及び洗浄処理を行い、厚さが1mm以上の基材層を形成するステップと、
コールドスプレー、プラズマスプレー、超音速スプレー、レーザークラッディング又はエアレススプレーにより無機粒子を基材層の内面にスプレーして純粋な無機構造層を形成するステップと、
を含む。
【0016】
本発明の有益な効果
本発明の純粋な無機構造層を有する調理器具において、純粋な無機構造層は、少なくとも3つのサブ無機構造層を含み、前記少なくとも3つのサブ無機構造層は、無機粒子の粒径サイズに従って順に前記基材層の内面に積層され、前記基材層から遠ざかる方向に、複数のサブ無機構造層の無機粒子の粒径が順に小さくなり、これによって、前記複数のサブ無機構造層における空隙構造が前記基材層から遠ざかる方向に沿って順に小さくなり、純粋な無機構造層の結合強度及び靭性が高く、表面硬度が高く、傷が付きにくく、耐摩耗性があり、鍋に油がある場合、表面に油を吸収し、貯油と自己潤滑の機能があり、加熱後、空隙が細孔の加熱呼吸を行うことができ、焦げ付き防止、洗浄し易いという効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例で提案される純粋な無機構造層を有する調理器具の容器壁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の目的、技術的解決手段及び利点をより明確にするために、以下、具体的な実施例及び図面を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。当業者であれば、本発明が図面及び以下の実施例に限定されないことを理解することができる。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「含む」及びその各種の変形は、開放的な用語として理解してもよく、「含むがこれに限定されない」ことを意味する。用語「に基づく」及びその類似表現は、「少なくとも・・・に基づく」と理解されてもよい。用語「第1」、「第2」、「第3」などの表現は、異なる特徴を区別するためのものに過ぎず、実質的な意味はない。用語「左」、「右」、「中間」及びそれらの類似表現は、相対的な物体間の位置関係を示すためのものに過ぎない。
【0020】
本発明の一実施例によれば、純粋な無機構造層により焦げ付き防止効果を実現する調理器具が提供される。前記調理器具は、基材層1と、純粋な無機構造層2とを含む。前記基材層1の内面に無機粒子をスプレーして前記純粋な無機構造層2を形成する。前記純粋な無機構造層2の無機粒子間には、連通する空隙構造が形成される。前記基材層の内面にスプレーされる無機粒子は、有機溶媒が添加されていない純粋な無機粒子である。前記純粋な無機構造層2は、少なくとも3つのサブ無機構造層を含む。前記少なくとも3つのサブ無機構造層は、無機粒子の粒径サイズに従って順に前記基材層1の内面に積層される。前記基材層1に隣接するサブ無機構造層の無機粒子の粒径が最も大きく、前記基材層1から遠ざかる方向に、複数のサブ無機構造層の無機粒子の粒径が順に小さくなり、これによって、前記複数のサブ無機構造層における空隙は、前記基材層1から遠ざかる方向に沿って順に小さくなる。
【0021】
具体的には、
図1は、調理器具の容器壁の断面図を示す。
図1の調理器具は、使用条件及び効果に応じて、フライパンであることが好ましい。前記調理器具は、基材層1と、純粋な無機構造層2とを含む。
【0022】
前記基材層1は、調理器具の基体であり、通常、アルミニウム合金、ステンレス鋼又は鉄などの金属材料から作製され、その厚さは通常1mm以上である。
【0023】
本発明の実施例に係る純粋な無機構造層2は、基材層1の内面に無機粒子材料をスプレーすることにより形成される。無機粒子の粒径は100nm-60μmである。前記スプレーは、プラズマスプレー、超音速スプレー、コールドスプレー、レーザークラッディング技術及びエアレススプレーなどにより実現することができる。前記純粋な無機構造層2の厚さは61-130μmである。
【0024】
無機粒子材料は、金属粒子、セラミック粒子又は炭素粉末であってもよい。金属粒子は、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ステンレス鋼、低炭素鋼、高炭素鋼及び亜鉛のうちの1種又は複数種であってもよい。セラミック粒子は、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、四三酸化鉄、三二酸化鉄、窒化ホウ素、酸化カルシウム、酸化ケイ素及び窒化ケイ素のうちの1種又は複数種であってもよい。炭素粉末は、天然黒鉛、多結晶黒鉛、熱分解黒鉛、高配向熱分解黒鉛及びカーボン量子ドットのうちの1種又は複数種であってもよい。スプレープロセスを使用するため、純粋な無機構造層2の無機粒子は互いに密着することがなく、無機粒子間には空隙構造が形成される。
【0025】
前記純粋な無機構造層2は、無機粒子の粒径サイズに従って順に積層される少なくとも3つのサブ無機構造層を含む。前記基材層1に隣接するサブ無機構造層の無機粒子の粒径は最も大きい。前記基材層1から遠ざかる方向に、複数のサブ無機構造層の無機粒子の粒径は順に小さくなる。
【0026】
本実施例では、前記3つのサブ無機構造層は、順に積層される貯油層21、徐放性硬化層22及び分散表面層23である。前記貯油層21の無機粒子の粒径は15-60μmである。無機粒子は、前記金属粒子、セラミック粒子又は炭素粉末のうちの1種又は複数種であってもよい。前記貯油層21の層厚さは40-70μmであり、空隙率は15-25%である。前記徐放性硬化層22の無機粒子の粒径は1-15μmである。無機粒子は、前記金属粒子、セラミック粒子又は炭素粉末のうちの1種又は複数種であってもよい。前記徐放性硬化層22の層厚さは20-40μmであり、空隙率は5-15%である。前記分散表面層23の無機粒子の粒径は100nm-1μmである。無機粒子は、前記金属粒子、セラミック粒子又は炭素粉末のうちの1種又は複数種であってもよい。前記分散表面層23の層厚さは1-20μmである。本発明における「分散」面層とは、無機粒子が徐放性硬化層22を完全に被覆することではないことを指す。例えば、無機粒子が独立した粒子として徐放性硬化層22を均等に分散して被覆し、及び/又は、徐放性硬化層22上に、亀裂状に均一に分布する複数の面層のサブ領域を形成することによって分散表面層23が徐放性硬化層22を閉塞することがなく、分散表面層23の表面が凹凸の艶消し状態となる。
【0027】
前記3つのサブ無機構造層、即ち、貯油層21、徐放性硬化層22及び分散表面層23において、無機粒子の粒径は、貯油層21、徐放性硬化層22、分散表面層23の順に大きいため、無機粒子間に形成される空隙も、貯油層21、徐放性硬化層22、分散表面層23の順に大きい。
【0028】
また、本実施例では、前記分散表面層23の無機粒子の粒径は100nm-1μmであり、貯油層21の無機粒子の粒径(15-60μm)及び徐放性硬化層22の無機粒子の粒径(1-15μm)よりも遥かに小さいため、貯油層21中の空隙は比較的大きく、油脂の貯蔵に使用される。分散表面層23中の空隙は非常に小さくかつ比較的密集で均一であるため、分散表面層23の硬度を向上できるとともに、油脂の均一な浸入又は析出に便利できる。また、貯油層21と分散表面層23との間に無機粒子の粒径が中間的な徐放性硬化層22が設けられる。この層は、遷移層であり、塗層を硬化する作用を有し、貯油層21と分散表面層23を効果的に接着させ、純粋な無機構造層2の結合強度及び靭性を向上させ、貯油を補助する役割を果たすとともに、調理器具が加熱され始めると、調理器具の温度が高くなるにつれて、油脂とガスが混合した油気は、分散表面層23から析出する前に、徐放性硬化層22を満たす必要があり、調理器具の底部から析出した油脂の量によって調理器具の加熱程度を推定することができる。
【0029】
好ましくは、前記貯油層21の主要成分は、セラミック粒子であり、セラミック粒子の重量比は70%以上である。前記徐放性硬化層22の主要成分は、金属粒子であり、金属粒子の重量比は60%以上である。前記分散表面層23の主要成分は、炭素粉末であり、炭素粉末の重量比は50%以上である。これによって、下層は、貯油層として、主にセラミック粒子からなるセラミック層であり、この層は、主に構造が安定し、強度が高く、硬度が高い多孔質層である。第2層は、徐放層として、主に金属粒子からなる複合金属層であり、この層は、低層となるセラミック層の靭性を改善し、空隙構造を最適化し、空隙密度を向上させ、孔径を低減させ、貯蔵油の安定性を向上させるとともに、表面に比較的高い金属質感を与える。第3層は、主に炭素粉末類物質からなる面層であり、これによって、自己潤滑機能層が得られ、自己潤滑効果を有し、分散表面層23の表面摩擦係数が小さく、油が存在する場合、動摩擦係数が小さくなり、純粋な無機構造層2の表面の清掃が容易になり、物理的な焦げ付き防止性が高い。
【0030】
材料の堆積により、純粋な無機構造層2は、貯油可能であるとともに空隙がある立体構造を有し、純粋な無機構造層2の表面に凹凸構造が形成され、凹凸構造により、食材の一部が浮上し、食材及び表面の空隙内において熱を受けた油脂がやや沸騰して大量の熱いガスが発生することで食材がさらに押し上げられ、食材と表面の分離が実現され、ある程度の物理的な焦げ付き防止効果が達成される。
【0031】
以下、焦げ付き防止フライパンを例として本発明を説明する。
【0032】
調理プロセス中、焦げ付き防止フライパンを加熱すると、純粋な無機構造層2中の空隙/細孔が熱によって膨張することにより、油脂に対する非常に強い吸着力を有する。焦げ付き防止フライパンに油を入れた後、油は完全に湿潤して細孔を満たす。引き続き加熱すると、空隙中の油脂はやや沸騰して熱いガスが発生することにより、調理プロセス中、わずかに沸騰した油脂及び熱いガスが食材と純粋な無機構造層2との間に位置し、食材を押し上げることで、食材と純粋な無機構造層2の分離が実現される。調理終了後、油脂が食材に奪われるとともに焦げ付き防止フライパンの温度が低下するにつれて、純粋な無機構造層2の空隙中の油脂の温度が低下し、体積が収縮し、油脂が残留し、焦げ付き防止フライパンの表面を洗浄しても、塗層2の空隙、特に貯油層21の空隙にもある程度の油脂が保持され、再度加熱すると、油脂が空隙から析出することで鍋底の油濡れ状態が保持される。したがって、本実施例の焦げ付き防止フライパンの動作原理は、下記の通りである。即ち、焦げ付き防止フライパンを継続的に加熱すると、純粋な無機構造層2の空隙中の油脂が継続的に沸騰状態を保持し、大量の熱いガスを発生することにより、調理された食材は部分的に浮上するように焦げ付き防止フライパンの底部に押し上げられ、これによって、「焦げ付き防止」という技術的効果が実現される。なお、本実施例の焦げ付き防止フライパンについては、調理後に熱湯で煮沸して洗浄することにより、細孔に残っている油脂が置換され、焦げ付き防止フライパンを徹底的に清潔に洗浄することができる。
【0033】
本実施例では、順に積層される3つのサブ無機構造層しか示されていないが、当業者であれば、純粋な無機構造層2の結合強度及び靭性をさらに向上させるために、貯油層21と分散表面層23との間に異なる無機粒子粒径を有する1つ又は複数の徐放性硬化層を含んでもよく、本発明の保護範囲に含まれることを理解することができる。
【0034】
本発明の別の実施例によれば、下記のステップS1及びS2を含む前記調理器具の製造方法が提供される。
S1:基材層の成形
アルミニウム合金、ステンレス鋼又は鉄などの金属基材を延伸又はダイカスト方法により成形し、その後、バリを除去し、表面研磨及び洗浄処理を行い、厚さが1mm以上の基材層1を形成する。
S2:前記基材層1にスプレーを行って純粋な無機構造層2を形成する。
【0035】
コールドスプレー、プラズマスプレー、超音速スプレー、レーザークラッディング又はエアレススプレーにより無機粒子を基材層1の内側の表面に塗布し、純粋な無機構造層2を形成する。なお、ここでいうレーザークラッディングは、ホットスプレーに属する1種である。
【0036】
本発明の好ましい実施例では、基材を80-120℃に予熱し、プラズマスプレー又は超音速スプレーにより前記主要成分がセラミック粒子(70%重量以上)の無機粒子を基材層1の内側の表面にスプレーして貯油層21を形成する。好ましくは、プラズマスプレーを例に挙げると、電圧55-65V、電流500-600Aの条件下で無機粒子の供給量を4-8mg/sに調整し、流量4-8L/mの水素ガスにより基材層1の内側の表面に無機粒子をスプレー距離10-15mmでスプレーして塗層厚さが40-70μmで、空隙率が15-25%である貯油層21を形成する。30cmのフライパンについては、50-90sスプレーする必要がある。この層は、ベース塗層として純粋な無機構造層2の硬度と強度を保証し、厚さが40-70μmのベース空隙層を構築する。
【0037】
続いて、コールドスプレープロセス及び超音速スプレープロセスにより前記の主要成分が金属粒子(60%重量以上)の無機粒子を貯油層21の外面にスプレーして徐放性硬化層22を形成する。好ましくは、コールドスプレーを例に挙げると、温度200-400℃の窒素ガスを噴射ガスとし、噴射圧力を2.0-3.5MPaに制御し、ガス流速を500-900m/sに制御し、金属粒子粉末を噴射ガスの軸方向に沿ってガス中に送り込み、気固二相流を形成し、貯油層21の外面から10-25mmの位置でスプレーを行い、スプレーの厚さが2-40μmで、空隙率が5-15%である徐放性硬化層22を形成する。30cmのフライパンについては、30-60sスプレーする必要がある。スプレー過程において、貯油層21に対して適切な穴埋め、二次堆積及び表面改良を行うことによって、微細なマイクロナノ形態が形成され、空隙がますます微細になる。
【0038】
最後に、レーザークラッディング又はスプレープロセスにより前記主要成分が炭素粉末(50%重量以上)である無機粒子を徐放性硬化層22の外面にスプレーして分散表面層23を形成する。好ましくは、スプレープロセスを例に挙げると、0.4-0.6MPaの圧力で、徐放性硬化層22の外面から10-25mm離れた位置で炭素粉末樹脂をスプレーし、その後、330℃の温度で8-12分間の焼結硬化を行い、徐放性硬化層22の表面に厚さが1-20μmであるとともに自己潤滑機能を有する分散表面層23を形成し、分散表面層23の表面は凹凸の艶消し状態となる。
【0039】
本発明の実施例に係る焦げ付き防止フライパンは、前記製造方法により製造される。ここで、基材層の材質は、ステンレス鋼であり、基材層の厚さは1.2mmである。純粋な無機構造層は、3つのサブ無機構造層、即ち、貯油層21、徐放性硬化層22及び分散表面層23から構成される。貯油層21は、72%重量のセラミック粒子を含み、無機粒子の粒径は35μm、層厚さは60μm、空隙率は20%である。徐放性硬化層22は、64%重量の金属粒子を含み、無機粒子の粒径は10μm、層厚さは30μm、空隙率は15%である。分散表面層23は、50%重量の炭素粉末を含み、無機粒子の粒径は300nm、層厚さは5μmである。
【0040】
物理指標の検出
一、硬度:鉛筆硬度は9H以上に達し、ステーキナイフで擦っても傷が付かず、シャベル及びスチールウールでも傷つかなかった。
二、超耐熱性:500℃のオーブンに入れ、1時間連続加熱しても、表面に割れや変色がなく、重量減少などの現象は発生しなかった。
三、冷熱衝撃:ワークを400℃に加熱した後、20℃の水に入れ、衝撃を50回連続的に加えた後、表面に割れ、変色などの変化がないことを観察した。
四、焦げ付き防止性の試験方法
1、目玉焼き
標準方法に従ってシーズニングした後、清潔に洗浄した。鍋を150℃に加熱し、オイルスプレーで3回(油量は約5g)スプレーし、160℃に加熱して卵を入れると、焦げ付きが防止されることを観察した。油はもう使わず、卵を引続き焼いた。本製品は、油を足さないでかつ連続加熱条件下で焦げ付かずに6個の卵を連続して焼くことができた。
2、豚の細切り炒め(2つの方法)
熱いフライパン・冷たい油:鍋を200℃に加熱して油を入れ、油を入れたら直ちに味漬けした豚の細切りを入れて炒めた後、焦げ付きがないことを観察した。
熱いフライパン・熱い油:鍋を200℃に加熱して油を入れ、油から少し煙が出るまで加熱した後、味漬けした豚の細切りを入れて炒めた後、焦げ付きがないことを観察した。
【0041】
本明細書の説明において、「一実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体的な例」、又は「いくつかの例」などの用語を参照した説明は、当該実施例又は例を参照して説明された具体的な特徴、構造、材料又は特徴が本発明の少なくとも1つの実施例又は例に含まれることを意味する。本明細書において、上記用語の模式的な表現は、必ずしも同じ実施例又は例を指すものではない。また、説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性は、任意の1つ又は複数の実施例又は例示において適切な方式で組み合わせることができる。
【0042】
以上、本発明の実施例を説明した。しかし、本発明は、上記の実施形態に限定されない。本発明の思想及び原則内において行われる任意の修正、同等置換、改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである
【国際調査報告】