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特表2024-545404動物において健康上の効果を提供するためのアミノ酸ブレンドを使用する組成物及び方法
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  • 特表-動物において健康上の効果を提供するためのアミノ酸ブレンドを使用する組成物及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-06
(54)【発明の名称】動物において健康上の効果を提供するためのアミノ酸ブレンドを使用する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/142 20160101AFI20241129BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 5/50 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241129BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20241129BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241129BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241129BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20241129BHJP
   A23K 50/40 20160101ALI20241129BHJP
【FI】
A23K20/142
A61K31/198
A61P3/04
A61P25/04
A61P3/00 171
A61P9/00
A61P11/00
A61P25/22
A61P25/28
A61P29/00
A61P25/18
A61P27/02
A61P13/12
A61P19/00
A61P3/06
A61P9/12
A61P5/50
A61P31/12
A61P35/00
A61P9/10
A61K47/24
A61K47/42
A61K47/26
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P21/00
A23L33/175
A23K50/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529377
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 IB2022061549
(87)【国際公開番号】W WO2023100077
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】63/285,212
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】リー, チンホン
(72)【発明者】
【氏名】パン, ユアンロン
(72)【発明者】
【氏名】スタイナー, パスカル
(72)【発明者】
【氏名】カラス, ソニア
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B018
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
2B005AA00
2B150AA06
2B150AB03
2B150AB10
2B150CC13
2B150DA43
2B150DC13
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018MD19
4B018MD20
4B018ME01
4B018ME03
4B018ME14
4B018MF14
4C076AA36
4C076BB01
4C076BB36
4C076DD63
4C076DD66
4C076EE41
4C076EE43
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206ZA02
4C206ZA08
4C206ZA12
4C206ZA18
4C206ZA23
4C206ZA36
4C206ZA42
4C206ZA59
4C206ZA81
4C206ZA94
4C206ZA96
4C206ZB11
4C206ZB26
4C206ZB33
4C206ZC21
4C206ZC33
4C206ZC35
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
動物に健康上の効果を提供するためのアミノ酸の相乗的ブレンドに関する組成物及び方法が本明細書に開示される。ブレンドは、グリシンと、メチオニンと、システインと、グルタミンとの相乗的組み合わせを含むことができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物に健康上の効果を提供するためのアミノ酸の相乗的ブレンドを含む組成物であって、前記ブレンドが、グリシンと、メチオニンと、システインと、グルタミンとの組み合わせを含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、ストレス、肥満、代謝速度の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、糖尿病合併症、心血管疾患、高脂血症、呼吸器疾患、疼痛症候群、神経変性疾患、認知障害、ストレス誘発性又はストレス関連認知機能不全、気分障害、不安障害、加齢性神経細胞死又は機能不全、筋骨格障害、サルコペニア、フレイル、プレフレイル、慢性腎疾患、腎疾患、黄斑変性症、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される疾患又は状態を治療する又は予防する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、老化の悪影響、筋肉量減少、前糖尿病、妊娠糖尿病、I型糖尿病、II型糖尿病、糖尿病合併症、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、脂質異常症、コレステロール値の上昇、トリグリセリド値の上昇、脂肪酸値の上昇、脂肪性肝疾患、筋骨格疾患、呼吸器疾患、疼痛症候群、神経変性疾患、認知機能障害、スタチン誘発性ミオパチーなどのミオパチー、非アルコール性脂肪性肝炎、耳鳴、めまい、アルコールによる二日酔い、難聴、骨粗鬆症、高血圧、アテローム性動脈硬化症/冠動脈疾患、ストレス後の心筋損傷、外傷性脳損傷、嚢胞性線維症、炎症、がん、及びHIV感染からなる群から選択される疾患又は状態を治療する又は予防する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記グリシンが、L-グリシン、L-グリシンエチルエステル、D-アリルグリシン、N-[ビス(メチルチオ)メチレン]グリシンメチルエステル、Boc-アリル-Gly-OH(ジシクロヘキシルアンモニウム)塩、Boc-D-Chg-OH、Boc-Chg-OH、(R)-N-Boc-(2’-クロロフェニル)グリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、(R)-N-Boc-4-フルオロフェニルグリシン、Boc-D-プロパルギルグリシン、Boc-(S)-3-チエニルグリシン、Boc-(R)-3-チエニルグリシン、D-a-シクロヘキシルグリシン、L-a-シクロプロピルグリシン、N-(2-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、N-(4-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、Fmoc-N-(2,4-ジメトキシベンジル)-Gly-OH、N-(2-フロイル)グリシン、L-a-ネオペンチルグリシン、D-プロパルギルグリシン、サルコシン、Z-a-ホスホノグリシントリメチルエステル、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記動物がネコであり、前記グリシンが給餌時に約1重量%~約15重量%の量で存在する、又は前記動物がイヌであり、前記グリシンが給餌時に約0.5重量%~約15重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記動物がネコであり、前記メチオニンが給餌時に約0.2重量%~約1.5重量%の量で存在する、又は前記動物がイヌであり、前記メチオニンが給餌時に約0.33重量%~約5重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記動物がネコであり、前記システインが給餌時に約0.2重量%~約10重量%の量で存在する、又は前記動物がイヌであり、前記システインが給餌時に約0.1重量%~約10重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記動物がネコであり、前記グルタミンが給餌時に約2重量%~約30重量%の量で存在する、又は前記動物がイヌであり、前記グルタミンが給餌時に約1重量%~約30重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
脂肪、タンパク質、炭水化物、及び繊維を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記タンパク質が、コラーゲン、ホエイ、又はこれらの混合物を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、ペットフード製品、サプリメント及びトリートからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
動物に健康上の効果を提供する方法であって、アミノ酸の相乗的ブレンドを前記動物に投与する工程を含み、前記ブレンドが、グリシンと、メチオニンと、システインと、グルタミンとの組み合わせを含む、方法。
【請求項13】
前記投与が定期的であり、前記動物がコンパニオンアニマルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ブレンドが、体重(bw)1kg当たり約125mg~約1.5gのグリシン、体重1kg当たり約25mg~約1gのシステイン、体重1kg当たり約250mg~約5gのグルタミン(及び/又はグルタメート)、及び体重1kg当たり約25mg~約500mgのメチオニンの1日用量を提供するようにネコに投与され得る;又は、前記ブレンドが、体重(bw)1kg当たり約70mg~約2.25gのグリシン、体重1kg当たり約14mg~約1.5gのシステイン、体重1kg当たり約140mg~約4.5gのグルタミン(及び/又はグルタメート)、及び体重1kg当たり約46mg~約750mgのメチオニンの1日用量を提供するようにイヌに投与され得る、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
組成物が、ストレス、肥満、代謝速度の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、糖尿病合併症、心血管疾患、高脂血症、呼吸器疾患、疼痛症候群、神経変性疾患、認知障害、ストレス誘導性又はストレス関連認知機能障害、気分障害、不安障害、加齢性神経細胞死又は機能不全、筋骨格障害、サルコペニア、フレイル、プレフレイル、慢性腎疾患、腎疾患、黄斑変性症、老化の悪影響、筋肉量減少、前糖尿病、妊娠糖尿病、I型糖尿病、II型糖尿病、糖尿病合併症、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、脂質異常症、コレステロール値の上昇、トリグリセリド値の上昇、脂肪酸値の上昇、脂肪肝疾患、筋骨格疾患、認知機能障害、スタチン誘導性ミオパチーなどのミオパチー、非アルコール性脂肪性肝炎、耳鳴、めまい、アルコールによる二日酔い、難聴、骨粗鬆症、高血圧、アテローム性動脈硬化症/冠動脈疾患、ストレス後の心筋損傷、外傷性脳損傷、嚢胞性線維症、炎症、がん、及びHIV感染からなる群から選択される疾患又は状態を治療する又は予防する、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は2021年12月2日に出願された米国特許仮出願第63/285212号の権益及び優先権を主張するものであり、その開示の全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
人口の高齢化は、過去数十年間において人口動態の面で特筆すべき事象である。寿命が延長されていることに起因して、中高年者人口の増加が集団全体の増加を上回ることから、中高年者人口のその他の人口に対する割合は大幅に増加している。例えば、1950年代には60歳以上の高齢者は12人に1人であったのが、2000年代の終わりには60歳以上の高齢者は10人に1人となった。2050年代の終わりまでには、世界的に5人に1人が60歳以上の高齢者になると予測されている。
【0003】
ミトコンドリアの機能不全、酸化ストレス、細胞間コミュニケーションの変化(慢性的な軽度の炎症を含む)、ゲノム不安定性、テロメア短縮、タンパク質恒常性の低下、栄養センシングの変化、エピジェネティクスの変化、及び幹細胞の消耗が、老化の特徴として提唱されている。さらに、フリーラジカル、すなわち活性酸素種(ROS)は、酸化的細胞損傷を引き起こすことにより、老化の主な原因である。フリーラジカルは、多くの生化学プロセスに必要であり、いくつかの生化学反応における副生成物として、又は各細胞における他の生化学反応の基質として生成される。ミトコンドリアは細胞内活性酸素種(ROS)の主な供給源であることから、この仮説は、正常な哺乳動物の老化におけるミトコンドリアの中心的役割を示唆している。しかしながら、近年、多くの研究が、老化の進行におけるミトコンドリアROSの重要性を疑問視している。その一方で、新しい証拠により、ミトコンドリアが、細胞及び生物の老化につながる複雑に入り組んだプロセスの中心において重要な役割を保持していることを示唆し得る、ミトコンドリア機能障害の別の面が指摘されている。
【0004】
更に、ヒトでは、酸化ストレスは多くの疾患に関与する。例としては、アテローム性動脈硬化症、パーキンソン病、心不全、心筋梗塞、アルツハイマー病、統合失調症、双極性障害、脆弱X症候群、及び慢性疲労症候群が挙げられる。
【0005】
酸化ストレスは、紫外線照射及び高酸素症後の組織障害の一因となる。この障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及びハンチントン病を含む神経変性疾患において重要であると考えられている。血管内皮における低密度リポタンパク質(LDL)の酸化はプラーク形成の前兆であることから、酸化ストレスは特定の心血管疾患にも関連していると考えられている。酸化ストレスはまた、低酸素状態後の酸素の再潅流による障害に起因する虚血のカスケードでも働く。このカスケードには、脳卒中及び心臓発作の両方を含む。酸化ストレスはまた、慢性疲労症候群にも関わっている。
【発明の概要】
【0006】
一般的な実施形態において、本開示は、個体においてi)ミトコンドリア関連疾患又はミトコンドリア機能の変化に伴う状態、及び/又はii)酸化ストレス又は酸化ストレスに伴う状態からなる群から選択される少なくとも1つの身体的状態、の治療又は予防に使用するための、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又は前駆体との組み合わせを有効量で含む組成物を提供する。
【0007】
本発明の別の目的は、健康な中高年者において、代謝低下の開始を遅らせること、筋肉量の維持、酸化ストレスの減少、免疫機能の維持、及び/又は認知機能の維持に使用するための、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを有効量で含む組成物を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、個体においてi)老化の悪影響を緩和すること、ii)筋パフォーマンス又は運動後の筋回復、運動能力及び/又は身体機能のうちの少なくとも1つを改善すること、iii)代謝疾患及び/又は変性疾患の重症度を低減すること、に使用するための、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを有効量で含む組成物を提供することである。
【0009】
本発明の別の態様は、本発明による使用のための組成物を製造する方法に関する。
【0010】
一実施形態において、組成物は、動物に健康上の効果を提供するためのアミノ酸の相乗的ブレンドを含むことができ、このブレンドは、グリシンと、メチオニンと、システインと、グルタミンとの組み合わせを含む。
【0011】
別の実施形態では、動物に健康上の効果を提供するための方法は、アミノ酸の相乗的ブレンドを動物に投与する工程を含むことができ、このブレンドは、グリシンと、メチオニンと、システインと、グルタミンとの組み合わせを含む。
【0012】
更なる特徴及び利点が本明細書において記述されており、以下の図面、及び発明を実施するための形態から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】老化中のPGC1A過剰発現フィッシュにおける酸化ストレスの増加を示すグラフである。結果は、n=3の実験の平均±SEMとして表す。統計は、テューキーの多重比較検定と併せて二元配置分散分析を使用して実施した。p<0.05、**p<0.01である。
図2】PGC1A過剰発現及び運動が、アミノ酸輸送体の発現、特にカチオン性アミノ酸(アルギニン、リジン、オルニチン)及び大型中性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジン)の輸送に関連する輸送体の発現を増加させることを示すグラフである。発現に変動のある遺伝子の、2を底とする対数(LogFC)における倍率変化を、運動していない(lazy)野生型と比較した結果を示す(n=8/群)。
図3】グリシンは急性酸化ストレス条件下でミトコンドリア呼吸を回復させることができるが、グルコースはできないことを示すグラフである。結果は、ゼブラフィッシュの骨格筋から単離されたミトコンドリアのO2消費を表す(1条件当たりn=3)。統計は、テューキーの多重比較検定と併せて二元配置分散分析を使用して実施した。***p<0.001、#p<0.05である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[定義]
以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0015】
本明細書に記載する全ての百分率は、別途記載のない限り、組成物の総重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値のある範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは参照数字の-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲に対応するものと解釈されたい。
【0016】
本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」には、文脈上別段の指示がない限り、複数の指示対象も含まれる。したがって、例えば、「1つの構成成分(a component)」又は「その構成成分(the component)」についての言及は、2つ以上の構成成分を含む。
【0017】
用語「含む/備える(comprise)」、「含む/備える(comprises)」、及び「含んでいる/備えている(comprising)」は、排他的なものではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈されるべきである。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む/備える(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成要素「を本質的に含む/から本質的に構成される(consisting essentially of)」実施形態、及び特定されている構成要素「からなる(consisting of)」実施形態の開示を含む。「~から本質的に構成される」組成物とは、参照された構成成分を少なくとも50重量%、好ましくは参照された構成成分を少なくとも75重量%、より好ましくは参照された構成成分を少なくとも85重量%、最も好ましくは参照された構成成分を少なくとも95重量%含むことをいう。
【0018】
「X及び/又はY」の文脈において使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈される。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈される。本明細書で使用するとき、用語「例」及び「例えば、」は、特に、用語の列挙が続く場合には、単に例示的かつ例示するものであり、排他的とも包括的とも見なされない。本明細書で使用するとき、別の状態「に関連する/伴う(associated with)」又は「と関連付けられる(linked with)」状態は、これらの状態が同時に起こることを意味し、好ましくは、これらの状態が同じ基礎症状によって引き起こされることを意味し、最も好ましくは、特定されている状態のうちの一方が他方の特定されている状態によって引き起こされることを意味する。
【0019】
用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、かかる個体に対して少なくとも1種類の栄養素を提供する、製品又は組成物を意味する。食品製品は、典型的には、タンパク質、脂質、炭水化物のうちの少なくとも1つを含み、任意に1種類以上のビタミン及びミネラルを含む。本明細書に記載されている多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に開示されている要素、並びに本明細書に記載されている又は記載されていなくとも食生活において有用である任意の追加の又は任意選択の原材料、構成成分又は要素を含んでよい、それらから構成されてよい、又は本質的に含んでもよい。
【0020】
「経口栄養補助食品」すなわち「ONS」は、少なくとも1つの主要栄養素及び/又は少なくとも1つの微量栄養素を含む組成物であり、例えば、無菌(sterile)の液体、半固体又は粉末の形態であり、食品からの栄養摂取などの他の栄養摂取を補うことを意図している。市販のONS製品の非限定例としては、MERITENE(登録商標)、BOOST(登録商標)、NUTREN(登録商標)、及びSUSTAGEN(登録商標)が挙げられる。いくつかの実施形態では、ONSは、液体を更に添加せずとも摂取され得る、例えば、液量が組成物の1サービング分である、液体形態の飲料とすることができる。「ペット」と組み合わせて使用される場合、この用語は、コンパニオンアニマル用に配合された食品を指す。
【0021】
本明細書で使用するとき、用語「グリシン」は、前駆体及び機能性誘導体を含む。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「メチオニン」は、前駆体及び機能性誘導体を含む。一態様では、メチオニンはL-メチオニンであり得る。
【0023】
本明細書で使用するとき、用語「システイン」は、前駆体及び機能性誘導体を含む。一態様では、システインはL-システインであり得る。
【0024】
本明細書で使用するとき、用語「グルタミン」は、前駆体及び機能性誘導体を含む。一態様では、グルタミンはL-グルタミンであり得る。
【0025】
本明細書で使用するとき、用語「前駆体」は、アミノ酸の文脈において使用されるとき、任意の化学的プロセス又は生物学的プロセスに供された場合(例えば、動物によって摂取された場合)にアミノ酸を形成する任意の化学物質を指す。前駆体は、通常、植物又は食品に含有されるが、本明細書ではそのようには限定されない。
【0026】
本明細書で使用するとき、用語「機能性誘導体」は、アミノ酸の文脈において使用されるとき、任意の化学的プロセス又は生物学的プロセスに供された場合(例えば、動物によって摂取された場合)にアミノ酸を形成する任意の化学物質を指す。機能性誘導体は通常、合成されるが、本明細書ではそのようには限定されない。
【0027】
本明細書で使用するとき、用語「単離された」は、単離されていない場合に例えば自然界において見られるようにその化合物と一緒に見られ得る、1種類以上の他の化合物又は成分から、分けられていることを意味する。好ましくは、例えば「単離された」は、特定されている化合物が、自然界で典型的に一緒に見られる細胞材料の少なくとも一部分から分離されていることを意味する。一実施形態では、単離された化合物は純粋なものであり、すなわち、他の化合物を含まない。
【0028】
「予防」は、状態又は疾患のリスク及び/又は重症度を低減させることを含む。「処置/治療(treatment)」、「処置する/治療する(treat)」及び「緩和すること(to alleviate)」という用語は、(標的とする病態又は障害の発症を予防する及び/又は遅らせる)予防用の(prophylactic)処置又は予防的な(preventive)処置と、診断された病態又は疾患を治癒させる、遅らせる、その症状を減弱する、かつ/又はその進行を止める治療的措置を含む、治癒的、治療的又は疾患修飾処置との両方;並びに疾患にかかるリスクを有する、又は疾患にかかったと推測される患者の処置に加えて、病気である、又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断された患者の処置を含む。この用語は、必ずしも完治するまで対象が治療されることを意味するものではない。「処置/治療」及び「処置/治療する」という用語はまた、疾患に罹患してはいないが不健康な状態を招きやすい可能性のある個体の健康を維持及び/又は促進することも指す。「処置/治療」、「処置/治療する」及び「緩和すること」という用語はまた、1つ以上の主たる予防的又は治療的措置の相乗作用、又は別の増強作用を含むことも意図している。「処置/治療」、「処置/治療する」及び「緩和すること」という用語は更に、疾患若しくは状態の、食事による管理(dietary management)、又は疾患若しくは状態の予防(prophylaxis)若しくは予防(prevention)のための、食事による管理を含むことも意図している。治療は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0029】
「対象」又は「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。ヒトの文脈における用語「高齢」は、少なくとも60歳、好ましくは63歳超、より好ましくは65歳超、最も好ましくは70歳超の年齢を意味する。ヒトの文脈での「中高年者(older adult)」という用語は、45歳以上、好ましくは50歳超、より好ましくは55歳超の出生後年齢を意味し、高齢者を含む。
【0030】
本明細書で使用するとき、「有効量」とは、欠乏を予防する、個体の疾患若しくは医学的状態を治療する、又はより一般的には、症状を軽減させる、疾患の進行を管理する、又は個体に対して栄養学的、生理学的若しくは医学的利益をもたらす、量である。
【0031】
「動物」としては、限定されるものではないが、齧歯類、水棲哺乳動物、イヌ、ネコ、及び他のペットなどの家庭内動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない、哺乳動物が挙げられる。「動物」、「哺乳動物」、又はこれらの複数形が使用される場合、これらの用語はまた、その文脈の状況により、例えば、ミトコンドリアカルシウム輸送の改善からの動物の受益により、示される又は意図する効果が示されることが可能な任意の動物にも適用される。用語「個体」又は「対象」は、本明細書において多くの場合にヒトを指すのに用いられるが、本開示はそのように限定されない。したがって、用語「個体」又は「対象」は、本明細書に開示される方法及び組成物から利益を得ることができる任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。
【0032】
本明細書で使用するとき、用語「定期的に」とは、少なくとも月1回の投与を指し、一態様では、少なくとも週1回の投与を指す。特定の実施形態では、週2回又は3回など、より頻回な投与又は摂取を実施できる。一態様では、投与計画は、少なくとも1日1回の摂取を含み得る。
【0033】
本明細書で使用されるとき、用語「完全かつバランスのとれた」は、食品組成物について言及する場合、動物栄養学の分野で認められた権威の推奨に基づき、既知の必要な栄養素の全てを、適切な量及び割合で含有しており、したがって、栄養補給源を追加せずとも、生命を維持し、又は生産(production)を促進するための食事摂取の唯一の供給源としての役割を果たすことができる食品組成物を意味する。栄養バランスのとれたペットフード及び動物の食餌組成物は公知であり、当該技術分野において広く利用されており、例えば、米国飼料検査官協会(AAFCO)によって確立された基準に従って配合された、完全かつバランスのとれた食品組成物がある。一実施形態では、「完全かつバランスのとれた」は、2021年1月1日にAAFCOによって公開された現行基準に従い得る。
【0034】
本明細書で使用するとき、用語「コンパニオンアニマル」は、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、フェレット、ハムスター、マウス、スナネズミ、ウマ、雌ウシ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、及びブタなどの家畜を指す。一態様では、コンパニオンアニマルは、イヌ科動物であり得る。別の態様では、コンパニオンアニマルは、ネコ科動物であり得る。
【0035】
本明細書で使用するとき、「神経変性疾患」又は「神経変性障害」は、中枢神経系において機能性ニューロンが徐々に減少する任意の状態を指す。一実施形態では、神経変性疾患は、加齢に伴う細胞死に関連する。神経変性疾患の非限定的な例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS及びルーゲーリック病としても知られる)、AIDS脳症、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、アルパーズ症候群(Alper’s disease)、毛細血管拡張性運動失調症、バッテン病、ウシ海綿状脳症(BSE)、カナバン病、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、レヴィ小体型認知症、致死性家族性不眠症、前頭側頭葉変性症、ケネディー病、クラッベ病、ライム病、マシャド・ジョセフ病、多発性硬化症、多系統萎縮症、神経有棘赤血球症、ニーマン・ピック病、ピック病、原発性側索硬化症、進行性核上性麻痺、レフサム病、サンドホフ病、びまん性髄鞘破壊性硬化症、脊髄小脳失調症、亜急性連合性脊髄変性症、脊髄癆、テイ・サックス病、中毒性脳症、伝染性海綿状脳症、及びハリネズミふらつき症候群が挙げられる。
【0036】
本明細書で使用するとき、「認知パフォーマンス」は、対象が1つ以上の認知機能を十分に発揮する程度を指す。本明細書で使用するとき、「認知機能」は、人が、考えを認識するようになる、知覚する、又は理解する、任意の精神的プロセスを指す。この機能には、知覚、思考、推理、及び物覚えの全ての態様を包含し、例えば、知覚、記憶、注意、言語理解、言語表出、読解力、心象想起、学習、及び推理を含む。通常、認知機能は、少なくとも記憶を指す。
【0037】
認知機能を測定するための方法は周知であり、例えば、認知機能の任意の特徴に関する個別テスト又はバッテリーテストを含むことができる。そのような試験の1つには、Margallo-LanaらによるPrudhoe認知機能検査(Prudhoe Cognitive Function Test)がある(2003)J.Intellect.Disability Res.47:488-492.別のそのような試験には、ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Exam、MMSE)があり、この検査は、時間及び場所に対する見当識、記銘、注意及び計算、再生、言語使用及び理解、復唱、並びに複雑な命令を評価するように設計されている。Folsteinら(1975)J.Psych.Res.12:189-198.認知機能を測定するのに有用な他の検査としては、アルツハイマー病評価スケール-認知(ADAS-Cog)及びケンブリッジ神経心理テスト自動バッテリー(CANTAB)が挙げられる。このような試験を使用して、認知機能を客観的に評価することができ、結果として、例えば、本明細書に開示されている方法による処置に応じた、認知機能の変化を測定及び比較することができる。
【0038】
本明細書で使用するとき、「認知障害」は、認知機能を低下させる任意の状態を指す。認知障害の非限定的な例としては、せん妄、認知症、学習障害、注意欠陥障害(ADD)、及び注意欠陥多動障害(ADHD)が挙げられる。「ストレス誘発性又はストレス関連認知機能不全」は、ストレスに誘発される又はストレスに関連する認知機能の乱れを指す。
【0039】
特別の定めのない限り、又は言及された文脈によって相容れないものと明確に暗示されていない限り、本発明の単一の特徴又は単一の制限へのあらゆる言及は、それに対応する複数の特徴又は複数の制限を含むものとし、複数の特徴又は複数の制限へのあらゆる言及は、それに対応する単一の特徴又は単一の制限を含むものとする。
【0040】
別段の定義がされていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって通常理解されているものと同じ意味を持つ。
【0041】
[実施形態]
本明細書で以下に記載する実験データに詳述されるように、本発明者らは、本明細書に開示される化合物の組み合わせが、老化、運動、筋骨格疾患、呼吸器疾患、疼痛症候群、神経変性疾患及び代謝疾患などの酸化ストレス状態においてミトコンドリアの機能をサポートすることができることを見出した。特に、酸化ストレスの低減及びミトコンドリア機能の改善によって、本発明の組成物は、少なくとも組み合わせによる効果で、おそらくは互いの効果を増強し、又は相乗作用をもたらして、代謝疾患及び変性疾患を治療すること、その発生率を低減させること、又はその重症度を低減させることができる。
【0042】
酸化ストレスの低減とミトコンドリア機能の改善は機序の点で関連している。ミトコンドリア機能不全は、活性酸素種(ROS)、及び、栄養代謝不能による代謝異常を部分的に介した、細胞の損傷に関係し、ひいては代謝疾患及び変性疾患をもたらす。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、酸化ストレスの状態では、カチオン性アミノ酸及び大型中性アミノ酸の要求が増大することを見出した。特に、カチオン性アミノ酸輸送体及び大型中性アミノ酸輸送体が過剰発現されることから、高酸化ストレス下でミトコンドリア機能を維持するためにはこれらのアミノ酸がより一層必要とされることを示唆している。更に、グリシンは、急性酸化ストレス後にミトコンドリア呼吸を回復させることができる。
【0043】
本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、加齢に伴う代謝の緩徐化の開始を助けること(help off-set slowing of the metabolism associated with aging)である。
【0044】
本開示によって提供される1つ以上の実施形態のさらに別の利点は、ミトコンドリアへのエネルギー燃料として重要なアミノ酸を提供し、それによって、筋肉タンパク質を含む組織タンパク質を分解する必要性を低減して、十分な細胞エネルギーの産生を維持することである。
【0045】
本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、酸化ストレス条件下では細胞において十分な量で利用できなくなる重要なアミノ酸を補うことである。
【0046】
本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、体に対する酸化ストレスの低減を助けることである。
【0047】
本開示は、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又は前駆体との有効量の組み合わせを含む組成物を提供する。
【0048】
一実施形態において、組成物は、動物に健康上の効果を提供するためのアミノ酸の相乗的ブレンドを含むことができ、このブレンドは、グリシンと、メチオニンと、システインと、グルタミンとの組み合わせを含む。
【0049】
別の実施形態では、動物に健康上の効果を提供するための方法は、アミノ酸の相乗的ブレンドを動物に投与する工程を含むことができ、このブレンドは、グリシンと、メチオニンと、システインと、グルタミンとの組み合わせを含む。
【0050】
一実施形態では、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体は、L-グリシン、L-グリシンエチルエステル、D-アリルグリシン、N-[ビス(メチルチオ)メチレン]グリシンメチルエステル、Boc-アリル-Gly-OH(ジシクロヘキシルアンモニウム)塩、Boc-D-Chg-OH、Boc-Chg-OH、(R)-N-Boc-(2’-クロロフェニル)グリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、(R)-N-Boc-4-フルオロフェニルグリシン、Boc-D-プロパルギルグリシン、Boc-(S)-3-チエニルグリシン、Boc-(R)-3-チエニルグリシン、D-a-シクロヘキシルグリシン、L-a-シクロプロピルグリシン、N-(2-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、N-(4-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、Fmoc-N-(2,4-ジメトキシベンジル)-Gly-OH、N-(2-フロイル)グリシン、L-a-ネオペンチルグリシン、D-プロパルギルグリシン、サルコシン、Z-a-ホスホノグリシントリメチルエステル、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0051】
一実施形態において、システインは、L-システイン、ホモシステイン、セリン、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0052】
一実施形態において、グルタミンは、L-グルタミン、グルタメート、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0053】
一実施形態において、メチオニンは、L-メチオニン、ホモセリン、セリン、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0054】
好適な大型中性アミノ酸の非限定的な例としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、トレオニン、メチオニン及びヒスチジン並びにこれらの混合物が挙げられる。好適なカチオン性アミノ酸の非限定的な例としては、アルギニン、リジン又はオルニチンが挙げられる。上記アミノ酸の前駆体は、本発明の組成物において有利に使用される場合があり、当技術分野において公知である(KEGG PATHWAY(www.genome.jp/kegg/pathway.html)を参照されたい)。
【0055】
組成物は、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、トレオニン、メチオニン及びヒスチジンのうちの1つ以上を、遊離形態で、並びに/又はペプチド及び/若しくはタンパク質例えば乳タンパク質、動物性タンパク質、若しくは植物性タンパク質などとして結合して、含み得る。ホエイタンパク質は、ロイシン及びイソロイシンなどのBCAAに富んでいる。したがって、組成物のいくつかの実施形態は、組成物中の大型中性アミノ酸の少なくとも一部を提供するホエイタンパク質を含む。
【0056】
別の実施形態では、アミノ酸の既知の代謝産物を使用してもよく、例えば、ロイシンの代謝産物としての2-ヒドロキシイソカプロン酸(HICA)を有利に使用してもよい。
【0057】
別の実施形態では、コラーゲン及びコラーゲンペプチドをグリシン源として使用してもよい。いくつかの植物ベースのタンパク質源も、グリシン源を提供し得る。
【0058】
概して、ネコに関して、グリシンは、ネコに健康上の効果を提供するために、治療有効量で存在する。一態様において、グリシンは、ネコ用に配合された組成物中に、給餌時に約1重量%~約15重量%の量で存在することができる。別の態様において、グリシンは、給餌時に約2重量%~約10%重量で存在することができる。
【0059】
概して、イヌに関して、グリシンは、イヌに健康上の効果を提供するために、治療有効量で存在する。一態様において、グリシンは、イヌ用に配合された組成物中に、給餌時に約0.5重量%~約15重量%の量で存在することができる。別の態様において、グリシンは、給餌時に約1重量%~約10重量%で存在することができる。
【0060】
概して、ネコに関して、メチオニンは、ネコに健康上の効果を提供するために、治療有効量で存在する。一態様では、メチオニンは、ネコ用に配合された組成物中に、給餌時に約0.2重量%~約1.5重量%の量で存在することができる。別の態様において、メチオニンは、給餌時に約0.5重量%~約1重量%で存在することができる。
【0061】
概して、イヌに関して、メチオニンは、イヌに健康上の効果を提供するために、治療有効量で存在する。一態様において、メチオニンは、イヌ用に配合された組成物中に、給餌時に約0.33重量%~約5重量%の量で存在することができる。別の態様において、メチオニンは、給餌時に約0.5重量%~約2.5重量%で存在してもよい。
【0062】
概して、ネコに関して、システインは、ネコに健康上の効果を提供するために、治療有効量で存在する。一態様では、システインは、ネコ用に配合された組成物中に、給餌時に約0.2重量%~約10重量%の量で存在することができる。別の態様において、システインは、給餌時に約0.3重量%~約5重量%で存在することができる。
【0063】
概して、イヌに関して、システインは、イヌに健康上の効果を提供するために、治療有効量で存在する。一態様では、システインは、イヌ用に配合された組成物中に、給餌時に約0.1重量%~約10重量%の量で存在することができる。別の態様において、システインは、給餌時に約0.2重量%~約5重量%で存在することができる。
【0064】
概して、ネコに関して、グルタミン(及び/又はグルタメート)は、ネコに健康上の効果を提供するために、治療有効量で存在する。一態様では、グルタミン(及び/又はグルタメート)は、ネコ用に配合された組成物中に、給餌時に約2重量%~約30重量%の量で存在することができる。別の態様では、グルタミン(及び/又はグルタメート)は、給餌時に約4重量%~約20重量%で存在してもよい。
【0065】
概して、イヌに関して、グルタミン(及び/又はグルタメート)は、イヌに健康上の効果を提供するために、治療有効量で存在する。一態様では、グルタミン(及び/又はグルタメート)は、イヌ用に配合された組成物中に、給餌時に約1重量%~約30重量%の量で存在することができる。別の態様では、グルタミン(及び/又はグルタメート)は、給餌時に約2重量%~約15重量%で存在することができる。
【0066】
ネコ用組成物の1日用量は、体重(bw)1kg当たり約125mg~約1.5gのグリシン、体重1kg当たり約25mg~約1gのシステイン、体重1kg当たり約250mg~約5gのグルタミン(及び/又はグルタメート)、及び体重1kg当たり約25mg~約500mgのメチオニンのうちの1つ以上を含み得る。
【0067】
イヌ用組成物の1日用量は、体重(bw)1kg当たり約70mg~約2.25gのグリシン、体重1kg当たり約14mg~約1.5gのシステイン、体重1kg当たり約140mg~約4.5gのグルタミン(及び/又はグルタメート)、及び体重1kg当たり約46mg~約750mgのメチオニンのうちの1つ以上を含み得る。
【0068】
他の動物用の組成物の1日用量は、体重(bw)1kg当たり0.1~100mgのグリシン、体重1kg当たり0.175~142.85mgのロイシン、好ましくは体重1kg当たり0.35~71.425mgのロイシン;体重1kg当たり0.175~71.425mgのイソロイシン;体重1kg当たり5~340mgのバリン;体重1kg当たり20~153mgのフェニルアラニン;体重1kg当たり20~126mgのチロシン;体重1kg当たり2.86~42.86mgのトリプトファン;体重1kg当たり7~85mgのトレオニン;体重1kg当たり3~43mgのメチオニン;体重1kg当たり12.86~80mgのヒスチジン;体重1kg当たり20~300mgのアルギニン、好ましくは体重1kg当たり50~200mgのアルギニン;体重1kg当たり20~300mgのオルニチン、好ましくは体重1kg当たり100~200mgのオルニチン;体重1kg当たり12~72mgのリジンを含み得る。1つ以上の大型中性アミノ酸又はカチオン性アミノ酸の1日用量は、1日当たり1サービング以上の組成物によって提供され得る。いくつかの大型中性アミノ酸及び/又はカチオン性アミノ酸が組成物において組み合わされる場合、上記の各アミノ酸の最小量は、組み合わせに応じて低減されてもよく、また、上記組成物中の各アミノ酸の最大量は、上記の値を超えてはならない。
【0069】
一実施形態では、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又は前駆体とは、同じ組成物により投与される。
【0070】
一実施形態では、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又は前駆体とは、組み合わせの残部とは別の組成物により投与される。
【0071】
それぞれの化合物を、他の化合物と同時に投与することができ(すなわち、単一の単位として)、又は一定の時間間隔で分けることもできる(すなわち、別個の単位で)。
【0072】
原材料 更なる生物活性化合物
本発明による使用のための組成物はまた、抗酸化剤、抗炎症化合物、グリコサミノグリカン、プレバイオティクス、繊維、プロバイオティクス、脂肪酸、酵素、ミネラル類、微量元素、及び/又はビタミン類からなる群から選択される、少なくとも1つの更なる生物活性化合物を含んでいてもよい。
【0073】
「生物活性」という用語は、本出願の文脈において、その化合物が、基礎的な栄養要求を満足することを超えて、個体の健康に貢献する、又はヒトの身体に効果をもたらすことを意味する。少なくとも1つの更なる生物活性化合物は、天然由来のものであってよい。つまり、化合物は、植物、動物、魚、菌類、藻類、微生物発酵物の抽出物から得られてもよい。ミネラル類も、この定義内で天然由来のものとみなされる。
【0074】
栄養組成物
本発明による使用のための組成物は、栄養組成物又は医薬組成物であってもよく、ヒト又は家畜に使用するためのものであってもよい。一実施形態では、組み合わせは、経口投与される。
【0075】
したがって、好ましい実施形態では、本発明による使用のための組成物は、栄養組成物である。
【0076】
「栄養組成物」とは、本出願の文脈において、個体に対する栄養源である組成物を意味する。
【0077】
本発明の栄養製剤又は栄養組成物は、完全栄養源であってもよく、又は不完全栄養源であってもよい。本明細書で使用するとき、「完全栄養」は、それが投与される動物の唯一の栄養資源とするのに十分な種類及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂肪、及び炭水化物)と、十分な微量栄養素とを含有する栄養製剤及び組成物を包含する。患者は、栄養必要量の100%を、かかる完全栄養組成物から摂取できる。本明細書で使用するとき、「不完全栄養」は、それが投与されている動物の唯一の栄養源とするのに十分なレベルの主要栄養素(タンパク質、脂肪、及び炭水化物)又は十分な微量栄養素を含有しない、栄養製剤又は組成物を包含する。部分的完全栄養組成物又は不完全栄養組成物は、栄養補助食品として使用することができる。
【0078】
これらの食品組成物として好適な組成物の非限定的な例としては、ダイエタリー・サプリメント、ダイエタリー・サプリメント(例えば、液体経口栄養補助食品(ONS)、完全栄養組成物、飲料、医薬品、経口栄養補助食品、医療用食品、ニュートラシューティカルズ、特別医療目的用食品(FSMP)、摂取前に水又はミルクで再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬、ドリンク、ペットフード、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0079】
一実施形態では、本発明による使用のための組成物は、タンパク質源を含む。このタンパク質源は、限定されるものではないが、動物タンパク質(乳タンパク質、肉タンパク質、又は卵タンパク質など)、植物タンパク質(大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、及びエンドウマメタンパク質など)、又はこれらの組み合わせなどを含む、食品タンパク質であってよい。一実施形態では、タンパク質は、ホエイ、鶏肉、トウモロコシ、カゼイネート、小麦、アマ、大豆、イナゴ豆、エンドウ豆、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0080】
一実施形態では、本組成物は、炭水化物源を含む。任意の好適な炭水化物を本発明の組成物に使用してもよく、その例としては、限定するものではないが、デンプン、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固体、マルトデキストリン、変性デンプン、アミロースデンプン、タピオカデンプン、トウモロコシデンプン、キシリトール、ソルビトール、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0081】
一実施形態では、本組成物は、脂肪源を含む。脂肪源は、任意の好適な脂肪又は脂肪混合物を含み得る。例えば、脂肪源としては、限定するものではないが、植物性脂肪(例えば、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、菜種油、キャノーラ油、ヘーゼルナッツ油、大豆油、パーム油、ココナッツ油、ブラックカラントシード油、ルリヂサ油、及びレシチンなど)、動物性脂肪(乳脂肪など)又はこれらの組み合わせが挙げられる。脂肪源はまた、上記の脂肪の粗精品(例えば、ポリフェノール含有のオリーブ油)であってよい。
【0082】
加えて、本発明による使用のための組成物はまた、天然又は人工フレーバー、例えば、バナナ、オレンジ、モモ、パイナップル若しくはラズベリーのような果実フレーバー、又はバニラ、ココア、コーヒーなどのような他の植物フレーバーを含んでもよい。
【0083】
栄養組成物のフォーマット
本発明の栄養組成物は、主要生物活性成分、及び任意の更なる生物活性成分、並びに所望によりタンパク質源、炭水化物源、及び脂肪源のうち1つ以上、の他に、例えば1つ以上の酸味料、追加の増粘剤、緩衝剤若しくはpH調整剤、キレート剤、着色料、乳化剤、添加物、香味料、ミネラル、浸透剤、製薬上許容される担体、保存料、安定剤、糖類、甘味料、品質改良剤、及び/又はビタミンなど、従来の食品添加物(人工又は天然)を含む、任意の数の任意選択の追加の食物原材料を所望により含んでいてもよい。任意選択の原材料は、任意の好適な量で添加することができる。
【0084】
本発明の栄養組成物は、任意の好適なフォーマットで提供されてよい。本発明による使用のための組成物が供給され得る、栄養組成物のフォーマットの例としては、溶液、インスタント(ready-for-consumption)組成物(例えば、レディ・トゥ・ドリンク組成物又はインスタント飲料)、液体食、ソフトドリンク、ジュース、スポーツドリンク、乳飲料、ミルクシェーク、ヨーグルト飲料、スープ等が挙げられる。
【0085】
別の実施形態では、本発明の栄養組成物は、濃縮物、粉末、又は顆粒(例えば発泡性顆粒)の形態で提供され、水で、又は乳やフルーツジュース等のその他の液体で希釈してインスタント組成物を生成してもよい。
【0086】
栄養組成物のフォーマットとしては、更に、焼成製品、乳製品、デザート、菓子製品、シリアルバー、及び朝食用シリアルが挙げられる。乳製品の例としては、乳及び乳製品、ヨーグルト、並びにその他の発酵乳製品、アイスクリーム、及びチーズが挙げられる。焼成製品の例として、パン、ビスケット及びケーキが挙げられる。
【0087】
一実施形態では、本発明による使用のための組成物はまた、ウェット形態、セミウェット形態又はドライ形態、特にビスケットの形態のいずれであるかを問わず、特にイヌ又はネコ用の、動物用食品として企画された多種多様なフォーマットでも入手可能となり得る。
【0088】
本明細書に開示される組成物には、治療目的での投与のための様々な製剤のいずれかを使用することができる。より詳細には、医薬組成物は、製薬上許容される適切な担体又は希釈剤を含むことができ、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア、及びエアゾール剤などの固体形態、半固体形態、液体形態又は気体形態の製剤として処方され得る。したがって、組成物の投与は、経口、バッカル、直腸内、非経口、腹腔内、皮内、経皮、及び気管内での投与を含む様々な方法で達成することができる。活性成分は、投与後に全身性のものであってもよく、又は局所投与の使用、壁内(intramural)投与の使用、若しくは埋め込み部位において有効用量を保持するように作用する埋入物(インプラント)の使用によって局在化させてもよい。
【0089】
医薬の投与剤形では、化合物は、製薬上許容される塩として投与されてもよい。これらはまた、別の薬理上活性な化合物と適切に関連させて使用してもよい。次の方法及び添加物は、単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0090】
経口製剤では、化合物は、単独で使用することができ、又は、錠剤、散剤、顆粒剤若しくはカプセル剤を製造するための適切な添加剤との組み合わせ、例えば、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、若しくはジャガイモデンプンなどの従来の添加剤との組み合わせ、結晶セルロース、セルロースの機能性誘導体、アラビアゴム、トウモロコシデンプン又はゼラチンなどのバインダーとの組み合わせ、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、又はカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤との組み合わせ、タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤との組み合わせ;並びに所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤及び香味剤との組み合わせで、使用できる。
【0091】
ペットフード組成物
概して、ペットフード組成物は、グリシン、メチオニン、システイン、及びグルタミンのアミノ酸ブレンド、並びにタンパク質、炭水化物、脂肪、及び繊維のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0092】
概して、タンパク質は、任意の粗タンパク質材料であってもよく、大豆ミール、大豆タンパク質濃縮物、トウモロコシグルテンミール、小麦グルテン、綿実、エンドウ豆タンパク質、キャノーラミール及びピーナッツミールなどの植物性タンパク質、又はカゼイン、アルブミン、及び肉タンパク質などの動物性タンパク質を含み得る。本明細書で有用な肉タンパク質の例としては、牛肉、豚肉、子羊、ウマ、家禽、魚、及びこれらの混合物が挙げられる。組成物はまた、ホエイ及び他の乳製品副産物などの他の材料を任意に含み得る。一態様では、タンパク質は、コラーゲン、ホエイ、又はこれらの混合物を含む。一実施形態では、食品組成物は、約10重量%、20重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%又は更には55重量%から、約20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、又は更には70重量%までの、これらの量の範囲内の様々な部分範囲を含む量で、タンパク質を含み得る。一態様では、タンパク質は、食品組成物の約20重量%~約60重量%であり得る。別の態様では、タンパク質は、食品組成物の約25重量%~約50重量%であり得る。
【0093】
さらに、本組成物はイソフラボンを含むことができる。様々な実施形態において、イソフラボンは、ダイゼイン、6-O-マロニルダイゼイン、6-O-アセチルダイゼイン、ゲニステイン、6-O-マロニルゲニステイン、6-O-アセチルゲニステイン、グリシテイン、6-O-マロニルグリシテイン、6-O-アセチルグリシテイン、ビオカニンA、又はホルモノネチンのうちの少なくとも1つを含む。特定の実施形態において、イソフラボン又はその代謝産物は、ダイズ(Glycine max)由来であり得る。存在する場合、1つ以上の代謝産物は、好ましくはエクオールを含む。一実施形態において、食品組成物は、食品組成物1kg当たり約300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mg、又は更には1,000mgから、食品組成物1kg当たり約500mg;600mg;700mg;800mg;900mg;1,000mg;1,100mg;1,200mg;1,300mg;1,400mg;又は更には1,500mgまでの、これらの量の範囲内の様々な部分範囲を含む量で、イソフラボンを含み得る。一態様において、イソフラボンは、ペットフード組成物1キログラム当たり約300mg~1500mgの量で存在することができる。別の態様において、イソフラボンは、ペットフード組成物1キログラム当たり約700mg~1200mgの量で存在することができる。
【0094】
概して、任意の種類の炭水化物を食品組成物に使用することができる。好適な炭水化物の例としては、米、トウモロコシ、キビ、ソルガム、アルファルファ、大麦、大豆、キャノーラ、オート麦、小麦、ライ麦、ライ小麦、及びこれらの混合物などの穀類又は禾穀類が挙げられる。一実施形態では、炭水化物は、食品組成物の約10重量%~約70重量%を構成する。別の実施形態では、炭水化物は、食品組成物の約20重量%~約60重量%を構成する。他の態様では、炭水化物は、約10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、又は更には50重量%から、約20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、又は更には70重量%の量で存在し得る。
【0095】
概して、食品組成物は脂肪を含む。好適な脂肪の例としては、動物性脂肪及び植物性脂肪が挙げられる。一態様では、脂肪源は、獣脂、ラード、又は家禽脂肪などの動物性脂肪源であり得る。コーン油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ブドウ種子油、大豆油、オリーブ油などの植物油、魚油、並びに一価不飽和脂肪酸並びにn-6及びn-3多価不飽和脂肪酸に富む他の油も使用され得る。一実施形態では、食品組成物は、約5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、又は更には50重量%から、約15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、又は更には60重量%までの、これらの量の範囲内での様々な部分範囲を含む量で、脂肪を含み得る。一態様では、脂肪は、食品組成物の約10重量%~約40重量%を構成する。別の態様では、脂肪は、食品組成物の約20重量%~約35重量%を構成する。
【0096】
加えて、本組成物は、ω-3脂肪酸を含むことができる。好適なω-3脂肪酸の非限定例としては、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、αリノレン酸(ALA)、及びこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、ω-3脂肪酸は、組成物の約0.2重量%、0.5重量%、1重量%、2重量%、又は更には3重量%から、約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、又は更には5重量%の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、ω-3脂肪酸は、約1重量%~約5重量%の量で食品組成物中に存在する。いくつかの実施形態において、ω-3脂肪酸は、約1重量%~約2重量%の量で食品組成物中に存在する。
【0097】
本明細書で考察される脂肪及び脂肪酸に加えて、本組成物は、ω-6脂肪酸を含むことができる。好適なω-6脂肪酸の非限定的な例としては、リノール酸(LA)、γ-リノレン酸(GLA)、アラキドン酸(AA、ARA)、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、及びこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、ω-6脂肪酸は、組成物の約0.2重量%、0.5重量%、1重量%、2重量%、又は更には3重量%から、約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、又は更には5重量%の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、ω-6脂肪酸は、約1重量%~約5重量%の量で食品組成物中に存在する。いくつかの実施形態において、ω-6脂肪酸は、約1重量%~約2重量%の量で食品組成物中に存在する。
【0098】
ペットフード組成物の投与は、必要に応じて、所望に応じて、定期的に、又は断続的に、行うことができる。一態様において、食品組成物は、動物に定期的に投与することができる。一態様では、少なくとも週1回の投与を行うことができる。特定の実施形態では、週2回又は3回など、より頻回な投与又は摂取を実施できる。一態様では、投与計画は、少なくとも1日1回の摂取を含み得る。
【0099】
本開示の方法により、投与は、食餌療法の一環としての投与を含めて、動物の出産から成体期に至るまでの期間にわたるものとすることができる。様々な実施形態において、動物は、ヒト又はイヌ若しくはネコなどのコンパニオンアニマルであり得る。特定の実施形態では、動物は、幼若期又は成長期の動物であり得る。他の実施形態において、投与は、例えば、動物が推定寿命又は予想寿命の約10%、20%、30%、40%、又は50%超に達したときに開始され、定期的に又は長期にわたって定期的(extended regular basis)に行われ得る。いくつかの実施形態では、動物は予測寿命の40%、45%、又は50%に達していてもよい。更に他の実施形態では、動物は、見込み寿命の60%、66%、70%、75%、又は80%に達した、より老齢であってもよい。寿命の算出は、保険統計表、計算、又は推定などに基づいたものであってよく、過去、現在、及び未来の、寿命に正又は負の影響を及ぼすことが知られている影響又は要因を考慮してもよい。種、性別、体格、遺伝的要因、環境要因及びストレッサー、現在及び過去の健康状態、過去及び現在の栄養状態、並びにストレッサーなどの留意事項も影響を及ぼすことがあり、寿命を算出する際に考慮してもよい。
【0100】
このような投与は、本明細書に記載される1つ以上の目的、例えば、腎疾患の治療又は心疾患の治療を達成するために必要な期間にわたって実施できる。他の投与量が適切である場合があり、動物の初期体重、並びに種、性別、品種、年齢、所望の健康上の効果などの他の可変要素に基づいて決定することができる。
【0101】
ペットフード組成物の含水率は、食品組成物の性質に応じて様々である。食品組成物は乾燥組成物(例えば、キブル)、半湿潤組成物、湿潤組成物、又はこれらの任意の混合物であってもよい。一実施形態では、組成物は、完全かつ栄養バランスのとれたペットフードであり得る。この実施形態において、ペットフードは、「ウェットフード」、「ドライフード」、又は「中間含水率」の食品であってもよい。「ウェットフード」は、典型的には、缶又はホイルバッグに入れられて販売され、含水率が典型的には約70%~約90%の範囲であるペットフードのことを述べている。「ドライフード」は、ウェットフードと同様の組成であるが、典型的には約5%~約15%又は20%の範囲の限定された含水率を有するペットフード(典型的には小さなビスケットのようなキブルの形態)のことを述べている。一実施形態では、組成物は、約5%~約20%の含水率を有することができる。ドライフード製品は、比較的常温保存可能であり、微生物又は真菌による劣化又は汚染に対して耐性を有するような様々な含水率の様々な食品を含む。また、一態様では、ドライフード組成物は、コンパニオンアニマルのための押出食品製品であり得る。一態様では、ペットフード組成物はイヌ用に配合することができる。別の態様では、ペットフード組成物はネコ用に配合することができる。
【0102】
食品組成物はまた、1種類以上の繊維源を含んでもよい。このような繊維源としては、可溶性、不溶性、発酵性、及び非発酵性の繊維が挙げられる。このような繊維は、海洋植物などの植物由来であってもよいが、微生物繊維源も使用することができる。当業者に既知であるように、様々な可溶性又は不溶性の繊維を使用することができる。繊維源は、ビートパルプ(サトウダイコン由来)、アラビアゴム、タルハゴム(gum talha)、サイリウム、米ぬか、トウモロコシふすま、コムギふすま、オートムギふすま、イナゴマメゴム、柑橘系パルプ、ペクチン、フラクトオリゴ糖、短鎖オリゴフルクトース、マンナンオリゴフルクトース、ダイズ繊維、アラビノガラクタン、ガラクトオリゴ糖、アラビノキシラン、セルロース、又はこれらの混合物であり得る。
【0103】
あるいは、繊維源は発酵性繊維であってもよい。発酵性繊維は、コンパニオンアニマルの免疫系に有益であることが以前から報告されている。プレバイオティクスを提供し、腸内でのプロバイオティクスの増殖を増進する、発酵性繊維又は当業者に既知の他の組成物もまた、本明細書に記載の効果を増強するのに役立てるため、又は動物の免疫系に対する効果の増強に役立てるために、組成物に組み込まれてもよい。
【0104】
一実施形態において、食品組成物には、約1重量%~約15重量%の総食物繊維が含まれ得る。いくつかの態様において、総食物繊維は、約5重量%~約15重量%、又は更には約8重量%~約13重量%の量で含まれ得る。別の実施形態において、食品組成物には、約1重量%~約10重量%の粗繊維が含まれ得る。いくつかの態様において、粗繊維は、約3重量%~約10重量%、又は更には約3重量%~約7重量%の量で含まれ得る。
【0105】
いくつかの実施形態では、食品組成物の灰分は、1%未満~約15%の範囲である。一態様では、灰分は、約5%~約10%であってもよい。
【0106】
概して、食品組成物は、食事、食事の構成要素、スナック、サプリメント、又はトリートであり得る。このような組成物としては、動物に必要な食餌所要量を供給することを目的とした完全食品を挙げることができる。
【0107】
ペットフード組成物は、ビタミン、ミネラル、抗酸化剤、プロバイオティクス、プレバイオティクス、塩、並びに食味増強剤(palatants)、着色剤、乳化剤、及び抗菌剤又は他の保存料などの機能性添加物などの1種類以上の物質を更に含んでもよい。このような組成物において有用となり得るミネラルとしては、例えば、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、鉄、塩化物、ホウ素、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン、ヨウ素、及びセレンなどが挙げられる。本明細書で有用な追加のビタミンの例としては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、及びビタミンKなどの脂溶性ビタミン、並びにビタミンB、及びビタミンCを含む水溶性ビタミンが挙げられる。イヌリン、アミノ酸類、酵素類、補酵素類などは、様々な実施形態において含めると有用な場合がある。
【0108】
投与経路
本開示の栄養組成物は、ヒトへの投与、特に消化管の任意の部位への投与に好適な任意の方法で投与されてよい。腸内投与、経口投与、及び管又はカテーテルを通しての投与は、本開示に全て含まれる。本発明の栄養組成物はまた、経口、経腸、舌下、唇下、バッカル、局所等から選択される方法によって投与されてよい。
【0109】
本発明の栄養組成物は、例えば、錠剤、カプセル、液体、チュアブル、ソフトジェル、小袋、粉末、シロップ、懸濁液、エマルジョン、及び溶液を含む任意の既知の形態で、便利な剤形で投与されてよい。ソフトカプセルでは、活性原材料が、脂肪油、パラフィン油、又は液体ポリエチレングリコールなど好適な液体中に溶解又は懸濁されていることが好ましい。所望により、安定剤を加えてもよい。
【0110】
本発明の栄養組成物が経管栄養により投与される場合、栄養組成物は、短期経管栄養又は長期経管栄養に使用されてよい。
【0111】
本発明の組成物は、ヒトなどの個体、例えば高齢個体又は重篤な個体に、治療に有効な用量で投与することができる。治療に有効な用量は当業者により決定され得るものであり、状態の重症度並びに個体の体重及び全身状態など、当業者に公知のいくつもの因子に応じて異なり得る。
【0112】
本発明の組成物は、好ましくは、少なくとも週1日、好ましくは少なくとも週2日、より好ましくは少なくとも週3日、最も好ましくは週7日;少なくとも1週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、又は更に長い期間、個体に投与される。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、例えば、少なくとも治療効果が達成されるまで、数日にわたって連続的に個体に投与される。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも30日間、60日間、又は90日間連続で個体に毎日投与することができる。
【0113】
いくつかの実施形態では、投与は、個体の残りの寿命にわたって継続される。他の実施形態では、投与は、医学的状態について検出可能な症状がなくなるまで行われる。具体的な実施形態では、投与は、少なくとも1つの症状について検出可能な改善が生じるまで行われ、更なる場合においては、寛解を維持するために継続される。
【0114】
上記の投与例は、間断のない連日投与を必要とするものではない。それよりむしろ、投与期間中の2~4日間の中断など、投与には何回かの短期間の中断があってもよい。本発明の組成物の理想的な投与継続期間は当業者により決定され得る。
【0115】
治療方法
ミトコンドリア疾患は、ミトコンドリアDNA又は核DNAにおける遺伝性変異又は自然突然変異のいずれかの結果によるものであり、ミトコンドリア内に通常存在するタンパク質又はRNA分子の機能が変化することで生じる。しかしながら、ミトコンドリアの機能の問題は、まだ完全には解明されていない発達及び発育中に生じる因子により、特定の組織にのみ影響を及ぼし得る。ミトコンドリアタンパク質の組織特異的アイソフォームを考慮したとしても、臨床で見られるミトコンドリア疾患症候群に罹患する臓器系のパターンが多様であること(variable patterns)を説明することは難しい。
【0116】
ミトコンドリア疾患は、赤血球を除く身体の全ての細胞に存在する専門区画であるミトコンドリアの損傷に起因する。ミトコンドリアは、身体が生命の維持及び発育の支援に必要とするエネルギーの90%超の生成に関与する。ミトコンドリアが機能しなくなると、細胞において生成されるエネルギーが減少する。細胞は損傷を受け、更には細胞死に至る。このプロセスが全身で繰り返されると、システム全体が破綻し始め、この破綻によりその人の生命が重度に脅かされることになる。ミトコンドリア疾患は主に子供が罹患するが、成人の発症も認められるようになってきている。ミトコンドリアの疾患は、脳、心臓、肝臓、骨格筋、腎臓、並びに内分泌系及び呼吸器系の細胞に対し最も損傷を引き起こすようである。
【0117】
ミトコンドリア異常における多くの症状は、非特異的なものである。症状はまた、周期的な悪化を伴う一時的な経過を示す場合もある。ミトコンドリア医学のレビュー論文では、ミトコンドリア異常の様々な顕在化の中でも、一過性の片頭痛状態、並びに筋肉痛、胃腸症状、耳鳴り、うつ病、慢性疲労、及び糖尿病が言及されている(Chinnery and Turnbull(1997)QJM 90:657-67;Finsterer(2004)Eur.J.Neurol.11:163-86)。ミトコンドリア異常を有する患者では、臨床症状は、典型的には、病気、空腹、過度の運動、及び極端な環境温度などの生理学的ストレッサーに関連してエネルギー需要が高いときに生じる。更に、恐らく、患者が十分なATP産生を行うことができないほど多量の脳のエネルギー要求量に起因して、心理的ストレッサーが症状を引き起こすことも多い。
【0118】
どの細胞が影響を受けるかに応じて、症状は、運動制御の喪失、筋力低下及び筋肉の痛み、胃腸障害及び嚥下困難、不十分な成長、心疾患、肝疾患、糖尿病、呼吸器合併症、発作、視覚的/聴覚的問題、乳酸アシドーシス、発達遅延、並びに感染症への感受性増大、を含み得る。
【0119】
ミトコンドリア疾患としては、限定するものではないが、アルパーズ症候群、バース症候群、β酸化異常、カルニチン欠乏症、カルニチン-アシル-カルニチン欠損症、慢性進行性外眼筋麻痺症候群、コエンザイムQ10欠損症、複合体I欠損症、複合体II欠損症、複合体III欠損症、複合体IV欠損症、複合体V欠損症、CPT I欠損症、CPT II欠損症、クレアチン欠乏症候群、チトクロムc酸化酵素欠損症、グルタル酸尿症2型、カーンズ・セイヤー症候群、乳酸アシドーシス、LCHAD(長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症)、レーベル遺伝性視神経症、リー症候群(Leigh disease)、致死性乳児心筋症(lethal infantile cardiomyopathy)、ルフト病、MAD(中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症)、ミトコンドリア細胞症、ミトコンドリアDNA枯渇、ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、及び脳卒中様症状、ミトコンドリア脳症、ミトコンドリアミオパチー、ミトコンドリア劣性運動失調症候群(mitochondrial recessive ataxia syndrome)、筋ジストロフィー、ミオクローヌスてんかん及び赤色ぼろ線維疾患(ragged-red fiber disease)、筋神経原性腸脳相関症状(myoneurogenic gastrointestinal encephalopathy)、ニューロパチー、運動失調、網膜色素変性症、及び下垂症、ピアソン症候群、POLG変異、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、ピルビン酸脱水素酵素欠損症、SCHAD(短鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症)、並びに極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症が挙げられる。
【0120】
したがって、本開示の一態様は、個体においてi)ミトコンドリア関連疾患又はミトコンドリア機能の変化に伴う状態、及び/又はii)酸化ストレス又は酸化ストレスに伴う状態からなる群から選択される少なくとも1つの身体的状態、の治療及び/又は予防に使用するための、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを有効量で含む組成物である。
【0121】
一実施形態では、組み合わせの量は、ストレス、肥満、代謝速度の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、糖尿病合併症、心血管疾患、呼吸器疾患、疼痛症候群、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、ストレス誘発性又はストレス関連認知機能不全、気分障害、不安障害、加齢性神経細胞死又は機能不全、筋骨格障害、サルコペニア、フレイル、プレフレイル、慢性腎疾患、黄斑変性症、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるミトコンドリア関連疾患又は状態を治療又は予防するのに有効であり得る。
【0122】
一実施形態では、少なくとも1つの身体的状態は、老化の悪影響、筋肉量減少、前糖尿病、妊娠糖尿病、I型糖尿病、II型糖尿病、糖尿病合併症、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、脂質異常症、過体重、肥満、コレステロール値の上昇、トリグリセリド値の上昇、脂肪酸値の上昇、脂肪性肝疾患、腎疾患、心血管疾患、筋骨格疾患、呼吸器疾患、疼痛症候群、神経変性疾患、認知機能障害、スタチン誘発性ミオパチーなどのミオパチー、非アルコール性脂肪性肝炎、耳鳴、めまい、アルコールによる二日酔い、難聴、骨粗鬆症、高血圧、アテローム性動脈硬化症/冠動脈疾患、ストレス後の心筋損傷、外傷性脳損傷、嚢胞性線維症、炎症、がん、及びHIV感染からなる群から選択される。
【0123】
別の実施形態では、本開示は、健康な中高年者において、NAFLDを遅らせる、HIVを遅らせる、老化に伴う影響に抗う、代謝低下を開始させる、筋肉量を維持する、酸化ストレスを減少させる、免疫機能を維持する、及び/又は認知機能を維持する方法を提供する。健康な中高年者は高齢であってもよい。
【0124】
別の実施形態では、本開示は、肥満、前糖尿病、又は糖尿病のうちの少なくとも1つを有する個体において、活性酸素種の代謝を強化する、グルコースの調節を改善する、及び/又は筋機能を改善する方法を提供する。
【0125】
別の実施形態では、本開示は、認知機能を改善又は維持する方法を提供する。認知機能は、知覚、記憶、注意、言語理解、言語表出、読解力、イメージ想起、学習、推理、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。一実施形態では、個体は認知障害を有さない。個体は高齢であり得る。
【0126】
別の実施形態では、本開示は、認知パフォーマンス又は筋パフォーマンスのうちの少なくとも1つを増強する方法を提供する。この組み合わせは、記憶を含む認知パフォーマンスを増強することができる。この組み合わせは、強度、速度又は持久力のうちの少なくとも1つを含む筋パフォーマンスを増強することができる。個体は高齢であり得る。
【0127】
別の実施形態では、本開示は、(i)老化の影響の重症度及び/又は発生率の低減、(ii)細胞機能及び/又は総合的な健康の維持又は改善、(iii)正常なミトコンドリア機能、細胞保護、又はエネルギー代謝のうちの少なくとも1つの支援、(iv)1日のエネルギーレベルの増加、(v)疲労の低減、(vi)身体エネルギーの維持又は改善、(vii)健康又は正常な細胞機能を促進することによる健康な老化の促進、(viii)健康な皮膚の維持(supporting healthy skin)、(ix)心不全の治療、及び/又は心不全の重症度若しくは発生率の低減、(x)集中治療室(ICU)入室を含む期間中に生じる、酸化ストレス及び/又はグルタチオン(GSH)の低下の治療、発生率の低減、又は重症度の低減、(xi)酸化ストレス及び/又はGSHの低下に関連する別の状態の治療、発生率の低減、又は重症度の低減、(xii)機能的パフォーマンス(運動耐容能、筋収縮、疲労)の改善のための、損傷、病気、又は手術からのリハビリテーション(手術後、脳卒中後、骨折/関節置換術後)の促進、(xiii)がんを有する、又はがんが寛解した患者におけるNAD+値の調節、(xiv)肥満手術に由来する症状の治療、発生率の低減、又は重症度の低減、(xv)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の治療、発生率の低減、又は重症度の低減、(xvi)ヒト免疫不全ウイルス感染(HIV)の治療、発生率の低減、又は重症度の低減、及び(xvii)これらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの結果を達成する方法を提供する。
【0128】
本開示の別の態様は、これらの状態のうちの少なくとも1つを予防する方法であって、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との予防有効量の組み合わせを含む組成物を、少なくとも1つの状態についてリスクがある個体に投与する工程を含む、方法である。
【0129】
これらの方法の一実施形態では、治療又は予防される高脂血症は、高トリグリセリド血症を含む。これらの方法の一実施形態では、治療又は予防される高脂血症は、遊離脂肪酸の増加を含む。これらの方法の一実施形態では、治療又は予防される加齢性神経細胞死又は機能不全は、中高年者、例えば、サルコペニアを有する高齢個体などの高齢個体への組成物の投与による。
【0130】
本開示の別の態様は、健康な中高年者において、代謝低下の開始を遅らせる、筋肉量を維持する、酸化ストレスを減少させる、免疫機能を維持する、及び/又は認知機能を維持する方法である。
【0131】
一実施形態において、代謝低下は、脂肪肝の酸化損傷である。
【0132】
本開示の別の態様は、サルコペニアを有する個体においてミトコンドリア機能を改善する方法である。本方法は、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との有効量の組み合わせを個体に投与する工程を含む。
【0133】
本開示の更に別の態様は、肥満、前糖尿病、又は糖尿病のうちの少なくとも1つを有する個体において、活性酸素種の代謝を増強する、グルコースの調節を改善する、及び/又は筋機能を改善する方法である。
【0134】
本開示の別の態様は、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを、筋パフォーマンス又は認知パフォーマンス(例えば、記憶)のうちの少なくとも1つを向上させるのに有効な総量で含む組成物である。関連する実施形態において、個体の筋パフォーマンス又は認知パフォーマンス(例えば、記憶)のうちの少なくとも1つを向上させる方法は、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを有効量で含む組成物を個体に投与する工程を含む。
【0135】
更に、筋パフォーマンスに関しては、筋パフォーマンスの向上は、筋機能の改善、筋機能の低下の低減、筋力の改善、筋持久力の改善、及び筋回復の改善のうちの1つ以上であり得る。本組成物は、身体持久力(例えば、運動、肉体労働、スポーツ活動などの身体的作業を実施する能力)を改善し、肉体疲労を抑制又は遅延させ、血中酸素値を向上させ、健康な個体においてエネルギーを向上させ、作業能力及び持久力を向上させ、筋肉疲労を低減し、ストレスを低減し、心血管機能を増強し、性的能力を改善し、筋ATP値を増加させ、及び/又は血液中の乳酸を減少させることができる。「持久力」は、一定の作業負荷で、一般に強度<80%VOmaxで運動するときの疲労までの時間を指す。いくつかの実施形態において、組成物は、ミトコンドリア活性を増加させる、ミトコンドリア生合成を増加させる、及び/又はミトコンドリア質量(mitochondrial mass)を増加させる量で投与される。
【0136】
いくつかの実施形態において、組成物は、身体能力の低下、持久力の低下、及び/又は筋機能の低下を有する個体に投与される。改善された筋機能は、加齢に伴う状態の結果として筋機能が低下している高齢対象において特に有効であり得る。例えば、後にプレフレイル及びフレイルにつながるおそれがある筋機能の低下を生じ得る対象は、筋機能の改善により恩恵を受け得る。このような対象は、必ずしも、筋機能の低下と併せて筋消耗を生じるわけではない。一部の対象、例えばサルコペニアを有する対象は、筋消耗及び筋機能の低下の両方が生じる。組成物は、フレイル又はプレフレイルの対象において筋パフォーマンスを増強し得る。
【0137】
スポーツパフォーマンスとは、スポーツ活動に参加する際に運動選手の筋肉が発揮する能力のことを指す。スポーツパフォーマンス、強度、速度、及び持久力の増強は、筋収縮の強度の増加、筋収縮の振幅の増加、又は刺激と収縮との間の筋反応時間の短縮によって測定される。「運動選手」は、何らかのレベルのスポーツに参加する個体であって、例えば、ボディビルダー、自転車競技者、長距離ランナー、及び短距離ランナーなど、そのパフォーマンスにおいて強度、速度、又は持久力の向上を目指す個体を指す。スポーツパフォーマンスの増強は、筋疲労を克服する能力、活動を長時間維持する能力、及びより効果的なワークアウトを行う能力として顕在化される。
【0138】
本明細書に開示される組成物及び方法はまた、ミオパチー;デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの神経筋疾患;急性サルコペニア、例えば筋萎縮症;並びに/又は火傷、床上安静、四肢の固定、又は胸部、腹部、及び/若しくは整形外科の大手術に関連する悪液質を含む、筋肉に関連する病的状態の治療において有効であり得る。
【0139】
組成物は、サルコペニア、サルコペニア肥満、又は悪液質、例えば、慢性疾患、HIV、がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、及び/又は老化などの基礎的な医学的状態による悪液質などを、これらの疾患以外の点では健康な個体において、処置又は予防することができる。この点に関して、老化は、NADとグルタチオン(GSH)との低減を伴うことがある。
【0140】
組成物は、グルタチオンが高濃度で存在することが知られている水晶体内で低濃度であることなどといった、低GSH濃度により直接的又は間接的に生じる目の状態を、処置又は予防することができる。このような状態の非限定的な例としては、白内障及び/又は緑内障、老視(拡大鏡を必要とする、加齢に伴う近見視力の低下)、及び老人性難聴(補聴器を必要とする、加齢に伴う聴力低下)が挙げられる。
【0141】
一実施形態では、組成物は、筋パフォーマンス、又は運動に関連する筋緊張を含む筋緊張などからの筋回復のうちの少なくとも1つを改善する。運動は、例えば、有酸素運動(カーディオ・エクササイズ)及び/又はウェイトトレーニングを含む任意の種類のものであってよい。組成物は、運動前(例えば、運動前1時間未満内)、運動中、及び運動後(例えば、運動後1時間未満内)からなる群から選択される少なくとも1つの期間中に投与することができる。
【0142】
本開示の更なる態様は、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを、ミトコンドリアの機能又は代謝速度のうちの少なくとも1つを向上又は維持するのに有効な量で含む組成物である。関連する実施形態において、個体におけるトコンドリアの機能又は代謝速度のうちの少なくとも1つを向上又は維持する方法は、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを有効量で含む組成物を個体に投与する工程を含む。
【0143】
本開示の別の態様は、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを、認知機能を改善又は維持するのに有効な総量で含む組成物である。関連する実施形態において、個体の認知機能を改善又は維持する方法は、少なくとも1つのグリシン又はその機能性誘導体と、少なくとも1つの大型中性アミノ酸及び/若しくはカチオン性アミノ酸又はそれらの前駆体との組み合わせを予防有効量で含む組成物を個体に投与する工程を含む。
【0144】
一実施形態では、個体は認知障害を有さない。例えば、組成物は、正常な認知機能を有する対象において認知機能を増強することができる。
【0145】
本明細書に開示される組成物はまた、ミトコンドリア活性の欠陥若しくは低下が疾患若しくは状態の病態生理に関与している、又はミトコンドリア機能の増加が所望の有益な効果をもたらす、様々な追加の疾患及び状態のいずれかの治療にも使用することができる。
【0146】
本発明の栄養組成物の製造方法
本発明は、更なる態様において、本発明による使用のための栄養組成物を製造するための方法であって、
オレウロペイン及び/又はその代謝物とケルセチン及び/又はその誘導体との組み合わせを含む栄養組成物のための原材料を用意する工程と、上記栄養組成物がオレウロペイン及び/又はその代謝産物とケルセチン及び/又はその誘導体との組み合わせを含むように混合する工程と、を含む方法に関する。
【0147】
開示の組み合わせ
本発明の一態様の文脈で記載されている実施形態及び特徴は、本発明の他の態様にも当てはまることに注意が必要である。
【0148】
本発明による使用のための組成物は、本明細書において、異なるパラメータ、例えば、原材料、栄養組成物の形態、使用、対象とする集団などにおいて記載される。本発明による使用のための組成物のパラメータの1つの状況において記載される実施形態及び特徴はまた、明示的な記述がない限り、別のパラメータの状況において記載される他の実施形態及び特徴と組み合わせてもよいことに留意されたい。
【0149】
本出願に引用されている全ての特許文献及び非特許文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0150】
本発明を、以下の非限定的な実施例により更に詳細に記載する。
【実施例
【0151】
以下の非限定的な例は、本明細書に開示される組成物及び方法を裏付ける、実験データを示すものである。
【0152】
実施例1 ゼブラフィッシュ試験
材料及び方法
ゼブラフィッシュの飼育及びトランスジェニック系統の作製
成体のABゼブラフィッシュを、標準的飼育条件下、28℃で飼育した。すべての実験手順は、スイス及びEUの倫理ガイドラインに従って実施し、Vaud州の動物実験倫理委員会によって承認された(許可VD3177)。骨格筋特異的actc1bプロモーターの制御下で、triple Flag配列に融合したゼブラフィッシュppargc1a又はヒトPPARGC1A cDNAを含むコンストラクトを、I-SCEIメガヌクレアーゼにより1細胞期のAB胚に挿入し、トランスジェニックゼブラフィッシュを作製した。注入したコンストラクトは、トランスジェニック動物の迅速な選択のために、逆方向のcryaa(αクリスタリンA鎖)プロモーターの制御下でZsGreenを保有するアイマーカーカセットを有していた。トランスジェニックキャリアをABゼブラフィッシュと掛け合わせ(アウトクロス)して、トランスジェニック及び野生型の同腹個体(siblings)を生じさせた。
【0153】
オキシブロット
製造業者の指示に従ってOxidized Protein Detection Kit(Abcam、#ab178020)を使用して、凍結骨格筋中のカルボニル化タンパク質を測定した。酸化タンパク質の定量は、ImageJ(1.51h、NIH)を使用してオキシブロットを加工及び解析することにより行った。
【0154】
RNA-seq及び解析
遺伝子発現の解析のために、急速凍結した骨格筋を、FastPrep(登録商標)-24組織ホモジナイザー(MP-Biomedials)を使用してQiazolに溶解した。全mRNAを、QIAcubeプラットフォーム(plateform)及びmRNAeasyキット(Qiagen)を使用して抽出した。Ribogreen(Life Technologies)を使用してRNAを定量し、Fragment Analyzer(Advances Analytical)で品質を評価した。PCRによる増幅工程以外は、製造業者のプロトコルに従ってTruSeq Stranded mRNA LT Sample Prep Kit(Illumina)を使用して250ngのRNAから配列決定ライブラリーを調製した。PCRによる増幅工程は、KAPA HiFi HotStart ReadyMix(Kapa BioSystems)を使用して15サイクル実施した。この最適なPCRサイクル数は、既報のサイクラー補正係数法を用いて評価されている(Atgerら、Proc Natl Acad Sci USA.2015 Nov 24;112(47):E6579-88)。ライブラリーをPicogreen(Life Technologies)で定量した。サイズパターンは、LabChip GX(Perkin Elmer)にDNA高感度試薬キットを使用して制御した。ライブラリーをプールし、プールを、28レーンのペアエンド配列決定ハイアウトプットフローセル(Illumina)上で9pmolの濃度でクラスター化させた。配列決定は、Illuminaの推奨に従って、v4 SBSケミストリーを使用してHiSeq 2500上で2×125サイクル実施した。
【0155】
Illumina Real-Time Analysisを使用して、画像解析及びベースコール(base calling)を行った。生データは(アクセッション番号#)で入手可能である。STAR 2.4.0iを使用して、ゼブラフィッシュGRCz10の参照ゲノム上にペアエンドリードをマッピングした(Dobin et al.,Bioinformatics 2013 Jan 1;29(1):15-21)。Python Package HTseq 0.9.1を使用して、ユニークにマッピングされたリードを各遺伝子についてカウントして(Anders et al.、Bioinformatics.2015 Jan 15;31(2):166-9)、転写物の発現レベルを算出した。リードカウントの正規化及び発現変動解析を、Bioconductor 3.6 Package DESeq2を使用して実施した(Love et al.、Genome Biol.2014;15(12):550)。調整済みp値が0.05未満、かつlog2倍率変化が0.5超である遺伝子を用いて、遺伝子型誘発性又は運動誘発性の発現を比較した。
【0156】
遺伝子オントロジー(GO)解析は、DAVID Bioinformatics Resources 6.8を使用して実施した(Dennis et al.、Genome Biol.2003;4(5):P3)。KEGG pathwayのアノテーションをエンリッチメント試験に使用した。P値が0.05未満のカテゴリーは、有意にエンリッチな状態であるとみなした。
【0157】
急性酸化ストレス及びミトコンドリアの高分解能呼吸測定
4~6ヶ月齢の成体ABゼブラフィッシュを、3μMのメナンジオン(Sigma-Aldrich)を添加した水に28℃で2時間曝露し、急性酸化ストレス状態にした。ストレス後、ゼブラフィッシュを対照群と処置群とに分けた。次いでこの酸化ストレス対照を、浄水中で、28℃で2時間インキュベートした。グリシン及びグルコース処置に曝露するゼブラフィッシュは、対象とする化合物を次の用量で、すなわちグリシンは50μM、200μM、450μM(Sigma-Aldrich);グルコースは500μM及び5mM(Sigma-Aldrich)で含有する水中で、28℃で2時間、インキュベートした。既報の手法にわずかに変更を加え(Frezza et al.,Nat Protoc.2007;2(2):287-95)、ゼブラフィッシュの体幹筋からミトコンドリアの粗抽出物を調製した。BCAによるタンパク質濃度の定量後、150μgの粗抽出物を高分解能呼吸測定による定量に使用した。呼吸の測定にはOxygraph-2k(O2k、OROBOROS Instruments)を使用した。最大3つのO2k装置(5つのチャンバ)を同時に使用した。実験は、改変MiR05(110mMのスクロース、0.5mMのEGTA、3mMのMgCl2、20mMのタウリン、10mMのKH2PO4、20mMのHEPES、及び0.1%のBSA、本質的に脂肪酸不含)で、28℃で行った。基質-脱共役剤-阻害剤滴定(SUIT)プロトコル(Pesta and Gnaiger、Methods Mol Biol.2012;810:25-58)を改変して使用して、単離したミトコンドリアの呼吸を測定した。ピルビン酸、グルタミン酸、及びマレイン酸(それぞれ5mM、10mM、2mM)を基質として使用して、ADP(1mM)の存在下で複合体I(CI)での呼吸を誘導した。ADPの存在下でスクシネート(10mM)を添加して、複合体II(CII)での呼吸を誘導した。CIの呼吸は、総呼吸(CI+CII)とCI阻害剤ロテノン(0.5μM)の添加時との差として計算した。CIIの呼吸は、阻害されたCI呼吸とCII阻害剤マロン酸(5mM)の添加時との差として計算した。総呼吸(CI+CII、Tot呼吸)を、全ての基質の存在下での呼吸とCI及びCIIの阻害時の合計との差として評価した。
【0158】
結果
PGC1αは、ミトコンドリア生合成の主要調節因子である。本発明者らは、筋肉でPGC1αタンパク質を過剰発現しており、ミトコンドリアの大量産生がもたらされている、ゼブラフィッシュトランスジェニックモデルを作製した。ミトコンドリア数の増加は、細胞のエネルギー利用能を向上させるため有益であると考えられている一方で、ROSの生成の増加及び老化中に悪化する酸化ストレスをもたらす(図1、タンパク質のカルボニル化は、酸化的損傷のマーカーである)。
【0159】
次いで、本発明者らは、ミトコンドリア生合成の誘導のより生理学的なモデルを遺伝による過剰発現と比較するために、PGC1αゼブラフィッシュ未成魚及び運動させた野生型ゼブラフィッシュ(「訓練した野生型」)に対して遺伝子発現の解析を実施した。本発明者らは、ミトコンドリアを過剰産生するゼブラフィッシュでは分岐鎖アミノ酸の異化の経路が増強され(表1)、及び習慣的に運動しているゼブラフィッシュと同様に、ミトコンドリアを自然に増加させるアミノ酸輸送が増強される(図2)ことを発見した。
【0160】
【表1】
【0161】
特に、カチオン性アミノ酸輸送体(SLC7A1)及び大型中性アミノ酸輸送体(SLC43A1a、SLC43A1b、SLC3A2、SLC3A2a、SLC3A2b)が過剰発現され、高酸化ストレスの間にミトコンドリア機能を維持するためにはこれらのアミノ酸がより一層必要とされることを示唆している(図2)。更に、本発明者らは、過去の内部研究から、急性酸化ストレス後にはグリシンがミトコンドリア呼吸を回復させることができることを把握している。図3において、急性酸化ストレスは短時間のメナジオン処置(Men)で誘導されており、この処置は複合体I依存性の呼吸を減少させている。グリシンによる処置は複合体Iの呼吸レベルを回復させるが、グルコースによる処置はいかなる効果も示さない。これらの結果は、酸化ストレスが、解糖酵素のブロックにより、ミトコンドリアにおけるO2流量を減少させるという仮説を支持する。このブロックは、呼吸鎖を支持するためのTCAサイクルの基質利用能を低減させる。これらの条件において、本発明者らのデータは、TCAサイクルへの供給及びエネルギー不均衡の回復にアミノ酸が使用されることを示唆している。
【0162】
これらの予備的結果は、グリシンと、カチオン性アミノ酸及び大型中性アミノ酸との組み合わせが、老化、運動、筋骨格疾患、呼吸器疾患、疼痛症候群、神経変性疾患又は代謝疾患などの高酸化ストレスの状態においてミトコンドリアが良好な機能性を維持するのを助け得ることを示唆する。
【0163】
実施例2 イヌ及びネコでの試験
メタボロミクス解析
僧帽弁疾患(MVD)を有するイヌ及びこの疾患ではないイヌから、並びに慢性腎疾患(CKD)を有するネコ及びこの疾患ではないネコから、静脈血サンプルを収集した。血液を凝固させ、1600gで5分間遠心分離して血清サンプルを得、使用するまでこれを-80℃で保存した。
【0164】
商業的実験室(Metabolon,Inc.)でアンターゲットメタボロミクス(Untargeted metabolomics)アッセイを行った。Hamilton社製の自動MicroLab STAR(登録商標)システムを使用してサンプルを調製した。QC目的のため、抽出プロセスにおける第1の工程の前に複数種類の回収標準物質(recovery standard)を添加した。タンパク質を除去し、タンパク質に結合した小分子、又は沈殿したタンパク質マトリックス中に捕捉された小分子を解離させ、化学的に多様な代謝産物を回収するために、2分間激しく振盪しながらタンパク質をメタノールで沈殿させ(Glen Mills GenoGrinder 2000)、続いて遠心分離した。得られた抽出物を5つの画分に分割した。2つのサンプルは、陽イオンモードエレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いた2つの別個の逆相(RP)/UPLC-MS/MS法による分析のため、1つのサンプルは、陰イオンモードESIを用いたRP/UPLC-MS/MSによる分析のため、1つのサンプルは、陰イオンモードESIを用いたHILIC/UPLC-MS/MSによる分析のためのものであり、1つのサンプルはバックアップのために保存した。サンプルをTurboVap(登録商標)(Zymark)に短時間配置し、有機溶媒を除去した。分析のための調製前に、サンプル抽出物を窒素下で一晩保存した。(化合物の検出及び同定は、Metabolon所有ソフトウェア及びデータベースを用いて行った。プロセシング及び分析に関する更なる情報は、Li et al.JAHA 2021(https://doi.org/10.1161/JAHA.120.018923)で見出され得る。
【0165】
生データは、相対的定量化を提供する、イオンカウントを用いた曲線下面積式に基づいて生成した。サンプルの>80%において欠測値を有する代謝産物は除外した。欠損データは検出限界未満のものであるという仮定の下で、残りの欠損データは生データの最小値の半値(half of the minimal value)に相当する値を帰属させた。四分位範囲の下位25パーセンタイルを含む代謝産物はほぼ一定の値を示し、除外された。2を底とする対数を使用してデータを更に変換し、全ての代謝産物について平均値=ゼロ(zero mean)及び分散=1(unit variance)を達成するように自動スケーリングした。ANOVAを実施して、イヌにおけるMVD群間又はネコにおけるCKD群間の平均を比較した。
【0166】
MVDのイヌでは、非MVDイヌと比較してグルタミン、グリシン、及びメチオニンの血清濃度が低かった(表2)。うっ血性心不全を有するイヌ(ステージC又はステージD)では、グリシン誘導体であるサルコシンの濃度が、健康なイヌ又は無症候性MVDを有するイヌ(ステージB1及びステージB2)と比較して減少していた。同様に、CKDを有するネコでは、メチオニン、グリシン、グルタメート、グルタミン、セリン、及びシステインの血清濃度が、非CKDネコと比較して低かった(表3)。進行段階のCKD(すなわち、ステージ3又はステージ4)を有するネコでは、サルコシンレベルが、非CKDネコ又は初期段階のCKD(すなわち、ステージ1又はステージ2)を有するネコと比較して低かった。このデータは、心疾患を有するイヌ及び腎疾患を有するネコにおけるこれらのアミノ酸の欠乏を示唆する。これらのアミノ酸の補給は、心疾患及び腎疾患を有するイヌ及びネコの健康を改善するであろう。
【0167】
【表2】
【0168】
【表3】
【0169】
実施例3 アミノ酸ブレンドの試験
腎臓における健康上の効果を評価するために、HK2細胞応答を使用してアミノ酸ブレンドの試験を行った。アミノ酸ブレンドは、グリシン、メチオニン、システイン、及びグルタミンから構成された。細胞の健康の重要な指標であるATPを測定することによる発光細胞生存率アッセイのプロトコルを以下に詳述する。
【0170】
各実験では、継代数4未満で保存された(banked)HK2細胞の凍結ストックを解凍し、加湿インキュベーター中、37℃、5%CO2で、通常の増殖培地中で増殖させた。HK2細胞を細胞アッセイの前に最大3継代培養し、約3日毎に70~80%集密度に達したときに継代した。
【0171】
2500個のHK2細胞を、384ウェルプレートの通常の増殖培地に植え付けた。24時間後、HBSS緩衝液中で細胞を2時間欠乏状態にして微量のアミノ酸を全て除去し、次いで、全てのアミノ酸を含む対照培地、アミノ酸を含まない培地、4アミノ酸のブレンドを含む培地、対象とする4アミノ酸を除く全てのアミノ酸を含む培地、グリシンのみを含む培地、メチオニンのみを含む培地、システインのみを含む培地、グルタミンのみを含む培地、及びシステイン+グルタミンのみを含む培地、のいずれかの特定の配合を有する、新しい培地を添加して、48時間インキュベートした。
【0172】
Promega製のCellTiter-Glo(登録商標)2.0アッセイ試薬を添加して処理を停止し、細胞を溶解させ、わずかに振盪しながら室温で20分間インキュベートした後、発光プレートリーダーを使用して、細胞生存率の指標として発光レベルを測定した。ATPの存在は、代謝が活発な細胞の存在を示す。
【0173】
結果
細胞の生存についての結果を表4に示す。表中、「対照」は全てのアミノ酸を含む通常の増殖培地であり、「w/o aa」はいかなるアミノ酸も含まない通常の増殖培地であり、「-4 aa」はアミノ酸ブレンド(グリシン、メチオニン、システイン、及びグルタミン)を除く全てのアミノ酸を含む通常の増殖培地であり、「+4 aa」はアミノ酸ブレンドのみを含む通常の増殖培地である。
【0174】
【表4】
【0175】
アミノ酸がないと生存率は約70%減少し、4アミノ酸ブレンドを除く全てのアミノ酸を有する条件についても同様である。4アミノ酸ブレンドのみだと、対照の約80%レベルで細胞死から保護する。データは、グリシン、システイン、グルタミン及びメチオニンを含む4aaブレンドが、細胞の健康を支える細管細胞増殖(tubule cell proliferation)及び生存の維持において必須の役割を果たすことを示唆する。4アミノ酸ブレンドを調査するために追加の試験を行った。結果を表5に示す。
【0176】
【表5】
【0177】
注目すべきことに、表5は、グルタミンはブレンドと同様に機能するが、グルタミンとシステインとを組み合わせて使用しても保護効果を提供しないため、単独での効果を説明することができないという予想外の結果を示す。したがって、個々のグリシン及びメチオニンの効果、並びに組み合わされたグルタミン及びシステインの効果に基づいて予想されるブレンドの性能は、ブレンドの実際の働き(対照の約99%)よりも著しく低い(対照の約80%)。これは予想外であり、4成分ブレンドの相乗効果を示唆している。
【0178】
本明細書で述べる現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。そのような変更及び修正は、本主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、なされ得る。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
図1
図2
図3
【国際調査報告】