(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-06
(54)【発明の名称】複数のブリッジ長さパターンを備えたステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/915 20130101AFI20241129BHJP
A61F 2/06 20130101ALI20241129BHJP
【FI】
A61F2/915
A61F2/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532424
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-09
(86)【国際出願番号】 US2022051275
(87)【国際公開番号】W WO2023101982
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510015338
【氏名又は名称】シルク・ロード・メディカル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SILK ROAD MEDICAL, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】クメ,ステュワート
(72)【発明者】
【氏名】クルスマノビッチ,ダン
(72)【発明者】
【氏名】レ,ジェシカ
(72)【発明者】
【氏名】ソリマン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ハルデン,カール
【テーマコード(参考)】
4C097
4C267
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC01
4C267AA07
4C267AA44
4C267AA45
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB22
4C267BB27
4C267CC08
4C267EE01
4C267EE11
(57)【要約】
本願の開示において、4次多項式などの多項式関数によって定められる様々なパターン変化を有する様々な実施形態に係るステントが提案される。例えば、前記パターン変化は、ステントを形成する複数のブリッジ及び/又は複数のストラットの長さが、ステントの長さに沿って変化することを含む。該パターン変化は、ステントの長さに沿って変化する血管系に対する望ましい柔軟性と適合性とを実現するのに役立ち得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈血管系においてアテローム性動脈硬化症を治療するためのステントであって、
収縮形態と拡張形態とを形成可能に構成された細長い管状本体を備え、
前記管状本体は、長手方向軸に沿って延びており、
前記管状本体は、前記長手方向軸の周りに周方向に延びる複数のストラットリングと、隣接する2つの前記ストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された複数のブリッジと、を備え、
前記複数のブリッジは、
第1の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第1の対のストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された少なくとも2つのブリッジからなる第1のブリッジ群であって、前記長手方向軸に沿った第1の位置に配置された第1のブリッジ群と、
前記第1の長さよりも長い第2の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第2の対のストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された少なくとも2つのブリッジからなる第2のブリッジ群であって、前記長手方向軸に沿った第2の位置に配置された第2のブリッジ群と、
前記第2の長さよりも長い第3の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第3の対のストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された少なくとも2つのブリッジからなる第3のブリッジ群であって、前記長手方向軸に沿った第3の位置に配置された第3のブリッジ群と、を含み、
少なくとも前記ステントの長さに基づく多項式関数によって、前記第1の位置における前記第1の長さと、前記第2の位置における前記第2の長さと、前記第3の位置における前記第3の長さとが定められる、
ステント。
【請求項2】
前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の開放セルを有する近位セクションを備える、
請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記管状本体における前記近位セクション及び/又は遠位セクションに、閉鎖セルが存在しない、
請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の閉鎖セルを有する中間セクションを備える、
請求項3に記載のステント。
【請求項5】
前記中間セクションに、開放セルが存在しない、
請求項4に記載のステント。
【請求項6】
前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の開放セルを有する遠位セクションを備える、
請求項5に記載のステント。
【請求項7】
前記複数のブリッジにおけるそれぞれのブリッジは、非線形の形状を有する、
請求項6に記載のステント。
【請求項8】
前記複数のブリッジの前記第1の長さ、前記第2の長さ、及び前記第3の長さは、前記近位セクションから前記中間セクションにかけて次第に増大する、
請求項6に記載のステント。
【請求項9】
前記複数のストラットリングにおけるそれぞれのストラットリングは、互いに同じ長さを有する複数のストラットを含む、
請求項1に記載のステント。
【請求項10】
前記複数のストラットリングにおけるそれぞれのストラットリングは、互いに異なる長さを有する複数のストラットを含み、
前記複数のストラットの長さは、前記ステントに沿って増大する、
請求項1に記載のステント。
【請求項11】
前記複数のブリッジは、前記ステントの正中線から長さが増大する、
請求項1に記載のステント。
【請求項12】
前記第1の位置は、前記ステントの近位端に隣接しており、前記第3の位置は、前記ステントの遠位端に隣接している、
請求項1に記載のステント。
【請求項13】
動脈血管系においてアテローム性動脈硬化症を治療するためのステントの作動方法であって、
前記ステントを動脈血管系に挿入するための収縮形態に前記ステントを収縮させるステップと、
前記ステントを動脈血管系に少なくとも部分的に形状適合させるための拡張形態に前記ステントを拡張させるステップと、を備え、
前記ステントは、長手方向軸に沿って延びる細長い管状本体を備え、
前記管状本体は、前記長手方向軸の周りに周方向に延びる複数のストラットリングと、隣接する2つの前記ストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された複数のブリッジと、を備え、
前記複数のブリッジは、
第1の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第1の対のストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された少なくとも2つのブリッジからなる第1のブリッジ群であって、前記長手方向軸に沿った第1の位置に配置された第1のブリッジ群と、
前記第1の長さよりも長い第2の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第2の対のストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された少なくとも2つのブリッジからなる第2のブリッジ群であって、前記長手方向軸に沿った第2の位置に配置された第2のブリッジ群と、
前記第2の長さよりも長い第3の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第3の対のストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された少なくとも2つのブリッジからなる第3のブリッジ群であって、前記長手方向軸に沿った第3の位置に配置された第3のブリッジ群と、を含み、
少なくとも前記ステントの長さに基づく多項式関数によって、前記第1の位置における前記第1の長さと、前記第2の位置における前記第2の長さと、前記第3の位置における前記第3の長さとが定められる、
ステントの作動方法。
【請求項14】
前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の開放セルを有する近位セクションを備える、
請求項13に記載のステントの作動方法。
【請求項15】
前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の閉鎖セルを有する中間セクションを備える、
請求項14に記載のステントの作動方法。
【請求項16】
前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の開放セルを有する遠位セクションを備える、
請求項15に記載のステントの作動方法。
【請求項17】
前記複数のブリッジにおけるそれぞれのブリッジは、非線形の形状を有する、
請求項16に記載のステントの作動方法。
【請求項18】
前記複数のブリッジの前記第1の長さ、前記第2の長さ、及び前記第3の長さは、前記近位セクションから前記中間セクションにかけて次第に増大する、
請求項16に記載のステントの作動方法。
【請求項19】
前記複数のストラットリングにおけるそれぞれのストラットリングは、互いに異なる長さを有する複数のストラットを含み、
前記複数のストラットの長さは、前記ステントに沿って増大する、
請求項13に記載のステントの作動方法。
【請求項20】
前記複数のブリッジは、前記ステントの正中線から長さが増大する、
請求項13に記載のステントの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本出願は、2021年11月30日に出願されて「複数のブリッジ長さパターンを備えたステント」と題された米国仮出願第63/284227号に対して米国特許法第119条(e)に基づく優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
頸動脈疾患は通常、総頸動脈(CCA)と、脳に血流を供給する動脈である内頸動脈(ICA)との間の接合部を狭めるプラークPの沈着によって生じる(
図5)。これらの沈着物により、塞栓粒子が生成されて脳血管系に入り込み、一過性脳虚血発作(TIA)、虚血性脳卒中、又は死亡などの神経学的影響を引き起こすリスクが高まる。さらに、このような狭窄が重度になると、脳への血流が阻害され、深刻な、場合によっては致命的な結果を招くことがある。
【0003】
頸動脈疾患の治療には主に2つの治療法が用いられる。1つ目は頸動脈内膜剥離術(CEA)である。これは、総頸動脈、内頸動脈、外頸動脈を閉塞し、疾患部位(通常は総頸動脈(CCA)が内頸動脈(ICA)と外頸動脈(ECA)に分岐する頸動脈分岐部)で頸動脈を開き、プラークPを剥離して除去し、頸動脈を閉じるという開放手術である。2つ目の処置は、頸動脈血管形成術および/または頸動脈ステント留置術(CAS)に依存し、通常は、総頸動脈(CCA)から内頸動脈(ICA)への分岐部において若しくは該分岐部を横切って行われるか、又は完全に内頸動脈内で行われる。バルーンカテーテル及び/又は自己拡張型ステントが標的の総頸動脈(CCA)に導入されて展開され得る。少なくともいくつかの現在入手可能なステントは、柔軟性が低く、血管を曲げる原因となり、解剖学的構造に十分に適合しない可能性がある。
【0004】
これらの理由から、(例えば、経頸動脈アクセスによる)頸動脈血管形成術および頸動脈血管系へのステントの移植を実施して、頸動脈血管形成術および/またはステント留置術の有効性および効率を向上させるための改良された方法、装置、及びシステムを提供することが望ましい。これらの目的の少なくともいくつかは、以下に記載される発明によって達成される。
【発明の概要】
【0005】
本発明の態様は、頸動脈血管などの動脈血管におけるアテローム性動脈硬化症を治療可能な様々な実施形態に係るステントに関する。一態様において、ステントは、収縮形態(折り畳み形態)と拡張形態とを形成可能に構成された細長い管状本体を備えてもよい。前記管状本体は、長手方向軸に沿って延びてもよく、前記管状本体は、前記長手方向軸の周りに周方向に延びる複数のストラットリングと、隣接する2つの前記ストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された複数のブリッジと、を備えてもよい。前記複数のブリッジは、第1の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第1の対のストラットリングを接続可能な少なくとも2つのブリッジからなる第1のブリッジ群と、第2の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第2の対のストラットリングを接続可能な少なくとも2つのブリッジからなる第2のブリッジ群と、第3の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第3の対のストラットリングを接続可能な少なくとも2つのブリッジからなる第3のブリッジ群と、を含んでもよい。前記第2の長さは、前記第1の長さよりも長くてもよく、前記第3の長さは、前記第2の長さよりも長くてもよい。前記第1のブリッジ群は、前記長手方向軸に沿った第1の位置に配置されてもよく、前記第2のブリッジ群は、前記長手方向軸に沿った第2の位置に配置されてもよく、前記第3のブリッジ群は、前記長手方向軸に沿った第3の位置に配置されてもよい。少なくとも前記ステントの長さに基づく多項式関数によって、前記第1の位置における前記第1の長さと、前記第2の位置における前記第2の長さと、前記第3の位置における前記第3の長さとが定められてもよい。
【0006】
いくつかの態様において、以下の1つ又は複数の構成が、任意の実行可能な組み合わせで任意選択的に含まれてもよい。例えば、前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の開放セルを有する近位セクションを備えてもよい。前記近位セクションには、閉鎖セルが存在しなくてもよい。前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の閉鎖セルを有する中間セクションを備えてもよい。前記中間セクションには、開放セルが存在しなくてもよい。前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の開放セルを有する遠位セクションを備えてもよい。前記遠位セクションには、閉鎖セルが存在しなくてもよい。前記複数のブリッジの前記第1の長さ、前記第2の長さ、及び前記第3の長さは、前記近位セクションから前記中間セクションにかけて次第に増大してもよい。前記複数のストラットリングにおけるそれぞれのストラットリングは、互いに同じ長さを有する複数のストラットを含んでもよい。前記複数のストラットリングにおけるそれぞれのストラットリングは、互いに異なる長さを有する複数のストラットを含んでもよく、前記複数のストラットの長さは、前記ステントに沿って増大してもよい。前記複数のブリッジは、前記ステントの正中線から長さが増大してもよい。前記複数のブリッジにおけるそれぞれのブリッジは、非線形の形状を有してもよい。前記第1の位置は、前記ステントの近位端に隣接しており、前記第3の位置は、前記ステントの遠位端に隣接してもよい。
【0007】
本発明の別の関連する態様において、動脈血管系においてアテローム性動脈硬化症を治療するためのステントの作動方法は、例えば前記ステントを動脈血管系に挿入するための収縮形態(折り畳み形態)に前記ステントを収縮させるステップを含んでもよい。前記ステントの作動方法は、例えば前記ステントを動脈血管系に少なくとも部分的に形状適合させるための拡張形態に前記ステントを拡張させるステップを含んでもよい。前記ステントは、収縮形態と拡張形態とを形成可能に構成された細長い管状本体を備えてもよい。前記管状本体は、長手方向軸に沿って延びてもよく、前記長手方向軸の周りに周方向に延びる複数のストラットリングと、隣接する2つの前記ストラットリングを接続するようにそれぞれ構成された複数のブリッジと、を備えてもよい。前記複数のブリッジは、第1の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第1の対のストラットリングを接続可能な少なくとも2つのブリッジからなる第1のブリッジ群と、第2の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第2の対のストラットリングを接続可能な少なくとも2つのブリッジからなる第2のブリッジ群と、第3の長さをそれぞれ有し、前記複数のストラットリングのうちの第3の対のストラットリングを接続可能な少なくとも2つのブリッジからなる第3のブリッジ群と、を含んでもよい。前記第2の長さは、前記第1の長さよりも長くてもよく、前記第3の長さは、前記第2の長さよりも長くてもよい。前記第1のブリッジ群は、前記長手方向軸に沿った第1の位置に配置されてもよく、前記第2のブリッジ群は、前記長手方向軸に沿った第2の位置に配置されてもよく、前記第3のブリッジ群は、前記長手方向軸に沿った第3の位置に配置されてもよい。少なくとも前記ステントの長さに基づく多項式関数によって、前記第1の位置における前記第1の長さと、前記第2の位置における前記第2の長さと、前記第3の位置における前記第3の長さとが定められてもよい。
【0008】
いくつかの態様において、以下の1つ又は複数の構成が、任意の実行可能な組み合わせで任意選択的に含まれてもよい。例えば、前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の開放セルを有する近位セクションを備えてもよい。前記近位セクションには、閉鎖セルが存在しなくてもよい。前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の閉鎖セルを有する中間セクションを備えてもよい。前記中間セクションには、開放セルが存在しなくてもよい。前記管状本体は、周方向に沿って少なくとも1列に並ぶ複数の開放セルを有する遠位セクションを備えてもよい。前記遠位セクションには、閉鎖セルが存在しなくてもよい。前記複数のブリッジの前記第1の長さ、前記第2の長さ、及び前記第3の長さは、前記近位セクションから前記中間セクションにかけて次第に増大してもよい。前記複数のストラットリングにおけるそれぞれのストラットリングは、互いに同じ長さを有する複数のストラットを含んでもよい。前記複数のストラットリングにおけるそれぞれのストラットリングは、互いに異なる長さを有する複数のストラットを含んでもよく、前記複数のストラットの長さは、前記ステントに沿って増大してもよい。前記複数のブリッジは、前記ステントの正中線から長さが増大してもよい。前記複数のブリッジにおけるそれぞれのブリッジは、非線形の形状を有してもよい。前記第1の位置は、前記ステントの近位端に隣接しており、前記第3の位置は、前記ステントの遠位端に隣接してもよい。
【0009】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法、装置、及びシステムは、脳血管系、特に内頸動脈への塞栓の放出を制限または防止するために、頸動脈分岐部領域における逆行性血流または逆流血液循環を確立および促進する。本明細書の開示には、開放手術技術または修正セルジンガー法や微小穿刺法などの経皮技術を使用して、総頸動脈への経頸動脈アプローチを介して実行されるステント留置術および血管形成術、アテローム切除術などの介入処置のための方法、装置、及びシステムも含まれる。さらに、頸動脈形成術を実施し、且つ/又は、頸動脈ステントの配置を支援するように構成されたバルーンカテーテルに関連する様々な方法、装置、及びシステムが本明細書に開示される。
【0010】
いくつかの実施形態において、総頸動脈へのアクセス(
図5)は、シース又は他の管状アクセスカニューレを動脈の内腔内に配置することによって確立され、通常、シースの遠位端は、総頸動脈から内頸動脈および外頸動脈への接合部または分岐部Bの近位に配置される。シースは、遠位端に、例えば、規格適合した閉塞バルーンなどの閉塞部材を有してもよい。閉塞バルーンなどの閉塞部材を備えたカテーテル又はガイドワイヤをアクセスシースに通して近位外頸動脈(ECA)に配置し、塞栓の侵入を阻止することができるが、通常、外頸動脈を閉塞する必要はない。第2の還流シースは、内頸静脈(IJV)や大腿静脈(FV)などの静脈系に配置される。動脈アクセスシースと静脈還流シースとは、外部動脈静脈シャントを形成するために互いに接続される。
【0011】
逆行性血流は、患者の条件に合わせて確立かつ調整され得る。総頸動脈を通る血流は、外部血管ループ若しくはテープ、血管クランプ、閉塞バルーンなどの内部閉塞部材、又は、その他の種類の閉塞手段によって閉塞される。総頸動脈を通る血流が遮断されると、内頸動脈と静脈系との間の自然な圧力勾配により、血液は脳血管から内頸動脈を通り、シャントを通って静脈系へと逆方向に流れる。
【0012】
あるいは、静脈シースが省略され、動脈シースが外部収集リザーバー又は容器に接続されてもよい。逆行性血流は、当該容器に集められる。必要に応じて、採取した血液が濾過され、処置中または処置終了時に患者に戻されてもよい。容器の圧力が大気圧に開放されることで、圧力勾配によって脳血管から容器への逆方向に血液が流れるようにしてもよいし、容器の圧力が負圧であってもよい。
【0013】
必要に応じて、内頸動脈からの逆行性血流を達成または強化するために、通常は内頸動脈内の分岐部のすぐ上(すなわち遠位)の外頸動脈に閉塞バルーン又はその他の閉塞要素を配置することによって、外頸動脈からの血流が遮断され得る。
【0014】
以下に説明される手順および処置は、特に頸動脈形成術および/または頸動脈ステント留置術を対象としているが、本明細書で説明される頸動脈へのアクセス方法は、アテローム切除術、及び、頸動脈系、特に内頸動脈と外頸動脈の分岐部付近の場所で実行され得るその他の介入手順にも有用であることが理解され得る。さらに、これらのアクセス、血管閉鎖、塞栓治療および保護方法のいくつかは、急性脳卒中の治療など、他の血管介入処置にも適用可能であることが理解され得る。
【0015】
本明細書の開示には、頸動脈アクセス及び処置の手順のパフォーマンスを改善するためのいくつかの具体的な態様が含まれる。少なくともこれらの個々の態様および改善のほとんどは、頸動脈系における特定の介入のパフォーマンスを容易にし、強化するために、個別に、又は、1つ以上の他の改善と組み合わせて実行され得る。本明細書の開示には、様々な血管のステント留置を改善するための様々な実施形態のステントも含まれる。
【0016】
本明細書に記載された主題の1つ又は複数のバリエーションの詳細は、添付の図面および以下の説明に記載されている。本明細書に記載された主題の他の特徴および利点は、以下の説明および図面、並びに特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】動脈アクセス装置が経頸動脈アプローチを介して総頸動脈にアクセスし、静脈還流装置が内頸静脈と連絡する状態における、流量制御アセンブリを含む逆行性血流システムの概略図である。
【
図1B】動脈アクセス装置が経頸動脈アプローチを介して総頸動脈にアクセスし、静脈還流装置が大腿静脈と連絡する状態における、逆行性血流システムの概略図である。
【
図1C】動脈アクセス装置が経大腿アプローチを介して総頸動脈にアクセスし、静脈還流装置が大腿静脈と連絡する状態における、逆行性血流システムの概略図である。
【
図1D】逆行性血流が外部容器に収集される状態における、逆行性血流システムの概略図である。
【
図1E】動脈アクセス装置が経頸動脈アプローチを介して総頸動脈にアクセスし、静脈還流装置が大腿静脈と連絡する状態における、代替の逆行性血流システムの概略図である。
【
図2A】頸動脈がシース上の閉塞要素によって閉塞されて逆流シャントに接続され、ステントデリバリーシステム又は他の作動カテーテルなどの介入装置が動脈アクセス装置を介して頸動脈に導入された状態における、頸動脈の拡大図である。
【
図2B】頸動脈が別個の外部閉塞装置で閉塞されて逆流シャントに接続され、ステントデリバリーシステム又は他の作動カテーテルなどの介入装置が動脈アクセス装置を介して頸動脈に導入される、代替システムを示す。
【
図2C】頸動脈が逆流シャントに接続され、ステントデリバリーシステムや他の作動カテーテルなどの介入装置が動脈アクセス装置を介して頸動脈に導入され、頸動脈が別の閉塞装置を使用して閉塞される、代替システムを示す。
【
図2D】頸動脈が閉塞されて動脈アクセス装置を介して逆流シャントに接続され、ステントデリバリーシステムなどの介入装置が別の動脈導入装置を介して頸動脈に導入される、代替システムを示す。
【
図3】従来のCriadoフローシャントシステムを示す。
【
図5】総頸動脈(CCA)、内頸動脈(ICA)、外頸動脈(ECA)、および内頸静脈(IJV)を含む、患者の首の血管系を示す。
【
図6A】本開示の方法およびシステムにおいて有用な動脈アクセス装置を示す。
【
図6B】縮径された遠位端を備えた動脈アクセス装置構造を示す。
【
図7D】シース上に配置された状態における
図7Cのシースストッパーを示す。
【
図7E】使用状態における可鍛性のシースストッパーを示す。
【
図7F】使用状態における可鍛性のシースストッパーを示す。
【
図7G】使用状態における可撓性の遠位セクションとシースストッパーを備えたシースの実施形態を示す。
【
図8A】拡張可能な閉塞要素を備えた更なる動脈アクセス装置の構造を示す。
【
図8B】拡張可能な閉塞要素と縮径された遠位端を備えた更なる動脈アクセス装置の構造を示す。
【
図9A】動脈アクセス装置の更なる実施形態を示す。
【
図9B】動脈アクセス装置の更なる実施形態を示す。
【
図9C】動脈アクセス装置上のバルブの実施形態を示す。
【
図9D】動脈アクセス装置上のバルブの実施形態を示す。
【
図10A】本開示の方法及びシステムに有用な静脈還流装置の実施形態を示す。
【
図10B】本開示の方法及びシステムに有用な静脈還流装置の実施形態を示す。
【
図10C】本開示の方法及びシステムに有用な静脈還流装置の実施形態を示す。
【
図10D】本開示の方法及びシステムに有用な静脈還流装置の実施形態を示す。
【
図11】流量制御アセンブリを含む
図1のシステムを示す。
【
図12A】本開示の方法及びシステムに有用な可変流量抵抗コンポーネントの実施形態を示す。
【
図12B】本開示の方法及びシステムに有用な可変流量抵抗コンポーネントの実施形態を示す。
【
図13A】単一のハウジング内の流量制御アセンブリの実施形態を示す。
【
図13B】単一のハウジング内の流量制御アセンブリの実施形態を示す。
【
図13C】単一のハウジング内の流量制御アセンブリの実施形態を示す。
【
図14A】本開示の原理に従って頸動脈血管形成術を実施し、頸動脈分岐部にステントを移植する手順中の例示的な血流経路を示す。
【
図14B】本開示の原理に従って頸動脈血管形成術を実施し、頸動脈分岐部にステントを移植する手順中の例示的な血流経路を示す。
【
図14C】頸動脈血管形成術を行うバルーンカテーテルの実施形態を示す。
【
図14D】頸動脈血管形成術を行うバルーンカテーテルの実施形態を示す。
【
図14E】頸動脈分岐部におけるステントの展開を示す。
【
図14F】頸動脈分岐部におけるステントの展開を示す。
【
図14G】頸動脈分岐部におけるステントの展開を示す。
【
図14H】ステントの展開後拡張を実行するバルーンカテーテルの実施形態を示す。
【
図16A】頸動脈で使用するために構成された一実施形態に係るステントの側面図を示し、ステントは第1のパターン変化を含む。
【
図16B】頸動脈で使用するために構成された一実施形態に係るステントの側面図を示し、ステントは第1のパターン変化を含む。
【
図16C】
図16A~
図16Bのステントに沿ったブリッジ長さの変化を示すグラフであり、ブリッジ長さの変化は多項式関数によって定められる。
【
図17A】頸動脈で使用するために構成された一実施形態に係るステントの側面図を示し、ステントは第2のパターン変化を含む。
【
図17B】頸動脈で使用するために構成された一実施形態に係るステントの側面図を示し、ステントは第2のパターン変化を含む。
【
図17C】
図17A~
図17Bのステントに沿ったブリッジ長さの変化を示すグラフであり、ブリッジ長さの変化は多項式関数によって定められる。
【
図18A】頸動脈で使用するために構成された一実施形態に係るステントの側面図を示し、ステントは第3のパターン変化を含む。
【
図18B】頸動脈で使用するために構成された一実施形態に係るステントの側面図を示し、ステントは第3のパターン変化を含む。
【
図18C】
図18A~
図18Bのステントに沿ったブリッジ長さの変化を示すグラフであり、ブリッジ長さの変化は多項式関数によって定められる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、概して、医療方法および医療機器に関する。より具体的に、本開示は、頸動脈血管系にアクセスして逆行性血流を確立する方法およびシステム、頸動脈血管形成術の実施、頸動脈ステント留置術、及びその他の処置に関する。例えば、本明細書では、4次多項式などの多項式関数によって定義される様々なパターン変化(パターンバリエーション)を有する様々な実施形態に係るステントについて説明される。
【0019】
図1Aは、第1の実施形態に係る逆行性血流システム100を示す。逆行性血流システム100は、脳血管系、特に内頸動脈への塞栓の放出を制限または防止するために、頸動脈分岐部の領域における逆行性または逆流血液循環を確立および促進するように構成されている。逆行性血流システム100は、頸動脈と相互作用して、頸動脈から内頸静脈などの静脈還流部位(または、代替実施形態では別の大きな静脈または外部容器などの別の還流部位)への逆行性血流を提供する。逆行性血流システム100は、動脈アクセス装置110と、静脈還流装置115と、動脈アクセス装置110から静脈還流装置115への逆流(逆行性血流)のための通路を提供するシャント120とを含む。流量制御アセンブリ125はシャント120と相互作用する。流量制御アセンブリ125は、以下により詳細に説明されるように、総頸動脈から内頸静脈への逆流を調節および/または監視するように構成されている。流量制御アセンブリ125は、流路の外部、流路の内部、またはその両方で、シャント120を介して流路と相互作用する。以下により詳細に説明されるように、動脈アクセス装置110は、総頸動脈(CCA)に少なくとも部分的に挿入し、静脈還流装置115は、内頸静脈(IJV)などの静脈還流部位に少なくとも部分的に挿入する。動脈アクセス装置110および静脈還流装置115は、接続位置127a,127bでシャント120に結合する。総頸動脈を通る血流が遮断されると、内頸動脈と静脈系との間の自然な圧力勾配により、血液が脳血管系から内頸動脈とシャント120とを通って静脈系へ逆行性方向または逆方向RG(
図2A)に流れる。流量制御アセンブリ125は、逆行性血流を調節、増強、補助、監視、および/またはその他の方法で調節する。
【0020】
図1Aの実施形態において、動脈アクセス装置110は、経頸動脈アプローチを介して総頸動脈(CCA)にアクセスする。経頸動脈アクセスは、血管アクセスポイントから標的治療部位までの短く蛇行しない経路を提供し、これにより、例えば経大腿アプローチと比較して、処置の時間と難易度が軽減される。一実施形態において、動脈切開部から標的治療部位までの動脈距離(動脈を通って測定される距離)は、通常15cm以下である。一実施形態において、当該動脈距離は、5~10cmであってもよい。さらに、このアクセスルートにより、罹患した、角張った、又は曲がりくねった大動脈弓または総頸動脈の解剖学的構造を通過する際における塞栓生成のリスクが軽減される。静脈還流装置115の少なくとも一部は、内頸静脈(IJV内)に配置される。一実施形態において、総頸動脈への経頸動脈アクセスは、動脈アクセス装置110が挿入される皮膚の切開または穿刺を介して経皮的に達成される。切開が使用される場合、切開の長さは約0.5cmであり得る。拡張可能なバルーンなどの閉塞要素129が、動脈アクセス装置110の遠位端の近位の位置で総頸動脈(CCA)を閉塞するために使用されてもよい。閉塞要素129は、動脈アクセス装置110上に配置されてもよいし、別個の装置上に配置されてもよい。代替の実施形態では、動脈アクセス装置110は、直接的な外科的経頸動脈アプローチを介して総頸動脈(CCA)にアクセスする。外科的アプローチでは、止血帯2105を使用して総頸動脈を閉塞することができる。止血帯2105は、任意選択の外科的アプローチで使用される装置であることを示すために仮想線で示されている。
【0021】
図1Bに示される別の実施形態において、動脈アクセス装置110は、経頸動脈アプローチを介して総頸動脈(CCA)にアクセスし、一方、静脈還流装置115は、大腿静脈(FV)からなる静脈還流部位など、頸静脈以外の静脈還流部位にアクセスする。静脈還流装置115は、鼠径部の経皮穿刺を介して大腿静脈(FV)などの中心静脈に挿入することができる。
【0022】
図1Cに示される別の実施形態にのいて、動脈アクセス装置110は、大腿アプローチを介して総頸動脈にアクセスする。大腿アプローチによれば、動脈アクセス装置110は、鼠径部などの大腿動脈(FA)への経皮的穿刺を介して総頸動脈(CCA)にアプローチし、大動脈弓(AA)を上って標的総頸動脈(CCA)に達する。静脈還流装置115は、頸静脈(JV)または大腿静脈(FV)と連通することができる。
【0023】
図1Dは、さらに別の実施形態を示しており、逆行性血流システム100は、静脈還流部位ではなく頸動脈から外部容器130への逆流を提供する。動脈アクセス装置110は、流量制御アセンブリ125と連通するシャント120を介して外部容器130に接続される。血液の逆流は外部容器130に収集される。必要に応じて、血液を濾過し、その後患者に戻すこともできる。外部容器130の圧力は、ゼロ圧力(大気圧)またはさらに低い圧力に設定されてもよく、これにより、血液が脳血管系から外部容器130へ逆方向に流れるようにすることができる。任意選択で、内頸動脈からの逆流を達成または強化するために、通常、内頸動脈との分岐部のすぐ上の外頸動脈にバルーンまたは他の閉塞要素を配置することによって、外頸動脈からの流れを遮断することができる。
図1Dは、総頸動脈(CCA)による経頸動脈アプローチで配置された動脈アクセス装置110を示すが、外部容器130の使用は、経大腿アプローチの動脈アクセス装置110にも使用され得ることを理解されたい。
【0024】
図1Eは、逆行性血流システム100のさらに別の実施形態を示す。上述の実施形態と同様に、このシステムは、動脈アクセス装置110、流量制御アセンブリ125を備えたシャント120、および静脈還流装置115を含む。動脈アクセス装置110と静脈還流装置115は、接続位置127a,127bでシャント120に結合する。この実施形態において、流量制御アセンブリは、インラインフィルタ、一方向バルブ、および単一の流量制御ハウジングに収容された流量制御アクチュエータも含む。
【0025】
図2Aの頸動脈の拡大図を参照すると、ステントデリバリーシステム135及び/又は他の作動カテーテル(例えば、バルーンカテーテル)などの介入装置は、以下に詳細に説明されるように、動脈アクセス装置110を介して頸動脈に導入され得る。ステントデリバリーシステム135は、頸動脈内にステントを展開するなど、プラークPを治療するために使用され得る。例えば、本明細書に開示されているいずれの実施形態に係るステント(例えば、本開示の
図16A~
図16B、
図17A~
図17B、及び
図18A~
図18Bに示された実施形態のステント1600)も、ステントデリバリーシステムで使用され得る。以下でより詳しく説明さるように、例えば、頸動脈形成術を実行し、ステントの拡張および/または展開を補助するために、ステント展開の前および/または後にバルーン拡張を実行するのに、バルーンカテーテルが使用され得る。
図2Aの矢印RGは、逆行性血流の方向を表す。
【0026】
図2Bは、別の実施形態を示す。この実施形態において、動脈アクセス装置110は、動脈-静脈シャントを作成する目的、および少なくとも1つの介入装置を頸動脈に導入する目的で使用される。閉塞要素129を備えた別個の動脈閉塞装置112が、動脈アクセス装置110の遠位端の近位位置で総頸動脈(CCA)を閉塞するために使用されてもよい。
【0027】
図2Dは、さらに別の実施形態を示す。この実施形態において、動脈アクセス装置110は、閉塞要素129(例えば、閉塞バルーン)を使用して動脈-静脈シャントおよび動脈閉塞を形成する目的で使用される。別個の動脈導入装置が、動脈アクセス装置110の遠位の位置で頸動脈に少なくとも1つの介入装置を導入するために使用されてもよい。
【0028】
<組織(解剖学的構造)の説明>
[側副脳循環]
ウィリス輪(CW)は脳の主要動脈吻合幹であり、脳に血液を供給するすべての主要動脈、つまり2本の内頸動脈(ICA)と椎骨脳底系が接続する。血液はウィリス輪から前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈によって脳に運ばれる。この動脈間の交通連絡により、脳を通る側副循環が可能になる。代替ルートを通る血流が可能になり、これにより、脳に血液を供給する1つ又は複数の血管が閉塞した場合の安全機構が提供される。脳は、動脈系のどこかに閉塞がある場合でも(例えば、本明細書に記載のように内頸動脈(ICA)が結紮されている場合)、ほとんどの場合、適切な血液供給を受け続けることができる。ウィリス輪を通る血流は、血液を奪われた側に再分配する多数の経路によって適切な脳血流を確保する。
【0029】
ウィリス輪の側副の可能性は、その構成血管の存在とサイズに依存すると考えられている。これらの血管には個人間のかなりの解剖学的差異が存在する可能性があり、関与する血管の多くが疾患を患っている可能性があることを理解されたい。例えば、交通動脈の1つが欠如している人もいる。このような人に閉塞が発生すると、側副血行路が損なわれ、虚血現象が発生し、脳損傷が生じる可能性がある。さらに、灌流圧の低下に対する自己調節反応には、ウィリス輪の交通動脈などの側副動脈の拡大が含まれる場合がある。側副血行が正常な機能をサポートするレベルに達するまでに、この代償機構の調整時間が必要になる場合がある。この自動調整反応は、15~30秒にわたって発生する可能性があり、特定の圧力範囲内および特定の流量低下範囲内のみで補償可能である。したがって、調整期間中に一過性脳虚血発作が発生する可能性がある。長期間にわたる非常に高い逆行性流量は、患者の脳に十分な血流が得られない状態を引き起こす可能性があり、神経症状や場合によっては一過性虚血発作によって示されるような患者の不耐症を引き起こす可能性がある。
【0030】
図4は、正常な脳循環およびウィリス輪(CW)の形成を示す。大動脈(AO)は腕頭動脈(BCA)を生じ、左総頸動脈(LCCA)と左鎖骨下動脈(LSCA)に分岐する。大動脈(AO)はさらに、右総頸動脈(RCCA)および右鎖骨下動脈(RSCA)を生じる。左右の総頸動脈(CCA)は内頸動脈(ICA)を生じ、中大脳動脈(MCA)、後交通動脈(PCoA)、および前大脳動脈(ACA)に分岐する。前大脳動脈(ACA)は、前頭葉の一部と線条体に血液を送る。中大脳動脈(MCA)は、脳の各半球の側面全体に血液を運ぶ木のような枝を持つ大きな動脈である。左右の後大脳動脈(PCA)は脳底動脈(BA)から生じ、血液を脳の後部(後頭葉)に送る。
【0031】
前方では、ウィリス輪は、前大脳動脈(ACA)と、2つの前大脳動脈(ACA)を接続する前交通動脈(ACoA)とによって形成される。2つの後交通動脈(PCoA)は、ウィリス動脈輪を2つの後大脳動脈(PCA)に接続し、脳底動脈(BA)から分岐して後方で交通動脈を完成する。
【0032】
総頸動脈(CCA)は外頸動脈(ECA)も生じ、これは広範囲に分岐して脳と眼窩内容物を除く頭部のほとんどの構造に血液を供給する。外頸動脈(ECA)は、首や顔の構造への供給にも役立つ。
【0033】
[頸動脈分岐部]
図5は、患者の首における関連する血管系の拡大図を示す。総頸動脈(CCA)は、分岐部Bで分岐して内頸動脈(ICA)と外頸動脈(ECA)とに分かれる。分岐部Bはほぼ第4頸椎の高さに位置する。
図5は、分岐部Bに形成されたプラークPを示す。
【0034】
上述のように、動脈アクセス装置110は、経頸動脈アプローチを介して総頸動脈(CCA)にアクセスし得る。経頸動脈アプローチに従って、動脈アクセス装置110は、動脈アクセス位置Lで総頸動脈(CCA)に挿入される。該挿入は、例えば、総頸動脈(CCA)の壁の外科的切開または穿刺であってもよい。通常、動脈アクセス位置Lと分岐部Bとの間には、約5~7cmの距離Dがある。動脈アクセス装置110が総頸動脈(CCA)に挿入されるとき、動脈アクセス装置110の遠位先端が分岐部Bに接触することは、プラークPを破壊し、塞栓粒子の生成を引き起こす可能性があるため、望ましくない。動脈アクセス装置110が分岐部Bに接触する可能性を最小限に抑えるために、一実施形態では、処置中に動脈アクセス装置の遠位領域の約2~4cmだけが総頸動脈(CCA)に挿入される。
【0035】
総頸動脈は、両側が頸動脈鞘と呼ばれる筋膜の層に包まれている。頸動脈鞘は、内頸静脈と迷走神経も包み込んでいる。頸動脈鞘の前には胸鎖乳突筋がある。経皮的または外科的による総頸動脈および内頸静脈への経頸動脈アクセスは、迷走神経を避けるように注意しながら、鎖骨のすぐ上、胸鎖乳突筋の2つの頂部の間で頸動脈鞘を通して行うことができる。
【0036】
頸動脈鞘の上端において、総頸動脈は内頸動脈と外頸動脈とに分岐する。内頸動脈は分岐することなく上方に延び続け、頭蓋骨に入り、網膜と脳に血液を供給する。外頸動脈は、頭皮、顔面、眼球、その他の表面構造に血液を供給するように分岐する。動脈の前後には、いくつかの顔面神経と脳神経が絡み合っている。更なる首の筋肉が分岐部に重なることもある。これらの神経と筋肉の構造は、頸動脈内膜剥離術中に解剖され、押しのけられて頸動脈分岐部にアクセスすることができる。場合によっては、頸動脈の分岐部が下顎の高さに近いため、アクセスがより困難になり、保護すべき様々な神経から分岐部を分離する余地が少なくなる。このような場合、不注意による神経損傷のリスクが増大する可能性があり、開放動脈内膜切除術は適切な選択肢ではないことがある。
【0037】
[逆行性血流システムの詳細な説明]
上述のように、逆行性血流システム100は、動脈アクセス装置110と、静脈還流装置115と、動脈アクセス装置110から静脈還流装置115への逆流のための通路を提供するシャント120とを含む。逆行性血流システム100はまた、シャント120と相互作用して、シャント120を通る逆行性血流を調節および/または監視する流量制御アセンブリ125を含む。次に、逆行性血流システム100の構成要素の例示的な実施形態について説明される。
【0038】
[動脈アクセス装置]
図6Aは、遠位シース605、近位延長部610、流路615、アダプタすなわちYコネクタ620、および止血弁625を含む動脈アクセス装置110の例示的な実施形態を示す。動脈アクセス装置はまた、テーパ状の遠位端650を備えた拡張器(ダイレータ)645およびイントロデューサのガイドワイヤ611を含んでもよい。動脈アクセス装置は、血管にアクセスするために、拡張器およびイントロデューサのガイドワイヤとともに使用される。動脈アクセス装置の機能は、経頸動脈アクセス用に最適化することができる。例えば、アクセス装置の構成要素の設計は、鋭い挿入角度による血管の潜在的な損傷を制限し、非外傷性かつ確実なシースの挿入を可能にし、血管に挿入されるシース、シース拡張器、およびイントロデューサのガイドワイヤの長さを制限するように最適化することができる。
【0039】
遠位シース605は、総頸動脈の壁の切開または穿刺、例えばセルジンガー技術を使用して確立された外科的切開または経皮穿刺を通して導入されるように構成されている。遠位シース605の長さは5cm以上15cm以下の範囲であってもよく、通常は10cm以上12cm以下である。
【0040】
遠位シース605の内径は、7Fr(1Fr=0.33mm)以上10Fr以下の範囲であり、通常は8Frである。
【0041】
遠位シース605は、特に、経頸動脈アプローチを通じて鎖骨上かつ頸動脈分岐部の下にシースが導入される場合、よじれや座屈に耐えるフープ強度を維持しながら、非常に柔軟であることが望ましい。したがって、遠位シース605は、編組、螺旋リボン、螺旋ワイヤ、カットチューブなどによって周方向に補強されてもよく、補強構造が外側ジャケット層と内側ライナーとの間に挟まれるように内側ライナーを有する。内側ライナーは、PTFEなどの低摩擦材料であってもよい。外側ジャケット層は、ポリエーテルブロックアミド共重合体(Pebax)、熱可塑性ポリウレタン、またはナイロンを含む材料群のうちの1つまたは複数であってもよい。一実施形態では、補強構造または補強材料、および/または、外側ジャケット層の材料または厚さは、遠位シース605の長さ方向位置によって変化してもよく、これにより、長さに沿った可撓性を変化させることができる。別の実施形態において、遠位シースは、経皮穿刺によって鼠径部などの大腿動脈に導入され、大動脈弓(AA)を経由して標的の総頸動脈(CCA)まで導入されるように構成されてもよい。
【0042】
図6B(遠位シース605の遠位領域630の拡大図)に示すように、遠位シース605は、縮径された遠位領域630を有する段付きまたは他の構成を有し得る。シースの遠位領域630は、頸動脈に挿入するためのサイズであってもよく、典型的には2.16mm(0.085インチ)以上2.92mm(0.115インチ)以下の範囲の内径を有する。シースの残りの近位領域はより大きな外径および管腔直径を有し、内径は、典型的には2.794mm(0.110インチ)以上3.43mm(0.135インチ)以下の範囲にある。近位領域のより大きな内腔直径により、シースの全体的な流れ抵抗が最小限に抑えられる。一実施形態では、縮径された遠位領域(遠位セクション)630は、約2cm以上4cm以下の長さを有する。縮径された遠位領域(遠位セクション)630の長さが比較的短いため遠位シース605の遠位端が分岐部Bに接触するリスクを低減しながら、経頸動脈アプローチを介してこのセクションを総頸動脈(CCA)内に配置することができる。さらに、縮径された遠位領域(遠位セクション)630は、血流抵抗のレベルにおける影響を最小限に抑えながら、動脈内に遠位シース605を導入するための動脈切開部のサイズを減少させることも可能にする。さらに、縮径された遠位領域(遠位セクション)630は、より柔軟性を有してもよく、これにより、血管の内腔により適合(フィット)し得る。
【0043】
再び
図6Aを参照すると、細長い本体である近位延長部610は、遠位シース605の内腔に連続する内腔を有する。前記内腔は、流路615の管腔をシースに接続するYコネクタ620によって結合され得る。
【0044】
組み立てられたシステムにおいて、流路615は、逆流シャント(シャント120)に接続し、シャント120の第1のシャント肢を形成する(
図1参照)。近位延長部610は、経皮的または外科的挿入部位に隣接するYコネクタ620から止血弁625を十分に離すのに十分な長さを有し得る。止血弁625を経皮挿入部位から離すことによって、医師は、透視検査が行われているときに、透視視野から離れたまま、ステントデリバリーシステムまたは他の作動カテーテルを近位延長部610および遠位シース605に導入することができる。一実施形態では、近位延長部610は、遠位シース605との最遠位接合部(止血弁625など)から近位延長部610の近位端まで約16.9cmである。一実施形態では、近位延長部は0.125インチの内径と0.175インチの外径を有する。一実施形態では、近位延長部の壁厚は0.025インチである。内径は、例えば、0.60インチ以上0.150インチ以下の範囲であり、壁の厚さは0.010インチ以上0.050インチ以下であってもよい。別の実施形態では、内径は、例えば0.150インチ以上0.250インチ以下の範囲であり、壁の厚さは0.025インチ以上0.100インチ以下であってもよい。近位延長部の寸法は異なる場合がある。一実施形態では、近位延長部は、約12cm以上20cm以下の範囲内の長さを有する。別の実施形態では、近位延長部は、約20cm以上30cm以下の範囲内の長さを有する。
【0045】
一実施形態では、止血弁625から遠位シース605の遠位端までのシースに沿った距離は、約25cm以上40cm以下の範囲にある。一実施形態では、前記距離は、約30cm以上35cm以下の範囲にある。動脈への2.5cmのシースの導入、および動脈切開部位から標的部位までの動脈距離が5~10cmであることを可能にするシステム構成により、このシステムは、止血弁625(アクセスシースへの介入装置の導入位置)から32~43cmの標的部位までの距離を、約32.5cm~42.5cmの範囲にすることを可能にする。この距離は、従来技術で必要とされる距離の約3分の1である。
【0046】
フラッシュライン635は、止血弁625の側部に接続されることができ、その近位端または遠位端にストップコック640を有し得る。フラッシュライン635は、処置中に生理食塩水、造影剤などの導入を可能にする。フラッシュライン635はまた、処置中の圧力監視を可能にすることができる。総頸動脈への遠位シース605の導入を容易にするために、テーパ状の遠位端650を有する拡張器645が設けられてもよい。拡張器645は、テーパ状の遠位端650が遠位シース605の遠位端を通って延在するように、止血弁625を通して導入され得る(
図7A参照)。拡張器645は、ガイドワイヤを収容するための中央管腔を有し得る。典型的には、ガイドワイヤが最初に血管内に配置され、拡張器/シースの組み合わせは、血管内に導入される際にガイドワイヤ上を移動する。
【0047】
任意選択的に、
図7Aに示すように、遠位シース605の外側に同軸上に受容される例えばチューブ形状のシースストッパー705が設けられてもよい。シースストッパー705は、シースが血管内に深く挿入されないようにするシースストッパーとして機能するように構成されている。シースストッパー705は、シース本体(遠位シース605)の一部を覆い、シース本体(遠位シース605)の遠位部分を露出したままにするように、シース本体(遠位シース605)上に配置されるようなサイズおよび形状である。シースストッパー705は、アダプタ(Yコネクタ620)と係合するフレア状の近位端(フランジ710)と、遠位端715とを有してもよい。任意選択的に、
図7Bに示すように、遠位端715は斜めに構成されてもよい。シースストッパー705は、少なくとも2つの目的を果たし得る。第1に、
図7Aに示すように、シースストッパー705の長さは、シース挿入長さがシースの露出遠位部分に制限されるように、遠位シース605の露出遠位部分への遠位シース605の導入を制限する。一実施形態では、シースストッパーは、露出した遠位部分を2cm~3cmの間の範囲に制限する。一実施形態では、シースストッパーは、露出された遠位部分を2.5cmに制限した。換言すれば、シースストッパーは、動脈へのシースの挿入を約2cm~3cmの間の範囲、または2.5cmまでに制限することができる。第2に、シースストッパー705は、頸動脈壁に配置された予め展開された穿刺閉鎖装置(存在する場合)と係合し、閉鎖装置を取り外すことなく遠位シース605を引き抜くことができる。シースストッパー705は、シース本体がシースストッパー705の下で明瞭に見えるように、透明な材料から製造されてもよい。シースストッパー705はまた、可撓性材料から作られてもよく、またはシースストッパー705は、動脈に挿入されると適切な位置で必要に応じてシースが曲がることができるように、関節または可撓性を高めた部分を含む。シースストッパーは、ユーザが解放したときにその形状を保持するように、所望の形状に曲げることができるように、塑性的に曲げ可能であってもよい。シースストッパーの遠位部分はより硬い材料から作られ、近位部分はより柔軟な材料から作られ得る。一実施形態では、より硬い材料は85Aのデュロメータであり、より柔軟な部分は50Aのデュロメータである。一実施形態では、より硬い遠位部分は、シースストッパー705の1~4cmである。シースストッパー705は、シースから取り外し可能であってもよく、その結果、ユーザがより長いシース挿入を望む場合、ユーザは、シースストッパー705を取り外し、(シースストッパーの長さ)をより短く切り、より長い挿入可能なシースの長さがシースストッパー705から突出するようにシースストッパー705をシース上に再組み立てすることができる。
【0048】
図7Cは、別の実施形態のシースストッパー705を示す。該シースストッパー705は、拡張器645が配置されたシース605に隣接して配置されている。
図7Cのシースストッパー705は、直線形状などの第1の形状から、第1の形状とは異なる第2の形状に変形することができ、十分な外力がシースストッパーに作用して形状が変化するまで、シースストッパーは第2の形状を保持する。第2の形状は、例えば、非直線、湾曲、またはその他の輪郭を有する形状または不規則な形状であってもよい。例えば、
図7Cは、直線部分だけでなく複数の屈曲部を有するシースストッパー705を示している。
図7Cは単なる一例を示しており、シースストッパー705は、その長手方向軸に沿って任意の個数の屈曲部を有するように形成されてもよいことを理解されたい。
図7Dは、シースストッパー705がシース605上に配置された状態を示している。シースストッパー705は、遠位シース605がシースストッパー705の輪郭の形状に適合する形状または輪郭をとるように、遠位シース605よりも高い剛性を有する。
【0049】
シースストッパー705は、動脈へのシース挿入の角度、および動脈の深さまたは患者の体癖に従って形状を形成することができる。この特徴により、特にシースが急な角度で血管に挿入される場合に、血管壁におけるシースの先端の力が軽減される。シースストッパーは、動脈切開への進入角度が比較的急である場合でも、進入する動脈と同軸にシースを配向するのを助ける形状に曲げられるか、その他の方法で変形され得る。シースストッパーは、シースを患者に挿入する前にオペレーターによって成形されてもよい。あるいは、シースストッパーは、シースが動脈に挿入された後に現場で成形および/または再成形されてもよい。
図7E及び
図7Fは、可鍛性のシースストッパー705の使用例を示している。
図7Eは、シース605上に直線形状で配置されたシースストッパー705を示している。シース605は、シースストッパー705の直線形状を呈し、シース605の遠位端が動脈の壁に当接または対向するように、比較的急な角度で動脈Aに進入する。
図7Fでは、ユーザが、シース605の長手方向軸が動脈Aの軸により一致するように、シースストッパー705を曲げてシース605の進入角度を調整している。このように、シースストッパー705は、ユーザによって、シース605を動脈Aの反対側の壁から遠ざけ、
図7Eの形状に比べて動脈Aの軸に対してより同軸の方向に向けるのに役立つ形状に形成される。
【0050】
一実施形態では、シースストッパー705は、可鍛性材料から作られるか、またはシースストッパー上またはシースストッパー内に配置された一体の可鍛性コンポーネントで作られる。別の実施形態では、シースストッパーは、同心管、プルワイヤなどのアクチュエータを使用して関節運動するように構築される。シースストッパーの壁は、シースストッパーが動脈または入口の屈曲部に遭遇したときなどの外力に対してその形状を保持するのを助けるために、延性ワイヤまたはリボンで補強されてもよい。あるいは、シースストッパーは、金属およびポリマーを含む均質な可鍛性チューブ材料で構築されてもよい。シースストッパー本体は、変形後にその形状を保持できる強化された編組またはコイルで少なくとも部分的に構築されてもよい。
【0051】
別のシースストッパーの実施形態は、シースが血管内に配置された後でも、(シースに対する)シースストッパーの位置の調整を容易にするように構成される。シースストッパーの一実施形態は、長さの大部分または全体に沿ってスリットを備えたチューブを含み、その結果、シースストッパーをシース本体から剥がし、所望に応じて前方または後方に移動させ、次いでシース本体の長さに沿って再配置することができる。チューブは近位端にタブまたは機構を備えているため、掴んでより簡単に剥がすことができる。
【0052】
別の実施形態では、シースストッパーは、シース本体の遠位セクション上にある非常に短いチューブ(バンドなど)、またはリングである。シースストッパーは、例えば鉗子で容易に掴むことができ、所望に応じて新しい位置に前後に引くことができ、処置に適切なシースの挿入長さを設定することができる機能を含んでもよい。シースストッパーは、チューブ材料からの摩擦によって、またはシース本体に対して開閉可能なクランプによってシース本体に固定され得る。クランプは、通常はシース本体にクランプされるバネ式クランプであってもよい。シースストッパーを移動するには、ユーザは指または器具でクランプを開き、クランプの位置を調整してからクランプを解放する。クランプはシース本体と干渉しないように構成されている。
【0053】
別の実施形態では、シースストッパーは、シースストッパーおよびシースを患者の組織に縫合して、シースの固定を改善し、シースが外れる危険性を低減することを可能にする構成を含む。この構成は、シースストッパーチューブに取り付けられるか、またはシースストッパーチューブ内に成形される縫合糸アイレットであってもよい。
【0054】
別の実施形態では、
図9Aに示されるように、シースストッパー705は、シースストッパーの力を血管壁のより広い領域に分散させるようなサイズおよび形状の遠位フランジ710を含み、それにより、血管の損傷または動脈切開を通して血管内へのシースストッパーの偶発的な挿入のリスクを低減する。フランジ710は、シースストッパーの力を血管壁上の広い領域に分散させるのに十分な大きさの丸い形状または他の非外傷性の形状を有していてもよい。一実施形態では、フランジは膨張可能または機械的に拡張可能である。例えば、動脈シースおよびシースストッパーは、皮膚の小さな穿刺を通して手術領域に挿入され、その後、シースを動脈に挿入する前に拡張され得る。
【0055】
シースストッパーは、シースストッパーの長さに沿って千鳥状の構成でパターン化された1つまたは複数の切り欠きまたはくぼみ720を含むことができ、その結果、くぼみは、動脈壁に対するシースストッパーの前方への力を可能にする軸方向の強度を維持しながら、シースストッパーの屈曲性を増大させる。くぼみは、シースの脱落を軽減するために、縫合糸を介して患者にシースを固定しやすくするためにも使用され得る。シースストッパーはまた、シースストッパーを動脈シースにロックまたはロック解除できるように、動脈シースの特徴に対応するコネクタ要素730を近位端に含んでもよい。例えば、コネクタ要素は、ハブ上のピン750に対応するほぼL字型のスロット740を備えたハブで、バヨネットマウント形式の接続を作成する。このようにして、シースストッパーをハブにしっかりと取り付けることができ、ハブからのロックを解除しない限り、シースストッパーがハブから不用意に取り外される可能性を低減することができる。
【0056】
遠位シース605は、総頸動脈上の概ね前後方向のアプローチから総頸動脈内の概ね管腔軸方向への曲線状の遷移を確立するように構成され得る。直接的な外科的切開または経皮的アクセスのいずれかによる総頸動脈壁を介した動脈アクセスでは、通常、他の動脈アクセス部位よりも大きなアクセス角度が必要になる場合がある。このことは、総頸動脈の挿入部位が他のアクセスポイントよりも治療部位(頸動脈分岐部)に非常に近いという事実による。挿入部位から治療部位までの距離を増やして、シースの遠位端が頸動脈分岐部に達することなく、シースを適切な距離に挿入できるようにするには、より大きなアクセス角度が必要である。例えば、経頸動脈アクセスの場合、シース挿入角度は、通常30~45度、又はそれ以上であり、大腿動脈へのアクセスの場合、シース挿入角度は15~20度になることがある。したがって、シースは、ねじれたり反対側の動脈壁に過度の力を加えたりすることなく、イントロデューサシースで通常行われるよりも大きく曲がる必要がある。さらに、シースの先端は、挿入後にシースへの流れを制限するような態様で動脈壁に当接したり接触したりしないことが望ましい。シースの挿入角度は、動脈の内腔軸とシースの長手方向軸との間の角度として定義される。
【0057】
シース本体(遠位シース605)は、アクセス角度によって必要になるこの大きな曲げを可能にするために、様々な方法で形成され得る。例えば、シース及び/又は拡張器は、一般的なイントロデューサシースよりも低い曲げ剛性を有してもよい。一実施形態において、シースと拡張器との組み合わせ(すなわち、内部に拡張器が配置されたシース)は、約80~100N・m2×10-6の範囲の曲げ剛性(E×I)を有する。ここで、Eはヤング係数(弾性係数)であり、Iはデバイスの断面二次モーメント(面積慣性モーメント)である。シース単独の曲げ剛性は約30~40N・m2×10-6の範囲であり、拡張器単独の曲げ剛性は約40~60N・m2×10-6の範囲である。一般的なシースと拡張器との組み合わせの曲げ剛性は150~250N・m2×10-6の範囲である。材料の選択や補強の設計によって、より高い柔軟性が実現されてもよい。例えば、シースは、ステンレス鋼のリボンコイル補強材を有する。リボンコイル補強材は、0.002~0.003インチの厚さ、0.005~0.015インチの幅を有し、外側ジャケットの硬度(デュロメータ)は40~55Dである。一実施形態において、リボンコイル補強材は、0.003インチの厚さ、0.010インチの幅を有し、外側ジャケットの硬度(デュロメータ)は45Dである。一実施形態において、シース605は、先端から一定の距離(典型的には、0.5~1cm)の位置に湾曲部または屈曲部(アングル部)を有するように予め成形されてもよい。予め成形された湾曲部または屈曲部は、通常、5°~90°の範囲、好ましくは10°~30°の範囲の方向転換を提供し得る。導入の初期において、シース605は、その内腔内に配置された閉塞具または他の直線状若しくは形作られた器具(例えば、拡張器645)によって、真っ直ぐにされる。シース605が経皮的または他の動脈壁貫通部を通して少なくとも部分的に導入された後、閉塞具が引き抜かれることで、シース605は、動脈内腔で事前に形成された構成を再びとり得る。挿入中に真っ直ぐになった後もシース本体の湾曲形状または屈曲形状を維持するために、シースは、製造中に湾曲形状または屈曲形状に熱セットされてもよい。あるいは、補強構造がニチノールから構成され、製造中に湾曲形状または屈曲形状に熱成形されてもよい。あるいは、シース本体に追加のばね要素が追加されてもよく、例えば、ばね鋼またはニチノールのストリップが正しい形状でシースの補強層に追加されてもよい。
【0058】
他のシース構成には、シースが配置され、カテーテルがその場で所望の展開角度に逸らされるような機構を備えることが含まれてもよい。さらに他の構成において、カテーテルは、総頸動脈の内腔内に配置されると軟質の構成となる。所定の位置に配置されると、プルワイヤ又はその他の補強機構が、シースを所望の構成に成形および補強するように展開され得る。このような機構の特定の例は、医学文献や特許文献にも記載されているように、一般に「シェイプロック(形状記憶)」機構として知られている。
【0059】
別のシース構成は、直線状でありながら可撓性のシースに挿入された湾曲した拡張器を備え、挿入中において、拡張器とシースが湾曲する。シースは、拡張器を取り外した後も解剖学的構造に適合するのに十分な可撓性を有する。
【0060】
別のシースの実施形態は、1つ又は複数の可撓性の遠位セクションを含むシースである。当該シースは、挿入されて角度が付けられた構成になると、よじれることなく、また、対向する動脈壁に過度の力を与えることなく、大きな角度で曲がることができる。一実施形態において、シース本体(遠位シース605)の最遠位セクションは、シース本体の残りの部分よりも柔軟である。例えば、最遠位セクションの曲げ剛性は、シース本体(遠位シース605)の残りの部分の曲げ剛性の半分~10分の1である。一実施形態において、最遠位セクションの曲げ剛性は30~300N・mm
2の範囲であり、シース本体(遠位シース605)の残りの部分の曲げ剛性は500~1500N・mm
2の範囲である。総頸動脈(CCA)アクセス部位用として構成されたシースの場合、柔軟な最遠位セクションは、比率として表現され得るシース本体222の重要な部分を構成する。一実施形態では、可撓性の最遠位セクションの長さとシース本体222の全体の長さとの比は、シース本体222全体の長さの少なくとも10分の1であり、最大で2分の1である。このような柔軟性の変化は、様々な方法で実現され得る。例えば、外側のジャケットは、複数のセクションで硬度(デュロメータ)や材質が変化してもよい。あるいは、シース本体の全長にわたって補強構造または材料が変化してもよい。一実施形態において、柔軟な最遠位セクションは、1cm~3cmの範囲である。柔軟性の異なる複数のセクションを備えた実施形態において、(最遠位セクションに比べて)柔軟性の低いセクションは、最遠位セクションから1cm~2cm離れていてもよい。一実施形態において、柔軟な最遠位セクションの曲げ剛性は約30~50N・m
2×10
-6の範囲にあり、柔軟性の低いセクションの曲げ剛性は約50~100N・m
2×10
-6の範囲にある。別の実施形態では、より柔軟なセクションが0.5~1.5cmの間に配置され、長さが1~2cmになる。これにより、シースが斜めに動脈に入る場合でも、シースの遠位セクションが血管の軸に対してより簡単に位置合わせされることを可能にする関節セクションが作成される。柔軟性が異なる複数のセクションを備えたこれらの構成は、いくつかの方法で製造され得る。例えば、補強された柔軟性の低いセクションは、近位セクションに硬い補強があり、遠位セクション又は関節セクションに柔軟な補強があるように変化してもよい。一実施形態において、シースの最も外側のジャケット材料は、近位セクションでは45D~70Dの硬度(デュロメータ)であり、最遠位セクションでは80A~25Dの硬度(デュロメータ)である。一実施形態において、シースの柔軟性はシース本体の長さに沿って連続的に変化する。
図7Gは、動脈に挿入されたこのようなシースを示しており、柔軟な遠位セクションによってシース本体が曲がり、遠位先端が血管内腔に沿ってほぼ位置合わせされ得る。一実施形態において、コイルまたは編組のピッチを変えるか、又は、異なるカットパターンを有するカットハイポチューブを組み込むことによって、遠位セクションがより柔軟な補強構造で作られる。あるいは、遠位セクションは近位セクションとは異なる補強構造を有する。
【0061】
一実施形態において、遠位シースのテーパ先端部は、遠位シース本体よりも硬い材料から製造される。この目的は、シースに非常に滑らかなテーパを付けることでシースの挿入を容易にし、血管へのシース挿入中および挿入後のシース先端の歪みや楕円化の変化を減らすことである。一例において、遠位シースのテーパ先端部の材料は、高硬度(例えば、60~72DのショアD硬度)の材料から製造される。別の例において、遠位シースのテーパ先端部は、別の材料(例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、ステンレス鋼、又は他の適切なポリマーや金属など)から製造される。更なる実施形態において、遠位シースのテーパ先端部は、ポリマー材料への添加剤(例えばタングステン若しくは硫酸バリウム)として、又は、材料の固有の特性(ほとんどの金属材料の場合)として、放射線不透過性材料から製造される。
【0062】
別の実施形態において、拡張器645は、可変の剛性を有してもよい。例えば、拡張器のテーパ状の遠位端650は、シースと拡張器が動脈に挿入されるときに血管が損傷するリスクを最小限に抑えるために、拡張器の近位部よりも柔軟な材料で作られてもよい。一実施形態において、柔軟な遠位セクションの曲げ剛性は約45~55N・m2×10-6の範囲にあり、柔軟性の低い近位セクションの曲げ剛性は約60~90N・m2×10-6の範囲にある。拡張器のテーパ形状は、経頸動脈アクセス用に最適化されてもよい。例えば、動脈に入るシースと拡張器の先端部の量を制限するには、テーパの長さとシースを越えて伸びる拡張器の量とが、一般的なイントロデューサシースよりも短くする必要がある。例えば、テーパの長さは1~1.5cmであり、シース本体の端部から1.5~2cm延びる。一実施形態において、拡張器の遠位端に放射線不透過性マーカーが含まれ、これにより、透視検査において先端の位置が容易に視認可能となる。
【0063】
別の実施形態において、イントロデューサガイドワイヤは経頸動脈アクセスに最適に構成される。通常、イントロデューサシースを血管に挿入する場合、最初にイントロデューサガイドワイヤが血管に挿入される。この挿入は、微小穿刺法または修正セルジンガー法のいずれかで行われてもよい。通常、シースが挿入される方向には長い血管があり、その血管(例えば、大腿動脈)内にイントロデューサガイドワイヤが挿入されてもよい。この場合、ユーザは、シースを挿入する前に、ガイドワイヤを10~15cm以上血管内に挿入してもよい。ガイドワイヤは、動脈に導入される際に血管を傷つけないように、可撓性の遠位セクションを有するように設計されている。イントロデューサガイドワイヤの可撓性の遠位セクションの長さは通常5~6cmであり、徐々に硬い部分に移行する。ガイドワイヤを10~15cm挿入すると、ガイドワイヤの硬い部分が穿刺部位に配置され、その後のシースと拡張器の血管への挿入を安定してサポートできるようになる。しかし、総頸動脈への経頸動脈シース挿入の場合、頸動脈に挿入され得るガイドワイヤの長さには限界がある。分岐部または内頸動脈に頸動脈疾患がある場合、ガイドワイヤを外頸動脈(ECA)に挿入することで塞栓のリスクを最小限に抑えることが望ましい。この場合、ガイドワイヤの挿入は約5~7cmのみになる。或いは、分岐部に到達する前にガイドワイヤを停止させて、ガイドワイヤの挿入を3~5cmに抑えることが望ましい。これにより、経頸動脈シースガイドワイヤは、3~4cmの柔軟な遠位セクション、及び/又は、より硬いセクションへの移行部が短くなり得る。あるいは、経頸動脈シースガイドワイヤは、先端部が非外傷性であるが、より硬い部分への移行部が非常に遠位で短い。例えば、柔軟な先端部は1.5~2.5cmであり、その後に長さ3~5cmの移行部が続き、その後に、ワイヤの残りの部分を構成する硬い近位部が続く。
【0064】
上記の構成に加えて、イントロデューサガイドワイヤ、細径穿刺カテーテル、又は細径穿刺カテーテルガイドワイヤに、これらのデバイスが頸動脈の病変部分に誤って前進するのを防ぐ機能が含められてもよい。例えば、ストッパー機能部がイントロデューサガイドワイヤ、細径穿刺カテーテル、及び/又は細径穿刺ガイドワイヤ上に配置されてもよく、これにより、これらのデバイスを挿入できる長さを制限し得る。ストッパー機能部は、例えば、デバイス上にスライド可能に配置される短いチューブ部分であってもよく、一旦配置されると摩擦によってデバイス上の所定の位置に留まる。例えば、ストッパー機能部は、柔らかいポリマー材料(例えば、シリコンゴム、ポリウレタン、又はその他の熱可塑性エラストマー)から製造されてもよい。ストッパー機能部の内径は、デバイスの直径と同じか、又は僅かに小さい大きさであってもよい。或いは、ストッパー機能部は、デバイスにクランプ(固定)されるように構成されてもよい。この場合、ユーザは、デバイスのクランプ(固定)を解除して位置を変えるために、ストッパー機能部を握ったりロック解除したりしてから、ストッパー機能部をデバイスから離したり、再度ロックしたりする必要がある。ストッパー機能部は、穿刺部位の位置、穿刺部位に対する分岐部の距離、及び、頸動脈分岐部の疾患の程度に基づいて、血管内への最適な進入位置に配置され得る。
【0065】
シースガイドワイヤには、ユーザが拡張器に対してワイヤの先端がどこにあるかを判断するのに役立つガイドワイヤマーカーが設けられてもよい。例えば、ワイヤの先端がマイクロアクセスカニューレの先端から出ようとしている時点に対応するマーカーがワイヤの近位端に付けられてもよい。このマーカーにより、ワイヤの位置に関する迅速なフィードバックが提供され、ユーザはワイヤの挿入量を制限し得る。別の実施形態において、ワイヤがカニューレから設定された距離(例えば、5cm)だけ出たことをユーザに知らせるための追加のマーカーがワイヤに含まれていてもよい。或いは、イントロデューサガイドワイヤ、細径穿刺カテーテル、及び/又は、細径穿刺ガイドワイヤは、マーキングペンでマークできる材料から構築されるか、又は、そのような材料から構築されるセクションを有してもよい。この場合、カテーテル検査室または手術室(OR)環境で当該マークを容易に視認できる。この実施形態において、ユーザは、上述のように解剖学的情報に基づいてコンポーネントを事前にマークし、これらのマークを使用して各コンポーネントの最大挿入量を決定する。例えば、ガイドワイヤには、マークする部分の周囲に白いコーティングが施されてもよい。
【0066】
一実施形態において、シースには、ガイドワイヤの先端に類似した穿刺能力および非外傷性の先端が組み込まれてもよい。これにより、微小穿刺法による動脈アクセスに現在使用されているニードルとワイヤの交換が不要になり、時間の節約、失血の減少、外科医のスキルの必要性の低減が可能になる。
【0067】
別の実施形態において、シース拡張器は、経頸動脈アクセス用の0.018インチのガイドワイヤ上に挿入されるように構成される。微小穿刺キットを使用した標準的なシース挿入では、まず22Gaのニードルを通して0.018インチのガイドワイヤを挿入し、次に微小穿刺カテーテルを使用してガイドワイヤを0.035インチ又は0.038インチのガイドワイヤに交換し、最後に0.035インチ又は0.038インチのガイドワイヤ上にシースと拡張器を挿入する必要がある。0.018インチのガイドワイヤ上に挿入可能なシースが存在するため、ワイヤの交換は不要になる。これらのシースは、橈骨動脈に挿入するように設計されているため、通常は「経橈骨」と表示され、0.018インチのワイヤからシース本体までの直径を適切に増加できるように、通常はより長い拡張テーパを備えている。残念ながら、経頸動脈アクセスの場合、シースと拡張器の挿入の長さが制限されているため、これらの既存のシースは適切ではない。もう1つの欠点は、0.018インチのガイドワイヤでは、頸動脈に鋭角のシースを挿入するために必要なサポートが得られない可能性があることである。本明細書に開示される実施形態において、経頸動脈シースシステムは、シース本体と、シース拡張器と、テーパ状の遠位端を備えた内側チューブとを備える。内側チューブは、シース拡張器内にスライド可能に嵌合し、0.018インチのガイドワイヤを収容し得る。
【0068】
この実施形態のシースシステムを使用するには、まず0.018インチのガイドワイヤが22Gaのニードルを通して血管に挿入される。同軸に組み立てられたシースシステムは、0.018インチのワイヤに沿って挿入される。まず、内側チューブが0.018インチのワイヤ上を前進し、これにより、本質的には外径と機械的サポートの両方において0.035インチ又は0.038インチのガイドワイヤと同等のものに変わる。内側チューブは、近位端において0.018インチのワイヤに固定される。次に、シースと拡張器が0.018インチのワイヤと内側チューブに沿って血管内に進められる。この構成により、現在の経橈骨シースのように長い拡張器テーパを必要とせず、標準のイントロデューサシースと同じガイドワイヤサポートを使用して、ワイヤ交換手順が不要になる。前述のように、この構成のシースシステムには、シース挿入時に0.018インチのガイドワイヤや内側チューブが誤って進みすぎるのを防ぐストッパー機能部が含まれてもよい。シースが挿入されると、拡張器、内側チューブ、及び0.018インチのガイドワイヤが取り外される。
【0069】
図8Aは、別の実施形態に係る動脈アクセス装置110を示す。この実施形態は、遠位シース605に、例えば総頸動脈を通る流れを閉塞するための閉塞要素129が含まれている点を除いて、
図6Aに示す実施形態と実質的に同じである。閉塞要素129が閉塞バルーンなどの膨張可能な構造である場合、シース605は、閉塞要素129と連通する膨張内腔を含み得る。閉塞要素129は、膨張可能な閉塞バルーンであってもよいが、膨張可能なカフ、径方向外側に広がって総頸動脈の内壁に係合してそこを通過する流れを遮断する円錐形またはその他の形状の周縁要素、膜で覆われた編組、軸方向に圧縮されると拡径するスロット付きチューブ、又は、機械的手段によって展開され得る同様の構造などであってもよい。バルーン閉塞の場合、閉塞バルーンは、規格適合性、非規格適合性、弾性、高強度、又は、その他の様々な特性を有し得る。一実施形態において、閉塞バルーンは、膨張前にシースの遠位端の外周に密接に嵌合する弾性バルーンである。膨張すると、弾性閉塞バルーンが拡張し、総頸動脈の内壁に密着する。一実施形態において、弾性閉塞バルーンは、非展開形態における直径と比べて少なくとも2倍まで拡張可能であり、多くの場合、非展開形態の直径の少なくとも3倍まで、より好ましくは、非展開形態の直径の少なくとも4倍、又はそれ以上まで展開可能である。
【0070】
図8Bに示すように、閉塞要素129を備えた遠位シース605は、縮径された遠位領域630を有する段付き又はその他の構成を有し得る。遠位領域630は、頸動脈に挿入可能な大きさを有し、シース605の残りの近位領域は、より大きな外径および内腔径を有する。シース605の残りの近位領域の内径は、通常2.794mm(0.110インチ)~3.43mm(0.135インチ)の範囲である。近位領域の内腔径が大きいほど、シースの全体的な流れ抵抗が最小限に抑えられる。一実施形態において、縮径された遠位領域(遠位セクション)630の長さは約2cm~4cmである。縮径された遠位領域(遠位セクション)630の長さが比較的短いことにより、このセクションを、経頸動脈アプローチを介して総頸動脈(CCA)に配置することが可能になり、シース605の遠位端が分岐部Bに接触するリスクが低減される。
【0071】
図2Cは、代替実施形態を示しており、閉塞要素129は、動脈アクセス装置110の遠位シース605とは別個の第2のシース(動脈閉塞装置112)上で頸動脈内に導入され得る。第2のシースすなわち「近位」シース(動脈閉塞装置112)は、脳血管系から離れる近位方向すなわち「下向き」方向に向かって、総頸動脈内に挿入されるように構成され得る。第2のシースすなわち近位シース(動脈閉塞装置112)は、概して上述したように、膨張可能な閉塞バルーン又は他の閉塞要素(閉塞要素129)を含み得る。次いで、動脈アクセス装置110の遠位シース605が、第2のシースすなわち近位シースの遠位の総頸動脈に配置され、概して脳血管系に向かって遠位方向に向けられてもよい。閉塞シースとアクセスシースを別々に使用することにより、アクセスシースの導入に必要な動脈切開のサイズを小さくすることができる。
【0072】
図2Dは、2本動脈シースシステムのさらに別の実施形態を示しており、介入装置は、動脈アクセス装置110の遠位シース605とは別個のイントロデューサシース114を介して導入される。第2のシースすなわち「遠位」シース114は、動脈アクセス装置110の遠位の総頸動脈に挿入するように構成され得る。前の実施形態と同様に、2つの別個のアクセスシースの使用により、各動脈切開のサイズを縮小することができる。
【0073】
経頸動脈アクセス処置で見られるような、シースの挿入角度が鋭角である場合、および/または、動脈に挿入されるシースの長さが短い場合には、シースの遠位端が部分的または全体的に血管壁に当たる可能性が高く、それによってシースへの流れが制限される。一実施形態では、シースは、先端を血管の内腔の中心に置くように構成されている。このような実施形態の1つは、上述した閉塞要素129などの閉塞バルーンを含む。別の実施形態では、バルーンは、膨張可能なバンパーのように、流れを閉塞するものではないが、依然としてシースの先端を血管壁から離れた中心に置くことができる。別の実施形態では、拡張可能な機構がシースの先端に位置し、シースが所定の位置に配置されると機械的に拡張される。機械的に拡張可能な特徴の例には、短縮されたときに半径方向に拡張する編組構造、螺旋構造、または長手ストラットが含まれる。
【0074】
一実施形態において、シースの遠位端に近い血管の閉塞は、例えば、シース挿入部位に近いルンメル止血帯または血管ループなど、血管の外側から行われてもよい。別の実施形態において、閉塞デバイスは、シース先端の周囲の血管の外部に取り付けられてもよく、例えば、弾性ループ、膨張式カフ、又は、血管および遠位シース先端の周囲に締め付けられ得る機械的クランプであってもよい。逆行性血流システムでは、このような血管閉塞方法により、静的血流領域が最小限に抑えられ、血栓形成のリスクが軽減される。また、シースの先端が血管の軸方向に揃い、血管壁によって部分的または完全にブロックされないようになる。
【0075】
一実施形態では、シースの先端が動脈壁によって部分的にまたは完全に遮断された場合でもシース内への流れが維持されるように、シース本体の遠位部に側孔が設けられてもよい。
【0076】
図9A~
図9Dに、別の動脈アクセス装置が示されている。この構成では、シャントへの接続方法が、上述の構成とは異なる。
図9Aは、動脈アクセスシース(遠位シース605)、シース拡張器645、シースストッパー705、及びシースガイドワイヤ111を含む動脈アクセス装置110のコンポーネントを示す。
図9Bは、シースガイドワイヤ611を介して頸動脈に挿入するために組み立てられた動脈アクセス装置110を示す。シースが動脈に挿入された後、処置中に、シースガイドワイヤ611及びシース拡張器645が取り外される。この構成において、シースは、シース本体(遠位シース605)と、近位延長部610と、フラッシュライン635及びストップコック640を備えた近位止血弁625を有する。近位延長部610は、Yアダプタ660から、フラッシュライン635が接続されている止血弁625まで延びている。シース本体(遠位シース605)は、頸動脈に挿入され得る大きさに作られており、使用時に実際に動脈に挿入される部分である。
【0077】
バルブで終わる流路接続を備えたYコネクタの代わりに、シースには、シースの遠位部を近位延長部610に接続するYアダプタ660が設けられている。Yアダプタには、シャントなどの流路に取り外し可能に接続され得るコネクタ又はハブ680への流体接続を開閉するように動作可能なバルブ670も含まれ得る。バルブ670は、シース本体(遠位シース605)の内腔に連通するアダプタ660の内腔のすぐ隣に配置されている。
図9C及び
図9Dは、バルブ670及びハブ680を備えたYアダプタ660の断面の詳細を示している。
図9Cは、コネクタに対して閉じられたバルブを示す。
図9Cのバルブの位置は、動脈シースの準備中における位置である。バルブは、シースの準備中に空気が閉じ込められる可能性がないように構成されている。
図9Dは、コネクタに対してバルブが開いている状態を示す。
図9Dの位置は、シャント120がハブ680に接続されると使用され、動脈シースからシャントへの血液の流れが可能になる。この構成により、フラッシュラインと流路の両方を準備する必要がなくなり、代わりに単一のフラッシュライン635とストップコック640からの準備が可能になる。この単一ポイントの準備は、シャントラインへの接続がない従来のイントロデューサシースの準備と同じであるため、ユーザにとってより馴染みがあり便利である。さらに、シースに流路がないため、動脈シースの準備や動脈への挿入時の取り扱いが容易になる。
【0078】
図9Aを再び参照すると、シースには、チューブ665のセグメントによってYアダプタ660から分離された、より遠位にある第2のコネクタ690も含まれてもよい。この第2のコネクタ690とチューブ665の目的は、シース605の挿入可能部分の長さを制限しながら、バルブ670をシースの遠位端からさらに近位に配置できるようにし、これにより、処置中にシャントが動脈シースに接続されるときに、ユーザが放射線源にさらされるレベルを低減できるようにすることである。一実施形態において、遠位コネクタ(第2のコネクタ690)は、シースを配置後に患者に固定するのに役立つ縫合糸アイレットを含む。
【0079】
[静脈還流装置]
ここで、
図10を参照すると、静脈還流装置115は、遠位シース910と、システムの使用時にシャント120に接続してシャント120のシャント肢を形成する流路915とを含み得る。遠位シース910は、切開または穿刺を通して頸静脈または大腿静脈などの静脈還流位置に導入されるように構成されている。遠位シース910および流路915は、永久的に取り付けられてもよいし、あるいは、
図10Aに示すように、従来のルアーフィッティングを使用して取り付けられてもよい。任意選択で、
図10Bに示されるように、遠位シース910は、Yコネクタ1005によって流路915に結合され得る。Yコネクタ1005は、止血弁1010を含み得る。静脈還流装置は、内頸静脈または他の静脈への静脈還流装置の導入を容易にするために、静脈シース拡張器1015およびイントロデューサのガイドワイヤ611も備える。動脈アクセス拡張器(拡張器645)と同様に、静脈シース拡張器1015は中央ガイドワイヤ内腔を含むため、静脈シースと拡張器の組み合わせがガイドワイヤ611上に配置され得る。任意選択で、静脈シース(遠位シース910)は、その近位端または遠位端に活栓1025を備えたフラッシュライン1020を含み得る。
【0080】
図10C及び
図10Dに、別の構成が示されている。
図10Cは、静脈還流シース(遠位シース)910、静脈シース拡張器1015、およびシースガイドワイヤ611を含む静脈還流装置115の構成要素を示す。
図10Dは、シースガイドワイヤ611上を中心静脈に挿入するために組み立てられる静脈還流装置115を示す。シースが静脈に挿入されたら、拡張器とガイドワイヤが取り外される。静脈シースは、止血弁1010および流路915を含み得る。流路の端にある活栓1025により、使用前に流路を介して静脈シースを洗い流すことができる。この構成により、従来のイントロデューサシースと同様に、シースが1点から準備され得る。シャント120への接続は、活栓1025上のコネクタ1030を用いて行われる。
【0081】
システム全体の流れ抵抗を低減するために、動脈アクセス流路615(
図6A)および静脈還流路915、ならびに、Yコネクタ620(
図6A)およびYコネクタ1005は、それぞれ比較的大きな内径(典型的には2.54mm(0.100インチ)~5.08mm(0.200インチ)の範囲内)を有してもよく、比較的短い長さ(通常は10cm~20cmの範囲)を有してもよい。システムの流れ抵抗が低いことは、塞栓の危険性が最も高い処置の一部において流れを最大化できるため、望ましい。システムの流れ抵抗が低いため、以下でさらに詳しく説明されるように、システム内の流れを制御するために可変の流れ抵抗を使用することも可能になる。静脈還流シース(遠位シース)910の寸法は、上記の動脈アクセスシース(遠位シース605)について説明されたものとほぼ同じであり得る。静脈還流シースでは、止血弁1010の延長部は必要ない。
【0082】
[逆流シャント]
シャント120は、動脈アクセス装置110(動脈アクセスカテーテル)と静脈還流カテーテル(静脈還流装置115)との間に流体連通を提供し、それらの間に逆行性血流の経路を提供する単一のチューブまたは複数の接続されたチューブで形成され得る。
図1Aに示すように、シャント120は、一端で(接続位置127aのコネクタを介して)動脈アクセス装置110の流路615に接続し、他端で(接続位置127bのコネクタを介して)静脈還流カテーテル(静脈還流装置115)の流路915に接続する。
【0083】
一実施形態では、シャント120は、流量制御アセンブリ125と連通する少なくとも1つのチューブで形成され得る。シャント120は、血流のための流体経路を提供する任意の構造を有し得る。シャント120は、単一の管腔を有することも、複数の管腔を有することもできる。シャント120は、流量制御アセンブリ125、動脈アクセス装置110、および/または静脈還流装置115に取り外し可能に取り付けられ得る。使用前に、ユーザは、動脈アクセス位置および静脈還流位置での使用に最も適した長さのシャント120を選択することができる。一実施形態では、シャント120は、シャント120の長さを変えるために使用できる1つまたは複数の延長チューブを含み得る。延長チューブは、所望の長さを達成するためにモジュール式にシャント120に取り付けられ得る。シャント120のモジュール式の特徴により、ユーザは静脈還流部位に応じて必要に応じてシャント120を長くすることができる。例えば、患者によっては、内頸静脈(IJV)が小さい、および/または、蛇行している場合がある。この部位は他の解剖学的構造に近いため、他の部位よりも合併症のリスクが高い可能性がある。さらに、首の血腫は気道閉塞や脳血管合併症を引き起こす可能性がある。したがって、そのような患者にとっては、大腿静脈などの内頸静脈(IJV)以外の場所に静脈還流部位を配置することが望ましい場合がある。大腿静脈還流部位は、重篤な合併症のリスクが低い経皮的に行うことができ、内頸静脈(IJV)が利用できない場合には、中心静脈への代替静脈アクセスも提供する。さらに、大腿静脈還流により逆流シャントのレイアウトが変更され、装置が導入され造影剤注入ポートが配置されるインターベンションの「作業領域」にシャント制御装置が近くに配置され得る。
【0084】
一実施形態では、シャント120は、4.76mm(3/16インチ)の内径を有し、40~70cmの長さを有する。前述したように、シャントの長さは調整可能である。一実施形態では、シャントと動脈アクセス装置および/または静脈アクセス装置との間のコネクタは、流れ抵抗を最小限に抑えるように構成される。一実施形態では、動脈アクセスシース(動脈アクセス装置110)、逆流シャント(シャント120)、及び、静脈還流シース(静脈還流装置115)は、
図1A~
図1Dに示されるように、低血流抵抗の動脈静脈シャント(AVシャント)を作り出すために組み合わされる。上述のように、これらすべての装置の接続と流路は、流れの抵抗を最小限に抑えるか又は軽減するように最適化されている。一実施形態では、AVシャントは、動脈アクセス装置110(動脈アクセスシース)内に装置が存在せず、AVシャントが血液の粘度および60mmHgの静圧ヘッドを有する流体源に接続されている場合に、最大300mL/分の流れを可能にする流れ抵抗を有する。実際のシャント抵抗は、逆止弁(バルブ1115)やフィルタ1145(
図11参照)の有無、シャントの長さによって異なり、150~300mL/分の流量が可能となる場合がある。
【0085】
動脈シース内にステントデリバリーカテーテルなどの装置がある場合、動脈シースの一部で血流抵抗が増加するため、AVシャント全体の流れ抵抗が増加する。この流れ抵抗の増加により、これに対応して流れが減少する。一実施形態では、
図6Aに示されるようなYアーム(Yコネクタ620)が、シース内にカテーテルが導入される止血弁625からある程度離れた流路615に動脈シース本体(遠位シース605)を接続する。この距離は、近位延長部610の長さによって設定される。したがって、カテーテルによって制限される動脈シースの部分は、シース本体(遠位シース605)の長さに制限される。実際の流量制限は、シース本体(遠位シース605)の長さおよび内径、およびカテーテルの外径に依存する。上述したように、シースの長さは、5cm~15cmの範囲であり、通常は10cm~12cmであり、内径は、通常、7Fr(1Fr=0.33mm)~10Frの範囲であり、通常は8Frである。ステントデリバリーカテーテルのサイズは、ステントのサイズとメーカーに応じて、3.7Fr~5.0Frの範囲、又は、3.7Fr~6.0Frの範囲であってもよい。この制限は、
図6Bに示すように、シース本体の血管内以外の部分(段付きシース本体)の内径が大きくなるように設計すれば、さらに軽減され得る。流れの制限は管腔距離の4乗に比例するため、管腔面積または環状面積のわずかな増加により、流れ抵抗が大幅に減少する。
【0086】
動脈静脈シャント(AVシャント)使用時におけるAVシャントの実際の流量は、患者の脳血圧と流量抵抗とによってさらに異なる。
【0087】
[流量制御アセンブリ(逆行性血流の調整と監視)]
流量制御アセンブリ125は、逆流シャント(シャント120)と相互作用して、総頸動脈から静脈還流部位(例えば、大腿静脈、内頸静脈)、又は外部容器130への逆行性血流の流量を調節、且つ/又は監視する。この点で、流量制御アセンブリ125により、ユーザは、既存のシステムよりも高い最大流量を達成でき、逆行性血流の流量を選択的に調整、設定、又は調整することもできる。以下で詳しく説明されるように、逆行性血流の流量を調節するために様々な機構が使用され得る。流量制御アセンブリ125により、ユーザは、以下に説明されるように、様々な治療計画に適した方法で逆行性血流を構成できるようになる。
【0088】
一般的に、連続的な逆行性血流の流量を制御できるため、医師は個々の患者や処置の段階に合わせて手順を調整できる。逆行性血流の流量は通常、低速から高速までの範囲にわたって制御される。高速の流量は、低速の流量の少なくとも2倍になる可能性があり、通常は低速の流量の少なくとも3倍であり、低速の流量の少なくとも5倍またはそれ以上になることもよくある。一実施形態において、高速の流量は、低速の流量よりも少なくとも3倍高く、別の実施形態において、高速の流量は、低速の流量よりも少なくとも6倍高い。頸動脈からの塞栓の除去を最大限にするためには、逆行性血流の流量が高いことが一般的に望ましいが、逆行性血流に対する患者の許容能力は異なる。したがって、逆行性血流の流量を簡単に調整できるシステムとプロトコルがあれば、治療する医師は、血流速度が患者の許容レベルを超えたかどうかを判断し、それに応じて逆行性血流の流量を設定できる。継続的な高い逆行性血流の流量に耐えられない患者に対して、医師は、塞栓デブリのリスクが最も高いときに、処置の短時間の重要な部分のみに高流量をオンにすることを選択できる。例えば15秒~1分などの短い間隔では、患者の許容限界は通常考慮されない。
【0089】
特定の実施形態において、連続的な逆行性血流の流量は、10ml/分~200ml/分、典型的には20ml/分~100ml/分の範囲のベースライン流量(基本流量)で制御され得る。これらの流量は、大多数の患者にとって許容できるものとなる。処置の大部分では、流量はベースライン流量に維持されるが、塞栓放出のリスクが増大したときは、そのような塞栓を捕捉する能力を向上させるために、流量がベースラインよりも短時間だけ上昇され得る。例えば、ステントカテーテルの導入時、ステントの展開時、ステントの拡張前および拡張後、総頸動脈閉塞の除去時などに、逆行性血流の流量がベースラインよりも高くされてもよい。
【0090】
流量制御システムは、順行性血流を再確立する前に頸動脈分岐部の頸動脈を「洗浄(フラッシュ)」するために、比較的低い流量と比較的高い流量との間で循環され得る。このような循環は、低流量の約2~6倍、通常は約3倍の高流量で確立され得る。循環の1サイクルの長さは、0.5秒~10秒の範囲、通常は2秒~5秒であり、循環の合計継続時間は、5秒~60秒の範囲、通常は10秒~30秒である。
【0091】
図11は、システム100の一例、及び、流量制御アセンブリ125の概略図を示している。逆行性血流が流量制御アセンブリ125の少なくとも一部を通過するか、又は流量制御アセンブリ125の少なくとも一部に連通するように、シャント120に沿って流量制御アセンブリ125が配置されている。流量制御アセンブリ125は、逆行性血流を調節、且つ/又は、監視するための様々な制御可能な機構を含み得る。当該機構は、逆行性血流を制御するための様々な手段として、例えば、1つ又は複数のポンプ1110、バルブ1115、シリンジ1120、及び/又は、可変流れ抵抗コンポーネント1125を含み得る。流量制御アセンブリ125は、シャント120を通る流れを変化させるように、ユーザによって手動で制御されてもよいし、コントローラ1130を介して自動的に制御されてもよい。例えば、流れ抵抗を変化させることにより、シャント120を通る逆行性血流の流量が制御され得る。コントローラ1130は、以下でより詳細に説明されるが、流量制御アセンブリ125に統合されてもよいし、流量制御アセンブリ125のコンポーネントと通信する別のコンポーネントであってもよい。
【0092】
さらに、流量制御アセンブリ125は、逆行性血流の1つ又は複数の態様を感知するための1つ又は複数の流量センサ1135及び/又は解剖学的データセンサ1140(詳細は後述)を含み得る。血液が静脈還流部位に戻される前に塞栓を除去するために、シャント120に沿ってフィルタ1145が配置されてもよい。フィルタ1145がコントローラ1130の上流に配置されている場合、フィルタ1145は、血栓がコントローラ1130に入り、可変流れ抵抗コンポーネント1125を詰まらせる可能性を防ぐことができる。なお、流量制御アセンブリ125の様々なコンポーネント(ポンプ1110、バルブ1115、シリンジ1120、可変流れ抵抗コンポーネント1125、センサ1135,1140、及びフィルタ1145を含む)は、シャント120に沿った様々な位置、且つ、互いに対する上流または下流の様々な位置に配置され得る。流量制御アセンブリ125のコンポーネントの位置は、
図11に示す位置に限定されるものでない。さらに、流量制御アセンブリ125は、必ずしも全てのコンポーネントを含むわけではなく、むしろコンポーネントの様々なサブコンビネーションを含み得る。例えば、シリンジは、流量を調節する目的で流量制御アセンブリ125内において任意選択的に使用されてもよいし、シャント120を介して順行方向に動脈に放射線不透過性造影剤などの流体を導入するなど、流量調節以外の目的でアセンブリの外部において使用されてもよい。
【0093】
可変流れ抵抗コンポーネント1125とポンプ1110の両方が、逆行性血流の流量を制御するためにシャント120に接続されてもよい。可変流れ抵抗コンポーネント1125は、流れ抵抗を制御し、ポンプ1110は、シャント120を通る血液の正の変位を提供する。すなわち、逆行性血流を駆動するために、外頸動脈(ECA)と内頸動脈(ICA)の灌流断端圧と静脈背圧に頼るのではなく、ポンプが作動され得る。ポンプ1110は、蠕動チューブポンプであってもよいし、容積式ポンプを含む任意の種類のポンプであってもよい。ポンプ1110は、シャント120を通る血液の移動を選択的に達成し、シャント120を通る流量を制御するように、(手動で又はコントローラ1130を介して自動的に)起動および停止され得る。シャント120を通る血液の移動は、吸引シリンジ1120の使用を含む他の方法で達成されてもよいし、吸引源(例えば、バキュテナー、バックロックシリンジ、又は壁面吸い込みなど)が使用されてもよい。ポンプ1110は、コントローラ1130と通信可能である。
【0094】
シャント経路に沿って、1つ又は複数の流量制御バルブ1115が配置されてもよい。バルブは手動で作動されてもよいし、(コントローラ1130を介して)自動で作動されてもよい。流量制御バルブ1115は、例えば、シャント120内の順行方向の流れを防止する一方向弁、チェック弁、又は、例えば高圧造影剤注入(順行方向で動脈血管系に入ることが意図された注入)中にシャント120を閉鎖する高圧弁であってもよい。一実施形態において、一方向弁は、例えば米国特許第5727594号に開示された低流量抵抗弁、又はその他の低抵抗弁である。
【0095】
フィルタ1145と一方向チェック弁(流量制御バルブ1115)の両方を備えたシャントの実施形態において、一方向チェック弁(流量制御バルブ1115)は、フィルタ1145の下流に配置される。この態様において、シャント内を移動するデブリがある場合、そのデブリは一方向チェック弁(流量制御バルブ1115)に到達する前にフィルタ1145に捕捉される。多くのチェック弁構成には、流路部(流れ内腔部)を収容するハウジングに対してシールするシール部材が含まれる。シール部材とハウジングとの間にデブリが挟まる可能性があり、その結果、逆方向の圧力に対するバルブのシール能力が損なわれる可能性がある。
【0096】
コントローラ1130は、システム100のコンポーネント(例えば、シャント120、動脈アクセス装置110、静脈還流装置115、および流量制御アセンブリ125を含む)を通る逆行性血流の手動調整および/または自動調整および/または監視を可能にするように、流量制御アセンブリ125を含むシステム100のコンポーネントと通信可能である。例えば、ユーザは、流量制御アセンブリ125のコンポーネントを手動で制御するように、コントローラ1130上の1つ又は複数のアクチュエータを作動させ得る。手動の制御部は、コントローラ1130上に直接配置されたスイッチ、ダイヤル、若しくは同様のコンポーネントを含んでもよく、又は、コントローラ1130から離れた場所に配置されたコンポーネント(例えば、フットペダル若しくは同様のデバイス)を含んでもよい。コントローラ1130は、ユーザからの入力を必要とせずに、システム100のコンポーネントを自動的に制御することも可能である。一実施形態において、ユーザは、このような自動制御を有効にするように、コントローラ1130にソフトウェアをプログラムし得る。コントローラ1130は、流量制御アセンブリ125の機械部分の動作を制御可能である。コントローラ1130は、センサ1135,1140によって生成された信号を解釈する回路またはプログラミングを含んでもよく、これにより、コントローラ1130は、センサによって生成された信号に応じて流量制御アセンブリ125の作動を制御し得る。
【0097】
図11に示すコントローラ1130の表現は、単なる例示に過ぎない。コントローラ1130の外観および構造は、適宜変更可であることを理解されたい。
図11では、コントローラ1130が単一のハウジングに統合されているものとして示されている。これにより、ユーザは、流量制御アセンブリ125を1か所から制御可能になっている。コントローラ1130の任意のコンポーネントが個別のハウジングに分離されてもよいことに留意すべきである。さらに、
図11は、コントローラ1130と流量制御アセンブリ125を別々のハウジングとして示している。コントローラ1130と流量制御アセンブリ125は、単一のハウジングに統合されてもよいし、複数のハウジング又はコンポーネントに分割されてもよいことに留意されたい。
【0098】
[流量状態インジケータ]
コントローラ1130は、逆行性血流の状態に関する視覚信号および/または音声信号をユーザに提供する1つ又は複数のインジケータを含み得る。音声表示により、ユーザがコントローラ1130を視覚的に確認する必要なく、逆行性血流の状態をユーザに通知できるという利点がある。インジケータは、逆行性血流の状態をユーザに伝えるためのスピーカー1150及び/若しくはライト1155、又はその他の手段を含み得る。コントローラ1130は、インジケータの起動を制御するように、システムの1つ又は複数のセンサと通信可能である。あるいは、インジケータの起動は、流量制御アクチュエータ1165の1つをユーザが作動させることに直接結び付けられてもよい。インジケータは、スピーカー又はライトに限られない。インジケータは、単に、逆行性血流の状態を視覚的に示すボタン又はスイッチであってもよい。例えば、ボタンが特定の状態(例えば、押された状態、又は、下がった状態)にあることは、逆行性血流が高い状態(高流量)にあることを視覚的に示し得る。或いは、特定のラベル付き流量状態を指すスイッチ又はダイヤルによって、逆行性血流が当該ラベル付き状態にあることを視覚的に示されるようにしてもよい。
【0099】
インジケータは、逆行性血流の1つ又は複数の状態を示す信号を提供し得る。一実施形態において、インジケータは、「高」流量の状態と「低」流量の状態という2つの個別の状態のみを識別する。別の実施形態において、インジケータは、「高」流量、「中」流量、及び「低」流量を含む3つ以上の流量を識別する。インジケータは、逆行性血流の任意の流量の個別の状態を識別するように構成されてもよいし、逆行性血流の状態に対応する段階的な信号を識別するように構成されてもよい。この点に関して、インジケータは、ml/分、又は他の単位などの逆行性血流の流量の値を示すデジタル又はアナログのメータ1160であってもよい。
【0100】
一実施形態において、インジケータは、逆行性血流の流量が「高」流量の状態にあるか「低」流量の状態にあるかをユーザに示すように構成される。例えば、インジケータは、流量が高いときに第1の態様(例えば、明るさのレベル)で点灯し、且つ/又は、第1の音声信号を発し、その後、流量が低いときに、第2の態様の照明に変わり、且つ/又は、第2の音声信号を発してもよい。或いは、流量が高いときのみ、又は、流量が低いときのみ、インジケータが点灯したり、音声信号を発したりしてもよい。患者によっては、高流量に耐えられない場合や、長時間にわたって高流量に耐えられない場合があるため、流量が高い状態にあるときにインジケータがユーザに通知することが望ましいことがある。このことは、フェイルセーフ機能として機能する。
【0101】
別の実施形態において、インジケータは、流量が「高」から「低」に変化したとき、及び/又は、その逆のときなど、流量の状態が変化するときに信号(音声および/または視覚の信号)を提供する。別の実施形態において、インジケータは、シャント120が閉鎖されている場合、又は、シャント120内のストップコックの1つが閉じられている場合など、逆行性血流が存在しない場合に信号を提供する。
【0102】
[流量アクチュエータ]
コントローラ1130は、逆行性血流の流量を調整したり該流量を監視したりするためにユーザが押したり、切り替えたり、操作したり、その他の方法で作動させる1つ又は複数のアクチュエータを含み得る。例えば、コントローラ1130は、コントローラに逆行性血流の態様を選択的に変化させるようにユーザが作動させ得る流量制御アクチュエータ1165(例えば、1つ又は複数のボタン、ノブ、ダイヤル、スイッチ)を含み得る。例えば、図示の実施形態において、流量制御アクチュエータ1165は、コントローラ1130に対応してシステム100に特定の逆行性血流の状態を実現させる様々な個別の位置に回すことができるノブである。逆行性血流の状態は、例えば、(a)オフ、(b)低流量、(c)高流量、(d)吸引、などを含む。これらの状態は単なる例示であり、異なる状態または状態の組み合わせが使用され得ることを理解されたい。コントローラ1130は、センサ、バルブ、可変流れ抵抗コンポーネント、及び/又はポンプを含むシステムの1つ又は複数のコンポーネントと相互作用することによって、様々な逆行性血流の状態を実現する。なお、コントローラ1130には、逆行性血流の流量を調整したり、該流量を監視したりする回路やソフトウェアも含まれており、これにより、ユーザがコントローラ1130を積極的に操作する必要がなくなることに留意されたい。
【0103】
オフ状態は、シャント120を通る逆行性血流がない状態に対応する。ユーザが流量制御アクチュエータ1165をオフに設定すると、コントローラ1130は、バルブを遮断したり、シャント120内のストップコックを閉じたりして、逆行性血流を停止させる。低流量状態は、低い逆行性血流の流量に対応し、高流量状態は、高い逆行性血流の流量に対応する。ユーザが流量制御アクチュエータ1165を低流量または高流量に設定すると、コントローラ1130は、ポンプ1110、バルブ1115、及び/又は可変流れ抵抗コンポーネント1125を含む流量制御アセンブリ(流量制御レギュレータ)125のコンポーネントと相互作用し、これに応じて流量を増加または減少させる。最後に、吸引状態は、能動的な逆行性血流が必要な場合に、吸引源(例えば、バキュテナーや吸引ユニットなど)への回路を開くことに相当する。
【0104】
このシステムを使用することで、アクティブ状態、パッシブ状態、吸引状態、オフ状態など、様々な状態の間で血流を変化させることができる。アクティブ状態は、逆行性血流を能動的に駆動する手段を使用するシステムに対応する。このような能動的な手段には、例えば、ポンプ、注射器、真空源などが含まれる。パッシブ状態は、外頸動脈(ECA)と内頸動脈(ICA)の灌流断端圧、及び、場合によっては静脈圧によって逆行性血流が駆動されるときに相当する。吸引状態は、吸引源(例えば、バキュテナーまたは吸引ユニット)を使用して逆行性血流を促進するシステムに対応する。オフ状態は、例えば、コックやバルブを閉じた結果、システムの逆行性血流がゼロになっている状態に対応する。低流量及び高流量は、パッシブ又はアクティブのいずれかの流量状態になる。一実施形態において、低流量および/または高流量の特定の値(例えば、ml/分の値)は予め決められてもよく、且つ/又は、コントローラに予めプログラムされてもよく、これにより、ユーザは、実際に当該値を設定または入力する必要はない。むしろ、ユーザは、単に(コントローラ1130上のボタンなどのアクチュエータを押すことなどによって)「高流量」および/または「低流量」を選択し、コントローラ1130は、流量が所定の高流量値または低流量値を達成するように、流量制御アセンブリ125の1つ又は複数のコンポーネントと相互作用する。別の実施形態において、ユーザは、コントローラなどに低流量および/または高流量の値を設定または入力する。別の実施形態において、低流量および/または高流量は実際には設定されない。むしろ、外部データ(例えば、解剖学的データセンサ1140からのデータなど)が流量に影響を与える基礎として使用される。
【0105】
流量制御アクチュエータ1165は、複数のアクチュエータであってもよい。例えば、1つのアクチュエータ(例えば、ボタン又はスイッチ)は、状態を低流量から高流量に切り替え、別のアクチュエータは、例えば造影剤注入中に造影剤が頸動脈に順行性に向けられるときに、フローループを閉じてオフにする。一実施形態において、流量制御アクチュエータ1165は複数のアクチュエータを含み得る。例えば、1つのアクチュエータが、流量を「低」から「高」に切り替えるように操作され、別のアクチュエータが、一時的に流れを停止するように操作され、第3のアクチュエータ(例えば、ストップコック)が、シリンジを使用した吸引を行うように操作されてもよい。別の例では、1つのアクチュエータが、低流量に切り替えるように操作され、別のアクチュエータが、高流量に切り替えるように操作される。あるいは、流量制御アクチュエータ1165は、状態を低流量から高流量に切り替える複数のアクチュエータと、高流量状態と低流量状態との間の範囲内で流量を微調整するための追加のアクチュエータとを含み得る。このような追加のアクチュエータは、低流量と高流量とを切り替える際に、これらの状態内で流量を微調整するために使用されてもよい。このように、各状態(つまり、高流量状態と低流量状態)内で、様々な流量が設定および微調整され得ることを理解されたい。流れの状態の制御を達成するために、様々なアクチュエータが使用され得る。
【0106】
コントローラ1130又はコントローラ1130の個々のコンポーネントは、患者に対して、且つ/又は、システム100の他のコンポーネントに対して、様々な位置に配置され得る。例えば、ツールの導入中に流量制御アクチュエータ1165へのアクセスを容易にするために、介入ツールが患者に導入される止血弁の近くに流量制御アクチュエータ1165が配置されてもよい。
図1A~
図1Cに示すように、例えば、経大腿アプローチを使用するか、又は、経頸動脈アプローチを使用するかによって、配置が異なり得る。コントローラ1130は、システム100のリモート制御を可能にするために、システム100の残りの部分へのワイヤレス接続、及び/又は、長さ調整可能な有線接続を備えてもよい。コントローラ1130は、流量制御アセンブリ(流量制御レギュレータ)125のリモート制御を可能にするために、流量制御アセンブリ(流量制御レギュレータ)125との無線接続、及び/又は、長さを調整可能な有線接続を備えてもよい。コントローラ1130は、流量制御アセンブリ(流量制御レギュレータ)125に統合されてもよい。コントローラ1130が流量制御アセンブリ125のコンポーネントに機械的に接続されている場合、機械的な作動機能を備えたテザーが、コントローラ1130を1つ又は複数のコンポーネントに接続してもよい。一実施形態において、コントローラ1130は、透視検査の使用時にコントローラ1130を放射線照射野の外側に配置できるように、システム100から十分な距離を置いて配置されてもよい。
【0107】
コントローラ1130とその任意のコンポーネントは、システムの他のコンポーネント(例えば、ポンプ、センサ、シャントなど)と様々な態様で情報交換可能である。例えば、コントローラ1130とシステムコンポーネントとの間の通信を可能にするために、様々な機械的接続のいずれかが使用され得る。あるいは、コントローラ1130は、システムコンポーネントと電子的または磁気的に通信可能である。電気機械的な接続も使用され得る。コントローラ1130には、コントローラがシステムコンポーネントを使用して制御機能を実装できるようにする制御ソフトウェアが装備され得る。コントローラ自体は、機械的、電気的、又は電気機械的なデバイスであってもよい。コントローラは、(例えば、流量制御状態のソレノイド作動の場合)機械的、空気圧的、若しくは油圧的に作動されてもよい、電気機械的に作動されてもよい。コントローラ1130は、コンピュータ機能、コンピュータプロセッサ機能、メモリ機能、及びデータ格納機能を備えてもよい。
【0108】
図12は、可変流量制御要素(可変流れ抵抗コンポーネント1125)の例示的な実施形態を示す。この実施形態では、低抵抗流路と高抵抗流路とを作成するように2つ以上の代替流路を設けることにより、シャント120を通る流れ抵抗が変更され得る。
図12Aに示すように、シャント120を通る流れは、主ルーメン1700と二次ルーメン1705を通過する。二次ルーメン1705は、主ルーメン1700よりも長く、且つ/又は、小径である。したがって、二次ルーメン1705の流れ抵抗は、主ルーメン1700よりも大きい。血液を主ルーメン1700と二次ルーメン1705の両方に通すことで、流れ抵抗は最小限に抑えられる。二次ルーメン1705の入口と出口を横切る主ルーメン1700で生じる圧力降下により、血液は、主ルーメン1700と二次ルーメン1705の両方を流れ得る。これには、血液の停滞を防ぐという利点がある。
図12Bに示すように、シャント120の主ルーメン1700を通る流れを遮断することにより、流れは完全に二次ルーメン1705に迂回され、その結果、流れ抵抗が増加し、血液の流量が減少する。3つ、4つ、又はそれ以上の個別の流れ抵抗を可能にするために、更なるフロールーメンが並列に設けられてもよいことが理解される。シャント120には、主ルーメン1700および二次ルーメン1705への流れを制御するバルブ1710が設けられてもよい。バルブの位置は、流量制御アセンブリ125のハウジング上のアクチュエータ(例えば、ボタンやスイッチなど)によって制御され得る。
図12A及び
図12Bの実施形態は、最低の流量設定であっても正確なルーメンの大きさを維持するという利点を有する。二次ルーメンの大きさは、最低流量または長時間の流量条件下でも血栓の形成を防ぐように構成され得る。一実施形態において、二次ルーメン1705の内径は0.063インチ以上である。
【0109】
図13A~
図13Cは、多くのシャントコンポーネント及び機能が単一のハウジング1300内に含まれるか又は収容された流量制御アセンブリ125の実施形態を示す。この構成により、流量制御アセンブリ125及びシャント120に必要なスペースが簡素化され、削減される。
図13Aに示すように、ハウジング1300には、
図12に例示したスタイルの可変流量制御要素(可変流れ抵抗コンポーネント1125)が収容される。アクチュエータ1330は、シャント内の流れ抵抗を低抵抗状態と高抵抗状態との間で移行可能なようにバルブ1710を前後に動かす。
図13Aでは、バルブは開いた位置にあり、シャントは低抵抗(高流量)状態にある。
図13Bでは、バルブ1710は閉じた位置にあり、シャントは高抵抗(低流量)状態にある。第2アクチュエータ1340は、シャントライン(シャント120)を開閉可能なように第2バルブ1720を前後に動かす。
図13A及び
図13Bでは、バルブ1720が開いた位置にあり、シャント120を通過する流れを許容している。
図13Cでは、バルブ1720は閉じた位置にあり、シャント120内の流れが完全に停止している。ハウジング1300には、フィルタ1145と一方向チェック弁(流量制御バルブ1115)も収容される。一実施形態では、処置後にハウジングが開かれ、フィルタ1145が取り外され得る。この実施形態の利点は、処置後にフィルタを洗浄して検査することができるため、医師は処置中にシステムによって捕捉された塞栓デブリの直接的な視覚的証拠を得ることができることである。
【0110】
好ましい実施形態では、逆行性血流システムの要素を接続するコネクタは、大口径のクイックコネクト型コネクタである。例えば、
図9Bに示すように、動脈シース(動脈アクセス装置110)のYアダプタ660上の雄型大口径ハブ680は、
図13に示すように、シャント120の動脈側にある雌型の対応するハブ1320に接続する。同様に、
図10Cに示すように、シャント120の静脈側にある雄型大口径コネクタ1310は、静脈シース(静脈還流装置115)の流路にある雌型の対応するコネクタ1310に接続する。接続された逆行性血流システム100は、
図1Eに示されている。この好ましい実施形態は、シャントを通る流れ抵抗を低減し、より高い流量を可能にするとともに、シャントを誤って逆向きに接続する(チェック弁が間違った方向にある)ことを防ぐ。別の実施形態において、接続部は、標準的なメス及びオスのルアーコネクタ、又は他のスタイルのチューブコネクタである。
【0111】
[センサ]
前述のように、流量制御アセンブリ125は、システム100と通信し且つ/又は患者の解剖学的構造と通信する1つ又は複数のセンサを備えるか、又は、当該センサと通信し得る。各センサは、物理的な刺激(例えば、熱、光、音、圧力、磁気、動きなど)に反応し、測定や表示のために、又は、コントローラ1130の動作のために、結果の信号(出力信号)を送信するように構成され得る。一実施形態において、流量センサ1135は、シャント120を通る流れの特性(例えば、血流の速度または容積流量)を感知するようにシャント120と相互作用する。流量センサ1135は、容積流量または流速の値を直接表示するディスプレイに直接接続されてもよい。あるいは、流量センサ1135は、容積流量または流速を表示するために、コントローラ1130にデータを送信してもよい。
【0112】
流量センサ1135の種類は様々である。流量センサ1135は、機械的デバイス(例えば、パドルホイール、フラッパーバルブ、ローリングボール、又は、シャント120を通る流れに応答する任意の機械部品など)であってもよい。シャント120を通る流れに応答する前記機械的デバイスの動きは、流体の流れの視覚的な表示として機能してもよいし、流体の流量の視覚的な表示としての目盛りに調整(較正)されてもよい。前記機械的デバイスは、電気部品に結合されてもよい。例えば、流体の流れによってパドルホイールを回転させ、流体の流量が大きいほどパドルホイールの回転速度が速くなるように、パドルホイールがシャント120内に配置されてもよい。パドルホイールは、回転速度を検出可能なようにホール効果センサに磁気的に結合されてもよく、これにより、シャント120を通過する流体の流量を示し得る。
【0113】
一実施形態において、流量センサ1135は、超音波式、電磁式、又は電気光学式の流量計であり、シャント120の壁を通して血液に接触することなく血流を測定できる。超音波式または電磁式の流量計は、シャント120の内腔に接触する必要がないように構成され得る。一実施形態において、流量センサ1135は、シャント120を通る流体の流れを測定する、遷音速流量計などのドップラー式の流量計を少なくとも部分的に含む。別の実施形態において、流量センサ1135は、流量を測定可能なように流路に沿った圧力差を測定する。超音波式の流量計およびトランスデューサーを含む、多種多様なセンサタイプが使用され得ることに留意すべきである。さらに、システムは、複数のセンサを備えてもよい。
【0114】
システム100は、シャント120内に配置された流量センサ1135、又は、静脈還流装置115若しくは動脈アクセス装置110と相互作用するセンサの使用に限定されるものでない。例えば、解剖学的データセンサ1140は、患者の解剖学的構造(例えば、患者の神経学的解剖学的構造など)と通信したり、その他の方法で相互作用したりし得る。このようにして、解剖学的データセンサ1140は、頸動脈からの逆行性血流の流量に直接的または間接的に関連する測定可能な解剖学的特性を感知し得る。例えば、解剖学的データセンサ1140は、脳内の血流状態(例えば、中大脳動脈の流速)を測定し、その状態をディスプレイ及び/又はコントローラ1130に伝達して、所定の基準に基づいて逆行性血流の流量を調整し得る。一実施形態において、解剖学的データセンサ1140は、反射音波を使用して脳内を流れる血液を評価する超音波検査である経頭蓋ドップラー超音波検査(TCD)を備える。TCDを使用すると、コントローラ1130に通信され得るTCD信号が生成され、これにより、所望のTCDプロファイルを達成または維持するように逆行性血流の流量が制御され得る。解剖学的データセンサ1140は、逆行性血流の流量、中大脳動脈を通る血流、塞栓粒子のTCD信号、又はその他の神経モニタリング信号を含む、あらゆる生理学的測定に基づき得る。
【0115】
一実施形態において、システム100は、閉ループ制御システムを備える。閉ループ制御システムでは、1つ又は複数のセンサ(例えば、流量センサ1135又は解剖学的データセンサ1140など)が、システム100又は解剖学的構造の所定の特性(例えば、逆行性血流の流量および/または神経モニタリング信号など)を感知または監視する。前記センサは、関連データをコントローラ1130に送信し、コントローラ1130は必要に応じてシステムの特性を継続的に調整し、所望の逆行性血流の流量を維持する。前記センサは、システム100の動作方法に関するフィードバックをコントローラ1130に伝達し、コントローラ1130はそのデータを変換して、流量制御アセンブリ125のコンポーネントを作動させ、逆行性血流の流量の乱れを動的に補正する。例えば、コントローラ1130は、コントローラ1130が流量制御アセンブリ125のコンポーネントに信号を送り、患者の血圧が異なっても流量が一定の状態に維持されるように流量を調整するソフトウェアを含んでもよい。この実施形態において、システム100は、逆行性血流の流量を「高」状態または「低」状態に設定するタイミング、期間、及び/又は、値を決定するためにユーザに依存する必要がない。むしろ、コントローラ1130内のソフトウェアがそのような要素を制御し得る。閉ループシステムにおいて、コントローラ1130は、センサ1135によって感知された逆行性血流の流量に基づいて、逆行性血流のレベルまたは状態(アナログレベル、又は、「高」、「低」、「ベースライン」、「中」などの個別の状態)を確立するために、流量制御アセンブリ125のコンポーネントを制御し得る。
【0116】
一実施形態において、解剖学的データセンサ1140 (患者の生理学的測定値を測定する) は、信号をコントローラ1130に伝達し、コントローラ1130は、信号に基づいて流量を調整する。例えば、生理学的測定は、中大脳動脈(MCA)を通る血流速度、TCD信号、又はその他の脳血管信号に基づき得る。TCD信号の場合、経頭蓋ドップラー超音波検査(TCD)は、脳血流の変化を監視し、微小塞栓を検出するために使用されてもよい。コントローラ1130は、TCD信号を所望のプロファイル内に維持するように流量を調整してもよい。例えば、TCD信号は、微小塞栓(「TCDヒット」)の存在を示し、コントローラ1130は、TCDヒットをヒットの閾値以下に維持するように逆行性血流の流量を調整し得る(この点については、文献「Stroke 2006, Volume 37, 2846-2849, “Transcranial Doppler Monitoring of Transcervical Carotid Stenting with Flow Reversal Protection: A Novel Carotid Revascularization Technique”」(Riboら著)と、文献「Acta Neurochir, 2007, 149:681-689, “Experience of 500 Cases of Neurophysiological Monitoring in Carotid Endarterectomy”」(Shekelら著)とが参照され、これらの内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0117】
中大脳動脈(MCA)の流れの場合、コントローラ1130は、脳への灌流によって評価される、患者が許容できる「最大」の流量に逆行性血流の流量を設定し得る。このように、コントローラ1130は、ユーザの介入に頼ることなく、患者の保護レベルを最適化するように逆行性血流の流量を制御し得る。別の実施形態において、システム100内のデバイス又は使用されている介入ツールの状態に基づいて、フィードバックが行われる。例えば、介入カテーテルがシース605内に配置されている場合など、システム100が高リスク状態にあるときに、センサがコントローラ1130に通知してもよい。コントローラ1130は、このような状態を補正するように流量を調整する。
【0118】
コントローラ1130は、様々な態様で逆行性血流を選択的に増補するように使用され得る。例えば、逆行性血流の流量が速くなると、結果として脳、特に同側MCAへの血流がさらに低下し、ウィリス動脈輪からの側副血行路で十分に補えない可能性があることが認められている。したがって、逆行性血流の流量が長期間高くなると、患者の脳に十分な血流が得られない状態になり、神経症状として現れる患者の不耐性につながり得る。研究によると、MCA血流速度が10cm/秒未満になると、患者は神経性血液不足のリスクにさらされるため、当該血流速度が閾値になる。脳への適切な灌流を監視するための他のマーカーとしては、EEG信号などがある。ただし、中大脳動脈(MCA)の流れが完全に停止するまでの短時間(最大で約15秒~1分間)であれば、高流量が許容される可能性がある。
【0119】
このように、コントローラ1130は、処置中に塞栓生成のリスクが高まる期間に対応する限られた期間のみ逆行性血流を自動的に増加させることにより、塞栓デブリの捕捉を最適化し得る。これらのリスクが高まる期間には、介入デバイス(例えば、ステント拡張術前および/またはステント拡張術後のバルーンカテーテルやステント送達デバイスなど)がプラークPを通過する期間が含まれる。もう1つの期間は、ステントの展開や拡張前または拡張後のバルーンカテーテルの膨張と収縮などの介入操作中である。3つ目の期間は、治療部位の血管造影画像化のための造影剤注入期間である。リスクが低い期間中、コントローラは、逆行性血流の流量を低いベースラインレベルに戻すことができる。この低いレベルは、内頸動脈(ICA)の逆行性血流の流量が低いこと、又は、外頸動脈(ECA)若しくは内頸動脈(ICA)の灌流圧比が高い患者では順行性流量がわずかであることに対応し得る。
【0120】
ユーザが手動で流量の状態を設定する流量調整システムでは、ユーザが逆行性血流の状態(「高」または「低」)に注意を払わず、誤って回路を高流量に維持してしまうリスクがある。これにより、患者に有害な反応が生じる可能性がある。一実施形態において、安全機構として、デフォルトの流量は低流量である。このことは、高流量に耐えられない患者に対するフェイルセーフ対策として機能する。この点に関して、コントローラ1130は、所定の高流量期間が経過した後にシステムを低流量に戻すように、デフォルトの流量にバイアスをかけてもよい。このような低流量へのバイアスは、電子機器やソフトウェアによって実現されてもよいし、機械部品、又は、機械部品と電子機器等との組み合わせを使用して実現されてもよい。一実施形態において、コントローラ1130の流量制御アクチュエータ1165、並びに/又は、流量制御アセンブリ(流量制御レギュレータ)125のバルブ1115及び/若しくはポンプ1110は、低流量を実現する状態に向けて、ばね荷重がかけられている。コントローラ1130は、必要に応じてユーザがコントローラ1130をオーバーライドして、システムを手動で低流量の状態に戻すことができるように構成されている。
【0121】
別の安全機構として、コントローラ1130は、流量が高流量であった時間に関する時間を記録するタイマー1170(
図11)を含む。コントローラ1130は、高流量が所定時間(例えば、15秒、30秒、又は60秒以上)続いた後に、システム100を自動的に低流量に戻すようにプログラムされてもよい。コントローラが低流量に戻った後、ユーザは、必要に応じて別の所定の高流量期間を開始し得る。さらに、ユーザはコントローラ1130をオーバーライドして、システム100を必要に応じて低流量(又は高流量)に移行させ得る。
【0122】
例示的な手順では、逆行性血流のレベルを最初に低速に設定し、その後、手順の重要な段階で一定期間高速に切り替えることによって、患者の耐性の問題が発生しないように塞栓デブリの捕捉が最適化される。或いは、最初に流量を高く設定し、そのレベルに対する患者の耐性を確認してから、残りの手順に進む。患者が不耐性の兆候を示した場合、逆行性血流の流量が下げられる。患者の許容範囲は、解剖学的データセンサ1140からのフィードバックに基づいてコントローラによって自動的に決定されるか、又は、患者の観察に基づいてユーザによって決定される。逆行性血流の流量の調整は、コントローラによって自動的に実行されてもよいし、ユーザによって手動で実行されてもよい。或いは、ユーザは、例えば、経頭蓋ドップラー超音波検査(TCD)を使用して中大脳動脈(MCA)を通る血流速度を監視し、MCAの血流速度を閾値レベル以上に維持する逆行性血流の最大レベルを設定してもよい。この状況では、血流の状態を変更することなく、手順全体が実行され得る。手順の過程でMCAの血流速度が変化したり、患者が神経症状を示したりした場合は、必要に応じて調整が行われてもよい。
【0123】
[キット及びパッケージの構成例]
例示的な実施形態の逆行性血流システム100において、逆行性血流システムの全てのコンポーネントは、単一の滅菌パッケージに一緒にパッケージ化されている。この滅菌パッケージには、動脈シース、動脈シース拡張器、静脈シース、静脈シース拡張器、シャント/コントローラ、及び、1つ又は複数のシースガイドワイヤが含まれている。1つの構成において、逆行性血流システムのコンポーネントは、コンポーネントを受け入れて固定するための大きさと形状を有する1つ又は複数の開口部又は切り欠きが設けられた平らなカード(例えば、段ボール又はポリマーカードなど)に取り付けられる。別の構成において、前記カードは、パッケージの外形を縮小するために、本やクラムシェルのように開閉可能に構成される。この実施形態では、カードが閉じた形態にあるときに製品の少なくとも一部を見せるための切り欠きがカードに設けられていてもよい。
図15Aは、開いた形態でブックカード1510に取り付けられたキットを示す。
図15Bは、ブックカード1510が閉じた形態のキットを示す。切り欠き(窓部)1520により、カードが閉じた形態の場合でも、流量制御ハウジング(ハウジング1300)などのパッケージ化された少なくとも1つのデバイスの一部を視覚化できる。
図15Cは、キットとブックカードが、更なるパッケージコンポーネント(例えば、滅菌パウチ1530と棚用カートン(シェルフカートン)1540とを含む)に挿入されている状態を示す。この実施形態では、棚用カートン1540も、前記ブックカード1510の切り欠き(窓部)1520に位置合わせされる切り欠き(窓部)1550を備え、
図15Dに示すように、閉じた棚用カートンの外側から製品の少なくとも一部を視覚化できる。滅菌パウチ1530を汚れや損傷から保護するために、棚用カートン1540の切り欠き(窓部)1550にナイロン又はその他の透明フィルム素材が貼り付けられてもよい。
【0124】
一実施形態では、フラットバージョン又はブックバージョンのいずれかのパッケージカードに、デバイスの準備と使用を支援するために、コンポーネント名、接続手順、及び/又は、準備手順が印刷されてもよい。
【0125】
別の実施形態では、動脈アクセス装置、静脈還流装置、及び、流量制御器付きのシャントが、3つの別々の滅菌パッケージにパッケージ化されてもよい。例えば、動脈アクセスシース、シース拡張器、及びシースガイドワイヤを含む動脈アクセス装置は1つ目の滅菌パッケージに収められ、静脈還流シース、静脈シース拡張器、及びシースガイドワイヤを含む静脈還流装置は2つ目の滅菌パッケージに収められ、流量制御器付きのシャントは3つ目の滅菌パッケージに収められてもよい。
【0126】
[ステントの実施形態]
以下、経頸動脈および/または経大腿動脈の手術で使用される(例えば、様々な血管系(例えば、頸動脈血管系)に展開される)ように構成された様々な実施形態に係るステントが説明される。本明細書では、頸動脈血管系において展開するための経頸動脈手術におけるステントの使用に関する例が示されているが、本明細書に記載の実施形態に係るステントは、本開示の範囲から逸脱しない限り、他の用途(例えば、経大腿手術)にも使用され得る。本明細書に記載のステントは、例えばアテローム性動脈硬化症による血管閉塞を治療し、様々な血管系に沿った血流を改善するように構成され得る。例えば、ステントは、自己拡張型であってもよいし、様々なステント拡張デバイス(例えば、拡張可能なバルーン)のうちの1つを使用して拡張されてもよい。ステントは、収縮形態(折り畳み形態)と拡張構成(膨張形態)との間で移行(遷移)可能に構成されてもよい。例えば、ステント(すなわち、ステントの細長い管状本体)は、血管系(例えば、頸動脈血管系)にステントを挿入して配置可能なように、第1の直径を有する収縮形態を形成し得る。さらに、ステント(すなわち、ステントの細長い管状本体)は、治療部位(例えば、アテローム性動脈硬化症が生じた場所)に配置された場合などに、第1の直径よりも大きな第2の直径を有する拡張形態を形成し得る。ステントは、ステントの長手方向軸に対して径方向外側に拡張可能である。
【0127】
ステントは、1つ又は複数の種類の様々な材料から形成可能である。例えば、ステントの材料として、ステントが自己拡張し得るような材料、又は、補助の有無にかかわらずステントが収縮形態から拡張形態構成に移行し得る材料が用いられてもよく、具体的には、形状記憶材料(例えば、ニチノール)や、生体適合性材料などが用いられてもよい。本明細書に記載の実施形態に係るステントは、本明細書に記載のアクセス及び血流制御の任意のシステム及び機能と共に使用され得る。さらに、例えば、頸動脈ステント展開のための治療部位の準備や、(例えば、展開されたステントの所望の外周を達成するための)治療部位内でのステントの拡張など、前後のステント展開処置のために、バルーンカテーテルが使用されてもよい。
【0128】
図16A~
図16Bは、細長い管状本体1610を有する一実施形態に係るステント1600を示す。さらに、ステント1600は、複数のストラットリング1616を備え得る。ストラットリング1616は、管状本体1610の長手方向軸Lの周囲に、すなわち、管状本体1610の周方向に延びるように設けられている。各ストラットリング1616は、複数のストラット1615を備え得る。複数のストラット1615は、ストラットリング1616の長さに沿ってジグザグ構成を形成する。例えば、各ストラットリング1616が備える複数のストラット1615は、それぞれ、隣接するストラット1615に対して角度(傾斜)が付けられ、ストラットジョイント1614において隣接するストラット1615に結合されるように構成されてもよい。すなわち、各ストラットリング1616は、複数のストラットジョイント1614を備え得る。
図16Aに示すように、いくつかの実施形態では、隣接する2つのストラットリング1616のストラットジョイント1614は、互いにほぼ位置合わせされ得る。隣接する2つのストラットリング1616は、例えばストラットジョイント1614の1つ分だけ周方向にオフセットされ得る。このような周方向のオフセットにより、
図16Aに示すように、2つの隣接するストラットリング1616が鏡像化され得る。ストラットジョイント1614は、隣接するストラット1615が互いに接近および離反する方向に旋回可能なように柔軟性を有してもよい。これにより、ステント1600の収縮形態および拡張形態の形成が促進され得る。
【0129】
各ストラットリング1616は、隣接するストラットリング1616に対して、1つ又は複数のブリッジ1620によって、接続され且つ間隔を空けて配置され得る。
図16Aに示すように、各ブリッジ1620は、隣接するストラットリング1616のストラットジョイント1614間に延びる非線形(例えば、ジグザグ)形状の材料延長部を備え得る。複数のブリッジ1620は、互いに異なる長さ及び/又は非線形形状を有してもよく、このことは、血管系に形状適合するためのステント1600の柔軟性および機能に影響を及ぼし得る。例えば、ブリッジ1620の非線形形状を形成する材料の長さが長いほど、ブリッジ1620は、より簡単に曲がりやすくなる(例えば、変形および/または伸長するのに必要な力が少なくて済む)。これにより、互いに隣接するストラットリング1616が互いに対してより簡単に移動(例えば、拡張、収縮、旋回)できるようになる(例えば、互いに隣接するストラットリング1616を互いに対して移動させるのに必要な力が少なくて済む)。このように互いに隣接するストラットリング1616の移動が容易になることで、ステント1600のより柔軟な部分が得られる。さらに、ステント1600のより柔軟な部分は、周囲の血管系に効果的に形状適合しやすくなる。ブリッジ1620の多様な長さと形状は、治療部位でステント1600を効果的に固定することにも役立ち得る。
【0130】
図16Aに示すように、管状本体1610の複数のストラットリング1616は、それぞれ、1つ又は複数のブリッジ1620を介して隣接するストラットリング1616に接続され得る。ストラット1615及びブリッジ1620は、複数のセルを形成および/または画定し得る。複数のセルは、セル領域1622をそれぞれ有し、ステント1600の外周部に、ステント1600の長さに沿って形成され得る。さらに、
図16Aに示すように、複数のセルは、少なくとも1つの開放セル1625を含んでもよいし、少なくとも1つの閉鎖セル1630を含んでもよいし、開放セル1625と閉鎖セル1630との組み合わせを含んでもよい。各閉鎖セル1630は、隣接する一対の対向するストラットジョイント1614を接続する一対のブリッジ1620を含み得る。対照的に、開放セル1625は、隣接する一対の対向するストラットジョイント1614のうち、ブリッジ1620によって接続されていない一対のストラットジョイント1614を含み得る。
【0131】
ステント1600は、頸動脈血管系の一部に沿って挿入可能および展開可能に構成され得る。ステント1600は、展開および拡張されると、少なくともいくつかの現在入手可能なステントよりも優れた機能(例えば、ステントの長さに沿った柔軟性の向上、隣接する解剖学的構造への適合性の向上、隣接する解剖学的構造への十分な付着、及び/又は、血管のねじれの低減など)を提供し得る。例えば、このような改善は、ステント1600の細長い管状本体1610の長さに沿って複数のストラットリング1616と複数のブリッジ1620とによって形成される第1のパターン変化1612によって、達成され得る。
【0132】
例えば、第1のパターン変化1612は、ステント1600の管状本体1610の長さ(長手方向軸)に沿って配置されたブリッジ1620のブリッジ長さ1621の変化を含み得る。さらに、いくつかの実施形態において、第1のパターン変化1612は、ステント1600の長さ(長手方向軸L)に沿ったストラット1615のストラット長さ1617の変化を含み得る。例えば、ステント1600の管状本体1610に沿って配置されるブリッジ長さ1621及び/又はストラット長さ1617は、多項式関数(例えば、4次多項式)に基づいて定義および/または決定され得る。多項式関数によって定められるブリッジ長さ1621及び/又はストラット長さ1617を変更することにより、ステント1600の長さに沿った柔軟性を有する形状をステント1600に持たせることが可能になる。これにより、血管の解剖学的構造に形状適合するためのステントの性能を向上させ、血管壁への密着性を向上させ、血管のねじれの可能性を低減することができる。
【0133】
図16A及び
図16Bに示すように、ステント1600は、近位セクション1640と中間セクション1642と遠位セクション1644とを含む第1のパターン変化1612を備え得る。
図16A及び
図16Bに示すように、近位セクション1640は、周方向に沿って2列に並ぶ複数の開放セル1625を備え得る。近位セクション1640の開放セル1625は、ステント1600の近位端1618に沿って隣接して配置されている。
図16A及び
図16Bに示すように、遠位セクション1644は、周方向に沿って2列に並ぶ複数の開放セル1625を備え得る。遠位セクション1644の開放セル1625は、ステント1600の遠位端1619に沿って隣接して配置されている。
図16Aに示すように、近位セクション1640と遠位セクション1644との間に位置する中間セクション1642は、複数の閉鎖セル1630を備え得る。以下でさらに詳しく説明されるように、第1のパターン変化1612は、ステント1600の長さに沿ったブリッジ長さ1621の変化を含み得る。これにより、ステント1600は、少なくともいくつかの現在入手可能なステントと比較して、本明細書で開示される改善を達成し得る。
【0134】
例えば、
図16Bに示すように、ブリッジ1620のブリッジ長さ1621は、ステント1600の長さに沿って(例えば、近位セクション1640と中間セクション1642とに沿って)、増大してもよい。さらに、近位セクション1640および中間セクション1642に沿ったブリッジの長さ1621は、遠位方向に沿って次第に増大してもよい(例えば、近位端1618に近い位置にあるブリッジ1620の長さは、ステント1600の遠位端1619に近い位置にあるブリッジ1620の長さよりも短くてもよい)。いくつかの実施形態において、遠位セクション1644は、中間セクション1642又は近位セクション1640に沿ったブリッジ長さ1621と比較して、同一または類似のブリッジ長さを有してもよく、且つ/又は、より短いブリッジ長さを有してもよい。遠位セクション1644に沿ったブリッジ長さ1621は、略同じ(略均一の)長さを有してもよく、より近位のブリッジ1620の少なくともいくつかに比べて短くされてもよい。
【0135】
図16Cは、ステント1600(例えば、近位セクション1640及び中間セクション1642)の長さに沿ったブリッジ1620のブリッジ長さ1621の増大(例えば、遠位方向に沿ってブリッジ長さが次第に増大すること)を示すグラフ1675を示す。例えば、
図16Bに示すように、ステント1600の近位端1618に隣接する第1の複数のブリッジ1620aは、他のブリッジ1620b~1620iと比較して最短の長さを有し得る。さらに、ブリッジ1620の長さは遠位方向に沿って次第に増大してもよく、例えば、ステント1600の遠位端1619に近い第9の複数のブリッジ1620iの長さが最も長くてもよい。
図16B及び
図16Cに示すように、いくつかの実施形態において、2つの最も遠位のストラットリング1616の間に延びる複数のブリッジ1620(例えば、遠位セクション1644に沿った複数のブリッジ1620j)は、同じ又はほぼ同じ長さを有してもよく、より近位の複数のブリッジ(例えば、第9の複数のブリッジ1620i)の少なくともいくつかと比較して短くてもよい。
【0136】
ステント1600は、約20ミリメートル(mm)~約50mm(例えば、30mm、40mm)など、様々な長さを有し得る。さらに、ステント1600は、多項式関数(例えば、4次多項式)を定めるか又は該多項式関数によって定められる様々なブリッジ長さ1621を有する様々なパターン変化(パターンバリエーション)を備え得る。
図16Cに示すように、ステント1600の第1のパターン変化1612のブリッジ長さ1621の変化は、多項式関数(例えば、4次多項式)1630によって近似的に定められ得る。例えば、
図16Cのグラフ1675に示すように、第1の多項式関数1630aは、約50mmの長さのステント1600の実施形態を定め得るものであり、第2の多項式関数1630bは、約30mmの長さのステント1600の実施形態を定め得るものである。例えば、第1の多項式関数1630aと第2の多項式関数1630bとは、両方とも4次多項式であり得るが、異なるステント長さに基づいている点で異なる。いくつかの実施形態において、ブリッジ長さ1621は、長さ方向の遠位部分に沿って次第に減少してもよい(例えば、少なくとも中間セクション1642に比べて、遠位セクション1644の少なくとも一部に沿って減少してもよい)。これにより、ステント1600の遠位端は、例えば血管壁に十分に密着するように拡張するなど、適切な径方向の力を維持できるようになる。
【0137】
いくつかの実施形態において、ストラット1615の長さは、同じ(均一)又は略同じ(略均一)であってもよい。いくつかの実施形態において、ストラット1615の長さは変化してもよい。ステント1600は、任意の個数の複数のストラットリング1616及びブリッジ1620を備えてもよく、本明細書に図示または開示されているストラット1615、ストラットリング1616、及び/又はブリッジ1620の個数に限定されるものでない。
【0138】
例えば、第1のパターン変化1612は、ステント1600の全長に沿って、略同じ(略均一の)ストラット長さ1617を有するストラット1615を備えてもよい。これにより、頸動脈などに対して、ステント1600の全長に亘って一定の径方向の力を加えることが可能になる。さらに、第1のパターン変化1612は、ステント1600の長さに沿って(例えば、中間セクション1642に沿って)、遠位方向に次第に増大するブリッジ1620の長さを有してもよく、これにより、ステント1600は、少なくとも中間セクション1642に沿って、遠位方向に向かうほど大きな柔軟性(遠位柔軟性バイアス)を提供し得る。これにより、ステント1600は、ステントの近位端1618と遠位端1619の両方で所望の適合性(形状適合性)を維持できるようになる。例えば、少なくとも中間セクション1642に沿った遠位柔軟性バイアスにより、ステント1600の遠位端1619は、比較的柔軟になり、内頸動脈(ICA)分岐部のより曲がりくねった構造に適応可能になり、ステント1600の近位端1618は、拡張されて総頸動脈(CCA)内に固定され得る。
【0139】
図17A~
図17Bは、別の実施形態に係るステント1600を示す。該ステント1600は、頸動脈血管系の一部に展開してその部分に沿った血流を改善するための細長い管状本体1610を有する。
図17A及び
図17Bに示すように、ステント1600は、近位セクション1740と中間セクション1742と遠位セクション1744とを含む第2のパターン変化1712を備え得る。
図17A及び
図17Bに示すように、近位セクション1740は、周方向に沿って2列に並ぶ複数の開放セル1625を備え得る。近位セクション1740の開放セル1625は、ステント1600の近位端1618に沿って隣接して配置されている。
図17A及び
図17Bに示すように、遠位セクション1744は、周方向に沿って2列に並ぶ複数の開放セル1625を備え得る。遠位セクション1744の開放セル1625は、ステント1600の遠位端1619に沿って隣接して配置されている。近位セクション1740及び遠位セクション1744には、閉鎖セル1630が存在しなくてもよい。
図17Aに示すように、近位セクション1740と遠位セクション1744の間に位置する中間セクション1742は、複数の閉鎖セル1630を備え得る。中間セクション1748には、開放セル1625が存在しなくてもよい。以下でさらに詳しく説明されるように、第2のパターン変化1712は、ステント1600の長さに沿ったブリッジ長さ1621の変化を含んでもよい。これにより、ステント1600は、少なくともいくつかの現在入手可能なステントと比較して、本明細書で開示される改善を達成し得る。さらに、
図17Aに示すステント1600は、遠位セクション1744に沿ったストラットの長さの変化を含み得る。
【0140】
図17Bに示すように、例えば、ブリッジ1620のブリッジ長さ1621は、ステント1600の長さに沿って(例えば、近位セクション1740及び中間セクション1742に沿って)、次第に増大してもよい。さらに、ブリッジの長さ1621は、ステント1600の長さに沿って、遠位方向に向かって次第に増大してもよい(例えば、ステント1600の近位端1618に近い位置にあるブリッジ1620は、ステント1600の遠位端1619に近い位置にあるブリッジ1620と比較して短くてもよい)。いくつかの実施形態において、遠位セクション1744は、中間セクション1742又は近位セクション1740に沿ったブリッジ長さ1621と比較して、同一又は類似のブリッジ長さを有してもよく、且つ/又は、より短い長さを有してもよい。
図17Bに示すように、遠位セクション1744に沿ったブリッジの長さ1621は、略同じ(略均一の)長さを有してもよく、より近位のブリッジ1620の少なくともいくつかと比較して、より短い長さを有してもよい。
【0141】
図17Cは、ステント1600の長さに沿った(例えば、近位セクション1740と中間セクション1742の少なくとも大部分とに沿った)、ブリッジ1620のブリッジ長さ1621の増大を示すグラフ1775を示す。例えば、
図17Bに示すように、ステント1600の近位端1618に隣接する第1の複数のブリッジ1620aは、他のブリッジ1620b~1620iと比較して最短の長さを有し得る。さらに、ブリッジ1620の長さは遠位方向に向かって次第に増大してもよく、例えば、ステント1600の遠位端1619に近い第9の複数のブリッジ1620iの長さが最も長くてもよい。
図17B及び
図17Cに示すように、いくつかの実施形態において、2つの最も遠位のストラットリング1616の間に延びる複数のブリッジ1620(例えば、遠位セクション1744に沿った複数のブリッジ1620j,1620k)の長さは、遠位方向に向かって次第に減少してもよい。
【0142】
図17Cに示すように、第2のパターン変化1712におけるブリッジ長さ1621の変化は、多項式関数1730(例えば、4次多項式)(例えば、
図17Cのグラフ1775に示すような、約50mmの長さのステント1600の実施形態を定める第1の多項式関数1730a、及び、約30mmの長さのステント1600の実施形態を定める第2の多項式関数1730b)によって近似的に定められ得る。上述のように、ステント1600は、本開示の範囲から逸脱しない限り、様々な長さ(例えば、約20mm、40mm)を有し得る。ステント1600に沿ったブリッジ長さ1621の変化に加えて、いくつかの実施形態では、ストラット1615の長さも、ステント1600の長さ方向及び/又は周方向に沿って変化してもよい。例えば、遠位セクション1744に沿って配置されたストラット1615は、近位セクション1740及び中間セクション1742に沿ったストラット1615と比較して、長さが異なっていてもよい。例えば、近位セクション1740及び中間セクション1742に沿ったストラット1615の長さは、約0.054インチ(例えば、約0.0538インチ)であってもよい。さらに、遠位セクション1744(開放セルセクション)に沿った最後(最遠位)の2つのストラット1615の長さは、約0.057インチ~約0.06インチの範囲であってもよく、例えば、約0.0568インチ(最遠位のストラット1615)であってもよく、0.0594インチ(最遠位から2番目のストラット1615)であってもよい。
【0143】
いくつかの実施形態において、第2のパターン変化1712は、ステント1600の近位端または遠位端のいずれかに沿って、ストラット長さ1617が減少または増大したストラット1615を含み得る。例えば、ストラット長さ1617が長くなると、ステント1600の径方向の力が減少し、関連するブリッジ1620のストラットリング1616に対する柔軟性が高まり、これによって、ステント1600の柔軟性が向上する。例えば、第2のパターン変化1712は、ステント1600に沿った遠位方向に向かうストラット長さ1617の増大を含み得る。これにより、遠位柔軟性バイアスが可能になりつつ、ステント1600が治療部位に対する近位および遠位の両方の解剖学的構造において所望の形状適合性を維持可能になる。
【0144】
図18A~
図18Bは、別の実施形態に係るステント1600を示し、該ステント1600は、頸動脈血管系の一部に展開され、その部分に沿った血流を改善するための細長い管状本体1610を有する。
図18A及び
図18Bに示すように、ステント1600は、近位セクション1840と中間セクション1842と遠位セクション1844とを含む第3のパターン変化1812を備え得る。
図18A及び
図18Bに示すように、近位セクション1840は、周方向に沿って2列に並ぶ複数の開放セル1625を備え得る。近位セクション1840の開放セル1625は、ステント1600の近位端1618に沿って隣接して配置されている。
図18A及び
図18Bに示すように、遠位セクション1844は、周方向に沿って2列に並ぶ複数の開放セル1625を備え得る。遠位セクション1844の開放セル1625は、ステント1600の遠位端1619に沿って隣接して配置されている。近位セクション1840及び遠位セクション1844には、閉鎖セル1630が存在しなくてもよい。
図18Aに示すように、近位セクション1840と遠位セクション1844との間に位置する中間セクション1842は、複数の閉鎖セル1630を備え得る。中間セクション1848には、開放セル1625が存在しなくてもよい。以下でさらに詳しく説明されるように、第3のパターン変化1812は、ステント1600の長さに沿ったブリッジ長さ1621の変化を含み得る。これにより、ステント1600は、少なくともいくつかの現在入手可能なステントと比較して、上記で開示された改善を達成し得る。例えば、
図18Bに示すように、ブリッジ1620のブリッジ長さ1621は、ステント1600の正中線(軸心に直交する中心線)Mからステント1600の近位端および遠位端の両方に向かってほぼ対称的に減少してもよい。
【0145】
図18Cは、ステント1600の正中線Mからのブリッジ長さ1621の対称的な減少を示すグラフ1875を示す。例えば、
図18Bに示すように、ステント1600の近位端1618及び遠位端1619に隣接する第1の複数のブリッジ1620aは、他の複数のブリッジ1620b~1620fと比較して、最も短いブリッジ長さを有し得る。この対称的なステント構成により、ステント1600の中央部に沿って柔軟性を集中させることができ、ステントの向きに関係なく、解剖学的構造への形状適合性を最大限に高め得る。
【0146】
図18Cに示すように、第3のパターン変化1812におけるブリッジ長さ1621の変化は、多項式関数1830(例えば、4次多項式)(例えば、
図18Cのグラフ1875に示すような、約50mmの長さのステント1600の実施形態を定める第1の多項式関数1830a、及び、約30mmの長さのステント1600の実施形態を定める第3の多項式関数1830b)によって近似的に定められ得る。上述のように、ステント1600は、本開示の範囲から逸脱しない限り、様々な長さ(例えば、約20mm、約40mm)を有し得る。ステント1600に沿ったブリッジ長さ1621の変化に加えて、いくつかの実施形態では、ストラット長さも、ステント1600の長さにわたって変化したり、同じ(一定の)ままであったりしてもよい。
【0147】
いくつかの実施形態において、ブリッジ1620は、例えば
図18Aに示す非線形形状(例えば、ジグザグ形状)のブリッジ1620のように、ストラットジョイント1614間で線形(直線状)または非線形(非直線状)に延びるブリッジ長さ1621を有し得る。例えば、ブリッジ1620は、隣接するストラット1615の端部間で非線形状(例えば、ジグザグ形状)に延びてもよい。ブリッジ1620は、少なくとも非線形ないしジグザグ形状を形成している部分においては、隣接するストラット1615間、すなわち隣接するストラットジョイント1614間の直線距離よりも長いブリッジ長さ1621を有し得る。例えば、非線形のブリッジの形成は、ステント1600が曲がって周囲の血管に形状適合することを可能にするのに役立ち得る。その他の非線形ブリッジ1620の形成も本開示の範囲内である。
【0148】
いくつかの実施形態において、一実施形態に係るストラット1615のストラット長さ1617は、約0.04mm~約0.07mmの範囲内であり得る。いくつかの実施形態において、一実施形態に係るブリッジ1620のブリッジ長さ1621は、約0.5mm~約1.4mmの範囲内であり得る。ストラット1615及びブリッジ1620のその他の寸法は、本開示の範囲内である。
【0149】
[例示的な使用方法]
次に、
図14A~
図14Bを参照して、本発明の方法の様々な段階における頸動脈分岐部を通る流れについて説明される。まず、
図14Aに示すように、動脈アクセス装置110のシース605が総頸動脈(CCA)に導入される。前述のように、総頸動脈(CCA)への進入は、直接的な外科的切開または経皮的アクセスのいずれかで行われ得る。動脈アクセス装置110のシース605が総頸動脈(CCA)に導入された後、
図14Aに示すように、血流は順行方向AGに継続し、総頸動脈からの流れが内頸動脈(ICA)と外頸動脈(ECA)の両方に入る。
【0150】
次に、静脈還流装置115が、静脈還流部位(例えば、内頸静脈(IJV)(
図14A~
図14Gには図示されず)又は大腿静脈など)に挿入される。シャント120は、動脈アクセス装置110の流路615と静脈還流装置115の流路915とにそれぞれ接続するために使用される(
図1Aを参照)。このようにして、シャント120は、動脈アクセス装置110から静脈還流装置115への逆行性血流のための通路を提供する。別の実施形態では、
図1Cに示すように、シャント120は、静脈還流装置115ではなく外部容器130に接続される。
【0151】
システムのすべてのコンポーネントが所定の位置に配置され、接続されると、通常は止血帯2105又はその他の外部血管閉塞装置を使用して総頸動脈(CCA)を閉塞することで、総頸動脈(CCA)を通る血流が停止される。別の実施形態では、閉塞要素129は動脈アクセス装置110の遠位端に配置される。あるいは、閉塞要素129は、
図2Bに示すように、動脈アクセス装置110のシース605とは別の第2の動脈閉塞装置112に導入される。外頸動脈(ECA)は、同じデバイス(動脈アクセス装置110)上または別の閉塞デバイス上の別の閉塞要素によって閉塞されてもよい。
【0152】
その時点で、外頸動脈(ECA)及び内頸動脈(ICA)からの逆行性血流RGが始まり、シース605、流路615、シャント120を通過し、流路915を介して静脈還流装置115に流れ込む。流量制御アセンブリ125は、上述のように逆行性血流を制御する。
図14Bは、逆行性血流RGの発生を示す。
【0153】
次に、
図14C~
図14Dを参照して、頸動脈形成術を実施するためのバルーンカテーテル1950の配置および使用、並びに、一実施形態に係るステント1600の展開について説明される。逆行性血流が維持されている間、治療部位(例えば、プラークによって血流が制限されている領域、及び、一実施形態に係るステント1600が展開され得る場所)で頸動脈形成術を実施するように、バルーンカテーテル1950が使用され得る。バルーンカテーテル1950の導入前に、ガイドワイヤが、動脈アクセス装置110を通して、総頸動脈(CCA)(頸動脈形成術が行われる治療部位を含む)に沿って、前進され得る。ガイドワイヤの遠位端は、(例えば、ガイドワイヤルーメン1750に沿って)バルーンカテーテル1950に通され得る。例えば、ガイドワイヤは、バルーンカテーテル1950の長さに沿って通されてもよいし、急速交換用に構成されたバルーンカテーテルの場合のように、バルーンカテーテル1950の長さの一部に沿って通されてもよい。バルーンカテーテル1950は、ガイドワイヤに沿って前進し、治療部位に沿って収縮した状態でカテーテルシャフト1960の遠位端にバルーン1920を配置し得る。
【0154】
例えば、バルーンカテーテル1950の遠位端は、動脈アクセス装置110に挿入され、視覚インジケータがバルーンカテーテル1950に沿って動脈アクセス装置110の視覚位置合わせマーカーに位置合わせされるまで、動脈アクセス装置110に沿って前進される。これによって、バルーンカテーテル1950の柔軟な先端の遠位端が、シース605の遠位端および内腔に位置合わせされ得る。この最初の位置決め手順は、透視検査を使用することなく実行され得る。
【0155】
視覚インジケータを視覚位置合わせマーカーに位置合わせした後、
図14Cに示すように、バルーンカテーテル1950のバルーン1920が、治療部位に向けて導かれ、治療部位に沿って配置され得る。バルーン1920を治療部位に沿って前進させて配置する際には、透視検査(例えば、透視検査下でのバルーンマーカーの観察)が使用されてもよい。バルーン1920が治療部位内に配置された後、バルーン1920は、(例えば、バルーンカテーテル1950のルアー1621に結合された流体源から供給される流体を介して)膨張され得る。膨張した状態では、バルーン1920の外面が治療部位の周囲のプラークを押し、これにより、
図14Dに示すように頸動脈形成術が実施される。頸動脈形成術を実施した後、バルーン1920が収縮され、バルーンカテーテル1950は、ガイドワイヤに沿って引き込まれ、動脈アクセス装置110から取り外され得る。動脈アクセス装置110から取り外された後、バルーンカテーテル1950は、ガイドワイヤから切り離され、ガイドワイヤは、動脈アクセス装置110を通って治療部位に沿って伸びたままになる。動脈アクセス装置110を総頸動脈(CCA)から取り外す前に、ガイドワイヤは、動脈アクセス装置110から引き抜かれ得る。
【0156】
次に、
図14E~
図14Gを参照して、治療部位に一実施形態に係るステント1600を展開するためのステント送達カテーテル2110の配置および使用について説明される。逆行性血流が維持されている間に、
図14Eに示すように、ステント送達カテーテル2110がシース605に導入される。ステント送達カテーテル2110は、止血弁625及び動脈アクセス装置110の近位延長部610(
図14A~
図14Gには図示されず)を介してシース605に導入される。ステント送達カテーテル2110は、内頸動脈(ICA)に進められ、
図14Fに示すように、一実施形態に係るステント1600は分岐部Bに展開され得る。
【0157】
塞栓生成のリスクが高い期間中(例えば、ステント送達カテーテル2110の導入中や、場合によってはステント1600の展開中など)には、逆行性血流の流量が増大され得る。(例えば、ステント留置前または留置後の頸動脈形成術や拡張術などの)バルーンカテーテルの留置中および拡張中にも、逆行性血流の流量は増大され得る。逆行性血流下では、ステント留置前にアテローム切除術が行われてもよい。
【0158】
さらに場合によっては、ステント1600が拡張された後、逆行性血流を低流量と高流量との間で循環させることによって分岐部Bが洗い流され得る。ステント1600が配置されるか又は他の処置が行われた頸動脈内の領域は、正常な血流を回復する前に血液で洗い流される場合もある。
【0159】
図14Hに示すように、総頸動脈が閉塞したままの状態で、バルーンカテーテル1950を使用して、ステント1600の展開後の拡張が行われてもよい。このような展開後のステント1600の拡張を実行するために、ガイドワイヤが再びバルーンカテーテル1950に通されてもよく、これにより、少なくとも動脈アクセス装置110と治療部位との間に延びるガイドワイヤに沿ってバルーンカテーテル1950が進められ得る。バルーンカテーテル1950は、頸動脈形成術の実行に関して上述されたのと同様に、前進および配置され得る。しかしながら、展開後のステント拡張の場合には、ステント1600が少なくとも部分的に拡張された状態でバルーン1920が治療部位まで前進され得る。
図14Hに示すように、例えば、透視検査を使用して、ステント1600に対するバルーンカテーテル1950の1つ又は複数の放射線不透過性構成部の位置を特定することにより、ステント1600の内部チャネルに沿ってバルーン1920が配置され得る。バルーン1920がステント1600内に適切に配置された後、バルーン1920に流体が送り込まれてバルーン1920が膨張状態になり得る。これにより、バルーン1920の外面がステント1600を周方向に押し込み、ステントが周方向にさらに拡張され得る。このようなステント1600のさらなる周方向の拡張により、ステント1600を通る血流が改善され、治療部位に沿った位置にステント1600がさらに固定される。バルーンカテーテル1950はガイドワイヤに沿って引き戻され、総頸動脈(CCA)から除去され得る。ガイドワイヤも総頸動脈(CCA)から引き戻され得る。
【0160】
総頸動脈から外頸動脈への血流は、動脈内に存在する閉塞手段を一時的に開くことによって再び確立されてもよい。この結果生じる流れは、頸動脈閉塞中に遅い流れ、乱流、又は停滞した流れが見られた総頸動脈を外頸動脈に洗い流すことができる。さらに、同じバルーン1920が逆流中および順流中にステント1600の遠位に配置され、その後、総頸動脈の閉塞を一時的に解除して洗い流すことによって確立されてもよい。これにより、ステントが挿入された領域で洗浄動作が発生し、当該領域内の緩い塞栓デブリ、又は、緩く付着した塞栓デブリの除去に役立つ。
【0161】
任意選択的に、総頸動脈からの血流が継続し、内頸動脈が閉塞したままの場合、例えば治療領域から塞栓を緩めるなど、頸動脈をさらに治療するための措置が講じられてもよい。例えば、ステント内の緩いプラーク若しくは緩く付着したプラーク、又は、その他の潜在的な塞栓デブリを洗浄または除去するために機械要素が使用されてもよいし、その領域を洗浄するために血栓溶解カテーテルやその他の流体送達カテーテルが使用されてもよいし、或いは、その他の処置が実行されてもよい。例えば、バルーン、アテローム切除術、又は更なるステントの使用によるステント内再狭窄の治療が逆行性血流下で行われてもよい。別の例では、閉塞バルーンカテーテルが、バルーンの近位に開口する流れ若しくは吸引用の内腔若しくはチャネルを含んでもよい。追加の装置を必要とせずに、生理食塩水、血栓溶解剤、又はその他の液体が治療部位に注入されたり、血液や残骸が治療部位から吸引されたりしてもよい。このようにして放出される塞栓は外頸動脈に流れ込むが、外頸動脈は、一般に内頸動脈に比べて塞栓の放出に対して敏感ではない。残っている潜在的な塞栓を予防的に除去することで、内頸動脈への血流が再確立されたときに塞栓が放出されるリスクがさらに軽減される。塞栓は逆行性血流によって放出されることもあり、その場合、塞栓はシャント120を通って静脈系、シャント120内のフィルタ、又は外部容器130に流れる。
【0162】
分岐部の塞栓が除去された後、閉塞要素129又は代わりに止血帯2105が解放されてもよく、これにより、
図14Gに示すように、順行性血流を再確立することができる。その後、シース605が取り外されてもよい。
【0163】
処置の終了時または処置中の任意の時点で、シース605を引き抜く前に、総頸動脈の壁の貫通部の周囲に自己閉鎖要素または手動閉鎖要素が配置されてもよい。自己閉鎖要素は、処置の開始時またはその付近くに配置されてもよいし、任意選択で、シースの遠位端から総頸動脈の壁上に放出されるなど、シースが引き抜かれるときに自己閉鎖要素が配置されてもよい。自己閉鎖要素の使用は、シースが引き抜かれる際に総頸動脈の貫通部の急速な閉鎖に実質的に影響するため有利である。このような迅速な閉鎖により、処置の終了時、又は、シースが誤って外れた場合に、予期しない出血を減らすか、又は無くすことができる。さらに、このような自己閉鎖要素により、アクセス中に動脈壁解離が発生するリスクが軽減され得る。さらに、自己閉鎖要素は、処置中にシースに摩擦力またはその他の保持力を加えるように構成されてもよい。このような保持力は有利であり、処置中にシースが誤って外れる可能性を減らし得る。自己閉鎖要素により、シース除去後に縫合による動脈の血管外科的閉鎖の必要性がなくなり、広い手術野の必要性が減り、手術に必要な外科技術が大幅に軽減される。
【0164】
本明細書に開示されたシステム及び方法は、アンカー部分および/または自動閉鎖部分を含む機械要素など、多種多様な自己閉鎖要素または手動閉鎖要素を採用し得る。アンカー部分は、フック、ピン、ステープル、クリップ、タイン(tine)、縫合糸などから構成され、貫通部が完全に開いたときに自己閉鎖要素を固定するために貫通部の周囲の総頸動脈の外面に係合される。自己閉鎖要素は、シースを除去するとアンカー部分を閉じて動脈壁内の組織を引き寄せて閉鎖する、スプリング状またはその他の自己閉鎖部分を含んでもよい。閉鎖は十分であるため、貫通部を閉鎖または密閉するためにさらに措置を講じる必要はない。ただし、必要に応じて、シースを引き抜いた後に、自己閉鎖要素の追加のシールを行うことが望ましい場合がある。例えば、自己閉鎖要素、及び/又は、要素の領域内の組織管は、生体吸収性ポリマー、コラーゲンプラグ、接着剤、シーラント、凝固因子、又はその他の凝固促進剤などの止血材料で処理され得る。あるいは、組織または自己閉鎖要素は、電気焼灼、縫合、クリップ留め、ステープル留めなどの他の処置を使用して、密封または閉鎖されてもよい。別の方法では、自己閉鎖要素は、クリップ、接着剤、バンド、又はその他の手段で容器の外壁に取り付けられる自己シール型の膜またはガスケット材料であってもよい。自己シール型の膜は、血圧に対して通常閉じられている内部開口部(例えば、スリット又はクロスカット)を有してもよい。これらの自己閉鎖要素はいずれも、開放手術で配置されるように、又は、経皮的に展開されるように構成されてもよい。
【0165】
別の実施形態では、シースが配置され、閉塞バルーンカテーテルが外頸動脈内に展開された後に、頸動脈ステント留置術が行われてもよい。外頸動脈の口を塞がないようにするための側孔またはその他の要素を有するステントは、側孔を通してガイドワイヤ又は外頸動脈閉塞バルーンのシャフトを受けた状態で、シースを通して送達され得る。これにより、ステントが前進すると、通常はカテーテルがガイドワイヤを介して内頸動脈まで導入され、側孔にカテーテルシャフトが存在することで、ステントが前進するときに側孔が外頸動脈の入口に確実に位置合わせされる。閉塞バルーンが外頸動脈内に配置されると、側孔により、他の逆行性血流システムの欠点であるステントによる外頸動脈閉塞バルーンシャフトの閉じ込めが防止される。この手法によれば、外頸動脈を「拘束」することも回避され、ステントがグラフト材料で覆われている場合は、外頸動脈への血流が遮断されることも回避される。
【0166】
別の実施形態では、総頸動脈および/または内頸動脈などの頸動脈血管系に実質的に適合する形状を有する1つ又は複数のステント(例えば、
図16A、
図17A、及び
図18Aに示される実施形態の1つ又は複数のステント1600)が配置される。例えば、ステント1600は、血管系に挿入され、治療部位に沿って且つ/又は治療部位に隣接して配置される際に、収縮形態(折り畳み形態)に形成され得る。所望の位置に到達すると、ステント1600は、拡張形態に形成されるか又は形成可能になり、これにより、ステント1600が治療部位またはその近傍に固定される。本明細書に開示されているように、ステント1600の実施形態は、可変のブリッジ1620及び/又はストラット1615の長さを有し、これにより、ステント1600の長さに沿って可変の柔軟性(可撓性)および/または血管への適合性を有する。
【0167】
患者間で解剖学的構造が大きく異なるため、内頸動脈と外頸動脈との分岐部の角度や形状は多種多様である。したがって、医師は、特定の解剖学的構造を治療するのに適した1つ又は複数のステント1600を選択し得る。患者の解剖学的構造は、血管造影法またはその他の従来の方法によって判定され得る。いくつかの実施形態において、ステントは、関節部を有してもよい。関節部をそれぞれ有する複数のステントは、まず配置された後、その場において、総頸動脈と内頸動脈との分岐部の角度に合致するように互いに関節接合されてもよい。ステントは、密度が異なる複数のゾーンを備えた側壁を有するように、頸動脈内に留置されてもよい。
【0168】
別の実施形態において、ステント1600は、ステントが一方または両方の端部で少なくとも部分的にグラフト材料で覆われる場所に配置されてもよい。いくつかの実施形態において、ステントの中間セクションに沿った部分にはグラフト材料が存在しない。ステントの中間セクションは、総頸動脈から外頸動脈への血流を可能にするように、外頸動脈の入口に隣接して展開され得る。
【0169】
別の実施形態において、ステントデリバリーシステムは、経大腿アクセス用に設計されたシステムよりも短く且つ/又は硬質に構成されることによって、経頸動脈アクセス用に最適化され得る。これらの変更により、展開時にステント1600を正確に回転させて配置する機能が向上する。さらに、ステントデリバリーシステムは、外頸動脈閉塞バルーン又は外頸動脈内の別のガイドワイヤのいずれかを使用して、ステント1600を外頸動脈の入口に位置合わせするように構成されてもよい。このことは、側孔のあるステント、又は、方向付けが重要になる湾曲した、屈曲した、若しくは角度が付けられたステントの場合に特に有用である。
【0170】
特定の実施形態において、シャントは、動脈アクセスシースおよび静脈還流シースに固定的に接続され、これにより、交換可能なフローアセンブリとシースとのアセンブリ全体がユニットとして使い捨ておよび交換可能になる。他の例において、流量制御アセンブリは、いずれか一方または両方のシースに取り外し可能に取り付けられてもよい。
【0171】
一実施形態において、ユーザは、まず、処置中に塞栓生成のリスクが高まる期間が存在するかどうかを判定する。前述のように、リスクが高まる期間の例として、(1)デバイスがプラークPを通過している期間、(2)介入処置中(例えば、ステントの送達中、バルーンカテーテル若しくはガイドワイヤの膨張中若しくは収縮中)、(3)造影剤の注入中、などが挙げられる。上記の期間は、リスクが高まる期間の例に過ぎない。このような期間中、ユーザは、一定期間、逆行性血流の流量を高速に設定する。高リスク期間の終了時、又は、患者が高流量に対して不耐性を示した場合、ユーザは流量状態をベースライン流量(基本流量)に戻す。システムがタイマーを有する場合、設定時間が経過すると、フロー状態(血流状態)が自動的にベースライン流量に戻る。この場合、処置が依然として塞栓リスクが高まっている期間にある場合、ユーザはフロー状態を高流量に再設定してもよい。
【0172】
別の実施形態では、患者が逆行性血流の存在に対して不耐性を示す場合、プラークPよりも遠位の内頸動脈(ICA)にフィルタを配置している間のみ逆行性血流が確立される。プラークPに対して介入処置が実行される間、逆行性血流は停止される。その後、フィルタが除去されると、逆行性血流が再び確立される。別の実施形態では、プラークPの遠位の内頸動脈(ICA)にフィルタが配置され、フィルタが配置されている間に逆行性血流が確立される。この実施形態は、遠位フィルタの使用と逆行性血流とを組み合わせている。
【0173】
本明細書では、様々な方法およびデバイスの実施形態が特定のバージョンを参照して詳細に説明されているが、他のバージョン、実施形態、使用方法、及びこれらの組み合わせも可能であることが理解されるべきである。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および範囲は、本明細書に含まれる実施形態の説明に限定されるべきではない。
【国際調査報告】