(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-06
(54)【発明の名称】架橋性フッ素重合体
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20241129BHJP
C08K 5/25 20060101ALI20241129BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K5/25
C08K5/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538289
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-08-21
(86)【国際出願番号】 US2022050023
(87)【国際公開番号】W WO2023121791
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ユアンチン・リウ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD121
4J002BD131
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002BE041
4J002BK001
4J002EN036
4J002EQ026
4J002FD146
4J002GD00
4J002GH00
4J002GM00
(57)【要約】
本発明は、架橋性フッ素重合体の製造及び特性評価について説明する。これらの架橋性フッ素重合体はケト官能性単量体を含む。ケト官能性単量体はフッ素重合体に取り込まれると共に、架橋剤は重合後に後添加される。架橋反応は、水/溶媒の蒸発後又は溶融加工中に生じる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化共重合体を含む組成物であって、前記フッ素化共重合体は、重合体の一部として取り込まれたフッ素単量体単位及びケト官能性単量体単位を含む組成物。
【請求項2】
前記共重合体が少なくとも95重量%のフッ素単量体単位を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フッ素単量体がVDFを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記フッ素単量体がHFPを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記ケト官能性単量体がDAAMを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ケト官能性単量体がAAEMを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
前記フッ素化共重合体が、5kPより大きい、好ましくは7kPより大きい溶融粘度を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
架橋剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
前記架橋剤がAHDを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記架橋剤がヘキサメチレンジアミンを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記フッ素化共重合体が、架橋前に500,000lb/in
3(3,450,000kN・m/m
3)を超える靭性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記フッ素化共重合体が架橋されており、架橋されていないフッ素化共重合体と比較して少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%の靭性の増加を示す、請求項7に記載の組成物。
【請求項13】
前記フッ素化共重合体が架橋されており、900000lb/in
3(6,200,000kN・m/m
3)を超える靭性を示す、請求項7に記載の組成物。
【請求項14】
フッ素重合体を架橋する方法であって、ケト官能性単量体単位を含むフッ素化共重合体を準備し、前記フッ素化共重合体と架橋剤とをブレンドし、前記フッ素化共重合体と前記架橋剤とのブレンドを溶融加工することを含む方法。
【請求項15】
フッ素重合体を架橋する方法であって、ケト官能性単量体単位を含むフッ素化共重合体をラテックスの形態で準備し、前記フッ素化共重合体を含む前記ラテックスに架橋剤をブレンドし、次いで前記ラテックスを乾燥させることを含む方法。
【請求項16】
前記フッ素重合体がフッ化ビニリデン単量体単位を含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記フッ素重合体がDAAM単量体単位を含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項18】
前記架橋剤がジヒドラジド又はジアミン、好ましくはAHDを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項19】
前記架橋剤がAHDを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項20】
前記架橋剤がヘキサメチレンジアミンを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、1K(ワンパック自己架橋性)で製造でき、室温で塗布できる架橋フッ素重合体の新規手法を説明する。架橋反応に加熱も放射線も必要ない。これらの特徴は、単一の従来技術には示されていない。
【背景技術】
【0002】
関連技術の背景
架橋性フッ素重合体を記載した特許はいくつかある。しかし、それらのいずれも、本発明に記載する1K架橋化学を使用していない。
【0003】
ロシア国特許第2414762号には、フッ素重合体と、トリアリルイソシアヌレートと、酸化亜鉛とを含む放射線架橋フッ素重合体組成物が記載されている。
【0004】
国際公開第2009/052163号には、ヒドロフルオロカーボンとポリアミド系架橋剤を含むブロック共重合体を500°F(260℃)で架橋してなるフッ素重合体組成物が記載されている。この架橋ブロック共重合体は、非ヒドロフルオロカーボン系フッ素重合体とエンジニアリング樹脂の両方に相溶性がある。
【0005】
特許第3171688号公報には、マレイミド基(I)と、含フッ素脂環式構造重合体と、NH2-及び含フッ素脂環式構造重合体とを含む組成物が記載されている。この組成物は、100~300℃で加熱することにより架橋される。
【0006】
フッ素重合体は架橋が困難である。通常、フッ素重合体の架橋には放射線か高温が必要である。
【0007】
反応性が異なるため、DAAMやAAEMなどのケト官能性単量体とフッ素化単量体とを共重合させることは非常に困難である。驚くべきことに、本発明は、ケト官能性単量体をフッ素重合体の骨格に取り入れることによって、又はオリゴマー(ケト官能性単量体を含む)を、連鎖移動メカニズムを介してフッ素重合体に結合させることによって、ケト官能性単量体が重合体の一部となる得ることを実証する。得られたフッ素化ケト官能性共重合体は、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)やヘキサメチレンジアミン(HMDA)などのジヒドラジドやジアミンと反応して、常温又は溶融プロセスで架橋フッ素重合体を形成することができる。
【0008】
本発明では、AAEM(アセトアセトキシエチルメタクリレート)又はDAAM(ジアセトンアクリルアミド)のようなケト官能性単量体と、ADH(アジピン酸ジヒドラジド)又はヘキサメチレンジアミン(HMDA)のような架橋剤に基づくケトヒドラジド架橋を使用する。
【0009】
本発明は、塗布プロセス中に架橋可能な新規なフッ素重合体類を提供する。従来技術における架橋性フッ素重合体は、通常、加熱や放射線のような特別な処理を必要とする。本発明で使用する架橋化学は、加熱や放射線を必要としない。架橋反応は周囲温度で行うことができる。さらに、本発明の架橋系は、全ての成分が1つの容器に充填され、ユーザが混合やブレンドを行う必要がない1K系である。1K系は、成分が2つの容器に保存され、使用前にユーザがそれらをブレンドする必要がある2K架橋系と比較して、はるかに使いやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】ロシア国特許第2414762号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/052163号
【特許文献3】特許第3171688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ケト官能性単量体単位、例えばDAAM又はAAEM単量体単位を共重合体の一部として含むフッ素化ケト官能性共重合体を含む組成物を提供する。フッ素化ケト官能性共重合体は架橋できる。さらに、本発明は、ジヒドラジド又はジアミンの存在下でフッ素化ケト官能性共重合体を溶融加工することによって、又はフッ素化ケト官能性共重合体及び架橋剤を含む溶液を準備し、次いでその溶液を乾燥させることによって、フッ素化ケト官能性共重合体を架橋する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様
態様1:フッ素化共重合体を含む組成物であって、前記フッ素化共重合体は、重合体の一部として取り込まれたフッ素単量体単位及びケト官能性単量体単位を含む組成物。
【0013】
態様2:前記共重合体が少なくとも95重量%のフッ素単量体単位を含む、態様1に記載の組成物。
【0014】
態様3:前記フッ素単量体がVDFを含む、態様1又は2に記載の組成物。
【0015】
態様4:前記フッ素単量体がHFPを含む、態様1~3のいずれかに記載の組成物。
【0016】
態様5:前記ケト官能性単量体がDAAMを含む、態様1~4のいずれかに記載の組成物。
【0017】
態様6:前記ケト官能性単量体がAAEMを含む、態様1~4のいずれかに記載の組成物。
【0018】
態様7:前記フッ素化共重合体が、5kPより大きい、好ましくは7kPより大きい溶融粘度を有する、態様1~6のいずれかに記載の組成物。
【0019】
態様8:架橋剤をさらに含む、態様1~7のいずれかに記載の組成物。
【0020】
態様9:前記架橋剤がAHDを含む、態様8に記載の組成物。
【0021】
態様10:前記架橋剤がヘキサメチレンジアミンを含む、態様8に記載の組成物。
【0022】
態様11:前記フッ素化共重合体が、架橋前に500,000lb/in3(3,450,000kN・m/m3)を超える靭性を有する、態様1~10のいずれかに記載の組成物。
【0023】
態様12:前記フッ素化共重合体が架橋されており、架橋されていないフッ素化共重合体と比較して少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%の靭性の増加を示す、態様1~11のいずれかに記載の組成物。
【0024】
態様13:前記フッ素化共重合体が架橋されており、900000lb/in3(6,200,000kN・m/m3)を超える靭性を示す、態様1~11のいずれかに記載の組成物。
【0025】
態様14:フッ素重合体を架橋する方法であって、ケト官能性単量体単位を含むフッ素化共重合体を準備し、前記フッ素化共重合体と架橋剤とをブレンドし、前記フッ素化共重合体と前記架橋剤とのブレンドを溶融加工することを含む方法。
【0026】
態様15:フッ素重合体を架橋する方法であって、ケト官能性単量体単位を含むフッ素化共重合体をラテックスの形態で準備し、前記フッ素化共重合体を含む前記ラテックスに架橋剤をブレンドし、次いで前記ラテックスを乾燥させることを含む方法。
【0027】
態様16:前記フッ素重合体がフッ化ビニリデン単量体単位を含む、態様14~15のいずれかに記載の方法。
【0028】
態様17:前記フッ素重合体がDAAM単量体単位を含む、態様14~16のいずれかに記載の方法。
【0029】
態様18:前記架橋剤がジヒドラジド又はジアミンを含む、態様14~17のいずれかに記載の方法。
【0030】
態様19:前記架橋剤がAHDを含む、態様14~18のいずれかに記載の方法。
【0031】
態様20:前記架橋剤がヘキサメチレンジアミンを含む、態様14~18のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、実施例8及び9の応力歪曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
本願で引用した文献は、参照により本明細書において援用される。
【0034】
本明細書で使用するときに、パーセンテージは、特に断りのない限り、重量パーセント(重量%)であり、分子量は、特に断りのない限り、重量平均分子量(Mw)である。分子量は、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)基準を使用したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0035】
溶融粘度はASTM D3835に準拠して、230℃、100秒-1でのキャピラリーレオメトリーによるものである。
【0036】
「PVDF」とは、ポリフッ化ビニリデンを意味する。
【0037】
「共重合体」とは、2つ以上の異なる単量体単位を有する重合体を意味し、三元共重合体やそれよりも高次の重合体を含む。「重合体」は、単独重合体及び共重合体の両方を意味するために使用される。例えば、本明細書で使用するときに、「PVDF」及び「ポリフッ化ビニリデン」は、特に断りのない限り、単独重合体及び共重合体の両方を意味するために使用される。「フッ素重合体」は、フッ素化単量体を含む重合体を意味するために使用される。重合体は均質、不均質、ランダムのいずれであってもよく、共単量体単位の勾配分布を有していてもよい。
【0038】
エチレン性とは、単量体が重合性炭素-炭素二重結合を有することを意味する。
【0039】
ケト官能性単量体とは、ケトン部分を含むエチレン性単量体であって、フッ素重合体に重合したときにケト官能性を保持し、ケト官能性を架橋のために利用できるものである。例えば、DAAMやAAEMが挙げられる。
【0040】
本発明のフッ素重合体は、フッ素化ケト官能性共重合体である。
【0041】
いくつかの実施形態において、本発明は、共重合体の骨格中に、ケト官能性単量体とフッ素単量体、好ましくはフッ化ビニリデン(「VDF」)とを含み、架橋剤を使用して架橋可能な共重合体に関する。
【0042】
本発明は、架橋フッ素重合体の製造方法に関する。
【0043】
本発明の目的は、常温又は溶融加工中に架橋できるフッ素重合体を提供することである。
【0044】
ケト官能性を有する本発明の架橋性フッ素重合体は、2つの手法で製造できる。第1の手法では、ケト官能性単量体をフッ素単量体と共重合させて、フルオロケト官能性共重合体を製造する。例えば、VDFをDAAMと共重合させてVDF/DAAM共重合体を製造することができる。続いて、重合後に架橋剤を共重合体ラテックス又は噴霧乾燥共重合体に添加することができる。第2の手法では、まず乳化重合によってケト官能性オリゴマーを製造する。次に、このケト官能性オリゴマーラテックスをフッ素単量体重合に添加する。フッ素化重合体鎖が連鎖移動メカニズムによってケト官能性オリゴマーと反応し、PVDF-b-ケト官能性型のブロック共重合体を生成する。その後、架橋剤を共重合体ラテックスに添加するか、又は噴霧乾燥させる。いずれの手法でも、フッ素化-ケト官能性共重合体は、乾燥(ラテックスの場合)又は溶融加工される際に架橋する。
【0045】
好ましい実施形態では、ケト官能性単量体はDAAMであり、架橋剤はADHである。
【0046】
フッ素化ケト官能性共重合体:
共重合体はフッ素化単量体単位とケト官能性単量体単位とを含む。フッ素単量体単位は共重合体中の大部分を占め、全重合体の95重量%以上、好ましくは95~99.99重量%、より好ましくは97~99.99重量%を占める。
【0047】
本発明の共重合体は、ケト官能性を有さないアクリル酸エステル単量体単位を含まない。本発明の共単量体は、ケト官能性を有するアクリル酸エステル単量体単位を含有していてもよい。架橋前の本発明の共重合体は熱可塑性である。
【0048】
単量体:
本発明は、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)、アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)又はそのオリゴマーなどのケト官能性単量体又はオリゴマーをフッ素重合体に取り入れる。ケト官能性単量体又はオリゴマーは、フッ素化共重合体にケトン官能基を付与し、架橋剤と反応させて架橋フッ素重合体を得ることができる。
【0049】
本発明は、フッ素化エチレン性単量体とケト官能性単量体とを共重合体の骨格に含む、あるいは、ケト官能性単量体がフッ素重合体に結合したオリゴマーの形態であるフッ素化共重合体を提供する。これは2つの手法で達成できる。第一に、ケト官能性単量体とフッ素化単量体とを直接共重合させる。第二に、まず、ケト官能性単量体を含むオリゴマーを製造し、次にフッ素化単量体をケト官能性オリゴマーの存在下で重合して共重合体を形成することができる。好ましくは、ケト官能性単量体はDAAM又はAAEMである。
【0050】
例示のフッ素化エチレン単量体「フッ素単量体」は、フッ化ビニリデン(VDF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,2-ジフルオロエチレン、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ化ビニル(VF)、ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、フッ素化(アルキル)ビニルエーテル、例えば、ペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、及びペルフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテル、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、ペルフルオロブチルビニルエーテル(PBVE)、長鎖ペルフルオロビニルエーテル、部分的又は完全にフッ素化されたα-オレフィンの1種以上、例えば、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、3,3,3,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、ヘキサフルオロイソブチレン(HFIB)、フッ素化ジオキソール、例えば、ペルフルオロ(1,3-ジオキソール)及びペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)(PDD)、C4以上の部分フッ素化又は過フッ素化α-オレフィン、C3以上の部分フッ素化又は過フッ素化環状アルケン、部分フッ素化アリル又はフッ素化アリル単量体、及びそれらの組み合わせよりなる群から選択できる。
【0051】
これらの重合体中の他の単量体単位は、重合可能なC=C二重結合を含む任意の単量体を含み得る。追加の単量体としては、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、3-アリルオキシプロパンジオール、アリル単量体、エタン、プロペン、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。
【0052】
本発明の組成物におけるフッ素化ケト官能性共重合体の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、及びこれらの組み合わせ、ならびにこれらの共重合体及び三元共重合体が挙げられる。
【0053】
好ましくは、本発明のフッ素化ケト官能性共重合体は、75重量%以上のフッ化ビニリデン単量体単位を含む。フッ素重合体はフッ素共単量体を含んでいてもよい。例えば、主にVDF共重合体は、HFP又はTFEを含んでいてもよい。好ましい共単量体としては、TFE、HFP、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン「1234yf」、及び1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むことができる。
【0054】
フッ化ビニリデン共重合体としては、ケト官能性共単量体及び1種以上のフッ素化共単量体と共重合したフッ化ビニリデンを少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも95重量%含むものが挙げられる。
【0055】
好ましい一実施形態では、フッ素化ケト官能性共重合体も酸官能化されており、好ましくは酸官能化PVDFである。
【0056】
酸官能基化フッ素重合体を製造する方法は当該技術分野で知られている。国際公開第2019/199753号、国際公開第2016/149238号及び米国特許第8,337,725号(それぞれの内容は参照により本明細書において援用される)は、酸官能化フッ素重合体を製造するいくつかの既知の方法を提供する。
【0057】
いくつかの実施形態において、共重合体は、全単量体単位に基づいて29.99重量%まで、好ましくは24.99重量%まで、より好ましくは19.99重量%まで、又は9.99重量%までのヘキサフルオロプロペン(HFP)単位を含むVDF/HFP/DAAM又はVDF/HFP/AAEMである。全ての場合において、DAAM又はAAEMの量は、少なくとも0.01重量%であり、共重合体中の全重量%単量体単位は100%まで加算される。
【0058】
好ましくは、ケト官能性フッ素化共重合体は、架橋前の溶融粘度が少なくとも5kPoise以上、好ましくは少なくとも7kPoise以上であるようなものである。いくつかの実施形態では、架橋前の溶融粘度は少なくとも10kPoise以上である。
【0059】
重合プロセス:
ポリビニリデン系重合体などのフッ素重合体は、当該技術分野で知られている任意のプロセスで製造でき、好ましくは水性フリーラジカル乳化重合を使用するが、懸濁重合、溶液重合、超臨界CO2重合プロセスも使用できる。乳化重合や懸濁重合などのプロセスが好ましく、これらは米国特許第6187885号及び欧州特許第0120524号に記載されている。ケト官能性フッ素化共重合体は乳化重合で製造することが好ましい。
【0060】
一般的な乳化重合プロセスでは、反応器に脱イオン水と、任意に、重合中に反応物の塊を乳化できる水溶性界面活性剤と、任意のパラフィンワックス防汚剤とを装入する。混合物を撹拌し、脱酸素する。次いで、所定量の任意の連鎖移動剤(CTA)を反応器に導入し、反応器の温度を所望のレベルまで上昇させ、単量体(例えば、フッ化ビニリデンなどのフッ素化単量体、ケト官能性単量体及び場合によっては1種以上の他の共単量体)を反応器に供給する。単量体の初期装入量が導入され、反応器内の圧力が所望のレベルに達したら、開始剤を導入して重合反応を開始させる。反応の温度は、使用する開始剤の特性によって変動可能であり、当業者であればその方法が分かるであろう。典型的には、温度は約30℃~150℃、好ましくは約60℃~120℃である。反応器内で所望の重合体量に達したら、単量体供給は停止するが、開始剤供給は任意に継続して、残留単量体を消費する。残留ガス(未反応単量体を含む)をベントし、ラテックスを反応器から回収する。
【0061】
界面活性剤:
好ましくは、本発明の重合は界面活性剤の非存在下で実施される。しかし、界面活性剤を重合プロセスに添加することもできる。
【0062】
使用される場合、重合において使用される界面活性剤は、PVDF乳化重合において有用であることが当該技術分野で知られている任意の界面活性剤であることができ、過フッ素化、部分フッ素化、及び非フッ素化界面活性剤が挙げられる。好ましくは、PVDFエマルジョンはフッ素系界面活性剤を含まず、重合のどの部分にもフッ素系界面活性剤は使用されない。PVDF重合に有用な非フッ素化界面活性剤は、性質がイオン性及び非イオン性の両方とすることができ、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルスルホン酸、及びそれらの塩、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコール、ならびにそれらのブロック共重合体、アルキルホスホン酸塩、及びシロキサン系界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
連鎖移動剤:
生成物の分子量を調節するために、重合に連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤は、反応の開始時に一度に重合に添加してもよいし、反応全体にわたって徐々に又は連続的に添加してもよい。連鎖移動剤の添加量及び添加方法は、使用する特定の連鎖移動剤の活性及び重合体生成物の所望の分子量に依存する。重合反応に添加する連鎖移動剤の量は、反応混合物に添加する単量体の総重量に基づいて、約0~5重量%、好ましくは0.05~約5重量%、より好ましくは約0.1~約2重量%である。本発明で有用な連鎖移動剤の例としては、アルコール(好ましくは3~10個の炭素を有する)、カーボネート、ケトン、エステル、及びエーテルなどの酸素化化合物が挙げられるが、これらに限定されない。連鎖移動剤として機能し得るものとしては、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチル‐t‐ブチルエーテル、イソプロピルアルコール;ビス(アルキル)カーボネート(アルキルは1~9個の炭素原子を有する)、例えばビス(エチル)カーボネート、ビス(イソブチル)カーボネート;エタン、プロパン、及び米国特許出願公開第2018/0072829号に記載されているもの、1つ以上の異なる官能基を含む低分子量重合体連鎖移動剤、例えば、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリホスホン酸、ポリスルホン酸、及びポリマレイン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの界面活性剤は連鎖移動剤としても機能することがある。
【0064】
好ましくはないが、所望によりパラフィン系防汚剤を使用することもでき、任意の長鎖飽和炭化水素ワックス又はオイルを使用することもできる。パラフィンの反応器負荷量は、使用する単量体の総重量に対して0.01重量%~0.3重量%である。
【0065】
緩衝剤:
重合反応混合物は、重合反応を通して制御されたpHを維持するために、任意に緩衝剤を含むことができる。pHは、好ましくは約4~約8の範囲内に制御され、製品における望ましくない発色を最小限に抑える。
【0066】
緩衝剤は、約4~約10、好ましくは約4.5~約9.5の範囲の少なくとも1つのpKa値及び/又はpKb値を有する、有機酸若しくは無機酸又はそれらのアルカリ金属塩、又は当該有機酸若しくは無機酸の塩基若しくは塩を含むことができる。本発明の実施において好ましい緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤及び酢酸緩衝剤が挙げられる。「リン酸緩衝剤」は、リン酸の1以上の塩である。「酢酸緩衝剤」は酢酸の塩である。
【0067】
重合により、一般に10~60重量%、好ましくは10~50重量%の固形分レベルを有し、かつ、500nm未満、好ましくは400nm未満、より好ましくは300nm未満の強度平均一次粒子径を有するラテックスが得られる。強度平均粒子径は一般に少なくとも20nm、好ましくは少なくとも50nmである。分散液中のフッ素重合体粒子は、50~600nm、好ましくは100~500nmの範囲の一次粒子径を有する。ラテックスの一次粒子径は、NICOMPTM380サブミクロン粒度測定器を用いた動的光散乱によって測定される。データは強度平均粒子径(直径)として報告される。
【0068】
重合体又は共重合体は、オーブン乾燥、噴霧乾燥、剪断凝固又は酸凝固、続いて乾燥などの標準的な方法を使用して単離でき、又はその後の用途若しくは使用のために水性媒体中で保持できる。
【0069】
架橋剤:
本発明において、ジヒドラジド又はジアミンが好ましい架橋剤である。特に、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)及びヘキサメチレンジアミン(HMDA)が最も好ましい。
【0070】
フッ素化ケト官能性共重合体の架橋:
ケト官能性単量体は、通常、乳化重合プロセスで重合体を製造する際にフッ素重合体に取り入れられると共に、架橋剤は重合後にフッ素化ケト官能性共重合体に後添加される。各架橋剤は2つのケト官能基と反応して、フッ素化ケト官能性共重合体鎖を架橋することができる。架橋反応は、水/溶媒の蒸発後又は溶融加工中に生じる。
【0071】
フッ素化ケト官能性共重合体は、ラテックス状又は粉末状の溶融加工で架橋できる。
【0072】
ラテックス状のフッ素化ケト官能性共重合体を架橋剤(好ましくは水溶性であるADH)と組み合わせて、フッ素化ケト官能性共重合体と溶解した架橋剤との水性組成物を得ることができる。ラテックスを乾燥させると、架橋剤がフッ素樹脂中のケト官能性単量体と反応し、重合体が架橋する。加熱や真空は必要ないが、乾燥を早めるために使用できる。一例として、フッ素化ケト官能性共重合体を被覆プロセスで使用することができる。フッ素化ケト官能性共重合体を含むラテックス組成物を基材に被覆し、乾燥させることができる。乾燥すると、架橋剤がケト官能性と反応し、架橋が生じる。
【0073】
また、フッ素化ケト官能性共重合体を噴霧乾燥して粉末にし、その後、このケト官能性共重合体と、溶融加工の際に共重合体中のケト官能基と反応する架橋剤とをブレンドすることによって架橋することもできる。フッ素化ケト官能性共重合体は、一般に、フッ素化ケト官能性共重合体の融点よりも少なくとも20度高い温度で溶融加工される。ケト官能性共重合体が溶融すると、架橋剤がフッ素重合体中のケト官能基と反応して架橋が生じる。一実施形態では、ケト官能性単位はDAAMを含み、架橋剤はADHを含む。溶融加工としては、押出成形及び溶融成形が挙げられる。共重合体が溶融して所定の形状に成形されるプロセスであれば、どのようなものでも使用できる。
【0074】
架橋後に、フッ素化ケト官能性共重合体は、より高い溶融粘度と改善された機械的性質とを示す。架橋前の同じ共重合体と比較して、溶融粘度は少なくとも50%増加し、靭性は少なくとも20%、好ましくは30%増加する。好ましくは、フッ素化共重合体は架橋前に500,000lb/in3(3,450,000kN・m/m3)を超える靭性を有する。好ましくは、フッ素化共重合体は架橋後に900,000lb/in3(6,200,000kN・m/m3)を超える靭性を有する。
【0075】
使用:
本発明のフッ素化ケト官能性共重合体は、コーティング、工業部品、化学処理、膜などの多くの用途に使用できる可能性がある。
【0076】
本発明のフッ素化ケト官能性共重合体は、コーティングの製造に使用できる。このようなコーティングは、化学物質の浸透に対して耐性がある。
【0077】
さらなる態様において、本発明は、フッ素化ケト官能性共重合体を含む組成物から製造された物品に関するものでもある。
【0078】
さらなる態様において、本発明は、成形品の製造方法に関し、前記方法は、フッ素化ケト官能性共重合体を含む組成物を処理加工することを含む。
【0079】
本発明のフッ素化ケト官能性共重合体は、成形(射出成形、押出成形)、カレンダー成形又は押出により、所望の形状の成形品に加工できる。
【0080】
本発明のフッ素化ケト官能性共重合体は、電池やコーティングなど様々な用途に使用できる。
【0081】
本発明、その特徴、及び本発明が提供する様々な利点は、説明的かつ非限定的な例として提供される以下の実施例を読めば、より明確になるであろう。
【実施例】
【0082】
樹脂の溶融粘度(MV)測定は、ASTM D3835に準拠して、DYNISCO LCR-7000を用いて230℃、100秒-1の条件でキャピラリーレオメトリーにより行った。
【0083】
ラテックス粒子径の光散乱試験法:Nicomp CW380粒度分析装置(光散乱法)を使用してラテックス粒子の粒子径を測定する。体積平均粒子径を使用する。
【0084】
ケト官能性単量体(DAAM)のPVDFへの導入率は19F-NMRで測定した。
【0085】
降伏点応力、破断点応力、靭性、ヤング率の試験方法は、ASTM D683、23℃、50mm/分に従って、1型の引張棒を使用して測定した。
【0086】
例1:VDF-DAAM共重合体の製造
2ガロンのオートクレーブに3000gの脱イオン水を加えた。オートクレーブをアルゴン/窒素で3回パージし(ベント中は撹拌を停止)、その後、低流量のアルゴン/窒素パージを低速攪拌機15rpmで15分間行った。オートクレーブを密閉し、72rpmで撹拌し、100℃に加熱し、フッ化ビニリデンで650psiに加圧した。3.0重量%の過硫酸カリウム(KPS)及び1.0重量%の酢酸ナトリウム(SAT)水溶液の供給を60.0mL/hで開始した。圧力低下を開始したら、KPS/SATの供給速度を25.0mL/hに低下させ、VDFの追加供給により圧力を維持した。5.0重量%のDAAM溶液の供給を150.0mL/hで開始し合計1700mLのVDFまで供給した。合計1800gのVDFがオートクレーブに供給されるまで、この方法で供給を続けた。反応温度をさらに30分にわたってKPS/SATを10.0mL/hで供給しながら83℃に下げた。その後、圧力を10分にわたって自発的に低下させ、その時点で反応器を大気圧まで排気し、室温まで冷却した。生成物を反応器から排出し、噴霧乾燥した。ADHは、DAAM/ADH=2/1のモル比で噴霧乾燥の前又は後に添加できる。光散乱により、粒子径は217nmであった。
【0087】
この例は、VDF/DAAM共重合体が製造できることを示している。表1は、ADHで架橋した後、MVが2倍を超えることを示している。
【0088】
例2:VDF-HFP-DAAM共重合体の製造(界面活性剤なし)
2ガロンのオートクレーブに3200gの脱イオン水を加えた。オートクレーブをアルゴン/窒素で3回パージし(ベント中は撹拌を停止)、その後低流量のアルゴン/窒素パージを低速攪拌機15rpmで15分間行った。オートクレーブを密閉し、72rpmで撹拌し、100℃に加熱し、58mLのHFPと494mLのフッ化ビニリデンで650psiに加圧した。3.0重量%の過硫酸カリウム(KPS)及び1.0重量%の酢酸ナトリウム(SAT)水溶液の供給を60.0mL/hで開始した。圧力低下を開始したら、KPS/SATの供給速度を25.0mL/hに下げ、VDFの追加供給により圧力を維持した。HFPを合計108.0mLのHFPまで30.0mL/hで供給した。5.0重量%のDAAM溶液の供給を150.0mL/hで開始して合計1700mLのVDFまで供給した。合計1800gのVDFが反応器に供給されるまで、この方法で供給を続けた。反応温度をさらに30分にわたってKPS/SATを10.0mL/hで供給しながら83℃に下げた。その後、圧力を10分にわたって自発的に低下させ、その時点で反応器を大気圧まで排気し、室温まで冷却した。生成物を反応器から排出し、噴霧乾燥した。光散乱により、300nmであった。
【0089】
これは、VDF/HFP/DAAMの共重合体が製造できることを示している。表1は、ADHで架橋した後、MVが2倍を超えることを示している。
【0090】
例3:PAA官能基を有するVDF-HFP-DAAM共重合体の製造
2ガロンのオートクレーブに3200gの脱イオン水を加えた。オートクレーブをアルゴン/窒素で3回パージし(ベント中は撹拌を停止)、その後低流量のアルゴン/窒素パージを低速攪拌機15rpmで15分間行った。オートクレーブを密閉し、72rpmで撹拌し、100℃に加熱し、58mLのHFPと494mLのフッ化ビニリデンで650psiに加圧した。3.0重量%の過硫酸カリウム(KPS)及び5.0重量%のポリアクリル酸(PAA)水溶液の供給を120.0mL/hで開始した。圧力低下を開始したら、KPS/SATの供給速度を30.0mL/hに下げ、VDFの追加供給により圧力を維持した。HFPを合計108.0mLのHFPまで30.0mL/hで供給した。5.0重量%のDAAM溶液の供給を200.0mL/hで開始して合計1650mLのVDFまで供給した。合計1700gのVDFが反応器に供給されるまで、この方法で供給を続けた。反応温度を、さらに30分にわたってKPS/SATを10.0mL/hで供給しながら100℃に維持した。その後、圧力を10分にわたって自発的に低下させ、その時点で反応器を大気圧まで排気し、室温まで冷却した。生成物を反応器から排出し、噴霧乾燥した。粒子径は218nmであった。
【0091】
これは、酸官能性を有するVDF/HFP/DAAMの共重合体が製造できることを示している。表1は、ADHで架橋した後、MVが2倍を超えることを示している。
【0092】
溶融粘度に及ぼす架橋の影響:
VDF-DAAM及びVDF-HFP-DAAM共重合体(例1、2及び3)の溶融粘度(MV)を、ADH添加あり及びなしで測定した。ADHなしでは、共重合体は架橋されない。3種の共重合体ともMVは20kP半ばであった。ADHの添加は、共重合体粉末(噴霧乾燥粉末)とADH粉末とをプラスチック容器に密封し、容器を30分間振とうすることで達成した。その後、粉末ブレンドに対して溶融粘度を測定した。DAAM/ADHの架橋は溶融プロセス中に起こった。架橋後、MVは著しく増加した。
【0093】
【0094】
例4:VDF-HFP-DAAM共重合体ラテックスの製造
2ガロンのオートクレーブに2650gの脱イオン水と2.9gのSartomer(登録商標)SR604ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(PPGMA)界面活性剤を添加した。オートクレーブをアルゴン/窒素で3回パージし(ベント中は撹拌を停止)、その後低流量のアルゴン/窒素パージを低速攪拌機15rpmで15分間行った。オートクレーブを密閉し、72rpmで撹拌し、100℃に加熱し、220.0mLのHFPとフッ化ビニリデンで650psiに加圧した。4.0重量%の過硫酸カリウム(KPS)及び4.0重量%の酢酸ナトリウム(SAT)水溶液の供給を240.0mL/hで開始した。圧力低下を開始したら、KPS/SATの供給速度を15.0mL/hに下げ、VDFの追加供給により圧力を維持した。HFPを合計420.0mLのHFPまで150.0mL/hで供給した。5.0重量%のDAAM溶液の供給を200.0mL/hで開始し合計1400mLのVDFまで供給した。合計1480gのVDFが反応器に供給されるまで、この方法で供給を続けた。反応温度をさらに40分にわたって83℃に維持した。その後、圧力を10分にわたって自発的に低下させ、その時点で反応器を大気圧まで排気し、室温まで冷却した。30.0重量%のALS(ラウリル硫酸アンモニウム(界面活性剤))溶液60.0gを30rpmで撹拌しながら反応器に添加した。生成物を反応器から排出させた。粒子径は125nmである。固形分は35%である。溶融粘度は、232℃、100秒-1で11.4kPoiseである。分子量はMn170,000g/molである。溶融温度は112.5℃である。F-NMRによる%HFPは18.1重量%である。
【0095】
これは、VDF/HFP/DAAMの共重合体が製造できることを示している。界面活性剤の添加により粒子径が減少した。
【0096】
例5A:p-DAAMオリゴマーラテックスの製造
2リットルの反応器に脱イオン水800gを加えた。反応器を窒素でパージした。反応器を160rpmで攪拌し、80℃に加熱した(大気圧)。16.7重量%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液60.0gをショットとして反応器に添加した。単量体混合物(20.0gのDAAM、2.0gのアクリル酸(AA)、250.0gの純水)の供給を272.0mL/hで開始した。単量体混合物の供給が完了した後、反応温度をさらに30分にわたって80℃に維持した。その後、反応器を室温まで冷却した。攪拌を停止し、ラテックス生成物を反応器から排出した。このp-DAAMラテックスを、さらに精製することなくPVDF-b-pDAAMブロック共重合体の製造に直接使用した。このp-DAAMオリゴマーは、ポリメタクリル酸メチル標準を使用したGPCでMn1600g/molであった。
【0097】
例5B:DAAM官能性共重合体を有するPVDFの製造
2ガロンのオートクレーブに3200gの脱イオン水と300.0gの2.5重量%p-DAAMオリゴマーラテックス(例5Aから)を加えた。オートクレーブをアルゴン/窒素で3回パージし(ベント中は攪拌を停止)、続いて低流量のアルゴン/窒素パージを低速攪拌機15rpmで15分間行った。オートクレーブを密閉し、72rpmで撹拌し、100℃に加熱し、フッ化ビニリデンで650psiに加圧した。3.0重量%の過硫酸カリウム(KPS)水溶液の供給を100.0mL/hで開始した。圧力低下を開始したら、KPS供給速度を25.0mL/hに下げ、VDFの追加供給により圧力を維持した。2.5重量%のp-DAAMオリゴマーラテックス500.0gを350.0mL/hで追加供給した。合計1800.0gのVDFが反応器に供給されるまで、この方法で供給を続けた。KPSを15.0mL/hで供給しながら、反応温度を100℃で30分間維持した。その後、圧力を10分にわたって自発的に低下させ、その時点で反応器を大気圧まで排気し、室温まで冷却した。生成物を反応器から排出し、噴霧乾燥した。この共重合体は、架橋前に34.9kPの溶融粘度を有し、反応器への供給量を基準としてDAAM/ADH=2/1のモル比でADHを添加することにより架橋した後に48.9kPの溶融粘度を有する。
【0098】
これは、DAAMが連鎖移動作用によってPVDF重合体に取り込まれることを示している。
【0099】
例6:VDF-DAAM共重合体の製造
2ガロンのオートクレーブに、3000gの脱イオン水と7.4gのPAA水溶液(PAA CP-10s、50重量%水溶液)を加えた。オートクレーブをアルゴン/窒素で3回パージし(ベント中は撹拌を停止)、その後、低流量のアルゴン/窒素パージを低速攪拌機15rpmで15分間行った。オートクレーブを密閉し、72rpmで撹拌し、100℃に加熱し、フッ化ビニリデンで650psiに加圧した。4.0重量%の過硫酸カリウム(KPS)及び1.0重量%の酢酸ナトリウム(SAT)水溶液の供給を60.0mL/hで開始した。圧力低下を開始したら、KPS/SATの供給速度を25.0mL/hに下げ、VDFの追加供給により圧力を維持した。5.0重量%のDAAM溶液の供給を150.0mL/hで開始して合計1700mLのVDFまで供給した。合計1800gのVDFがオートクレーブに供給されるまで、この方法で供給を続けた。反応温度を、さらに30分にわたってKPSを10.0mL/hで供給しながら83℃に下げた。その後、圧力を10分にわたって自発的に低下させ、その時点で反応器を大気圧まで排気し、室温まで冷却した。生成物を反応器から排出し、噴霧乾燥した。ADHは、DAAM/ADH=2/1のモル比で噴霧乾燥の前又は後に添加できる。ラテックス粒子径は光散乱法で249nmである。この共重合体の溶融粘度は、単体で8.8kP、ADHによる架橋後で18.6kPである。
【0100】
例7:VDF-DAAM共重合体の製造
2ガロンのオートクレーブに3000gの脱イオン水と3.4gのPAA水溶液(PAA CP-10s、50重量%水溶液)を加えた。オートクレーブをアルゴン/窒素で3回パージし(ベント中は撹拌を停止)、その後、低流量のアルゴン/窒素パージを低速攪拌機15rpmで15分間行った。オートクレーブを密閉し、72rpmで撹拌し、100℃に加熱し、フッ化ビニリデンで650psiに加圧した。3.0重量%の過硫酸カリウム(KPS)と1.0重量%の酢酸ナトリウム(SAT)水溶液の供給を60.0mL/hで開始した。圧力低下を開始したら、KPS/SATの供給速度を25.0mL/hに下げ、VDFの追加供給により圧力を維持した。5.0重量%のDAAM溶液の供給を150.0mL/hで開始して合計1700mLのVDFまで供給した。合計1800gのVDFがオートクレーブに供給されるまで、この方法で供給を続けた。反応温度をさらに30分にわたってKPSを10.0mL/hで供給しながら83℃に下げた。その後、圧力を10分にわたって自発的に低下させ、その時点で反応器を大気圧まで排気し、室温まで冷却した。生成物を反応器から排出し、噴霧乾燥した。ADHは、DAAM/ADH=2/1のモル比で噴霧乾燥の前又は後に添加できる。ラテックス粒子径は光散乱法で233nmである。この共重合体の溶融粘度は、単体で27.8kP、ADHによる架橋後で47.5kPである。
【0101】
フッ素重合体へのDAAMの導入量の測定:
PVDFへのDAAMの取り込みをNMRで確認した。全DAAM供給量の13%がVDFと共重合していた。
【0102】
【0103】
例8:VDF-DAAM共重合体の製造
このサンプルを例1と同様に製造した。得られた共重合体ラテックスを、ADHを添加することなく噴霧乾燥した。乾燥した共重合体の溶融粘度は20.1kPであった。
【0104】
例9:VDF-DAAM共重合体の製造
このサンプルを例1と同様に製造した。得られた共重合体ラテックスをADHで噴霧乾燥した(DAAM/ADHのモル比=2/1)。乾燥した共重合体の溶融粘度は43.1kPであった。
【0105】
引張強さに及ぼす架橋の影響
VDF-DAAM共重合体の引張強さを、ADH添加あり及びなしで測定した。例8はADHを添加せずに噴霧乾燥したもので、共重合体を架橋させなかった。例9については、ADHを共重合体ラテックスに添加し、次いで噴霧乾燥した。このようにして例9を架橋させた。これら2つのサンプルについて引張特性を試験した。
【0106】
【0107】
降伏点応力、降伏点歪、及びヤング率は、これら2つの共重合体について同様であった。
【0108】
架橋共重合体(例9)の靭性は、未架橋共重合体(例8)よりも有意に(45%)高い。例9は、はるかに長い歪で破断するからである。
【0109】
【国際調査報告】