IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スペース エフ コーポレイションの特許一覧

特表2024-545483ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物
<>
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図1
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図2
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図3
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図4
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図5
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図6
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図7
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図8
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図9
  • 特表-ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-06
(54)【発明の名称】ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20241129BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20241129BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12M1/00 A ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024560217
(86)(22)【出願日】2023-03-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-26
(86)【国際出願番号】 KR2023003393
(87)【国際公開番号】W WO2023177181
(87)【国際公開日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】10-2022-0031249
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0032368
(32)【優先日】2023-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524242531
【氏名又は名称】スペース エフ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(74)【代理人】
【識別番号】100155125
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 直俊
(72)【発明者】
【氏名】イ,チャンギュ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,グァンファン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドンギョン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB12
4B065BB13
4B065BC46
(57)【要約】
本発明は、ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物に関するものであり、本発明の培養用培地組成物は、ブタ多能性幹細胞の多能性及び幹細胞能を長期間体外で維持させることができ、支持細胞非依存的に幹細胞を培養することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物において、LDN-193189を含むブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項2】
前記LDN-193189は、10nM~1000nMの濃度である、請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項3】
前記ブタ多能性幹細胞は、ブタ胚性幹細胞又はブタ誘導多能性幹細胞である、請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項4】
前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、支持細胞非依存的培養に使用するための、請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項5】
前記支持細胞非依存的培養は、細胞外マトリックス(Extracellular Matrix;ECM)またはマトリゲル(Matrigel(登録商標))がコーティングされた培養容器で細胞を培養することである、請求項4に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項6】
前記支持細胞非依存的培養は、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジン、1型コラーゲンまたはマトリゲル(Matrigel(登録商標))がコーティングされた培養容器で細胞を培養することである、請求項5に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項7】
前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物には、FGF2、アクチビンA(Activin A)、CHIR99021及びIWR-1をさらに含む、請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項8】
前記FGF2の濃度は、0.1ng/ml~100ng/mlであり、前記アクチビンAの濃度は0.1ng/ml~10ng/mlであり、前記CHIR99021の濃度は0.1μM~4.5μMであり、前記IWR-1の濃度は0.1μM~5μMである、請求項7に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項9】
前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、幹細胞の増殖を促進し、細胞死滅を阻害することを特徴とする、請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項10】
前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、幹細胞コロニーの数を増加させ、コロニーのサイズを増加させることを特徴とする、請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項11】
前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、幹細胞の幹細胞能/分化全能性を強化することを特徴とする、請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項12】
前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、無血清又は血清成分を0.1~3重量%含有することを特徴とする、請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物。
【請求項13】
ブタ多能性幹細胞の培養液添加用組成物において、前記組成物は、LDN-193189を有効成分として含むブタ多能性幹細胞の培養液添加用組成物。
【請求項14】
前記LDN-193189は、10nM~1000nMの濃度であることを特徴とする、請求項13に記載のブタ多能性幹細胞の培養液添加用組成物。
【請求項15】
請求項1に記載のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物をブタ多能性幹細胞に処理して培養するステップを含み、
前記ブタ多能性幹細胞は、ブタ胚性幹細胞又はブタ誘導多能幹細胞である、ブタ多能性幹細胞の培養方法。
【請求項16】
前記培養方法は、支持細胞非依存的に培養することを特徴とする、請求項15に記載のブタ多能性幹細胞の培養方法。
【請求項17】
前記支持細胞非依存的培養は、細胞外マトリックス(Extracellular Matrix;ECM)またはマトリゲル(Matrigel)がコーティングされた培養容器で細胞を培養することである、請求項16に記載のブタ多能性幹細胞の培養方法。
【請求項18】
前記支持細胞非依存的培養は、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジン、1型コラーゲンまたはマトリゲル(Matrigel)がコーティングされた培養容器で細胞を培養することである、請求項17に記載のブタ多能性幹細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年3月14日付韓国特許出願第10-2022-0031249号及び2023年3月13日付韓国特許出願第10-2023-0032368号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容を本明細書の一部として含む。
本発明は、ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞(stem cells)の多能性(pluripotency)の獲得と維持は、代謝産物、シグナル分子および細胞外マトリックス(ECM;extracellular matrix)などの外的要因を通じて関連遺伝子の活性化によって達成または維持される。炭水化物、アミノ酸、脂質などの代謝産物は、体外で細胞を培養するのに必要な基本構成要素として、幹細胞の生理学的特徴と多能性を調節する。サイトカイン(cytokines)およびホルモン(hormones)を含む様々なシグナル分子(signaling molecules)は、細胞シグナル伝達系の活性化を促し、多能性をサポートし、幹細胞の分化を抑制するのに重要な役割を果たす。報告されたところによると、多能性は胚発育中に動的に変化し、naive、formativeおよびprimed型などの複数のステップからなる連続体を構成する。各ステップにおける多能性は、シグナル分子の互いに異なる組み合わせによって調節されることが証明されており、多能性を維持するための新しい分子を発見するために多くの努力が行われている。
【0003】
細胞外マトリックスは、コラーゲン(collagen)、ラミニン(laminin)、フィブロネクチン(fibronectin)などの構造タンパク質で構成されており、細胞が付着および生存できる物理的環境を提供する。細胞はインテグリン受容体によって細胞外マトリックスタンパク質を認識して細胞増殖、生存および老化を調節する。多能性幹細胞の体外培養のために、長い間、マウスの線維芽細胞(fibroblasts)で作製された支持細胞(feeder cells)が使用されてきた。前記支持細胞は、周辺分泌因子と付着性ECM表面を提供することにより、多能性幹細胞の多能性を維持することが知られている。
【0004】
支持細胞の使用は、体外で多能性幹細胞を培養することにおいて利点があるが、生体異物汚染(xenobiotic contamination)や細胞間変動(cell-to-cell variation)に関するいくつかの問題が提起されている。そのため、マウス線維芽細胞由来の支持細胞を代替するための多くの研究が試みられた。まず、マウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblasts)培養液(conditioned media)を支持細胞の代わりに使用するか、またはヒト胚性幹細胞研究では、包皮線維芽細胞(foreskin fibroblasts)、子宮内膜由来細胞(endometrium-derived cells)および間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells)などの同種(allogenic)細胞を使用して新しい培養条件を開発した。
【0005】
しかし、一部の培養条件は、細胞起源により、多能性幹細胞の未分化状態をサポートできなかったが、いくつかのプロテオーム(proteome)分析を通じて、多能性に役立つ支持細胞(pluripotency-supportive feeder cells)がFGF2、TGFβ1、アクチビン(Activin) A、WNTを含む様々なサイトカインを高く発現することを確認した。このような分子は、支持細胞がなくても多能性幹細胞で多能性関連遺伝子の発現を向上させることが証明された。
【0006】
また、支持細胞によって提供される細胞外マトリックスは、マトリゲル(Matrigel)、またはコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどの単一成分に置き換える可能性が研究されている。
【0007】
胚性幹細胞(embryonic stem cells)のようなブタ多能性幹細胞は、農業生命工学および比較発達生物学研究に適用可能な細胞源と見なされる。しかし、ブタは多能性が確立される初期着床前の胚発達において、マウスやヒトの胚と比較して独特な分子生物学的特徴を持っているため、多くの研究者がブタの胚性幹細胞の確立に失敗した。これに先立つ発明において、本研究陣は、ブタ多能性に関与する様々な成長因子を発掘し、ブタ特異的な新しい成長因子の組み合わせを含む化学的に定義された培地(chemically defined medium)を開発し、これをマウス線維芽細胞由来の支持細胞と一緒に使用して、世界で初めて生体内分化能(in vivo differentiation potential)を持つブタ胚性幹細胞を確立した。しかし、先に開発した培養液組成でブタ胚性幹細胞を支持細胞のない環境で培養した場合、多能性を維持できず分化することを確認した。
【0008】
マウスの胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblasts)で作製された支持細胞は、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、形質転換成長因子β1(TGFβ1)、アクチビンA、WNT、オンコスタチンMおよびインターロイキン-6(IL-6)を含む様々なサイトカインを生成する。その中で、FGF2はヒト胚性幹細胞の多能性を維持する核心要素として使用されており、支持細胞の品質の基準であるアクチビンAは、マウス胚性線維芽細胞を培養した培養培地(conditioned media)に豊富に含まれている。実際に、アクチビンAとWNTを含む培地は、支持細胞のない状態でヒト胚性幹細胞の多能性を維持するのに役立った。しかし、FGF2、アクチビンAまたはTGFβ1およびWNT拮抗剤は、支持細胞のない環境におけるヒト多能性幹細胞とは異なり、類似の条件下でブタ胚性幹細胞は体外培養に失敗した。これは、支持細胞なしでブタ胚性幹細胞を体外培養するためには、追加の成長因子またはシグナル伝達物質(signaling molecules)を含む新しい培養条件の確立が必要であることを証明する。
【0009】
このような背景下で、本発明者らは、ブタ多能性幹細胞の培養用組成物を多角的に研究した結果、本発明の培養用組成物を使用する場合、支持細胞に非依存的なブタ多能性幹細胞培養が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国登録特許第10-2142400号(登録日:2020.08.03.)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Choi KH, Lee DK, Oh JN, Kim SH, Lee M, Woo SH, Kim DY, Lee CK. Pluripotent pig embryonic stem cell lines originating from in vitro-fertilized and parthenogenetic embryos. Stem Cell Res.2020 Dec;49:102093.
【0012】
【非特許文献2】Choi KH, Lee DK, Oh JN, Kim SH, Lee M, Kim SW, Lee CK. Transcriptome profiling of pluripotent pig embryonic stem cells originating from uni- and biparental embryos. BMC Res Notes.2020 Mar 11;13(1):144.
【0013】
【非特許文献3】Choi KH, Lee DK, Kim SW, Woo SH, Kim DY, Lee CK. Chemically Defined Media Can Maintain Pig Pluripotency Network In Vitro. Stem Cell Reports.2019 Jul 9;13(1):221-234.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物を提供することを目的とする。
【0015】
本発明の他の目的は、ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物を用いて、支持細胞非依存的なブタ多能性幹細胞の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明は、LDN-193189を含むブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物を提供する。
【0017】
本発明の一実施態様によれば、前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、さらにFGF2、アクチビンA、IWR-1、およびCHIR99021から選択されるいずれか1つ以上の成分を含んでもよい。
【0018】
本発明の一実施態様によれば、本発明は、前記LDN-193189を含むブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物を用いたブタ多能性幹細胞の培養方法を提供する。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、本発明は、LDN-193189を含むブタ多能性幹細胞の培養液添加液組成物を提供する。
【発明の効果】
【0020】
発明によるブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、支持細胞がなくても多能性/幹細胞能を維持することができるので、支持細胞依存培養方法によって発生しうる問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞にLDN-193189を濃度別に処理したときの細胞形態である(倍率100倍)。
図2】支持細胞なしで培養されたブタ幹細胞(ff-ESCsLDN-., ff-ESCsLDN+)及び支持細胞と一緒に培養されたブタ胚性幹細胞(control)における様々な遺伝子発現を分析した結果である。
図2A】多能性遺伝子及びSMADシグナル伝達系の免疫学的染色を示した結果である。
図2B】支持細胞から分泌されるSMADシグナル伝達系の関連遺伝子の発現量を示した結果である。
図2C】多能性標識遺伝子の発現に対するqPCR分析結果である。
図2D】栄養外胚葉マーカー遺伝子の発現に対するqPCR分析結果である。
図3】支持細胞なしで培養されたブタ胚性幹細胞において、LDN-193189の最適濃度を分析した結果である。
図3A】LDN-193189の濃度を細分化してアネキシンV染色を処理した結果である。
図3B】前記アネキシンV染色処理による細胞死率を示した結果である。
図3C】WST-8 assay結果である。
図3D】Ki-67染色結果である。
図4】様々な濃度のFGF2、アクチビンA、およびCHIR99021で培養したLDN-193189処理されたブタ胚性幹細胞における多能性関連遺伝子の発現をqPCRで分析した結果である。
図5】支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞の特性を分析した結果である。
図5A】ブタ胚性幹細胞の典型的な形態及びAP染色(下段、AP染色画像)。(スケールバー、400μm)の結果である。
図5B】ブタ胚性幹細胞の核型である。
図5C】ブタ胚性幹細胞における多能性標識遺伝子に対する免疫染色結果(スケールバー、200μm)である。
図5D】支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞における多能性及び分化標識遺伝子の発現に対するqPCR分析結果である。
図6】支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞由来の胚様体に関するものである。
図6A】ブタ胚性幹細胞に由来の胚様体の形態(スケールバー、400μm)である。
図6B】ブタ胚性幹細胞及び分化した細胞における多能性及び分化標識遺伝子の発現に対するqPCR分析結果である。
図7】ブタ胚性幹細胞から形成された奇形腫の組織学的分析結果である。
図8】様々な細胞外マトリックスとして、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジンまたは1型コラーゲンで培養したブタ胚性幹細胞の培養結果を示す。
図9】KSRをFBSに置き換えた培養液におけるLDN-193189の機能を分析した結果である。
図10】LDN-193189の支持細胞上で培養したブタ胚性幹細胞に対する効果を示した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0023】
本発明で使用されるすべての技術用語は、特に定義されない限り、本発明の関連分野で通常の知識を有する者が通常理解するものと同じ意味で使用される。また、本明細書には好ましい方法や試料が記載されているが、これと類似または同等のものも本発明の範疇に含まれる。本明細書に参考文献として記載されるすべての刊行物の内容は、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0024】
本開示内容の特定の特性を記載し、請求するにあたり、以下の用語は、特に指定されない限り、以下に記載される定義に従って使用される。
【0025】
本明細書において、ある態様が「~を含む」という用語と共に記載されていても、「~で構成される」および/または「本質的に~で構成される」という観点から記載される他の同様の態様も提供されることが理解されるべきである。
【0026】
本発明において、用語「培地」、「培養培地」、「培養用培地」、「培地組成物」または「培養用組成物」は、体外培養条件下で幹細胞の成長及び生存を支持できるようにする栄養物質を含む培養液を意味し、本明細書では区別せず、混用して使用することができる。
【0027】
本発明において、「ブタ多能性幹細胞の培養」とは、ブタ多能性幹細胞が多能性(pluripotency)/幹細胞能(stemness)を維持したまま、特定の系列(lineage)の細胞に分化することなく、細胞増殖することを意味する。
【0028】
ブタ多能性幹細胞には、ブタ胚性幹細胞(pig embryonic stem cell)またはブタ誘導多能性幹細胞(pig induced pluripoetent stem cell)が含まれてもよく、前記多能性幹細胞は、通常、当業界に公知の任意の方法を用いて得られてもよい。
【0029】
本発明において、用語「胚性幹細胞」とは、受精卵が母体の子宮に着床する直前である胞胚期の胚から内細胞塊(inner cell mass)を抽出し、体外で培養したものであって、個体のあらゆる組織の細胞に分化できる多能性(pluripotent)または全能性(totipotent)であってもよい細胞を意味し、広い意味では、胚性幹細胞から由来した胚様体(embryoid bodies)も含む。胚様体は、胚性幹細胞の様々な組織形態への自発的な分化過程で幹細胞によって形成された中間構造であり、胚性幹細胞の培養中に形成された凝集物(aggregate)形態である。一方、本発明の胚性幹細胞は、ブタに由来するブタ胚性幹細胞である。
【0030】
胚性幹細胞は、外胚葉、中胚葉および内胚葉性幹細胞に分化してもよい。
【0031】
本発明において、用語「分化(differentiation)」とは、細胞が分裂増殖して成長する間に、細胞の構造や機能が特殊化する現象を意味する。多能性胚幹細胞は、系統が限定された前駆細胞(例えば、外胚葉性細胞、中胚葉性細胞または内胚葉性細胞など)に分化した後、他の形態の前駆細胞(例えば、血管芽細胞など)にさらに分化してもよく、その後、特定の組織(例えば、血管など)で特徴的な役割を果たす末期分化細胞(例えば、血管内皮細胞および血管平滑筋細胞など)に分化してもよい。
【0032】
従って、本発明のブタ多能性胚幹細胞の多能性は、本発明の培地組成物を用いて培養されたブタ胚性幹細胞の一定数を免疫抑制マウスに移植したとき、外胚葉、中胚葉および内胚葉性細胞に分化できるかどうかで分析することができる。
【0033】
本発明において、用語「誘導多能性幹細胞」または「iPSC(induced pluripotent stem cell)」は、体細胞または既に分化した細胞を処理して多能分化性を持たせた細胞を意味する。ここで処理する方法は、化合物、遺伝的変換または特定の条件で培養する方法などを含むが、これらに限定されない。「ブタ誘導多能性幹細胞」または「piPSC」は、ブタの体細胞またはブタの分化した細胞を処理して多能分化性を持たせた細胞を意味する。
【0034】
本発明の用語、「継代培養」とは、細胞を健康な状態で持続的に長期間培養するために、周期的に細胞の一部を新しい培養容器に移した後、培養培地を交換しながら細胞の代を継続して培養する方法を意味する。前記用語、「継代(passage)」とは、培養容器で初期種培養から同じ培養容器で細胞が盛んに成長する時期(confluence)までの多能性幹細胞への成長を意味する。限られた空間を持つ培養容器内で細胞の数が増え、一定時間が経過すると増殖栄養素が消費されるか、または汚染物質が蓄積して細胞が自然に死滅するため、健康な細胞の数を増やすための方法として使用され、通常、一回培地(培養容器)を交換すること、または細胞群を分けて培養することを1継代(1 passage)という。継代培養の方法は、当業界において公知の方法を制限なく使用してもよいが、好ましくは、機械的分離または酵素的分離で行われてもよい。
【0035】
本発明の発明者らは、ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物を開発するために様々な方法で研究を続けた結果、LDN-193189を含むブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物を開発した。
【0036】
本発明の一実施態様では、前記LDN-193189は、10nM~1000nMの濃度で含む。
【0037】
本発明の一実施態様では、前記ブタ多能性幹細胞は、ブタ胚性幹細胞またはブタ誘導多能性幹細胞である。
【0038】
本発明の一実施態様では、前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、ブタ多能性幹細胞の支持細胞の非依存的培養に使用してもよい。
【0039】
本発明の一実施態様では、前記支持細胞の非依存的培養は、細胞外マトリックス(Extracellular Matrix;ECM)またはマトリゲル(Matrigel(登録商標))またはその代替剤がコーティングされた培養容器で細胞を培養することである。
【0040】
本発明の一実施態様では、前記支持細胞の非依存的培養は、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジン、1型コラーゲンまたはマトリゲル(Matrigel(登録商標))がコーティングされた培養容器で細胞を培養することである。
【0041】
本発明の一実施態様では、前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、さらにFGF2、アクチビンA(Activin A)、およびCHIR99021を含んでもよい。
【0042】
本発明の一実施態様では、前記FGF2の濃度は0.1ng/ml~100ng/mlであり、前記アクチビンAの濃度は0.1ng/ml~10ng/mlであり、前記CHIR99021の濃度は0.1μM~4.5μMであり、前記IWR-1の濃度は0.1μM~5μMであってもよい。
【0043】
本発明の一実施態様では、前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、ブタ多能性幹細胞の増殖を促進し、細胞死を阻害する。
【0044】
本発明の一実施態様では、前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、ブタ多能性幹細胞コロニーの数を増加させ、コロニーのサイズを増加させる。
【0045】
本発明の一実施態様では、前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、ブタ多能性幹細胞の幹細胞能/分化全能性を強化する。
【0046】
本発明の一実施態様では、前記ブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、無血清または血清成分を0.1~3重量%含有してもよい。
【0047】
本発明の一実施態様では、LDN-193189を有効成分として含むブタ多能性幹細胞の培養液添加用組成物を提供する。
【0048】
本発明の一実施態様では、前記ブタ多能性幹細胞の培養液添加用組成物において、前記LDN-193189は、10nM~1000nMの濃度で含まれてもよい。
【0049】
本発明は、本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物をブタ多能性幹細胞に処理して培養するステップを含み、前記ブタ多能性幹細胞はブタ胚性幹細胞又はブタ誘導多能性幹細胞である、ブタ多能性幹細胞の培養方法を提供する。
【0050】
本発明の一実施態様では、ブタ多能性幹細胞の培養方法は、支持細胞非依存的に培養してもよい。
【0051】
本発明の一実施態様では、前記支持細胞の非依存的培養方法は、細胞外マトリックス(Extracellular Matrix;ECM)またはマトリゲル(Matrigel)がコーティングされた培養容器で細胞を培養してもよい。
【0052】
本発明の一実施態様では、前記支持細胞の非依存的培養は、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジン、1型コラーゲンまたはマトリゲル(Matrigel)がコーティングされた培養容器で細胞を培養してもよい。
【0053】
前記細胞外マトリックスは、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジン、1型コラーゲン以外に、この技術分野で通常使用される細胞外マトリックスを含んでもよい。
【0054】
本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物にはLDN-193189が含まれることにより、ブタ多能性幹細胞の増殖または成長が促進され、幹細胞死が阻害され、幹細胞コロニーの数及びサイズが増加し、幹細胞の幹細胞能(stemness)及び分化能が強化される効果がある。
【0055】
本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物において、LDN-193189は、幹細胞培養に使用される培地に添加して使用してもよい。
【0056】
前記LDN-193189は、BMP(bone morphogenetic) pathway阻害剤であり、ALK1、ALK2、ALK3、およびALK6を阻害することが知られている。LDN-193189は、ヒト多能性幹細胞から神経原始細胞(neural progenitor cell)または膵臓細胞への分化を誘導することが知られており、マウス多能性幹細胞の分化を誘導することが知られている。
【0057】
しかし、本発明において、前記LDN-193189は、ブタ多能性幹細胞の幹細胞能/多能性を維持し、分化を抑制する効果があることを発見した。このような効果は、従来のLDN-193189の効果とは相反する結果であり、これは、胚性幹細胞の種によって幹細胞能を維持するメカニズムが異なり、胚性幹細胞の培養用培地も前記胚性幹細胞の種によって変えて使用しなければならないことを示す結果である。
【0058】
前記ブタ多能性胚幹細胞の培養用培地組成物に含まれるLDN-193189の濃度は10nM~1000nMである。LDN-193189の濃度が10nM未満の場合、特別な効果がなく、1000nMを超える場合、細胞毒性を示す。本発明の一実施態様によるブタ多能性胚幹細胞の培養用培地組成物に含まれるLDN-193189は、100nMの濃度であるが、これに限定されない。
【0059】
本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、さらにFGF2、アクチビンA、CHIR99021及びIWR-1を含んでもよい。
【0060】
本発明の一実施態様によるブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物にさらに含まれるFGF2、アクチビンA、CHIR99021及びIWR-1は、それぞれ0.1ng/ml~100ng/ml、0.1ng/ml~10ng/ml、0.1μM~4.5μM及び0.1μM~5μMの濃度を有する。FGF2の濃度が0.1ng/ml未満の場合、特別な効果がなく、100ng/mlを超える場合、濃度増加による追加効果がなく、または細胞に毒性を持つ。アクチビンAの濃度が0.1ng/ml未満の場合、特別な効果がなく、10ng/mlを超える場合、濃度増加による追加効果がなく、または細胞に毒性を持つ。CHIR99021の濃度が0.1μM未満の場合、特別な効果がなく、4.5μMを超える場合、細胞に毒性を持つ。IWR-1の濃度が0.1μM未満の場合、特別な効果がなく、5μMを超える場合、濃度増加による追加効果がなく、または細胞に毒性を持つ。本発明の一実施態様によるブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物に含まれるFGF2、アクチビンA、CHIR99021及びIWR-1は、それぞれ20ng/ml、5ng/ml、0.5μM及び0.5μMの濃度を有するが、これに限定されない。
【0061】
本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地の基本培地は、この技術分野の当業者に広く知られている培地であれば、制限なく使用してもよい。前記基本培地は人工的に合成して製造してもよく、商業的に製造された培地を使用してもよい。商業的に製造される培地の例としては、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI 1640、F-10、F-12、α-MEM(α-Minimal essential Medium)、G-MEM(Glasgow's Minimal Essential Medium)、IMDM(Isocove's Modified Dulbecco's Medium)、DMEM/F-12を使用してもよいが、これらに限定されない。
【0062】
本発明の一実施態様では、DMEM/F-12基本培地を使用する。
【0063】
本発明の培養用培地組成物には、さらに、細菌、真菌などの感染を防ぐために、抗生物質、抗真菌剤および/またはマイコプラズマの増殖を防止する当業界で一般的に使用される物質を使用することが好ましい。抗生物質としては、ペニシリン-ストレプトマイシンなど、通常細胞培養に使用される抗生物質を全て利用してもよく、抗真菌剤としては、アルポレリシンB、マイコプラズマ抑制剤としては、ゲンタマイシン、シプロフロキサシン、アジスロマイシンなどの一般的に使用される物質を使用してもよいが、これらに限定されない。また、市販されている抗生物質-抗真菌剤(antibiotic-antimycotic;AA)(Gibco)を使用してもよい。
【0064】
また、本発明の培養用組成物は、1%グルタマックス(またはグルタミン)と0.1mM β-メルカプトエタノールを含んでもよい。
【0065】
本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、支持細胞の非依存的ブタ多能性幹細胞培養に使用してもよい。
【0066】
一般的に、多能性幹細胞または胚性幹細胞を培養する際、多能性または幹細胞能を維持するためにマウス線維芽細胞などの支持細胞を使用してきたが(支持細胞依存的培養)、生体異物汚染/細胞間変動などの問題があり、多能性幹細胞の大量培養は支持細胞非依存的に行う試みが行われてきた。しかし、ブタ多能性幹細胞の場合、ヒト胚性幹細胞で用いられる支持細胞非依存的培養培地を用いると、多能性/幹細胞能が維持されなかった。しかし、本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物を用いる場合、支持細胞がなくてもブタ多能性幹細胞の多能性/幹細胞能が維持されることを確認した。
【0067】
また、本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物は、無血清または血清成分を0.1~3重量%含有するものであってもよい。
【0068】
前記無血清培地とは、ヒトを含む動物由来の血清(動物由来血清)を一定量以上含有しない任意の培養培地を意味する。例えば、無血清培地は、動物由来の血清を総組成物含量に対して0.1重量%未満または0.01重量%未満含んでもよく、具体的には、動物由来の血清を含まなくてもよい。
【0069】
本発明は、LDN-193189を有効成分として含むブタ多能性幹細胞の培養液添加液組成物を提供する。
【0070】
本発明の組成物の利用により、ブタ多能性幹細胞を安定的に増殖及び培養することができ、再現性のある試験及び生産工程の確立が可能である。
【0071】
また、本発明は、本発明のブタ多能性幹細胞の培養用培地組成物をブタ多能性幹細胞に処理して培養するステップを含むブタ多能性幹細胞の培養方法に関する。
【0072】
前記ブタ多能性幹細胞の培養は、支持細胞非依存的な方法で培養してもよく、このとき、ブタ多能性幹細胞は、細胞外マトリックスまたはマトリゲル(Matrigel(登録商標))またはその代替剤(ゼラチン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジン(poly-D-lysine)、ポリ-L-リジン(poly-L-lysine)など)がコーティングされた培養容器で培養してもよいが、これらに限定されない。
【0073】
特に言及しない限り、本明細書および特許請求の範囲に使用されるすべての数字は、言及されているか否かにかかわらず、すべての場合、「約」という用語で表されるものと理解されるべきである。また、本明細書及び特許請求の範囲に使用される正確な数値は、本開示内容の追加の実施態様を形成するものと理解されるべきである。実施態様に開示された数値の精度を保証するための努力がなされたが、測定されたすべての数値は、それぞれの測定手法で測定された標準偏差から生じる特定の誤差を内在的に含むことがある。
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、あくまでも本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨に従って、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【実施例
【0075】
実施例1.培養培地によるブタ胚性幹細胞の培養能の分析
実施例1-1.ブタ胚性幹細胞の分離
動物の管理および実験的使用は、ソウル大学校実験動物倫理委員会(IACUC)の承認を得た(承認番号:SNU-191025-4-4およびSNU-201019-1-2)。妊娠したICRマウスと胸腺のないヌードマウスは、それぞれSamtaco Bio Inc.(韓国)およびOrientBio Inc.(韓国)から購入した。マウスはソウル大学校実験動物資源管理院の標準プロトコルに従って飼育した。
【0076】
胚盤胞からのブタ胚性幹細胞の分離およびマウス線維芽細胞を用いた支持細胞の生産は、KR10-2142400の方法で行った。
【0077】
実施例1-2.ブタ胚性幹細胞の支持細胞依存的培養
ブタ胚性幹細胞を支持細胞と一緒に培養するために使用される「胚性幹細胞培養培地」は、DMEM/F12ベースの培地であり、15%(v/v)のノックアウト血清代替剤(Knock-out serum replacement;KSR)、0.1%(v/v)の化学的に定義された脂質濃縮液(Lipid concentrate, LC)、1X GlutaMAX(登録商標)、0.1mM β-メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol)、1X MEM非必須アミノ酸、および1X抗生物質-抗真菌剤(antibiotics-antimycotics)(前述の物質はすべてGibco, Gaithersburg, MD, USAから購入した)、20ng/mL hrFGF2(fibroblast growth factor 2) (R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)、5ng/mL ActA(アクチビン;activin A)(R&D Systems)、1.5μM CHIR99021(CH, Cayman Chemical, Ann Arbor, MI, USA)および2.5 μM IWR-1(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)を含む。
【0078】
ブタ胚性幹細胞を支持細胞と一緒に5~7日ごとに継代培養した。継代培養の24時間前に、ブタ胚性幹細胞を10μMのY-27632(Santa Cruz Biotechnology, Dallas, TX, USA)を含む前述の「胚性幹細胞培養培地」で培養した。十分に成長した胚性幹細胞群は、TrypLE(登録商標) Express(Gibco)を用いて小さな塊に分離した。この細胞塊を新しい支持細胞に移し、10μMのY-27632(Santa Cruz Biotechnology)を含む「胚性幹細胞培養培地」で24時間培養する。24時間後、支持細胞に付着した胚性幹細胞を、Y-27632を含まない「胚性幹細胞培養培地」で4~6日間培養する。培地は24時間ごとに交換し、5%CO2, 37℃の条件で培養した。
【0079】
実施例1-3.ブタ胚性幹細胞の支持細胞非依存的培養
ブタ胚性幹細胞の支持細胞非依存的培養(feeder-free culture)のために、支持細胞で培養したブタ胚性幹細胞を支持細胞非依存的培養のための胚性幹細胞培養培地(以下、「FF-胚性幹細胞培養培地」)を使用して1:5~1:10の分割比率でMatrixTMでコーティングされた培養皿(SPL Life Sciences, Pocheon, Korea)で培養した。
【0080】
FF-胚性幹細胞培養培地は、DMEM/F12ベースの培地であり、15%(v/v) KSR、0.1%(v/v) LC、1X Glutamax、0.1mM β-メルカプトエタノール、1X MEM非必須アミノ酸、および20ng/mL hrFGF2(R&D Systems), 5ng/mL ActA(R&D Systems), 1.5μMのCHIR99021(CH, Cayman Chemical)、2.5μMのIWR-1(Sigma-Aldrich)、1X抗生物質-抗真菌剤(antibiotics-antimycotics、前述の物質はすべてGibco、Gaithersburg, MD, USAから購入)、および100nM LDN-193189(Cayman Chemical)を含む。
【0081】
ブタ胚性幹細胞を5~7日ごとに継代培養した。継代培養の24時間前に、ブタ胚性幹細胞を、10μM Y-27632(Santa Cruz Biotechnology, Dallas, TX, USA)を含む「FF-胚性幹細胞培養培地」で培養した。次に、TrypLE(登録商標) Express(Gibco)を用いて、培養した幹細胞を小さな塊に分離した。この細胞を新しいMatrixTM コーティング皿に移し、10μM Y-27632(Santa Cruz Biotechnology)を含む「FF-胚性幹細胞培養培地」で24時間培養した。次に、付着した幹細胞を、Y-27632を含まない「FF-胚性幹細胞培養培地」で4~6日間培養した。培地は24時間ごとに交換し、5%CO2, 37℃の条件で培養した。
【0082】
実施例1-4.ブタ胚性幹細胞の支持細胞非依存的培養におけるLDN-193189効果の分析(細胞形態の分析)
ブタ胚性幹細胞の支持細胞非依存的培養において、ALK2/3抑制剤であるLDN-193189の影響を分析するために、アネキシンV染色によるLDN-193189の細胞毒性を確認した(図1)。LDN-193189処理の最適濃度を見つけるために濃度による細胞毒性実験を行い、アネキシンV染色は1000nM以上のLDN-193189で高い細胞毒性があることを示した。また、1000nM以上の濃度で24時間以上の処理はほとんどの細胞の死滅を誘導した。
【0083】
実施例1-5.ブタ胚性幹細胞の支持細胞非依存的培養におけるLDN-193189処理効果の分析(遺伝子発現の分析)
培養期間による多能性関連遺伝子、分化関連遺伝子などの発現量を分析するために、ブタ胚性幹細胞を支持細胞なしで100nM LDN-193189を含む「FF-胚性幹細胞培養培地」(ff-ESCsLDN+)、およびLDN-193189を含まない「FF-胚性幹細胞培養培地」(ff-ESCsLDN-)を用いて培養し、対照群としてブタ胚性幹細胞を支持細胞と一緒に前述の胚性幹細胞培養培地(Control ESCs)を用いて培養した。
【0084】
それぞれの培地を用いたプレーティングの後、2日目、4日目、6日目に細胞を得た。Total RNAはTRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, USA)を用いて抽出し、cDNAはHigh-Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems, Foster City, USA)を用いて合成した。cDNAは、表1に記載されているプライマーセットとDyNAmo HS SYBR Green qPCRキット(Thermo Fisher Scientific、Waltham, USA)を使用して増幅した。
【0085】
【表1】
【0086】
図2に示すように、支持細胞非依存的培養時、ブタ胚性幹細胞の特性変化を確認した。図2Aは多能性遺伝子及びSMADシグナル伝達系の免疫学的染色を示した結果であり、図2Bは支持細胞から分泌されるSMADシグナル伝達系関連遺伝子の発現量を示した結果である。
【0087】
ブタ胚性幹細胞を培養する際、必須の支持細胞を除去すると、幹細胞能を失い、他の細胞への分化が誘導される。初期胚の場合、中胚葉性組織に分化するようにプログラムされており、これに関与するシグナル伝達系の一つであるSMADシグナル伝達タンパク質の発現を確認した。幹細胞の増殖に関与するphosphor-SMAD2/3タンパク質のほか、分化に関与するphosphor-SMAD1/5タンパク質の発現が確認された。実際に、胚性幹細胞の多能性維持に関与する支持細胞でこのシグナル伝達系の活性を抑制する様々な遺伝子(Grem1, Grem2, Chrd, Nog)が発現することを確認した(図2Aおよび2B)。
【0088】
また、図2Cおよび図2Dに示すように、SMAD1/5シグナル伝達系の抑制剤であるLDN-193189(250nM)の処理がブタ胚性幹細胞の支持細胞非依存的培養に及ぼす影響を確認した。
【0089】
支持細胞から分泌されるSMAD1/5シグナル伝達系の抑制遺伝子がブタ胚性幹細胞の多能性維持に役立つという仮説を実証するために、SMAD1/5シグナル伝達系抑制剤であるLDN-193189を支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞に処理した。その結果、支持細胞を除去した際に変化した多能性及び中胚葉性組織発達に関与する遺伝子が、支持細胞上で培養したレベルに回復することを確認した。
【0090】
実施例2.ブタ胚性幹細胞の支持細胞非依存的培養におけるLDN-193189の最適濃度及びFGF2、アクチビン2及びCHIR99021の濃度別影響の分析
実施例2-1.LDN-193189の最適濃度の分析
100nM~1000nMの間でLDN-193189を含む「FF-胚性幹細胞培養培地」の最適濃度を確認するために、濃度を細分化してアネキシンV染色を行った(図3A)。750nM以上の濃度では、細胞死率が有意に増加することを確認した(図3B)。Ki-67染色結果は100nM~1000nMの間で有意な差は見られなかったが(図3D)、WST-8の結果は500nM以上の濃度で有意な細胞活性の減少を確認した(図3C)。実際に、LDN-193189は高濃度でLDN-193189は幹細胞の増殖に関与するアクチビンAシグナル伝達系を抑制することが知られている。したがって、最終処理濃度はBMPシグナル伝達系のみを抑制し、細胞毒性が存在しない最大濃度である100nMで確定した。
【0091】
実施例2-2.FGF2、アクチビン2およびCHIR99021の濃度別の分析
培養液に含まれるシグナル伝達物質の濃度を最適化するために、FGF2、アクチビンA、CHIR99021およびIWR-1の物質を様々な濃度で処理した(図4Aおよび4B)。図4AはKi-67染色による増殖率を確認した結果であり、図4BはWST-8 assayにより細胞活性を確認した結果である。
【0092】
Ki-67染色による増殖率を確認した結果、FGF2は濃度が増加するにつれて細胞分裂中の細胞の割合が徐々に増加した。しかし、WST-8 assayにより細胞増殖と細胞毒性を同時に測定した結果、100ng/ml以上の濃度では細胞毒性により細胞活性が低下することを確認した。
【0093】
アクチビンAは、Ki-67染色およびWST-8 assayの結果から、いずれも10ng/ml以上の濃度では細胞毒性および増殖率が低下することを確認した。したがって、アクチビンAの最適濃度は1ng/ml~5ng/mlであることを確認した。
【0094】
CHIR99021の増殖率は、CHIR99021を処理しないグループと比較すると、濃度が増加するにつれて徐々に減少した。しかし、WST-8の結果は、0.1μM~0.5μMの濃度で該物質を処理した場合、幹細胞の活性及び増殖率が改善されることを確認した。
【0095】
IWR-1は濃度が増加するにつれて分裂中の細胞の割合が徐々に増加した。しかし、IWR-1の高濃度で細胞毒性を示し、0.5μMの濃度で処理したときに最も高い細胞活性を示した。
【0096】
実施例3.支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞の特性化(characterization)
支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞の免疫細胞化学分析のために、細胞サンプルを4℃で10分間放置し、4%(w/v)パラホルムアルデヒドで30分間固定した。DPBS(Dulbecco's phosphate buffered saline)で2回洗浄した後、サンプルを非特異的結合の防止のためにヤギ血清(goat serum)10%(v/v)を含むDPBSで1時間処理した。血清処理された細胞は、OCT4(1:200;SC-9081, Santa Cruz Biotechnology)、SOX2(1:200;AB5603, Millipore, Billerica, MA, USA)、NANOG(1:200;500-P236, Peprotech, NJ, USA)、SSEA1(1:200; MAB4301, Millipore)およびSSEA4(1:200; MAB4304, Millipore)で免疫細胞化学分析を行った。核タンパク質(例えば、OCT4、SOX2およびNANOG)の場合、抗体を適用する前に固定化した細胞を血清処理前に0.1%(v/v) Triton X-100(Sigma-Aldrich)で15分間処理した。一次抗体を処理した後、Alexa Fluor-conjugated二次抗体を室温で3時間処理した。細胞の核はHoechst 33342(Molecular Probes, Eugene, OR, USA)で確認した。実験結果は、倒立蛍光顕微鏡(Eclipse TE2000-U, Nikon, Konan, Japan)を使用して染色された細胞の画像を視覚化した。
【0097】
アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase, AP)染色のために、細胞を30分間4%(w/v)パラホルムアルデヒドに固定し、nitro blue tetrazolium chlorideと5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate toluidine salt stock solution(Roche, Basel, Switzerland)を含む緩衝液にて室温で30分間染色した。染色した細胞を倒立顕微鏡で視覚化した。
【0098】
支持細胞なしでマトリゲル(登録商標)コーティングされた培養容器でLDN-193189を含む「胚性幹細胞培養培地」を処理して培養したブタ胚性幹細胞の群集の様子は、支持細胞と一緒に培養したブタ胚性幹細胞の群集と同様に平坦な単層であり、高い核対細胞質比を有する上皮細胞形態、すなわち典型的な胚性幹細胞の形態を示した(図5A)。また、支持細胞なしで培養した幹細胞は正常な核型(36+XX)を持ち(図5B)、長期培養(10回以上の継代)の間、安定的に維持された。
【0099】
支持細胞なしで培養された幹細胞は、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)活性を示し(図5A下部)、支持細胞と一緒に培養したブタ胚性幹細胞と同様に、OCT4、SOX2、NANOG、SSEA1およびSSEA4などの多能性標識因子(タンパク質)を発現した(図5C)。qPCR分析は、ブタ胚性幹細胞が支持細胞なしで長期間培養する間、OCT4、SOX2およびNANOGなどの多能性関連遺伝子および栄養膜分化関連遺伝子が、対照群ブタ胚性幹細胞の遺伝子と比較して安定的に発現していることを示した(図5D)。
【0100】
(IVF-ES-11、PG-ES-3:ブタ胚性幹細胞株、W/feeder:支持細胞上で培養したグループ、W/O feeder:支持細胞非依存的培養グループ)
【0101】
実施例4.培養培地によるブタ胚性幹細胞の分化能の分析
実施例4-1.胚様体(Embryoid Body)法を用いたブタ胚性幹細胞の分化誘導
支持細胞なしで培養した胚性幹細胞をTrypLE Express(Gibco)を用いて単細胞に分離し、他のサイトカインを含まない15%(v/v) FBSと10μM Y-27632(1日目のみ処理)を含むDMEMを用いて5日間浮遊培養した。浮遊培養後、解離した細胞が凝集して胚様体を形成し、これを0.1%(w/v)ゼラチンがコーティングされた培養皿で15%(v/v)FBSを含むDMEMで2~3週間付着培養した。
【0102】
支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞は、浮遊培養により胚様体を形成し、その後、培養皿に取り付けて自発的に分化した(図6A)。体外分化により、ブタ胚性幹細胞は3つの生殖層(germ layer)マーカー(PAX6[外胚葉]、AMY2[内胚葉]、BMP4[中胚葉])が高発現したが、qPCRにより分析したように、多能性マーカー遺伝子は徐々にダウンレギュレーションされた(図6B)。
【0103】
(IVF-ES-11、PG-ES-3:ブタ胚性幹細胞株、ESC:胚性幹細胞、Ebs:胚様体、Diff.培養皿付着により体外分化した胚様体)
【0104】
実施例5.奇形腫形成の分析
支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞の約5-10Х 106個を、50%(v/v) BD Matrigel Matrix(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, USA)および10μM Y-27632を含む200μLの「胚性幹細胞培養培地」に再懸濁した。次に、再懸濁したブタ幹細胞を5週齢の無胸腺ヌードマウス(athymic nude mice, OrientBio)の皮下に注射した。移植後2~3ヶ月後、1~2cmの奇形腫を採取し、4%(w/v)パラホルムアルデヒドに固定し、パラフィンに包埋した後、光学顕微鏡検査のためにヘマトキシリンとエオシンで染色した。
【0105】
その結果、支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞を免疫不全マウス(ヌードマウス)の皮下に移植すると奇形腫に分化することを繰り返し確認した。奇形腫は組織学的に3つの胚葉層を示す様々な組織で構成されていた(図7)。したがって、支持細胞なしで培養したブタ胚性幹細胞も多能性分化能(外胚葉、中胚葉、内胚葉)を有することを確認した。
【0106】
実施例6.様々な細胞外マトリックスでの培養液の分析
ブタ胚性幹細胞の支持体非依存的培養のための培養培地の様々な細胞外マトリックス(ECM:extracellular matrix)での活用可能性を評価するために、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジン、1型コラーゲンでコーティングされた細胞培養皿で幹細胞の培養を試みた。図8は、様々な細胞外マトリックスとして、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジンまたは1型コラーゲンで培養したブタ胚性幹細胞の培養を示した結果である。
【0107】
多能性標識因子であるNANOGとSSEA4を免疫学的染色法で確認した結果、細胞外マトリックスによる細胞の多能性と増殖能などの特性の偏りは存在したが、新しい培養液を利用して様々な基質上でブタ胚性幹細胞の特性維持が可能であることを確認した。
【0108】
実施例7.ウシ胎児血清(FBS)を含む培養条件の分析
血清代替剤であるKSRを含む培地でLDN-193189の処理がブタ胚性幹細胞の支持細胞非依存的培養に効果があることを確認した。
【0109】
さらに、血清代替剤ではないウシ胎児血清(FBS; fetal bovine serum)を含む培養液で、該物質がブタ胚性幹細胞の多能性維持に役立つかどうかを確認した。図9は、KSRをFBSに置き換えた培養液でLDN-193189の機能を分析した結果であり、図9Aは、多能性標識因子NANOGとSSEA4を通じたブタ胚性幹細胞の特性を分析した結果(白点線枠:分化した部分)であり、図9Bは、FBSを含む培養培地でLDN-193189の処理有無による多能性及び中胚葉性組織発達関連遺伝子の発現変化を示した結果である。
【0110】
多能性標識因子であるNANOGとSSEA4を免疫学的染色法で確認した結果、FBSを含む培養液はブタ胚性幹細胞の分化を誘導し、NANOGおよびSSEA4の発現が減少した細胞群集が多数発見された。このような現象はLDN-193189の処理を通じて緩和されることを確認し、qPCR分析はFBSを含む環境内でLDN-193189の処理を通じて中胚葉関連遺伝子の発現を減少させ、幹細胞の多能性維持に役立つ結果を示した。
【0111】
実施例8.支持細胞が存在する培養条件での活用可能性の確認
LDN-193189を含む支持細胞非依存的培養のための培地の支持細胞上で培養したブタ胚性幹細胞に対する影響を確認した。
【0112】
図10は、LDN-193189の支持細胞上で培養したブタ胚性幹細胞に対する効果を示した結果であり、図10Aは、LDN-193189を処理した支持細胞上で培養したブタ胚性幹細胞の多能性標識因子(NANOG, SSEA4)の発現(白点線枠:分化した細胞群集)を示した結果であり、図10Bはphosphor-SMAD1/5の発現に対するLDN-193189の効果を示した結果であり、図10Cはphosphor-SMAD2/3の発現に対するLDN-193189の効果を示した結果であり、図10DはqPCRを通じたLDN-193189を処理した支持細胞上で培養したブタ胚性幹細胞の多能性及び中胚葉性組織発達の関連遺伝子の発現を確認した結果である。
【0113】
LDN-193189の処理は、支持細胞上で培養したブタ胚性幹細胞の自発的な分化を減少させ、SSEA4標識因子の発現を増強させた。これは、中胚葉性分化に関与するSMAD1/5シグナル伝達系を抑制し、幹細胞の増殖に関与するSMAD2/3シグナル伝達を活性化するためであると推測される。また、qPCR分析は、LDN-193189の処理は様々な中胚葉性組織発生に関与する遺伝子の発現を減少させることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】