(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-09
(54)【発明の名称】AAVベクターを用いたトロポニンC(TNNC1)遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20241202BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241202BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20241202BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241202BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241202BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241202BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241202BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20241202BHJP
A61P 9/02 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/35
A61K35/76
A61K31/7088
A61K48/00
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534532
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-31
(86)【国際出願番号】 US2022081282
(87)【国際公開番号】W WO2023108129
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521067485
【氏名又は名称】スペースクラフト セブン リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ハーツォグ クリストファー ディーン
(72)【発明者】
【氏名】サクラメント チェスター ビッテンコート
(72)【発明者】
【氏名】リックス デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】プラバカール ラジ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA55
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA36
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA55
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA55
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた、TNNC1(トロポニンC)関連心筋症の遺伝子治療を本明細書において提供する。ベクターのプロモーターは、MHCK7プロモーターまたは心筋トロポニンT(hTNNT2)プロモーターでありうる。キャプシドは、AAV9もしくはAAVrh.74キャプシドまたはその機能的バリアントでありうる。他のプロモーターまたはキャプシドを用いてもよい。rAAVベクターの静脈内投与、冠動脈内投与、頸動脈内投与または心臓内投与によるなどの処置の方法ならびに他の組成物および方法をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現カセットおよび任意で隣接するアデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復配列(ITR)を含むポリヌクレオチドであって、プロモーターに機能的に連結された、トロポニンC1心臓型(TNNC1)またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列を含む、前記ポリヌクレオチド。
【請求項2】
プロモーターが心臓特異的プロモーターである、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
プロモーターが筋肉特異的プロモーターである、請求項1または2記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
プロモーターが心筋細胞特異的プロモーターである、請求項1~3のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
プロモーターがMHCK7プロモーターである、請求項1~4のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
MHCK7プロモーターがSEQ ID NO: 21と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有する、請求項5記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
プロモーターが心筋トロポニンT(hTNNT2)プロモーターである、請求項1~6のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
hTNNT2プロモーターがSEQ ID NO: 22と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有する、請求項7記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
発現カセットが、心筋トロポニンT(hTNNC1)遺伝子のエクソン1を含み、ここで任意でhTNNT2プロモーターおよびエクソン1が一緒になって、SEQ ID NO: 23と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有していてもよい、請求項1~8のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
プロモーターが遍在性プロモーター、任意でCMVプロモーターまたはCAGプロモーターである、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
発現カセットがポリAシグナルを含む、請求項1~10のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
ポリAシグナルがヒト成長ホルモン(hGH)ポリAである、請求項11記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
発現カセットがウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、任意でWPRE(x)を含む、請求項1~12のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
発現カセットがKozak配列を含む、請求項1~13のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
発現カセットがSV40イントロンを含む、請求項1~14のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
TNNC1またはその機能的バリアントがTNNC1である、請求項1~15のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
TNNC1が機能的TNNC1である、請求項16記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
TNNC1がヒトTNNC1である、請求項16または17記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
SEQ ID NO: 2に記載されるTNNC1ポリヌクレオチド配列を含む、請求項16~18のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
TNNC1が、SEQ ID NO: 1と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有する、請求項16~19のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
TNNC1をコードするポリヌクレオチド配列がヒトTNNC1ポリヌクレオチドである、請求項1~20のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項22】
TNNC1をコードするポリヌクレオチド配列が、SEQ ID NO: 2と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有する、請求項1~21のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項23】
少なくとも約2.4 kb、少なくとも約2.5 kb、少なくとも約2.6 kb、少なくとも約2.7 kb、少なくとも約2.8 kb、少なくとも約3 kb、少なくとも約3.2 kb、少なくとも約3.4 kbまたは少なくとも約3.6 kbを含む、請求項1~22のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項24】
多くても約2.6 kb、多くても約2.7 kb、多くても約2.8 kb、多くても約3 kb、多くても約3.2 kb、多くても約3.4 kb、多くても約3.6 kb、多くても約3.8 kbまたは多くても約4 kbを含む、請求項1~23のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項25】
約4.0 kb~4.6 kb、約4.0 kb~4.5 kbまたは約4.0 kb~4.4 kbを含む、請求項1~24のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項26】
約2.4 kb~3.6 kb、約2.5 kb~3.5 kb、約2.6 kb~3.4 kb、約2.7 kb~3.3 kb、約2.8 kb~3.2 kbまたは約2.9 kb~3.1 kbを含む、請求項1~25のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項27】
約2.4 kb、約2.5 kb、約2.8 kb、約2.9 kb、約3.5 kbまたは約3.6 kbを含む、請求項1~26のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項28】
SEQ ID NO: 57~62のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の同一性を共有する、請求項1~27のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項29】
発現カセットが5'および3'逆位末端反復配列(ITR)によって挟まれている、請求項1~28のいずれか一項記載のポリヌクレオチド。
【請求項30】
前記ITRがAAV2 ITRであり、および/または前記ITRがSEQ ID NO: 11~17のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の同一性を共有する、請求項29記載のポリヌクレオチド。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか一項記載のポリヌクレオチドを含む、遺伝子治療ベクター。
【請求項32】
遺伝子治療ベクターが、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである、請求項31記載のベクター。
【請求項33】
rAAVベクターがAAV9またはその機能的バリアントである、請求項32記載のベクター。
【請求項34】
rAAVベクターが、SEQ ID NO: 70のいずれか1つと90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有するキャプシドタンパク質を含む、請求項33記載のベクター。
【請求項35】
rAAVベクターがAAVrh.74またはその機能的バリアントである、請求項34記載のベクター。
【請求項36】
rAAVベクターが、SEQ ID NO: 73のいずれか1つと90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有するキャプシドタンパク質を含む、請求項35記載のベクター。
【請求項37】
その必要がある対象において疾患または障害を処置および/または予防する方法であって、請求項31~36のいずれか一項記載のベクターを該対象に投与する段階を含む、前記方法。
【請求項38】
疾患または障害が心臓障害である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
疾患または障害が心筋症である、請求項37または38記載の方法。
【請求項40】
障害が拡張型心筋症である、請求項39記載の方法。
【請求項41】
障害が左室緻密化障害型心筋症である、請求項39記載の方法。
【請求項42】
障害が拘束型心筋症である、請求項39記載の方法。
【請求項43】
疾患または障害が心不全である、請求項37~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
疾患が低駆出率によって特徴付けられる、請求項43記載の方法。
【請求項45】
駆出率が30%またはそれ以下である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
障害が肥大型心筋症である、請求項39記載の方法。
【請求項47】
障害が、失神、狭心症および/または軽度左室肥大によって特徴付けられる、請求項46記載の方法。
【請求項48】
疾患または障害がカルシウム結合の変化によって特徴付けられる、請求項37~47のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
疾患または障害がTNNC1の機能不全に関連する心筋症である、請求項37~48のいずれか一項記載の方法。
【請求項50】
疾患または障害がTNNC1における変異によって引き起こされる、請求項37~49のいずれか一項記載の方法。
【請求項51】
変異が機能獲得変異である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
変異が機能喪失変異である、請求項50記載の方法。
【請求項53】
変異が、ヒトTNNC1遺伝子と比べて、Y5H、A8V、L29Q、A31S、C84Y、E134D、D132N、D145E、I148V、G159D、G159Rからなる群より選択される、請求項50記載の方法。
【請求項54】
対象が哺乳動物である、請求項37~53のいずれか一項記載の方法。
【請求項55】
対象が霊長類である、請求項54記載の方法。
【請求項56】
対象がヒトである、請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記ベクターが静脈内注射、心臓内注射、心臓内注入、および/または心臓カテーテル法によって投与される、請求項37~56のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
前記投与が野生型TNNC1発現を約5%~約10%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項59】
前記投与が野生型TNNC1発現を約10%~約20%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項60】
前記投与が野生型TNNC1発現を約20%~約30%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項61】
前記投与が野生型TNNC1発現を約30%~約40%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項62】
前記投与が野生型TNNC1発現を約40%~約50%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
前記投与が野生型TNNC1発現を約50%~約70%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
前記投与が野生型TNNC1発現を約70%~約100%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
前記投与が変異型TNNC1に対する野生型TNNC1の比率を約5%~約25%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項66】
前記投与が変異型TNNC1に対する野生型TNNC1の比率を約25%~約50%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項67】
前記投与が変異型TNNC1に対する野生型TNNC1の比率を約50%~約100%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項68】
前記投与が変異型TNNC1に対する野生型TNNC1の比率を約100%~約200%増加させる、請求項37~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項69】
疾患または障害を処置および/または予防する、請求項37~68のいずれか一項記載の方法。
【請求項70】
有効量の前記ベクターを投与する段階を含む、請求項37~69のいずれか一項記載の方法。
【請求項71】
有効量の前記ベクターを含む薬学的組成物を投与する段階を含む、請求項37~70のいずれか一項記載の方法。
【請求項72】
約1×10
11ベクターゲノム~約1×10
14ベクターゲノムの前記ベクターまたは約1×10
11ベクターゲノム~約1×10
15ベクターゲノムの前記ベクターを対象に投与する段階を含む、請求項37~71のいずれか一項記載の方法。
【請求項73】
請求項31~36のいずれか一項記載のベクターを含む、薬学的組成物。
【請求項74】
請求項31~36のいずれか一項記載のベクターまたは請求項71記載の薬学的組成物および任意で使用説明書を含む、キット。
【請求項75】
任意で請求項37~72のいずれか一項記載の方法による、疾患または障害の処置における請求項31~36のいずれか一項記載のベクターの使用。
【請求項76】
任意で請求項37~72のいずれか一項記載の方法による、疾患または障害の処置における使用のための請求項31~36のいずれか一項記載のベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月10日付で出願された米国仮特許出願第63/288,255号の優先権の恩典を主張するものであり、その開示は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表に関する陳述
本出願に関連する配列表は、紙のコピーの代わりにテキスト形式で提供され、参照により本明細書に組み入れられる。配列表を含むテキストファイルの名前は、ROPA_026_01WO_SeqList_ST26.xmlである。テキストファイルは約152,263バイトで、2022年12月7日に作成され、EFS-Web 経由で電子的に提出されている。
【背景技術】
【0003】
背景
TNNC1遺伝子における変異は心筋症の主要な原因である。3p21.1に位置するTNNC1は、筋フィラメントCa2+の感知および収縮の調節に関与するカルシウム結合サブユニットである心筋トロポニンCをコードする。トロポニンCは、トロポニンI-トロポミオシンによって誘導されるミオシンとアクチンの収縮相互作用の抑制を中和する。TNNC1の機能喪失(LOF)変異は、Ca2+感受性および結合を低下させ、拡張型心筋症(DCM)を引き起こす。TNNC1の機能獲得(GOF)変異は、Ca2+感受性および結合を増加させ、過剰収縮および肥大型心筋症(HCM)を引き起こす。
【0004】
TNNC1 DCMの臨床症状には、心不全(例えば、30%未満の平均駆出率(EF))、左室拡張、心臓移植の必要性、および心臓突然死のリスクが含まれる。TNNC1 DCMの平均発症年齢は約30歳であるが、それ以前や小児患者でも発症することがある。TNNC1 HCMの臨床症状は、呼吸困難、失神、狭心症、不整脈、左室肥大(LVH)、および左室流出路閉塞(LVOTO)である。
【0005】
TNNC1 DCM、TNNC1 HCM、およびTNNC1における変異に関連する他の心筋症の処置に対する満たされていない要求が当技術分野において残されている。本明細書において開示される組成物および方法は、この要求に対処する。
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明は全体として、TNNC1またはその機能的バリアントを発現するベクターを用いた、疾患または障害、例えば、心臓疾患または障害の遺伝子治療に関する。
【0007】
さまざまな他の局面および態様が、以下の詳細な説明に開示されている。本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ベクターゲノムの非限定的な例を例示する図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 57である。下線部は発現カセット(SEQ ID NO: 63)である。
【
図2】ベクターゲノムの非限定的な例を例示する図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 58である。下線部は発現カセット(SEQ ID NO: 64)である。
【
図3】ベクターゲノムの非限定的な例を例示する図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 59である。下線部は発現カセット(SEQ ID NO: 65)である。
【
図4】ベクターゲノムの非限定的な例を例示する図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 60である。下線部は発現カセット(SEQ ID NO: 66)である。
【
図5】ベクターゲノムの非限定的な例を例示する図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 61である。下線部は発現カセット(SEQ ID NO: 67)である。
【
図6】ベクターゲノムの非限定的な例を例示する図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 62である。下線部は発現カセット(SEQ ID NO: 68)である。
【
図7】ベクターゲノムの非限定的な例を例示する図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 57である。本明細書において記述されるMHCK7プロモーターは、図中で「エンハンサー/MHCK7」と表示されている。
【
図8】ベクターゲノムの非限定的な例を例示する図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 58である。
【
図9】形質導入されたCHO-Lec2細胞におけるヒトTnCタンパク質発現のウエスタンブロット(WB)を示す。WBはヒトTnC(上パネル)またはローディング対照であるGAPDH(下パネル)を示す。レーン1はAAV9-MHCK7-TNNC1(MOI 3E5で形質導入)であり、レーン2はAAVrh.74-MHCK7-TNNC1(MOI 3E5で形質導入)であり、レーン3はAAV9-hTnT-TNNC1(MOI 3E6で形質導入)であり、レーン4はAAVrh.74-hTnT-TNNC1(MOI 3E6で形質導入)であり、レーン5は非形質導入細胞の対照である。
【
図10】
図10Aおよび
図10Bは、D73N
+/-処置マウス(n = 7~11/群)のカプラン・マイヤー生存曲線を示す。
図10A: 雄の処置マウスの生存を示し、
図10B: 雌の生存を示す。全てのAAV注射動物は、製剤緩衝液(FB)を注射したD73N
+/-対照よりもかなり長く生きた。FBは、0.01%プルロニックF-68を有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含み、AAVを含まない。
【
図11】
図11Aおよび
図11Bは、全ての雄のAAV注射群において、疾患に関連する拡張末期径増大の有意な緩和が観察され、製剤緩衝液(FB)を注射したD73N
+/-対照動物と比較してAAV9-MHCK7群において最大の効果が認められたことを例示する棒グラフを示す(
図11A)。雌性マウスでは、明らかではあるが有意ではない効果が観察され、最も顕著であったのはAAV9-hTnT-TNNC1群であった(
図11B)。統計分析(一元配置ANOVA)とそれに続くTukeyの多重比較検定を実施した(
*p≦0.05、
**p≦0.01、
***p≦0.001、
****p<0.0001)。
【
図12】
図12Aおよび
図12Bは、FBを注射したD73N
+/-対照と比較して、AAV9-MHCK7-TNNC1およびAAVrh.74-TNNC1で処置した雄性マウスでは、疾患に関連した収縮末期径増大の有意な緩和(
図12A)が観察されたことを例示する棒グラフを示す。雌性マウスでは、明らかではあるが有意ではない効果が観察され、最も顕著であったのはAAV9-hTnT-TNNC1注射群であった(
図12B)。統計分析(一元配置ANOVA)とそれに続くTukeyの多重比較検定を実施した(
*p≦0.05、
****p<0.0001)。
【
図13】
図13Aおよび
図13Bは、FBを注射したD73N
+/-対照雄性マウスと比較して、AAV9-MHCK7-TNNC1を注射した動物では、疾患に関連した拡張型心筋症の進行の有意な緩和がより大きい駆出率(%)によって明らかにされたことを例示する棒グラフを示す(
図13A)。統計分析(一元配置ANOVA)とそれに続くTukeyの多重比較検定を実施した(
*p≦0.05)。
【
図14】
図14Aおよび
図14Bは、FBを注射したD73N
+/-対照雄性マウスと比較して、AAV9-MHCK7-TNNC1を注射した動物では、拡張型心筋症の通常進行がより大きい短縮率(%)によって明らかにされたことを例示する棒グラフを示す(
図14A)。統計分析(一元配置ANOVA)とそれに続くTukeyの多重比較検定を実施した(
*p≦0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
本開示は、TNNC1またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチドを送達するTNNC1の遺伝子治療ベクターを、使用の方法とともに、ならびに他の組成物および方法を提供する。いくつかの態様において、プロモーターはMHCK7プロモーターである。いくつかの態様において、AAVベクターはAAV9ベクターである。いくつかの態様において、プロモーターはMHCK7プロモーターであり、AAVベクターはAAV9ベクターである。いくつかの態様において、プロモーターはMHCK7プロモーターであり、AAVベクターはAAVrh.74ベクターである。いくつかの態様において、プロモーターはhTNNT2プロモーターである。いくつかの態様において、AAVベクターはAAV9ベクターである。いくつかの態様において、プロモーターはhTNNT2プロモーターであり、AAVベクターはAAV9ベクターである。いくつかの態様において、プロモーターはhTNNT2プロモーターであり、AAVベクターはAAVrh.74ベクターである。
【0010】
本開示はさらに、本開示の遺伝子治療ベクターを投与することにより対象において疾患または障害を処置する方法を提供する。好ましい態様において、疾患または障害はTNNC1 DCMまたはTNNC1 HCMである。
【0011】
本発明によれば、TNNC1またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチドは、遺伝子治療ベクターの作製に利用されうる。得られたベクターは、疾患または障害、例えばTNNC1 DCM、TNNC1 HCMまたは他のものの処置に利用されうる。
【0012】
定義
節の見出しは構成上の目的のみであり、記述されている主題を特定の局面または態様に限定するものと解釈されるべきではない。
【0013】
別途定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が関連する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記述されるものと類似または同等の方法および材料を本発明の実践において使用することができるが、適当な方法および材料を以下に記述する。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照によりその全体が明示的に組み入れられる。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先される。さらに、本明細書において記述される材料、方法および実施例は、例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0014】
本明細書において言及される全ての刊行物および特許は、各個々の刊行物または特許が、参照により組み入れられることが具体的かつ個別的に示されているかのように、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。矛盾する場合は、本明細書の任意の定義を含めて本出願が優先される。しかしながら、本明細書において引用される任意の参照文献、記事、刊行物、特許、特許公開および特許出願の言及は、有効な先行技術を構成するか、または世界の任意の国で共通の一般知識の一部を形成するという承認または任意の形態の提案とされるものではなく、またそのように解釈されるべきではない。
【0015】
本記述において、別段の示唆がない限り、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比範囲、または整数範囲は、列挙された範囲内の任意の整数の値、および適切な場合にはその分数(例えば、整数の10分の1および100分の1など)を含むと理解されるべきである。「約」という用語は、数字または数の直前にある場合、その数字または数がプラスまたはマイナス10%の範囲であることを意味する。本明細書において用いられる場合、「1つの(a)」および「1つの(an)」という用語は、別段の示唆がない限り、列挙された構成要素のうちの「1つまたは複数」をいうことが理解されるべきである。代替物(例えば「または」)の使用は、代替物のいずれか一方、両方、またはそれらの任意の組み合わせのいずれかを意味すると理解されるべきである。「および/または」という用語は、選択肢の一方または両方を意味すると理解されるべきである。本明細書において用いられる場合、「含む(include)」および「含む(comprise)」という用語は同義的に用いられる。
【0016】
本開示の全体を通じて用いられる、配列「同一性」は、2つの配列をブラストするためのスタンドアロン実行可能BLASTエンジンプログラム(bl2seq)を用いることによって判定することが可能であり、これはデフォルトパラメータを用いて、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)ftpサイトから検索することができる(Tatusova and Madden, FEMS Microbiol Lett., 1999, 174, 247-250; これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。2つまたはそれ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において用いられる場合、「同一」または「同一性」という用語は、関心対象の配列および参照配列において同じである残基の数または割合をいう。この割合は、関心対象の配列を参照配列に最適に整列させること; 参照配列の全長にわたって2つの配列を比較すること; 両配列において同一のアミノ酸残基または核酸塩基が出現する位置の数を判定して、一致した位置の数を得ること; 一致した位置の数を、整列の生成時に参照配列に導入されたギャップ位置の数を加えて調整した参照配列中の位置の総数で除算すること; およびその結果に100を乗じて配列同一性の割合を得ることによって計算することができる。DNAおよびRNAを比較する場合、チミン(T)およびウラシル(U)は同等と見なすことができる。同一性の計算は、手動でまたはBLASTアルゴリズムによって実施することができる。
【0017】
本明細書において用いられる場合、「AAVベクター」または「rAAVベクター」は、AAV末端反復配列(ITR)が隣接する1つまたは複数の関心対象ポリヌクレオチド(または導入遺伝子)を含む組み換えベクターをいう。そのようなAAVベクターは、repおよびcap遺伝子産物をコードし発現するプラスミドでトランスフェクトされた宿主細胞中に存在する場合、複製され、感染性ウイルス粒子にパッケージングされうる。あるいは、AAVベクターは、rep遺伝子とcap遺伝子を発現するように安定的に操作された宿主細胞を用いて、感染性粒子にパッケージングされてもよい。
【0018】
本明細書において用いられる場合、「AAVビリオン」または「AAVウイルス粒子」または「AAVベクター粒子」は、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質およびキャプシド化ポリヌクレオチドAAVベクターから構成されるウイルス粒子をいう。本明細書において用いられる場合、粒子が、異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、通常、これは、「AAVベクター粒子」または単に「AAVベクター」といわれる。したがって、AAVベクター粒子の産生は、ベクターがAAVベクター粒子内に含まれるため、必然的にAAVベクターの産生を含む。
【0019】
本明細書において用いられる場合、「プロモーター」は、真核細胞においてポリヌクレオチドからのRNA転写の開始を促進することができるポリヌクレオチド配列をいう。
【0020】
本明細書において用いられる場合、「ベクターゲノム」は、隣接配列(AAVでは、逆位末端反復)を含む、ベクター(例えば、rAAVビリオン)によってパッケージングされたポリヌクレオチド配列をいう。「発現カセット 」および「ポリヌクレオチドカセット 」という用語は、隣接ITR配列間のベクターゲノムの部分をいう。「発現カセット」は、ベクターゲノムが、任意の調節エレメントおよび/またはエンハンサーエレメントを含めて、発現を駆動するエレメント(例えば、プロモーター)に機能的に連結された遺伝子産物をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むことを意味する。「ポリヌクレオチドカセット 」は、任意の調節エレメントおよび/またはエンハンサーエレメントを含めて、発現を駆動するエレメント(例えば、プロモーター)に機能的に連結された遺伝子産物をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むベクターゲノムの部分をいう。
【0021】
本明細書において用いられる場合、「必要がある患者」または「必要がある対象」という用語は、本明細書において開示される組み換え遺伝子治療ベクターまたは遺伝子編集システムを用いた治療または改善に適している疾患、障害、または状態のリスクのあるまたは罹患している患者または対象をいう。必要がある患者または対象は、例えば、心臓に関連する障害と診断された患者または対象であってもよい。対象は、TNNC1タンパク質の異常な発現を引き起こす、TNNC1遺伝子における変異、またはTNNC1遺伝子の全部もしくは一部の欠失、または遺伝子調節配列の欠失を有しうる。「対象」および「患者」は、本明細書において互換的に用いられる。本明細書において記述される方法によって処置される対象は、成人または子供であってよい。対象の年齢はさまざまであってよい。
【0022】
本明細書において用いられる場合、「バリアント」または「機能的バリアント」という用語は、互換的に、親タンパク質の1つまたは複数の所望の活性を保持する親タンパク質と比較して1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入または欠失を有するタンパク質をいう。
【0023】
本明細書において用いられる場合、「遺伝子破壊」とは、遺伝子における部分的もしくは完全な機能喪失または異常な活性をいう。例えば、対象は、対象の少なくとも一部の細胞(例えば、心臓細胞)において、TNNC1タンパク質の発現を減少させるか、または機能の喪失もしくは異常をもたらす、TNNC1遺伝子における発現または機能の遺伝子破壊に罹患しうる。また「遺伝子破壊」とは、機能獲得変異、例えばTNNC1タンパク質の機能獲得変異につながる遺伝子の変化もいう。
【0024】
本明細書において用いられる場合、「処置する」とは、疾患または障害の1つまたは複数の症状を改善することをいう。「予防する」という用語は、疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状の発症を遅延もしくは中断すること、またはTNNC1関連疾患もしくは障害、例えば、TNNC1 DCMおよび/もしくはTNNC1 HCMの進行を緩徐化させることをいう。
【0025】
TNNC1タンパク質またはポリヌクレオチド
本開示は、TNNC1タンパク質に関連する組成物および使用方法を企図する。TNNC1におけるさまざまな変異は、TNNC1 DCMまたはTNNC1 HCMに関連することが知られている。TNNC1 DCMまたはTNNC1 HCMに関連する変異の例としては、非限定的に、Y5H、A8V、L29Q、A31S、C84Y、E134D、D132N、D145E、I148V、G159D、G159R、M103Iおよび/またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0026】
ヒトTNNC1のネイティブ配列を以下に示す。TNNC1アイソフォームは161アミノ酸残基の配列(GenBank NP_003271.1)を有する:
【0027】
いくつかの態様において、TNNC1タンパク質は、SEQ ID NO: 1と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリペプチド配列を含む。いくつかの態様において、TNNC1タンパク質は、SEQ ID NO: 2と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一の配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる。いくつかの態様において、TNNC1タンパク質は、疾患に関連する変異を有しない。いくつかの態様において、TNNC1タンパク質は、野生型またはネイティブTNNC1タンパク質、例えば、ヒトTNNC1である。
【0028】
いくつかの態様において、本開示は、ベクターゲノムが、プロモーターに機能的に連結された、TNNC1またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列を含む、キャプシドおよびベクターゲノムを含んだ、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを提供する。いくつかの態様において、本開示は、ベクターゲノムが、プロモーターに機能的に連結された、TNNC1をコードするポリヌクレオチド配列を含む、キャプシドおよびベクターゲノムを含んだ、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを提供する。いくつかの態様において、TNNC1タンパク質は、SEQ ID NO: 1と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリペプチド配列を含む。TNNC1をコードするポリヌクレオチドは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含みうる。
【0029】
任意で、ベクターゲノムをコードするポリヌクレオチド配列は、GCCACCATGG(SEQ ID NO: 3)を含むがこれに限定されない、Kozak配列を含んでもよい。Kozak配列は、TNNC1タンパク質またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列と重複してもよい。例えば、ベクターゲノムは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列(Kozakに下線が引かれている)を含んでもよい。
【0030】
いくつかの態様において、Kozak配列は、以下:
のいずれか1つを含む、またはこれらのいずれか1つからなる、代替Kozak配列である。
【0031】
いくつかの態様において、ベクターゲノムはKozak配列を含まない。ポリヌクレオチド配列はコドン最適化されてもよい。
【0032】
ベクターゲノム
本開示のAAVビリオンは、ベクターゲノムを含む。ベクターゲノムは、発現カセット(またはポリヌクレオチド配列の発現を必要としない遺伝子編集用途のためのポリヌクレオチドカセット)を含んでもよい。任意の適当な逆位末端反復配列(ITR)が用いられてもよい。ITRは、キャプシドと同じ血清型または異なる血清型由来であってもよい(例えば、AAV2 ITRが用いられてもよい)。
【0033】
いくつかの態様において、5' ITRはAAV ITRを含む。いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0034】
いくつかの態様において、5' ITRはAAV2 ITRを含む。いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0035】
いくつかの態様において、5' ITRはAAV ITRを含む。いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0036】
いくつかの態様において、5' ITRはAAV ITRを含む。いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0037】
いくつかの態様において、3' ITRはAAV ITRを含む。いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0038】
いくつかの態様において、3' ITRはAAV2 ITRを含む。いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0039】
いくつかの態様において、3' ITRはAAV2 ITRを含む。いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0040】
いくつかの態様において、3' ITRはAAV2 ITRを含む。いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0041】
いくつかの態様において、ベクターゲノムは、例えば、以下:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一の、1つまたは複数のフィラー(filler)配列を含む。
【0042】
プロモーター
いくつかの態様において、TNNC1タンパク質またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列は、プロモーターに機能的に連結される。好ましい態様において、プロモーターは、マウス筋クレアチンキナーゼ(MCK)のエンハンサー/プロモーター領域およびα-ミオシン重鎖遺伝子のエンハンサー領域を含むMHCK7プロモーターである。(Salva MZ et al., Mol. Ther. 15(2):320-9 (2007).)
【0043】
本開示はさまざまなプロモーターの使用を企図する。本開示の態様において有用なプロモーターは、非限定的に、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、またはCMVエンハンサーならびにニワトリβ-アクチンプロモーターおよびウサギβ-グロビン遺伝子(CAG)の一部から構成されるプロモーター配列を含む。いくつかの場合において、プロモーターは合成プロモーターであってもよい。例示的な合成プロモーターは、Schlabach et al. PNAS USA. 107(6):2538-43 (2010)によって提供されている。
【0044】
いくつかの態様において、TNNC1タンパク質またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列は、誘導性プロモーターに機能的に連結される。誘導性プロモーターは、作用物質の添加もしくは蓄積に応答して、または作用物質の除去、分解もしくは希釈に応答して、ポリヌクレオチド配列を転写発現させるかまたは転写発現させないように構成されうる。作用物質は薬物であってもよい。作用物質はテトラサイクリンまたはその誘導体の1つ、例えば、非限定的に、ドキシサイクリンであってもよい。いくつかの場合において、誘導性プロモーターは、tet-onプロモーター、tet-offプロモーター、化学的に調節されるプロモーター、物理的に調節されるプロモーター(すなわち、光の有無または低温もしくは高温に応答するプロモーター)である。誘導性プロモーターは、重金属イオン誘導性プロモーター(マウス乳腺腫瘍ウイルス(mMTV)プロモーターまたはさまざまな成長ホルモンプロモーターなどの)、およびT7 RNAポリメラーゼの存在下で活性となるT7ファージ由来のプロモーターを含む。この誘導性プロモーターのリストは非限定的である。
【0045】
いくつかの場合において、プロモーターは組織特異的プロモーター、例えば、心臓細胞における発現を非心臓細胞におけるよりも大きく駆動することができるプロモーターである。いくつかの態様において、組織特異的プロモーターは、デスミン(Des)、α-ミオシン重鎖(α-MHC)、ミオシン軽鎖2(MLC-2)、心筋トロポニンC(cTnC)、心筋トロポニンT(hTNNT2)、筋クレアチンキナーゼ(CK)、およびMHCK7などのそれらのプロモーター/エンハンサー領域の組み合わせを含むがこれらに限定されない、任意のさまざまな心臓細胞特異的プロモーターから選択される。いくつかの場合において、プロモーターは遍在性プロモーターである。「遍在性プロモーター」とは、実験的または臨床的条件下で組織特異的ではないプロモーターをいう。いくつかの場合において、遍在性プロモーターは、CMV、CAG、UBC、PGK、EF1-α、GAPDH、SV40、HBV、ニワトリβ-アクチン、およびヒトβ-アクチンプロモーターのいずれか1つである。
【0046】
いくつかの態様において、プロモーター配列は表3から選択される。いくつかの態様において、プロモーターは、SEQ ID NO 21~35のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0047】
【0048】
プロモーターのさらなる例示的な例は、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーター、バキュロウイルス多面体エンハンサー/プロモーターエレメント、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV tk)、サイトメガロウイルス(CMV)由来の最初期プロモーターおよびLTRエレメントを含むさまざまなレトロウイルスプロモーターである。多種多様な他のプロモーターが当技術分野において公知であり、一般に入手可能であり、多くのそのようなプロモーターの配列はGenBankデータベースなどの配列データベースにおいて入手可能である。
【0049】
他の調節エレメント
いくつかの場合において、本開示のベクターは、エンハンサー、イントロン、ポリAシグナル、2Aペプチドコード配列、WPRE(ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント)、およびHPRE(B型肝炎ウイルス転写後調節エレメント)からなる群より選択される1つまたは複数の調節エレメントをさらに含む。
【0050】
いくつかの態様において、ベクターはCMVエンハンサーを含む。
【0051】
ある種の態様において、ベクターは1つまたは複数のエンハンサーを含む。特定の態様において、エンハンサーは、CMVエンハンサー配列、GAPDHエンハンサー配列、β-アクチンエンハンサー配列またはEF1-αエンハンサー配列である。前記の配列は当技術分野において公知である。例えば、CMV最初期(IE)エンハンサーの配列は、以下:
である。
【0052】
ある種の態様において、ベクターは、プロモーターに連結されたエンハンサーを含む。例えば、ベクターはMHCK7プロモーターおよびエンハンサーを含みうる。ある種の態様において、MHCK7プロモーターおよびエンハンサーは、以下の配列:
と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である。
【0053】
ある種の態様において、ベクターは1つまたは複数のイントロンを含む。特定の態様において、イントロンはウサギグロビンイントロン配列、ニワトリβ-アクチンイントロン配列、合成イントロン配列、SV40イントロン、またはEF1-αイントロン配列である。
【0054】
ある種の態様において、ベクターはポリA配列を含む。特定の態様において、ポリA配列はウサギグロビンポリA配列、ヒト成長ホルモンポリA配列、ウシ成長ホルモンポリA配列、PGKポリA配列、SV40ポリA配列、またはTKポリA配列である。いくつかの態様において、ポリAシグナルは、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(bGHpA)でありうる。
【0055】
ある種の態様において、ベクターは1つまたは複数の転写産物安定化エレメントを含む。特定の態様において、転写産物安定化エレメントはWPRE配列、HPRE配列、スキャフォールド付着領域、3' UTRまたは5' UTRである。特定の態様において、ベクターは5' UTRおよび3' UTRの両方を含む。
【0056】
いくつかの態様において、ベクターは、表4から選択される5'非翻訳領域(UTR)を含む。いくつかの態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO 38~48のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0057】
【0058】
いくつかの態様において、ベクターは、表5から選択される3'非翻訳領域を含む。いくつかの態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO 49~57のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0059】
【0060】
いくつかの態様において、ベクターは、表6から選択されるポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。いくつかの態様において、ポリAシグナルは、SEQ ID NO 52~56のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0061】
【0062】
例示的ベクターゲノムは
図1~6に描かれ、SEQ ID NO: 57~62として提供される。
図1~6に下線で示した各配列の発現カセットは、SEQ ID NO: 63~68である。いくつかの態様において、ベクターゲノムは、任意でITR配列を有してもまたは有しなくてもよい、SEQ ID NO: 57~62のいずれか1つと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列を含むか、任意でITR配列を有してもまたは有しなくてもよい、SEQ ID NO: 57~62のいずれか1つと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列から本質的になるか、あるいは任意でITR配列を有してもまたは有しなくてもよい、SEQ ID NO: 57~62のいずれか1つと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列からなる。いくつかの態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO: 57~62のいずれか1つと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列を含むか、SEQ ID NO: 57~62のいずれか1つと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列から本質的になるか、あるいはSEQ ID NO: 57~62のいずれか1つと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列からなる。本開示は同様に、
図1~6に描写される例示的ベクターゲノムの発現カセットおよびこれらを含む配列、例えば、SEQ ID NO: 57~62に記載されているが、5'および3' ITRを欠いている配列、ならびに前記のいずれかと90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を共有しているそれらのバリアントを企図する。
【0063】
好ましい態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO: 57と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。好ましい態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO: 58と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。好ましい態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO: 59と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO: 60と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。好ましい態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO: 61と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、ベクターゲノムは、SEQ ID NO: 62と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0064】
好ましい態様において、発現カセットは、SEQ ID NO: 63と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。好ましい態様において、発現カセットは、SEQ ID NO: 64と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。好ましい態様において、発現カセットは、SEQ ID NO: 65と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、発現カセットは、SEQ ID NO: 66と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。好ましい態様において、発現カセットは、SEQ ID NO: 67と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、発現カセットは、SEQ ID NO: 68と少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0065】
アデノ随伴ウイルスベクターおよびその使用
アデノ随伴ウイルス(AAV)は複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは約4.7 kbの長さであり、2つの約145ヌクレオチド逆位末端反復配列(ITR)を含む。AAVには複数の公知のバリアントがあり、抗原エピトープによって分類されると血清型と呼ばれることもある。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は公知である。例えば、AAV-1の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_002077において提供されており、AAV-2の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_001401およびSrivastava et al., J. Virol., 45: 555-564 (1983)において提供されており、AAV-3の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_1829において提供されており、AAV-4の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_001829において提供されており、AAV-5ゲノムはGenBankアクセッション番号AF085716において提供されており、AAV-6の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_00 1862において提供されており、AAV-7およびAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれGenBankアクセッション番号AX753246およびAX753249において提供されており、AAV-9ゲノムはGao et al., J. Virol., 78: 6381-6388 (2004)において提供されており、AAV-10ゲノムはMol. Ther., 13(1): 67-76 (2006)において提供されており、ならびにAAV-11ゲノムはVirology, 330(2): 375-383 (2004)において提供されている。AAVrh.74ゲノムの配列は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第9,434,928号において提供されている。ウイルスDNA複製(rep)、キャプシド形成/パッケージングおよび宿主細胞染色体組込みを指令するシス作用配列は、AAV ITR内に含まれる。3つのAAVプロモーター(それらの相対的マップ位置についてp5、p19およびp40と命名)は、repおよびcap遺伝子をコードする2つのAAV内部読み取り枠の発現を駆動する。2つのrepプロモーター(p5およびp19)は、(ヌクレオチド番号2107および2227の位置での)単一AAVイントロンの差次的スプライシングと相まって、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52およびrep40)の産生をもたらす。Repタンパク質は、ウイルスゲノムの複製を最終的に担う複数の酵素特性を保有する。cap遺伝子はp40プロモーターから発現され、3つのキャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3をコードする。選択的スプライシングおよび非コンセンサス翻訳開始部位が、関連する3つのキャプシドタンパク質の産生を担っている。単一のコンセンサスポリアデニル化部位はAAVゲノムのマップ位置番号95に位置している。AAVのライフサイクルおよび遺伝学はMuzyczka, Current Topics in Microbiology and Immunology, 158: 97-129 (1992)に概説されている。
【0066】
AAVは、例えば遺伝子治療などで外来DNAを細胞に送達するためのベクターとして魅力的な独自の特徴を保有している。培養中の細胞のAAV感染は非細胞変性であり、ヒトおよび他の動物の自然感染は無症状および無症候性である。さらに、AAVは多くの哺乳動物細胞に感染し、インビボで多くの異なる組織を標的とする可能性を許容する。さらに、AAVはゆっくりと分裂する細胞と分裂しない細胞に形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外エレメント)として、これらの細胞の生存期間に本質的に存続することができる。AAVプロウイルスゲノムは、プラスミド内にクローン化DNAとして挿入され、これにより組み換えゲノムの構築が実現可能となる。さらに、AAV複製およびゲノムのキャプシド化を指令するシグナルは、AAVゲノムのITR内に含まれているため、ゲノムの内部約4.3 kbの一部または全部(複製および構造キャプシドタンパク質、rep-capをコードする)は、外来DNAで置換されてもよい。AAVベクターを作製するために、repタンパク質およびcapタンパク質をトランスで提供してもよい。AAVのもう一つの重要な特徴は、AAVが非常に安定した強力なウイルスであることである。アデノウイルスの不活化に使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を軽減する。AAVは凍結乾燥することもできる。最後に、AAV感染細胞は重複感染に耐性がない。
【0067】
本発明の実践において有用な遺伝子送達ウイルスベクターは、分子生物学の技術分野において周知の方法論を利用して構築されうる。典型的には、導入遺伝子を担持するウイルスベクターは、導入遺伝子、適切な調節因子、およびウイルスタンパク質の産生に必要なエレメントをコードするポリヌクレオチドから構築され、これは細胞形質導入を媒介する。そのような組み換えウイルスは、当技術分野において周知の技法により、例えば、パッケージング細胞をトランスフェクトすることにより、またはヘルパープラスミドもしくはウイルスによる一過性トランスフェクションにより作製されうる。ウイルスパッケージング細胞の典型的な例としては、HeLa細胞、SF9細胞(任意選択的にバキュロウイルスヘルパーベクターを有する)、293細胞などが挙げられるが、これらに限定されることはない。US2017/0218395A1に記述されるように、ヘルペスウイルス系システムを使用してAAVベクターを産生することができる。そのような複製欠損組み換えウイルスを産生するための詳細なプロトコルは、例えば、W095/14785、W096/22378、米国特許第5,882,877号、米国特許第6,013,516号、米国特許第4,861,719号、米国特許第5,278,056号およびW094/19478において見出すことができ、それらの各々の全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0068】
本発明の実践において有用なAAVベクターは、アデノウイルスベースおよびヘルパーフリーシステムを含むさまざまなシステムを用いて、AAVビリオン(ウイルス粒子)にパッケージングすることができる。AAV生物学における標準的な方法には、Kwon and Schaffer. Pharm Res. (2008) 25(3):489-99; Wu et al. Mol. Ther. (2006) 14(3):316-27. Burger et al. Mol. Ther. (2004) 10(2):302-17; Grimm et al. Curr Gene Ther. (2003) 3(4):281-304; Deyle DR, Russell DW. Curr Opin Mol Ther. (2009) 11(4):442-447; McCarty et al. Gene Ther. (2001) 8(16):1248-54; およびDuan et al. Mol Ther. (2001) 4(4):383-91に記述されているものが含まれる。ヘルパーフリーシステムには、米国特許第6,004,797号; 同第7,588,772号; および同第US 7,094,604号に記述されているものが含まれる;
【0069】
rAAVゲノム中のAAV DNAは、AAVバリアントまたは血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13およびAAVrh10を含むが、これらに限定されない、組み換えウイルスが誘導されうる任意のAAVバリアントまたは血清型由来であってよい。偽型rAAVの産生は、例えば、WO 01/83692に開示されている。他のタイプのrAAVバリアント、例えばキャプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al., Molecular Therapy, 22(11): 1900-1909 (2014)を参照されたい。さまざまなAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が当技術分野において公知である。
【0070】
いくつかの場合において、rAAVは自己相補性ゲノムを含む。本明細書において定義される場合、「自己相補性」または「二本鎖」ゲノムを含むrAAVは、McCarty et al. Self-complementary recombinant adeno-associated virus (scAAV) vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis. Gene Therapy. 8 (16): 1248-54 (2001)に記述されているように、rAAVのコード領域が分子内二本鎖DNA鋳型を構成するように操作されたrAAVをいう。本開示は、感染(形質導入のような)時に、rAAVゲノムの第2鎖の細胞媒介合成を待つのではなく、scAAVの2つの相補的な半分が会合して1つの二本鎖DNA(dsDNA)ユニットを形成し、即座に複製および転写の準備が整うので、いくつかの場合において、自己相補性ゲノムを含むrAAVの使用を企図する。rAAVに見られる完全なコーディング能力(4.7~6 kb)の代わりに、自己相補性ゲノムを含むrAAVは、その量の約半分(およそ2.4 kb)しか保持できないことが理解されよう。
【0071】
他の場合において、rAAVベクターは一本鎖ゲノムを含む。本明細書において定義される場合、「単一標準」ゲノムは、自己相補性ではないゲノムをいう。ほとんどの場合、非組み換えAAVは一本鎖DNAゲノムを有する。細胞の効率的な形質導入を達成するために、rAAVはscAAVであるべきという指摘もある。しかしながら、本開示は、標的細胞において最適な遺伝子転写を得るためには、rAAVベクターの他の遺伝子改変が有益でありうることを理解した上で、自己相補性ゲノムではなく、一本鎖ゲノムを有しうるrAAVベクターを企図する。いくつかの場合において、本開示は、マウス眼球の前部への効率的な遺伝子移入を達成することができる一本鎖rAAVベクターに関する。Wang et al. Single stranded adeno-associated virus achieves efficient gene transfer to anterior segment in the mouse eye. PLoS ONE 12(8): e0182473 (2017)を参照されたい。
【0072】
いくつかの場合において、rAAVベクターは、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVrh10またはAAVrh74のものである。偽型rAAVの産生は、例えば、WO 01/83692に開示されている。他のタイプのrAAVバリアント、例えばキャプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al., Molecular Therapy, 22(11): 1900-1909 (2014)を参照されたい。いくつかの場合において、rAAVベクターは血清型AAV9のものである。いくつかの態様において、rAAVベクターは血清型AAV9のものであり、一本鎖ゲノムを含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは血清型AAV9のものであり、自己相補性ゲノムを含む。いくつかの態様において、rAAVベクターはAAV2の逆位末端反復(ITR)配列を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは、rAAVベクターがAAV-2/9ベクター、AAV-2/6ベクターまたはAAV-2/8ベクターであるような、AAV2ゲノムを含む。
【0073】
ほとんどの既知AAVの完全長配列およびキャプシド遺伝子配列は、米国特許第8,524,446号に提供されており、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0074】
AAVベクターは野生型AAV配列を含んでもよく、または野生型AAV配列に対する1つもしくは複数の改変を含んでもよい。ある種の態様において、AAVベクターは、キャプシドタンパク質、例えば、VP1、VP2および/またはVP3内の1つまたは複数のアミノ酸改変、例えば、置換、欠失または挿入を含む。特定の態様において、改変は、AAVベクターが対象に提供される場合に免疫原性の低減を提供する。
【0075】
rAAVのキャプシドタンパク質は、rAAVが内皮細胞、より具体的には内皮先端細胞などの、関心対象の特定の標的組織を標的とするように改変されてもよい。いくつかの態様において、rAAVは対象の脳室内腔に直接注射される。
【0076】
いくつかの態様において、rAAVビリオンはAAV2 rAAVビリオンである。キャプシドはAAV2キャプシドまたはその機能的バリアントでありうる。いくつかの態様において、AAV2キャプシドは参照AAV2キャプシド、例えば、
と少なくとも98%、99%または100%の同一性を共有する。
【0077】
いくつかの態様において、rAAVビリオンはAAV9 rAAVビリオンである。キャプシドはAAV9キャプシドまたはその機能的バリアントでありうる。いくつかの態様において、AAV9キャプシドは参照AAV9キャプシド、例えば、
と少なくとも98%、99%または100%の同一性を共有する。
【0078】
いくつかの態様において、rAAVビリオンはAAV6 rAAVビリオンである。キャプシドはAAV9キャプシドまたはその機能的バリアントでありうる。いくつかの態様において、AAV6キャプシドは参照AAV6キャプシド、例えば、
と少なくとも98%、99%または100%の同一性を共有する。
【0079】
いくつかの態様において、rAAVビリオンはAAVrh.10 rAAVビリオンである。キャプシドはAAV9キャプシドまたはその機能的バリアントでありうる。いくつかの態様において、AAVrh.10キャプシドは参照AAVrh.10キャプシド、例えば、
と少なくとも98%、99%または100%の同一性を共有する。
【0080】
いくつかの態様において、キャプシドタンパク質は、トランスファープラスミドに、トランスでプラスミド上に供給されるポリヌクレオチドによってコードされる。野生型AAVrh.74 capのポリヌクレオチド配列は、以下の通りである。
【0081】
【0082】
本開示はさらに、それぞれ、SEQ ID NO: 74~76を含む、AAVrh.74 VP1、VP2およびVP3のタンパク質配列、ならびにそれらの相同体または機能的バリアントを提供する。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
ある種の場合において、AAVrh.74キャプシドは、SEQ ID NO: 74に記載されるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは、例えばSEQ ID NO: 74に記載されるAAVrh.74 VP1のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列を含む、または例えばSEQ ID NO: 74に記載されるAAVrh.74 VP1のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列から本質的になる、またはさらに、例えばSEQ ID NO: 74に記載されるAAVrh.74 VP1のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列からなる、ポリペプチドを含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは、例えばSEQ ID NO: 75に記載されるAAVrh.74 VP2のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列を含む、または例えばSEQ ID NO: 75に記載されるAAVrh.74 VP2のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列から本質的になる、またはさらに、例えばSEQ ID NO: 75に記載されるAAVrh.74 VP2のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列からなる、ポリペプチドを含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは、例えばSEQ ID NO: 76に記載されるAAVrh.74 VP3のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列を含む、または例えばSEQ ID NO: 76に記載されるAAVrh.74 VP3のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列から本質的になる、またはさらに、例えばSEQ ID NO: 76に記載されるAAVrh.74 VP3のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%もしくは89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一の、配列からなる、ポリペプチドを含む。
【0087】
いくつかの態様において、rAAVビリオンは、AAV-PHP.B rAAVビリオンまたはその中性栄養性(neutrotrophic)バリアント、例えば、非限定的に、国際特許公開番号WO 2015/038958 A1およびW 2017/100671 A1に開示されるものである。例えば、AAVキャプシドは、例えば、AAV9のアミノ酸番号588および589をコードする配列の間に挿入された、配列TLAVPFK(SEQ ID NO: 78)またはKFPVALT(SEQ ID NO: 79)からの少なくとも4つの連続するアミノ酸を含みうる。
【0088】
キャプシドはAAV-PHP.Bキャプシドまたはその機能的バリアントでありうる。いくつかの態様において、AAV-PHP.Bキャプシドは参照AAV-PHP.Bキャプシド、例えば、
と少なくとも98%、99%または100%の同一性を共有する。
【0089】
本開示のrAAVビリオンにおいて用いられるさらなるAAVキャプシドは、特許公開番号WO 2009/012176 A2およびWO 2015/168666 A2に開示されるものを含む。
【0090】
理論によって束縛されるわけではないが、本発明者らは、AAV9ベクター、AAVrh.74またはAAVrh.10ベクターが、ベクターに望ましい心臓向性を付与するものと判定した。理論によって束縛されるわけではないが、本発明者らは、AAV9ベクター、AAVrh.74またはAAVrh.10ベクターが心臓細胞に対して望ましい特異性を提供しうるものとさらに判定した。
【0091】
薬学的組成物およびキット
1つの局面において、本開示は、本開示のrAAVビリオンおよび1つまたは複数の薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。
【0092】
例えば注射による投与などの投与の目的のために、滅菌水溶液などのさまざまな溶液を利用することができる。そのような水溶液は、所望により、緩衝化することができ、液体希釈剤は生理食塩水またはグルコースで最初に等張にすることができる。遊離酸(DNAは酸性リン酸基を含む)または薬理学的に許容される塩としてのrAAVの溶液は、例えば0.001%または0.01%で、ポロキサマー188などの界面活性剤と適当に混合された水の中で調製することができる。rAAVの分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中で、ならびに油中で調製することもできる。貯蔵および使用の通常の条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための保存料を含有する。これに関連して、利用される滅菌水性媒体は全て、当業者に周知の標準技法により容易に入手可能である。
【0093】
注射可能な使用に適した薬学的形態は、滅菌水溶液または分散液および滅菌注射溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末を含むが、これらに限定されることはない。いずれの場合も、形態は無菌であり、容易に注射可能な程度に流動的でなければならない。製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適当な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒体であることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒子径の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合には、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の長期間の吸収は、吸収を遅延させる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0094】
滅菌注射液は、適切な溶媒に必要な量のrAAVを、必要に応じて、上に列挙したさまざまな他の成分とともに組み入れ、その後にろ過滅菌することによって調製されうる。一般に、分散液は、滅菌された活性成分を、基本的な分散媒体および上に列挙したものから必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み入れることによって調製される。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加えて任意のさらなる所望の成分の粉末を、予め滅菌ろ過されたその溶液からもたらす、真空乾燥および凍結乾燥技法である。
【0095】
別の局面において、本開示は、本開示のrAAVビリオンおよび使用説明書を含むキットを含む。
【0096】
使用の方法
1つの局面において、本開示は、本開示のrAAVと細胞を接触させる段階を含む、細胞において野生型TNNC1の発現および/または活性を増加させる方法を提供する。別の局面において、本開示は、本開示のrAAVを投与する段階を含む、対象において野生型TNNC1の発現および/または活性を増加させる方法を提供する。いくつかの態様において、細胞および/または対象は、TNNC1メッセンジャーRNAもしくはTNNC1タンパク質発現レベルおよび/もしくは活性が欠損しており、かつ/またはTNNC1の機能喪失変異を含む。ある種の態様において、細胞および/または対象は、TNNC1の機能獲得変異を有する。ある種の態様において、細胞および/または対象は、ヒト野生型TNNC1遺伝子と比べて、Y5H、A8V、L29Q、A31S、C84Y、E134D、D132N、D145E、I148V、G159D、G159R、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される変異を有する。細胞は心臓細胞、例えば心筋細胞であってもよい。
【0097】
いくつかの態様において、本方法は細胞培養および/またはインビボにおいて、心臓細胞、例えば心筋細胞細胞の生存を促進する。いくつかの態様において、本方法は心臓の機能を促進および/または回復させる。
【0098】
ある種の態様において、rAAVビリオンによる処置は、対象の心臓の心臓線維芽細胞(CF)において検出可能な少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上のTNNC1タンパク質レベルをもたらす。ある種の態様において、rAAVビリオンによる処置は、対象の心臓の心筋細胞において検出可能な少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上のTNNC1タンパク質レベルをもたらす。ある種の態様において、rAAVビリオンによる処置は、対象の心臓の平滑筋細胞(SMC)において検出可能な少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上のTNNC1タンパク質レベルをもたらす。ある種の態様において、rAAVビリオンによる処置は、対象の心臓の内皮細胞(EC)において検出可能な少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上のTNNC1タンパク質レベルをもたらす。ある種の態様において、rAAVビリオンによる処置は、対象の心臓の心外膜において検出可能な少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上のTNNC1タンパク質レベルをもたらす。ある種の態様において、rAAVビリオンによる処置は、対象の心臓の心筋において検出可能な少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上のTNNC1タンパク質レベルをもたらす。ある種の態様において、rAAVビリオンによる処置は、対象の心臓の心内膜において検出可能な少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上のTNNC1タンパク質レベルをもたらす。
【0099】
処置の方法
別の局面において、本開示は、その必要がある対象において疾患または障害を処置する方法であって、本開示のrAAVビリオンの有効量を対象に投与する段階を含む方法を提供する。いくつかの態様において、疾患または障害は心臓疾患または障害である。例示的な心臓障害としては、心不全、TNNC1 DCM、TNNC1 HCM、不整脈源性右室心筋症(ARVC)、ブルガダ症候群(BrS)および特発性心室細動、左室緻密化障害型心筋症、または拘束型心筋症、肥大型心筋症が挙げられる。好ましい態様において、対象はTNNC1関連心筋症(例えば、TNNC1 DCMまたはTNNC1 HCM)に罹患しているか、またはそのリスクがある。
【0100】
AAVを介したTNNC1タンパク質の心臓への送達は、寿命を延ばし、心臓細胞の変性、心不全、瘢痕化または線維化、駆出率の低減、不整脈、運動不耐性、狭心症(胸痛)、呼吸困難(息切れ)、浮腫、左室肥大、左室緻密化障害、心室拡張、失神、心臓突然死、労作性筋痛および痙攣を予防または減弱しうる。AAVを介したTNNC1タンパク質の心臓への送達は、病理学的心電図、心エコー検査、心臓CT、心臓MRI、心臓生検の使用、発作性心室性不整脈の減少、心臓突然死の減少、ならびに/または心筋における線維症および/もしくは筋原線維錯綜配列の減少および/もしくはさらなる進行の欠如によって検出される通常の疾患経過からの改善を示し、あるいは病理学的心電図、心エコー検査、心臓CT、心臓MRI、心臓生検の使用、発作性心室性不整脈の減少、心臓突然死の減少、ならびに/または心筋における線維症および/もしくは筋原線維錯綜配列の減少および/もしくはさらなる進行の欠如によって検出される通常の疾患経過を予防しうる。本開示の方法は、左室駆出率(LVEF)およびまたは駆出率、短縮率(percent factional shortening)、左室収縮末期径(LVESD)、ならびに左室拡張末期径(LVEDD)、左室流出路速度時間積分値(LVOT VTI)の低下、回復および/または増加を抑止しうる。
【0101】
ある種の態様において、本開示の方法は、対象における野生型TNNC1タンパク質発現の増加(例えば、約5%~約10%、約10%~約20%、約20%~約30%、約30%~約40%、約40%~約50%、約50%~約70%または約70%~約100%の増加)をもたらす。ある種の態様において、本開示の方法は、対象における変異型TNNC1タンパク質に対する野生型TNNC1タンパク質の比率の増加(例えば、約5%~約25%、約25%~約50%、約50%~約100%または約100%~約200%の増加)をもたらす。
【0102】
本明細書において開示される方法は、心臓における効率的な生体内分布を提供しうる。それらは、心臓細胞、例えば心筋細胞の全て、またはかなりの部分において発現の持続をもたらしうる。注目すべきことに、本明細書において開示される方法は、AAVベクター投与後に対象の生涯を通じてTNNC1タンパク質の長期にわたる発現を提供しうる。
【0103】
併用療法も本発明によって企図される。本発明の方法と標準的な医学的処置(例えば、コルチコステロイドまたは局所的減圧薬)との組み合わせは、新規治療との組み合わせと同様に、特に企図される。いくつかの場合において、本明細書において記述されるrAAVの投与に対する免疫応答を抑止または軽減するために、対象はステロイドおよび/または免疫抑制剤の組み合わせで処置されうる。
【0104】
いくつかの態様において、AAVベクターは、対象の総体重1キログラムあたりAAVベクター(vg)約1×1012~5×1014ベクターゲノム(vg)の用量(vg/kg)で投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1013~5×1014 vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約5×1013~3×1014 vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約5×1013~1×1014 vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1012 vg/kg未満、約3×1012 vg/kg未満、約5×1012 vg/kg未満、約7×1012 vg/kg未満、約1×1013 vg/kg未満、約3×1013 vg/kg未満、約5×1013 vg/kg未満、約7×1013 vg/kg未満、約1×1014 vg/kg未満、約3×1014 vg/kg未満、約5×1014 vg/kg未満、約7×1014 vg/kg未満、約1×1015 vg/kg未満、約3×1015 vg/kg未満、約5×1015 vg/kg未満または約7×1015 vg/kg未満の用量で投与される。
【0105】
いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1012 vg/kg、約3×1012 vg/kg、約5×1012 vg/kg、約7×1012 vg/kg、約1×1013 vg/kg、約3×1013 vg/kg、約5×1013 vg/kg、約7×1013 vg/kg、約1×1014 vg/kg、約3×1014 vg/kg、約5×1014 vg/kg、約7×1014 vg/kg、約1×1015 vg/kg、約3×1015 vg/kg、約5×1015 vg/kgまたは約7×1015 vg/kgの用量で投与される。
【0106】
いくつかの態様において、AAVベクターは1×1012 vg/kg、3×1012 vg/kg、5×1012 vg/kg、7×1012 vg/kg、1×1013 vg/kg、3×1013 vg/kg、5×1013 vg/kg、7×1013 vg/kg、1×1014 vg/kg、3×1014 vg/kg、5×1014 vg/kg、7×1014 vg/kg、1×1015 vg/kg、3×1015 vg/kg、5×1015 vg/kgまたは7×1015 vg/kgの用量で投与される。
【0107】
いくつかの態様において、AAVベクターは、対象の総体重1キログラムあたりAAVベクター(vg)約1×1012~5×1014ベクターゲノム(vg)の用量(vg/kg)で全身投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1013~5×1014 vg/kgの用量で全身投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約5×1013~3×1014 vg/kgの用量で全身投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約5×1013~1×1014 vg/kgの用量で全身投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1012 vg/kg未満、約3×1012 vg/kg未満、約5×1012 vg/kg未満、約7×1012 vg/kg未満、約1×1013 vg/kg未満、約3×1013 vg/kg未満、約5×1013 vg/kg未満、約7×1013 vg/kg未満、約1×1014 vg/kg未満、約3×1014 vg/kg未満、約5×1014 vg/kg未満、約7×1014 vg/kg未満、約1×1015 vg/kg未満、約3×1015 vg/kg未満、約5×1015 vg/kg未満または約7×1015 vg/kg未満の用量で全身投与される。
【0108】
いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1012 vg/kg、約3×1012 vg/kg、約5×1012 vg/kg、約7×1012 vg/kg、約1×1013 vg/kg、約3×1013 vg/kg、約5×1013 vg/kg、約7×1013 vg/kg、約1×1014 vg/kg、約3×1014 vg/kg、約5×1014 vg/kg、約7×1014 vg/kg、約1×1015 vg/kg、約3×1015 vg/kg、約5×1015 vg/kgまたは約7×1015 vg/kgの用量で全身投与される。
【0109】
いくつかの態様において、AAVベクターは1×1012 vg/kg、3×1012 vg/kg、5×1012 vg/kg、7×1012 vg/kg、1×1013 vg/kg、3×1013 vg/kg、5×1013 vg/kg、7×1013 vg/kg、1×1014 vg/kg、3×1014 vg/kg、5×1014 vg/kg、7×1014 vg/kg、1×1015 vg/kg、3×1015 vg/kg、5×1015 vg/kgまたは7×1015 vg/kgの用量で全身投与される。
【0110】
いくつかの態様において、AAVベクターは、対象の総体重1キログラムあたりAAVベクター(vg)約1×1012~5×1014ベクターゲノム(vg)の用量(vg/kg)で静脈内投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1013~5×1014 vg/kgの用量で静脈内投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約5×1013~3×1014 vg/kgの用量で静脈内投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約5×1013~1×1014 vg/kgの用量で静脈内投与される。いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1012 vg/kg未満、約3×1012 vg/kg未満、約5×1012 vg/kg未満、約7×1012 vg/kg未満、約1×1013 vg/kg未満、約3×1013 vg/kg未満、約5×1013 vg/kg未満、約7×1013 vg/kg未満、約1×1014 vg/kg未満、約3×1014 vg/kg未満、約5×1014 vg/kg未満、約7×1014 vg/kg未満、約1×1015 vg/kg未満、約3×1015 vg/kg未満、約5×1015 vg/kg未満または約7×1015 vg/kg未満の用量で静脈内投与される。
【0111】
いくつかの態様において、AAVベクターは約1×1012 vg/kg、約3×1012 vg/kg、約5×1012 vg/kg、約7×1012 vg/kg、約1×1013 vg/kg、約3×1013 vg/kg、約5×1013 vg/kg、約7×1013 vg/kg、約1×1014 vg/kg、約3×1014 vg/kg、約5×1014 vg/kg、約7×1014 vg/kg、約1×1015 vg/kg、約3×1015 vg/kg、約5×1015 vg/kgまたは約7×1015 vg/kgの用量で静脈内投与される。
【0112】
いくつかの態様において、AAVベクターは1×1012 vg/kg、3×1012 vg/kg、5×1012 vg/kg、7×1012 vg/kg、1×1013 vg/kg、3×1013 vg/kg、5×1013 vg/kg、7×1013 vg/kg、1×1014 vg/kg、3×1014 vg/kg、5×1014 vg/kg、7×1014 vg/kg、1×1015 vg/kg、3×1015 vg/kg、5×1015 vg/kgまたは7×1015 vg/kgの用量で静脈内投与される。
【0113】
患者における機能的改善、臨床的利点または有効性の証拠は、ニューヨーク心臓協会の機能分類(NYHAクラス)の変化、病理学的心電図、心エコー図、心臓CT、心臓MRI、心臓生検、発作性心室性不整脈の減少、心臓突然死の減少、および/または心筋の線維化のさらなる発達の減少もしくは欠如によって明らかにされうる。通常、拡張型心筋症、肥大型心筋症、左室緻密化障害型心筋症、または拘束型心筋症に関連する心電図上の特徴において効果が観察されうる。
【0114】
組成物の投与
組成物の有効用量の投与は、全身投与、局所投与、直接注射、静脈内投与、心臓内投与を含むが、これらに限定されない、当技術分野において標準的な経路によって行われうる。いくつかの場合において、投与は全身注射、局所注射、直接注射、静脈内注射、心臓内注射を含む。投与は心臓カテーテル法によって実施されうる。
【0115】
いくつかの態様において、本開示は、rAAVおよび本発明の組成物の有効用量の局所投与および全身投与を提供する。例えば、全身投与は、全身が影響を受けるように循環系への投与でありうる。全身投与は注射、注入または移植による非経口投与を含む。本明細書において開示される組成物の投与経路は、静脈内(「IV」)投与、腹腔内(「IP」)投与、筋肉内(「IM」)投与、病巣内投与もしくは皮下(「SC」)投与、または徐放装置、例えば、ミニ浸透圧ポンプ、デポ製剤などの移植を含む。いくつかの態様において、本開示の方法は、本開示のAAVベクターまたはその薬学的組成物を、静脈内、筋肉内、動脈内、腎臓内、尿道内、心臓内、冠動脈内、心筋内、皮内、硬膜外、皮下、腹腔内、脳室内、イオン泳動または頭蓋内投与によって投与することを含む。
【0116】
特に、本発明のrAAVの投与は、rAAV組み換えベクターを動物の標的組織に輸送する任意の物理的方法を用いることにより達成されうる。投与は、心臓への注射を含むが、これに限定されることはない。
【0117】
いくつかの態様において、本開示の方法は心臓内送達を含む。注入は、注入ポンプを使い特殊なカニューレ、カテーテル、注射器/針を用いて実施されうる。投与は心臓への、有効量のrAAVビリオン、またはrAAVビリオンを含む薬学的組成物の送達を含みうる。これらは、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、腎臓内、尿道内、心臓内、冠動脈内、心筋内、皮内、硬膜外、皮下、腹腔内、脳室内、イオン泳動または頭蓋内投与によって達成されうる。本開示の組成物はさらに、静脈内投与されうる。
【0118】
本明細書において開示される処置方法は、心室肥大、失神、胸痛、左室流出路閉塞、左室拡張、駆出率の低減、収縮不全、NYHAクラスIII~IV心不全、心室頻拍、運動不耐性、狭心症を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の症状を軽減および/または予防しうる。
【0119】
rAAV投与の効果
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、対象にとって有益な効果を有しうる。例えば、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、対象の生存性を増加させうる。
【0120】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、生存性を少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%または少なくとも約500%増加させる。
【0121】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、生存性を1%~90%、20%~80%、30%~80%、40%~80%、50%~80%、1%~2%、2%~3%、3%~4%、4%~5%、5%~6%、6%~7%、7%~8%、8%~9%、9%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~35%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、95%~100%、100%~200%、200%~300%、300%~400%または400%~500%増加させる。
【0122】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、対象における駆出率の低下を抑止する。いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、駆出率の低下を少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約100%抑止する。
【0123】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、駆出率の低下を1%~90%、20%~80%、30%~80%、40%~80%、50%~80%、1%~2%、2%~3%、3%~4%、4%~5%、5%~6%、6%~7%、7%~8%、8%~9%、9%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~35%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%または95%~100%抑止する。
【0124】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、対象における左室駆出率(LVEF)の低下を抑止する、左室駆出率(LVEF)を回復する、および/または左室駆出率(LVEF)を増加させる。いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、駆出率の低下を少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約100%抑止する。
【0125】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、1%~90%、20%~80%、30%~80%、40%~80%、50%~80%、1%~2%、2%~3%、3%~4%、4%~5%、5%~6%、6%~7%、7%~8%、8%~9%、9%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~35%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%または95%~100%、左室駆出率(LVEF)の低下を抑止する、左室駆出率(LVEF)を回復する、および/または左室駆出率(LVEF)を増加させる。
【0126】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、対象における左室収縮末期径(LVESD)の低下、回復および/または増加を抑止する。いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%または少なくとも約500%、対象における拡張末期径(EDD)の増加を抑止する。
【0127】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、1%~90%、20%~80%、30%~80%、40%~80%、50%~80%、1%~2%、2%~3%、3%~4%、4%~5%、5%~6%、6%~7%、7%~8%、8%~9%、9%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~35%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、95%~100%、100%~200%、200%~300%、300%~400%または400%~500%、対象における左室収縮末期径(LVESD)の低下、回復および/または増加を抑止する。
【0128】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、対象における左室拡張末期径(LVEDD)の低下、回復および/または増加を抑止する。いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%または少なくとも約500%、対象におけるLVPWの増加を抑止する。
【0129】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、1%~90%、20%~80%、30%~80%、40%~80%、50%~80%、1%~2%、2%~3%、3%~4%、4%~5%、5%~6%、6%~7%、7%~8%、8%~9%、9%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~35%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、95%~100%、100%~200%、200%~300%、300%~400%または400%~500%、対象における左室拡張末期径(LVEDD)の低下、回復および/または増加を抑止する。
【0130】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、対象における左室流出路速度時間積分値(LVOT VTI)の低下、回復および/または増加を抑止する。いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%または少なくとも約500%、対象におけるLVPWの増加を抑止する。
【0131】
いくつかの態様において、本開示のrAAVの投与は、本開示のrAAVを投与されていない対象と比較して、1%~90%、20%~80%、30%~80%、40%~80%、50%~80%、1%~2%、2%~3%、3%~4%、4%~5%、5%~6%、6%~7%、7%~8%、8%~9%、9%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~35%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、95%~100%、100%~200%、200%~300%、300%~400%または400%~500%、対象における左室流出路速度時間積分値(LVOT VTI)の低下、回復および/または増加を抑止する。
【実施例】
【0132】
実施例1: 前臨床生物活性および有効性
図1~6に例示されるベクターを試験する。AAVベクターまたは各発現カセットを、培養心筋細胞(例えば、患者由来の人工多能性幹細胞心筋細胞(iPSC-CM)もしくは動物モデルから採取した初代心筋細胞)またはこれらのコンストラクトによるトランスフェクションもしくは形質導入に適している他の細胞を用いインビトロで試験する。TNNC1の発現をELISA法、免疫蛍光法、免疫組織化学法およびウエスタンブロット法により評価する。ベクターDNAをPCRによって検出し、TNNC1導入遺伝子mRNAをqRT-PCRによって検出する。変異心筋細胞を利用した細胞ベースの研究により、TNNC1導入遺伝子の過剰発現(AAVベクターによる形質導入および/またはベクタープラスミドによるトランスフェクション後のいずれか)の利点が、Ca
2+結合感受性/解離速度の正常化とその結果として生じる刺激下での収縮特性の正常化によって明らかにされる。
【0133】
選択されたベクターを、心筋症の変異マウスモデルを用いてインビボで試験する。D73N+/-ノックインマウスモデルは重篤なDCM表現型を示す。このマウスモデルはヒト疾患の1つまたは複数のDCMエレメントを示す。D73N+/-ノックインマウス(例えば、McConnell et al. Front. Physiol. 2015; 6:242に記述されている)は心筋トロポニンC(cTnC)の調節Nドメインに変異を有し、これがCa2+解離速度を増加させ、Ca2+感受性を低減させる。この表現型の機構は、第2のCa2+結合ループのX位における酸性Asp(D)の中性Asn(N)による置換によって引き起こされる。D73N+/-ノックインマウスは、4週の時点で始まってDCM表現型を再現し、左心室(LV)のサイズが増大し、壁が薄くなり、線維化が12週の時点で観察される。さらに観察されるDCM表現型には、4週の時点でおよそ28%に低減される左室駆出率(LVEF)、短縮率(FS)の低減、LV収縮機能の障害、ならびにQRSおよびQT間隔の延長が含まれる。このマウスモデルは6週までに生存性の低減を示し、生存期間の中央値がおよそ12週間、19週までの死亡率が100%になる。
【0134】
例示的な実験デザインを表7に示す。
【0135】
【0136】
誘導性I61Q+/-ノックインマウスモデルは中等度のDCM表現型を示す。このマウスモデルはヒト疾患の1つまたは複数のDCMエレメントを示す。I61Q+/-ノックインマウス(例えば、Davis et al., Cell, 2016; 165(5):1147-1159に記述されている)は、ドキシサイクリン誘導性のcTnC心臓単一アミノ酸バリアントを有する。I61Q+/-ノックインマウスは、心機能の低減、遠心性肥大およびLV拡張を引き起こすCa2+結合および張力の低減、拡張期LV腔径の増大、隔壁厚の減少、心臓質量の増大、筋細胞長対幅比の増大、ならびにおよそ6週時に観察される心不全を含むDCM表現型を再現する。このマウスモデルはおよそ3ヵ月の時点で50%の生存率、4ヵ月の時点で25~30%の生存率、および8ヵ月までに100%の死亡率を示す。
【0137】
AAVを介したTNNC1発現の利点は、生存性の増大、体重減少の緩和、左心室および/もしくは右心室の心エコー図(例えばLVESD、LVEDD)で観察される心筋症(例えば、TNNC1 DCMもしくはTNNC1 HCM)の通常進行の緩和、右心室および/もしくは左心室のサイズ拡大の緩和、ならびに/または左室駆出率および/もしくは短縮率の典型的な減少の緩和によりマウスモデルにおいて証明される。AAVを介したTNNC1タンパク質送達の機能的利点の電気生理学的証拠は、病的心筋細胞での疾患に関連したカルシウム動態の乱れの緩和によって、最も顕著には、L型カルシウム電流、筋小胞体カルシウム漏出、拡張期カルシウム漏出の測定結果、ならびにピーク振幅までの時間および緩和時間定数などの病的(例えば、TNNC1欠損)心筋細胞におけるカルシウム移行の標準的な測定結果で実証される。例えば、心筋細胞の力発生における異常なCa2+感受性は、健常対照において観察されるものに近くなりうる。
【0138】
組織学的分析から、疾患に関連した筋線維の乱れおよび/または線維化、肥大、アポトーシス細胞の出現の減少、DNA損傷のγH2AXマーカーの低減、ならびに心房の大きさや心臓の絶対サイズの疾患関連変化の低減によって利点が明らかになる。さらに、AAV-TNNC1非処置の疾患対照と比較して心筋のβ-ミオシン重鎖レベル、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、およびMYH7レベルの減少または正常化によっても利点が明らかにされうる。また、心臓病理組織学的分析によっても利点が明らかにされうる。
【0139】
実施例2: 前臨床導入遺伝子発現
図7および
図8に例示される発現カセットを試験した。AAVベクターまたは各プラスミド発現カセットを、培養CHO-Lec2(この細胞をAAV9形質導入に対してさらに感受性にする、その糖タンパク質およびガングリオシド中のシアル酸の70~90%の欠損を有する変異細胞)を用いてインビトロで試験した。形質導入されたCHO-Lec2細胞におけるヒト心筋トロポニンC導入遺伝子タンパク質(TnC)のその後の発現をウエスタンブロットにより評価した(
図9)。
【0140】
ベクターをまた、心筋症の変異マウスモデルを用いてインビボで試験した。D73N+/-ノックインマウスモデルは重度の拡張型心筋症(DCM)表現型を示す。このマウスモデルはヒト疾患の1つまたは複数のDCMエレメントを示す。D73N+/-ノックインマウス(例えば、McConnell et al. Front. Physiol. 2015; 6:242に記述されている)は、TNNC1の調節Nドメインに変異を有し、これがCa2+解離速度を増加させ、Ca2+感受性を低減させる。この表現型の機構は、第2のCa2+結合ループのX位における酸性Asp(D)の中性Asn(N)による置換によって引き起こされる。D73N+/-ノックインマウスは、4週齢の時点で始まってDCM表現型を再現し、左心室(LV)のサイズが増大し、心室壁が薄くなり、その後12週齢の時点で線維化が観察される。このマウスモデルにおいて観察されるDCM表現型の追加のマーカーには、4週の時点でおよそ28%までに低減される左室駆出率(LVEF)、短縮率(FS)の低減、LV収縮機能の障害、ならびにQRSおよびQT間隔の延長が含まれる。このマウスモデルはまた、生存性の低減を示し、これは早ければ生後6週に現れる可能性があり、生存期間の中央値はおよそ12週、100%の死亡率は21~22週(動物を扱う頻度によって引き起こされるストレスのレベルによって実験的に影響される可能性のあるバラツキがある)までにとなる。
【0141】
実験デザインを表8に示す。
【0142】
【表8】
FB = 製剤緩衝液; WT = 野生型; CON = 対照
【0143】
AAVを介したヒトTnCタンパク質発現の利点は、生存性の増加によって証明された。AAVを注射した全ての動物は、FBを注射したD73N
+/-対照よりもかなり長生きした(
図10Aおよび
図10B)。心エコー検査により、FBを注射したD73N
+/-対照と比較してAAVを注射した全ての雄群における拡張末期径(EDd)の低減(
図11A)、ならびにFBを注射したD73N
+/-対照と比較してAAV9-MHCK7-TNNC1およびAAVrh.74-MHCK7-TNNC1で処置した雄群における収縮末期径(ESd)の低減(
図12A)によって証明された、心機能に及ぼすAAVを介したヒトTnC過剰発現の有意な利点が明らかにされた。拡張型心筋症の通常進行の緩和は、FBを注射したD73N
+/-対照と比べてAAV9-MHCK7-TNNC1を注射した動物における有意に高い駆出率(
図13A)および高い短縮率(
図14A)によっても明らかにされた。予想通り、心臓重量または心拍数の大きな変化は観察されなかった。
【0144】
上記の米国特許、米国特許出願公開公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、ならびに本明細書において言及されおよび/または出願データシートに記載されている非特許公報は全て、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0145】
前述から、本発明の特定の態様を例示の目的で本明細書において記述したが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更が加えられうることが理解されるであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲による以外は限定されない。
【配列表】
【国際調査報告】