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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-09
(54)【発明の名称】全視程眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538269
(86)(22)【出願日】2023-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 CN2023132377
(87)【国際公開番号】W WO2024109658
(87)【国際公開日】2024-05-30
(31)【優先権主張番号】202211470181.5
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524235728
【氏名又は名称】無錫蕾明視康科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100221512
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 誠司
(72)【発明者】
【氏名】李 莎莎
(72)【発明者】
【氏名】廖 秀高
(72)【発明者】
【氏名】馮 振宇
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA25
4C097BB01
4C097CC01
4C097SA02
4C097SA05
(57)【要約】
本発明は、光学部と、第1支持部と、第2支持部とを含む全視程眼内レンズを開示し、前記光学部、及び第1支持部、第2支持部は、同じ素材で一体成形される一体式の構造であり、前記光学部は第1支持部と第2支持部との間に位置し、前記光学部は2つの光学面からなり、前記光学面は球面又は非球面であり、一方の光学面は入射光の光場分布を変調するための回折構造を有する。本発明は、回折構造により光学部の入射光の光場分布を調整し、光学面全体における鋭利な箇所を減らし、効果的にグレアを低減させ、色収差を軽減し、焦点間の全視程においてよりはっきりと見られるようにし、患者により良い視覚的体験をもたらす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部(1)を含む全視程眼内レンズであって、
前記光学部(1)は2つの光学面からなり、前記光学面は球面又は非球面であり、一方の光学面は入射光の光場分布を変調するための回折構造を有し、
前記光学部(1)の上光学面の決定方法は以下のとおりであって、
光学面の頂点を原点O、光軸をZ軸として、任意の空間上の直交座標系を確立し、前記座標系のX軸及びY軸が前記光学面に相接し、前記光学面の面形状はYZ平面において以下の方程式を満たし、
式中、Z(y)は2次元座標系のYZ平面における光学面の曲線表現式であり、cは前記光学面の基本球面の曲率半径の逆数であり、yはZ軸に対する前記曲線上のいずれかの点の垂直距離であり、A2iは光学面の高次項の係数であり、m、nはいずれも1以上の整数で且つn>mであり、Kは光学面係数であり、K及びA2iが0であるとき、Z(y)は球面の方程式になり、
回折構造により入射光の光場分布を変調する方法は以下のとおりであって、
回折構造は回折環帯構造及び離散回折位相点を含み、まず、回折環帯構造を利用して固定焦点を決定し、つまり、回折環帯構造を備える単焦点回折素子に対して、回折位相関数Φでその位相を示し、
Φ(x,y)=ρ+ρ(2)
式中、x、yはそれぞれ縦座標、横座標を表し、単位はミリメートル(mm)であり、ρ、ρは回折位相の各項の係数であり、回折位相関数を周期2πで圧縮した後、回折環帯構造の位相関数T(Φ)を得て、
T(Φ)=Φ-int(Φ/2π)×2π(3)
式中、int()は整数に丸める関数を表し、
次に、サブ波長領域の離散回折位相点を導入し、フェルマーの原理によれば、光の伝播経路は光路長が極値をとる経路であり、この極値は最大値、最小値であるか、又は関数の変曲点であり、式で示すと以下のとおりであって、
【請求項2】
前記光学部(1)が、有効光学部径が5.5~6.5mmで、中心厚が0.4~1.25mmである両凸/凹凸レンズであることを特徴とする請求項1に記載の全視程眼内レンズ。
【請求項3】
前記光学部(1)の二次的焦点が2つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の全視程眼内レンズ。
【請求項4】
眼内レンズが、第1支持部(2)及び第2支持部(3)をさらに含み、前記光学部(1)は、第1支持部(2)と第2支持部(3)との間に位置することを特徴とする請求項1に記載の全視程眼内レンズ。
【請求項5】
前記光学部(1)、及び第1支持部(2)、第2支持部(3)は、同じ素材で一体成形される一体式の構造であることを特徴とする請求項4に記載の全視程眼内レンズ。
【請求項6】
前記第1支持部(2)、第2支持部(3)の厚さは、いずれも0.15~0.35mmであることを特徴とする請求項4に記載の全視程眼内レンズ。
【請求項7】
前記第1支持部(2)、第2支持部(3)の表面にいずれも斜め鋸歯状の凹部又は表面粗化突起が設けられることを特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載の全視程眼内レンズ。
【請求項8】
前記斜め鋸歯状の凹部又は表面粗化突起の幅は、0.2~1.0mmであることを特徴とする請求項7に記載の全視程眼内レンズ。
【請求項9】
前記斜め鋸歯状の凹部又は表面粗化突起の高さは、40μmより大きいことを特徴とする請求項8に記載の全視程眼内レンズ。
【請求項10】
第1支持部(2)、第2支持部(3)の位置する平面に対して前記斜め鋸歯の斜め縁部のなす角αは、-20°~+20°であることを特徴とする請求項9に記載の全視程眼内レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置の技術分野に関し、特に、全視程眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼内レンズ(IOL)とは、人工合成素材から作製された1種の光学装置で、病理的変化のある混濁した水晶体を入れ替え、術後に白内障患者に視力を回復するための1種の通常の医療機器として定着している。多焦点眼内レンズは眼内レンズの1種で、多焦点眼内レンズ(IOL)は2つ又はそれ以上の焦点を提供できるため(例えば、3焦点IOLは遠方視力、中間視力、近方視力を提供する)、白内障手術で患者の眼に移植して病理的変化のある水晶体を置き換えるために一般的に利用されている。多焦点IOLは回折型及び屈折型の2種類に大別され、そのうち、回折型多焦点IOLの表面は、光を複数の方向に回折させて、複数の焦点を形成する複数の同心環状の小さい階段格子を含み、屈折型多焦点IOLの表面は、同心環状で異なる曲率を有する複数の球面若しくは非球面を含んでもよいし、扇形で異なる曲率を有する複数の球面若しくは非球面を含んでもよいし、又は両者の組み合わせでもよい。しかし、従来の多焦点IOLには依然として視程の不連続性の問題があり、複数の焦点の間に明らかな視力低下ひいては中断点が発生してしまう。視力低下又は中断点が視程の不連続性を引き起こし、さらには患者の移動物体に対する識別能力は低下する。
【0003】
そこで、全視程眼内レンズを設計して、患者に連続した視力を提供し、患者の動体視力を向上させることが、現在当業者が解決すべき技術的課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、回折型多焦点眼内レンズの視程の不連続性の問題を解決し、光エネルギーの利用率を向上させ、光学面全体における鋭利な箇所を減らし、効果的にグレアを低減させ、色収差を軽減し、焦点間の全視程においてよりはっきりと見られるようにし、患者により良い視覚的体験をもたらすために、全視程眼内レンズを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の効果を実現するための本発明の技術的解決手段は以下のとおりである。
光学部を含む全視程眼内レンズであって、前記光学部は2つの光学面からなり、前記光学面は球面又は非球面であり、一方の光学面は入射光の光場分布を変調するための回折構造を有し、
前記光学部の上光学面の決定方法は次のとおりであって、
光学面の頂点を原点O、光軸をZ軸として、任意の空間上の直交座標系を確立し、前記座標系のX軸及びY軸が前記光学面に相接し、前記光学面の面形状はYZ平面において以下の方程式を満たし、
式中、Z(y)は2次元座標系のYZ平面における光学面の曲線表現式であり、cは前記光学面の基本球面の曲率半径の逆数であり、yはZ軸に対する前記曲線上のいずれかの点の垂直距離であり、A2iは光学面の高次項の係数であり、m、nはいずれも1以上の整数で且つn>mであり、Kは光学面係数であり、K及びA2iが0であるとき、Z(y)は球面の方程式になり、
回折構造により入射光の光場分布を変調する方法は以下のとおりであって、
回折構造は回折環帯構造及び離散回折位相点を含み、まず、回折環帯構造を利用して固定焦点を決定し、つまり、回折環帯構造を備える単焦点回折素子に対して、回折位相関数Φでその位相を示し、
Φ(x,y)=ρ+ρ(2)
式中、x、yはそれぞれ縦座標、横座標を表し、単位はミリメートル(mm)であり、ρ、ρは回折位相の各項の係数であり、回折位相関数を周期2πで圧縮した後、回折環帯構造の位相関数T(Φ)を得て、
T(Φ)=Φ-int(Φ/2π)×2π(3)
式中、int()は整数に丸める関数を表し、
次に、サブ波長領域の離散回折位相点を導入し、フェルマーの原理によれば、光の伝播経路は光路長が極値をとる経路であり、この極値は最大値、最小値であるか、又は関数の変曲点であり、式で示すと以下のとおりであって、
【0006】
上記の実施形態では、サブ波長領域の離散回折位相点を導入して、入射光の光場分布を変調することにより、光路長を変えており、さらに一定の範囲内の焦点位置を変え、焦点深度範囲を拡張している。同じ回折構造領域に異なるサブ波長領域の離散回折位相点を複数導入すれば、単焦点回折素子を1つの焦点だけに集束するものから、連続した明瞭な結像ができる焦点深度範囲に拡張することができ、2つ又はそれ以上の焦点を連続させて、患者に連続した視力を提供し、点視力から連続した視力への飛躍を実現し、患者の動体視力を向上させるとともに、光エネルギーの利用率を向上させる。
【0007】
さらに、前記光学部は、有効光学部径が5.5~6.5mmで、中心厚が0.4~1.25mmである両凸/凹凸レンズである。
【0008】
さらに、前記光学部の二次的焦点は2つ以上であり、二次的焦点屈折力の範囲は+1.5D~+5Dであり、全視程の範囲は+1.5D~+5Dである。
【0009】
前記光学部は3焦点眼内レンズであってもよい。
【0010】
さらに、眼内レンズは第1支持部及び第2支持部をさらに含み、前記光学部は第1支持部と第2支持部との間に位置する。
【0011】
さらに、前記光学部、及び第1支持部、第2支持部は、同じ素材で一体成形される一体式の構造である。
【0012】
さらに、前記第1支持部、第2支持部の厚さはいずれも0.15~0.35mmである。
【0013】
さらに、前記第1支持部、第2支持部の表面にいずれも斜め鋸歯状の凹部又は表面粗化突起が設けられる。
【0014】
さらに、前記斜め鋸歯状の凹部又は表面粗化突起の幅は、0.2~1.0mmである。
【0015】
さらに、前記斜め鋸歯状の凹部又は表面粗化突起の高さは、40μmより大きい。
【0016】
さらに、第1支持部、第2支持部の位置する平面に対して前記斜め鋸歯の斜め縁部のなす角αは、-20°~+20°である。
【0017】
全視程眼内レンズの製造は、以下の設計ステップを含む。
(1)光学設計であって、眼内レンズを同心環のようにm+nの領域に分割し、ここで、mは固定焦点領域(回折環帯構造の位置する領域)の数であり、m+1は焦点数であり、nは連続領域(離散回折位相点の位置する領域)の数である(例えば、3焦点眼内レンズを設計する場合、その2つの焦点を連続させると、当該眼内レンズが3-1+1=3つの領域に分割される)。そのうち、連続領域は全視程の効果を備え、固定焦点領域の面積は回折構造全体の面積の50%~70%を占め、連続領域の面積は回折構造全体の面積の30%~50%を占める。
【0018】
固定焦点領域の設計であって、従来の2焦点眼内レンズのように設計し、まず二次的焦点の数及びそれぞれの焦点屈折力を決定し、Zemaxにおいて初期モデルを構築し、次に最適化して最良の所定の効果を得て、回折基本パラメータを得て、回折位相関数の多項表現式を決定する。
Φ(x,y)=ρ11+ρ21
Φ(x,y)=ρ12+ρ22

Φ(x,y)=ρ1m+ρ2m
式中、mは2以上の正の整数である。眼内レンズの2つの光学面の表面輪郭Z及びZを同時に決定し、回折位相関数を周期2πで圧縮した後、各半径位置xに対応する回折構造の高さh回折を算出し、回折環帯構造を光学領域のある光学面に重ねて、当該固定焦点領域の実際の光学面の形状Z合成=Zベース+h回折を得て、Zベースは屈折ベース面である。
【0019】
【0020】
【0021】
(2)ベース屈折レンズの旋盤加工であって、光学設計の項の前後光学面の加工パラメータに従って、旋盤プログラムを作成し、ダイヤモンドによる一点切削技術を用いて、旋盤加工により光学部を得て、フライス盤プログラムを作成し、フライス加工により光学領域の形状及び粗化表面を有する/鋸歯状のレッグを得る。
【0022】
(3)研磨処理により、光学表面が基準を満たす眼内レンズを得る。
【0023】
前記全視程眼内レンズは、旋盤加工により回折構造を含む眼内レンズの雛型を得てから、機械彫刻によりレンズの光学部を作製し、機械切断により第1支持部、第2支持部を作製してもよい。
【発明の効果】
【0024】
従来技術と比べて、本発明の技術的解決手段の有益な効果は以下のとおりである。
本発明は、回折構造に離散回折位相点を導入して焦点を延長させることにより、連続した視程を実現するもので、患者は固定焦点においてはっきりと見られるだけでなく、焦点間の視程においてもはっきりと見られるため、点視力から連続した視力への飛躍を実現し、回折型多焦点眼内レンズの視程の不連続性の問題を解決している。
【0025】
本発明は、光学部の光学領域が全視程の効果(即ち、連続した視程)を備えるため、人の眼の連続ズーム機能をシミュレートしており、運動し続ける物体でも明瞭に結像でき、患者の動体視力を向上させ、運動する物体を明瞭に結像できる。
【0026】
本発明は、離散回折位相点を導入する方法を採用し、回折環帯構造により入射光の光場分布を調整して、光学面全体における鋭利な箇所を減らし、効果的にグレアを低減させ、色収差を軽減し、患者により良い視覚的体験をもたらす。
【0027】
本発明は、焦点を完全に分離させておらず、連続した焦点深度範囲により光エネルギーの利用率は90%以上に向上しており、これによって患者は光量不足の環境でもものをよりはっきりと見られる。
【0028】
一体成形された全視程眼内レンズは、複雑な機械による調節可能な眼内レンズよりも構造がシンプルであるため、本発明の眼内レンズは複雑な眼内の液体環境に適合し、安定性が良く、後発白内障が発生しにくい。さらに支持部の表面粗化/鋸歯面の設計により、支持部の移動抵抗が増加し、レンズの水晶体嚢内での回転が避けられ、術後の安定性が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図面は例示的な説明に過ぎず、本発明に対する制限と見なすことができない。本実施例をより良く説明するために、図面にはいくつかの部品が省略され、拡大又は縮小されており、実際の製品の寸法を表示するものではない。図面には一部の公知の構造及びその説明が省略されていても当業者にはそれが分かる。
図1図1は、本発明の実施例によって提供される実施例1の全視程眼内レンズの正面及び側面の構造模式図である。
図2図2は、本発明の実施例によって提供される実施例2の全視程眼内レンズの正面及び側面の構造模式図である。
図3図3は、本発明の実施例によって提供される実施例3の全視程眼内レンズの正面及び側面の構造模式図である。
図4図4は、本発明の実施例によって提供される実施例1を眼モデルに導入して、連続範囲における異なる焦点屈折力でのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果である。
図5図5は、本発明の実施例によって提供される実施例2を眼モデルに導入して、連続範囲における異なる焦点屈折力でのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果である。
図6図6は、本発明の実施例によって提供される実施例3を眼モデルに導入して、連続範囲における異なる焦点屈折力でのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施例の目的、技術的解決手段及び利点が一層明瞭になるよう、本発明の実施例の図面を参照して、本発明の実施例に係る技術的解決手段を明瞭に、完全に記述する。言うまでもないが、記述される実施例は、本発明の一部の実施例であり、全ての実施例ではない。当業者が本発明の実施例を踏まえ、進歩性のある作業をせずに得ている他の実施例の全てが、本発明の保護範囲に入る。
【0031】
(実施例1)
本実施例は、光学部1を含む全視程眼内レンズを提供し、光学部1は2つの光学面からなり、前記光学面は球面又は非球面であり、一方の光学面は入射光の光場分布を変調するための回折構造を有し、
光学部1の上光学面の決定方法は次のとおりであって、
光学面の頂点を原点O、光軸をZ軸として、任意の空間上の直交座標系を確立し、前記座標系のX軸及びY軸が前記光学面に相接し、前記光学面の面形状はYZ平面において以下の方程式を満たし、
式中、Z(y)は2次元座標系のYZ平面における光学面の曲線表現式であり、cは前記光学面の基本球面の曲率半径の逆数であり、yはZ軸に対する前記曲線上のいずれかの点の垂直距離であり、A2iは光学面の高次項の係数であり、m、nはいずれも1以上の整数で且つn>mであり、Kは光学面係数であり、K及びA2iが0であるとき、Z(y)は球面の方程式になり、
回折構造により入射光の光場分布を変調する方法は以下のとおりであって、
回折構造は回折環帯構造及び離散回折位相点を含み、まず、回折環帯構造を利用して固定焦点を決定し、つまり、回折環帯構造を備える単焦点回折素子に対して、回折位相関数Φでその位相を示し、
Φ(x,y)=ρ+ρ(2)
式中、x、yはそれぞれ縦座標、横座標を表し、単位はミリメートル(mm)であり、ρ、ρは回折位相の各項の係数であり、回折位相関数を周期2πで圧縮した後、回折環帯構造の位相関数T(Φ)を得て、
T(Φ)=Φ-int(Φ/2π)×2π(3)
式中、int()は整数に丸める関数を表し、
次に、サブ波長領域の離散回折位相点を導入し、フェルマーの原理によれば、光の伝播経路は光路長が極値をとる経路であり、この極値は最大値、最小値であるか、又は関数の変曲点であり、式で示すと以下のとおりであって、
【0032】
(実施例2)
具体的には、実施例1を踏まえ、具体的な実施例を用いて技術的解決手段を説明して、当該技術的解決手段の効果を一層表現する。具体的には、以下のとおりである。
理解を助けるために、図1を参照し、本発明によって提供される全視程眼内レンズの一実施例は、光学部1と、第1支持部2と、第2支持部3とを含み、光学部1、及び第1支持部2、第2支持部3は、同じ素材で一体成形される一体式の構造であり、光学部1は2つの光学面(光学面A、光学面B)からなり、前記光学面は球面又は非球面であり、そのうち、光学面Aは入射光の光場分布を変調するための回折構造を有する。
【0033】
回折構造は、旋盤加工により、光学部1の一方の光学表面に浮き出し加工され、ここで回折構造を光学面Aに重ねるものとし、第1支持部2、第2支持部3の表面にいずれも斜め鋸歯状の凹部が設けられ、斜め鋸歯の高さは40μmより大きく、斜め鋸歯状の凹部の幅は0.2mmであり、前記支持部の位置する平面に対して斜め鋸歯の斜め縁部のなす角の角度αは20°である。支持部は、第1支持部2と、第2支持部3とを含む。
【0034】
光学部1は、有効光学部径が6.0mmで、中心厚が0.67mmである両凸レンズであり、前記第1支持部2、第2支持部3の厚さはいずれも0.15mmであり、光学部1は、屈折率が1.544で、分散係数が45~55である疎水性ポリアクリレートから作製される。
【0035】
本実施例の全視程眼内レンズの製造方法は以下のとおりである。
(1)全体的な設計であって、遠方焦点20D、中間焦点2D、近方焦点3Dの3焦点眼内レンズを設計し、中間焦点と近方焦点を連続させる。
【0036】
(2)光学設計であって、予め設定された多焦点の各焦点距離、即ち、50mm(20D)、45.45mm(22D)、43.48mm(23D)により、固定焦点領域及び連続領域を分割し、ここで、固定焦点領域が2つで、連続領域が1つである。固定焦点領域は総面積の70%で、連続領域は総面積の30%である。Zemaxにおいて初期モデルを構築し、最適化して光学部1の光学面A、光学面Bのパラメータを得て、ここで、ベース半径は20.5mmで、K=-11.68である。位相係数に基づいて2つの固定焦点領域の位相関数を決定する。
Φ(x,y)=-101.13x-0.986x
Φ(x,y)=-151.7x-1.48x
所定の2つの連続した焦点22D及び23Dにより、連続領域に均一に分布する5つの離散回折位相点を追加すると決め、その大きさはΦとΦの中間値である。
【0037】
(3)ベース屈折レンズの旋盤加工であって、設計した光学領域のパラメータに従って、旋盤プログラムを作成し、ダイヤモンドによる一点切削技術を用いて、旋盤加工により眼内レンズの雛型を得て、フライス盤プログラムを作成して、フライス加工により光学領域の形状及び粗化表面を有するレッグを得る。
【0038】
(4)研磨処理により、光学表面が基準を満たす眼内レンズを得る。
【0039】
(5)眼モデルにおいて分析・テストする。
【0040】
実施例1の全視程眼内レンズIOLをISO11979-2で規定されている眼モデルに導入し、光学機器でテストして22Dと23Dとの間の0.2DごとのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果を得る。図4から分かるように、当該全視程眼内レンズIOLは22Dと23Dとの間にいずれも明瞭な視覚効果が得られる。図中、aは22D、bは22.2D、cは22.4D、dは22.6D、eは22.8D、fは23Dである。
【0041】
従来技術による全視程眼内レンズIOLには、視程が不足し、複数の焦点の間に明らかな視力低下ひいては中断点が発生してしまい、視力低下又は中断点が視程の不連続性を引き起こすため、患者の移動物体に対する識別能力が低下するという欠点が存在する問題に対し、本発明は、離散回折位相点を導入して、入射光の光場分布を変調することにより、2つ又はそれ以上の焦点を連続させ、模擬眼モデルでMTF値を測定したところ連続範囲においてはいずれも0.13より大きく、患者に0.6以上の連続した明瞭な視力を提供することができ、点視力から連続した視力への飛躍を実現し、患者の動体視力を向上させ、運動する物体を明瞭に結像でき、患者の生活の質を向上させるとともに、グレアを低減させ、色収差を軽減し、光エネルギーの利用率を向上させる効果がある。
【0042】
なお、本発明は、光学部1の光学領域が2焦点、3焦点、又は領域に多焦点がある光学領域である。3焦点IOLでは、中間視力から近方視力までの範囲で視程の不連続性が比較的明らかであるという問題に対し、本発明は良い改善効果を有する。
【0043】
(実施例3)
具体的には、実施例1を踏まえ、具体的な実施例を用いて技術的解決手段を説明して、当該技術的解決手段の効果を一層表現する。具体的には、以下のとおりである。
全視程眼内レンズであって、前記眼内レンズは、光学部1と、第1支持部2と、第2支持部3とを含み、光学部1は、光学面Aと、光学面Bと、回折構造とからなり、回折構造は光学面Aにある。光学部1、及び第1支持部2、第2支持部3は、同じ素材で一体成形される一体式の構造であり、回折構造は、旋盤加工により、光学部1の一方の光学表面に浮き出し加工され、ここで回折構造を光学面Aに重ねるものとする。
【0044】
第1支持部2、第2支持部3の表面にいずれもいくつかの斜め鋸歯状の凹部が設けられ、且つ斜め鋸歯状の凹部の幅は0.2mmであり、支持部の位置する平面に対して斜め鋸歯の斜め縁部のなす角の角度αは20°であり、斜め鋸歯の高さは40μmより大きい。
【0045】
光学部1は、有効光学部径が5.5mmで、中心厚が0.6mmである両凸レンズであり、第1支持部2、第2支持部3の厚さはいずれも0.15mmであり、光学部1は、屈折率が1.544で、分散係数が45~55である疎水性ポリアクリレートから作製される。
【0046】
本実施例の全視程眼内レンズの製造方法は以下のとおりである。
(1)全体的な設計であって、遠方焦点15D、中間焦点2D、近方焦点4Dの3焦点眼内レンズを設計し、中間焦点と近方焦点を連続させる。
【0047】
(2)光学設計であって、予め設定された多焦点の各焦点距離、即ち、66.67mm(15D)、58.82mm(17D)、52.63mm(19D)により、固定焦点領域及び連続領域を分割し、ここで、固定焦点領域が2つで、連続領域が1つである。固定焦点領域は総面積の50%で、連続領域は総面積の50%である。Zemaxにおいて初期モデルを構築し、最適化して光学部1の光学面A、光学面Bのパラメータを得て、ここで、ベース半径は31.57mmで、K=-19.74である。位相係数に基づいて2つの固定焦点領域の位相関数を決定する。
Φ(x,y)=-101.2x+0.72x
Φ(x,y)=-202.22x-1.424x
所定の2つの連続した焦点17D及び19Dにより、連続領域に均一に分布する10の離散回折位相点を追加すると決め、その大きさはΦとΦの中間値である。
【0048】
(3)ベース屈折レンズの旋盤加工であって、設計した光学領域のパラメータに従って、旋盤プログラムを作成し、ダイヤモンドによる一点切削技術を用いて、旋盤加工により眼内レンズの雛型を得て、フライス盤プログラムを作成して、フライス加工により光学領域の形状及び粗化表面を有するレッグを得る。
【0049】
(4)研磨処理により、光学表面が基準を満たす眼内レンズを得る。
【0050】
(5)眼モデルにおいて分析・テストする。
【0051】
本実施例の眼内レンズIOLをISO11979-2で規定されている眼モデルに導入し、光学機器でテストして中間焦点(17D)と近方焦点(19D)との間の0.2DごとのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果を得る。図5から分かるように、当該全視程眼内レンズIOLは17Dと19Dとの間にいずれも明瞭な視覚効果が得られる。図中、aは17D、bは17.2D、cは17.4D、dは17.6D、eは17.8D、fは18D、gは18.2D、hは18.4D、iは18.6D、jは18.8D、kは19Dである。
【0052】
(実施例4)
具体的には、実施例1を踏まえ、具体的な実施例を用いて技術的解決手段を説明して、当該技術的解決手段の効果を一層表現する。具体的には、以下のとおりである。
図3に示すように、全視程眼内レンズであって、眼内レンズは、光学部1と、第1支持部2と、第2支持部3とを含み、光学部1は、光学面Aと、光学面Bと、回折構造とからなり、回折構造は光学面Aにある。
【0053】
光学部1、及び第1支持部2、第2支持部3は、同じ素材で一体成形される一体式の構造であり、回折構造は、旋盤加工により、光学部1の一方の光学表面に浮き出し加工され、ここで回折構造を光学面Aに重ねるものとする。
第1支持部2、第2支持部3の表面にいずれもいくつかの斜め鋸歯状の凹部が設けられ、斜め鋸歯の高さは40μmより大きく、斜め鋸歯状の凹部の幅は0.2mmであり、支持部の位置する平面に対して斜め鋸歯の斜め縁部のなす角の角度αは20°である。
【0054】
光学部1は、有効光学部径が5.5mmで、中心厚が0.78mmである両凸レンズであり、第1支持部2、第2支持部3の厚さはいずれも0.15mmであり、光学部1は、屈折率が1.544で、分散係数が45~55である疎水性ポリアクリレートから作製される。
【0055】
本実施例の全視程眼内レンズの製造方法は以下のとおりである。
(1)全体的な設計であって、遠方焦点28D、中間焦点2.5D、近方焦点4Dの3焦点眼内レンズを設計し、中間焦点と近方焦点を連続させる。
【0056】
(2)光学設計であって、予め設定された多焦点の各焦点距離、即ち、35.71mm(28D)、32.79mm(30.5D)、31.25mm(32D)により、固定焦点領域及び連続領域を分割し、ここで、固定焦点領域が2つで、連続領域が1つである。固定焦点領域は総面積の60%で、連続領域は総面積の40%である。Zemaxにおいて初期モデルを構築し、最適化して光学部1の光学面A、光学面Bのパラメータを得て、ここで、ベース半径は15.75mmで、K=-8.14である。位相係数に基づいて2つの固定焦点領域の位相関数を決定する。
Φ(x,y)=-128.746x+0.096x
Φ(x,y)=-206.925x+0.709x
所定の2つの連続した焦点30.5D及び33Dにより、連続領域に均一に分布する8つの離散回折位相点を追加すると決め、その大きさはΦとΦの中間値である。
【0057】
(3)ベース屈折レンズの旋盤加工であって、設計した光学領域のパラメータに従って、旋盤プログラムを作成し、ダイヤモンドによる一点切削技術を用いて、旋盤加工により眼内レンズの雛型を得て、フライス盤プログラムを作成して、フライス加工により光学領域の形状及び粗化表面を有するレッグを得る。
【0058】
(4)研磨処理により、光学表面が基準を満たす眼内レンズを得る。
【0059】
(5)眼モデルにおいて分析・テストする。
【0060】
本実施例の眼内レンズIOLをISO11979-2で規定されている眼モデルに導入し、光学機器でテストして中間焦点(30.5D)と近方焦点(32D)との間の0.2DごとのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果を得る。図6から分かるように、30.5Dと32Dとの間にいずれも明瞭な視覚効果が得られる。図中、aは30.5D、bは30.6D、cは30.8D、dは31D、eは31.2D、fは31.4D、gは31.6D、hは31.8D、iは32Dである。
【0061】
なお、上記の実施例は、3焦点眼内レンズを例として本発明の実施の効果を説明しているが、回折型多焦点眼内レンズの視程の不連続性の問題に対する本発明の解決方法は、他の回折型多焦点眼内レンズにも適用する。
【0062】
言うまでもないが、本発明の上記の実施例は本発明を明瞭に説明するために挙げた例に過ぎず、本発明の実施形態についての限定ではない。当業者であれば、上記の説明に基づいて他に様々な形態の変更又は補正を行うことができる。ここでは全ての実施形態を列挙する必要もないしそうすることもできない。本発明の趣旨と原則を逸脱することなく補正、同等な置き換え、改善などを行った場合、そのいずれも本発明の特許請求に係る保護範囲のうちに含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-11-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
図面は例示的な説明に過ぎず、本発明に対する制限と見なすことができない。本実施例をより良く説明するために、図面にはいくつかの部品が省略され、拡大又は縮小されており、実際の製品の寸法を表示するものではない。図面には一部の公知の構造及びその説明が省略されていても当業者にはそれが分かる。
図1図1は、本発明の実施例によって提供される実施例1の全視程眼内レンズの正面及び側面の構造模式図である。
図2図2は、本発明の実施例によって提供される実施例の全視程眼内レンズの正面及び側面の構造模式図である。
図3図3は、本発明の実施例によって提供される実施例1を眼モデルに導入して、連続範囲における異なる焦点屈折力でのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果である。
図4図4は、本発明の実施例によって提供される実施例を眼モデルに導入して、連続範囲における異なる焦点屈折力でのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果である。
図5図5は、本発明の実施例によって提供される実施例を眼モデルに導入して、連続範囲における異なる焦点屈折力でのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
実施例1の全視程眼内レンズIOLをISO11979-2で規定されている眼モデルに導入し、光学機器でテストして22Dと23Dとの間の0.2DごとのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果を得る。図から分かるように、当該全視程眼内レンズIOLは22Dと23Dとの間にいずれも明瞭な視覚効果が得られる。図中、aは22D、bは22.2D、cは22.4D、dは22.6D、eは22.8D、fは23Dである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
本実施例の眼内レンズIOLをISO11979-2で規定されている眼モデルに導入し、光学機器でテストして中間焦点(17D)と近方焦点(19D)との間の0.2DごとのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果を得る。図から分かるように、当該全視程眼内レンズIOLは17Dと19Dとの間にいずれも明瞭な視覚効果が得られる。図中、aは17D、bは17.2D、cは17.4D、dは17.6D、eは17.8D、fは18D、gは18.2D、hは18.4D、iは18.6D、jは18.8D、kは19Dである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0052
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0052】
(実施例4)
具体的には、実施例1を踏まえ、具体的な実施例を用いて技術的解決手段を説明して、当該技術的解決手段の効果を一層表現する。具体的には、以下のとおりである。
に示すように、全視程眼内レンズであって、眼内レンズは、光学部1と、第1支持部2と、第2支持部3とを含み、光学部1は、光学面Aと、光学面Bと、回折構造とからなり、回折構造は光学面Aにある。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0060】
本実施例の眼内レンズIOLをISO11979-2で規定されている眼モデルに導入し、光学機器でテストして中間焦点(30.5D)と近方焦点(32D)との間の0.2DごとのUSAF1951解像度テストチャートによるテストの結果を得る。図から分かるように、30.5Dと32Dとの間にいずれも明瞭な視覚効果が得られる。図中、aは30.5D、bは30.6D、cは30.8D、dは31D、eは31.2D、fは31.4D、gは31.6D、hは31.8D、iは32Dである。
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】