(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-09
(54)【発明の名称】ガリウム系液体金属と組み合わせて使用される金属構造体及びその製造方法と用途
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20241202BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539880
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-01
(86)【国際出願番号】 CN2022115492
(87)【国際公開番号】W WO2023216467
(87)【国際公開日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】202210524894.9
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202221152744.1
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524188675
【氏名又は名称】雲南中宣液態金属科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】YUNNAN ZHONGXUAN LIQUID METAL TECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】8th Floor Business Building, Administration Of Xuanwei Economic-Technological Development Area, Qujing, Yunnan 655499, CN
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】蔡昌礼
(72)【発明者】
【氏名】耿成都
(72)【発明者】
【氏名】陳道通
(72)【発明者】
【氏名】楊応宝
(72)【発明者】
【氏名】安健平
(72)【発明者】
【氏名】杜旺麗
(72)【発明者】
【氏名】唐会芳
(72)【発明者】
【氏名】張季
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BC06
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA70
(57)【要約】
本発明は、ガリウム系液体金属と組み合わせて使用されるための金属構造体を開示し、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に、高リンニッケル合金層を有する。前記金属構造体は、ガリウム系液体金属と接触する場合、ガリウム系液体金属と反応しないため、ガリウム系液体金属が消費されることによる放熱性能の低下を回避する。本発明は、金属構造体の製造方法及びコンピュータチップ、携帯電話のチップ、通信製品、ハイパワーLED、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、ハイパワー電子製品の放熱へのその用途をさらに開示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウム系液体金属と組み合わせて使用されるための金属構造体であって、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に、高リンニッケル合金層を有する、ガリウム系液体金属と組み合わせて使用されるための金属構造体。
【請求項2】
前記高リンニッケル合金層におけるリン含有量≧10%であることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項3】
前記高リンニッケル合金層の厚さ≧1μmであることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項4】
前記高リンニッケル合金層の厚さ≧3μmであることを特徴とする
請求項3に記載の金属構造体。
【請求項5】
前記高リンニッケル合金層の厚さ≧5μmであることを特徴とする
請求項4に記載の金属構造体。
【請求項6】
前記高リンニッケル合金層の厚さ≧10μmであることを特徴とする
請求項5に記載の金属構造体。
【請求項7】
前記金属構造体は、ガリウム系液体金属と接触するアセンブリ、ガリウム系液体金属を収容する容器又はキャビティ又はガリウム系液体金属流動配管であることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項8】
前記金属構造体は、フィン放熱器、ヒートパイプ放熱器、相変化放熱器、ヒートシンク、ベイパーチャンバ、マイクロ流路放熱器、液体金属流体放熱器、液体金属圧力センサー、液体金属圧力発信器、液体金属収容容器又はガリウム系液体金属と接触する部品であることを特徴とする
請求項7に記載の金属構造体。
【請求項9】
前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面は、平面又は曲面であることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項10】
前記金属構造体の材料は、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、亜鉛、金又はこれらの合金から選択される少なくとも一つであることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項11】
前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に、ナノ複合セラミックコーティング層がさらに含まれることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項12】
前記ガリウム系液体金属は、ガリウム金属、ガリウム含有液体合金、ガリウム含有金属酸化物、ガリウム含有熱界面材料、ガリウム含有複合材料から選択されるいずれか一つ又は複数であることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項13】
ガリウム系液体金属熱界面材料と接触する金属構造体の表面において高リン化学的ニッケルメッキ処理を行うことによって、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に高リンニッケル合金層を形成する
請求項1から12のいずれか1項に記載の金属構造体の製造方法。
【請求項14】
コンピュータチップ、携帯電話のチップ、通信製品、ハイパワーLED、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、ハイパワー電子製品の放熱への用途を提供することにある
請求項1から12のいずれか1項に記載の金属構造体又は請求項13に記載の製造方法により製造された金属構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2022年05月13日に中国特許局に提出された、出願番号が202210524894.9であり、発明の名称が「ガリウム系液体金属と組み合わせて使用される金属構造体及びその製造方法と用途」である中国特許出願、及び出願番号が202221152744.1であり、発明の名称が「ガリウム系液体金属と組み合わせて使用される金属構造体」である中国特許出願の優先権を出張しており、上記特許出願の内容のすべてを援用で本出願に取り込む。
本発明は、電子機器の熱伝導分野に属し、特にガリウム系液体金属と組み合わせて使用されるための金属構造体及びその製造方法と用途に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料の表面と放熱器の間には微細な凹凸の隙間があり、これらを直接的に取り付けると、これらの実際の接触面積は放熱器のベース面積の10%しかなく、残りはすべて空気隙間である。空気の熱伝導率がわずか0.024w/(m.k)であるため、電子素子と放熱器との間の接触熱抵抗が非常に大きくなり、熱の伝導が著しく阻害され、放熱器の性能の低下を引き起こす。そのため、これらの空隙を充填し、その中の空気を除去し、電子素子と放熱器との間に熱伝導通路を作るための高熱伝導性の熱界面材料を必要とし、それにより熱源と放熱器との間の接触面積を大幅に増加させ、接触熱抵抗を減少させ、放熱器の役割を良好に発揮させる。
【0003】
熱伝導シリコングリースは、従来の熱界面材料として、現在では多く使用されている。しかしながら、新興の5G通信、モノのインターネット、新エネルギー自動車電子、ウェアラブルデバイス、スマートシティなどの分野が盛んに興ることに伴い、関連電子デバイスは小型化、高パワー密度、多機能化などの傾向へ発展し、これは関連電子デバイスの過熱リスクを高め続け、従来のシリコングリースは熱伝導率が低く、使用上の需要を満たすことができない。高性能熱界面材料の開発は、電子デバイスの放熱の改善の点では非常に重要であり、学界と電子デバイスの応用の産業界が直面する最大の挑戦となっている。ガリウム系液体金属熱界面材料は、高い熱伝導率を有するため、現代の高パワー密度応用の場を満たすことができ、近年では、ますます注目されている。
【0004】
しかしながら、ガリウム系液体金属は、アルミニウム又はその合金と反応できるため、銅又は合金に対しても金属間化合物を形成するが、放熱器の材料のほとんどは銅、アルミニウム又はその合金である。この場合には、液相ガリウムの反応消費によって最終的に界面が乾かされ、充填効果がなく無効となってしまう。そのため、ガリウム系液体金属と銅、アルミニウム又はその合金との反応を回避することは、液体金属が熱界面材料として広く応用される場合に早急に解決すべき問題である。
【0005】
この背景技術に開示された情報は、本発明の全体的背景の理解を深めるためのものだけであり、この情報が当業者によく知られている従来技術を構成していることを認めたり、いかなる形で示唆したりするものとみなされるべきではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ガリウム系液体金属と組み合わせて使用されるための金属構造体を提供することであり、それは、ガリウム系液体金属と接触する場合、ガリウム系液体金属と反応しないため、ガリウム系液体金属が消費されることによる放熱性能の低下を回避し、従来技術におけるガリウム系液体金属が放熱器材料中のアルミニウム又はその合金と反応することにより液相ガリウムが反応して消費され、最終的に界面が乾かされて充填効果がなくなるという技術的課題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するために、本発明は、ガリウム系液体金属と組み合わせて使用されるための金属構造体を提供し、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に、高リンニッケル合金層を有する。
【0008】
本発明の一実施形態では、前記高リンニッケル合金層におけるリン含有量≧10%である。
【0009】
本発明の一実施形態では、前記高リンニッケル合金層の厚さ≧1μmであり、好ましくは、前記高リンニッケル合金層の厚さ≧3μmであり、より好ましくは、前記高リンニッケル合金層の厚さ≧5μmであり、最も好ましくは、前記高リンニッケル合金層の厚さ≧10μmである。
【0010】
本発明の一実施形態では、前記金属構造体は、ガリウム系液体金属と接触する放熱アセンブリ、ガリウム系液体金属を収容する容器又はキャビティ又はガリウム系液体金属流動配管であり、好ましくは、前記金属構造体は、フィン放熱器、ヒートパイプ放熱器、相変化放熱器、ヒートシンク、ベイパーチャンバ、マイクロ流路放熱器、液体金属流体放熱器、液体金属圧力センサー、液体金属圧力発信器、液体金属収容容器又はガリウム系液体金属と接触するその部品である。
【0011】
本発明の一実施形態では、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面は、平面又は曲面である。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記金属構造体の材料は、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、亜鉛、金又はその合金から選択される少なくとも一つである。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に、複合セラミック保護層がさらに含まれる。
【0014】
本発明の一実施形態では、前記ガリウム系液体金属は、ガリウム金属、ガリウム含有液体合金、ガリウム含有金属酸化物、ガリウム含有熱界面材料、ガリウム含有複合材料から選択される。
【0015】
本発明の別の目的は、上記金属構造体の製造方法を提供することにあり、ガリウム系液体金属熱界面材料と接触する金属構造体の表面において高リン化学的ニッケルメッキ処理を行うことによって、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に高リンニッケル合金層を形成する。該方法の技術が熟達して安定しており、コストが低い。
【0016】
本発明のまた一つの目的は、上記金属構造体又は上記製造方法により製造される金属構造体の、コンピュータチップ、携帯電話のチップ、通信製品、ハイパワーLED、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、ハイパワー電子製品の放熱への用途を提供することにある。本発明は、金属構造体の、ガリウム系液体金属と接触する表面に、高リンニッケル合金層を形成することで、ガリウム系液体金属と金属構造体との合金化反応を阻止することによって、高熱伝導率のガリウム系液体金属をコンピュータチップ、携帯電話のチップ、通信製品、ハイパワーLED、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、航空又は軍用ハイパワー電子製品などの製品に用途可能にする。
【発明の効果】
【0017】
従来技術に比べて、本発明は、以下の有益な効果を有する。
【0018】
(1)本発明では、金属構造体の表面に高リンニッケル合金層が形成され、該高リンニッケル合金層は、銅、アルミニウムなどの金属に対して有効な防護を形成し、極端な条件下で長時間にわたってガリウム系液体金属と反応しない。実験結果によれば、1μm以上の高リンニッケルメッキ層は、金属シートとガリウム系液体金属との反応を阻止することができ、それによってガリウム系液体金属が反応により次第に消費されることを回避し、ガリウム系液体金属熱界面材料が消費されることによる熱伝導性能の低下を回避する。
【0019】
(2)1μm以上の高リンニッケルメッキ層は金属構造体に対して良好な保護作用を有するが、ヒートシンク、ベイパーチャンバなどの高リンニッケルメッキ層が表面に露出している金属構造体に対しては、包装、輸送及び使用中に高リンニッケルメッキ層の摩耗又は傷付けを起こす可能性があることを考慮して、高リンニッケルメッキ層の厚さは、好ましくは3μm以上であり、より好ましくは、5μm以上である。摩耗が激しい場合又は安定性に対する要求が高く、使用周期が長いなどの特殊な要求がある場合には、金属構造体の表面に10μm以上の高リンニッケルメッキ層を形成して、予想外の事態を避けるために十分な保護作用を十分に確保することができる。
【0020】
(3)なお、高リンニッケル合金層におけるリン含有量も極めて重要であり、比較例2ではリン含有量が9%の中リンニッケルメッキで保護したが、実験結果によれば、中リンニッケルメッキ層で被覆することが、金属シートとガリウム系液体金属との反応を阻止するために一定の保護作用を発揮したが、保護作用が十分ではなく、ガリウム系液体金属が最終的に金属シートと反応したことを発見した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態によるフィン放熱器の断面概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるヒートパイプ放熱器のヒートパイプの断面概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態による液体金属収容容器の断面概略図である。
【
図4】本発明の実施例3及び比較例1-5の方法により処理された金属シートがメッキ層により保護された効果を試験した後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、明細書の添付図面を参照しながら、本発明の具体的な実施形態を詳しく説明するが、理解すべきこととして、本発明の保護範囲は、具体的な実施形態に制限されない。
【0023】
特に明示されていない限り、明細書及び特許請求の範囲全体において、用語である「含む」又はその変形、例えば「含有」又は「含んでいる」などは、述べた素子又は構成部分を含むものと理解され、他の素子又は他の構成部分を排除するものではない。
【0024】
実施例1
図1に示すものは、金属構造体1であり、具体的には、銅製フィン放熱器であり、ガリウム系液体金属3と接触するその底面に、高リンニッケル合金層2を有した。その製造方法は、銅製フィン放熱器の、ガリウム系液体金属と接触する底面をきれいに洗浄し、高リン化学的ニッケルメッキ処理を5分間行い、取り出して乾燥させればよいことであった。
【0025】
測定の結果によれば、前記銅製フィン放熱器の底面に形成された高リンニッケル合金層の厚さは、1.2μmであり、高リンニッケル合金層におけるリン含有量は、10%であった。後続の実験を容易にするために、2mmの銅シートを同時に使用して高リン化学的ニッケルメッキ処理を行い、その後、銅製フィン放熱器の代わりに処理後の銅シートを実施例1の試験対象とした。
【0026】
実施例2
図2に示すものは、金属構造体1であり、具体的には、銅製ヒートパイプ放熱器のヒートパイプであり、ガリウム系液体金属3と接触するその内表面に、高リンニッケル合金層2を有した。その製造方法は、銅製ヒートパイプ放熱器のヒートパイプの、ガリウム系液体金属と接触する内表面をきれいに洗浄し、高リン化学的ニッケルメッキ処理を18分間行い、取り出して乾燥させればよいことであった。
【0027】
測定の結果によれば、前記ベイパーチャンバの表面に形成された高リンニッケル合金層の厚さは、3μmであり、高リンニッケル合金層におけるリン含有量は、12%であった。後続の実験を容易にするために、2mmの銅シートを同時に使用して高リン化学的ニッケルメッキ処理を行い、その後、銅製ヒートパイプの代わりに処理後の銅シートを実施例2の試験対象とした。
【0028】
実施例3
図3に示すものは、金属構造体1であり、具体的には、銅製液体金属収容容器であり、ガリウム系液体金属3と接触するその内表面に、高リンニッケル合金層2を有した。その製造方法は、銅製液体金属収容容器の、ガリウム系液体金属と接触する内表面をきれいに洗浄し、高リン化学的ニッケルメッキ処理を24分間行い、取り出して乾燥させればよいことであった。
【0029】
測定の結果によれば、前記銅製液体金属収容容器の内表面に形成された高リンニッケル合金層の厚さは、5μmであり、高リンニッケル合金層におけるリン含有量は、11%であった。後続の実験を容易にするために、2mmの銅シートを同時に使用して高リン化学的ニッケルメッキ処理を行い、その後、銅製液体金属収容容器の代わりに処理後の銅シートを実施例3の試験対象とした。
【0030】
実施例4
銅製マイクロ流路放熱器であって、ガリウム系液体金属と接触するその内表面と外表面に、高リンニッケル合金層を有した。銅製マイクロ流路放熱器の、ガリウム系液体金属と接触する内表面と外表面をきれいに洗浄し、高リン化学ニッケルメッキ処理を40分間行い、取り出して乾燥させればよい。
【0031】
測定の結果によれば、前記銅製マイクロ流路放熱器の内表面と外表面に形成された高リンニッケル合金層の厚さは、10μmであり、高リンニッケル合金層におけるリン含有量は、10%であった。後続の実験を容易にするために、2mmの銅シートを同時に使用して高リン化学的ニッケルメッキ処理を行い、その後、銅製マイクロ流路放熱器の代わりに処理後の銅シートを実施例4の試験対象とした。
【0032】
実施例5
アルミニウム製ヒートシンクであって、ガリウム系液体金属と接触するその底面に、高リンニッケル合金層を有した。アルミニウム製ヒートシンクの、ガリウム系液体金属と接触する底面をきれいに洗浄し、高リン化学的ニッケルメッキ処理を20分間行い、取り出して乾燥させればよい。
【0033】
測定の結果によれば、前記アルミニウム製ヒートシンクの底面に形成された高リンニッケル合金層の厚さは、5μmであり、高リンニッケル合金層におけるリン含有量は、10%であった。後続の実験を容易にするために、2mmのアルミニウムシートを同時に使用して高リン化学的ニッケルメッキ処理を行い、その後、アルミニウム製ヒートシンクの代わりに処理後のアルミニウムシートを実施例5の試験対象とした。
【0034】
実施例6
銅合金ヒートシンクであって、ガリウム系液体金属と接触するその底面に、高リンニッケル合金層を有した。銅合金ヒートシンクの、ガリウム系液体金属と接触する底面をきれいに洗浄し、高リン化学的ニッケルメッキ処理を20分間行い、取り出して乾燥させればよい。
【0035】
測定の結果によれば、前記銅合金ヒートシンクの底面に形成された高リンニッケル合金層の厚さは、5μmであり、高リンニッケル合金層におけるリン含有量は、10%であった。後続の実験を容易にするために、銅合金ヒートシンクの代わりに2mmの銅合金シートを実施例6の試験対象とした。
【0036】
実施例7
アルミニウム合金ヒートシンクであって、ガリウム系液体金属と接触するその底面に、高リンニッケル合金層を有した。アルミニウム合金ヒートシンクの、ガリウム系液体金属と接触する底面をきれいに洗浄し、高リン化学的ニッケルメッキ処理を29分間行い、取り出して乾燥させればよい。
【0037】
測定の結果によれば、前記アルミニウム合金ヒートシンクの表面に形成された高リンニッケル合金層の厚さは、5μmであり、高リンニッケル合金層におけるリン含有量は、10%であった。後続の実験を容易にするために、アルミニウム合金ヒートシンクの代わりに2mmのアルミニウム合金シートを実施例7の試験対象とした。
【0038】
実施例8
ステンレス鋼ヒートシンクであって、ガリウム系液体金属と接触するその底面に、高リンニッケル合金層を有した。ステンレス鋼ヒートシンクの、ガリウム系液体金属と接触する底面をきれいに洗浄し、高リン化学的ニッケルメッキ処理を29分間行い、取り出して乾燥させればよい。
【0039】
測定の結果によれば、前記ステンレス鋼ヒートシンクの表面に形成された高リンニッケル合金層の厚さは、5μmであり、高リンニッケル合金層におけるリン含有量は、10%であった。後続の実験を容易にするために、ステンレス鋼ヒートシンクの代わりに2mmのステンレス鋼シートを実施例8の試験対象とした。
【0040】
比較例1
2mmの銅シートの表面をきれいに洗浄し、いかなる処理も行わない。
【0041】
比較例2
2mmの銅シートの表面をきれいに洗浄し、中リン化学的ニッケルメッキ処理を18分間行い、取り出して乾燥させればよい。測定の結果によれば、前記銅シートの表面に形成された中リンニッケル合金層の厚さは、5μmであり、中リンニッケル合金層におけるリン含有量は、9%であった。
【0042】
比較例3
2mmの銅シートの表面をきれいに洗浄し、クロム電気メッキ処理を行った。測定の結果によれば、前記銅シートの表面に形成されたクロム電気メッキ層の厚さは、5μmであった。
【0043】
比較例4
2mmの銅シートの表面をきれいに洗浄し、ニッケル電気メッキ処理を行った。測定の結果によれば、前記銅シートの表面に形成されたニッケル電気メッキ層の厚さは、5μmであった。
【0044】
比較例5
2mmの銅シートの表面をきれいに洗浄し、207E高熱伝導性セラミック塗料で塗布処理を行った。測定の結果によれば、前記銅シートの表面に形成された高熱伝導性セラミック層の厚さは、5μmであった。
【0045】
実施例 メッキ層の保護効果の試験
実施例1-8及び比較例1-4の方法により処理された金属シートを被験対象とした。被験対象となる金属シートを2枚1組とし、そのうちの一枚の金属シートの中間位置にガリウム系液体金属を塗布し、液体金属の周囲にシーラントを塗布することで、液体金属の漏れを防止し、別の一枚の金属シートと前述した液体金属が塗布された金属シートとを結び付け、二枚の金属シートの間に約1mmの距離を保ち、クリップで固定した。各組の固定された金属シートをプログラマブル恒温恒湿試験箱に入れ、恒温恒湿試験箱の温度をそれぞれ-40℃と80℃に設定して30minずつ安定させ、これを1サイクルとして高低温サイクル試験を行い、サイクル試験回数は1000回であった。試験が終了した後に、各組の金属シートを分離させ、液体金属を除去し、金属シートと液体金属との反応の状況を観察した。試験結果は、下記表1に示すとおりである。
【0046】
表1 試験結果
試験結果によれば、実施例1-8で処理された高リンニッケル合金層を有する金属シートの表面に反応マークがなく、メッキ層の表面がきれいに洗浄可能であり、比較例2と5では、表面にわずかな反応マークがあり、比較例1、3及び4では、表面に面積の大きい反応マークがあることを示した。
【0047】
以上の試験結果によれば、1μm以上の高リンニッケルメッキ層は、金属シートとガリウム系液体金属との反応を阻止することができ、それによってガリウム系液体金属が反応により次第に消費されることを回避し、ガリウム系液体金属熱界面材料が消費されることによる熱伝導性能の低下を回避する。1μm以上の高リンニッケルメッキ層は金属構造体に対して良好な保護作用を有するが、ヒートシンク、ベイパーチャンバなどの高リンニッケルメッキ層が表面に露出している金属構造体に対しては、包装、輸送及び使用中に高リンニッケルメッキ層の摩耗又は傷付けを起こす可能性があることを考慮して、高リンニッケルメッキ層の厚さは、好ましくは3μm以上であり、より好ましくは、5μm以上である。摩耗が激しい場合又は安定性に対する要求が高く、使用周期が長いなどの特殊な要求がある場合には、金属構造体の表面に10μm以上の高リンニッケルメッキ層を形成して、予想外の事態を避けるために十分な保護作用を十分に確保することができる。
【0048】
比較例1で未処理の銅シートの表面はきれいに洗浄されず、マークの面積は約35%に達したことは、金属シートとガリウム系液体金属が大量に反応し、ガリウム系液体金属の熱界面材料が消費されることによる熱伝導性能の低下を引き起こすことを示した。比較例2で中リンニッケルメッキ層で被覆された金属シートのメッキ層の表面にわずかなマークがあり、マークの面積は、ガリウム系液体金属との接触面積の約5%であり、比較例1よりも明かに少なかった。リン含有量が9%である中リンニッケルメッキ層が、金属シートとガリウム系液体金属との反応を阻止するために一定の保護作用を発揮したが、保護作用が十分ではなく、ガリウム系液体金属が最終的に金属シートと反応したことを示した。比較例3-5と比較例2は、類似した効果を有し、比較例3においてクロム電気メッキ層で被覆された金属シート、比較例4においてニッケル電気メッキ層で被覆された金属シート及び比較例5においてセラミック層で被覆された金属シートのメッキ層の表面にいずれもわずかなマークがあり、マークの面積はそれぞれ15%、25%及び3%であり、比較例1よりも明かに少なかった。クロム電気メッキ層、ニッケル電気メッキ層及びセラミック層が、金属シートとガリウム系液体金属との反応を阻止するために一定の保護作用を発揮したが、保護力が高リンニッケルメッキ層よりも明かに低いことを示した。
【0049】
本発明の具体的な例示的実施形態に対する前述の記述は、説明及び例証を目的とするものである。これらの記述は、本発明を開示された正確な形に限定することを意図したものではなく、上述の教示に基づいて多くの変更と変化が可能であることは明らかである。例示的な実施例を選択して記述する目的は、本発明の特定の原理とその実際の用途を説明することであり、それにより、当業者は、本発明の様々な異なる例示的な実施形態及び様々な異なる選択と変更を実現して利用することができる。本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等物によって限定されることを意図している。
【符号の説明】
【0050】
1-金属構造体、2-高リンニッケル合金層、3-ガリウム系液体金属。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウム系液体金属と組み合わせて使用されるための金属構造体であって、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に、高リンニッケル合金層を有する、ガリウム系液体金属と組み合わせて使用されるための金属構造体。
【請求項2】
前記高リンニッケル合金層におけるリン含有量≧10%であることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項3】
前記高リンニッケル合金層の厚さ≧1μmであることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項4】
前記高リンニッケル合金層の厚さ≧3μmであることを特徴とする
請求項3に記載の金属構造体。
【請求項5】
前記高リンニッケル合金層の厚さ≧5μmであることを特徴とする
請求項4に記載の金属構造体。
【請求項6】
前記高リンニッケル合金層の厚さ≧10μmであることを特徴とする
請求項5に記載の金属構造体。
【請求項7】
前記金属構造体は、ガリウム系液体金属と接触するアセンブリ、ガリウム系液体金属を収容する容器又はキャビティ又はガリウム系液体金属流動配管であることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項8】
前記金属構造体は、フィン放熱器、ヒートパイプ放熱器、相変化放熱器、ヒートシンク、ベイパーチャンバ、マイクロ流路放熱器、液体金属流体放熱器、液体金属圧力センサー、液体金属圧力発信器、液体金属収容容器又はガリウム系液体金属と接触する部品であることを特徴とする
請求項7に記載の金属構造体。
【請求項9】
前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面は、平面又は曲面であることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項10】
前記金属構造体の材料は、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、亜鉛、金又はこれらの合金から選択される少なくとも一つであることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項11】
前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に、ナノ複合セラミックコーティング層がさらに含まれることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項12】
前記ガリウム系液体金属は、ガリウム金属、ガリウム含有液体合金、ガリウム含有金属酸化物、ガリウム含有熱界面材料、ガリウム含有複合材料から選択されるいずれか一つ又は複数であることを特徴とする
請求項1に記載の金属構造体。
【請求項13】
ガリウム系液体金属熱界面材料と接触する金属構造体の表面において高リン化学的ニッケルメッキ処理を行うことによって、前記金属構造体の、前記ガリウム系液体金属と接触する表面に高リンニッケル合金層を形成する
請求項1から12のいずれか1項に記載の金属構造体の製造方法。
【請求項14】
コンピュータチップ、携帯電話のチップ、通信製品、ハイパワーLED、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、ハイパワー電子製品の放熱への
請求項1から12のいずれか1項に記載の金属構造体の用途。
【国際調査報告】