(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】電子で促進される材料処理のための直流プラズマ制御
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20241203BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H05H1/24
H01L21/302 100
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518981
(86)(22)【出願日】2022-10-24
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 US2022078600
(87)【国際公開番号】W WO2023086731
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524115095
【氏名又は名称】ヴェルヴェッチ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】VELVETCH LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム アンドリュー ゴダード
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート フランシス サンド
(72)【発明者】
【氏名】サミール ジョン アンズ
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド アーウィン マーゴリーズ
【テーマコード(参考)】
2G084
5F004
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA03
2G084AA07
2G084CC02
2G084CC21
2G084HH05
2G084HH11
2G084HH22
2G084HH52
5F004BB12
5F004CA03
5F004CA06
(57)【要約】
直流プラズマ内において精密に制御された電子のウエハスケール波を使用して材料処理するためのシステム及び方法を提示する。直流プラズマチャンバの陽極及び陰極は、それぞれ調整可能直流電圧源及び直流電流源に接続されている。陽極電位は、直流プラズマの陽光柱にあるステージの表面浮遊電位を直流電圧/電流源の基準アース電位にシフトするように調整される。制御ループは、ステージの表面浮遊電位を基準アース電位に維持するために、様々な処理ステップを通して作動させることができる。アース電位を基準とする信号発生器がステージに容量結合され、直流プラズマ内の自由電子に運動エネルギーを付与するためにステージの表面電位を制御する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を処理するための直流(DC)プラズマシステムであって、
直流プラズマ反応チャンバの陽極と陰極との間に生成される直流プラズマを含むように構成された前記直流プラズマ反応チャンバと、
陽極に電気的に結合された出力を有する調整可能直流電圧源と、
陰極に電気的に結合された直流電流源と、並びに
前記直流プラズマ反応チャンバの前記直流プラズマの陽光柱を含む領域に配置された基板支持ステージと、
を備え、
前記調整可能直流電圧源及び前記直流電流源は、基準アースに電気的に結合され、また
前記調整可能直流電圧源は、前記基板の処理中に、前記陽極の電位を調整して、前記基板支持ステージの表面における浮遊電位を基準アースの電位に設定するように構成される、
直流プラズマシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記直流電流源は、前記基板の処理中に、前記陽極と前記陰極との間に流れる一定の直流電流を設定するように構成され、前記一定の直流電流は、前記直流プラズマを生成するように構成される、直流プラズマシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の直流プラズマシステムにおいて、組み合わさった前記陽極の電位及び前記一定の直流電流が、前記陰極の電位を確立する、直流プラズマシステム。
【請求項4】
請求項2に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記陽極の電位は、前記一定の直流電流とは独立して調整可能である、直流プラズマシステム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の直流プラズマシステムであって、さらに、導電性材料から作製される基準プレートであって、表面電位が浮遊電位に等しくなるように前記直流プラズマ反応チャンバ内の前記陽光柱を含む領域に配置された、該基準プレートを備える、直流プラズマシステム。
【請求項6】
請求項5に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記基板支持ステージ及び前記基準プレートは、前記直流プラズマ反応チャンバの長手方向延在部分に沿ったセグメント内に配置される、直流プラズマシステム。
【請求項7】
請求項6に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記基板支持ステージの中心と前記基準プレートの中心は、前記長手方向延在部分の方向に直交するライン内に含まれる、直流プラズマシステム。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の直流プラズマシステムであって、さらに、絶縁導電ワイヤを介して前記基準プレートと電気的に結合され、前記基準プレートの表面電位と前記基準アースの電位との間の差に基づいてエラー信号を生成するように構成された制御電子機器、を備える、直流プラズマシステム。
【請求項9】
請求項8に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記制御電子機器はオペアンプ又はエラーアンプを含む、直流プラズマシステム。
【請求項10】
請求項8に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記調整可能直流電圧源は、前記エラー信号を受信し、前記エラー信号の値に基づいて前記陽極の電位を調整するように構成される、直流プラズマシステム。
【請求項11】
請求項10に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記調整可能直流電圧源、前記基準プレート、及び前記制御電子機器は、前記浮遊電位を前記基準アースの電位に維持する閉ループ制御システムを提供するように構成される、直流プラズマシステム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の直流プラズマシステムであって、さらに、前記基板支持ステージに容量結合されるバイアス信号生成器を備え、
前記バイアス信号生成器は、前記基準アースの電位を基準とする電圧レベルを有し、前記基板支持ステージに容量結合されるバイアス信号を発生し、また
前記バイアス信号は、前記基板支持ステージの表面電位を制御するように構成されている、直流プラズマシステム。
【請求項13】
請求項12に記載の直流プラズマシステムにおいて、
前記バイアス信号発生器は、前記バイアス信号の波形特性を制御するように構成され、前記波形特性は、前記電圧レベル、周波数、デューティサイクル、立ち上がりエッジ、又は立ち下がりエッジを含む、直流プラズマシステム。
【請求項14】
請求項12に記載の直流プラズマシステムにおいて、
前記バイアス信号の前記電圧レベルがゼロボルトであるとき、前記基板支持ステージの前記表面電位はゼロボルトであり、前記直流プラズマ中の自由電子のエネルギー準位はゼロボルトであり、前記基板の表面の原子核のエネルギー準位はゼロボルトである、直流プラズマシステム。
【請求項15】
請求項14に記載の直流プラズマシステムにおいて、
前記バイアス信号の前記電圧レベルを正の電圧ステップで増加させると、前記基板支持ステージの前記表面電位は、同一の正の電圧ステップで増加し、前記自由電子のエネルギー準位は前記正の電圧ステップに比例して増加する、直流プラズマシステム。
【請求項16】
請求項15に記載の直流プラズマシステムにおいて、
正の前記電圧ステップは、前記基板の処理中に、前記自由電子のエネルギー準位を前記原子核に結合した前記電子のエネルギー準位まで上昇させるように選択可能である、直流プラズマシステム。
【請求項17】
前記基板の表面を加工する方法であって、請求項1~16のいずれか一項に記載の直流(DC)プラズマシステムを介して前記基板を処理するステップを備える、方法。
【請求項18】
基板の表面を加工する方法であって、
直流プラズマの陽光柱を生成するように構成された直流プラズマ反応チャンバの領域内に基板支持ステージを配置するステップと、
調整可能直流電圧源及び直流電流源をそれぞれ直流プラズマ反応チャンバの陽極及び陰極に結合することにより直流プラズマを生成するステップと、
前記直流プラズマを生成するステップに基づいて、前記基板支持ステージの表面に浮遊電位を生成するステップと、
前記直流電流源により前記陽極と前記陰極との間の前記直流電流を一定に維持しながら、前記調整可能直流電圧源により前記陽極の電位を調整するステップと、並びに
前記調整及び前記維持するステップに基づいて、前記浮遊電位を前記調整可能直流電圧源の基準アースの特定電位に設定するステップと、
を備える、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、さらに、
前記基板支持ステージ上に基板を配置するステップと、
バイアス信号を前記基板支持ステージに容量結合し、前記直流プラズマ中の自由電子にエネルギーを付与するステップと、
前記エネルギー付与ステップに基づき、前記自由電子を前記基板の表面に加速するステップと、及び
前記加速ステップに基づき、前記自由電子を前記基板の表面の原子と衝突させ、それによって電子と原子核との間のエネルギー結合を破壊するステップと、
を備え、
前記バイアス信号の電圧レベルは、前記特定の物質を構成する原子の前記電子の特定のエネルギー準位を目標として選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本出願は、2021年11月11日に出願され、「電子で促進される材料処理のための直流プラズマ制御(DC Plasma Control for Electron Enhanced Material Processing)」と題された米国出願第17/524,330号の優先権を主張するものであり、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、材料処理、特に、室温(または所望により他の温度)で直流プラズマ内において精密に制御された電子のウエハスケール波を使用して材料処理に使われる直流プラズマ反応チャンバ内の動作条件を生成するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
例えば集積回路の製造には、直流プラズマ反応チャンバ内で対応する基板を処理するステップが含まれ、電子及び/又はイオンが基板表面に向かって加速され、基板表面を物理的に変化させる反応が開始する。場合によっては、そして主に、イオンと比較して電子の質量が比較的小さいため、電子を介した基板処理が、処理ステップ自体によって予想される目標となる物理的変化を超える基板表面への損傷を低減するために好ましい場合がある。
【0004】
場合によっては、プラズマ処理は、基板の表面浮遊電位の正確な値が分からないように、直流プラズマ反応チャンバの領域内に基板を配置することを含むことがある。したがって、基板に外部から印加されるバイアス信号は、基板の表面に近いプラズマの領域において自由電子エネルギーを与える可能性があり、該エネルギーは、基板の表面に存在する(原子)材料の電子エネルギーの閾値/準位とは相関しない。本開示による教示は、基材の表面に存在する材料の電子エネルギー閾値を特に目標とするために、自由電子のエネルギーの精密な制御を可能にする直流プラズマチャンバ内の動作条件を作り出す。
【発明の概要】
【0005】
室温(または必要に応じて他の温度)における直流プラズマ内において精密に制御された電子のウエハスケール波を使用して材料処理するためのシステム及び方法が開示されている。本開示では、このような材料処理は、直流プラズマ内における自由電子の運動エネルギーを正確に制御して、処理される基板表面の原子のエネルギー準位を正確に(かつ選択的に)目標化することができ、電子で促進される材料処理(EEMP:electron enhanced material processing)と称される。
【0006】
本開示の一実施形態によれば、基板処理のための直流(DC:direct-current)プラズマシステムが開示され、該直流プラズマシステムは、直流プラズマ反応チャンバの陽極と陰極との間に生成される直流プラズマを含むように構成された直流プラズマ反応チャンバと、陽極に電気的に結合した出力を有する調整可能直流電圧源と、陰極に電気的に結合した直流電流源と、並びに直流プラズマ反応チャンバの、直流プラズマの陽光柱を含む領域に配置された基板支持ステージとを備え、調整可能直流電圧源及び直流電流源は基準アースに電気的に結合され、また基板の処理ステップ中に、調整可能直流電圧源は陽極の電位を調整して、基板支持ステージの表面における浮遊電位を基準アースの電位に設定する。
【0007】
本開示の第2の実施形態によれば、基板の表面を処理するための方法が開示され、該方法は、直流プラズマの陽光柱を生成するように構成された直流プラズマ反応チャンバの領域に基板支持ステージを配置するステップと、調整可能直流電圧源及び直流電流源をそれぞれ直流プラズマ反応チャンバの陽極及び陰極に結合して直流プラズマを発生させるステップと、生成された直流プラズマに基づいて、基板支持ステージの表面に浮遊電位を生成するステップと、直流電流源を介して陽極と陰極との間の直流電流を一定に維持しながら、調整可能直流電圧源を介して陽極の電位を調整するステップと、並びに前記調整及び維持するステップに基づいて、浮遊電位を調整可能直流電圧源の基準アースの特定電位に設定するステップと、を備える。
【0008】
本開示のさらなる態様は、本出願の明細書、図面及び特許請求の範囲に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付図面は、本開示の1つ以上の実施形態を示し、例示的な実施形態の説明と共に、本開示の原理及び実施形態を説明するのに役立つ。
【
図1A】直流プラズマ処理システムで使用できる直流プラズマ反応チャンバの簡略化した概略図である。
【
図1B】
図1Aの直流プラズマ反応チャンバの動作中のプラズマの(電気)電位の変化を代表するグラフを示す。
【
図1C】
図1Aの直流プラズマ反応チャンバの領域に配置された(基板)ステージを含む直流プラズマ処理システムの簡略化した概略図を示す。
【
図1D】外部バイアス信号発生器を介した、
図1Cの直流プラズマ処理システムのステージの例示的なバイアスを示す。
【
図1E】
図1Dの外部バイアス信号発生器によって生成された例示的なバイアス信号と、対応するステージ表面で生成された電位とを示す。
【
図1F】ステージの表面における原子の例示的なエネルギー準位を示す。
【
図2A】ステージの表面電位を制御する手段を備える、本開示の一実施形態による直流プラズマ処理システムの簡略化された概略図を示す。
【
図2B】
図2Aの直流プラズマ処理装置のステージの表面電位の制御を代表するグラフである。
【
図2C】
図2Aの直流プラズマ処理システムの基準アース電位に対するステージの表面電位の調整の代表的なグラフを示す。
【
図3A】ステージの表面電位を制御する手段と、表面電位を測定する手段とを備える、本開示の一実施形態による直流プラズマ処理システムの簡略化された概略図を示す。
【
図3B】表面電位の自動制御のための手段が追加された
図3Aのシステムをベースとする、本開示の一実施形態による直流プラズマ処理システムの簡略化された概略図を示す。
【
図4A】ステージのバイアス手段が追加されている
図3Bのシステムをベースとする本開示の一実施形態による直流プラズマ処理システムの簡略化された概略図である。
【
図4B】
図4Aの直流プラズマ処理システムのステージに供給される例示的なバイアス信号と、対応するステージの表面で発生する電位を示す。
【
図4C】ステージの表面における原子の例示的なエネルギー準位を示す。
【
図5】基板の表面を処理するための、本開示の一実施形態による方法の様々なステップを示すプロセスチャートである。
【0010】
様々な図面における同様の参照番号及び符号は、同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1Aは、直流プラズマ処理システムにおいて使用され得る従来技術の直流プラズマ反応チャンバ(110)の簡略化された概略図を示す。直流プラズマ反応チャンバ(110)のバイアスは、直流プラズマ反応チャンバ(110)の陽極Aと陰極Cとの間に結合した直流電圧源(150)によって提供され得る。動作中、ガスと、陽極A及び陰極Dの間を流れる電流の電子との相互作用に基づいて、グロー放電(プラズマ)がチャンバ(110)内に形成され得る。これにより、チェンバ内に自由イオン及び自由電子が生成される。このような直流プラズマ反応チャンバ(110)の動作原理は当業者に周知であるため、本開示では関連する詳細を省略する。
【0012】
図1Aに示すように、チャンバ(110)内に形成されるグロー放電は、かなりの光を放出するグロー領域(G1、G2、G3、G4)と、光を放出しない可能性のある暗い領域(D1、D2、D3、D4)とを含んでもよい。このような領域は、例えば、温度及び電位を含む直流プラズマ反応チャンバ(110)の異なる動作特性を表しうる。
【0013】
図1Bは、動作中のチャンバ(110)の軸線方向(長手方向に延びる方向)Xに沿ったプラズマの(電気)電位V
PPの変化を代表するグラフを示す。
図1Bに示すように、プラズマ電位V
PPは、直流電圧源(
図1Aの150)によって陰極Cに印加される電位を表す値V
Cから、直流電圧源(
図1Aの150)によって陽極Aに印加される電位を表す値V
Aまで変化する。例えば後述の
図1Dに示すように、一般に値V
Aはゼロボルト(例えば基準アース)であり、値V
Cは負(例えば約0(ゼロ)~500ボルトの範囲内における値の負)であることに留意すべきである。
【0014】
引き続き
図1Bを参照すると、陰極Cに近い領域(例えば、D1、G1、D2)及び陽極Aに近い領域(例えば、G4)における電位V
PPの急激な変動は、チャンバ(110)の動作温度のより高い領域に対応し得る。もう一方の領域G3は、陽光柱とも呼ばれ、ある程度一様/一定の電位、V
PPの領域及び動作温度が低い領域である。例えば、
図1Bに示すように、チャンバ(110)の軸線方向Xに沿ったセグメント[X
G31、X
G32]が陽光柱領域G3内に含まれることを考えると、かかるセグメント[X
G31、X
G32]を横切るプラズマ電位V
PPの変動は最小であり、換言すれば、セグメント[X
G31、X
G32]にわたる電位V
PPは一定であると考えることができる。したがって、
図1Bに示すように、セグメント[X
G31、X
G32]にわたるプラズマ電位V
ppは、値V
G3に等しいと考えてもよい。陽光柱領域G3におけるより低い動作温度及びプラズマの一定の電位値により、
図1C及び
図1Dに示すように、そのような領域を基板処理に使用することが可能になる。
【0015】
図1Cは、直流プラズマ反応チャンバ(110)の陽光柱領域G3に配置された(基板)ステージSを含む直流プラズマ処理システム(100C)の簡略化された概略図を示す。ステージSは、平坦な基板を支持するように設計されてもよく、したがって、上面の平坦な/平らな表面を含んでもよい。
図1Cに示すステージSは電気的に絶縁されており(外部電位に接続されていない)、したがって、当業者には周知のように、プラズマ電位V
PPの存在下では、ステージSの表面に電位V
Sが発生し、該電位V
Sは表面浮遊電位V
FPと称される。(表面)浮遊電位V
FPとプラズマ電位V
PPとの関係を
図1Cに示す。特に、
図1Cに示すように、ステージSが配置されているチャンバ(110)の領域[X
G31、X
G32]におけるプラズマ電位V
PPはV
G3と等しく、浮遊電位V
FPはプラズマ電位V
G3よりも低い(プラズマ電位V
G3に対して負である)。
【0016】
図1Cのグラフに示される浮遊電位V
FPは、ステージSの存在下で発生する「プラズマシース」に起因し得る。当業者に知られているように、プラズマ内の壁又は障壁では、プラズマのバルクに対して負の電位が発生する。その結果、プラズマのバルクと壁又はバリアとの間に平衡電位降下が生じる。このような電位降下は、プラズマと壁又はバリアとの間に生じる電荷の不均衡により、壁又はバリアに隣接する空間の小さな領域に限定される。この電荷不均衡の層はデバイ長(Debye Length)によって特徴づけられる有限の厚さを有し、「プラズマシース(plasma sheath)」又は「シース(sheath)」と呼ばれる。このような層の厚さは数デバイ長であり、その大きさはプラズマの様々な特性に依存する値である。バルクプラズマ(例えば、チャンバ110)の寸法が例えばデバイ長よりはるかに大きい場合、デバイ長はプラズマ温度及び電子密度に依存する。本開示による教示によって支持される直流プラズマ動作条件の特定の場合(例えば、室温付近から室温を適度に上回るEEMPシステム)、デバイ長は数ミリメートルのオーダーであり(例えば、10ミリメートル未満)、電位V
G3とV
FPとの間の差は数ボルトのオーダーである(例えば、10ボルト未満)。プラズマシースは、導電性であるか否かを問わず、いかなる壁又は障壁の存在下でも発生し得ることに留意すべきである。したがって、一度基板(導電性であるか絶縁性であるかを問わない)がステージSの上に配置されると、
図1Cを参照して上述したのと同一の浮遊電位V
FPが基板の表面で発生し得る。
【0017】
図1Dは、キャパシタCによってステージSに容量結合される外部バイアス信号発生器(180)を介した、
図1Cの直流プラズマ処理システムのステージSの例示的なバイアス印加を示す。
図1Dに示される例示的な構成(100D)では、陽極Aに印加される電位V
Aは、ゼロボルトである(例えば、基準アース、Gndに結合する)。さらに、
図1Dに示すように、外部バイアス信号発生器(180)によってステージSに印加されるバイアス信号V
Bは、基準アース電位Gndを基準とすることができる。いくつかの従来技術の実施態様では、バイアス信号V
Bは、ステージSに直流結合され得るが、本開示による教示は、チャンバ(110)内の任意の中間点を通る直流電流の放電経路がチェンバ(110)内の動作条件を大幅に変化させる可能性があるため、放電経路を回避するようにステージへのこのような直流結合を厳密に禁止する。
【0018】
図1Dに示される直流プラズマ処理システムにおいて、バイアス信号V
Bは、ステージS、又は存在する場合には基材の近傍の自由電子及び/又はイオンによって見られる電位(例えば、表面電位V
S)を制御するために使用され得る。これにより、自由電子及び/又はイオンのエネルギーは、基板の処理に必要な準位に制御することができる。例えば、
図1Eの左側のグラフに示すように、外部バイアス信号発生器(例えば、
図1Dの180)によって生成されるバイアス信号V
Bは、ゼロから開始し、短時間で電圧振幅V
B1に達する(前縁勾配によって表される)ことができる。
図1Eの右上のグラフに示すように、処理ステップ(a)中に電圧振幅V
B1がステージSに印加(例えば交流結合)されると、電圧振幅V
B1は表面浮遊電位V
FPaに加算(負の場合は減算)され、ステージS近傍に表面電位V
Sが発生する。しかし、自由電子及び/又はイオンはプラズマ電位V
PPaにあるため、自由電子及び/又はイオンによって見られるのは、プラズマ電位V
PPaを上回る表面電位V
Sの一部のみである。例えば、
図1Eの右上側のグラフに示されるように、自由電子及び/又はイオンの(運動)エネルギーは、
電位差V
KEa=(V
B1-ΔV
FPa)に基づいてもよく、ここで、
ΔV
FPa、=(V
PPa-V
FPa)である。
【0019】
例えば、異なる差分ΔV
FPb、=(V
PPb-V
FPb)が生じる可能性のある、異なるプラズマ電位V
PPb、又は異なる浮遊電位V
FPbを含む処理ステップ(a)の動作条件とは異なる動作条件を有する可能性がある、
図1Eの右下側のグラフによって表される処理ステップ(b)を考慮すると、同一の印加電圧振幅V
B1に対して、自由電子及び/又はイオンの異なる(運動)エネルギーが得られる。本開示による教示は、チャンバ(例えば、
図1Dの110)内の動作条件の変動を排除する、及び/又は、例えば、自由電子(及び/又はイオン)のエネルギーの精密な制御を可能にするように、そのような変動を補償する。例えば、異なる反応性ガスによる基板のエッチング、基板の洗浄、又は基板の表面から組成物/材料を変更及び/又は除去する可能性のある他のプロセスを含む、チャンバ(110)内で実行される異なるタイプの処理(例えば、
図1Eの(a)及び(b))を考慮すると、動作条件の変動が予想されることに留意すべきである。当業者には既知であるように、異なるタイプの処理を実行するための異なる操作条件は、さらに、チャンバ(110)内の直流プラズマ電流、温度、ガス混合物又は流量のいずれか1つに対する対応する変動及び/又は調整を含み得ることに留意すべきである。
【0020】
基板がステージSの表面上に配置されると、上述のバイアス信号V
Bの印加によって得られた自由電子及び/又はイオンの運動エネルギーが、自由電子及び/又はイオンを基板の表面に向かって加速させ、基板の表面の原子に運動エネルギーを放出させるために基板に衝突させる可能性がある。しかし、それらの原子は、それらが存在する電位、言い換えれば浮遊ポテンシャル、V
FPに基づくエネルギー準位にある。
図1Eを参照して上述した処理タイプ(a)に対するそのような原子の1つの様々なエネルギー準位は、基板表面の原子の原子核のエネルギー準位E
n、基板表面の原子の原子核に結合した電子のエネルギー準位E
B、及び基板表面の原子核に結合した電子の軌道における電子のエネルギー準位E
eを含めて、
図1Fに示されている。
【0021】
図1Fに見られるように、原子核のエネルギー準位E
nは(負の)電位V
FPaにあり、電子のエネルギー準位E
eは(負の)電位(E
n+E
B)にある。言い換えれば、原子を、電子と原子核との間の結合を切断する準位まで励起するには、電子のエネルギー準位E
eに等しいか、又は、それ以上のエネルギーを原子に与えなければならない。したがって、自由電子のみを介して処理されるプラズマを考慮すると、
図1Fにおいて電位差V
KEa=(V
B1-ΔV
FPa)で表されるバイアス信号V
Bの印加によって供給される自由電子の運動エネルギーは、エネルギー準位E
eに等しいか、またはそれ以上でなければならない。しかし、
E
e=(E
n+E
B)であり、E
nは先験的に未知の浮遊ポテンシャルV
FPaに基づいているため、エネルギー準位E
eを正確に狙うために自由電子の運動エネルギーを正確に制御することは不可能かもしれない。
【0022】
浮遊電位(例えば、
図1FのV
FPa)は、直流プラズマチャンバの安定した動作条件における所与のプロセスについて経験的及び/又は実験的に決定され得るが、そのような動作条件の矛盾及び/又は再現性の欠如は、決定された浮遊電位を無効にし得る。さらに、異なるタイプのプロセスでは本質的に異なる浮遊電位が得られるため、基板表面の原子のエネルギー準位を正確に目標化するために自由電子の運動エネルギーを正確に制御する作業は、実現不可能かもしれない。その結果、いくつかの従来技術の実施態様では、目標とする原子のエネルギー準位よりも実質的に大きい運動エネルギーが基板表面の原子に付与される場合があり、そのため選択性が得られない場合がある(異なるエネルギー準位を有する異なる材料/組成の原子が、軌道結合を切断するのに十分なエネルギー準位を等しく受ける場合があるため)。本開示の教示に従った電子で促進される材料処理(EEMP)は、このような欠点を克服し、したがって、基板表面の原子のエネルギー準位を正確かつ選択的に目標化するために、自由電子の運動エネルギーを正確に制御することを可能にする。
【0023】
図2Aは、電気的に絶縁されたときのステージSの表面電位を制御する手段(250、260)を備える、本開示の一実施形態による直流プラズマ処理システム(200A)の簡略化された概略図を示す。言い換えると、手段(250、260)は、浮遊電位V
FPの調整を可能にする。
図2Aに示すように、手段(250、260)は、直流プラズマ反応チャンバ(110)の陽極Aに結合されている調節可能直流電圧源(250)と、直流プラズマ反応チャンバ(110)の陰極Cに結合されている直流電流源(260)とを含む。したがって、陽極Aの電位VAは、基準アース(ゼロボルトのGnd)に対してゼロボルト以上(正)の範囲になるように制御することができ、反応チャンバ(110)を通して陽極Aと陰極Cとの間に流れる(ドレイン)電流Ipは、直流電流源(260)によって設定することができる。したがって、陰極Cの電位V
Cは、外部直流電圧源(例えば、
図1Dの150)によって強制されず、むしろ(浮遊して)陽極Aの調整可能電位V
A及び設定電流Ipに基づく(負の)電圧に落ち着く。このような構成は、より高いレベルの処理の安定性及び最適化を確立し維持するために、反応チャンバ(110)を通る設定電流Ipを一定に維持しながら、浮遊電位V
FPを独立して制御/調整することを可能にする。
【0024】
図2Bは、
図2Aを参照して上述した直流プラズマ処理システム(200A)のステージSの表面電位V
FPの制御を代表する2つのグラフを示す。特に、
図2Bは、実線又は破線の使用によって区別される2つのグラフを示し、各グラフは、調整可能直流電圧源(250)によって陽極Aに印加される2つの異なる電圧(V
A1、V
A2)に対する、チャンバ(110)の長手方向延在部分Xにわたるプラズマ電位V
PPの変化を表す。
図2Bに見られるように、電圧V
A1から電圧V
A2への陽極電位の正のステップ増加、+ΔV
12に対して、浮遊電位(V
FP1、V
FP2)及び陰極電位(V
C1、V
C2)は、同一の正のステップ、+ΔV
12だけ増加する。実のところ、
図2Bに示すように、プラズマ電位V
PPの全体について、曲線は、ステップ+ΔV
12だけ正側にシフトする。言い換えれば、範囲[X
C、X
A]内の任意の長手方向座標Xに対して、対応するプラズマ電位V
PP(X)は、ステップ増加、+ΔV
12に従う。同様の挙動が、調整可能直流電圧源(250)によって陽極Aに印加される負のステップ変動に適用される。言い換えれば、調整可能直流電圧源による陽極Aの電位の制御は、任意の長手方向座標Xにおけるプラズマ電位V
PPに線形的に影響し、したがって、浮遊電位V
FPおよびステージSの上部の電圧V
Sに線形的に影響する。本開示で後述するように、このような線形性は、異なるタイプの材料処理のために直流プラズマチャンバを動作させながら、浮遊電位V
FPの値をプリセット値(例えば、ゼロボルト)に自動的に制御する閉ループ制御サブシステムを実装するために、本教示によるEEMPシステムで使用することができる。
【0025】
図2Cは、陽極電圧V
A1がゼロボルト(実線)に等しい特別な場合を含む、
図2Bを参照して上述したグラフに類似する2つのグラフを示す。
図2Bに見られるように、このような場合の浮遊電位電圧は、負の値V
FP1に等しく、したがって、プラズマ電位V
PPに対して(以下)負である。さらに、
図2Cに見られるように、陽極電位の正のステップ増加、+ΔV
13=(V
A1-V
FP1)に対して、浮遊電位は、ゼロボルトに等しい値V
FP3に調整され得る。本開示の一実施形態によれば、浮遊電位V
FPのこのようなゼロ化は、処理される基板(導電性であるか絶縁性であるかを問わない)の表面における原子のエネルギー準位を正確に(かつ選択的に)目標化するために、直流プラズマ内における自由電子の運動エネルギーの正確な制御を可能にし得る。言い換えれば、
図1Fに戻って参照すると、処理のために目標化/選択される原子の原子核のエネルギー準位E
nを決定する先験的な未知の浮遊電位は、浮遊電位V
FPのゼロ化によって除去される。一方、後述の
図4Bに示すように、これにより、ターゲット電子のエネルギー準位E
e、直流プラズマ内における自由電子の運動エネルギー準位(例えば、
図1FのV
KEa)、及びステージSに印加されるバイアス電圧V
Bは、同一の既知かつ固定の基準であるゼロボルト電位Gndを基準にすることを可能にする。
【0026】
図3Aは、ステージSの表面電位を制御する手段(
図2Aの250、260)と、ステージ上部の表面電位V
S(例えば、浮遊電位、V
FP)を測定する手段(
図3AのR、311、V
R)とを備える、本開示の実施形態による直流プラズマ処理システム(300A)の簡略化された概略図を示す。当業者には理解されるように、システム(300A)は、表面電位V
Sを測定する手段(R、311、V
R)、又は、言い換えれば、ステージ上部の(表面)浮遊電位V
FPを測定する手段(R、311、V
R)を追加することによって、
図2Aを参照して上述したシステム(200A)の改良を表している。浮遊電位V
FPのこのような測定を可能にすることにより、
図2A~2Cを参照して上述したような直流電圧源(250)の調整を、表面電位V
FPを監視/測定しながら実行し得る。これにより、例えばそのような電位をゼロ(VFP=0ボルト)にすることを含め、浮遊電位V
FPの正確な制御が可能になる。
【0027】
引き続き
図3Aを参照すると、手段(R、311、V
R)は、ステージSと同じ(長手方向座標)セグメント[XG31、XG32]で直流プラズマチャンバ(110)内に配置される基準プレートRを含む。基準プレートRは、チャンバ(110)の(内部)動作条件に耐えることができる任意の導電性材料から作製されてもよく、例えば、正方形、長方形、円形、五角形、台形又はその他に従った平面形状を含む任意の平面形状を有してもよい。基準プレートRは、プレートSと同じ領域に配置され、したがって、同じほぼ一定のプラズマ電位V
PPの領域に配置されるため、基準プレートRは、ステージSと同じ浮遊電位V
FPを見る。言い換えれば、基準プレートRにおける(表面)電位V
Rを測定することにより、ステージSにおける浮遊電位を決定することができる。基準プレートRに取り付けられた絶縁導電ワイヤ(311)は、電位V
Rをチャンバー(110)の外部に設置された測定電子機器(例えば、変換器)にルート付け/結合するために使用することができる。このような測定電子機器は、プレートRを通してプラズマに直流電流経路を与えるべきではないことに留意すべきである。
【0028】
図3Aを引き続き参照すると、基準プレートRの場所は、技術的に実行可能で実用的なセグメント[XG31、XG32]内のチャンバ(110)の任意の長手方向延在部分でもよい。チャンバSは、チャンバ(110)の一方の側面にステージSに隣接するアクセスドアを含んでもよく、いくつかの例示的な実施形態では、基準プレートRは、アクセスドア及びステージSの反対側にあるチャンバ(110)の壁に対して、又はその近傍に配置されることがある。さらに、例示的な実施形態によれば、基準プレートの中心R、及びステージSの中心(例えば、図に示すようにステージのT字形をなす2つのセグメントの交点)は、チャンバ(110)の軸線方向(例えば、中心線、長手方向延在部分の方向)に対して垂直な線内に含まれ得る。本開示の出願人は、ステージSの浮遊電位の追跡において、手段(R、311、V
R)の精度が高いことを確認した。
【0029】
図3Bは、
図3Aのシステム(300A)に基づいて、ステージSにおける表面電位V
FPの自動制御のための手段(320、CT)が追加された、本開示の実施形態による直流プラズマ処理システム(300B)の簡略化された概略図を示す。手段(320、CT)は、異なる種類の処理のために直流プラズマチャンバを動作させながら、ステージSにおける浮遊電位V
FPの値をプリセット値(例えば、ゼロボルト)に自動的に制御する閉ループ制御システムを組み込むように構成された制御電子機器(320)を含む。特に、
図3Bに示すように、制御電子回路(320)は、絶縁導電線(311)によって提供される結合を介して、基準プレートRの(表面)電位V
Rを入力として取り込み、そこから陽極Aに供給される電圧V
Aを調整するために制御(エラー)信号CTを生成し、したがって、
図2A~2Cを参照して上述したように、ステージSにおける浮遊電位V
FPを調整する。制御(エラー)信号CTは、例えばゼロボルトのような浮遊電位V
FPの所望の目標/プリセット値に関して生成され得る。当業者であれば、本開示の範囲外である制御電子機器(320)を実装するための設計技術を熟知している。特に、当業者は、このような制御電子機器(320)においてオペアンプ又は誤差増幅器を使用することをよく知っており、このような増幅器の入力は、電位V
R、及び浮遊電位V
FPの所望の目標/プリセット値(例えば、ゼロボルト)に結合され、入力の差に基づいてエラー信号(例えば、CT)を生成することができる。
【0030】
図4Aは、ステージSをバイアスするためのバイアス手段(C
S、480)が追加された
図3Bのシステムに基づく、本開示の一実施形態による直流プラズマ処理システム(400A)の簡略化された概略図を示す。特に、バイアス手段(C
S、480)は、バイアス手段のキャパシタC
Sを通ってステージSに結合されるバイアス信号発生器(480)を含む。言い換えれば、バイアス信号発生器(480)の出力で生成されたバイアス信号V
Bは、キャパシタC
Sを介してステージSに容量結合される。本開示において既に説明したように、このような容量性結合は、直流プラズマチャンバ(110)から、または直流プラズマチャンバ(110)へのあらゆる直流電流経路の除去を可能にし、それにより、チャンバ(110)の動作条件のいかなる望ましくない摂動も防止することができる。バイアス信号発生器(480)は、例えば、振幅、周波数、デューティサイクル及び/又は立ち上がり/立ち下がりエッジ/スロープを含む所望の特性に従って、バイアス信号V
Bの波形を出力するように構成されたプログラマブル波形発生器を含むことができることに留意されたい。さらに、ステージSは、バイアス信号V
BをステージSに電気的に結合するための第1の導電性部分(例えば、キャパシタC
Sに接続された垂直リード)と、導電性材料及び/又は絶縁性材料を含み得るステージの第2の部分(例えば、水平支持プレート)とを含み得ることに留意されたい。
【0031】
図4Bは、
図4Aの直流プラズマ処理システム(400A)のステージSに供給された例示的なバイアス信号V
B1、及び、ステージSの表面で発生した対応する表面電位V
Sを示す。当業者には明確に理解できるように、
図4Bに示すグラフは、浮遊電位V
FPがゼロボルトになるように調整または制御されるシステム(400)の構成に対応する。したがって、
図1Eを参照した上記の説明を考慮すると(又は対照的に)、ステージS又はその上の基板の表面に引き寄せられる自由電子及び/又はイオンの(運動)エネルギーは、電位差V
KE=(V
B1-ΔV
FP)に基づいており、ΔV
FP=(V
PP-V
FP)である。したがって、直流プラズマチャンバを使用する実用的な基板処理用途では、ΔV
FPの値は、V
KEの値(例えば、
図4Cにおける目標電子のエネルギー準位E
eに基づく)よりも相当小さい(例えば、1/50又はそれ以下の比)可能性があるため、近似値V
KE=V
B1は妥当であると考えられる。一方、これにより、基板の表面における原子(例えば、束縛電子)のエネルギー準位を正確かつ選択的に目標化する、本開示の教示による電子で促進される材料処理(EEMP)を実施するための、ステージSに提供されるバイアス信号V
B1の単純かつ簡単な生成が可能になる。
【0032】
図4A及び
図4Bをさらに参照すると、ステージSの表面、又はステージS上に配置された基板の表面における原子のエネルギー準位の励起は、主に表面電位V
Sの瞬間的な変化に基づいてもよいことに留意されたい。したがって、エネルギー準位の励起は、バイアス電圧の目標値V
B1への遷移の終了時、言い換えれば、
図4Bに示す傾斜の終了時に直ちに達成され得る。
【0033】
図4Cは、
図4Aの直流プラズマ処理システム(400A)のステージSの表面における原子の例示的なエネルギー準位を示す。
図4Cは、
図2A~2Cを参照した上記説明に従って、
図3Aを参照した上記説明に従って、基準プレートRにさらに基づき、
図3Bを参照した上記説明に従って、制御電子機器(320)によって提供される(随意的な)閉ループ制御システムにさらに基づき、
図4Aを参照した上記説明に従って、バイアス信号発生器(480)によって提供されるバイアス信号VBの容量結合にさらに基づく、浮遊電位V
FPのゼロ化に基づき、基板表面における原子のエネルギー準位(例えば、
図4CにおけるEe≒V
KE)を正確かつ選択的に目標化する調整を可能にする、本開示の教示による電子で促進される材料処理(EEMP)の利点を強調している。
【0034】
図5は、基板の表面を処理するための、本開示の実施形態による方法の様々なステップを示すプロセスチャート(500)である。
図5に示すように、そのようなステップは、ステップ(510)に従って、直流プラズマの陽光柱を生成するように構成された直流プラズマ反応チャンバの領域に基板支持ステージを配置するステップと、ステップ(520)に従って、調節可能直流電圧源及び直流電流源をそれぞれ直流プラズマ反応チャンバの陽極及び陰極に結合することによって、直流プラズマを生成するステップと、この生成するステップに基づいて、ステップ(530)に従って、基板支持ステージの表面で浮遊電位を生成するステップと、ステップ(540)に従い、直流電流源を介して陽極と陰極との間の直流電流を一定に維持しながら、調整可能直流電圧源を介して陽極の電位を調整するステップと、この調整及び維持ステップに基づいて、ステップ(550)に従い、浮遊電位を調整可能直流電圧源の基準アースの電位に設定するステップと、を含む。
【0035】
本開示の多数の実施形態について説明してきた。 それにも関わらず、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされ得ることが理解されるであろう。したがって、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内にある。
【0036】
上記の実施例は、本開示の実施形態の製造方法及び使用方法の完全な開示及び説明として当業者に提供されるものであり、本発明者/発明者が開示とみなす範囲を限定することを意図するものではない。
【0037】
本明細書において開示される方法及びシステムを実施するための上述の態様のうち、当業者にとって自明である改変は、以下の特許請求の範囲に含まれることが意図される。本明細書において言及される全ての特許および刊行物は、本開示が関係する当業者の技術レベルを示すものである。本開示において引用される全ての参考文献は、各参考文献の全体が個別に参考として援用される場合と同じ程度に参考として援用される。
【0038】
本開示は、特定の方法またはシステムに限定されず、変更できることを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定することを意図するものではないことを理解されたい。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、「the」は、内容が明確に指示しない限り、複数の参照語を含む。「複数("plurality")」という用語は、内容が明確に指示しない限り、2つ以上の参照語を含む。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を処理するための直流(DC)プラズマシステムであって、
直流プラズマ反応チャンバの陽極と陰極との間に生成される直流プラズマを含むように構成された前記直流プラズマ反応チャンバと、
陽極に電気的に結合された出力を有する調整可能な直流電圧源と、
陰極に電気的に結合された直流電流源と、そして、
前記調整可能な直流電圧源と前記直流電流源は、基準グランドに電気的に結合され、前記調整可能な直流電圧源は、前記基板の処理中に、前記陽極の電位を調整して、前記基板支持ステージの表面の浮遊電位を基準グラウンドの電位に設定するように構成される、前記直流プラズマ反応チャンバの前記直流プラズマの陽光柱を含む領域に配置された基板支持ステージと、
を備える、
直流プラズマシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記直流電流源は、前記基板の処理中に、前記陽極と前記陰極との間に流れる一定の直流電流を設定するように構成され、この前記一定の直流電流は、前記直流プラズマを生成するように構成される、直流プラズマシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の直流プラズマシステムにおいて、組み合わさった前記陽極の電位及び前記一定の直流電流が、前記陰極の電位を確立する、直流プラズマシステム。
【請求項4】
請求項2に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記陽極の電位は、前記一定の直流電流とは独立して調整可能である、直流プラズマシステム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の直流プラズマシステムであって、さらに、前記直流プラズマ反応チャンバ内の前記陽光柱を含む領域に配置された導電性材料から作製される、表面電位が浮遊電位に等しくなるような基準プレート、を備える、直流プラズマシステム。
【請求項6】
請求項5に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記基板支持ステージ及び前記基準プレートは、前記直流プラズマ反応チャンバの縦座標に沿ったセグメント内に配置される、直流プラズマシステム。
【請求項7】
請求項6に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記基板支持ステージの中心と前記基準プレートの中心は、前記縦座標の方向と直交する線上に含まれる、直流プラズマシステム。
【請求項8】
請求項
5に記載の直流プラズマシステムであって、さらに、絶縁導電線を介して前記基準プレートと電気的に結合され、前記基準プレートの表面電位と前記基準グラウンドの電位との間の差に基づいてエラー信号を生成するように構成された制御電子機器、を備える、直流プラズマシステム。
【請求項9】
請求項8に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記制御電子機器はオペアンプ又はエラーアンプを含む、直流プラズマシステム。
【請求項10】
請求項8に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記調整可能な直流電圧源は、前記エラー信号を受信し、前記エラー信号の値に基づいて前記陽極の電位を調整するように構成される、直流プラズマシステム。
【請求項11】
請求項10に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記調整可能な直流電圧源、前記基準プレート、及び前記制御電子機器は、前記浮遊電位を前記基準グラウンドの電位に維持する閉ループ制御システムを提供するように構成される、直流プラズマシステム。
【請求項12】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の直流プラズマシステムであって、さらに、前記基板支持ステージに容量結合され、前記基準グラウンドの電位を基準とする電圧レベルを有し、前記基板支持ステージの表面電位を制御するように構成されるバイアス信号
を発生させるように構成されたバイアス信号生成器、を備える、直流プラズマシステム。
【請求項13】
請求項12に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記バイアス信号発生器は、前記バイアス信号の波形特性を制御するように構成され、前記波形特性は、前記電圧レベル、周波数、デューティサイクル、立ち上がりエッジ、又は立ち下がりエッジを含む、直流プラズマシステム。
【請求項14】
請求項12に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記バイアス信号の前記電圧レベルがゼロボルトであるとき、前記基板支持ステージの前記表面電位はゼロボルトであり、前記直流プラズマ中の自由電子のエネルギー準位はゼロボルトであり、前記基板の表面の原子核のエネルギー準位はゼロボルトである、直流プラズマシステム。
【請求項15】
請求項14に記載の直流プラズマシステムにおいて、前記バイアス信号の前記電圧レベルを正の電圧ステップで増加させると、前記基板支持ステージの前記表面電位は、同一の正の電圧ステップで増加し、前記自由電子のエネルギー準位は前記正の電圧ステップに比例して増加する、直流プラズマシステム。
【請求項16】
請求項15に記載の直流プラズマシステムにおいて、正の前記電圧ステップは、前記基板の処理中に、前記自由電子のエネルギー準位を前記原子核に結合した前記電子のエネルギー準位まで上昇させるように選択可能である、直流プラズマシステム。
【請求項17】
前記基板の表面を加工する方法であって、請求項1~
4のいずれか一項に記載の直流プラズマシステムを介して前記基板を処理する、方法。
【請求項18】
基板の表面を加工する方法であって、
直流プラズマの陽光柱を生成するように構成された直流プラズマ反応チャンバの領域内に基板支持ステージを配置するステップと、
調整可能な直流電圧源及び直流電流源をそれぞれ直流プラズマ反応チャンバの陽極及び陰極に結合することにより直流プラズマを生成するステップと、
前記生成するステップに基づいて、前記基板支持ステージの表面に浮遊電位を生成するステップと、
前記直流電流源により前記陽極と前記陰極との間の前記直流電流を一定に維持しながら、前記調整可能な直流電圧源により前記陽極の電位を調整するステップと、そして、
前記調整及び前記維持に基づいて、前記浮遊電位を前記調整可能な直流電圧源の基準グラウンドの特定の電位に設定すると、
を備える、
方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、さらに、
前記基板支持ステージ上に基板を配置するステップと、
バイアス信号を前記基板支持ステージに容量結合し、前記直流プラズマ中の自由電子に通電するステップと、
前記通電に基づき、前記自由電子を前記基板の表面に加速するステップと、そして、
前記加速に基づき、前記バイアス信号の電圧レベルは、前記特定の物質を構成する原子の前記電子の特定のエネルギー準位をターゲットとして選択され、前記自由電子を前記基板の表面の原子と衝突させ、それによって電子と原子核との間のエネルギー結合を破壊するステップと、
を備える、
方法。
【国際調査報告】