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特表2024-545560ウイルスキャプシドタンパク質を処理及び分析するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ウイルスキャプシドタンパク質を処理及び分析するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/06 20060101AFI20241203BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241203BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20241203BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241203BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20241203BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 14/075 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 14/155 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 14/035 20060101ALI20241203BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 1/12 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C12P21/06
G01N27/62 X ZNA
G01N27/62 V
G01N30/72 C
G01N30/88 J
G01N33/48 A
G01N33/68
C07K14/075
C07K14/155
C07K14/035
C12P21/00 B
C07K14/015
C07K1/14
C07K1/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522463
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022078725
(87)【国際公開番号】W WO2023062223
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/256,111
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】21205732.7
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】63/368,803
(32)【優先日】2022-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】391003864
【氏名又は名称】ロンザ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
(71)【出願人】
【識別番号】518402174
【氏名又は名称】ロンザ ヒューストン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】モスタファ・ザレイ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ヤーン
(72)【発明者】
【氏名】アタナス・コウロヴ
(72)【発明者】
【氏名】ポン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ・ミヒャエル・ハーラー
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ジョンヴォー
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA12
2G041GA01
2G041GA09
2G041HA01
2G045BB02
2G045CB21
2G045DA36
2G045FB06
4B064AG32
4B064CA12
4B064CE10
4B064CE20
4B064DA13
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA09
4H045CA01
4H045CA03
4H045EA53
4H045FA70
4H045GA21
(57)【要約】
本開示は、ウイルスタンパク質の試料から、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスキャプシドタンパク質を含む、消化されたウイルスタンパク質を調製するための方法、並びに液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法を介してそのような消化されたウイルスタンパク質を分析する方法を提供する。方法は、消化されたウイルスタンパク質を急速かつ容易に調製するための、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)の混合物の使用を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化されたウイルスタンパク質を調製する方法であって、
a.ウイルスタンパク質を、前記ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、
b.前記ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、
c.前記ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、を含む、方法。
【請求項2】
消化されたウイルスタンパク質を分析する方法であって、
a.ウイルスタンパク質を、前記ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、
b.前記ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、
c.前記ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、
e.液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介して前記消化されたウイルスタンパク質を分析することと、を含む、方法。
【請求項3】
d.前記SDCを前記溶液から除去するステップを更に含み、
ステップdが、ステップc)の後及びステップe)の前に実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ウイルスタンパク質が、アデノ随伴ウイルスキャプシドタンパク質(AAVキャプシドタンパク質)、アデノウイルスタンパク質、レンチウイルスタンパク質、レトロウイルスタンパク質、又は単純ヘルペスウイルスタンパク質である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ウイルスタンパク質が、AAVキャプシドタンパク質である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルスタンパク質が、アデノウイルスタンパク質である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アデノウイルスタンパク質が、アデノウイルス5、26、35、又は48タンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アデノウイルスタンパク質が、アデノウイルス5タンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ウイルスタンパク質が、レンチウイルスタンパク質である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスタンパク質が、約0.01%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む混合物中に溶解される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスタンパク質が、約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む混合物中に溶解される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスタンパク質が、約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.2%~1.0%(w/w)のDDMを含む混合物中に溶解される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記混合物が、約0.75%~1.25%(w/w)のSDC及び約0.5%~0.8%(w/w)のDDMを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合物が、約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.01%~1%(w/w)のDDMを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物が、約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.01%~0.6%(w/w)のDDMを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記混合物が、約0.2%~0.4%(w/w)のSDC及び約0.05%~0.2%(w/w)のDDMを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記混合物が、約1:0.5w/w又は約3.5:1w/w(SDC:DDM)の比を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
溶液中に溶解するステップb.が、約pH6.0~約pH9.0で生じる、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
消化するステップc.が、約30℃~40℃で、約2~12時間の期間にわたって行われる、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
沈殿させるステップa.が、クロロホルム/メタノール/水での沈殿及び遠心分離を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
消化するステップc.が、トリプシンで消化することを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記消化が、約20:1~約100:1w:wのウイルスタンパク質:トリプシンの比で行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記消化されたウイルスタンパク質が、約3~70アミノ酸長である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
分析するステップe.が、まず緩衝液交換又は脱塩ステップを実施することなしに、前記消化されたウイルスタンパク質を液体クロマトグラフィー質量分析計に注入することを含む、請求項2~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
LC-MS/MSによって分析される溶液体積が、50μL未満である、請求項2~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ウイルスタンパク質を含有する前記試料が、約0.001mg/mL~約0.10mg/mLのウイルスタンパク質の濃度を有する、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウイルスタンパク質の試料から、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスキャプシドタンパク質を含む、消化されたウイルスタンパク質を調製するための方法、並びに液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法を介してそのような消化されたウイルスタンパク質を分析する方法を提供する。方法は、消化されたウイルスタンパク質を急速かつ容易に調製するための、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)の混合物の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、低毒性、ウイルス血清型の利用可能性、及び安定した遺伝子発現により、高い安全性及び効率を有する、遺伝子療法用途のための優れた選択肢となっている。例えば、Flotte,T.R.,Gene therapy progress and prospects:recombinant adeno-associated virus(rAAV)vectors.Gene Ther 2004,11(10),805-10を参照されたい。
【0003】
AAVは、正二十面体タンパク質キャプシドシェルに封入された一本鎖DNAで構成される。キャプシドは、共通のC末端アミノ酸配列を共有する1:1:10のおよそのモル比での3つのウイルスタンパク質(VP)(VP1、VP2、及びVP3)の60個のサブユニットで構成される。
【0004】
キャプシドウイルスタンパク質の不均一性を決定するための堅牢で、便利な分析アプローチは、Sf9昆虫及びヒト胎児腎臓HEK293細胞を含むプロデューサー細胞株からの組換えAAVの産生のための最近開発された方法を補完するために必要とされる。例えば、米国食品医薬品局(FDA)は、同じ施設における他の製品からの遺伝子療法製品(例えば、AAV血清型)の特定を推奨する。AAV血清型を特定するための最も一般的な現在の技法は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及びイムノブロッティングである。しかしながら、両方の技法は、高度の類似性を有する製品について十分な感度を欠いており、各タイプのAAVについて高度に特異的な抗体が生成されなければならない。
【0005】
洗剤又はカオトロピック剤の使用、続いて消化酵素のプロテアーゼ活性を保存するために必要な脱塩又は希釈を伴う、プロテオミクス研究における質量分析法分析の前に効率的なタンパク質抽出及び消化を可能にするいくつかの試料調製戦略が開発されている。しかしながら、複数のワークアップステップは、必然的に実質的な試料損失をもたらし、トレースVPの詳細なLC-MS/MS特徴分析のために単回注入でLCカラムに装填することができない低濃度で高体積の消化されたVP材料を生成する。また、AAV分析は、VPを放出するための酢酸によるキャプシドの変性、続いてプロテオミクス試料ワークアップと適合性であるものへの緩衝液の交換を含む、標準的なプロテオミクス研究におけるものに対する追加の試料取り扱いステップ(及び結果的な損失)を必要とする。そのような多段階試料調製を含むプロトコルは、正確な構造情報を提供することができるが、それらは、時間がかかり、堅牢性を欠き、よって、ルーチン定量分析には適していない。
【0006】
タンパク質沈殿は、多様なマトリックスからタンパク質を単離するために広く使用されてきたが、その最適化は、標的タンパク質(化学及び濃度)、マトリックス(特に製剤緩衝液のイオン強度)、並びに最適なインキュベーション時間、温度、及び有機溶媒のタイプなどの、可変パラメータのばらつきに起因して、大きな課題のままである。これらのパラメータの全ては、方法の性能に影響を及ぼし得、低い又は一貫性のないタンパク質回収につながる場合がある。最近の研究によると、98±1%回収をもたらす、酵母溶解物からのタンパク質のアセトン沈殿のための最適化された条件は、塩化ナトリウム(1~100mM)の添加及び室温(RT)での短いインキュベーション時間(2分)を含む。しかしながら、定義された試料からタンパク質を沈殿させるための最適な手順は、異なるマトリックスを有する他の試料におけるタンパク質の実質的な損失をもたらし得る。よって、複雑なマトリックス中に非常に低濃度で存在するため、特定の最適化は、特にVPにとって重要である。
【0007】
アデノ随伴ウイルスの3つのキャプシドウイルスタンパク質(VP1、2、及び3)の詳細な特徴分析は、遺伝子療法製品及びプロセスの一貫性を確保するために切実に必要とされる。これらのタンパク質は、典型的には、高濃度の賦形剤及び塩を含有するマトリックス中に非常に低濃度で存在する。よって、プロテオミクス分析前の試料調製のための便利な方法の必要性がある。
【0008】
同様に、アデノウイルス(AdV)は、最近、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ワクチンの広く使用された治療ベクターとなっている。AdVは、二本鎖DNAを封入するいくつかのタンパク質から形成された正二十面体キャプシドを有する大型の、非エンベロープウイルスである。使用される細胞株のタイプ又は産生及び精製の規模の改変は、AdVの組成に影響を与え、ウイルス粒子の細胞との相互作用に影響を与え、したがって、製品の生物学的活性及び効力に影響を与えることができる。VPは、ウイルス粒子による感染の初期段階における主要成分及びキープレーヤーであるため、それらの不均一性及び含有量は、製品及びプロセス一貫性を確保するために評価されなければならない。ペプチドマッピングは、これらのタンパク質、例えば、それらのアミノ酸配列及び翻訳後修飾(PTM)に関する詳細な情報を提供することができ、これは、製造プロセスの開発及び最適化にとって重要である。しかしながら、試料調製は、それらの低濃度及び広大な化学量論的範囲のために、AdVのウイルスタンパク質(VP)の成功裏のプロテオミクス分析にとって主なボトルネックのままである。
【0009】
本発明は、タンパク質沈殿、続いてデオキシコール酸ナトリウム(SDC)/Nドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)中に再溶解することを伴う、高速、再現可能なVP試料調製アプローチを提供し、更なるクリーンアップステップなしに低体積トリプシン消化物の生成を可能にする。この沈殿方法の適合性は、得られたタンパク質ペレットをグアニジン塩酸塩(Gu-HCl)中に溶解し、続いてAsp-N消化によって更に評価された。それぞれ、トリプシン及びAsp-N消化を用いたこのアプローチを使用して、AAV VP1の100%及び99.2%配列カバレッジが得られた。加えて、AAV VP1、VP2、及びVP3のN及びC末端アミノ酸配列は、それらのPTMとともに完全に特徴分析された。
【0010】
本明細書に記載されるように、より低いSDC/DDM濃度の使用は、SDCの除去を回避し、高いアミノ酸配列カバレッジ(平均してAdv5 VPにおけるアミノ酸の92%)を有するAdV5の全ての主要構造タンパク質の特定、及びトリプシンプロテアーゼを使用した単回LC-MS/MS実験における53個のPTMの定量化を可能にした。
【0011】
提示される方法は、再現性が高く、堅牢であり、AAV及びAdV血清型などの、ウイルスのプロテオミクス研究に適している。更に、それは労働集約的ではなく、多量及び少量、両方の出発材料に容易に適合され得る。
【発明の概要】
【0012】
いくつかの実施形態では、消化されたウイルスタンパク質を調製する方法であって、ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、を含む、方法が本明細書に提供される。
【0013】
更なる実施形態では、消化されたウイルスタンパク質を分析する方法であって、ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、SDCを溶液から除去することと、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介して消化されたウイルスタンパク質を分析することと、を含む、方法が本明細書に提供される。
【0014】
実施形態では、より低濃度のSDCがLC-MS/MS分析に干渉しないことが見出されているため、溶液からSDCを除去するステップは省略することができる。したがって、消化されたウイルスタンパク質を分析する方法であって、ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介して消化されたウイルスタンパク質を分析することと、を含む、方法も本明細書に提供される。
【0015】
実施形態では、ウイルスタンパク質は、アデノ随伴ウイルスキャプシドタンパク質(AAVキャプシドタンパク質)、アデノウイルスタンパク質、レンチウイルスタンパク質、レトロウイルスタンパク質、又は単純ヘルペスウイルスタンパク質である。好適には、ウイルスタンパク質は、AAVキャプシドタンパク質である。追加の実施形態では、ウイルスタンパク質は、アデノウイルスタンパク質、例えば、アデノウイルス5、26、35、又は48タンパク質である。好適には、アデノウイルスタンパク質は、アデノウイルス5タンパク質である。例示的な実施形態では、ウイルスタンパク質は、レンチウイルスタンパク質である。
【0016】
好適には、ウイルスタンパク質は、約0.01%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む、混合物中に溶解される。例えば、混合物は、約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1%(w/w)のDDMを含む。実施形態では、混合物は、約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.2%~1.0%(w/w)のDDMを含むか、又は混合物は、約0.75%~1.25%(w/w)のSDC及び約0.5%~0.8%(w/w)のDDMを含む。好適には、混合物は、約1:0.5w/w(SDC:DDM)の比を含む。混合物はまた、より低い洗剤濃度、例えば、約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.01%~1%(w/w)のDDMを含み得る。実施形態では、混合物は、約0.01%~0.6%(w/w)で及び約0.01%~0.6%(w/w)のDDMを含み得るか、又は混合物は、約0.2%~0.4%(w/w)のSDC及び約0.05%~0.2%(w/w)のDDMを含む。好適には、そのような混合物は、約3.5:1w/w(SDC:DDM)の比を含み得る。
【0017】
実施形態では、溶液中での溶解は、約pH6.0~約pH9.0で生じる。好適には、消化は、約30℃~40℃で、約2~12時間の期間にわたって行われる。例示的な実施形態では、沈殿は、クロロホルム/メタノール/水での沈殿及び遠心分離を含む。好適には、消化は、トリプシンで消化することを含む。実施形態では、消化は、約20:1~約100:1w:wのウイルスタンパク質:トリプシンの比で行われる。
【0018】
好適には、消化されたウイルスタンパク質は、約3~70アミノ酸長である。
【0019】
例示的な実施形態では、分析は、まず緩衝液交換又は脱塩ステップを実施することなしに、消化されたウイルスタンパク質を液体クロマトグラフィー質量分析計に注入することを含む。好適には、LC-MS/MSによって分析される溶液体積は、50μL未満である。好適な実施形態では、ウイルスタンパク質を含有する試料は、約0.001mg/mL~約0.10mg/mLのウイルスタンパク質の濃度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本明細書に記載されるウイルスタンパク質抽出及び分析プロトコルの概要を示す。
図2図2A図2Gは、示されるパーセンテージのSDC/DDMを有するモノクローナル抗体A(mAb A)の全イオン電流(TIC)クロマトグラムを示す。
図3-1】図3Aは、Anc80キャプシドウイルスタンパク質のLC-UV-MS分析の結果を示す。
図3-2】図3B及び図3Cは、Anc80キャプシドウイルスタンパク質のLC-UV-MS分析の結果を示す。
図4】T23のトリプシンペプチドの抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す。
図5】トリプシンペプチドT33の抽出イオン電流(XIC)及びMS/MSスペクトルを示す。
図6図6A図6Cは、VP1のN及びC末端ペプチドのMS/MSスペクトルを示す。
図7図7A図7Dは、Asp-N消化後のVP2及び関連PTMのN末端アミノ酸のMS/MSスペクトルを示す。
図8】VP3のN末端アミノ酸配列のMS/MSスペクトルを示す。
図9】本明細書に記載されるように、SDCの除去を必要としない、修飾されたウイルスタンパク質抽出及び分析プロトコルの概要を示す。
図10】モノクローナル抗体A(mAb A)の全イオン電流(TIC)クロマトグラムを示す。(A)SDC除去後の上清及び(B)SDCペレットの水での洗浄のTIC。
図11】SDC除去を伴わない0.1%~0.4%w/vのSDC及び0.1%w/vのDDM(上7つのパネル)で、又は1%w/vのSDC及び0.5%w/vのDDM並びに追加のSDC除去での処理後の、トリプシン消化されたmAb AのTICクロマトグラムを示す。
図12】SDC除去を伴わない0.1%~0.4%w/vのSDC及び0.1%w/vのDDM(上7つのパネル)で、又は1%w/vのSDC及び0.5%w/vのDDM並びに追加のSDC除去での処理後の、モノクローナル抗体A(mAb A)の8つの選択されたペプチドの抽出イオン電流(XIC)を示す。
図13】pIX及びpVIのN末端アミノ酸配列のMS/MSスペクトルを示す。(A)メチオニンを含まず、セリンのアセチル化を含む、pIXのN末端のアセチル化ペプチド。(B)pVIのN末端ペプチドからのアセチル化メチオニン、並びに(C)アセチル化及び酸化メチオニン。b1イオンの拡大された質量スペクトルは、対応するインセットにおける観測された質量シフト(+16Da)で、B及びCに表示される。
図14】AdV5のVPの(A)リン酸化ペプチド及び(B)脱アミド化ペプチドの典型的なMS/MSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
「a」又は「an」という単語の使用は、特許請求の範囲及び/又は明細書において「含む」という用語とともに使用される場合、「1つ」を意味してもよいが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、及び「1又は1を超える」の意味とも一致してもよい。
【0022】
本出願全体を通して、「約」という用語は、値が、その値を決定するために使用される方法/デバイスについての誤差の固有のばらつきを含むことを示すために使用される。典型的には、用語は、状況に応じて、例えば、測定方法の正確度に応じて、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、若しくは20%、又はそれ未満のばらつきを包含することを意味する。
【0023】
特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、代替物のみを指すように明示的に示されるか又はその代替物が互いに排他的でない限り、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物のみ及び「及び/又は」を指す定義を支持する。
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合、「含む(comprising)」(及び「含む(comprising)の任意の形態、例えば、含む(comprise)及び含む(comprises))、「有する(having)」(及び有する(having)の任意の形態、例えば、有する(have)及び有する(has))、「含む(including)」(及び「含む(including)の任意の形態、例えば、含む(includes)及び含む(include))、又は「含む(containing)」(及び「含む(containing)の任意の形態、例えば、含む(contains)及び含む(contain))という文言は、包括的又はオープンエンドであり、追加の、記載されていない、エレメント又は方法ステップを除外しない。
【0025】
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)は、VPの構造及びそれらの転写後修飾(PTM)を研究するための強力な技法である。しかしながら、LC-MS/MSによる特徴分析のためのVP試料の調製は、これらのタンパク質が、典型的には、多くの場合、賦形剤及び高濃度の塩を含有する、マトリックス中に非常に低濃度で存在するため、困難である。よって、効率的な試料調製は、精密かつ正確な結果にとって重要である。
【0026】
本明細書に記載される方法は、タンパク質沈殿、続いてデオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)の混合物中に再溶解することを伴う、試料調製アプローチを含み、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法を介したウイルスタンパク質分析のための更なるクリーンアップステップなしに、低体積消化物の生成を可能にする。
【0027】
例示的な実施形態では、消化されたウイルスタンパク質(VP)を調製する方法であって、
a)ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、
b)ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、
c)ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、を含む、方法が本明細書に提供される。
【0028】
好適には、本明細書に記載される方法のステップa)~c)は、この順序、a)~c)で連続して行われる。本明細書に記載されるように、ステップa)の結果は、沈殿したウイルスタンパク質を含有する沈殿物を提供する。ステップa)の沈殿物は、ステップb)において溶解される。ステップc)では、ステップb)の溶液中に存在するウイルスタンパク質は、プロテアーゼで消化され、消化されたウイルスタンパク質の溶液、すなわち、ペプチドの溶液を提供する。
【0029】
消化されたウイルスタンパク質を分析する方法であって、
a)ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、
b)ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、
c)ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、
d)SDCを溶液から除去することと、
e)液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介して消化されたウイルスタンパク質を分析することと、を含む、方法も本明細書に提供される。
【0030】
好適には、本明細書に記載される分析方法のステップa)~e)は、この順序、a)~e)で連続して行われる。本明細書に記載されるように、ステップa)の結果は、沈殿したウイルスタンパク質を含有する沈殿物を提供する。ステップa)の沈殿物は、ステップb)において溶解される。ステップc)では、ステップb)の溶液中に存在するウイルスタンパク質は、プロテアーゼで消化され、消化されたウイルスタンパク質の溶液、すなわち、ペプチドの溶液を提供する。ステップd)では、SDCは、消化されたウイルスタンパク質の溶液から除去され、分析の準備ができた溶液を提供する。ステップe)では、消化されたウイルスタンパク質が分析される。
【0031】
ステップd)は、SDC濃度がLC-MS/MS分析に干渉しないように十分に低い場合、省略することができる。したがって、消化されたウイルスタンパク質を分析する方法であって、
a)ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、
b)ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、
c)ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、
e)液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介して消化されたウイルスタンパク質を分析することと、を含む、方法も本明細書に提供される。
【0032】
好適には、分析方法のステップa)~e)は、この順序、a)~c)及びe)で連続して行われ得る。本明細書に記載されるように、ステップa)の結果は、沈殿したウイルスタンパク質を含有する沈殿物を提供する。ステップa)の沈殿物は、ステップb)において溶解される。ステップc)では、ステップb)の溶液中に存在するウイルスタンパク質は、プロテアーゼで消化され、消化されたウイルスタンパク質の溶液、すなわち、ペプチドの溶液を提供する。ステップe)では、消化されたウイルスタンパク質が分析される。
【0033】
本明細書で使用される場合、「ウイルスタンパク質」という用語は、ウイルスの一部を形成するタンパク質、例えば、ウイルスのキャプシドタンパク質などの、ウイルスの構造成分を形成するタンパク質を指す。
【0034】
本明細書に記載される方法に従って調製及び分析することができる、ウイルスタンパク質又はウイルスタンパク質の例としては、アデノ随伴ウイルスキャプシドタンパク質(AAVキャプシドタンパク質)、アデノウイルスタンパク質、レンチウイルスタンパク質、レトロウイルスタンパク質、及び単純ヘルペスウイルスタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
好適な実施形態では、ウイルスタンパク質は、アデノ随伴ウイルス(AAV)タンパク質、特にAAVキャプシドタンパク質である。AAVは、正二十面体タンパク質キャプシドシェルに封入された一本鎖DNAで構成される。キャプシドは、共通のC末端アミノ酸配列を共有する1:1:10のおよそのモル比での3つのウイルスタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)の60個のサブユニットで構成される。
【0036】
更なる実施形態では、ウイルスタンパク質は、約150MDaの総分子量を有する正二十面体キャプシド内部に二本鎖DNAを含有するアデノウイルスタンパク質アデノウイルスである。ヒトアデノウイルスキャプシドは、メジャータンパク質(ヘキソン、ペントン塩基、及び繊維)、セメント/マイナータンパク質(pIIIa、pVI、pVIII、及びpIX)、及びコアタンパク質(pV、pVII、pTP、pμ、AVP、及びpIVa2)として分類される、本明細書においてウイルスタンパク質「VP」と称される13個の異なるタンパク質で構成される。メジャー及びマイナータンパク質は、AdV5タンパク質の総重量の最も高い及び最も低いパーセンテージ(それぞれ、約64.1%及び約15.6%)を占める。例示的な実施形態では、アデノウイルスタンパク質は、アデノウイルス5、26、35、又は48タンパク質である。
【0037】
レンチウイルスは、逆転写酵素を有する一本鎖RNAゲノムを含有する。例示的なレンチウイルスタンパク質は、当該技術分野で既知である。
【0038】
「AAVキャプシドタンパク質」が、異なる比及び量のAAV由来の3つのウイルスタンパク質を含む、2つ以上のAAVキャプシドタンパク質を含むことを意味することを理解されたい。同様に、「AdV VP」は、異なる比及び量のAdV由来の13個のウイルスタンパク質を含む、2つ以上のAdVタンパク質を含むことを意味する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「沈殿」は、AAVキャプシドタンパク質を含む、ウイルス由来のタンパク質が、溶液から除去され、質量分析法などのような、様々な機器を介するものを含む、更なる分析及び特徴分析を可能にする、方法を指す。実施形態では、方法は、好適には、ウイルスタンパク質を含有する試料からウイルスタンパク質を沈殿させることを含む。「試料」は、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、又はAAVを含む、ウイルスを産生する任意の生体反応の産生物を指し、好適には、例えば、HEK-293、Sf9細胞株、HeLa細胞などを含む、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞を含む、1つ以上の細胞株からのウイルスの産生を指す。
【0040】
ウイルスタンパク質を沈殿させる様々な方法は、当該技術分野で既知である。例えば、ウイルスタンパク質は、タンパク質ペレットを形成する遠心分離を含む、クロロホルム/メタノール/水沈殿技法を使用して沈殿させることができる。そのような方法は、各添加後の短いボルテックス混合及び高速遠心分離ステップ(14,000gで10秒)で、メタノール、クロロホルム、及び水の試料への連続した添加を含む。タンパク質沈殿物は、一般に、上相と下相との間の白色の層として界面に現れる。上相を除去及び廃棄することができ、次いで冷メタノールが残った混合物に添加される。遠心分離後、上清が除去される。最後に、ペレットが真空遠心分離によって乾燥される。
【0041】
追加の沈殿方法は、冷アセトンの使用、続いて冷凍庫での保存(例えば、約60分)、遠心分離、上清の除去、次いでタンパク質ペレットの乾燥を含む。
【0042】
ウイルスタンパク質の沈殿後、ウイルスタンパク質は、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解されて、溶液が生成される。本明細書で使用される場合、ウイルスタンパク質を「溶解すること」は、SDC及びDDMを含む混合物中のウイルスタンパク質の作動溶液の生成を意味するが、ウイルスタンパク質の完全溶解を必ずしも必要としない。代わりに、溶解は、混合物中のウイルスタンパク質の、懸濁液、又はほぼ懸濁液の生成も含み得る(すなわち、透明な溶液が形成され得る一方で、SDC/DDM混合物の使用時に濁った又はわずかに沈殿した溶液/懸濁液も生じ得る)。
【0043】
本明細書に記載されるように、驚くべきことに、ウイルスタンパク質消化の一部としてのSDC及びDDMの混合物の使用は、試料処理ステップを著しく低減し、広範囲の生物学実験室にアクセス可能にし、プロテオミクスワークフローにおいて高い専門知識の必要性がないことが見出されている。例示的な実施形態では、ウイルスタンパク質は、約0.01%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む、混合物中に溶解される。
【0044】
実施形態では、ウイルスタンパク質は、約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む、好ましくは約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.2%~1.0%(w/w)のDDMを含む、より好ましくは約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.4%~1.0%(w/w)のDDMを含む、混合物中に溶解される。混合物は、水性混合物である。w/wとして表される全てのパーセンテージについて、パーセンテージは、混合物の総重量に対する、成分の重量を指す。例えば、混合物中のSDCの量は、約0.4%~1.6%、又は約0.5%~1.5%、又は約0.6%~1.5%、約0.75%~1.25%、約0.8%~1.2%、約0.9%~1.1%、又は約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約1.1%、又は約1.2%(w/w)であり得る。混合物中のDDMの量は、約0.01%~1.0%(w/w)、又は約0.02%~1.0%(w/w)、又は約0.05%~1.0%(w/w)、又は約0.1%~0.6%、又は約0.2%~1.0%(w/w)、又は約0.3%~1.1%(w/w)、又は約0.4%~1.0%、約0.5%~0.9%、約0.5%~0.8%、約0.5%~0.7%、約0.5%~0.6%、又は約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、又は約0.9%(w/w)であり得る。
【0045】
好適な実施形態では、混合物は、約0.75%~1.25%(w/w)のSDC及び約0.5%~0.8%(w/w)のDDMを含み、より好適には、混合物は、約1:0.5(w/w)(SDC:DDM)の比を含む。
【0046】
SDC及びDDMの混合物は、例えば、重炭酸アンモニウムなどの重炭酸緩衝液、例えば、約30mM~100mM、又は約30mM~70mM、好ましくは約50mMの重炭酸アンモニウムを含み、6~9のpH、又は約pH8を有する、好適な緩衝液中で調製される。当該技術分野で既知の追加の緩衝液、例えば、トリス-HCl緩衝液を使用して、混合物を調製することもできる。好適には、混合物は、約pH6.0~約pH9.0のpHで調製され、その結果、ウイルスタンパク質の溶解は、約pH6.0~約pH9.0のpHで、好適には約pH7~約pH9のpHで、より好適には約pH8で生じる。
【0047】
方法は、ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することを更に含む。本明細書で使用される場合、「プロテアーゼ」は、タンパク質を分解する酵素、具体的には、ウイルスタンパク質を分解することができる酵素を指す。例えば、トリプシン、Asp-N、Lys-C、Lys-N、キモトリプシン、又はGlu-Cプロテアーゼ、好ましくはトリプシン又はAsp-Nを含む、本明細書に記載される方法における使用のための例示的なプロテアーゼ。本明細書に記載される方法で使用することができる追加のプロテアーゼは、当該技術分野で既知である。
【0048】
プロテアーゼでの消化時間及び条件は、選択されたプロテアーゼに基づいて変動するであろう。しかしながら、トリプシンが利用される場合、消化は、一般に、約2~約4時間、例えば、約3時間を含む、約2~12時間の期間にわたって約30℃~40℃(好適には約37℃)で行われる。使用されるプロテアーゼの量はまた、選択された酵素に基づいて変動するであろう。トリプシン消化のために、プロテアーゼは、好適には、約20:1~約100:1w:wの、又は約20:1~約40:1w:w、より好適には約30:1w:wの比で使用され、比は、ウイルスタンパク質対トリプシン(ウイルスタンパク質:トリプシン)の重量比である。好適には、タンパク質は、約pH6.0~約pH9.0で、及び約30℃~40℃で溶解している。溶解は、通常、数分の範囲の高速ステップであるが、約2~12時間の期間、例えば、約2~4時間、例えば、約3時間まで延長することができる。
【0049】
プロテアーゼ消化は、例えば、酸、例えば、トリプシンの場合ではトリフルオロ酢酸(TFA)又はジフルオロ酢酸(DFA)、及びAsp-Nではギ酸の添加を含む、好適な方法を使用して停止され得る。
【0050】
実施形態では、プロテアーゼでのウイルスタンパク質の消化後、SDCは、好適には、溶液から除去される。次いで、この溶液は、本明細書に記載されるように、LC-MS/MSを介したものを含む、分析プロトコルで利用することができるか、又はその後の分析のために所望に応じて保存することができる。SDCは、例えば、酸化(すなわち、酸沈殿)によって、消化物から除去することができる。溶液からSDCを除去するための方法は、好適には、遠心分離を介してSDC(わずかな濁りとして現れ得る)を分離することと、ウイルスタンパク質を含有する上清を除去することと、を含む。しかしながら、このステップはまた、取り扱いの問題のため、及びペプチド、特に長い疎水性のものがSDCと共沈殿し得るため、ペプチドの損失をもたらす。例えば、本明細書に記載される実験は、SDC沈殿物の洗浄液が、混合物中に以前に存在したペプチドの約20%を依然として含有することを示している。これは、遺伝子療法ベクター、例えば、AdVの分析で生じ得るように、低量で存在するタンパク質を分析するときに特に望ましくない。
【0051】
本明細書に更に記載されるように、驚くべきことに、より低濃度でのSDC及びDDMの混合物の使用は、SDC除去の必要性を回避し(そうでなければ、エレクトロスプレーイオン化を抑制し、ペプチドのクロマトグラフィー分離に干渉し得る)、よって、後続のプロテアーゼ(例えば、トリプシン)切断のための優れたタンパク質可溶化及び変性を依然として可能にしながら、試料損失を低減し、別の時間のかかる処理ステップを排除することが見出されている。追加の利点として、そのような混合物は、プロテアーゼ消化反応を停止することなしに、消化ステップ後にLC-MS/MSを使用して直接分析することができる。よって、他の例示的な実施形態では、ウイルスタンパク質は、約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.005%~1.0%(w/w)のDDMを含む、好ましくは約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.005%~1.0%(w/w)のDDMを含む、より好ましくは約0.01%~0.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む、混合物中に溶解される。より具体的には、混合物は、約0.01%~0.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~0.6%(w/w)のDDMを含み得る。そのような実施形態では、方法は、好適には、溶液からSDCを除去するステップd)を含まない場合がある。混合物は、水性混合物である。w/wとして表される全てのパーセンテージについて、パーセンテージは、混合物の総重量に対する、成分の重量を指す。例えば、混合物中のSDCの量は、約0.01%~0.6%、又は約0.02%~0.5%、又は約0.05%~0.5%、約0.1%~0.5%、約0.2%~0.4%、約0.3%~0.4%、又は約0.15%、約0.2%、約0.25%、約0.3%、約0.35%、又は約0.4%(w/w)であり得る。混合物中のDDMの量は、約0.005%~1.0%(w/w)、約0.01%~1.0%(w/w)、又は約0.01%~0.8%(w/w)、又は約0.01%~0.6%、約0.02%~0.6%、約0.05%~0.6%、約0.05%~0.5%、約0.05%~0.2%、又は約0.05%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、又は約0.5%(w/w)であり得る。
【0052】
好適な実施形態では、混合物は、約0.2%~0.4%(w/w)のSDC及び約0.05%~0.2%(w/w)のDDMを含む。好適には、混合物は、約3.5:1(w/w)(SDC:DDM)の比を含む。
【0053】
よって、より低濃度のSDC及びDDMを使用する修飾された方法は、潜在的なプロテアーゼ(例えば、トリプシン)切断部位を増加させ、疎水性ペプチドの可溶性を増強するSDC/DDM混合物の能力に起因する配列カバレッジを維持しながら、必要とされる試料処理ステップ及び低減した試料損失の観点での著しい改善を表す。
【0054】
本明細書に記載されるように、驚くべきことに、ウイルスタンパク質消化プロセスの一部としてのSDC及びDDMの混合物の使用は、消化後にいずれのクリーンアップステップも必要としないことが見出されている。
【0055】
洗剤はウイルスタンパク質の逆相(RP)クロマトグラフィー及びMS分析に著しく干渉することができることが周知であるため、洗剤の除去は、LC-MS/MSを介したウイルスタンパク質の分析を著しく改善する。本明細書に記載される方法を介して除去することができる洗剤の例には、様々なポロキサマー(非イオン性トリブロックコポリマー)、並びにTriton X-100、NP-40、Tween 20、及びTween 80などの他の非イオン性洗剤が含まれる。
【0056】
本明細書に記載される方法は、最大100個のアミノ酸のアミノ酸長を有する消化されたウイルスタンパク質の、調製、及び最終分析を可能にする。例えば、抽出され、異なるプロテアーゼで消化され、最終的に分析されるウイルスタンパク質は、好適には、3~90アミノ酸長、3~80アミノ酸長、3~70アミノ酸長、3~60アミノ酸長、3~50アミノ酸長、又は3~40アミノ酸長を含む、3~100アミノ酸長を有するペプチドを含む。
【0057】
実施形態では、本明細書に記載される方法は、ウイルスタンパク質のプロテアーゼでの消化後、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介してウイルスタンパク質を分析することを更に含む。そのような実施形態では、方法は、消化後だが分析前に、溶液からSDCを除去することを更に含むことができる。除去は、LS-MS/MSによる後続の分析のために、タンパク質含有画分の後続の分離での遠心分離によって行うことができる。
【0058】
追加の実施形態では、ウイルスタンパク質を分析する方法が本明細書に提供される。本明細書に記載されるように、ウイルスタンパク質を分析する方法は、タンパク質の完全配列確認、並びにそれらの翻訳後修飾に関する情報とともに、ウイルスタンパク質のN及びC末端領域のアミノ酸配列の特徴分析を可能にする。分析されたウイルスタンパク質がウイルスキャプシドタンパク質(AAVキャプシドタンパク質を含む)である実施形態では、本明細書に記載される分析方法は、キャプシド同一性の高い信頼性の確認を提供し、キャプシドタンパク質における10Daよりも低い質量差を有する血清型を区別することができる。
【0059】
分析する方法は、好適には、ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含む試料から沈殿させることと、ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、必要に応じて、好適にはSDCを溶液から除去することと、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介してウイルスタンパク質を分析することと、を含む。
【0060】
本明細書に記載されるように、ウイルスタンパク質を溶解することにおける使用のための混合物は、好適には、約0.01%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む。例示的な実施形態では、混合物は、約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.2%~1.0%(w/w)のDDMを含むか、又は混合物は、約0.75%~1.25%(w/w)のSDC及び約0.5%~0.8%(w/w)のDDMを含み、好適には、混合物は、約1:0.75w/w(SDC:DDM)の比を含む。混合物はまた、より低い洗剤濃度、例えば、約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含み得る。そのような混合物はまた、約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.01%~0.6%(w/w)のDDMを含み得るか、又は混合物は、約0.2%~0.4%(w/w)のSDC及び約0.05%~0.2%(w/w)のDDMを含む。好適には、混合物は、約3.5:1w/w(SDC:DDM)の比を含み得る。より低い洗剤濃度を使用する実施形態では、方法は、好適には、溶液からSDCを除去するステップd)を含まない場合がある。
【0061】
クロロホルム/メタノール/水での沈殿及び遠心分離の使用を含む、ウイルスタンパク質を沈殿させるための様々な方法が本明細書に記載される。好適には、ウイルスタンパク質は、例えば、トリプシンを含む、プロテアーゼで消化される。トリプシン消化のための例示的な方法は、本明細書に記載され、約20:1~約100:1w:w(ウイルスタンパク質:トリプシン)の比のトリプシンで消化することを含む。
【0062】
本明細書に記載されるように、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)は、ウイルスタンパク質の構造及びPTMを研究するための強力な技法である。しかしながら、LC-MS/MSによる特徴分析のためのウイルスタンパク質試料(ウイルスキャプシドタンパク質を含む)の調製は、これらのタンパク質が、典型的には、多くの場合、賦形剤及び高濃度の塩を含有する、マトリックス中に非常に低濃度で存在するため、困難である。例えば、ポロキサマーなどの、非イオン性洗剤は、遺伝子療法における収率を増加させるために、製造プロセスを改善するために頻繁に使用される。非常に低い濃度(例えば、0.001%、w/v)で存在するときでも、ポロキサマーは、VPの逆相(RP)クロマトグラフィー及びMS分析に強く干渉することができる。よって、効率的な試料調製は、精密かつ正確な結果にとって重要であり、本明細書に記載されるように、方法は、ポロキサマーを含む、ウイルス試料中に存在する任意の洗剤を実質的に除去する。
【0063】
ウイルスタンパク質を分析するための方法は、全体を通して記載される。好適には、分析方法は、消化されたウイルスタンパク質を液体クロマトグラフィー質量分析計に注入することを含むが、まず緩衝液交換又は脱塩ステップを実施する。本明細書に記載されるように、SDC及びDDMの混合物の使用は、そのような緩衝液交換及び脱塩ステップの省略を可能にし、ウイルスタンパク質分析方法の時間及び費用を大幅に減少させ、そのような方法の複雑さを低減する。更に、上記で指摘されるように、本明細書に記載されるより低濃度のSDC/DDM混合物は、LC-MS/MS分析と完全に適合し、したがって、試料中に残留し得ることが本発明者らによって見出されている。
【0064】
本明細書に記載される分析方法は、好適には、50μL未満であるLC-MS/MSを介した分析のための溶液体積を利用する。実施形態では、LC-MS/MSを介した分析に使用される溶液体積は、約3μL~約50μL、又は約10μL~約50μL、又は約20μL~約50μLである。
【0065】
抽出及び分析の方法は、約0.001mg/mL~約0.10mg/mLのウイルスタンパク質の濃度を有する試料で使用することができる。全体を通して記載されるように、方法は、約3~70アミノ酸の長さを有する消化されたウイルスタンパク質の分析に好適に使用される。
【実施例
【0066】
実施例1:AAVキャプシドタンパク質の抽出及び分析
図1は、以下の実施例に概説された抽出及び分析プロトコルの概要を示す。ワークフローは、それらの体積を低減するためのカットオフフィルターでのAnc80 AAV試料の濃縮を含む。キャプシドタンパク質を沈殿させ、タンパク質ペレットを選択された変性試薬中に溶解し、タンパク質をトリプシン又はAsp-Nのいずれかを使用して消化する。最後に、生成されたペプチドをLC-MS/MSによって分析する。SDC/DDM割合は、トリプシン消化のために最適化され、2つの一般的な沈殿アプローチを比較した。
【0067】
材料及び方法
化学薬品
ジチオスレイトール(DTT)、トリス2-カルボキシエチルホスフィン(TCEP)、重炭酸アンモニウム(ABC)、ヨードアセトアミド(IAA)、超高純度ギ酸、酢酸、グアニジン-HCl(Gu-HCl)、トリス-HCl、アセトン、メタノール、アセトニトリル(ACN)、水、トリフルオロ酢酸(TFA)、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)、及びトリス塩基は、Sigma-Aldrich(St. Louis、MO)から購入した。アミコンウルトラ-4フィルター(10kDa MWCO)は、Millipore(Billerica、MA)から購入した。配列決定グレードのトリプシンは、Promega(Milwaukee、WI)から購入した。Asp-Nプロテアーゼは、Roche Diagnostics(Indianapolis、IN)から購入した。Zebaスピン脱塩カラム(7K MWCO、0.5mL)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)は、Thermo Fisher Scientific(Waltham、MA)から購入し、ジフルオロ酢酸(DFA)は、Waters(Milford、MA)から購入した。
【0068】
ベクター産生及び精製
Anc80試料は、Lonza Houston,Inc.でのスケーラブルな製造プラットフォーム上で産生及び精製した。懸濁HEK293細胞の一過性トリプルトランスフェクションは、Bingnan Gu et al.,Cell&Gene Therapy Insights 2018,4(S1),753-769,DOI:10.18609/cgti.2018.080に記載されるように、使用して、250Lの単回使用バイオリアクターにおいてAnc80を産生し、組換えAnc80のアリコートは、親和性クロマトグラフィー、続いてイオン交換クロマトグラフィーを使用して精製し、精製されたAnc80の試料を提供した。
【0069】
試料調製
Anc80 AAVキャプシドタンパク質の試料は、以下に記載されるように調製した。組換えヒトモノクローナルIgG4抗体(指定されたmAb A)はまた、標準的な製造手順を使用してLonzaで産生及び精製した。
【0070】
約1μgのAnc80 AAVキャプシドタンパク質(VP)を含有する上述のように調製された精製Anc80の100μL試料を、それらの体積を100μLから20μLまで低減し、2μLの酢酸を添加し、以下に記載されるインタクトタンパク質分析のためのLC-MS分析の前に10分間室温で得られた混合物をインキュベートすることによってそれらを変性させた後以下に記載されるインタクトタンパク質分析に供した。
【0071】
ペプチドマッピングは、上記のように調製された精製Anc80の500μL試料(約5μgのAnc80 AAVキャプシドタンパク質(VP)を含有する)の体積を、以下に記載されるようなタンパク質沈殿前に100μLまで低減した後に実施し、いわゆる「100μLの濃縮試料」を提供した。体積は、10,000g及び20℃で、メンブレンフィルターとしても知られる、10kDaのカットオフフィルターで試料を遠心分離することによって低減した。
【0072】
クロロホルム/メタノール/水によるタンパク質沈殿(アプローチ1):
VPは、クロロホルム/メタノール/水で沈殿させた。簡潔には、400μLのメタノール、100μLのクロロホルム、及び300μLの水を、100μLの濃縮試料(上述のように調製された)に連続して添加し、各添加後に短いボルテックス混合及び高速遠心分離ステップ(14,000gで10秒)を行った。タンパク質沈殿物は、上相と下相との間の白色の層として界面に現れた。上相を慎重に除去及び廃棄し、次いで300μLの冷メタノールを残った混合物に添加した。遠心分離後、上清を除去した。最後に、タンパク質ペレットを真空遠心分離によって乾燥させた。
【0073】
全ての沈殿ステップでは、冷溶媒を使用し、遠心分離を14,000g及び4℃で10分間実施した。
【0074】
冷アセトンによるタンパク質沈殿(アプローチ2):
氷冷アセトン(400μL)を100μLの濃縮試料(上述のように調製された)に添加し、溶液を-20℃の冷凍庫において60分間保存した。次いで、試料を14,000g及び4℃で10分間遠心分離し、上清を除去し、タンパク質ペレットを真空遠心分離によって乾燥させた。
【0075】
SDC及びDDMでの溶解並びにキャプシドタンパク質の酵素消化
トリプシン消化のために、上述のように調製されたタンパク質ペレットを、50mMの重炭酸アンモニウム(pH8.0)中SDC(1%w/w)及びDDM(0.5%w/w)の35μLの混合物中に溶解し、次いで室温でボルテックス混合した。タンパク質を、1μLの500mM TCEPを添加し、50℃で30分間インキュベートすることによって還元し、次いで37℃で3時間(30:1w/wのタンパク質対プロテアーゼ比での)トリプシン消化に供した。1μLのTFAを添加し、続いて慎重な混合によって、消化を停止した。わずかな濁りとして現れるSDCを(上記のように)遠心分離によって分離し、上清を以下に記載されるようにLC-MS/MS分析のためにHPLCバイアルに移し、それによってSDCを除去した。
【0076】
Asp-N消化のために、上述のように調製されたタンパク質ペレットを、6M Gu-HCl/0.1Mトリス中に溶解し、次いで、それぞれ、DTT及びIAAでの還元及びアルキル化に供した。次いで、試料を、製造業者の推奨に従ってZebaスピンフィルターを使用して脱塩し、37℃で12時間にわたってAsp-N(30:1w/wのタンパク質対プロテアーゼ比)でのタンパク質消化に供した。酵素活性を、5μLのギ酸を添加することによって停止し、次いで生成されたペプチドを以下に記載されるようにLC-MS/MSによって分析した。
【0077】
液体クロマトグラフィー-質量分析法
ペプチドマッピング分析
Orbitrap Fusion Lumos質量分析計(Thermo Fisher Scientific、Bremen、Germany)に結合したVanquish UPLCからなるシステムを、全ての分析に使用した。ペプチドマッピング分析のために、Acquity UPLCペプチドBEH C18カラム(300Å、1.7μm、2.1mm×150mm、Waters Corporation)を使用して、消化された試料中のペプチドを、水(A)及びアセトニトリル(B)中の0.1%v/vのギ酸からなる移動相で分離した。ペプチドを、0.25mL/分の流速で80分かけて1%v/vのB~60%v/vのBの線形勾配で溶出した。次いで、カラムを98%v/vのBで10分間洗浄し、次の注入前に8分間1%v/vのBでコンディショニングした。
【0078】
質量分析計は、200~2000m/zの範囲でデータ依存的に操作した。フルスキャンスペクトルを、100msの最大注入時間で2.0eの自動利得制御(AGC)目標値を使用して120,000の解像度で記録した。2~8の価数状態を有する最も強力なイオンのうち最大20個を、35%の正規化された衝突エネルギーを有する高エネルギーcトラップ解離(HCD)のために選択した。断片スペクトルを、5.0eのAGC目標値及び200msの最大注入時間を使用して、2.5Daの単離幅及び15,000の解像度で記録した。ピークは、10ppmのウィンドウ内で5秒間の前駆体選択から動的に除外した。選択されたペプチドを、3.5kVのスプレー電圧及び320℃の加熱キャピラリー温度でのエレクトロスプレーイオン化に供した。
【0079】
インタクトタンパク質分析
60℃で操作されるMAbPac RPカラム(4μm、3.0mm×100mm、Thermo Fisher Scientific)を使用して、インタクトVPを、水(A)及びアセトニトリル(B)中の0.1%v/vのDFAからなる移動相で0.25mL/分の流速で分離した。VPを、100%v/vのBでの2分後に、54分かけて10%v/vのB~38%v/vのBの線形勾配で溶出した。カラムを、10%v/vのBで14分間の勾配の終わりにコンディショニングした後、次の注入を開始した。溶出液からのUVシグナルを280nmで記録した。
【0080】
質量分析計は、以下の設定で操作した:キャピラリー電圧3.5kV、表面誘導解離(SID)電圧50%、解像度17,500、及びキャピラリー温度320℃。質量スペクトルは、m/z 800~3,500の範囲においてポジティブモードで取得した。
【0081】
データ分析
生質量スペクトルデータを、Protein Metrics(San Carlos、CA)で処理した。ペプチドマッピングのために、Anc80ウイルスキャプシドタンパク質配列(VP1、VP2、及びVP3)に対するデータベース検索を、それぞれ、MS及びMS/MS分析で検出されたペプチドについて6及び20ppmの耐性で実施した。N末端アセチル化、メチオニン酸化、リン酸化、及びアスパラギン脱アミド化を、可変修飾として検索に含めた。
【0082】
インタクト質量スペクトルを以下の設定でデコンボリュートした:質量範囲55,000~85,000Da、質量ピーク間の最小差15Da、質量ピークの最大数10、及びピーク共有無効化。
【0083】
結果及び考察
トリプシン消化のためのSDC/DDM割合の最適化
トリプシンは、ボトムアッププロテオミクス研究において現在使用される主なプロテアーゼのうちの1つである。しかしながら、使用されるプロテアーゼにかかわらず、標的タンパク質が変性され、消化緩衝液がプロテアーゼの活性を十分に保存し、消化物を含有するマトリックスがLC-MS/MS分析と適合性であることを確実にすることが重要である。これは、多くの場合、複数の緩衝液交換又は脱塩ステップを要求する。本明細書に記載されるアプローチは、LC-MS/MS分析の前に、タンパク質消化を損なうことなくタンパク質を効果的に変性させることができるため、SDCの使用を伴う試料調製プロセスを短縮する。トリプシンは、最大10%のSDCを有する溶液中で活性であるが、その濃度を増加させることは、分解された洗剤との共沈殿を通して疎水性ペプチドの損失を増加させることに留意されたい。そのような損失は、VPのトリプシン消化において特に望ましくなく、これは、SDC沈殿中に共沈殿し得るか、又は脱塩カラムからの溶出が不十分であり、情報の損失を引き起こし得る、いくつかの長いペプチドを生成し得る。これらの潜在的な問題を最小限に抑える努力において、DDMは、疎水性ペプチドの可溶性を増加させ、SDCとのそれらの共沈殿を回避するために、コンビナトリアル洗剤として使用される。DDMは、ペプチドのトリプシン消化及びクロマトグラフィー分離と適合性である非イオン性洗剤である。高濃度(≧80%)のACNは、逆相クロマトグラフィーカラムから溶出するために必要とされ、それはペプチド分離中のカラムの性能を改変しない。加えて、逆相勾配の終わりに溶出するDDMのピーク強度は、エレクトロスプレーイオン化におけるその弱いイオン化のために低い。
【0084】
疎水性ペプチドの回収を最大化するために、異なる濃度のDDMをまず調査した。材料及び方法に記載されるように、モノクローナル抗体(mAb A)を、異なる濃度のDDM(0.0、0.5、0.75、1.0、1.5、及び2.0%w/w)とともに1%SDC(w/w)を使用して変性させ、次いでトリプシン消化に供した。回収を評価するために、49個のアミノ酸を有するトリプシンペプチドを選択した。ピーク強度は、増加するDDM濃度に伴ってまず増加し、DDM濃度が0.5~0.75%であったとき最大であった(図2A~2Gを参照されたい)。mAb Aのトリプシン消化物の全イオン電流(TIC)クロマトグラムにおけるピークの類似性は、SDCへのDDMの添加がトリプシンの消化性能を改変しないことを示した。DDMのみを有するmAb Aのトリプシン消化物のTICは、DDMがタンパク質を変性させることができないことに関連する不完全な消化を明らかにした。しかしながら、より高い割合のDDMの使用は、逆相カラムの装填容量を減少させ得るため、推奨されない。したがって、0.5%DDMでの1%SDCを以下の実験で利用した。
【0085】
試験されたタンパク質沈殿アプローチの性能
タンパク質沈殿は、他の一般的に使用されるアプローチに対してVP試料調製について2つの大きな利点を有する。第一に、AAV(Anc80など)のキャプシドは、沈殿の目的のために添加される有機溶媒の添加直後に既に変性され得、有機溶媒VPのこの添加と同時に、又はそれに続いて、沈殿している。したがって、それは、一般的なプロテオミクスワークフローにおいて適用される中性緩衝液へのキャプシド酸変性ステップ及び後続の緩衝液交換の省略を可能にする。第二に、それは、VPを広範囲の洗剤から分離することができ、沈殿したVPは、低体積の変性試薬中に容易に溶解することができる。よって、タンパク質沈殿を適用するワークフローは、単回LC-MS/MS実行における全ての消化された材料の分析、並びに典型的には、低濃度及び/又は量でのプロセス開発又は下流処理試料において利用可能である、VPの詳細な特徴分析を可能にする。
【0086】
マトリックスの複雑さに加えて、VP3に対するVP1及びVP2の量の違い(それらの約1:1:10、VP1:VP2:VP3モル比による)は、プロテオミクス研究にとって大きな課題をもたらす。不十分な試料調製は、試料損失、VP(特にVP1)のシグナル対ノイズ閾値を低減すること、及びしたがって情報の損失をもたらし得る。2つの頻繁に適用されるタンパク質沈殿アプローチの性能を比較した:クロロホルム/メタノール/水による沈殿(アプローチ1)及びアセトンによる沈殿(アプローチ2)。両方のアプローチは、試料体積よりも大きな有機溶媒体積を必要とし、300μlよりも大きな体積を有する試料には好適ではない。したがって、試料は、材料及び方法に記載されるように、分析前に適切な分子量カットオフを有するフィルターメンブレンによる濃縮を必要とする。
【0087】
この研究で適用された両方の沈殿アプローチを使用して得られたタンパク質ペレットは、同じ条件下で消化されたが、後続のLC-MS/MS実行の結果は、実質的に異なった。アプローチ1は、>98%のカバレッジを有する、アプローチ2よりもより強い検出されたペプチドのシグナル強度及びアミノ酸配列についてのはるかに豊富な情報をもたらした。2つのアプローチ間の別の違いは、SDC/DDM溶液中のタンパク質ペレットの可溶性にあった。両方のアプローチを使用して得られたタンパク質ペレットは、同じ量のSDC/DDM中に溶解したが、アプローチ2で得られた溶液は、わずかに濁った一方、アプローチ1で得られたペレットは、完全に消失した。二相沈殿は、プロテオミクス分析前のアセトン沈殿よりも効率的にDNAを除去することができることが示されており、我々は、アプローチ2を使用して得られたペレットの不溶性は、VPとのDNAの共沈殿に関連し得ると仮定する。脂質及びDNAなどの不要な細胞材料の除去は、それが酵素消化及びクロマトグラフィー分離に実質的に干渉し得るため、重要である。
【0088】
我々の結果は、アプローチ2を適用した沈殿が、この研究で使用された試料マトリックスにおいてVPについて良好に機能しないが、アプローチ1が、良好な結果をもたらすことを示す。したがって、アプローチ1を使用して得られたデータのみが、以下のペプチドマッピングセクションにおいて提示される。
【0089】
インタクトタンパク質分析
主な目的は、VPの試料を調製するための高速、効率的、かつ堅牢な手順を開発することであったため、試料中に存在する全てのVP種を検出するために、初期スクリーニングにおいてインタクト質量分析を適用した。図3AにおいてUVクロマトグラムによって示されるように、VP1及びVP2がまず溶出し、主要(VP3)ピークの肩を形成した。46.5分(図3B)及び47.2分(図3C)の保持時間で溶出するピークのUV(280nm)クロマトグラム(図3A)及びデコンボリュートされた質量スペクトル。各ピークからの最も強いシグナルからの拡大されたデコンボリュートされた質量スペクトルは、対応するインセットにおいて表示される。
【0090】
81194.6Da、66,001.5Da、59,411.0Da、及び59,395.0Daの質量で4つのメジャーピークが検出された。66,001.5Daの測定された質量は、VP2のアミノ酸配列139~736に一致するが、81,194.6Da及び59,395.0Daの質量は、それぞれ、VP1のアミノ酸2~736及びVP3のアミノ酸204~736に対応し、いずれの場合も42Daの質量シフトを有し、各VPで1つのアセチル化を示す。
【0091】
59,411.0Daの質量を有する、他の主要ピークは、VP3のアセチル化204~736配列の酸化バリアントに対応する。加えて、VP3のアミノ酸204~736に対応する、59,350.0Daの質量を有する弱いシグナルが検出された。VP2の異なる修飾(アセチル化及びリン酸化)を有するいくつかの低強度シグナルも検出された。ジスルフィド結合の証拠が報告されていないため、還元されたジスルフィド結合が存在しないと仮定して、各VPの理論的質量を計算した。全ての検出されたシグナルの最も妥当な割り当てを表1に示す。
【表1】
【0092】
ペプチドマッピング分析:アミノ酸配列カバレッジ
複数の消化戦略は、VPのLC-MS/MS分析に適用されており、それらのアミノ酸配列の完全なカバレッジを確実にし、N及びC末端アミノ酸配列を確認し、PTMの位置を定量化及び局在化する。トリプシン消化は、典型的には、VP配列中のアルギニン(R)及びリジン(K)の低頻度に起因して完全な配列カバレッジを提供しておらず、長い疎水性トリプシンペプチド、又は後続のLC-MS/MS分析で見逃され得る小さな親水性トリプシンペプチドの生成を引き起こす高頻度のRを生じる。
【0093】
トリプシン消化後にエレクトロスプレーイオン化によって生成されたペプチドは、主に、それらのC末端アミノ酸(K及びR)による複数の価数(≧2)を有する。したがって、この研究におけるMS/MSスペクトル取得は、材料及び方法に記載されるように、複数の価数状態を有するイオンを検出するように設計された。VP1アミノ酸配列では、3つの親水性ペプチドを特定することができなかったため、得られたアミノ酸配列にはギャップがあった。トリプシンペプチドANQQK(aa34~38)は、いずれの反復でも検出されなかったが、ペプチドTAPGK(aa138~142)及びペプチドQQRVSK(QQR/VSK、aa486~491)は、反復のうちの1つで検出されなかった。これらの短いペプチドの手動検索は、主に一価イオンの形態で、逆相カラムのフロースルー(2.0~2.7分)におけるそれらの溶出を確認した。これらのイオンは、MS/MS取得中に断片化のために拒絶され、したがって、MS/MS情報の欠如のために、Protein MetricsソフトウェアによってVP1のアミノ酸配列において特定されなかった。移動相におけるより低い粒子孔サイズ(300Åの代わりに130Å)又はDFAのようなより強いイオン対合試薬を有するカラムの使用は、逆相カラム上でのこれらのペプチドのより良い保持を可能にし得る。
【0094】
次に、VP1のトリプシン消化によって生成された2つの大きなトリプシンペプチド(T23:aa171~238及びT33:aa323~390)の検出及び回収の問題を調査した。これらのペプチドは、非常に疎水性であり、したがって溶液中に保持するか、又は逆相カラムから溶出することが困難である。両方のペプチドを、適切なシグナル強度で成功裏に検出した。T23及びT33の抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びMS/MSシグナルは、それぞれ、図4及び図5に提示される。T33ペプチドは、80分の終了直後1~60%の溶媒B勾配(81分)に溶出するほど疎水性であったが、次の実行へのキャリーオーバーは観測されなかった。
【0095】
VP1の全ての親水性及び疎水性ペプチドは、トリプシン消化後に検出され、単回LC-MS/MS実行による100%配列カバレッジが得られた。これらの観測は、SDC/DDMがVPの単純で効率的なトリプシン消化を可能にすることを明確に実証する。
【0096】
材料及び方法に記載されるように、アプローチ1によるタンパク質沈殿物の現在のプロテオミクスワークフローとの適合性を評価するために、タンパク質ペレットをAsp-N消化及びLC-MS/MS分析に供した。得られたペプチドのVP1アミノ酸配列に対する検索は、>97%の配列カバレッジを示した。
【0097】
Asp-N消化はまた、VP1アミノ酸配列における高いアスパラギン酸頻度に起因して、いくつかの短いペプチドを生成し、これは、一価イオンをもたらし、したがって、得られたVP1アミノ酸配列におけるギャップをもたらし得る。4つのそのようなギャップがAsp-N消化後に得られた配列において検出された。N末端配列(aa1~12)は、いくつかのアスパラギン酸塩を含み、最適な条件下で以下の短いペプチドを提供することができる:MAA(aa1~3)、DGYLP(aa4~8)、及びDWLE(aa9~12)。細胞タンパク質の第1のメチオニン残基は、多くの場合、タンパク質合成後にメチオニンペプチダーゼによって切断され、次いで第2のアミノ酸残基は、アセチル化される。この修飾は、インタクト質量分析によって確認された(表1)。しかしながら、このペプチド(AA)も他のジペプチド(530~531及び609~610)も、Asp-N消化後のLC-MS/MS分析によって検出されなかった。
【0098】
Asp-N消化物において見逃された他のアミノ酸(DGYLP、DWLE、及びDFAV)についての手動検索は、高い疎水性のため、逆相カラムに強く保持された3つの一価イオンの存在を確認した(保持時間:それぞれ、33.6、35.0、及び32.2分)。合計で、6つのアミノ酸は、Asp-N消化を伴うプロトコルによって特定されず、これはよって99.2%のカバレッジを提供した。トリプシン消化が完全配列カバレッジを提供したため、追加のAsp-N消化を使用する主な利点は、トリプシン消化が見逃すMS/MS断片(例えば、ペプチドT23及びT33)を特定することである。
【0099】
VP1、VP2、及びVP3のN及びC末端配列の特徴分析
VP1、VP2、及びVP3は、同じC末端領域を共有し、それらのN末端のみが異なる。VP3アミノ酸配列全体(aa203~736)は、VP2(aa138~736)に巻き込まれ、VP2アミノ酸配列全体は、VP1(aa1~736)に巻き込まれる。VPにおけるN末端アミノ酸配列及びPTMは、ウイルス粒子のエンドソーム脱出及び細胞輸送において重要な役割を果たす。したがって、遺伝子療法(又は他の用途)でベクターとして使用されるVPの詳細な特徴分析は、製品知識を拡大するだけでなく、製品及びプロセスの一貫性を確保するためにも重要である。
【0100】
VPのN及びC末端領域の検出及び特定は、詳細なVP構造特徴分析のために提示されるアプローチの効率を強調するために提供される。
【0101】
VP1のN末端領域及びC末端領域の両方のアミノ酸配列は、トリプシンペプチドのMS/MSスペクトル(図6A及び6B)によって確認されたが、Asp-N消化物は、C末端についてのこの情報のみを提供した(図6C)。
【0102】
VP1のN末端アミノ酸配列における第1のアラニン(A)のアセチル化(図6A)は、b断片イオン(b2~b6)において観測された質量シフト(+42Da)によって確認された。加えて、Asp-NペプチドのMS/MSスペクトルにおける完全yイオン系列の検出(図6C)は、VP1のC末端ペプチドにおけるアミノ酸配列の明確な確認を与える。しかしながら、このC末端ペプチドは、VP1、VP2、及びVP3において共有される。この所見はまた、表1に記載されるように、インタクト質量分析によるVP1の割り当てを確認する。
【0103】
VP2のインタクト質量分析から得られた主なシグナル(66,001.5Da)を、低レベルのアセチル化及びリン酸化を含む、アミノ酸139~736に割り当てた(表1)。加えて、66,101.7Daの弱いシグナルをVP2の完全な配列(138~736)に割り当てた。これらの割り当てを確認し、修飾を定量化及び局在化するために、ペプチドマッピングデータを評価した。VP2のトリプシン消化の分析は、そのN末端がスレオニンで開始する(TAPGK)のに対し、スレオニンを含む及び含まないペプチドは、Asp-N消化に起因することを明らかにした。この不一致の理由は、スレオニンを含まないトリプシンペプチド(APGK)が一価イオンを産生し、よって、既に記載されるように、アミノ酸配列のセットでは特定されなかったことである。対照的に、Asp-N消化物の分析では両方のペプチドが検出され、スレオニンを含まないペプチドが主なシグナルを提供した。加えて、スレオニンがN末端に存在しないとき、それぞれ、アラニン及びセリンの低レベルのアセチル化(0.3%)及びリン酸化(3.3%)が検出された(図7A図7D)(スレオニンを含まないVP2のN末端APGKKRPVEQSPQEP(A)、スレオニンを含まず、第1のアラニンのアセチル化を含むVP2のN末端A(Ac)PGKKRPVEQSPQEP(B)、スレオニンを含まず、セリンのリン酸化を含むVP2のN末端APGKKRPVEQS(Phos)PQEP(C)、及びスレオニンを含むVP2のN末端TAPGKKRPVEQSPQEP(D))。VP2におけるリン酸化は、MS/MSスペクトル内で観測された98Daの中性損失を介して特定された(図7C)。
【0104】
VP1と同様に、データは、メチオニンがVP3のN末端から切断されることを示し、MS/MSデータは、ほとんどの場合、アミノ酸配列における第1のアラニンがアセチル化されたことを確認した(図8)。しかしながら、図8に示されるように、低レベルの非アセチル化ペプチドも検出された(0.7%)。これらのデータは、VP3のインタクト質量分析の結果と一致する(表1)。加えて、VP1における脱アミド化、リン酸化、及びメチオニン酸化などのいくつかのPTMを、本アプローチによって定量化した。
【0105】
結論
本明細書に提供される結果は、メタノール/水/クロロホルムによるタンパク質沈殿が、それらの複雑なマトリックス及び他のキャプシド不純物からVPを単離するための堅牢で便利な方法であることを明確に示す。手順は、簡単であり、マトリックスタイプ及び試料量に関係なく、様々なAAVベースのワクチン及び血清型に適用可能である。それはまた、異なる酵素消化を伴う異なるプロテオミクスワークフローでの使用に容易に適合させ、VPのMS/MS断片化パターン及びPTMなどの、重要な相補的情報を提供することができる。
【0106】
長い疎水性ペプチドの検出における問題を回避するために、長い疎水性ペプチドのSDC/DDMが可能にする検出に基づくトリプシン消化戦略が開発され、単回LC-MS/MS実行で100%VP1アミノ酸配列カバレッジを達成した。このアプローチは、試料処理ステップを著しく低減し、広範囲の生物学実験室にアクセス可能にし、プロテオミクスワークフローにおいて高い専門知識の必要性がないことが見出されている。ワークフローは、第2の酵素消化なしに適用することもでき、多数の試料を急速に特徴分析しなければならないときに有利になる。更に、微調整、例えば、消化時間の最適化と組み合わされた、急速かつ堅牢なLC-MS/MSの使用は、高スループット分析のための方法の能力を更に拡大し、遺伝子療法製品の開発及び処理の両方を加速することができる。
【0107】
実施例2:アデノウイルスキャプシドタンパク質の抽出及び分析
図9は、以下の実施例に概説された抽出及び分析プロトコルの概要を示す。ワークフローは、それらの体積を低減する適切なカットオフフィルター(10kDa)でのAdV5試料の濃縮、続いてVPの沈殿、SDC/DDM溶液中でのそれらの可溶化、還元、及びトリプシンでの消化を伴う。最後に、生成されたペプチドをLC-MS/MSによって分析する。方法は、2つの目的を有する:AdV5の主要VPの同一性(高アミノ酸配列カバレッジ)を確認し、それらのPTMを定量化すること。
【0108】
材料及び方法
化学薬品
トリス2-カルボキシエチルホスフィン(TCEP)、重炭酸アンモニウム(ABC)、超高純度ギ酸、酢酸、グアニジン-HCl、クロロホルム、メタノール、アセトニトリル(ACN)、水、トリフルオロ酢酸(TFA)、及びデオキシコール酸ナトリウム(SDC)は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。Vivaspin 500(10kDa MWCO)をCytiva(Marlborough、MA)から購入した。配列決定グレードのトリプシン及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)は、それぞれ、Promega(Milwaukee、WI)及びThermo Fisher Scientific(Waltham、MA)から購入した。
【0109】
ベクター産生及び精製
HEK293 RCBの1つのバイアルを解凍し、3又は4日毎に様々なサイズの振盪フラスコにおいて培養した。十分な細胞塊に達すると、培養物を使用して、WAVE20灌流バイオリアクターに目標播種密度で接種した。培養物を培地交換し、野生型AdV5で感染させた。次いで、培養物を溶解し、フィルターで清澄化し、カラム装填として保存した。カラム装填の2つのバッチを解凍し、Source 15Q樹脂で充填したHR16カラムを使用して精製した。精製されたAdV5ウイルス粒子をプールし、0.2μmフィルターを使用して滅菌濾過した。濾過された試料を、LC-MS分析のためにアリコートした。
【0110】
試料調製
組換えAdV5の試料を以下に記載されるように調製した。組換えヒトモノクローナルIgG4抗体(指定されたmAb A)はまた、標準的な製造手順を使用してLonzaで産生及び精製した。
【0111】
ペプチドマッピングは、(約40μgのAdV5 VPを含有する)上述のように調製されたAdV5試料の300μLの体積を、以下に記載されるように、タンパク質沈殿前に200μLまで低減した後に実施した。体積は、10,000g及び20℃で20分間、メンブレンフィルターとしても知られる、10kDaのカットオフVivaspinフィルターで試料を遠心分離することによって低減した。
【0112】
クロロホルム/メタノール/水によるタンパク質沈殿
VPは、クロロホルム/メタノール/水で沈殿させた。簡潔には、800μLのメタノール、200μLのクロロホルム、及び600μLの水を、200μLの濃縮試料(上述のように調製された)に連続して添加し、各添加後に短いボルテックス混合及び高速遠心分離ステップ(14,000gで10秒)を行った。タンパク質沈殿物は、上相と下相との間の白色の層として界面に現れた。上相を慎重に除去及び廃棄し、次いで200μLの冷メタノールを残った混合物に添加した。遠心分離後、上清を除去した。最後に、タンパク質ペレットを真空遠心分離によって乾燥させた。
【0113】
全ての沈殿ステップでは、冷溶媒(4℃)を使用し、遠心分離を14,000g及び4℃で10分間実施した。
【0114】
SDC及びDDMでの溶解並びにmAB-A及びキャプシドタンパク質の酵素消化
トリプシン消化のために、mAb Aの部分(60μg)を、50mMの重炭酸アンモニウム(pH8.0)中SDC(0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、1.75、及び2.0%w/v)及びDDM(0.5%w/v)の5μLの混合物中に溶解した。次いで、室温でのボルテックス混合後、試料を、20μLの50mM重炭酸アンモニウム(pH8.0)を添加することによって、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、及び0.4%w/vのSDC、並びに0.1%w/vのDDMに希釈した。1μLの500mM TCEPを添加し、得られた混合物を50℃で30分間インキュベートすることによって、タンパク質を還元した。試料を37℃で3時間にわたる(30:1w/wのタンパク質対プロテアーゼ比での)トリプシン消化に供し、次いで、以下に記載されるように、消化物をLC-MS/MS分析のためにHPLCバイアルに直接移した。
【0115】
あるいは、上述のように調製されたウイルスタンパク質ペレットを、50mMの重炭酸アンモニウム(pH8.0)中SDC(1.75%w/w)及びDDM(0.5%w/w)の5μLの混合物中に溶解した。次いで、室温でのボルテックス混合後、試料を、20μLの50mM重炭酸アンモニウム(pH8.0)を添加することによって、それぞれ、0.35%及び0.1%w/vのSDC及びDDM濃度に希釈した。試料中のタンパク質を、上述のように還元及び消化した。次いで、以下に記載されるように、消化物をLC-MS/MS分析のためにHPLCバイアルに直接移した。
【0116】
液体クロマトグラフィー-質量分析法
Orbitrap Fusion Lumos質量分析計(Thermo Fisher Scientific、Bremen、Germany)に結合したVanquish UPLC機器からなるシステムを、全ての分析に使用した。ペプチドマッピング分析のために、Acquity UPLCペプチドCSH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1mm×150mm、Waters Corporation)を使用して、消化された試料中のペプチドを、水(A)及びアセトニトリル(B)中の0.1%v/vのギ酸からなる移動相で分離した。ペプチドを、0.25mL/分の流速で140分かけて1%v/vのB~30%v/vのB、続いて15分かけて30%v/vのB~40%v/vのBの線形勾配で溶出した。次いで、カラムを98%v/vのBで10分間洗浄し、次の注入前に8分間1%v/vのBでコンディショニングした。
【0117】
質量分析計を、3.5kVのスプレー電圧及び320℃の加熱キャピラリー温度で200~2000m/zの範囲でデータ依存モードで操作した。フルスキャンスペクトルを、100msの最大注入時間で2.0e5の自動利得制御(AGC)目標値を使用して120,000の解像度(400m/zでの半値全幅解像度)で記録した。2~8の価数状態を有する最も強力なイオンのうち最大20個を、35%の正規化された衝突エネルギーを有する高エネルギーcトラップ解離(HCD)のために選択した。断片スペクトルを、5.0e4のAGC目標値及び200msの最大注入時間を使用して、2.5Daの単離幅及び15,000の解像度で記録した。ダイナミックエクスクルージョンを前駆体選択のための10ppmウィンドウ内で5秒間活性化した。断片イオンをオービトラップアナライザーによって記録した。
【0118】
データ分析
生質量スペクトルデータを、Protein Metrics(San Carlos、CA)で処理した。ペプチドマッピングのために、AdV5ウイルスキャプシドタンパク質配列に対するデータベース検索を、それぞれ、MS及びMS/MS分析で検出されたペプチドについて6及び20ppmの耐性で実施した。このために、FASTAタンパク質配列ファイルを、「ヒトアデノウイルスC血清型5」の完全な精査されたエントリー(31)を含むUniProtデータベースからダウンロードした。N末端アセチル化、メチオニン及びトリプトファン酸化、リン酸化、並びにアスパラギン脱アミド化を、可変修飾として検索に含めた。
【0119】
結果及び考察
堅牢で再現可能な試料調製ワークフローの開発
プロテオミクス分析のための普遍的、堅牢で再現可能な試料処理戦略を開発するための精力的な努力がなされてきた。試料損失を最小限に抑え、MSによるペプチドの検出を最大限にするための手順を選択するときに考慮する重要な因子には、試料濃度及びマトリックスタイプが含まれる。しかしながら、最適な試料処理プロトコルに関するコンセンサスはほとんどなく、このステップは、成功裏のプロテオミクス分析にとって主なボトルネックのままである。処理ステップ中の試料損失は不可避であり、これは、十分に多量の出発材料(少なくとも50~150μgのタンパク質)が利用可能である場合、ほとんどの方法の性能に重大な影響を与えない。しかしながら、典型的には、開発段階(例えば、早期臨床期)中に限られた量の材料のみが利用可能であるため、試料損失は、遺伝子療法製品(GTP)のプロテオミクス分析において大きな問題を引き起こし得る。組換えタンパク質治療薬におけるものと比較して、GTPにおけるVPの複雑な試料マトリックス及び広い分子量範囲も、それらのプロテオミクス分析を複雑にする。
【0120】
よって、GTPのプロテオミクス分析に一般的な古典的試料処理ワークフローを適用することは困難であり、新しいアプローチが必要である。そのようなアプローチは、これらの問題を克服し、試料マトリックスにおける干渉を効率的に除去し、いずれの更なる処理も必要とせずにキャプシドタンパク質を分解することができなければならない。また、タンパク質レベル又はペプチドレベルのクリーンアップステップを含まない、最小限の液体-液体取り扱いステップを伴うべきであり、PTMの正確な定量化を可能にするために、試料処理において最小限の人工修飾を引き起こすべきである。更に、早期開発ステップから試料において利用可能な少量のAdV中の全てのVPを、消化することができ、その高いアミノ酸配列カバレッジを提供することができる、単一プロテアーゼの使用を必要とするべきである。
【0121】
実施例1は、共通の古典的アプローチに関連する課題の多くを回避する、アデノ随伴ウイルス(AAV)のプロテオミクス分析のための試料調製方法を記載した。AdVの構造組成(例えば、キャプシドタンパク質及び二本鎖DNA)及びマトリックス複雑性は、AAVのものと同様であるが、実施例1に記載される方法のスループットは、AdV5プロテオームのいくつかの成分の低い相対存在量(総タンパク質質量の0.1~0.3%)によって制限され得る。したがって、AAV法は、潜在的な試料損失を低減するために更なる最適化を必要とした。限られた利用可能な量のAdV5材料のため、モノクローナル抗体(mAb A)は、上述されるように、ワークフローの全ての最適化ステップにおいて最初に概念実証に使用した。
【0122】
方法は、本質的に、適切なカットオフメンブレン(10kDa)を有する遠心分離フィルターを使用したウイルス粒子の濃縮を伴う。これに続いて、有機溶媒を使用して、粒子をそれらの構造タンパク質及びDNAに分解し、有機相と水相との間の界面にVPを沈殿させる。当業者は、有機溶媒及び水相の組成が、目的のタンパク質、試料マトリックス成分、及び他の因子に応じて、最適な結果をもたらすように調整され得ることを理解するであろう。試料マトリックス成分及びDNAは、水相又は有機相のいずれかに分割され、タンパク質沈殿物の凍結乾燥の前に除去される。重要なことに、この新しいアプローチでは、タンパク質の三次構造は、沈殿後に破壊され、よって一般的なカオトロピック試薬(例えば、尿素又は塩酸グアニジン)での更なる変性ステップは必要ではない。
【0123】
試料処理ステップの数を最小限に抑えるために、沈殿したタンパク質を、低体積のSDC/DDM水溶液中に再溶解する。SDC又はDDM溶液中にタンパク質を溶解することは、トリプシンによる潜在的な切断部位を増加させ、疎水性ペプチドの可溶性を増強し、それによってアミノ酸配列カバレッジを改善することができる。
【0124】
高濃度のSDC(1%)は、エレクトロスプレーイオン化を大幅に抑制し、ペプチドのクロマトグラフィー分離に干渉するため、タンパク質の消化後、試料をMSシステムに直接導入することはかなり問題となり得る。したがって、以前に公開されたプロトコルは、TFAの添加後のSDCの沈殿、及び遠心分離(すなわち、酸遠心分離)又は酢酸エチルでの抽出(すなわち、相間移動)による除去を伴う。このステップは、低体積の材料が利用可能であるとき、重大なボトルネックである。これらの条件下、上清をペレットから完全に分離することができず、mAb A溶液中でSDCを沈殿させ、ペレットを水で洗浄し、上清及び洗浄されたペレットの両方をLC-MS/MS分析に供する結果によって示されるように、著しい試料損失(最大21%)をもたらす(図10を参照されたい)。ペレットを水又は有機溶媒で洗浄し、洗浄溶液を以前に除去された上清と組み合わせることは、ペプチド回収率を向上させることができるが、LC-MS/MSの前に、例えば、真空遠心分離によって、大きな試料体積を減少させる追加の試料処理ステップを必要とする。本研究では、SDC除去ステップの省略を可能にし、LC-MS/MS分析に直接進むために、SDCのパーセンテージを減少させることによって、ワークフローを更に最適化した。
【0125】
消化されたVPの直接LC-MS/MS分析の可能性を評価するために、以下の変数を評価しなければならなかった:酸性移動相におけるSDCの可溶性(沈殿リスク)、それぞれ、クロマトグラフィー分離及びMS検出中のSDCの存在下でのペプチドのピーク形状及びシグナル強度、並びに低濃度のSDCの存在下でのタンパク質のトリプシン消化。
【0126】
消化された試料の酸性移動相への注入後のSDCの沈殿は、カラム閉塞につながり得る、可能性の高いシナリオであった。しかしながら、驚くべきことに、30分間の室温での(1:1~1:10で変動する比を有する)移動相AとのSDC/DDMの混合物のインキュベーション中に、SDC沈殿の証拠はなかった。加えて、(SDC除去あり及びなしの)消化されたmAB A試料のいくつかの連続したLC-MS/MS分析中に、カラム圧力の増加は観測されなかった。
【0127】
クロマトグラフィー分離及びMS検出は、上述されるように、0.1%w/vのDDM及び様々な濃度(0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、及び0.4%w/v)のSDCの存在下でmAb Aを消化し、次いで得られたペプチドをLC-MS/MSシステムに直接導入することによって更に評価した。8つの特定されたペプチド(ここではP1~P8と称される)のシグナル強度及びピーク形状を、古典的アプローチ(1%SDC中での消化、続いてSDC沈殿、及び2μLのTFAの添加後の除去)で得られたものと比較した。得られたデータは、勾配全体にわたって選択されたペプチドのクロマトグラフィー分離及びピーク形状の違いを示さなかった(図11及び12を参照されたい)。選択されたペプチドのシグナル強度は、0.4%w/vまで増加する量のSDCで増加する傾向があった(表2を参照されたい)。
【表2】
【0128】
より多量のSDCは、タンパク質(ここではmAb A)の変性/可溶化を増強し、プロテアーゼ性能を増強することができることが見出されているが、試験された最も低い濃度であっても、全体的な消化は、依然として著しく効率的であった。注目すべきことに、消化された試料における選択されたペプチドのシグナル強度は、SDC濃度≧0.35%w/vのためのSDC除去を伴うアプローチで得られたものよりも著しく高かった。P7及びP8について、SDC≧0.25%w/vを有する試料のシグナル強度でさえ、SDC除去後に得られた試料よりも高かった(表2)。これは、これらのペプチドの疎水性及びSDC除去ステップ中に生じ得る部分的沈殿に関連し得る。0.35%及び0.4%w/vのSDCを含む選択されたペプチドのシグナル強度は同等であったが、長期使用中の質量分析計の供給源における潜在的な汚染を回避するために、更なる実験のための最適濃度として0.35%w/vのSDCを選択した。
【0129】
実施例1では、DDMを、コンビナトリアル洗剤として使用して、疎水性ペプチドの可溶性を増加させ、SDC除去後のそれらの沈殿を回避した。SDC除去ステップは、ここに提示されるワークフローでは省略されたが、標準ワークフロー(1%w/v)よりも低いSDC割合(0.35%w/v)のために、DDMを添加して、タンパク質の可溶性を増強し、したがってプロテアーゼの性能を増加させた。全ての消化された材料の注入後のRPカラムの質量過剰装填を回避するために、選択されたペプチドのシグナル強度に対するより低レベルのDDM(0.1、0.2、0.3、0.4、及び0.5%w/v)の効果を評価した。結果は、同様のシグナル強度が全てのこれらのDDM濃度で得られたことを示し(データは示されていない)、したがって、0.1%w/vのDDMを更なる実験で利用した。要約すると、50mMの重炭酸アンモニウム(pH8.0)溶液中のSDC(0.35%w/v)及びDDM(0.1%w/v)の組み合わせは、特徴分析研究のためにAdV5のVPを溶解及び消化するための最適な緩衝液であることが見出された。
【0130】
mAB Aについて得られた結果は、本明細書に記載される方法が、AAV/AdV VPを含むが、これらに限定されない、一連のタンパク質に有用であることを実証する。また、選択されるモデル化合物mAb Aは、いくつかのジスルフィド架橋のためにVPよりも剛性の構造を有するため、更により低い濃度のSDCでも、VPの効果的な変性及び可溶化に十分であり得ることに留意されたい。
【0131】
AdV5キャプシドタンパク質のアミノ酸配列カバレッジ
AdV5の消化されたVPを、図9に例示され、上に簡潔に記載されるように、開発された方法に従って分析した。AdV5構造タンパク質の相対存在量の大きな違い(例えば、ヘキソン及びpTPは、それぞれ、総タンパク質質量の59.5%及び0.1%を占める)に起因して、LC-MS/MS設定のいくつかの修飾が必要とされた。まず、AdV5のVPのシリコトリプシン消化は、4つ以上のアミノ酸を有する350を超えるペプチドの生成をもたらしたため、ペプチドを分離及び特定するためにより長い勾配が必要であった。最も高い配列カバレッジは、より長い勾配(100分ではなく150~180分)が使用されたときに得られた。加えて、小さなペプチドの保持及び検出を増強するために、実施例1で使用される300Å孔を有するカラムを、より小さな孔(130Å)を有するもので置き換えた。
【0132】
それぞれ、93.2、97.7、及び85.0%のメジャータンパク質、セメントタンパク質、及びコアタンパク質の平均アミノ酸配列カバレッジ(2つの技術的反復)を得た(表3を参照されたい)。最も高い配列カバレッジ(≧99%)は、ペントン、pIIIa、及びpIXタンパク質について得られ、最も低い配列カバレッジ(55%)は、pTPについて得られた。pTPの配列カバレッジは、以前の研究でも最も低かった(トリプシン消化で36%、3つの異なるプロテアーゼが使用されたとき55%)。これらの結果は、pTPの高い配列カバレッジを得ることが非常に困難であることを示す。これにはいくつかの理由がある。第一に、AdV5のVPの総質量の最も低いパーセンテージ(0.1%)を占めるため、適用されるUHPLC-MS/MSシステムの検出限界に近い。第二に、pTPのDNAへの共有結合は、提示されたアプローチによるその単離を複雑にし得る。しかしながら、クロロホルム/メタノール/水による沈殿は、一般的に汚染DNAを除去することができるため、pTPが完全に沈殿していないか、又はDNAとのpTPの沈殿が、それを適切に消化するトリプシンの能力を低減し得るかのいずれかであると仮定された。試料処理ステップにおけるナノLC-MS/MSシステムの使用及び/又はDNAaseでの処理は、pTP配列カバレッジを更に増強するために使用することができる。これらの複雑な状況にもかかわらず、pTPの55%配列カバレッジが得られ、提示されたアプローチが、複雑なマトリックスにおいて低い存在量を有するVPの特徴分析のための便利な方法であることを明確に示した。
【表3】
【0133】
AdV5のいくつかのタンパク質(例えば、pV及びpVII)のより低い配列カバレッジは、RPカラム上に保持されないトリプシン消化による小さなペプチドの生成に関連している。これらのタンパク質は、それらのアミノ酸配列中に高頻度のアルギニン及びリジンを有し、得られたトリプシンペプチド(1~3アミノ酸)は、小さな(130Å)孔を有するカラムによってさえ保持することができない。しかしながら、pV及びpVIIについて、それぞれ、94%及び92%のアミノ酸配列カバレッジが依然としてこの研究で得られた。
【0134】
最近のLC-MS/MSベースの研究は、AdV5ウイルス粒子中に存在し得る、「非構造タンパク質」として分類される、追加のVPの存在を確認した。VPを更に調査するために、MS/MSデータから特定されたペプチドを、UniProtデータベースにおけるヒトアデノウイルスC血清型5タンパク質のリスト(31個の精査されたタンパク質)に対する検索で使用し、追加の14個の非構造ウイルスタンパク質を、本明細書に提示されるアプローチを使用して見出した。それらは、AdV5の構造ウイルスタンパク質と比較して低い存在量を有すると予想され、それらの存在は、使用される精製ステップのタイプに関連し得る。我々の知る限り、ウイルス感染におけるこれらのタンパク質の詳細及び役割に関する情報は不十分である。しかしながら、より低い流量及びより高い感度を有するLC-MS/MSシステム(例えば、マイクロ-又はナノ-LC-MS/MSシステム)の使用は、必要に応じてそれらの検出及び特定を更に増強することができる。
【0135】
いくつかの主要構造タンパク質のアミノ酸配列は、AdV血清型の中で異なり得、ペプチドマッピング分析は、それらの特定に使用することができる。例えば、AdV5及びAdV2のヘキソン及び繊維タンパク質は、著しく異なり、血清型特定のためのマーカーとして使用することができる。対照的に、他のVPは、はるかにより一定のアミノ酸配列を有する(例えば、AdV5及びAdV2におけるpVII及びpμ)。
【0136】
得られたデータは、本明細書に記載される方法が、主要構造タンパク質のアミノ酸配列カバレッジを大幅に増加させ、異なるアデノウイルス血清型を区別することができ、そのため、ウイルスベクターの同一性を確認するために使用することができることを示す。
【0137】
AdV5のPTMの定量分析
感染の進行中に部位特異的レベルでVPのPTMを定量化することは、ウイルス感染の生物学的及び病原学的メカニズムに関する重要な新しい情報を提供することができる。これまでのところ、これらのメカニズムに関する限られた情報は、定量的プロテオミクスアプローチから得られており、AdV5のようなモデルウイルスシステムにおけるタンパク質の更なる特徴分析の必要性がある。この研究の結果は、単回LC-MS/MS実行において複数のPTMを特定するための提示されたアプローチの感度、及びしたがって、PTMを生物学的機能と相関させるためのその潜在的用途を強調する。分析は、リン酸化、アセチル化、脱アミド化、及び酸化を含む、AdV5(少なくとも0.5%の相対存在量を有する)の主要構造VPにおける合計53個のPTMを明らかにした(表4を参照されたい)。これらの修飾は、GTPの特性(例えば、安定性)に影響を及ぼすことが知られており、細胞株及び精製技法を含む、製造プロセスの複数の変数によって影響を受ける。
【0138】
これらの修飾は、MS/MSスペクトルの一例を用いて以下に考察される。ウイルスタンパク質のPTMは、キャプシドタンパク質の細胞内成熟から知られているが、これらの修飾(例えば、脱アミド化及び酸化)のいくつかはまた、プロテオミクスワークフローにおける精製、保存、又は試料処理中に誘導することができる。提示されたアプローチによるいくつかの治療用タンパク質の分析は、適用されたワークフローが脱アミド化及び酸化レベルを増加させる可能性が低いことを確認した(データは示されていない)。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0139】
タンパク質アセチル化は、ヒトウイルスでの多様な感染の間の重要な調節事象として認識される。N末端アミノ酸のアセチル化は、VPの所与のアミノ酸の最も頻繁に検出されるタイプの修飾である。VPのN末端アセチル化が、それらの細胞内輸送及び核への侵入において重要な役割を果たし得ることが示されている。したがって、それらのN末端配列を確認し、GTPにおけるそれらのアセチル化を定量化することが重要である。この修飾は、総ペプチド質量における関連する質量シフト(+42.01Da)によって確認され、その局在化は、MS/MS分析において生成されたb断片イオンに関するデータによって確認される。アセチル化は、主に、VPのN末端のメチオニンがメチオニンアミノペプチダーゼによって切断され、次いで得られたN末端アミノ酸残基がアセチル化されるときに生じる。例えば、本研究では、メチオニン除去後、pIXのN末端の≧98.0%がアセチル化されたことが見出された(図13A)。対応するペプチドのMS/MSスペクトルは、セリン残基上に+42.01Daの質量シフトを有する一連のb断片イオン(b1-b8)を示し、N末端でのアセチル化を確認した。しかしながら、N末端メチオニン除去の不在下では、42.01Daの質量シフトを有するpVIのN末端について一連のb断片イオン(b1-b7)によって実証されるように、保持されたメチオニンもアセチル化され得る(図13B)。アミノ酸のいくつかは、追加の修飾を受けることができ、例えば、pVIのN末端アセチル化メチオニンも酸化され得る。この修飾は、図13B及びCにおける拡大質量スペクトルに示されるように、b1断片イオンのMS/MS分析によって確認された。
【0140】
いくつかのVP(例えば、ペントン塩基及び繊維)のN末端でのアセチル化は、これらのタンパク質が、それらのN末端アミノ酸配列中に高いアルギニン及びリジン頻度を有するため、本明細書に提示されるアプローチによって定量化することができず、したがってこれらのペプチドはまた、上記で考察されるように、保持及び検出することができない。しかしながら、第2のプロテアーゼ(例えば、Asp-N)の使用は、必要な情報を提供し得る(実施例1参照)。
【0141】
セリン、スレオニン、及びチロシンのリン酸化は、ウイルスキャプシドの安定性に関与し、よって感染プロセスに影響を与える可能性が高い、PTMの別の重要なタイプである。リン酸化は、MS/MSスペクトルにおけるタンパク質分解ペプチド分子イオンからのHPO(97.98Da)の中性損失によって特定される(図14A)。正常成長細胞におけるホスホチロシン(pY)、ホスホスレオニン(pT)、及びホスホセリン(pS)の相対存在量は、それぞれ、約2、12、及び86%である。リン酸化ペプチドは、低い強度を有し、包括的な分析のために、LC-MS/MS分析の前にホスホペプチドの追加のクロマトグラフィー分画及び濃縮ステップが必要である。そのようなステップは、本ワークフローにおいて不在であったため、以前の研究よりも少ない数のリン酸化部位が観測された。全体として、それらの予想される化学量論比に従って、7つのセリンリン酸化部位が特定され、チロシン又はスレオニンリン酸化部位は特定されなかった。
【0142】
酸化及び脱アミド化は、バイオ医薬品において一般的なPTMであり、それらは、生物学的活性及び有効性の両方に影響を及ぼす。これらの修飾は、重要な品質属性(CQA)であることが予想され、したがって、医薬製品としてのウイルスベクターの開発を通して評価される必要がある。それにもかかわらず、ウイルスベクターの有効性及び安全性に対するこれらのタンパク質修飾の効果は、それらの潜在的な重要性にもかかわらず、研究が不十分であった。例えば、AAVキャプシドの表面上のアミノ酸の脱アミド化は、価数不均一性及びベクター機能の変化をもたらすと報告されている。ウイルス粒子の安定性及び特性に対する酸化及び脱アミド化の効果は、それぞれ、過酸化水素及び高pHを有する溶液への適切な曝露によってシミュレートすることができる。ウイルス粒子における化学修飾は、いくつかの方法、例えば、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、動的光散乱(DLS)、及び電気泳動光散乱(ELS)によって監視することができる。しかしながら、これらの方法は、ウイルス粒子レベルに関する全体的な情報のみを提供し、タンパク質又はアミノ酸レベルでのこれらの修飾を定量化又は局在化することはできない。
【0143】
RPクロマトグラフィーは、タンパク質保持時間の変化又は新しいピークの出現を通して、異なるVPにおける酸化のレベルに関する情報を提供することができる唯一の現在利用可能な方法であるが、VPの特定のメチオニン又はトリプトファンにおけるこれらの修飾を局在化することはできない。
【0144】
本明細書に提示される新規アプローチを使用して、AdV5の主要VPにおいて合計12個の酸化部位が特定された。酸化のレベルは、M48pμ(5.9%)を除く全てのこれらの部位で1%未満であった。
【0145】
アスパラギン残基の脱アミド化(+0.98Daの質量シフトをもたらす)は、一般的な、不可逆的な修飾であり、そのメカニズムは、LC-MS/MSによって非常に詳細に研究されている。脱アミド化速度が、タンパク質の一次及び高次構造、pH、並びに温度に依存することが示されている。加えて、SNG、ENN、LNG、及びLNNアミノ酸モチーフ中のアスパラギンは、脱アミド化の傾向が最も高いと報告されている。対応する脱アミド化ペプチドのMS/MSスペクトルの一例は、対応するアスパラギン上に+0.98Daの質量シフトを有する一連のy10-y15断片イオンを示した(図14B)。提示されたワークフローでは試料処理及び消化時間が短いため、検出された脱アミド化レベル(表4参照)は、人工物である可能性が非常に低い。これは、上記のように、方法最適化ステップ中のmAb Aにおける低レベルの脱アミド化の検出によって確認された。AdV5の主要VPにおける主にNG、NN、及びNSモチーフを有する25個の脱アミド化部位が検出された(表4)。VPにおける最も高いレベルの脱アミド化は、NGモチーフに関連付けられた。同様の研究は、AAV8の主な脱アミド化が、NGモチーフを有する超可変領域(HVR)にあることを見出した。HVRは、標的細胞及び免疫系との相互作用に大いに関与しているため、受容体結合を改変することによって形質導入を減少させることにおいて重要な役割を果たす。
【0146】
上記で考察されるように、本明細書に提示される方法は、複数のPTMの同時定量化を可能にする。その適用性は、必要に応じて、他のPTM(例えば、N-及びO-グリコシル化)の定量化に適した検索パラメータを変更することによって拡張することができる。しかしながら、そのような増強なしでも、それは、アミノ酸配列及び関連するPTMについての以前のアプローチよりも多くの情報を提供することができ、それによってGTPの製造プロセスを改善する。
【0147】
結論
本明細書で提示されるAdV VP分析のための新規ワークフローは、いくつかのプロテアーゼの使用及び十分な詳細特徴分析のための広範な試料処理を必要とする、従来のペプチドマッピング方法よりも実質的に短い分析時間をもたらす。我々はここで、SDC及びDDMを含有する溶液を、いずれの更なるクリーンアップステップもなしに、直接LC-MS/MS分析の前に、同時VP変性及び消化に使用することができるという最初の実証を提供する。驚くべきことに、沈殿物の可溶化に使用されるより低い洗剤濃度にもかかわらず、開発されたアプローチによる主要VPの分析は、以前よりも実質的に高い平均配列カバレッジ(最大92%)、及び単回LC-MS/MS実行での53個のPTMの定量化を可能にした。
【0148】
増加した分析性能とともに、試料調製ステップの最小化は、タンパク質又はペプチド損失のリスクを低減し、多数の試料が、GTPの開発、安定性試験、及び特徴分析を支持するために急速に特徴分析されなければならないとき、高スループット分析を可能にする。
【0149】
このアプローチによって提供される包括的な情報は、他のアプローチによって得ることが困難であるウイルス感染への非常に貴重なメカニズム的洞察を提供することができる。加えて、アプローチは、異なるベクター及び製造プロセスを使用して産生されるGTPの宿主細胞タンパク質を監視及び制御するための将来の研究を動機付けるであろうことが想定される。
【0150】
例示的な実施形態
実施形態1は、消化されたウイルスタンパク質を調製する方法であって、ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、を含む、方法である。
実施形態2は、消化されたウイルスタンパク質を分析する方法であって、ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介して消化されたウイルスタンパク質を分析することと、を含む、方法である。
実施形態3は、消化されたウイルスタンパク質を分析する方法であって、ウイルスタンパク質を、ウイルスタンパク質を含有する試料から沈殿させることと、ウイルスタンパク質を、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)及びN-ドデシル-ベータ-D-マルトシド(DDM)を含む混合物中に溶解して、溶液を生成することと、ウイルスタンパク質をプロテアーゼで消化することと、SDCを溶液から除去することと、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を介して消化されたウイルスタンパク質を分析することと、を含む、方法である。
実施形態4は、ウイルスタンパク質が、アデノ随伴ウイルスキャプシドタンパク質(AAVキャプシドタンパク質)、アデノウイルスタンパク質、レンチウイルスタンパク質、レトロウイルスタンパク質、又は単純ヘルペスウイルスタンパク質である、実施形態1~3のいずれか1つの方法を含む。
実施形態5は、ウイルスタンパク質が、AAVキャプシドタンパク質である、実施形態1~3のいずれか1つの方法を含む。
実施形態6は、ウイルスタンパク質が、アデノウイルスタンパク質である、実施形態1~3のいずれか1つの方法を含む。
実施形態7は、アデノウイルスタンパク質が、アデノウイルス5、26、35、又は48タンパク質である、実施形態6の方法を含む。
実施形態8は、アデノウイルスタンパク質が、アデノウイルス5タンパク質である、実施形態6の方法を含む。
実施形態9は、ウイルスタンパク質が、レンチウイルスタンパク質である、実施形態1又は実施形態2のいずれか1つの方法を含む。
実施形態10は、ウイルスタンパク質が、約0.01%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む混合物中に溶解される、実施形態1~9のいずれか1つの方法を含む。
実施形態11は、ウイルスタンパク質が、約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む混合物中に溶解される、実施形態10の方法を含む。
実施形態12は、ウイルスタンパク質が、約0.5%~1.5%(w/w)のSDC及び約0.2%~1.0%(w/w)のDDMを含む混合物中に溶解される、実施形態12の方法を含む。
実施形態13は、混合物が、約0.75%~1.25%(w/w)のSDC及び約0.5%~0.8%(w/w)のDDMを含む、実施形態12の方法を含む。
実施形態14は、混合物が、約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.01%~1.0%(w/w)のDDMを含む、実施形態10の方法を含む。
実施形態15は、混合物が、約0.01%~0.6%(w/w)のSDC及び約0.01%~0.6%(w/w)のDDMを含む、実施形態14の方法を含む。
実施形態16は、混合物が、約0.2%~0.4%(w/w)のSDC及び約0.05%~0.2%(w/w)のDDMを含む、実施形態15の方法を含む。
実施形態17は、混合物が、約1:0.5w/w又は約3.5:1w/w(SDC:DDM)の比を含む、実施形態1~3のいずれか1つの方法を含む。
実施形態18は、溶液中での溶解が、約pH6.0~約pH9.0で生じる、実施形態1~17のいずれか1つの方法を含む。
実施形態19は、消化が、約30℃~40℃で、約2~12時間の期間にわたって行われる、実施形態1~18のいずれか1つの方法を含む。
実施形態20は、沈殿が、クロロホルム/メタノール/水での沈殿及び遠心分離を含む、実施形態1~19のいずれか1つの方法を含む。
実施形態21は、消化が、トリプシンで消化することを含む、実施形態1~20のいずれか1つの方法を含む。
実施形態22は、消化が、約20:1~約100:1w:wのウイルスタンパク質:トリプシンの比で行われる、実施形態21の方法を含む。
実施形態23は、消化されたウイルスタンパク質が、約3~70アミノ酸長である、実施形態1~22のいずれか1つの方法を含む。
実施形態24は、分析が、まず緩衝液交換又は脱塩ステップを実施することなしに、消化されたウイルスタンパク質を液体クロマトグラフィー質量分析計に注入することを含む、実施形態2~23のいずれか1つの方法を含む。
実施形態25は、LC-MS/MSによって分析される溶液体積が、50μL未満である、実施形態2~24のいずれか1つの方法を含む。
実施形態26は、ウイルスタンパク質を含有する試料が、約0.001mg/mL~約0.10mg/mLのウイルスタンパク質の濃度を有する、実施形態1~25のいずれか1つの方法を含む。
【0151】
本明細書では特定の実施形態を例示及び記載しているが、特許請求の範囲は、記載及び図示される部分の特定の形態又はアレンジメントに限定されるべきではないことが理解されるべきである。本明細書では、例示的な実施形態が開示され、特定の用語が用いられるが、それらは、限定の目的ではなく、一般的かつ説明的な意味でのみ使用される。上記の教示に照らして、実施形態の修飾及び変形が可能である。したがって、実施形態は、具体的に記載される以外の方法で実施され得ると理解されるべきである。
【0152】
本明細書中に言及される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各個々の刊行物、特許、又は特許出願が参照により組み込まれると具体的かつ個別に示されるのと同程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】
【化1-5】
【化1-6】
【化1-7】
【化1-8】
【化1-9】
【化1-10】
【化1-11】
【化1-12】
【化1-13】
【化1-14】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
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図7
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【配列表】
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【国際調査報告】