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  • 特表-ウイルスベクターでの複数回投薬 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ウイルスベクターでの複数回投薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20241203BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20241203BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241203BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K31/436
A61K35/761
A61P37/06
A61K9/10
A61K9/14
A61K9/51
A61K47/34
A61K47/36
A61K45/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528504
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 US2022049777
(87)【国際公開番号】W WO2023086615
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/279,174
(32)【優先日】2021-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/300,785
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/317,576
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/338,672
(32)【優先日】2022-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】521425283
【氏名又は名称】カーティザン セラピューティクス,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】CARTESIAN THERAPEUTICS, INC.
【住所又は居所原語表記】704 Quince Orchard Rd, Suite 210A, Gaithersburg, MD 20878, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キシモト,タカシ,ケイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA29
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC29
4C076EE23
4C076EE24
4C076EE25
4C076EE26
4C076EE30
4C076EE49
4C076FF67
4C076FF68
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA13
4C084ZB082
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA06
4C086NA13
4C086ZB08
4C086ZB21
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA06
4C087NA13
4C087ZB08
4C087ZB21
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は少なくとも一部は、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体と併用して投与される、反復用のより低い用量(repeated lower doses)のウイルスベクター、および関連組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)いずれの合成ナノ担体への付着されていない、AAVベクターなどのウイルスベクターの1以上の用量、ここでウイルスベクターの用量(単数または複数)が各々、より低い用量である、および
(ii)ラパマイシンなどの免疫抑制薬へ付着されており、かつウイルスベクターのウイルスベクター抗原を何ら含まない合成ナノ担体の、少なくとも1つの用量
を含む投薬、を含む方法であって、
ここで、より低い用量が、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体の併用投与なしで投与されたウイルスベクターの用量よりも低いが、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体の併用投与なしで投与されたウイルスベクターの用量と同等の導入遺伝子発現をもたらし、
任意に、ウイルスベクターへの望ましくない免疫(例として、体液性の)応答を低減させるか、および/または効果的な導入遺伝子もしくは核酸材料の発現をもたらすか、および/または永続的な導入遺伝子もしくは核酸材料の発現を提供するか、および/または同等の導入遺伝子の発現をもたらす、投与スケジュールに従う、前記方法。
【請求項2】
(i)および(ii)の投薬が、併用して施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)および(ii)を含む投薬が、反復され、任意に(i)および(ii)の先の投薬から70日、2カ月、または1カ月以内に反復される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
方法がさらに、投与(単数もしくは複数)に先立ちおよび/またはこれの後に、対象における望ましくない免疫応答および/または導入遺伝子もしくは核酸材料の発現を査定することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
方法がさらに、対象を、ウイルスベクターへの望ましくない免疫応答を有するかもしくは有するリスクがあるものとして、および/または有効なもしくは永続的な導入遺伝子または核酸材料の発現を必要とするものとして、同定することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(i)いずれの合成ナノ担体へも付着されていない、AAVベクターなどのウイルスベクターの1より多くの用量、ここでウイルスベクターの用量が各々、より低い用量である、および/または
(ii)ラパマイシンなどの免疫抑制薬へ付着されており、かつウイルスベクターのウイルスベクター抗原を何ら含まない合成ナノ担体の、少なくとも1つの用量
を含む組成物であって、
ここで、より低い用量が、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体の併用投与なしで投与されたウイルスベクターの用量よりも低いが、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体の併用投与なしで投与されたウイルスベクターの用量と同等の導入遺伝子発現をもたらし、
任意に、ウイルスベクターへの望ましくない免疫(例として、体液性の)応答を低減させる方法、および/または効果的および/または永続的な導入遺伝子または核酸材料の発現をもたらす方法、および/または同等の導入遺伝子発現をもたらす方法における使用のためのものである、前記方法。
【請求項7】
方法がさらに、(i)および(ii)のプロトコルまたは投与スケジュールを決定することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項8】
方法が、本明細書に提供されるいずれかの方法である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項9】
組成物が、キットであり、および用量が各々、キット中の容器に収容されている、請求項6~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
組成物がさらに、薬学的に許容し得る担体を含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
免疫抑制薬が、スタチン、mTORインヒビター、TGF-βシグナル伝達剤、コルチコステロイド、ミトコンドリア機能のインヒビター、P38インヒビター、NF-κβインヒビター、アデノシン受容体アゴニスト、プロスタグランジンE2アゴニスト、ホスホジエステラーゼ4インヒビター、HDACインヒビター、またはプロテアソームインヒビターである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項12】
免疫抑制薬が、mTORインヒビターである、請求項11に記載の方法または組成物。
【請求項13】
mTORインヒビターが、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体である、請求項12に記載の方法または組成物。
【請求項14】
ウイルスベクターが、AAV8ベクターなどのAAVベクターである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項15】
免疫抑制薬の負荷量が、合成ナノ担体の集団全体の平均で、0.1%と50%との間である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項16】
免疫抑制薬の負荷量が、合成ナノ担体の集団全体の平均で、1%と30%との間、1%と25%との間、1%と20%との間、4%と30%との間、4%と25%との間、4%と20%との間、8%と30%との間、8%と25%との間、または8%と20%との間である、請求項15に記載の方法または組成物。
【請求項17】
合成ナノ担体が、ポリマー性である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項18】
ポリマー性のナノ担体が、非メトキシ末端プルロニックポリマーであるポリマーを含む、請求項17に記載の方法または組成物。
【請求項19】
ポリマー性のナノ担体が、ポリエステル、ポリエーテルにカップリングされたポリエステル、ポリアミノ酸、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリケタール、多糖類、ポリエチルオキサゾリン、またはポリエチレンイミンを含む、請求項17または18に記載の方法または組成物。
【請求項20】
ポリエステルが、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、またはポリカプロラクトンを含む、請求項19に記載の方法または組成物。
【請求項21】
ポリマー性のナノ担体が、ポリエステル、およびポリエーテルにカップリングされたポリエステルを含む、請求項19または20に記載の方法または組成物。
【請求項22】
ポリエーテルが、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項23】
合成ナノ担体の集団の動的光散乱を使用して得られる粒子サイズ分布の平均値が、100nmより大きい直径である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項24】
直径が、150nmより大きい、請求項23に記載の方法または組成物。
【請求項25】
直径が、200nmより大きい、請求項24に記載の方法または組成物。
【請求項26】
直径が、250nmより大きい、請求項25に記載の方法または組成物。
【請求項27】
直径が、300nmより大きい、請求項26に記載の方法または組成物。
【請求項28】
直径が、500nm未満である、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項29】
直径が、450nm未満である、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項30】
直径が、400nm未満である、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項31】
直径が、350nm未満である、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項32】
直径が、300nm未満である、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項33】
直径が、250nm未満である、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項34】
直径が、200nm未満である、請求項23または24に記載の方法または組成物。
【請求項35】
合成ナノ担体の集団のアスペクト比が、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7、もしくは1:10より大きいか、またはこれに等しい、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項36】
たとえば対象がヒトのとき、ウイルスベクターのより低い各用量が、1e1014ベクターゲノム/kg未満(例として、1e1014ベクターゲノム/kgの、少なくとも1/5、1/5以下、もしくは1/5)であるか、またはより低い各用量が、5e13ベクターゲノム/kg未満(例として、5e13ベクターゲノム/kgの、少なくとも1/5、1/5以下、もしくは1/5)である、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項37】
(i)の投薬(単数または複数)が、ウイルスベクターの1より多くの用量を含むとき、各投薬の(i)の用量が、1~2週間の期間にわたって投与される、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項38】
(i)の投薬(単数または複数)が、ウイルスベクターの1より多くの用量を含むとき、各投薬の(i)の用量が、1~3ヶ月の期間にわたって投与される、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項39】
(ii)が、各投薬について、(i)の最初の用量と併用して投与される、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項40】
対象が、導入遺伝子発現の喪失を経験しているか、または経験したことがある、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項41】
ウイルスベクターのより低い用量が、5e13ベクターゲノム/kg以下である、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項42】
ウイルスベクターのより低い用量が、2.5e13ベクターゲノム/kg以下である、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項43】
ウイルスベクターのより低い用量が、1~2.5e13ベクターゲノム/kgの間である、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項44】
ウイルスベクターのより低い用量が、1e13ベクターゲノム/kg以下である、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年11月14日に出願された米国仮出願第63/279,174号;2022年1月19日に出願された第63/300,785号;2022年3月8日に出願された第63/317,576号;および2022年5月5日に出願された第63/338,672号の35 U.S.C. 119(e)の下、優先権の利益を主張するものである;これら各々の内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0002】
本発明の概要
本発明は少なくとも一部は、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体と併用して投与される、反復用のより低い用量(repeated lower doses)のウイルスベクター、および関連組成物に関する。本明細書に提供される組成物および方法は、例えば低減された毒性および/または製造上の利益(manufacturing benefits)を提供するために、用量を節約しながら、効果的な導入遺伝子発現をもたらすために使用され得る。加えて、驚くべきことに、ある投薬(a dosing)における複数回用のより低い用量(multiple lower doses)のウイルスベクターは、その投薬において免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の少なくとも1用量の投与(例として併用投与)で、より高い用量(たとえば、単回用のより高い用量(single higher dose)、たとえば、1e1014ベクターゲノム/kgまたは5e13ベクターゲノム/kgの用量)のウイルスベクターと同等の導入遺伝子発現をもたらし得ることが見出されている。
【0003】
本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、投薬のウイルスベクターの、反復用のより低い用量は各々、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の投与(例として、併用投与)がなされていない対象へ投与されるであろうウイルスベクターの用量より低いが、同等の対象もしくはテスト対象(test subject)において同じレベルまたは同等レベルの導入遺伝子発現が達成される。本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、投薬のウイルスベクターの、反復用のより低い用量の和は、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の投与(例として、併用投与)がなされていない対象へ投与されるウイルスベクターの用量の半分未満であるが、同じレベルまたは同等レベルの導入遺伝子発現が達成される。本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、投薬のウイルスベクターの、反復用のより低い用量の各々は、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の投与(例として、併用投与)がなされていない対象へ投与されるウイルスベクターの用量の少なくとも1/5~前記用量未満(at least 1/5 but less than)であるが、同じレベルまたは同等レベルの導入遺伝子発現が達成される。本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、投薬のウイルスベクターの、反復用のより低い用量の各々は、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の投与(例として、併用投与)がなされていない対象へ投与されるウイルスベクターの用量の1/5以下(no more than 1/5)であるが、同じレベルまたは同等レベルの導入遺伝子発現が達成される。本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、投薬のウイルスベクターの、反復用のより低い用量の各々は、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の投与(例として、併用投与)がなされていない対象へ投与されるウイルスベクターの用量の1/5であるが、同じレベルまたは同等レベルの導入遺伝子発現が達成される。
【0004】
本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、対象へ投与される、より低い用量のウイルスベクターは、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体なしで投与されるウイルスベクターの用量と同じ条件下で、別様に与えられるが、同等の対象もしくはテスト対象へ同じレベルまたは同等レベルの導入遺伝子発現が達成される。本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、投薬の、より低い用量(単数または複数)のウイルスベクターは、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体と、毎月または隔月に併用投与される。
【0005】
本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、そのより低い用量は、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の併用投与なしで投与されるウイルスベクターの用量よりも低いが、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の併用投与なしで投与されるウイルスベクターの用量と同等の導入遺伝子発現をもたらす。
【0006】
本明細書に提供される組成物または方法のいずれか1つの一態様において、ウイルスベクターへの望ましくない免疫(例として、体液性の)応答の低減、および/または効果的な導入遺伝子もしくは核酸材料の発現、および/または永続的な(durable)導入遺伝子もしくは核酸材料の発現、および/または同等の導入遺伝子の発現は、投薬(単数または複数)の結果である。
【0007】
ある側面において、本明細書に提供される組成物またはキットのいずれか1つを製造する方法が提供される。一態様において、製造する方法は、ウイルスベクターの1以上の用量または剤形を産生すること、および免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の集団の1以上の用量または剤形を産生することを含む。提供される製造の方法のいずれか1つの、別の態様において、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の集団の1以上の用量または剤形を産生するステップは、免疫抑制薬を合成ナノ担体へ付着させることを含む。提供される製造の方法のいずれか1つの、別の態様において、方法は、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の集団の1以上の用量または剤形とキットにおけるウイルスベクターの1以上の用量または剤形とを組み合わせることをさらに含む。
【0008】
別の側面において、対象においてウイルスベクターへの望ましくない免疫応答を低減もしくは阻害するための、および/または永続的および/または効果的な導入遺伝子または核酸材料の発現を提供するための、医薬の製造のための、本明細書に提供される組成物またはキットのいずれか1つの使用が提供される。一態様において、組成物またはキットは、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の集団を含む1以上の用量もしくは剤形、および/またはウイルスベクターを含む1以上の用量もしくは剤形を含み、ここで免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の集団および/またはウイルスベクターは、本明細書に提供される方法のいずれか1つに従って投与される。本明細書に提供される使用のいずれか1つの、いくつかの態様において、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の集団は、ウイルスベクターのウイルスベクター抗原提示細胞(APC)提示可能抗原を含まない。
【0009】
別の側面において、本明細書に提供される組成物またはキットのいずれか1つは、本明細書に提供される方法のいずれか1つにおける使用のために提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面の簡単な記載
図1図1は、ウイルスベクターおよびImmTOR(ラパマイシンを含むPLA/PLA-PEG合成ナノ担体)の用量での発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の詳細な記載
本発明を詳細に記載する前に、本発明が、殊更に例示される材料またはプロセスパラメータに限定されず、それ故に変動し得ることは無論、理解されるべきである。また、本明細書に使用される専門用語が、本発明の具体的な態様を記載する目的のためのものに過ぎず、本発明を記載するための代替的な専門用語の使用を制限することを意図しないことも理解されるべきである。
【0012】
上記または下記のいずれであっても、本明細書に引用されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、すべての目的のためにそれら全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0013】
本明細書および添付のクレームに使用されるとき、単数形「a」、「an」、および「the」は、内容が明確に別様に指示されていない限り、複数形の指示対象を包含する。例えば、「ポリマー」への言及は、2以上のかかる分子の混合物または単一のポリマー種の異なる分子量の混合物を包含し、「合成ナノ担体」への言及は、2以上のかかる合成ナノ担体の混合物または複数のかかる合成ナノ担体を包含し、「DNA分子」への言及は、2以上のかかるDNA分子の混合物または複数のかかるDNA分子を包含し、「免疫抑制薬」への言及は、2以上のかかる材料の混合物または複数の免疫抑制薬分子を包含する、等である。
【0014】
本明細書に使用されるとき、用語「含む(comprise)」またはそのバリエーション、たとえば「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」は、挙げられたいずれかの整数(例として、特色、要素、特徴、特性、方法/プロセスステップ、もしくは限定)、または整数の群(例として、特色、要素、特徴、特性、方法/プロセスステップ、もしくは限定)の包含を指し示すが、いずれか他の整数または整数の群の排除を指し示すものではないと読むべきである。よって、本明細書に使用されるとき、用語「含む(comprising)」は、包含的であって、挙げられていない追加の整数または方法/プロセスステップを除外しない。
【0015】
本明細書に提供される組成物および方法のいずれか1つの態様において、「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」または「からなる(consisting of)」に置き換えられてもよい。句「から本質的になる」は本明細書において、特定された整数(単数もしくは複数)またはステップを、ならびにクレームされた発明の特質または機能に実質的な影響を及ぼさないものを、要するために使用される。本明細書に使用されるとき、用語「なる(consisting)」は、挙げられた整数(例として、特色、要素、特徴、特性、方法/プロセスステップ、もしくは限定)、または整数の群(例として、特色、要素、特徴、特性、方法/プロセスステップ、もしくは限定)が単独で存在することを指し示すのために使用される。
【0016】
A.序論
本明細書に提供されるある投薬は、同等、有効で、および/または永続的な導入遺伝子あるいは核酸材料の発現をもたらし得る。投薬はまた、いくつかの態様において、用量節約効果ももたらしてよい。
【0017】
B.定義
「投与する(施す)こと」または「投与(施し)」または「投与する(施す)」は、材料を、薬理学的に有用な様式において、対象へ提供することを意味する。用語は、いくつかの態様において、「投与させること(causing to be administered)」を包含することが意図される。「投与させること」は、別の当事者が材料を投与することを、直接的もしくは間接的に、引き起こすこと、駆り立てること、奨励すること、補助すること、誘導すること、または向かわせることを含む。
【0018】
「投与スケジュール」は、決定されたスケジュールに従う1以上の薬剤の投薬の施しを指す。スケジュールは、投薬数ならびにかかる投薬の頻度または投薬間の間隔を包含し得る。かかる投与スケジュールは、具体的な目標を、好ましくはウイルスベクター抗原への望ましくない免疫応答の低減、および/または効果的および/または永続的および/または同等の導入遺伝子または核酸材料の発現を、達成させるために変動する数多のパラメータを包含していてもよい。態様において、投与スケジュールは、例において下に提供されるとおりの投与スケジュールのいずれかである。いくつかの態様において、本発明に従う投与スケジュールは、1以上のテスト対象への投薬を施すために使用されてもよい。これらテスト対象における免疫応答および/または導入遺伝子もしくは核酸材料の発現を、次いで、スケジュールが、望ましくない免疫応答を低減させることにおいて、および/または効果的および/または永続的および/または同等の導入遺伝子または核酸材料の発現において、有効であったか否かを決定するために査定され得る。スケジュールが所望される効果を有したか否かは、本明細書に提供されるかまたは別様に当該技術分野において知られている方法のいずれかを使用して決定され得る。例えば、試料は、特定の免疫細胞サイトカイン、抗体等々が低減、生成、活性化等々されたか否か、および/または特定のタンパク質もしくは発現産物が増大、低減、もしくは生成等々されたか否かを決定するために、本明細書に提供される投薬が特定の投与スケジュールに従って投与されている対象から得られてもよい。免疫細胞の存在および/または数を検出するのに有用な方法は、これらに限定されないが、フローサイトメトリー法(例として、FACS)、ELISpot、増殖応答、サイトカイン産生、および免疫組織化学的方法を包含する。抗体などのタンパク質の産生レベルを決定するのに有用な方法は、当該技術分野において周知であって、本明細書に提供されるアッセイを包含する。かかるアッセイは、ELISAアッセイを包含する。
【0019】
導入遺伝子発現レベルは、同等の対象またはテスト対象において査定され得る。当業者は、「同等の対象」が、発現レベルが決定され、かつ処置されるべき対象との比較基準(comparator)としてそれが使用され得る対象であると理解するであろう。「テスト対象」は、発現レベルが決定され得、かつそのレベルが、たとえばスケーリング(scaling)および/または外挿を通して、直接的あるいは間接的な比較基準になり得る、いずれかの対象である。いくつかの態様において、より低い用量は、同等の対象またはテスト対象において候補となるより低い用量を、同等の対象またはテスト対象へ投与されたより高い用量と比較することによって決定される。処置されるべき対象のための用量は次いで、スケーリングまたは外挿を通して決定され得る。
【0020】
いくつかの態様において、そのより低い用量は、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の併用投与なしで投与されるウイルスベクターの用量よりも低いが、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の併用投与なしで投与されるウイルスベクターの用量と同等の導入遺伝子または核酸材料の発現をもたらす。より低い用量は、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の併用投与での、単回用のより低い用量、あるいは同等の導入遺伝子または核酸材料の発現をもたらす、免疫抑制薬へ付着されている合成ナノ担体の少なくとも1つの併用投与での、有限の期間(例として、1週間もしくは2週間)にわたる、1より多くのかかるより低い用量であり得る。本明細書に使用されるとき、「同等の導入遺伝子または核酸材料の発現」は、統計的に有意に異なっていないと決定された発現か、または有意な臨床上異なる効果をもたらすことが期待されないであろう発現を指す。
【0021】
対象への投与のための組成物または剤形の文脈における「有効な量」は、1以上の所望される免疫応答を、あるいは効果的および/または永続的なおよび/または同等の導入遺伝子または核酸材料の発現を、対象において産生させる、組成物または剤形の量を指す。したがって、いくつかの態様において、有効な量は、望ましくない免疫応答を低減させるか、および/または効果的および/または永続的なおよび/または同等の導入遺伝子または核酸材料の発現を提供する、本明細書に提供される組成物もしくは剤形、またはそれらの組み合わせのいずれかの量である。この量は、in vitro目的またはin vivo目的のためとすることができる。in vivo目的のための、その量は、本明細書に提供されるとおりの対象にとって臨床的な利益を有し得ると臨床医が考えるであろう量であり得る。
【0022】
有効な量は、望ましくない免疫応答レベルを低減させることを伴い得るが、いくつかの態様において、それはつまるところ望ましくない免疫応答を予防することを伴う。有効な量はまた、望ましくない免疫応答の発生を遅延させることも伴い得る。有効である量はまた、所望される治療的エンドポイントまたは所望される治療効果を産生する量でもあり得る。有効な量は、好ましくは、対象におけるウイルスベクターに特異的な望ましくない免疫応答の低減をもたらし、および/またはウイルスベクターの効果的および/または永続的なおよび/または同等の導入遺伝子または核酸材料の発現を提供する。有効な量はまた、ウイルスベクター抗原などの抗原への、対象における寛容原性免疫応答ももたらし得る。他の態様において、有効な量は、治療的エンドポイントまたは結果などの、所望される応答レベルを増強することを伴い得る。上記のいずれかの達成は、定型的な(routine)方法によってモニターされ得る。
【0023】
提供される組成物および方法のいずれか1つの、いくつかの態様において、有効な量は、所望される免疫応答が対象において、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1カ月、またはそれより長く持続する量である。提供される組成物および方法のいずれかのうちの、他の態様において、有効な量は、測定可能な所望される応答を、例えば、体液性免疫応答(例として、特定の抗原への前記応答)の低減などの測定可能な所望される免疫応答、および/または導入遺伝子もしくは核酸材料の発現応答を、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1カ月、もしくはそれより長く産生させる量である。
【0024】
有効な量は無論、処置される特定の対象;疾病(condition)、疾患、または障害の重篤度;齢(age)、体調(physical condition)、サイズ、および重量を包含する個々のペイシェント(patient)パラメータ;処置の期間;併用治療の性質(もしあれば);投与の特定の経路、ならびに健康管理医(health practitioner)の知識および経験の範囲内にある同類因子に依存するであろう。これら因子は当業者に周知であって、わずかな定型実験(routine experimentation)で対処され得る。最大用量、つまり、穏健な医学的判断に従う最高安全用量を使用することが一般に好ましい。しかしながら、ペイシェントが、医学的理由、心理的理由から、または他の事実上あらゆる理由から、より低い用量または耐容用量を求める場合もあることは、当業者によって理解されるであろう。
【0025】
免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体の用量は、合成ナノ担体へ付着された免疫抑制薬の量を指し得る。代替的に、用量は、所望される量の免疫抑制薬を提供する合成ナノ担体の数に基づき投与され得る。
【0026】
「抗ウイルスベクター免疫応答」または「ウイルスベクターに対する免疫応答」または同種のものは、ウイルスベクターに対するいずれかの望ましくない免疫応答を指す。いくつかの態様において、望ましくない免疫応答は、ウイルスベクターまたはその抗原に対する抗原特異的免疫応答である。いくつかの態様において、免疫応答は、ウイルスベクターのウイルス性抗原に特異的である。免疫応答は、抗ウイルスベクター抗体応答、抗ウイルスベクターT細胞免疫応答、たとえばCD4+ T細胞もしくはCD8+ T細胞の免疫応答、または抗ウイルスベクターB細胞免疫応答であってもよい。
【0027】
「抗原」は、B細胞抗原またはT細胞抗原を意味する。「抗原の型(単数または複数)」は、同じまたは実質的に同じ抗原性の特徴を共有する分子を意味する。いくつかの態様において、抗原は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、リポタンパク質、糖脂質、ポリヌクレオチド、多糖であってもよく、または細胞中に含有もしくは発現されていてもよい。抗原が十分に定義または特徴付けされていないときなどのいくつかの態様において、抗原は、細胞または組織の調製物、細胞デブリ、細胞エキソソーム、馴化培地等々内に含有されていてもよい。
【0028】
「抗原特異的」は、抗原またはその一部の存在の結果として生じるか、あるいは抗原を特異的に認識または結合する分子を生成する、いずれかの免疫応答を指す。いくつかの態様において、抗原がウイルスベクターから成る(of)とき、抗原特異的は、ウイルスベクター特異的であることを意味してもよい。例えば、免疫応答が、ウイルスベクター特異的抗体産生などの抗原特異的抗体産生である場合、抗原(例として、ウイルスベクター)に特異的に結合する抗体が産生される。別の例として、免疫応答が、抗原特異的なB細胞もしくはCD4+ T細胞の増殖および/または活性である場合、増殖および/または活性は、抗原もしくはその一部の、単独での、またはMHC分子、B細胞等々との複合での、認識の結果として生じる。
【0029】
「免疫応答を査定すること」は、in vitroもしくはin vivoでの免疫応答の、レベル、存在または不在、低減、増大等々の、いずれかの測定あるいは決定を指す。かかる測定または決定は、対象から得られる1以上の試料に対して実施されてもよい。かかる査定は、本明細書に提供されるかまたは別様に当該技術分野において知られている方法のいずれかで実施され得る。
【0030】
「付着する(Attach)」もしくは「付着された(Attached)」または「カップリングする(Couple)」もしくは「カップリングされた(Coupled)」(および同種のもの)は、ある実体(例えば部分)を別のものと化学的に結び合わせる(associate)ことを意味する。いくつかの態様において、付着は共有結合的であり、このことは、付着が2実体間の共有結合の存在という文脈において起こることを意味する。非共有結合的態様において、非共有結合的付着は、これらに限定されないが、電荷相互作用、アフィニティー相互作用、金属配位、物理的吸着、主客相互作用、疎水性相互作用、TTスタッキング相互作用、水素結合相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、磁性相互作用、静電相互作用、双極子-双極子相互作用、および/またはそれらの組み合わせを包含する、非共有結合的相互作用によって媒介される。態様において、カプセル封入は、付着の形態である。態様において、ウイルスベクターと、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体とは、相互に付着されていないが、このことは、ウイルスベクターと、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体とが、特に一方を他方と化学的に結び合わせることを意図したプロセスへ供されていないということを意味する。
【0031】
「リスクがある」対象は、健康管理医が、疾患、障害、もしくは疾病を有する可能性があると考える対象、または健康管理医が、本明細書に提供されるとおりの望ましくない免疫応答を経験する可能性があり、かつ提供される組成物および方法から利益を得るであろうと考える対象である。いくつかの態様において、対象は、ウイルスベクターの投与から利益を得るであろう対象である。
「平均(average)」は、本明細書に使用されるとき、別様に断りのない限り、算術平均値(arithmetic mean)を指す。
【0032】
「併用して(concomitantly)」は、対象へ、時間的に相関する、好ましくは免疫応答もしくは生理学的応答のモジュレーションを提供するために時間的に充分に相関する様式において、2以上の材料/薬剤を投与すること、いっそうより好ましくは、2以上の材料/薬剤が組み合わせられて投与されることを意味する。態様において、併用投与は、2以上の材料/薬剤の、特定された期間内の、好ましくは1カ月以内の、より好ましくは1週間以内の、なおもより好ましくは1日以内の、いっそうより好ましくは1時間以内の、投与を網羅してもよい。態様において、材料/薬剤は、併用して反復投与されてもよく、それは、1より多くの機会での、たとえば例において提供され得るとおりの、併用投与である。
【0033】
「決定すること」または「決定する」は、事実関係を究明することを意味する。決定することは、数多の形で成し遂げられてもよく、これらに限定されないが、実験を実施することまたは予測を立てることを包含する。実例として、免疫抑制薬および/またはウイルスベクターの用量は、テスト用量で始めて、かつ投与のための用量を決定するために知られているスケーリング技法(アロメトリックまたはアイソメトリックスケーリングなど)を使用することによって決定されてもよい。かかるものはまた、本明細書に提供されるとおりのプロトコルまたは投与スケジュールを決定するためにも使用されてよい。別の態様において、用量は、対象において様々な用量をテストすることによって、すなわち、経験および指針となるデータに基づく直接的な実験法を通じて、決定されてもよい。態様において、「決定すること」または「決定する」は、「決定付けること(causing to be determined)」を含む。「決定づけること」は、ある実体が事実関係を究明することを、引き起こす、促す、奨励する、援助する、誘導する、またはその実体と協調して向かわせるもしくは行動することを意味する;直接的もしくは間接的に、またははっきりともしくは暗示的に、を包含する。
【0034】
「用量」は、所定時間の間、対象へ投与されるための薬理学的におよび/または免疫学的に活性な材料の特定分量を指す。一般に、本発明の方法および組成物における、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体および/またはウイルスベクターの用量は、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体および/またはウイルスベクターの量を指す。代替的に、用量は、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の用量に言及するときの実例において、所望される量の免疫抑制薬を提供する合成ナノ担体の数に基づき投与され得る。用量が、反復投薬の文脈で使用されるとき、用量は、反復用量の各々の量を指し、これは同じであってまたは異なっていてもよい。
【0035】
「投薬」は、薬理学的におよび/または免疫学的に活性な材料あるいは薬理学的におよび/または免疫学的に活性な材料の組み合わせの、対象への投与を意味する。投薬の材料は、本明細書に提供される方法のいずれか1において、併用して投与されてもよい。投薬の材料は、本明細書に提供される方法のいずれか1つにおいて、別々の組成物において個別に投与されてもよい。
【0036】
「カプセル封入する(encapsulate)」は、合成ナノ担体内の物質の少なくとも一部を囲い込むことを意味する。いくつかの態様において、物質は、合成ナノ担体内に完全に囲い込まれている。他の態様において、カプセル封入される物質のほとんどまたはすべてが、合成ナノ担体外の局所環境へ曝露されていない。他の態様において、50%、40%、30%、20%、10%、または5%(重量/重量)以下が、局所環境へ曝露されている。カプセル封入は、吸収とは別のものであるが、吸収は、物質のほとんどまたはすべてを合成ナノ担体の表面上に配置し、物質を合成ナノ担体外の局所環境へ曝露させたままにする。本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つにおいて、免疫抑制薬は、合成ナノ担体中にカプセル封入されていてもよい。
【0037】
「発現制御配列」は、発現に影響を及ぼし得るいずれの配列でもあって、プロモーター、エンハンサー、およびオペレーターを包含し得る。提供される方法または組成物のいずれか1つの一態様において、発現制御配列は、プロモーターである。提供される方法または組成物のいずれか1つの一態様において、発現制御配列は、肝臓特異的プロモーターまたは構成的プロモーターである。「肝臓特異的プロモーター」は、独占的または優先的に、肝臓の細胞における発現をもたらすものである。「構成的プロモーター」は、一般に活性のあるものであって、ある細胞に独占的でも優先的でもないと思われるものである。本明細書に提供される核酸またはウイルスベクターのいずれか1つにおいて、プロモーターは、本明細書に提供されるプロモーターのいずれか1つであってもよい。
【0038】
「生成させる」は、それ自体が直接的もしくは間接的のいずれかで起こる、免疫応答または生理学的応答(例として、寛容原性免疫応答)などの作用を引き起こさせることを意味する。
【0039】
「対象を同定すること」は、臨床医に対象を、本明細書に提供される方法、組成物、またはキットから利益を得る対象として認識させることができる、いずれかの作用または一連の行為である。好ましくは、同定される対象は、ウイルスベクターからの治療的利益を必要とする対象であって、明細書に提供されるとおり望ましくない免疫応答が起こるものと期待される対象である。作用または一連の行為は、それ自体が直接的または間接的のいずれかであってもよい。本明細書に提供される方法のいずれか1つの一態様において、方法は、本明細書に提供されるとおりの方法、組成物、またはキットを必要とする対象を同定することをさらに含む。
【0040】
「免疫抑制薬」は、APCに、免疫抑制性の効果(例として、寛容原性効果)を有させること、またはT細胞もしくはB細胞を抑制させることを引き起こす化合物を意味する。免疫抑制性の効果は、一般に、望ましくない免疫応答を低減、阻害、もしくは防止するか、または調節性の免疫応答などの所望される免疫応答を促進する、APCによるサイトカインまたは他の因子の産生あるいは発現を指す。APCが、このAPCによって提示される抗原を認識する免疫細胞に対する免疫抑制性の機能を(免疫抑制性の効果の下で)獲得したとき、免疫抑制性の効果は、提示される抗原に特異的であると言われる。いずれの具体的な理論によっても拘束されないが、免疫抑制性の効果は、免疫抑制薬が、好ましくは抗原の存在下で、APCへ送達されることの結果であると思われる。一態様において、免疫抑制薬は、APCに、1以上の免疫エフェクター細胞における調節性の表現型を促進することを引き起こさせるものである。例えば、調節性の表現型は、抗原特異的CD4+ T細胞もしくはB細胞の産生、誘導、刺激、または動員の阻害、抗原特異的抗体の産生の阻害、Treg細胞(例として、CD4+CD25highFoxP3+ Treg細胞)の産生、誘導、刺激、または動員等々によって特徴付けられてもよい。これは、CD4+ T細胞またはB細胞の調節性の表現型への変換の結果であってもよい。これはまた、CD8+ T細胞、マクロファージ、およびiNKT細胞などの他の免疫細胞におけるFoxP3誘導の結果でもあってよい。一態様において、免疫抑制薬は、APCが抗原をプロセッシングした後の応答に影響を及ぼすものである。別の態様において、免疫抑制薬は、抗原のプロセッシングに干渉するものではない。さらなる態様において、免疫抑制薬は、アポトーシスシグナル伝達分子ではない。別の態様において、免疫抑制薬は、リン脂質ではない。
【0041】
免疫抑制薬は、これらに限定されないが、スタチン;ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などのmTORインヒビター;TGF-βシグナル伝達剤;TGF-β受容体アゴニスト;トリコスタチンAなどのヒストンデアセチラーゼインヒビター;コルチコステロイド;ロテノンなどのミトコンドリアの機能のインヒビター;P38インヒビター;6Bio、デキサメタゾン、TCPA-1、IKK VIIなどのNF-κβインヒビター;アデノシン受容体アゴニスト;ミソプロストールなどのプロスタグランジンE2アゴニスト(PGE2);ロリプラムなどのホスホジエステラーゼ4インヒビター(PDE4)などのホスホジエステラーゼインヒビター;プロテアソームインヒビター;キナーゼインヒビター;Gタンパク質共役受容体アゴニスト;Gタンパク質共役受容体アンタゴニスト;グルココルチコイド;レチノイド;サイトカインインヒビター;サイトカイン受容体インヒビター;サイトカイン受容体アクチベーター;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アンタゴニスト;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼインヒビター;カルシニューリンインヒビター;ホスファターゼインヒビター;TGx-221などのPI3KBインヒビター;3-メチルアデニンなどのオートファジーインヒビター;アリール炭化水素受容体インヒビター;プロテアソームインヒビターI(PSI);およびP2x受容体遮断薬などの酸化ATPを包含する。免疫抑制薬はまた、IDO、ビタミンD3、シクロスポリンAなどのシクロスポリン、アリール炭化水素受容体インヒビター、リスベラトロール、アザチオプリン(AZA)、6-メルカプトプリン(6-MP)、6-チオグアニン(6-TG)、FK506、サングリフェリンA、サルメテロール、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、アスピリンおよび他のCOxインヒビター、ニフルミン酸、エストリオール、メトトレキサート、ならびにトリプトライドも包含する。態様において、免疫抑制薬は、本明細書に提供される薬剤のいずれかを含んでもよい。
【0042】
免疫抑制薬は、APCへ直接的に免疫抑制性の効果を提供する化合物であり得るか、またはそれは、間接的に(すなわち、投与後に何とかして処理された後で)免疫抑制性の効果を提供する化合物であり得る。免疫抑制薬は、したがって、本明細書に提供される化合物のいずれかの、プロドラッグ形態を包含する。
【0043】
本明細書に提供される方法、組成物、またはキットのいずれか1つの態様において、本明細書に提供される免疫抑制薬は、合成ナノ担体へ付着されている。好ましい態様において、免疫抑制薬は、合成ナノ担体の構造を作り上げる材料へ追加される要素である。例えば、一態様において、合成ナノ担体が1以上のポリマーから作り上げられている場合、免疫抑制薬は、1以上のポリマーへ加えて、これへ付着された化合物である。別の例として、一態様において、合成ナノ担体が1以上の脂質から作り上げられている場合、免疫抑制薬はやはり、1以上の脂質へ加えて、これへ付着された化合物である。合成ナノ担体の材料もまた免疫抑制性の効果をもたらす場合などといった態様において、免疫抑制薬は、免疫抑制性の効果をもたらす合成ナノ担体の材料へ加えて存在する要素である。
【0044】
他の例示免疫抑制薬は、これらに限定されないが、小分子薬物、天然産物、抗体(例として、CD20、CD3、CD4に対する抗体)、生物ベースの薬物、炭水化物ベースの薬物、ナノ粒子、リポソーム、RNAI、アンチセンス核酸、アプタマー、メトトレキサート、NSAID;フィンゴリモド;ナタリズマブ;アレムツズマブ;抗CD3;タクロリムス(FK506);TGF-βおよびIL-10などのサイトカインならびに成長因子;等々を包含する。さらなる免疫抑制薬も当業者には知られており、本発明はこの点において限定されない。
【0045】
「負荷量(load)」は、合成ナノ担体へ付着されているとき、全合成ナノ担体における材料の乾燥処方総重量に基づく合成ナノ担体へ付着された免疫抑制薬の量(重量/重量)である。一般に、かかる負荷量は、合成ナノ担体の集団全体の平均として算出される。一態様において、免疫抑制薬の負荷量は、合成ナノ担体全体の平均で、0.1%と99%との間である。別の態様において、負荷量は、0.1%と50%との間である。また別の態様において、免疫抑制薬の負荷量は、0.1%と20%との間である。さらなる態様において、免疫抑制薬の負荷量は、0.1%と10%との間である。なおもさらなる態様において、免疫抑制薬の負荷量は、1%と10%との間である。なおもさらなる態様において、免疫抑制薬の負荷量は、7%と20%との間である。また別の態様において、免疫抑制薬の負荷量は、合成ナノ担体の集団全体の平均で、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.3%、少なくとも0.4%、少なくとも0.5%、少なくとも0.6%、少なくとも0.7%、少なくとも0.8%、少なくとも0.9%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、または少なくとも20%、少なくとも25%、または少なくとも30%である。そのうえさらなる態様において、免疫抑制薬の負荷量は、合成ナノ担体の集団全体の平均で、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%である。上の態様のいくつかの態様において、免疫抑制薬の負荷量は、合成ナノ担体の集団全体の平均で、25%以下または30%以下である。ある態様において、負荷量は、例に記載され得るとおりに、または別様に当該技術分野において知られているとおりに、算出される。
【0046】
「合成ナノ担体の最大寸法」は、合成ナノ担体のいずれかの軸に沿って測定されるナノ担体の最大寸法を意味する。「合成ナノ担体の最小寸法」は、合成ナノ担体のいずれかの軸に沿って測定される合成ナノ担体の最小寸法を意味する。例えば、球体状の合成ナノ担体について、合成ナノ担体の最大および最小寸法は、実質的に同一であり、その直径のサイズであろう。同様に、立方体状(cuboidal)の合成ナノ担体について、合成ナノ担体の最小寸法は、その高さ、幅、または長さのうちの最小のものであろう一方で、合成ナノ担体の最大寸法は、その高さ、幅、または長さのうちの最大のものであろう。一態様において、試料中の合成ナノ担体の総数に基づく、試料中の合成ナノ担体の少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法は、100nmと等しいか、またはこれより大きい。一態様において、試料中の合成ナノ担体の総数に基づく、試料中の合成ナノ担体の少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最大寸法は、5μMと等しいか、またはこれより小さい。好ましくは、試料中の合成ナノ担体の総数に基づく、試料中の合成ナノ担体の少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法は、110nmより大きく、より好ましくは120nmより大きく、より好ましくは130nmより大きく、より好ましくはなお、150nmより大きい。合成ナノ担体の最大寸法および最小寸法のアスペクト比は、態様に依存して変動してもよい。実例として、合成ナノ担体の最小寸法に対する最大寸法のアスペクト比は、1:1から1,000,000:1まで、好ましくは1:1から100,000:1まで、より好ましくは1:1から10,000:1まで、より好ましくは1:1から1000:1まで、なおより好ましくは1:1から100:1まで、そのうえより好ましくは1:1から10:1までで変動してもよい。好ましくは、試料中の合成ナノ担体の総数に基づく、試料中の合成ナノ担体の少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最大寸法は、3μmと等しいか、またはこれより小さく、より好ましくは2μmと等しいか、またはこれより小さく、より好ましくは1μmと等しいか、またはこれより小さく、より好ましくは800nmと等しいか、またはこれより小さく、より好ましくは600nmと等しいか、またはこれより小さく、およびより好ましくはなお、500nmと等しいか、またはこれより小さい。好ましい態様において、試料中の合成ナノ担体の総数に基づく、試料中の合成ナノ担体の少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法は、100nmと等しいか、またはこれより大きく、より好ましくは120nmと等しいか、またはこれより大きく、より好ましくは130nmと等しいか、またはこれより大きく、より好ましくは140nmと等しいか、またはこれより大きく、およびより好ましくはなお、150nmと等しいか、またはこれより大きい。合成ナノ担体の寸法(例として、有効直径)の測定値は、いくつかの態様において、合成ナノ担体を液体(大抵は水性)媒体に懸濁して、動的光散乱(DLS)を使用すること(例として、Brookhaven ZetaPALS器械を使用すること)によって、得られてもよい。例えば、合成ナノ担体の懸濁液は、およそ0.01~0.1mg/mLの最終合成ナノ担体懸濁液濃度を達成するために、水性緩衝剤から精製水中へ希釈され得る。希釈された懸濁液は、DLS分析に好適なキュベット内部で直接調製されても、またはこれへ移されてもよい。キュベットは次いで、DLS中に置き、制御された温度まで平衡化させ、次いで、媒体の粘度および試料の屈折率に適切なインプットに基づき、安定かつ再現性のある分布を獲得するのに充分な時間スキャンされてもよい。次いで有効直径または分布の平均値が報告させる。高アスペクト比または非球体状の合成ナノ担体の有効サイズを決定することは、より正確な測定値を得るのに、電子顕微鏡法などの増加的技法(augmentative techniques)を要することもある。合成ナノ担体の「寸法」または「サイズ」または「直径」は、例えば動的光散乱を使用して得られる、粒子サイズ分布の平均値を意味する。
【0047】
「非メトキシ末端のポリマー」は、メトキシ以外の部分で終わる少なくとも1つの末端を有するポリマーを意味する。いくつかの態様において、ポリマーは、メトキシ以外の部分で終わる少なくとも2つの末端を有する。他の態様において、ポリマーは、メトキシで終わる末端を一切有さない。「非メトキシ末端プルロニックポリマー」は、両端にてメトキシをもつ線状プルロニックポリマー以外のポリマーを意味する。本明細書に提供されるとおりのポリマーナノ粒子は、非メトキシ末端のポリマーまたは非メトキシ末端のプルロニックポリマーを含み得る。
【0048】
「薬学的に許容し得る賦形剤」または「薬学的に許容し得る担体」は、組成物を製剤化するために薬理学的に活性のある材料と一緒に使用される薬理学的に不活性な材料を意味する。薬学的に許容し得る賦形剤は、当該技術分野において知られている様々な材料を含み、これらに限定されないが、糖(たとえば、グルコース、ラクトース等)、抗菌剤などの保存料、再構成補助剤、着色料、生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水など)、および緩衝剤を包含する。
【0049】
「提供すること」は、本発明の実践のために必要な品目もしくは一連の品目または方法を供給する、個々が実施する作用または一連の行為を意味する。作用または一連の行為は、自身で直接的または間接的のいずれかで取られるものであってもよい。
【0050】
「対象を提供すること」は、臨床医に対象と接触させて、本明細書に提供される組成物をそれへ投与するようにさせるか、または本明細書に提供される方法をそれに対して実施するようにさせる、いずれかの作用または一連の行為である。いくつかの態様において、対象は、ウイルスベクター投与およびこれに対する抗原特異的免疫寛容を、または本明細書に提供されるとおりの所望される結果のいずれか1つを、必要とする対象である。作用または一連の行為は、自身で直接的または間接的のいずれかで取られるものであってもよい。本明細書に提供される方法のいずれか1つの一態様において、方法は、対象を提供することをさらに含む。
【0051】
「対象」は、ヒトおよび霊長類などの温血哺乳動物;鳥類;ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、およびブタなどの家庭内動物または家畜動物(domestic household or farm animals);マウス、ラット、およびモルモットなどの実験動物;魚類;爬虫類;動物園の動物および野生の動物;等を包含する動物を意味する。本明細書に使用されるとき、対象は、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つを必要とする対象であってもよい。
【0052】
「合成ナノ担体(単数または複数)」は、天然には見出されず、かつサイズが5ミクロンより小さいか、またはこれと等しい、少なくとも1つの寸法を保有する、個別の物体を意味する。アルブミンナノ粒子は、一般に、合成ナノ担体として包含されるものであるが、しかしながら、ある態様において、合成ナノ担体は、アルブミンナノ粒子を含まない。態様において、合成ナノ担体は、キトサンを含まない。他の態様において、合成ナノ担体は、脂質ベースのナノ粒子ではない。さらなる態様において、合成ナノ担体は、リン脂質を含まない。
【0053】
合成ナノ担体は、これらに限定されないが、1つまたは複数の脂質ベースのナノ粒子(また本明細書において液体ナノ粒子、すなわち、それらの構造を構成する材料の大部分が脂質であるナノ粒子としても言及される)、ポリマーナノ粒子、金属ナノ粒子、界面活性剤ベースのエマルション、デンドリマー、バッキーボール、ナノワイヤー、ウイルス様粒子(すなわち、主にウイルスの構造タンパク質からなるが、感染性ではないか、低い感染性を有する粒子)、ペプチドまたはタンパク質ベースの粒子(また本明細書において、タンパク質粒子、すなわち、それらの構造を構成する材料の大部分がペプチドもしくはタンパク質である粒子としても言及される)(アルブミンナノ粒子など)、および/または脂質-ポリマーナノ粒子などのナノ材料の組み合わせを用いて開発されるナノ粒子であり得る。合成ナノ担体は、様々な異なる形状であってもよく、これらに限定されないが、球体状、立方体状、錐体、長方形、円柱状、ドーナツ型等を包含する。本発明に従う合成ナノ担体は、1以上の表面を含む。本発明の実践における使用に適合され得る例示の合成ナノ担体は、次を含む:(1)Grefら米国特許第5,543,158号に開示されている生分解性ナノ粒子、(2)Saltzmanらの公開された米国特許出願第20060002852号のポリマーナノ粒子、(3)DeSimoneらの公開された米国特許出願第20090028910号のリソグラフィにより(lithographically)構築されたナノ粒子、(4)von Andrianらの国際公開第2009/051837号の開示、(5)Penadesらの公開された米国特許出願第2008/0145441号に開示されているナノ粒子、(6)de los Riosらの公開された米国特許出願第20090226525号に開示されているタンパク質ナノ粒子、(7)Sebbelらの公開された米国特許出願第20060222652号に開示されているウイルス様粒子、(8)Bachmannらの公開された米国特許出願第20060251677号に開示されている核酸付着ウイルス様粒子、(9)WO2010047839A1またはWO2009106999A2に開示されているウイルス様粒子、(10)P. Paolicelli et al.,“Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles”Nanomedicine.5(6):843-853(2010)に開示されているナノ沈殿ナノ粒子、(11)米国刊行物第2002/0086049号に開示されているアポトーシス細胞、アポトーシス小体、または合成もしくは半合成の模倣体、あるいは(12) those of Look et al.,Nanogel-based delivery of mycophenolic acid ameliorates systemic lupus erythematosus in mice”J. Clinical Investigation 123(4):1741-1749(2013)のもの。態様において、合成ナノ担体は、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7より大きいか、もしくはこれに等しいか、または1:10より大きいアスペクト比を保有していてもよい。
【0054】
約100nmと等しいかまたはこれより小さい、好ましくは100nmと等しいかまたはこれより小さい最小寸法を有する、本発明に従う合成ナノ担体は、補体を活性化するヒドロキシル基をもつ表面を含まないか、または代替的に、補体を活性化するヒドロキシル基ではない部分から本質的になる表面を含む。好ましい態様において、約100nmと等しいかまたはこれより小さい、好ましくは100nmと等しいかまたはこれより小さい最小寸法を有する、本発明に従う合成ナノ担体は、補体を実質的に活性化する表面を含まないか、または代替的に、補体を実質的に活性化しない部分から本質的になる表面を含む。より好ましい態様において、約100nmと等しいかまたはこれより小さい、好ましくは100nmと等しいかまたはこれより小さい最小寸法を有する、本発明に従う合成ナノ担体は、補体を活性化する表面を含まないか、または代替的に、補体を活性化しない部分から本質的になる表面を含む。態様において、合成ナノ担体は、ウイルス様粒子を除外する。態様において、合成ナノ担体は、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7より大きいか、もしくはこれに等しいか、または1:10より大きいアスペクト比を保有していてもよい。
【0055】
「導入遺伝子または核酸材料の発現」は、導入遺伝子または核酸材料がウイルスベクターによって送達されたときの、対象におけるウイルスベクターの導入遺伝子または核酸材料の発現産物のレベルを指す。いくつかの態様において、発現のレベルは、対象、同等の対象、もしくはテスト対象において、または二組の同等の対象間もしくは二組のテスト対象間として、着目した様々な組織または系における導入遺伝子タンパク質濃度を測定することによって決定されてもよい。代替的に、発現産物が核酸であるとき、発現のレベルは、核酸産物によって測定されてもよい。発現の増大は、例えば、対象から得られた試料中の発現産物の量を測定して、これを先の試料と比較することによって、決定され得る。発現の永続性は、当業者にとって明らかであろう同様の方法または他の方法によって測定されてもよい。試料は、組織試料であってもよい。いくつかの態様において、発現産物は、フローサイトメトリーを使用して測定され得る。
【0056】
「望ましくない免疫応答」は、抗原への曝露からの結果として生じるか、本明細書に提供される疾患、障害、もしくは疾病(またはその症状)を促進または悪化させるか、あるいは本明細書に提供される疾患、障害、または疾病の症状を示すものである、いずれかの望ましくない免疫応答を指す。かかる免疫応答は、一般に、対象の健康状態に対し負の影響(impact)を有し得るか、または対象の健康状態に対し負の影響の症状を示し得る。望ましくない免疫応答は、抗原特異的抗体産生、抗原特異的B細胞の増殖および/または活性、あるいは抗原特異的CD4+ T細胞の増殖および/または活性を包含し得る、望ましくない体液性免疫応答であってもよい。一般に、本明細書において、これらの望ましくない免疫応答は、ウイルスベクターに特異的であって、ウイルスベクターでの投与の所望される有益な効果に拮抗する。
【0057】
「ウイルスベクター」は、治療用のタンパク質もしくは核酸などの治療薬をコードする導入遺伝子または核酸材料(その導入遺伝子または核酸材料は、本明細書に提供されるとおり発現され得る)を含みかつ送達するように適合されている、カプシドおよび/またはコートタンパク質などのウイルスの構成要素とのベクターコンストラクトを意味する。 「発現される」もしくは「発現」または同種のものは、導入遺伝子または核酸材料が細胞中へ形質導入されて、形質導入された細胞によってプロセッシングされた後の、機能的(すなわち、所望される目的から生理学的に活性のある)産物の合成を指す。かかる産物はまた、本明細書において「発現産物」としても言及される。ウイルスベクターは、限定せずに、AAV8またはAAV2などのアデノ随伴ウイルスに基づき得る。よって、本明細書に提供されるAAVベクターは、AAV8またはAAV2などのAAVに基づくウイルスベクターであって、カプシドおよび/またはコートタンパク質などのウイルスの構成要素を有し、それらが導入遺伝子または核酸材料を送達するためにパッケージし得る。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、「キメラウイルスベクター」である。かかる態様において、これは、ウイルスベクターが、1より多くのウイルスまたはウイルスベクターに由来するウイルスの構成要素から作り上げられていることを意味する。
【0058】
「ウイルスベクター抗原」は、ウイルスベクターに関連する抗原(すなわち、ウイルスベクター、またはウイルスベクターに対する免疫応答(例として、抗ウイルスベクター特異抗体の産生)を生成し得る、そのフラグメント)を意味する。ウイルスベクター抗原は、免疫系(例として、抗原提示細胞によって提示されるなどの、免疫系の細胞であって、これらに限定されないが、樹状細胞、B細胞、またはマクロファージを包含する)による認識のために提示されてもよい。ウイルスベクター抗原は、例えば、T細胞による認識のために提示されてもよい。かかる抗原は、クラスIまたはクラスIIの主要組織適合性複合体分子(MHC)へ結合された抗原のエピトープの提示を介し、T細胞における免疫応答によって認識されて、前記応答を始動させて(trigger)てもよい。ウイルスベクター抗原は、一般に、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド等々を包含するか、あるいは細胞中に、細胞上に、もしくは細胞によって、含有または発現される。ウイルスベクター抗原は、いくつかの態様において、MHCクラスI拘束性エピトープおよび/またはMHCクラスII拘束性エピトープおよび/またはB細胞エピトープを含む。いくつかの態様において、本明細書に提供される方法、組成物、またはキットを用いると、ウイルスベクターに特異的な1以上の寛容原性免疫応答という結果となる。態様において、合成ナノ担体の集団は、追加されたウイルスベクター抗原を何ら含まず、このことは、何らの実質的な量のウイルスベクター抗原も、合成ナノ担体へ、それら製造最中に意図的に加えられていないことを意味する。
【0059】
C.方法の実践において有用な組成物
導入遺伝子または核酸材料、たとえば本明細書に提供されるウイルスベクターの導入遺伝子または核酸材料は、対象、たとえば疾患もしくは障害をもつ対象にとって有益な、いずれかのタンパク質もしくはその一部、またはいずれかの核酸もしくはその一部をコードしていてもよい。態様において、対象は、対象のタンパク質の内因性バージョンが、欠損しているか、または限られた量でしかもしくはまったく産生されないことによって、疾患もしくは障害を有するか、またはそれを有する疑いがある。対象は、本明細書に提供されるとおりの疾患または障害のいずれか1つをもつものであってもよく、導入遺伝子または核酸材料は、本明細書に提供されるとおりの治療用タンパク質またはその一部のいずれか1つをコードするものである。本明細書において提供される導入遺伝子または核酸材料は、対象におけるその内因性バージョンの何らかの欠損(内因性バージョン発現の欠損を包含する)を通じて、対象において疾患または障害をもたらす、いずれかのタンパク質の機能的バージョンをコードしていてもよい。
【0060】
導入遺伝子または核酸材料の配列はまた、発現制御配列も包含していてよい。発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、およびオペレーターを包含し、一般に、発現コンストラクトが利用されるべき発現系に基づき選択される。いくつかの態様において、プロモーター配列およびエンハンサー配列は、遺伝子発現の増大能について選択される一方、オペレーター配列は、遺伝子発現の調節能について選択されてもよい。導入遺伝子はまた、宿主細胞中での相同組換えを容易にする、好ましくは促進する、配列も包含していてよい。導入遺伝子はまた、宿主細胞中での複製に必要な配列も包含していてよい。
【0061】
例示の発現制御配列は、肝臓特異的プロモーター配列および構成的プロモーター配列、たとえば本明細書に提供されてもよいプロモーターのいずれか1つを包含する。一般に、プロモーターは、所望される発現産物をコードする配列の上流(すなわち、5’)に動作可能に(operatively)連結される。導入遺伝子はまた、コード配列の下流(すなわち、3’)に作動可能に(operably)連結された好適なポリアデニル化配列も包含していてよい。
【0062】
ウイルスは、それらが感染する細胞の内部でそれらゲノムを輸送するために特化した機構を進化させてきた;かかるウイルスに基づくウイルスベクターは、細胞を形質導入することで特定用途に合せられ得る。本明細書に提供されるとおりに使用されてもよいウイルスベクターの例は、当該技術分野において知られているか、または本明細書に記載されている。好適なウイルスベクターは、実例として、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベースのベクターを包含する。
【0063】
本明細書に提供されるウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づき得る。AAVベクターは、治療用途、たとえば本明細書に記載されている用途における使用のために、殊更着目されている。AAVは、ヒト疾患を引き起こすことが知られていないDNAウイルスである。一般に、AAVは、効率的な複製のために、ヘルパーウイルス(例として、アデノウイルスもしくはヘルペスウイルス)との共感染、またはヘルパー遺伝子の発現を要する。AAVベースのベクターの記載については、例えば、米国特許第8,679,837号、同第8,637,255号、同第8,409,842号、同第7,803,622号、および同第7,790,449号、ならびに米国公開第20150065562号、同第20140155469号、同第20140037585号、同第20130096182号、同第20120100606号、および同第20070036757号を見よ。AAVベクターは、組換えAAVベクターであってもよい。AAVベクターはまた、自己相補的(sc)AAVベクターでもあってよく、これは、例えば、米国特許出願公開第2007/01110724号および同第2004/0029106号、ならびに米国特許第7,465,583号および同第7,186,699号において記載されている。
【0064】
ウイルスベクターが基にするアデノ随伴ウイルスは、AAV8またはAAV2などの特定の血清型から成ってもよい。本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つのいくつかの態様において、したがってAAVベクターは、AAV8ベクターまたはAAV2ベクターである。
【0065】
多種多様な合成ナノ担体は、投薬の免疫抑制薬へ付着させるために使用され得る。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、球体または球体状である。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、扁平または平板形状である。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、立方体(cubes)または立体(cubic)である。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、卵円または楕円である。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、円柱、円錐、または錐体である。
【0066】
いくつかの態様において、各々の合成ナノ担体が同様の特性を有するように、サイズまたは形状の点で相対的に一様である合成ナノ担体の集団の使用が所望される。例えば、合成ナノ担体の総数に基づき、合成ナノ担体の少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%は、合成ナノ担体の平均直径もしくは平均寸法の5%、10%、または20%以内に該当する最小寸法あるいは最大寸法を有していてもよい。
【0067】
合成ナノ担体は、中実または中空であり得、1以上の層を含見得る。いくつかの態様において、各層は、他の層(単数または複数)と比べてユニークな組成およびユニークな特性を有する。一例のみを挙げると、合成ナノ担体は、コア/シェル構造を有していてもよく、ここでコアは1つの層であり(例として、ポリマーのコア)、シェルは第2の層である(例として、脂質二重層または単層)。合成ナノ担体は、複数の異なる層を含んでいてもよい。
【0068】
いくつかの態様において、合成ナノ担体は任意に、1以上の脂質を含んでいてもよい。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、リポソームを含んでいてもよい。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、脂質二重層を含んでいてもよい。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、脂質単層を含んでいてもよい。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、ミセルを含んでいてもよい。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、脂質層(例として、脂質二重層、脂質単層等々)に囲まれたポリマーマトリックスを含むコアを含んでいてもよい。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、脂質層(例として、脂質二重層、脂質単層等々)に囲まれた非ポリマーのコア(例として、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子、骨粒子、ウイルス粒子、タンパク質、核酸、炭水化物等々)を含んでいてもよい。
【0069】
他の態様において、合成ナノ担体は、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子等々を含んでいてもよい。いくつかの態様において、非ポリマーの合成ナノ担体は、金属原子(例として、金原子)の凝集物などの、非ポリマーの構成要素の凝集物である。
【0070】
いくつかの態様において、合成ナノ担体は任意に、1以上の両親媒性の実体を含んでいてもよい。いくつかの態様において、両親媒性の実体は、安定性が増大し、一様性が改善し、または粘性が増大した合成ナノ担体の産生を促進し得る。いくつかの態様において、両親媒性の実体は、脂質膜(例として、脂質二重層、脂質単層等々)の内側表面と結び合わされ得る。当該技術分野において知られている多くの両親媒性の実体が、本発明に従う合成ナノ担体の作製における使用に好適である。かかる両親媒性の実体は、これらに限定されないが、ホスホグリセリド;ホスファチジルコリン;ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC);ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);ジオレイルオキシプロピルトリエチルアンモニウム(DOTMA);ジオレオイルホスファチジルコリン;コレステロール;コレステロールエステル;ジアシルグリセロール;コハク酸ジアシルグリセロール;ジホスファチジルグリセロール(DPPG);ヘキサンデカノール;ポリエチレングリコール(PEG)などの脂肪アルコール;ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル;パルミチン酸またはオレイン酸などの界面活性脂肪酸;脂肪酸;脂肪酸モノグリセリド;脂肪酸ジグリセリド;脂肪酸アミド;ソルビタントリオレアート(Span(登録商標)85)グリココーレート;ソルビタンモノラウレート(Span(登録商標)20);ポリソルベート20(Tween(登録商標)20);ポリソルベート60(Tween(登録商標)60);ポリソルベート65(Tween(登録商標)65);ポリソルベート80(Tween(登録商標)80);ポリソルベート85(Tween(登録商標)85);ポリオキシエチレンモノステアレート;サーファクチン;ポロキサマー;ソルビタントリオレアートなどのソルビタン脂肪酸エステル;レシチン;リゾレシチン;ホスファチジルセリン;ホスファチジルイノシトール;スフィンゴミエリン;ホスファチジルエタノールアミン(セファリン);カルジオリピン;ホスファチジン酸;セレブロシド;リン酸ジセチル;ジパルミトイルホスファチジルグリセロール;ステアリルアミン;ドデシルアミン;ヘキサデシルアミン;パルミチン酸アセチル;グリセロールリシノレート;ヘキサデシルステアレート;ミリスチン酸イソプロピル;チロキサポール;ポリ(エチレングリコール)5000-ホスファチジルエタノールアミン;ポリ(エチレングリコール)400-モノステアレート;リン脂質;高い界面活性剤特性を有する合成および/または天然の洗剤;デオキシコラート;シクロデキストリン;カオトロピックな塩;イオン対化剤(ion pairing agent);ならびにこれらの組み合わせを包含する。両親媒性の実体は、異なる両親媒性の実体の混合物であってもよい。当業者は、これが界面活性剤効果をもつ例示物質のリストであって、包括的なものではないことを理解するであろう。いずれかの両親媒性の実体が、本発明に従って使用されるべき合成ナノ担体の産生において使用されてもよい。
【0071】
いくつかの態様において、合成ナノ担体は任意に、1以上の炭水化物を含んでいてもよい。炭水化物は、天然であってもまたは合成であってもよい。炭水化物は、誘導体化された天然の炭水化物であってもよい。ある態様において、炭水化物は、単糖または二糖を含み、これらに限定されないが、グルコース、フルクトース、ガラクトース、リボース、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、セロビオース、マンノース、キシロース、アラビノース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン、およびノイラミン酸を包含する。ある態様において、炭水化物は多糖であって、これらに限定されないが、プルラン、セルロース、微晶質セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシセルロース(HC)、メチルセルロース(MC)、デキストラン、シクロデキストラン、グリコーゲン、ヒドロキシエチルデンプン、カラギーナン、グリコン(glycon)、アミロース、キトサン、N,O-カルボキシルメチルキトサン、アルギン酸およびアルギニン酸、デンプン、キチン、イヌリン、コンニャク、グルコマンナン、プスツラン(pustulan)、ヘパリン、ヒアルロン酸、カードラン、ならびにキサンタンを包含する。態様において、合成ナノ担体は、多糖などの炭水化物を含まない(特に除外もしない)。ある態様において、炭水化物は、糖アルコールなどの炭水化物誘導体を含んでもよく、これらに限定されないが、マンニトール、ソルビトールキシリトール、エリスリトール、マルチトール、およびラクチトールを包含する。
【0072】
いくつかの態様において、合成ナノ担体は、1以上のポリマーを含み得る。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、非メトキシ末端のプルロニックポリマーである1以上のポリマーを含む。いくつかの態様において、合成ナノ担体を作り上げるポリマーの、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%または99%(重量/重量)は、非メトキシ末端のプルロニックポリマーである。いくつかの態様において、合成ナノ担体を作り上げているポリマーのすべてが、非メトキシ末端のプルロニックポリマーである。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、非メトキシ末端のポリマーである1以上のポリマーを含んでいる。いくつかの態様において、合成ナノ担体を作り上げているポリマーの、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%または99%(重量/重量)は、非メトキシ末端のポリマーである。いくつかの態様において、合成ナノ担体を作り上げているポリマーのすべてが、非メトキシ末端のポリマーである。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、プルロニックポリマーを含まない1以上のポリマーを含んでいる。いくつかの態様において、合成ナノ担体を作り上げているポリマーの、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%(重量/重量)は、プルロニックポリマーを含まない。いくつかの態様において、合成ナノ担体を作り上げているポリマーのすべてが、プルロニックポリマーを含まない。いくつかの態様において、かかるポリマーは、コーティング層(例として、リポソーム、脂質単層、ミセル等々)によって囲まれ得る。いくつかの態様において、合成ナノ担体の様々な要素は、ポリマーへ付着され得る。
【0073】
免疫抑制薬は、数多の方法のいずれかによって合成ナノ担体へ付着され得る。一般に、付着は、免疫抑制薬と合成ナノ担体との間の結合の結果であり得る。この結合により、免疫抑制薬の、合成ナノ担体の表面への付着、および/または合成ナノ担体内への含有(カプセル封入)がもたらされ得る。しかしながら、いくつかの態様において、免疫抑制薬は、合成ナノ担体への結合よりもむしろ、合成ナノ担体の構造の結果として、合成ナノ担体によってカプセル封入される。好ましい態様において、合成ナノ担体は、本明細書に提供されるとおりのポリマーを含み、免疫抑制薬はポリマーへ付着されている。
【0074】
付着が免疫抑制薬と合成ナノ担体との間の結合の結果として起こるとき、付着は、カップリング部分を介して起こしてもよい。カップリング部分は、これを通して免疫抑制薬が合成ナノ担体へ結合される、いずれかの部分であり得る。かかる部分は、アミド結合またはエステル結合などの共有結合、ならびに免疫抑制薬を合成ナノ担体へ(共有結合的または非共有結合的に)結合させる別の分子を包含する。かかる分子は、リンカーもしくはポリマー、またはそれらの単位を包含する。例えば、カップリング部分は、免疫抑制薬が静電気的に結合する、帯電したポリマーを含み得る。別の例として、カップリング部分は、これが共有結合されているポリマーまたはその単位を含み得る。
【0075】
好ましい態様において、合成ナノ担体は、本明細書に提供されるとおりのポリマーを含む。これらの合成ナノ担体は、完全にポリマー性であり得るか、またはポリマーと他の材料とのミックスであり得る。
【0076】
いくつかの態様において、合成ナノ担体のポリマーは結び合うことで、ポリマーマトリックスを形成する。これらの態様のいくつかにおいて、免疫抑制薬などの構成要素は、ポリマーマトリックスの1以上のポリマーと共有結合的に結び合わされ得る。いくつかの態様において、共有結合的に結び合いは、リンカーによって媒介される。いくつかの態様において、構成要素は、ポリマーマトリックスの1以上のポリマーと非共有結合的に結び合わされ得る。例えば、いくつかの態様において、構成要素は、ポリマーマトリックス内にカプセル封入され得るか、ポリマーマトリックスによって囲まれ得るか、および/またはポリマーマトリックス全体に分散され得る。代替的にまたは加えて、構成要素は、疎水性相互作用、電荷相互作用、ファン・デル・ワールス力等々によって、ポリマーマトリックスの1以上のポリマーと結び合わされ得る。多種多様のポリマー、およびそれらからポリマーマトリックスを形成するための多種多様の方法が、従来知られている。
【0077】
ポリマーは、天然または非天然の(合成の)ポリマーであってもよい。ポリマーは、ホモポリマーであっても、または2以上のモノマーを含むコポリマーであってもよい。配列の点で、コポリマーは、ランダム、ブロックであってもよく、またはランダム配列とブロック配列との組み合わせを含んでいてもよい。典型的には、本発明に従うポリマーは、有機ポリマーである。
【0078】
いくつかの態様において、ポリマーは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、もしくはポリエーテル、またはそれらの単位を含んでいる。他の態様において、ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)コポリマー、もしくはポリカプロラクトン、またはそれらの単位を含んでいる。いくつかの態様において、ポリマーは、生分解性であることが好ましい。したがって、これらの態様において、ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)もしくはポリプロピレングリコールまたはそれらの単位などの、ポリエーテルを含む場合、ポリマーが生分解性となるように、ポリマーは、ポリエーテルと生分解性ポリマーとのブロックコポリマーを含むことが好ましい。他の態様において、ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)もしくはポリプロピレングリコールまたはその単位などの、ポリエーテルまたはその単位を単独では含まない。
【0079】
本発明における使用に好適なポリマーの他の例は、これらに限定されないが、ポリエチレン、ポリカーボネート(例として、ポリ(1,3-ジオキサン-2オン))、ポリ酸無水物(例として、ポリ(セバシン酸無水物))、フマル酸ポリプロピル、ポリアミド(例として、ポリカプロラクタム)、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリエステル(例として、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリラクチド-グリコリドコポリマー、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酸(例として、ポリ(β-ヒドロキシアルカノアート)))、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリラート、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリホスファゼン、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリ尿素、ポリスチレンおよびポリアミン、ポリリジン、ポリリジン-PEGコポリマー、ならびにポリ(エチレンイミン)、ポリ(エチレンイミン)-PEGコポリマーを包含する。
【0080】
いくつかの態様において、本発明に従うポリマーは、米国食品医薬品局(FDA)によって21C.F.R.§177.2600の下ヒトにおける使用のために承認されているポリマーを包含し、これらに限定されないが、ポリエステル(例として、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)コポリマー、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(1,3-ジオキサン-2オン));ポリ酸無水物(例として、ポリ(セバシン酸無水物));ポリエーテル(例として、ポリエチレングリコール);ポリウレタン;ポリメタクリラート;ポリアクリラート;およびポリシアノアクリラートを包含する。
【0081】
いくつかの態様において、ポリマーは、親水性であり得る。例えば、ポリマーは、アニオン基(例として、リン酸基、硫酸基、カルボン酸基);カチオン基(例として、四級アミン基);または極性基(例として、ヒドロキシル基、チオール基、アミン基)を含んでいてもよい。いくつかの態様において、親水性ポリマーマトリックスを含む合成ナノ担体は、合成ナノ担体内に親水性環境を生成している。いくつかの態様において、ポリマーは、疎水性であり得る。いくつかの態様において、疎水性ポリマーマトリックスを含む合成ナノ担体は、合成ナノ担体内に疎水性環境を生成している。ポリマーの親水性または疎水性の選択は、合成ナノ担体内に組み込まれている(例として、付着されている)材料の性質に対する影響(impact)を有してもよい。
【0082】
いくつかの態様において、ポリマーは、1以上の部分および/または官能基で修飾されていてもよい。本発明に従って、様々な部分または官能基が使用され得る。いくつかの態様において、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)で、炭水化物で、および/または多糖類に由来する非環式ポリアセタールで、修飾されていてもよい(Papisov,2001,ACS Symposium Series,786:301)。ある態様は、Grefらの米国特許第5543158号またはVon AndrianらによるWO刊行物WO2009/051837の一般教示を使用してなされてもよい。
【0083】
いくつかの態様において、ポリマーは、脂質または脂肪酸基で修飾されていてもよい。いくつかの態様において、脂肪酸基は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、またはリグノセリン酸の1以上であってもよい。いくつかの態様において、脂肪酸基は、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、ガンマ-リノール酸、アラキドン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、またはエルカ酸の1以上であってもよい。
【0084】
いくつかの態様において、ポリマーは、ポリエステルであってもよく、乳酸およびグリコール酸の単位を含むコポリマー、例えばポリ(乳酸-コ-グリコール酸)およびポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(本明細書において集合的に「PLGA」と称される);ならびにグリコール酸単位を含むホモポリマー(本明細書において「PGA」と称される)、ならびにポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、ポリ-D,L-乳酸、ポリ-L-ラクチド、ポリ-D-ラクチド、およびポリ-D,L-ラクチド乳酸単位を含むホモポリマー(本明細書において集合的に「PLA」と称される)を包含する。いくつかの態様において、例示ポリエステルは、例えば、ポリヒドロキシ酸;PEGコポリマー、およびラクチドとグリコリドとのコポリマー(例として、PLA-PEGコポリマー、PGA-PEGコポリマー、PLGA-PEGコポリマー)、ならびにそれらの誘導体を包含する。いくつかの態様において、ポリエステルは、例えば、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)-PEGコポリマー、ポリ(L-ラクチド-L-リジン)コポリマー、ポリ(セリンエステル)、ポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸]、およびそれらの誘導体を包含する。
【0085】
いくつかの態様において、ポリマーは、PLGAであってもよい。PLGAは、乳酸とグリコール酸との生体適合性かつ生分解性のコポリマーであり、PLGAの様々な形態は、乳酸:グリコール酸の比率によって特徴付けられる。乳酸は、L-乳酸、D-乳酸、またはD,L-乳酸であり得る。PLGAの分解速度は、乳酸:グリコール酸比率を変更することによって調節され得る。いくつかの態様において、本発明に従って使用されるべきPLGAは、およそ85:15、およそ75:25、およそ60:40、およそ50:50、およそ40:60、およそ25:75、またはおよそ15:85の乳酸:グリコール酸比率によって特徴付けられる。
【0086】
いくつかの態様において、ポリマーは、1以上のアクリル酸ポリマーであってもよい。ある態様において、アクリル酸ポリマーは、例えば、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマー、メチルメタクリラートコポリマー、エトキシエチルメタクリラート、シアノエチルメタクリラート、アミノアルキルメタクリラートコポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、メタクリル酸アルキルアミドコポリマー、ポリ(メチルメタクリラート)、ポリ(メタクリル酸無水物)、メチルメタクリラート、ポリメタクリラート、ポリ(メチルメタクリラート)コポリマー、ポリアクリルアミド、アミノアルキルメタクリラートコポリマー、グリシジルメタクリラートコポリマー、ポリシアノアクリラート、および前述のポリマーの1以上を含む組み合わせを包含する。アクリル酸ポリマーは、低含有量の四級アンモニウム基とともに、アクリル酸とメタクリル酸エステルとの完全重合コポリマーを含んでもよい。
【0087】
いくつかの態様において、ポリマーは、カチオン性ポリマーであり得る。一般に、カチオン性ポリマーは、核酸の負に帯電した鎖を縮合および/または保護することができる。ポリ(リジン)などのアミン含有ポリマー(Zauner et al.,1998,Adv.Drug Del.Rev.,30:97;およびKabanov et al.,1995,Bioconjugate Chem.,6:7)、ポリ(エチレンイミン)(PEI;Boussif et al.,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,1995,92:7297)、およびポリ(アミドアミン)デンドリマー(Kukowska-Latallo et al.,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,93:4897;Tang et al.,1996,Bioconjugate Chem.,7:703;およびHaensler et al.,1993,Bioconjugate Chem.,4:372)は、生理学的pHにおいて正に帯電しており、核酸とイオン対を形成する。態様において、合成ナノ担体は、カチオン性ポリマーを含んでいなくてもよい(またはこれを除外してもよい)。
【0088】
いくつかの態様において、ポリマーは、カチオン性側鎖を持つ分解性ポリエステルであり得る(Putnam et al.,1999,Macromolecules,32:3658;Barrera et al., 1993,J.Am.Chem.Soc.,115:11010;Kwon et al.,1989,Macromolecules,22:3250;Lim et al.,1999,J.Am.Chem.Soc.,121:5633;およびZhou et al.,1990,Macromolecules,23:3399)。これらのポリエステルの例は、ポリ(L-ラクチド-L-リジン)コポリマー(Barrera et al.,1993,J.Am.Chem.Soc.,115:11010)、ポリ(セリンエステル)(Zhou et al.,1990,Macromolecules,23:3399)、ポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(Putnam et al.,1999,Macromolecules,32:3658;およびLim et al.,1999,J.Am.Chem.Soc.,121:5633)、ならびにポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(Putnam et al.,1999,Macromolecules,32:3658;およびLim et al.,1999,J.Am.Chem.Soc.,121:5633)を包含する。
【0089】
これらのポリマーおよび他のポリマーの特性とそれらを調製する方法とは、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,123,727号;5,804,178号;5,770,417号;5,736,372号;5,716,404号;6,095,148号;5,837,752号;5,902,599号;5,696,175号;5,514,378号;5,512,600号;5,399,665号;5,019,379号;5,010,167号;4,806,621号;4,638,045号;および4,946,929号;Wang et al.,2001,J.Am.Chem.Soc.,123:9480;Lim et al.,2001,J.Am.Chem.Soc.,123:2460;Langer,2000,Acc.Chem.Res.,33:94;Langer,1999,J.Control.Release,62:7;およびUhrich et al.,1999,Chem.Rev.,99:3181を見よ)。より一般には、ある好適なポリマーを合成するための多様な方法は、Concise Encyclopedia of Polymer Science and Polymeric Amines and Ammonium Salts,Ed. by Goethals,Pergamon Press,1980;Principles of Polymerization by Odian,John Wiley & Sons,Fourth Edition,2004;Contemporary Polymer Chemistry by Allcock et al.,Prentice-Hall,1981;Deming et al.,1997,Nature,390:386において;ならびに米国特許第6,506,577号、同第6,632,922号、同第6,686,446号、および同第6,818,732号において記載されている。
【0090】
いくつかの態様において、ポリマーは、線状または分枝状のポリマーであり得る。いくつかの態様において、ポリマーは、デンドリマーであり得る。いくつかの態様において、ポリマーは、実質的に互いに架橋され得る。いくつかの態様において、ポリマーは、実質的に架橋がなくてもよい。いくつかの態様において、ポリマーは、本発明に従い、架橋ステップを経ることなく使用され得る。合成ナノ担体が、前述のポリマーと他のポリマーとのいずれかの、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、ブレンド、混合物、および/または付加物を含んでもよいことは、さらに理解されるべきである。当業者は、本明細書において列挙されるポリマーが、本発明に従って使用され得る例示ポリマーのリストを代表するものであるが、包括的ではないことを認識するであろう。
【0091】
いくつかの態様において、合成ナノ担体は、ポリマー構成要素を含まない。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子等々を含んでいてもよい。いくつかの態様において、非ポリマーの合成ナノ担体は、金属原子(例として、金原子)の凝集物などの、非ポリマーの構成要素の凝集物である。
【0092】
本発明に従う用量または剤形は、保存料、緩衝剤、生理食塩水、またはリン酸緩衝化生理食塩水などの、薬学的に許容し得る賦形剤を含み得る。組成物は、有用な剤形に達するために、従来の医薬の製造および配合技法を使用して作製されてもよい。いくつかの態様において、投薬の組成物は、注射用の滅菌生理食塩水溶液に、保存料と一緒に懸濁している。いくつかの態様において、合成ナノ担体は、注射用の滅菌生理食塩水溶液に、保存料と一緒に懸濁している。
【0093】
態様において、免疫抑制薬との使用のための合成ナノ担体を調製するとき、構成要素を合成ナノ担体へ付着させるための方法が有用なこともある。構成要素が小分子である場合、合成ナノ担体の集合に先立ち、構成要素をポリマーへ付着させることが利点であることもある。態様において、構成要素を合成ナノ担体へ付着させるために使用される表面基で、構成要素をポリマーへ付着させるよりはむしろ、これら表面基の使用を通して合成ナノ担体を調製し、次いでこのポリマー抱合体を合成ナノ担体の構築において使用することもまた、利点があり得る。
【0094】
ある態様において、付着は、共有結合性リンカーを用い得る。態様において、本発明に従う構成要素は、アルキン基を含有する構成要素とのナノ担体表面上のアジド基の1,3-双極性環化付加反応によって、またはアジド基を含有する構成要素とのナノ担体表面上のアルキンの1,3-双極性環化付加反応によって、形成された1,2,3-トリアゾールリンカーを介し、外部表面へ共有結合的に付着され得る。かかる環化付加反応は、好ましくは、好適なCu(I)-リガンドと、Cu(II)化合物を触媒活性Cu(I)化合物へ還元するための還元剤と共に、Cu(I)触媒の存在下で実施される。このCu(I)により触媒されたアジド-アルキン環化付加(CuAAC)はまた、クリック反応としても言及される。
【0095】
加えて、共有結合的な付着は、アミドリンカー、ジスルフィドリンカー、チオエーテルリンカー、ヒドラゾンリンカー、ヒドラジドリンカー、イミンまたはオキシムリンカー、尿素またはチオ尿素リンカー、アミジンリンカー、アミンリンカー、およびスルホンアミドリンカーを含む、共有結合性リンカーを含んでもよい。
【0096】
アミドリンカーは、免疫抑制薬などの1つの構成要素上のアミン、ナノ担体などの第2の構成要素のカルボン酸基との間のアミド結合を介して形成される。リンカー中のアミド結合は、N-ヒドロキシスクシンイミドにより活性化されたエステルなどの、好適に保護されたアミノ酸との、従来のアミド結合形成反応のいずれかを使用してなされ得る。
【0097】
ジスルフィドリンカーは、実例として、R1-S-S-R2の形態の、2硫黄原子間のジスルフィド(S-S)結合の形成を介して作製される。ジスルフィド結合は、チオール/メルカプタン基(-SH)を含有する構成要素の、ポリマーもしくはナノ担体上の別の活性化チオール基との、またはチオール/メルカプタン基を含有するナノ担体の、活性化チオール基を含有する構成要素との、チオール交換によって形成され得る。
【0098】
トリアゾールリンカー、具体的に言うと形態
【化1】
(式中R1およびR2は、いずれかの化学実体である)で表される1,2,3-トリアゾールは、ナノ担体などの第1の構成要素へ付着されたたアジドの、免疫抑制薬などの第2の構成要素へ付着された末端アルキンと1,3-双極性環化付加反応によって作製される。1,3-双極性環化付加反応は、1,2,3-トリアゾール官能基を通して2つの構成要素を連結する、触媒ありまたは触媒なしで、好ましくはCu(I)触媒で実施される。この化学は、Sharpless et al.,Angew.Chem.Int.Ed.41(14),2596,(2002)およびMeldal,et al,Chem.Rev.,2008,108(8),2952-3015において詳細に記載され、しばしば「クリック」反応またはCuAACと称される。
【0099】
態様において、ポリマー鎖の末端にアジド基またはアルキン基を含有するポリマーが調製される。このポリマーは次いで、合成ナノ担体を、複数のアルキン基またはアジド基がそのナノ担体の表面上に位置付けられるような様式で、調製するために使用される。代替的に、合成ナノ担体は、別のルートによって調製され、続いてアルキン基またはアジド基で官能化され得る。構成要素は、アルキン(ポリマーがアジドを含有する場合)またはアジド(ポリマーがアルキンを含有する場合)基のいずれかの存在で調製される。構成要素は次いで、1,3-双極性環化付加反応を介し、1,4-二置換1,2,3-トリアゾールリンカーを通して、構成要素を粒子へ共有結合的に付着させる触媒のありまたはなしで、ナノ担体と反応させることが可能である。
【0100】
チオエーテルリンカーは、実例としてR1-S-R2の形態の、硫黄-炭素(チオエーテル)結合の形成によって作製される。チオエーテルは、1つの構成要素上のチオール/メルカプタン(-SH)基の、第2の構成要素上のハロゲン化物またはエポキシドなどのアルキル化基での、いずれかのアルキル化によって作製されることができる。チオエーテルリンカーはまた、1つの構成要素上のチオール/メルカプタン基の、マイケルアクセプターとしてのマレイミド基またはビニルスルホン基を含有する第2の構成要素上の電子欠乏アルケン基へのマイケル付加によっても形成され得る。別の形において、チオエーテルリンカーは、1つの構成要素上のチオール/メルカプタン基の、第2の構成要素上のアルケン基とのラジカルチオール-エン反応によって調製され得る。
【0101】
ヒドラゾンリンカーは、1つの構成要素上のヒドラジド基の、第2の構成要素上のアルデヒド/ケトン基との反応によって作製される。
ヒドラジドリンカーは、1つの構成要素上のヒドラジン基の、第2の構成要素上のカルボン酸基との反応によって形成される。かかる反応は、一般に、カルボン酸が活性化試薬で活性化されるアミド結合の形成と同様の化学を使用して実施される。
【0102】
イミンリンカーまたはオキシムリンカーは、1つの構成要素上のアミン基またはN-アルコキシアミン(もしくはアミノオキシ)基の、第2の構成要素上のアルデヒド基またはケトン基との反応によって形成される。
尿素リンカーまたはチオ尿素リンカーは、1つの構成要素上のアミン基の、第2の構成要素上のイソシアナート基またはチオイソシアナート基との反応によって調製される。
【0103】
アミジンリンカーは、1つの構成要素上のアミン基の、第2の構成要素上のイミドエステル基との反応によって調製される。
アミンリンカーは、1つの構成要素上のアミン基の、第2の構成要素上のハロゲン化物基、エポキシド基、またはスルホナートエステル基などのアルキル化基とのアルキル化反応によって作製される。代替的に、アミンリンカーはまた、シアノ水素化ホウ素ナトリウムまたはトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムなどの好適な還元試薬で、1つの構成要素上のアミン基の、第2の構成要素上のアルデヒド基またはケトン基との還元的アミノ化によっても作製され得る。
【0104】
スルホンアミドリンカーは、1つの構成要素上のアミン基の、第2の構成要素上のハロゲン化スルホニル(塩化スルホニルなど)基との反応によって作製される。
スルホンリンカーは、ビニルスルホンへの求核試薬のマイケル付加によって作製される。ビニルスルホンまたは求核試薬のいずれかは、ナノ担体の表面上にあっても、または構成要素へ付着されていてもよい。
【0105】
構成要素、好ましくは免疫抑制薬はまた、非共有結合的抱合方法を介し、ナノ担体へ抱合させることもできる。例えば、負に帯電した免疫抑制薬は、静電吸着を通して、正に帯電したナノ担体へ抱合され得る。金属配位子を含有する構成要素もまた、金属-配位子錯体を介し、金属錯体を含有するナノ担体へ抱合され得る。
【0106】
態様において、構成要素は、合成ナノ担体の集合に先立ち、ポリマー、例えばポリ乳酸-ブロック-ポリエチレングリコールへ付着され得るか、または合成ナノ担体は、その表面上の反応性基または活性化可能基で形成され得る。後者のケース(case)において、構成要素は、合成ナノ担体の表面によって提示される付着化学(attachment chemistry)に適合する基で調製されてもよい。他の態様において、ペプチド構成要素は、好適なリンカーを使用してVLPまたはリポソームへ付着され得る。リンカーは、2つの分子を互いに付着させることが可能な化合物または試薬である。1つの態様において、リンカーは、Hermanson 2008において記載されるとおりのホモ二官能性またはヘテロ二官能性の試薬であり得る。例えば、表面上にカルボン酸基を含有するVLPまたはリポソーム合成ナノ担体は、EDCの存在下において、ホモ二官能性リンカーであるアジピン酸ジヒドラジド(ADH)で処置されることで、ADHリンカーをもつ対応する合成ナノ担体が形成され得る。その結果得られるADHと連結された合成ナノ担体は次いで、ナノ担体上のADHリンカーの他端を介し、酸基を含有するペプチド構成要素と抱合されることで、対応するVLPまたはリポソームペプチド抱合体が産生される。
【0107】
利用可能な抱合方法の詳細な記載については、Hermanson G T “Bioconjugate Techniques”, 2nd Edition Published by Academic Press, Inc., 2008を見よ。共有結合的な付着に加えて、構成要素は、予め形成された合成ナノ担体への吸着によって付着され得るか、または合成ナノ担体の形成最中のカプセル封入によって付着され得る。
【0108】
本明細書に提供されるとおりいずれかの免疫抑制薬が使用されて、合成ナノ担体へ付着され得る。免疫抑制薬は、これらに限定されないが、スタチン;ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などのmTORインヒビター;TGF-βシグナル伝達剤;TGF-β受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)インヒビター;コルチコステロイド;ロテノンなどのミトコンドリアの機能のインヒビター;P38インヒビター;NF-κβインヒビター;アデノシン受容体アゴニスト;プロスタグランジンE2アゴニスト;ホスホジエステラーゼ4インヒビターなどのホスホジエステラーゼインヒビター;プロテアソームインヒビター;キナーゼインヒビター;Gタンパク質共役受容体アゴニスト;Gタンパク質共役受容体アンタゴニスト;グルココルチコイド;レチノイド;サイトカインインヒビター;サイトカイン受容体インヒビター;サイトカイン受容体アクチベーター;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アンタゴニスト;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼインヒビター;カルシニューリンインヒビター;ホスファターゼインヒビターおよび酸化ATPを包含する。免疫抑制薬はまた、IDO、ビタミンD3、シクロスポリンA、アリール炭化水素受容体インヒビター、レスベラトロール、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、アスピリン、ニフルミン酸、エストリオール、トリポリド(tripolide)、インターロイキン(例として、IL-1、IL-10)、シクロスポリンA、サイトカインまたはサイトカイン受容体を標的にするSIRNA等も包含する。
【0109】
スタチンの例は、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標)、TORVAST(登録商標))、セリバスタチン、フルバスタチン(LESCOL(登録商標)、LESCOL(登録商標) XL)、ロバスタチン(MEVACOR(登録商標)、ALTOCOR(登録商標)、ALTOPREV(登録商標))、メバスタチン(COMPACTIN(登録商標))、ピタバスタチン(LIVALO(登録商標)、PIAVA(登録商標))、ロスバスタチン(PRAVACHOL(登録商標)、SELEKTINE(登録商標)、LIPOSTAT(登録商標))、ロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))、およびシンバスタチン(ZOCOR(登録商標)、LIPEX(登録商標))を包含する。
【0110】
mTORインヒビターの例は、ラパマイシンおよびそれらの類似体(例として、CCL-779、RAD001、AP23573、C20-メタリルラパマイシン(C20-Marap)、C16-(S)-ブチルスルホンアミドラパマイシン(C16-BSrap)、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン(C16-iRap)(Bayle et al. Chemistry & Biology 2006,13:99-107))、AZD8055、BEZ235(NVP-BEZ235)、クリソファン酸(クリソファノール)、デフォロリムス(MK-8669)、エベロリムス(RAD0001)、KU-0063794、PI-103、PP242、テムシロリムス、およびWYE-354(Selleck、Houston、TX、USAから入手可能)を包含する。
【0111】
TGF-βシグナル伝達剤の例は、TGF-βリガンド(例として、アクチビンA、GDF1、GDF11、骨形態形成タンパク質、nodal、TGF-β)およびそれらの受容体(例として、ACVR1B、ACVR1C、ACVR2A、ACVR2B、BMPR2、BMPR1A、BMPR1B、TGFβRI、TGFβRII)、R-SMADS/CO-SMADS(例として、SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD5、SMAD8)、およびリガンドインヒビター(例として、ホリスタチン、ノギン、コーディン、DAN、lefty、LTBP1、THBS1、デコリン)を包含する。
【0112】
ミトコンドリアの機能のインヒビターの例は、アトラクチロシド(二カリウム塩)、ボンクレキン酸(三アンモニウム塩)、カルボニルシアニドM-クロロフェニルヒドラゾン、カルボキシアトラクチロシド(例として、Atractylis gummiferaからのもの)、CGP-37157、(-)-デグエリン(例として、Mundulea sericeaからのもの)、F16、ヘキソキナーゼII VDAC結合ドメインペプチド、オリゴマイシン、ロテノン、Ru360、SFK1、およびバリノマイシン(例として、Streptomyces fulvissimusからのもの)(EMD4Biosciences、USA)を包含する。
【0113】
P38インヒビターの例は、SB-203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)1H-イミダゾール)、SB-239063(トランス-1-(4ヒドロキシシクロヘキシル)-4-(フルオロフェニル)-5-(2-メトキシ-ピリミジン-4-イル)イミダゾール)、SB-220025(5-(2アミノ-4-ピリミジニル)-4-(4-フルオロフェニル)-1-(4-ピペリジニル)イミダゾール))、およびARRY-797を包含する。
【0114】
NF(例として、NK-κβ)インヒビターの例は、IFRD1、2-(1,8-ナフチリジン-2-イル)-フェノール、5-アミノサリチル酸、BAY 11-7082、BAY 11-7085、CAPE(カフェイン酸フェネチルエステル)、マレイン酸ジエチル、IKK-2インヒビターIV、IMD 0354、ラクタシスチン、MG-132[Z-Leu-Leu-Leu-CHO]、NFκB活性化阻害剤III、NF-κB活性化阻害剤II、JSH-23、パルテノライド、フェニルアルシンオキシド(PAO)、PPM-18、ピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム塩、QNZ、RO 106-9920、ロカグラミド、ロカグラミドAL、ロカグラミドC、ロカグラミドI、ロカグラミドJ、ロカグラオール、(R)-MG-132、サリチル酸ナトリウム、トリプトライド(PG490)、およびウェデロラクトンを包含する。
【0115】
アデノシン受容体アゴニストの例は、CGS-21680およびATL-146Eを包含する。
プロスタグランジンE2アゴニストの例は、E-プロスタノイド2およびE-プロスタノイド4を包含する。
【0116】
ホスホジエステラーゼインヒビター(非選択的および選択的インヒビター)の例は、カフェイン、アミノフィリン、IBMX(3-イソブチル-1-メチルキサンチン)、パラキサンチン、ペントキシフィリン、テオブロミン、テオフィリン、メチル化キサンチン、ビンポセチン、EHNA(エリスロ-9-(2-ヒドロキシ-3-ノニル)アデニン)、アナグレリド、エノキシモン(PERFAN(商標))、ミルリノン、レボシメンダン、メセンブリン、イブジラスト、ピクラミラスト、ルテオリン、ドロタベリン、ロフルミラスト(DAXAS(商標)、DALIRESP(商標))、シルデナフィル(REVATION(登録商標)、VIAGRA(登録商標))、タダラフィル(ADCIRCA(登録商標)、CIALIS(登録商標))、バルデナフィル(LEVITRA(登録商標)、STAXYN(登録商標))、ウデナフィル、アバナフィル、イカリイン、4-メチルピペラジン、およびピラゾロピリミジン-7-1を包含する。
【0117】
プロテアソームインヒビターの例は、ボルテゾミブ、ジスルフィラム、エピガロカテキン-3-ガラート、およびサリノスポラミドAを包含する。
キナーゼインヒビターの例は、ベバシズマブ、BIBW 2992、セツキシマブ(アービタックス(登録商標))、イマニチブ(GLEEVEC(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、ゲフィチニブ(IRESSA(登録商標))、ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))、ペガプタニブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、スニチニブ、エルロチニブ、ニロチニブ、ラパチニブ、パニツムマブ、バンデタニブ、E7080、パゾパニブ、およびムブリチニブを包含する。
【0118】
グルココルチコイドの例は、ヒドロコルチゾン(コルチゾール)、酢酸コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸デオキシコルチコステロン(DOCA)、およびアルドステロンを包含する。
【0119】
レチノイドの例は、レチノール、レチナール、トレチノイン(レチノイン酸、RETIN-A(登録商標))、イソトレチノイン(ACCUTANE(登録商標)、AMNESTEEM(登録商標)、CLARAVIS(登録商標)、SOTRET(登録商標))、アリトレチノイン(PANRETIN(登録商標))、エトレチナート(TEGISON(商標))およびその代謝体アシトレチン(SORIATANE(登録商標))、タザロテン(TAZORAC(登録商標)、AVAGE(登録商標)、ZORAC(登録商標))、ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標))、ならびにアダパレン(DIFFERIN(登録商標))を包含する。
【0120】
サイトカインインヒビターの例は、IL1ra、IL1受容体アンタゴニスト、IGFBP、TNF-BF、ウロモデュリン、アルファ-2-マクログロブリン、シクロスポリンA、ペンタミジン、およびペントキシフィリン(PENTOPAK(登録商標)、PENTOXIL(登録商標)、TRENTAL(登録商標))を包含する。
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アンタゴニストの例は、GW9662、PPARγアンタゴニストIII、G335、およびT0070907(EMD4Biosciences、USA)を包含する。
【0121】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニストの例は、ピオグリタゾン、シグリタゾン、クロフィブラート、GW1929、GW7647、L-165,041、LY 171883、PPARγアクチベーター、Fmoc-Leu、トログリタゾン、およびWY-14643(EMD4Biosciences、USA)を包含する。
【0122】
ヒストンデアセチラーゼインヒビターの例は、トリコスタチンAなどのヒドロキサム酸(またはヒドロキサメート)、環状テトラペプチド(トラポキシンBなど)およびデプシペプチド、ベンズアミド、求電子性ケトン、フェニルブチラート、およびバルプロ酸などの脂肪族酸化合物、ボリノスタット(SAHA)、ベリノスタット(PXD101)、LAQ824、およびパノビノスタット(LBH589)などのヒドロキサム酸、エンチノスタット(MS-275)、CI994、およびモセチノスタット(MGCD0103)などのベンズアミド、ニコチンアミド、NADの誘導体、ジヒドロクマリン、ナフトピラノン、ならびに2-ヒドロキシナフタルデヒドを包含する。
【0123】
カルシニューリンインヒビターの例は、シクロスポリン、ピメクロリムス、ボクロスポリン、およびタクロリムスを包含する。
ホスファターゼインヒビターの例は、BN82002塩酸塩、CP-91149、カリクリンA、カンタリジン酸、カンタリジン、シペルメトリン、エチル-3,4-デフォスタチン、フォストリエシンナトリウム塩、MAZ51、メチル-3,4-デフォスタチン、NSC 95397、ノルカンタリジン、prorocentrum concavumからのオカダ酸アンモニウム塩、オカダ酸、オカダ酸カリウム塩、オカダ酸ナトリウム塩、フェニルアルシンオキシド、様々なホスファターゼインヒビターカクテル、タンパク質ホスファターゼ1C、タンパク質ホスファターゼ2Aインヒビタータンパク質、タンパク質ホスファターゼ2A1、タンパク質ホスファターゼ2A2、およびオルトバナジン酸ナトリウムを包含する。
【0124】
D.組成物を作製および使用する方法、ならびに関連する方法
ウイルスベクターは、当業者に知られているか、または本明細書に別様に記載されているとおりの方法で作製され得る。例えば、ウイルスベクターは、例えば米国特許第4,797,368号およびLaughlin et al.,Gene,23,65-73(1983)に記述される方法を使用し、構築および/または精製され得る。
【0125】
AAVベクターなどのウイルスベクターは、組換え方法を使用して産生されてもよい。例えば、方法は、AAVカプシドタンパク質またはそのフラグメントをコードする核酸配列;機能的rep遺伝子;AAV末端逆位反復配列(ITR)および導入遺伝子でできている組換えAAVベクター;ならびに組換えAAVベクターのAAVカプシドタンパク質中へのパッケージングを可能にするのに充分なヘルパー機能、を含有する宿主細胞を培養することを伴い得る。
【0126】
ウイルスベクターをカプシド中にパッケージングするために宿主細胞において培養されるべき構成要素は、宿主細胞へトランスで(in trans)提供されてもよい。代替的に、要される構成要素のいずれか1以上(例として、組換えウイルスベクター、rep配列、cap配列、および/またはヘルパー機能)は、当業者に知られている方法を使用し、要される構成要素の1以上を含有するように操作された安定な宿主細胞によって提供されてもよい。最も好適には、かかる安定な宿主細胞は、誘導性プロモーターの制御下に要される構成要素(単数または複数)を含有し得る。しかしながら、要される構成要素(単数または複数)は、構成的プロモーターの制御下にあってもよい。ウイルスベクターを産生するための、組換えウイルスベクター、rep配列、cap配列、およびヘルパー機能は、いずれかの適切な遺伝子要素を使用しパッケージング宿主細胞へ送達されてもよい。選択される遺伝子要素は、本明細書に記載される方法を包含するいずれかの好適な方法によって送達されてもよい。本発明のいずれかの態様を構築するのに使用される方法は、核酸操作における技能をもつ者に知られており、遺伝子工学、組換え工学、および合成技法を包含する。例として、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を見よ。同様に、rAAVビリオンを生成する方法は周知であって、好適な方法の選択は本発明に対する限定ではない。例として、K.Fisher et al,J.Virol.,70:520-532(1993)および米国特許第5,478,745号を見よ。
【0127】
いくつかの態様において、組換えAAVベクターは、三重トランスフェクション法(triple transfection method)を使用して産生されてもよい(例として、米国特許第6,001,650号において詳細に記載されるとおりであり、三重トランスフェクション法に関するその内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。典型的には、組換えAAVは、宿主細胞を、AAV粒子中へパッケージングされるべき組換えAAVベクター(導入遺伝子を含むものなど)、AAVヘルパー機能ベクター、および補助機能ベクターでトランスフェクションすることによって産生される。一般に、AAVヘルパー機能ベクターは、増殖性AAVの複製およびカプセル封入のためにトランスに機能するAAVヘルパー機能配列(repおよびcap)をコードする。好ましくは、AAVヘルパー機能ベクターは、いずれか検出可能な野生型AAVビリオン(すなわち、機能的なrep遺伝子およびcap遺伝子を含有するAAVビリオン)を生成することなく、効率的なAAVベクター産生を支持する。補助機能ベクターは、AAVが複製のために依存する非AAV由来ウイルス機能および/または細胞機能のためのヌクレオチド配列をコードし得る。補助機能は、AAV複製に要されるそれらの機能を包含し、限定せずに、AAV遺伝子転写、ステージ特異的AAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、cap発現産物の合成、およびAAVカプシドアド集合の活性化に関与するそれら部分を包含する。ウイルスをベースとした補助機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型以外)、およびワクシニアウイルスなどの、知られているヘルパーウイルスのいずれかに由来し得る。ウイルスベクターを産生するための他の方法は、当該技術分野において知られている。その上、ウイルスベクターは、商業的に入手可能である。
【0128】
免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体に関し、構成要素を合成ナノ担体へ付着させるための方法が有用なこともある。合成ナノ担体は、当該技術分野において知られている多種多様の方法を使用して調製されてもよい。例えば、合成ナノ担体は、ナノ沈殿、流体チャネルを使用するフローフォーカシング(flow focusing)、噴霧乾燥、シングルおよびダブルエマルション溶媒蒸発、溶媒抽出、相分離、製粉、マイクロエマルション手順、微細加工(microfabrication)、ナノ加工(nanofabrication)、犠牲層、単純および複合コアセルベーションなどの方法、ならびに当業者に周知の他の方法によって形成され得る。代替的にまたは加えて、単分散半導体のための水性および有機性の溶媒合成、伝導性、磁性、有機、および他のナノ材料が記載されている(Pellegrino et al.,2005,Small,1:48;Murray et al.,2000,Ann.Rev.Mat.Sci.,30:545;およびTrindade et al.,2001,Chem.Mat.,13:3843)。追加の方法も文献に記載されている(例として、Doubrow,Ed.,“Microcapsules and Nanoparticles in Medicine and Pharmacy,”CRC Press,Boca Raton,1992;Mathiowitz et al.,1987,J. ontrol.Release,5:13;Mathiowitz et al.,1987,Reactive Polymers,6:275;およびMathiowitz et al.,1988,J.Appl.Polymer Sci.,35:755;米国特許第5578325号および同第6007845号;P.Paolicelli et al.,“Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles”Nanomedicine.5(6):843-853(2010)を見よ)。
【0129】
様々な材料は、C.Astete et al.,“Synthesis and characterization of PLGA nanoparticles”J.Biomater.Sci.Polymer Edn,Vol.17,No.3,pp.247-289(2006);K.Avgoustakis“Pegylated Poly(Lactide) and Poly(Lactide-Co-Glycolide) Nanoparticles:Preparation, Properties and Possible Applications in Drug Delivery”Current Drug Delivery 1:321-333(2004);C.Reis et al.,“Nanoencapsulation I. Methods for preparation of drug-loaded polymeric nanoparticles”Nanomedicine 2:8-21(2006);P.Paolicelli et al.,“Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles”Nanomedicine.5(6):843-853(2010)に限定されないがこれらを包含する様々な方法を使用し、所望されるとおりの合成ナノ担体中へカプセル封入されてもよい。材料を合成ナノ担体中へカプセル封入するのに好適な他の方法が使用されてもよく、限定せずに、2003年10月14日に発行されたUngerの米国特許第6,632,671号に開示の方法を包含する。
【0130】
ある態様において、合成ナノ担体は、ナノ沈殿プロセスまたは噴霧乾燥によって調製される。合成ナノ担体を調製することにおいて使用される条件は、所望されるサイズまたは特性(例として、疎水性、親水性、外側の形態、「粘着性」、形状等々)の粒子を生産するために変更されてもよい。合成ナノ担体を調製する方法および使用される条件(例として、溶媒、温度、濃度、気流速度等々)は、合成ナノ担体へ付着されるべき材料および/またはポリマーマトリックスの組成に依存してもよい。
【0131】
上の方法のいずれかによって調製される合成ナノ担体が、所望される範囲外のサイズ範囲を有する場合、かかる合成ナノ担体は、例えば篩を使用し、サイズ分類(sized)され得る。
【0132】
合成ナノ担体の要素(すなわち、構成要素)は、合成ナノ担体全体へ、例として1以上の共有結合によって、付着されていてもよく、または1以上のリンカーを用いて付着されていてもよい。合成ナノ担体を官能化する追加の方法は、Saltzmanらの米国特許出願公開2006/0002852、DeSimoneらの米国特許出願公開2009/0028910、またはMurthyらの国際特許出願公開WO/2008/127532 A1から適応されてもよい。
【0133】
代替的にまたは加えて、合成ナノ担体は、直接的または間接的に非共有結合的相互作用を介し、構成要素へ付着され得る。非共有結合の態様において、非共有結合カップリングは、電荷相互作用、アフィニティー相互作用、金属配位、物理的吸着、主客相互作用、疎水性相互作用、TTスタッキング相互作用、水素結合相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、磁性相互作用、静電相互作用、双極子-双極子相互作用、および/またはこれらの組み合わせに限定されないがこれらを包含する非共有結合的相互作用によって媒介される。かかるカップリングは、合成ナノ担体の外部表面上または内部表面上にあるように配置されていてもよい。 態様において、カプセル封入および/または吸収は、カップリングの形態である。
【0134】
本明細書に提供される組成物は、無機または有機の緩衝剤(例として、リン酸、炭酸、酢酸、もしくはクエン酸の、ナトリウム塩またはカリウム塩)、およびPH調整剤(例として、塩酸、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、クエン酸または酢酸の塩、アミノ酸およびそれらの塩)、抗酸化剤(例として、アスコルビン酸、アルファ-トコフェロール)、界面活性剤(例として、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン9-10ノニルフェノール、デオキシコール酸ナトリウム)、溶液および/または低温(cryo)/凍結(lyo)安定化剤(例として、スクロース、ラクトース、マンニトール、トレハロース)、浸透圧調節剤(例として、塩または糖)、抗菌剤(例として、安息香酸、フェノール、ゲンタマイシン)、消泡剤(例として、ポリジメチルシロキサン、保存料(例として、チメロサール、2-フェノキシエタノール、EDTA)、ポリマー性安定化剤および粘度調節剤(例として、ポリビニルピロリドン、ポロキサマー488、カルボキシメチルセルロース)、ならびに共溶媒(例として、グリセロール、ポリエチレングリコール、エタノール)を含んでもよい。
【0135】
本発明に従う組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤を含んでいてもよい。組成物は、有用な剤形に達するために、従来の医薬の製造および配合技法を使用して作製されてもよい。本発明の実施における使用に好適な技法は、Handbook of Industrial Mixing: Science and Practice, Edited by Edward L. Paul, Victor A. Atiemo-Obeng, and Suzanne M. Kresta, 2004 John Wiley & Sons, Inc.;およびPharmaceutics: The Science of Dosage Form Design, 2nd Ed. Edited by M. E. Auten, 2001, Churchill Livingstoneから見出されてもよい。1つの態様において、組成物は、保存料と一緒に、注射用の滅菌生理食塩水溶液中にある。
【0136】
本発明の組成物は、いずれかの好適な様式において作製され得、本発明は、本明細書に記載の方法を使用して産生され得る組成物に決して限定されるものではないということが理解されるべきである。適切な製造の方法の選択は、関連する具体的な部分の特性に対して注意力を要することもある。
【0137】
いくつかの態様において、組成物は、滅菌条件下で製造されるか、または終わりには(terminally)滅菌される。これにより、その結果得られる組成物が滅菌かつ非感染性であることが確保され得、よって非滅菌組成物と比較したとき安全性が改善されている。これは、とくに組成物を受け取る対象が、免疫欠損を有するか、感染症を患っているか、および/または感染症を起こしやすいとき、貴重な安全性対策を提供する。いくつかの態様において、組成物は、長期間活性を喪失しない製剤ストラテジーに依存し、凍結乾燥されて、懸濁液中にまたは凍結乾燥粉末として保管されてもよい。
【0138】
本発明に従う投与は様々なルートによるものであってもよく、これらに限定されないが、皮下の、静脈内の、または腹腔内のルートを包含する。本明細書に言及される組成物は、併用投与などの投与のために、従来の方法を使用して製造および調製されてもよい。
【0139】
本発明の組成物は、本明細書の他のどこかに記載される有効量などの有効量で投与され得る。剤形の用量は、本発明に従って変動する量の免疫抑制薬を含有していてもよい。剤形の用量は、本発明に従って変動する量のウイルスベクターを含有していてもよい。剤形中に存在する夫々の構成要素の量は、構成要素の性質、達成されるべき治療ベネフィット、および他のかかるパラメータに従って変動され得る。態様において、用量範囲研究は、剤形中に存在する構成要素の最適な治療量を確立するために行われ得る。態様において、構成要素は、対象への投与の際、ウイルスベクターへの望ましくない免疫(例として、体液性免疫)応答を低減させるのに、および/または効果的および/または永続的なおよび/または同等の発現をもたらすのに、有効な量で、剤形中に存在する。対象において、従来の用量範囲研究および技法を使用し望ましくない免疫応答を低減させるのに有効な構成要素の量を決定することが可能なこともある。剤形は、様々な頻度にて(すなわち、投与スケジュールに従って)投与されてもよい。
【0140】
本開示の別の側面は、キットに関する。いくつかの態様において、キットは、本明細書に提供されるとおりの、1以上の用量のウイルスベクターおよび/または免疫抑制薬へ付着された1以上の用量の合成ナノ担体を含む。キットの用量の各々は、キットにおける別々の容器内または同じ容器内に含有され得る。いくつかの態様において、容器は、バイアルまたはアンプルである。いくつかの態様において、用量の各々は、容器とは別の溶液内に含有されていてもよく、そうすることで用量が以降の時点で容器へ加えられ得る。いくつかの態様において、用量は各々、別々の容器中または同じ容器中で、凍結乾燥された形態にあり、そうすることでそれらが以降の時点で再構成され得る。いくつかの態様において、キットはさらに、再構成、混合、投与等々のための指示を含む。いくつかの態様において、指示は、本明細書に記載される方法の記載を包含する。指示は、例として印刷された挿入物またはラベルとして、いずれかの好適な形態にあり得る。いくつかの態様において、キットはさらに、1以上のシリンジを含む。
【0141】
投与スケジュールは、投薬(単数もしくは複数)の回数および/または投薬(単数もしくは複数)間の時間の長さを変動させることと、ウイルスベクターへの望ましくない免疫応答および/またはその導入遺伝子もしくは核酸材料の発現を査定することによって、決定され得る。例えば、ウイルスベクターの投薬(単数もしくは複数)および/または免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体の投薬(単数もしくは複数)を施した後、導入遺伝子発現および/またはウイルスベクターへの望ましくない免疫応答が測定され得る。この望ましくない免疫応答および/または発現は、本明細書に提供されるとおりの免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体との併用投与なしにウイルスベクターの投薬が起きたときなど、免疫抑制薬へ付着された合成ナノ担体の投薬(単数もしくは複数)なく起こる同じタイプの免疫応答および/または発現と比較され得る。投与スケジュールは、テストスケジュールで始めて、必要に応じて、知られているスケーリング技法(アロメトリックまたはアイソメトリックスケーリングなど)を使用することによって決定されてもよい。別の態様において、投与スケジュールは、対象において様々なスケジュールをテストすることによって、例として経験および指針となるデータに基づき直接的な実験法を通して、決定されてもよい。
【0142】

例1: 免疫抑制薬を含む合成ナノ担体の合成
免疫抑制薬、例えばラパマイシンを含む(例として、カプセル封入する)合成ナノ担体(例として、PLAおよび/またはPLA-PEGナノ担体);(例として、ImmTOR)を産生した。好ましくは、本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つのいくつかの態様において、免疫抑制薬を含む合成ナノ担体は、米国公開第US 2016/0128986 A1号および米国公開第US 2016/0128987 A1号の方法のいずれか1つによって産生され、かかる産生の記載された方法およびその結果得られる合成ナノ担体は、それら全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つにおいて、ラパマイシンなどの免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアは、かかる組み込まれた合成ナノ担体である。
【0143】
例2: アデノ随伴ウイルス(AAV)に媒介される遺伝子治療のための全身性免疫原性の考慮事項
AAV免疫原性とAAV毒性とは、遺伝子治療分野にとって二大課題を表し、多くのケースにおいては密接に関連付けられている。AAVベクターの免疫原性は、肝毒性および血栓性微小血管症などの、AAV遺伝子治療に関連する多くの有害事象を引き起こすかまたは悪化させると思われている。その上、これらの有害事象は、ベクター用量と相関する傾向があり、より高い用量で有病率と重症度との両方が増加する。驚くほどのことではないが、より高いベクター用量はまた、増大した免疫原性とも関連しており、1E14vg/kg以上のベクター用量が神経筋疾患への有効性のために要されるとき、悪循環に繋がる。これらの問題点はおそらく、ベクター形質導入効率を改善し、かつベクター免疫原性を軽減するための多面的なアプローチと、たぶん遺伝子治療の「1度だけで終わる(one-and-done)」という規範(paradigm)の転換とを要するであろう。
【0144】
AAV遺伝子治療の免疫原性は、典型的には抗薬物抗体(ADA)よってのみ影響が及ぼされるほとんどのタンパク質生物学的治療の免疫原性よりもはるかに複雑かつ微妙である(nuanced)。ADAはまた、野生型AAVへの自然曝露を通して起こりかつペイシェントの遺伝子治療への適格性を制限する既存の抗AAV中和抗体を通して、および処置後に発生しかつAAV遺伝子治療の再投与能を防止する中和ADAのde novo形成を通して、全身性AAV遺伝子治療も制限する。しかしながら、AAV遺伝子治療の毒性の多くは、先天性免疫応答と適応CD8 T細胞応答とによって作動されるようである。
【0145】
血友病における初期の臨床試験(clinical trials)により、肝炎および肝毒性を指し示す肝トランスアミナーゼの血清レベルの上昇が遅延したことが報告された。いくつかのペイシェントにおいて、肝酵素の増加は、導入遺伝子発現の減少および循環カプシド特異的CD8 T細胞の出現と相関していた。 多くのケースにおいて、肝トランスアミナーゼレベルの上昇および導入遺伝子発現のさらなる喪失は、ステロイドで成功裏に処置され得るものであった。適応免疫応答の誘導は、樹状細胞またはマクロファージなどの先天性抗原提示細胞の活性化を指し示す。APCは、病原体関連分子パターンの認識に関与するToll様受容体(TLR)を発現している。AAVベクターのDNAペイロード(payload)は、非メチル化CpGジヌクレオチドへの先天性免疫センサであるTLR9に結合して活性化するCpGモチーフを含有することがある。同様に、カプシド自体がTLR2によって認識されることでもAPCの活性化に繋がり得るが、これにより適応免疫応答の誘導に繋がり得る。AAV遺伝子治療に関連する肝毒性の興味深い側面は、典型的には投与から4~8週間後に遅延して発病することである。この遅延は、AAVカプシド抗原がいくつかの組織において存続しており、何らかの二次的事象、または場合により累積的な肝ストレスが、CD8 T細胞の活性化をもたらすことを示唆している。
【0146】
肝トランスアミナーゼの上昇に関連する有害事象は、現在、AAV遺伝子治療の臨床試験において幅広く報告されており、より高いベクター用量での有病率が増加している。神経筋疾患のためのAAV遺伝子治療は、典型的には1E14vg/kgを超過する用量を要していた。脊髄性筋萎縮症(SMA)のためのAAV9治療であって、FDAによって承認されたた最初の全身性AAV遺伝子治療であるオナセムノゲン アベパルボベク(Onasemnogene abeparvovec)は、800超のペイシェントらへ投与されている。1.1E14vg/kgの用量を受けたペイシェントらのおよそ3分の1は、肝毒性の少なくとも1つの有害事象を経験している。3ペイシェントらが、処置から7~8週間後に重度の肝毒性を経験すると報告された。肝生検は肝細胞の変性を指し示し、炎症性浸潤は主にCD8 T細胞を含んでいた。3ペイシェントらはすべて、メチルプレドニゾロンでの処置後に回復した。しかしながら不幸にも、X連鎖性ミオチュブラーミオパチー(XLMTM)の3ペイシェントは、3E14vg/kgのベクター用量を受けてから20~40週間後に死亡した。ペイシェントらは、重度肝毒性の兆候が見つかり、ビリルビンレベルがASTおよびALTの正常上昇と遅延上昇との上限の35~60倍あり、剖検にて胆汁鬱滞、門脈周囲および胆管の反応(periportal and bile ductal reaction)、ならびに二次性線維症(secondary fibrosis)の証拠があった。炎症性細胞浸潤の欠如およびステロイドと免疫抑制薬での効果のない処置を指し示す報告は、毒性が免疫関連ではなかったことを示唆する。3ペイシェントらはすべて、高ビリルビン血症および肝内胆汁鬱滞の既存の証拠を示した。しかしながら、大量AAV用量への初期の先天性免疫応答は、肝ストレスへ寄与してしまい、基礎疾患の悪化を引き起こし得るものであった。臨床試験は中止され、結局1E14vg/kgのより低い用量にて再開された。残念ながら、4番目のペイシェントは、より低い用量での処置後に死亡した。
【0147】
高ベクター用量のAAVはまた、血栓性微小血管症(TMA)、または非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)(溶血性貧血、血小板減少症、および急性腎傷害によって特徴付けられ、かつ補体の活性化に関連する症候群)にも関連している。補体は、先天性免疫系の鍵となる構成要素であって、病原体への直接殺傷、病原体のクリアランスのためのオプソニン化、ならびに先天性免疫細胞の化学誘引および活性化と血管作用性メディエーターの放出とをもたらし得る生化学反応の複雑なカスケードを経る、血漿タンパク質から構成されている。AAVは、補体を固定する抗体の結合(古典的経路)または補体の構成要素への直接結合(代替経路)を通して、補体を活性化し得る。SMAにおいて、3症例(cases)のTMAが報告されている。800超のペイシェントらが処置さがれているが、全体的な発生率は低い;それでもなお、罹患した対象のうち1対象は、持続高血圧の合併症を有したのに対し、別の対象は解消するまで3カ月掛かった。DMDにおいて、2つの異なるAAV産物候補を伴った2つの小規模な(small)臨床試験により、投薬された15の総ペイシェントのうち、4症例の、aHUSを伴う重度の有害反応が報告された(Mendell Mol Ther 2021)。1症例は5E13vg/kgの用量にて起きたのに対し、他の3症例は1~3E14vg/kgのベクター用量にて起きた。3症例の心筋炎という結果から、DMDにおける第3相臨床試験を補正し、ある変異をもつペイシェントらを除外した。さらに不幸にも、第1b相試験においてペイシェントの死亡が報告された。さらなる詳細は入手不能であり、臨床試験は保留された。
【0148】
有害反応の種々の顕現および相対的な発生率は、ベクターの設計、ベクターの製造および品質の性格、基礎疾患、ならびに併存症などの、複数の変数が全体的なリスクへ寄与することもあることを示唆する。血友病B遺伝子治療試験の遡及的分析(Retrospective analysis)は、より高いCpG含量が、肝酵素上昇のより高い発生率、より強いCD8 T細胞応答、およびより低い永続的導入遺伝子発現と相関したことを示唆する。第3の臨床プログラムであるDMDにおいて、77ペイシェントらが処置されたが、aHUSに関する重篤な有害事象はまだ発表されていない。2つのプログラムにおいてはaHUSの発生率が高く、3つ目のプログラムにおいてはそうでない根拠は不明である。異なるカプシドは、補体の固定または既存抗体への結合に関し異なるプロファイルを有するであろうと想定される。すべてのAAV臨床試験で主要な不明点の1つは、空のカプシドのパーセンテージまたは宿主細胞の不純物などの、製造プロセスからの不純物の程度である。AAV用量はベクターゲノム(または「充填(full)」カプシド)の決定に基づき算出されるため、空:充填カプシドの比率は、総カプシド用量に計り知れない影響(bearing)を有し得る。
【0149】
AAV分野の注目すべき成功および不断の期待があるため、組換えAAVベクターの安全性および有効性を改善するという潜在力は依然として大きい。1E14vg/kgのカプシド用量は、幼齢の子どもにおいて1千兆超のウイルス粒子(空のカプシドを包含しない)の用量を表すが、これは体細胞の総数より10~30倍多い。充填:空カプシドの比率を増加させ、かつCpG含有量を低減することにより、安全性を改善する即時実行可能なストラテジーが提供される。形質導入効率を増大させ、かつCD8 T細胞応答を低減させる別の潜在的なストラテジーは、プロテアソームによるプロセシングを最小化するカプシド変異を導入することであって、それによりカプシド分解およびMHCクラスI分子上の免疫原性エピトープの提示がもたらされる。長期ストラテジーには、筋肉などの特定の組織というより良好な標的を示すカプシドを設計または進化させるための洗練されたカプシド工学技術アプローチが包含される。プロモーターおよびエンハンサーの設計の改善はまた、より低い用量での有効性も改善し得る。加えて、血友病Bにおいて使用されるパドゥアバリアント(Padua variant)によって例示されるとおり、より効率的な導入遺伝子の工学技術により、より低いベクター用量が可能になり得る。結局は、形質導入効率を根本的に改善する打開策(breakthrough)には、細胞を通したエンドソームから核への通過、ウイルスの脱殻、安定なエピソームとしての維持、および宿主細胞因子との相互作用を包含する、AAV形質導入の鍵となる律速ステップのより良好な理解が要される。
【0150】
カプシド工学技術と薬理学的ストラテジーとの両方が、AAVカプシドの免疫原性を軽減するために続行されている。抗体エピトープを除去するためのカプシドの突然変異誘発、または抗AAV抗体を取り除くための血漿交換もしくはIgGプロテアーゼの使用などの、いくつかのストラテジーは、先天性免疫にもT細胞応答にも対処せずに、既存抗体の構成要素のみに対処する。実に、既存抗AAV抗体の存在そのものが、AAVへの先立つ曝露と、AAV特異的メモリーTおよびB細胞が存在する高い可能性とを指し示している。低レベルの中和抗体を克服し得る高ベクター用量により、いくつかのグループは、既存メモリーT細胞および既存の低力価抗体による補体固定が、高ベクター用量で観察された毒性を悪化させ得る可能性が依然あったとしても、臨床試験へ包含するための閾値抗体価を緩めることができた。たとえば、ラパマイシンとコルチコステロイドとの、またはラパマイシンとリツキシマブとの、組み合わせ免疫抑制レジメンは、免疫原性の軽減について臨床的に評価されている。ラパマイシンはmTOR経路のインヒビターであって、これは慢性的に投薬されることでエフェクターT細胞の活性化を阻害し得る。ナノ粒子中へカプセル封入されたラパマイシン(また、いくつかの態様においてImmTORとも称される)もまた、AAVベクターへの抗原特異的免疫寛容の誘導について評価されている。AAV遺伝子治療治療時に投与されたImmTORナノ粒子の用量は、AAVへのT細胞応答およびB細胞応答を阻害して、ベクターの再投与を可能にすることが示されている。ImmTORはまた、肝炎症の動物モデルにおいても肝保護特性を有することが示されている。注目すべきことに、ラパマイシンはまた、オートファジーの誘導を通してAAVベクター形質導入を増強することも示されている。
【0151】
高ベクター用量の毒性を軽減するには、危険度が高い。AAV遺伝子治療の利益はSMAにおいて否定できないものであり、DMDにおいては極めて有望である。XLMTMであっても、治療に耐えられたそれらペイシェントは、顕著な改善を示した。治療濃度域(therapeutic window)が安全に広げられ得る場合、さらなる改善が達成可能であり得る。究極の目標は、より低いベクター用量にて同様の有効性を提供することであろう。これには、ベクターの形質導入効率を増大させ、かつ免疫原性を軽減するために、ベクター工学技術と薬理学的ストラテジーとの組み合わせが要され得る。AAV遺伝子治療は、歴史的に「1度だけで終わる」と見なされており、このことは単回用量の治療で一生ではないとしても数年の治療ベネフィットが期待されていることを意味する。この見解は、血友病A遺伝子治療試験において有効性が徐々に弱くなること、および肝毒性を経験したペイシェントらにおいて観察された有効性の喪失によって、疑われている。当初曝露後の高力価中和抗体の形成によって目下制限されているベクター再投与への障壁が克服され得る場合、導入遺伝子発現の喪失を経験したペイシェントらの治療ベネフィットを回復する可能性が開かれるだけでなく、1~3E14vg/kgの単回高用量よりむしろ複数回のより小用量の遺伝子治療を可能にすることによって神経筋疾患などの処置への道もまた提供され得る。限られた期間(例として、1~2週間または1~3カ月)にわたり複数回のより低い用量を送達することによって治療成果を提供する潜在力は、まだ対処されていない(unmet)奇病のためのより低い毒性プロファイルでの承認された遺伝子治療薬の次の波を容易にする次の遺伝子治療規範であり得る - 「1度だけで終わる」より「より低くかつより遅い」が優先され得る。
図1
【国際調査報告】