(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】天然四量体酸性脂質に由来するナノ担体の新規ファミリーの開発
(51)【国際特許分類】
C07C 31/27 20060101AFI20241203BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241203BHJP
C07C 69/608 20060101ALI20241203BHJP
C07C 55/28 20060101ALI20241203BHJP
C07C 211/63 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C07C31/27 CSP
A61K9/127
A61K47/22
A61K47/14
C07C69/608
C07C55/28
C07C211/63
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529183
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2022081525
(87)【国際公開番号】W WO2023083983
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523150772
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】504007888
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】523169040
【氏名又は名称】エコール・ナシオナル・シュペリウール・ドゥ・シミ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】524104608
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル デ シオンシズ アップリケ ド レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】524182330
【氏名又は名称】ノルウェージャン ユニバーシティ オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンベニュ,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ビベス,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヒゲ,マチュー
(72)【発明者】
【氏名】シモン,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シェーブロム,ヨハン
【テーマコード(参考)】
4C076
4H006
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB04
4C076BB05
4C076EE23F
4C076FF43
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H006BJ20
4H006BN10
4H006BS10
4H006FC22
4H006FE11
4H006FG40
4H006KA04
4H006KA06
(57)【要約】
したがって、本発明は、薬剤送達用途のための、天然四量体酸(TA)脂質及び/又は化学的に官能化された新規四量体酸(CFTA)脂質を含む、新規ファミリーのリポソーム組成物(ナノ担体)(以下、テトラアシドソームと呼ぶ)を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(II)を有する脂質化合物であって、
【化1】
式中、
R
A、R
B、R
C、及びR
Dは、独立して、2~8個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖、脂肪族又は脂環式、飽和炭化水素基を表し、好ましくは、R
A、R
B、R
C、及びR
Dは独立して、
【化2】
を表し、
【化3】
はP
1、P
2、P
3、及びP
4、又は主分子のいずれかへの結合点であり、
P
1、P
2、P
3、及びP
4は、同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基のうちの1つを表し、
-CH
2OH;
-COOH;
-COOR
1、R
1は、1~22個の炭素原子、特に4個の炭素原子を有する脂肪族直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和アルキル鎖を表し;
-A
1-CH
2-CH
2-N
+(CH
3)
3、X
2
-;X
2はハロゲン又はスルホネートを表し、A
1はエステル(OC(O))結合を表し;
-A
2-(PEG
x1-A
3)
n-R
2、nは0又は1であり、PEG
x1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A
2及びA
3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R
2はメトキシ基、標的化剤、又はプローブを表し;
-X及びYは独立して、H又はCH
3であり;
但し、P
1、P
2、P
3、及びP
4は全て同時にCOOHではない、脂質化合物。
【請求項2】
P
1、P
2、P
3、及びP
4は、同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基のうちの1つを表し、
-A
1-CH
2-CH
2-N
+(CH
3)
3、X
2
-、X
2はハロゲン又はスルホネートを表し、A
1はエステル(OC(O))結合を表し、
-A
2-(PEG
x1-A
3)
n-R
2、nは0又は1であり、PEG
x1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A
2及びA
3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R
2は、メトキシ基、標的化剤、又はプローブを表す、請求項1に記載の脂質化合物。
【請求項3】
以下の一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、又は(IIe)を有し、
【化4】
式中、
X、Y、P
1、P
2、P
3、及びP
4は請求項1で定義した通りである、請求項1又は
2に記載の脂質化合物。
【請求項4】
以下の一般式(II)を有する脂質化合物を含むテトラアシドソームであって、
【化5】
式中、
R
A、R
B、R
C、及びR
Dは独立して、2~8個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖の脂肪族又は脂環式の飽和炭化水素基を表し、好ましくは、R
A、R
B、R
C、及びR
Dは独立して、
【化6】
を表し、
【化7】
はP
1、P
2、P
3、及びP
4、又は主分子のいずれかへの結合点を表し;
P
1、P
2、P
3、及びP
4は、同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基のうちの1つを表し、
-CH
2OH;
-COOH;
-COOR
1、R
1は、1~22個の炭素原子、特に4個の炭素原子を有する脂肪族直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和アルキル鎖を表し;
-A
1-CH
2-CH
2-N
+(CH
3)
3、X
2
-;X
2はハロゲン又はスルホネートを表し、A
1はエステル(OC(O))結合を表し;
-A
2-(PEG
x1-A
3)
n-R
2、nは0又は1であり、PEG
x1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A
2及びA
3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R
2はメトキシ基、標的化剤、又はプローブを表し;
X及びYは独立して、H又はCH
3である、テトラアシドソーム。
【請求項5】
P
1、P
2、P
3、及びP
4は同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基の1つを表し、
-A
1-CH
2-CH
2-N
+(CH
3)
3、X
2
-;X
2はハロゲン又はスルホネー
トを表し、A
1はエステル(OC(O))結合を表し;
-A
2-(PEG
x1-A
3)
n-R
2、nは0又は1であり、PEG
x1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A
2及びA
3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R
2は、メトキシ基、標的化剤、又はプローブを表す、以下の一般式(II)を有する脂質化合物を含むテトラアシドソームを含む請求項4に記載のテトラアシドソーム。
【請求項6】
250nm未満の平均サイズを有する、請求項4又は5に記載のテトラアシドソーム。
【請求項7】
0.3未満の多分散指数(PDI)を有する、請求項4~6に記載のテトラアシドソーム。
【請求項8】
カプセル化された目的の分子を更に含む、請求項4~7のいずれか一項に記載のテトラアシドソーム。
【請求項9】
担体としての、請求項4~8のいずれか1項に記載のテトラアシドソームの使用。
【請求項10】
胃腸環境(GI)への担体としての、請求項9に記載のテトラアシドソームの使用。
【請求項11】
薬物としての使用のための、請求項4~8のいずれか一項に記載のテトラアシドソーム。
【請求項12】
四量体酸(TA)脂質を還元剤、アルコール、アミン、又はエステルと反応させる工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の脂質化合物の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
したがって、本発明は、薬剤送達用途のための、天然四量体酸(TA)脂質及び/又は化学的に官能化された新規四量体酸(CFTA)脂質を含む、新規ファミリーのリポソーム組成物(ナノ担体)(以下、テトラアシドソームと呼ぶ)を提供する。
【背景技術】
【0002】
経口薬物送達は、無痛であり、補助も患者のコンプライアンスも必要としないので、はるかに最も便利で有利な薬物投与方法である。筋肉内、静脈内、又は肺送達経路などの他の経路は、実施するのがより困難である、及び/又は患者を傷つけるか、若しくは拒絶される可能性がある。現在、市場で入手可能な従来の小分子(例えば、800Da未満)薬物製品の60%超が経口摂取される。しかしながら、これは、治療用ペプチド/タンパク質及び核酸の場合、胃腸(GI)環境(胃及び腸)における分解と、腸バリアを通過して血液中に入る低い透過性とのために非常に困難である。実際に、これは、有意な分子サイズ、及び体内に効率的に取り込まれない独特の治療特性を有する薬物化合物のクラスであり、つまり、経口的に管理された場合のバイオアベイラビリティが低いことを意味する。ペプチド薬物(例えば、デスモプレシン、シクロスポリンA)の日常的な経口適用又は臨床試験は、散在するいくつかの例しか存在しない。
【0003】
胃腸(GI)環境(すなわち、胃及び腸)は、消化に必要なGI液を封入するための保護バリアによって囲まれている。このバリアの主成分は、粘液層(ゲル様コーティング)及び上皮細胞の内層である。経口薬物送達中の所望のシナリオは、治療成分が胃腸管の内側から、粘液及び上皮バリアを通って、血液循環系に輸送されることである。低送達効率又は経口管理されたペプチド/タンパク質及び核酸は、主に、1)GI環境における酸性pH及びタンパク質分解酵素による分解、並びに2)低い粘膜透過性に起因する。
【0004】
この状況は、ペプチド/タンパク質及び核酸をカプセル化するリポソームナノ担体を使用することによって改善することができる。ペプチドのナノカプセル化は、過酷なGI環境からペプチドを保護し、粘液とのより良好な接着及び相互作用を提供する方法として、かなりの注目を集めている。粘液不活性ナノ担体は、粘液中へのナノ担体の浸透に有利に働き、薬物が担体から放出されて血液中に輸送されるのに利用可能な時間を増加させる。しかしながら、詳細な送達機構は、依然として議論されている。
【0005】
ポリマーナノ粒子、ナノエマルジョン、及びリポソームは全て、ペプチド/タンパク質及び核酸のバイオアベイラビリティを改善するためのナノ担体として研究されてきた。これまでのところ、それらは、GI障壁を克服するのに十分なほど効率的ではない。しかしながら、現在の最良システムの性能は、医療用途にはまだ不十分であり、その価格は高すぎる。一例はインシュリンであり、最も有望な研究でも、動物におけるインシュリンの10~20%の経口バイオアベイラビリティしか示されていない[1]。そのような低いバイオアベイラビリティは、標準用量の薬物を送達するために高い製造コストをもたらす。したがって、糖尿病患者を経口治療することは、依然として大きな科学的及び技術的な課題である。
【0006】
リポソームは、少なくとも1つの脂質二重層によって囲まれた水性内部からなる球状コロイド/小胞である。アーケオソーム(Archaeosome)と名付けられた新規クラスのリポ
ソームナノ担体が、最近、経口ペプチド送達のための強固なビヒクルとして導入された[2,3](
図1A)。アーケオソームは、水性内部の従来の二重層形成脂質及び治療用ペプチドと共に、古細菌テトラエーテル脂質(天然又は合成)の単層から構成されている。
古細菌脂質は、鎖当たり4つまでのシクロペンタン環を含有する大環状コア、及び各末端の極性頭部基からなる(
図1B)。従来のリポソームと比較して、アーケオソームは、低pH、胆汁酸塩、又はリパーゼなどのストレス因子の存在下で長期安定性を示している[4]。更に、インビボ研究は、インシュリン[5]、バンコマイシン、及びB型肝炎薬ミルクルデックス(Myrcludex)B[6]などのいくつかのペプチドの経口バイオアベイラ
ビリティの改善を示している。化学的及び酵素的分解に対する顕著な安定性にもかかわらず、経口薬物送達におけるナノ担体としてのそれらの使用を現在制限している2つの主な障害が存在する。
-アーケオソームの経口バイオアベイラビリティは、従来のリポソーム製剤よりも高いが、医療用途にとっては十分に高くない。新規古細菌脂質構造は、ポリエチレングリコールのような粘液不活性ポリマーと容易にグラフト可能であるので、GI保護及び粘液浸透の両方を増強することができる[7]。
-古細菌脂質のコスト及び入手可能性は、商業的可能性を制限する可能性がある。現在、それらは、培養された古細菌バイオマス[8]から、又はより単純な成分からの合成[9]によって抽出及び精製されており、1グラム当たり5,000ドル超の費用がかかる。古細菌脂質の新しい供給源は、古細菌脂質をより手頃な価格にすることができる。
【0007】
したがって、上記の副作用を有さない、GI障壁を克服するために利用可能な新しいナノ担体を生成する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0008】
ナフテン酸カルシウム沈着物[11]から抽出された天然TA脂質(ARN酸[10]とも呼ばれる)は、「H型」構造、炭化水素骨格中に4~8個のシクロペンタン環を有する4種のカルボン酸、及び1227~1235g.mol
-1の範囲のモル質量を有する。分子は、一方が分子の左部分にあり、他方が右部分にある2つの部分から構成されると考えられ、つまり、極性頭部P
1及びP
3は脂質の左端に位置する一方、極性頭部P
2及びP
4は脂質の右端にあることを意味する(
図2A)。最も豊富なTA脂質は、6個のシクロペンタン環(式(1c))、モル質量は1232.01g.mol
-1で未加工の式C
80H
142O
8を有し、その構造は、2006年にLutnaesらによって最初に特定された[12]。また、追加のCH
3のために対称性を失うC
81(X=CH
3、Y=H)類似体及びC
82(X=Y=CH
3)類似体が、沈着物中に少ない割合で存在することも認められた[13](
図2B)。C
81類似体は、追加のCH
3のために対称性を失う。シクロペンタンの数(4、5、7又は8)が異なる追加のTA脂質(式(Ia)、(Ib)、(Id)、及び(Ie))も存在するが、その割合は低い(10重量%未満)。天然TA脂質は、以下の一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、又は(Ie)を有し、
【0009】
【化1】
式中、
P
1=P
2=P
3=P
4=COOH;
X及びYは独立して、H又はCH
3である。
【0010】
本発明は、多くの官能基(ポリエチレングリコール(PEG)、蛍光プローブ、標的化リガンド、カチオン性部分)の導入を可能にする4つの末端COOHを含む化学的に官能化されたTA(CFTA)脂質である新規脂質化合物を提供する。莫大な潜在的医薬用途を有するこれらの複合分子(油工業廃棄物)の源泉は、低価格を保証し、将来の商業化を容易にする。化学的に官能化された新規四量体酸は、非常に効率的な化学プロセスによって生成された。対応するPEG化四量体酸を得るために、ペプチドカップリング反応を用いて四量体酸のPEG化が達成された。より具体的には、選択的エステル化反応に基づく方法を開発して、脂質の4つのカルボン酸を区別し、脂質上に導入されるPEG鎖の数だ
けでなく、分子のどの部分に鎖が付加されるか(特に、脂質の片側の2つのカルボン酸基の非対称官能化)を制御した。蛍光プローブを脂質にグラフトして、蛍光分析法によるリポソームのモニタリングを可能にした。カチオン性テトラ酸を、核酸送達のために塩化コリンとのエステル化反応を介して合成した。これらの製剤は経時的に安定性を示すことが見出され、親水性及び疎水性基質(プローブを含む)の両方のカプセル化に適している。
【0011】
したがって、本発明の目的は、下記一般式(II)を有する新規脂質化合物である。
【0012】
【化2】
(式中、
R
A、R
B、R
C、及びR
Dは独立して、2~8個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖の脂肪族又は脂環式の飽和炭化水素基を表し、好ましくは、R
A、R
B、R
C、及びR
Dは独立して、
【0013】
【0014】
【化4】
はP
1、P
2、P
3、及びP
4、又は主分子のいずれかへの結合点であり;
P
1、P
2、P
3、及びP
4は、同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基のうちの1つを表し、
-CH
2OH;
-COOH;
-COOR
1、R
1は、1~22個の炭素原子数、特に4個の炭素原子を有する脂肪族直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和アルキル鎖(ブチル鎖)を表し;
-A
1-CH
2-CH
2-N
+(CH
3)
3、X
2
-、X
2はハロゲン又はスルホネートを表し、A
1はエステル(OC(O))結合を表し;
-A
2-(PEG
x1-A
3)
n-R
2、nは0又は1であり、PEG
x1は、分子量X
1のポリエチレングリコールであり、X
1は5000ダルトン以下であり、A
2及びA
3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R
2は、メトキシ基、標的化剤(ペプチド、抗体、ビタミン)又はプローブ(ナイルレッド、フルオレセインなど)を表し;
X及びYは独立して、H又はCH
3である。
【0015】
上記の一般式(II)のこれらの新規脂質化合物において、P1、P2、P3、及びP4は全て同時にCOOHではないことを条件とする。
【0016】
本発明の特定の実施形態によれば、上記の一般式(II)の新規脂質化合物において、P1,P2,P3及びP4は、同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基のうちの1つを表し、
-A1-CH2-CH2-N+(CH3)3、X2
-、X2はハロゲン又はスルホネートを表し、A1はエステル(OC(O))結合を表し;
-A2-(PEGxi-A3)n-R2、nは0又は1であり、PEGx1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A2及びA3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R2はメトキシ基、標的化剤、又はプローブを表す。例えば、標的化剤は、ペプチド、抗体、ビタミンからなる群から選択され、プローブは好ましくは、ナイルレッド、フルオレセインからなる群から選択される蛍光プローブである。
【0017】
本発明の別の特定の実施形態によれば、上記の一般式(II)の新規脂質化合物において、P1、P2、P3、及びP4は、同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基のうちの1つを表し、
-A1-CH2-CH2-N+(CH3)3、X2
-、X2はハロゲン又はスルホネートを表し、A1はエステル(OC(O))結合を表し;
-A2-(PEGx1-A3)n-R2、nは0又は1であり、PEGx1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A2及びA3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R2はメトキシ基を表す。
【0018】
本発明の特定の実施形態によれば、新規脂質化合物は、以下の一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、又は(IIe)を有し、
【0019】
【化5】
式中、
X、Y、P
1、P
2、P
3、及びP
4は上記の通りである。
【0020】
本発明はまた、低い多分散指数(例えば、0.3未満、好ましくは0.1未満)及び約30~40nmから約250nm未満の範囲の直径、好ましくは200nm未満の直径を有する安定なリポソーム組成物(ナノ担体)の新規ファミリーを提供し、以下、テトラアシドソームと称する。それらは、例えば、油産業廃棄物から抽出された1つ以上の四量体酸(TA)脂質(ナフテン酸カルシウム沈着物)及び/又は化学的に官能化された1つ以上の天然分子(新規CFTA脂質)を用いて、薬物送達用途のために、従来のリン脂質(例えば、EggpC)及び/又はコレステロールと組み合わせることによって、テトラアシドソームの保護特性及び輸送特性の微調整、並びに細胞活性標的化及びバイオ医薬品特徴付けを提供する、高度なマイクロ流体技術によって調製されるリポソームである。主に
経口ペプチド/タンパク質及び核酸薬物送達のために設計されたこれらの革新的なリポソーム組成物(ナノ担体)は、四量体酸構造によって誘導される胃腸環境(GI)に対する耐性、並びに四量体酸官能化を介して粘液及び上皮バリアとの相互作用を制御する独特の可能性により、治療薬を体内に効率的に送達することを可能にする。実際、それらのH型構造は、フリップフロップ運動を制限することによって小胞を強化する。4つの負に荷電したカルボキシレート基の存在は、腸壁の透過性を向上させる。最後に、4末端COOHの存在は、これらのナノ担体を安定化させるため、及び/又は経口バイオアベイラビリティ及び粘液/腸透過性を改善するため、及び/又は生物薬剤研究を行うために必要とされる多くの官能基(ポリエチレングリコール(PEG)、蛍光プローブ、標的化リガンド)の導入を可能にする。
【0021】
したがって、本発明の別の目的は、上記で定義された本発明の脂質化合物、すなわち、以下の一般式(II)を有する脂質化合物を含むテトラアシドソームであり、
【0022】
【化6】
式中、
R
A、R
B、R
C、及びR
Dは独立して、2~8個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖、脂肪族又は脂環式、飽和炭化水素基を表し、好ましくはR
A、R
B、R
C、及びR
Dは独立して、
【0023】
【0024】
【化8】
はP
1、P
2、P
3、及びP
4、又は主分子のいずれかへの結合点を表し;
P
1、P
2、P
3、及びP
4は、同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基のうちの1つを表し、
-CH
2OH;
-COOH;
-COOR
1、R
1は、1~22個の炭素原子数、特に4個の炭素原子を有する脂肪族
直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和アルキル鎖(ブチル鎖)を表し;
-A
1-CH
2-CH
2-N
+(CH
3)3、X
2
-;X
2はハロゲン又はスルホネートを表し、A
1はエステル(OC(O))結合を表し;
-A
2-(PEG
x1-A
3)
n-R
2、nは0又は1であり、PEG
x1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A
2及びA
3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R
2はメトキシ基、標的化剤(ペプチド、抗体、ビタミン)、又はプローブ(ナイルレッド、フルオレセインなど)を表し;
X及びYは独立して、H又はCH
3である。
【0025】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明のテトラアシドソームは、以下の一般式(II)を有する脂質化合物を含み、P1、P2、P3、及びP4は、同一であるか又は異なっており、それぞれ以下の置換基のうちの1つを表し、
-A1-CH2-CH2-N+(CH3)3、X2
-;X2はハロゲン又はスルホネートを表し、A1はエステル(OC(O))結合を表し、
-A2-(PEGx1-A3)n-R2、nは0又は1であり、PEGx1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A2及びA3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R2は、メトキシ基、標的化剤、又はプローブを表す。例えば、標的化剤は、ペプチド、抗体、ビタミンからなる群から選択され、プローブは好ましくは、ナイルレッド、フルオレセインからなる群から選択される蛍光プローブである。
【0026】
本発明の別の特定の実施形態によれば、本発明のテトラアシドソームは、以下の一般式(II)を有する脂質化合物を含み、但し、P1、P2、P3、及びP4は同一であるか又は異なっており、それぞれが以下の置換基のうちの1つを表し;
-A1-CH2-CH2-N+(CH3)3、X2
-、X2はハロゲン又はスルホネートを表し、A1はエステル(OC(O))結合を表し;
-A2-(PEGx1-A3)n-R2、nは0又は1であり、PEGx1は分子量X1のポリエチレングリコールであり、X1は5000ダルトン以下であり、A2及びA3は、同一であっても異なっていてもよく、エステル(C(O)O)、アミド(C(O)NH)、トリアゾールを表し、R2はメトキシ基を表す。
【0027】
本発明によれば、「テトラアシドソーム」という用語は、本発明の脂質化合物及び/又は天然四量体(TA)脂質を含むアルキオソームからなるリポソーム担体を意味する。言い換えれば、テトラアシドソームは、テトラエーテル脂質の全部又は一部が本発明の脂質化合物及び/又は天然の四量体酸(TA)脂質によって置換されているアルキオソームに由来する。
【0028】
本発明の特定の実施形態によれば、上述のテトラアシドソームは、250nm未満の平均サイズ、好ましくは200nm未満の平均サイズ、及び/又は0.3未満の多分散指数(PDI)を有する。
【0029】
本発明の特定の実施形態によれば、上記のテトラアシドソームは、カプセル化された目的の分子を更に含む。
【0030】
ペプチド/タンパク質及び核酸送達のためのナノ担体におけるTA及び/又はCFTA脂質の使用は、以前に研究されたことがない。分子のユニークな構造は、化学的官能化の複数の機会を可能にし、CFTA脂質を提供し、テトラアシドソームの保護及び輸送特性の微調整を可能にする。この新規のアプローチは、いくつかの方法でアーケオソームに伴う制限を克服する。
-従来の古細菌脂質には見られない特徴的な「H」構造は、二層貫通フリップフロップ運動を減少させることによって、テトラアシドソーム中の脂質二層をより強固にする。これは、過酷なGI環境に対する治療用ペプチドのより良好な保護を提供する[14]。
-従来の古細菌脂質に欠けている4つのカルボン酸基の存在は、ペプチドカップリング反応及びヒュスゲン「クリック」付加環化に基づく合成経路による多種多様な官能基の組み込みを可能にする。このようにして、TA脂質の1つ又は2つの末端に導入された1~4個の染料(例えば、ナイルレッド又はフルオレセイン)は、テトラアシドソームの生物医薬特性決定のために設計された元の生物学的脂質プローブを提供する。特に、脂質骨格の各側に1つ又は2つの類似の染料(例えば、ナイルレッド又はフルオレセイン)を有するTA脂質は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)研究のための効率的なドナー(フルオレセインベースのTA)及びアクセプター(ナイルレッドベースのTA)染料対を構成する蛍光トリ及びテトラナイルレッドTA及びトリ及びテトラフルオレセインTAを提供する[15]。更に、TA脂質の片側への1つ又は2つの同一の染料(例えば、フルオレセインのナイルレッド)の制御された導入は、光退色後の蛍光回復(Fluorescence Recovery After Photobleaching:FRAP)実験のために設計された蛍光モノ及びジ標識TA脂質を提供する。これは、FRETによる胃腸管及び腸透過性におけるナノ粒子の安定性、並びにFRAPによるナノ担体と粘液との間の相互作用の研究を開くものである。4つの同一のプローブの存在は、生物薬剤研究にも適している。
-更に、TA構造へのポリエチレングリコール(PEG)の非対称組み込みは、経口バイオアベイラビリティ及び粘液/腸透過性を改善するためのPEG被覆ナノ粒子を与えることができるPEG化TA脂質(脂質の片側に2つのPEG鎖)をもたらす[16]。PEG鎖は、細胞膜受容体による細胞認識及び取り込みを通じて活性な標的化を示すために、末端において標的リガンド(ペプチド、抗体、ビタミンなど)によって官能化することができる。
-更に、4つのカルボン酸は、ヒドロキシル官能基に還元されて、アーケオソーム中に見出されるテトラエーテルジオールのよりヒドロキシル化された類似体としてテトラオール脂質を提供し得る。
-最後に、エステル反応によるTA脂質上へのコリン単位に基づくカチオン部分の導入は、核酸送達に有用なテトラアシドソームのカチオンバージョンをもたらした。
-TA上のカルボキシル基の存在はまた、中性pHでテトラアシドソームを負に帯電させる。この電荷は、負に帯電したシリカナノ粒子で最近示されたように[17]、腸壁の透過性を高めることができ、これは薬物送達に有利である。
-ナフテン酸カルシウム沈着物をTA脂質源として使用する。これらは典型的に20~40重量%の分子を含有し、容易に抽出されて80~90%の純度を得ることができる[18]。この豊富さは、伝統的な脂質源と比較して、脂質調製の時間を有意に短縮する。
【0031】
したがって、本発明の別の目的は、担体としての、特に胃腸環境(GI)への担体としての、上述のテトラアシドソームの使用である。
【0032】
本発明の別の目的は、薬物としての使用のための上記のテトラアシドソームである。
【0033】
本発明の別の目的は、TA脂質を還元剤、アルコール、アミン、又はエステルと反応させる工程を含む、上記の新規脂質化合物の合成方法である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】(A)アーケオソーム(丸で囲まれたテトラエーテル脂質)、(B)スルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)に存在するテトラエーテル脂質の詳細な構造を表す。
【
図2】(A)極性頭部を表すPを有する最も豊富なTA脂質の単純化された表示(TA脂質P
1=P
2=P
3=P
4=COOHの場合)、(B)C
81又はC
82TA脂質の示唆された構造を表す。2本の点線は、80個の最初の炭素に加えて1個又は2個の炭素を説明するために存在し得る2つのメチル基を表す。
【
図3】実施例2の部分的にエステル化されたTA脂質(P
1:P
2:P
3:P
4=COOH OR COOR
1)の構造を表す。炭素C
17及びC
17’’’(丸)。
【
図4】(A)天然TA脂質(丸で囲んだTA脂質)を有する本発明のテトラアシドソーム、(B)石油類ナフテン酸カルシウム沈着物(=工業廃棄物)中に大量に存在する主なTA脂質の詳細な構造を表す。
【
図5】サイズに関する本発明のテトラアシドソームの安定度を表す。
【
図6】多分散指数(PolyDispersity Index、PDI)に関する本発明のテトラアシドソームの安定度を示す。
【
図7】TA脂質のPEG化:鎖がテトラアシドソームの親水性中心部を満たす可能性を防止するための非対称導入を表す。
【
図8】TA(異なる極性頭部を有する)、蛍光標識TA(ナイルレッドTA)、及びPEG化TA脂質から構成されるペプチド負荷テトラアシドソームの構造を表す。
【実施例】
【0035】
材料及び方法
一般:1H NMRスペクトルは、Z勾配コイル及びGREAT 1/10勾配ユニットを有するBBFOプローブを備えた、400.13MHzで動作するBruker Avance III 400分光計で記録した。全ての実験は25℃で行った。
【0036】
noesygpprldブローカ・パルス・プログラムを、以下のパラメータ:64のTD、緩和遅延d1=2s及び16スキャンを使用して予備飽和を伴って1D NMRに使用した。スペクトル幅は18ppmに設定した。得られたFIDのフーリエ変換は、ほとんどの場合、アポディゼーションなしで実行された。
【0037】
13C NMRスペクトルは100.61MHzで記録した。jmod、dept135、又はzgpg30のようないくつかの配列を、通常、サンプルの濃度に依存して64~1024スキャンで使用した。TDは64kであり、220ppmのスペクトル幅に対して2秒の緩和遅延が使用された。フーリエ変換は、0.6HzのLBを使用して指数関数によるアポディゼーション後に実行された。
【0038】
質量分析に関して、SI+、ESIand MALDIイオン化を使用した。
【0039】
全ての試薬は、Merck、Fischer、及びAlfa Aesarのような既知の供給業者から入手し、精製せずに使用した。
【0040】
製剤化のための一般的手順:
手順A:4mg.mL-1のEggpC、コレステロール、及び脂質のストック溶液を(溶解度に応じて)MeOH(HPLCグレード)及びCHCl3(HPLCグレード)中で調製した。全ての脂質が確実に十分溶解されるように、溶液を超音波下に5分間置いた。次いで、製剤を、選択した質量%に応じて1mLで調製した。NanoAssembler(登録商標)の操作条件をソフトウェアで選択した。
【0041】
実施例:
容量:3.3mL
FRR:3:11
TFR:8mL.min-1
左シリンジ:水相-3mLシリンジ(分注:2.47mL)
右シリンジ:有機相-1mLシリンジ(分注:0.83mL)
星形廃棄物体積:0.350mL
最終廃棄物体積:0.050mL
【0042】
水相は、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)である。有機相をrotavaporで抽出した:2×1000μLのリポソーム溶液を10mLフラスコに入れ、それ自体を40℃の浴に入れた。圧力を10分間300mbarに設定し、次いで100mbarに達するまで20秒毎に20mbarずつ下げ、更に5分間100mbarに維持した。製剤をシリンジで回収し、Acrodiscで滅菌した後、DPBSで質量を2gに調整した。理論上の最終濃度は1mg.L-1であった。各製剤を、Zetasizer
Malvern ZS90:3を用いたDLSによって分析した。これは、最初に90秒の平衡化を伴う20秒の10回の実行に対応する試料による測定である。温度を25℃に設定した。
【0043】
手順B:4mg.mL-1のEggpC、コレステロール及び脂質のストック溶液をEtOH中で調製した。全ての脂質が確実に十分溶解されるように、溶液を超音波下に5分間置いた。次いで、製剤を、選択したモル%に応じて1mLで調製した。NanoAssembler(登録商標)の操作条件をソフトウェアで選択した。
【0044】
実施例:
容量:2.4mL
FRR:3:11
TFR:12mL・min-1
左シリンジ:水相-3mLシリンジ(分注:1.8mL)
右シリンジ:有機相-1mLシリンジ(分注:0.6mL)
星形廃棄物体積:0.350mL
最終廃棄物体積:0.050mL
【0045】
水相は、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)である。有機相(EtOH)を透析によって除去した:1000μLのリポソーム溶液を1mLの水和透析チューブ(Spectrum Laboratories G235035、カットオフ=100kDa)に入れ、次いで、充填したチューブを350rpmで磁気撹拌しながら250mLのMilliQ水に入れた。MilliQ水浴を1時間後に交換した。透析チューブ内の500μLのリポソーム溶液を、Zetasizer Malvern ZS90:3を用いたDLSによって分析し、最初に90秒間の平衡化を伴う20秒間の10回の実行に対応する試料によって測定した。温度を25℃に設定した。
【0046】
実施例1:テトラオール脂質の合成(P1=P2=P3=P4=CH2OH)
【0047】
【0048】
還元剤として使用したLiAlH4(19.5mg、5.13.10-4mol、6当量)を8mLの無水THFに溶解した。4mLの無水THFに溶解させたTA脂質(95.8mg、7.78.10-5mol、1当量)を不活性雰囲気下で滴下添加した。次いで、得られた混合物を還流下で5時間撹拌した。過剰のLiAlH4を、6mLのジエチルエーテル、次いで3mLの水の添加により破壊した。水相をジエチルエーテルで抽出し、次いで集めた有機相を水中5%硫酸及び水で洗浄した。MgSO4で乾燥させた後、溶媒を減圧下で除去して黄色油状物を得た(90.2mg、収率99%)。CDCl3中1H NMR:δ=2.3-1.5(m)、1.4-1.0(m)、0.91(d,J=6.5Hz)、0.89-0.83(m)、CDCI3中13C NMR:62.4、61.2、46.5、45.7、45.1、44.9、44.8、39.9、39.5、39.4、39.1、38.3、37.9、37.3、37.2、36.6、36.1、35.7、34.7、34.1、33.7、33.3、33.2、31.9、31.7、31.5、31.2、30.3、29.7、29.6、29.3、29.2、25.9、25.7、24.4、24.1、22.7、19.9、19.6、17.8、14.1
【0049】
4つのカルボン酸の第一級アルコール官能基への完全な還元は、準定量的収率で達成された。1D NMRスペクトルは、カルボン酸炭素のシグナルがもはや存在せず、ヒドロキシル官能基に対応する2つのシグナルが1D13Cスペクトル上の61.23ppm及び62.43ppmに現れたので、テトラオールが得られたことを証明した。また、脂肪族プロトンの一般的な遮蔽が、1D1Hスペクトル、特に最初のTA脂質について0.98ppmであった0.91ppmのダブレットで観察された。m/z1175のピークが認められたことから、高分解能質量分析によっても合成を確認した。
【0050】
実施例2:部分エステル化Ta脂質(少なくとも1つのP1:P2:P3:P4=COOR1)の合成
【0051】
【0052】
TA脂質の選択的エステル化は、酸性樹脂の使用を通じて実行した。TA脂質を大過剰のオクタンとギ酸ブチルの混合物に溶解し、Dowex 50W-X2(50~100メッシュ)である強酸性イオン交換樹脂の界面でエステル交換反応を行った。選択性についての説明は、オクタンと比較してギ酸ブチル中のテトラカルボン酸(TA)脂質の高い溶解度に基づいていた。樹脂の酸性水性特性のために、樹脂とギ酸ブチルとの界面でエステル交換が起こった。次いで、オクタン中ではるかに可溶性である得られた部分的にエステル化されたTA脂質は反応しやすくなく、樹脂との相互作用は低下した。反応時間又は溶媒比を変化させることによっていくつかの実験を行った。その結果を、反応時間又は溶媒比に応じて計算された総エステル化率及び右側及び左側のエステル化率と共に下記表1に示した。
【0053】
3つのシグナル
1H NMRスペクトルは、全体的なエステル化率及び脂質の右側のエステル化率の両方の計算を可能にした。0.94ppmに見られるダブレット及び0.98ppmのダブレットは、炭素C
17’及びC
17’’’のCH
3に対応する(
図3)。極性頭部がカルボン酸である場合、ダブレットは0.98ppmに見出されるが、ブチルエステルである場合、ダブレットは0.94ppmに見出される。しかしながら、ブチルエステルの末端CH
3に対応するトリプレットが0.95ppmで見出され、0.94ppmのダブレットと重なった。1.01~0.92ppmの領域のラインフィッティングにより、3つのシグナルを別々に積分することが可能であった。
【0054】
これら3つの信号の積分の間には数学的関係がある。各C
17’及びC
17’’’(
図3)は常にCH
3に対応するので、2つのダブレットの積分の和は常に6に等しい。トリプレットに関しては、脂質は0~4個のブチルエステル官能基、すなわち、ブチルエステルの0~4個の末端CH
3を有することができるので、その積分は0~12個のプロトンの範囲であることができる。外積を用いて、トリプレットの積分を決定し、それを理論上の最大値である12、すなわち、全体的なエステル化率=(積分
triplet0.95ppm/12)
*100と比較することが可能である。分子の右側のみのエステル化率は、(積分
doublet0.94ppm/6)
*100によって与えられる。
【0055】
【0056】
表1の項目1~5は、90/10の溶媒比でカルボン酸をブチルエステルに変換するのに必要な反応時間に関する情報を与えた。24時間以内に、転化率は13%にしか達しなかったので制限された。3日後に61%に達したので、満足できる変換率を得ることが依然として可能であった(エントリ5)。次に、溶媒比の影響が重要であった。エステル化率は、ギ酸ブチルの割合を増加させることによって、同じ反応時間で4.5倍になった(エントリ4及びエントリ6)。より長い反応時間の後、十分なギ酸ブチルを用いて、カルボン酸をほぼ完全にブチルエステルに変換することができた(エントリ7)。加えて、エステル化は、試験した全ての条件(エントリ1~7)について選択的であった。実際に、分子の右側のエステル化率は、全体的なエステル化と比較してゆっくりと増加した。したがって、この反応の条件は、エステル官能基の数が制御され、脂質の左側が右側よりも置換されたTA脂質を得るように最適化されている。実際、反応時間が長くなればなるほど、より多くのテトラエステルが得られた。これは、一定時間後、オクタン及びギ酸ブチルにおける溶解度の差が、反応の継続を妨げるほど十分ではなかったことを意味する。また、分子の左部分がこの反応に対してより反応しやすいと思われる理由は明らかではなかった。これは、分子の一方の側にとってより有利であり得る樹脂への脂質の接近の幾何学的配置に起因し得る。
【0057】
結論として、50/50溶媒比及び24時間の反応時間(エントリ6)は、右側でのエステル化率が左側(100%)と比較して低かった(14%)ので、TA脂質の非対称エステル化のための最も適切な条件であった。更に、カラムクロマトグラフィーによるテトラエステル化合物(画分1)の除去は、51%の総エステル化率、右側で5%のエステル化率、及び左側で97%のエステル化率で部分的にエステル化されたTA脂質(画分2)を単離することを可能にした(下記参照)。
【0058】
TA脂質の部分エステル化の代表的な反応を以下に示す。
TA脂質(107mg、0.086mmol、1当量)を、オクタン及びギ酸ブチルの50/50混合物20mLに溶解した。Dowex 50W-X2(50~100メッシュ)(500mg)を加え、混合物を100℃で24時間撹拌した。樹脂を濾過により除去した。溶媒を減圧留去し、黄色油状物(114mg)を得た。フラッシュクロマトグラフィー(CH2Cl2MeOH:100/0~90/10)後に2つの画分を単離した。画分1(10mg)はテトラブチルエステル(P1=P2=P3=P4=CO2Bu)として同定され、画分2(83mg、72%)は部分的にエステル化されたTA脂質から構成されていた(総エステル化率:51%;右側で5%のエステル化率及び左側で97%の
エステル化率)。CDCI3中の1H NMR:画分1、テトラエステルと同じ:4.08(8H,2t,J=6.7Hz)、2.37-2.05(10H,m)、1.95(4H,m)、1.76(10H,m)、1.61(14H,m)、1.5-1.0(80H,m)、0.95(12H,t,J=7.2Hz)、0.94(6H,d,J=7.2Hz),0.86(20H,m);
画分2:4.08(2H,2t,J=6.7Hz)、2.4-1.9(14H,m)、1.9-1.5(20H,m)、1.4-1.0(80H,m)、0.98(6H,d,J=7.0Hz)、0.95(6H,t,J=7.1Hz)、0.9-0.7(20H,m)。
【0059】
実施例3:TA脂質(少なくとも1つのP1:P2:P3:P4=A2-(PEGx1-A3)n-R2又はCOOR1)
ここでの目標は、脂質にポリエチレングリコール鎖を導入して、テトラアシドソームに粘液不活性特性を与えることであった。PEG化の戦略は、脂質のカルボン酸とPEGのアミンとの間のペプチドカップリング反応に基づいた。TBTU(2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボレート)、及びDIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)は、他の脂質とのカップリング反応におけるそれらの効率が知られているので、それらを選択した[19]。TBTUのようなウロニウム塩の使用は、それ自体によってHOBt(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物)の形成を可能にし、一方、DIPEAは、カルボン酸が脱プロトン化されることを確実にした。また、二次生成物の形成を回避するために、カルボキシレート官能基がHOBtのエステルとして完全に活性化されるように、TA脂質をTBTU及びDIPEAと少なくとも20分間撹拌した後にアミンを添加した。
【0060】
N3-PEG500-NH2を用いたテトラジドPEG化(N3PEG500)4-TA脂質の合成
最初のカップリング反応を、N3-PEG500-NH2と最初のTA脂質との間で行い、テトラジドPEG化(N3PEG500)4-TA脂質(スキーム3)を得、これはPEG鎖の官能化に関連する次のパートで説明する銅触媒環状付加において機能する(スキーム5)。
【0061】
【0062】
TBTU(75mg、0.23mmol、4.8当量)、DIPEA(4.8当量)、及びTA脂質(60mg、0.049mmol、1当量)を、不活性雰囲気下で9mlの無水CH2Cl2に溶解した。DIPEA(30mg、0.23mmol、4.8当量)を混合物に添加した。20分後、3mLの無水CH2Cl2に溶解したN3-PEG500-NH2(102mg、0.23mmol、4.8当量)を添加し、混合物を48時間還流させた。次いで、数滴の4%HCl溶液を添加することによってDIPEAを中和した。有機相を蒸留水(3×2mL)で洗浄した。有機相をMgSO4で乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH:100/0~90/0)によって精製して、テトラジドPEG化(N3PEG500)4-TA脂質を黄色油状物として優れた収率(92%)で得た。CDCl3中の1H NMR:δ=3.8-3.2(160H,m,HPEG)、2.1(6H,m)、1.9(6H,m)、1.8-1.59(16H,m)、1.4-0.9(78H,m)、0.85(6H,d,J=6.2Hz)、0.78(16H,m)。1H NMRスペクトルは、積分が正確であるので構造を確認し、アミドの形成から生じる遮蔽が観察され、これらのアミドの近くに位置するプロトンについてより重要である。
【0063】
MeO-PEG2000-NH2を用いた部分エステル化TA脂質の代表的なPEG化
更に、既知のエステル化率を有する部分的にエステル化されたTA脂質(46%)を、MeO-PEG2000-NH2とのカップリング反応に使用した。
【0064】
【0065】
部分的にエステル化されたTA脂質(実施例2の画分2を参照)(10mg、0.008mmol、1当量)、TBTU(6.2mg、0.019mmol、2.4当量:カルボン酸の各当量に対して1.2当量)を、不活性雰囲気下で2mLの無水CH
2Cl
2に溶解した。DIPEA(6.7mg、0.019mmol、2.4当量:カルボン酸の各当量に対して1.2当量)を混合物に添加した。20分後、5mLの無水CH
2Cl
2に溶解したMeO-PEG
2000-NH
2(38mg、0.019mmol、2.4当量:カルボン酸の各当量に対して1.2当量)を添加し、混合物を48時間還流させた。次いで、数滴の4%HCl溶液を添加することによってDIPEAを中和した。有機相を蒸留水(3×2mL)で洗浄した。有機相をMgSO
4で乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(CH
2Cl
2/MeOH:100/0~90/0)により精製して、黄色油状物(42mg)を得た。CDCl
3中の
1H NMR:δ=3.8-3.2(HPEG),2.4-1.9(m)、1.9-1.4(m)、1.4-0.95、0.95-0.70(m)。NMRスペクトルは、TA脂質の残りのカルボン酸が準定量的にPEG化されていることを証明した。次いで、PEG鎖がTA脂質にグラフトされる場所を制御するという最初の目標は、適切なカルボン酸の事前の選択的保護によって優れた収率で達成することができた(
図7)。
【0066】
その後、分子の同じ側にPEG鎖を有するジペグ化脂質を得るためにTA脂質の事前の選択的エステル化が必要であることを確認するために、(保護されていない)最初のTA脂質とのカップリング反応を行った。MeO-PEG2000-NH2(2当量)を添加する前に、無水CH2Cl2中にTBTU(2当量)、DIPEA(2当量)及びTA脂質(1当量)を添加した。本発明者らは、準定量的収率でジペグ化されたTA脂質を得たが、1H NMRスペクトルの積分は、PEG鎖が脂質の右又は左部分に統計的に結合していることを示した。したがって、PEG鎖が結合される場所を制御する方法は、前述のように、カルボン酸を予め選択的に保護することである。
【0067】
実施例4:ペグ化TA脂質(P1:P2:P3:P4=A2-(PEGX1-A3)n-R2又はCOOR1)
PEG鎖の末端への特定の官能基(標的化剤、プローブ)の導入は、エステル化反応、
ペプチドカップリング反応、又はクリックケミストリー反応(例えば、銅触媒ヒュスゲン環化付加を使用して)によって達成することができる。例として、テトラジドPEG化(N3PEG500)4-TA脂質の4つの末端でのプローブの導入を、生物医薬品の特徴付けのために行った。銅触媒ヒュスゲン環化付加は、例えば、脂質にプローブ又は特異的分子を容易に付加するために現在一般的である。しかしながら、収率が容易に低下する可能性があるので、正しい条件、すなわち、正しい溶媒及び触媒を見つけることが基本的である。古典的には、添加剤としてアスコルビン酸を有する硫酸銅は、水又はアルコールのような極性溶媒中で使用される。
【0068】
TA脂質の脂肪族構造を考慮すると、他の条件で反応を試みることが適切であると思われた。
【0069】
【0070】
テトラジドPEG化(N3PEG500)4-TA脂質(50mg、61.9mmol、1当量)及び9-ジエチルアミノ-2-(プロパ-2-イニルオキシ)-5H-ベンゾ[α]フェノキサジン-5-オン(ナイルレッドプローブ[20]:23mg、61.9mmol、4当量)を、9mLの2つの有機溶媒:無水トルエン及び無水メタノール(MeOH)の2/1比の混合物に溶解した(スキーム5)。直接酸化度1である触媒ヨウ化銅(CuI)(13.6mg、40%mol)、続いてDIPEAを添加し、反応混合物を60℃で一晩撹拌した。混合物を冷却し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH:100/0~90/0)により精製して、テトラ-ナイルレッド官能化(ナイルレッド-PEG500)4-TA脂質に対応する暗紫色の油(57mg、78%)を得た。CDCl3中の1H NMR:δ=8.2(8H,m)、7.97(s,4H)、7.59(4H,m)、7.24(4H,m)、6.65(4H,m)、6.44(4H,m)、6.29(4H,m),4.6(8H,m)、3.9-3.3(145H,HPEG)、2.3-1.8(34H,m)、1.73(6H,m)、1.63(8H,m)、1.55-0.96(100,m)、0.91(6H,m)、0.83(12H,m)。トリアゾールの形成は、1H NMRにおいて、4個のプロトンに対応する7.9ppmでのシングレットの存在、及びアルキンの2.58ppmでのシグナルの喪失によって証明された。
【0071】
実施例5:カチオン性部分又はブタノールによるta脂質の官能化
コリン(TA脂質の官能化(P1:P2:P3:P4=A1-CH2-CH2-N+(CH3)3、X-(式中、X=Cl)
TA脂質のエステル化は、2段階反応において触媒としてMSAを用いて準定量的収率で達成された。
【0072】
【0073】
最初に、塩化コリン(27mg、0.19mmol、4.8当量)を、不活性雰囲気下でDean-Stark付きフラスコに入れた。次いで、MSA(20mg、0.21mmol、5.0当量)を添加し、この混合物を30分間撹拌した。この第1の工程の間、コリンの対イオンは、HClが放出される間にメシレートになった。
【0074】
第2の工程は、酸性条件下、130℃の温度でコリンのヒドロキシル官能基を用いるエステル化であった。無水トルエンに溶解したTA脂質1(50mg、0.040mmol、1当量)を添加し、温度を130℃に設定した。反応混合物を更に撹拌し、次いで、溶媒を減圧下で蒸発させた。90mg(112%)の粗生成物が得られた。CDCl3/CD3OD中の1H NMR(50/50):4.02(8H,m),3.5(8H,m),3.2(36H,s),2.4-1.5(28H,m),1.4-1.0(58H,m),0.94(6H,d,J=0.93Hz),0.9-0.6(16H,m)。1D1H NMRスペクトルは、アルコールのシグナルが消失し、エステル官能基の形成がTA脂質のプロトンの化学シフトの変化を引き起こしたので、予想されたテトラエステルが得られたことを確認した。
【0075】
ブタノールによるTA脂質の官能化(P1:P2:P3:P4=CO2-(CH2)3-CH3)
【0076】
【0077】
テトラエステルを合成するためにフィッシャーエステル化を想定した。TA脂質(26.3mg、2.14.10~5mol、1当量)を、求核剤及び溶媒の両方として使用される5mLのn-ブタノール(nBuOH)に溶解した。酸性触媒として使用されるメタンスルホン酸(MSA、125μL、0.1当量)を添加し、次いで、混合物をDean-Stark装置を備えたフラスコ内で140℃で撹拌して、反応中に形成された水を除去した。圧力を500mbarに設定した。7時間後、溶媒を減圧下で除去して黄色油状物を得た。CDCl 3中の1H NMR:δ=4.08(8H,2t,J=6.7Hz)、2.37-2.05(10H,m)、1.95(4H,m)、1.76(10H,m)、1.61(14H,m)、1.5-1.0(80H,m)、0.95(12H,tJ=7.2Hz),0.94(6H,d,J=7.2Hz)、0.86(20H,m)、CDCI3中の13C NMR:171.0、170.98、67.3、61.5、60.3、50.9、43.8、43.0、42.7、42.2、39.4、38.3、36.4、35.8、35.4、35.0、34.8、34.4、34.0、33.5、32.3、32.2、31.5、31.2、30.8、30.6、30.0、29.9、28.7、28.5、28.1、27.8、27.2、23.3、21.9、21.5、20.1、17.4、17.2、16.6、16.3、16.1、15.2、11.2。テトラエステルを90%の収率で単離した。NMR実験により、全てのカルボン酸がブチルエステルに変換されたことが確認された。
【0078】
実施例6:天然テトラ酸(TA)脂質又は化学的に官能化されたテトラ酸(CFTA)脂質のテトラアシドソームと呼ばれる安定なリポソームへの製剤化
リポソームを製剤化するための古典的な方法は、溶媒蒸発によって脂質フィルムを形成し、次いでこれを水溶液で水和し、超音波処理することである。この方法はうまくいくが、最も便利で再現性のある方法ではない。マイクロ流体工学である興味深い代替法が存在する。マトリックス粒子を作製するための新しい連続プロセスの開発が急速に進んでいる
。マイクロ流体工学は、微小管(10~1000μm)における小体積(10-9~10-18L)の操作を研究する科学である。マイクロ流体工学は、リポソームを製剤化するための非常に効率的なツールであり、NanoAssembler(登録商標)Benchtopと呼ばれる装置のおかげで、以下に示す実施例において実施される。マイクロ流体工学は、再現性、粒子サイズの調整、スケーラビリティ、及び速度を提供する。以下に示される全ての結果は、このプラットフォームを用いて得られた。理想的には、200nm未満の直径及び0.3未満の多分散指数(PDI)を有するリポソームが、製剤が分子のカプセル化に適していることを考慮するために必要とされる。これらの2つのパラメータは、動的光散乱(DLS)によって提供される。PDIは、粒度分布の広さの無次元尺度であり、0~1の範囲である。その値が1を超える場合、試料はDLSによる測定に適していない可能性がある。
【0079】
天然TA脂質に基づく製剤(手順A)
いくつかの製剤を、TA又はPEG化TA、EggpC及びコレステロールを用いて、明確な質量百分率で試験し、それらのいくつかを表2に示す。
【0080】
【0081】
コレステロールは、2つの他の資質と会合して、層の剛性を調節することができる。TA脂質は4mg.L-1のストック溶液を得るのに十分に可溶性であったので、有機相はMeOHから構成された。製剤が製造されたら、有機相を蒸発させ、リポソーム溶液を希釈して、正確に2グラムの1mg.mL’1の理論濃度の溶液を得た。次いで、それらをDLSによって分析して、nm単位のZ平均及びPDIを得た(表3)。
【0082】
【0083】
最初に、EggpC及び/又はコレステロールと会合したTA脂質から作製された、200nm未満の流体力学的直径を有するリポソーム溶液を得た。更に、各製剤のPDIは、常に0.1未満であるため優れており、これは、単分散脂質小胞を製剤化することができたことを意味する。第二に、TA脂質の濃度が増加するほど、流体力学的直径が減少することが観察された。次いで、リポソームの直径は、TA脂質の質量百分率を変化させることによって制御され得る。より興味深いことに、これらの製剤は非常に安定していた。実際、21日後、製剤の平均直径及びPDIはほとんど変化しないままであった。
【0084】
図4は、天然のTA脂質を有する本発明のテトラアシドソームの構造を示す。
【0085】
図5及び6は、それぞれサイズ及びPDIに関する、天然TA脂質を有する本発明のテトラアシドソームの安定度を示す。
【0086】
テトラオール脂質に基づく製剤(手順A)
溶液A、B、C、及びDと同じ質量百分率を有するテトラオールを用いて4つの製剤を試験した。TA脂質含有リポソームとのいくつかの差異に注目することができた。テトラオール脂質はMeOHに溶解しないので、有機相はMeOHとCHCl31/1の混合物から構成された。テトラオールの質量百分率が10重量%以上である場合、濁りが現れた。4つの製剤をDLSによっても分析した(表4)。
【0087】
【0088】
200nm未満の直径及び良好なPDIを有するいくつかの興味深い製剤が得られた。しかしながら、言及すべきいくつかの違いがある。流体力学直径は、テトラオールの質量百分率が増加してももはや減少しなかった。コレステロール含有リポソームは優れたPDIを示したが、テトラオール及びEgGpCのみを含有する製剤Dは、PDI値が0.3未満であるので依然として許容可能であるとみなすことができるが、0.1より高いPDI値を有する。また、直径が100nm未満のリポソームは得られなかった。
【0089】
天然TA脂質又は部分的にPEG化されたTA脂質に基づく比較製剤(手順B)
いくつかの製剤を、TA脂質又は部分的にPEG化されたTA脂質、EggpC、及びコレステロールを用いて、明確なモル百分率で試験し、それらのうちの2つを表5に示す。
【0090】
【0091】
有機相は、製剤の投与後に残留MeOHによって誘発される潜在的な毒性問題を回避するために、製剤A~Dの場合のようにMeOHの代わりにEtOHで構成した。4mg.L-1のストック溶液を調製した。製剤が製造されたら、有機相を透析によって除去し、リポソーム溶液を透析から抽出した。次いで、チューブ(500μL)をDLSによって分析して、Z平均(nm)及びPDIを得た(表6)。
【0092】
【0093】
最初に、EggpC及び/又はコレステロールと会合したTA脂質又は部分的にPEG化されたTA脂質の両方から作製された、100nm未満の流体力学的直径を有するリポソーム溶液を得た。更に、各製剤についてのPDIは、常に0.2未満であるため良好であり、これは、単分散脂質小胞を製剤化することができたことを意味する。第二に、天然TA脂質の代わりに部分的にPEG化されたTA脂質を使用すると、更に小さな小胞の形成が促進されることが観察され、これは、毛細血管からのリポソームの脱出並びに標的組織へのリポソームの取り込みを容易にするはずである[21]。より興味深いことに、部分的にPEG化されたTAベースの製剤は非常に安定していた。実際、21日後、製剤の平均直径及びPDIはほとんど変化しないままであった。
【0094】
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