(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】画像誘導外科的方法のための腫瘍標的化プローブ
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20241203BHJP
C07K 14/21 20060101ALI20241203BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61B10/00 E
C07K14/21 ZNA
G01N21/64 F
A61B10/00 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532262
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-07-26
(86)【国際出願番号】 US2022080631
(87)【国際公開番号】W WO2023102409
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500436215
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシテイ オブ イリノイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダス ドゥパッタ、タパス ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヤマダ、トオル
(72)【発明者】
【氏名】ゴトウ、マサヒデ
(72)【発明者】
【氏名】ナッフォウジェ、サメル
【テーマコード(参考)】
2G043
4H045
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA02
2G043KA01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA18
4H045BA70
4H045CA11
4H045EA50
(57)【要約】
臨床的に非毒性の腫瘍標的化ペプチドp28及びFDA承認のNIR色素インドシアニングリーン(ICG)で構成される独特の近赤外(NIR)蛍光イメージングプローブICG-p28が、インビボ動態について分析され、臨床実務のために最適化されている。ICG-p28による術中イメージングを使用して、小さい(≦1mm)リンパ節(LN)含有がん細胞を同定した。ICG-p28を用いた画像誘導手術は、対照アプローチと比較して、マージン部位での残存正規化腫瘍DNAの6.6x103倍を超える減少を示し、複数の動物モデルにおいて腫瘍再発率の改善(92%の特異性)をもたらした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において腫瘍細胞を術中に同定する方法であって、
検出可能に標識されたp28プローブを対象に投与することと;
対象から腫瘍細胞を除去するための手術を行うことと
を含み、
プローブが、腫瘍細胞に局在し、
外科的手順の間、リアルタイム画像を提供するイメージング技術が、プローブによって標識された細胞を検出するために実行され、プローブによって標識されたこれらの細胞が、腫瘍細胞を表す、
方法。
【請求項2】
p28プローブの検出可能な標識が近赤外蛍光分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
近赤外蛍光分子がインドシアニングリーンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
プローブが約50nM~約250nMの濃度で対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
プローブが静脈内又は皮下に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
プローブの投与とイメージング技術の実施との間の期間が約24時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
イメージング技術が腫瘍のマージンを描写する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
対象が乳がんを有すると診断されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
イメージング技術が、800nmの近赤外線(NIR)シグナルを検出するCCDカメラユニットを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
プローブが約1mmのサイズの腫瘍に局在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
対象が、手術手順中に追加のイメージング技術なしで腫瘍を除去する手術を受けた対象と比較した場合、腫瘍の外科的除去後の腫瘍再発が減少している、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
残存腫瘍細胞について対象を術後評価することをさらに含み、
腫瘍を除去する手術を受けた対象に、検出可能に標識されたp28プローブを投与することと;
プローブによって標識された細胞を検出するためにイメージング技術を対象に適用することと
を含み、
イメージング技術が、腫瘍マーカーを発現する細胞を陽性に同定し、これにより、任意の残存腫瘍細胞を同定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
腫瘍マーカーを発現する細胞を検出する方法であって、
細胞を検出可能に標識されたp28プローブに曝露することと;
プローブを検出するためにイメージング技術を実行することと
を含み、
プローブが、腫瘍マーカーを発現する細胞に共局在し、それにより、腫瘍マーカーを発現する細胞を検出する、
方法。
【請求項14】
p28プローブの検出可能な標識が近赤外蛍光分子を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
近赤外蛍光分子がインドシアニングリーンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
プローブが、約0.2pM~約20μMの濃度で検出可能な蛍光シグナルを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
検出可能に標識されたp28プローブを含む組成物であって、検出可能な標識が近赤外蛍光分子を含む、組成物。
【請求項18】
近赤外蛍光分子がインドシアニングリーンである、請求項17に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2021年12月1日に出願された米国仮出願第63/264,732号の利益を主張し、この出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する記載
本発明は、NIHによって授与された連邦助成金番号R01EB023924の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に対する一定の権利を有する。
【0003】
配列表の参照
本出願は、ASCII形式で電子的に出願された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。2022年11月29日に作成された該ASCIIコピーの名称はtxt_46466-57.txtであり、サイズは2229バイトである。
【背景技術】
【0004】
乳がんは、主に、周囲の正常な乳房組織マージンを有する腫瘍の外科的切除によって処置される。早期段階では、これらの処置は、乳房保存手術(BCS)又は腫瘤切除術の形態をとる。BCSは満足のいく美容的転帰を提供するが、再切除率は約20%であり、これらの手術のうち、約85%が最初の陽性マージンの存在によって行われる。早期段階の乳がん患者については、陰性マージンを達成することにおける固有の課題から、さらなる手術及び追加の組織除去が必要とされることが多いが、既存のガイドラインは、日常的な実務においてより広い陰性マージンを切除することを推奨している。現在、外科医は、健康組織と悪性組織とを区別するために視覚的及び触覚的キューに主に依存しており、したがって腫瘍床に残存病変を残すことがある。CT、MRI、PETなどは、外科的手順の前に腫瘍病変を評価するために典型的に使用される容易に利用可能なイメージングモダリティである。特に、乳がんについては、MRI又は超音波を伴うマンモグラフィが現在の標準治療である。これらの従来のイメージングモダリティは、腫瘍検出の進歩及び切除範囲の決定において非常に有用であったが、正確な術中イメージングの必要性は、初期BCS時の乳がんの管理における最も重要な満たされていないニーズの1つのままである。
【0005】
新しい迅速で正確な術中マージン評価ツールを特定するための広範な研究が進行中であり、そのうちのいくつかは現在臨床試験を受けている。例えば、バイオフォトニックに基づく技術の中でも、蛍光イメージングを使用する画像誘導手術は、外科医に多くの利点を提供する。近赤外(NIR)イメージングは、その顕著な光吸収、リアルタイムの視覚化を支援する能力、及び電離放射線の欠如のために、蛍光誘導手術のための新興の生物医学イメージングモダリティである。NIR範囲(700~900nm)におけるインビボイメージングは、その低い散乱、無視できる組織の自己蛍光、及び比較的高い組織浸透のために、可視スペクトルにおけるものよりも優れている。最初のFDA承認NIR色素であるインドシアニングリーン(ICG)は、その証明された安全性及びその使用の実現可能性のために50年以上にわたって臨床実務で使用されてきた。しかしながら、診断のためにICGを使用することの主な欠点は、その非常に短い半減期(2~4分)、血漿タンパク質に容易に非特異的に結合する能力、及び受動蛍光色素としての腫瘍特異的リガンド-受容体相互作用機構の欠如である。したがって、ICGの新しい腫瘍標的化バージョンを作製することは、臨床において有用であり得る。
【発明の概要】
【0006】
現在のがん処置は、腫瘍と周囲の正常組織マージンの両方の切除、その後の早期及び局所進行疾患のための全身治療を含む。しかしながら、陰性マージンを達成することに関連する固有の課題のために、さらなる手術及び組織除去がしばしば必要である。外科的切除を最適化し、腫瘍のない縁を確認するための新規な方法が緊急に必要とされている。本発明者らは、臨床的に非毒性の腫瘍標的化ペプチドp28及びFDA承認のNIR色素インドシアニングリーン(ICG)で構成される独特の近赤外(NIR)蛍光イメージングプローブICG-p28を開発した。本明細書では、臨床実務の設定を最適化するためにインビボ動態を分析し、ICG-p28を用いた術中イメージングを使用して、小さい(≦1mm)リンパ節(LN)含有がん細胞を同定した。腫瘍マーカーとしてiRFPを安定に発現する異種移植片腫瘍は、ICG-p28との有意な共局在化を示したがICG単独では示さなかった。ICG-p28を用いた画像誘導手術は、対照アプローチ(すなわち、ICG又は触診/目視検査のみによる手術)と比較して、マージン部位での残存正規化腫瘍DNAの6.6x103倍を超える減少を示し、受容体発現状態とは無関係に複数の乳がん動物モデルにおいて腫瘍再発率の改善(92%の特異性)をもたらした。ICG-p28は、完全切除の可能性を高めるために、マージンにおける腫瘍細胞の正確な同定を可能にした。本発明者らの単純で費用効果の高いアプローチは、外科医がリアルタイム3D様式で腫瘍マージンを術中に同定することを可能にし、再切除率を低下させることによって全体的な転帰を著しく改善する新しい外科的手順を提供する。
【0007】
他の方法、特徴及び/又は利点は、以下の図面及び詳細な説明を検討すると明らかになるか、又は明らかになるであろう。そのような追加の方法、特徴、及び利点はすべて、この説明内に含まれ、添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図されている。
【0008】
配列表の簡単な説明
配列番号1は、ヒト特異的Alu配列(huAlu)に特異的なプライマーであり、センス:5’-ACG CCT GTA ATC CCA GCA CTT-3’(配列番号1)である。
【0009】
配列番号2は、ヒト特異的Alu配列(huAlu)に特異的なプライマーであり、アンチセンス:5’-TCG CCC AGG CTG GAG TGC A-3’(配列番号2)である。
【0010】
配列番号3は、マウスGAPDHゲノムDNA配列(mGAPDH)に特異的なプライマーであり、センス:5’-AGG TCG GTG TGA ACG GAT TTG-3’(配列番号3)である。
【0011】
配列番号4は、マウスGAPDHゲノムDNA配列(mGAPDH)に特異的なプライマーであり、アンチセンス:5’-GGG GTC GTT GAT GGC AAC A-3’(配列番号4)である。
【0012】
配列番号5は、緑膿菌(P.aeruginosa)のアズリン由来のp28である
【0013】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴及び利点のより良い理解は、本発明の原理が利用される例示的な実施形態を説明する以下の詳細な説明、及び添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】濃度の関数としてのICG-p28のNIR蛍光のグラフである。
【
図1B】様々な条件におけるNIRシグナルのシグナル対ノイズ比のグラフである。
【
図1C】サイズの関数としてのNIRシグナルを示す。
【
図1D】ゼラチン系ファントムにおける深さの関数としてのNIRシグナルのグラフである。
【
図1E】ゼラチン系ファントムの作成の概略図である。
【0015】
【
図2A】異種移植マウスモデルにおけるICG-p28を用いたリアルタイムイメージングである。MDA-MB-231乳がん細胞をマウスにs.c.注射した。白色光写真(上)及びスナップショットNIR PDE画像(下;背面図、800nmのグレースケール)を示す。
【
図2B】異種移植マウスモデルにおけるICG-p28を用いたリアルタイムイメージングである。IOWA-1T乳がん細胞をマウスにs.c.注射した。白色光写真(上)及びスナップショットNIR PDE画像(下;背面図、800nmのグレースケール)を示す。
【
図2C】原発腫瘍(上)及び表在臀筋に位置する坐骨LN(下;bの黄色の矢じり)のH&E染色切片であり、腫瘍陽性であることが確認された(倍率200倍(挿入
図40倍))。
【0016】
【
図3A】ICG-p28と腫瘍マーカーiRPFとの共局在。ICG-p28処理MDA-MB-231-iRFP細胞をパラホルムアルデヒド中で固定し、共焦点顕微鏡下で画像を取得した。赤色:腫瘍マーカーiRFP(700nm);緑色:ICG-p28(800nm);青色:DAPI(核);黄色:赤色+緑色。
【
図3B】ICG-p28と腫瘍マーカーiRPFとの共局在。MDA-MB-231-iRFP腫瘍を有する無胸腺マウスに、ICG-p28又はICG単独のいずれかを0.5mg/kgでi.v.注射した。注射の24時間後、ICG-p28群(上段)及びICG単独群(下段)の腫瘍及び周囲の軟組織の代表的なエクスビボ画像をOdysseyスキャナで撮影した。画像中の点線は軟組織の外縁を示す。iRFP(赤色:700nm);ICG-p28又はICG(緑色:800nm);及び共局在化(黄色-橙色)。
【
図3C】ICG-p28と腫瘍マーカーiRPFとの共局在。各群[ICG-p28群(n=10)及びICG単独群(n=5)]における蛍光シグナルの一致率。**:P<0.01。結果を平均+SDとして示す。
【
図3D】ICG-p28と腫瘍マーカーiRPFとの共局在。NIR蛍光タンパク質iRFP(700nm)発現乳がん細胞。iRFP遺伝子を安定に発現するMDA-MB-231細胞(MDA-MB-231-iRFP)をピューロマイシンの存在下で選択し、iRFPからのNIR蛍光(700nmのグレースケール)をOdyssey(登録商標)スキャナで確認した。
【0017】
【
図4A】ヒト乳がん異種移植腫瘍モデルにおいて腫瘍切除中に行われた術中イメージングの概略図である。
【
図4B】試験終了時の腫瘍切除部位の代表的な画像である。
【
図4C】各群における再発性腫瘍の平均体積(腫瘍切除後4週間)をグラフで示す。結果を平均+SDとして示す。
【0018】
【
図5】
図5A~5Eは、ヒト乳がんPDXモデルの画像誘導手術である。TNBC PDX細胞を第4腹部脂肪パッドに接種した。NIR剤注射の24時間後(
図5A、ICG-p28、
図5B、ICG単独)、腫瘍をPDEイメージングユニットによる可視化下で切除した。白色光写真(左)及びスナップショットNIR PDE画像(右;背面図、800nmのグレースケール)を示す。黄色矢じり:腫瘍。
図5C、PDXを有するマウスのシグナル対ノイズ比をPDEユニットで記録し、定量的に分析した(1群あたりN=8)。***:P<0.001。結果を平均+SDとして示す。
図5D~5Eでは、TNBC PDX細胞を第4腹部脂肪パッドに接種した。NIR剤注射の24時間後(
図5D、ICG-RI p28、
図5E、ICG-AA3H)、PDEイメージングユニットによる誘導の下で腫瘍を切除した。白色光写真(左)及びスナップショットNIR PDE画像(右;背面図、800nmのグレースケール)を示す。黄色矢じり:腫瘍。
【0019】
【
図6A】PDX腫瘍を有するNSGマウスからの生検採取部位の概略図である。
【
図6B】薬剤間のhuAlu DNA及びmGAPDH DNAの標準量を用いて計算したlog(huAlu DNA/mGAPDH DNA)の値を示すボックスプロットである。*:P<0.05、**:P<0.005。結果を平均±SDとして示す。
【
図6C】外科的検体の組織学的分析を示す。H&E染色及びICG-p28群から得られた検体(上)における陰性マージンの存在を確認するための増殖マーカーKi-67の染色の代表的な画像(200倍)。ICG群から得られた検体(下)は、悪性細胞の存在を示す。
【
図6D】4週間後の各群の腫瘍体積のグラフである。
【
図6E】外科的検体の組織学的分析を示す。H&E染色及び増殖性マーカーKi-67の染色の代表的な画像(200倍)。
【0020】
【
図7A】
図6BのICG-p28群からの周囲組織中の残存腫瘍DNAの倍数増加を表す。
【
図7B】huAlu/mGAPDH値の分布の正常性試験。
【0021】
【
図8A】ICG-p28群からのH&E染色切片。腫瘍除去後の周囲の乳腺組織は異型過形成を示した(矢じり)。
【
図8B】ICG-p28群からのH&E染色切片。ICG-p28による画像誘導手術の4週間後に再発腫瘍切片を得た。倍率200倍(挿入
図40倍)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0023】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、この用語の単数又は複数のいずれかを含む。「単離された」、「精製された」又は「生物学的に純粋な」という用語は、その天然の状態で見られるような物質に通常付随する成分を実質的に又は本質的に含まない物質を指す。本明細書で使用される「異種DNA」、「異種核酸配列」又は「外因性」などの用語は、以下のうちの少なくとも1つが真である核酸配列を指す:(a)所与の宿主微生物に対して外来性の(すなわち、天然に見られない)核酸の配列;(b)配列が所与の宿主微生物において天然に見られ得るが、不自然な(例えば、予想よりも大きい)量である;又は(c)核酸の配列が、自然界で互いに同じ関係で見られない2つ以上の部分配列を含む。
【0024】
「ペプチド」及び「ポリペプチド」は、本明細書では互換的に使用され、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の鎖で構成される化合物を指す。ポリペプチドの「活性部分」は、完全長ポリペプチド未満であるが、測定可能な生物学的活性を保持し、生物学的検出を保持するペプチドを意味する。
【0025】
本明細書で使用される場合、「腫瘍」という用語は、良性であろうと悪性(がん性)であろうと、原発部位病変であろうと転移であろうと、任意の新生物成長、増殖又は細胞塊を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、哺乳動物の疾患又は症状の1つ又は複数の症候を軽減する(熟練医師によって判断して、ある程度)組成物の量を指す。さらに、組成物の「治療有効量」とは、疾患又は症状に関連するか又はその原因となる生理学的又は生化学的パラメータのいずれかが部分的又は完全に正常に戻る量を意味する。当業者は、静脈内、皮下、腹腔内、経口、又は吸入などによって投与される場合、特定の疾患症状又は障害を処置又は予防するために、組成物の治療有効量を決定することができる。治療上有効であるために必要とされる組成物の正確な量は、多くの患者特有の考慮事項に加えて、例えば、活性薬剤の比活性、使用される送達装置、薬剤の物理的特性、投与目的などの多くの要因に依存する。しかし、治療有効量の決定は、本明細書に記載の開示を理解した上で、当業者の技術の範囲内である。
【0027】
本明細書で使用される「処置する」、「処置すること」、及び「処置」などは、少なくとも1つの症候の軽減又は抑制による症状の改善、疾患の進行の遅延、疾患の発症の予防又は遅延などを含む、疾患のリスクがあるか又は疾患に罹患している患者に利益を提供する任意の作用を指す。処置はまた、正常細胞に対する最小限の破壊効果で望ましくない増殖細胞の部分的又は完全な破壊を含む。リスクのある対象は、がんを発症する平均より高いリスクを有すると決定された対象であり、これは、例えば、家族歴又はがんを発症する素因を引き起こす遺伝子の検出によって決定することができる。
【0028】
本明細書で使用される「対象」という用語は、サル及びヒトを含む霊長類、ウマ(例えば、馬)、イヌ(例えば、犬)、ネコ、様々な家畜(例えば、豚、ブタ、ヤギ、ヒツジなどの有蹄動物)、並びに飼い慣らされたペット及び動物園で飼育されている動物を含むがこれらに限定されない哺乳動物の種を指す。
【0029】
本明細書に記載の方法及び工程が特定の順序で生じる特定の事象を示す場合、当業者は、特定の工程の順序が変更され得ること及びそのような変更が本発明の変形例に従うことを認識するであろう。さらに、特定の工程は、可能であれば並列プロセスで同時に実行されてもよく、順次実行されてもよい。
【0030】
略語の意味は以下の通りである:使用法から明らかなように「C」は摂氏又は摂氏度を意味し、「s」は秒(複数可)を意味し、「min」は分(複数可)を意味し、「h」、「hr」又は「hrs」は時間(複数可)を意味し、「psi」は平方インチあたりのポンドを意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「d」は日数(複数可)を意味し、「μL」又は「uL」又は「ul」はマイクロリットル(複数可)を意味し、「mL」はミリリットル(複数可)を意味し、「L」はリットル(複数可)を意味し、「mm」はミリメートル(複数可)を意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「mM」はミリモルを意味し、「μM」又は「uM」はマイクロモルを意味し、「M」はモルを意味し、「mmol」はミリモル(複数可)を意味し、「μmol」又は「uMol」はマイクロモル(複数可)を意味し、「g」はグラム(複数可)を意味し、「μg」又は「ug」はマイクログラム(複数可)を意味し、「ng」はナノグラム(複数可)を意味し、「PCR」はポリメラーゼ連鎖反応を意味し、「kDa」はキロダルトンを意味し、「g」は重力定数を意味し、「bp」は塩基対(複数可)を意味し、「kbp」はキロベース対を意味し、「%w/v」は重量/体積パーセントを意味し、「%v/v」は体積/体積パーセントを意味し、「rpm」は毎分回転数を意味し、「HPLC」は高速液体クロマトグラフィーを意味し、「GC」はガスクロマトグラフィーを意味する。
【0031】
概要
イメージング剤又は薬物の腫瘍標的化送達は、がん治療における主要な課題の1つである。標的化送達はそのような薬剤の有用性を改善し得るので、小分子、抗体、タンパク質、及びペプチドを含む様々な送達ビヒクルが研究されてきた。ペプチドは、一般に、その高い複雑性のために小分子よりも特異的であり、製造が比較的安価である。特に、細胞透過性ペプチド(CPP)は、診断剤及び治療剤の送達及び細胞内取り込みを改善するための有望な薬剤であることが示されている。それらはまた、合成の実現可能性、誘導体化の柔軟性、低い免疫原性、及び物理化学的パラメータに関して、より大きな分子量の抗体を超える利点を有する。これらの特徴は、担体分子としてのCPPの開発が腫瘍標的化送達のための有望な戦略であることを示唆している。
【0032】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)アズリン及びその由来ペプチドp28は、優先的に様々ながん細胞に入り、p53媒介性の抗増殖効果を誘導する。単一の治療剤として、p28(NSC745104)を2つの第I相臨床試験で試験し、進行性固形腫瘍を有する患者並びに再発性及び難治性中枢神経系(CNS)腫瘍を有する小児患者(NCI及び小児脳腫瘍コンソーシアム)において明らかな有害作用、毒性又は免疫原性なしに実証された予備的有効性のために、FDA Orphan Drug及びRare Pediatric Diseaseの指定を付与した。したがって、p28は、がん細胞に優先的に浸透し、高度に水溶性であり、安定であり、臨床的にヒトにおいて有意な有害作用、毒性又は免疫原性を示さないので、腫瘍標的化担体として働くことができる潜在的に理想的なCPPである。ここで、本発明者らは、臨床的に非毒性のp28及びFDA承認ICGから構成される新しい非侵襲的NIRベースのプローブICG-p28を開発し、ICG-p28を用いた画像誘導手術がリアルタイム3D様式でマージンを明確に定義し、臨床的に関連する状況で適切な腫瘍切除をもたらすことを実証した。これらの知見は、BCSにおける改善された転帰を見込み、(全体的な手順/操作時間に関して)単純化された、より費用効果の高いプロトコルの開発を導くことができる。
【0033】
新しい光学イメージングプローブであるICG-p28は、インビトロでのその光物理的特性、腫瘍におけるその特異的取り込み、及び複数のヒト乳がんマウスモデルにおける腫瘍マージンを正確に同定する能力に関して特徴付けられた。ICG-p28による術中イメージングは、小さい(≦1mm)LN転移を特定することができた。ICG-p28を用いた画像誘導手術は、受容体発現状態とは無関係に、複数の乳がん動物モデルにおける陽性マージン同定及び腫瘍再発率を改善した。一般に、蛍光イメージングは、外科的手順中の腫瘍境界のリアルタイム評価に非常に有益な技術であり、蛍光色素の比較的低コスト、並びに非侵襲性薬剤が使用されるため患者及び医療チームの安全性など、いくつかの利点を提供する。さらに、コントラスト強調を伴う光学イメージングを使用して、外科的視野を変えることなく切除前に腫瘍を視覚化することができる。ICG-p28の優先的浸透により、腫瘍と周囲の正常組織との間の実質的なコントラストが複数の乳がん動物モデルにおいて達成された。
【0034】
「p28プローブ」は、検出可能に標識された任意のp28分子を指し得ることが理解される。好ましくは、p28は、緑膿菌(P.aeruginosa)から得られたアズリンのアミノ酸50~77にある配列番号5を含む。配列番号5を含むか、又はp28と少なくとも96%同一である任意のポリペプチドが、本明細書中に記載される方法におけるプローブとして使用可能であることが認識される。すなわち、p28の27個のアミノ酸のうちの単一のアミノ酸が、異なるアミノ酸での置換によって変化するならば、その新しい配列は、p28と96%同一であるであろう。同様に、単一のアミノ酸がp28配列に付加されると、p28と96%同一の配列が得られる。「p28プローブ」は、依然として「p28プローブ」という用語の範囲内に入るように、保存的アミノ酸置換又は非天然アミノ酸を含み得る。同様に、「p28プローブ」は、任意の検出可能に標識された物質で修飾され得ることが理解される。ただし、この場合、好ましくは、検出可能な標識は任意の近赤外標識である。
【0035】
いくつかの態様では、検出可能に標識されたp28プローブの組成物が本明細書に記載され、検出可能な標識は近赤外蛍光分子を含む。いくつかの態様では、近赤外蛍光分子はインドシアニングリーンである。
【0036】
いくつかの態様では、腫瘍マーカーを発現する細胞を検出する方法が本明細書に記載される。この方法は、細胞を検出可能に標識されたp28プローブに曝露し、イメージング技術を実施してプローブを検出する工程を含む。この方法は、プローブが腫瘍マーカーを発現する細胞に共局在し、したがって腫瘍マーカーを発現する細胞を検出するという点で有効である。いくつかの態様では、p28プローブの検出可能な標識は近赤外蛍光分子であり、いくつかの態様では、分子はインドシアニングリーンである。いくつかの態様では、プローブは、約0.2pM~約20μMの濃度で検出可能な蛍光シグナルを示す。
【0037】
いくつかの態様では、対象における腫瘍細胞を手術中に同定する方法が本明細書に記載される。対象は、腫瘍を有することが疑われ得るか、又は腫瘍を有すると診断された対象であり得る。この方法は、検出可能に標識されたp28プローブを対象に投与する工程と、対象から腫瘍細胞を除去するための手術を行う工程とを含み、この方法において、プローブは、腫瘍細胞に局在化される。外科的手順中、プローブによって標識された細胞を検出するためにリアルタイム画像を提供するイメージング技術が実行され、プローブによって標識されたこれらの細胞は細胞である。いくつかの態様では、p28プローブの検出可能な標識は近赤外蛍光分子であるか、又はインドシアニングリーンである。いくつかの態様では、プローブは、約50nM~約250nMの濃度で対象に投与される。いくつかの態様では、プローブは静脈内又は皮下に投与される。いくつかの態様では、プローブの投与とイメージング技術の実施との間の期間は、約24時間である。いくつかの態様では、リアルタイムイメージング技術は、手術手順中の腫瘍のマージンを描写する。いくつかの態様では、本方法は、乳がんを有すると診断された対象に対して行われる。いくつかの態様では、術中イメージング技術は、800nmの近赤外線(NIR)シグナルを検出するCCDカメラユニットを含む。いくつかの態様では、プローブは、約1mmのサイズの腫瘍に局在する。いくつかの態様では、対象は、手術手順中に追加のイメージング技術なしで腫瘍を除去する手術を受けた対象と比較した場合、腫瘍の外科的除去後の腫瘍の再発が減少していることが分かった。
【0038】
いくつかの態様では、本発明は、腫瘍を除去する手術を受けた対象に検出可能に標識されたp28プローブを投与し、プローブによって標識された細胞を検出するためのイメージング技術を対象に適用することによって、残存腫瘍細胞について対象を術後評価することを記載する。イメージング技術は、腫瘍マーカーを発現する細胞を陽性に同定し、したがって任意の残存腫瘍細胞を同定する。
【実施例】
【0039】
例1:インビトロでのICG-p28の特性評価:及びインビボでの動態
ICG-p28は、新しいNIR化合物であるので、本発明者らは、800nmのNIRシグナルを検出するCCDカメラユニットから構成されるFDA 510(k)認可のNIRシステムであるPDE neo(登録商標)イメージングユニットを用いて、その光化学的性質を特性評価した。このPDEシステム(小型制御ユニット及びLCDモニターと結合されたカメラ)は、他の生理学的システムの中でも、肝セグメント及び胆管を識別するためのICGを用いたNIRイメージングを含む臨床用途に使用されてきた。PDEユニットの利点は、外科医がカメラユニット(1.1 lb)を保持し、手術中に様々な角度からリアルタイムのNIR画像を容易に得ることを可能にするそのサイズ及び可搬性にある。最初に、本発明者らは、ICG-p28を検出する際のPDEユニットの感度を試験した。ICG-p28を5%イントラリピッドエマルジョンに入れ、これは組織の光散乱及び吸収特性を模倣すると報告されている。ICG-p28とICG単独の両方が、濃度依存的に0.2pM~20μMの範囲の濃度でほぼ同一の蛍光量子収率(ΦF)を示した。
【0040】
ここで
図1Eを参照すると、ゼラチン系乳房ファントムのNIRイメージング及びゼラチン系ファントムの作成の概略図が記載されている。アガロース中に200nMのICG-p28を含有するチューブ状封入体(腫瘍)を作製した。続いて、トリス緩衝液中10%溶融ゼラチンを170μMウシヘモグロビン及び1%(v/v)イントラリピッドエマルジョン(20%)と混合した。ゼラチン溶液を50mlチューブに注いだ。ICG-p28を含有するアガロース腫瘍刺激(stimulating)封入体を温ゼラチン系ファントムの中央に配置した。ファントムを4℃で一晩固化させた。固化したら、ファントムを50mlチューブから取り出し、平らな台の上に置いた。PDEカメラをファントムの上方にセットした(200mmの距離を全体にわたって維持した)。深さ検出限界を決定するために、封入体に達するまでファントムを一度に2mmの層にスライスした。すべての深さにおいて、画像をリアルタイムで撮影して強度を定量的に測定した。
【0041】
さらに
図1を参照すると、ICG-p28の特性評価が実証されている。
図1A、5%イントラリピッドエマルジョン中のICG-p28又はICGからのNIR蛍光を、3mW/cm
2の励起強度(N=3)でPDEユニットで記録した。イントラリピッド溶液は単独では蛍光を示さず、したがって対照としての役割を果たした。ICG-p28の蛍光量子収率(ΦF)は、ピコモル濃度~マイクロモル濃度でICGのものと同様であった。
図1B、MDA-MB-231腫瘍担持マウスにおけるシグナル対ノイズ比(800nmでのシグナル:腫瘍、ノイズ:周囲の正常組織、大腿筋)をPDEユニットで記録し、用量依存的様式で定量的に分析した。プレスキャンは、NIR剤の注射前に行った。***:P<0.001、*:P<0.05、n.s.:有意でない。
図1C、200nMのICG-p28を含有する異なるサイズ(1、2、3及び5mm)の腫瘍模擬封入体の特異的NIRシグナル(800nm)を測定した。
図1D、0~2cmの深さでファントムに挿入された200nMのICG-p28を含有する腫瘍模擬封入体の特定のNIRシグナル(800nm)を測定した。
図1D(i)、ファントムの側面図。
図1D(ii)、ファントムの上面図。赤色矢印:腫瘍模擬封入体の位置。PDEカメラ(3mW/cm
2の励起強度で画像を取り込んだ)とファントムとの間の距離は200mmに固定した。結果を平均+SDとして示す。
【0042】
ICGは、ICGと大きな分子量/複数のドメインを有するIgG分子(約150kDa)との間の相互作用のためにそのNIR蛍光を失うので、ICGにコンジュゲートされた抗体の使用は制限される。対照的に、ICGをp28にコンジュゲートさせた場合、おそらくp28のサイズ(2.9kDa、IgGのサイズの約1/50)に起因して、その蛍光を失わなかった。
【0043】
単一治療剤としてのp28の前臨床試験及び2つの第I相臨床試験の結果により、がん患者を処置するためのp28の治療用量が特定された。蛍光イメージング技術は各造影剤の濃度に依存するので、MDA-MB-231ヒト乳がん腫瘍を有するマウスにおけるICG-p28の最適用量範囲をPDEユニットで決定した。各マウスに、ICG-p28又はICG単独を0.2~1.0mg/kg(約50~250nM)でi.v.注射した。マウスを様々な時点(6~72時間)でイメージングし、腫瘍組織と正常組織(大腿)のNIRシグナル強度の比を計算した。腫瘍と周囲の正常組織との間の有意なコントラストが、0.2~1.0mg/kgのICG-p28の注射の24時間後に検出された(
図1B)。より高い用量のICG-p28(>1.0mg/kg)は、高いバックグラウンドシグナルのために、明確なコントラスト(「ウォッシュアウト」)を達成するのにより長い時間を必要としたので、腫瘍特異的シグナルは、臨床使用のための実用的な時間スケール(24時間)内で0.2~0.5mg/kgの濃度で最適であると決定された(
図1B)。対照的に、同じ用量でのICG単独は迅速に排泄され、NIR画像に従って腫瘍部位を識別することができなかった(腫瘍/正常組織比約1)(
図1B)。この結果は、p28の優先的な取り込みを示し、腫瘍部位でのより長い保持及び周囲組織に対する腫瘍の明確なコントラストのイメージングをもたらす。
【0044】
前述のように、組織測定のためのNIR波長での光学技術の使用は、自己蛍光の影響を回避し、比較的深い組織の測定を可能にすることができるので有利である。目的のサイズ及び深さの検出限界を決定するために、ICG-p28を含有する様々なサイズの腫瘍模擬封入体(
図1C)及び所定の位置にこれらの封入体を組み込んだファントム(
図1D)をPDEユニットで画像化した。最小の対物レンズ(1mm)でさえ、ナノモル濃度でのICG-p28のNIR蛍光イメージングは、NIR特異的シグナルを検出することができ(
図1C)、組織散乱特性を模倣するイントラリピッドエマルジョンにおいておよそ1センチメートルの深さで組織をプローブすることができた(
図1D)。
【0045】
これらのイメージング及び投薬パラメータに基づいて、本発明者らは、ヒト乳がんの2つの異なるサブタイプ:全ヒト乳がんのおよそ80%を占めるエストロゲン受容体(ER)陽性乳がん、及び全ヒト乳がんの10~15%を占め、一般にER陽性乳がんよりも悪い予後を示すトリプルネガティブ乳がん(TNBC;ER、プロゲステロン及びHer2受容体発現について陰性)を有する免疫不全マウスのリアルタイムPDEイメージングを行った。
【0046】
図2を参照すると、異種移植マウスモデルにおけるICG-p28を用いたリアルタイムイメージングが実証されている。MDA-MB-231(
図2A)又はIOWA-1T(
図2B)乳がん細胞をマウスにs.c.注射した。腫瘍(<10mm)が発生したら、0.5mg/kgのICG-p28をマウスにi.v.注射した。ICG-p28注射の24時間後、マウスを腫瘍除去中にPDEシステムで画像化した。白色光写真(上)及びスナップショットNIR PDE画像(下;背面図、800nmのグレースケール)を示す。肝臓(緑色の矢印)は、ICGの排泄から比較的高いシグナル強度を示した。赤色矢印:腫瘍。
図2Cは、原発腫瘍(上)及び表在臀筋に位置する坐骨LN(下;bの黄色の矢じり)のH&E染色切片であり、腫瘍陽性であることが確認された(倍率200倍(挿入
図40倍))。
【0047】
MDA-MB-231(TNBC)(
図2A)又はIOWA-1T(ER+、PR-、Her2-)ヒト乳がん細胞(
図2B)をs.c.異種移植した無胸腺マウスに、ICG-p28を0.5mg/kg(約125nmole/kg)でi.v.単回注射した。ICG-p28注射の24時間後、本発明者らは腫瘍によるICG-p28の優先的取り込み及び腫瘍と周囲組織との間の明確なコントラストを観察し(
図2A~B)、本発明者らのアプローチが受容体発現パターンとは無関係に広範なタイプの乳がんに適用できることを示唆した。特に、腫瘍切除中、術中NIRイメージングは、小さい(≦1mm)坐骨リンパ節(LN)における一定期間集中したICG-p28の優先的取り込みを明らかにした(
図2B)。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色切片は、LN内のがん細胞の存在を確認し(
図2C)、ICG-p28が乳房実質内の他のがん病巣を同定できることを示唆した。
【0048】
例2:MDA-MB-231-iRFP腫瘍担持モデルにおける腫瘍マージンのICG-p28に基づく評価
ICG-p28が腫瘍マージンを正確に描写できるかどうかを決定するために、本発明者らは、腫瘍マーカーとしてNIR蛍光タンパク質iRFPを安定に発現するMDA-MB-231-iRFP(TNBC)細胞株を作製した。これは、iRFPとICG-p28との間の蛍光のリアルタイム比較に従って腫瘍マージン検出の精度を評価するための優れた実験モデルを提供する。
【0049】
ここで
図3Aを参照すると、ICG-p28処理MDA-MB-231-iRFP細胞をパラホルムアルデヒド中で固定し、共焦点顕微鏡下で画像を取得した。赤色:腫瘍マーカーiRFP(700nm);緑色:ICG-p28(800nm);青色:DAPI(核);黄色:赤色+緑色。
図3Bにおいて、MDA-MB-231-iRFP腫瘍を有する無胸腺マウスに、ICG-p28又はICG単独のいずれかを0.5mg/kgでi.v.注射した。注射の24時間後、ICG-p28群(上段)及びICG単独群(下段)の腫瘍及び周囲の軟組織の代表的なエクスビボ画像をOdysseyスキャナで撮影した。画像中の点線は軟組織の外縁を示す。iRFP(赤色:700nm);ICG-p28又はICG(緑色:800nm);及び共局在化(黄色-橙色)。
図3Cは、各群[ICG-p28群(n=10)及びICG単独群(n=5)]における蛍光シグナルの一致率。**:P<0.01。結果を平均+SDとして示す。
【0050】
700nmチャネルは、800nm蛍光(したがってICG-p28からのシグナル)に影響を及ぼすことなく、がん細胞におけるiRFP特異的蛍光をモニターするために使用することができるので、インビボでこれらの細胞によって生成された腫瘍を検出するのに適している。MDA-MB-231-iRFP細胞の共焦点画像(
図3A)及びLI-COR Odyssey画像(
図3D)は、腫瘍マーカーiRFPの細胞内発現が腫瘍マージンの正確な決定を可能にすることを示した。MDA-MB-231-iRFP細胞を接種した無胸腺マウスに、0.5mg/kgのICG-p28又はICG単独をi.v.注射した。24時間後、異種移植された腫瘍及び周囲組織を除去した。
図3Bの点線は軟組織の外縁を示す。エクスビボ画像は、iRFP(赤色:700nm)及びICG-p28(緑色:800nm)からのNIRシグナル(マージ)の間の良好な重複を示した(
図3B)。さらに、
図1及び
図2に提示された結果と同様に、ICGのみが不良な腫瘍保持を示した(
図3B)。ICG-p28群及びICG単独群における700及び800nmのNIRシグナルの一致率は、それぞれ86%及び12%であった(
図3C)。これらの結果は、ICG-p28が腫瘍部位に優先的に局在し、p28コンジュゲーションに起因してICGの安定性を高めることができることを示している。
【0051】
例3:同所性異種移植片の術中イメージング
リアルタイム画像誘導手術が腫瘍再発を減少させることができるかどうかを評価するために、同所性MFP異種移植腫瘍モデルを使用した。
図4を参照すると、同所性異種移植モデルの術中イメージングが示されている。
図4Aは、ヒト乳がん異種移植腫瘍モデルにおいて腫瘍切除中に行われた術中イメージングの概略図である。ヒト乳がん細胞(MDA-MB-231又はIOWA-1T)を、乳首の基部へのs.c.注射によって第4腹部脂肪パッドに接種した。マウスが腫瘍を発症したとき、PBS、ICG-p28又はICGを0.5mg/kgの濃度で注射した。注射の24時間後、腫瘍をPDEイメージングユニットで可視化しながら切除した。例外はPBS群であり、その腫瘍は触診/直接視覚化でのみ同定された(イメージングのガイダンスなし)。腫瘍切除後、マウスをさらに4週間モニターして、腫瘍再発を検出した。
図4Bでは、試験終了時の腫瘍切除部位の代表的な画像である。
図4Cでは、各群における再発性腫瘍の平均体積(腫瘍切除後4週間)。結果を平均+SDとして示す。
【0052】
TNBC MDA-MB-231又はER陽性IOWA-1T腫瘍を有する無胸腺マウスをPBS、ICG単独又はICG-p28(0.5mg/kg、i.v.)で処置し、腫瘍切除手術中にPDEシステムでNIR蛍光をモニターし、2mmの安全マージンで腫瘍及び周囲組織を除去した。腫瘍除去中、ICG又はICG-p28の投与に関連する明らかな有害事象は観察されず、処置中に他の合併症はなかった。PBSで処置した対照マウスについては、触診と、蛍光イメージングなしの直接可視化のみをマージン決定のために使用した。腫瘍切除後、切除部位での残りの陽性マージンから生じる腫瘍再発を評価した(
図4A)。腫瘍切除後4週間で、PBS群のマウスの31.2%(5/16)及びICG単独群のマウスの25.0%(4/16)において手術部位で再発が観察された。対照的に、ICG-p28群の16匹のマウスのうちの1匹(6.3%)が、切除部位での腫瘍再発を示した。各群の手術部位の代表的な画像を示す(
図4B)。再発腫瘍の平均体積は、PBS、ICG-p28及びICG群でそれぞれ944、197、及び423mm3であった(
図4C)。まとめると、これらの所見は、腫瘍マージンの正確な同定を支援することによって、ICG-p28が腫瘍再発の発生率及び再発腫瘍の体積の両方を減少させることによって外科的転帰を改善したことを示している。
【0053】
例4:PDX腫瘍モデルにおける画像誘導腫瘍切除
【0054】
PDXモデルは、元のヒト腫瘍の生物学的特性を保存する際の明確な利点のために、がん研究において広く使用されている。ICG-p28誘導切除(
図4C)で処置した同所性異種移植モデルで観察された腫瘍再発の減少を考慮して、本発明者らはPDXモデル及び原発性TNBC断片(ステージIV)を利用して、より臨床的に関連するモデルにおいてICG-p28をさらに評価した。さらに、この結果がp28の特異的モチーフに起因するかどうかを調べるために、本発明者らは、ICGにコンジュゲートさせた追加の対照ペプチドを含めた。p28と同様に、AA3Hと呼ばれるアネキシン由来の非カチオン性CPPが以前に単離され、がん細胞に浸透することが示された。他のペプチドは、レトロインベルソp28(RI p28)であった。RI修飾は、配列の方向が逆であり、各アミノ酸残基のキラリティーが逆である親ペプチド(p28)の異性体を表すペプチド模倣体を作製するためのアプローチとしてしばしば使用される。
【0055】
使用時には、
図5に示すように、ヒト乳がんPDXモデルの画像誘導手術が行われる。TNBC PDX細胞を第4腹部脂肪パッドに接種した。NIR剤注射の24時間後(
図5A、ICG-p28、
図5B、ICG単独)、腫瘍をPDEイメージングユニットによる可視化下で切除した。白色光写真(左)及びスナップショットNIR PDE画像(右;背面図、800nmのグレースケール)を示す。黄色矢じり:腫瘍。
図5Cでは、PDXを有するマウスのシグナル対ノイズ比をPDEユニットで記録し、定量的に分析した(1群あたりN=8)。***:P<0.001。結果を平均+SDとして示す。
【0056】
麻酔下で、ICG-p28(
図5A)、ICG単独(
図5B)又は対照剤(PBS、ICG-RI-p28
図5D又はICG-AA3H;
図5E)を注射したマウスのPDEイメージングによるリアルタイムガイダンス下で、2mmの安全マージンで腫瘍及び周囲の乳腺組織を除去した。ICG-p28は、対照剤よりも有意に大きいコントラスト増強及びより容易に同定された腫瘍を提供した。これらの結果は、ICG-p28の腫瘍標的化能がp28の特異的モチーフに起因することを示す。
【0057】
例5:Aluシーケンシングによる腫瘍マージンにおける残存がん細胞の検出
【0058】
ここで
図6を参照すると、腫瘍マージンにおける残存がん細胞の検出が記載されている。
図6Aは、PDX腫瘍を有するNSGマウスからの生検採取部位の概略図を示す。
図6Bは、ゲノムDNAを各検体から抽出し、PCRアッセイに供したことを示す。ボックスプロットは、薬剤間のhuAlu DNA及びmGAPDH DNAの標準量を用いて計算したlog(huAlu DNA/mGAPDH DNA)の値を示す。*:P<0.05、**:P<0.005。結果を平均±SDとして示す。
図6Cには、外科的検体の組織学的分析が示される。H&E染色及びICG-p28群から得られた検体(上)における陰性マージンの存在を確認するための増殖マーカーKi-67の染色の代表的な画像(200倍)。ICG群から得られた検体(下)は、悪性細胞の存在を示す。
図6Dでは、外科的切除後4週間、各群の腫瘍体積を決定した。
図6Eは、H&E染色及び増殖性マーカーKi-67の染色の代表的な画像(200倍)を提供し、示された群から得られた検体における陽性マージンの存在を確認した。
【0059】
本発明者らのイメージングアプローチによるマージン同定の有効性を定量的に決定するために、PCRに基づくアッセイを使用して、上記のPDXモデルにおける残留ヒトがん細胞を検出した(
図5)。画像誘導手術中、PDEイメージングシステムの誘導下で、2mmの安全マージンで腫瘍及び周囲の乳腺組織を6時及び12時の位置においてリアルタイムで除去した(
図6A)。これらの試料を収集して、huAlu PCR並びに従来の組織学的分析を行った。huAlu及びハウスキーピング遺伝子mGAPDHを使用した定量分析では、ICG-p28を用いた画像誘導手術は、他の薬剤[ICG単独、ICG-AA3H、ICG-RI p28又はPBS:それぞれ-0.9、-1.9、-0.5及び-2.1]を用いた手術よりも周囲組織[log(huAlu DNA/mGAPDH DNA)=-5.2]において有意に少ない残存がん細胞を示した(
図6B、
図7)。
【0060】
具体的に
図7を参照すると、huAlu/mGAPDH値の正常性試験の結果が示されている。
図7Aでは、
図6Bに示すデータに基づいて、ICG-p28群からの周囲組織中の残存腫瘍DNAに対する倍数増加を計算した(#)。ICG-p28を用いた画像誘導手術は、対照剤を用いた手術と比較して、マージン部位での残存正規化腫瘍DNAの6.6x10
3倍の平均減少をもたらした。
図7Bでは、式Y=log(huAlu/mGAPDH)を使用して対数変換したhuAlu/mGAPDH値の分布の正規性を評価するために正規性試験を行った。QQプロットは線形関係を示し、変換されたデータを正規分布として合理的に扱うことができることを示している。
【0061】
この知見は、ICG-p28を用いた画像誘導手術が、対照を用いた手術と比較して、マージン部位での残存正規化腫瘍DNAの6.6x103倍の平均減少をもたらしたこと、及びICG-p28が他の薬剤よりも良好に腫瘍マージンを正確に区別したことを示した。変動係数(CV)はまた、ICG-p28が、表1に示される比較的小さな分散を示したので、術中プローブとして他のペプチド/薬剤よりも優れていることを示した。
【0062】
【表1】
平均に対する標準偏差によって定義される変動性を示す変動係数(CV)を計算した。対数正規データの場合、計算式は
【数1】
でありs
2はサンプル分散である。結果は、すべてのプローブの中で、ICG-p28及びAA3Hが良好なCV値(比較的小さな分散)を有したことを明確に示している。この知見は、新しい薬剤ICG-p28の安定性を強く支持する。
【0063】
本発明者らは次に、Alu PCRアッセイに使用した腫瘍マージン試料のセットに対してH&E及び増殖マーカーKi67染色を用いて従来の組織学的分析を行った。これらの試験の結果は、ICG-p28を用いた画像誘導手術が乳房組織の縁に明確な陰性マージンをもたらし得ることを明らかにした(
図6C)。ICG-p28群では、15個の乳腺組織試料のうちの1つが異型過形成を示したが、PBS、ICG単独、ICG-RI p28及びICG-AA3H群の陽性マージン率は、それぞれ19、19、31及び38%であった(
図6C、
図6E)。組織学的データは、Alu PCRアッセイから得られた結果を支持し、ICG-p28を用いた画像誘導手術が腫瘍マージンを正確に同定する能力を改善したことを示している。
【0064】
腫瘍再発率は陽性マージンの臨床的に有意な指標であるので、本発明者らはPDX腫瘍モデルにおける腫瘍再発率を決定した。画像誘導手術の4週間後、手術部位の腫瘍再発率は、PBS、ICG単独、ICG-RI p28及びICG-AA3H群でそれぞれ25.0%、50.0%、37.5%及び25.0%であった。ICG-p28群では、腫瘍切除中に異型過形成を有した8匹のマウスのうちの1匹が再発を示した(
図8)。再発腫瘍の平均体積は、PBS、ICG単独、ICG-p28、ICG-RI p28及びICG-AA3H群でそれぞれ2,151、1,952、403、1,152及び2,447mm
3であった(
図6D)。ICG-p28群における再発腫瘍の平均体積は、試験したすべての群の中で最小であった。ICG-p28は、低コントラストを提供し腫瘍を完全に除去することを困難にした対照剤(
図5C)よりも大きなコントラスト増強及びより容易に同定された腫瘍を提供した。これらの所見は、ICG-p28を用いた画像誘導手術が腫瘍マージンを正確に同定することができ、腫瘍再発の減少をもたらすことを示唆する。
【0065】
本発明者らは、腫瘍特異的シグナルが、臨床使用に実用的な時間スケール(24時間)内に0.2~0.5mg/kgのICG-p28濃度で最適であることを見出した。イメージング及び投薬パラメータでは、ICG-p28は、複数の乳がん動物モデルにおいて有意なコントラスト(TBR約4倍)を提供した。TBR>3.0倍は、画像誘導手術に関する研究において適切な術中コントラストを提供するのに十分であり、臨床的な変換の成功に不可欠であることが一般に認められている。対照的に、ICG単独は予想通り迅速に排泄され、腫瘍部位は関連するNIR画像上で区別できなかった(TBR約1.1)。この観察はまた、新しい化合物の優先的な取り込みがp28モチーフの存在によるものであり、腫瘍部位でのより長い保持及び腫瘍と周囲組織との間の正確なコントラストイメージングをもたらすことを確認した。RI p28の分子量、pI、電荷、疎水性及びアミノ酸組成はp28のものと全く同じであったが、RI p28の全体的な侵入は有意に減少し、優先的侵入を示さなかった(
図6)。この知見は、p28の優先的侵入がアミノ酸配列特異的/立体化学的特異的であることを示唆している。現在、神経膠腫及び肺がん、膵臓がん、結腸直腸がん、前立腺がん及び乳がんなどの種々のがんのために、様々なタイプのNIRイメージングプローブが使用されている。後者については、ベバシズマブ-IRDye800(血管内皮増殖因子A)、EC17蛍光色素(葉酸受容体アルファ)、カテプシン活性化可能蛍光剤LUM015(カテプシンプロテアーゼ)及びトズレリスチド(マトリックスメタロプロテアーゼ)などの一連の治験用蛍光剤が、画像誘導手術における使用について検証されている。しかしながら、これらのイメージング剤の大部分は、前臨床段階のNIR色素であり、それらの標的化送達のために抗体を使用する(例えば、抗Her2抗体)。比較すると、p28の使用にはいくつかの利点がある:i)抗体の使用とは異なり、p28のICGへの化学的コンジュゲーションはICG蛍光を変化させない(
図1)、ii)p28は受容体の状態とは無関係に広範囲の乳がんを標的化することができる(
図2、
図5、
図6)、及びiii)ICG-p28は、FDA承認NIR ICG色素を有する臨床的に非毒性の腫瘍標的化p28ペプチドで構成される。
【0066】
PDXモデルにおけるICG-p28による画像誘導手術は、8匹のマウスのうちの1匹において腫瘍再発をもたらした(
図6D)。しかしながら、Alu PCRアッセイ及び組織学的分析は、6時又は12時の位置のいずれかで得られたMFP検体中の残留腫瘍を明らかにしなかった。この表現型の発生には2つの理由が考えられる。1つの可能性は、がん細胞が組織学的分析によって捕捉されなかったことである。検体は、組織学及びAlu分析によって腫瘍陰性であると判定されたが、さもなければ見逃された少数の腫瘍細胞を含有していた可能性があり、サイズが1mm未満の微小浸潤性乳房腫瘍の可能性を示している。このサイズの病変は、顕微鏡なしでは見ることができず、腫瘍床で切除されていないままである。この場合、これらの微小病変を管理するために、追加のアプローチ(例えば、放射線又は化学療法などの他の治療アプローチと組み合わせたICG-p28による画像誘導手術)をさらに考慮する必要がある。別の可能性は、組織学的切片(
図8)に捕捉された異型過形成が4週間の観察期間中に乳がんに進行した可能性があることである。異型過形成はがんではないが、おそらくPDXモデルの特徴のために、浸潤性/非浸潤性乳がんに移行し得る。それにもかかわらず、ICG-p28群の1匹のマウスのみが腫瘍再発を示し、再発した腫瘍の体積が他の群のマウス由来の腫瘍の体積よりも小さかったことを考慮すると、ICG-p28誘導手術は、腫瘍マージンを正確に同定するのによく役立ち、腫瘍再発率を有意に低下させるようである。全体として、乳がんの複数のサブタイプにおけるICG-p28を用いた画像誘導手術(
図4、
図6)は、300mm
3の平均再発腫瘍体積をもたらしたのに対して、ICG単独又は術中イメージングなし(PBS)の手術は、それぞれ1,188mm
3(P=0.017)及び1,289mm
3(P=0.032)の平均再発腫瘍体積をもたらした。また、ICG-p28群の腫瘍再発率は8%(特異度92%、N=2/24)であったのに対し、ICG群及びPBS群の腫瘍再発率はそれぞれ33%(N=8/24)及び29%(N=7/24)であった。複数の乳がん動物モデルにおけるこれらの結果は、ICG-p28が、明確なマージンの特定を通じて腫瘍再発の発生率及び再発腫瘍の体積の両方を減少させることによって外科的転帰を改善したことを示唆している。したがって、ICG-p28の汎用性は、受容体発現状態とは無関係に広範な種類の乳がんの再発及び再手術のリスクを潜在的に低減し、健康な組織への損傷及び医療費を最小限に抑え、術後の生活の質を改善し、患者の生存率を高めることができる。
【0067】
MRI、X線、CT、PET及び超音波などの多くのイメージングモダリティは、術前の病期分類及び術中計画においてかなりの役割を果たすが、蛍光イメージングは、その優れた解像度及び感度のために術中の外科的検査及び実務中に使用することができる。腫瘍マージンの正確な同定は、乳がん並びに多くの他のタイプの固形腫瘍の効果的な外科的処置の主な目的である。不十分な陽性マージン同定は、肺及び腎臓腫瘍の切除の約5%、乳がん、前立腺がん及び直腸がんの切除の約20%、並びに外陰がん及び口腔がんの切除の最大40~60%で頻繁に起こる。本発明者らのリアルタイム術中イメージングアプローチは、多くのタイプの固形腫瘍の外科的処置の転帰(例えば、罹患率、生活の質及び費用)に良い影響を与える可能性がある。
【0068】
方法
ペプチド合成及びICGコンジュゲーション
【0069】
ペプチド、p28、レトロインベルソp28(RI p28)及びAA3H 22は、CS Bio,Inc.によって95%超の純度及び質量バランスで合成された。ペプチドをPBS緩衝液にpH7で溶解し、無水DMSO中のICG-マレイミドと暗所で室温にて3時間反応させた。反応物をPBSに対して4℃で24時間透析し(M.W.2,000カットオフ、Pierce)、Sephadex G-25(GE Healthcare)での濾過によって精製した。HPLC及びMALDI質量分析によって最終生成物を同定した。
【0070】
ICG-p28特性評価
PDE neo(登録商標)(Photodynamic Eye;Mitaka USA,UT)は、800nmのNIRシグナルを検出する電荷結合素子(CCD)カメラユニットから構成される、FDA 510(k)認可のNIRカメラである。一般に、PDEユニット(小型制御ユニットに接続されたカメラ及びLCDモニター)は、肝セグメント及び胆管を識別するためのICGを用いたNIRイメージング臨床用途に使用されてきた。組織の光散乱及び吸収特性を模倣すると報告されている20%イントラリピッドエマルジョン(Sigma;St.Louis,MO)中のICG及びICG-p28をPDEカメラユニットによって記録した。様々な濃度のICG-p28(0.2pM~20μM)及びICGを3mW/cm2の励起でモニターした。
【0071】
乳房組織模倣ファントムの構築
【0072】
組織測定のためのNIR波長での光学技術は、自己蛍光の影響を回避し、比較的深い組織の測定を可能にすることができるので有利である。深さ検出限界を決定するために、ICG-p28を含有する腫瘍模擬封入体を所定の位置で組織ファントムに組み込み、PDEユニットで画像化した。
図1Eに示すように、組織ファントムを作製するための以前に公開された手順に修正を加えた。簡単に説明すると、10%ゼラチン粉末(Spectrum;New Brunswick,NJ)を、pH7.4の150mM NaClを含有する50mM Tris緩衝液に溶解した。ゼラチンを50℃で撹拌することによって溶解し、続いて37℃に冷却した。次いで、ウシヘモグロビン及びイントラリピッド(20%;Sigma)を添加した。NIR蛍光シグナルの最大透過深さを決定するために、200nMのICG-p28を含有する封入体をファントム組織に配置した。続いて、ファントム組織を封入体に向かって一度に2mmの層に切除した。すべての深度において、術中PDE neoシステムを用いてリアルタイムイメージングを行った。PDEカメラとファントムとの間の距離は200mmに固定した。PDE neoシステムを用いて取得した画像の強度を定量的に評価した。平均±SD値を計算した。
【0073】
細胞培養
ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231及びIOWA-1Tは、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から入手した。MDA-MB-231-iRFP細胞を確立し、本発明者らの研究室で特性評価した。MDA-MB-231細胞を、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を含むpiRFPプラスミドでトランスフェクトした。iRFP遺伝子を安定に発現するトランスフェクタントを、0.5μg/mlのピューロマイシンの存在下で選択した。それらを、5% CO2を含む加湿インキュベーター中、37℃で、10%熱不活性化ウシ胎児血清を補充したMEME培地で培養した。トリプルネガティブ乳がん細胞(TM00090)の単世代患者由来異種移植片(PDX)細胞をJackson Laboratoryから入手した。
【0074】
動物モデル
すべての動物実験は、University of Illinois at Chicagoによって承認されたプロトコルの下で実施した。腫瘍モデルは、1.0x106個のMDA-MB-231、IOWA-1T又はMDA-MB-231-iRFP細胞を、4~5週齢の雌性アチミックマウス(Jackson Laboratory)の右背部(動態分析)及び乳腺脂肪パッド(MFP;定性的マージン分析)に皮下(s.c.)移植することにより確立した。追加の定量的マージン分析のために、4~5週齢の雌NOD/Scid/IL2Rγnull(NSG)マウス(Jackson Laboratory)のMFPにトリプルネガティブPDX細胞(ステージIV)を移植することによって腫瘍モデルを確立した。
【0075】
ICG-p28のインビボ動態分析
MDA-MB-231細胞を4~5週齢の雌性無胸腺マウスにs.c.注射した。ICG-p28又はICG単独を、0.2、0.5又は1mg/kg-b.w.で静脈内(i.v.)注射した(尾静脈)。動物を、Odysseyスキャナ(LI-COR Biosciences)を用いてi.v.投与の6~72時間後に画像化した。腫瘍バックグラウンド比(TBR)は、ImageJソフトウェア(National Institutes of Health)を使用して決定し、関心領域(ROI)を腫瘍全体にわたって描画し、バックグラウンドROIを隣接組織にわたって描画した。ROIを各腫瘍の周囲に手動で生成した(800nmチャネル)。
【0076】
腫瘍マージン評価
MDA-MB-231-iRFP細胞(0.1ml PBS中1.0×106細胞)をマウスの右背部にs.c.接種した。マウスが腫瘍(約200mm3)を発症したら、マウスにICG-p28又はICGを0.5mg/kg-b.w.でi.v.注射した。注射の24時間後、腫瘍及び周囲組織を切除した。検体を、iRFPについては700nmチャネル及びICG-p28又はICGのみについては800nmチャネルを有するOdysseyスキャナを用いてエクスビボで画像化した。ImageJを用いて面積測定を行った。平均+SD値を計算した。
【0077】
腫瘍マージン決定及び腫瘍再発追跡のためのICG-p28の定量的評価
NSGマウスが同様のサイズ(200~300mm3)のPDX腫瘍を発症したら、マウスを無作為に5つの群:ICG-p28、ICG単独、ICG-AA3Hペプチド、ICG-RI p28及びPBSに分けた。各薬剤は、ICG-p28 0.5mg/kg-b.w.相当の対応する化合物をi.v.(尾静脈)注射した。注射の24時間後、すべての外科的手順を滅菌条件下で開始した。麻酔投与後、PDEイメージングシステムを使用して、外科的手順全体を通してNIR蛍光をモニターした。PDEイメージングシステムの誘導下で、2mmの安全マージンで腫瘍及び周囲の乳腺組織を6時及び12時の位置においてリアルタイムで除去した。PBS群については、視覚的及び触覚的キューを介して同定された悪性組織を白色光照射下で切除したが、ICG、ICG-p28、ICG-AA3H及びICG-RI p28群では、コントラスト増強を示す組織のみを切除した。蛍光シグナルの画像を隣接モニターに表示し、すべてのICG陽性組織病巣(腫瘍組織として疑われる)を切除した。腫瘍切除後、皮膚切開部をナイロン縫合糸を用いて閉じ、マウスをケージに戻した。腫瘍切除後、マウスをそれらのケージにさらに4週間維持し、腫瘍の再発をモニターした。腫瘍再発を手術領域の触診によってモニターした。手術の4週間後、マウスを評価して、切除部位に残りの陽性マージンのために腫瘍のいずれかが再発したかどうかを判定した。
【0078】
Aluシーケンシングによる腫瘍マージンにおける残存がん細胞の検出
マージンから収集した試料に対して、ヒト特異的Alu配列(huAlu)を用いた定量分析を行った。AluリピートDNA配列はヒト細胞に特異的であるため、huAlusの存在を検出することにより、マウスに移植されたヒト由来腫瘍を同定することができる。本発明者らは、以前に公開された方法に従って、切除された腫瘍及び周囲のマージン組織におけるhuAluの定量的検出を標準化した。5つの群(ICG-p28、ICG単独、ICG-AA3H、ICG-RI p28、及びPBS;各群8匹のマウス)のヒト腫瘍細胞を、マウスに存在するhuAluの定量的検出に基づいて同定した。DNeasy Blood&Tissueキット(Qiagen)を用いて、採取した組織からゲノムDNAを抽出した。マウス組織中のヒト細胞を同定するために、huAluに特異的なプライマー(センス:5’-ACG CCT GTA ATC CCA GCA CTT-3’(配列番号1);及びアンチセンス:5’-TCG CCC AGG CTG GAG TGC A-3’(配列番号2)を使用して、抽出されたゲノムDNAに存在するhuAluリピートをリアルタイムPCR(5ngのゲノムDNA、0.5μMの各プライマー、及びPowerUp SYBR Green Master Mix;Life Technologies,USA)によって増幅した。各反応は、以下の条件下で10μlの最終容量で実施した:50℃で2分間及び95℃で2分間のポリメラーゼ活性化、続いて95℃で30秒間、63℃で30秒間及び72℃で30秒間の30サイクル。増幅可能なマウスDNAの定量的測定は、マウスGAPDHゲノムDNA配列(mGAPDH)を、huAluについて記載したのと同じPCR条件を用いてmGAPDH特異的プライマー(センス:5’-AGG TCG GTG TGA ACG GAT TTG-3’(配列番号3)アンチセンス:5’-GGG GTC GTT GAT GGC AAC A-3’(配列番号4)で増幅することによって得た。レポーター色素によって放出された蛍光を検出し、閾値サイクル(Ct)を、各試料中のPCR産物の量の定量的測定として記録した。マージン中のhuAlu DNA及びmGAPDH DNAの量を標準曲線との比較によって計算し、計算したhuAlu DNAの量をmGAPDHの相対量に対して正規化した。平均±SD値を計算した。
【0079】
組織学的分析
切除組織を、緩衝3.7%ホルマリン(Anatech)を予め充填した容器に入れ、24時間固定した。固定後、ホルマリンを70%エタノールで置き換えた。試料をパラフィン包埋し、ブロックを厚さ4μmの切片に切断し、スライド上にマウントした。H&E-及びKi-67染色スライドを、実験群及び外科的切除結果を盲検化した病理学者が分析した。病理学者は、腫瘍の存在、マージンの状態、及び切除組織の一般的な特徴を決定する役割を担った。
【0080】
統計分析
データ処理及び統計分析は、GraphPad Prism ver.8(GraphPad Software)及びRバージョン4.0.5(The R Foundation for Statistical Computing)を用いて行った。再発腫瘍体積データ及びAlu配列については、それぞれフリードマンの検定及びF検定を使用した。
【0081】
本発明の好ましい実施形態を本明細書に示し説明してきたが、そのような実施形態が例としてのみ提供されることは当業者には明らかであろう。本発明から逸脱することなく、当業者には多数の変形、変更、及び置換が思い浮かぶであろう。本明細書に記載の本発明の実施形態に対する様々な代替形態が、本発明を実施する際に使用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造並びにそれらの均等物がそれによって包含されることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】