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特表2024-545633高純度N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】高純度N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 303/38 20060101AFI20241203BHJP
   C07C 311/09 20060101ALI20241203BHJP
   C07D 295/26 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C07C303/38
C07C311/09
C07D295/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533951
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 IB2022061835
(87)【国際公開番号】W WO2023105411
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】63/286,642
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521500812
【氏名又は名称】エスイーエス ホールディングス ピーティーイー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SES Holdings Pte. Ltd.
【住所又は居所原語表記】1 Robinson Road,18-00 AIA Tower,Singapore,Singapore 048542
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】ラージェーンドラ ピー. シン
(72)【発明者】
【氏名】ホン ガン
(72)【発明者】
【氏名】チーチャオ フー
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB91
4H006AC61
4H006AD16
4H006BB70
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC19
4H006BC31
4H006BC35
4H006BD10
(57)【要約】
【解決手段】 式R-S(O)-NR(I)のN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物を製造するための製造方法。式中、Rは炭素数1から12の完全または部分的にフッ素化されたアルキル基を表し、RおよびRは炭素数1から12の直鎖状または分枝状または環状のアルキル基、アルケン基またはアルキン基を表し、R=RまたはR≠Rである。一実施形態において、反応は、式X-S(O)-R(II)(式中、Xは、F、Cl、BrまたはIを表す。)のパーフルオロアルキルスルホニルハライドを、式Iの目的のN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物を生成するのに十分な条件下で式HNRのジアルキルアミンと接触させることにより進行する。一実施形態において、上記反応は、式Iの溶媒を使用して実施される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R-SO-NR(式I)(式中、Rはパーフルオロアルキルであり、各RおよびRは独立してアルキルであり、そしてR=RまたはR≠Rである)のN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物を製造する方法であって、
式Iの外部反応溶媒の存在下、式X-S(O)-R(式中、Xはハライドである)のパーフルオロアルキルスルホニルハライドを、式IのN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物を生成するのに十分な条件下で、式HNRのジアルキルアミンと接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記接触が、前記式Iでない溶媒の存在なしに行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物の収率が少なくとも約90%である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物の収率が少なくとも約95%である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物の収率が少なくとも約99%である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記外部反応溶媒を添加して、反応物:溶媒の重量比を、約1:0.5から約1:2の範囲内にすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応物:溶媒の重量比が約1:1から約1:2の範囲内である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応物:溶媒の重量比が約1:1である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記パーフルオロアルキルスルホニルハライドを前記ジアルキルアミンと接触させる前に、前記パーフルオロアルキルスルホニルハライドと、前記外部反応溶媒の第1の部分との溶液を調製すること、および、前記ジアルキルアミンと、前記外部反応溶媒の第2の部分との溶液を調製することをさらに含み、前記接触させることが前記パーフルオロアルキルスルホニルハライド溶液と前記ジアルキルアミン溶液を混合することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記パーフルオロアルキルスルホニルハライド溶液および前記ジアルキルアミン溶液のそれぞれが、約1:0.5から約1:2の範囲内の反応物:溶媒の重量比を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記パーフルオロアルキルスルホニルハライド溶液および前記ジアルキルアミン溶液のそれぞれが、約1:1から約1:2の範囲内の反応物:溶媒の重量比を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記パーフルオロアルキルスルホニルハライド溶液および前記ジアルキルアミン溶液のそれぞれが、約1:1の反応物:溶媒重量比を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記接触による副生成物がジアルキルアミンハロゲン化水素を含み、前記方法が前記ジアルキルアミンハロゲン化水素の少なくとも一部を除去することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ジアルキルアミンハロゲン化水素の少なくとも一部を除去することが、脱イオン水による少なくとも1回の洗浄を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物、前記ジアルキルアミンハロゲン化水素および前記脱イオン水を含む洗浄溶液を分離させる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記洗浄溶液の下層を抽出し、抽出された下層を酸溶液で洗浄することにより、酸洗浄された下層溶液を生成することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記酸溶液がHCl溶液である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記酸洗浄した下層溶液を脱イオン水で洗浄し、次いで、前記脱イオン水を除去して最終的な前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物を得ることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ジアルキルアミンハロゲン化水素がジアルキルアミン塩化水素を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記接触が標準大気圧程度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記外部反応溶媒、前記パーフルオロアルキルスルホニルハライド、および前記ジアルキルアミンを反応混合物とし、前記方法が、前記反応混合物を約1時間から約25時間の範囲内の時間混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
反応混合物を約-20℃より低い第1の温度で約1時間から約6時間の第1の時間の範囲内で混合し、次いで、前記反応混合物を約0℃より高い第2の温度で約4時間から約20時間の第2の時間の範囲内で混合することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の温度が室温程度である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドがN,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドを含み、パーフルオロアルキルスルホニルハライドがトリフルオロメタンスルホニルクロリドを含み、そして、ジアルキルアミンがジメチルアミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドがN,N-ジエチルトリフルオロメタンスルホンアミドを含み、パーフルオロアルキルスルホニルハライドがトリフルオロメタンスルホニルクロリドを含み、そして、ジアルキルアミンがジエチルアミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドがN,N-ジメチルペンタフルオロエタンスルホンアミドを含み、パーフルオロアルキルスルホニルハライドがペンタフルオロエタンスルホニルクロリドを含み、そして、ジアルキルアミンがジメチルアミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドがモルホリノ-N-トリフルオロメタンスルホンアミドを含み、パーフルオロアルキルスルホニルハライドがトリフルオロメタンスルホニルクロリドを含み、そして、ジアルキルアミンがモルホリンを含む、請求項1に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年12月7日に出願された「Process For Producing High-purity N, N-Dialkyl Perfluoroalkyl Sulfonamide」という名称の米国仮特許出願第63/286,642号の優先権の利益を主張するものであり、この仮特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般的にN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドに関し、特に、高純度N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
化学化合物にフッ素を組み込むと、融点を低下させたり、熱安定性を高めたり、不燃性を付与するなど、化合物の物理的特性および化学的特性を著しく変化させる場合がある。このため、フッ素含有化合物の中には、より広い電気化学的安定性窓を有し、電池および電気二重層キャパシタ(EDLCs)などの電気化学的エネルギー貯蔵デバイスにおいて有用なものがある。
【0004】
現在、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミド(CFSONMe)は、合成するのが困難であるため、高純度で大量に市販されていない。
【0005】
トリフルオロメタンスルホニルフルオリド(CFSOF)とジメチルアミン((CHNH)とを四塩化炭素(CCl)中で還流させることによりCFSONMeを合成することが報告されている。しかし、四塩化炭素は発癌性があり、使用が禁止されている。また、CFSOFは非常に毒性が強く、生成されるHF副生成物も腐食性が高い(Lit. Anorganische Chemie, Organische Chemie, Biochemie, Biophysik, Biologie(1970),25(3),252-4)。
【0006】
CFSONMeの合成は、CFSOFと(CHNHとを用いた閉鎖系(オートクレーブ)で行われることが報告されている。その生成物は、エーテルで抽出することにより単離されていた。しかし、この反応では、CFSOFを使用するため非常に費用が掛かり、CFSOFは毒性も高い。また、副生成物のHFは腐食性が高く、ガラス反応器中では反応を実施できない。また、エーテルは過酸化物を生成するため、最適な溶媒ではない。
【0007】
他のCFSONMeの合成方法(Chem 5, 2019, 10, 2630-26410)では、溶媒としてジクロロメタンを用いて、テトラヒドロフラン(THF)中の2M ジメチルアミンを、HCl捕捉剤としてのトリエチルアミンを含有するCFSOClと反応させていた。なお、その反応温度は-78℃であった。この場合も、ジクロロメタンは腐食性を有し、最終生成物は二重蒸留によって単離されており、また、報告されているその沸点は、高純度CFSONMeの沸点と一致していなかった。
【0008】
CFSONMeの合成は、CFSONHとCHIとをTHF中において炭酸リチウムの存在下、40℃で還流反応させることにより行われることが報告されている(仏国特許第806 383号;独国特許第667 544号;米国特許第2,130,038号)。この反応では、複数回の蒸留を経て黄色の生成物が得られていたが、その収率は低かった。
【0009】
CFSONMeは、ジクロロメタン中、-78℃でCFSOClと過剰のジメチルアミンとを反応させることによっても調製されている(Journal of Fluorine Chemistry(2010),131(7),761-766)。しかし、その収率は80%未満であった。文献で報告されている通常の処理を行った後、最終生成物には微量のアミンとジクロロメタンが含まれていることが確認された。これらの不純物により、得られたCFSONMeは、リチウム金属電池用の溶媒として使用するには不適切なものとなっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、より実施しやすく、よりコストの低い高純度CFSONMe製造方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態において、本開示は、式R-SO-NR(式I)(式中、Rはパーフルオロアルキルであり、各RおよびRは独立してアルキルであり、そしてR=RまたはR≠Rである)のN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物を製造する方法である。この方法は、式Iの外部反応溶媒の存在下、式X-S(O)-R(式中、Xはハライドである)のパーフルオロアルキルスルホニルハライドを、式IのN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド生成物を生成するのに十分な条件下で、式HNRのジアルキルアミンと接触させる工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、式Iの化合物を製造するのに十分な条件下で、式IIの少なくとも1つのパーフルオロアルキルスルホニルハライドと、式IIIの少なくとも1つのジアルキルアミン(例えば、R=R=メチルである場合、ジメチルアミン)とを接触させることにより、式IのN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドおよびその誘導体を製造する方法を提供する。なお、式中、Rはパーフルオロアルキルであり、RおよびRのそれぞれは、独立して、アルキルであり、R=RまたはR≠Rであり、そして、Xはハライドである。
【0013】
【化1】
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
いくつかの実施形態において、この反応では、目的の反応生成物と同じ反応溶媒を使用する。すなわち、反応溶媒は、上記式Iの化合物であり、収率は非常に高い。溶媒を使用せずに上記反応を行った場合は、その反応は非常に激しく進行する。したがって、反応物を希釈するために溶媒が必要となる。上記の背景技術の欄で述べたように、文献に記載の合成方法では、THFまたはジクロロメタンが使用されているが、これらの溶媒は最終生成物中に残留してしまう。その結果、反応生成物は、厳しい精製を必要とし、収率を低下させる。上記反応の目的の生成物、すなわち、式Iの化合物を希釈溶媒として使用する場合、溶媒が目的の生成物と同じ化合物であるため、目的の生成物中に不要な汚染溶媒が混入することが回避される。
【0017】
式Iの化合物が反応溶媒として、例えば、唯一の反応溶媒として使用される場合、他の溶媒から不純物が混入することが回避され、電池電解質用途に好適な高純度生成物がもたらされる。式Iの化合物が反応溶媒として存在するいくつかの実施形態において、化合物は外部反応溶媒として反応に添加される。いくつかの実施形態において、式Iの最初の外部反応溶媒は、公知の文献(例えば、Journal of Fluorine Chemistry(2010),131(7),761-766)の合成を使用して調製され、次いで、大規模な精製を行ってもよい。いくつかの実施形態において、式Iの新規溶媒が本開示の製造方法を使用して調製されると、新規溶媒の少なくとも一部を次の合成において使用することができる。
【0018】
定義
【0019】
「アルキル」とは、1から12個、通常は1から6個の炭素原子を有する飽和直鎖状一価炭化水素部分、または、3から12個、通常は3から6個の炭素原子を有する飽和分岐状一価炭化水素部分を指す。アルキル基は、アルコキシド(すなわち、-OR、ここで、Rはアルキルである)、および/または、所与の反応条件下で保護されているかもしくは非反応性である他の官能基(複数でも可)で置換されていてもよい。
【0020】
「ハロ」、「ハロゲン」および「ハライド」という用語は、本明細書において互換的に使用され、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを意味する。
【0021】
本明細書で使用される「任意に置換された」という用語は、所与の反応条件下で、官能基が、非反応性である1つ以上の置換基で任意に置換されていることを意味する。
【0022】
化学反応を説明する場合における「処理する」、「接触させる」、および「反応させる」という用語は、互換的に使用され、示唆されたおよび/または目的の生成物を生成するために適切な条件下で2つ以上の試薬を添加または混合することをいう。示唆されたおよび/または目的の生成物を生成する反応は、最初に添加された2つの試薬の組み合わせから直接生じるとは限らない、すなわち、示唆されたおよび/または目的の生成物の形成に最終的につながる、混合物中で生成される1つ以上の中間体が存在する可能性があることを理解されたい。
【0023】
対応する数値と共に使用される場合の「約」という用語は、その数値の±20%、通常はその数値の±10%、多くの場合はその数値の±5%、最も多くの場合はその数値の±2%を指す。いくつかの実施形態における「約」という用語は、実際の数値を正確に示すものとして解釈してもよい。
【0024】
一般論
【0025】
上記の背景技術の欄で述べたように、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドは、電池(例えば、リチウム金属電池)およびキャパシタ(例えば、EDLCs)などの電気化学デバイス用の電解質中の溶媒としてなど、様々な用途において有用である。本開示は、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドおよびその誘導体、より一般的には、N,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドの合成に関する。一例として、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドは、加水分解に対して安定であり、リチウム金属電池においてフッ化リチウム(LiF)固体電解質界面(SEI)層を形成する能力を有する。その合成に適したフッ素化化学物質が限られているため、現在、大規模な商業的な生産方法は存在しない。
【0026】
いくつかの実施形態において、本開示は、目的の生成物(ここでは、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミド生成物)と同じ外部溶媒を使用して、N,N-ジメチルアミンおよび少なくとも1つのトリフルオロメタンスルホニルハライドを使用して、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドを合成することに関する。しかしながら、上述したように、本開示の製造方法は、少なくとも1種の式IIのパーフルオロアルキルスルホニルハライドを少なくとも1種の式IIIのジアルキルアミンと接触させることによって、式IのN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミドの合成に一般化することができる。
【0027】
上述のように、いくつかの実施形態において、合成に使用される唯一の外部溶媒、または、「反応溶媒」は、目的の生成物と同じ化合物である。これらの実施形態では、反応物および反応生成物以外に、他の有機溶媒または材料は使用されず、したがって、最終生成物中に有機不純物が混入する要因を効果的に排除する。いくつかの実施形態において、開示された化学反応は、液体の反応物を含み、液体の目的の生成物および固体の副生成物としてのジメチルアミン塩酸塩を生成する。
【0028】
反応混合物中に存在するハライドが塩素である本具体例では、反応により、塩化水素(HCl)も生成される。例えば、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドを製造したい場合、CFSOClをジメチルアミンと反応させる工程には、反応中に生成されるHClを除去する工程も含まれている。通常は、HClの沸点は生成物の沸点より低い。したがって、HClは、簡易な蒸留または蒸発によって除去することができる。一般に、濃縮温度を調節することによって、HClを反応混合物から蒸留により除去しながら、所望の生成物を選択的に濃縮させることができる。また、HClが液体として捕捉されるのに十分に低い温度下で、得られた蒸気を別の凝縮器に通すことによって、HClを捕捉することもできる。あるいは、HClは、塩基と接触させることによって中和することもできる。
【0029】
本発明者らは、常圧(例えば、標準大気圧)条件で反応を行うことにより、CFSOClとジメチルアミンを用いてN,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドを高収率で製造できることを見出した。反応中に生成されるジメチルアミン塩酸塩(CClN)としてHClを沈殿させることにより、ルシャトリエの原理に従ってN,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドの収率がさらに増加する。
【0030】
通常、反応温度は、少なくとも-78℃、多くの場合は、少なくとも-40℃、より多くの場合は、少なくとも0℃である。本発明者らは、特定の反応条件下、例えば、大気圧、-50℃で約4時間、次いで、室温(約20℃)で約12時間、CFSOClを過剰のジメチルアミンと反応させると、少なくとも85%の収率で、通常は少なくとも90%の収率で、多くの場合は、少なくとも95%の収率で、より多くの場合は、少なくとも99%の収率でN,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドが形成されることを見出した。
【0031】
いくつかの実施形態において、反応条件は、標準大気圧などの大気圧を含む。いくつかの実施形態において、反応は、CFSOClとジメチルアミンとを連続的に供給する連続攪拌槽反応器中で実施される。いくつかの実施形態において、ジメチルアミン塩酸塩副生成物は、生成物溶媒に不溶性であり、直ちに沈殿することが見出された。これにより、平衡が右にシフトし(例えば、以下の実施例の反応式を参照)、反応を完了させることができ、公知の合成反応とは対照的にほぼ定量的な収率が得られた。
【0032】
いくつかの実施形態では、パーフルオロアルキルスルホニルハライド及びジアルキルアミンのそれぞれを外部反応溶媒、例えば、上記式Iの外部反応溶媒と混合して、対応するパーフルオロアルキルスルホニルハライド及びジアルキルアミン溶液を形成する。いくつかの実施形態において、これらの溶液のそれぞれにおける反応物:溶媒の重量比は、約1:0.5から約1:2の範囲内、または、その中の任意の部分範囲である。いくつかの実施形態では、反応物:溶媒の重量比が約1:1である場合に良好な結果をもたらすようである。
【0033】
いくつかの実施形態において、ジアルキルアミン溶液をパーフルオロアルキルスルホニルハライド溶液に添加して混合物を形成し、次いで、これを撹拌して、パーフルオロアルキルスルホニルハライドとジアルキルアミンとの間の十分な接触を促進させてもよい。いくつかの実施形態において、混合物の温度は、第1の期間、低温(例えば、約0℃以下、約-20℃以下、約-40℃以下、または、約-78℃から約0℃)に維持されてもよい。第1の期間の後、混合物の温度を上昇させ、少なくとも1つのより高い温度(例えば、0℃より高い温度、約5℃以上の温度、約10℃以上の温度、約20℃以上の温度、または標準室温)で第2の期間保持してもよい。いくつかの実施形態において、第1の期間は約1時間から約6時間の範囲内の時間であってもよく、第2の期間は約4時間から約20時間の範囲内の時間であってもよい。
【0034】
いくつかの実施形態において、反応の副生成物は、ハロゲン化水素(X)(例えば、HCl)およびジいくつかのアルキルアミンを含有する塩である。いくつかの実施形態において(例えば、副生成物がジアルキルアミン塩酸塩である場合)、塩副生成物を濾過して濾過溶液が得られる。濾過された溶液は、例えば、純粋な脱イオン(DI)水で洗浄されて、残存する塩副生成物などの不要な水溶性不純物を除去することができる。DI水を使用する場合、過剰のDI水を溶液に加え、十分に撹拌する。得られた溶液を、例えば、分液漏斗に入れ、2層に分離させる。下層を抽出し、いくつかの実施形態では、HCl溶液(例えば、1M HCl溶液)などの酸溶液で洗浄して、塩基を含まないようにする。洗浄された下層溶液は、ジアルキルアミン塩酸塩のような水溶性不純物を除去するために純粋なDI水で再度洗浄され、(例えば、無水硫酸ナトリウム上で)乾燥され、濾過させてもよい。得られた濾過生成物を減圧蒸留して、上記式Iの所望の最終生成物を得てもよい。
【0035】
当業者であれば容易に理解できるように、また、上述したように、上記式IのN,N-ジアルキルパーフルオロアルキルスルホンアミド組成物を、または、本開示の誘導体を、同じ組成の外部反応溶媒を用いて合成することにより、多くの重要な利点が得られる。これらの利点には、典型的な従来の合成工程よりも高い収率で所望の生成物を製造すると同時に、より少ない処理工程でより高純度の所望の生成物を製造することが含まれる。収率が高くなるのは、外部反応溶媒の組成が所望の生成物と同一である場合、他の外部溶媒、すなわち、最終生成物と異なる組成の溶媒を除去する必要がないためである。目的の生成物と同一でない溶媒が使用される場合、精製工程は、より大がかりになり、追加される精製工程は、通常、汚染物質とともに目的の生成物の一部を除去する。前述のように、外部反応溶媒が目的の生成物と異なる場合、より広範な精製を行う必要がある。これは、明らかに処理工程数を少なくすることにつながり、処理コストと処理時間を削減する。
【0036】
本開示の実施形態のさらなる目的、利点、および新規な特徴は、以下の実施例を検討することにより当業者に明らかになる。なお、以下の実施例は、限定的なものではなく、参考となるものである。以下の実施例において、実施するために建設的に実施に還元される手順は現在時制で記載され、実験室で実施された手順は、過去時制で記載されている。
【0037】
実施例
【実施例1】
【0038】
N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドの合成
【0039】
アルゴン雰囲気下、冷却凝縮器および滴下漏斗を備えた乾燥済みの2Lの3つ口フラスコに、ジメチルアミン(266g、5.91モル)を-50℃で凝縮し、先の合成から得られた300gの無水N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドと混合した。トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CFSOCl)(400g、2.37モル)を滴下漏斗に取り、先の合成から得られた無水N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミド200gと混合した。冷水を循環させることによって、滴下漏斗の温度を約10℃に維持した。3つ口フラスコの温度は、例えば、イソプロパノールと液体窒素との混合浴を用いて-50℃に維持した。ジメチルアミン溶液を、撹拌しながらCFSOCl溶液に添加した。反応温度を-50℃±5℃に維持した。ジメチルアミン溶液の添加が完了した後、反応混合物を-50℃で1時間撹拌し、混合浴を約3時間で室温まで温めた。室温で反応混合物を一晩撹拌しながら反応を続けた(合計反応時間16時間)。不溶性副生成物としてジメチルアミン塩酸塩の生成が認められたため、これを濾過により除去した。得られた溶液を過剰の脱イオン(DI)水で処理し、十分に撹拌した後、分液漏斗に注いだ。2層が形成され、目的の生成物は下層にあった。下層の反応生成物の一部を1M HCl溶液で数回洗浄し、塩基を除去した。この反応の生成物は、最初に添加した外部反応溶媒(すなわち、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミド)と同じであったので、これを純粋なDI水で洗浄して、ジメチルアミン塩酸塩副生成物などの水溶性不純物を除去した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した。それを減圧下で蒸留して、無色透明の液体を得た。収率は95%であり、沸点は、42℃/12mmであり、H NMRスペクトルはδ3.07(s,6H)であり、19F NMRスペクトルはδ-75.0(s,3F)であった。以下の[化4]は、実施例1の反応を表す式である。
【0040】
【化4】
【実施例2】
【0041】
N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドの合成
【0042】
アルゴン雰囲気下、冷却凝縮器および滴下漏斗を備えた乾燥済みの2Lの3つ口フラスコに、ジメチルアミン(110g、2.44モル)を-45℃で凝縮し、先の合成から得られた300gの無水N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミドと混合し、続いてトリエチルアミン(246g、2.44モル)を添加した。トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CFSOCl)(400g、2.37モル)を滴下漏斗に取り、先の合成から得られた無水N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミド200gと混合した。冷水を循環させることによって、滴下漏斗の温度を約10℃に維持した。3つ口フラスコの温度を、例えば、イソプロパノールと液体窒素の混合物の浴を用いて-45℃に維持した。ジメチルアミン溶液を、撹拌しながらCFSOCl溶液に添加した。反応温度は-45℃±5℃に維持した。トリフルオロメタンスルホニルクロリド溶液の添加が完了した後、反応混合物を-45℃で1時間撹拌し、混合浴を約3時間で室温まで温めた。反応混合物を撹拌しながら室温で一晩反応を続けた(合計反応時間16時間)。不溶性副生成物としてジメチルアミン塩酸塩の生成が認められたので、これを濾過により除去した。得られた溶液を過剰のDI水で処理し、十分に撹拌した後、分液漏斗に注いだ。2層が形成され、目的の生成物は下層にあった。下層の反応生成物の一部を1M HCl溶液で数回洗浄し、塩基を除去した。この反応生成物は、最初に添加した外部反応溶媒(すなわち、N,N-ジメチルトリフルオロメタンスルホンアミド)と同じであったので、これを純粋なDI水で洗浄して、ジメチルアミン塩酸塩副生成物などの水溶性不純物を除去し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した。それを減圧下で蒸留して、無色透明の液体を得た。収率は95%であり、沸点は42℃/12mmであり、1H NMRスペクトルはδ3.07(s,6H)であり、19F NMRスペクトルはδ-75.0(s,3F)であった。以下の[化5]は、実施例2の反応を表す式である。
【0043】
【化5】
【実施例3】
【0044】
N,N-ジエチルトリフルオロメタンスルホンアミドの合成
【0045】
アルゴン雰囲気下、冷却凝縮器および滴下漏斗を備えた乾燥済みの2Lの3つ口フラスコにジエチルアミン(292g、4モル)を-50℃で凝縮し、先の合成から得られた200gの無水N,N-ジエチルトリフルオロメタンスルホンアミドと混合した。トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CFSOCl)(269g、1.6モル)を滴下漏斗に入れ、先の合成から得られた無水N,N-ジエチルトリフルオロメタンスルホンアミド100gと混合した。冷水を循環させることによって、滴下漏斗の温度を約10℃に維持した。イソプロパノールと液体窒素の混合浴を使用して、3つ口フラスコの温度を-50℃に維持した。ジエチルアミン溶液を、撹拌しながらCFSOClに添加した。反応温度を-50℃±5℃に維持した。ジエチルアミン溶液の添加が完了した後、反応混合物を-50℃で1時間撹拌し、混合浴を約3時間で室温まで温めた。反応混合物を撹拌しながら室温で一晩反応を続けた(合計反応時間16時間)。不溶性副生成物としてジエチルアミン塩酸塩の生成が認められたため、これを濾過により除去した。得られた溶液を過剰のDI水で処理し、十分に撹拌した後、分液漏斗に注いだ。2層が形成され、目的の生成物は下層にあった。下層の反応生成物の一部を1M HCl溶液で数回洗浄し、塩基を除去した。この反応生成物は、最初に添加した外部反応溶媒(すなわち、N,N-ジエチルトリフルオロメタンスルホンアミド)と同じであったので、これを純粋なDI水で洗浄して、水溶性の不純物を除去し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した。それを減圧下で蒸留して、無色透明の液体を得た。収率は92%であり、H NMRスペクトルはδ3.45(q,4H),1.25(t,6H)であり、19F NMRスペクトルはδ-77.0(s,3F)であった。以下の[化6]は、実施例3の反応を表す式である。
【0046】
【化6】
【実施例4】
【0047】
N,N-ジメチルペンタフルオロエタンスルホンアミドの合成
【0048】
アルゴン雰囲気下、冷却凝縮器および滴下漏斗を備えた乾燥済みの2Lの3つ口フラスコに、ジメチルアミン(133g、2.95モル)を-50℃で凝縮させ、先の合成から得られた150gの無水N,N-ジメチルペンタフルオロエタンスルホンアミドと混合した。ペンタフルオロエタンスルホニルクロリド(257.8g、1.18モル)を滴下漏斗に取り、先の合成から得られた無水N,N-ジメチルペンタフルオロエタンスルホンアミド100gと混合した。冷水を循環させることによって、滴下漏斗の温度を約10℃に維持した。イソプロパノールと液体窒素の混合浴を使用して、3つ口フラスコの温度を-50℃に維持した。ジメチルアミン溶液を、撹拌しながらCFCFSOCl溶液に添加した。反応温度は-50℃±5℃に維持した。ジメチルアミン溶液の添加が完了した後、反応混合物を-50Cで1時間撹拌し、混合浴を約3時間で室温まで温めた。反応混合物を撹拌しながら室温で一晩反応を続けた(合計反応時間16時間)。不溶性副生成物としてジメチルアミン塩酸塩の生成が認められたので、これを濾過により除去した。得られた溶液を過剰のDI水で処理し、十分に撹拌した後、分液漏斗に注いだ。2層が形成され、目的の生成物は下層にあった。下層の反応生成物の一部を1M HCl溶液で数回洗浄し、塩基を除去した。この反応生成物は、最初に添加した外部反応溶媒(すなわち、N,N-ジメチルペンタフルオロエタンスルホンアミド)と同じであったので、これを純粋なDI水で洗浄して、水溶性不純物を除去し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した。それを減圧下で蒸留して、無色透明の液体を得た。収率は90%であった。以下の[化7]は、実施例4の反応を表す式である。
【0049】
【化7】
【実施例5】
【0050】
モルホリノ-N-トリフルオロメタンスルホンアミドの合成
【0051】
アルゴン雰囲気下、冷却凝縮器および滴下漏斗を備えた乾燥済みの2Lの3つ口フラスコにモルホリン(217.7g、2.5モル)を-50℃で凝縮し、先の合成から得られた100gの無水モルホリノ-N-トリフルオロメタンスルホンアミドと混合した。トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CFSOCl)(168.5g、1モル)を滴下漏斗に取り、先の合成から得られた100gの無水モルホリノ-N-トリフルオロメタンスルホンアミドと混合した。冷水を循環させることによって、滴下漏斗の温度を約10℃に維持した。イソプロパノール/ドライアイスまたは液体窒素の混合浴を使用して、3つ口フラスコの温度を-50℃に維持した。モルホリン溶液をCFSOClに撹拌しながら添加した。反応温度は-50℃±5℃に維持した。モルホリン溶液の添加が完了した後、反応混合物を-50℃で1時間撹拌し、混合浴を約3時間で室温に温めた。反応混合物を撹拌しながら室温で一晩反応を続けた(合計反応時間16時間)。不溶性副生成物としてモルホリニウム塩酸塩の生成が認められたので、これを濾過により除去した。得られた溶液を過剰のDI水で処理し、十分に撹拌した後、分液漏斗に注いだ。2層が形成され、目的の生成物は下層にあった。下層の反応生成物の一部を1M HCl溶液で数回洗浄し、塩基を除去した。この反応生成物は、最初に添加した外部反応溶媒(すなわち、モルホリノ N-トリフルオロメタンスルホンアミド)と同じであったので、これを純粋なDI水で洗浄して、水溶性不純物を除去し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した。それを減圧下で蒸留して、無色透明の液体を得た。収率は95%であり、H NMRスペクトルはδ3.75(t,4H)、3.51(t,4H)であり、19F NMRスペクトルはδ-75.5(s,3F)であった。以下の[化8]は、実施例5の反応を表す式である。
【0052】
【化8】
【0053】
本開示の精神および範囲から逸脱することなく、様々な修正および追加を行うことができる。上述の様々な実施形態のそれぞれの特徴は、関連する新たな実施形態における多数の特徴の組み合わせを提供するために、必要に応じて、他の記載された実施形態の特徴と組み合わされてもよい。さらに、上記は、多数の別個の実施形態および実施例を説明したが、本明細書に説明したことは、本開示の原理の適用を単に例示するものに過ぎない。さらに、本明細書における特定の方法は、特定の順序で実行されるものとして図示および/または説明されることがあるが、その順序は、本開示の態様を達成するために、当業者の有する知識の範囲内で適宜変更してよい。したがって、本明細書は、例示としてのみ解釈されることを意図しており、本開示の範囲を限定することを意図していない。
【0054】
例示的な実施形態を、上記に開示し、添付図面に示した。本開示の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に具体的に開示されたものに対して様々な変更、省略および追加がなされ得ることは、当業者によって理解されるであろう。

【国際調査報告】