(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ラクトバチルス・パラカゼイNK112、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を含む、認知機能障害と腸管機能障害の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20241203BHJP
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A61K 36/39 20060101ALI20241203BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241203BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241203BHJP
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A61P 25/22 20060101ALI20241203BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241203BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20241203BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20241203BHJP
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A23K 10/30 20160101ALI20241203BHJP
A23K 10/18 20160101ALI20241203BHJP
【FI】
C12N1/20 E ZNA
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A61P1/10
A61P1/12
A61P1/14
A23K10/30
A23K10/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534250
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 KR2021018529
(87)【国際公開番号】W WO2023106444
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0173108
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524215834
【氏名又は名称】エムテラ・ファーマ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミ・ウォン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ギュ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】シンヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】サン・チョル・パク
(72)【発明者】
【氏名】ドン・ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ヨウ・キム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ミン・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ミョン・ソク・オ
(72)【発明者】
【氏名】イン・ギョン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】チュン・ファン・イ
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B065
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AB10
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2B150BD06
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(57)【要約】
本発明は、認知機能障害と腸管機能障害の予防または治療効果を有する新規なラクトバチルス・パラカゼイNK112(Lactobacillus paracasei NK112)菌株に関する。また、本発明は、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を含む、認知機能障害と腸管機能障害の予防、治療または改善用組成物に関する。本発明の前記菌株及び組成物は、脳由来神経栄養因子(BDNF)及び神経成長因子(NGF)の発現亢進、腸炎の改善などに効果を示すので、認知機能障害と腸管機能障害の予防または治療に有効に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託番号KCCM12566Pで寄託された、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株。
【請求項2】
認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療効果を有することを特徴とする、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株。
【請求項3】
認知機能障害が、アルツハイマー病、統合失調症、パーキンソン病、ハンチントン病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、うつ病、不安症、脳卒中、脳虚血症、脳炎、健忘症、外傷性脳損傷、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、脳電症、てんかん、海馬硬化症、脳老衰症、認知症、前頭側頭葉変性症、正常圧水頭症、記憶喪失、及び学習障害からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株。
【請求項4】
腸管機能障害が、炎症性腸疾患、腸蠕動障害、腸閉塞、結腸無力症、過敏性大腸症、消化不良、腹部膨満、下痢、及び便秘からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株。
【請求項5】
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ(Cuscuta australis R.Br.)抽出物、及びネナシカズラ(Cuscuta japonica Choisy)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療用薬学組成物。
【請求項6】
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を含むことを特徴とする、請求項5に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療用薬学組成物。
【請求項7】
マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を1~6:1:0.1~1の重量比で含むことを特徴とする、請求項6に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療用薬学組成物。
【請求項8】
マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を2~4:1:0.3~0.7の重量比で含むことを特徴とする、請求項6に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療用薬学組成物。
【請求項9】
脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)の発現を促進することを特徴とする、請求項5に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療用薬学組成物。
【請求項10】
神経成長因子(nerve growth factor;NGF)の発現を促進することを特徴とする、請求項5に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療用薬学組成物。
【請求項11】
前記認知機能障害が、アルツハイマー病、統合失調症、パーキンソン病、ハンチントン病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、うつ病、不安症、脳卒中、脳虚血症、脳炎、健忘症、外傷性脳損傷、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、脳電症、てんかん、海馬硬化症、脳老衰症、認知症、前頭側頭葉変性症、正常圧水頭症、記憶喪失、及び学習障害からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項5に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療用薬学組成物。
【請求項12】
前記腸管機能障害が、炎症性腸疾患、腸蠕動障害、腸閉塞、結腸無力症、過敏性大腸症、消化不良、腹部膨満、下痢、及び便秘からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療用薬学組成物。
【請求項13】
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、認知機能障害または腸管機能障害の予防または改善用食品組成物。
【請求項14】
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を含むことを特徴とする、請求項13に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または改善用食品組成物。
【請求項15】
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、認知機能障害または腸管機能障害の予防または改善用動物用飼料組成物。
【請求項16】
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を含むことを特徴とする、請求項15に記載の認知機能障害または腸管機能障害の予防または改善用動物用飼料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なラクトバチルス・パラカゼイNK112(Lactobacillus paracasei NK112)菌株に関する。
【0002】
また、本発明は、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を含む、認知機能障害と腸管機能障害の予防、治療または改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
人類が段々豊かな社会に発展していくにつれ、生活習慣が急速に欧米化し、肉や脂肪を中心とした食生活の欧米化、不規則な食事、過度な飲酒、運動不足、過度のストレス、有害環境への暴露などによる大腸炎などの腸疾患、腸内細菌群集の乱れなどの病気が増加している。これらの腸疾患と腸内細菌群集の不均衡の増加により、認知症、パーキンソン病、うつ病、不安症などの認知機能障害の急速な増加をもたらす。
【0004】
認知症などの脳変性疾患とは、神経変性(neurodegeneration)により徐々に記憶力や思考力が低下し、日常生活に支障をきたすレベルに達する疾患を指す。高齢化社会の到来に伴い、医療、経済、社会的負担の主な原因の一つとして浮上しており、2015年の時点で、世界中で約4,700万人の患者がおり、60歳以上の人口におけるこれらの病気の有病率は約7%と推定されている(The global prevalence of dementia: a systematic review and metaanalyisis, Alzheimers Dement, 2013, 63-75)。
【0005】
認知症以外にも、高血圧や運動不足など、現代生活にありがちな病気や症状によって認知機能障害が起こる場合がある。特に、近年、あらゆる年齢層に患者数が急増しているうつ病は、認知機能障害との相関が最も高いことが知られている。よって、健康的な日常生活を送るための手段として、認知機能障害を改善し、神経細胞を保護するための方法を開発する必要がある。
【0006】
認知機能障害など、長期にわたり薬を服用しながら継続的に管理しなければならない疾患の場合、副作用を軽減することは重要な課題の一つである。例えば、韓国で認知症の治療に一般的に使用されているドネペジルは、筋肉痛や食欲不振などの他に、重篤な場合には幻覚や腹部障害などの副作用を引き起こす可能性があり、新たな認知症治療剤の開発が急務となっている。よって、認知機能障害に関連する疾患において、合成医薬品よりも副作用の少ない天然医薬品の開発は、患者にとって大きな助けとなる。
【0007】
マメダオシ(Cuscuta australis R.Br.)とネナシカズラ(Cuscuta japonica Choisy)は、ヒルガオ科(Convolvulaceae)に属する一年草のつる植物であり、兔絲子または金絲草とも呼ばれる。マメダオシの熟した種子を乾燥させたものは、陽気と陰気を補い(補陽益陰)、精の漏れを防ぎ、尿を調節し(固精縮尿)、目を明るくする(明目)ために用いられる。マメダオシの成分には、ケルセチン(quercetin)、ケンフェロール(kaempferol)、イソラムネチン(isorhamnetin)、コーヒー酸(caffeic acid)、チミジン(thymidine)、セサミン(sesamin)、タラキサンチン(taraxanthin)などが報告されている( A Review on Phytoconstituents and Biological activities of Cuscuta species. Biomed Pharmacother. 2017 Aug; 92:772-795)。ネナシカズラの成分には、樹脂配糖体、糖類、ステロール(sterol)類と、トリテルペノイド(triterpenoid)、ジベレリン(gibberellin)、アルカロイド(alkaloid)、強心配糖体(cardiac glycoside)、ステロイド系サポニン(steroid saponin)などが挙げられる。
【0008】
一方、体内には多くの細菌が生息しており、その数は正常な細胞の数よりも多い。これらの細菌は、腸の健康を助ける有益な細菌と、健康を害する有害な細菌に分けられる。我らの体は、ラクトバチルス(Lactobacillus)やビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)などの有益な細菌が優勢菌として消化管に生息しているとき、健康を維持できる(非特許文献3)。一方、脳疾患が生じると、腸内細菌叢に大腸菌(Escherichia coli)やプロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)などの有害な微生物が増加し、それによって腸管細胞内でα-シヌクレイン(α-synuclein)が過剰発現し、NF-κB(nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)の活性化により、パーキンソン病とアルツハイマー病の進行を促進することが知られている(Oral administration of Proteus mirabilis damages dopaminergic neurons and motor functions in mice. Scientific reports, 2018, 8(1), 1275)。
【0009】
腸内微生物環境を改善し、宿主の健康に有益な影響を及ぼす生きた微生物を総じてプロバイオティクス(probiotics)という。乳酸菌は、体内に摂取されると消化器系に共存し、繊維質や複合タンパク質を分解することにより、重要な栄養素となるため、プロバイオティクスとして利用される。乳酸菌は、腸内細菌叢を維持及び改善し、抗糖尿病効果があり、大腸炎を抑制し、免疫システムを改善することが報告されている(非特許文献5)。このように様々な生理活性作用を有する乳酸菌を開発し、それを医薬品や保健機能食品の素材として応用する研究が盛んに行われているが(特許文献1など)、認知機能障害などの慢性疾患の治療剤として開発された例はない。
【0010】
そこで、本発明者らは、認知機能障害と腸管機能障害の予防及び治療方法を開発するために研究を続けた結果、新規な乳酸菌であるラクトバチルス・パラカゼイNK112(Lactobacillus paracasei NK112)、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を用いたとき、優れた認知機能及び整腸の効果を確認し、本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、認知機能障害と腸管機能障害の予防または治療効果を有する新規なラクトバチルス・パラカゼイNK112(Lactobacillus paracasei NK112)菌株を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を含む、認知機能障害と腸管機能障害の予防、治療または改善用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、寄託番号KCCM12566Pで寄託された新規なラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株(Lactobacillus paracasei NK112)を提供する。
【0014】
一実施形態において、前記ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株は、認知機能障害または腸管機能障害の予防または治療効果を有する。
【0015】
また、本発明は、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ(Cuscuta australis R.Br.)抽出物、及びネナシカズラ(Cuscuta japonica Choisy)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、認知機能障害または腸管機能障害の予防、治療または改善用組成物を提供する。
【0016】
前記組成物は、薬学組成物、食品組成物または動物飼料組成物であってもよい。
一実施形態において、前記組成物は、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ抽出物、及びネナシカズラ抽出物を含んでもよい。
【0017】
一実施形態において、前記組成物は、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を0.3~30:1:0.05~5の重量比、1~6:1:0.1~1の重量比、または2~4:1:0.3~7の重量比で含んでもよく、好ましくは、3:1:0.5の重量比で含んでもよい。
【0018】
一実施形態において、前記組成物は、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)の発現を促進してもよい。
【0019】
一実施形態において、前記組成物は、神経成長因子(nerve growth factor;NGF)の発現を促進してもよい。
【0020】
一実施形態において、前記組成物は、マメダオシとネナシカズラの混合物の抽出物であってもよい。
【0021】
一実施形態において、前記抽出物は、水(蒸留水)、C1~C6のアルコール、酢酸エチル、アセトン、及びそれらの混合溶媒からなる群から選択される溶媒で抽出されたものであってもよく、好ましくは、蒸留水で抽出されたものであってもよい。
【0022】
一実施形態において、前記抽出物は、マメダオシ及びネナシカズラの重量に対して10~50倍の溶媒で抽出したものであってもよく、好ましくは、20~30倍の溶媒で抽出したものであってもよい。
【0023】
一実施形態において、前記抽出物は、マメダオシ及びネナシカズラを還流抽出または超音波抽出したものであってもよく、好ましくは、還流抽出したものであってもよい。
【0024】
一実施形態において、前記抽出物は、マメダオシ及びネナシカズラの原物(全形生薬)または粉末(粉末生薬)を抽出したものであってもよく、好ましくは、マメダオシ及びネナシカズラの粉末を抽出したものであってもよい。
【0025】
一実施形態において、前記ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株は、ラクトバチルス・パラカゼイNK112の死菌体、細胞壁画分、または細胞質画分であってもよい。
【0026】
一実施形態において、本発明の認知機能障害は、アルツハイマー病、統合失調症、パーキンソン病、ハンチントン病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、うつ病、不安症、脳卒中、脳虚血症、脳炎、健忘症、外傷性脳損傷、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、脳電症、てんかん、海馬硬化症、脳老衰症、認知症、前頭側頭葉変性症、正常圧水頭症、記憶喪失、及び学習障害からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0027】
一実施形態において、本発明の腸管機能障害は、炎症性腸疾患、腸蠕動障害、腸閉塞、結腸無力症、過敏性大腸症、消化不良、腹部膨満、下痢、及び便秘からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、前記菌株とマメダオシ抽出物及びネナシカズラ抽出物を含む組成物は、脳由来神経栄養因子(BDNF)及び神経成長因子(NGF)の発現亢進、腸炎の改善などに効果を示すので、認知機能障害と腸管機能障害の予防または治療に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】NK112菌株をマウスに投与した場合のY字型迷路試験におけるマウスの自発的変化行動比率を示す図である。
【
図1B】NK112菌株をマウスに投与した場合の受動回避試験における恐怖記憶による明るい部屋滞留時間を示す図である。
【
図2A】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物で処理したときの神経成長因子(NGF)の産生量を示す図である。
【
図2B】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物で処理したときの神経成長因子(NGF)の産生量を示す図である。
【
図3】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物で処理したときの神経細胞の生存率を示す図である。
【
図4A】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときのY字型迷路試験におけるマウスの自発的変化行動比率を示す図である。
【
図4B】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの新物質探索試験における認知指標を示す図である。
【
図4C】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの受動的回避行動試験における恐怖記憶による明るい部屋滞留時間を示す図である。
【
図5A】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの海馬の脳回転部位観察写真である。
【
図5B】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときのシナプスタンパク質量を示す図である。
【
図6A】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの海馬の歯状回細胞の観察写真である。
【
図6B】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの神経芽細胞の数を示す図である。
【
図6C】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの神経突起の長さを示す図である。
【
図7A】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの腸の長さ及び炎症指数の変化を示す図である。
【
図7B】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの腸の長さ及び炎症指数の変化を示す図である。
【
図7C】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの腸の長さ及び炎症指数の変化を示す図である。
【
図7D】マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112菌株の混合組成物でマウスを処理したときの腸の長さ及び炎症指数の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本願の実施形態及び実施例について詳しく説明する。しかしながら、本願は、様々な形態で実施され得るので、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0031】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0032】
本発明は、新規な乳酸菌であるラクトバチルス・パラカゼイNK112(Lactobacillus paracasei NK112)菌株に関する。
【0033】
また、本発明は、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株、マメダオシ(Cuscuta australis R.Br.)抽出物、及びネナシカズラ(Cuscuta japonica Choisy)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、認知機能障害または腸管機能障害の予防、治療または改善用組成物に関する。
【0034】
前記組成物は、脳由来神経栄養因子(BDNF)及び神経成長因子(NGF)の発現を促す効果がある。神経成長因子(NGF)は、TrkA(Tropomyosin receptor kinase A)受容体に結合してTrkAをpTrkAとして活性化し、神経成長因子(NGF)とpTrkA複合体は、細胞体に移動して神経再生効果に影響を与える。さらに、細胞周期、神経突起成長、及びシナプス可塑性の調節において重要な役割を果たすcAMP応答配列結合タンパク質(cAMP-response element binding protein;CREB)を活性化する。脳由来神経栄養因子(BDNF)は、神経成長促進因子の一つであり、神経伝達物質の調節や神経可塑性に重要な役割を果たすことが知られている。よって、神経成長因子や脳由来神経栄養因子の発現が増加するということは、神経の再生効果を有することを意味する。
【0035】
本発明の抽出物は、以下のステップを含む製造方法によって製造してもよいが、これらに限定されるものではない。
1)マメダオシ及びネナシカズラに抽出溶媒を加えて抽出するステップと、
2)ステップ1)の抽出物をろ過するステップと、
3)ステップ2)のろ過した抽出物を減圧濃縮し、その後、乾燥するステップ。
【0036】
前記方法において、抽出方法としては、還流抽出、超音波抽出、撹拌抽出、ろ過法、熱水抽出、浸漬抽出など、当業界における通常の方法を用いることができる。
【0037】
前記方法において、ステップ3)の減圧濃縮は、真空減圧濃縮器または真空回転蒸発器を用いてもよいが、これに限定されるものではない。なお、乾燥は、減圧乾燥、真空乾燥、沸騰乾燥、噴霧乾燥または凍結乾燥であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明の食品組成物は、保健機能食品であってもよく、前記「保健機能食品」とは、人体に有用な機能性を有する原料や成分を用いて製造及び加工した食品を意味し、「機能性」とは、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節するか、生理学的作用などの保健用途に有用な効果を得る目的で摂取することを意味する。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、下記の実施例は説明を目的とするものに過ぎず、本願発明の範囲を限定しようとする意図ではない。
【実施例1】
【0040】
乳酸菌の分離及び同定
1-1.ヒト糞便からの乳酸菌の分離
ヒト糞便をGAM液体培地(GAM Broth,Nissui Pharmaceutical,Japan)に入れて懸濁した。その後、上清を採取し、BL寒天培地(BL agar medium,Nissui Pharmaceutical,Japan)に移植し、37℃で約48時間嫌気的に培養し、その後、コロニーを形成した菌株を分離した。
【0041】
1-2.分離された乳酸菌の同定
分離した菌株の生理学的特性及び系統分類学的位置を確認するために塩基配列を分析した結果、ラクトバチルス属菌株と90~99%レベルの塩基配列類似度を示し、ラクトバチルス属菌株であることが分かった。
【0042】
前記菌株のうち、下記配列番号1の16S rDNA塩基配列を有する菌株の塩基配列を遺伝子銀行のブラスト(BLAST)プログラムで分析した結果、ラクトバチルス・パラカゼイ菌株の16S rDNA配列と99%の相同性を有する新規な菌株であることが確認され、これをラクトバチルス・パラカゼイNK112と命名した。前記菌株を2019年7月18日付けで韓国微生物保存センターに寄託し、受託番号KCCM12566Pが付与された。
【0043】
【0044】
1-3.APIキットを用いた生化学的同定
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株の生理学的特性をAPI 20 strep Kit(BioMerieux’s,USA)による糖発酵試験により分析した。その結果を下記表1に示す。表1において、「+」は、炭素源利用性が正の場合を示し、「-」は、炭素源利用性が負の場合を示す。分析の結果、NK112は、ラクトバチルス・パラカゼイと56.5%で最も類似した生化学的特性を示すことが確認された。
【0045】
【0046】
【0047】
【実施例2】
【0048】
NK112菌株を処理したとき、神経細胞における脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor;BDNF)発現効果の確認
ヒト由来SH-SY5Y神経細胞を10%FBS及び1%抗生物質を添加したDMEM培地で培養し、12ウェルプレートに2×106細胞/ウェル分注した。その後、各ウェルにNK112菌株(1×105 CFU/mL)及びリポ多糖類(lipopolysaccharide)を2μg/mLの濃度で添加して培養し、免疫ブロット(immunoblotting)法で脳由来神経栄養因子発現量を測定した。その結果、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株は、老化や認知症などで減少する脳由来神経栄養因子の発現を10~30%レベルに増加させる効果があることを確認した。
【実施例3】
【0049】
NK112菌株の抗不安と抗うつ効果の確認
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株の認知機能改善効果を確認するために、以下の実験を行った。
【0050】
3-1.大腸菌誘導(Escherichia coli-induced)認知機能障害及び腸管機能障害モデルの作製
体重19~21gの5週齢の雄C57BL/6マウスを正常群及び実験群に分け、一群に6匹ずつ1週間実験室に適応させ、その後、実験を行った。実験群には大腸菌(1×109 CFU/マウス/日)を毎日1回ずつ5日間経口投与し、正常群には生理食塩水を投与した。
【0051】
その後、1×109 CFU熱処理乳酸菌(NK112死菌体)、1×109 CFU乳酸菌lysate上清(NK112細胞質成分)、1×109 CFU乳酸菌lysate沈殿物(NK112細胞壁成分)、または陽性対照薬(フルオキセチン1mg/kg)を、それぞれ5日間毎日1回ずつ投与した。
【0052】
熱処理乳酸菌(NK112死菌体)の場合、MRS培地で乳酸菌培養液を遠心分離して得られた沈殿物を1×1010 CFU/mLとなるように懸濁し、その後70℃で10分ずつ2回熱処理して製造した。
【0053】
乳酸菌lysate上清(NK112細胞質成分)及び沈殿物(NK112細胞壁成分)の場合、MRS培地で乳酸菌培養液を5,000gで20分間遠心分離し、得られた沈殿物を1×1010 CFU/mLになるように懸濁し、それぞれ1分間の超音波処理を20回行い、その後、再び5000gで20分間遠心分離して得た。
【0054】
前記マウスモデルを用いてラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株の抗不安及び抗うつ効果を評価するために、以下のように実験を行った。
【0055】
3-2.高架式十字迷路(elevated plus maze;EPM)試験
高架式十字迷路は、不安、うつ病またはストレスなどの程度を測定するための実験装置である。本試験で使用された高架式十字迷路は、2つの開放通路(Open arm,30×7cm)と、高さ20cmの壁を有する2つの閉鎖通路(Enclosed arm,30×7cm)が床から50cmほど高く、中央プラットフォームから7cmずつ伸びている黒いフレキシ(flexi)ガラス装置である。明るさ20ルクスで、上部にビデオカメラが設置された部屋で、高架式十字迷路に置かれたマウスの動きを記録した。
【0056】
具体的には、C57BL/6マウスを高架式十字迷路の正中央に頭がくるように開放通路に向かって置き、5分間に開放通路と閉鎖通路で過ごした時間と回数を測定した。通路の進入(Arm entry)は、4本の足がすべて入ったことを認めた。
【0057】
全試験時間のうち、開放通路で費やした時間(Time spent in open arms;OT)は、「開放通路で費やした時間/(開放通路で費やした時間+閉鎖通路で費やした時間)」×100として算出した。開放通路入口(open arm entries;OE)は、[開放通路入場/(開放通路入場+閉鎖通路入場)]×100として算出した。各行動試験終了後には、70%エタノールで残っている臭いを除去した。
【0058】
公知の試験結果解析方法によれば、開放通路で費やした時間(OT)及び開放通路進入(OE)が減少した場合、不安やうつ病などの症状が現れたと解釈した。
【0059】
3-3.強制水泳試験(Forced Swimming Test;FST)
高さ40cm、直径20cmの水槽に温度25±1℃の水を30cmの高さまで満たした。実施例3-1で作製した疾患モデルマウスを1匹ずつ水槽に入れて計6分間試験した。最初の2分間は適応時間として測定せず、その後、実験動物の不動状態(immobility)の時間を4分間測定した。浮動状態とは、頭だけを水面上に出すための最低限の動きだけをしながら、直立して動かずに浮かんでいる状態を意味する。
【0060】
3-4.尾懸垂試験(Tail Suspension Test;TST)
Steruなど(非特許文献6)の方法に従い、マウスの尾の先端1cm程度に固定装置を装着し、その後、直径35cm及び高さ50cmの筒内で地面から50cm離れた位置に吊り下げた。実験動物の不動状態(immobility)の時間を合計6分間測定した。
【0061】
3-2~3-4の試験における各測定時間の割合を下記表2に示す。さらに、各マウスの不安を引き起こすコルチコステロンの血中濃度を測定して一緒に示した。
【0062】
【0063】
表2に示すように、大腸菌のみ投与した場合に比べて、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を投与した群は、高架式十字迷路試験の開放通路で費やした時間と頻度が増加し、血中コルチコステロン(corticosterone)の量が大幅に減少し、抗不安効果があることを確認した。また、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株投与群は、強制水泳試験及び尾懸垂試験における浮動状態時間が著しく減少し、抗うつ効果を有することが確認された。
【0064】
以上の結果から、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株は、うつ病及び不安の改善効果に優れていることが分かる。
【実施例4】
【0065】
NK112菌株の認知機能改善効果の確認(大腸菌誘導モデル)
以下の試験方法を用いて、実施例3-1で作製した疾患モデルマウスにラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を処理した後、記憶力が改善されるかどうかを確認した。陽性対照群としては、認知症治療剤として使用されているドネペジル(donepezil;DNZ)5mg/kgを用いた。
【0066】
4-1.Y字型迷路試験(Y-maze task)
空間認知能力評価のためにY字型迷路試験を行った。長さ40cm、幅4cm、高さ12cmのY字型の四方が塞がれた迷路で、3つの道をそれぞれA、B、Cと定めた後、中央にマウスを置き、8分間観察して入った総出入回数を記録した。3つの異なる分岐に連続して入った場合、変更回数(alternation number)1回として計算し、連続に入らなければ変更回数として計算しなかった。変更回数は、3つ全てに連続で入ることで定義され、空間認知機能評価のための計算は、次の式を用いて算出した。
【0067】
【0068】
4-2.新物体探索試験(novel object recognition test;NORT)
マウスを行動観察室に移し、5分間適応させた後、2つの同一の物体(1セット)を30cm置きで箱の中に置き、マウスが3分間物体を探索した時間を測定した。一日後の回収試験では、露出中に計時した物体1つと、交換された新しい物体1つを同じ箱に用意し、マウスがそれらを探索する時間を測定した。認知指標(recognition index,%)は、新物体の優先度を(新物体を探索する時間/全探索した時間)×100に換算したものである。
【0069】
4-1及び4-2の試験で測定された各行動と時間の割合を下記表3に示す。さらに実施例2の方法で測定した脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現量を併せて示した。
【0070】
【0071】
表3に示すように、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を投与した群は、自発的変更行動の割合、新物体探索時間の割合、及び脳由来神経栄養因子の発現量がドネペジル投与群と同等以上のレベルまで高まった。
【0072】
以上の結果から、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株は、優れた認知機能改善効果を有することが分かる。
【実施例5】
【0073】
NK112菌株の認知機能改善効果の確認(スコポラミン(scopolamine)モデル)
ラクトバチルス・パラカゼイNK112の認知機能改善効果を確認するために、NK112死菌体と細胞壁成分を各109cfu/マウスで5日間経口投与した後、試験を行った。行動試験の1時間前に乳酸菌試料を経口投与し、30分前に副交感神経抑制剤であるスコポラミン(scopolamine)を注射して認知機能の低下を誘発した。陽性対照群としては、ドネペジル2mg/kgを経口投与した。
【0074】
行動変化評価は、Y字型迷路試験と受動的回避行動試験を用いて行い、Y字型迷路試験は、実施例4と同様の方法で行った。
【0075】
受動的回避行動試験(Passive avoidance test;PAT)
恐怖に関する学習と記憶力を評価するために、2日間の受動的回避箱で受動的回避行動試験(Passive avoidance test;PAT)を行った。手動的回避箱は、明るい部屋と暗い部屋に分かれており、暗い部屋の床には電気ショックを与えることができる。仕切りで分かれた区画の片側に50W程度の照明をつけてマウスを入れると、マウスが周りを見回し、10秒後に仕切り扉を開けると暗い区画に入ることになるが、マウスが暗い区画に入るとすぐに仕切り扉を閉じて、床のステンレス格子に0.5mAの電流を3秒間流して電気ショックを与えた。電気ショックの24時間後にマウスを明るい部屋に戻したとき、明るい部屋で滞留する時間(latency time)を測定した。
【0076】
図1Aに示すように、NK112死菌体及び細胞壁成分を投与した群のY字型迷路試験の結果、自発的変更行動の割合(spontaneous alternation)は、それぞれ62.23%、67.60%であって、スコポラミンのみ投与した群と比較してそれぞれ8.45%、17.81%より高い数値を示し、陽性対照群(PC)であるドネペジル投与群と比較しても類似またはより高い記憶力改善効果を示した。
【0077】
また、
図1Bに示すように、受動的回避行動試験の結果、恐怖記憶による明るい部屋の滞留時間が、NK112死菌体及び細胞壁成分を投与した群ではそれぞれ101.22秒、134.89秒であって、スコポラミンのみ投与した群と比較して、それぞれ116.37%、188.35%高い値を示し、陽性対照群と比較しても、それぞれ19.36%、59.07%高い値を示した。
【0078】
このことから、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株は、記憶力低下に対して優れた改善効果を有することが確認できた。
【実施例6】
【0079】
NK112菌株の整腸効果の確認
ラクトバチルス・パラカゼイNK112の整腸効果を評価するために、実施例3-1で作製した疾患モデルマウスを麻酔し、腸の長さ及び炎症反応指標物質を測定した。
【0080】
6-1.体重と腸の長さの測定
試験前後のマウスの体重変化を測定し、腹部を解剖して大腸を分離し、腸の長さを測定した。
【0081】
6-2.ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase;MPO)活性の測定
結腸組織100mgに、0.5%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(hexadecyl trimethyl ammonium bromide)を含む10mMのリン酸カルシウム緩衝液(potassium phosphate buffer,pH7.0)200μLを加えて均質化(homogenization)した。4℃、10,000gの条件で10分間遠心分離して上澄み液を得、それを粗酵素液として用いた。1.6mMテトラメチルベンジジン(tetramethyl benzidine)及び0.1mM H2O2を含む反応液0.95mLに粗酵素液50μLを入れ、37℃で反応させながら650nmで吸光度を経時的に測定した。前記ミエロペルオキシダーゼの活性は、反応物として精製されるH2O2 1μmol/mLを1ユニットとして計算した。
【0082】
6-3.p-p65、p65、TNF-αの測定
p-p65、p65、及びTNF-αなどの炎症反応指標物質を測定した。具体的には、実施例6-2と同様の方法で上澄み液を得、その上澄みを50μg取り、免疫ブロット法でp-p65及びp65を測定した。また、ELISAキットを用いてTNF-αを測定した。
【0083】
ラクトバチルス・パラカゼイNK112の大腸菌誘導(E.coli-induced)腸管機能障害に対する改善効果測定の結果を下記表4に示す。
【0084】
【0085】
表4に示すように、ラクトバチルス・パラカゼイNK112で処理した場合、大腸菌投与による体重減少が改善され、長さが回復し、MPO活性、TNF-α、p-p65/p65などの炎症指標数値が改善されたことを確認した。
【0086】
このことから、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株は、優れた整腸効果を有することが分かる。
【実施例7】
【0087】
マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を含む混合組成物の調製
7-1.超音波抽出による単一生薬抽出物の調製
以下の実施例では、韓国の漢方薬及び食品流通会社である(株)ジョンド生薬から購入した、洗浄及び乾燥されたマメダオシ(Cuscuta australis R.Br.)及びネナシカズラ(Cuscuta japonica Choisy)を用いた。前記マメダオシ及びネナシカズラの原物(全形生薬)100gに10倍の蒸留水または20%のエタノールを加え、25℃で1時間抽出し、50~65℃で減圧濃縮し、その後、凍結乾燥することで合計4種類の生薬抽出物粉末を得た。それらの収率を下記表5に示す。
【0088】
【0089】
表5に示すように、超音波抽出時に20%エタノールを用いた場合よりも、蒸留水で抽出した方が、マメダオシ及びネナシカズラの収率が増加することを確認した。
【0090】
7-2.還流抽出による単一生薬抽出物の調製
マメダオシ及びネナシカズラの原物(全形生薬)100gに10倍の蒸留水または20%のエタノールを加え、80~100℃で3時間還流抽出し、50~65℃で減圧濃縮し、その後、凍結乾燥することで合計4種類の生薬抽出物粉末を得た。それらの収率を下記表6に示す。
【0091】
【0092】
表6に示すように、還流抽出時においても、20%エタノールを用いた場合よりも蒸留水で抽出した場合に、マメダオシ及びネナシカズラの収率が増加し、還流抽出法を用いた場合、実施例7-1の超音波抽出と比較してマメダオシ及びネナシカズラの収率が類似またはより高いことを確認した。
【0093】
7-3.粉砕度による単一生薬抽出物の調製
マメダオシ、ネナシカズラの原物(全形生薬)、及び粉末(粉末生薬)100gに10倍の蒸留水を加え、80~100℃で3時間還流抽出し、50~65℃で減圧濃縮し、その後、凍結乾燥することで合計4種類の生薬抽出物粉末を得た。それらの収率を下記表7に示す。
【0094】
【0095】
表7に示すように、蒸留水を用いて還流抽出したとき、マメダオシまたはネナシカズラの原物を使用するよりも、粉末を用いた場合、収率が約2倍以上増加することを確認した。
【0096】
7-4.様々な溶媒量に応じた複合生薬抽出物の調製
マメダオシ及びネナシカズラの粉末(粉末生薬)を3:1重量比(w/w)で合計100gになるように混合し、その後、10倍、20倍、30倍、50倍の蒸留水を加え、80~100℃で3時間還流抽出し、50~65℃で減圧濃縮し、その後、凍結乾燥することで合計4種類の生薬抽出物粉末を得た。それらの収率を下記表8に示す。
【0097】
【0098】
表8に示すように、蒸留水を用いてマメダオシ及びネナシカズラの粉末を還流抽出したとき、20~30倍の蒸留水を加えて抽出した場合に、最も高い収率が得られることを確認した。
【0099】
7-5.NK112菌株及び混合組成物の調製
ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株をMRS培地に培養した後、5,000xg、4℃で20分間遠心分離し、次いで生理食塩水で洗浄した。90℃で30分間の加熱を2回行って死菌体を製造した後、超音波抽出及び5,000xg、4℃で20分間遠心分離して得られた沈殿物を凍結乾燥することで、細胞壁成分(1×109CFU)を得た。
【実施例8】
【0100】
混合組成物の神経再生効果(神経成長因子(NGF)分泌誘導能)の確認
N2a細胞を1×10
5細胞/ウェルで24ウェルプレートに分注し、細胞にマメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、NK112Pを3:1:0.1または3:1:0.5の割合で混合した組成物で処理し、24時間培養した。その後、培養培地を収集し、酵素免疫測定法であるCompetitive Enzyme-Linked Immuno Assay(ELISA)キット(R&D systems,Minneapolis,MN,USA)を用いて、C6神経膠腫細胞(glioma)培養上清に産生された神経成長因子(NGF)産生量を定量して測定した。未処理対照群(Ctl)の神経成長因子産生量と比較した前記混合組成物の神経成長因子(NGF)産生量(%)を計算した。その結果を
図2A及び2Bに示す。
【0101】
図2A及び
図2Bに示すように、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、NK112Pを3:1:0.1または3:1:0.5の割合で混合した組成物は、対照群に対して、神経成長因子産生量が202.07%、183.90%増加した。このことから、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を含む混合物は、神経成長因子の分泌を誘導することにより、神経再生効果を有することが分かった。
【実施例9】
【0102】
混合組成物の抗アルツハイマー効果(神経細胞保護効果)の確認
HT22細胞を4×104細胞/ウェルで96ウェルプレートに分注し、24時間安定化した後、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、NK112Pを3:1:1、3:1:0.5、3:1:0.3または3:1:0.1の割合で混合した組成物で1時間処理し、その後、神経毒素物質であるアミロイドベータオリゴマー(Amyloid Beta Oligomer;AβO)3μMでさらに処理し、23時間培養した。培地を除去した後、1mg/mLの3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide;MTT)溶液を4時間処理し、還元ホルマザン(formazan)を100μLのDMSOに溶解し、570nmの波長で微小分光光度計(microspectrophotometer)を用いて細胞生存率(cell viabily)を測定した。
【0103】
図3に示すように、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112Pの混合組成物は、全ての混合比において対照群と比較して優れた神経細胞保護効果を示すことが確認された。具体的には、細胞生存率は、対照群に対して、3:1:0.5の割合の組成物の場合、31.94%増加し、3:1:1の割合の組成物は、20.96%増加し、3:1:0.3の割合の組成物は、20.82%増加し、3:1:0.1の割合の組成物は、20.96%増加した。このことから、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、ラクトバチルス・パラカゼイNK112菌株を含む混合物は、神経細胞を保護し、優れた抗アルツハイマー効果を奏し、これらの効果は、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112を3:1:0.5の割合で含む組成物において特に優れていることが分かった。
【実施例10】
【0104】
混合組成物の認知機能改善効果の確認(スコポラミンモデル)
前記マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112Pを3:1:0.5の割合で混合した組成物の認知機能改善効果を確認するために、前記組成物をマウスに5日間経口投与した後、行動試験を行った。行動試験の1時間前に組成物を経口投与し、30分前にスコポラミン(scopolamine)を注射して認知機能の低下を誘発した。陽性対照群としては、ドネペジル(DNZ)2mg/kgを経口投与した。
【0105】
行動変化の評価は、実施例4と同様のY字型迷路試験、新物体探索試験、及び実施例5と同様の受動的回避行動試験により行った。
【0106】
図4A~
図4Cに示すように、Y字型迷路における自発的変更行動比率を測定した結果、前記組成物を投与した群は65.67%であって、スコポラミン処理群に対して21.01%高い数値を示し、新物体探索試験における認知指標を測定した結果、組成物投与群は77.30%であって、スコポラミン処理群に対して28.90%高い数値を示し、受動的回避行動試験における恐怖記憶による滞留時間を測定した結果、組成物投与群は、スコポラミン処理群に対して108.33%増加した数値を示した。
【0107】
また、前記の全ての試験において、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112の混合組成物は、陽性対照群であるドネペジル投与群と比較して同等以上の結果を示し、このことから、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112の混合組成物は、認知機能低下に対する改善効果が優れていることを確認できた。
【実施例11】
【0108】
混合組成物の認知機能改善効果の確認(大腸菌誘導モデル)
前記マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112Pを3:1:0.5の割合で混合した組成物の認知機能改善効果を確認するために、実施例3-1のマウスモデルに対して、実施例4と同様の方法でY字型迷路試験及び新物体探索試験を行い、以下のバーンズ迷路試験(Barnes maze task;BMT)をさらに行った。
【0109】
バーンズ迷路試験(Barnes maze task;BMT)
バーンズ迷路試験は、学習能力と記憶能力を測定する試験であり、迷路は、直径5cmの回避穴が20個設けられている直径89cm、高さ140cmの白い円盤であり、回避穴の1つは、下部に黒色の安全地帯(Safety zone)が設置され、実験動物の回避場所として利用できるように設計されている。
【0110】
前記で作製した試験用迷路に、実施例3-1で作製した疾患モデルマウスを円盤の中央に配置した。その後、強い光を照射し、マウスが光を避けて暗い安全地帯を見つけるまでの時間を測定し、毎日1回、4日間繰り返し行った。
【0111】
さらに、実施例2の方法でマウスの海馬及び血液中の脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を測定した。その結果を下記表9に示す。
【0112】
【0113】
表9に示すように、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112の混合組成物の投与群は、Y字型迷路試験、新物体探索試験、及びバーンズ迷路試験において、対照群と比較して改善された結果を示し、老化及び認知症などで減少する脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現も用量依存的に増加することが確認された。このことから、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112の混合組成物は、優れた認知機能改善効果を有することが分かる。
【実施例12】
【0114】
混合組成物のシナプス強化効果の確認
マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112Pを3:1:0.5の割合で混合した組成物をマウスに10、30または100mg/kgで21日間経口投与し、陽性対照群には、認知力障害症状の改善剤であるピラセタム(piracetam)200mg/kgを腹腔投与した。前記マウスを灌流(perfusion)し、パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で固定して脳を摘出した。凍結切片(frozen-section)を作製し、その後、海馬部分を選択してPBSで3回洗浄し、内因性ペルオキシダーゼ(peroxidase)を除去するために過酸化水素で処理し、一次抗体であるマウス抗シナプトフィシン(mouse anti-synaptophysin)抗体と一晩反応させた。その後、二次抗体であるビオチン化抗マウス抗体(biotinylated anti-mouse)と90分間反応させ、ABC反応(1:100 dilution)を1時間行い、DAB溶液(3,3-ジアミノベンジジン四塩酸塩(3,3-diaminobenzidine tetrahydrochloride))を用いて3分間発色させた。各工程の間にPBSで3回洗浄を行った。染色反応後、ゼラチン被覆スライドに設置し、70~100%エタノールとキシレン(xylene)脱水過程を経、その後、組織をカバースライドで覆って保管した。
【0115】
染色を施した脳組織は、光学顕微鏡(Olympus Microscope System BX51;Olympus,Tokyo,Japan)で海馬のアンモン角(Cornu Ammonis)領域を観察した。その写真を
図5Aに示す。また、シナプスタンパク質の量を
図5Bのグラフに示した。
【0116】
図5A及び
図5Bに示すように、前記マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112Pを3:1:0.5の割合で混合した組成物を10、30、100mg/kg投与した群のシナプスタンパク質量は、正常マウスに対してそれぞれ134.6%、120.21%、132.37%増加した。このことから、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112を含む混合組成物は、シナプス形成促進による認知機能及び記憶力向上効果に優れることが確認できた。
【実施例13】
【0117】
混合組成物の神経再生効果(神経芽細胞の細胞数増加及び神経突起の長さの増加効果)の確認
実施例12と同様に試験を行うが、一次抗体としてヤギ抗ダブルコルチン(goat anti-DCX)抗体を、二次抗体としてビオチン化抗ヤギ(biotinylated anti-goat)抗体を用いた。染色を施した脳組織は、実施例12と同様に観察したが、海馬歯状回(dentate gyrus;DG)細胞の増殖及び神経分化(neuronal differentiation)と神経突起成長(neurite outgrowth)に対する影響を観察した。200倍率で観察したダブルコルチン陽性細胞の写真を
図6Aに示し、神経芽細胞の細胞数及び神経突起の長さを
図6B及び6Cに示す。
【0118】
図6Bに示すように、前記組成物を30、100mg/kgで投与した群では、正常マウスに対して、神経芽細胞数がそれぞれ173.63%、175.42%増加することが判明し、これは、陽性対照群であるピラセタム投与群に比べてもそれぞれ30.38%、31.73%高い数値であった。また、
図6Cに示すように、前記組成物の投与群は、神経芽細胞の神経突起の長さもそれぞれ132.27%、137.82%増加し、陽性対照群と同様のレベルを示した。
【0119】
このことから、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112の混合組成物は、神経細胞の増殖を促進することにより、認知機能の改善に優れた効果を有することが分かる。
【実施例14】
【0120】
混合組成物の整腸効果の確認
実施例11で行動評価を行ったマウスを麻酔し、実施例6と同様の方法で腸の長さ及び炎症反応指標物質を測定した。それを
図7A~7Dに示す。
【0121】
図7A~7Dに示すように、大腸菌を投与した群(EcV)では、腸の長さが減少し、MPO活性、TNF-α、IL-6、p65などの炎症指標値が悪化したが、大腸菌と共にマメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びNK112Pを3:1:0.5の割合で混合した組成物を10または50mg/kgで投与した群(TSL)では、正常群(CoV)と同様のレベルまで腸の長さが回復し、炎症指標数値が改善することを確認した。
【0122】
よって、マメダオシ抽出物、ネナシカズラ抽出物、及びラクトバチルス・パラカゼイNK112の混合組成物は、優れた整腸効果を有することが分かる。
【0123】
【配列表】
【国際調査報告】