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特表2024-545667切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241203BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20241203BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20241203BHJP
   C21D 1/26 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C22C38/00 301M
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D1/26 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535600
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 KR2022020233
(87)【国際公開番号】W WO2023113428
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0178349
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ, サンウ
(72)【発明者】
【氏名】イム, ナムソク
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA08
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA29
4K032AA32
4K032AA35
4K032BA02
4K032CA01
4K032CA02
4K032CF02
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】カルシウム(Ca)を含むことで黒鉛化の核として作用するCa-Al系酸化物を形成して黒鉛化を促進することができ、Ca系硫化物を生成して切削性を改善することができる切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、炭素(C):0.60~0.90%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、カルシウム(Ca):0.0001~0.050%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、微細組織で、フェライト基地に黒鉛粒が分布されており、黒鉛化率が95%以上であり、総5重量%以下のMnS介在物及びパーライトを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.60~0.90%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、カルシウム(Ca):0.0001~0.050%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、
微細組織で、フェライト基地に黒鉛粒が分布されており、黒鉛化率が95%以上であり、総5重量%以下のMnS介在物及びパーライトを含むことを特徴とする切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼。
【請求項2】
前記黒鉛鋼は、黒鉛化率が99%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼。
【請求項3】
リン(P)及び酸素(O)のうちいずれか一つ以上を含まないことを特徴とする請求項1に記載の切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼。
【請求項4】
重量%で、炭素(C):0.60~0.90%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、カルシウム(Ca):0.0001~0.05%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、
前記ビレットを熱間圧延して線材を製造する段階、及び
前記製造された線材を黒鉛化熱処理する段階を含むことを特徴とする切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼の製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧延する段階は、900~1150℃の温度範囲で熱間圧延することを特徴とする請求項4に記載の切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼の製造方法。
【請求項6】
前記黒鉛化熱処理する段階は、700~800℃の温度範囲で5時間以上熱処理することを特徴とする請求項4に記載の切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼の製造方法。
【請求項7】
前記黒鉛化熱処理は、5~20時間で行われることを特徴とする請求項6に記載の切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削性能に優れた黒鉛鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、カルシウム(Ca)を含むことで黒鉛化の核として作用するCa-Al系酸化物を形成して黒鉛化を促進することができ、Ca系硫化物を生成して切削性を改善することができる切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、切削性が要求される機械部品などの素材としては、Pb、Biなどの切削性付与元素を添加した快削鋼が利用される。鋼材の切削性を向上させるために、鋼中にPb、Biなど低融点切削性付与元素を添加して液体金属臭化現象を利用するか、多量のMnSを鋼中に形成させているが、このような快削鋼は、切削加工時に表面粗度、チップ処理性、工具寿命など鋼の切削性が優秀である。
【0003】
しかし、一般的に知られている切削性に優れたPb添加快削鋼の場合には、切削作業時に有毒性フューム(fume)などの有害物質を排出するので、人体に非常に有害であり、鋼材のリサイクルにも非常に不利であるという問題がある。したがって、これを代替するためにS、Bi、Te、Snなどの添加が提案されたが、鋼材製造時に亀裂の発生が起こりやすく、生産が非常に難しいという問題があり、熱間圧延時に亀裂の発生を引き起こすという点から問題の多いことが知られてきた。
【0004】
前記のような問題を解決するために開発された快削鋼が黒鉛鋼である。黒鉛鋼は、フェライト基地あるいはフェライト及びパーライト基地の内部に微細黒鉛粒を含む鋼であって、内部の微細黒鉛粒が切削時にクラック供給源として作用し、チップブレーカーの役目をすることによって切削性も良好な性質を有している鋼である。
【0005】
ところが、このような黒鉛鋼の長所にもかかわらず、現在も黒鉛鋼は商用化されていない。これは、鋼に炭素を添加すれば、黒鉛が安定相であるにもかかわらず、準安定相であるセメンタイトとして析出するので、別途の長期間の熱処理なしには黒鉛を析出させることが困難であり、このような長期間の熱処理過程で脱炭が起こり、最終製品の性能に悪影響を及ぼすという弊害が発生するからである。
【0006】
それだけでなく、黒鉛化熱処理を通じて黒鉛粒を析出させたとしても、不規則な形状に不均一に分布している場合、切削時に物性分布が不均一なのでチップ処理性や表面粗度が非常に悪くなり、工具寿命も短縮されて黒鉛鋼の長所を得にくい。したがって、黒鉛粒を利用しながらも、MnS介在物を活用して切削性能に優れた黒鉛快削鋼の製造方法が提供される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2015-0057400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、切削性能に優れたカルシウム-含有黒鉛鋼及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
しかし、本願が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及しなかったまた他の課題は、下の記載から通常の技術者に明確に理解されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記のような目的を達成するめの本発明の黒鉛鋼は、重量%で、炭素(C):0.60~0.90%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、カルシウム(Ca):0.0001~0.050%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、微細組織で、フェライト基地に黒鉛粒が分布されており、黒鉛化率が95%以上であり、総5重量%以下のMnS介在物及びパーライトを含むことができる。
【0011】
本発明の黒鉛鋼の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.60~0.90%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、カルシウム(Ca):0.0001~0.050%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、前記ビレットを熱間圧延して線材を製造する段階、及び前記製造された線材を黒鉛化熱処理する段階を含むことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば黒鉛鋼は、カルシウム(Ca)を含むことで黒鉛化の核として作用するCa-Al系酸化物を形成して黒鉛化を促進することができ、Ca系硫化物を生成して切削性を改善することができ、切削性能に優れ、従来の快削鋼素材を代替できる黒鉛鋼及びその製造方法を提供することができる。
【0013】
本発明による黒鉛鋼は、切削性能に優れ、従来の快削鋼素材を代替することが可能であり、Pb、Biなどの有害元素を代替した環境にやさしい黒鉛快削鋼を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の黒鉛鋼は、重量%で、炭素(C):0.60~0.90%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.0150%、カルシウム(Ca):0.0001~0.050%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、微細組織で、フェライト基地に黒鉛粒が分布されており、黒鉛化率が95%以上であり、総5重量%以下のMnS介在物及びパーライトを含む。
【0015】
以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、多様な他の形態に変形され得、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態によって限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有した者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0016】
本出願で用いる用語は、ただ特定の例示を説明するために用いられるものである。例えば、単数の表現は、文脈上明白に単数である必要がない限り、複数の表現を含む。
【0017】
以下で、特に言及しない限り、単位は、重量%である。また、ある部分がある構成要素を「含む」と記載するとき、これは特に反対する記載のない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0018】
一方、別に定義しない限り、本明細書で使用する全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者が一般的に理解できるものと同一の意味を有すると見なければならない。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定用語が過度に理想的や形式的な意味として解釈されてはいけない。例えば、本明細書で単数の表現は、文脈上明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0019】
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるときその数値で又はその数値に近接した意味で用いられ、本発明の理解を助けるために正確であるか絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために用いられる。
【0020】
以下、本発明に該当する切削性能に優れた黒鉛鋼及びその製造方法について詳しく説明する。
【0021】
<黒鉛鋼>
【0022】
本発明の黒鉛鋼は、重量%で、炭素(C):0.60~0.90%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、カルシウム(Ca):0.0001~0.050%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなることができる。
【0023】
<成分範囲>
【0024】
炭素(C):0.60~0.90重量%
【0025】
炭素は、黒鉛粒を形成するために必須の元素である。前記炭素の含量が0.60重量%未満である場合には、切削性の向上効果が不十分であり、黒鉛化の完了時にも黒鉛粒の分布が不均一であり、一方、その含量が0.90重量%超過で過多な場合、黒鉛粒が粗大に生成され、縦横比が大きくなって、切削性、特に表面粗度が低下する恐れがある。したがって、前記炭素含量の上限は、0.90重量%であることが好ましいい。
【0026】
シリコン(Si):2.0~2.5重量%
【0027】
シリコンは、溶鋼の製造時に脱酸剤として必要な成分であり、鋼中のセメンタイトを不安定にして炭素が黒鉛として析出されるようにする黒鉛化促進元素であるので、必須的に含むことが好ましい。本発明でこのような効果を示すためには、2.0重量%であることが好ましい。
【0028】
一方、その含量が過多な場合、その効果が飽和するだけでなく、固溶強化効果によって硬度が増加して切削時に工具の摩耗が加速化され、非金属介在物の増加による脆性を誘発し、熱間圧延時に過度な脱炭を誘発する恐れがある。したがって、前記シリコン含量の上限は、2.5重量%であることが好ましい。
【0029】
マンガン(Mn):0.7~1.3重量%
【0030】
マンガンは、鋼材の強度及び衝撃特性を向上させ、鋼中で硫黄と結合してMnS介在物を形成して切削性の向上に寄与する。本発明でこのような効果を示すためには、0.7重量%以上含まれることが好ましい。
【0031】
一方、その含量が過多な場合、黒鉛化を阻害して黒鉛化の完了時間が遅延される恐れがあり、強度及び硬度を上昇させて切削性を低下させ得る。したがって、前記マンガン含量の上限は、1.3重量%であることが好ましい。
【0032】
硫黄(S):0.2~0.5重量%
【0033】
硫黄は、マンガンと結合してMnS介在物を形成することができ、前記MnSが生成されることで切削性が向上され得る。ただし、硫黄が過多に含まれる場合には、鋼中で炭素の黒鉛化を阻害することができ、結晶粒界に偏析して靭性を低下させ、低融点硫化物を形成させて熱間圧延性を阻害することができ、圧延により延伸されたMnSによって機械的な異方性が現われ得る。したがって、本発明では、機械的な異方性を起こさないとともに切削性を向上させるのに寄与できる範囲内で硫黄(S)の含量を調節してMnS介在物の生成を誘導することができる。
【0034】
したがって、硫黄の含量を0.2重量%未満に制御すると、MnS介在物の切削性能を向上させる程度の分率を作ることができない。また、0.5重量%を超過すると、素材の異方性が増加して切削加工中に切損される現象が発生して加工時に危険をもたらし得る。
【0035】
アルミニウム(Al):0.01~0.05重量%
【0036】
アルミニウムは、シリコンの次に黒鉛化を促進させる元素である。これは、アルミニウムが固溶Alとして存在するとき、セメンタイトを不安定にするからであり、したがって、固溶Alとして存在する必要がある。本発明でこのような効果を示すためには、0.01重量%以上含まれることが好ましい。
【0037】
一方、その含量が過多な場合、その効果が飽和されるだけでなく、連鋳時にノズルの詰まりを誘発させ得、オーステナイト粒界にAlNが生成されてこれを核とした黒鉛が粒界に不均一に分布するようになる。したがって、前記アルミニウム含量の上限は、0.05重量%であることが好ましい。
【0038】
チタン(Ti):0.005~0.020重量%
【0039】
チタンは、アルミニウムのように窒素と結合してTiN、AlNなどの窒化物を生成するが、このような窒化物は、恒温熱処理時に黒鉛生成の核として作用する。
【0040】
しかし、AlNは、生成温度が低いため、オーステナイトが形成された後に粒界に不均一に析出することに比べ、TiNは、生成温度がAlNより高いため、オーステナイトの生成が完了する前に晶出するので、オーステナイトの粒界及び粒内に均一に分布するようになる。したがって、TiNを核生成部位として生成された黒鉛粒も微細であるとともに均一に分布するようになる。
【0041】
このような効果を示すためには、0.005重量%以上含まれることが好ましいが、その含量が0.02%を超過して添加される場合、粗大な炭窒化物となって黒鉛の形成に必要な炭素を消耗することで黒鉛化を阻害させ得る。したがって、前記チタン含量の上限は、0.020重量%であることが好ましい。
【0042】
窒素(N):0.003~0.015重量%
【0043】
窒素は、チタン、アルミニウムと結合してTiN、AlNなどを生成するようになるが、特に、AlNのような窒化物は、主にオーステナイト粒界に形成される。黒鉛化熱処理時にこのような窒化物を核として黒鉛が形成され、黒鉛の不均一な分布を誘発させ得るので適正量の添加が必要である。
【0044】
窒素添加量が過多で窒化物の形成元素と結合できずに固溶窒素として鋼中に存在するようになると、強度を高めてセメンタイトを安定化させて黒鉛化を遅延させる有害な作用をするようになる。
【0045】
したがって、黒鉛の核生成部位として作用する窒化物を形成させるのに消耗され、固溶窒素としては残らないようにするという理由で、本発明では、0.003重量%を下限とし、0.015重量%上限に制限することが好ましい。
【0046】
カルシウム(Ca):0.0001~0.050重量%
【0047】
カルシウムは、本発明の鋼の組成ではCa-Al系酸化物を形成し、前記Ca-Al系酸化物が黒鉛化の核として作用して黒鉛化を促進することができ、また、Ca系硫化物を生成して切削性を改善することができる。Ca系硫化物と基地組織の境界面で切削加工中に応力が集中してボイド(void)が生成され、クラックで成長伝播されて鋼中でチップに分離切削される効果を示す。
【0048】
このような作用は、カルシウムの含量が0.0001重量%未満ではその効果が不十分であり、0.050重量%超過では、粗大な酸化物系非金属介在物が多量発生して機械部品の疲れ強度を低下させ得る。したがって、カルシウムの含量は、0.0001~0.050重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0049】
その他の成分
【0050】
本発明の残り成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るので、これを排除することはできない。ただし、本発明による黒鉛鋼は、リン(P)や酸素(O)を含まなくてもよい。これら不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かる内容であるので、そのすべての内容を特別に本明細書で言及しない。
【0051】
<微細組織>
【0052】
本発明による黒鉛鋼は、微細組織で、フェライト基地に黒鉛粒が分布されており、黒鉛化率が95%で以上であり、総5重量%以下のMnS介在物とパーライトを含む。
【0053】
本発明の黒鉛鋼の黒鉛化率は、好ましくは、98%以上であってもよく、より好ましくは、99%以上であってもよく、最も好ましくは、99.5%以上であってもよい。
【0054】
一方、黒鉛化率とは、鋼に添加された炭素含量に対する黒鉛状態で存在する炭素含量の比を意味するものであって、下記関係式1により定義され、95%以上黒鉛化されたということは、添加された炭素が大部分黒鉛を生成するのに消耗されたという意味で(フェライト内の固溶炭素及び微細炭化物に固溶された炭素量は、極めて少ないので考慮しない)、未分解のパーライトが存在しない、すなわち、フェライト基地に黒鉛粒が分布する微細組織を有することを意味する。
【0055】
〔関係式1〕
黒鉛化率(%)=(1-未分解パーライト内の炭素含量/鋼中の炭素含量)×100
【0056】
(ここで、未分解パーライトがない場合、黒鉛化率は、100%となる)
【0057】
後述する黒鉛鋼の製造方法は、上述した黒鉛鋼に対して記述した内容を全て適用することができ、重複される部分に対しては詳細な説明を省略したが、その説明が省略されても同一に適用され得る。
【0058】
<黒鉛鋼の製造方法>
【0059】
本発明の黒鉛鋼の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.60~0.90%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.0150%、カルシウム(Ca):0.0001~0.05%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、前記ビレットを熱間圧延して線材を製造する段階、及び前記製造された線材を黒鉛化熱処理する段階を含む。
【0060】
圧延工程
【0061】
また、本発明によると、前記熱間圧延段階は、900~1150℃の温度範囲で熱間圧延することを含むことができる。具体的に、前記熱間圧延段階は、900~1150℃の温度範囲で所定の時間の間熱処理した後に圧延する段階であってもよい。
【0062】
線材圧延温度を900~1150℃の範囲にしたことは、900℃未満では、熱間圧延時に表面溝が発生しやすく、圧延負荷量が増加して圧延が困難であり、1150℃超過の場合には、AGS(Austenite Grain Size)が粗大化して線材圧延後の黒鉛化熱処理時間が長くなり得るからである。
【0063】
黒鉛化熱処理工程
【0064】
また、本発明によると、前記黒鉛化熱処理する段階は、700~800℃の温度範囲で5時間以上、好ましくは、5時間以上20時間未満の間熱処理することを含むことができる。
【0065】
前記線材を700~800℃の範囲で5時間以上熱処理を維持すれば、黒鉛化率95%以上に到逹することができる。しかし、700℃未満では、黒鉛化熱処理時間が長くなって20時間以上を超過し、800℃超過では、黒鉛化時間が長くなるだけでなく、パーライトの逆変態によりオーステナイトが生成され、冷却中に再びパーライトが生ずることがあるので好ましくない。
【0066】
以下、本発明について実施例を通じてより具体的に説明する。
【0067】
下記実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化できる。
【0068】
<実施例>
【0069】
下記表1に示した組成の成分を有するビレットを加熱温度1050℃条件で90分間維持し、高速線材圧延して19mmの直径を有する線材に製造した。また、このときの黒鉛化熱処理時間及び黒鉛化率を表2に示した。また、黒鉛化熱処理温度は、「A1温度-50℃」で一定に適用して黒鉛化熱処理が実施された。
【0070】
下記表1及び2で、実施例1~11は、本発明の合金組成範囲及び製造条件を満足する黒鉛鋼線材に該当し、比較例1~7は、本発明の合金組成範囲及び/又は製造条件を満足しない線材に該当する。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
前記表2で、(100%-黒鉛化率)の組織は、MnS介在物、パーライト及び一部の通常存在する介在物などで構成され、黒鉛化組織は、フェライト+黒鉛粒で構成される。
【0074】
前記表2で、切削性は、一般快削鋼の切削性能を基準とした数値である(100%は同等のベルを意味する)。
【0075】
黒鉛化分率及び切削性は、表2のように黒鉛快削鋼の製造条件下で達成されることが確認できる。
【0076】
以下、表1及び2を参照して実施例及び比較例を評価する。
【0077】
実施例1~11は、本発明の合金組成範囲及び製造条件を満足することで、黒鉛化率が98.5%以上であり、鉛快削鋼対比切削性能が100%であることを確認することができた。
【0078】
一方、カルシウムが0.05重量%を超過する合金組成を有し、黒鉛化熱処理が5時間未満で維持された比較例1~7は、黒鉛化率が92%以下に過ぎず、切削性も95%以下に過ぎないことを確認することができた。
【0079】
具体的に、マンガン含量が1.3重量%を超過し、硫黄の含量が0.2重量%未満であり、カルシウムの含量が0.05重量%超過である比較例1及び2の黒鉛鋼は、MnS介在物が十分に生成されなくて、切削性能が鉛快削鋼対比それぞれ88%及び95%に過ぎず、黒鉛化熱処理が3.5時間以下で維持されて黒鉛化率が86%以下に過ぎなかった。
【0080】
また、マンガンの含量が1.50重量%であり、硫黄の含量が0.56重量%であり、カルシウムの含量が0.08重量%である比較例3の黒鉛鋼の切削性能が鉛快削鋼対比89%に過ぎず、黒鉛化熱処理が3.0時間維持されて黒鉛化率が86%に過ぎなかった。
【0081】
また、炭素の含量が0.95重量%、マンガンの含量が0.40重量%、硫黄の含量が0.011重量%であり、カルシウムの含量が0.07重量%である比較例4の黒鉛鋼の切削性能は、鉛快削鋼対比92%に過ぎず、黒鉛化熱処理が4.5時間維持されて黒鉛化率が84%に過ぎなかった。
【0082】
また、炭素の含量が0.55重量%、シリコンの含量が2.6重量%、マンガンの含量が0.56重量%、硫黄の含量が0.60重量%、チタンの含量が0.025重量%であり、カルシウムの含量が0.1重量%である比較例5の黒鉛鋼の切削性能は、鉛快削鋼対比91%に過ぎず、黒鉛化熱処理が2.5時間維持されて黒鉛化率が91%に過ぎなかった。
【0083】
また、シリコンの含量が2.75重量%、マンガンの含量が0.65重量%、硫黄の含量が0.15重量%、チタンの含量が0.03重量%であり、カルシウムの含量が0.085重量%である比較例6の黒鉛鋼の切削性能は、鉛快削鋼対比93%に過ぎず、黒鉛化熱処理が3.0時間維持されて黒鉛化率が92%に過ぎなかった。
【0084】
また、シリコンの含量が2.8重量%、マンガンの含量が0.60重量%、硫黄の含量が0.10重量%、チタンの含量が0.002重量%であり、カルシウムの含量が0.07重量%である比較例7の黒鉛鋼は、切削性能が鉛快削鋼対比90%に過ぎず、黒鉛化熱処理が4.5時間維持されて黒鉛化率が90%に過ぎなかった。
【0085】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、当該技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によると、切削性能に優れているので、従来の快削鋼素材を代替可能であり、Pb、Biなどの有害元素を代替した環境にやさしい黒鉛快削鋼を提供することができるところ、産業上の利用可能性が認められる。
【国際調査報告】